説明

可視光応答性を有し、光触媒活性に優れた酸化チタン系材料

【課題】可視光応答性を有し光触媒活性に優れた酸化チタン系材料を提供する。
【解決手段】アナターゼ型二酸化チタンと、水酸基と結合したチタンとを含む酸化チタン系材料であって、さらに、酸化チタン中に、Ti−C−Ti−O結合もしくはTi−N−Ti−O結合を形成している窒素及び炭素を合計で0.01〜40質量%含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光応答性を有し、光触媒活性に優れた酸化チタン系材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二酸化チタンの光触媒活性を用いた抗菌、抗臭、耐汚染性等を示す多くの製品が市場に出ている。また、チタン基材を用いて陽極酸化法と酸化性雰囲気での加熱を組み合わせることによって光触媒活性を発現することは特許文献1に開示されている。さらに、特許文献2では、陽極酸化層に酸化チタン粉体含有膜を積層することによって優れた光触媒活性を有するチタン系金属材料が開示されている。
【0003】
これらの光触媒活性を有する酸化チタン系材料は、基材が耐食性に極めて優れたチタンであることから各種の腐食環境でも使用することができ、さまざまな用途、例えば、建築物材、車両外装材、家電製品等、に応じて各種の形状に加工されて使用されている。
また、特許文献3には、酸化チタンを網状構造体として形成し、その光触媒活性を利用して海水、汚水、真水等の浄化、殺菌等に利用することが開示されている。
さらに、特許文献4、特許文献5では、酸化チタンの粉末を添加した浴中で陽極酸化処理を行うことによって、光触媒活性を有するチタン粒子を得ることが開示されており、これらの光触媒活性を有するチタン粒子は、バインダーと組み合わせて塗布することで各種の基材の耐汚染性、抗菌性向上等に利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−246192号公報
【特許文献2】特開平10−121266号公報
【特許文献3】特開2008−187910号公報
【特許文献4】特開2002−38298号公報
【特許文献5】特開2003−129290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、特許文献1に従って純チタンを陽極酸化し、しかる後大気加熱して基材上に酸化チタンを作成したが、十分な光触媒活性は得られなかった。特許文献2では陽極酸化チタン層に積層した酸化チタン含有粉体を積層しているが、このようにするのは陽極酸化と大気加熱の単なる組み合わせでは高い光触媒活性を得ることができないためと推察される。ただし、特許文献2のように陽極酸化後、さらに酸化チタン層を積層することは、密着性の観点から問題がある。さらに酸化チタン含有粉体を積層する分、コストが増大することになる。
【0006】
さらに、上記のチタン系材料は、基材上に陽極酸化により形成した酸化チタン被膜の密着性が十分でないために、その材料を板状体にしてプレス加工等を行った場合に、基材−陽極酸化被膜間に剥離が生じやすく、その結果、用途に応じた成形加工を行うことが困難であった。
また、通常、酸化チタンの光触媒活性は紫外線照射によって発揮されることから、特許文献3のような水中環境で用いられる網状構造体の酸化チタンや特許文献4、5のチタン粒子では、太陽光、照明器具による光照射では、紫外線量が少ないために、その光触媒活性を十分に発揮し得ないという問題点もあった。
【0007】
そのような問題を解決するために、本発明者らは、先に、アナターゼ型二酸化チタンを含む酸化チタン系材料であって、さらに、酸化チタン中に水酸基と結合したチタンを含むとともに、窒素や炭素を含有することにより、基材と酸化チタン層との密着性に優れ、かつ、可視光応答性を有し光触媒活性に優れるチタン系材料、及び可視光応答性を有し光触媒活性に優れる酸化チタン粒子を発明し、その発明を特許出願(PCT/JP2010/059583)したが、本発明では、光触媒活性の点で更に優れる酸化チタン系材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、先の発明により見出された、酸化チタン中の炭素と窒素に着目し更に検討を続けた結果、酸化チタン中で、Ti−C−Ti−O結合もしくはTi−N−Ti−O結合を形成している窒素及び炭素が光触媒活性に重要であることを新たに見出した。
その結果に基づいてなされた本発明の要旨とするところは、以下の通りである。
【0009】
(1) アナターゼ型二酸化チタンと、水酸基と結合したチタンとを含む酸化チタン系材料であって、さらに、酸化チタン中に、Ti−C−Ti−O結合もしくはTi−N−Ti−O結合を形成している窒素及び炭素を合計で0.01〜40質量%含有することを特徴とする、可視光応答性を有し光触媒活性に優れた酸化チタン系材料。
(2) 上記(1)に記載の酸化チタン系材料において、該酸化チタン系材料が、純チタンまたはチタン合金よりなる基材の表面に、陽極酸化処理により厚みが0.1μmから5.0μmの範囲で層として形成されたものであることを特徴とする酸化チタン系材料。
(3) 上記(2)に記載の酸化チタン系材料において、前記基材が板状体であることを特徴とする酸化チタン系材料。
(4) 上記(2)に記載の酸化チタン系材料において、前記基材が線状体であることを特徴とする酸化チタン系材料。
(5) 上記(1)に記載の酸化チタン系材料において、該酸化チタン系材料が、粒径が0.01μmから10μmの範囲の粒子として形成されたものであることを特徴とする酸化チタン系材料。
【発明の効果】
【0010】
本発明による酸化チタン系材料は、可視光応答性を有し、優れた光触媒活性を有するものである。
本発明の酸化チタン系材料は、陽極酸化処理により純チタンあるいはチタン合金基材上に酸化チタン層として形成することができ、その場合には、酸化チタン層と基材との密着性は良好であり、プレス成形等の加工を施した際に、酸化チタン層の剥離等を生じることはなく、用途に応じた種々の形状に加工することが可能である。
また、本発明による酸化チタン系材料は、粒子として形成することができ、その場合には、酸化チタン粒子を種々のバインダーと組み合わせて塗布することにより、紫外線量が少ない環境下であっても十分な光触媒活性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】TiC,TiO(アナターゼ型)の粉末及び本発明の板状試料に対して、X線吸収微細構造(XAFS)から動径分布を求めた結果の一例示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、光触媒活性に優れた酸化チタンを得るべく鋭意努力した結果、酸化チタン中に、アナターゼ型二酸化チタン及び水酸基と結合したチタンを含み、さらに、酸化チタン中に所定量の窒素と炭素を含有させることによって可視光応答性を有し、光触媒活性に極めて優れた酸化チタンを得ることができることを見出し、その酸化チタンが純チタンおよびチタン合金よりなる基材上に層として形成されたチタン系材料、あるいは酸化チタン粒子として形成されたチタン系材料として先に特許出願した。
【0013】
本発明では、酸化チタン中に含まれる窒素と炭素に着目してさらに検討した結果、窒素と炭素のうち、酸化チタン中に、Ti−C−Ti−O結合もしくはTi−N−Ti−O結合を形成している窒素と炭素が光触媒活性の向上に大きく影響することを見出したことを新たな特徴としている。
【0014】
そこで、まず、本発明の基礎となるアナターゼ型二酸化チタン及び水酸基と結合したチタンを含む酸化チタンについて説明し、続いて酸化チタン中の窒素と炭素の形態について説明する。
【0015】
光触媒活性の向上には、従来と同様に、酸化チタン中にアナターゼ型二酸化チタンが存在することが必要となる。
更に、酸化チタン層中あるいは酸化チタン粒子中には、水酸基と結合したチタンが存在することが必要である。
水酸基と結合したチタンが光触媒活性向上に必要な理由は、現時点では解明されていないが、従来のアナターゼ型二酸化チタンのみが光触媒活性向上に必要とされる従来知見とは全く異なる新たな知見である。
【0016】
酸化チタン系材料中のアナターゼ型二酸化チタンの存在は、X線回折を用いて次のようにして測定される。
(1)酸化チタン系材料が基材上に層として形成されている場合は、次の条件で試料のX線回折を行う。
X線:Cu/50kV/200mA
ゴニオメータ:RINT1000 広角ゴニオメータ
アタッチメント:薄膜用回転試料台
フィルタ:不使用
インシデントモノクロ:不使用
カウンタモノクロメータ:全自動モノクロメータ
発散スリット:0.2mm
発散縦制限スリット:5mm
受光スリット:開放
散乱スリット:開放
カウンタ:シンチレーションカウンタ(SC50)
走査モード:連続
スキャンスピード:2.000°/min
サンプリング幅:0.010°
走査軸:2θ
走査範囲:10.000〜100.000°
固定角:1.500°
得られた回折パターンにおいて、アナターゼ型二酸化チタンの(101)面のピーク(2θ=25.281度)が少なくとも20カウント/秒以上得られる場合にアナターゼ型二酸化チタンが存在すると判断される。
【0017】
(2)酸化チタンが粒子として形成されている場合は、粉末試料を用いて次の条件でX線回折を行う。
X線:Cu/40kV/150mA
ゴニオメータ:RINT1000 広角ゴニオメータ
アタッチメント:43サンプルチェンジャー(横型)
フィルタ:不使用
インシデントモノクロ:不使用
カウンタモノクロメータ:全自動モノクロメータ
発散スリット:1°
散乱スリット:1°
受光スリット:0.15mm
モノクロ受光スリット:0.8mm
カウンタ:シンチレーションカウンタ(SC50)
走査モード:連続
スキャンスピード:5.000°/min
サンプリング幅:0.020°
走査軸:2θ/θ
走査範囲:5.000〜100.000°
θオフセット:0.000°
得られたX線回折パターンにおいて、アナターゼ型二酸化チタンの(101)面のピーク(2θ=25.281度)が少なくとも100カウント/秒以上得られる場合にアナターゼ型二酸化チタンが存在すると判断される。
【0018】
酸化チタン系材料中に水酸基と結合したチタンが存在することの検証も、アナターゼ型二酸化チタンの場合と同様に、層として形成している場合と粒子手して形成されている場合に分けて次のようにして行う。
酸化チタン層中に水酸基と結合したチタンが存在することの検証方法は、グロー放電発光分析装置あるいは2次イオン質量分析計を用いて酸化皮膜中に水素が酸素とチタンと同じ位置から検出され、かつチタン素地の水素濃度の少なくとも5倍以上の濃度であれば水和した二酸化チタンが形成されていると判断される。
【0019】
また、酸化チタン粒子中に水酸基と結合したチタンが存在することの検証方法は、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy、以後XPSと略記する)分析を用いる。そして、XPSによる表面測定を行って得られるOlsスペクトルにおいて、TiOに起因する530eVのピークの高エネルギー側に、水酸基の結合に起因するピークが重なるため、531.5〜532eV付近にショルダーが観察されるので、前記スペクトルを波形解析することにより水酸基と結合したチタンが存在することが分かる。
【0020】
更に、酸化チタン中には、窒素および炭素が含有されていることが必要である。
本発明者らは、先の特許出願において、酸化チタン中に、炭素あるいは窒素が炭化チタンおよび窒化チタンの少なくとも1種以上の状態で存在することが、光触媒活性を示すために有利であることを明らかにしたが、さらに研究を進めた結果、炭化チタンもしくは窒化チタンの存在の有無とは別に、炭素あるいは窒素がTi−C−Ti−OもしくはTi−N−Ti−O結合の状態を取る場合に極めて優れた光触媒活性を示すことが判明し、本発明に至った。
【0021】
酸化チタン系材料中に、炭素、窒素がTi−C−Ti−O結合もしくはTi−N−Ti−O結合を形成している状態で含まれることによって光触媒活性が著しく向上することは、今までに報告されていない全く新しい現象である。
例えば、特開2005−240139号公報等により、チタン又はチタン合金の表面に、PVD、CVD、溶射等でチタン酸化物を形成した後、好ましくは硫酸及びリン酸を含有する電解液中で陽極酸化を行う光触媒用材料の製法が知られているが、陽極酸化皮膜中の炭素、窒素の存在についての知見はなく、また、可視光応答性についての知見もない。
また、特許第3601532号明細書や特開2005−254128号公報等により、酸化チタンに窒素あるいはさらに炭素等をドープし、可視光領域において光触媒作用を発現させることが知られているが、該膜中には水和した二酸化チタンが存在せず、かつ、窒素や炭素の存在状態も特に検討されていないため、可視光応答性が十分であるとはいえない。
【0022】
本発明者らは、まず、酸化チタン中の炭素あるいは窒素の存在状態を調査するため、酸化チタン中のチタンの構造を調べた。
酸化チタン中のチタンの構造および特定の構造を有するチタンの濃度を調べる実験的手法としては、XAFS(X-ray-Absorption Fine Structure:X線吸収微細構造)がある。
【0023】
このXAFSは、次のような原理に基づいている。
X線のエネルギーを増加させながら、材料の吸収率を測定すると、X線のエネルギーの増加に対応して減少する。しかし、材料に特定なあるX線のエネルギー(X線吸収端)においてその吸収率が急激に増加するX線のエネルギーが存在する。この際、X線の吸収によって発生した光電子の一部が、複数の原子による散乱と干渉によって、X線の吸収量に対し構造情報として反映される。つまり、X線の吸収量をモニタすれば、原子構造に関する情報が得られる。(例えば、宇田川康夫編、X線吸収微細構造、学会出版センター(1993))。これがXAFS法による構造解析の原理であり、これを用いると酸化チタン中のチタンの構造を求めることができる。
【0024】
次に、XAFS法による構造解析を用いて酸化チタン中のチタンの構造を求める方法について具体的に説明する。
X線のビームライン上に物質をおいた場合、物質に照射されたX線(入射X線:I0 )強度と物質を通過してきたX線(透過X線:It )強度とからその物質によるX線の吸収量(X線吸収係数)が算出される。X線吸収係数の増減をモニタしながらX線エネルギー(波長)を変化させ、X線吸収スペクトルを測定すると、あるエネルギー位置でX線吸収係数の急激な立ち上がり(吸収端)が観測される。この吸収端のエネルギー位置は元素に固有であるため、この吸収端付近のエネルギー領域で構造情報を抽出できれば、それは元素固有の情報であることを意味する。
【0025】
チタン元素の吸収端付近のエネルギー領域で、充分な精度でX線吸収スペクトルを測定すると、吸収端から高エネルギー側数百eVのエネルギー領域において、減衰を伴った微細な構造性振動が観測される。これを広域X線吸収微細構造(EXAFS:Extended X-ray-Absorption Fine Structure)と呼び、チタン元素近傍の局所構造(原子間距離や配位数)についての情報を含有している。X線吸収スペクトルから抽出されたEXAFSスペクトルに対し、適当な領域でフーリエ変換を行うと動径分布関数が得られる。この関数は、注目元素を中心とした電子密度の一次元分布であり、その極大値を示す距離には何らかの原子が位置し、その強度は位置している原子の電子密度に比例している。したがって、この動径分布関数を数値的に吟味することによって、注目元素についての構造情報を得ることができる。
【0026】
一方、吸収端前後の数10〜100eVの範囲のスぺクトルをから高エネルギー側数百eVのエネルギー領域において、減衰を伴った微細な構造性振動が観測される。これをX線吸収端構造(XANES:X-ray Absorption Near-Edge Structures)と呼び、チタン原子に近接する原子の立体配置等についての情報を含有している。試料のX線吸収スペクトルから抽出されたXANESスペクトルに対し、標準物質の測定により求めたスペクトル、もしくは、モデル構造から計算により求めたスペクトル、と比較することにより、試料中のチタンの構造を決定することが可能となる。
【0027】
測定は、分光結晶としてSi(111)チャンネルカットモノクロメーターを用い、X線エネルギーを4959.5eV〜5465.5eVの間を、四区間に分け、エネルギー間隔0.5〜6eVで走査し、透過法もしくは転換電子収量法により行った。試料が粉末の場合には、透過法を用いる。これは、試料をBNと混合し適当な濃度に調整した後、入射X線:I0 および、試料通過してきた透過X線:It 、の強度を、それぞれイオンチャンバーで測定した。積算時間は2〜10秒/点とした。試料が板状の場合には、転換電子収量法を用いる。これは、試料にX線が吸収された際に発生するオージェ電子の量を測定するもので、試料上面にアルミを蒸着したX線の透過可能な膜を配置し、試料と膜の間に500V程度の電圧をかけることにより、オージェ電子の量を測定する。
【0028】
EXAFS、XANES、により、本発明の酸化チタン中のチタンの構造を求めたところ、標準物質として測定したTiO,TiC,TiNとは異なるピークがあることが判明した。
詳細な検討の結果、これらのピークは、Ti−C−Ti−OもしくはTi−N−Ti−O結合の状態を取るチタン原子に相当することが判明した。つまり、試料のEXAFSもしくはXANESの測定を行って得られたスペクトルを、標準物質のスペクトルおよびTi−C−Ti−OもしくはTi−N−Ti−O結合の状態に対応するスペクトルにピーク分離することにより、Ti−C−Ti−OもしくはTi−N−Ti−O結合の状態に対応する炭素もしくは窒素の濃度を決定することができる。
【0029】
そこで、後述する陽極酸化法を用いてチタン合金基材上にアナターゼ型二酸化チタン及び水酸基と結合したチタンを含み、さらに窒素及び炭素を含有する酸化チタン層を形成する際、素材とするチタン合金基材の炭素濃度を変化させたり、窒素雰囲気での熱処理条件を変化させたりする方法で、炭素や窒素の濃度の異なる酸化チタン層を形成し、上記手法で求めた酸化チタン中のi−C−Ti−OもしくはTi−N−Ti−O結合の状態に対応する炭素もしくは窒素の濃度と光触媒活性との関係を調べた。
【0030】
その結果、Ti−C−Ti−OもしくはTi−N−Ti−O結合の状態に対応する炭素もしくは窒素の合計の濃度が0.01重量%以上、40重量%以下であると、充分な光触媒活性が得られることが判った。
この理由は、前記炭素もしくは窒素の合計の濃度が0.01重量%以下では、Ti−C−Ti−O結合もしくはTi−N−Ti−O結合の割合が少なく、充分な光触媒活性を得られないからである。また、炭素もしくは窒素の合計の濃度が40重量%を超えると、Ti−C−Ti−O結合もしくはTi−N−Ti−O結合の割合が多くなりすぎ、バルクのTiCもしくはTiN的な構造となり、充分な光触媒活性を得られないからと推察される。この点から前記合計濃度のより好ましい範囲は0.01重量%以上、20質量%未満である。
【0031】
Ti−C−Ti−O結合もしくはTi−N−Ti−O結合を形成している窒素及び炭素の合計濃度のさらに好ましい範囲は、0.01質量%以上、1質量%未満である。これは、Ti−C−Ti−O結合もしくはTi−N−Ti−O結合に寄与しない、単純なTiC、TiNの析出物の量が多くなりすぎず、かつ、Ti−C−Ti−O結合もしくはTi−N−Ti−O結合に寄与するTiと悪い相互作用しないためである。
【0032】
このような酸化チタン系材料は、基材上に直接層として形成するか、あるいは粒子として形成することによって実現される。
酸化チタン系材料を、後述する陽極酸化法を用いて直接、チタン基材上に層として形成する場合において、上記のような効果を得るには、酸化チタン層の厚みは0.1μm以上5.0μm以下が好ましい。厚みが0.1μm未満では十分な光触媒活性を発現することができない。一方、厚みが5.0μmを超えると光触媒活性値はほぼ飽和し、さらに基材と酸化チタン層の密着性が低下する。
【0033】
酸化チタン層の厚みは、グロー放電発光分析装置を用いて表面から深さ方向にチタン、酸素、炭素、窒素の元素濃度分布を測定し、表面での酸素濃度が半減する位置を酸化チタン層の厚みと定める。なお、深さの同定は、分析後、触針式の表面粗度計(分解能0.1μm)を用いてグロー放電でえぐられた深さを測定し、測定時間で割って深さの定量評価を実施する。
【0034】
また粒子として形成する場合は、粒径が0.01μmから10μmの範囲とする。
粒径が0.01μm未満や10μm超では、基材上にスラリーとして塗付する場合、粒子の分散が均一に行われないからである。
粒子とする場合の粒径の測定は、電子顕微鏡およびX線を用いて測定することができる。なお、X線を用いた場合は、サブμmの範囲まで測定可能で、それより小さい粒子の場合は電子顕微鏡を用いて測定することができる。
【0035】
上記のような酸化チタン系材料を基材上に層として直接形成するには、純チタンあるいはチタン合金を基材として用いた陽極酸化法がある。
本発明では、水酸基と結合したチタンを含有させることを特徴の一つとしているが、水酸基と結合したチタンを形成するには、水溶液を用いた酸化チタン層の形成処理方法が必要であり、陽極酸化法はその点でも好適である。
また、上記のような酸化チタン粒子を形成する方法としても陽極酸化法がある。この場合には、形成された酸化チタン層から酸化チタンが剥離する現象を利用する。
【0036】
また、陽極酸化法は、工業的に確立された方法であり、イオン伝導性を有する適当な水溶液中に純チタンあるいはチタン合金を浸けて、上記水溶液中に化学的に安定で導電性を有した陰極版(通常はステンレス鋼)を浸けて、チタンあるいはチタン合金を陽極として各種の電圧をかけるものである。このように、陽極酸化皮膜は水溶液中でチタン表面に形成される酸化チタンの皮膜であり、PVD,CVD、溶射、大気酸化のような水溶液を使用しない方法で形成される酸化チタンとは異なっている。
【0037】
陽極酸化皮膜中あるいは酸化チタン粒子中に炭素と窒素の一方あるいは両方を炭素、窒素がi−C−Ti−O結合もしくはTi−N−Ti−O結合を形成している状態で含まれるようにするには、陽極とする純チタンあるいはチタン合金基材に、予め炭素と窒素の一方あるいは両方を含有させておく方法がある。
【0038】
例えば、純チタンあるいはチタン合金の表面層(μmオーダー範囲)に予め浸炭しておく方法があるが、この方法を工業的に実施するには、チタンあるいはチタン合金よりなる素材を冷間圧延によって薄板とする時に、潤滑油に起因した炭素がチタン中に侵入させるような圧延を行い、その後、熱処理することによって表面層に浸炭層を形成させるようにする。
また、酸化チタン粒子にも適用できる方法としては、炭素あるいは炭素を含む有機、無機化合物をチタンあるいはチタン合金表面に塗布し、熱処理することによってチタンあるいはチタン合金の表面層に浸炭層を形成する方法がある。
【0039】
なお、浸炭処理のみを実施した後、チタンあるいはチタン合金を窒素、あるいは窒素と他の不活性ガスあるいはチタンあるいはチタン合金と反応を生じないガスとの混合ガス雰囲気中で加熱して、浸炭層、浸窒化層の両者を作ってもよい。
また、浸炭処理だけも、濃度を変えた硝酸イオンを含む溶液中で陽極酸化することにより酸化チタン中に窒素を含有させることは可能であるので、浸炭処理のみ実施してもよい。
さらには、このような浸炭層あるいは窒化層を形成せずに、例えば、硝酸とフッ酸の混合酸溶液中で酸洗した純チタンおよびチタン合金基材に対し陽極酸化法を施すと、陽極酸化膜中に炭素および窒素が含有されるため、酸洗仕上げした純チタンおよびチタン合金を用いてもよい。
【0040】
上記のように浸炭層あるいは窒化層を形成した純チタンあるいはチタン合金を陽極とし、適当な金属を陰極として陽極酸化を行う。
その際、アナターゼ型二酸化チタンと、水酸基と結合したチタンとを含み、かつ、酸化チタン中に、Ti−C−Ti−O結合もしくはTi−N−Ti−O結合を形成している窒素及び炭素を合計で0.01〜40質量%含有した酸化チタン層及び酸化チタン粒子を形成するためには、次のような条件で陽極酸化を行うとよい。
【0041】
陽極酸化によって優れた光触媒活性を得るためには、溶液中に硝酸イオンを含有させることが必要である。そのような効果を得るために硝酸イオン濃度は、少なくとも0.01M以上とするのがよい。硝酸イオンは、その添加量を増加したことによって特段の悪影響を及ぼすことはないので、硝酸イオンの添加量の上限は、それぞれの硝酸塩の飽和濃度とする。
硝酸イオンとしては、硝酸水溶液あるいは硝酸塩として添加することができる。代表的な硝酸塩としては、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸リチウム、硝酸アンモニムがあるが、他の硝酸金属塩を用いても良い。
【0042】
なお、水溶液中に硝酸イオンが含まれる場合に何故、陽極酸化チタンが優れた光触媒活性を示すかは不明な点が多く、比表面積、酸化チタンの結晶構造などだけでは説明できない新たな知見である。先に述べたように、硝酸イオンの添加量の上限には特に制限はなく、各硝酸塩の飽和濃度まで効果を発現することができる。なお、硝酸イオン添加量のより好ましい範囲は、0.1M以上飽和濃度までである。
【0043】
また、陽極酸化電圧については、酸化チタン層を形成する場合には、少なくとも10V以上で30秒以上60分以下の陽極酸化電圧を印加するのがよい。
陽極酸化電圧が10V未満では、酸化チタン中に、Ti−C−Ti−O結合もしくはTi−N−Ti−O結合を形成している窒素及び炭素を合計で0.01質量%以上形成することができず、すぐれた光触媒活性を得ることができない。また、陽極酸化時間が30秒未満でも十分な光触媒活性を得ることができず、厚みが0.1μm以上の酸化チタン層を形成できない。一方、陽極酸化時間が60分を越えても生成する陽極酸化膜の厚みはほとんど変化しないことから、陽極酸化時間は60分で十分である。
【0044】
また、形成される酸化チタン層の外観は陽極酸化電圧によって次のように変化する。
陽極酸化電圧を10V以上18V未満とすると、優れた光触媒活性と共に干渉色の美麗な外観を得ることができる。
陽極酸化電圧が18V以上25V未満の場合には、優れた光触媒活性と共に落ち着いた緋色の外観を得ることができる。18V未満あるいは25V以上では落ち着いた緋色の外観を得ることはできない。
これらの電圧での陽極酸化時間は、上述と同様に30秒以上60分以下である。ただし、60分を越えて陽極酸化を実施しても何等問題はない。
【0045】
陽極酸化電圧が25V以上の場合には、優れた光触媒活性と共により明度の低下した灰色の外観を得ることができる。ただし、陽極酸化電圧が100V以上になるとチタンの部分溶解が生じ、チタンの溶出が著しく顕著となるため陽極酸化電圧は100V未満とする。この場合も陽極酸化時間は30秒以上60分以下とする。ただし、この電圧領域では上述のようにチタン自体の溶出が顕著のため60分を越えて陽極酸化することは好ましくない。
【0046】
酸化チタン粒子を陽極酸化法によって形成する際の条件は次のようにする。
陽極酸化電圧としては、少なくとも10V以上を印加する必要がある。酸化チタン粒子は、陽極として用いた純チタンあるいはチタン合金表面の酸化チタン層が剥離することによって形成されるものであり、陽極酸化電圧が低い場合は長時間の陽極酸化時間が必要であり、高電圧になるほど短い陽極酸化時間で形成できる。
【0047】
陽極酸化電圧が10V未満では、純チタン等の表面上で酸化チタン粒子の生成が生じない。なお、生成した酸化チタン粒子は、純チタン等の表面に残存および溶液中に沈殿するため、溶液を分離することで酸化チタン粒子を得ることができる。なお、より好ましい陽極電圧範囲は、30V以上100V未満である。
【0048】
また、陽極酸化時間が30秒未満でも十分な光触媒活性を得ることができず、一方、陽極酸化時間が60分を越えると上述のごとくチタン系材料自体の溶出が顕著となるため、陽極酸化時間は好ましくは60分を上限とする。ただし、これより長い時間、陽極酸化を実施しても問題はないが、歩留まり低下する観点から上限を60分とすることが好ましい。
【0049】
なお、陽極酸化は通常、室温で行うため、冬季と夏期で5℃から30℃程度の変動があるが、酸化チタン層及び酸化チタン粒子を形成するいずれの場合でも、光触媒性能に及ぼす温度の影響はない。また、夏期時、陽極酸化時のジュール発熱で溶液温度が50℃近くまで上昇する場合もあるが、光触媒活性に及ぼす悪影響はない。
【0050】
また硝酸イオンを含む水溶液中で陽極酸化する場合、その後の大気中での熱処理によって更に光触媒活性を向上させることができる。
このような効果を発現させるには、陽極酸化処理後に、少なくとも200℃以上の温度で加熱することが必要となる。ただし、750℃を越えて加熱すると光触媒活性が低下するため、750℃を上限とする。
【0051】
加熱時間については、大気中で少なくとも1分以上は加熱しないと十分な光触媒活性向上効果を得ることができない。ただし、24時間を超えて加熱しても光触媒活性の効果が飽和するので24時間を上限とする。これは硝酸イオンを含む水溶液中で陽極酸化した純チタンあるいはチタン合金を大気加熱することによって初めて得ることができる優れた光触媒活性である。なお、より好ましい加熱温度範囲は300℃から600℃である。
【0052】
また、硝酸イオンを含む水溶液のpHを12以上15以下とすることによって陽極酸化材の光触媒活性を大幅に向上することができる。詳しい機構は不明であるが、水溶液をアルカリにする場合のカチオン種は大きな影響を与えない。したがって、苛性ソーダ、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化アンモニウムあるいは金属水酸化物を用いても良い。ただし、pH15を超えると光触媒活性の性能が飽和し、さらに極めて強アルカリ溶液で作業の安全性の観点から問題を生じることからpH15を上限とする。陽極酸化電圧は少なくとも10V以上は必要であるが、100V以上になるとチタンの溶解反応が著しく促進されるため、100V未満とする。また、陽極酸化時間は、少なくとも30秒以上の必要であるが、60分を越えるとその効果が飽和するため、60分を上限とする。
【0053】
本発明の酸化チタン層を陽極酸化法で形成する場合に使用する基材としては、純チタン(JIS1種から4種)、チタン合金(JIS11種、12種、13種、21種、60種、60E種、61種およびASTM Gr.12などを用いることができる。
そのような純チタン及びチタン合金を素材として用い、例えば、板状体や線状体に加工した後、上述したような陽極酸化処理をして、可視光応答性を有し、光触媒活性に優れた酸化チタン系材料を得る。
【0054】
酸化チタン系材料の基材が板状体や線状体であれば、工業的には、連続長尺コイルとして大量生産が可能であり、かつ、それを用いて用途に応じたさまざまな形状に加工できる。板状体の場合、さらに箔に加工すれば、既存のものの表面への適用が容易になる。
また、基材をあらかじめ用途に応じた形状に加工してから陽極酸化処理をしたものでもよい。
酸化チタン系材料を網状構造体に形成する場合、予め陽極酸化処理を施して光触媒活性を付与した線状材料を用いて網状構造体とすることもできるし、陽極酸化処理をしていない線状材料で網状構造体を形成した後に、網状構造体全体に対して陽極酸化処理を施すことによって光触媒活性が付与された網状構造体とすることもできる。
さらに、網状構造体は、線状材料を用いて形成したものに限らず、板状体に多数の切れ目を入れ、その板状体を引っ張って拡張することにより製造するエキスパンドメタルであってもよい。
【0055】
酸化チタン粒子の場合は、上記のような純チタン及びチタン合金を素材として用い、上述したような陽極酸化処理をして、可視光応答性を有し、光触媒活性に優れたチタン系材料を得る。
【実施例1】
【0056】
表1〜4で示す純チタンおよび各種チタン合金を素材として用い、1mm厚さまで冷延して連続した長尺コイル材を作製し、洗浄無しで570℃から700℃の各温度においてアルゴンガス中で5時間加熱することによって炭素濃度、浸炭層深さを変化させた純チタンおよび各種チタン合金製板状体の試験基材を準備した。
また、上記1mm厚さまで冷延した長尺コイル材の一部をさらに15μmの厚さまで冷延し、アルゴン雰囲気中あるいは窒素雰囲気中で750℃から950℃の各温度で20秒から70秒の各時間熱処理することによって純チタン箔およびチタン合金箔の試験基材を製造した。
【0057】
陽極酸化は、5g/lから20g/lの硝酸アンモニウム溶液中で純チタンおよび各種チタン合金製の試験基材を陽極、SUS304鋼を陰極として室温で24Vから80Vの電圧を2分間かけることによって、陽極酸化層の厚み、アナターゼ型二酸化チタンおよび水酸基と結合したチタンの有無および陽極酸化皮膜中の窒素濃度および炭素濃度を変化させた試料を準備した。
【0058】
チタン基材表面に形成した酸化チタン層中で、Ti−C−Ti−O結合もしくはTi−N−Ti−O結合を形成している窒素及び炭素の濃度を以下の方法で決定した。
測定は、分光結晶としてSi(111)チャンネルカットモノクロメーターを用い、X線エネルギーを4959.5eV〜5465.5eVの間を、四区間に分け、エネルギー間隔0.5〜6eVで走査し、透過法もしくは転換電子収量法により行った。
【0059】
標準試料であるTiN,TiC,TiO(アナターゼ型)の粉末の場合には、透過法を用いた。これは、試料通過してきた透過X線の強度を測定するもので、試料をBNと混合し適当な濃度に調整した後、入射X線:I0 および、試料通過してきた透過X線:It 、の強度をそれぞれイオンチャンバーで測定した。積算時間は2〜10秒/点とした。
【0060】
板状等の本発明の試料の場合には、転換電子収量法を用いた。これは、試料にX線が吸収された際に発生するオージェ電子の量を測定するもので、試料上面にアルミを蒸着したX線の透過可能な膜を配置し、試料と膜の間に500V程度の電圧をかけることにより、オージェ電子の量を測定した。
【0061】
X線吸収微細構造(XAFS)から以下の様な手順測定で動径分布を求めた。
測定されたXAFSスペクトルから、定数項を加えたVictoreenの式(Cλ3 −Dλ4 +Const.)を用いてバックグランドを差し引き、Cubic−Spline(weight)法により孤立原子の吸光度を見積もりEXAFS信号を抽出し、フーリエ変換を行って、動径分布を得た。
【0062】
TiC,TiO(アナターゼ型)の粉末および板状の本発明の試料について、得られた結果の一例を図1に模式図で示す。
図1中、TiCおよびTiO中の、Ti原子の第一および第二近接のピーク(下向き矢印で示す)が明瞭に確認できる。このピークの位置がチタン原子から近接する原子までの距離を表し、ピークの高さが近接の原子または配位子の個数を表している。
【0063】
板状の本発明の試料のスペクトルには、TiCおよびTiO中の、Ti原子の第一および、第二近接のピークに対応するピーク以外に、※印のピークが明瞭に観察される。
これはTi−C−Ti−OもしくはTi−N−Ti−O結合に起因すると考えられるピークである。つまり、板状の本発明の試料のスペクトルを、TiCおよびTiOに起因するピーク、およびTi−C−Ti−OもしくはTi−N−Ti−O結合に起因するピーク、からの寄与の和として計算し、実験スペクトルと計算スペクトルを近くなるようにフィティングすることにより、総チタン中のTi−C−Ti−OもしくはTi−N−Ti−O結合の状態を取る炭素もしくは窒素の原子濃度を求めることができる。
【0064】
光触媒活性の評価は、次のようにして行った。
上蓋付きの透明プラスチックケースに、幅15mm、長さ25mm、厚み0.4mmの寸法に切断した上記の各種の陽極チタンを、板面を上にして入れる。そこに0.01g/lのメチレンブルー溶液50ccを入れて、ケースを上部から15Wのブラックライト2本(東芝ライテック(株)社製、FL−15BLB−A)により30分間照射し、照射後、分光光度計(日立製:U−2910)を用いて667nmでの吸光度を測定し、試験片を入れていない溶液の吸光度をブランクとして差し引き、その値を光触媒活性の評価に用いた。その際に用いた溶液を入れた容器は、厚み1.2mmの石英製のセルで、長さは10mmである。
なお、装置自体のバックグランドを除去するために、吸光度の測定時には、蒸留水を入れた同様なセルを同時に測定して装置のバックグラウンドを除去した。
【0065】
上記の評価試験は、20℃に設定した室内で実施した。なお可視光応答性の評価は、紫外線遮蔽フィルムを透明プラスチックケースに貼り付け、紫外線が遮蔽されていることを確認し、上部から15Wの蛍光灯2本により300分間照射し、照射後、分光光度計を用いて667nmでの吸光度を測定し、試験片を入れていない溶液のみの吸光度をブランクとして差し引き、その値を光触媒活性の評価に用いた。上記の評価試験は20℃に設定した室内で実施した。用いたセルおよび装置のバックグラウンドの除去方法は、上述と同様な方法で実施した。
なお、ブランクの吸光度を差し引いた後、数値がマイナスとなった場合には、便宜上、0.00と表中に記した。
この数値が0.00の場合は、光触媒活性(応答性)無し、0.01以上で光触媒活性(応答性)有りと判断できる。
【0066】
表1〜3の本発明A1〜A71が、本発明の実施例である。
表1〜3の結果から、アナターゼ型二酸化チタンと水酸基と結合したチタンが存在し、かつ酸化チタンの皮膜中に、Ti−C−Ti−O結合もしくはTi−N−Ti−O結合が存在し、それらの結合を形成している窒素及び炭素の合計濃度が0.01〜40質量%の間で含む、本発明A1〜A71は良好な光触媒活性を示すことが分かる。その中でも、窒素及び炭素の合計濃度が0.01〜1質量%の場合(本発明A1、2、13、14、19、20、31、32、37、38、46、47、57、58、59、64、65)は、更に優れた光触媒活性を示すことが分かる。またいずれの場合も、「光触媒評価試験結果(紫外線遮蔽し蛍光灯照射)」からも分かるように、可視光応答性も示した。
なお、この実施例では、チタン酸化層の厚みが0.1〜5μmの範囲で上記効果が得られることが確認された。
【0067】
表4は本発明に対する比較例である。酸化チタン層にアナターゼ型二酸化チタンが存在しない場合(比較例B4)あるいは酸化チタン層中にTi−C−Ti−O結合もしくはTi−N−Ti−O結合が存在しない場合(比較例B1、B4)、Ti−C−Ti−O結合もしくはTi−N−Ti−O結合を形成している窒素あるいは炭素の合計濃度が0.01%未満の場合(比較例B1〜B3)、前記合計濃度が40%を超えている場合(比較例B4)には光触媒活性が生じていないことが分かる。
【0068】
なお、本発明の酸化チタン層を形成した板状材について、密着性試験を実施したところいずれの場合にも酸化チタン層の剥離が生じることがないことを確認している。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
【表3】

【0072】
【表4】

【実施例2】
【0073】
素材として表5〜8に示す純チタンおよび各種チタン合金の板及び箔を用い、570℃から700℃の各温度においてアルゴンガス中で5時間加熱することによって炭素濃度、浸炭層深さを変化させた素材を準備した。
陽極酸化は、5g/lから20g/lの硝酸アンモニウム溶液中で純チタンおよび各種チタン合金を陽極、SUS304鋼を陰極として室温で24Vから80Vの電圧を2から10分間かけることによって、水酸基と結合し、さらにアナターゼ型二酸化チタンを含有し、さらに酸化チタン粒子中の窒素濃度および炭素濃度を変化させた酸化チタン粒子を生成させ、これを試料として準備した。
【0074】
酸化チタン粒子中のTi−C−Ti−O結合もしくはTi−N−Ti−O結合を形成している窒素及び炭素の濃度を、標準試料と同様に透過法を用い、実施例1と同様の方法で決定した。
【0075】
また、光触媒活性の評価は、陽極酸化法によって作製された酸化チタン粒子40mgを15mm×25mmの粘着テープの粘着面に付着させ、上蓋付きの透明プラスチックケースに、付着面を上にして入れ、そこに0.1Mのヨウ化カリウム溶液50ccを入れて、上部から15Wのブラックライト2本(東芝ライテック(株)社製、FL−15BLB−A)を30分間照射し、照射後、分光光度計(日立製:U−2910)を用いて287nmでの吸光度を測定し、試験片を入れていない溶液の吸光度をブランクとして差し引き、その値を光触媒活性の評価に用いた。溶液を入れた容器は厚み1.2mmの石英製のセルで、長さは10mmである。なお、装置自体のバックグランドを除去するために、吸光度の測定時には、蒸留水を入れた同様なセルを同時に測定して装置のバックグラウンドを除去した。
【0076】
上記の評価試験は、20℃に設定した室内で実施した。なお可視光応答性の評価は、紫外線遮蔽フィルムを透明プラスチックケースに貼り付け、紫外線が遮蔽されていることを確認し、上部から15Wの蛍光灯2本を300分間照射し、照射後、分光光度計を用いて287nmでの吸光度を測定し、試験片を入れていない溶液のみの吸光度をブランクとして差し引き、その値を光触媒活性の評価に用いた。上記の評価試験は20℃に設定した室内で実施した。用いたセルおよび装置のバックグラウンドの除去方法は、上述と同様な方法で実施した。
なお、ブランクの吸光度を差し引いた後、数値がマイナスとなった場合には、便宜上、0.00と表中に記した。この数値が0.00の場合は、光触媒活性(応答性)無し、0.01以上で光触媒活性(応答性)有りと判断できる。
【0077】
表5〜7の本発明A72〜A142が、本発明の実施例である。
表5〜7の結果から、アナターゼ型二酸化チタンと水酸基と結合したチタンが存在し、かつ酸化チタン粒子中に、Ti−C−Ti−O結合もしくはTi−N−Ti−O結合が存在し、それらの結合を形成している窒素及び炭素の合計濃度が0.01〜40質量%の間で含む、本発明A72〜A141は良好な光触媒活性を示すことが分かる。その中でも、窒素及び炭素の合計濃度が0.01〜1質量%の場合(本発明A72、73、84、85、90、91、101〜103、108、109、117、118、128〜130、135、136)は、更に優れた光触媒活性を示すことが分かる。また、いずれの場合も、「光触媒評価試験結果(紫外線遮蔽し蛍光灯照射)」からも分かるように、可視光応答性も示した。
なお、この実施例では、酸化チタン粒子径が0.01〜10μmの範囲で上記効果が得られることが確認された。
【0078】
【表5】

【0079】
【表6】

【0080】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の酸化チタン系材料は、可視光応答性を有し、優れた光触媒活性を示すため、耐汚染性、抗菌性等の用途に適しており、建材、医療分野、水処理分野での適用に適している。
本発明の酸化チタン系材料が板状体として形成されている場合は、基材との密着性に優れているので、加工を施すことによって任意の形状に成形可能であり、より広い範囲の分野に適用することができる。また、板状体が網状構造体である場合は、可視光応答性を有し、優れた光触媒活性を示すため、海水、汚水、真水等の浄化、殺菌等の用途に好適である。
本発明の酸化チタン系材料が酸化チタン粒子として形成されている場合は、バインダーと組み合わせることにより、基材の種類を問わず塗布することができ、より広い範囲の分野に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナターゼ型二酸化チタンと、水酸基と結合したチタンとを含む酸化チタン系材料であって、さらに、酸化チタン中に、Ti−C−Ti−O結合もしくはTi−N−Ti−O結合を形成している窒素及び炭素を合計で0.01〜40質量%含有することを特徴とする、可視光応答性を有し光触媒活性に優れた酸化チタン系材料。
【請求項2】
請求項1に記載の酸化チタン系材料において、該酸化チタン系材料が、純チタンまたはチタン合金よりなる基材の表面に、厚みが0.1μmから5.0μmの範囲で層として形成されたものであることを特徴とする酸化チタン系材料。
【請求項3】
請求項2に記載の酸化チタン系材料において、前記基材が板状体であることを特徴とする酸化チタン系材料。
【請求項4】
請求項2に記載の酸化チタン系材料において、前記基材が線状体であることを特徴とする酸化チタン系材料。
【請求項5】
請求項1に記載の酸化チタン系材料において、該酸化チタン系材料が、粒径が0.01μmから10μmの範囲の粒子として形成されたものであることを特徴とする酸化チタン系材料。

【図1】
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【公開番号】特開2012−115753(P2012−115753A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266891(P2010−266891)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(593112816)株式会社東陽理化学研究所 (4)
【Fターム(参考)】