説明

合わせガラス用中間膜、合わせガラス及び合わせガラスの製造方法

【課題】優れたサーモクロミック性を有する合わせガラス用中間膜及び合わせガラスを提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂、可塑剤、及び、二酸化バナジウム粒子又は二酸化バナジウムのバナジウム原子の一部をタングステン、モリブデン、ニオブ、タンタルからなる群から選択される少なくとも1種の原子で置換した置換二酸化バナジウム粒子を含有する合わせガラス用中間膜であって、下記式(1)を満たす合わせガラス用中間膜。
[数1]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れたサーモクロミック性を有する合わせガラス用中間膜及び合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化バナジウム又は二酸化バナジウムのバナジウム原子の一部を他の原子で置換した置換二酸化バナジウムは、特定の温度以上になると半導体から金属に相転移し、赤外線透過率を大きく減少させるサーモクロミック特性を有することが広く知られている(例えば、特許文献1)。即ち、例えばガラス上に二酸化バナジウム膜を形成すると、相転移温度未満では可視光線及び赤外線の透過率が高いが、相転移温度以上になると可視光線の透過率が高い状態で、赤外線の透過率が低下する性質を示す。
【0003】
従来より、二酸化バナジウムが有するサーモクロミック特性を利用したサーモクロミック性を有する合わせガラス用中間膜の製造が試みられてきた。即ち、合わせガラス用中間膜中に二酸化バナジウムを分散させることにより、二酸化バナジウムの相転移温度未満では可視光線及び赤外線の透過率が高いが、相転移温度以上になると可視光線の透過率が高い状態で、赤外線の透過率が低下する性質を示す合わせガラス用中間膜が得られることが期待される。
しかしながら、実際には二酸化バナジウム粒子を分散させた合わせガラス用中間膜を用いても、充分なサーモクロミック性を発揮できる合わせガラスは得られないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−233929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、優れたサーモクロミック性を有する合わせガラス用中間膜及び合わせガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、熱可塑性樹脂、可塑剤、及び、二酸化バナジウム粒子又は二酸化バナジウムのバナジウム原子の一部をタングステン、モリブデン、ニオブ、タンタルからなる群から選択される少なくとも一種の原子で置換した置換二酸化バナジウム粒子を含有する合わせガラス用中間膜であって、下記式(1)を満たす合わせガラス用中間膜である。
以下に本発明を詳述する。
【0007】
【数1】

【0008】
本発明者は、二酸化バナジウム粒子又は置換二酸化バナジウム粒子を含有する合わせガラス用中間膜において、サーモクロミック性が低いことの原因を検討した。その結果、合わせガラス用中間膜中に含まれる水分が原因であること、とりわけ、合わせガラス用中間膜を用いて合わせガラスを製造する際に、一定以上の水分を含んでいる場合に、得られる合わせガラスのサーモクロミック性が著しく低下してしまうことを見出した。
そして、更に鋭意検討の結果、合わせガラス用中間膜の含水率と、合わせガラス用中間膜中に含まれる二酸化バナジウム粒子又は置換二酸化バナジウム粒子の濃度とが一定の割合にある場合には、水分によるサーモクロミック性の低下を防止できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明の合わせガラス用中間膜は、上記式(1)を満たす。これにより、水分によるサーモクロミック性の低下を防止することができる。合わせガラスの製造時において上記式(1)を満たすことが特に重要である。
[合わせガラス用中間膜の含水率(重量%)]/[合わせガラス用中間膜中の二酸化バナジウム粒子濃度(重量%)]の値は、15以下であることが好ましく、7以下であることがより好ましい。
【0010】
合わせガラス用中間膜を上記式(1)を満たすようにするためには、例えば、製造時に熱可塑性樹脂等の材料の乾燥を行い含水率を低下させる方法や、製造後の合わせガラス用中間膜を低湿度に調整した恒温恒湿器中で調湿して含水率を低下させる方法等が挙げられる。
【0011】
本発明の合わせガラス用中間膜は、熱可塑性樹脂、可塑剤、及び、二酸化バナジウム粒子又は置換二酸化バナジウム粒子を含有する。
上記熱可塑性樹脂は特に限定されず、例えば、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン−アクリル共重合体樹脂、ポリウレタン樹脂、硫黄元素を含有するポリウレタン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等が挙げられる。なかでも、可塑剤と併用した場合に、ガラスに対して優れた接着性を発揮する合わせガラス用中間膜が得られることから、ポリビニルアセタール樹脂が好適である。
【0012】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールをアルデヒドでアセタール化して得られるポリビニルアセタール樹脂であれば特に限定されないが、ポリビニルブチラール樹脂が好適である。また、必要に応じて2種以上のポリビニルアセタール樹脂を併用してもよい。
上記ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度の好ましい下限は40モル%、好ましい上限は85モル%であり、より好ましい下限は60モル%、より好ましい上限は75モル%である。
【0013】
上記ポリビニルアセタール樹脂としてポリビニルブチラール樹脂を用いる場合、水酸基量の好ましい下限は15モル%、好ましい上限は35モル%である。水酸基量が15モル%未満であると、合わせガラス用中間膜とガラスとの接着性が低下したり、得られる合わせガラスの耐貫通性が低下したりすることがある。水酸基量が35モル%を超えると、得られる合わせガラス用中間膜が硬くなり過ぎることがある。
なお、上記アセタール化度及び水酸基量は、例えば、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠して測定できる。
【0014】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールをアルデヒドでアセタール化することにより調製することができる。
上記ポリビニルアルコールは、通常、ポリ酢酸ビニルを鹸化することにより得られ、鹸化度80〜99.8モル%のポリビニルアルコールが一般的に用いられる。
上記ポリビニルアルコールの重合度の好ましい下限は500、好ましい上限は4000である。上記ポリビニルアルコールの重合度が500未満であると、得られる合わせガラスの耐貫通性が低下することがある。上記ポリビニルアルコールの重合度が4000を超えると、合わせガラス用中間膜の成形が困難となることがある。上記ポリビニルアルコールの重合度のより好ましい下限は1000、より好ましい上限は3600である。
【0015】
上記アルデヒドは特に限定されないが、一般には、炭素数が1〜10のアルデヒドが好適に用いられる。上記炭素数が1〜10のアルデヒドは特に限定されず、例えば、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n−バレルアルデヒド、2−エチルブチルアルデヒド、n−ヘキシルアルデヒド、n−オクチルアルデヒド、n−ノニルアルデヒド、n−デシルアルデヒド、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられる。なかでも、n−ブチルアルデヒド、n−ヘキシルアルデヒド、n−バレルアルデヒドが好ましく、n−ブチルアルデヒドがより好ましい。これらのアルデヒドは単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
上記可塑剤は特に限定されず、例えば、一塩基性有機酸エステル、多塩基性有機酸エステル等の有機エステル可塑剤、有機リン酸可塑剤、有機亜リン酸可塑剤等のリン酸可塑剤等が挙げられる。上記可塑剤は液状可塑剤であることが好ましい。
【0017】
上記一塩基性有機酸エステルは特に限定されないが、例えば、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコールと、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、2−エチル酪酸、ヘプチル酸、n−オクチル酸、2−エチルヘキシル酸、ペラルゴン酸(n−ノニル酸)、デシル酸等の一塩基性有機酸との反応によって得られたグリコールエステル等が挙げられる。なかでも、トリエチレングリコールジカプロン酸エステル、トリエチレングリコールジ−2−エチル酪酸エステル、トリエチレングリコールジ−n−オクチル酸エステル、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキシル酸エステル等が好適である。
【0018】
上記多塩基性有機酸エステルは特に限定されないが、例えば、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の多塩基性有機酸と、炭素数4〜8の直鎖又は分岐構造を有するアルコールとのエステル化合物が挙げられる。なかでも、ジブチルセバシン酸エステル、ジオクチルアゼライン酸エステル、ジブチルカルビトールアジピン酸エステル等が好適である。
【0019】
上記有機エステル可塑剤は特に限定されず、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレート、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート、トリエチレングリコールジカプリレート、トリエチレングリコールジ−n−オクタノエート、トリエチレングリコールジ−n−ヘプタノエート、テトラエチレングリコールジ−n−ヘプタノエート、テトラエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート、ジブチルセバケート、ジオクチルアゼレート、ジブチルカルビトールアジペート、エチレングリコールジ−2−エチルブチレート、1,3−プロピレングリコールジ−2−エチルブチレート、1,4−ブチレングリコールジ−2−エチルブチレート、ジエチレングリコールジ−2−エチルブチレート、ジエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート、ジプロピレングリコールジ−2−エチルブチレート、トリエチレングリコールジ−2−エチルペンタノエート、テトラエチレングリコールジ−2−エチルブチレート、ジエチレングリコールジカプリエート、アジピン酸ジヘキシル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ヘキシルシクロヘキシル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ヘプチルノニル、セバシン酸ジブチル、油変性セバシン酸アルキド、リン酸エステルとアジピン酸エステルとの混合物、アジピン酸エステル、炭素数4〜9のアルキルアルコール及び炭素数4〜9の環状アルコールから作製された混合型アジピン酸エステル、アジピン酸ヘキシル等の炭素数6〜8のアジピン酸エステル等が挙げられる。
【0020】
上記有機リン酸可塑剤は特に限定されず、例えば、トリブトキシエチルホスフェート、イソデシルフェニルホスフェート、トリイソプロピルホスフェート等が挙げられる。
【0021】
上記可塑剤のなかでも、ジヘキシルアジペート(DHA)、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)、テトラエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(4GO)、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレート(3GH)、テトラエチレングリコールジ−2−エチルブチレート(4GH)、テトラエチレングリコールジ−n−ヘプタノエート(4G7)及びトリエチレングリコールジ−n−ヘプタノエート(3G7)からなる群より選択される少なくとも1種は、接着力調整剤としてカルボン酸の金属塩を含有させることによって、合わせガラス用中間膜とガラスとの接着力の経時変化を防止することができる。
【0022】
更に、上記可塑剤として、加水分解を起こしにくいため、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレート(3GH)、テトラエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(4GO)、ジヘキシルアジペート(DHA)を含有することが好ましく、テトラエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(4GO)、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)を含有することがより好ましく、特にトリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエートを含有することがより好ましい。
【0023】
本発明の合わせガラス用中間膜における上記可塑剤の含有量は特に限定されないが、上記熱可塑性樹脂100重量部に対する好ましい下限が30重量部、好ましい上限が70重量部である。上記可塑剤の含有量が30重量部未満であると、合わせガラス用中間膜の溶融粘度が高くなり、合わせガラス製造時の脱気性が低下することがある。上記可塑剤の含有量が70重量部を超えると、合わせガラス用中間膜から可塑剤が分離することがある。上記可塑剤の含有量のより好ましい下限は35重量部、より好ましい上限は63重量部である。
【0024】
上記二酸化バナジウム粒子又は置換二酸化バナジウム粒子は、サーモクロミック特性を有する。
二酸化バナジウムは様々な結晶相が存在するが、単斜晶結晶と正方晶結晶(ルチル型)が可逆的に相転移する。その相転移温度は約68℃である。
上記相転移温度は、二酸化バナジウム中のバナジウム原子の一部をタングステン、モリブデン、ニオブ及びタンタルから選択される少なくとも1種の原子で置換することにより調整することができる。従って、二酸化バナジウム粒子又は置換二酸化バナジウム粒子を適宜選択したり、置換二酸化バナジウム粒子において置換する原子種や置換率を適宜選択したりすることにより、得られる合わせガラス用中間膜の性能を制御することができる。
【0025】
上記置換二酸化バナジウム粒子を用いる場合、金属原子の置換率の好ましい下限は0.1原子%、好ましい上限は10原子%である。置換率が0.1原子%以上であると、上記置換二酸化バナジウム粒子の相転移温度を容易に調整することができ、10原子%以下であると、優れたサーモクロミック性を得ることができる。
なお、置換率とは、バナジウム原子数と置換された原子数との合計に占める、置換された原子数の割合を百分率で示した値である。
【0026】
上記二酸化バナジウム粒子又は置換二酸化バナジウム粒子は、実質的に二酸化バナジウム又は置換二酸化バナジウムのみで構成された粒子であってもよく、コア粒子の表面に二酸化バナジウム又は置換二酸化バナジウムが付着した粒子であってもよい。
上記コア粒子として、例えば、酸化ケイ素、シリカゲル、酸化チタン、ガラス、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化チタン、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、リン酸ジルコニウム、ハイドロタルサイト化合物、ハイドロタルサイト化合物の焼成物、及び、炭酸カルシウム等の無機粒子が挙げられる。
【0027】
本発明の合わせガラス用中間膜における上記二酸化バナジウム粒子又は置換二酸化バナジウム粒子の含有量は、合わせガラス用中間膜中、好ましい下限は0.001重量%、好ましい上限は20重量%、より好ましい下限は0.005重量%、より好ましい上限は10重量%、更に好ましい下限は0.01重量%、更に好ましい上限は5重量%である。上記二酸化バナジウム粒子又は置換二酸化バナジウム粒子の含有量が上記下限以上であると、優れたサーモクロミック性を有する合わせガラス用中間膜が得られる。上記二酸化バナジウム粒子又は置換二酸化バナジウム粒子の含有量が上記上限以下であると、合わせガラス用中間膜の透明性が高くなる。
【0028】
本発明の合わせガラス用中間膜は、上記二酸化バナジウム粒子の分散性を向上させる目的で、グリセリンエステル、ポリカルボン酸等の分散剤を含有してもよい。
上記グリセリンエステルは特に限定されず、例えば、デカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリントリステアリン酸エステル、デカグリセリンデカステアリン酸エステル、ヘキサグリセリンモノステアリン酸エステル、ヘキサグリセリンジステアリン酸エステル、ヘキサグリセリントリステアリン酸エステル、ヘキサグリセリンペンタステアリン酸エステル、テトラグリセリンモノステアリン酸エステル、テトラグリセリントリステアリン酸エステル、テトラグリセリンペンタステアリン酸エステル、ポリグリセリンステアリン酸エステル、グリセロールモノステアレート、デカグリセリンモノオレイン酸エステル、デカグリセリンデカオレイン酸エステル、ヘキサグリセリンモノオレイン酸エステル、ヘキサグリセリンペンタオレイン酸エステル、テトラグリセリンモノオレイン酸エステル、テトラグリセリンペンタオレイン酸エステル、ポリグリセリンオレイン酸エステル、グリセロールモノオレエート、2−エチルヘキサン酸トリグリセライド、カプリン酸モノグリセライド、カプリン酸トリグリセライド、ミリスチン酸モノグリセライド、ミリスチン酸トリグリセライド、デカグリセリンモノカプリル酸エステル、ポリグリセリンカプリル酸エステル、カプリル酸トリグリセライド、デカグリセリンモノラウリン酸エステル、ヘキサグリセリンモノラウリン酸エステル、テトラグリセリンモノラウリン酸エステル、ポリグリセリンラウリン酸エステル、デカグリセリンヘプタベヘニン酸エステル、デカグリセリンドデカベヘニン酸エステル、ポリグリセリンベヘニン酸エステル、デカグリセリンエルカ酸エステル、ポリグリセリンエルカ酸エステル、テトラグリセリン縮合リシノール酸エステル、ヘキサグリセリン縮合リシノール酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル等が挙げられる。
【0029】
上記グリセリンエステルのうち市販品としては、例えば、SYグリスターCR−ED(阪本薬品工業社製、縮合リシノール酸ポリグリセリン酸エステル)、SYグリスターPO−5S(阪本薬品工業社製、オレイン酸ヘキサグリセリンペンタエステル)等が挙げられる。
【0030】
上記ポリカルボン酸は特に限定されず、例えば、主鎖骨格にカルボキシル基を有するポリマーにポリオキシアルキレンをグラフトしたポリカルボン酸重合体等が挙げられる。
上記ポリカルボン酸のうち市販品としては、例えば、日油社製マリアリムシリーズ(AFB−0561、AKM−0531、AFB−1521、AEM−3511、AAB−0851、AWS−0851、AKM−1511−60等)等が挙げられる。
【0031】
本発明の合わせガラス用中間膜における上記分散剤の含有量は、上記二酸化バナジウム粒子100重量部に対して、好ましい下限は1重量部、好ましい上限は10000重量部、より好ましい下限は10重量部、より好ましい上限は1000重量部、更に好ましい下限は30重量部、更に好ましい上限は300重量部である。上記分散剤の含有量が上記下限以上であると、上記二酸化バナジウム粒子の分散性が向上するため、合わせガラス用中間膜の透明性が高くなる。上記分散剤の含有量が上記上限以下であると、上記分散剤の析出を抑制できるため、合わせガラス用中間膜の透明性が高くなる。
【0032】
本発明の合わせガラス用中間膜は、更に赤外線吸収剤を含有してもよい。
上記赤外線吸収剤は、赤外線を遮蔽する性能を有すれば特に限定されないが、錫ドープ酸化インジウム粒子、アンチモンドープ酸化錫粒子、亜鉛元素以外の元素がドープされた酸化亜鉛粒子、六ホウ化ランタン粒子、アンチモン酸亜鉛粒子及びフタロシアニン構造を有する赤外線吸収剤からなる群より選択される少なくとも1種が好適である。
【0033】
本発明の合わせガラス用中間膜は、必要に応じて、酸化防止剤、光安定剤、帯電防止剤、接着力調整剤、青色顔料、青色染料、緑色顔料、緑色染料等の添加剤を含有してもよい。
【0034】
本発明の合わせガラス用中間膜の膜厚は特に限定されないが、合わせガラスとして最小限必要な耐貫通性を考慮すると、実用的には、好ましい下限が0.1mm、好ましい上限が1.0mmであり、より好ましい下限が0.3mm、より好ましい上限が0.8mmである。
また、耐貫通性の向上やその他の目的により、本発明の合わせガラス用中間膜に他の合わせガラス用中間膜を積層してもよい。例えば、本発明の合わせガラス用中間膜に、酸素透過率が1000mL/m・day・MPa以下である合わせガラス用中間膜を積層することにより、更にサーモクロミック性の低下抑制効果を発揮することができる。
【0035】
本発明の合わせガラス用中間膜を製造する方法は特に限定されないが、上記熱可塑性樹脂、可塑剤、二酸化バナジウム粒子又は置換二酸化バナジウム粒子と必要に応じて配合する添加剤との混合物を用いて合わせガラス用中間膜を製造する方法や、上記二酸化バナジウム粒子又は置換二酸化バナジウム粒子を分散させた分散液と、上記熱可塑性樹脂、可塑剤と必要に応じて配合する添加剤との混合物とを用いて合わせガラス用中間膜を製造する方法が挙げられる。
上記混合物を作製する方法として、押出機、プラストグラフ、ニーダー、バンバリーミキサー、カレンダーロール等を用いる方法が挙げられる。なかでも、連続的な生産に適することから、押出機を用いる方法が好適である。
本発明の合わせガラス用中間膜を成形する方法として、押し出し法、カレンダー法、プレス法等が挙げられる。
【0036】
上記二酸化バナジウム粒子又は置換二酸化バナジウム粒子の分散性を向上させるために、上記分散液を用いることが好ましい。上記分散液は、極めて二酸化バナジウム粒子の分散安定性に優れ、これを用いることによりサーモクロミック性を有し、透明性に優れた合わせガラス用中間膜を製造することができる。
【0037】
上記分散液は、上記二酸化バナジウム粒子又は置換二酸化バナジウム粒子、上記分散剤及び有機溶媒を含有することが好ましい。
上記分散液中における上記二酸化バナジウム粒子又は置換二酸化バナジウム粒子の分散径(D50)の好ましい上限は100μmである。D50が100μm以下であると、透明性に優れる合わせガラス用中間膜を製造することができる。D50のより好ましい上限は10μmである。D50の下限については特に限定されないが、実質的には10nmが限界であると考えられる。
なお、本明細書においてD50とは、粒子をある粒子径から2つに分けたときに、大きい側と小さい側が等量となる粒子径のことを意味する。
【0038】
上記分散液中における上記二酸化バナジウム粒子又は置換二酸化バナジウム粒子の含有量の好ましい下限は0.001重量%、好ましい上限は60重量%である。上記二酸化バナジウム粒子又は置換二酸化バナジウム粒子の含有量が0.001重量%以上であると、優れたサーモクロミック特性を有する合わせガラス用中間膜を得ることができ、60重量%以下であると、透明性に優れる合わせガラス用中間膜を製造することができる。上記二酸化バナジウム粒子又は置換二酸化バナジウム粒子の含有量のより好ましい下限は0.01重量%、より好ましい上限は40重量%である。
【0039】
上記分散液中における上記分散剤の含有量の好ましい下限は0.001重量%、好ましい上限は30重量%である。上記分散剤の含有量が0.001〜30重量%の範囲内であると、上記二酸化バナジウム粒子の優れた分散効果を得ることができる。上記分散剤の含有量のより好ましい下限は0.01重量%、より好ましい上限は10重量%である。
【0040】
上記有機溶媒は特に限定されず、メタノール、エタノール等のアルコールが挙げられる。
また、上記有機溶媒として、合わせガラス用中間膜の可塑剤として用いられる従来公知の液状可塑剤を用いることができる。上記液状可塑剤は、例えば、ジヘキシルアジペート、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート、テトラエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート、テトラエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート、テトラエチレングリコール−ジ−n−ヘプタノエート及びトリエチレングリコール−ジ−n−ヘプタノエート等が挙げられ、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエートであることがより好ましい。
【0041】
上記分散液を製造する方法は特に限定されないが、例えば、上記二酸化バナジウム粒子、上記分散剤、上記有機溶媒及び必要に応じて添加する添加剤を、ビーズミル、遊星式攪拌装置、湿式メカノケミカル装置、ヘンシェルミキサー、ホモジナイザー、超音波照射機等を用いて混練する方法等が挙げられる。
【0042】
本発明の合わせガラス用中間膜を用いることにより、優れたサーモクロミック性を有する合わせガラスを得ることができる。
本発明の合わせガラス用中間膜が、2枚の透明板の間に挟み込まれている合わせガラスもまた、本発明の1つである。
【0043】
本発明の合わせガラスの製造方法は特に限定されず、従来公知の製造方法を用いることができる。例えば、本発明の合わせガラス用中間膜を、2枚の透明板の間に挟んで積層体とし、該積層体をゴムバックに入れ、ゴムバック内を減圧したうえで昇温し、一定時間保持した後に室温まで冷却し、減圧解除を行い、合わせガラスを得る方法等が挙げられる。この合わせガラスの製造時において、上記式(1)を満たす本発明の合わせガラス用中間膜を用いることが特に重要である。
合わせガラス用中間膜を2枚の透明板の間に挟んで積層体とし、該積層体を減圧下で加熱して熱圧着する合わせガラスの製造方法であって、上記合わせガラス用中間膜は、熱可塑性樹脂、可塑剤、及び、二酸化バナジウム粒子又は二酸化バナジウムのバナジウム原子の一部をタングステン、モリブデン、ニオブ、タンタルからなる群から選択される少なくとも1種の原子で置換した置換二酸化バナジウム粒子を含有し、かつ、上記式(1)を満たすものである合わせガラスの製造方法もまた、本発明の1つである。
【0044】
上記透明板は特に限定されず、一般に使用されている透明板ガラスを使用することができる。例えば、フロート板ガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、網入り板ガラス、線入り板ガラス、着色された板ガラス、熱線吸収板ガラス、熱線反射板ガラス、グリーンガラス等の無機ガラス等が挙げられる。また、ポリカーボネートやポリアクリレート等の有機プラスチックス板を用いることもできる。
【0045】
上記2枚の透明板は、同種の透明板であってもよいし、異種の透明板であってもよい。異種の透明板の組み合わせは、例えば、透明フロート板ガラスとグリーンガラスのような着色された板ガラスとの組み合わせや、無機ガラスと有機プラスチックス板との組み合わせ等が挙げられる。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、優れたサーモクロミック性を有する合わせガラス用中間膜及び合わせガラスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
(1)合わせガラス用中間膜の製造
二酸化バナジウム粒子((WO)2重量%(VO)98重量%、NanoAmor社製)0.05重量部と、分散剤として縮合リシノール酸ポリグリセリンエステル(SYグリスターCR−ED、阪本薬品工業社製)0.5重量部と、可塑剤としてトリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)28重量部とをビーズミルで混合し、二酸化バナジウム粒子分散液を得た。
得られた二酸化バナジウム粒子分散液の全量をポリビニルブチラール樹脂(水酸基の含有率30.5モル%、アセチル基量1モル%、平均重合度が1700であるポリビニルアルコールをn−ブチルアルデヒドでブチラール化して得られた樹脂)72重量部に加え、混練して樹脂組成物を得た。
得られた樹脂組成物を押出機を用いて押出することにより、厚さ760μmの合わせガラス用中間膜を得た。
得られた合わせガラス用中間膜を、温度23℃、湿度3%の恒温恒湿器に入れ、48時間調湿処理を行った。
【0049】
(2)合わせガラス
恒温恒湿器から取り出した合わせガラス用中間膜を、すぐに縦5cm×横5cmの大きさに切断し、2枚の透明なフロートガラス(縦5cm×横5cm、厚さ2mm)の間に挟み、積層体とし、この積層体をゴムバックに入れ、ゴムバック内の圧力−53.2KPa下で120℃まで昇温し、120℃、−53.2KPa下で20分間保持した後に室温まで冷却し、減圧解除を行い、合わせガラスを得た。
【0050】
(実施例2〜4、比較例1、2)
二酸化バナジウム粒子の濃度、合わせガラス用中間膜の厚さ、及び、調湿条件を表1に記載したようにした以外は実施例1と同様にして、合わせガラス用中間膜及び合わせガラスを製造した。
【0051】
(評価)
実施例及び比較例で製造した合わせガラス用中間膜及び合わせガラスについて、以下の方法により評価を行った。
結果を表1に示した。
【0052】
(1)調湿後の合わせガラス用中間膜の含水率の測定
得られた合わせガラス用中間膜(縦5cm×横5cm)を、シリカゲルを内部に有するデシケータ内に置いて、デシケータの蓋を閉めた。その後、該デシケータを23℃に保管し、合わせガラス用中間膜の重量変化がなくなるまで、合わせガラス用中間膜を乾燥させた。
乾燥前後の合わせガラス用中間膜の重量を測定し、下記式(2)により中間膜の含水率(重量%)を求めた。
【0053】
【数2】

【0054】
(2)サーモクロミック性の評価
直記分光光度計(日立ハイテク社製、U−4000)を用いて、JIS R 3106に準拠した方法により、作製直後の合わせガラスの10℃及び50℃における赤外線透過率TIRを測定した。
なお、合わせガラスを10℃又は50℃に調整した室内に30分間放置することにより、合わせガラスの温度が充分に均一になってから、赤外線透過率の測定を行った。
【0055】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、優れたサーモクロミック性を有する合わせガラス用中間膜及び合わせガラスを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂、可塑剤、及び、二酸化バナジウム粒子又は二酸化バナジウムのバナジウム原子の一部をタングステン、モリブデン、ニオブ、タンタルからなる群から選択される少なくとも1種の原子で置換した置換二酸化バナジウム粒子を含有する合わせガラス用中間膜であって、下記式(1)を満たすことを特徴とする合わせガラス用中間膜。
【数1】

【請求項2】
請求項1記載の合わせガラス用中間膜が、2枚の透明板の間に挟み込まれていることを特徴とする合わせガラス。
【請求項3】
合わせガラス用中間膜を2枚の透明板の間に挟んで積層体とし、該積層体を減圧下で加熱して熱圧着する合わせガラスの製造方法であって、
前記合わせガラス用中間膜は、熱可塑性樹脂、可塑剤、及び、二酸化バナジウム粒子又は二酸化バナジウムのバナジウム原子の一部をタングステン、モリブデン、ニオブ、タンタルからなる群から選択される少なくとも1種の原子で置換した置換二酸化バナジウム粒子を含有し、かつ、下記式(1)を満たすものである
ことを特徴とする合わせガラスの製造方法。
【数2】


【公開番号】特開2012−206878(P2012−206878A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72875(P2011−72875)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】