説明

可撓性記録媒体の正逆両方向搬送機構

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、可撓性記録媒体を正逆両方向に搬送する搬送機構に関するものである。
【0002】
【従来の技術】可撓性記録媒体の一例である航空搭乗券を処理するカードリーダでは、駆動ベルトと従動ベルトの搬送面で上記航空搭乗券を挟持して一方向に平面搬送して、様々なカード処理を行なっている。両者の搬送面は、普通、同じ摩擦係数とされている。ところで、カードリーダには、小型化や処理時間の短縮が求められており、このような要求を満たす一例として、航空搭乗券を正逆両方向に往復させて処理し、搬送路を短縮することが考えられるが、このように装置の小型化や処理時間の短縮を図る場合、装置内部のレイアウトが複雑になってしまうので搬送路を湾曲させている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、摩擦係数が同じ駆動ベルトの搬送面と従動ベルトの搬送面で航空搭乗券を挟持して湾曲した搬送路内を正逆両方向に往復搬送すると、正方向搬送時と逆方向搬送時において航空搭乗券の搬送速度が異なり、航空搭乗券の処理が正確に行なえないという問題が発生した。これは、次のことが要因と考えられる。例えば、図4に示すように、回転駆動する直径Eの駆動ローラF1に巻かれた厚さtで媒体搬送面よりaなる位置にベルトピッチラインPをもつベルトにおいて、図4におけるX点での搬送面速度をSとすると、駆動ローラF1に巻かれた駆動ベルトF2の符号Pで示すピッチラインのx1点での搬送速度は、 S×{E+2(t−a)}/(E+2t)・・・・・・・・・・・・(1)
から求められ、上記搬送面速度Sより遅い速度となる。よって、従動ローラG1部において、駆動ベルトF2のピッチラインのy1点での搬送速度が、上記式1と同じとすると、従動ローラG1部での駆動ベルトF2の搬送面速度は、 (1)×(従動ローラG1の直径e+2t)/(e+2t+2a)・(2)
となり、式1で求められた搬送速度よりも更に遅い速度となる。同様にして従動ベルトG2のX点における搬送面速度は、駆動ベルトF2の搬送面速度Sと同じとして、従動ベルトG2の駆動ローラF1部におけるピッチラインのx2点の搬送速度は、S×{E+2t+(t−a)}/(E+2t)・・・・・・・・・・(3)から求められ、搬送面速度Sより若干速い速度となる。さらに、従動ローラG1部での従動ベルトG2の搬送面速度は、 (3)×(e+2t)/(e+2a)・・・・・・・・・・・・・・(4)
となり、(3)よりも速い速度、すなわち、(2)<(4)となる。このように、搬送路を湾曲させると、駆動ベルトF2と従動ベルトG2との間に必然的に速度差が生じることになり、航空搭乗券は、異なる速度を持った搬送面に挟持されて駆動ベルトF2と従動ベルトG2に対してそれぞれスリップしながら搬送されることになる。これらの諸要素に加えて、搬送路の湾曲状態によって正逆方向では、航空搭乗券の搬送状況は複雑に異なる様相を呈し、結果的に正逆方向で航空搭乗券の搬送速度に差異が生じるのが実体である。
【0004】このように、搬送される航空搭乗券の往復搬送時に速度差が生じると、正方向搬送時に航空搭乗券に磁気情報を読出ししたり、あるいは逆方向搬送時に磁気情報の書込みをする場合に、正確な磁気情報の読出しや書込みが行なえないこととなる。本発明の目的の第1の目的は、正搬送時における可撓性記録媒体の搬送速度と、逆搬送時における可撓性記録媒体の搬送速度との速度差を短縮できる正逆両方向搬送機構を提供することにあり、第2の目的は、その正逆両方向搬送機構をもちいて、可撓性記録媒体の正確な処理を短時間に行え、かつ、小型のカードリーダを提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】そこで、請求項1記載の発明では、駆動源によって正逆両方向に回転駆動される駆動ベルトの搬送面と、同駆動ベルトと接触して従動回転される従動ベルトの搬送面との間で可撓性記録媒体を挟持して、正逆両方向に搬送する正逆両方向搬送機構であって、上記駆動ベルトの搬送面と上記従動ベルトの搬送面の摩擦係数とを異ならせた。請求項2記載の発明では、上記駆動ベルトの搬送面の摩擦係数を、上記従動ベルトの搬送面の摩擦係数よりも大きく設定した。
【0006】
【作用】請求項1記載の発明によると、駆動ベルトの搬送面の摩擦係数と従動ベルトの搬送面の摩擦係数とを異ならせることで、両ベルトに挟持されて搬送される可撓性記録媒体が、摩擦係数の高いベルトに追従して搬送される。請求項2記載の発明によると、駆動ベルトの搬送面の摩擦係数を従動ベルトの搬送面の摩擦係数より大きく設定して、可撓性記録媒体を両搬送面で挟持して正逆両方向に搬送したところ、両搬送面の摩擦係数が同じ場合と比べて、正逆両方向での搬送速度差が著しく少なくなった。
【0007】
【実施例】先ず、本発明の正逆両方向搬送機構によって搬送される可撓性記録媒体について説明する。図3において、符号1は可撓性記録媒体の一例である航空搭乗券(以下「ATB券」と称す)を示す。このATB券1は、厚さが薄い紙材で、券の搬送方向に向かって長く作られていて、その表面には、出発地や目的地等の印字データ(図示せず)が表示されると共に、裏面の一側には、磁気記録層としての磁気ストライプ1aが券の長手方向に沿って設けられている。磁気ストライプ1aには、表面の印字データを含むデータが磁気的に記録されている。ATB券1は、ミシン目1bの部分で搭乗者に渡すパス券1Aと、回収されるクーポン券1Bとに分割可能となっており、図1に示すカードリーダ2の挿入口3から取込まれて処理が行なわれる。
【0008】カードリーダ2は、駆動源としての正逆回転可能な駆動モータ4によって矢印Cで示す正方向としての時計回り方向と矢印Dで示す逆方向としての反時計回り方向とに回転駆動される駆動ベルトユニット5と同駆動ベルトユニット5に従動回転する従動ベルトユニット6から構成される正逆両方向搬送機構K、挿入部3近傍に設けられたシャッター7と相まってATB券1の進入を規制するフラップ8、及びATB券1の磁気情報を読み書きする磁気ヘッド9を備えている。シャッター7、フラップ8、磁気ヘッド9は、挿入口3から排出口13に向かって順に配置されている。
【0009】従動ベルトユニット6では、一対のフレーム10A,10Bの間に配置された搬送ローラ6A,6Bに巻き掛けられた従動ベルト6Cが、同フレームに回転自在に支持されたローラ6D,6Eによって下方に向かって押圧されている。搬送ローラ6D,6Eの間には、磁気ヘッド9に所定のパッド圧を与えるパッドローラ15が回転自在に配置されている。駆動ベルトユニット5は、従動ベルトユニット6の下方の対向位置に、駆動軸11と支持軸12によってフレーム10A,10Bに支持され配設されている。駆動ベルトユニット5では、従動ベルト6Cと接触する駆動ベルト5Cが、駆動軸11に固定された駆動ローラ5Aと支持軸1に回転自在に支持された従動ローラ5Bとに掛け渡されている。この駆動ベルト5Cと従動ベルト6Cとの間には、フレーム10A,10Bによってその側面が形成され、挿入口3と排出口13とに連通する搬送路14が構成される。駆動軸11には、ベルトプーリ5Dが搬送路14から外れた部位に固定されている。ベルトプーリ5Dには、駆動モータ4の出力軸4aに取付けられた駆動プーリ4bに掛けられた連結ベルト4cが掛け渡されている。
【0010】磁気ヘッド9は、磁気情報の読取りと書込み機能を有するコンビネーションヘッドであって、ATB券1の磁気ストライプ1aの位置に合うように、駆動ベルト5Cとずれた位置に配置されて搬送路14内に臨んでいる。磁気ヘッド9は、搬送路14内でパッドローラ15と接触している。磁気ヘッド9は、ATB券1が矢印Aで示すカード挿入方向に搬送されるときに磁気ストライプ1aから磁気情報を読取り(リード)し、ATB券1が矢印Bで示す戻り方向に向かって搬送されるときに磁気情報の書込み(ライト)を行なうようになっている。
【0011】搬送ローラ6Aの下方には、フレーム10A,10Bに回転自在に支持された支軸16に回転可能に設けられた取込みローラ17が、ベルト6Cに圧接して設けられている。フラップ8は、駆動及び従動ベルト5C,6Cとずれた支軸16上に固定されて搬送路14内に配置されている。シャッター7は、その突端7aを搬送路14内に臨むように支軸16に固定されていて、支軸16を中心に揺動自在とされている。シャッター7とフラップ8は、図示しない電磁ソレノイドに連結していて、通常、搬送路14内に進入した位置に付勢されて挿入口3と搬送路14とを閉じ、駆動信号によって電磁ソレノイドが駆動されると搬送路14外に退避して挿入口3と搬送路14とを連通状態とするようになっている。
【0012】駆動モータ4は、ステッピングモータであって、ATB券1が挿入口3に挿入された時と、磁気情報の再読取り時に時計回り方向に回転駆動し、磁気情報の書込み時や読取り不良であると反時計回り方向に回転駆動されるように図示しない制御手段によって制御される。
【0013】駆動ベルト5Cと従動ベルト6Cとは、厚さ1mm程度のゴム製のベルトであって、互いの搬送面5Ca、搬送面6Caとを接触させており、取込みローラ17と搬送ローラ6D,6Eによってテンションが与えられている。駆動ベルトの搬送面5Caの摩擦係数は、従動ベルトの搬送面6Caの摩擦係数よりも大きく設定されている。搬送面5Caの摩擦係数は、少なくともATB券1を搬送できる程度の摩擦係数とされている。
【0014】このように構成されたカードリーダ2では、挿入口3にATB券1が挿入されると、図示しない制御手段によって駆動モータ4が起動してベルトプーリ5Dが時計回り方向に駆動されると共に、図示しないアクチュエータが駆動してシャッター7とフラップ8が搬送路14内から退避し、挿入口3と搬送路14が連通状態となる。駆動プーリ5Dが回転すると駆動軸11と共に駆動ローラ5Aが回転して駆動ベルト5Cが時計回り方向に回転し、接触する従動ベルト6Cが反時計回り方向に従動回転する。
【0015】従動ベルト6Cが従動回転すると取込ローラ17が回転して、挿入されたATB券1をベルト6Cと取込みローラ17とでカードリーダ2内に取込み、駆動ベルト5Cと従動ベルト6Cとで挟持して搬送路14内を磁気ヘッド9に向かって搬送する。この搬送中、ATB券1は、主に摩擦係数の大きい搬送面5Caに追従して搬送される。磁気ヘッド9では、搬送されたATB券1の磁気情報の読取りが行なわれ、読取りに異常(エラー)がなければ、排出口13から図示しないカッター装置を有する媒体分岐装置へ搬送される。媒体分岐装置では、カッター装置でATB券1を切断した後、切断されてパス券1Aとクーポン券1BとになったATB券1を搬送して処理する。
【0016】磁気ヘッド9での読取りエラーや磁気情報の書込みの必要が発生すると、駆動モータ4が逆回転してATB券1が矢印Bで示す戻り方向に磁気ヘッド9上を通過するまで搬送される。この逆搬送が磁気ヘッド9での読取りエラーによって行なわれると、ATB券1が磁気ヘッド9を通過した時点で駆動モータ4が再度正回転されて同ATB券1をカード挿入方向に搬送し、磁気ヘッド9によって再読取り(リトライ)して排出口13に向かって搬送する。
【0017】ATB券1に磁気情報の書込みが必要な場合には、ATB券1の逆搬送時に磁気ヘッド9によって更新される磁気情報が磁気ストライプ1aに書込まれて、書込みが終了すると駆動モータ4が正回転して磁気ヘッド9で更新磁気情報を読込む。ここで読込みエラーがなければ排出口13に搬送し、読込エラーが発生すると、再度、駆動モータ4を逆回転してATB券1を一旦磁気ヘッド9よりも挿入口3側に搬送し、その後再度駆動モータ4を正回転させてATB券1を磁気ヘッド9に向かって搬送して再読取り(リトライ)する。再読取りでエラーがなければ、排出口13に向かって搬送される。
【0018】このような構成の正逆両方向搬送機構Kによって搬送されるATB券1の正逆搬送時の搬送速度を磁気ヘッド9上で測定したところ、図2に示す結果が得られた。図2は、正搬送時と逆搬送時におけるATB券1の速度差を示すもので、縦軸はATB券1の相対速度(%)示し、横軸はベルトの組合せを示す。本実施例のように駆動ベルト5Cの搬送面5Caの摩擦係数を従動ベルト6Cの搬送面6Caの摩擦係数よりも大きく設定した場合、正方向搬送時ではATB券1の相対速度が0.1%で、逆方向搬送時ではATB券1の相対速度が0%と、正逆両方向の相対速度にほとんど差がない。一方、従来のように、駆動ベルト5Cの搬送面5Caの摩擦係数と従動ベルト6Cの搬送面6Caの摩擦係数とを同じにした場合のATB券1の相対速度は、正方向搬送時で2.8%、逆方向搬送時では−0.9%で、正、逆搬送時において相対速度に3.7%程度の差がある。ここでの相対速度とは、ATB券1の搬送基準速度に対するATB券1の実際の搬送速度をいう。
【0019】このように、正逆両方向搬送機構Kの少なくとも駆動ベルト5Cと従動ベルト6Cの搬送面5Ca,6Caとの摩擦係数を異ならせる、好ましくは、搬送面5Caの摩擦係数を搬送面6Caの摩擦係数よりも大きくすることで、正方向搬送と逆方向搬送時におけるATB券1の相対速度を略等しくできるので、搬送されるATB券1の搬送速度が、矢印Aで示すカード挿入方向への搬送時と、矢印Bで示す戻り方向への搬送時において安定する。従って、磁気ヘッド9による磁気情報の読取りや書込みが正確、かつ安定して行なうことができる。なお、本実施例では、可撓性記録媒体としてATB券1を用いたが、これに限定されるものではなく、例えば、テレホンカード等のような可撓性記録媒体であっても良い。この場合であってもATB券1と同様の効果を得ることができる。
【0020】
【発明の効果】本発明によれば、駆動ベルトの搬送面と従動ベルトの搬送面との摩擦係数が異なることで、特に駆動ベルトの搬送面の摩擦係数を、従動ベルトの搬送面の摩擦係数よりも大きく設定することで、駆動ベルトと搬送ベルトの相対速度を、正方向搬送時と逆搬送搬送時において略等しくでき、正逆両方向への可撓性記録媒体を搬送を安定して行なうことができる。さらに、このように正逆両方向搬送機構をカードリーダに用いた場合、搬送路が湾曲していても可撓性記録媒体への情報の読取りや書込みを正確に行なえるので、カードリーダの小型化を図りながら媒体処理時間を短縮することできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示す正逆両方向搬送機構の構成を示す側面図である。
【図2】本発明の正逆両方向搬送機構における駆動ベルトと従動ベルトの、正方向回転時と逆方向回転時の相対速度を示すグラフである。
【図3】可撓性記録媒体の一例を示す平面図である
【図4】駆動ベルトと従動ベルトの速度差を説明する側面図である。
【符号の説明】
1 可撓性記録媒体(ATB券)
4 駆動源(駆動モータ)
5C 駆動ベルト
5Ca 駆動ベルトの搬送面
6C 従動ベルト
6Ca 従動ベルトの搬送面
C 正方向の回転
D 逆方向の回転
K 正逆両方向搬送機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】可撓性記録媒体を、駆動源によって正逆両方向に回転駆動される駆動ベルトの搬送面と、同駆動ベルトと接触して従動回転される従動ベルトの搬送面との間で挟持し、正逆両方向に搬送する可撓性記録媒体の正逆両方向搬送機構であって、上記駆動ベルトの搬送面と上記従動ベルトの搬送面との摩擦係数が異なることを特徴とする可撓性記録媒体の正逆両方向搬送機構。
【請求項2】上記駆動ベルトの搬送面の摩擦係数を、上記従動ベルトの搬送面の摩擦係数よりも大きく設定したことを特徴とする請求項1記載の可撓性記録媒体の正逆両方向搬送機構。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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【特許番号】特許第3249018号(P3249018)
【登録日】平成13年11月9日(2001.11.9)
【発行日】平成14年1月21日(2002.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−260735
【出願日】平成6年10月25日(1994.10.25)
【公開番号】特開平8−124290
【公開日】平成8年5月17日(1996.5.17)
【審査請求日】平成10年5月13日(1998.5.13)
【出願人】(000002233)株式会社三協精機製作所 (1,337)
【参考文献】
【文献】特開 昭63−37049(JP,A)