説明

合金金属部材表面の黒化処理方法

【課題】鋳鉄、鉄鋼、銅系合金、アルミニウム合金、ステンレス、真ちゅう等の合金金属部材に対して、十分な密着性および無反射特性を得ることができる高品質な漆黒を有する黒化処理を実現できる電着塗装方法を提供する。
【解決手段】合金金属部材表面を脱脂処理する工程、脱脂処理後にブラスト処理により表面を粗面化処理する工程、粗面化後脱脂する工程、脱脂後水洗する工程、および電着塗装する工程とからなる黒化処理方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は合金金属部材表面の黒化処理方法に関し、特に鋳鉄、鉄鋼、銅系合金、アルミニウム合金、ステンレス、真ちゅうに対して黒化処理を行うための電着塗装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属部材表面の黒化処理技術は、他の着色技術とは異なり光を高効率に吸収するもしくは光を反射しないという性質を金属表面に付加することができるため、その光機能性が注目されている。例えば基材表面の光の反射を最小限にすることにより光センサー装置の感度の向上や、高コントラスト化が進む映写機の遮光マスク、複写機の内部部品等に用いられている。従来はこのような黒化処理材の作製に黒クロメート処理、黒クロームメッキ、無電解ニッケルの黒化処理等のめっき技術が用いられてきた。
【0003】
【特許文献1】特開平11−315399
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、めっき技術を用いた黒化処理技術は、期待通りの色調や密着性を得るために最適な金属部材を選択しなければ十分な特性が得られないという問題点がある。上記光センサー装置、遮光マスク及び複写機内部部品等はマイクロメートルオーダーの寸法精度や80℃以上の高熱環境下での機能の発揮が求められることもあることから、その部材には衝撃吸収特性が高く、形状ひずみの少ない鋳鉄や、鉄鋼材、銅系合金、アルミニウム合金、ステンレス、真ちゅう等の合金金属部材がよく用いられる。ところが、これらの部材に対する上記めっき皮膜のつきまわり性や色調はその合金組成の不均一性等により十分とはいえず、従来のめっき技術では年々高まる黒化処理皮膜の高品質化への要求に応えることが困難となっている。
【0005】
そこで本発明では、電着塗装技術を用いることで上記合金金属部材に対しても安定な黒化処理が実現できる方法を検討した。電着塗装用の樹脂塗料には漆黒の色調が得られる塗料が開発されており、これらの塗料を用いて電着塗装により被覆することができれば、組成の不均一な合金金属部材に対しても高品質な漆黒を有する黒化処理を施すことができる。ところが従来の電着塗装方法では、金属部材と塗装膜界面の密着性を確保するために、化成処理による化成皮膜形成を前処理として行っていたが、上記合金金属部材に対してはりん酸亜鉛等の一般的な化成皮膜ではその密着性が弱く、塗装膜のつきまわりも悪くなるという問題点があった。また、化成処理による従来黒化処理では処理後の合金金属部材表面の光無反射特性が十分得られないという課題もあった。本発明は、上記のような従来技術の問題点を鑑みて、上記合金金属部材に対しても十分な密着性および無反射特性を得ることができ、高品質な漆黒を有する黒化処理を実現する電着塗装方法の提供を目的とする。
【0006】
また、前記めっき技術には2006年にヨーロッパで施行されたRoHS指令において規制されることとなった6価クロムを使用するものもある。これらの環境保護規制に適応した代替技術を提供することも本発明の課題の一つである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は前記課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載の発明は鋳鉄、鉄鋼材、銅系合金、アルミニウム合金、ステンレス、真ちゅうのいずれかからなる合金金属部材表面を脱脂処理する工程と、前記脱脂処理後にブラスト処理により前記合金金属部材表面を梨地状に粗面化する工程と、前記ブラスト処理により粗面化した合金金属部材表面を脱脂する工程と、前記脱脂した合金金属部材表面を水洗する工程と、電着塗装工程とからなることを特徴とする合金金属部材表面の黒化処理方法である。
【0008】
請求項1の発明によれば、まず上記合金金属部材表面を脱脂した後にブラスト処理により梨地状に粗面化することで塗装膜の密着性が十分に得られた。密着性は碁盤目テープテストによって確認を行った。碁盤目テープテストは、塗装した合金金属部材表面の1cm角の領域内に1mm単位で碁盤目状の切れ込みを金属部材まで達するように付けた後、テープを碁盤目上に貼り付け、一気に剥がす方法で実施した。その結果、平坦な鉄部材上に化成皮膜形成後電着塗装を施したものと、本発明による合金金属部材表面にブラスト処理後電着塗装を施したものではいずれも碁盤目状の切れ込みに剥がれは確認されなかった。すなわち合金金属部材表面にブラスト処理による粗面化処理を施すことで、従来の金属上の化成皮膜と同等の塗装膜との密着性を付加させることができた。
【0009】
請求項2に記載の発明は、ブラスト処理された合金金属部材表面の表面粗さがRa=1〜30μmであることを特徴とする請求項1に記載した合金金属部材表面の黒化処理方法である。
【0010】
請求項2の発明によれば、合金金属部材表面の表面粗さをRa=1μm以上にすることによって、電着塗装時に好適に十分な密着性を実現することができる。また、合金金属部材表面の表面粗さをRa=30μm以下にすることによって入射光の反射をより抑えることができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、合金金属部材表面のブラスト処理に用いるブラスト材にセラミックパウダーを用いることを特徴とする請求項1に記載した合金金属部材表面の黒化処理方法である。
【0012】
請求項3の発明によれば、前記ブラスト処理にはブラスト材としてセラミックパウダーを用いることが好ましい。セラミックパウダーは繰り返し使用によっても粒形の劣化が少なく、ブラスト処理を安定かつ経済的に行うことができるからである。
【0013】
請求項4に記載の発明は、前記ブラスト材に粒度#30〜#200のセラミックパウダーを用いることを特徴とした請求項3に記載した合金金属部材表面の黒化処理方法である。
【0014】
請求項4の発明によれば、前記ブラスト材にセラミックパウダーを用いる場合、粒度#30〜#200のセラミックパウダーを用いるのが好ましい。粒度#200以上では粒子径が小さすぎるため合金金属部材表面の粗面化が十分でなく塗装膜の密着性が十分に得られない。粒度#30以下では粒子が粗いことにより表面形状の均一性が低下し、製品の仕上がり外観上好ましくなくなる。また、セラミックパウダーは異なる粒度のものを混合して用いてもよい。
【発明の効果】
【0015】
この発明によればブラスト処理を施すことで、前処理に化成処理を用いた方法では困難だった合金金属部材であっても電着塗装によって十分な密着性を有する黒化処理膜を得ることができる。また、本発明によると粗面化された合金金属表面が化成皮膜と同様の働きをするため、化成皮膜形成を省略することができる。その結果、化成皮膜を形成した場合では化成皮膜と電着塗装膜の合計膜厚が20μm以上の厚さとなることが避けられなかったのに対して、本発明によれば膜厚は塗装膜のみの厚さで済むため、合計膜厚を10μm以下に抑えることができる。これによって、塗装前後で数マイクロメートル程度の寸法変化しか認められないような精密機械部品に対する黒化処理も電着塗装を用いて実施ことができる。さらに、合金金属部材表面のブラスト加工により表面を梨地状にすることで光無反射処理も同時に行うことができ、光無反射効果をも備えた黒化処理膜を得ることができる。また、本発明では6価クロムを使用しないので環境負荷物質を用いずに上記効果が得られる黒化処理膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の合金金属部材表面の黒化処理方法は、鋳鉄、鉄鋼材、銅系合金、アルミニウム合金、ステンレス、真ちゅうのいずれかからなる合金金属部材表面を脱脂処理する工程と、前記脱脂処理後にブラスト処理により前記合金金属部材表面を梨地状に粗面化する工程と、前記ブラスト処理により粗面化した合金金属部材表面を脱脂する工程と、前記脱脂した合金金属部材表面を水洗する工程と、電着塗装工程とからなる電着塗装方法である。本発明の方法を用いることで従来のめっき技術では不十分な黒化処理しかできなかった合金金属部材に対しても十分な密着性を有する膜による黒化処理をすることができる。
【0017】
具体的には、本発明に用いることができる合金金属部材である鋳鉄としてはFC材、FCD材、FCM材を用いることができる。なお本発明には鋳鉄であれば連続鋳造法、砂型鋳造法、石膏鋳造法、精密鋳造法、金型鋳造法、遠心鋳造法といった作製方法を問わず用いることができる。また、鉄鋼材にも適用することができ、SS材、SM材、SPCC材、S10C材、S20C材、S30C材、S45C材、S55C材、SCr材、SNC材、SK材、SKD材、SKH材、SUP材、SUJ材、SUM材、SUS材、SUH材に好適である。また、銅系合金にも適用することができ、リン青銅、クロム銅、ベリリウム銅、快削黄銅に好適である。また、アルミニウム合金にも適用することができ、Al−Cu系(A2017、A2024)、Al−Mg系(A5052、A5056、A5083)、Al−Mg−Si系(A6061、A6063)、Al−Zn−Mg−Cu系(A7075)合金に好適である。さらに、ステンレス、真ちゅうにも好適に使用される。
【0018】
ここで、合金金属部材表面を脱脂処理する工程は、例えば卜リクロロエチレン、メチレンクロライド、パークロロエチレン、1,1,1−トリクロロエタン、テトラクロロエチレン等の塩素系溶剤または洗浄用シンナー中に前記合金金属部材を浸漬させて合金金属部材表面の油分等の汚れを取り除く工程である。浸漬時間は1分以上が好ましい。ブラスト処理は合金金属部材表面にブラスト材を吹き付けることで合金金属部材表面を梨地状に粗面化する工程である。前記ブラスト処理はショットブラスト処理を用いることができる。ショットブラスト処理は、粒子状のブラスト剤を投射ノズルから噴射して合金金属部材表面に打ちつけ、合金金属部材表面を粗面化する工程である。ショットブラスト処理を用いることによりブラスト材を均一に合金金属部材表面上に投射することが可能である。前記ブラスト処理により粗面化した合金金属部材表面を脱脂する工程は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ脱脂剤中に合金金属部材を浸漬させて、ブラスト処理により表面に残存した微粒子や油分を取り除く工程である。アルカリ脱脂剤の温度は25℃〜60℃であることが好ましい。また、浸漬時間は5分以上であることが好ましい。水洗する工程は、純水もしくは水道水を合金金属部材表面に吹き付けて行う。または純水もしくは水道水中に合金金属部材を浸漬させて水洗を行う工程である。電着塗装工程はアニオン塗料もしくはカチオン塗料のいずれを用いてもよい。
【0019】
ブラスト材が投射されて粗面化された合金金属表面の中心線平均粗さ(Ra)は1〜30μmであることが好ましい。Raが1μm以下の場合は電着塗装膜の密着性が十分に得られない。Raが30μm以上の場合は光の散乱が強くなり、黒化処理膜に求められる性質の一つである光無反射特性が低下するので好ましくない。より好ましくはRa=2〜5μmとするのがよい。
【0020】
ブラスト材には、セラミックパウダー、金剛砂、ガラスビーズ等を用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。特にセラミックパウダーは繰り返し使用によっても粒形の劣化が少なく、ブラスト処理を安定かつ経済的に行うことができるので好ましい。セラミックパウダーは、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、フェライト、窒化珪素によって構成されているものが好ましく、より好ましくはジルコニアが60%以上で構成されるセラッミクスパウダーを用いればブラスト処理時の合金金属部材表面粗さを安定に制御できる。
【0021】
ブラスト処理に用いる粒子の粒子径は粒度#30〜#200のものを用いるのが好ましく、粒度#200以上では粒子径が小さすぎるため合金金属部材表面の粗面化が十分でなく塗装膜の密着性が十分に得られない。粒度#30以下では粒子が粗いことにより表面形状の均一性が低下し、製品の仕上がり外観上好ましくなくなる。以上のような効果から、より好ましくは#60〜#120のものを用いるのがよい。また、2種以上の粒度の粒子を混合して用いてもよい。
【実施例】
【0022】
次に、本発明の一実施例に係る合金金属部材表面の黒化処理方法を具体的に説明する。
【0023】
黒化処理を施す鉄鋼材としてSPCC材、アルミニウム合金材としてA5052材、銅系合金材としてリン青銅材を使用した。はじめに前記各合金金属材料をそれぞれトリクロロエチレンに浸漬させて脱脂処理を施した。
【0024】
次に、セラミックパウダーをブラスト材に用いて前記各合金金属材料表面のブラスト処理を施した。セラミックパウダーはシリカおよびジルコニアを主成分として構成されるものを用い、粒度は#60のものを用いた。ブラスト処理はショットブラスト方式を用いることで、前記各合金金属材料表面全体が均一に処理されるように施した。
【0025】
次に、アルカリ溶液を用いて前記各合金金属材料表面の脱脂を施した。その後、前記各合金金属材料を水洗し、表面のPHを7に戻した。
【0026】
最後に前記各合金金属材料表面にアニオン電着塗装を施し、黒化処理を終了した。該アニオン電着塗装には、アクリル樹脂系メラミン硬化型水性塗料を用いた。
【0027】
表1には、前記黒化処理を終了した前記各合金金属材料表面の光沢度を、光沢測定計(グロスチェッカIG−331((株)堀場製作所製)、JIS28741規格)を用いて測定した結果を示している。光沢度は数値が低いほど光無反射特性が高いことを示している。なお、測定角度は60度である。また表1には、ブラスト処理を用いない従来黒化処理後の前記各合金金属材料表面の光沢度を比較のために記載した。
【0028】
【表1】

【0029】
その結果、従来黒化処理の場合には前記各合金金属材料のいずれの材料を用いた場合でも光沢度が80を下回ることはなかったが、本願発明による黒化処理を施した場合の光沢度はいずれも10以下の値を示した。これにより、本願発明による黒化処理方法を用いることで、従来よりも高い光無反射特性を有し、高品質な漆黒を有する黒化処理合金金属部材を得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳鉄、鉄鋼材、銅系合金、アルミニウム合金、ステンレス、真ちゅうのいずれかからなる合金金属部材表面に脱脂処理をする工程と、
前記脱脂処理後にブラスト処理により前記合金金属部材表面を梨地状に粗面化する工程と、
前記粗面化した合金金属部材を脱脂する工程と、
前記脱脂した合金金属部材表面を水洗する工程と、
電着塗装工程とからなることを特徴とする合金金属部材表面の黒化処理方法。
【請求項2】
前記ブラスト処理により粗面化された前記合金金属部材表面の中心線平均粗さがRa=1〜30μmである請求項1に記載の合金金属部材表面の黒化処理方法。
【請求項3】
前記ブラスト処理に使用するブラスト材はセラミックパウダーである請求項1に記載の合金金属部材表面の黒化処理方法。
【請求項4】
前記ブラスト材として使用するセラミックパウダーの粒度は#30〜#200である請求項3に記載の合金金属部材表面の黒化処理方法。

【公開番号】特開2009−191307(P2009−191307A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−32073(P2008−32073)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(307020648)株式会社モリクロ (1)
【Fターム(参考)】