説明

可燃物及び燃料をそれぞれ得る方法

湿潤炭化水素バイオマスの存在下で、炭化水素バイオマスが熱分解するまで重質油を加熱することにより重質油を熱的に分解し、それにより可燃物及び燃料をそれぞれ形成し、加熱した重質油から分離し、続いて凝縮して、可燃物又は燃料を得る方法であって、バイオマスの量に対して1.0重量%以下の含水率の炭化水素バイオマスが使用されることを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿潤炭化水素バイオマスの存在下で、このバイオマスが熱分解するまで重質油を加熱することにより重質油を熱的に分解し、それにより可燃物及び燃料をそれぞれ形成し、加熱した重質油から分離し、続いて凝縮して、可燃物又は燃料を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱分解油を得るため、液相熱分解の間、キャリア油中で生物由来原料(biogenic feedstock)は温度約300℃〜350℃で変換されることが文献により知られている。このとき、通常は熱媒油(thermal oil)等のような不活性とされているキャリア油が用いられ、このようなキャリア油は耐熱性が非常に高く、バイオマスの熱分解反応に最小限しか関与しない。
【0003】
上記方法には、耐熱性キャリア油が高価であり、またこのキャリア油を液相熱分解に再利用する前には非常に高コストな手法で熱分解残渣から精製しなければならないという不都合がある。しかしながら、キャリア油を熱分解残渣から完全に損失なく精製及び分離することは経済的に不可能である。従って、キャリア油と所要触媒の消費量が増加するため、この方法によって可燃物と燃料をそれぞれ得るための製造コストは非経済的であることが多い。
【0004】
特許文献1には、接触油と称されるキャリア油を用いたバイオマスのオイリング法が示されている。このキャリア油は200℃以上の初留点を有し、該文献に記載の例示実施態様では従来の重質油をキャリア油として用いている。このオイリング法では、例えば木材や藁のように、糖類を含有し含水率が30重量%以下のバイオマスであれば、いかなるものも生物由来出発原料として使用できる。キャリア油に接触させる前にバイオマスを40℃から最大でも150℃の温度に加熱し、予熱状態で反応室に入れる。反応室内でバイオマスを予め用意した高温キャリア油に接触させ、200℃〜600℃の反応温度で切断する。続く再生工程では、反応相を低沸点留分と高沸点留分とに分け、高沸点留分の少なくとも一部をキャリア油として再利用する。
【0005】
このオイリング法は、反応室内で湿潤バイオマスを高温キャリア油に直接接触させる点で不利である。このとき、バイオマスの含水率をなるべく穏やかに低下させるために、反応室の外でバイオマスを予備乾燥したり予熱キャリア油に予備接触させたりすることはなく、また反応室に入れる前にバイオマスの含水率を測定することもない。バイオマスに含まれる水分によって、反応室内で望ましくない水蒸気の発生が増大し、そのため生成物の収量が減少し、生成物の品質が低下する。
【0006】
更に、このオイリング法では反応相に触媒分子篩等の固定床触媒を添加する。そのため、無触媒オイリング法と比較して操業コストが増加する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】US2007/0261996A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、湿潤炭化水素バイオマスの存在下で重質油を熱的に分解することによって可燃物又は燃料を得る方法であって、上記先行技術の問題を回避でき、切断生成物においてできる限り多くの短鎖炭化水素量を達成することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、請求項1の前文に準じ、請求項1の特徴部分に記載の特徴を有する、可燃物又は燃料をそれぞれ得る方法において達成された。従属項は本発明の更に有利な実施態様に関する。
【0010】
本発明の方法は、湿潤炭化水素バイオマスの存在下で、この炭化水素バイオマスが熱分解するまで重質油を加熱することにより該重質油を熱的に分解し、それにより可燃物または燃料をそれぞれ形成し、加熱した重質油から分離し、続いて凝縮して、可燃物又は燃料をそれぞれ得る方法であって、使用する炭化水素バイオマスの含水率を該バイオマスに対して1.0重量%以下とする方法である。
【0011】
重質油としては、例えば鉱油(特に鉱油精製時の高沸点残油)や植物性又は動物性の脂肪及び油を、単独で又は混合物の形態で使用してよい。重質油は250℃を超える温度で沸騰し始めるのが好ましい。
【0012】
本発明の製造方法では、重質油として、パーム脂肪酸蒸留物(PFAD)のような植物油精製の廃棄物や副生物を用いてもよい。
【0013】
炭化水素バイオマスとしては、セルロースを含む生物由来原料(木材、藁、パルプ、果実種子等)及びセルロースを含まない生物由来原料(藻、骨、又は動物の餌の残渣、下水汚泥等)の両方が使用できる。本発明では、植物油製造の搾油残渣(菜種ケーク等)も炭化水素バイオマスとして使用できる。
【0014】
炭化水素バイオマスができる限り低い窒素負荷を有する場合が有利である。それによって、燃料相へのNの導入が防止される。
【0015】
炭化水素バイオマスの含水率を該バイオマス量に対して1.0重量%以下とするために該バイオマスを乾燥することは、それ自体が公知の乾燥法によって達成される。このために、乾燥の前後にバイオマスの含水率を測定する。80℃〜200℃(特に約150℃)の温度がバイオマスを乾燥するのに有利である。
【0016】
本発明の方法の好ましい実施態様においては、用いる炭化水素バイオマスの含水率が該バイオマスの量に対して0.5重量%以下である。
【0017】
本発明の方法では、バイオマスは、重質油に、総質量に対して最大で30重量%の量で適切に含有される。
【0018】
ある方法では、本発明の変形例において、バイオマスは、重質油に、総質量に対して最大で20重量%の量で含有される。
【0019】
ある方法では、本発明の方法の他の変形例においては、バイオマスは、重質油に、総質量に対して5重量%未満の量で含有される。
【0020】
重質油中のバイオマスの量は、これらの総質量に対して0.001重量%以上である。
【0021】
本発明の方法では、驚いたことに少量のバイオマスが重質油の分解を引き起こすことが分かった。従って、通常は高コストな手法で処分する必要がある大量の安価な廃油又は残油を、比較的少量のバイオマスを用いて可燃物又は燃料を得るために、それぞれ重質油として利用することができる。したがって、本発明の方法は、できる限り多量のバイオマスを変換又は切断しようとする最新の公知オイリング法よりも、更に有利である。
【0022】
ある形態では、重質油を250℃〜450℃の温度に加熱するのが有利である。
【0023】
本発明の方法では、重質油を320℃〜400℃の温度に加熱するのが特に有利である。
【0024】
本発明の変形例は、ある方法において、重質油として原油蒸留の残油(特に減圧軽油)を用いることを想定している。
【0025】
驚いたことに、原油蒸留の残油又は重質油を用いる場合(特に減圧軽油(VGO)と共に用いる場合)、バイオマスが熱分解されるのみならず、重質油も少なくとも部分的に切断され、これにより短鎖炭化水素が形成され、全プロセスのためのこのやり方で更なる価値を創造できることが分かった。
【0026】
前記VGOは原油蒸留の間に底部の産物として蓄積する残油である。VGOは分解装置(熱分解装置又は触媒分解装置)で短鎖炭化水素を得るための原料として通常使用されている。方法によっては、この残油を分解するため、熱分解に最高で800℃の温度及び5バールの圧力が必要となる。これに対し、触媒分解には触媒温度は最高で550℃が使用され、触媒の再活性化が必要となる。
【0027】
ここで開示する本発明の方法の有利性は、反応器温度約350℃及び常圧という、従来の分解法に比べて穏やかな、VGOを切断するために必要とされる反応条件にある。本発明の方法において、従来の熱分解の温度よりも実質的に低い温度でも、VGOが短鎖炭化水素へと切断されることが示された。これはバイオマスを用いるとVGOの分解温度が低下することを示唆している。
【0028】
本発明の製造方法では、加熱した重質油(好ましくは減圧軽油)中で乾燥することによって含水率を調整した炭化水素バイオマスが、特に有利に使用される。
【0029】
加熱した重質油中で湿潤バイオマスを乾燥することにより、バイオマスの含水率が好都合にゆっくりと低下し、またバイオマスは既に重質油に接触する。重質油が含浸したバイオマスの乾燥は約150℃、最大で200℃までの温度で生じる。これによりバイオマスから出た水分は、例えば凝縮器等において回収及び分離する。次に重質油が含浸したバイオマスを更に加熱し、沸騰している重質油に接触させ、バイオマス存在下で重質油を分解する。
【0030】
本発明の方法の更なる実施態様においては、乾燥の後に分離法によってバイオマスを過剰の重質油から分離する。このとき、重質油中のバイオマスの量を、これらの総質量に対して15重量%を超える量、好ましくは25重量%を超える量とする。
【0031】
過剰重質油を分離するための分離法によって、乾燥後のバイオマスと共に過剰量の重質油が後の工程に供されてしまうことを防ぐ。この後の工程は乾燥よりも高い温度で行われ、供給された重質油により強く冷却される。過剰重質油をバイオマスから分離する分離法としては、例えば機械的分離法、特に、沈降法、遠心法、ろ過法、または圧縮法が提供される。
【0032】
以下、例示実施態様を記載し図面を参照することによって、本発明の更なる特徴を明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の方法の第1の好ましい実施態様を高度に単純化して示すプロセス図である。
【図2】本発明の方法の第2の好ましい実施態様を高度に単純化して示すプロセス図である。
【図3】実施例1においてバイオマスの含水率が精製重質油の切断量に与えた影響を示すグラフである。
【図4】実施例2においてバイオマスの含水率が減圧軽油の切断量に与えた影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の方法は、図1に高度に単純化して示すようなプラントで行うことができる。
【0035】
図1に示すように、プラントは基本的に乾燥器TR、反応器R、及び凝縮器Kを含む。乾燥器TRにおいて、バイオマスBMを温度約110℃〜200℃で予備乾燥し、攪拌により重質油SOEに接触させる。バイオマスBM及び重質油SOEを一緒に乾燥器TRに供給してもよい。これによりバイオマスから出た水分FBMは、例えば独立した凝縮器(図1に図示せず)等に回収する。
【0036】
反応器Rは加熱混合容器からなり、該容器内で温度250℃〜450℃で乾燥バイオマスBMを重質油SOE中に分散させ、次いで生成物へと変換する。反応器Rに重質油SOEを直接供給してもよい。乾燥器TR及び反応器Rは、例えば35ミリバールの小さな過圧を維持することで酸素の侵入を防ぐ不活性化(inertization)装置を備えている。分解中に生じた炭状固体FS及び余剰重質油SOEを反応器Rから引き出し、精製ユニット(図示せず)に供給する。残りの生成物は凝縮器Kに達する。ここで凝縮可能成分は凝縮され、油性生成物相P及びP、並びに水性生成物相Pへと分離される。更に、気相GPが凝縮器Kから分離される。
【0037】
本発明の方法の第1の好ましい実施態様は以下のように行う。
【0038】
反応器R及び乾燥器TRを重質油SOE(例えば減圧軽油(VGO))で満たし、加熱する。反応器Rは温度320℃〜400℃に加熱し、乾燥器は150℃に加熱する。バイオマスBMとしては初期含水率が約10重量%の予備乾燥した木材チップを用いる。このバイオマスを貯蔵容器からVGOで満たした乾燥器TRに連続的に導入する。乾燥器TRでは、攪拌器を用いてバイオマスをVGO中に分散させ、これによりバイオマスに物理的に固定されていた水が放出される。反応器Rに導入される水の量を減らすために、このように乾燥器TRでバイオマスの含水率が1重量%以下となるように予備乾燥する必要がある。このようにして反応器R中の未切断重質油の量が減少する。そうでなければ、立ちのぼる水蒸気によって未切断重質油が油性生成物相中に引き込まれる場合があり好ましくない。乾燥器TR中でバイオマスを乾燥することによって、蓄積していく再循環流の量も低減でき、後の再生工程に好都合である。
【0039】
乾燥後、バイオマスBMを反応器Rに移送し、ここで重質油(VGO)を実際に切断し、それに平行して液相熱分解が生じる。該反応器では、例えば常圧で320℃〜400℃の温度が使われている。
【0040】
バイオマスを供給すると、反応器Rで2つのプロセスが進行する。バイオマスの触媒作用によって、使用している重質油VGOの一部が直接凝縮可能な生成物(アルケン)へと切断される。この生成物は本方法における実際の油性生成物相を表す。導入された乾燥バイオマスBMは液相熱分解され、これにより熱分解ガス、熱分解炭、及び熱分解油に変換される。反応器中で生じた生成物ガスを凝縮器Kに供給し、直接液化可能な成分を凝縮する。蓄積した凝縮混合物を蓄積した熱分解油(水性)から液液分離で分離し、それから未切断重質油を分離するために精留する。その後、回収した重質油を反応器に戻す。
【0041】
操業時間が進行するにつれて、熱分解によってたまる固体FSが重質油SOE中に炭として蓄積する。固液分離によってこの固体FSを重質油SOEから分離する必要がある。この分離の後、固体FSを抽出によって重質油から除去でき、また粘着重質油(重質油含量約50%)と共に直接熱的に利用することもできる。
【0042】
可燃物又は燃料をそれぞれ連続的に得るための、本発明の方法の第2の好ましい実施態様を高度に単純化して図2に示す。機械式熱的前処理ユニットMTV(例えば1つ又は幾つかのミル)でバイオマスBMを125mm未満の粒子体積へと破砕する。前処理ユニットMTVでの機械的破砕の間に既にバイオマスの初期水分を水分FBMだけ減少させることができ、また初期水分を後の熱乾燥器で処理することもできる。このために、バイオマスから水分FBMを例えば凝縮分離器へと分離する。
【0043】
その後、乾燥器TR中で、破砕したバイオマスを予熱した重質油SOEに接触させ、温度110℃〜200℃で乾燥する。バイオマスと重質油とを強く接触させるために、乾燥器TRは混合装置を有し、また任意に輸送装置も有する。乾燥器TR中で強く接触させてバイオマスを予熱し、含水率がバイオマス量の1.0重量%以下となるまで乾燥する。濃縮されたバイオマスの水分FBMは、乾燥器TRから引き出し、同様に凝縮分離器に回収する。
【0044】
このように前処理したバイオマスBMを、続く処理工程SEPに供給する。処理工程SEPではバイオマスの機械的脱油を行い、過剰重質油SOEを再度分離して乾燥器TRへと戻す。このとき、重質油SOE中のバイオマスBMの量を、これらの総質量に対して25重量%を超えるように調整するのが好ましい。このようにして、できる限り少量の温度200℃以下の重質油SOEが次の反応器ユニットRに到達し、該ユニットを非常に強く冷却することができる。処理工程SEPでは、バイオマスから過剰重質油を分離するために、用いるバイオマスの要件及び組成それぞれに応じて、例えば篩、スクリュー押出機、又はデカンターを使用できる。処理工程SEP中、分離物の温度は110℃〜200℃に維持する。
【0045】
乾燥したバイオマスBMを反応器ユニットRに導入する。反応器ユニットRでは、250℃〜450℃の温度、0.1〜80バールの圧力、好ましくは大気圧に対して100ミリバール未満の過剰圧力という反応条件を用いる。安全上の理由から、反応器ユニットには不活性化装置を設置し不活性保護ガスで覆う。反応器ユニットRは、水蒸気を放出するため及び液体生成物相を引き出すための適当な排出口を有する反応器と、少なくとも1つの攪拌器及び/又は分散器とを含む。更に加熱器を備える。
【0046】
上部の蒸気性生成物が反応器R1から凝縮器Kに移動する。気相を凝縮するため凝縮器Kは多段構造を有していてよく、約450℃〜30℃の凝縮温度を想定して構成される。凝縮器Kは例えば固定ヘッド式管状熱交換器又は噴霧型冷却器として設計されてよく、気相GPとして放出される凝縮不可能なガスから液体生成物相を分離するために用いられる。
【0047】
分離ユニットSEPでは、例えば遠心分離器及び/又は重力分離器によって、液体生成物相を密度に応じて異なる留分に分割する。留分を更に親水性相と疎水性相とに分割することもできる。いくつかの生成物相P、P、及びPが得られ、例えばPは水を多く含む相である。油を多く含む生成物相P及びPは、それぞれ各組成に応じて、少なくとも初期生成物として、可燃物又は燃料としてのさらなる利用が可能である。
【0048】
分離ユニットSEPでは、分解反応により生じた底部の生成物を反応器Rから分離する。80℃〜450℃の操業温度で、過剰高沸点重質油SOEから固体FS(例えば炭、鉱物灰、および不完全に変換されたバイオマス)を分離して、当該方法から放出する。分離した重質油SOEは反応器R内に戻し、バイオマスの存在下で再度分解してよい。
【0049】
実施例1
ここで例示する実施例1で用いた条件を以下に列挙する。
【0050】
高沸点油の経済的及び効率的な分解に対してバイオマスの水分が及ぼす影響を調べるために、一連の実験を行った。いずれの場合も、1バールの圧力下での初留点が400℃を超え、分子長の最頻値がC3674の高沸点精製鉱油を、重質油として使用した。含水率が1.0重量%以下となるまでバイオマスを乾燥することによって、重質油の低沸点留分への所望の切断効率を明らかに向上させることができた。
【0051】
試験条件
反応器温度:350℃
反応器圧力:大気圧を10ミリバール超える過圧
重質油:Phi−Oil Katstart Gold 25
バイオマス:反応器に投入する前に異なる残留水分に前処理した無樹皮トウヒ木材チップ
【0052】
全ての実験において、いずれの場合も、試験設備を約1600gの重質油で満たし、温度350℃に加熱し、この温度で20分間維持した。バイオマスを添加しないと、重質油の熱分解による分解生成物が形成されることはなかった。各実験では、350℃に維持した重質油に、計270gのバイオマスを約10gずつ2.5時間かけて徐々に添加した。このとき各実験で異なる含水率となるようにバイオマスを予備乾燥した。
【0053】
図3は試験結果をまとめたものであり、バイオマスの含水率が高沸点精製重質油の切断に与える影響をグラフに示している。切断された重質油の量は、気相クロマトグラフで分離し、質量分析計で評価して決定した。バイオマスの含水率を2重量%以上に調整して行った実験と比較して、バイオマスを乾燥することにより含水率を1重量%以下まで低下させると、分解生成物の収量は最大約30%ほど増加した。
【0054】
実施例2
バイオマスを高温の重質油で前処理することによる影響を調べるために、長さが異なるバイオマスの前処理を含む一連の実験を行った。1バールの圧力下での初留点が約375℃の減圧軽油を、重質油として使用した。バイオマスの含水率をその1重量%以下に調整することによって、重質油の低沸点留分への所望の切断の効率を明らかに向上させることができた。
【0055】
試験条件
反応器温度:350℃
反応器圧力:大気圧を10ミリバール超える過圧
重質油:減圧軽油(VGO)
バイオマス:反応器に投入する前に異なる残留水分に前処理した無樹皮トウヒ木材チップ
【0056】
全ての実験において、試験設備を約1300gの重質油で満たし、所要温度350℃に加熱し、この温度で20分間維持した。この時間中、バイオマスを添加しないと、重質油の熱分解による生成物が形成されることはなかった。その後、各実験で、計270gのバイオマスを約10gずつ2.5時間かけて徐々に添加した。この試験時間中、重質油を温度350℃に維持した。添加したバイオマスは、各実験で異なる含水率が得られるように温度約150℃の重質油VGO中で予め前処理されていた。反応器に加える前に、バイオマスをろ過により機械的に固形分をその総質量の75重量%超とし、その結果バイオマスはろ過残渣として存在した。
【0057】
図4は結果をまとめたものであり、重質油VGO中で前処理したバイオマスの含水率が高沸点精製重質油VGOの切断に与える影響をグラフに示している。それによって切断された重質油の量は、上記と同様に、気相クロマトグラフで分離し、質量分析計で評価して決定した。バイオマスの含水率を2重量%以上に調整して行った実験と比較して、バイオマスを加熱した重質油中で乾燥することにより含水率を1重量%以下まで低下させると、分解生成物の収量が増加した。
【0058】
実施例1及び2の実験はいずれも触媒を添加せずに行った。関連文献により公知の無機触媒又はシリカ系触媒を添加して同様に行った試験でも同様の傾向を示した。即ち、添加するバイオマスの含水率がより高い場合と比較して、バイオマスの含水率を1重量%以下とすると、所望の切断生成物への変換が明らかに向上した。一般に、試験触媒を添加しても切断生成物の変換はほとんど増大せず、基本的には触媒を添加しない比較実験と同じであった。
【0059】
従って、本発明の方法において、可燃物又は燃料をそれぞれ得るために無機触媒又はシリカ系触媒の使用を省けることが有利である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿潤炭化水素バイオマスの存在下で、炭化水素バイオマスが熱分解するまで重質油を加熱することにより重質油を熱的に分解し、それにより可燃物及び燃料をそれぞれ形成し、加熱した重質油から分離し、続いて凝縮して、可燃物又は燃料を得る方法であって、バイオマスの量に対して1.0重量%以下の含水率の炭化水素バイオマスが使用されることを特徴とする方法。
【請求項2】
バイオマスの量に対して0.5重量%以下の含水率の炭化水素バイオマスが使用されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
バイオマスが、重質油中に、総質量に対して最大で30重量%の量で含有されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
バイオマスが、重質油中に、総質量に対して最大で20重量%の量で含有されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
バイオマスが、重質油中に、総質量に対して5重量%未満の量で含有されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
重質油を250℃〜450℃の温度に加熱することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
重質油を320℃〜400℃の温度に加熱することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
重質油として、原油蒸留の残油、特に減圧軽油を用いることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
加熱した重質油、好ましくは減圧軽油中で乾燥することによって、含水率が予め調整された炭化水素バイオマスが使用されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
乾燥の後に分離法によってバイオマスを過剰の重質油から分離し、重質油中に含有されるバイオマスの量が総質量に対して15重量%、好ましくは25重量%を超えるようにすることを特徴とする、請求項9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−503052(P2012−503052A)
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−527314(P2011−527314)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際出願番号】PCT/EP2009/062037
【国際公開番号】WO2010/031803
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(501158424)ビーディーアイ−バイオエナジー インターナショナル アーゲー (2)
【Fターム(参考)】