説明

合材粉体、電極の製造方法、電極及びリチウム二次電池

【課題】電極の製造工程をより簡素化すると共に、充放電特性をより高める電極を提供する。
【解決手段】リチウム二次電池10は、正極シート13と、負極シート18と、正極シート13と負極シート18との間を満たすイオン伝導媒体20と、を備えている。このリチウム二次電池10の正極シート13と負極シート18とは、活物質粒子に対する少なくとも結着材を含有する副次材の体積比率が0.5体積%以上35体積%以下の範囲で副次材及び活物質粒子を混合して作製する合材作製工程と、集電体と合材粉体との間の電位差に基づく付着により電極合材層を集電体上に形成する合材層形成工程と、を含む製造方法によって作製されている。また、合材作製工程では、導電材を更に含有した副次材を用い、合材粉体を混合するに際して、結着材に対する導電材の体積比率が5体積%以上500体積%以下の範囲となるよう副次材及び活物質粒子を混合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合材粉体、電極の製造方法、電極及びリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電極の製造方法としては、結着材を含まず、シリコン、ゲルマニウム及び錫の母粒子上に炭素を付着させた複合微粒子からなる第1の活物質層を集電体上に直接形成する工程と、結着材を用いた第2の活物質層を第1の活物質層の上に形成する工程とを含むものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この製造方法では、集電体と負極合材との界面に強固な結合を保持し、微細化した負極合材の集電体からの脱落を抑制し、高容量で長寿命なリチウム二次電池を提供することができるとしている。また、電極の製造方法としては、固体電解質を溶媒中に分散し電池用電極を浸漬する工程と、溶液内に電位勾配を発生させて固体電解質を電気泳動により電池用電極の表面に付着させる工程とを含むものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。この製造方法では、固体電解質が形成されていない部分に優先的に固体電解質層が形成されることにより、より均一な固体電解質層が形成されるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−172860号公報
【特許文献2】特開2002−42792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1の電極の製造方法では、シリコンなどの表面に炭素を付着させた複合微粒子を用いる必要があるなど、電極の製造工程が煩雑であった。また、上述の特許文献1,2の電極の製造方法では、充放電特性もまだ十分でなく、より充放電特性を高めることが求められていた。このように、電極の製造工程をより簡素化すると共に、充放電特性をより高めることが求められていた。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、電極の製造工程をより簡素化すると共に、充放電特性をより高めることができる合材粉体、電極の製造方法、電極及びリチウム二次電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、少なくとも結着材を含有する副次材と活物質粒子と含む合材粉体であって、活物質に対する副次材の体積比率を所定範囲とした合材粉体を用い、集電体と合材粉体との間の電位差により電極合材層を集電体上に形成すると、電極の製造工程をより簡素化すると共に、充放電特性をより高めることができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の合材粉体は、少なくとも結着材を含有する副次材と活物質粒子とを含む、電極に用いられる粉末状の合材粉体であって、前記活物質粒子に対する前記副次材の体積比率が0.5体積%以上35体積%以下の範囲であるものである。
【0008】
本発明の電極の製造方法は、
少なくとも結着材を含有する副次材と活物質粒子とを含む粉末状の合材粉体を、前記活物質粒子に対する前記副次材の体積比率が0.5体積%以上35体積%以下の範囲で前記副次材及び前記活物質粒子を混合して作製する合材作製工程と、
集電体と前記合材粉体との間の電位差に基づく付着により電極合材層を前記集電体上に形成する合材層形成工程と、
を含むものである。
【0009】
本発明の電極は、少なくとも結着材を含有する副次材と活物質粒子とを含む粉末状の合材粉体であって、前記活物質粒子に対する前記副次材の体積比率が0.5体積%以上35体積%以下の範囲である該合材粉体を含む電極合材層が集電体上に形成されているものである。
【0010】
本発明のリチウム二次電池は、正極及び負極のうち少なくとも一方である、上述の電極と、前記電極と接しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の合材粉体、電極の製造方法、合材粉体、電極及びリチウム二次電池は、電極の製造工程をより簡素化すると共に、充放電特性をより高めることができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推測される。例えば、一般に、活物質粒子及び結着材を含む電極合材と溶媒とを含むペースト(又はスラリー)を用いて集電体に塗布して電極を作製する場合がある。この場合、含まれる成分の密度差などにより生じる活物質の沈降などを抑制したり、ペースト作成時から塗工時までの粘性挙動を安定させる必要がある。また、ペーストを集電体に塗工したあとは、高熱をかけて溶媒を乾燥させたり、揮発した溶媒を回収したりする必要がある。また、塗工後の電極は、溶媒の蒸発に起因して結着材の偏析などが生じ、電極合材の組成ムラが生じることがある。これに対して、本発明では、集電体と合材粉体との間の電位差に基づく付着により電極合材層を集電体上に形成するため、上記ペーストを用いて集電体に塗布して電極を作製する場合に比して、溶媒を必要とせず、溶媒の乾燥工程や、ペーストの性状維持に関する処理などを省略することができ、より簡素的な工程で電極の製造を行うことができる。また、電極合材の組成ムラを抑制して充放電特性をより高めることができる。また、本発明では、活物質粒子に対する副次材の体積比率を0.5体積%以上35体積%以下の範囲とすることにより、より適切な空隙を電極合材層に形成させると共に、活物質粒子層での十分な結着強度を持たせることができ、その結果、例えば、放電容量の向上や放電容量維持率の向上など、充放電特性をより高めることができるものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】リチウム二次電池10の構成の概略を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の電極の製造方法は、少なくとも結着材を含有する副次材と活物質粒子とを含む粉末状の合材粉体を混合して作製する合材作製工程と、集電体と合材粉体との間の電位差に基づく付着により電極合材層を集電体上に形成する合材層形成工程と、を含むものである。本発明の電極の製造方法は、活物質粒子として正極活物質を用い、正極を製造する方法としてもよいし、活物質粒子として負極活物質を用い、負極を製造する方法としてもよい。この製造方法において、電極は、アルカリ二次電池の電極とすることが好ましい。アルカリ二次電池のアルカリとしては、例えば、リチウム,ナトリウム,カリウムとしてもよく、このうちリチウムがより好ましい。以下では、主としてリチウム二次電池の製造方法について説明する。
【0014】
[合材作製工程]
この工程では、少なくとも結着材を含有する副次材と活物質粒子とを含む粉末状の合材粉体を、活物質粒子に対する副次材の体積比率が0.5体積%以上35体積%以下の範囲で副次材及び活物質粒子を混合して作製する処理を行う。この活物質粒子に対する副次材の体積比率(体積%)は、(副次材の体積部)/(活物質粒子の体積部)×100により算出する値である。活物質粒子に対する副次材の体積比率が0.5体積%以上35体積%以下の範囲では、放電容量をより高めることができ、充放電サイクルを繰り返した際の容量維持率をより高めることができる。活物質粒子に対する副次材の体積比率は、1体積%以上がより好ましく、5体積%以上が更に好ましい。また、活物質粒子に対する副次材の体積比率は、20体積%以下の範囲がより好ましく、10体積%以下の範囲が更に好ましい。副次材は、結着材を含むものであるが、更に導電材を含むものとしてもよい。この副次材は、活物質粒子を結着する機能を有する結着材及び導電性を付与する機能を有する導電材以外の材料を含まないものとする。この副次材は、例えば、活物質粒子が導電性を有する場合には、結着材のみからなるものとし、活物質粒子の導電性が低いか導電性がない場合には、結着材と導電材とからなるものとしてもよい。
【0015】
合材作製工程では、導電材を更に含有した副次材を用い、合材粉体を混合するに際して、結着材に対する導電材の体積比率が5体積%以上500体積%以下の範囲となるよう副次材及び活物質粒子を混合するものとしてもよい。この結着材に対する導電材の体積比率(体積%)は、(導電材の体積部)/(結着材の体積部)×100により算出する値である。この体積比率が5体積%以上500体積%以下の範囲では、放電容量をより高めることができ、充放電サイクルを繰り返した際の容量維持率をより高めることができる。結着材に対する導電材の体積比率は、6体積%以上がより好ましく、8体積%以上が更に好ましい。また、結着材に対する導電材の体積比率は、50体積%以下の範囲がより好ましく、20体積%以下の範囲が更に好ましい。
【0016】
合材作製工程において、活物質粒子として、例えば、従来のリチウム二次電池に用いられる正極活物質や負極活物質などを用いることができる。例えば、活物質粒子は、正極活物質としての、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、Li(1-x)MnO2(0≦x≦1、以下同じ)、Li(1-x)Mn24などのリチウムマンガン複合酸化物、Li(1-x)CoO2などのリチウムコバルト複合酸化物、Li(1-x)NiO2などのリチウムニッケル複合酸化物、LiV23などのリチウムバナジウム複合酸化物、V25などの遷移金属酸化物などを用いることができる。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiV23などが好ましい。また、活物質粒子は、負極活物質としての、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、Li4Ti512などのチタン複合酸化物、導電性ポリマーなどを用いることができる。このうち炭素質材料が安全性の面から見て好ましい。この炭素質材料は、特に限定されるものではないが、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が、金属リチウムに近い作動電位を有し、高い作動電圧での充放電が可能であり、電解質塩としてリチウム塩を使用した場合に自己放電を抑え、且つ充電時おける不可逆容量を少なくできるため、好ましい。この活物質粒子は、平均粒径が0.5μm以上20μm以下であることが、集電体上に形成する処理が行いやすいため好ましく、1μm以上10μm以下であることがより好ましい。なお、原料粉体の平均粒径は、レーザー回折法により測定した値とする。
【0017】
合材作製工程において、用いる結着材は、活物質粒子粒子や導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンマー(EPDM)、スルホン化EPDM、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。
【0018】
合材作製工程において、導電材は、電極の電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。
【0019】
合材作製工程では、活物質粒子、結着材、更には導電材を溶剤に分散させ、混合したのち、乾燥、解砕し、合材粉体を作製するものとしてもよい。こうすれば、活物質粒子と副次材とをより均一に混合することができる。溶剤としては、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質粒子をスラリー化して混合してもよい。
【0020】
[合材層形成工程]
この工程では、集電体と合材粉体との間の電位差に基づく付着により電極合材層を集電体上に形成する処理を行う。電極合材層を集電体上に形成する処理としては、例えば、粉体静電塗装や、電着塗装などが挙げられる。粉体静電塗装とは、合材粉体を用い、これを静電気力によって集電体に付着させたのち、加熱により結着材を溶融して合材を集電体に固定する手法をいう。電着塗装とは、電解液の中に集電体を浸漬しこれを陰極又は陽極とし、直流電気を通じて合材粉体を集電体上に電着、形成させる手法をいう。合材層形成工程は、電着塗装など合材粉体に溶媒を加えた湿式処理で行ってもよいし、粉体静電塗装など合材粉体をそのまま用いる乾式処理で行ってもよい。このうち、乾式処理が、乾燥工程などを簡略化することができ、且つ製造エネルギーの観点からも好ましい。また、粉体静電塗装では、集電体側の電極合材層の空隙率を小さくし、より表面側の電極合材層の空隙率をより大きくするなど、電極合材層の空隙制御が容易であり、より好ましい。この電極合材層の空隙制御は、例えば、活物質粒子の粒径や副次材の添加量などを変化させ、第1層目、第2層目と、特性を変化させた合材粉体を塗装することにより実現することができる。粉体静電塗装を行う場合、合材粉体を霧状にするための方式には、帯電した合材粉体自身の反発を利用し合材粉体を霧状に噴霧する方式や、噴霧した合材粉体に外部電極からコロナ放電で電荷を付与する方式などが挙げられる。
【0021】
合材層形成工程では、合材粉体を集電体上に形成したのち、必要に応じて電極密度を高めるべくプレスなどにより圧縮する圧縮処理や、合材粉体を固着させるべく加熱処理を行ってもよい。例えば、加熱したロールプレスで圧縮処理及び加熱処理を同時に行うものとしてもよい。圧縮処理や加熱処理では、結着材に内部応力(歪)が残存しないように行うことが好ましい。また、適度な空隙が存在するように圧縮処理を行うことが好ましい。合材粉体を固着する際の加熱処理は、例えば、結着材のガラス転移点Tg以上の温度で行うことが好ましく、結着材の軟化点以上の温度で行うことがより好ましい。ガラス転移点Tg以上の温度で加熱処理を行うと、結着材に内部応力(歪)が残存しにくく、活物質粒子をより強固に集電体上に固着することができ、好ましい。
【0022】
合材層形成工程では、集電体として、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。これらは、正極用の集電体として用いることができる。また、負極用の集電体としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al−Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1〜500μmのものが用いられる。
【0023】
本発明の電極は、活物質粒子に対する副次材の体積比率が0.5体積%以上35体積%以下の範囲である、少なくとも結着材を含有する副次材と活物質粒子とを含む粉末状の合材粉体を含む電極合材層が集電体上に形成されているものである。この電極は、上述した製造方法によって作製されたものである。この電極においても、電極の製造工程をより簡素化すると共に、充放電特性をより高めることができる。
【0024】
本発明の電極は、例えば、リチウム二次電池に用いることができる。本発明のリチウム二次電池は、活物質粒子に対する副次材の体積比率が0.5体積%以上35体積%以下の範囲である、少なくとも結着材を含有する副次材とリチウムを吸蔵・放出しうる活物質粒子とを含む粉末状の合材粉体を含む電極合材層が集電体上に形成されている電極と、電極と接しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えているものとしてもよい。本発明のリチウム二次電池は、正極及び負極の少なくとも一方が、本発明の電極であるものとしてもよく、正極及び負極の両方が本発明の電極であるものとしてもよい。負極活物質としては、リチウム、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物を用いるものとしてもよい。
【0025】
本発明のリチウム二次電池のイオン伝導媒体としては、支持塩を含む非水系電解液や非水系ゲル電解液などを用いることができる。非水電解液の溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル−n−ブチルカーボネート、メチル−t−ブチルカーボネート、ジ−i−プロピルカーボネート、t−ブチル−i−プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ−ブチルラクトン、γ−バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3−ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。このうち、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組み合わせが好ましい。この組み合わせによると、充放電の繰り返しでの電池特性を表すサイクル特性が優れているばかりでなく、電解液の粘度、得られる電池の電気容量、電池出力などをバランスの取れたものとすることができる。なお、環状カーボネート類は、比誘電率が比較的高く、電解液の誘電率を高めていると考えられ、鎖状カーボネート類は、電解液の粘度を抑えていると考えられる。
【0026】
本発明のリチウム二次電池に含まれている支持塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この電解質塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。電解質塩の濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。
【0027】
また、液状のイオン伝導媒体の代わりに、固体のイオン伝導性ポリマーをイオン伝導媒体として用いることもできる。イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、アクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデンなどのポリマーと支持塩とで構成されるポリマーゲルを用いることができる。更に、イオン伝導性ポリマーと非水系電解液とを組み合わせて用いることもできる。また、イオン伝導媒体としては、イオン伝導性ポリマーのほか、無機固体電解質あるいは有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、若しくは有機バインダーによって結着された無機固体粉末などを利用することができる。
【0028】
本発明のリチウム二次電池は、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、リチウム二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0029】
本発明のリチウム二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。図1は、本発明のリチウム二次電池10の一例を示す模式図である。このリチウム二次電池10は、集電体11に正極合材層12を形成した正極シート13と、集電体14の表面に負極合材層17を形成した負極シート18と、正極シート13と負極シート18との間に設けられたセパレータ19と、正極シート13と負極シート18との間を満たすイオン伝導媒体20(非水電解液)と、を備えたものである。このリチウム二次電池10では、正極シート13と負極シート18との間にセパレータ19を挟み、これらを捲回して円筒ケース22に挿入し、正極シート13に接続された正極端子24と負極シート18に接続された負極端子26とを配設して形成されている。また、このリチウム二次電池10の正極シート13と負極シート18とは、活物質粒子に対する副次材の体積比率が0.5体積%以上35体積%以下の範囲で副次材及び活物質粒子を混合して作製する合材作製工程と、集電体と合材粉体との間の電位差に基づく付着により電極合材層を集電体上に形成する合材層形成工程と、を含む製造方法によって作製されている。
【0030】
以上詳述した、本発明の電極の製造方法、電極、リチウム二次電池では、集電体と合材粉体との間の電位差に基づく付着により電極合材層を集電体上に形成するため、例えばペーストを用いて集電体に塗布して電極を作製する場合に比して、溶媒を多量に必要とせず、溶媒の乾燥工程や、ペーストの性状維持に関する処理などを省略することができ、より簡素的な工程で電極の製造を行うことができる。また、電極合材の組成ムラを抑制して充放電特性をより高めることができる。また、活物質粒子に対する副次材の体積比率を0.5体積%以上35体積%以下の範囲とすることにより、より適切な空隙を電極合材層に形成させると共に、活物質粒子層での十分な結着強度を持たせることができ、その結果、例えば、放電容量の項上や放電容量維持率の向上など、充放電特性をより高めることができる。したがって、電極の製造工程をより簡素化すると共に、充放電特性をより高めることができる。
【0031】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0032】
例えば上述した実施形態では、電極の製造方法、電極、リチウム二次電池として説明したが、合材粉体としてもよい。本発明の合材粉体は、少なくとも結着材を含有する副次材と活物質粒子とを含む、電極に用いられる粉末状の合材粉体であって、活物質粒子に対する副次材の体積比率が0.5体積%以上35体積%以下の範囲であるものである。こうしても、上述した製造方法などと同様に、電極の製造工程をより簡素化すると共に、充放電特性をより高めることができる。
【実施例】
【0033】
以下には、本発明のリチウム二次電池を具体的に作製した例を実施例として説明する。
【0034】
[実施例1]
[粉体状の正極合材の作製]
結着材のポリフッ化ビニリデンに対して、導電材のカーボンブラックを体積比で5%混合し、副次材とした。平均粒径が7μmのLiNi0.8Co0.15Al0.052の層状リチウムニッケル複合酸化物に対して、この副次材を体積比で35%混合したものをN−メチル−2−ピロリドンで分散させた。これを減圧乾燥して解砕し、正極活物質であるリチウムニッケル複合酸化物の粒子表面に副次材(導電性結着材)を薄膜状あるいは島状に密着させた粉末状の正極合材を得た。
【0035】
[粉体状の負極合材の作製]
平均粒径が5μmの天然黒鉛に対して、結着材のポリフッ化ビニリデン(副次材)を体積比で35%混合したものを、N−メチル−2−ピロリドンで分散させた。これを減圧乾燥して解砕し、負極活物質である天然黒鉛の粒子表面に副次材(結着材)を薄膜状あるいは島状に密着させた粉末状の負極合材粉体を得た。
【0036】
[電極作製]
粉体塗布用の静電塗布装置を用いて正極合材粉体及び負極合材粉体を集電体の表面に静電塗装した。正極合材粉体は、静電塗布装置を用いて集電体としての20μmのAl箔の両面に塗布された。また、負極合材粉体は、静電塗布装置を用いて集電体としての厚さ10μmのCu箔の両面に塗布された。片面あたりの塗布量は、正極では7mg/cm2、負極では5mg/cm2とした。静電塗布装置では−60kVを印加して合材粉体を帯電させ、集電体を接地させることによりこれらの間に電位差を発生させ、いわゆる静電塗装を行った。静電塗布後の正極電極及び負極電極に対して、ロールプレスで高密度化を図った。このロールプレスの温度を120℃に制御し、活物質表面の結着材同士に内部歪が生じない状態で密着させ、正極電極及び負極電極を得た。
【0037】
[電池作製]
上記作製した正極電極と負極電極とを25μm厚の多孔質ポリエチレン製セパレータを挟んで捲回し、ロール状電極を作製した。このロール状電極を18650型円筒ケースに挿入し、イオン伝導媒体(非水電解液)を含浸させたあとに密閉して円筒形リチウム二次電池を作製した。非水電解液には、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを体積比で30:70で混合した混合溶液に、LiPF6を1mol/Lの濃度で溶解したものを用いた。得られた電池を実施例1とした。
【0038】
[実施例2〜3]
正極では、結着材に対して導電材を体積比で5%混合し副次材を得て、正極活物質に対してこの副次材を体積比で0.5%混合したものを用い、負極では、負極活物質に対して副次材(結着材)を体積比で0.5%混合したものを用いた以外は実施例1と同様の工程を経て得られた電池を実施例2とした。また、正極では、結着材に対して導電材を体積比で500%混合し副次材を得て、正極活物質に対してこの副次材を体積比で35%混合したものを用い、負極では、負極活物質に対して副次材(結着材)を体積比で35%混合したものを用いた以外は実施例1と同様の工程を経て得られた電池を実施例3とした。
【0039】
[比較例1〜4]
正極では、結着材に対して導電材を体積比で4%混合し副次材を得て、正極活物質に対してこの副次材を体積比で35%混合したものを用い、負極では、負極活物質に対して副次材(結着材)を体積比で35%混合したものを用いた以外は実施例1と同様の工程を経て得られた電池を比較例1とした。また、正極では、結着材に対して導電材を体積比で600%混合し副次材を得て、正極活物質に対してこの副次材を体積比で35%混合したものを用い、負極では、負極活物質に対して副次材(結着材)を体積比で35%混合したものを用いた。これを比較例2としたが、結着剤の量の関係で電極の作製はできなかった。また、正極では、結着材に対して導電材を体積比で5%混合し副次材を得て、正極活物質に対してこの副次材を体積比で45%混合したものを用い、負極では、負極活物質に対して副次材(結着材)を体積比で45%混合したものを用いた以外は実施例1と同様の工程を経て得られた電池を比較例3とした。また、正極では、結着材に対して導電材を体積比で5%混合し副次材を得て、正極活物質に対してこの副次材を体積比で0.4%混合したものを用い、負極では、負極活物質に対して副次材(結着材)を体積比で0.4%混合したものを用いた。これを比較例4としたが、結着剤の量の関係で電極の作製はできなかった。
【0040】
(充放電サイクル試験)
充放電サイクル試験は、20℃の温度条件下において、電流密度2mA/cm2の定電流で、充電上限電圧として4.1Vまで充電を行い、次に、電流密度2mA/cm2の定電流で、放電下限電圧として3.0Vまで放電を行う充放電を1サイクルとし、このサイクルを100サイクル行った。そして、充放電サイクル試験の1回目の放電容量を初期放電容量とし、(100サイクル後の放電容量/初期放電容量×100)との式を用いて、100サイクル後の容量維持率を計算した。
【0041】
(結果と考察)
実施例1〜3,比較例1〜4の詳細と、測定結果を表1に示す。表1には、正極の副次材の導電材/結着材(体積%)、正極合材の副次材/活物質(体積%)、負極合材の副次材/活物質(体積%)、正極活物質1gあたりの放電容量(mAh/g)、100サイクル後の放電容量維持率(%)を示した。作製した試料の測定結果より、正極においては、導電性がほとんどないリチウムニッケル複合酸化物の表面に導電材と結着材とを含む副次材が必要であり、副次材/活物質が0.5体積%以上35体積%以下の範囲であると、放電容量を高め、且つ容量維持率をより高めることができ、好ましいことがわかった。また、この正極において、導電材/結着材が5体積%以上500体積%以下の範囲であることが好ましいことがわかった。また、負極では、活物質である天然黒鉛に導電性があることから、副次材としては、結着材を含めばよく、結着材/活物質が0.5体積%以上35体積%以下の範囲であると、放電容量を高め、且つ容量維持率をより高めることができ、好ましいことがわかった。粒子表面に結着材が存在しても、比較例2,4のように、副次材/活物質や導電材/結着材の値が上述した範囲を外れると、電極化そのものが困難となった。電極を高密度化する場合は、当然のことながら、結着材に内部応力(歪)が残存しないように少なくとも結着材のガラス転移点Tg以上の温度で高密度化することが好ましく、軟化点以上の温度で高密度化することがより好ましいと推察された。また、静電塗装により電極合材粉体を集電体上に形成することができるため、例えば、電極合材と溶媒とを含むペースト又はスラリーを用いて集電体に塗布して電極を作製する場合に比して、溶媒を必要とせず、溶媒の乾燥工程なども省略することができ、より簡素的な工程で、且つより低エネルギーで電極の製造を行うことができた。更に、正極活物質の組成、負極活物質の組成、あるいは導電材の組成、結着材の組成、静電塗装条件などが本実施例と異なっていても、上述した副次材/活物質の範囲、導電材/結着材の範囲においても同様の効果を奏すると推察された。例えば、負極活物質としてTi複合酸化物を用いる場合には、負極用の副次材に導電材を混合すればよいし、正極活物質として導電性を有するものを用いる場合には、正極用の副次材に導電材を混合しないものとすればよい。
【0042】
【表1】

【符号の説明】
【0043】
10 リチウム二次電池、11,14 集電体、12 正極合材層、13 正極シート、17 負極合材層、18 負極シート、19 セパレータ、20 イオン伝導媒体、22 円筒ケース、24 正極端子、26 負極端子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも結着材を含有する副次材と活物質粒子とを含む、電極に用いられる粉末状の合材粉体であって、
前記活物質粒子に対する前記副次材の体積比率が0.5体積%以上35体積%以下の範囲である、合材粉体。
【請求項2】
前記副次材は、導電材を更に含有しており、
前記結着材に対する前記導電材の体積比率が5体積%以上500体積%以下の範囲である、請求項1に記載の合材粉体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の合材粉体を、前記活物質粒子に対する前記副次材の体積比率が0.5体積%以上35体積%以下の範囲で前記副次材及び前記活物質粒子を混合して作製する合材作製工程と、
集電体と前記合材粉体との間の電位差に基づく付着により電極合材層を前記集電体上に形成する合材層形成工程と、
を含む電極の製造方法。
【請求項4】
前記合材作製工程では、導電材を更に含有した前記副次材を用い、前記合材粉体を混合するに際して、前記結着材に対する前記導電材の体積比率が5体積%以上500体積%以下の範囲となるよう前記副次材及び前記活物質粒子を混合する、請求項3に記載の電極の製造方法。
【請求項5】
前記合材層形成工程では、粉体静電塗装により前記電極合材層を前記集電体上に形成する、請求項3又は4に記載の電極の製造方法。
【請求項6】
少なくとも結着材を含有する副次材と活物質粒子とを含む粉末状の合材粉体であって、前記活物質粒子に対する前記副次材の体積比率が0.5体積%以上35体積%以下の範囲である該合材粉体を含む電極合材層が集電体上に形成されている、電極。
【請求項7】
正極及び負極のうち少なくとも一方である請求項6に記載の電極と、
前記電極と接しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えたリチウム二次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2013−84442(P2013−84442A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223464(P2011−223464)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】