説明

可変容量素子および可変容量装置ならびに可変容量装置を用いた携帯電話

【課題】 容量比が大きくQ値の大きな可変容量素子を得ることを可能にする。
【解決手段】 基板8に間隔をおいて固定された第1および第2電極1、2,4と、可動電極3,5と、基板上に設けられた支持部13上に支持され、可動電極を駆動するアクチュエータ14と、を備え、可動電極は、アクチュエータによって駆動されたときは第2電極と電気的接触の状態となり、駆動されないときには第2電極と電気的非接触の状態となり、可動電極は第1電極と常に電気的に非接触の状態にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変容量素子および可変容量装置ならびに可変容量装置を用いた携帯電話に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロマシンもしくはMEMS(Micro-Electro-Mechanical Systems)技術を用いて作成したデジタル可変容量素子は、PINダイオードを使用した可変容量素子と比較して、可変幅が大きい、歪が少ない、Q値が大きい(損失抵抗が小さい)という利点を有する。このため、携帯機器の小型広帯域アンテナの整合回路などへの使用に適している。
【0003】
デジタル可変容量素子を用いて可変幅が大きいデジタル可変容量装置を構成することが知られている(例えば、特許文献1参照)。このデジタル可変容量装置は、n(≧1)個の可変容量素子が並列に接続され、かつi(i=1,2,...,n)番目の可変容量素子が0[pF]もしくは2C[pF]の2値しか取らない構成となっている。このため、並列に接続されたこれらの可変容量素子をバイナリ的に制御することにより、デジタル可変容量装置全体として0[pF]〜(2n+1−2)C[pF]の可変範囲を持ち、容量C[pF]の刻み幅をもつ可変容量装置を得ることができる。
【0004】
デジタル可変容量素子では、電極間の距離をアクチュエータにより2値的に変化させることにより、0[pF]と2C[pF](i=1,2,...,n)の2値を持つ可変容量をつくる。アクチュエータとしては静電型、熱型、電磁型、圧電型などが知られている。このようなデジタル可変容量素子において、性能を上げるための重要なポイントは次の二つである:
1) 抵抗が小さい(Q値が大きい)
2) 容量比が大きい
【0005】
ここで、容量比とは、電極間の距離が最小のとき容量値(以下、Cmaxという)と電極間の距離が最大のときの容量値(以下、Cminという)の比Cmax/Cminのことである。電極間の距離を十分大きくできれば容量値Cminを0[pF]に近づけることができるが、MEMS技術を用いて作成した通常のデジタル可変容量素子では電極間の距離は高々数μm程度にしかできない。このため、従来のデジタル可変容量素子では数十の容量比しか実現できない。容量比が小さいと、特許文献1に記載のようにデジタル可変容量素子を並列に並べた場合に、Cminの寄与が効き、可変幅が大きくできないという問題が生じる。
【特許文献1】米国特許第6,593,672号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、Q値が大きくかつ可変比の大きい可変容量素子および可変容量装置ならびにこの可変容量装置を用いた携帯電話を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様による可変容量素子は、基板に間隔をおいて固定された第1および第2電極と、可動電極と、前記基板上に設けられた支持部上に支持され、前記可動電極を駆動するアクチュエータと、を備え、前記可動電極は、前記アクチュエータによって駆動されたときは前記第2電極と電気的接触の状態となり、駆動されないときには前記第2電極と電気的非接触の状態となり、前記可動電極は前記第1電極と常に電気的に非接触の状態にあるように構成されたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の第2の態様による可変容量装置は、上記記載の可変容量素子が複数個並列に接続されていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の第3の態様による携帯電話は、上記記載の可変容量装置を有する整合回路を備えたこととを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、容量比が大きくQ値の大きな可変容量素子および可変容量装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態を説明する。
【0012】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による可変容量素子を図1乃至図4を参照して説明する。図1は本実施形態による可変容量素子の上面図、図2は図1に示す切断線A−Aで切断したときの断面図、図3は図1に示す切断線B−Bで切断したときの断面図である。
【0013】
本実施形態の可変容量素子は、基板8上にそれぞれの端部が所定の間隔30をおいて配置された第1および第2電極1、2を備えている。第1電極1の端部を含む基板8と反対側の表面領域には絶縁膜6が設けられ、第2電極2の端部を含む基板と反対側の表面領域には接触電極4が設けられている。第1および第2電極1、2との間の間隔30上に、接触電極4および絶縁膜6の少なくとも一部分と上面から見たときにオーバーラップするように、接触電極5および浮遊電極3からなる積層体が設けられている。浮遊電極3は基板8から遠い側に、接触電極5は基板8に近い側に設けられている。接触電極5および浮遊電極3の積層体は、基板8上に指示部3を介して設けられた圧電型アクチュエータ14によって駆動される。圧電型アクチュエータ14は圧電膜11と、この圧電膜11の上面に設けられた上部電極10と、圧電膜11の下面に設けられた下部電極12との積層体からなっている。圧電型アクチュエータ14は、その下面および上面に絶縁膜7が設けられているとともに、接触電極5および浮遊電極3の積層体との間に絶縁膜7が設けられた構成となっている。また、接触電極5および浮遊電極3の積層体の上面および側面にも絶縁膜7が設けられている。圧電型アクチュエータ14と、接触電極5および浮遊電極3の積層体とは片持ち梁を構成し、接触電極5および浮遊電極3からなる積層体は可動電極となる。この片持ち梁は第1および第2電極1、2が延在する方向とほぼ直交する方向に延在している。なお、例えば、第1および第2電極1,2の厚さは500nm程度であり、第1および第2電極1,2間の間隔30は10μm程度である。
【0014】
次に、本実施形態の可変容量素子の動作を説明する。
【0015】
本実施形態では、アクチュエータとして圧電型アクチュエータ14を採用している。図3に示すように圧電膜11の上下に上部電極10、下部電極12を設け、両電極に電位差をかけることにより、圧電型アクチュエータ14を駆動することができる。圧電膜11としてはAlN、PZTなどが用いられる。
【0016】
また、浮遊電極3は電気的にフローティングになっており、アクチュエータ14を駆動することにより上下に動かすことができる。浮遊電極3が圧電型アクチュエータ14によって駆動されないで変位しない状態を図2に示し、圧電型アクチュエータ14によって駆動されて基板8側に変位した状態を図4に示す。浮遊電極3が変位した状態では、浮遊電極3と電気的に接続された接触電極5が接触電極4と接し、電気的に短絡された状態となるとともに、接触電極5が絶縁膜6と接する。このため第1電極1と第2電極2が、絶縁膜6からなる容量を介して接続された状態になる。
【0017】
一方、浮遊電極3が変位しない状態では、第1電極1と浮遊電極3の間に、絶縁膜6からなる容量と、絶縁膜6と接触電極5の間の空間が形成する容量とが、直列に接続された状態となる。また、第2電極2と浮遊電極3の間には、接触電極4と接触電極5の間の空間が形成する容量が挿入された状態となる。したがって、浮遊電極3が変位しない状態では、第1電極1と第2電極2の間に、合計三つの容量が直列に接続された状態となる。
【0018】
浮遊電極3が変位しない状態において、絶縁膜6と接触電極5の間の距離をd1、接触電極4と接触電極5の間の距離をd2、第1電極1と浮遊電極3のオーバーラップ面積をS1、接触電極4と浮遊電極3のオーバーラップ面積をS2、絶縁膜6の比誘電率をε、絶縁膜6の厚さをt1とすると、容量比(=Cmax/Cmin)は、
【数1】

となる。従来の可変容量素子では電極間の距離で容量比が決定されていたが、上述の式からわかるように、本実施形態の可変容量素子ではオーバーラップ面積の比S1/S2も容量比に効いている。したがって、浮遊電極3の変位量が従来の可変容量素子と同程度であっても、面積比S1/S2を大きくすることにより、容量比をさらに大きくすることができる。
【0019】
また、浮遊電極3が変位した状態では第2電極2から絶縁膜6にいたる距離が短く低抵抗にできる。このため損失抵抗が小さくQ値の大きな可変容量素子を得ることができる。
【0020】
本実施形態において、第1および第2電極1,2ならびに浮遊電極3には抵抗の小さい金属、例えばAlを使用することが好ましい。また、接触電極4、5にはAuやPtのような、空気に触れても導電性を失わない金属を使用することが好ましい。なお、抵抗が小さければ第1および第2電極1,2ならびに浮遊電極3に空気に触れても導電性を失わない金属を用いてもよい。絶縁膜6としては比誘電率εの大きな絶縁膜材料、例えばSiN、AlN、Al等を使用することが好ましい。
【0021】
以上説明したように、本実施形態によれば、容量比が大きくQ値の大きな可変容量素子および可変容量装置を得ることができる。
【0022】
なお、可変容量素子の構造としては、図23乃至図25に示す構成を採用しても良い。この変形例では、第1実施形態の第1および第2配線1,2に相当する部分がグランド配線2a−シグナル配線1a−グランド配線2bのコプレーナ配線で構成されている。この変形例の可変容量素子の動作原理および効果は第1実施形態の場合と同様である。
【0023】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態による可変容量素子を図5および図6を参照して説明する。図5は本実施形態の可変容量素子の上面図、図6は図5に示す切断線B−Bで切断したときの断面図である。本実施形態の可変容量素子は、第1実施形態の可変容量素子において、片持ち梁を構成している圧電型アクチュエータ14を、浮遊電極3および接触電極5の積層体の両側に設けられた圧電型アクチュエータ14A、14Bに置き換えた構成となっている。圧電型アクチュエータ14Aは基板8上に設けられた支持部13Aによって、圧電型アクチュエータ14Bは基板上に設けられた支持部13Bによって支持されている。圧電型アクチュエータ14A、14Bはそれぞれ、圧電膜11と、この圧電膜11の上面に設けられた上部電極10と、圧電膜11の下面に設けられた下部電極12との積層体からなっている。圧電型アクチュエータ14A、14Bはそれぞれ、その下面および上面に絶縁膜7が設けられているとともに、接触電極5および浮遊電極3の積層体との間に絶縁膜7が設けられた構成となっている。したがって、圧電型アクチュエータ14A、14Bと、接触電極5および浮遊電極3の積層体とは両持ち梁を構成する。すなわち、圧電型アクチュエータ14A、14Bを駆動することにより、接触電極5および浮遊電極3からなる積層体は基板8側に変位する。なお、第1実施形態と同様に、接触電極5および浮遊電極3の積層体は、第1および第2電極1、2との間の間隔30上に、接触電極4および絶縁膜6の少なくとも一部分と上面から見たときにオーバーラップするように配置された構成となっている。
【0024】
この実施形態も第1実施形態と同様に、容量比が大きくQ値の大きな可変容量素子および可変容量装置を得ることができる。
【0025】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態による可変容量素子を図7乃至図9を参照して説明する。図7は本実施形態による可変容量素子の上面図、図8は図7に示す切断線A−Aで切断したときの断面図、図9は図7に示す切断線B−Bで切断したときの断面図である。
【0026】
本実施形態の可変容量素子は、第1実施形態の可変容量素子において、圧電型アクチュエータ14を静電型アクチュエータ15に置き換えた構成となっている。静電型アクチュエータ15は、駆動電極16、17と、引き出し電極16aとを備えている。
【0027】
駆動電極17は基板8上に設けられ、引き出し電極16aは駆動電極16上に設けられ、駆動電極16と電気的に接続する。静電型アクチュエータ15は、その下面および上面に絶縁膜7が設けられているとともに、接触電極5および浮遊電極3からなる積層体との間に絶縁膜7が設けられた構成となっている。
【0028】
静電型アクチュエータ15の、接触電極5および浮遊電極3からなる積層体と接続する側とは反対側の端部は基板8上に設けられた支持部13によって支持されている。したがって、静電型アクチュエータ15と、接触電極5および浮遊電極3からなる積層体とは片持ち梁を構成する。静電型アクチュエータ15は、駆動電極16、17の間に20V以上の電位差をかけることにより、静電型アクチュエータ15の、接触電極5および浮遊電極3からなる積層体との接続部が基板8側に変位し、接触電極5と接触電極4および絶縁膜6とが接触する。このとき、駆動電極16、17間の電位差を0Vにすると、梁が持つばねの力により、静電型アクチュエータ15の、接触電極5および浮遊電極3からなる積層体との接続部が元の位置(水平位置)に戻るように変位する。すなわち、静電アクチュエータ15を駆動することにより、接触電極5および浮遊電極3からなる積層体は基板8側に変位する。なお、第1実施形態と同様に、接触電極5および浮遊電極3からなる積層体は、第1および第2電極1、2との間の間隔30上に、接触電極4および絶縁膜6の少なくとも一部分と上面から見たときにオーバーラップするように配置された構成となっている。
【0029】
この実施形態も第1実施形態と同様に、容量比が大きくQ値の大きな可変容量素子および可変容量装置を得ることができる。
【0030】
なお、本実施形態ではアクチュエータは静電型であったが、熱型、電磁型を採用してもよい。また、静電型、熱型、電磁型のアクチュエータを第2実施形態と同様の両もち梁構造に用いてもよい。
【0031】
なお、第1乃至第3実施形態においては、絶縁膜6や接触電極4の加工は、リソグラフィやリフトオフにより行なう。図10に示すように、絶縁膜6が第1および第2電極1,2の上部を覆っていてもよい。この場合、接触電極4は絶縁膜6よりも膜厚が厚くなるように形成される。したがって、接触電極5および浮遊電極3からなる積層体が基板8側に変位したときに、接触電極5は接触電極4と接触するが絶縁膜6とは接触しない構造となっている。
【0032】
第1乃至第3実施形態では、接触電極5と絶縁膜6が直接接触する構造になっている。このようなMEMS可変容量素子では、絶縁膜6に電極5が接触した状態で大きな電界がかかると、絶縁膜6中に電荷がトラップされ、容量値の変化やプルアウト電圧のシフトといった信頼性上の問題が起こることが知られている。この問題は、図10に示す変形例によって回避することができる。上記問題を回避する他の例を第4実施形態として説明する。
【0033】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態による可変容量素子を図11乃至図13を参照して説明する。図11は本実施形態による可変容量素子の上面図、図12は図11に示す切断線A−Aで切断したときの断面図、図13は図11に示す切断線B−Bで切断したときの断面図である。
【0034】
本実施形態の可変容量素子は、第1実施形態の可変容量素子において、圧電型アクチュエータ14によって駆動されて接触電極5および浮遊電極3からなる積層体が基板8側に変位したときに接触電極5が絶縁膜6と接触しないように、接触電極5および浮遊電極3からなる積層体の、第1および第2電極1、2の延在する方向と直交する方向の幅が電極1の幅よりも狭くなるように設けられているとともに、絶縁膜6が上面からみたときに接触電極5および浮遊電極3からなる積層体とオーバーラップしないように第1電極1上に設けられた構成となっている。なお、接触電極5および浮遊電極3からなる積層体が基板8側に変位したときには、接触電極5は第2電極2上に設けられた接触電極と接触するように構成されている。
【0035】
本実施形態において、浮遊電極3が基板9側に変位して接触電極5が接触電極4と接触した際には、接触電極5と第1電極1との間に隙間ができる。この隙間が形成する容量がCmaxとなる。上記隙間の高さをd3とすると、容量比は
【数2】

となる。ここで、d2は接触電極4と接触電極5の間の距離、S1は第1電極1と浮遊電極3のオーバーラップ面積、S2は接触電極4と浮遊電極3のオーバーラップ面積、εは絶縁膜6の比誘電率、t1は絶縁膜6の厚さである。上記隙間の部分は比誘電率が1であるため、第1実施形態に比べると若干容量比が小さい。しかし絶縁膜6が浮遊電極3と直接接触しないため、上記信頼性上の問題を回避できる。
【0036】
本実施形態における絶縁膜6の役割は隙間を確保することであり、容量値には寄与していない。したがって、図10に示すように、浮遊電極3と絶縁膜6の間にオーバーラップがない場合は、絶縁膜6を接触電極4と同じ導電性の材料に置き換えてもよい。
【0037】
また、第1乃至第4実施形態において、接触電極4を第2電極2と同じ材料で形成して、接触電極4を第2電極2と一体化してもよい。この場合、第2電極2と第1電極1とは膜厚が異なることになる。
【0038】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態による可変容量素子を図14乃至図16を参照して説明する。図14は本実施形態による可変容量素子の上面図、図15は図14に示す切断線A−Aで切断したときの断面図、図16は図14に示す切断線B−Bで切断したときの断面図である。
【0039】
本実施形態の可変容量素子は、第1実施形態の可変容量素子において、絶縁膜6上に浮遊電極19を設けるとともに、接触電極4と第2電極2との間に絶縁体からなる中間層22を設けた構成となっている。なお、図15に示すように、第2電極2と接触電極4とは電気的に接続されている。浮遊電極3、19のオーバーラップ面積Sは、浮遊電極19と絶縁膜6のオーバーラップ面積Sに比べて小さく設定されている。アクチュエータ14により浮遊電極3が基板8側に変位すると、浮遊電極19と接触電極4が接触電極5を介して短絡される。したがってこの状態で第1および第2電極1,2は、絶縁膜6が形成する容量を介してつながった形になる。なお、中間層22は絶縁体ではなく、導電性の材料、例えば第2電極と同じ材料で形成してもよい。
【0040】
浮遊電極3が上がった状態(アクチュエータ14によって駆動されない状態)において、接触電極5と浮遊電極19の間の距離をd1、接触電極5と接触電極4との間の距離をd2、浮遊電極3と接触電極4とのオーバーラップ面積をS2、絶縁膜6の比誘電率をε、絶縁膜6の厚さをt1とすると、容量比は
【数3】

となる。第1実施形態と比較すると、(S/S)の分だけ容量比がさらに大きくなっている。浮遊電極19に相当する電極を設け、(S/S)の分だけ容量比を大きくする可変容量素子の構造は既に知られている(例えば、X. Rottenberg, et al,”Novel RF-MEMS capacitive switching structures”,EUMC2002, 24-26 September 2002, Milan、参照)。
【0041】
本実施形態の可変容量素子の容量比を上記論文の可変容量素子の容量比と比較すると、浮遊電極3の効果である(S/S2)の分だけ本実施形態の方が容量比が大きい。また上記論文の可変容量素子では上部電極がブリッジ状の形状をしているため、上部電極に至るまでの配線抵抗が大きく、Q値を十分大きくできない。これに対し本実施形態では、浮遊電極3が下がった状態では第2電極2から絶縁膜6にいたる距離が短く低抵抗にできるため、Q値の大きな可変容量素子を得ることができる。
【0042】
以上説明したように、本実施形態によれば、第1実施形態に比べて容量比が大きく高Q値の可変容量素子を得ることができる。
【0043】
なお、第4および第5実施形態においては、アクチュエータは圧電型であったが、静電型、熱型、電磁型のアクチュエータを用いてもよい。
【0044】
また、第4および第5実施形態においては、接触電極5および浮遊電極3からなる積層体とアクチュエータは片持ち梁を構成していたが、第2実施形態のように、両持ち梁を構成するようにしてもよい。
【0045】
第1乃至第5実施形態のいずれかの可変容量素子を複数個並列に接続することにより、デジタル可変容量装置を構成することができる。このデジタル可変容量装置は、例えば、地上デジタル放送が視聴可能な携帯電話のアンテナ整合回路に使用することができる。以下、携帯電話にデジタル可変容量装置を搭載したシステムを以下の実施形態で説明する。
【0046】
(第6実施形態)
本発明の第6実施形態による携帯電話を図17乃至図20を参照して説明する。本実施形態の携帯電話は地上デジタル放送視聴機能を搭載しており、図17に本実施形態の携帯電話のブロック図を示す。
【0047】
本実施形態の携帯電話は、受信アンテナ50、90と、整合回路装置60と、フロントエンド装置70と、バックエンド装置80とを備えている。デコーダ82、ベースバンド84、およびコントローラ86を有するバックエンド装置80は従来の携帯電話に備わっている。地上デジタル放送受信専用アンテナ50と、整合回路装置60と、チューナ72およびOFDM(Orthogonal Frequency Division Mutiplexing)復調LSI74からなるフロント装置70とが地上デジタル放送視聴のために新規に追加された装置である。
【0048】
整合回路装置60は、整合回路62とドライバ64とを備えており、アンテナ50の不整合損による狭帯域化を防ぐ役割をもっている。以下この点をより詳しく説明する。
【0049】
地上デジタル放送は周波数470MHz〜770MHz(波長63cm〜39cm)のUHF帯の電波を用いて放送される。電波の波長が長いため、ダイポールアンテナでこの地上デジタル放送を受信しようとすると、約15cmのアンテナ長さが必要となる。しかし、近年の携帯電話ではデザイン性がとくに重視されるため、アンテナの長さは極力短いことが望ましい。より好ましくは、携帯電話の筐体内にアンテナを内蔵させることが望ましい。
【0050】
しかし、アンテナを単に小型化すると帯域が狭くなり、周波数470MHz〜770MHzのすべてを受信できなくなる。この問題を回避するには、整合回路を設けて見たい番組に応じて整合周波数を変化させればよい。整合回路は例えば可変容量装置により構成し、この可変容量装置の容量値を変化させることにより整合周波数を変えればよい。
【0051】
アンテナを小型化した場合のもうひとつの問題点は、アンテナ効率の低下である。アンテナ効率はアンテナ自身の放射抵抗と、アンテナから受信回路に至るまでの損失抵抗とで決まり、
アンテナ効率=放射抵抗/(放射抵抗+損失抵抗)
と表される。アンテナを小型化すると放射抵抗が小さくなるため、損失抵抗が小さくならない限りアンテナ効率が低下する。例えば、整合回路の可変容量としてPINダイオードを採用すると、損失抵抗が大きいためアンテナ効率が低下してしまう。これに対し、MEMSは損失抵抗が小さく、1Ω以下に抑えることも可能である。したがって整合回路部にMEMS可変容量を採用すれば、小型アンテナを実現することができる。携帯電話の筐体内にアンテナを内蔵することも可能となる。
【0052】
本実施形態においては、図17に示すように、整合回路装置60はドライバ64と整合回路62とを備えている。整合回路62は可変容量装置で構成されている。コントローラ86から出力された選局情報ISはドライバ64に入力され、容量値選択信号SQに変換されたのち整合回路62に入力される。
【0053】
ドライバ64の第1の具体例を図18に示す。選局情報ISはバイナリの信号形態で、例えばICバスを介してドライバ64に入力される。このバイナリ信号はドライバ64内のデコーダ64aでデコードされる。図18に示すデコード信号S1、...、Snがデコードされた信号である。デコード信号Si(i=1,...,n)が活性化される(例えば”High”/”Low”のうちの”High”状態になる)と、i番目のヒューズデータfiが容量値選択信号SQとして出力され、整合回路62に入力される。このようにして、選局情報ISに応じて整合回路62の容量値が変化し、選局された放送局の周波数帯にアンテナ50の整合がとれた状態にできる。
【0054】
容量値選択信号SQとしてヒューズデータを使用するのは、MEMS可変容量素子の容量値ばらつきや、整合回路62の寄生容量の効果を補正するためである。ヒューズデータはテスト工程において次のように決定する。まず、図18に示すテスト回路64bから容量値選択信号SQを出力し、整合回路62の容量値が最小の値から最大の値にいたるまで、1ステップずつ変化するようにする。この際の整合回路62の容量値をテスターでモニタする。ついでこのモニタ値に応じて、選局情報ISに応じた容量値が実現できるよう、ドライバ64内のヒューズデータを決定していく。ヒューズデータの決定は、たとえばレーザーブローにより行なう。
【0055】
可変容量素子の容量値ばらつきや整合回路62の寄生効果が十分小さく、補正の必要がない場合は、図19に示すようにテスト回路を無くしヒューズを不揮発性メモリ例えば、読み取り専用メモリ(ROM)RO1〜ROnで置き換えても良い。
【0056】
整合回路62の可変容量装置は図20に示すように構成する。可変容量素子100、...、100はアクチュエータによりデジタル的に(2値的に)容量値を変化させることができるMEMS可変容量素子である。ポート120はアンテナ、ポート130は接地に接続する。整合回路62のレイアウトは、例えば、図21に示すようになる。可変容量素子100(j=1,2,3,4)は、各々が2j−1Cもしくは0の容量値が実現できるデジタル可変容量素子であって第1乃至第5実施形態のいずれかの可変容量素子が用いられている。可変容量素子100の第1および第2電極の一方、可変容量素子100の第1および第2電極の一方、可変容量素子100の第1および第2電極の一方、および可変容量素子100の第1および第2電極の一方とが配線部122によってポート120に接続される。また、可変容量素子100の第1および第2電極の他方、可変容量素子100の第1および第2電極の他方、可変容量素子100の第1および第2電極の他方、および可変容量素子100の第1および第2電極の他方とが配線部128によってポート130に接続される。このように容量値をバイナリ的に割り振ることにより、4個のデジタル可変容量素子で16通りに容量値を変化させることができる。デジタル可変容量素子の数は4以外であってもよい。
【0057】
また、整合回路62の可変容量装置としては図22に示すように、実現できる容量値が相等しいデジタル可変容量素子101〜101を並列に並べたものを採用しても良い。図22においては、可変容量素子101の第1および第2電極の一方、可変容量素子101の第1および第2電極の一方、可変容量素子101の第1および第2電極の一方、および可変容量素子101の第1および第2電極の一方とが配線部122によってポート120に接続される。また、可変容量素子101の第1および第2電極の他方、可変容量素子101の第1および第2電極の他方、可変容量素子101の第1および第2電極の他方、および可変容量素子101の第1および第2電極の他方とが配線部128によってポート130に接続される。
【0058】
なお、第1乃至第5実施形態の可変容量素子を有する可変容量装置は、アンテナ整合回路以外の回路、例えばVCOにも使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1実施形態による可変容量素子の上面図。
【図2】第1実施形態による可変容量素子の、図1に示す切断線A−Aで切断したときの断面図。
【図3】第1実施形態による可変容量素子の、図1に示す切断線B−Bで切断したときの断面図。
【図4】第1実施形態による可変容量素子の、アクチュエータが変位したときの図1に示す切断線B−Bで切断したときの断面図。
【図5】本発明の第2実施形態による可変容量素子の上面図。
【図6】第2実施形態による可変容量素子の、図5に示す切断線B−Bで切断したときの断面図。
【図7】本発明の第3実施形態による可変容量素子の上面図。
【図8】第3実施形態による可変容量素子の、図7に示す切断線A−Aで切断したときの断面図。
【図9】第3実施形態による可変容量素子の、図7に示す切断線B−Bで切断したときの断面図。
【図10】第1乃至第3実施形態による可変容量素子の変形例の断面図。
【図11】本発明の第4実施形態による可変容量素子の上面図。
【図12】第4実施形態による可変容量素子の、図11に示す切断線A−Aで切断したときの断面図。
【図13】第4実施形態による可変容量素子の、図11に示す切断線B−Bで切断したときの断面図。
【図14】本発明の第5実施形態による可変容量素子の上面図。
【図15】第5実施形態による可変容量素子の、図14に示す切断線A−Aで切断したときの断面図。
【図16】第5実施形態による可変容量素子の、図14に示す切断線B−Bで切断したときの断面図。
【図17】本発明の第6実施形態による携帯電話を示すブロック図。
【図18】第6実施形態に係る整合回路装置の一具体例を示すブロック図。
【図19】第6実施形態に係る整合回路装置の他の具体例を示すブロック図。
【図20】第6実施形態に係る整合回路の一具体例を示すブロック図。
【図21】第6実施形態に係る整合回路のレイアウトの一具体例を示す図。
【図22】第6実施形態に係る整合回路のレイアウトの他の具体例を示す図。
【図23】本発明の第1実施形態の変形例による可変容量素子の上面図。
【図24】第1実施形態の変形例による可変容量素子の、図23に示す切断線A−Aで切断したときの断面図。
【図25】第1実施形態の変形例による可変容量素子の、図23に示す切断線B−Bで切断したときの断面図。
【符号の説明】
【0060】
1 第1電極
2 第2電極
3 浮遊電極
4 接触電極
5 接触電極
6 絶縁膜
7 絶縁膜
8 基板
10 上部電極
11 圧電膜
12 下部電極
13 支持部
14 圧電アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に間隔をおいて固定された第1および第2電極と、
可動電極と、
前記基板上に設けられた支持部上に支持され、前記可動電極を駆動するアクチュエータと、
を備え、
前記可動電極は、前記アクチュエータによって駆動されたときは前記第2電極と電気的接触の状態となり、駆動されないときには前記第2電極と電気的非接触の状態となり、
前記可動電極は前記第1電極と常に電気的に非接触の状態にあるように構成されたことを特徴とする可変容量素子。
【請求項2】
前記第1電極の表面が絶縁膜で覆われていることを特徴とする請求項1記載の可変容量素子。
【請求項3】
前記第1電極の膜厚が前記第2電極の膜厚よりも薄いことを特徴とする請求項1または2記載の可変容量素子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の可変容量素子が複数個並列に接続されていることを特徴とする可変容量装置。
【請求項5】
請求項4記載の可変容量装置を有する整合回路を備えたこととを特徴とする携帯電話。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate


【公開番号】特開2006−261480(P2006−261480A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−78518(P2005−78518)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)