説明

可溶性多官能ビニル芳香族共重合体の製造方法及びその共重合体

【課題】高い光学特性を有し、硬化性に優れたペンダント位のビニル基を持ち、加工性に優れる制御された分子量分布と溶剤可溶性を兼ね備えた多官能ビニル芳香族共重合体を高効率に製造する方法を提供する。
【解決手段】2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、チオール化合物及びチオエーテル化合物からなる群から選ばれる一種以上の連鎖移動剤(A)の存在下で、ジビニル芳香族化合物(a)を10〜98モル%及びモノビニル芳香族化合物(b)を90〜2モル%含有してなる単量体成分を、50〜200℃の温度で重合させることにより溶剤可溶性多官能ビニル芳香族共重合体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、透明性、相溶性及び加工性が改善された可溶性多官能ビニル芳香族重合体の製造方法とその共重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
反応活性のある不飽和結合を有する単量体の多くは、不飽和結合が開裂して、連鎖反応を起こす触媒と適切な反応条件を選択することにより多量体を生成することができる。一般に不飽和結合を有する単量体の種類は極めて多岐にわたることから、得られる樹脂の種類の豊富さも著しい。しかし、一般に高分子化合物と称する分子量10,000以上の高分子量体を得ることができる単量体の種類は比較的少ない。例えば、エチレン、置換エチレン、プロピレン、置換プロピレン、スチレン、アルキルスチレン、アルコキシスチレン、ノルボルネン、各種アクリルエステル、ブタジエン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、イソプレン、マレイン酸無水物、マレイミド、フマル酸エステル、アリル化合物等を代表的な単量体として挙げることができる。これらの単量体を単独で又はこれらを共重合させることにより多種多様な樹脂が合成されている。
【0003】
これらの樹脂の用途は主に、比較的安価な民生機器の分野に限られており、光・電子材料分野に於いて高度の耐熱性、寸法安定性や微細加工性が要求される先端技術分野への適用は殆どない。その理由としては、通常上記のモノマーから合成されるポリマーは熱可塑性であり、また、力学的特性を満足させるためにかなりの高分子量体とする必要があるため、耐熱性や微細加工性といった先端技術分野で要求される特性が犠牲となっているということが挙げられる。
【0004】
この様なビニル系の熱可塑性ポリマーの欠点を解決する方法として、芳香族ジビニル化合物及び芳香族トリビニル化合物といった芳香族多官能ビニル化合物を極少量を、上記のビニル系単量体に添加することにより強度等の樹脂特性の改良が行われている。例えば、特開平2−170806号公報(特許文献1)には、芳香族多官能ビニル化合物とスチレン系単量体を熱や開始剤で共重合させ、広い分子量分布を有するスチレン系重合体を得ることと、この重合体が高い衝撃強度を示すことが開示されている。しかし、ここに開示されている技術に従って重合転化率を高めると、芳香族多官能ビニル化合物による架橋反応が急速に起こるので、芳香族多官能ビニル化合物の多い場合には、樹脂のゲル化が生じ、加工性と外観が著しく損なわれる。従って、従来行われてきた芳香族多官能ビニル化合物による樹脂の改質は芳香族多官能ビニル化合物の添加量が50〜250ppmと低く抑えられてしまうために、芳香族多官能ビニル化合物による耐熱性についての改質効果が先端技術分野への応用には十分なものではないという欠点があった。
【0005】
更に、特開2000−128908号公報(特許文献2)には芳香族多官能ビニル重合体に多官能連鎖移動剤を併用した分岐度が制御されたスチレン系重合体及びその製造方法が開示されているが、芳香族多官能ビニル重合体のスチレン系単量体に対する添加量は1〜700ppmでしかなく、耐熱性及び加工性については依然として従来の熱可塑性樹脂と変わらないものであった。また、これらに開示されている技術に従って芳香族多官能ビニル化合物を多量に配合して重合させると、得られる重合体は通常高度に架橋構造が発達し、加工性のない不溶・不融のゲル状重合体となることが多く、成形加工性については依然として改良されたものではなかった。
【0006】
一方、高度に枝分かれ(分岐)した重合鎖からなる多分岐ポリマーは分子鎖の絡み合いが少なく、同程度の分子量の線状ポリマーと比較して粘度が低く、かつ、分岐へ反応性基を多数導入できるなど、高機能材料として注目をされてきている。特表2001−512752号公報(特許文献3)には単官能ビニル単量体:50〜99.9重量部と芳香族多官能ビニル化合物:0.1〜50重量部をラジカル重合開始剤の存在下、250〜400℃で重合を行う多分岐重合体の製造方法が開示されている。しかしながら、この実施例に開示されている結果を見ると、250℃を超える高温で重合を行うことによって、架橋反応によって精製したゲル成分を熱分解させて低分子量化させながら、多分岐ポリマーを生成させている。従って、ここに開示されている技術では生成ポリマー中のビニル基含有量を大きくすることができないために、芳香族多官能ビニル化合物による耐熱性に対する改質効果が先端技術分野への応用には十分なものとはいえない。また、非常な高温で重合するため、工業的実施の際に製造が困難であるなどの問題点があった。
【0007】
更に、米国特許第5767211号明細書(特許文献4)には2〜3官能ビニル化合物をアゾ系ラジカル重合開始剤及びコバルト系連鎖移動触媒の存在下に重合を行い架橋構造のない多分岐重合体を合成する製造方法が開示されている。しかしながら、この重合方法では分岐構造を生成させるのに、β−水素脱離を促進させる連鎖移動触媒を使用しているために、生成した重合体中の分岐構造の近傍に2重結合を持つ構造を有することになる。このため、生成した重合体の耐熱性を高めるための熱硬化操作を行っても、重合体の反応性が低いために耐熱性の改善効果が小さく、先端技術分野での応用には向かないという欠点があった。更に、この製造方法では連鎖移動反応は専らコバルト系連鎖移動触媒の連鎖移動能に頼っているために、多量の連鎖移動触媒を重合系中に添加する必要があり、そのため重合速度が著しく遅くなる、更に、重合体を回収する際に触媒の除去が困難になるなどの実用化する上での問題点があった。
【0008】
非特許文献1にはジ−iso−プロピルアミンとブチルリチウムを触媒としてジビニルベンゼンをアニオン重合させることによって、溶剤可溶性のジビニルベンゼン重合体が得られることが開示されている。しかしながら、これに開示されている技術に従って、ジビニルベンゼンと他の単量体とを共重合させようとすると、アニオン重合触媒を使用しているために、ジビニルベンゼンのようなジビニル化合物の連鎖の長いブロック性の強い共重合体が生成してしまうために、保存安定性が悪く、貯蔵時にゲルや高分子量体を容易に生成してしまうという欠点があった。また、重合方法も重合時のビニル基の選択性が十分でないないためにゲル化が起こりやすく、モノマー濃度を高くすることができない、重合温度を0℃より高くすることができないといった工業的に実施する場合に問題のある方法であった。
【0009】
また、非特許文献2にはリチウムジ−iso−プロピルアミドを触媒としてジビニルベンゼンとスチレンをアニオン重合させることによって、溶剤可溶性のジビニルベンゼン−スチレン共重合体が得られることが開示されている。しかしながら、これに記載されている技術に従って共重合体を合成すると、重合時に活性種の反応性が高く、かつ、ペンダントビニル基を有するジビニルベンゼン由来の構造単位が連鎖で連なった構造が容易に生成するために、ゲル化が起こりやすく、低いモノマー濃度において、0℃以下という低い重合温度で重合を行う必要があり、ポリマー回収時や保管時にも容易にゲルを生成するために、ハンドリングが困難であり、工業的に実施する場合に問題のある製造方法であった。
【0010】
非特許文献3及び非特許文献4には過塩素酸アセチルを触媒としてジビニルベンゼンをカチオン重合させることによって、溶剤可溶性のジビニルベンゼン重合体が得られることが開示されている。しかしながら、このジビニルベンゼン重合体はその主鎖骨格中に内部オレフィン構造を有する重合体であるために、耐熱性及び他の樹脂との相溶性が低く、先端技術分野に使用される材料としては特性が十分ではないという欠点があった。また、これらの文献に開示されている方法に従って、モノビニル芳香族化合物を共重合させようとすると、分子量が著しく低下し、収量が低下するばかりでなく、生成物の硬化物の耐熱性も著しく低下するという問題点があった。
【0011】
上記の既存技術の問題点を解決する方法として、特開2004−123873号公報(特許文献5)にはジビニル芳香族化合物(a)及びモノビニル芳香族化合物(b)を有機溶媒中、ルイス酸触媒及び特定構造の開始剤の存在下、20〜100℃の温度で重合させることによって得られる可溶性多官能ビニル芳香族共重合体が開示されている。また、特開2005−213443号公報(特許文献6)には4級アンモニウム塩の存在下で、ルイス酸触媒及び特定構造の開始剤により、ジビニル芳香族化合物(a)を20〜100モル%含有してなる単量体成分を20〜120℃の温度でカチオン重合させることを特徴とする制御された分子量分布を有する可溶性多官能ビニル芳香族共重合体の製造方法が開示されている。これらに開示されている技術によって容易に得られる可溶性多官能ビニル芳香族共重合体は溶剤可溶性及び加工性に優れ、これを使用することによって耐熱性及び耐熱分解性に優れた硬化物を得ることができる。しかし、これらの技術によって得られる可溶性多官能ビニル芳香族共重合体は高いガラス転移温度を持つ硬化物を与えるという点では耐熱性に優れた重合体であるとはいうものの、透明性などの光学特性が不足するばかりではなく、耐熱変色性やアウトガスの発生という点で、高いプロセス温度に対する耐熱分解性は十分ではなく、270℃以上の高い熱履歴によって、変色や発泡などの不良が生ずるケースがあった。
【0012】
【特許文献1】特開平2−170806号公報
【特許文献2】特開2000‐128908号公報
【特許文献3】特表2001−512752号公報
【特許文献4】米国特許第5767211号広報
【特許文献5】特開2004−123873号公報
【特許文献6】特開2005−213443号公報
【非特許文献1】Makromol.Chem.、1978年、179巻、2069〜2073頁
【非特許文献2】Makromol.Chem.、1988年、189巻,723〜731頁
【非特許文献3】Macromolecules、1980年、13巻、1350〜1354頁
【非特許文献4】Macromolecules、1982年、15巻、1221〜1225頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、上記の従来技術の種々の問題点を解決し、高温での熱履歴に対しても優れた耐熱分解性を有し、硬化性に優れたペンダント位のビニル基を持ち、加工性に優れる制御された分子量分布と溶剤可溶性を兼ね備えた多官能ビニル芳香族重合体が望まれていた。本発明は、高い光学特性を有し、硬化性に優れたペンダント位のビニル基を持ち、加工性に優れる制御された分子量分布と溶剤可溶性を兼ね備えた新規な多官能ビニル芳香族共重合体を高効率に製造する製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、チオール化合物及びチオエーテル化合物からなる群から選ばれる一種以上の連鎖移動剤(A)の存在下で、ジビニル芳香族化合物(a)を10〜98モル%及びモノビニル芳香族化合物(b)を90〜2モル%含有してなる単量体成分を、50〜200℃の温度で重合させることを特徴とする可溶性多官能ビニル芳香族共重合体の製造方法である。
【0015】
ここで、上記製造方法で得られる可溶性多官能ビニル芳香族共重合体は、式(a1)
【化1】

(式中、R1は炭素数6〜30の芳香族炭化水素基を示す。)
で表されるジビニル芳香族化合物(a)由来のビニル基を含有する構造単位(a1)を有し、そのモル分率が、次式
(a1)/[(a)+(b)]≧0.10
(式中、(a)及び(b)はジビニル芳香族化合物(a)及びモノビニル芳香族化合物(b)に由来する構造単位のモル数、(a1)は構造単位(a1)のモル数を示す。)
を満足し、更に、可溶性多官能ビニル芳香族重合体の数平均分子量Mnが500〜1000000であり、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比で表される分子量分布(Mw/Mn)が100.0以下であり、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、ジクロロエタン又はクロロホルムに可溶であることが好ましい。
【0016】
また、ジビニル芳香族化合物(a)がジビニルベンゼン、ジビニルビフェニルからなる群から選ばれる1種以上のジビニル芳香族化合物であり、モノビニル芳香族化合物(b)がスチレン、エチルビニルベンゼンからなる群から選ばれる1種以上のモノビニル芳香族化合物であることが好ましい。
【0017】
以下、本発明の可溶性多官能ビニル芳香族共重合体の製造方法について詳しく説明する。
【0018】
本発明の可溶性多官能ビニル芳香族共重合体の製造方法では、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、チオール化合物及びチオエーテル化合物からなる群から選ばれる一種以上の連鎖移動剤(A)の存在下で、ジビニル芳香族化合物(a)を10〜98モル%及びモノビニル芳香族化合物(b)を90〜2モル%含有してなる単量体成分を、20〜200℃の温度で重合させる。
【0019】
連鎖移動剤(A)としては、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、チオール化合物及びチオエーテル化合物からなる群から選ばれる一種以上の連鎖移動剤が使用される。ここで、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンは、α−メチルスチレンダイマーと称されることがある。
【0020】
好適なチオール化合物として、n−ドデシルメルカプタンやt−ドデシルメルカプタンを挙げることができる。一方、好適なチオエーテル化合物としては、 ベンジルフェニルスルフィド、ブチルエチルスルフィド、t-ブチルメチルスルフィドや ジブチルジスルフィドなどを挙げることができる。
【0021】
これらの中で、中でも分子量分布の制御が容易である点でα−メチルスチレンダイマーが好ましく用いられる。
【0022】
連鎖移動剤の使用量は、特に限定されるものではないが、分子量分布を制御するという観点から、通常、単量体成分の合計量100重量部に基いて、1〜300重量部であることが好ましく、5〜250重量部の範囲内であることがさらに望ましい。10〜200重量部の範囲内であることが最も好ましい。
【0023】
ジビニル芳香族化合物(a)は、可溶性多官能ビニル芳香族共重合体が熱硬化することによって耐熱性を発現する際に、架橋成分として主要な役割を果たす構造単位(a1)を与える他、分岐構造単位を与えて多官能とする作用を有する。なお、架橋構造が多いと可溶性を阻害するので、その範囲となるように制御される。
【0024】
ジビニル芳香族化合物(a)としては、たとえば、m−ジビニルベンゼン、p−ジビニルベンゼン、1,2−ジイソプロペニルベンゼン、1,3−ジイソプロペニルベンゼン、1,4−ジイソプロペニルベンゼン、1,3−ジビニルナフタレン、1,8−ジビニルナフタレン、1,4−ジビニルナフタレン、1,5−ジビニルナフタレン、2,3−ジビニルナフタレン、2,7−ジビニルナフタレン、2,6−ジビニルナフタレン、4,4’−ジビニルビフェニル、4,3’−ジビニルビフェニル、4,2’−ジビニルビフェニル、3,2’−ジビニルビフェニル、3,3’−ジビニルビフェニル、2,2’−ジビニルビフェニル、2,4−ジビニルビフェニル、1,2−ジビニル−3,4−ジメチルベンゼン、1,3−ジビニル−4,5,8−トリブチルナフタレン、2,2′−ジビニル−4−エチル−4′−プロピルビフェニル等を用いることができるが、これらに制限されるものではない。これらは単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。
【0025】
ここで、(a)成分の好適な具体例としては、コスト及び得られたポリマーの耐熱性の点でジビニルベンゼン(m−及びp−異性体の両方)、ジビニルビフェニル(各異性体を含む)及びジビニルナフタレン(各異性体を含む)がある。より好ましくは、ジビニルベンゼン(m−及びp−異性体の両方)、ジビニルビフェニル(各異性体を含む)である。特に、コスト及び入手の容易さの観点から、ジビニルベンゼン(m−及びp−異性体の両方)が最も好ましく用いられる。特に高度の耐熱性や高屈折率性が要求される分野ではジビニルビフェニル(各異性体を含む)及びジビニルナフタレン(各異性体を含む)が好適に使用される。
【0026】
モノビニル芳香族化合物(b)は、可溶性多官能ビニル芳香族共重合体の溶剤可溶性及び加工性を改善するために必要である。
【0027】
モノビニル芳香族化合物(b)としては、スチレン、メチルスチレンやエチルスチレン等の核アルキル置換モノビニル芳香族化合物、α−メチルスチレン等のα−アルキル置換モノビニル芳香族化合物、β−アルキル置換スチレン、アルコキシ置換スチレン、インデン誘導体及びアセナフチレン誘導体等を挙げることができるが、これらに制限されるものではない。これらは単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。これら成分から誘導される構造単位が多官能ビニル芳香族重合体中に導入されることによって、重合体のゲル化を防ぎ、溶媒への溶解性を高めることができるばかりではなく、多官能ビニル芳香族重合体の塗工時の加工性を改善することができる。好適な具体例としては、コスト、ゲル化防止及び得られたポリマーの成形加工性の点でスチレン、エチルビニルベンゼン(m−及びp−異性体の両方)及びエチルビニルビフェニル(各異性体を含む)等を挙げることができる。
【0028】
また、本発明の可溶性多官能ビニル芳香族共重合体の製造方法では、本発明の効果を損なわない範囲で、上記単量体成分(a)〜(b)の他に、トリビニル芳香族化合物等のその他の単量体成分(c)を使用することができる。
【0029】
トリビニル芳香族化合物の具体例としては例えば、1,2,4−トリビニルベンゼン、1,3,5−トリビニルベンゼン、1,2,4−トリイソプロペニルベンゼン、1,3,5−トリイソプロペニルベンゼン、1,3,5−トリビニルナフタレン、3,5,4′−トリビニルビフェニル等を挙げることができるが、これらに制限されるものではない。これらは単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。
【0030】
これらのその他の単量体成分(c)の使用量は単量体成分の総量に対して30モル%未満の範囲内で使用される。
【0031】
本発明の可溶性多官能ビニル芳香族共重合体の製造方法では、10〜98モル%のジビニル芳香族化合物(a)、90〜2モル%のモノビニル芳香族化合物(b)を含む単量体成分を使用して重合を行う。好ましくはジビニル芳香族化合物(a)を15〜95モル%を含んでいることがよく、より好ましくは20〜90モル%である。ジビニル芳香族化合物(a)が10モル%に満たないと、重合速度が著しく不足するので好ましくなく、また、ジビニル芳香族化合物(a)由来の構造単位が98モル%を越えると、ゲルが生成しやすくなるので好ましくない。
【0032】
本発明の製造方法ではジビニル芳香族化合物(a)及びモノビニル芳香族化合物(b)の熱開始反応を利用してラジカル熱重合を行うことで重合開始剤を不要とすることができる。一方、熱開始反応による開始反応速度が小さい場合には、ラジカル重合開始剤を添加することもできる。
【0033】
この場合のラジカル重合開始剤としては、例えばシクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類;1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バレレート等のパーオキシケタール類;クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類;1,3−ビス(tert−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド、tert−ブチルクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類;デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;ビス(tert−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート等のパーオキシカーボネート類;tert−ブチルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン等のパーオキシエステル類等の有機過酸化物系重合開始剤並びに2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、アゾクメン2、2’−アゾビスメチルバレロニトリル、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)等のアゾ系重合開始剤を挙げることができる。
【0034】
ラジカル重合開始剤の使用量は、特に限定されるものではないが、通常、単量体成分の合計量100重量部に基いて、0.01〜25重量部であることが好ましく、0.05〜20重量部の範囲内であることがさらに望ましい。0.1〜10重量部の範囲内であることが最も好ましい。
【0035】
また、重合反応は、基本的に溶剤を使用しない塊状重合で行うことができるが、生成する可溶性多官能ビニル芳香族共重合体を溶解する1種以上の有機溶媒中で行うこともできる。有機溶媒としてはラジカル重合を本質的に阻害しない化合物であって、本発明の連鎖移動剤、開始剤、単量体及び多官能ビニル芳香族共重合体を溶解して、均一溶液を形成するものであれば、特に制約なく使用することができる。
【0036】
有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン等の芳香族炭化水素;エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の直鎖式脂肪族炭化水素類;2−メチルプロパン、2−メチルブタン、2,3,3−トリメチルペンタン、2,2,5−トリメチルヘキサン等の分岐式脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の環式脂肪族炭化水素類;石油留分を水添精製したパラフィン油等を挙げることができる。この中で、トルエン、キシレン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、2−メチルプロパン、2−メチルブタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン及びエチルシクロヘキサンが好ましい。重合性、溶解性のバランスと入手の容易さの観点からトルエン、キシレン、メチルシクロヘキサン及びエチルシクロヘキサンが更に好ましい。
【0037】
これらの有機溶媒は、単独又は2種以上を組み合わせて使用される。溶剤の使用量に特に制限はないが、生産性や重合操作性を考慮して決められる。
【0038】
本発明の製造方法では、重合は50〜200℃の温度範囲で行う。50℃未満で重合反応を行うと、重合速度が低くなるので、工業的実施の観点から好ましくなく、また200℃を超えると、反応の選択性が低下するため、反応の制御が難しく、架橋による不溶性のゲルの生成が起こりやすくなるので好ましくない。
【0039】
重合反応停止後、共重合体を回収する方法は特に限定されず、例えば、スチームストリッピング法、貧溶媒での析出などの通常用いられる方法を用いればよい。
【0040】
本発明の製造方法によって得られる可溶性多官能ビニル芳香族共重合体(以下、共重合体又は本発明の共重合体ともいう)は、使用した単量体成分の割合に応じた構造単位を有する。すなわち、約10〜98モル%のジビニル芳香族化合物(a)由来の構造単位及び約90〜2モル%のモノビニル芳香族化合物(b)由来の構造単位を含む。本発明の共重合体はジビニル芳香族化合物(a)由来の構造単位を15〜95モル%を含んでいることが好ましい。より好ましくは20〜90モル%である。ジビニル芳香族化合物(a)由来の構造単位が10モル%に満たないと、硬化物の耐熱性が不足するので好ましくなく、また、ジビニル芳香族化合物(a)由来の構造単位が98モル%を越えると、成形加工性が低下するので好ましくない。
【0041】
また、本発明の製造方法によって得られる可溶性多官能ビニル芳香族共重合体では、共重合体の溶剤可溶性及び加工性を改善する目的で(b)モノビニル芳香族化合物由来の構造単位を有することが必要である。
【0042】
また、本発明の可溶性多官能ビニル芳香族共重合体の製造方法によって得られる共重合体では、本発明の効果を損なわない範囲で、上記単量体成分(a)〜(b)由来の構造単位の他に、トリビニル芳香族化合物等のその他の単量体成分(c)由来の構造単位を導入することができる。
【0043】
さらに、本発明の可溶性多官能ビニル芳香族共重合体の製造方法によって得られる共重合体は上記式(a1)で表されるジビニル芳香族化合物由来のビニル基を含有する構造単位(a1)のモル分率が次式を満足することが望ましい。好ましくは、上記モル分率が0.12以上であり、特に好ましくは0.18以上である。上記モル分率が0.10以上であることによって、熱硬化性に富み、硬化後の耐熱性及び機械的特性に優れた成形品を得ることができる。
(a1)/[(a)+(b)]≧0.10
【0044】
上式において、(a)はジビニル芳香族化合物(a)由来の構造単位のモル数であり、(b)はモノビニル芳香族化合物(b)由来の構造単位のモル数であり、(a1)は構造単位(a1)のモル数である。なお、式(a1)で表されるジビニル芳香族化合物由来のビニル基を含有する構造単位(a1)は、ペンダント位のビニルビニル基含有構造単位とも称され、加熱硬化性や硬化物の物性に大きな影響を与える。
【0045】
一方、本発明の可溶性多官能ビニル芳香族共重合体の製造方法によって得られる共重合体の数平均分子量Mn(ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて得られる標準ポリスチレン換算による。)は、300〜1000000が好ましいが、500〜1000000がより好ましい。更に好ましくは500〜500000である。最も好ましくは500〜200000である。Mnが300未満であると可溶性多官能ビニル芳香族重合体の粘度が低すぎるため、加工性が低下したり、硬化物の耐熱性が低下したりするので好ましくない。また、Mnが1000000以上であると、ゲルが生成しやすくなり、成形体やフィルム等に成形した場合、外観の低下や光学特性の低下を招くので好ましくない。
【0046】
また、本発明の製造方法によって得られる多官能ビニル芳香族重合体はMnと重量平均分子量Mwより求められる分子量分布(Mw/Mn)の値は100以下、好ましくは50.0以下であることがよい。より好ましくは40.0以下であり、特に好ましくは20.0以下である。最も好ましくは10.0以下である。Mw/Mnが100.0を越えると、可溶性多官能ビニル芳香族重合体の加工特性の悪化、ゲルの発生といった問題点を生ずるので好ましくない。
【0047】
本発明の製造方法で得られる可溶性多官能ビニル芳香族共重合体は、成形材、シート又はフィルムに加工することができ、高屈折率、低誘電率、低吸水率、高耐熱性等の特性を満足できる光学用材料又は半導体関連材料、更には、塗料、感光性材料、接着剤、汚水処理剤、重金属捕集剤、イオン交換樹脂、帯電防止剤、酸化防止剤、防曇剤、防錆剤、防染剤、医用材料、凝集剤、固体燃料用バインダー、導電処理剤等への適用が可能である。更に光学用部品としては、CD用ピックアップレンズ、DVD用ピックアップレンズ、Fax用レンズ、LBP用レンズ、オリゴンミラー、プリズム等が挙げられる。
【発明の効果】
【0048】
本発明により、光学特性、耐熱性、耐熱変色性、耐熱分解性及び加工性が改善された可溶性多官能ビニル芳香族共重合体を高効率に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
次に実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらにより制限されるものではない。なお、各例中の部はいずれも重量部である。また、実施例中の軟化温度等の測定は以下に示す方法により試料調製及び測定を行った。
【0050】
1)ポリマーの分子量及び分子量分布
可溶性多官能ビニル芳香族共重合体の分子量及び分子量分布測定はGPC(東ソー製、HLC−8120GPC)を使用し、溶媒:テトラヒドロフラン(THF)、流量:1.0ml/min、カラム温度:40℃で行った。共重合体の分子量は単分散ポリスチレンによる検量線を用い、ポリスチレン換算分子量として測定を行った。
【0051】
2)ポリマーの構造
日本電子製JNM−LA600型核磁気共鳴分光装置を用い、13C−NMR及び1H−NMR分析により決定した。溶媒としてクロロホルム−d1を使用し、テトラメチルシランの共鳴線を内部標準として使用した。
【0052】
3)ガラス転移温度(Tg)及び軟化温度測定の試料調製及び測定
可溶性多官能ビニル芳香族共重合体溶液をガラス基板に乾燥後の厚さが、20μmになるように均一に塗布した後、ホットプレートを用いて、90℃で30分間加熱し、乾燥させた。得られたガラス基板上の樹脂膜はガラス基板と共に、TMA(熱機械分析装置)測定装置にセットし、窒素気流下、昇温速度10℃/分で220℃まで昇温し、更に、220℃で20分間加熱処理することにより、残存する溶媒を除去した。ガラス基板を室温まで放冷した後、TMA測定装置中の試料に分析用プローブを接触させ、窒素気流下、昇温速度10℃/分で30℃から360℃までスキャンさせることにより測定を行い、接線法により軟化温度を求めた。サンプルの耐熱性により、プローブが樹脂膜を貫通せず、膜厚よりも小さなプローブ侵入量を示さない場合には、軟化温度の他に、プローブが侵入した温度と膜厚に対する侵入量を百分率で表示した。
【0053】
4)熱分解温度及び炭化歩留りの測定
可溶性多官能ビニル芳香族共重合体の熱分解温度及び耐熱変色性の測定は、試料をTGA(熱天秤)測定装置にセットし、窒素気流下、昇温速度10℃/分で30℃から320℃までスキャンさせることにより測定を行い、300℃に於ける重量減少量を求めると共に、測定後の試料の変色量を目視にて確認し、A:熱変色無し、B:淡黄色、C:茶色、D:黒色に分類することにより耐熱変色性の評価を行った。
【0054】
5)耐溶剤性の測定
可溶性多官能ビニル芳香族共重合体の耐溶剤性の測定は、真空プレス成形を行った試料板をトルエンに室温で10分間浸漬し、浸漬後の試料の変化を目視にて確認し、A:変化無し、B:膨潤、C:変形・膨れ有りに分類することにより耐溶剤性の評価を行った。
【0055】
6)はんだ耐熱性の測定
可溶性多官能ビニル芳香族共重合体のはんだ耐熱性の測定は、真空プレス成形を行った試料板を260℃の鉛フリーハンダに1分間浸漬し、浸漬後の試料の変化を目視にて確認し、A:変化無し、B:反り、C:変形・膨れ有りに分類することによりはんだ耐熱性の評価を行った。
【実施例1】
【0056】
ジビニルベンゼン1.92モル(273.5ml)、エチルビニルベンゼン0.08モル(11.4ml)、スチレン3.0モル(343.7ml)、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン3.15モル(752.0ml)を3.0Lの反応器内に投入し、130℃に加温し、4時間反応させた。重合反応を冷却により停止させた後、室温で反応混合液を大量のメタノールに投入し、共重合体を析出させた。得られた共重合体をメタノールで洗浄し、濾別、乾燥、秤量して、共重合体A335.9g(収率:58.6wt%)を得た。
【0057】
得られた共重合体AのMwは35600、Mnは4420、Mw/Mnは8.07であった。13C−NMR、1H−NMR分析及び元素分析を行うことにより、共重合体Aは、ジビニルベンゼン由来の構造単位を合計39.6モル%及びスチレン由来の構造単位とエチルビニルベンゼン由来の構造単位を合計60.4モル%含有していた。構造単位(a1)を15.8モル%含有していた。
共重合体Aはトルエン、キシレン、THF、ジクロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルムに可溶であり、ゲルの生成は認められなかった。また、共重合体Aのキャストフィルムは曇りのない透明なフィルムであった。
【0058】
共重合体Aを2.0mmのスペーサーを介して、金型に入れ、200℃、1時間硬化を行った。得られた硬化シートを切り出し、光学特性、引張特性の測定及び熱分析を実施した。
その結果、全光線透過率:90.8%、屈折率:1.598、線膨張係数:62ppm/℃、吸水率:0.1%、耐溶剤性:A、ハンダ耐熱性:A、引張強度:3.30kgf/mm2、引張破断伸び:4.6%、引張弾性率:311kgf/mm2であった。
また、TMA測定の結果、軟化温度は300℃以上であった。TGA測定の結果、300℃に於ける重量減少量は0.2wt%、耐熱変色性はAであった。
【実施例2】
【0059】
ジビニルベンゼン1.92モル(273.5ml)、エチルビニルベンゼン0.08モル(11.4ml)、スチレン8.0モル(916.6ml)、tert-ドデシルメルカプタン1.0モル(235.3ml)、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)12.0ミリモル(1.88g)を3.0Lの反応器内に投入し、90℃で20.0mmolの過酸化ベンゾイルを添加し、8時間反応させた。重合反応を冷却により停止させた後、室温で反応混合液を大量のメタノールに投入し、重合体を析出させた。得られた重合体をメタノールで洗浄し、濾別、乾燥、秤量して、共重合体B412.3g(収率:37.7wt%)を得た。
【0060】
得られた共重合体BのMwは16400、Mnは3580、Mw/Mnは4.58であった。13C−NMR、1H−NMR分析及び元素分析を行うことにより、共重合体Bは、ジビニルベンゼン由来の構造単位を合計20.1モル%及びスチレン由来の構造単位とエチルビニルベンゼン由来の構造単位を合計79.9モル%含有していた。構造単位(a1)を13.2モル%含有していた。
共重合体Bはトルエン、キシレン、THF、ジクロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルムに可溶であり、ゲルの生成は認められなかった。また、共重合体Bのキャストフィルムは曇りのない透明なフィルムであった。
【0061】
共重合体Bを2.0mmのスペーサーを介して、金型に入れ、200℃、1時間硬化を行った。得られた硬化シートを切り出し、光学特性、引張特性の測定及び熱分析を実施した。
その結果、全光線透過率:90.0%、屈折率:1.592、線膨張係数:78ppm/℃、吸水率:0.1%、耐溶剤性:A、ハンダ耐熱性:A、引張強度:3.28kgf/mm2、引張破断伸び:4.7%、引張弾性率:297kgf/mm2であった。
また、TMA測定の結果、軟化温度は300℃以上であった。TGA測定の結果、300℃に於ける重量減少量は0.2wt%、耐熱変色性はAであった。
【実施例3】
【0062】
ジビニルベンゼン2.88モル(410.3ml)、エチルビニルベンゼン0.12モル(17.1ml)、スチレン2.0モル(229.2ml)、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン3.15モル(752.0ml)を3.0Lの反応器内に投入し、80℃で20.0mmolの過酸化ベンゾイルを添加し、5時間反応させた。重合反応を冷却により停止させた後、室温で反応混合液を大量のメタノールに投入し、重合体を析出させた。得られた重合体をメタノールで洗浄し、濾別、乾燥、秤量して、共重合体C112.5g(収率:18.8wt%)を得た。
【0063】
得られた共重合体CのMwは4830、Mnは2720、Mw/Mnは1.78であった。13C−NMR、1H−NMR分析及び元素分析を行うことにより、共重合体Cは、ジビニルベンゼン由来の構造単位を合計60.4モル%及びスチレン由来の構造単位とエチルビニルベンゼン由来の構造単位を合計39.6モル%含有していた。構造単位(a1)を37.4モル%含有していた。
共重合体Cはトルエン、キシレン、THF、ジクロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルムに可溶であり、ゲルの生成は認められなかった。また、共重合体Cのキャストフィルムは曇りのない透明なフィルムであった。
【0064】
共重合体Cを2.0mmのスペーサーを介して、金型に入れ、200℃、1時間硬化を行った。得られた硬化シートを切り出し、光学特性、引張特性の測定及び熱分析を実施した。
その結果、全光線透過率:90.5%、屈折率:1.595、線膨張係数:68ppm/℃、吸水率:0.1%、耐溶剤性:A、ハンダ耐熱性:A、引張強度:3.07kgf/mm2、引張破断伸び:4.3%、引張弾性率:309kgf/mm2であった。
また、TMA測定の結果、軟化温度は300℃以上であった。TGA測定の結果、300℃に於ける重量減少量は0.2wt%、耐熱変色性はAであった。
【実施例4】
【0065】
ジビニルベンゼン2.88モル(410.3ml)、エチルビニルベンゼン0.12モル(17.1ml)、スチレン2.0モル(229.2ml)、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン3.15モル(752.0ml)を3.0Lの反応器内に投入し、120℃で20.0mmolの過酸化ベンゾイルを添加し、4時間反応させた。重合反応を冷却により停止させた後、室温で反応混合液を大量のメタノールに投入し、重合体を析出させた。得られた重合体をメタノールで洗浄し、濾別、乾燥、秤量して、共重合体D323.7g(収率:54.0wt%)を得た。
【0066】
得られた共重合体DのMwは66300、Mnは5620、Mw/Mnは11.8であった。13C−NMR、1H−NMR分析及び元素分析を行うことにより、共重合体Dは、ジビニルベンゼン由来の構造単位を合計61.1モル%及びスチレン由来の構造単位とエチルビニルベンゼン由来の構造単位を合計38.9モル%含有していた。構造単位(a1)を24.3モル%含有していた。
共重合体Dはトルエン、キシレン、THF、ジクロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルムに可溶であり、ゲルの生成は認められなかった。また、共重合体Dのキャストフィルムは曇りのない透明なフィルムであった。
【0067】
共重合体Dを2.0mmのスペーサーを介して、金型に入れ、200℃、1時間硬化を行った。得られた硬化シートを切り出し、光学特性、引張特性の測定及び熱分析を実施した。
その結果、全光線透過率:90.3%、屈折率:1.597、線膨張係数:64ppm/℃、吸水率:0.1%、耐溶剤性:A、ハンダ耐熱性:A、引張強度:3.12kgf/mm2、引張破断伸び:4.8%、引張弾性率:312kgf/mm2であった。
また、TMA測定の結果、軟化温度は300℃以上であった。TGA測定の結果、300℃に於ける重量減少量は0.2wt%、耐熱変色性はAであった。
【0068】
比較例1
汎用ポリスチレンとして新日鐵化学(株)製エスチレンG−12を用いて特性評価を行った。G−12の樹脂ペレットを2.0mmのスペーサーを介して、金型に入れ、200℃、20分間プレス成形を行った。得られた硬化シートを切り出し、光学特性、引張特性の測定及び熱分析を実施した。
その結果、全光線透過率:89.4%、屈折率:1.592、線膨張係数:96ppm/℃、吸水率:0.1%、耐溶剤性:C、ハンダ耐熱性:C、引張強度:2.86kgf/mm2、引張破断伸び:3.1%、引張弾性率:321kgf/mm2であった。
また、TMA測定の結果、軟化温度は94℃であった。TGA測定の結果、300℃に於ける重量減少量は1.2wt%、耐熱変色性はBであった。
G−12はトルエン、キシレン、THF、ジクロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルムに可溶であり、ゲル成分は認められなかった。また、G−12のキャストフィルムは曇りのない透明なフィルムであった。
【0069】
比較例2
ジビニルベンゼン5.7モル(811.8ml)、エチルビニルベンゼン0.30モル(42.7ml)、スチレン2.0モル(229.2ml)、1−クロロエチルベンゼン0.02モル(2.7ml)、及びジクロロエタン(誘電率:10.3)17120mlを30Lの反応器内に投入し、70℃で0.029モルの四塩化スズを添加し、3時間カチオン重合反応させた。重合反応を水酸化カルシウム13.0gで停止させた後、ろ過を行い、5Lの蒸留水で3回洗浄した。重合溶液にブチルヒドロキシトルエンを1.0g溶解させた後、60℃で1時間エバポレーターを使用して濃縮した。室温で反応混合液を大量のメタノールに投入し、重合体を析出させた。得られた重合体をメタノールで洗浄し、濾別、乾燥、秤量して、共重合体Eを542.1g(収率:54.8wt%)得た。
【0070】
得られた共重合体EのMwは28600、Mnは5140、Mw/Mnは5.56であった。13C−NMR及び1H−NMR分析を行うことにより、ジビニルベンゼン由来の構造単位を合計48.1モル%、及びスチレン由来の構造単位とエチルビニルベンゼン由来の構造単位を合計51.9モル%含有していた。構造単位(a1)を41.5モル%含有していた。また、共重合体Eの元素分析を行った結果、C:90.2wt%、H:7.5wt%、O:0.02wt%、Cl:2.1wt%であった。
共重合体Eはトルエン、キシレン、THF、ジクロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルムに可溶であり、ゲルの生成は認められなかった。また、共重合体Eのキャストフィルムは曇りのない透明なフィルムであった。
共重合体Eを2.0mmのスペーサーを介して、金型に入れ、200℃、1時間硬化を行った。得られた硬化シートを切り出し、光学特性、引張特性の測定及び熱分析を実施した。
その結果、全光線透過率:88.4%、屈折率:1.592、線膨張係数:87ppm/℃、吸水率:0.1%、耐溶剤性:A、ハンダ耐熱性:A、引張強度:1.57kgf/mm2、引張破断伸び:2.6%、引張弾性率:298kgf/mm2であった。
また、TMA測定の結果、軟化温度は300℃以上であった。TGA測定の結果、300℃に於ける重量減少量は3.6wt%、耐熱変色性はDであった。
【0071】
実施例で得られた共重合体A〜Dに比べて、共重合体Eは重量減少量及び耐熱変色性が劣り、全光線透過率、線膨張係数、引張強度、引張破断伸びなどの物性値が全体的に低下している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、チオール化合物及びチオエーテル化合物からなる群から選ばれる一種以上の連鎖移動剤(A)の存在下で、ジビニル芳香族化合物(a)を10〜98モル%及びモノビニル芳香族化合物(b)を90〜2モル%含有してなる単量体成分を、50〜200℃の温度で重合させることを特徴とする可溶性多官能ビニル芳香族共重合体の製造方法。
【請求項2】
可溶性多官能ビニル芳香族共重合体が、可溶性多官能ビニル芳香族重合体の数平均分子量Mnが500〜1000000であり、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比で表される分子量分布(Mw/Mn)が100.0以下であり、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、ジクロロエタン又はクロロホルムに可溶であり、更に、
【化1】

(式中、R1は炭素数6〜30の芳香族炭化水素基を示す。)
で表されるジビニル芳香族化合物(a)由来のビニル基を含有する構造単位(a1)のモル分率が、下式
(a1)/[(a)+(b)]≧0.10
(式中、(a)及び(b)はジビニル芳香族化合物(a)及びモノビニル芳香族化合物(b)に由来する構造単位のモル数、(a1)は構造単位(a1)のモル数を示す。)を満足する請求項1記載の可溶性多官能ビニル芳香族共重合体の製造方法。
【請求項3】
ジビニル芳香族化合物(a)がジビニルベンゼン、ジビニルビフェニルからなる群から選ばれる1種以上のジビニル芳香族化合物であり、モノビニル芳香族化合物(b)がスチレン、エチルビニルベンゼンからなる群から選ばれる1種以上のモノビニル芳香族化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の可溶性多官能ビニル芳香族共重合体の製造方法。

【公開番号】特開2008−239781(P2008−239781A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−81855(P2007−81855)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】