説明

合金化誘導加熱装置の投入電力制御方法及び装置

【課題】前段高負荷モードにおいて、前段高負荷のためのデータ取りや再調整の必要がなく、前段のインダクションヒータの能力を最大限に活用することができる合金化誘導加熱装置の投入電力制御方法及び装置を提供すること。
【解決手段】熱処理炉12から排出された鋼板11の表面に形成した亜鉛めっき層に対して合金化誘導加熱装置14を用いて合金化を行う際の、多段構成インダクションヒータへ投入する総電力を負荷配分する合金化誘導加熱装置の投入電力制御方法において、前段高負荷モードの選択時には、前段のインダクションヒータ22への投入電力負荷配分を前段のインダクションヒータ22の能力と関係なく配分し、前段のインダクションヒータ22からの出力電力量実績を基に不足電力量を後段のインダクションヒータ23にて補正出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板に溶融亜鉛めっきを施した後に合金化処理して連続的に合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する際の合金化誘導加熱装置への投入電力の制御方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶融金属めっき設備の一例である溶融亜鉛めっき設備10は、例えば図1に示すように、鋼鈑11を焼鈍する熱処理炉12と、熱処理炉12から排出された鋼板11の表面に亜鉛めっき層を形成するめっき装置13と、亜鉛めっき層が形成された鋼板11を加熱して亜鉛めっき層の合金化を開始させる合金化誘導加熱装置14と、合金化誘導加熱装置14で加熱された鋼板11を所定温度に保持して亜鉛めっき層の合金化を行う保熱炉15と、保熱炉15を通過した鋼板11を所定温度まで降温する冷却炉群16を備えている。
【0003】
この溶融亜鉛めっき設備10において、鋼板11は熱処理炉12で焼鈍されて矢印Aの方向に通板され、スナウト17を介してめっき装置13に導入される。めっき装置13では、鋼板11は溶融亜鉛18が貯留されているポット19に浸漬される。鋼板11は、ポット19内を進行中にその表面に亜鉛めっき層が形成され、ポット19内に設けられたシンクロール20で進行方向が変えられ、ポット19から上方に排出される。
【0004】
ポット19から排出された鋼板11の表面の亜鉛めっき層は、この鋼板11と対向してエアーを噴出するめっきノズル21の間を通過する時に余剰の亜鉛は吹き飛ばされ、所定厚みに調整される。
【0005】
めっき層の厚みが調整された鋼鈑11は、合金化誘導加熱装置14に装入され所定の温度まで加熱されることにより、めっき層の合金化が開始する。合金化が開始した鋼鈑11は、保熱帯15に装入されて所定時間保持されることにより、均一な合金化が達成される。そして、めっき層が合金化された鋼鈑11は、デフレクターロール25で進行方向を変えながら複数の冷却炉24からなる冷却炉群24を通過しながら温度が下げられて、後方設備へと搬送される。
【0006】
合金化溶融亜鉛めっき鋼鈑に要求される品質特性、特にプレス加工時の耐パウダリング性や対フレーキング性への需要家からの要求は厳しくなっている。プレス加工時の耐パウダリング性や耐フレーキング性は合金化誘導加熱装置のインダクションヒータへ投入される総電力の各インダクションヒータへの負荷配分の影響を受けるため、用途に応じた負荷配分(前段高負荷、均等負荷等)の選択が必要である。例えば、特許文献1に開示された製造方法においては、合金化処理における初期の熱処理条件を特定することにより、耐フレーキング性を向上させ得ることが示されている。
【0007】
また、インダクションヒータへの負荷配分について、特許文献2に開示された製造方法においては、めっき鋼鈑の板厚が薄物板厚になると磁気飽和現象により、発熱に寄与する電力の上限リミット値が小さくなることを考慮し、上限リミット値以内の電力を供給することが示されている。
【特許文献1】特開平1−279738号公報
【特許文献2】特開平8−176780号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
通常のインダクションヒータの電力出力特性は、図5に示すように、マッチングポイント(最大出力点)の一点のみで定格(100%出力)となる傘状の板幅依存性を示す。例えば公称1500kWのインダクションヒータはマッチングポイントの一点でしか1500kWを出力できず、マッチングポイント以外の板幅ではその値以下しか出力しない。
【0009】
したがって、投入総電力の各インダクションヒータへの負荷配分において、均等負荷モードの場合は、必要電力×1/2を前段、後段のそれぞれのインダクションヒータに配分すれば良いが、前段高負荷モードで各インダクションヒータに電力を設定する場合、インダクションヒータの出力特性に基づいて制御部(ラインPLC)が前段に何kWまで設定可能かを定義するテーブルまたは演算式を予め持っておく必要があった。
【0010】
しかし、この前段高負荷モードにおける、ラインPLCが前段に何kWまで設定可能かを定義するテーブルまたは演算式の基となるデータを採取すること、およびデータからテーブルあるいは演算式を設定することは以下の理由により困難であった。
【0011】
(1)データ化が困難(各板幅の最大出力の加熱条件が得られにくい)
(1a)データ採取を行うライン試運転時には他セクションの試運転も行われており、通板速度が十分には上げられず加熱能力をあまり必要としない。このように通板速度の低い状態で採取した小出力時のデータにて最大通板速度での最大出力時のデータを想定しても誤差が大きくなる。
(1b)データのn数を多くし、測定誤差を小さくするには、多くの時間がかかる。
(1c)加熱特性を変更するためにマッチングポイントは調整可能であるが、調整を実施すると一からデータの取り直しが必要となる(図6参照)。
【0012】
(2)板幅毎のインダクションヒータ出力設定テーブル作成が困難
上記(1)の理由より、各板幅毎の最大出力を何kWとするかをバラツキの多いデータから決定しなければならず、図7および図8に示すように、結果的に余力を残した最大出力しか設定できなかった。
【0013】
上述のようなバラツキの多さや、板幅毎のインダクションヒータ出力設定のしにくさから、試運転に多くの時間を要していた。また、インダクションヒータの能力(出力容量)を不足させないように必要以上に大きなインダクションヒータを設置しなければならなかった。
【0014】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、前段高負荷モードにおいて、前段高負荷のためのデータ取りや再調整の必要がなく、前段のインダクションヒータの能力を最大限に活用することができる合金化誘導加熱装置の投入電力制御方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するため本発明に係る合金化誘導加熱装置の投入電力制御方法及び装置は、前段高負荷モードを選択時には、前段のインダクションヒータへの投入電力負荷配分を前段のインダクションヒータの能力と関係なく配分し、前段のインダクションヒータからの出力電力量実績を基に不足電力量を後段のインダクションヒータにて補正出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る合金化誘導加熱装置の投入電力制御では、前段のインダクションヒータを各板幅における最大出力まで使い切ることが可能なため、インダクションヒータの容量を必要以上に大きくする必要がない。換言すれば、同一容量のインダクションヒータを使用した場合には、従来の制御方法と比べ、より急速加熱が可能となる。
【0017】
また、合金化誘導加熱装置の試運転時においては、試運転時間の短縮が図れる。特に、前段高負荷のためのデータ取りや再調整する必要が全くなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明を適用する溶融金属めっき設備の一例である溶融亜鉛めっき設備10は、例えば図1に示すように、鋼鈑11を焼鈍する熱処理炉12と、熱処理炉12から排出された鋼板11の表面に亜鉛めっき層を形成するめっき装置13と、亜鉛めっき層が形成された鋼板11を加熱して亜鉛めっき層の合金化を開始させる合金化誘導加熱装置14と、合金化誘導加熱装置14で加熱された鋼板11を所定温度に保持して亜鉛めっき層の合金化を行う保熱炉15と、保熱炉15を通過した鋼板11を所定温度まで降温する冷却炉群16を備えている。
【0019】
この溶融亜鉛めっき設備10において、鋼板11は熱処理炉12で焼鈍されて矢印Aの方向に通板され、スナウト17を介してめっき装置13に導入される。めっき装置13では、鋼板11は溶融亜鉛18が貯留されているポット19に浸漬される。鋼板11は、ポット19内を進行中にその表面に亜鉛めっき層が形成され、ポット19内に設けられたシンクロール20で進行方向が変えられ、ポット19から上方に排出される。
【0020】
ポット19から排出された鋼板11の表面の亜鉛めっき層は、この鋼板11と対向してエアーを噴出するめっきノズル21の間を通過する時に余剰の亜鉛は吹き飛ばされ、所定厚みに調整される。
【0021】
めっき層の厚みが調整された鋼鈑11は、合金化誘導加熱装置14に装入され所定の温度まで加熱されることにより、めっき層の合金化が開始する。合金化が開始した鋼鈑11は、保熱帯15に装入されて所定時間保持されることにより、均一な合金化が達成される。そして、めっき層が合金化された鋼鈑11は、デフレクターロール25で進行方向を変えながら複数の冷却炉24からなる冷却炉群16を通過しながら温度が下げられて、後方設備へと搬送される。
【0022】
合金化誘導加熱装置14は、多段構成の場合複数のインダクションヒータを直列に配置してなる。図1の例は、前段のインダクションヒータ22および後段のインダクションヒータからなる。制御部としてのラインPLC28内の電力分配演算部29では、板幅・通板速度・負荷分配モード等のライン諸条件30より各々のインダクションヒータへ分配する電力の演算を行う。
【0023】
負荷分配モードの内、均等負荷モードは多段設置するインダクションヒータへ投入する総電力を各インダクションヒータに均等に分配する。例えば、インダクションヒータが2段構成の場合、図3に示すように、総電力が3000kWの場合、前段および後段のインダクションヒータに設定する電力はいずれも1500kWとする。
【0024】
負荷分配モードの内、前段高負荷モードは多段設置するインダクションヒータへ投入する総電力を、まず前段のインダクションヒータに設定し、前段のインダクションヒータからの出力電力量実績と総電力との差分を後段のインダクションヒータに設定する。例えば図4に示すように、ちょうどインダクションヒータのマッチングポイントであれば、総電力1800kWの場合、前段のインダクションヒータで1500kW、後段のインダクションヒータで300kWが出力される。
【0025】
このように本発明では、前段高負荷モードの選択時には、前段のインダクションヒータへの投入電力負荷配分を前段のインダクションヒータの能力と関係なく配分し、前段のインダクションヒータからの出力電力実績を基に不足電力は後段のインダクションヒータにて補正出力する。
【0026】
図2は、本発明による均等負荷モードと前段高負荷モードの演算回路例を示す。均等負荷モードの場合、接点C1およびC2がon、接点C3およびC4がoffとなり、インダクションヒータに設定する総電力Poの1/2が前段のインダクションヒータ22および後段のインダクションヒータ23に、前段用インバータ26および後段用インバータ27を介して設定される。すなわち、前段のインダクションヒータ22の電力設定値P1ref=後段のインダクションヒータ23の電力設定値P2ref=Po/2となる。
【0027】
また、前段高負荷モードの場合、接点C1およびC2がoff、接点C3およびC4がonとなり、インダクションヒータに設定する総電力Poの全てが前段のインダクションヒータ22に前段用インバータ26を介して設定され、実際に前段のインダクションヒータ22の出力電力実績値(フィードバック値)P1fbと前段のインダクションヒータ22の電力設定値(総電力Po)との比較により、前段のインダクションヒータ22での出力不足分が後段のインダクションヒータ23に後段用インバータ27を介して設定される。
【0028】
このように、本発明においては、前段高負荷モードにおいて、前段のインダクションヒータをその最大出力まで使い切ることが可能なため、前段のインダクションヒータ選定時その容量を必要以上に大きくする必要がないとういう効果がある。また、合金化誘導加熱装置の試運転時において、特に、前段高負荷のためのデータ取りの必要がないため、試運転時間の短縮が図れるという効果もある。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、2段のインダクションヒータに限らず、3段以上のインダクションヒータからなる合金化誘導加熱装置の投入電力制御に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】溶融亜鉛めっき設備の設備構成例を示す。
【図2】本発明による均等負荷モードと前段高負荷モードの演算回路例を示す。
【図3】均等負荷モード時の前段および後段のインダクションヒータ出力電力設定例を示す。
【図4】前段高負荷モード時の前段および後段のインダクションヒータ出力電力設定例を示す。
【図5】インダクションヒータの電力出力特性を示す。
【図6】インダクションヒータの電力出力特性(マッチングポイント調整の影響)を示す。
【図7】従来技術によるインダクションヒータの電力出力特性の演算方法を示す。
【図8】従来技術によるインダクションヒータの電力出力特性(板幅毎の出力電力設定データ)の演算方法を示す。
【符号の説明】
【0031】
10 溶融亜鉛めっきライン
11 鋼板
12 熱処理炉
13 めっき装置
14 合金化誘導加熱装置
15 保熱炉
16 冷却炉群
17 スナウト
18 溶融亜鉛
19 ポット
20 シンクロール
21 めっきノズル
22 前段のインダクションヒータ
23 後段のインダクションヒータ
24 冷却炉
25 ガイドロール
26 前段用インバータ
27 後段用インバータ
28 ラインPLC(制御部)
29 電力分配演算部
30 板幅、通板速度、負荷分配モード等電力分配に使用するライン諸条件
Po インダクションヒータに設定する総電力
P1ref 前段のインダクションヒータの電力設定値
P2ref 後段のインダクションヒータの電力設定値
P1fb 前段インダクションヒータに出力された出力電力量実績値
C1 均等負荷モード時にonとなる電力分配演算部内の接点
C2 均等負荷モード時にonとなる電力分配演算部内の接点
C3 前段高負荷モード時にonとなる電力分配演算部内の接点
C4 前段高負荷モード時にonとなる電力分配演算部内の接点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱処理炉から排出された鋼板の表面に形成した亜鉛めっき層に対して合金化誘導加熱装置を用いて合金化を行う際の、多段構成インダクションヒータへ投入する総電力を負荷配分する合金化誘導加熱装置の投入電力制御方法において、
前段高負荷モードの選択時には、前段のインダクションヒータへの投入電力負荷配分を前段のインダクションヒータの能力と関係なく配分し、前段のインダクションヒータからの出力電力量実績を基に不足電力量を後段のインダクションヒータにて補正出力することを特徴とする合金化誘導加熱装置の投入電力制御方法。
【請求項2】
熱処理炉から排出された鋼板の表面に形成した亜鉛めっき層に対して合金化誘導加熱装置を用いて合金化を行う際の、多段構成インダクションヒータへ投入する総電力を負荷配分する合金化誘導加熱装置の投入電力制御装置において、
前段高負荷モードの選択時には、前段のインダクションヒータへの投入電力負荷配分を前段のインダクションヒータの能力と関係なく配分し、前段のインダクションヒータからの出力電力量実績を基に不足電力量を後段のインダクションヒータにて補正出力することを特徴とする合金化誘導加熱装置の投入電力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−183083(P2006−183083A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−376662(P2004−376662)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】