説明

可塑性油脂組成物並びにその製造方法及び用途

【課題】充填作業性がよく、長期保存後の口溶け感の維持、塗りやすさ、オイルオフ耐性等に優れた可塑性油脂食品が得られる可塑性油脂組成物と製造方法を提供する。
【解決手段】可塑性油脂組成物は、PPP含量が5.5〜12重量%、PPLi+PLiP含量が5.5〜15.5重量%、PPO+POP含量が7〜20重量%、かつ、PPO/(PPO+POP)が0.55〜0.7である。この組成物は、例えば、(1)ヨウ素価65以下のパーム系油脂と液体油とのエステル交換油に由来し、PPLi+PLiP含量が7.5〜17.5重量%である油脂Aを10〜80重量部に対して、(2)パーム系油脂のエステル交換油に由来し、PPO+POP含量が15〜30重量%、かつ、PPO/(PPO+POP)が0.55〜0.7である油脂Bを0〜50重量部、並びに、(3)液体油を0〜70重量部混合することにより製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可塑性油脂組成物並びにその製造方法及び用途に関し、より詳細には、家庭用マーガリン、ファットスプレッド等の可塑性油脂食品に配合される原料油脂として好適な可塑性油脂組成物、並びにその製造方法及び用途に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マーガリン、ショートニング等の可塑性油脂食品には、硬化油と常温で液体の液油との組み合わせが用いられる。近年、硬化油に含まれるトランス脂肪酸が、LDLコレステロールを上昇させ、また、発ガンリスクを高めることが報告されている。そのため、トランス脂肪酸を低減するか含まない可塑性油脂組成物が要望されている。
【0003】
トランス脂肪酸を低減するか含まない油脂として、一般に、パーム油、極度硬化油、液油等が知られている。しかし、これらの油脂を組み合わせて可塑性油脂食品を作ると、得られる食品が可塑性不足、粗大結晶の発生、口溶けの悪さ等の点で満足のゆく品質とならない。
【0004】
天然の固体脂等を原料とし、トランス異性体をほとんど含有せず、品質等が良好な可塑性油脂組成物を得るために、特開2007−174988(特許文献1)は、炭素数12の飽和脂肪酸を15〜40重量%、炭素数16〜18の飽和脂肪酸を30〜80重量%含む非選択的エステル交換油を15〜80重量%とPPO+POPが13〜55重量%、PPO/POP>1である油脂を85〜20重量%混合してなる可塑性油脂組成物を開示する。この可塑性油脂組成物は、ラウリン系油脂を使用するため、油脂が加水分解してせっけん臭が発生する可能性がある。また、本明細書の比較例6に示すように、口溶け感や塗りやすさ等の品質に問題がある。
【0005】
特開2007−177100(特許文献2)には、トランス異性体含量を低減した硬化油及び分別油を使用し、製造時の作業性、保存品質等の良好な可塑性油脂食品を得るために、PPP含量4〜18重量%、PPO+POP15〜55重量%、PPO/POP>1、(PPO+POP)/PPP>1.8である可塑性油脂組成物を開示する。この可塑性油脂組成物の製造にはラウリン酸を使用しない。しかし、得られる可塑性油脂食品は、本明細書の比較例5に示すように、口溶け感や塗りやすさ等の品質に問題がある。
【0006】
特開2009−291168(特許文献3)は、ヨウ素価の異なる2種類のエステル交換油を含み、これらのエステル交換油中にPPP、PPO及びPOPの少なくとも一種を特定量で含むマーガリン用油脂組成物が、長期保存後に可塑性、製パン製菓時の作業性、口溶け性及び風味に優れることを開示する。しかし、この組成物は、ヨウ素価を所定の値に制御せねばならず、また、この組成物の製造方法が極度硬化工程を含むため作業が複雑になってしまう点であまり実用的でない。また、組成物は、本明細書の比較例4に示すように、充填作業性、硬さや保型性に問題がある。
【0007】
以上のとおり、従来技術の可塑性油脂組成物を用いて作られる可塑性油脂食品の充填作業性や品質が不十分な点で、原料油脂の可塑性油脂組成物は満足のゆくものでない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−174988公報
【特許文献2】特開2007−177100公報
【特許文献3】特開2009−291168公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の目的は、充填作業性がよく、長期保存後の口溶け感の維持、塗りやすさ、オイルオフ耐性等に優れた可塑性油脂食品を作ることのできる原料油脂としての可塑性油脂組成物及びその製造方法を提供することである。また、本発明の目的は、上記可塑性油脂組成物の用途として、可塑性油脂食品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、これらの課題に対して鋭意検討を行った結果、以下の発明により解決できることを見出した。すなわち、本発明は、PPP含量が5.5〜12重量%、PPLi+PLiP含量が5.5〜15.5重量%、PPO+POP含量が7〜20重量%、かつ、PPO/(PPO+POP)が0.55〜0.7である可塑性油脂組成物を提供する。
【0011】
本明細書において、PPPは3個のパルミチン酸で構成されるトリグリセリド、そして、PPLi+PLiP(PLiともいう)は2個のパルミチン酸及び1個のリノール酸で構成されるトリグリセリド、そしてPPO+POP(POともいう)は2個のパルミチン酸及び1個のオレイン酸で構成されるトリグリセリドを意味する。
【0012】
また、POPは1位及び3位がパルミチン酸であり、2位がオレイン酸であるトリグリセリド、そしてPPOは1位及び2位がパルミチン酸であり、3位がオレイン酸であるトリグリセリド、あるいは、1位がオレイン酸であり、2位及び3位がパルミチン酸であるトリグリセリドを意味する。PLiPは、1位及び3位がパルミチン酸であり、2位がリノール酸であるトリグリセリド、そしてPPLiは1位及び2位がパルミチン酸であり、3位がリノール酸であるトリグリセリド、あるいは、1位がリノール酸であり、2位及び3位がパルミチン酸であるトリグリセリドを意味する。
【0013】
前記可塑性油脂組成物は、
(1)ヨウ素価65以下のパーム系油脂と液体油のエステル交換油に由来し、PPLi+PLiP含量が7.5〜17.5重量%である油脂Aを10〜80重量%、
(2)パーム系油脂のエステル交換油を含み、PPO+POP含量が15〜30重量%、かつ、PPO/(PPO+POP)が0.55〜0.7である油脂Bを0〜50量%、並びに、
(3)液体油を0〜70重量%
含有してなることが好ましい。
【0014】
前記油脂Bは、可塑性油脂組成物に対して20〜50重量%含有することが特に好ましい。
【0015】
前記液体油は、可塑性油脂組成物に対して20〜70重量%含有することが特に好ましい。
【0016】
上記可塑性油脂組成物は、5℃の結晶量が20〜44%、25℃の結晶量が5〜17%であることが好ましい。
【0017】
上記結晶量は、可塑性油脂組成物を完全に溶解後、該油脂2mlをガラス容器に入れ、60℃で完全に溶解させた後、0℃の恒温水槽で60分保持した後、測定温度に調節された恒温水槽で30分放置後、析出した結晶の量をNMR分析器(製品名:NMS120 minispec、BRUKER社製)を用いて測定される値を意味する。
【0018】
本発明は、また、
(1)ヨウ素価65以下のパーム系油脂と液体油のエステル交換油に由来し、PPLi+PLiP含量が7.5〜17.5重量%である油脂Aを10〜80重量部、
(2)パーム系油脂のエステル交換油を含み、PPO+POP含量が15〜30重量部、かつ、PPO/(PPO+POP)が0.55〜0.7である油脂Bを0〜50量部、並びに、
(3)液体油を0〜70重量部
の割合で配合することにより、
PPP含量が5.5〜12重量%であり、PPLi+PLiP含量が5.5〜15.5重量%であり、PPO+POP含量が7〜20重量%であり、かつ、PPO/(PPO+POP)が0.55〜0.7の可塑性油脂組成物を製造する方法を提供する。
【0019】
上記製造方法は、前記油脂Bを20〜50重量部を混合することが特に好ましい。
【0020】
上記製造方法は、前記液体油を20〜70重量部混合することが特に好ましい。
【0021】
本発明は、また、上記可塑性油脂組成物を用いることを特徴する、可塑性油脂食品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の可塑性油脂組成物を用いると、スプレッド、マーガリン等の可塑性油脂食品を充填作業性等の作業性が良好な状態で製造することができる。得られる可塑性油脂食品は、天然の食用油を原料とし、トランス脂肪酸をほとんど含有せず、塗りやすさ、口溶け、オイルオフ耐性等の品質に優れる。長期保存しても、可塑性、口溶け性、塗りやすさが優れる。
【0023】
これらの効果の得られる理由として、本発明の範囲を限定する趣旨ではないが、可塑性油脂組成物がPPP及びPOと比較して融点の低いPLiを多く含むことによって、低温では固化しているが室温付近では容易に溶解し、結晶ネットワークが容易に壊れるようになり、可塑性油脂食品が塗りやすく、口溶けも良好になるためと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の実施態様をより詳細に説明する。本発明の可塑性油脂組成物(以下、本発明の組成物という)は、PPP含量が5.5〜12重量%であり、好ましくは6.5〜9.5重量%である。PPP含量が5.5重量%よりも少ないと、油脂組成物を用いて製造した可塑性油脂食品の保型性や口溶け感、オイルオフ耐性が不良となる。逆に、12重量%よりも高過ぎると、口の中にいつまでも残り、口溶け感は悪くなる。
【0025】
本発明の組成物のPPLi+PLiP含量は、5.5〜15.5重量%であり、好ましくは5.5〜12重量%である。PPLi+PLiP含量が5.5重量%より低いと、マーガリンにしたときに塗りにくい、口溶けが悪い等の弊害がでる。また、PPLi+PLiP含量が5.5重量%以上あると、PPP含量が高く、また、5℃の結晶量が高くても、良好な塗りやすさや口溶け感を得ることができる。PPLi+PLiP含量が15.5重量%より高くなり過ぎると、塗りにくくなったり、口溶けが悪くなるという問題を生じることがある。
【0026】
本発明の組成物のPPO+POP含量は、7〜20重量%であり、好ましくは9〜19重量%であり、より好ましくは9〜14重量%である。PPO+POP含量が7重量%より低いと、可塑性油脂食品の保型性やオイルオフ耐性が悪化する。逆に、20重量%を超えると、例えばマーガリンで口溶けが悪くなる。
【0027】
本発明の組成物のPPO/(PPO+POP)は、0.55〜0.7であり、好ましくは0.6〜0.7である。この比率が0.55未満であると、可塑性油脂食品の硬さの経時変化がしやすくなり、長期保存には向かなくなる。逆に、0.7より高くても、
硬くなりすぎてしまい、塗りやすさや口溶けが損なわれる。
【0028】
上記油脂中の構成脂肪酸の分析は、AOCS Official Method Ce 1h−05(2005)に準じて行うことができる。油脂中のトリグリセライドの分析は、JAOCS,Vol70,No.11,1111−1114(1993)に準じて行うことができる。
【0029】
上記物性を有する本発明の組成物を調製するための原料の例として、ヨウ素価65以下のパーム系油脂と液体油のエステル交換油に由来し、PPLi+PLiP含量が7.5〜17.5重量%である油脂(以下、油脂Aという)を使用することができる。
【0030】
油脂Aは、ヨウ素価65以下のパーム系油脂と液体油との混合油を非選択的エステル交換して得られたエステル交換油自体、該エステル交換油の分別油、該エステル交換油の硬化油、該エステル交換油の分別油の硬化油、あるいは、これらの組み合わせにより得ることができる。
【0031】
パーム系油脂は、パーム油、パーム油を分別して得られるパーム分別油、又はこれらの組み合わせを指す。分別油脂は、アセトン、ヘキサン等の溶剤を用いた溶剤分別法、乾式分別法のような無溶剤分別法のような公知の方法を限定せずに使用して得られる。
【0032】
上記パーム系油脂のヨウ素価は、65以下であり、好ましくは55以下である。ヨウ素価が65よりも高いパーム系油脂を用いると、求める物性の油脂を得にくくなる。
【0033】
ヨウ素価(IV)の測定は、下記の手順で測定することができる。まず、マヨネーズ瓶に原料油脂を約0.2g計り入れ、シクロヘキサン10mlで溶解し、それにウィス液25mlを加え、暗所で30分保管する。その後、10w/v%ヨウ化カリウム溶液20ml、及び水100mlを加える。この溶液のヨウ素価を、電位差測定装置(製品名736 GP Titrino、メトノーム社製)と滴定液を0.1mol/Lチオ硫酸Na標準液を用いて測定する。
【0034】
上記の非選択的エステル交換に用いる液体油は、例えば大豆油、綿実油、コーン油、米油、ひまわり油、ハイリノールサフラワー油等のリノール酸を30重量%以上含む動植物油が好ましい。これらの油脂を水素添加及び/又は分別して得られる加工油脂もまた用いることができる。
【0035】
上記非選択的エステル交換は、水酸化ナトリウム、ナトリウムメチラート等のアルカリ触媒、リパーゼ等の酵素触媒のどちらを用いたものでもよい。リパーゼは、イオン交換樹脂、ケイ藻土、セラミック等の担体上に固定してもよく、あるいは粉末の形態で用いてもよい。
【0036】
油脂AのPPLi+PLiP含量は、7.5〜17.5重量%であり、好ましくは
8〜15重量%である。PPLi+PLiP含量が7.5重量%未満であると、可塑性油脂食品の塗りやすさが不十分となることがある。逆に、17.5重量%より高いと、硬くなりすぎて充填し難いことがある。
【0037】
油脂Aの混合割合は、可塑性油脂組成物の全量に対して、10〜80重量%であり、好ましくは15〜50重量%である。
【0038】
上記可塑性油脂組成物の原料として、油脂Aにさらに、パーム系油脂のエステル交換油を含み、PPO+POP含量が15〜30重量%、かつ、PPO/(PPO+POP)が0.55〜0.7である油脂Bを添加してもよい。油脂A及び油脂Bを併用することで、本発明の組成物が必要とする前記4つの物性の調整がより容易となる。
【0039】
油脂Bは、パーム系油脂のエステル交換油自体、該エステル交換油の分別油、該エステル交換油とパーム系油脂との混合油、該エステル交換油の分別油とパーム系油脂の混合油、パーム系油脂とハイエルシン菜種極度硬化油、菜種極度硬化油等の極度硬化油との混合油のエステル交換油、またはこれらのエステル交換油の分別油、あるいは、これらの組み合わせにより得ることができる。
【0040】
油脂BのPPO+POP含量は、15〜30重量%であり、好ましくは20〜30重量%、より好ましくは20〜28重量%である。PPO+POPが15重量%未満であると、可塑性油脂食品の塗りやすさが充分でないことがある。逆に30重量%より多いと、オイルオフ耐性等が低くなる。
【0041】
油脂BのPPO/(PPO+POP)は、0.55〜0.7であり、好ましくは0.6〜0.7である。PPO/(PPO+POP)が0.55未満であると、可塑性油脂食品の保存中の経時変化が起こり易くなる。逆に、0.7より高いと、硬くなりすぎてしまい、塗りにくくなったり口溶けが悪くなったりすることがある。
【0042】
油脂Bの混合割合は、可塑性油脂組成物の全量に対して、0〜50重量%であり、好ましくは20〜50重量%である。
【0043】
上記可塑性油脂組成物の原料として、さらに、常温で液体の液体油を混合してもよい。油脂A、又は油脂Aと油脂Bとの混合油に、さらに液体油を添加することで、PPP含量、PPO+POP含量、5℃及び25℃での結晶量等の調整が容易となる。
【0044】
液体油の例として、菜種油、米油、コーン油、綿実油、紅花油、ひまわり油、大豆油、オリーブ油、ごま油、魚油等が挙げられる。これらを一種又は二種以上併用することができる。融点が20℃以下のものが好ましく、特に好ましくはコーン油、綿実油及び大豆油である。
【0045】
液体油の混合割合は、可塑性油脂組成物の全量に対して、0〜70重量%であり、好ましくは20〜70重量%である。
【0046】
本発明の組成物には、油脂A、並びに、適宜の油脂B及び液体油以外に、可塑性油脂組成物を製造する業界で公知の添加剤を、本発明の組成物の目的を阻害しない範囲で、適宜、添加してもよい。
【0047】
本発明の組成物の5℃の結晶量は、20〜44%が好ましくは、特に好ましくは
26〜29%である。結晶量が20%未満であると、可塑性油脂食品の口溶け感が悪くなる。逆に、45%より高いと、可塑性油脂食品が硬くなりすぎて、マーガリン等で塗り難くなる。また、可塑性油脂組成物の25℃の結晶量は、5〜17%が好ましく、特に好ましくは8〜10%である。25℃の結晶量が5%未満であると、オイルオフしやすくなる。逆に、17%より高いと、可塑性油脂食品の口溶けが悪くなる。
【0048】
結晶量の測定は、油脂を完全に溶解後、ガラス容器に60℃の可塑性油脂組成物2mlを入れ、60℃で完全に溶解させた後、0℃の恒温水槽で60分保持した。その後、測定温度に調節された恒温水槽で30分放置後、析出した結晶の量を、NMR分析器(製品名:NMS120 minispec、BRUKER社製)を用いて測定する。
【0049】
本発明の組成物は、トランス脂肪酸をほとんど含有しない。具体的には、通常、
5重量%以下であり、特に2重量%以下である。
【0050】
本発明の組成物は、ショートニング、油中水型乳化物及び気泡含有油中水型乳化物等の可塑性油脂食品の原料油脂として使用することができる。したがって、本発明は、可塑性油脂組成物を用いた可塑性油脂食品の製造方法を提供する。
【0051】
ショートニングは、従来公知の方法で製造することができ、具体的には、本発明の組成物及び下記の添加剤を、コンビネーター、パーフェクターボテーター等の冷却混合機で急冷しながら混和する。
【0052】
ショートニングには、必要に応じて乳化剤を添加することができる。該乳化剤は、食用の乳化剤であれば特に制限がなく、例えばレシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセロール脂肪酸エステル等が挙げられる。ソルビタン脂肪酸エステルは、トリエステル含量が多いものが好ましい。これらの乳化剤は、1種又は2種以上を組み合わせてもよい。乳化剤の添加量は、ショートニング中に、通常、3重量%以下で使用される。
【0053】
ショートニングには、乳化剤の他に、食用油脂、安定剤、着色料、フレーバー等の当該食品分野で汎用される添加剤を使用してもよい。
【0054】
こうして得られるショートニングは、製菓用ショートニング、製パン用ショートニング、製菓・製パン用フィリングとして有用である。
【0055】
油中水型乳化物は、本発明の組成物を含んだ油相部と、以下に示す添加剤を配合し、適宜、加熱混合して予備乳化した水相部とを一緒に、コンビネーター、パーフェクター、ボテーター等の冷却混合機により撹拌乳化してエマルションを作り、低温でエマルションを安定化させることにより得られる。油相部と水相部の重量比は、通常、30:70〜95:5であり、好ましくは40:60〜90:10である。乳化物は、ブロック、シート等の適宜の形状に成型する。
【0056】
油相部又は水相部には、ショートニングで例示した乳化剤が適宜配合されてもよい。特に油相部に用いる乳化剤としては、レシチン、ソルビタン脂肪酸エステル及びグリセリン脂肪酸エステルが好ましく、水相部に用いる乳化剤としては、ショ糖脂肪酸エステルが好ましい。乳化剤は、油中水型乳化物中に、通常、3重量%以下で使用される。
【0057】
油中水型乳化物に配合されるその他の添加剤としては、本発明の組成物以外の食用油脂;トコフェロール、ビタミンCパルミテート等の酸化防止剤;ペクチン、カラギナン、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース(CMC)、グアーガム、アラビアガム、ローカストビーンガム、カラヤガム、タマリンドガム、タラガム、キファーセラン、カゼインソーダ、アルギン酸塩、寒天、ガムエレミ、ガムカナダ、ガムダマール等の増粘剤・安定剤;着色料;ミルクフレーバー、バニラフレーバー、バニラエッセンス等のフレーバー;グルコース、マルトース、シュークロース、ラクトース、トレハロース、マルトトリオース、パラチノース、還元パラチノース、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、ソルビトール、異性化液糖、水飴等の糖類;食塩;並びに全脂粉乳、バターミルク、発酵乳、脱脂粉乳、全脂加糖練乳、脱脂加糖練乳、生クリーム等の乳製品が挙げられる。
【0058】
こうして得られる油中水型乳化物は、家庭用マーガリン、家庭用ファットスプレッド、製パン用マーガリン、製菓用マーガリン、バタークリーム、ディップクリーム、シュガークリーム等として使用される。
【0059】
気泡含有油中水型乳化物は、本発明の油脂組成物を含む油相混合物と水相混合物との予備乳化物を窒素、空気等のガスを吹き込みながら冷却混練することにより得られる。得られる気泡含有油中水型乳化物は、比重0.3〜0.7となる。しかも、口溶けが良好であり、かつ室温でのオイルオフ耐性に優れる。
【0060】
気泡含有油中水型乳化物は、家庭用ソフトマーガリン、家庭用ファットスプレッド、バタークリーム、ディップクリーム等として有用である。
【実施例】
【0061】
以下に、実施例と比較例を挙げて、本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0062】
〔実施例1〜15及び比較例1〜7〕
1.可塑性油脂組成物
1.1原料油脂の調製
本発明の組成物の原料として使用可能な油脂A及びBと比較例に使用のエステル交換油等を、以下の手順で調製した。なお、部は重量部を意味する。
<油脂1>
IV32のパームステアリン(製品名:パームステアリン、三井物産株式会社より入手)75部と、IV51のパーム油(株式会社J-オイルミルズ社内製)10部とコーン油(製品名:コーン油、株式会社J-オイルミルズ社製)15部を混合しナトリウムメチラートを触媒として油脂に対して0.3%添加し、80℃、真空度20torr、60分間の非選択的エステル交換を行った。その後、水洗、脱水し、脱色、脱臭して、油脂Aに相当する油脂1を得た。油脂1の物性(PPP含量(%)、PLi含量(%)、PPO+POP含量、PPO/(PPO+POP)比率、トランス脂肪酸)を、表1に示す。
【0063】
<油脂2>
油脂1のコーン油を大豆油(製品名:大豆白絞油、株式会社J-オイルミルズ社製)に代えて、同様に操作をおこない、油脂Aに相当する油脂2を得た。物性を表1に示す。
【0064】
<油脂3>
IV56のパームオレイン(株式会社J-オイルミルズ社内製)を、ナトリウムメチラートを触媒として油脂に対して0.3%添加し、80℃、真空度20torr、60分間の非選択的エステル交換を行った。その後、水洗、脱水し、脱色、脱臭してエステル交換して、油脂Bに相当する油脂3を得た。物性を表1に示す。
【0065】
<油脂4>
上記パームステアリン(IV32)70部とハイリノールサフラワー油(株式会社J-オイルミルズ社内製)30部を混合しナトリウムメチラートを触媒として油脂に対して0.3%添加し、80℃、真空度20torr、60分間の非選択的エステル交換を行った。その後、水洗、脱水し、脱色、脱臭して、油脂Aに相当する油脂4を得た。物性を表1に示す。
【0066】
<油脂5>
上記パームステアリン(IV32)70部と菜種油(製品名:菜種白絞油、株式会社J-オイルミルズ社製)30部を混合しナトリウムメチラートを触媒として油脂に対して0.3%添加し、80℃、真空度20torr、60分間の非選択的エステル交換を行った。その後、水洗、脱水し、脱色、脱臭して、油脂Aに相当する油脂5を得た。物性を表1に示す。
【0067】
<油脂6>
上記油脂3を80部と上記パームオレイン(IV56)を20部混合し、油脂Bに相当する油脂6を得た。物性を表1に示す。
【0068】
<油脂7>
上記パームステアリン(IV32)50部と上記菜種油50部を混合しナトリウムメチラートを触媒として油脂に対して0.3%添加し、80℃、真空度20torr、60分間の非選択的エステル交換を行った。その後、水洗、脱水し、脱色、脱臭して、油脂7を得た。物性を表1に示す。
【0069】
<油脂8>
上記パームステアリン(IV32)50部とIV24のパーム核オレイン(株式会社J-オイルミルズ社内製)50部を混合し、得られた混合油脂を水素添加した後、ナトリウムメチラートを触媒として油脂に対して0.3%添加し、80℃、真空度20torr、60分間の非選択的エステル交換を行った。その後、水洗、脱水し、脱色、脱臭して、油脂8を得た。得られた油脂8のヨウ素価は1.0であった。物性を表1に示す。
【0070】
<油脂9>
上記パームステアリン(IV32)66部と上記パーム油(IV51)31部とハイエルシン菜種極度硬化油(製品名:ハイエルシン菜種極度硬化油、横関油脂工業株式会社製)3部を混合し、ナトリウムメチラートを触媒として油脂に対して0.3%添加し、80℃、真空度20torr、60分間の非選択的エステル交換を行った後、水洗、脱水し、脱色、脱臭して、油脂Bに相当する油脂9を得た。物性を表1に示す。
【0071】
<油脂10>
IV14のパーム核油(株式会社J-オイルミルズ社内製)65部、IV67のパームダブルオレイン(株式会社J-オイルミルズ社内製)35部を混合しナトリウムメチラートを触媒として油脂に対して0.3%添加し、80℃、真空度20torr、60分間の非選択的エステル交換を行った。その後、水洗、脱水し、脱色、脱臭して、油脂10を得た。物性を表1に示す。
【0072】
<油脂11>
上記パームダブルオレイン(IV67)を、ナトリウムメチラートを触媒として油脂に対して0.3%添加し、80℃、真空度20torr、60分間の非選択的エステル交換を行った。その後、水洗、脱水し、脱色、脱臭して、油脂Bに相当する油脂11を得た。物性を表1に示す。
【0073】
<油脂12>
上記パームオレイン(IV56)を油脂12とした。物性を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
1.2 可塑性油脂組成物の調製
表1に示す原料を表2に示す割合で配合し、混合することにより、実施例及び比較例の可塑性油脂組成物を調製した。ここで、比較例4は特許文献3、比較例5は特許文献2、そして比較例6は特許文献1に記載された可塑性油脂組成物に相当する。得られた組成物の物性を表2に示す。
【0076】
【表2】

※ T:トランス脂肪酸(重量%)
【0077】
2.可塑性油脂食品
上記で調製した可塑性油脂組成物を用いて、可塑性油脂食品としてのマーガリンを以下の手順で製造した。表3に示す油相分及び水相分をそれぞれ調製した。約60℃に保温した油相に水相を攪拌しながら投入して予備乳化を行った。予備乳化は約20分間行った。予備乳化後、卓上ボテーターに供し、冷却シリンダーとピンマシーンの順に2回通して急冷練り合わせを行い、マーガリンを調整した。
【0078】
【表3】

【0079】
表4に、マーガリンの製造時の充填作業性、硬さの経時変化、塗りやすさ、口溶け感評価、オイルオフ耐性評価の結果を示す。製造時の作業性、保存における硬さの変化、保型性、口溶け、塗りやすさ、オイルオフ耐性の評価方法を示す。
【0080】
(充填作業性の評価)
充填3分後の硬さを粘弾性測定装置(製品名:FUDOレオメーター、不動工業株式会社製、プローブφ1.5cm、速度6cm/分)にて測定した。判定評価基準は以下とした:
◎ 適度な硬さを持ち、非常に良好(3g以上15g未満)
○ 良好(15g以上25g未満)
× 柔らかく不良、もしくは硬すぎて不良(3g未満、もしくは25g以上)
【0081】
(硬さの評価)
経時変化はマーガリンを5℃で保管し、保管開始2週間後と1ヵ月後に5℃の硬さをコーンペネトロメーターで測定し、評価した。
測定機器:コーンペネトロメーター(株式会社蔵持科学器械製作所)
頂角 :40°
判定評価基準を以下とした:

非常に良好(300g/cm以上、800g/cm未満)

良好(800g/cm以上、1200g/cm未満)
×不良(300g/cm未満、1200g/cm以上)
【0082】
(保型性評価)
5℃で2週間保管したマーガリンを25℃で5時間保管した時の硬さをコーンペネトロメーターで測定し、評価した。判定評価基準を以下とした:
◎ 非常に良好(15g/cm以上)
○ 良好(5g/cm以上、15g/cm未満)
× 不良(5g/cm未満)
【0083】
(口溶け感評価)
製造したマーガリンを口に含んだ際、口溶け感を良く感じられるかを評価した。判定評価基準を以下とした:
◎ 非常に口溶けが良い
○ 口溶けは良い
× 口溶けが悪く、口の中に残り、あるいは口に入れた瞬間から液体油のべたつきを感じる
【0084】
(塗りやすさの評価)
5℃保管したマーガリンマーガリンの保管開始2週間後及び1ヵ月後の塗りやすさを、約20gのマーガリンをバターナイフでとり、紙タオルに塗った時の塗りやすさで評価した。判定評価基準は、以下とした:
◎ 非常に塗りやすい
○ 塗りやすい
× 塗りにくい
【0085】
(オイルオフ耐性の評価)
5℃で2週間保管したマーガリンを25℃、5時間置き、その後の液油の染み出しを評価した。判定評価基準は、以下とした:
◎ 染み出しなく良好
○ やや染み出しが見られた
× 染み出しが多く不良
【0086】
【表4】

【0087】
表4の結果に示すとおり、従来の可塑性油脂食品を含む比較例では、マーガリンに加工した際の充填作業性、経時的な硬さの変化、室温に置いた時の保型性、塗りやすさ、口溶け、オイルオフ耐性において、いくつもの欠点が存在した。一方、本発明による可塑性油脂組成物を使用した可塑性油脂食品を用いると、トランス脂肪酸含量をほとんど含むことなく、全ての項目において品質の良好な可塑性油脂食品を製造できた。本発明による可塑性油脂組成物は、製菓、製パン用マーガリン、ショートニング、製菓用フィリング、家庭用マーガリン、家庭用ファットスプレッド等の用途においても、良好な品質が期待できる。
【0088】
実施例と比較例との対比から、本発明の組成物の物性をまとめると、以下のとおりである。PPP含量に関して、4.6重量%以下の比較例1、3、4、5及び6で、保型性や口溶け感、オイルオフ耐性が不良であった。逆に、比較例2のように高過ぎると、口の中にいつまでも残り、口溶け感は悪くなった。これらの結果から、可塑性油脂組成物のPPP含量は、5.5%〜12重量%である必要があり、好ましくは6.5〜9.5重量%であることが判明した。
【0089】
PPLi+PLiP含量に関して、5.5重量%以下の比較例1、3、4、5及び6では、柔らかすぎて塗りにくかった。一方、実施例6、7及び10のように、PPLi+PLiP含量が高いと、PPP含量が高く、また、5℃の結晶量が高くても、良好な塗りやすさや口溶け感を呈した。PPLi+PLiP含量が15.5重量%より高くなり過ぎると、塗りにくくなったり、口溶けが悪くなった。これらの結果から、PPLi+PLiP含量は、5.5〜15.5重量%である必要があり、好ましくは5.5〜12重量%であることが判明した。
【0090】
PPO+POP含量に関して、比較例1のように7重量%未満であると、保型性やオイルオフ耐性が非常に悪くなった。逆に、比較例2のように20重量%以上になると、口溶けが悪くなった。これらの結果から、PPO+POP含量は、7〜20重量%である必要があり、好ましくは9.0〜15.0重量%であることが判明した。
【0091】
PPO/(PPO+POP)に関して、比較例7のように0.55未満であると、硬さの経時変化がしやすくなり、長期保存には向かなくなった。逆に、0.7より高くても、
硬くなりすぎてしまい、塗りやすさや口溶けが損なわれた。これらの結果から、PPO/(PPO+POP)は、0.55〜0.7である必要があり、好ましくは0.6〜0.7であることが判明した。
【0092】
5℃の結晶量に関して比較例1のように8%以下であると、柔らかすぎて作業充填性が悪くなり、そもそも製造自体が困難になった。逆に、比較例2のように56%以上であると、硬くなりすぎて作業充填性が悪く、また、口溶け感は不良になった。実施例の範囲内であれば充填作業性は良好になった。これらの結果から、5℃の結晶量は20〜44%である必要があり、好ましくは26〜29%であることが判明した。
【0093】
また、25℃の結晶量は、比較例1、5、6のように5%未満であると保型性、塗りやすさ、口溶け感、オイルオフ耐性が不良になった。逆に、比較例2のように22%以上になると、口溶け感が悪くなった。実施例の範囲内であれば保型性、塗りやすさ、口溶け感、オイルオフ耐性は良好になった。これらの結果から、25℃の結晶量は5〜17%である必要があり、好ましくは8〜10%が好ましいことが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PPP含量が5.5〜12重量%、PPLi+PLiP含量が5.5〜15.5重量%、PPO+POP含量が7〜20重量%、かつ、PPO/(PPO+POP)が0.55〜0.7である、可塑性油脂組成物。
【請求項2】
(1)ヨウ素価65以下のパーム系油脂と液体油のエステル交換油に由来し、PPLi+PLiP含量が7.5〜17.5重量%である油脂Aを10〜80重量%、
(2)パーム系油脂のエステル交換油を含み、PPO+POP含量が15〜30重量%、かつ、PPO/(PPO+POP)が0.55〜0.7である油脂Bを0〜50重量%、並びに、
(3)液体油を0〜70重量%
含有してなる、請求項1に記載の可塑性油脂組成物。
【請求項3】
前記油脂油Bを20〜50重量%を含有してなる、請求項2に記載の可塑性油脂組成物。
【請求項4】
前記液体油を20〜70重量%含有してなる、請求項2又は3に記載の可塑性油脂組成物。
【請求項5】
5℃の結晶量が20〜44%、25℃の結晶量が5〜17%である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の可塑性油脂組成物。
【請求項6】
(1)ヨウ素価65以下のパーム系油脂と液体油とのエステル交換油に由来し、PPLi+PLiP含量が7.5〜17.5重量%である油脂Aを10〜80重量部、
(2)パーム系油脂のエステル交換油を含み、PPO+POP含量が15〜30重量%、かつ、PPO/(PPO+POP)が0.55〜0.7である油脂Bを0〜50重量部、並びに、
(3)液体油を0〜70重量部
の割合で配合することにより、PPP含量が5.5〜12重量%であり、PPLi+PLiP含量が5.5〜15.5重量%であり、PPO+POP含量が7〜20重量%であり、かつ、PPO/(PPO+POP)が0.55〜0.7の可塑性油脂組成物を製造する方法。
【請求項7】
前記油脂Bを20〜50重量部を混合することを特徴とする、請求項4に記載の可塑性油脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記液体油を20〜70重量部混合することを特徴とする、請求項4又は5に記載の可塑性油脂組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の可塑性油脂組成物を用いることを特徴する、可塑性油脂食品の製造方法。

【公開番号】特開2012−105547(P2012−105547A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251441(P2010−251441)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【特許番号】特許第4743924号(P4743924)
【特許公報発行日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(302042678)株式会社J−オイルミルズ (75)
【Fターム(参考)】