説明

可塑化送出装置およびそのローターならびにこれを用いた射出成形機

【課題】バレルの一端面に摺接するローターの端面に螺旋溝を形成した従来の可塑化送出装置においては、成形材料の脱気が充分になされない場合があった。
【解決手段】材料流入通路が一端面に開口するバレルと、バレルの材料流入通路の開口を中心として回転駆動され、バレルの一端面に対して摺接する端面を有するローター25と、ローター25の端面25Fに形成されてバレルの一端面との間に成形材料の可塑化通路を画成し、径方向外側端部34OEから成形材料が供給されるとともに径方向内側端部34IEがバレルの材料流入通路の開口端に連通する螺旋溝34とを具えた本発明による可塑化送出装置は、径方向に沿った螺旋溝34の幅が径方向外側に向かって広くなる脱気促進部34dを螺旋溝34の径方向外側領域に有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料流入通路が形成されたバレルと、このバレルに摺接し得るローターとを含み、径方向内側端部がバレルの材料流入通路に連通する螺旋溝をローターに形成した可塑化送出装置およびそのローターならびにこれを用いた射出成形機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、射出成形機の小型化を企図して在来のスクリューをローターに置き換えた特許文献1に示すような射出成形機が提案されている。この射出成形機は、溶融状態にある所定量の溶融樹脂を金型のキャビティに圧送する計量射出装置と、成形材料である樹脂を可塑化してこれを計量射出装置に送出する可塑化送出装置とを含む点で在来のものと同じである。しかしながら、可塑化送出装置は、射出ノズルに連通する材料流入通路が一端面に開口するバレルと、このバレルの一端面に摺接する端面を持ったローターとを有する。このローターの端面には、径方向外側端部から樹脂が供給されると共に径方向内側端部がバレルの材料流入通路に連通するように、バレルの一端面との間に樹脂の可塑化通路を画成する螺旋溝が形成されている。ローターは、その端面をバレルの一端面に対して摺接させた状態で駆動回転し、ペレット状の樹脂をローターの外周側から螺旋溝の径方向外側端部に供給する。供給された樹脂は、加熱されたバレルにより軟化溶融しつつローターの回転に伴って混練されながら螺旋溝の径方向内側端部へと次第に流動してバレルの材料流入通路へと送出される。送出された溶融状態にある樹脂は、計量射出装置から所定量ずつ金型のキャビティへと圧送され、所定形状の成形品が射出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−306028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された射出成形機においては、バレルの一端面を凸円錐面に形成すると共にローターの端面を凹円錐面に形成し、ローターを回転駆動することにより可塑化通路内に介在する成形材料の圧送を行っている。また、この圧送力によって成形材料に対する脱気能力と混練能力とを促している。
【0005】
しかしながら、バレルの一端面を凸円錐面に形成すると共にローターの端面を凹円錐面に形成し、これらを密着状態に保持したままローターを回転させるだけでは、成形材料を充分脱気することができない場合がある。このため、可塑化通路の所定の領域にて成形材料が期待されるような状態になっておらず、成形品の品質低下を招来する可能性があった。
【0006】
本発明の目的は、可塑化通路内における成形材料の脱気能力を向上させることが可能な可塑化送出装置およびそのローターならびにこれを用いた射出成形機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の形態は、材料流入通路が一端面に開口するバレルと、このバレルの材料流入通路の開口を中心として回転駆動され、当該バレルの前記一端面に対して摺接する端面を有するローターと、このローターの端面に形成されて前記バレルの一端面との間に成形材料の可塑化通路を画成し、径方向外側端部から成形材料が供給されるとともに径方向内側端部が前記バレルの材料流入通路の開口端に連通する螺旋溝とを具えた可塑化送出装置であって、前記螺旋溝は、径方向に沿った当該螺旋溝の幅が径方向外側に向かって広くなる脱気促進部をその径方向外側領域に有することを特徴とするものである。
【0008】
本発明においては、螺旋溝の径方向外側端部から供給される成形材料がローターの回転に伴って螺旋溝の径方向内側端部に向けて可塑化通路内を移動する。この時、螺旋溝の脱気促進部を移動するに連れて成形材料の圧縮が行われ、これに伴って成形材料の脱気が促進された状態となってバレルの材料流入通路へと圧送される。
【0009】
本発明の第1の形態による可塑化送出装置において、螺旋溝は、脱気促進部に続き、径方向に沿った当該螺旋溝の幅が一定の一定幅部をその径方向内側領域に有するものであってよい。
【0010】
螺旋溝が底壁と、径方向内側壁と、前記底壁を挟んでこの径方向内側壁と径方向に対向する径方向外側壁とを有し、ローターの回転中心および脱気促進部の径方向外側壁の任意の位置を結ぶ線分と、この任意の位置における径方向外側壁に対する接線とのなす角を径方向外側ほど小さく設定することが有効である。この場合、螺旋溝の径方向内側壁および径方向外側壁は、それぞれ連続面であることが好ましい。バレルの一端面が凸円錐面であり、かつローターの端面がバレルの凸円錐面と対応する凹円錐面であり、ローターの端面から螺旋溝の底壁までの深さを径方向内側端部ほど浅く設定することができる。ローターの端面から脱気促進部の底壁までの深さをその幅方向に沿って径方向内側ほど浅くなるように傾斜させるようにしてもよい。
【0011】
本発明の第2の形態は、バレルの一端面に開口する材料流入通路の開口を中心として回転駆動され、当該バレルの一端面に対して摺接する端面に形成されて該バレルの一端面との間に成形材料の可塑化通路を画成し、径方向外側端部から成形材料が供給されると共に径方向内側端部が前記バレルの材料流入通路の開口端に連通する螺旋溝を有する可塑化送出装置のローターであって、前記螺旋溝は、その径方向外側領域に径方向に沿った当該螺旋溝の幅が径方向外側に向かって広くなる脱気促進部を有することを特徴とするものである。
【0012】
本発明の第3の形態は、溶融状態にある所定量の成形材料を金型のキャビティに圧送する計量射出装置と、成形材料を可塑化してこの計量射出装置に送出する可塑化送出装置とを含み、この可塑化送出装置が、一端面に材料流入通路が開口するバレルと、このバレルの材料流入通路の開口を中心として回転駆動され、当該バレルの前記一端面に対して摺接する端面を有するローターと、このローターの端面に形成されて前記バレルの一端面との間に成形材料の可塑化通路を画成し、径方向外側端部から成形材料が供給されるとともに径方向内側端部が前記バレルの材料流入通路の開口端に連通する螺旋溝と、前記バレルの材料流入通路の開口を中心として前記ローターを駆動回転するローター駆動手段と、前記材料流入通路および前記可塑化通路内に介在する成形材料を加熱して軟化溶融させるための加熱手段とを含む射出成形機において、前記螺旋溝は、その径方向外側領域に径方向に沿った当該螺旋溝の幅が径方向外側に向かって広くなる脱気促進部を有することを特徴とするものである。
【0013】
本発明においては、螺旋溝の径方向外側端部から供給される成形材料がローターの回転に伴って螺旋溝の径方向内側端部に向けて可塑化通路内を移動する。この時、螺旋溝の脱気促進部を移動するに連れて成形材料の圧縮が行われ、これに伴って成形材料の脱気が促進される。このようにして可塑化通路内を移動する成形材料は、加熱手段によりさらに加熱を受け、次第に軟化溶融してその可塑化と充分な混練とがなされ、螺旋溝の径方向内側端部から材料流入通路を介して計量射出装置へと送出される。計量射出装置は、溶融状態にある所定量の成形材料を金型のキャビティへと圧送する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の可塑化送出装置によると、螺旋溝の径方向外側領域に径方向に沿った螺旋溝の幅が径方向外側に向かって広くなる脱気促進部を有するので、この脱気促進部を移動するに連れて成形材料が圧縮されることとなり、これに伴ってその脱気を促進させることができる。この結果、構造欠陥や外観不良などの不具合のない高品質な射出成形品を得ることが可能となる。
【0015】
ローターの回転中心および螺旋溝の径方向外側壁の任意の位置を結ぶ線分と、この任意の位置における径方向外側壁に対する接線とのなす角を径方向外側ほど小さく設定した場合、成形材料が径方向外側壁に強く押し当たり、その混練が促進されることとなる。また、脱気促進部を流動する成形材料に対して大きな圧縮力が与えられる結果、流動方向前方側の高圧領域に位置する気泡が圧力の低い径方向外側へと押し出され、成形材料の脱気をさらに促進させることが可能である。
【0016】
また、螺旋溝の径方向内側壁および径方向外側壁がそれぞれ連続面の場合、これら径方向内側壁および径方向外側壁に沿って流動する成形材料の滞留を阻止することができる。
【0017】
さらに、バレルの一端面が凸円錐面であってローターの端面がバレルの凸円錐面と対応する凹円錐面であり、ローターの端面から螺旋溝の底壁までの深さを径方向内側端部ほど浅く設定した場合、成形材料を可塑化通路の径方向内側端部へとより円滑に圧送することができる。しかも、成形材料の流動に連れてこれをゆるやかに加圧し、その脱気をさらに促進させることが可能である。
【0018】
ローターの端面から脱気促進部の底壁までの深さをその幅方向に沿って径方向内側ほど浅くなるように傾斜させた場合、脱気促進部内に介在する成形材料に対し、脱気促進部の幅方向に沿って圧力勾配を与えることができる。この結果、成形材料の間に介在する気泡を径方向外側へと誘導させることができ、脱気をより円滑に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による射出成形機の一実施形態の外観を表す立体投影図である。
【図2】図1に示した実施形態における主要部の内部構造を模式的に表す破断平面図である。
【図3】図1に示した実施形態における金型の部分の内部構造を模式的に表す破断正面図である。
【図4】図2に示した主要部を抽出拡大した断面図である。
【図5】図2,図4に示した実施形態におけるローターの外観を表す立体投影図である。
【図6】図5に示したローターの正面図である。
【図7】本発明によるローターの他の実施形態の外観を表す立体投影図である。
【図8】図7に示したローターの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明による射出成形機の一実施形態について、図1〜図8を参照しながら詳細に説明する。しかしながら、本発明は、このような実施形態に限らず、必要に応じて本発明の精神に帰属する他の類似の技術にも応用することができることは言うまでもない。
【0021】
本実施形態における射出成形機の外観を図1に示し、その正面形状を一部破断して図2に示し、その側面形状を一部破断して図3に示す。すなわち、本実施形態における射出成形機10は、本発明における金型としての金型ユニット11と、この金型ユニット11の型締めを行うための型締め装置12とを含む。また、この射出成形機10は、溶融状態にある所定量の樹脂を成形材料として金型ユニット11に形成されたキャビティ13に圧送する計量射出装置14と、成形材料である樹脂を可塑化して計量射出装置14に送出する可塑化送出装置15とをさらに含む。
【0022】
本実施形態における金型ユニット11は、固定側金型11Sと、可動側金型11Mとを有し、これらの間に成形品の形状に対応した先のキャビティ13が画成される。
【0023】
本実施形態における型締め装置12は、ベース16と、このベース16に取り付けられた型締め用モーター17と、可動側ダイプレート18と、この可動側ダイプレート18と型締め用モーター17とを機械的に接続するボールねじ機構19とを含む。金型ユニット11の可動側金型11Mを保持する可動側ダイプレート18は、ベース16に突設された支柱20に対して摺動自在に嵌合されている。ボールねじ機構19は、型締め用モーター17に連結されるボールねじ軸19Aと、可動側ダイプレート18に取り付けられるボールナット19Nとを含む。
【0024】
従って、型締め用モーター17を駆動することにより、可動側ダイプレート18を可動側金型11Mと共に支柱20に沿って移動させることができる。より具体的には、型締め操作の場合、可動側金型11Mを固定側金型11Sに所定圧力で押し当て、型開き操作の場合、可動側金型11Mを固定側金型11Sから引き離す。
【0025】
なお、可動側ダイプレート18には、成形品を可動側金型11Mから取り出すためのエジェクタ装置21が組み込まれている。これら金型ユニット11や型締め装置12およびエジェクタ装置21に関しては、既知の射出成形機と同じ構成のものや、特許文献1に開示されたものと同じ構成を採用することが可能である。
【0026】
本実施形態における可塑化送出装置15は、後述する固定側ダイプレート22およびケーシング23に収容されるバレル24と、ローター25と、ローター駆動手段26と、本発明の加熱手段としてのヒーター27とを含む。
【0027】
図2に示した可塑化送出装置15および計量射出装置14の主要部を抽出拡大して図4に示す。すなわち、本実施形態におけるバレル24は、材料流入通路28が一端面24Fの中央部に開口し、本実施形態ではこの一端面24Fが傾斜の非常に緩やかな凸円錐面にて形成されている。バレル24の一端面(以下、これを凸円錐面と記述する)24F側の材料流入通路28の開口端部は、その内径がローター25側に向けて次第に拡がる漏斗状となっている。この材料流入通路28の途中には、逆止め弁29が組み込まれている。この逆止め弁29は、後述する可塑化通路30側から樹脂が供給されるチャンバー31と材料流入通路28との接続部分よりも材料流入通路28の上流側に配され、チャンバー31側から可塑化通路30側への溶融状態にある樹脂の逆流を防止する。本実施形態における逆止め弁29は、バレル24の凸円錐面24F側の材料流入通路28の開口端部を塞ぎ得る弁体32と、この弁体32を材料流入通路28の長手方向(図4中、上下方向)に沿って摺動自在に保持する弁体保持筒33とを具えている。内周側が材料流入通路28を画成する弁体保持筒33は、バレル24に対して一体的に嵌着されている。弁体保持筒33の一端部には、弁体32の摺動方向に沿って延在し、材料流入通路28の一部を画成する複数本の切欠き部33Cがこの弁体32を囲むように形成されている。
【0028】
ケーシング23内に回転自在に収容される本実施形態におけるローター25の外観を図4に示した状態から180度反転して図5に示し、その平面形状を図6に示す。すなわち、本実施形態におけるローター25は、バレル24の凸円錐面24Fに対して摺接する端面25Fを有し、従って、この端面25Fはバレル24の凸円錐面と対応した傾斜の非常に緩やかな凹円錐面にて形成されている。このように、バレル24の凸円錐面24Fを凸円錐面に形成すると共にローター25の端面25Fをこれと対応する凹円錐面に形成したことにより、可塑化通路30内に介在する樹脂をより円滑にローター25の回転中心O側へと付勢することができる。
【0029】
ローター25の端面(以下、これを凹円錐面と記述する)25Fには、その回転中心Oに近接する径方向内側端部34IEからローター25の外周縁に位置する径方向外側端部34OEに至る螺旋溝34が位相を180度ずらして一対形成されている。ローター25の回転中心Oに関して点対称をなす一対の螺旋溝34は、バレル24の凸円錐面24Fとの間に樹脂に対する一対の可塑化通路30をそれぞれ画成する。これら螺旋溝34は、径方向内側端部34IEを含む一定幅部34cと、径方向外側端部34OEを含む脱気促進部34dとをそれぞれ有する。そして、脱気促進部34dの径方向外側端部34OEから樹脂が供給されると共に一定幅部34cの径方向内側端部34IEがバレル24の材料流入通路28の開口端にそれぞれ連通するようになっている。螺旋溝34は、ローター25の凹円錐面25Fと向き合った場合、その径方向外側端部34OEから右回り(時計回り)で径方向内側端部34IEへと旋回するような螺旋状となっている。より具体的には、螺旋溝34の径方向外側端部34OEから径方向内側端部34IEへと向かう方向をローター25の回転方向に対して逆方向に設定している。
【0030】
これら螺旋溝34は、底壁34Bと、径方向外側壁34OWと、底壁34Bを挟んで径方向外側壁34OWと対向する径方向内側壁34IWとをそれぞれ有する。これら径方向外側壁34OWおよび径方向内側壁34IWは、樹脂が滞留することなく円滑に流動できるように、その螺旋方向に沿ってそれぞれ連続面であることが好ましい。本実施形態における螺旋溝34の径方向内側壁34IWは、ローター25の回転中心Oに対して同心状をなし、かつ材料流入通路28の内径に等しい円を基準とするインボリュート曲線に基づいて形成されている。また、螺旋溝34の径方向外側壁34OWは、脱気促進部34dを除き、つまり一定幅部34cにおいてローター25の回転中心Oに対して同心状をなし、かつ材料流入通路28の内径よりも螺旋溝34の幅寸法に対応する分だけ大きな円を基準とするインボリュート曲線に基づいて形成されている。従って、ローター25の回転中心Oを通る任意の径方向直線に対してこれを横切る螺旋溝34の径方向外側壁34OWと径方向内側壁34IWとの間隔は、脱気促進部34dを除き、一定幅部34cにおいてすべて等しく設定されている。
【0031】
径方向内側領域の一定幅部34cに続く螺旋溝34の径方向外側領域には、径方向に沿った螺旋溝34の幅が径方向外側に向かって広くなる脱気促進部34dが形成されている。このように、脱気促進部34dにおいて、螺旋溝34の幅が径方向外側に向かって広くなるように形成したことにより、脱気促進部34dを径方向内側へと流動する樹脂に対し、次第に圧縮力を作用させることが可能となり、その脱気を促進させることができる。また、この脱気促進部34dにおいて、ローター25の回転中心Oおよび径方向外側壁34OWの任意の位置PI,POを結ぶ線分dI,dOと、この任意の位置PI,POにおける径方向外側壁34OWに対する接線tI,tOとのなす角γI,γOは、径方向外側ほど小さく、つまりγI>γOとなるように設定されている。本実施形態ではこれらγI,γOをリード角と定義する。このように、リード角を螺旋溝34の径方向外側領域ほど小さくなるように設定したことにより、すなわち脱気促進部34dにおいてローター25の回転方向に対する螺旋溝34の傾斜を強くしたことにより、成形材料である樹脂が径方向外側壁34OWにより強く押し当たる結果、その混練を促進させることができる。脱気促進部34dにおける径方向外側壁34OWは、脱気促進部34dよりも径方向内側に位置する螺旋溝34の径方向外側壁34OWを画成するインボリュート曲線に連続するような任意の曲線または直線に基づいて形成することができる。本実施形態では、脱気促進部34dよりも径方向内側に位置する螺旋溝34の径方向外側壁34OWに対応したインボリュート曲線とは別なインボリュート曲線に基づき、脱気促進部34dの径方向外側壁34OWを形成している。
【0032】
一方、前述のように径方向内側壁34IWと径方向外側壁34OWとの間隔が等しく設定された、つまり螺旋溝34の幅が一定な一定幅部34cでは、径方向外側壁34OWのリード角が相対的に大きく設定され、成形材料である樹脂に対する加圧送出が促進される。このため、脱気促進部34dから一定幅部34cへと流動する樹脂に対し、これらの接続部分において大きな圧縮力が与えられる結果、流動方向前方側の高圧領域に位置する気泡が圧力の低い径方向外側へと押し出され、成形材料の脱気をさらに促進させることができる。
【0033】
また、本実施形態では径方向に横切った場合の可塑化通路30の断面積を螺旋溝34の径方向内側端部34IEほど小さく設定し、より具体的には螺旋溝34の深さをその径方向内側端部34IEほど浅く設定し、特に脱気促進部34dではこれを急激に変化させている。このように、可塑化通路30の断面積が螺旋溝34の径方向内側端部34IEほど小さくなるように設定した場合、螺旋溝34の径方向内側端部34IEに向けて可塑化通路30内を移動中の軟化溶融した樹脂が次第に加圧力を受けることとなる。このため、成形材料をより円滑に可塑化通路30の径方向内側端部へと圧送することができ、結果として軟化溶融した樹脂の流動に連れてその脱気効果をさらに高めることが可能である。脱気促進部34dを構成する螺旋溝34の底壁34B,径方向外側壁34OW,径方向内側壁34IWの表面あらさに対し、これ以外の螺旋溝34の底壁34B,径方向外側壁34OW,径方向内側壁34IWの表面あらさをより粗く設定することも有効である。この場合、脱気促進部34d以外の螺旋溝34に介在する成形材料の流動抵抗が増大する結果、脱気促進部34dに介在する成形材料に対する圧縮作用をさらに高めることができ、脱気をさらに促進させることが可能となる。
【0034】
ローター駆動手段26は、ローター25の凸円錐面25Fとバレル24の凸円錐面24Fとが当接した状態のまま、バレル24の材料流入通路28を中心としてローター25を回転駆動する。ケーシング23に設置されてローター駆動手段26の一部を構成するローター駆動モーター35がローター25に機械的に連結されている。なお、このローター25の駆動回転による樹脂の流動原理などに関しては、特許文献1などに詳述されているように周知である。
【0035】
バレル24内に組み込まれたヒーター27は、材料流入通路28および可塑化通路30内に介在する樹脂を加熱して軟化溶融させるためのものである。このヒーター27に対する通電を制御することによって、バレル24の温度が樹脂の融点温度以上かつローター25の温度がバレル24の温度以下または樹脂の融点以下となるように調整される。
【0036】
ペレット状をなす樹脂は、ケーシング23に取り付けられたホッパー36内に貯溜されており、ここからケーシング23を介してローター25の螺旋溝34の径方向外側端部34OE、つまり脱気促進部34dへと供給される。そして、ローター駆動モーター35の作動によるローター25の回転に伴い、バレル24とローター25との間に形成された可塑化通路30内を流動する。この時、脱気促進部34d内に介在する樹脂が大きな圧力を受けながらその径方向内側へと流動する結果、樹脂ペレット間に介在する空隙や気泡が圧力の低い脱気促進部34dの径方向外側へと押し出されてその脱気が促進される。同時に、脱気促進部34dの径方向外側壁34OWの径方向内側ほど樹脂が強く摺接する状態となるため、樹脂の混練効果も促進される。さらに、脱気促進部34dを通過して可塑化通路30の径方向内側へと流動するに連れ、ヒーター27により樹脂の軟化溶融が進行し、バレル24の凸円錐面24Fに対する樹脂の粘性抵抗が増大する。この結果、樹脂は可塑化通路30の断面積の漸減作用と相俟って圧力上昇を伴って螺旋溝34の径方向内側端部34IEへと流動することとなる。
【0037】
なお、本実施形態では、180度隔てて一対の螺旋溝34をローター25に形成しているため、成形材料の供給能力を高めることができる。また、バレルの加熱をより均一化させることが可能であり、ローター25の回転に伴って樹脂により発生する径方向の搬送反力を点対称にてバランスさせることが可能となる。
【0038】
前記計量射出装置14は、固定側金型11Sを保持する固定側ダイプレート22と、固定側金型11Sに挿通されるノズル37と、射出プランジャー38と、射出・計量用モーター39とを含む。
【0039】
先端がキャビティ13に臨むノズル37は、バレル24に形成された材料流入通路28に連通する樹脂通路40が形成されている。また、バレル24には材料流入通路28に連通する先のチャンバー31がその側方に画成され、射出プランジャー38は、このチャンバー31に対して摺動自在に嵌合し、チャンバー31内に介在する樹脂をノズル37の樹脂通路40側に所定量ずつ圧送する。射出プランジャー38は、減速機41および図示しない動力伝達機構を介して射出・計量用モーター39に機械的に連結されている。
【0040】
ローター駆動モーター35によるローター25の回転と、射出・計量用モーター39の逆転駆動による射出プランジャー38の後退動作(図4中、右方向移動)とを組み合わせ、可塑化通路30から材料流入通路28へと導かれた樹脂をチャンバー31内に収容する。しかる後、射出・計量用モーター39の正転駆動による射出プランジャー38の前進動作(図4中、左方向移動)によって、チャンバー内30に収容された所定量の樹脂をノズル37から金型ユニット11のキャビティ13内に射出する。
【0041】
このように、本実施形態におけるスクロール型の射出成形機10は、旧来のプリプラ方式の射出成形機と比較すると、可塑化送出装置15を大幅に小型化することができるため、射出成形機10としての全体的な小型化を企図することが可能である。
【0042】
上述した実施形態では、ローター25の凹円錐面25Fに一対の螺旋溝34を180度隔てて形成し、計量射出装置14に対する成形材料の供給量を高めることができるように配慮している。しかしながら、ローター25の凹円錐面25Fには少なくとも1つの螺旋溝34が形成されていればよく、脱気促進部34dの形状などに関しても上述したような実施形態に限定されるわけではないことに注意されたい。
【0043】
本発明によるローター25の他の実施形態の外観を図7に示し、その正面形状を図8に示す。この実施形態においては、螺旋溝34の径方向外側壁34OWの径方向最外周部が直線状をなす平面にて形成されている。つまり、この平面は、曲面にて形成された径方向外側壁34OWの径方向外側の終端における接線となっている。この場合においても、脱気促進部34dの径方向外側壁34OWのリード角が径方向外側ほど小さくなる。すなわち、ローター25の回転中心Oおよび脱気促進部34dの径方向外側壁34OWの任意の位置PO,PIを結ぶ線分と、これら任意の位置PO,PIにおける径方向外側壁34OWに対する接線とのなす角γO,γIは、径方向外側ほど小さい。本実施形態における螺旋溝34の底壁34Bの幅方向、つまり円周方向に沿った深さは、ローター25の回転中心O軸線を中心とする同一円周上ですべて等しく設定されている。しかしながら、先の実施形態と同様に、径方向内側ほど底壁34Bの深さが相対的に浅くなって成形材料に対する加圧力が径方向内側ほど高くなるように設定されている。
【0044】
なお、本発明はその特許請求の範囲に記載された事項のみから解釈されるべきものであり、上述した実施形態においても、本発明の概念に包含されるあらゆる変更や修正が記載した事項以外に可能である。つまり、上述した実施形態におけるすべての事項は、本発明を限定するためのものではなく、本発明とは直接的に関係のないあらゆる構成を含め、その用途や目的などに応じて任意に変更し得るものである。
【符号の説明】
【0045】
10 射出成形機
11 金型ユニット
12 型締め装置
13 キャビティ
14 計量射出装置
15 可塑化送出装置
24 バレル
24F バレルの一端面(凸円錐面)
25 ローター
25F ローターの端面(凹円錐面)
26 ローター駆動手段
27 ヒーター
28 材料流入通路
30 可塑化通路
34 螺旋溝
34IE 径方向内側端部
34OE 径方向外側端部
34B 底壁
34OW 径方向外側壁
34IW 径方向内側壁
34c 一定幅部
34d 脱気促進部
35 ローター駆動モーター
O ローターの回転中心
I,PO 径方向外側壁の任意の位置
I,dO 線分
I,tO 接線
γI,γO リード角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料流入通路が一端面に開口するバレルと、
このバレルの材料流入通路の開口を中心として回転駆動され、当該バレルの前記一端面に対して摺接する端面を有するローターと、
このローターの端面に形成されて前記バレルの一端面との間に成形材料の可塑化通路を画成し、径方向外側端部から成形材料が供給されるとともに径方向内側端部が前記バレルの材料流入通路の開口端に連通する螺旋溝と
を具えた可塑化送出装置であって、
前記螺旋溝は、径方向に沿った当該螺旋溝の幅が径方向外側に向かって広くなる脱気促進部をその径方向外側領域に有することを特徴とする可塑化送出装置。
【請求項2】
前記螺旋溝は、前記脱気促進部に続き、径方向に沿った当該螺旋溝の幅が一定の一定幅部をその径方向内側領域に有することを特徴とする請求項1に記載の可塑化送出装置。
【請求項3】
前記螺旋溝は、底壁と、径方向内側壁と、前記底壁を挟んでこの径方向内側壁と径方向に対向する径方向外側壁とを有し、前記ローターの回転中心および前記脱気促進部の径方向外側壁の任意の位置を結ぶ線分と、この任意の位置における径方向外側壁に対する接線とのなす角が径方向外側ほど小さく設定されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の可塑化送出装置。
【請求項4】
前記螺旋溝の径方向内側壁および径方向外側壁は、それぞれ連続面であることを特徴とする請求項3に記載の可塑化送出装置。
【請求項5】
前記バレルの一端面が凸円錐面であり、かつ前記ローターの端面が前記バレルの凸円錐面と対応する凹円錐面であり、前記ローターの端面から前記螺旋溝の底壁までの深さが径方向内側端部ほど浅く設定されていることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の可塑化送出装置。
【請求項6】
前記ローターの端面から前記脱気促進部の底壁までの深さがその幅方向に沿って径方向内側ほど浅くなるように傾斜していることを特徴とする請求項2から請求項5の何れかに記載の可塑化送出装置。
【請求項7】
バレルの一端面に開口する材料流入通路の開口を中心として回転駆動され、当該バレルの一端面に対して摺接する端面に形成されて該バレルの一端面との間に成形材料の可塑化通路を画成し、径方向外側端部から成形材料が供給されると共に径方向内側端部が前記バレルの材料流入通路の開口端に連通する螺旋溝を有する可塑化送出装置のローターであって、
前記螺旋溝は、その径方向外側領域に径方向に沿った当該螺旋溝の幅が径方向外側に向かって広くなる脱気促進部を有することを特徴とするローター。
【請求項8】
溶融状態にある所定量の成形材料を金型のキャビティに圧送する計量射出装置と、成形材料を可塑化してこの計量射出装置に送出する可塑化送出装置と
を含み、この可塑化送出装置が、
一端面に材料流入通路が開口するバレルと、このバレルの材料流入通路の開口を中心として回転駆動され、当該バレルの前記一端面に対して摺接する端面を有するローターと、このローターの端面に形成されて前記バレルの一端面との間に成形材料の可塑化通路を画成し、径方向外側端部から成形材料が供給されるとともに径方向内側端部が前記バレルの材料流入通路の開口端に連通する螺旋溝と、前記バレルの材料流入通路の開口を中心として前記ローターを駆動回転するローター駆動手段と、前記材料流入通路および前記可塑化通路内に介在する成形材料を加熱して軟化溶融させるための加熱手段と
を含む射出成形機において、
前記螺旋溝は、その径方向外側領域に径方向に沿った当該螺旋溝の幅が径方向外側に向かって広くなる脱気促進部を有することを特徴とする射出成形機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−241016(P2010−241016A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93225(P2009−93225)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000104652)キヤノン電子株式会社 (876)
【Fターム(参考)】