説明

可染性ポリプロピレン樹脂組成物及びこれを用いた繊維・不織布

【課題】 ポリプロピレン繊維に、優れた染色性を容易に付与し、それから得られる染色繊維の耐洗浄性、耐候性をも向上させる新規なポリプロピレン樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 下記成分(A)〜(C):
(A)ポリプロピレン系樹脂 85〜95質量%、
(B)エチレンビニルアセテート(EVA) 3〜9質量%、及び
(C)ポリエーテルエステルアミド系化合物 2〜6質量%
を溶融ブレンドしてなるポリプロピレン樹脂組成物であって、
成分(B)エチレンビニルアセテートの酢酸ビニル含量が、20質量%以上40質量%以下であり、かつ、メルトフローレートが、10g/10分以上40g/10分以下であることを特徴とするポリプロピレン樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリプロピレン系の組成物から形成された、優れた染色性を示す繊維材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンは、安価で、機械的物性、紡糸性が比較的良好であることから繊維用途において広く使用されている。不織布等の繊維製品は染色性若しくは着色親和性が要求されるが、ポリプロピレンは、繊維の原料としてはこれらの要求特性を完全には満足し得ないものであることが知られている。そのため、ポリプロピレンへの着色は、有機若しくは無機顔料を紡糸工程で添加した原着のみが工業的に行われている。しかし、この方法は鮮やかさ、色の豊富さ、プリント加工等に制約があり、いまだ多くの欠点を有する。
【0003】
一方、ポリプロピレンを染色するための多くの方法が提案されている。
例えば、官能基として、エポキシ基、アミド基を有する化合物でポリプロピレンを改質する方法が提案されている(例えば、特許文献1、2を参照)。しかしながら、これらの方法は、反応工程が複雑で、未反応物の除去等も必要となるため基礎研究レベルに留まり実用的利用に至っていない。
【0004】
また、実用化が容易と考えられるポリプロピレン以外の樹脂をブレンドすることによるポリプロピレンの改質も提案されている(例えば、特許文献3〜6を参照)。
【0005】
特許文献3には、EVAを含む技術が提案されているが染色性は十分でない(後記する比較例2に相当する)。
特許文献4〜6では、ポリオレフィンとポリエーテルエステルアミド系化合物との混合物が着色性を改善することを開示している。アミド化合物は、染料の発色性に寄与し、その一種であるポリエーテルエステルアミド系化合物も同様の作用を持つ。染料が鮮やかに発色することは調色を容易にすると共に意匠性の面で重要な要素である。
【0006】
しかしながら、そのポリエーテル部位がポリプロピレンの結晶性を極端に低下させ、本来ポリプロピレンが有する好ましい物性を低下させるため、大量に添加できない。また、結晶性が低下するため染色繊維から染料が脱離し易い。
染色性付与剤としてのポリエーテルエステルアミド系化合物はポリプロピレンに比べ概ね10倍以上高価な化合物でポリプロピレン繊維に求められる経済性を損なう要因となる。
【0007】
ポリエーテルエステルアミド系化合物は、弾性的な溶融特性を有するため、多量にブレンドするには、事前にポリプロピレンに溶融混練してから紡糸することが紡糸性を保つために必要で、産業的に利用価値を限定するものである(後記する比較例3に相当する)。
【0008】
特許文献7では、ポリプロピレンにコポリアミドとEVAを含む技術が提案されている。しかし、このEVA、コポリアミドでは、マルチフィラメント、スパンボンド等に用いられるメルトフローレート(MFR)の高いポリプロピレンと粘度特性が会わないため紡糸性が悪く、しかも、ポリエーテルエステルアミド系化合物のような鮮やかな発色性はこれらによっては得られない。(後記する比較例4に相当する)。
【0009】
特許文献6では、ポリエーテルエステルアミド系化合物と数種の光安定剤が用いられており、前述のポリエーテルエステルアミド系化合物の欠点である、ポリプロピレンの結晶性を極端に低下させる性質による染料の脱離を克服しやすいが、高価である等の問題は何ら改善されるものではない。
【0010】
【特許文献1】特開平7−90783号公報
【特許文献2】特許第2857115号公報
【特許文献3】特開2000−8223号公報
【特許文献4】特昭58−120812号公報
【特許文献5】特開2003−138421号公報
【特許文献6】特表2004−515658号公報
【特許文献7】WO97/47684号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、新規なポリプロピレン系の組成物により、ポリプロピレン繊維に、優れた染色性を容易に付与し、耐洗浄性、耐候性をも向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明者は鋭意研究を重ね、ポリプロピレン系樹脂にポリエーテルエステルアミド系化合物、及び特定の物性を有するエチレンビニルアセテート(EVA)を、適切な割合で溶融混合した組成物を用いることにより、これまでにない紡糸性、染色性、耐洗浄性に優れた繊維が得られることを見出した。
【0013】
上記組成物に、適量のヒンダードアミン系光安定剤及び紫外線吸収剤(UVA)を、さらに加えて溶融混合した樹脂組成物は耐候性が著しく向上することを見出した。
【0014】
ポリプロピレン系樹脂に単独でポリエーテルエステルアミド系化合物を溶融混合した樹脂組成物を用いた従来技術に比べ、エチレンビニルアセテート(EVA)を適切な割合で混合することにより、鮮やかな発色性を損なうこと無く、染色性を維持し、ポリエーテルエステルアミド系化合物の欠点である耐洗浄性を向上させると共に、その使用量も著しく削減でき、経済的に優位であることを見出した。
【0015】
本発明は上記の発見に基づいて完成されたものである。即ち、本発明は、下記のポリプロピレン樹脂組成物及びそれからなるポリプロピレン繊維・不織布を提供する。
[1]下記成分(A)〜(C):
(A)ポリプロピレン系樹脂 85〜95質量%、
(B)エチレンビニルアセテート(EVA) 3〜9質量%、及び
(C)ポリエーテルエステルアミド系化合物 2〜6質量%
を溶融ブレンドしてなるポリプロピレン樹脂組成物であって、
成分(B)エチレンビニルアセテートの酢酸ビニル含量が、20質量%以上40質量%以下であり、かつ、メルトフローレートが、10g/10分以上40g/10分以下であることを特徴とするポリプロピレン樹脂組成物。
[2]請求項1に記載のポリプロピレン樹脂組成物100質量部に対し、さらに、成分(D)及び(E):
(D)ヒンダードアミン系光安定剤 0.05〜0.5質量部、及び
(E)紫外線吸収剤 0.05〜0.5質量部
を含有する上記[1]に記載のポリプロピレン樹脂組成物。
[3]上記[1]又は[2]に記載のポリプロピレン樹脂組成物を用いた染色性ポリプロピレン繊維。
[4]上記[3]に記載の染色性ポリプロピレン繊維を用いた不織布。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ポリプロピレン系樹脂にポリエーテルエステルアミド系化合物、及び特定のエチレンビニルアセテート(EVA)を適切な割合で溶融混合した組成物は、従来技術では達成できなかった紡糸性、染色性、耐洗浄性に優れた繊維を提供することができる。
本発明によれば、適量のヒンダードアミン系光安定剤及び紫外線吸収剤をさらに溶融混合した樹脂組成物は、耐候性が著しく向上した繊維を提供することができる。
【0017】
本発明によれば、ポリプロピレン系樹脂に単独でポリエーテルエステルアミド系化合物を溶融混合した樹脂組成物を用いた従来技術に比べ、エチレンビニルアセテート(EVA)を適切な割合で混合することにより、鮮やかな発色性を損なうこと無く、染色性を維持し、ポリエーテルエステルアミド系化合物の欠点である耐洗浄性を向上させると共に、その使用量も著しく削減でき、経済的に優位に、染色性ポリプロピレン繊維・不織布を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリプロピレン樹脂組成物(以下、本発明の組成物という)は、下記成分(A)〜(C):
(A)ポリプロピレン系樹脂 85〜95質量%、
(B)エチレンビニルアセテート(EVA) 3〜9質量%、及び
(C)ポリエーテルエステルアミド系化合物 2〜6質量%
を溶融ブレンドしてなる。
そして、成分(B)エチレンビニルアセテートは、その酢酸ビニル含量が、20質量%以上40質量%以下であり、かつ、メルトフローレートが、10g/10分以上40g/10分以下であることを特徴とする。
さらに、本発明の組成物は、上記成分(A)〜(C)の合計100質量部に対し、さらに、成分(D)及び(E):
(D)ヒンダードアミン系光安定剤 0.05〜0.5質量部、及び
(E)紫外線吸収剤 0.05〜0.5質量部
を含有することが好ましい。
【0019】
以下、各成分について説明する。
(A)ポリプロピレン系樹脂
本発明の組成物に用いられるポリプロピレン系樹脂としては、特に限定されず、公知のポリプロピレンであれば、如何なる種類のものであってもよい。
このようなポリプロピレンの市販品としては、例えば、IDEMITSU PP Y−900GV、IDEMITSU PP Y−2005GP、IDEMITSU PP Y−2000GV、IDEMITSU PP Y−3002G、IDEMITSU PP Y−6005GM(いずれも出光興産(株)製)等が挙げられる。
【0020】
本発明の組成物に用いられるポリプロピレン系樹脂は、本発明の目的を損なわない範囲内で、α―オレフィンをコモノマーとするポリプロピレン共重合体であってもよい。このようなポリプロピレン共重合体の市販品としては、例えば、IDEMITSU PP Y−2043GP、IDEMITSU PP Y−2045GP(いずれも出光興産(株)製)等が挙げられる。
【0021】
(B)エチレンビニルアセテート(EVA)
本発明の組成物において、エチレンビニルアセテート(EVA)は、ポリプロピレン系樹脂に、染色性を付与する機能を果たす成分であり、下記特定の物性を有していなければならない。
【0022】
本発明の組成物で用いるエチレンビニルアセテート(EVA)の酢酸ビニル含量は、20質量%以上40質量%以下であることが必要であり、30質量%以上40質量%以下であることが好ましい。酢酸ビニル含量が20質量%未満では、染色性を付与するに十分な官能基を有さないこととなり、40質量%を超えると、結晶化し難くなるためポリプロピレンの紡糸性を損なうので好ましくない。
【0023】
エチレンビニルアセテート(EVA)のメルトフローレート(MFR)は、10g/10分以上40g/10分以下であることが必要であり、20g/10分以上40g/10分以下であることが好ましい。メルトフローレートが10g/10分未満であると、溶融粘度が高くポリプロピレンの紡糸性を悪化させる傾向にあり、40g/10分を超えると糸が過度に粘着性を示すようになるため好ましくない。
【0024】
本発明の組成物において、エチレンビニルアセテート(EVA)は1種のみをもちいてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上を組み合わせる場合には、組み合わせた2種以上のエチレンビニルアセテート(EVA)全体として、上記特性を満たすことが必要である。
【0025】
(C)ポリエーテルエステルアミド系化合物
本発明の組成物に用いられるポリエーテルエステルアミド系化合物としては、特に制限されず、合成したものでも、市販品でもよい。
本発明の組成物に用いられるポリエーテルエステルアミド系化合物の市販品としては、例えば、IRGASTAT P16、P18、P20、P22(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製;いずれも商品名)、PEBAX
MV1074(ELF−ATOCHEM社製)、ペレスタット1250、6321、300等(三洋化成社製)が挙げられる。ポリエーテルエステルアミド系化合物は、1種又は2種類以上を用いることができる。
【0026】
成分(A)、(B)及び(C)の配合割合
本発明の組成物は、上記成分(A)〜(C)を下記割合で配合したものである。
成分(A)は、85〜95質量%の範囲内で配合され、成分(A)の割合が85質量%未満では、ポリプロピレンとしての強度、耐熱性を損ない、95質量%を超えると染色性に劣る。
【0027】
成分(B)は、3〜9質量%の範囲内で配合され、好ましくは5〜7質量%の範囲内である。成分(B)の割合が3質量%未満では、染色性に劣るか、若しくは経済性の面で優位性が保てない。9質量%を超えると染色性は保持できるが、鮮やかさに劣るため好ましくない。
【0028】
成分(C)は、2〜6質量%の範囲内で配合され、好ましくは3〜5質量%の範囲内である。成分(C)の割合が2質量%未満では、染色性に劣り、鮮やかさに欠ける。6質量%を超えると染色性や鮮やかさは保持できるが、耐洗浄性が悪化すると共に、経済性の面で優位性が保てないため好ましくない。
【0029】
(B)エチレンビニルアセテート(EVA)及び(C)ポリエーテルエステルアミド系化合物をそれぞれ、上記の適切な配合割合で用いることにより、本発明の組成物に優れた紡糸性、染色性、耐洗浄性を付与することができる。
また、本発明によれば、高価な成分(C)を、わずか2〜6質量%配合すればよく、従来の染色性ポリプロピレン樹脂組成物に比べ、産業上有利である。
【0030】
(D)ヒンダードアミン系光安定剤
本発明の組成物には、必要に応じて光安定剤を添加することができる。特に、ヒンダードアミン系光安定剤と共に下記の(E)紫外線吸収剤を添加することによって、耐候性が著しく改善される。
ヒンダードアミン系光安定剤(以下、HALSということがある)としては、特に制限されないが、高分子量タイプのヒンダードアミン系光安定剤が好ましい。高分子量タイプのヒンダードアミン系光安定剤は、光、熱等による樹脂の劣化サイクルを断ち、繊維の脆化を抑制する機能を有する。
【0031】
本発明の組成物に添加することが出来る高分子量HALSの市販品としては、例えば、TINUVIN111(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製;N,N’,N’’,N’’’−テトラキス−(4,6−ビス−(ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ)−トリアジン−2−イル)−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン(45%)とコハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールの重合物(55%))、Uvinul5050H(BASF社製;立体障害アミンオリゴマー(Sterically
hindered amine Oligomer))、CHIMASSORB2020(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製;ジブチルアミン−1,3,5−トリアジン−N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物)、CHIMASSORB944(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製;ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]、CYASORB UV−3346(サイテック社製;ポリ[(6−モルフォリノ−s−トリアジン−2,4−ジイル)[2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル]イミノ]−ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ])、CYASORB UV−3346(サイテック社製;ポリ[(6−モルフォリノ−s−トリアジン−2,4−ジイル)[2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル]イミノ]−ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]]、CYASORB UV−3529(サイテック社製;1,6−ヘキサンジアミン−N,N’−ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)とモルフォリン−2,4,6−トリクロロ−1,3,5−トリアジンのメチル化重合体)、Hastavin N30(グラリアント社製;2,2,4,4−テトラメチル−7−オキサ−3,20−ジアザ−20(2,3−エポキシ−プロピル)ジスピロ−[5,1,11,2]−ヘネイコサン−21−オンの重合体)が挙げられる。
【0032】
(E)紫外線吸収剤
本発明の組成物には、必要に応じて紫外線吸収剤を添加することができる。紫外線吸収剤を、上記の(D)ヒンダードアミン系光安定剤と共に添加することによって、耐候性が著しく改善される。紫外線吸収剤は、本発明において、光(紫外線)による染料の分解を抑制し、色の退色を防止する機能を有する。
紫外線吸収剤としては、特に制限されず、種々の市販品を用いることができる。
【0033】
本発明の組成物に添加することができる紫外線吸収剤の市販品としては、例えば、TINUVIN234(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製;2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール)、Uvinul3030(BASF社製;1,3−ビス−{[(2’−シアノ−3’,3−ジフェニルアクリロイル)オキシ]−2,2−ビス−[(2−シアノ−3’,3−ジフェニルアクリロイル)オキシ]メチル}プロパン)、TINUVIN326(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製;2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−5−(tert−ブチル)フェノール)、TINUVIN329(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製;2−(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチルフェノール)、TINUVIN1577(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製;2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール)、CYASORB UV−531(サイテック社製;2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノンを挙げることができる。
【0034】
成分(D)及び(E)の配合割合
成分(D)及び(E)は、上記成分(A)〜(C)の合計100質量部に対して添加される。
成分(D)は、0.05〜0.5質量部の範囲内で添加され、好ましくは0.1〜0.3質量部の範囲内である。成分(D)の添加量が0.05質量部未満であると、繊維の耐候暴露での糸の脆化抑制に効果が十分でなく、0.5質量部を超えると、その効果に対して経済的ではなく、好ましくない。
【0035】
成分(E)は、0.05〜0.5質量部の範囲内で添加され、好ましくは0.1〜0.3質量部の範囲内である。成分(E)の添加量が0.05質量部未満であると、繊維の耐候暴露での染料の退色抑制に効果が十分なく、0.5質量部を超えると、その効果に対して経済的ではなく、好ましくない。
【0036】
(F)その他の添加剤
本発明の組成物は、ポリプロピレン系樹脂に使用されることが公知の酸化防止剤、ステアリン酸カルシウムのような脂肪酸金属塩、ハイドロタルサイト類、無機充填剤等を含んでいてもよい。
【0037】
本発明の組成物は、従来公知の方法に従って、上記成分(A)、(B)、(C)、さらに必要に応じて成分(D)及び(E)を、上記の配合割合の範囲内で溶融混合することによって製造することができる。
【0038】
次に、本発明の染色性ポリプロピレン繊維及び不織布(以下、本発明の繊維及び本発明の不織布という)について説明する。
本発明の繊維は、上記本発明のポリプロピレン樹脂組成物を、公知の溶融紡糸方法に従って繊維化することによって得られる。溶融紡糸方法は、ワインダーによるものに限らず、スパンボンド、メルトブロー等の空気による紡糸方法を用いることもできる。
【0039】
本発明の不織布は、上記本発明の繊維を用いて製造することができる。ここで、不織布とは文字通り「織らない布」をいい、編物でもなく紙・フィルムでもない、繊維同士を結合させたシートである。繊維同士を結合させる方法は特に制限されず、目的・用途に合わせて公知の適切な方法を選択すればよい。
【0040】
本発明の繊維は、本明細書の実施例に具体的に記載されている形態のポリプロピレン繊維に限らず、本発明に包含される成分の各種組合せを用い、樹脂を溶融し、細孔より押出して糸状に形成されたもの、又は、その樹脂が繊維表面の全部もしくは一部に露出している複合繊維、例えば、芯鞘構造、サイドバイサイド構造のようなものを挙げることができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明する。
実施例1
MFR=18g/10分の繊維用銘柄ポリプロピレン(出光興産(株)製;IDEMITSU PP Y−2000GV)に、染色性付与剤として、MFR=18g/10分、酢酸ビニル含量28質量%のエチレンビニルアセテート(EVA)(東ソー社製;ウルトラセン710)、ポリエーテルエステルアミド系化合物(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製;IRGASTAT
P16)を、90:6:4の割合で配合し、十分に撹拌した。この混合物を、直接φ40mm単軸押出機(田辺プラスチック社製)を使用し、孔径φ0.5mmのノズルから紡糸温度220℃、吐出0.3g/分・孔で溶融樹脂を押出し、250m/分の紡糸速度で、12dtexの糸を紡糸した。
【0042】
尚、メルトフローレート(MFR)は、JIS K 7210に準拠し、ポリプロピレンは230℃、EVAは190℃、荷重21.18Nでそれぞれ測定した。酢酸ビニル含量は、JIS
K6730に準拠して測定した。
【0043】
得られた繊維について、下記評価方法及び評価基準に従って紡糸性、染色性、耐洗浄性を評価した。結果を表1に示す。
<繊維の評価方法及び評価基準>
(1)紡糸性
実施例1で得られたポリプロピレン樹脂組成物から上記の方法で12dtexの糸を紡糸し、評価した。
【0044】
(2)染色性
紡糸した糸が採取できたものについて、染料としてポリエステル用分散染料(住化ケムテックス社製;SumikaronRedS−RPD(N))を用い、3%owf(繊維当たりの質量)、染色浴に対して0.1%の界面活性剤(花王社製「ファミリーフレッシュ」)を加え、浴比1:90の染色浴に2gの繊維サンプルを浸漬し、密閉した。容器を5℃/分で130℃まで温度を上げ、続いて130℃に維持し、1時間保持した。この時の容器の内圧は約2kg/cmであった。その後、最大冷却したのち、容器から糸を取り出した。染色糸を十分に水洗し、室温で乾燥して、染色繊維を得た。
【0045】
染色性は染色前及び染色後の染料溶液をアセトン:エタノール=1:1の混合溶媒で1:1に希釈したもの(染色前を100%とし、アセトン:エタノール=1:1の混合溶媒でさらに希釈したものを染料濃度の見本とする)を、染料濃度見本と比較し、染料の繊維への移行度(%)を評価するとともに、染色繊維の色の鮮やかさを下記基準に従って評価した。
○:あざやか
△:薄い、くすんでいる
×:通常のポリプロピレンと大差ない
染料移行度が高いほど染色性がよいことになる。染料移行度が低く、鮮やかさに欠けるものは以降の評価に値しないものとして、以降の評価は実施しなかった。
【0046】
(3)耐洗浄性
十分に染色性を有するものについてさらに、得られた染色糸を0.5gサンプル瓶に採取し、アセトン20mlを入れ、室温で30分間浸漬させた。蒸留水:アセトン=1:3の混合溶媒で、染色に用いたポリエステル用分散染料(住化ケムテックス社製;SumikaronRedS−RPD(N))の3%の溶液を100とし、これをアセトンで希釈したものを染料濃度の見本に用いて、染色糸を浸漬した後のアセトン溶液の色を染料濃度見本と比較し、染料の繊維からの抽出度(%)を下記基準に従って評価した。この抽出度が小さいほど耐洗浄性がよいことになる。
抽出度30(%)以下を合格(表1では「○」と表示)とした。
各評価結果を下記表1に示す。
【0047】
実施例2
染色性付与剤としてMFR=30g/10分、酢酸ビニル含量32質量%のエチレンビニルアセテート(EVA)(東ソー社製;ウルトラセン750)を用いた以外は、実施例1と同様にして、ポリプロピレン樹脂組成物を製造し、紡糸を行って糸を得た。得られた糸について、実施例1と同様に評価を実施した。結果を下記表1に示す。
【0048】
実施例3
染色性付与剤としてポリエーテルエステルアミド系化合物(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製;IRGASTAT
P18)を用いた以外は、実施例1と同様にしてポリプロピレン樹脂組成物を製造し、紡糸を行って糸を得た。得られた糸について、実施例1と同様に評価を実施した。結果を下記表1に示す。
【0049】
実施例4
染色性付与剤としてMFR=30g/10min、酢酸ビニル含量32%のEVA(東ソー社製;ウルトラセン750)、ポリエーテルエステルアミド系化合物(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製;IRGASTAT
P18)を用いた以外は、実施例1と同様にしてポリプロピレン樹脂組成物を製造し、紡糸を行って糸を得た。得られた糸について、実施例1と同様に評価を実施した。結果を下記表1に示す。
【0050】
比較例1
染色性付与剤を使用しなかった以外は実施例1と同様にしてポリプロピレン樹脂組成物を製造し、紡糸を行って糸を得た。得られた糸について、実施例1と同様に評価を実施した。結果を下記表1に示す。
【0051】
比較例2−1
染色性付与剤としてEVA(東ソー社製;ウルトラセン710)のみを90:10の配合で用いた以外は実施例1と同様にしてポリプロピレン樹脂組成物を製造し、紡糸を行って糸を得た。得られた糸について、実施例1と同様に評価を実施した。結果を下記表1に示す。
【0052】
比較例2−2
染色性付与剤としてエチレンビニルアセテート(EVA)(東ソー社製;ウルトラセン750)を用いた以外は比較例2−1と同様にしてポリプロピレン樹脂組成物を製造し、紡糸を行って糸を得た。得られた糸について、実施例1と同様に評価を実施した。結果を下記表1に示す。
【0053】
比較例2−3
染色性付与剤としてエチレンビニルアセテート(EVA)MFR4g/10min、酢酸ビニル含量26%のもの(東ソー社製;ウルトラセン634)を用いた以外は比較例2−1と同様にしてポリプロピレン樹脂組成物を製造し、紡糸を行ったが、糸切れが激しく、以降の評価に値しないものとして、以降の評価は実施しなかった。
【0054】
比較例3−1
染色性付与剤としてポリエーテルエステルアミド系化合物(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製;IRGASTAT
P16)のみを90:10の配合で用いた以外は、実施例1と同様にしてポリプロピレン樹脂組成物を製造し、紡糸を行って糸を得た。得られた糸について、実施例1と同様に評価を実施した。結果を下記表1に示す。
【0055】
比較例3−2
染色性付与剤としてポリエーテルエステルアミド系化合物(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製;IRGASTAT
P18)を用いた以外は比較例2−2と同様にしてポリプロピレン樹脂組成物を製造し、紡糸を行ったが、糸切れが激しく、以降の評価に値しないものとして、以降の評価は実施しなかった
【0056】
比較例3−3
染色性付与剤としてポリエーテルエステルアミド系化合物(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製;IRGASTAT
P18)を用いた以外は比較例2−2と同様にしてポリプロピレン樹脂組成物を製造し、紡糸を行って糸を得た。得られた糸について、実施例1と同様に評価を実施した。結果を下記表1に示す。
【0057】
比較例4−1
染色性付与剤としてエチレンビニルアセテート(EVA)にMFR4g/10分、酢酸ビニル含量26質量%のもの(東ソー社製;ウルトラセン634)、コポリアミド(ナイロン6/66共重合(宇部興産社製;5013B):ナイロン6/12共重合(宇部興産社製;7115U)=1:1)を90:6:4の配合で用いた以外は実施例1と同様にしてポリプロピレン樹脂組成物を製造し、紡糸を行ったが、糸切れが激しく、以降の評価に値しないものとして、以降の評価は実施しなかった。
【0058】
比較例4−2
実施例1と同じポリプロピレンに、染色性付与剤としてエチレンビニルアセテート(EVA)にMFR4g/10分、酢酸ビニル含量26質量%のもの(東ソー社製;ウルトラセン634)、コポリアミド(ナイロン6/66共重合(宇部興産社製;5013B):ナイロン6/12共重合(宇部興産社製;7115U)=1:1)を90:6:4の割合で配合し、ポリプロピレン樹脂組成物を得た。得られた組成物を、2軸混練機(東芝機械社製;TEM−35B)を用いて180℃で溶融混練し、ストランドを冷却カットしペレット化したものを得た。得られたペレットを用い、実施例1と同様に評価を実施した。結果を下記表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
*)表1中のポリエーテルエステルアミド化合物の種類は以下のとおりである。
A:IRGSTAT P16
B:IRGASTAT P18
C:IRGASTAT P20
D:ナイロン共重合
【0061】
表1の結果から、実施例1〜4では、紡糸性に問題がなく、染料移行度が高く、外観も良好で、耐洗浄性に優れていることがわかる。
これに対し、ポリプロピレン樹脂は紡糸性には問題はないが、染色されず(比較例1)、ポリエーテルエステルアミド系化合物を添加しないと、鮮度不良を生じる(比較例2−1、2−2)ことがわかる。さらに、エチレンビニルアセテート(EVA)のメルトフローレート(MFR)が、10g/分未満であると、糸切れが生じることがわかる(比較例2−3、4−1)。また、エチレンビニルアセテート(EVA)を添加しないと、発泡したり、糸切れが生じたり、耐洗浄性が劣ることがわかる(比較例3−1〜3−3)。
【0062】
実施例5−1
高分子量HALSとして、TINUVIN111(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を0.1質量%、及び紫外線吸収剤(UVA)としてTINUVIN234(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を0.2質量%添加した以外は実施例2と同様にしてポリプロピレン樹脂組成物を製造し、紡糸を行って糸を得た。得られた糸を、実施例1と同様に染色した。得られた染色糸について、下記評価方法に従って耐候性を評価した。結果を下記表2に示す。
【0063】
(4)耐候性
得られた染色糸を、JIS L0843:1998 A法A−1に準拠し、キセノンウェザー、63℃で、300−400nmの照射照度45W/mに曝露した。染色糸の色が退色するまでの時間、及び糸が脆化するまでの時間(保持時間)を測定した。
【0064】
実施例5−2
高分子量HALSとして、Uvinl5050H(BASF社製)を0.1質量%を用いた以外は、実施例5−1と同様にしてポリプロピレン樹脂組成物を製造し、紡糸を行って糸を得た。得られた糸を、実施例1と同様に染色した。得られた染色糸について、実施例5−1と同様にして耐候性を評価した。結果を下記表2に示す。
【0065】
実施例5−3
紫外線吸収剤(UVA)としてUvinl3030(BASF社製)を用いた以外は実施例5−1と同様にしてポリプロピレン樹脂組成物を製造し、紡糸を行って糸を得た。得られた糸を、実施例1と同様に染色した。得られた染色糸について、実施例5−1と同様にして耐候性を評価した。結果を下記表2に示す。
【0066】
比較例5−1
高分子量HALSとして、TINUVIN111(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)のみを0.1質量%添加した以外は実施例5−1と同様にしてポリプロピレン樹脂組成物を製造し、紡糸を行って糸を得た。得られた糸を、実施例1と同様に染色した。得られた染色糸について、実施例5−1と同様にして耐候性を評価した。結果を下記表2に示す。
【0067】
比較例5−2
高分子量HALSとして、Uvinl5050H(BASF社製)のみを0.1質量%添加した以外は実施例5−2と同様にしてポリプロピレン樹脂組成物を製造し、紡糸を行って糸を得た。得られた糸を、実施例1と同様に染色した。得られた染色糸について、実施例5−1と同様にして耐候性を評価した。結果を下記表2に示す。
【0068】
比較例5−3
紫外線吸収剤(UVA)としてTINUVIN234(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)のみを0.2質量%添加した以外は実施例5−2と同様にしてポリプロピレン樹脂組成物を製造し、紡糸を行って糸を得た。得られた糸を、実施例1と同様に染色した。得られた染色糸について、実施例5−1と同様にして耐候性を評価した。結果を下記表2に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
**)表2中のヒンダードアミン系光安定剤(HALS)の種類は以下のとおりである。
HALS A:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製;TINUVIN111(N,N’,N’’,N’’’−テトラキス−(4,6−ビス−(ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ)−トリアジン−2−イル)−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン(45%)とコハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールの重合物(55%))
HALS B:BASF社製;Uvinul5050H(立体障害アミンオリゴマー(Sterically
hindered amine Oligomer))
【0071】
***)表2中の紫外線吸収剤(UVA)の種類は以下のとおりである。
UVA C:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製;TINUVIN234(2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール)
UVA D:BASF社製;Uvinul3030(1,3−ビス−{[(2’−シアノ−3’,3−ジフェニルアクリロイル)オキシ]−2,2−ビス−[(2−シアノ−3’,3−ジフェニルアクリロイル)オキシ]メチル}プロパン)
【0072】
表2の結果から、ヒンダードアミン系光安定剤及び紫外線吸収剤の両方を含む実施例5−1〜5−3では、保持時間が400時間以上と、非常に耐候性に優れていることが分かる。
これに対し、ヒンダードアミン系光安定剤及び紫外線吸収剤のいずれか一方のみを含む比較例5−1〜5−3では、保持時間が220〜280時間と短いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、従来技術では達成できなかった紡糸性、染色性、耐洗浄性に優れた繊維を提供することができる。
また、本発明によれば、適量のヒンダードアミン系光安定剤及び紫外線吸収剤をさらに溶融混合した樹脂組成物は、耐候性が著しく向上した繊維を提供することができる。
【0074】
本発明によれば、ポリプロピレン系樹脂に単独でポリエーテルエステルアミド系化合物を溶融混合した樹脂組成物を用いた従来技術に比べ、エチレンビニルアセテート(EVA)を適切な割合で混合することにより、鮮やかな発色性を損なうこと無く、染色性を維持し、ポリエーテルエステルアミド系化合物の欠点である耐洗浄性を向上させると共に、その使用量を著しく削減できるため、経済的に優位に、染色性ポリプロピレン繊維・不織布を提供することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)〜(C):
(A)ポリプロピレン系樹脂 85〜95質量%、
(B)エチレンビニルアセテート(EVA) 3〜9質量%、及び
(C)ポリエーテルエステルアミド系化合物 2〜6質量%
を溶融ブレンドしてなるポリプロピレン樹脂組成物であって、
成分(B)エチレンビニルアセテートの酢酸ビニル含量が、20質量%以上40質量%以下であり、かつ、メルトフローレートが、10g/10分以上40g/10分以下であることを特徴とするポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のポリプロピレン樹脂組成物100質量部に対し、さらに、成分(D)及び(E):
(D)ヒンダードアミン系光安定剤 0.05〜0.5質量部、及び
(E)紫外線吸収剤 0.05〜0.5質量部
を含有する請求項1に記載のポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリプロピレン樹脂組成物を用いた染色性ポリプロピレン繊維。
【請求項4】
請求項3に記載の染色性ポリプロピレン繊維を用いた不織布。

【公開番号】特開2006−169273(P2006−169273A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−359472(P2004−359472)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(505130112)株式会社プライムポリマー (180)
【Fターム(参考)】