説明

可変リアクトル

【課題】例えば誘導加熱装置に適用する可変リアクトルとして、簡易な構造,安価な製作費でインダクタンス値を広範囲に調整できるようにした可変リアクトルを提供する。
【解決手段】両端の端子部を給電電路に接続する板状の主導体と、該主導体の板面に対向して平行配置した平板状の補助導体板と、該補助導体板の主導体に対する間隔を増減調整する移動機構とからなる構成を基本として、具体的には主導体7,8を、平行に対向配置した断面形状がコ字形の一対の溝形導体バーとし、この主導体7,8の双方に跨がって2枚の平板状補助導体板9をバー導体の上下辺部に対向配置した上で、各補助導体板9を一括して送りネジ10(軸上に右ネジと左ネジを形成した送りネジ)に連結し、アクチュエータ11により補助導体板9の主導体7,8に対する空隙距離dを変えてリアクトルの実効インダクタンス値を可変調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば誘導加熱装置を対象に、その高周波電源の出力回路(LC直列共振回路)に適用する可変リアクトルに関する。
【背景技術】
【0002】
高周波インバータで構成された高周波電源から誘導加熱コイルに電力を供給する出力回路を加熱コイル,整合用コンデンサ,および可変リアクトルからなる直列共振回路で構成し、被加熱物の状態に対応して変化する高周波電源から見た負荷インピーダンスの変動に対して前記可変リアクトルのインダクタンス値を調整することにより、設定出力に合わせた動作点で負荷に安定した電力を給電するようにした誘導加熱装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、この誘導加熱装置では、前記の可変リアクトルをソレノイド形のインダクタンスコイル部と、該コイル部に出没可能な磁芯を組合せた構成とし、この磁芯をコイル部から抜差しすることにより両者間の電磁結合度を変えてコイル部のインダクタンス値を可変調整するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-30965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、誘導加熱装置のような大電流回路に適用する可変リアクトルとして、前記のようなソレノイド形コイル部に出没する磁芯を組合せた構造の可変リアクトルを製作する上で次記のような問題点がある。
【0006】
すなわち、従来構造ではそのコイル部が円筒状のソレノイド形であることから、導体材料(銅板)をソレノイド形状に成形するのに高い加工工数が掛かる。また、可変リアクタンスのインダクタンスの最小値を小さくするために、ソレノイドコイル部と該コイル部に抜き挿しする磁芯との間の距離(空隙)をできるだけ小さくするには高精度な軸送り機構が必要となって製作費が嵩む。
【0007】
この発明は前記のような問題点を解決するため、簡易な構造でインダクタンス値を広範囲に可変調整でき、製作費の安価な可変リアクトルを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、この発明によれば、両端の端子部を給電電路に接続する板状の主導体と、該主導体の板面に対向して平行配置した平板状の補助導体板と、該補助導体板の主導体に対する間隔を増減調整する移動機構とからなる構成(請求項1)を基本とし、具体的には次記のよう態様で構成する。
(1)前記構成において、主導体を、電源と負荷との間に配線した給電電路の往路と復路に接続して平行に対向配置した断面形状がコ字形の溝形導体バーで構成し、この主導体に対向して2枚の補助導体板を双方の主導体に跨がってその上下辺部に対向配置した上で、各補助導体板を一括して移動機構に連結する(請求項2)。
(2)前項(1)において、移動機構は、軸上に右ネジ領域と左ネジ領域を形成して補助導体板に連結した送りネジと、外部指令により前記送りネジを正,逆転して2枚の補助導体板と主導体との間の空隙距離を同期して増減変化させるアクチュエータとの組立体で構成する(請求項3)。
(3)前記構成になるリアクトルを誘導加熱装置に適用して、その高周波電源と誘導加熱コイルとの間の給電電路に接続する(請求項4)。
【発明の効果】
【0009】
上記構成になるこの発明の可変リアクトルによれば、給電電路に接続した板状の主導体と該主導体の板面に対向配置した平板状の補助導体板との間の距離(空隙)を増減変化することで実効インダクタンスを広範囲に調整することができる。
【0010】
しかも、主導体,補助導体は共に外形が直線状の板で構成するため、加工,組立が容易であり、また補助導体板の移動機構についても簡易な送りネジ機構で対応でき、ソレノイド形コイル部に磁芯を組み合わせた従来構造の可変リアクトルと比べて製作費を安価に抑えることができる。
【0011】
また、主導体を、電源と負荷との間に配線した給電電路の往路と復路に接続して平行に対向配置した断面形状がコ字形の導体で構成し、この主導体に対向して2枚の補助導体板を双方の主導体に跨がってその上下辺部に対向配置した請求項2の構成によれば、主導体の広い通電路を確保しつつ、インダクタンス値の調整域の全域で主導体に通流する電流を分散させて極端な電流分布の集中に起因する抵抗損失の増大を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施例による可変リアクトルの構成を示す斜視図である。
【図2】図1の補足構成図であって、(a),(b)はそれぞれ図1の側面図、および正面図である。
【図3】図1の可変リアクトルを適用した誘導加熱装置の回路構成図である。
【図4】図1の動作説明図であって、(a),(b)はそれぞれ補助調整板を主導体に近づけた状態,および引き離した各調整状態での電流分布を表す図である。
【図5】この発明の可変リアクトルの変形例を示す概念的な断面構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態として、誘導加熱装置に適用する可変リアクトルを図1〜図4に示す実施例に基づいて説明する。
【0014】
まず、前記誘導加熱装置の給電回路を図3に示す。図3において、1は高周波電源を構成するインバータ装置、2は誘導加熱コイル、3はインバータ装置1の出力端と誘導加熱コイル2との間に配線したU,V相の給電電路(ブスバー)、4は被加熱物、5は整合用コンデンサ、6は前記給電電路3に接続してこの直列共振回路の共振周波数を負荷の状態に合わせて調整する可変リアクトルである。
【0015】
次に、この発明による前記可変リアクトル6の詳細構造を図1,および図2(a),(b)に示す。すなわち、可変リアクトル6は両端の端子部を前記U,V相の給電電路3に接続して平行に対向配置した断面がコ字形の主導体(溝形導体バー)7,8と、主導体7,8の双方に跨がってその溝形導体バーの上下辺部に対向配置した平板状の補助導体板9と、該補助導体板9の主導体7,8に対する間隔(空隙)dを増減変化させる補助導体板の移動機構Aとの組立体で構成されている。
【0016】
ここで、前記移動機構Aは、軸上に右ネジ10aと左ネジ10bの領域を形成し、かつ右ネジ,左ネジにそれぞれ螺合した送りナット10c,10dからなる2本の送りネジ10と、外部からの指令を受けて前記送りネジ10を正,逆転方向に同期回転駆動するアクチュエータ(サーボモータ)11とからなり、前記送りナット10c,10dを上下二枚の補助導体板9の板面にそれぞれ結合して送りネジ10に連結している。なお、送りネジ10は、下端をフレーム12の軸受で支持した上で、上端に設けた不図示のプーリ,タイミングベルトを介してアクチュエータ11に伝動可能に連結されている。また、送りねじ10の回転量を不図示のエンコーダにより検出し、補助導体板9の移動量を検出して、空隙距離dを調整している。
【0017】
上記の構成において、送りネジ10をアクチュエータ11により回転駆動すると、その回転方向に応じて主導体7,8の上下に配した2枚の補助導体板9が互いに逆方向に変位することにより、互いの間隔が縮小または拡大する方向に移動(図示矢印方向)し、主導体7,8との間の空隙距離dを変化させる。また、高周波電源1(図3参照)から誘導加熱コイル2に給電して被加熱物4を加熱している運転状態では、前記の空隙距離dの変化に対応して可変リアクトル6のインダクタンス値が変化する。
【0018】
すなわち、平板状の補助導体板9を断面がコ字形の溝形導体バーで構成した主導体7,8の上下辺面に近づけて両者間の空隙距離dを、図4(a)に示すように小さくなるように調整した状態では、主導体7,8と補助導体板9との間の電磁結合が強まって主導体7,8を通流する電流i(高周波電流)が、平板状の補助導体板9に誘起する渦電流による磁束を打ち消すように溝形導体バーの上下辺部に流れる。この状態では主導体7,8の実効インダクタンス値が小さくなる。
【0019】
一方、前記とは逆に図4(b)に示すように、補助導体板9を主導体7,8から上下に充分引き離して空隙距離dが大くなるように調整すると、主導体7,8に流れ電流は主導体間の近接効果,表皮効果によって図示のように溝形導体バーの垂直辺部を流れる。
【0020】
この状態では、主導体7,8に通流する電流による磁束は相殺されなくなるので、主導体7,8の実効インダクタンス値が大きくなる。
【0021】
また、主導体7,8を図示のようにコ字形の溝形導体バーとしてその上下辺部に2枚の補助導体板を対向配置したことにより、インダクタンス値の全調整範囲で主導体に充分な電流通路断面を確保しつつ、補助導体板9を主導体7,8に近づけた状態でも電流が主導体のエッジ部に局部的に集中することがないので抵抗損失が増大するのを防ぐことができる。
【0022】
なお、図示実施例は、誘導加熱装置に適用する可変リアクトルとして、断面「コ字形」の一対のバー導体を主導体として、その上下辺部に対向して2枚の補助導体板を組み合わせた構成について述べたが、この発明による可変リアクトルは図示実施例の構造に限定されるものではなく、図5に示すように、断面「L字形(または逆L字形)」の一対のバー導体17、18を向かい合わせに平行に配置したものを主導体として、その下辺部(または上辺部)に1枚の補助導体板19を対向配置し、この補助導体板19の主導体17、18に対する間隔(空隙)を変えてインダクタンス値を調整することもできる。
【符号の説明】
【0023】
1 インバータ装置(高周波電源)
2 誘導加熱コイル
3 給電路
4 被加熱物
5 整合用コンデンサ
6 可変リアクトル
7,8 主導体
9 補助導体板
10 送りネジ
11 アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端の端子部を給電電路に接続する板状の主導体と、該主導体の板面に対向して平行配置した平板状の補助導体板と、該補助導体板の主導体に対する間隔を増減調整する補助導体板の移動機構とからなることを特徴とする可変リアクトル。
【請求項2】
請求項1に記載の可変リアクトルにおいて、主導体が、電源と負荷との間に配線した給電電路の往路と復路に接続して平行に対向配置した断面形状がコ字形の一対の溝形導体なバーであり、この主導体に対向して2枚の補助導体板を双方の主導体に跨がってその上下辺部に対向配置した上で、各補助導体板を一括して移動機構に連結したことを特徴とする可変リアクトル。
【請求項3】
請求項2に記載の可変リアクトルにおいて、移動機構が軸上に右ネジ領域と左ネジ領域を形成して補助導体板に連結した送りネジと、外部指令により前記送りネジを正,逆転して2枚の補助導体板と主導体との間の距離を同期して増減するアクチュエータとからなることを特徴とする可変リアクトル。
【請求項4】
請求項2または3に記載の可変リアクトルにおいて、当該リアクトルを誘導加熱装置に適用してその高周波電源と誘導加熱コイルとの間の給電電路に接続したことを特徴とする可変リアクトル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−9432(P2011−9432A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−151081(P2009−151081)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(502165300)富士電機サーモシステムズ株式会社 (33)
【出願人】(509180360)株式会社石井電機 (2)
【Fターム(参考)】