説明

可食性シート、可食性シート接合体、及び薬物包装体

【課題】
口溶け性に優れ、嚥下が容易であり、不快な味覚を有する薬物、食物を服用、摂取する際に、その不快な味覚を抑制でき、口腔内が粘つくという不快感を与えることのない、可食性シート、可食性シート接合体、及び、塩基性薬物の苦味が抑制され、口溶け性に優れ、嚥下が容易である薬物包装体を提供する。
【解決手段】
塩基性基含有化合物(a1)及びアニオン性高分子(a2)を含むマスキング剤(A)、水溶性微粒子(B)、並びに非イオン性水溶性高分子(C)を含有する材料から形成され、内部に水溶性微粒子(B)が分散状態で存在することを特徴とする可食性シート;前記可食性シートが袋状に加工されてなる可食性シート接合体;並びに、前記可食性シートによって、塩基性薬物が包装されてなる薬物包装体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口溶け性に優れ、嚥下が容易であり、不快な味覚を有する薬物等を服用、摂取する際に、その不快な味覚を抑制できる可食性シート、可食性シート接合体、及び薬物包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品や医薬品等の包装材や担体等として可食性シートが用いられるようになってきている。例えば、香料等を含有させた口中清涼フィルムや消臭成分等を含有させた口臭予防フィルムとして可食性フィルムが使用されている。また、医薬活性成分を含有させたフィルム状製剤についても開発が行われている。
【0003】
従来、可食性フィルムとしてオブラートが知られている。これは、α化デンプンを薄膜状にしたものであり、薬を服用する際における補助製品として使用されているものである。また、このα化デンプンを利用して、袋状の容器として食品や医薬品を包装することが特許文献1に開示されている。さらに、セルロース系の高分子物質等を用いた速溶性フィルム状製剤が特許文献2に開示されている。
【0004】
しかしながら、従来の可食性フィルムで嚥下物を包みこんだものを服用した場合においては、口腔内において可食性フィルムが崩壊するまでに時間を要し、口腔内が粘ついて不快感を与える場合があった。
【0005】
この問題を解決するフィルムとして、ヒドロキシプロピルセルロースを含有する水溶性フィルムの内部に、水溶性微粒子が分散状態で存在する可食性フィルムが特許文献3に開示されている。当該フィルムは、口腔内崩壊時間が短く、良好な口溶け性を有するが、特許文献3には、薬物等に起因する苦味を抑制する方法について記載されていない。
【0006】
一般に、口腔内崩壊時間が短い速溶性フィルムを食品や医薬品等の包装材や担体等として使用する場合、味覚成分が口腔内で溶出しやすくなる。このため、速溶性フィルムを苦味を有する薬物の包装材や担体として使用すると、当該薬物に起因する苦味を強く感じることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平4−12217号公報
【特許文献2】特開2004−43450号公報
【特許文献3】特開2010−158173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、口溶け性に優れ、嚥下が容易であり、不快な味覚を有する薬物等を服用、摂取する際に、その不快な味覚を抑制できる可食性シート、当該可食性シートが袋状に加工されてなる可食性シート接合体、及び、口溶け性に優れ、嚥下が容易であり、かつ塩基性薬物の苦味を抑制できる薬物包装体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、塩基性基含有化合物(a1)及びアニオン性高分子(a2)を含むマスキング剤(A)、水溶性微粒子(B)、並びに非イオン性水溶性高分子(C)を含有する材料から形成され、内部に水溶性微粒子(B)が分散状態で存在することを特徴とする可食性シート、並びに、可食性シートが袋状に加工されてなる可食性シート接合体は、口溶け性に優れ、嚥下が容易であり、かつ塩基性薬物等の不快な味覚を抑制できることを見出した。さらに、この可食性シート等によって、塩基性薬物が包装されてなる薬物包装体は、包装された塩基性薬物の苦味が抑制され、口溶け性に優れ、嚥下が容易であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
かくして本発明の第1によれば、下記〔1〕〜〔8〕の可食性シートが提供される。
〔1〕塩基性基含有化合物(a1)及びアニオン性高分子(a2)を含むマスキング剤(A)、水溶性微粒子(B)、並びに非イオン性水溶性高分子(C)を含有する材料から形成され、内部に水溶性微粒子(B)が分散状態で存在することを特徴とする可食性シート。
〔2〕前記塩基性基含有化合物(a1)として、アミノ酸及び/又はアミノ糖を含有する〔1〕に記載の可食性シート。
〔3〕前記アニオン性高分子(a2)として、カラギーナン及び/又はアルギン酸を含有する〔1〕又は〔2〕に記載の可食性シート。
〔4〕前記マスキング剤(A)として、さらに、高甘味度甘味料(a3)を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の可食性シート。
〔5〕前記水溶性微粒子(B)として、酵素変性デキストリンを含有する〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載の可食性シート。
〔6〕前記非イオン性水溶性高分子(C)として、ヒドロキシプロピルセルロースを含有する〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の可食性シート。
〔7〕可食性シート全体に対して、マスキング剤(A)の含有量が1〜50質量%、水溶性微粒子(B)の含有量が5〜70質量%、非イオン性水溶性高分子(C)の含有量が25〜60質量%である〔1〕〜〔6〕のいずれか1項に記載の可食性シート。
〔8〕塩基性薬物を服用するための〔1〕〜〔7〕のいずれか1項に記載の可食性シート。
【0011】
本発明の第2によれば、下記〔9〕の可食性シート接合体が提供される。
〔9〕〔1〕〜〔8〕のいずれか1項に記載の可食性シートが、袋状に加工されてなる可食性シート接合体。
本発明の第3によれば、下記〔10〕の薬物包装体が提供される。
〔10〕〔1〕〜〔7〕のいずれか1項に記載の可食性シートによって、塩基性薬物が包装されてなる薬物包装体。
【発明の効果】
【0012】
本発明の可食性シート、可食性シート接合体は、口溶け性に優れ、嚥下が容易であり、不快な味覚を有する薬物、食物を服用、摂取する際に、その不快な味覚を抑制でき、口腔内が粘つくという不快感を与えることがない。
本発明の薬物包装体は、包装された塩基性薬物の苦味が抑制され、口溶け性に優れ、嚥下が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の嚥下物包装体の構造断面図である。
【図2】可食性フィルム接合体を製造する方法の一例を示す図である。
【図3】可食性フィルム接合体の連続製造方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を、1)可食性シート、2)可食性シート接合体、及び、3)薬物包装体に項分けして説明する。
1)可食性シート
本発明の可食性シートは、塩基性基含有化合物(a1)及びアニオン性高分子(a2)を含むマスキング剤(A)、水溶性微粒子(B)、並びに非イオン性水溶性高分子(C)を含有する材料から形成され、内部に水溶性微粒子(B)が分散状態で存在することを特徴とする。
【0015】
〈マスキング剤(A)〉
本発明の可食性シートには、塩基性基含有化合物(a1)及びアニオン性高分子(a2)を含むマスキング剤(A)が用いられる。本発明において、マスキング剤(A)は、不快な味覚を有する薬物、食物を服用、摂取する際に、その不快な味覚を抑制するために添加される。
【0016】
塩基性基含有化合物(a1)は、マスキング剤としての作用を有し、塩基性基を有する可食性物質(後述する塩基性薬物を除く)であれば特に制限なく使用でき、好ましくは、1又は2以上の塩基性基を含有する有機化合物、又は水に溶解したときに塩基性を呈する無機化合物である。
【0017】
塩基性基含有化合物(a1)が有機化合物の場合、通常、分子量が30〜400、好ましくは40〜300の化合物が用いられる。塩基性基としては、例えば、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基、塩基性窒素含有複素環基等が挙げられる。塩基性基含有化合物(a1)は、これらの塩基性基を一種又は二種以上含有してもよい。
このような塩基性基含有化合物(a1)としては、例えば、アミノ酸やアミノ糖が挙げられる。
【0018】
アミノ酸としては、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、アスパラギン、シスチン、システイン、アセチルシステイン、グルタミン酸、グルタミン酸エチルアミド、グルタミン酸グルコース、グルタミン、グルタチオン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、オルニチン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、ε−アミノカプロン酸、γ−アミノ酪酸、グリシン、グリシルグリシン、メチオニン、カルニチン及びスレオニン等が挙げられる。
アミノ糖としては、グルコサミン、ガラクトサミン、マンノサミン及びメグルミン等が挙げられる。
【0019】
塩基性基含有化合物(a1)が無機化合物の場合、分子量は特に制限はなく、例えば、水酸化物イオンや、炭酸水素イオン、炭酸イオン等を含む化合物が挙げられる。
このような塩基性基含有化合物(a1)としては、水酸化ナトリウム等の金属水酸化物や、炭酸水素ナトリウム等の金属炭酸水素塩、炭酸ナトリウム等の金属炭酸塩等が挙げられる。
【0020】
塩基性基含有化合物(a1)は、一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、塩基性基含有化合物(a1)として、アミノ酸及び/又はアミノ糖を含有することが好ましく、アルギニン及び/又はメグルミンを含有することがより好ましい。
【0021】
本発明においては、塩基性基含有化合物(a1)を使用することで、口溶け性を低下させることなく、不快な味覚、特に苦味を抑制することができる。
【0022】
アニオン性高分子(a2)は、1又は2以上のアニオン性基を含有する高分子であり、5質量%水溶液の37℃における粘度が、1000〜100000mPa・sのものが好ましく、2000〜10000mPa・sがより好ましい。
なお、本明細書において粘度とは、JIS K7117−1の4.1(ブルックフィールド形回転粘度計)に準拠して測定されたものである。
【0023】
アニオン性基とは、酸性基や、酸性基が脱プロトン化した基をいう。酸性基としては、硫酸基、カルボキシル基、リン酸基等が挙げられる。
硫酸基を有するアニオン性高分子としては、例えば、カラギーナン、コンドロイチン硫酸、デキストラン硫酸等が挙げられる。
カルボキシル基を有するアニオン性高分子としては、例えば、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、ジェランガム、キサンタンガム、ヘパリン、ヒアルロン酸、ペクチン酸、ポリアクリル酸等が挙げられる。
【0024】
本発明の可食性シートにおいては、アニオン性高分子(a2)は、一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、アニオン性高分子(a2)として、硫酸基を有するアニオン性高分子及び/又はカルボキシル基を有するアニオン性高分子を含有することが好ましく、カラギーナン及び/又はアルギン酸を含有することがより好ましい。
【0025】
本発明においては、上記(a1)及び(a2)をマスキング剤(A)として用いる。(a1)のみを使用する場合は、口溶け性や口腔内崩壊時間の面では優れるものの、十分なマスキング効果が得られにくい。また、(a2)のみを使用する場合は、良好なマスキング効果が得られる場合があるが、口溶け性を低下させる原因になる。
これに対して、(a1)と(a2)を併用することで、マスキング効果に優れ、かつ、口溶け性においても優れる可食性シートが得られる。
当該観点から、塩基性基含有化合物(a1)とアニオン性高分子(a2)の質量比は、(a1)/(a2)=50/50〜90/10であることが好ましく、65/35〜85/15であることがより好ましい。
【0026】
本発明において、マスキング剤(A)は、上記塩基性基含有化合物(a1)やアニオン性高分子(a2)以外に、マスキング効果を有するその他の化合物を含有してもよい。
マスキング効果を有するその他の化合物としては、例えば、矯味剤が挙げられる。矯味剤としては、サッカリン、グリチルリチン酸、白糖、果糖、マンニトール、高甘味度甘味料等の甘味料;クエン酸、酒石酸、フマル酸等の酸味料;等が挙げられる。
【0027】
これらの中で、本発明の可食性シートは、甘味料を含有するのが好ましく、高甘味度甘味料(a3)を含むことがより好ましい。
高甘味度甘味料(a3)は、砂糖の100倍以上の甘味度を有するものであれば特に限定されない。
高甘味度甘味料(a3)としては、例えば、アセスルファムカリウム(甘味度:砂糖の約200倍)、サッカリンナトリウム(甘味度:砂糖の約400倍)、ステビア抽出物(甘味度:砂糖の約300倍)、アスパルテーム(甘味度:砂糖の約200倍)、スクラロース(甘味度:砂糖の約600倍)、ネオテーム(甘味度:砂糖の約7000〜13000倍)及びタウマチン(甘味度:砂糖の約3000〜5000倍)等が挙げられる。
高甘味度甘味料(a3)は、一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
マスキング剤(A)の合計量は、可食性シート全体に対して、1〜50質量%であることが好ましい。
また、塩基性基含有化合物(a1)とアニオン性高分子(a2)の合計量は、マスキング剤(A)全体に対して、70〜100質量%であることが好ましく、高甘味度甘味料(a3)を含有する場合は、(a1)と(a2)の合計量は、70〜99.9質量%であることが好ましく、高甘味度甘味料(a3)の含有量は、0.1〜30質量%であることが好ましい。
【0029】
〈水溶性微粒子(B)〉
本発明の可食性シートには、水溶性微粒子(B)が用いられる。水溶性微粒子(B)は可食性シートの内部に分散状態で存在する。ここで、「分散状態で存在」とは、可食性シートの内部に水溶性微粒子(B)が微粒子状で存在することを意味する。
【0030】
水溶性微粒子(B)は、常温において固体でかつ体温付近の温度で水に溶解するものであり、可食性シートの内部に分散状態で存在できるものである。
水溶性微粒子(B)の平均粒径は、コールカウンター法による測定で、通常1〜300μmであり、好ましくは5〜50μmである。
水溶性微粒子(B)は、5質量%水溶液の37℃における粘度が、10mPa・s以下のものが好ましく、5mPa・s以下のものがより好ましい。また、後述する製造方法において容易に分散させることができることから、水溶性微粒子(B)は、後述する脂肪族アルコール系溶媒に難溶性又は不溶性であるものが好ましい。
【0031】
水溶性微粒子(B)を構成する材料としては、例えば、酵素変性デキストリン(マルトデキストリン)、D−マンニトール、D−ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、デオキシリトール、スクラロース、シュークロース、マルチトール、ラクトース、ラクチトール等が挙げられる。
これらは一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、口溶け性に優れ、後味が良いことから酵素変性デキストリンを含むものが好ましい。
【0032】
水溶性微粒子(B)の含有量は、可食性シート全体に対して、5〜70質量%であることが好ましい。水溶性微粒子(B)の含有量をこの範囲とすることで、口溶け性に優れる可食性シートが得られる。
なお、一般的に、水溶性微粒子(B)の添加量を多くすれば、口腔内における可食性シートの崩壊時間を短くでき、水溶性微粒子(B)の添加量を少なくすれば、口腔内における可食性シートの崩壊時間を長くすることができる。
【0033】
〈非イオン性水溶性高分子(C)〉
本発明の可食性シートには、非イオン性水溶性高分子(C)が用いられる。ここで、非イオン性水溶性高分子は、25℃の水(100g)に対して1g以上溶解できる、非イオン性の高分子を意味する。非イオン性水溶性高分子(C)は、5質量%水溶液の37℃における粘度が、1,000〜100,000mPa・sであることが好ましい。
また、後述する製造方法において(B)成分を容易に分散させることができることから、非イオン性水溶性高分子(C)は、後述する脂肪族アルコール系溶媒に易溶性であることが好ましい。
【0034】
非イオン性水溶性高分子(C)としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、グアーガム、ローカストビーンガム、アルファー化デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
これらは一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、特にヒドロキシプロピルセルロースを含むことが好ましい。
【0035】
非イオン性水溶性高分子(C)は、可食性シート全体に対して、25〜60質量%含有することが好ましい。非イオン性水溶性高分子(C)の含有量をこのような範囲にすることにより、薄いシート状の製剤であっても取り扱い時に破れたりしない十分な強度を持たせることができる。
【0036】
〈可塑剤(D)〉
本発明の可食性シートは、可塑剤(D)を含有していてもよい。可塑剤(D)を添加することにより、可食性シートの口溶け性及びヒートシール性をさらに向上させることができる。
可塑剤(D)としては、グリセリン、ポリエチレングリコール、クエン酸トリエチル、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレングリコール、トリアセチレン、ポリソルベート80等が挙げられる。
これらは一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
可食性シートが可塑剤(D)を含む場合、可塑剤の含有量は、可食性シート全体に対して1〜20質量%であることが好ましく、3〜10質量%であることがより好ましい。
【0038】
また、可食性シートは、その他の添加剤(E)として、香料、着色剤、増量剤等を含有していてもよい。その他の添加剤(E)の含有量は、可食性シート全体に対して、通常0.001〜10質量%程度である。
【0039】
〈可食性シートの製造方法〉
本発明の可食性シートは、例えば、保持基材上に、可食性シート形成用組成物を塗布し、得られた塗膜を乾燥して成膜することにより作製することができる。
【0040】
可食性シート形成用組成物は、例えば、炭素数2〜4の脂肪族アルコール系溶媒(以下、「脂肪族アルコール系溶媒」という。)に、水溶性微粒子(B)を分散させた液に、マスキング剤(A)、非イオン性水溶性高分子(C)、及び、所望により、可塑剤(D)、他の添加剤(E)を添加し、混合することにより得ることができる。
【0041】
このとき、水溶性微粒子(B)が脂肪族アルコール系溶媒に難溶性又は不溶性であり、非イオン性水溶性高分子(C)が脂肪族アルコール系溶媒に易溶性であることにより、得られる可食性シートの内部に、容易に前記水溶性微粒子(B)を分散状態で存在させることができる。
【0042】
炭素数2〜4の脂肪族アルコール系溶媒としては、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等が挙げられ、エタノールが特に好ましい。これらは一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
用いる保持基材としては、本発明の可食性シートを担持することができるものであれば、特に制限されない。例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等のプラスチックフィルム;グラシン紙、クレーコート紙、ポリエチレンラミネート紙等の紙類;等及び、これらのプラスチックフィルム等に必要に応じてシリコーン系剥離剤等で剥離処理したものが挙げられる。
用いる保持基材の厚みは、通常5〜200μm、好ましくは25〜100μmである。
【0044】
可食性シート形成用組成物を保持基材上に塗工する方法としては、ロールコーター、ダイコーター、グラビアコーター、アプリケーター等の公知の塗工装置を用いて塗布する方法が挙げられる。
可食性シート形成用組成物の塗膜を形成後、溶媒を乾燥除去して、保持基材上に可食性シート形成用組成物の乾燥塗膜を形成した中間体を作成したのち、保持基材を剥離除去し、次いで、所望の形状に裁断して可食性シートを形成することができる。なお、保持基材を剥離除去する前に乾燥塗膜を裁断してもよい。また、上記中間体を2枚用意し、乾燥塗膜同士を加熱ラミネートにより接着し、次いで、両側の保持基材を除去したのち、所望の形状に裁断して可食性シートを形成してもよい。
溶媒を乾燥除去するときの温度は、通常50〜100℃、好ましくは60〜90℃である。
乾燥時間は、通常数十秒から数分間である。
可食性シートの坪量は、特に限定されないが、通常20〜400g/m、好ましくは30〜200g/mである。
【0045】
本発明の可食性シートは、口溶け性に優れ、嚥下が容易であり、口腔内が粘つくという不快感を与えることがない。後述するように、不快な味覚を有する薬物、食物を服用、摂取する際に用いることで、その不快な味覚を抑制することができる。
【0046】
2)可食性シート接合体
本発明の可食性シート接合体は、本発明の可食性シートが袋状に加工されてなる。
本発明の可食性シート接合体は、袋状になっているため、その袋の内部に、薬物等を簡便に挿入することができる。得られる可食性薬物包装体は、口溶け性に優れ、嚥下が容易であり、口腔内が粘つくという不快感を与えることがなく、薬物等が有する不快な味覚を抑制することができる。
【0047】
本発明の可食性シートを袋状に加工する方法としては、特に制限されない。例えば、図1(a)、(b)、(c)に示す方法が挙げられる。
すなわち、図1(a)に示すように、四角形の2枚の可食性シート1a、1bを重ね合わせ、三方の端部2aを接合することにより、開口部3aを有する可食性シート接合体4aを形成することができる。
【0048】
また、図1(b)に示すように、四角形の可食性シート1cを二つに折り曲げ、二方の端部2b、2cを接合することにより、開口部3bを有する可食性シート接合体4bを形成することができる。
【0049】
さらに、図1(c)に示すように、四角形の可食性シート1dをまるめて端と端を重ね合わせ、その重ね合わさった部分と、底部となる部分2dを接合することにより、一方に開口部3cを有する可食性シート接合体4cを形成することができる。
【0050】
端部を接合する方法としては、特に制約はなく、ヒートシールする方法、可食性の接着剤を用いて接着する方法等が挙げられる。本発明においては、用いる可食性シートがヒートシール性に優れるため、ヒートシールする方法が好ましい。
【0051】
ヒートシールする際の温度は、通常60〜200℃、好ましくは80〜150℃であり、その際の圧力は、通常0.1〜5MPa、好ましくは0.3〜1MPaである。
本発明の可食性シートは、このような条件で、簡便かつ強固にシールすることができる。
【0052】
上記の例においては、用いる可食性シートが四角形の場合を示したが、可食性シートの形状は特に制約されず、三角形、円形等他の形状であっても構わない。
【0053】
また、可食性シートとしては、前記保持基材を剥離したものを用いても、剥離していないものを用いてもよい。保持基材を剥離していないものを用いる場合には、保持基材を外側にして接合体を形成する。保持基材は、嚥下されるまでの適当な時期に剥離されればよい。
【0054】
また、可食性シート接合体は連続して製造することもできる。
例えば、図2(a)に示す連続製造装置を用いることによって実施することができる。
先ず、図2(a)に示すように、長尺の可食性シート1eを、図中、下方向に一定速度で搬送しながら、折り曲げ成形機Aによって長尺方向に連続的に二つ折りにしていく。
【0055】
次に、ヒートシール機Bにより、二つ折りにしたシート1eの端部分2e及び袋の底部となる部分2fを、それぞれシールする。
その後、二方がシールされたシート1eを、点線P部分で、例えば、ヒートシール機B付近に設けられた切断機(図示を省略)により切断すれば、図2(b)に示すように、可食性シート接合体4dを得ることができる。
【0056】
このような操作を連続的に行うことで、図2(c)に示すように、可食性シート接合体4d、4e・・・を、連続的に製造することができる。なお、図2(b)、(c)においては、折り曲げ成形機A及びヒートシール機Bの図示を省略している(以下の図においても同様。)。
【0057】
また、図3(d)、(e)に示すように、切断を行わずに、長尺方向に二つ折りにした可食性シート1eを連続的にシールし、可食性シート接合体の連続体5aを得、薬物を封入する際に、図3(f)に示すように、個々に切断してもよい。
【0058】
用いるシート1eとしては、保持基材から剥離していない可食性シートを用いてもよい。その場合、保持基材側を外側(1g側)とする。保持基材があると、可食性シートが湿気により膨潤するのを防止でき、かつ、衛生的に可食性シート接合体を製造し、さらに運搬・保管等をすることができる。保持基材は、嚥下されるまでの適当な時期に剥離されればよい。
【0059】
3)薬物包装体
本発明の薬物包装体は、本発明の可食性シートによって、塩基性薬物が包装されてなる。
【0060】
塩基性薬物は、遊離体が塩基性を示す化合物又はその塩であって、薬効を有するものをいう。したがって、塩基性薬物には、塩を形成したときには塩基性を示さないものも含まれる。また、本発明においては、塩基性薬物は、「塩基性薬物を含む食物」も含む意である。
【0061】
塩基性薬物は、1又は2以上の塩基性基を有する。塩基性基としては、例えば、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基、及び塩基性窒素含有複素環基等が挙げられる。塩基性薬物は、これらの塩基性基を一種又は二種以上含有してもよい。
【0062】
用いる塩基性薬物は上記性質を有するものであれば特に限定はなく、従来から用いられている苦味を呈する薬物を使用することができる。
塩基性薬物としては、例えば、塩酸ジフェンヒドラミン、アムロジピンベシル酸塩、塩酸セフォチアムヘキセチル、塩酸セフキャネルダロキセート、塩酸レナンピシリン、塩酸バカンピシリン、塩酸タランピシリン、塩化ベルベリン、ジギトキシン、スルピリン、塩酸アゼラスチン、塩酸エチレフリン、塩酸ジルチアゼム、塩酸プロプラノロール、塩酸プロメタジン、塩酸パパベリン、塩酸チクロピジン、アミノフィリン、フェノバルビタール、パントテン酸カルシウム、塩酸ドネベジル、塩酸アミノグアニジン等が挙げられる。
【0063】
塩基性薬物を含む食物としては、アルカロイドを含むキンポウゲ科、ケシ科、ナス科、ヒガンバナ科、マメ科、メギ科、ユリ科、トウダイグサ科、ウマノスズクサ科等の植物等が挙げられる。
塩基性薬物は、互いに薬効を妨げない限り、二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0064】
塩基性薬物の形状は特に制約はなく、散剤(粉体)、錠剤等のいずれであってもよい。
包装する塩基性薬物の量は、本発明の効果が発現できる量であれば特に制約はない。使用する薬物の種類、用いる可食性シートの大きさ等にもよるが、通常、薬物包装体全体の0.001〜35質量%であり、薬物包装体1個あたり、通常、0.01mgから10gである。
【0065】
薬物包装体の形状は、前記可食性シートによって薬物が外部に露出なく包み込まれたものであれば、特に制約はない。例えば、球状、直方体状、円柱状、多角体状、円盤状、巾着状等が挙げられる。
薬物包装体の大きさは、特に制約はなく、用途、薬物、嚥下する者等によって適宜決定されればよい。
【0066】
本発明の薬物包装体の製造方法としては、例えば、以下の方法が挙げられるが、これらの方法に限定されるものではない。
(i)可食性シートを前記のようにして袋状に加工して可食性シート接合体を形成し、形成された袋の中空部に塩基性薬物を充填し、所望により開口部をシールする方法、
(ii)適当な大きさ、形状の可食性シートを2枚用意し、一方の可食性シートの中央部に、所望により凹部を形成し、塩基性薬物を載置し、その上からもう一枚の可食性シートを被せるように重ね合わせ、可食性シートの外周部を接合する方法、
(iii)可食性シートを包装紙のように用いて塩基性薬物を包む方法、
等が挙げられる。
【0067】
前記(i)において開口部をシールする方法、及び(ii)において外周部を接合する方法としては、ヒートシールする方法、可食性の接着剤を用いて接着する方法等が挙げられる。本発明においては、用いる可食性シートがヒートシール性に優れるため、ヒートシールする方法が好ましい。
【0068】
また、前記(i)の方法においては、前述のように連続的に可食性シート接合体を形成し、塩基性薬物を充填することにより、連続的に薬物包装体を製造することができる。
また、前記(ii)の方法においても、2枚の長尺の可食性シートを用いることにより、連続的に薬物包装体を製造することができる。
【0069】
本発明の薬物包装体は、用いる可食性シートの内部に水溶性微粒子(B)が分散状態で存在するため、口溶け性に優れ、水なしでも口腔内の唾液で短時間に崩壊し、薬物の嚥下を容易にする。本発明の薬物包装体は、口腔内崩壊時間が30秒以内であることが好ましい。また、嚥下を行った後も口腔内が粘つくことがなく快適である。
また、本発明の薬物包装体においては、マスキング剤(A)を使用することで、塩基性薬物の溶出に起因する苦味が抑えられる。マスキング剤(A)に塩基性基含有化合物(a1)とアニオン性高分子(a2)を併用することで、口溶け性を低下させることなく、優れたマスキング効果が得られる。
【実施例】
【0070】
次に実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0071】
(実施例1)
エタノール203質量部に、可塑剤としてグリセリン6質量部と、水溶性微粒子として酵素変性デキストリン(商品名:アミコールNo.19、日澱化学社製、5質量%水溶液の37℃における粘度:1mPa・s未満)38.55質量部と、塩基性基含有化合物としてアルギニン19.15質量部と、アニオン性高分子としてアルギン酸(商品名:スノーアルギンSSL、富士化学工業社製、5質量%水溶液の37℃における粘度:5000mPa・s)8.1質量部と、非イオン性水溶性高分子としてヒドロキシプロピルセルロース(商品名:HPC、日本曹達社製、5質量%水溶液の37℃における粘度:5500mPa・s)28.2質量部とを、ネオミキサーを用い攪拌しながら順次添加して分散させ、可食性シート形成用組成物を調製した。
【0072】
次に、保持基材のポリエチレンテレフタレートフィルム(SP−PET381031、リンテック社製)上に、前記可食性シート形成用組成物を、乾燥後の坪量が60g/mとなるようにギャップを調整したアプリケーターを用いて展延塗布し、得られた塗膜を80℃で5分間乾燥して、可食性シート中間体を得た。
次いで、可食性シート中間体を2枚用意し、これらを加熱ラミネート(ラミネート条件:温度120℃、圧力0.5MPa)により接着し、次いで、両外層の保持基材を除去したのち、縦14.3mm×横21.4mmの角Rを有する長方形状に裁断して可食性シート(坪量120g/m)を得た。なお、得られた可食性シートを裁断した断面を電子顕微鏡で観察したところ、配合した水溶性微粒子が元の粒径のままで可食性シート中に分散状態で存在していた。
【0073】
(実施例2〜16、比較例1〜8)
第1表に記載の配合で可食性シート形成用組成物を調製したこと以外は実施例1と同様にして可食性シートを得た。
なお、カラギーナンは、5質量%水溶液の37℃における粘度が5000mPa・sのものを使用した。
【0074】
【表1】

【0075】
実施例1〜12及び比較例1〜8で得られた可食性シートにつき、以下の試験を行った。
[マスキング効果]
各実施例及び比較例の可食性シートを水なしで口腔内に含ませ、可食性シートが口腔内で唾液により崩壊した後、塩酸ジフェンヒドラミンを50mg/g含有する散剤0.5g(増量剤としてD−マンニトール使用)を舌の上にのせ、次いで口に水を含んでから吐き出したときの服用感を、下記の4段階の基準で評価した。
◎:苦くない。
○:やや苦い。
△:苦い。
×:非常に苦い。
【0076】
[口溶け性]
各実施例及び比較例の可食性シートを水なしで口腔内に含ませ、可食性シートが口腔内で唾液により崩壊した後、吐き出し、口の中の感覚を、下記の4段階の基準で評価した。
◎:口腔内がさっぱりとしていた。
○:口腔内がはじめは粘ついたがすぐにさっぱりとした。
△:口腔内がやや粘つく感じがした。
×:口腔内が粘ついて感触が悪かった。
【0077】
[口腔内崩壊時間]
各実施例及び比較例の可食性シートを、それぞれ水なしで口腔内に含ませ、可食性シートが口腔内の唾液で崩壊するまでの時間を測定した。試験は3回行い、その平均値を算出した。
【0078】
[総合評価]
上記すべての試験結果を総合して、下記の4段階の基準で評価した。
◎:すべての評価項目で満足する結果が得られた。
○:すべての評価項目でほぼ満足する結果が得られた。
△:いずれか一つ以上の評価項目でやや不十分な結果が得られた。
×:いずれか一つ以上の評価項目で不十分な結果が得られた。
評価結果を第2表に示す。
【0079】
【表2】

【0080】
第2表より、次の事項がわかる。
実施例1〜12の可食性シートは、マスキング効果に優れ、かつ良好な口溶け性を有している。
一方、比較例1の可食性シートは、マスキング効果、口溶け性の両方に劣る。
また、水溶性微粒子(B)等を用いることで、比較例1に比べて口溶け性が改善する例もあるが(比較例2〜4、7)、これらにおいてはマスキング効果の向上には至っていない。
さらに、水溶性微粒子(B)と共にアニオン性高分子(a2)を用いることで、マスキング効果が改善される例もあるが、(比較例6、8)、これらにおいては口溶け性が大きく低下している。
【符号の説明】
【0081】
1、1a〜1d・・・可食性フィルム、1e・・・長尺の可食性フィルム、1f・・・長尺の可食性フィルムの内側、1g・・・長尺の可食性フィルムの外側、2a〜2f・・・シール部、3a〜3c・・・開口部、4a〜4d・・・接合体、5a、5b・・・可食性フィルム接合体の連続体、A・・・折り曲げ成形機、B・・・ヒートシール機、P・・・切断線、100・・・嚥下物包装体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性基含有化合物(a1)およびアニオン性高分子(a2)を含むマスキング剤(A)、水溶性微粒子(B)、並びに非イオン性水溶性高分子(C)を含有する材料から形成され、内部に水溶性微粒子(B)が分散状態で存在することを特徴とする可食性シート。
【請求項2】
前記塩基性基含有化合物(a1)として、アミノ酸および/またはアミノ糖を含有する請求項1に記載の可食性シート。
【請求項3】
前記アニオン性高分子(a2)として、カラギーナンおよび/またはアルギン酸を含有する請求項1または2に記載の可食性シート。
【請求項4】
前記マスキング剤(A)として、さらに、高甘味度甘味料(a3)を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の可食性シート。
【請求項5】
前記水溶性微粒子(B)として、酵素変性デキストリンを含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の可食性シート。
【請求項6】
前記非イオン性水溶性高分子(C)として、ヒドロキシプロピルセルロースを含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の可食性シート。
【請求項7】
可食性シート全体に対して、マスキング剤(A)の含有量が1〜50質量%、水溶性微粒子(B)の含有量が5〜70質量%、非イオン性水溶性高分子(C)の含有量が25〜60質量%である請求項1〜6のいずれか1項に記載の可食性シート。
【請求項8】
塩基性薬物を服用するための請求項1〜7のいずれか1項に記載の可食性シート。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の可食性シートが、袋状に加工されてなる可食性シート接合体。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の可食性シートによって、塩基性薬物が包装されてなる薬物包装体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−162492(P2012−162492A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24560(P2011−24560)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】