説明

可変容量型油圧ポンプ・モータ

【課題】ケーシングに対して斜板が移動する等の問題を招来することなく、支持体の摺動凸部と斜板の摺動凹部との間を確実に潤滑すること。
【解決手段】ボールリテーナ50は、軸部51の先端に成す摺動凸部52を有し、軸部51の外表面から摺動凸部52の外周面に至る部位に貫通油路53を形成したもので、軸部51を介してケーシング10の装着孔11bに嵌合され、貫通油路53の開口を覆う状態で摺動凸部52を介して斜板30の摺動凹部32に摺動可能に嵌合し、ケーシング10には、本体側ベアリング21を収容する収容空間21Aから装着孔11bまでの間に連絡油路56を形成し、ボールリテーナ50の摺動凸部52と斜板30の摺動凹部32との間には、貫通油路53の開口を摺動凸部52と摺動凹部32との摺接域外に常時連通させるための潤滑溝54を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、斜板の傾転角を変更することによって容量を変化させる可変容量型の油圧ポンプ・モータに関するもので、詳しくは、ケーシングに対して斜板を傾動可能に支持する支持体の潤滑構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
斜板の傾転角を変更することによって容量を変化させる可変容量型の油圧ポンプ・モータにおいては、一対の支持体を介して斜板をケーシングに傾動可能に支持させているのが一般的である。支持体は、円柱状を成す軸部の先端に球状を成す摺動凸部が設けられたものである。これら一対の支持体は、摺動凸部の球の中心を結ぶ線が、シリンダブロックを支持する回転軸の軸心に対して直角方向に沿う状態で、それぞれの軸部を介してケーシングの装着孔に取り付けられている。一方、斜板には、摺動凸部が嵌合する摺動凹部が形成されており、各摺動凹部にそれぞれ支持体の摺動凸部が摺動可能に嵌合されている。
【0003】
この油圧ポンプ・モータでは、回転軸の軸心に対して斜板の傾転角を変更すると、シリンダブロックのシリンダに配設したピントンの行程移動量が斜板の傾転角に応じて変化することになり、その容量が変化するようになる。
【0004】
この種の油圧ポンプ・モータでは、高圧側のポート、つまり油圧ポンプの場合には油を吐出する側のポート、油圧モータの場合には油が供給される側のポートから、支持体の摺動凸部と斜板の摺動凹部との間に油を供給することによって潤滑を行い、焼き付きやかじり等の問題を未然に防止するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−139045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、斜板を支持する一対の支持体は、ピストンから受ける反力が高圧側と低圧側とで異なるため、摺動凸部と摺動凹部との間の接触圧力も互いに異なるものとなる。ここで、斜板の高圧側となる部位を支持する支持体については、高圧側のポートから油を供給して潤滑を行っても問題はない。しかしながら、斜板の低圧側となる部位を支持する支持体にあっては、高圧側のポートから摺動凸部と摺動凹部との間に油を供給した場合、この油の圧力によって斜板に作用する力が、ピストンから受ける力よりも大きくなり、ケーシングに対して斜板がシリンダブロックに近接する方向に移動する等の問題を招来する恐れがある。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みて、ケーシングに対して斜板が移動する等の問題を招来することなく、支持体の摺動凸部と斜板の摺動凹部との間を確実に潤滑することのできる可変容量型油圧ポンプ・モータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る可変容量型油圧ポンプ・モータは、ケーシングに回転可能に支持された回転軸と、前記回転軸の軸心を中心とする円周上に複数のシリンダを有し、前記回転軸と一体に回転するシリンダブロックと、前記シリンダブロックのシリンダにそれぞれ移動可能に配設した複数のピストンと、前記シリンダブロックに設けたシリンダの開口に対向する位置に一対の支持体を介して前記ケーシングに傾動可能に配設し、前記シリンダブロックに対向する摺動面を介して各ピストンの基端部に摺動可能に係合する斜板とを備え、前記斜板に対して前記シリンダブロックが回転した場合に前記斜板の傾転角に応じて前記ピストンが行程移動する可変容量型油圧ポンプ・モータにおいて、前記ケーシングは、前記支持体の近傍に前記回転軸を回転可能に支持させるベアリングを備えたものであり、前記支持体は、軸部の先端に球状を成す摺動凸部を有し、かつ前記軸部の外表面から前記摺動凸部の外周面に至る部位に貫通油路を形成したものであり、軸部を介して前記ケーシングの装着孔に嵌合されるとともに、貫通油路の開口を覆う状態で前記摺動凸部を介して前記斜板の摺動凹部に摺動可能に嵌合しており、前記ケーシングに前記ベアリングを収容する収容空間から前記装着孔の間に連絡油路を形成し、かつこの連絡油路を前記軸部の貫通油路に連通させ、さらに、前記支持体の摺動凸部と前記斜板の摺動凹部との間には、摺動凸部における貫通油路の開口を摺動凸部と摺動凹部との摺接域外に常時連通させるための潤滑溝を形成したことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、上述した可変容量型油圧ポンプ・モータにおいて、前記潤滑溝は、前記支持体の軸部を中心として螺旋を描くように摺動凸部に形成したことを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、上述した可変容量型油圧ポンプ・モータにおいて、前記ケーシングと前記回転軸との間に介在するベアリングは、前記斜板に近接する端部が太径となるテーパローラを備えたテーパローラベアリングであることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、上述した可変容量型油圧ポンプ・モータにおいて、前記支持体は、円柱状を成す軸部の先端に前記摺動凸部を有したものであり、前記軸部の軸心上となる位置に貫通油路を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ベアリングを収容する収容空間と斜板を収容する室との間が、連絡油路、装着孔、貫通油路、潤滑溝を介して互いに連通されるため、回転軸の回転に伴ってベアリングが回転すると、収容空間に貯留していた油が遠心力によって流動し、支持体の摺動凸部と斜板の摺動凹部との間に形成した潤滑溝を通過するようになる。従って、この潤滑溝を満たす油によって摺動凸部と摺動凹部との間を潤滑することが可能となる。しかも、遠心力によって潤滑溝を通過する油は、高圧側の油に比較して圧力が十分に小さいものであるため、ケーシングに対して斜板が移動する等の問題を招来する恐れはない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の実施の形態である可変容量型油圧ポンプ・モータにおいて一対の支持体の軸心を通過する平面に沿って破断した断面図である。
【図2】図2は、図1におけるA−A線断面図である。
【図3】図3は、図1に示した可変容量型油圧ポンプ・モータに適用する支持体の要部を拡大して示す断面図である。
【図4】図4は、図3における矢視B図である。
【図5】図5は、図1に示した可変容量型油圧ポンプ・モータの要部を拡大して示す断面図である。
【図6】図6は、本発明に係る可変容量型油圧ポンプ・モータの変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら本発明に係る可変容量型油圧ポンプ・モータの好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0015】
図1及び図2は、本発明の実施の形態である可変容量型油圧ポンプ・モータを示したものである。ここで例示する油圧ポンプ・モータは、外部から動力が与えられた場合に油圧ポンプとして動作するもので、ケーシング10の内部に回転軸20を備えている。
【0016】
ケーシング10は、ケース本体部11とエンドキャップ部12とを備え、互いの間に動作空間13を構成したものである。回転軸20は、ケーシング10の動作空間13を横断するように配設した柱状部材である。この回転軸20は、一方の端部がベアリング21を介してケース本体部11の基端壁11Aに回転可能に支持させてあり、他方の端部がベアリング22を介してエンドキャップ部12に回転可能に支持させてあり、ケーシング10に対して自身の回転軸心20Cを中心として回転することが可能である。回転軸20の一方の端部をケース本体部11の基端壁11Aに支持させる本体側ベアリング21及び他方の端部をエンドキャップ部12に支持させるキャップ側ベアリング22は、いずれもテーパ状のローラを備えた、いわゆるテーパローラベアリングであり、テーパローラ21a,22aにおいて太径になる端部が後述する斜板30に近接する向きとなるように配設してある。回転軸20の一方の端部は、エンジン等の外部動力源からの動力を受け入れる入力端部20aとして機能するもので、ケース本体部11の基端壁11Aから外部に突出している。回転軸20の他方の端部は、エンドキャップ部12の内部で終端している。この回転軸20には、動作空間13に対応する部位の外周に斜板30及びシリンダブロック40が設けてある。
【0017】
斜板30は、中心部に軸挿通孔31を有した板状を成す部材である。この斜板30は、軸挿通孔31に回転軸20を貫通させた状態で、一対のボールリテーナ(支持体)50を介してケース本体部11の基端壁11Aに支持させてある。ケース本体部11において一対のボールリテーナ50を設けた基端壁11Aは、回転軸20を支持する本体側ベアリング21に近接した位置に設けてある。
【0018】
ボールリテーナ50は、円柱状を成す軸部51と、軸部51よりも大きな外径の半球状を成す摺動凸部52とを一体に成形したものである。それぞれのボールリテーナ50は、軸部51をケース本体部11の基端壁11Aに設けた装着孔11bに嵌合することによってケーシング10に取り付けられ、かつ摺動凸部52を斜板30に設けた摺動凹部32に摺動可能に嵌合させてある。これらのボールリテーナ50によって支持された斜板30は、互いに摺動凸部52の中心点間を結ぶ直線を傾動中心線50C(図2参照)として、ケーシング10に対して傾動することが可能である。本実施の形態においては、回転軸20の回転軸心20Cに対して直交する平面上であって、回転軸心20Cよりも図2において上方にずれた位置にボールリテーナ50による斜板30の傾動中心線50Cが設定してある。回転軸20の回転軸心20Cは、各摺動凸部52の中心点まで距離が互いに同一であり、図1に示すように、傾動中心線50Cを二等分する鉛直面(以下、「分割面H」という)上に位置している。
【0019】
斜板30は、分割面Hに対して左右がほぼ対称であり(図には明示せず)、図1及び図2に示すように、エンドキャップ部12に対向する側に第1摺動面33を有する一方、ケース本体部11における基端壁11Aの内表面11aに対向する側に第2摺動面34を有している。第1摺動面33は、軸挿通孔31の周囲となる部位に、後述するピストンシュー81が摺動するための環状の平面として構成してある。第2摺動面34は、図2において下方側の周縁にのみ形成した平面であり、傾動中心線50Cに向かうに従って板厚が大きくなる態様で傾斜している。
【0020】
斜板30の第2摺動面34とケース本体部11の基端壁11Aとの間には、サーボピストン60が設けてある。サーボピストン60は、ケース本体部11に固定したサーボスリーブ61の内部に移動可能に配設したもので、サーボピストンシュー62を介して斜板30の第2摺動面34に当接している。サーボピストンシュー62は、球状を成すサーボ球状部62aを介してサーボピストン60の先端部に傾動可能に支持させてあり、かつ柱状を成すサーボ脚柱部62bを介して第2摺動面34に摺動可能に当接したものである。このサーボピストン60は、ケース本体部11との間に設けたサーボピストンスプリング63の押圧力によって斜板30の第2摺動面34に常時当接しており、サーボ油圧室64の油圧が変更されたときに傾動中心線50Cを中心として斜板30を傾動させ、回転軸20に対する斜板30の傾転角を変更するものである。
【0021】
シリンダブロック40は、中心孔41を有した円柱状部材であり、中心孔41に回転軸20を貫通させた状態でエンドキャップ部12と斜板30との間に配設してある。シリンダブロック40の中心孔41と回転軸20の外周面との間は、シリンダブロック40が回転軸20と一体に回転するようにスプラインによって結合してある。シリンダブロック40においてエンドキャップ部12に対向する端部は、バルブプレート70を介してエンドキャップ部12の内壁面に当接している。これに対しシリンダブロック40において斜板30に対向する端部は、動作空間13の内部に露出している。
【0022】
バルブプレート70は、図1に示すように、吸込ポート71及び吐出ポート72を有した板状部材である。吸込ポート71は、エンドキャップ部12に形成した吸込通路12aに接続してあり、吸込通路12aを通じて油タンク(図示せず)に接続されている。吐出ポート72は、エンドキャップ部12に形成した吐出通路12bに接続してあり、吐出通路12bを通じて油の供給対象、例えば油圧作業機(図示せず)に接続してある。図には明示していないが、バルブプレート70の吸込ポート71及び吐出ポート72は、それぞれが回転軸20の回転軸心20Cを中心とする同一の円周上に設けた円弧状を成すもので、分割面Hを境に吐出ポート72と吸込ポート71とが独立して設けてある。
【0023】
このシリンダブロック40には、回転軸20の回転軸心20Cを中心とした円周上に複数のシリンダ42が形成してある。シリンダ42は、回転軸20の回転軸心20Cに平行となる態様で形成した横断面が円形の孔であり、互いに周方向に沿って等間隔に配置してある。個々のシリンダ42は、シリンダブロック40において斜板30に対向する端面に開口する一方、バルブプレート70に近接した端部がシリンダブロック40の内部で終端した後、それぞれ細径の連絡ポート43を介してシリンダブロック40の端面に開口している。連絡ポート43の開口は、バルブプレート70の吸込ポート71及び吐出ポート72を形成した円周と同一の円周上に位置しており、回転軸心20Cを中心としてシリンダブロック40が回転した場合に、これら吸込ポート71及び吐出ポート72に対して選択的に連通することになる。
【0024】
シリンダブロック40のシリンダ42には、それぞれピストン80が配設してある。ピストン80は、横断面が円形の柱状を成すもので、シリンダ42の内部にそれぞれの軸心に沿って移動可能に嵌合してある。それぞれのピストン80において斜板30に対向する先端部には、ピストンシュー81が設けてある。ピストンシュー81は、球状を成すメイン球状部81aと柱状を成すメイン脚柱部81bとを一体に成形したものである。個々のピストンシュー81は、メイン球状部81aを介してピストン80の先端部に傾動可能に支持させてある一方、メイン脚柱部81bを介して斜板30の第1摺動面33に当接している。
【0025】
図1及び図2に示すように、複数のピストンシュー81は、それぞれメイン脚柱部81bにおいて斜板30の第1摺動面33に当接する部分が幅広に形成してあり、この幅広部とメイン球状部81aとの間に配設した押圧プレート90によって互いに連係してある。押圧プレート90は、シリンダブロック40とほぼ同じ外径を有し、中心部に押圧孔91を有した板状部材である。押圧プレート90において回転軸20の回転軸心20Cを中心とした円周上には、それぞれシリンダブロック40のシリンダ42に対向する部位にシュー装着孔92が形成してある。シュー装着孔92は、ピストンシュー81のメイン球状部81aを挿通可能、かつメイン脚柱部81bの幅広部を挿通不可とする大きさの貫通孔である。この押圧プレート90は、押圧孔91に回転軸20を貫通させ、かつ個々のシュー装着孔92にピストンシュー81のメイン球状部81aを挿通させた状態でシリンダブロック40と斜板30との間に配設してある。
【0026】
押圧プレート90に形成した押圧孔91は、内周面が球状に形成してあり、その内部にリテーナガイド100を支持している。リテーナガイド100は、押圧プレート90の押圧孔91に嵌合する外径の半球状を成したもので、その中心部に回転軸20を貫通させ、かつ球状部分を押圧プレート90の押圧孔91に当接させた状態で押圧プレート90とシリンダブロック40との間に配設してある。リテーナガイド100と回転軸20の外周面との間は、リテーナガイド100が回転軸20と一体に回転し、かつ回転軸20の回転軸心20Cに沿って移動可能となるようにスプラインによって結合してある。このリテーナガイド100には、シリンダブロック40に内蔵した押圧スプリング101の押圧力が伝達ロッド102を介して常時与えられている。リテーナガイド100に与えられた押圧スプリング101の押圧力は、押圧プレート90を介してピストンシュー81に与えられ、ピストンシュー81のメイン脚柱部81bをそれぞれ斜板30の第1摺動面33に常時当接させるように作用している。
【0027】
上記のように構成した油圧ポンプ・モータでは、ケーシング10に対して回転軸20を回転させると、シリンダブロック40が回転軸20と一体となって回転し、ピストンシュー81を介して斜板30の第1摺動面33に当接したピストン80がシリンダ42に対して行程移動する。具体的には、分割面Hを境として吸込ポート71が設けられた半領域(図1において分割面Hよりも下方の低圧側)においては、ピストン80がシリンダ42から順次突出するように(図1において左側へ)行程移動することになり、吸込通路12a及び吸込ポート71を介してシリンダ42の内部に油タンクの油が吸い込まれる。一方、吐出ポート72が設けられた半領域(図1において分割面Hよりも上方の高圧側)においては、ピストン80がシリンダブロック40のシリンダ42に退行するように(図1において右側へ移動)行程移動するようになり、バルブプレート70の吐出ポート72及び吐出通路12bを介してシリンダ42の油が油圧作業機(図示せず)に吐出される。
【0028】
この状態から、例えば油圧作業機(図示せず)の負加圧に応じてサーボピストン60に作用させる油圧を変更すると、これに応じてサーボピストン60がケース本体部11に設けたサーボスリーブ61に対して適宜進退移動し、斜板30の傾転角が変更されることになる。斜板30の傾転角が変更されると、シリンダブロック40の回転に伴うピストン80の行程移動量が変化し、吐出通路12bを介して油圧作業機(図示せず)に吐出される油の流量が変更される。具体的には、サーボピストン60が突出方向(図2において右方向)に移動すると、斜板30の第1摺動面33が回転軸20の回転軸心20Cに対して直交する方向に近接するため、シリンダブロック40の回転に伴うピストン80の行程移動量が減少し、油圧作業機(図示せず)に吐出される単位回転当たりの油の流量も減少される。逆に、サーボピストン60が退行方向(図2において左方向)に移動すると、斜板30の第1摺動面33が回転軸20の回転軸心20Cに対して直交する方向から離隔するため、シリンダブロック40の回転に伴うピストン80の行程移動量が増大することになり、油圧作業機(図示せず)に吐出される単位回転当たりの油の流量も増大する。
【0029】
上述した動作の間、複数のピストン80から反力として斜板30に押圧力が作用するため、斜板30の摺動凹部32とボールリテーナ50の摺動凸部52との間は、押圧力を受けた状態で互いに摺動することになる。従って、斜板30の摺動凹部32とボールリテーナ50の摺動凸部52との間に対しては、これを良好に潤滑させなければ、かじりや焼き付き等の問題を招来する恐れがある。
【0030】
このため、上述の油圧ポンプ・モータでは、ケーシング10の内部に漏れて貯留されている油を斜板30の摺動凹部32とボールリテーナ50の摺動凸部52との間に積極的に供給し、両者の潤滑を図るようにしている。
【0031】
具体的には、まず、一対のボールリテーナ50のそれぞれに対して、図3〜図5に示すように、軸部51の基端面から摺動凸部52の外周面に渡る部位に貫通油路53を形成するとともに、摺動凸部52の外周面に潤滑溝54を形成している。貫通油路53の軸部51側の開口は、必ずしも基端面である必要はなく、ボールリテーナ50の軸部51においてその外表面に現れ、かつ装着孔11bに臨む面であればいずれに開口しても良い。
【0032】
図5に示すように、実施の形態で示した貫通油路53は、軸部51の軸心上となる部位に形成した貫通孔であり、テーパ部53aを介して軸部51の基端面に開口する一方、細径部53bを介して摺動凸部52の外周面に開口している。ボールリテーナ50には、摺動凸部52と軸部51との間に段部55が設けてある。この段部55は、軸部51をケース本体部11の装着孔11bに挿入した場合の挿入量を規制し、軸部51の基端面と装着孔11bの内底面との間に隙間dを確保するためのものである。
【0033】
潤滑溝54は、図3及び図4に示すように、摺動凸部52の外周面に形成した溝である。本実施の形態では、摺動凸部52の外周面において貫通油路53の開口から軸部51の軸心を中心とした螺旋を描くように延在し、摺動凸部52の外周面と段部55との稜線部分で終端するように潤滑溝54を形成している。この潤滑溝54は、貫通油路53の開口が斜板30の摺動凹部32によって覆われた状態においても、摺動凸部52の外周面と段部55との稜線部分で開口することにより、貫通油路53を摺動凸部52と摺動凹部32との摺接域外となる動作空間13に常時連通させることが可能である。斜板30の摺動凹部32には、貫通油路53の開口に対向する部位に貯留用凹部32aが形成してある。
【0034】
また、図5に示すように、ケーシング10において本体側ベアリング21を収容する収容空間21Aと、一対のボールリテーナ50を装着するそれぞれの装着孔11bとの間に位置する部分には、連絡油路56が設けてある。連絡油路56は、これら収容空間21Aと装着孔11bの内部と互いに連通するためのもので、収容空間21Aにおいて回転軸心20Cから離隔した外周側に形成してある。
【0035】
ボールリテーナ50に形成した貫通油路53は、摺動凸部52を斜板30の摺動凹部32に嵌合させた場合に、摺動凸部52の開口が常時摺動凹部32の内壁面によって覆われ、かつ軸部51の開口が装着孔11bの内壁面によって覆われた状態となる。しかしながら、貫通油路53における摺動凸部52の開口は、外周面に形成した螺旋状の潤滑溝54を通じてケーシング10の動作空間13に連通している。同様に、貫通油路53における軸部51の開口は、装着孔11b及び連絡油路56を通じて本体側ベアリング21の収容空間21Aに連通している。
【0036】
従って、回転軸20が回転すると、本体側ベアリング21が回転することにより、収容空間21Aに貯留していた油が遠心力によって流動するようになる。特に、本実施の形態では、テーパローラ21aにおいて太径となる部分が斜板30に近接する向きに配置されているため、本体側ベアリング21が回転した場合、図5中の矢印で示すように、収容空間21Aに貯留されていた油が連絡油路56を通じて装着孔11bに移動し、さらに装着孔11bからボールリテーナ50の貫通油路53及び潤滑溝54を通じてケーシング10の動作空間13に至る。これにより、潤滑溝54を通過する油によってボールリテーナ50の摺動凸部52と斜板30の摺動凹部32との間が潤滑され、かじりや焼き付きといった問題を防止することができるようになる。しかも、潤滑溝54を通過する油は、回転軸の回転数が大きくなるほど、潤滑溝54を通過する油の量が増大するため、かじりや焼き付き等の問題をより確実に防止することができるようになる。加えて、潤滑溝54を通過する油は、吐出ポート72から吐出される油に比較して圧力が十分に小さいものであり、低圧側を支持するボールリテーナ50においても斜板30がシリンダブロック40に向けて移動する等の問題を招来する恐れはない。
【0037】
尚、上述した実施の形態では、油圧ポンプとして適用されるものを例示しているが、油圧モータとして適用されるものにも同様に適用することは可能である。
【0038】
また、ボールリテーナ50の摺動凸部52にのみ潤滑溝54を形成しているが、斜板30の摺動凹部32の内周面にのみ潤滑溝54を形成しても良いし、両者に形成することも可能である。尚、ボールリテーナ50の摺動凸部52の外周面に潤滑溝54を形成する場合に、上述した実施の形態では軸部51の軸心を中心とした螺旋状のものを適用しているため、旋盤の回転工具を利用すれば容易に形成することができ、製造工程が煩雑になることもない。しかしながら、潤滑溝54は、必ずしも螺旋状である必要はなく、貫通油路53を動作空間13に連通させることができれば、複数の放射状を成す溝等、その他の形状のものであっても構わない。
【0039】
さらに、上述した実施の形態では、斜板30において高圧側を支持するボールリテーナ50と、低圧側を支持するボールリテーナ50の双方をそれぞれ同一の潤滑構造として、ボールリテーナ50の摺動凸部52と斜板30の摺動凹部32との間を潤滑するようにしているが、本発明はこれに限定されない。例えば、図6に示す変形例では、斜板30において分割面Hよりも下方の低圧側を支持するボールリテーナ50にのみ上述の潤滑構造を適用し、分割面Hより上方の高圧側を支持するボールリテーナ150については、高圧側の吐出ポート72もしくは吐出通路12bから吐出する油を供給油路200によってケーシング10の装着孔11bに供給するようにしたものである。ケーシング10の装着孔11bに装着されるボールリテーナ150には、実施の形態と同様の貫通油路201が形成してあるものの、摺動凸部152には斜板30の摺動凹部32との摺接領域に終端する潤滑溝202が形成してある。この高圧側のボールリテーナ150では、吐出ポート72から吐出された油が貫通油路201及び潤滑溝202を通じて摺動凸部152と摺動凹部32と摺接領域に圧送され、互いの間の潤滑が図られる。尚、図6に示す変形例では、実施の形態と同様の構成に同一の符号を付してそれぞれの詳細説明を省略している。
【0040】
この変形例においても、低圧側を支持するボールリテーナ50には本体側ベアリング21の収容空間21Aの油が連絡油路56を通じて装着孔11bに移動し、さらに装着孔11bからボールリテーナの貫通油路53及び潤滑溝54を通じてケーシング10の動作空間13に至るため、潤滑溝54を通過する油によってボールリテーナ50の摺動凸部52と斜板30の摺動凹部32との間を潤滑することができる。しかも、潤滑溝54を通過する油は、吐出ポート72から吐出される油に比較して圧力が十分に小さいものであり、低圧側を支持するボールリテーナ50においても斜板30がシリンダブロック40に向けて移動する等の問題を招来する恐れはない。また、高圧側を支持するボールリテーナ150においては、吐出ポート72から吐出された高圧の油が摺動凸部152と摺動凹部32と摺接領域に圧送されることになるものの、ピストン80からの反力も大きなものとなるため、斜板30がシリンダブロック40に向けて移動する等の問題は招来されない。
【符号の説明】
【0041】
10 ケーシング
11b 装着孔
20 回転軸
20C 回転軸心
21 本体側ベアリング
21A 収容空間
21a テーパローラ
30 斜板
32 摺動凹部
33 第1摺動面
40 シリンダブロック
50 ボールリテーナ(支持体)
51 軸部
52 摺動凸部
53 貫通油路
54 潤滑溝
56 連絡油路
80 ピストン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングに回転可能に支持された回転軸と、
前記回転軸の軸心を中心とする円周上に複数のシリンダを有し、前記回転軸と一体に回転するシリンダブロックと、
前記シリンダブロックのシリンダにそれぞれ移動可能に配設した複数のピストンと、
前記シリンダブロックに設けたシリンダの開口に対向する位置に一対の支持体を介して前記ケーシングに傾動可能に配設し、前記シリンダブロックに対向する摺動面を介して各ピストンの基端部に摺動可能に係合する斜板と
を備え、前記斜板に対して前記シリンダブロックが回転した場合に前記斜板の傾転角に応じて前記ピストンが行程移動する可変容量型油圧ポンプ・モータにおいて、
前記ケーシングは、前記支持体の近傍に前記回転軸を回転可能に支持させるベアリングを備えたものであり、
前記支持体は、軸部の先端に球状を成す摺動凸部を有し、かつ前記軸部の外表面から前記摺動凸部の外周面に至る部位に貫通油路を形成したものであり、軸部を介して前記ケーシングの装着孔に嵌合されるとともに、貫通油路の開口を覆う状態で前記摺動凸部を介して前記斜板の摺動凹部に摺動可能に嵌合しており、
前記ケーシングに前記ベアリングを収容する収容空間から前記装着孔の間に連絡油路を形成し、かつこの連絡油路を前記軸部の貫通油路に連通させ、
さらに、前記支持体の摺動凸部と前記斜板の摺動凹部との間には、摺動凸部における貫通油路の開口を摺動凸部と摺動凹部との摺接域外に常時連通させるための潤滑溝を形成したことを特徴とする可変容量型油圧ポンプ・モータ。
【請求項2】
前記潤滑溝は、前記支持体の軸部を中心として螺旋を描くように摺動凸部に形成したことを特徴とする請求項1に記載の可変容量型油圧ポンプ・モータ。
【請求項3】
前記ケーシングと前記回転軸との間に介在するベアリングは、前記斜板に近接する端部が太径となるテーパローラを備えたテーパローラベアリングであることを特徴とする請求項1に記載の可変容量型油圧ポンプ・モータ。
【請求項4】
前記支持体は、円柱状を成す軸部の先端に前記摺動凸部を有したものであり、前記軸部の軸心上となる位置に貫通油路を設けたことを特徴とする請求項1に記載の可変容量型油圧ポンプ・モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−172635(P2012−172635A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37707(P2011−37707)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【特許番号】特許第4934749号(P4934749)
【特許公報発行日】平成24年5月16日(2012.5.16)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】