説明

吊戸装置

【課題】下枠部材の位置決めを容易に行い得る吊戸装置を提供する。
【解決手段】吊戸装置1は、吊戸体10と、この吊戸体をスライド自在に吊り下げ支持する上レール部32を有した上枠部材30と、前記吊戸体の下端部側をガイドする下レール部42を有した下枠部材40と、を備えており、前記吊戸体の下端部には、開口2の上枠下地3に固定された前記上枠部材に当該吊戸体が吊り下げられ、かつ前記下枠部材が開口の下枠下地4に固定されていない状態で、該下枠部材の固定位置を前記下枠下地にマーキングするマーキング体21が上下方向に進退自在に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上吊式の戸体を備えた吊戸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、引戸や折戸等の戸体を、上枠に設けられたレールにスライド自在に吊り下げ支持させる構造とした上吊式の戸装置が知られている(例えば、下記特許文献1参照)。このような上吊式の戸装置は、一般的には、開口の枠下地に、上下枠及び左右一対の縦枠からなる戸枠(四方枠)を組み付けた状態で固定し、該戸枠に吊戸体を建て付ける構成とされている。または、意匠性や施工性等の観点から左右の縦枠を設けずに、若しくは左右の縦枠を組み付けずに、上下枠を開口の枠下地に固定し、吊戸体を建て付けることも考えられる。このような場合には、上記した四方枠を組み付けた状態で固定する場合と比べて、上枠及び下枠の相対的な固定位置の位置決めがし難く、また、煩雑となることが考えられる。
【0003】
例えば、下記特許文献2では、縦枠のないサッシ枠を障子の収まりに適した状態に配設できるサッシ枠の施工方法に使用される下枠吊り冶具が提案されている。この下枠吊り冶具は、上枠のガイドレールに引っ掛けられる上枠係止具と、下枠にねじ止めされる下枠取付具と、これら上枠係止具及び下枠取付具が長手方向の一方側及び他方側に取り付けられた棒材とを備えた構成とされている。サッシ枠を施工する際には、開口部に上枠を取り付け、上枠の四隅位置から4本の上記下枠吊り冶具により下枠を水平な状態で吊り下げて下枠の周りにコンクリートを打ち、上枠及び下枠から下枠吊り冶具を取り外す構成とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−86140号公報
【特許文献2】特開2008−8046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献2に記載されたサッシ枠の施工態様では、サッシ枠とは別途に複数本の下枠吊り冶具が必要となり、また、これら下枠吊り冶具の上下枠への取り付け作業及び上下枠からの取り外し作業が必要となり、更なる改善が望まれていた。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、下枠部材の位置決めを容易に行い得る吊戸装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る吊戸装置は、吊戸体と、この吊戸体をスライド自在に吊り下げ支持する上レール部を有した上枠部材と、前記吊戸体の下端部側をガイドする下レール部を有した下枠部材と、を備えており、前記吊戸体の下端部には、開口の上枠下地に固定された前記上枠部材に当該吊戸体が吊り下げられ、かつ前記下枠部材が開口の下枠下地に固定されていない状態で、該下枠部材の固定位置を前記下枠下地にマーキングするマーキング体が上下方向に進退自在に設けられていることを特徴とする。
【0008】
本発明においては、前記下枠部材に、当該下枠部材を前記下枠下地に固定する固定止具が挿通される上下方向に貫通する挿通孔を前記下レール部の幅方向略中央位置に設け、前記マーキング体を、前記吊戸体の下端面の幅方向略中央位置から下方に向けて進出される突起部を備えたものとし、該突起部の先端を、前記下枠下地における前記下枠部材の前記挿通孔に対応する位置に突き当てることでマーキングする構成としてもよい。
また、本発明においては、前記下枠部材の下レール部を、上方に向けて開口するガイド溝を設けた構成とし、前記マーキング体の突起部を、前記ガイド溝に係合してガイドされるガイド突起部としてもよい。
また、本発明においては、前記吊戸体の下端部に、前記マーキング体の突起部を下方に向けて付勢する付勢部材と、該付勢部材の付勢に抗して該突起部を上方に引退させた状態に保持する保持機構とを設けるようにしてもよい。
また、本発明においては、前記マーキング体の突起部の先端を、下方に向けて先細り状の尖頭形状とし、該先端を前記下枠下地に突き当てることで窪み状のマーキングを施す構成としてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る吊戸装置は、上述のような構成としたことで、下枠部材の位置決めを容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(a)、(b)は、いずれも本発明の一実施形態に係る吊戸装置の一例を施工した状態を模式的に示し、(a)は、一部破断概略正面図、(b)は、(a)におけるX−X線矢視に対応させた一部破断概略拡大縦断面図である。
【図2】(a)、(b)は、同吊戸装置の施工手順の一例をそれぞれ模式的に示す一部破断概略正面図である。
【図3】(a)〜(c)は、同施工手順をそれぞれ模式的に示し、図2(b)におけるY部に対応させた一部破断概略拡大縦断面図である。
【図4】(a)、(b)は、同施工手順をそれぞれ模式的に示し、(a)は、同吊戸装置の一部を省略した一部破断概略正面図、(b)は、(a)に対応させた一部破断概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
なお、以下の実施形態では、吊戸装置を施工した状態を基準として、上下方向等の方向を原則的に説明する。
【0012】
図1〜図4は、本実施形態に係る吊戸装置の一例を模式的に示す図である。
本実施形態に係る吊戸装置1は、図1に示すように、吊戸体10と、この吊戸体10をスライド自在に吊り下げ支持する上レール部32を有した上枠部材30と、吊戸体10の下端部側をガイドする下レール部42を有した下枠部材40と、を備えている。
この吊戸装置1は、住居等の建物内の内壁に設けられた開口2に設置され、この開口2の奥側の空間が、例えば、収納空間や隣室空間等とされる(図2も参照)。
【0013】
開口2は、その天面側が天井や垂れ壁等に設けられた枠下地としての上枠下地3によって区画され、底面側が床下地や床材等の枠下地としての下枠下地4によって区画されている。上枠下地3としては、野縁等の天井下地やまぐさ等としてもよく、天井スラブとしてもよい。また、下枠下地4としては、根太や合板下地、床スラブ等の床下地としてもよく、さらには床材(床仕上げ材)としてもよい。図例では、下枠下地4を床下地4とし、下枠部材40の幅方向両側に、床材5を突き付けるようにして床下地4上に配設した例を示している(図1(b)参照)。
また、本実施形態では、吊戸体10が建て付けられる戸枠を、左右の縦枠部材を備えない上枠部材30及び下枠部材40からなる戸枠としており、開口2の幅方向両側を区画する左右の内側面は、例えば、壁仕上げ面等としてもよい。
【0014】
上枠部材30は、開口2の幅方向に沿って長尺に形成され、開口2の開口幅に応じた長さ寸法とされており、上枠下地3に釘やねじ等の固定止具によって固定される。
この上枠部材30は、吊戸体10を吊り下げ支持する上レール部としての上レール32と、この上レール32が固定される上枠材31とを備えている。
上枠材31は、図1(b)に示すように、略矩形平板状とされており、その下面には、下方に向けて開口し、上レール32が嵌め込まれる凹溝部が当該上枠材31の長手方向の全長に亘って設けられている。
【0015】
上レール32は、上枠材31の長さ寸法と略同長さとされ、上枠材31の凹溝部に嵌め込まれる。この上レール32は、上枠材31の凹溝部の溝底に当接される上板部と、この上板部の幅方向両側縁から垂れ下がるように連成された両側板部とを備えている。上レール32は、これら上板部及び両側板部によって縦断面形状が、下方に向けて開口するガイド溝33を設けた略コ字状(略U字状または略C字状)とされている。このガイド溝33に、後記する吊戸体10の上端部に連結固定される吊下ランナー16の転動部(ローラー)18等が長手方向一端部の開口から挿入され、収容される。
また、上レール32の両側板部の下縁部には、当該上レール32の幅方向内方側に向けて突出する案内片34,34が当該上レール32の長手方向の全長に亘ってそれぞれに設けられている。これら案内片34,34に、吊下ランナー16のローラー18が当該上レール32の長手方向に沿って転動自在に支持されることで、吊下ランナー16が上レール32に収容保持される。
【0016】
下枠部材40は、上枠部材30と同様、開口2の幅方向に沿って長尺に形成され、開口2の開口幅に応じた長さ寸法とされており、下枠下地4に釘やねじ等の固定止具8(図1(b)参照)によって固定される。
この下枠部材40は、吊戸体10の下端部側をガイドする下レール部としての下レール42と、この下レール42が固定される下枠材41とを備えている。
下枠材41は、図1(b)に示すように、略矩形平板状とされており、その上面には、上方に向けて開口し、下レール42が嵌め込まれる凹溝部が当該下枠材41の長手方向の全長に亘って設けられている。
【0017】
下レール42は、下枠材41の長さ寸法と略同長さとされ、下枠材41の凹溝部に嵌め込まれる。この下レール42は、下枠材41の凹溝部の溝底に当接される下板部と、この下板部の幅方向両側縁から立ち上がるように連成された両側板部とを備えている。下レール42は、これら下板部及び両側板部によって縦断面形状が、上方に向けて開口するガイド溝43を設けた略コ字状(略U字状または略C字状)とされている。このガイド溝43に、後記する吊戸体10の下端部に設けられたガイド突起部22が係合し、吊戸体10の下端部側のガイドがなされる。
【0018】
本実施形態では、下レール42の両側板部の対向面(ガイド溝43の両側溝内壁面)の上下の途中部位に、互いに向き合う方向(幅方向内方側)に向けて突出する係合案内片44,44を当該下レール42の長手方向の全長に亘ってそれぞれに設けている。本実施形態では、これら係合案内片44,44に吊戸体10のガイド突起部22が係合する構成とされている。また、図例では、下レール42は、その両側板部の上端縁に、幅方向外方側に向けて突出し、下枠材41の凹溝部の両側溝縁部上面に当接するようにして配設される鍔部をそれぞれに設けた例を示している。
【0019】
また、本実施形態では、図4に示すように、下枠部材40に、当該下枠部材40を下枠下地4に固定する固定止具8(図1(b)参照)が挿通される上下方向に貫通する挿通孔45を、下レール42の幅方向略中央位置に設けている。この挿通孔45は、下レール42の上記下板部を上下に貫通するとともに、下枠材41の上記凹溝部の溝底部を上下に貫通して形成されている。
また、本実施形態では、下枠部材40に、複数(図例では、4つ)の挿通孔45を当該下枠部材40の長手方向に沿って間隔を空けて設けている。これら四つの挿通孔45は、本実施形態では、上枠部材30に吊り下げ支持され、閉状態とされた吊戸体10に設けられた後記するマーキング体21の略直下位置となるようにそれぞれ設けられている。
【0020】
なお、上記した上枠部材30及び下枠部材40の上枠材31及び下枠材41は、木質系材料からそれぞれ上記形状に形成されたものとしてもよい。木質系材料としては、合板やLVL等の木質積層板、パーティクルボード等の木質ボード、インシュレーションボードやMDF(中密度繊維板)等の木質繊維板などとしてもよい。または、これら上枠材31及び下枠材41は、合成樹脂系材料や金属系材料等からそれぞれ上記形状に形成されたものとしてもよい。
また、上枠部材30及び下枠部材40の上レール32及び下レール42は、アルミニウムやステンレス、炭素鋼等の適宜の金属系材料から押出成形や鋳造成形または切削加工等によってそれぞれ上記形状に一体的に成形された金属製としてもよい。または、硬質合成樹脂製としてもよい。
【0021】
吊戸体10は、本実施形態では、折戸10とされており、図例では、二組の折戸10,10を開口2に配設し、これら二組の折戸10,10によって開口2を開閉自在とした例を示している。
これら二組の折戸10,10は、それぞれ同様の構成とされており、それぞれに二枚の戸板11,11,11,11を、折り畳み自在に連結した構成とされている。これら二枚の戸板11,11の連結は、各戸板11,11の連結側端部12,12同士を複数の羽根蝶番等の連結部材13によって折り畳み自在に連結する態様としてもよい。
【0022】
折戸10の閉状態とされた当該折戸10の幅方向両側端部(各戸板11,11の反連結側端部)14,14の上端部には、吊下ランナー16に連結される連結カップ部15,15(図1(b)参照)がそれぞれに設けられている。上枠部材30の上レール32には、一組の折戸10に対して2つの吊下ランナー16,16が保持される構成とされ、これら吊下ランナー16,16には、下方に向けて垂れ下がるように連結軸17,17が設けられている。これら吊下ランナー16,16の連結軸17,17が、折戸10の両側端部14,14の各上端部の連結カップ部15,15に対して水平面域方向(垂直軸廻り)に回動自在に連結固定される。
【0023】
折戸10は、これら吊下ランナー16,16に連結固定されて、上枠部材30の上レール32に長手方向に沿ってスライド自在に吊り下げ支持される。また、折戸10は、二枚の戸板11,11の連結側端部12,12の連結部材13を折り畳み支点としてこれら戸板11,11が折り畳まれ、また、展開されることで、開口2を開閉する構成とされている。なお、本実施形態では、折戸10の両側端部14,14を上レール32及び下レール42に対してスライド自在とした例を示しているが、このような態様に限られない。例えば、これら両側端部14,14のうちの開口2の左右内側面側の側端部14を、上レール32や下レール42等に設けたストッパー等によって回動自在に固定するようにしてもよい。この場合は、折戸10の可動側の側端部14が上レール32及び下レール42に対してスライドし、当該折戸10の戸板11,11が折り畳まれ、また、展開されることで、開口2の開閉がなされることとなる。
【0024】
また、本実施形態では、折戸10の下端部に、上下方向に進退自在とされ、下枠部材40の固定位置を下枠下地4にマーキングするマーキング体21を有したマーキング部20を設けている。このマーキング体21は、開口2の上枠下地3に固定された上枠部材30に当該折戸10が吊り下げられ、かつ下枠部材40が開口2の下枠下地4に固定されていない状態で、下枠部材40の固定位置を下枠下地4にマーキングする構成とされている。
マーキング部20は、マーキング体21と、このマーキング体21を上下方向に進退自在に案内保持する保持部26と、を備えている。
マーキング体21は、本実施形態では、図1(b)に示すように、折戸10の下端面19の幅方向(戸体11の厚さ方向)略中央位置から下方に向けて進出される突起部22を備えている。また、マーキング体21は、この突起部22の先端(下端)24を、下枠下地4における下枠部材40の挿通孔45に対応する位置に突き当てることでマーキングする構成とされている。
【0025】
また、本実施形態では、マーキング体21の突起部22を、下枠部材40の下レール42のガイド溝43に係合するガイド突起部22とし、マーキング部20を下端ガイド20としている。また、本実施形態では、図1(a)及び図2(b)に示すように、折戸10の両側端部14,14の下端部に、下端ガイド20,20をそれぞれ設けている。これら下端ガイド20,20の各マーキング体21,21の突起部22,22は、本実施形態では、折戸10の両側端部14,14の上端部にそれぞれ連結固定される吊下ランナー16,16の各連結軸17,17の略直下にそれぞれ位置するように設けられている。
また、本実施形態では、折戸10の下端部(下端ガイド20,20)に、マーキング体21のガイド突起部22を下方に向けて付勢する付勢部材29と、この付勢部材29の付勢に抗してガイド突起部22を上方に引退させた状態に保持する保持機構25a,28とを設けている(図3参照)。
【0026】
マーキング体21は、図3に示すように、本実施形態では、折戸10の下端面19から上下方向に進退される棒状の進退ロッド25の下端にガイド突起部22を設けた構成とされている。
ガイド突起部22は、下レール42のガイド溝43に係合してガイドされるガイド部23を有している(図1(b)も参照)。このガイド部23は、進退ロッド25の下端に略同心状に設けられた略円盤形状とされており、下レール42のガイド溝43の溝幅よりも僅かに小径状とされるとともに、下レール42の係合案内片44,44に当接される。なお、ガイド部23の形状は、略円盤形状に限られず、略多角柱形状としてもよく、その他、下レール42のガイド溝43に係合してガイドされる形状であればどのような形状としてもよい。
【0027】
また、このガイド突起部22の先端24は、下方に向けて先細り状の尖頭形状とされた尖頭部24とされている。この尖頭部24は、図例では、ガイド部23の下端に略同心状に設けられた略逆円錐形状とされており、その底面(上面)が下レール42の係合案内片44,44間の幅寸法よりも小径状とされている。本実施形態では、マーキング体21は、図3(c)及び図4に示すように、このガイド突起部22の尖頭部24を、下枠下地4に突き当てることで窪み状のマーキング(窪み状マーキング)9を施す構成とされている。このマーキング体21のガイド突起部22は、その尖頭部24によって下枠下地4に窪み状マーキング9の形成が可能なように、折戸10の下端部から下方側への進出寸法が設定されている。なお、尖頭部24の形状は、略逆円錐形状に限られず、略逆多角錐形状としてもよく、その他、窪み状マーキング9の形成が可能な形状としてもよい。
【0028】
保持部26は、外郭形状が略円柱形状とされ、折戸10の下端部に設けられた下向きに開口する固定凹所に嵌め込まれるようにして折戸10の下端部に固定される。この保持部26は、マーキング体21の進退ロッド25を上下方向に進退自在に受け入れる下向きに開口する凹所27を設けた構成とされている。この保持部26の凹所27には、進退ロッド25に外装された付勢部材としての圧縮コイルばね等からなるばね部材29が収容されている。マーキング体21の進退ロッド25の上下方向途中位置には、ばね部材29の下方側への移動を規制するとともに当該マーキング体21の凹所27からの抜止となるフランジ部が設けられている。
【0029】
また、保持部26の凹所27の下端開口縁には、マーキング体21の進退ロッド25のフランジ部の下方側への移動を規制する抜止部が設けられている。また、保持部26の凹所27の上端部には、ばね部材29の上方側への移動を規制する規制壁部が設けられている。この凹所27の規制壁部の上方側には、凹所27よりも小径状とされ、進退ロッド25のロッド上端部25aを保持する保持凹所28が連なるように設けられている。この保持凹所28は、当該保持凹所28の内周面と進退ロッド25のロッド上端部25aの外周面との摩擦により、ロッド上端部25aを保持する構成とされている。なお、保持凹所28の内周面及び進退ロッド25のロッド上端部25aの外周面の両方または一方に、摩擦抵抗を高めるために上下方向に延びる複数本のリブ等を設けたり、また、保持力を高めるために、係止突条や係止溝等を周方向に沿って設けたりするようにしてもよい。
【0030】
上記のような構成により、下端ガイド20は、保持部26に上下方向に進退自在に案内保持されたマーキング体21がばね部材29によって下方に向けて付勢される構成とされている。また、下端ガイド20は、このばね部材29の付勢に抗してマーキング体21を上方に移動させ、その進退ロッド25のロッド上端部25aを保持凹所28に押し込む(圧入する)ことで、ガイド突起部22を上方に引退させた状態に保持可能な構成とされている(図3(a)参照)。つまり、本実施形態では、進退ロッド25のロッド上端部25a及び保持部26の保持凹所28を、ばね部材29の付勢に抗してガイド突起部22を上方に引退させた状態に保持する保持機構としている。
【0031】
なお、上記保持機構としては、上記のような態様に限られず、ばね部材29の付勢に抗してガイド突起部22を上方に引退させた状態に保持し得る機構であればどのようなものでもよい。例えば、ガイド突起部22を上方に引退させたロック状態と、下方に進出可能とするロック解除状態とに操作可能とされた操作片等を有したロック機構を上記保持機構として設けるようにしてもよい。
また、下端ガイド20のマーキング体21及び保持部26は、上記同様の金属系材料からそれぞれ上記形状に一体的に成形された金属製としてもよく、または、硬質合成樹脂製としてもよい。また、保持部26としては、折戸10と別体として上記固定凹所に嵌め込み固定されるものに限られず、折戸10の下端部に直接的に上記形状とされた凹所27や保持凹所28を設ける態様としてもよい。
【0032】
次に、上記構成とされた吊戸装置1の施工手順の一例について説明する。
まず、図2(a)に示すように、上枠部材30を上枠下地3に固定する。なお、この上枠部材30を固定する前に、図2(a)に示すように、上枠部材30の上レール32に、各折戸10,10に連結される吊下ランナー16,16,16,16を組み込んでおくようにしてもよい。また、この上枠部材30の上枠下地3への固定は、釘やねじ等の固定止具によって固定するようにしてもよい。また、上枠部材30に上下方向に貫通する固定止具の挿通孔を、例えば、上レール32の幅方向略中央位置等に設けておくようにしてもよい。
【0033】
次いで、図2(b)に示すように、下枠部材40を下枠下地4に固定していない状態で、各折戸10,10を上枠部材30に吊り下げる。例えば、上述のように上レール32に保持された各吊下ランナー16,16,16,16に、各折戸10,10の両側端部14,14,14,14の上端部にそれぞれ設けられた連結カップ部15,15,15,15(図1(b)参照)を連結して各折戸10,10を上枠部材30に吊り下げるようにしてもよい。また、このように各折戸10,10を上枠部材30に吊り下げる際には、各折戸10,10の各ガイド突起部22,22,22,22を上方に引退させた状態としておいてもよい(図3(a)参照)。
【0034】
このように各折戸10,10を上枠部材30に吊り下げ、各折戸10,10を閉状態(展開状態)とし、静止させた状態で、図3(b)、(c)に示すように、各折戸10,10のマーキング体21,21,21,21のガイド突起部22,22,22,22を下方(下枠下地4)に向けて進出させる。この際、上記保持機構によって保持状態またはロック状態とされている場合には、その状態を解除し、これらガイド突起部22,22,22,22を下方に向けて進出させるようにすればよい。
【0035】
そして、これらガイド突起部22,22,22,22の各尖頭部24,24,24,24を、下枠下地4における下枠部材40の挿通孔45に対応する位置に突き当てることでマーキングする。下枠部材40の各挿通孔45,45,45,45(図4参照)は、上述のように上枠部材30に吊り下げ支持され、閉状態とされた折戸10,10の各マーキング体21,21,21,21の略直下位置となるようにそれぞれ設けられている。従って、本実施形態では、上枠部材30に吊り下げ支持された各折戸10,10を閉状態とすれば、大きく位置調整等を行う必要なしに該閉状態においてマーキングすることができる。
【0036】
また、本実施形態では、上述のようにガイド突起部22の尖頭部24を突き当てて窪み状マーキング9を下枠下地4に施す構成とされている。そのため、例えば、図3(c)に示すように、二股状のスパナ(レンチ)等の工具7を進退ロッド25に係合させてガイド部23の上面に当接させ、この工具7を上方からハンマー等で打ち付けることで窪み状マーキング9を施すようにしてもよい。
次いで、図4に示すように、下枠部材40の挿通孔45,45,45,45と、上記のように施された窪み状マーキング9とがそれぞれ一致するように、下枠部材40を移動させて位置決めする。そして、下枠部材40の挿通孔45,45,45,45を介して固定止具8(図1(b)参照)を下枠下地4に捩じ込み(または打ち込み)、下枠部材40を下枠下地4に固定する。このようにして当該吊戸装置1を開口2に設置するようにしてもよい。
【0037】
なお、上述のように、下枠部材40を位置決め及び固定する際には、各折戸10,10を折り畳み、適宜、スライドさせて行うようにしてもよい。また、下枠部材40を位置決め及び固定する際には、各折戸10,10の各ガイド突起部22,22,22,22を上方に引退させた状態としておくようにしてもよい。そして、下枠部材40を固定した後に、これらガイド突起部22,22,22,22を下方に向けて進出させ、下枠部材40の下レール42のガイド溝43に係合させるようにしてもよい。また、このように各折戸10,10を建て付けた後、必要に応じて下枠部材40の幅方向両側に床材5を配設するようにしてもよい。
また、上記施工手順は一例であり、各部材及び各部の機能を阻害しない限りにおいて別手順でなされるようにしてもよい。
【0038】
上記構成とされた本実施形態に係る吊戸装置1によれば、下枠部材40の位置決めを容易に行うことができる。
つまり、折戸10の下端部に、下枠部材40の固定位置を下枠下地4にマーキングするマーキング体21を上下方向に進退自在に設けている。従って、折戸10を、開口2の上枠下地3に固定された上枠部材30に吊り下げ、かつ下枠部材40を下枠下地4に固定していない状態で、マーキング体21を下枠下地4に向けて進出させることで、下枠部材40の固定位置のマーキング9を施すことができる。つまり、上枠部材30に吊り下げ支持させた折戸10自体が下枠部材40の固定位置の位置決め手段として機能する。また、上枠部材30に吊り下げられて、その自重により折戸10が略垂直状態に静止した状態で、マーキング体21を下枠下地4に向けて進出させることで、下枠部材40の固定位置を正確にマーキングすることができる。また、このマーキング9に位置合わせして下枠部材40を下枠下地4に固定することができるので、下枠部材40の位置決めを容易に行うことができる。また、マーキング体21は、上枠部材30に吊り下げ支持される折戸10の下端部に、上下方向に進退自在に設けられているため、施工現場においてマーキング体21の取り付けや取り外し等の必要がなく、施工性を向上させることができる。
【0039】
また、本実施形態では、下枠部材40の下レール42に、固定止具8の挿通孔45を幅方向略中央位置に設けている。また、マーキング体21を、折戸10の下端面19の幅方向略中央位置から下方に向けて進出される突起部(ガイド突起部)22を備えたものとし、その先端(尖頭部)24を、下枠下地4における下枠部材40の挿通孔45に対応する位置に突き当てることでマーキングする構成としている。従って、折戸10の下端面19の幅方向略中央位置から下方に向けて進出される突起部22の先端24を下枠下地4に突き当ててマーキング9を施し、このマーキング9に下枠部材40の挿通孔45を位置合わせすることで、下枠部材40の位置決めを容易かつ確実に行うことができる。また、下枠部材40の挿通孔45を介して固定止具8によって下枠部材40を下枠下地4に固定することができる。つまり、下枠部材40の挿通孔45は、当該下枠部材40の位置合わせ機能と固定機能とを兼ね備えており、別途に固定止具8の挿通孔や位置合わせ用の孔を設ける場合と比べて、下枠部材40を簡易な構造とすることができる。
【0040】
さらに、本実施形態では、下枠部材40の下レール42を、上方に向けて開口するガイド溝43を設けた構成とし、マーキング体21の突起部22を、ガイド溝43に係合してガイドされるガイド突起部22としている。従って、下レール42にガイドされる折戸10の下端部のガイド部とマーキング体とを兼用することができ、折戸10の下端部のガイド部とは別途にマーキング体を設けた場合と比べて、簡易な構造とすることができる。
【0041】
さらにまた、本実施形態では、折戸10の下端部に、マーキング体21の突起部(ガイド突起部)22を下方に向けて付勢する付勢部材29と、付勢部材29の付勢に抗して突起部22を上方に引退させた状態に保持する保持機構25a,28とを設けている。従って、上述のように折戸10を上枠部材30に吊り下げ支持させる際や、下枠部材40の位置合わせ等を行う際には、突起部22を上方に引退させた状態とすることで、突起部22が邪魔になり難い。また、突起部22によって下枠下地4や下枠部材40等に傷や印等が付くことを抑制することができる。また、突起部22が下方に向けて付勢されているので、折戸10を上枠部材30に吊り下げ支持させた後に、下方に向けて進出させる際に容易に進出させることができる。
また、本実施形態では、マーキング体21の突起部22を下レール42のガイド溝43に係合してガイドされるガイド突起部22としている。従って、このガイド突起部22が下方に向けて付勢されているので、当該ガイド突起部22の下レール42のガイド溝43への係合強度を向上させることができる。また、このような構成とすることで、例えば、上枠下地3や下枠下地4等の不陸や上枠部材30や下枠部材40の加工誤差、施工誤差等があった場合にも、折戸10のガイド突起部22を比較的に確実に下レール42のガイド溝43に係合させることができる。
【0042】
さらに、本実施形態では、マーキング体21の突起部22の先端24を、下方に向けて先細り状の尖頭形状の尖頭部24とし、この尖頭部24を下枠下地4に突き当てることで窪み状マーキング9を施す構成としている。従って、固定止具8を下枠下地4に捩じ込む(または打ち込む)際に、この窪み状マーキング9が誘いとして機能し、スムーズに固定することができる。
また、例えば、インク等によってマーキングを施す構成とした場合と比べて、汚損等を抑制することができ、また、マーキング体21を簡易な構造とすることもできる。
【0043】
なお、本実施形態では、マーキング体21の突起部22を、下レール42のガイド溝43に係合してガイドされるガイド突起部22とした例を示しているが、マーキング体21の突起部22を、折戸(吊戸体)10の下端部のガイド部とは別途に設けるようにしてもよい。この場合は、下枠部材40の上記した挿通孔45を、上枠部材30に吊り下げ支持され、閉状態とされた折戸10のマーキング体21の略直下位置となるように設けるようにしてもよい。また、下枠部材40の挿通孔45を、上枠部材30に吊り下げ支持され、閉状態とされた吊戸体10のマーキング体21の略直下位置となるように設ける態様に代えて、任意の位置に設けるようにしてもよい。この場合は、上枠部材30に吊り下げ支持された吊戸体10を必要に応じてスライドさせ、マーキング体21の突起部22の先端24を、下枠下地4における下枠部材40の挿通孔45に対応する位置に突き当てることでマーキングする構成としてもよい。
【0044】
また、本実施形態では、マーキング体21の突起部22を下方に向けて付勢する付勢部材29と、付勢部材29の付勢に抗して突起部22を上方に引退させた状態に保持する保持機構25a,28とを設けた例を示しているが、このような態様に限られない。例えば、これら付勢部材29及び保持機構25a,28の両方または一方を設けないようにしてもよい。
さらに、本実施形態では、マーキング体21の突起部22の先端24を、下方に向けて先細り状の尖頭形状の尖頭部24とし、この尖頭部24を下枠下地4に突き当てることで窪み状マーキング9を施す構成とした例を示しているが、このような態様に限られない。例えば、マーキングを施す際に、マーキング体21の突起部22の先端24にインク等の塗料を塗布し、該塗料によってマーキングを施す態様としてもよい。さらには、マーキング体21の突起部22の先端24等を、インク等によるマーキングが可能なようにペン状のマーカーとしてもよい。
【0045】
さらにまた、本実施形態では、下枠部材40の下レール42に挿通孔45を設け、マーキング体21の突起部22の先端24を、下枠下地4における下枠部材40の挿通孔45に対応する位置に突き当てることでマーキングする構成とした例を示しているが、このような態様に限られない。例えば、吊戸体10の表裏の一方面等の下端部に付設するようにしてマーキング体を設け、このマーキング体によって下枠下地4における下枠部材40の幅方向一側面に対応する位置にマーキングを施すような態様としてもよい。その他、吊戸体10の下端部に設けられるマーキング体21としては、上下方向に進退自在で、上枠部材30に当該吊戸体10が吊り下げられ、かつ下枠部材40が下枠下地4に固定されていない状態で、下枠部材40の固定位置を下枠下地4にマーキングする構成であれば、どのような構成としてもよい。
【0046】
また、本実施形態では、二組の折戸10,10を備えた吊戸装置1を例示しているが、一組の折戸10を備えた吊戸装置1としてもよく、さらには、三組以上の折戸10を備えた吊戸装置1としてもよい。この場合は、上枠部材30や下枠部材40の長さ寸法等を折戸10の組数や各戸板11の戸幅等に応じて適宜、変形するようにすればよい。
さらに、当該吊戸装置1が備える吊戸体としては、二枚の戸板11,11を折り畳み自在に連結した折戸10に限られず、単一または複数枚の引戸や間仕切パネル等のスライド吊戸体としてもよい。この場合は、スライド吊戸体の納め態様やスライド態様(戸袋納め、袖壁納め、片引き、引き違い、引き分け(両引き)等)、枚数等に応じて、上枠部材30や下枠部材40の各部の形状等を適宜、変形するようにすればよい。
【0047】
さらにまた、本実施形態では、上枠材31と上レール32とからなる上枠部材30を例示しているが、このような態様に限られない。例えば、これら上枠材31及び上レール32をそれぞれ別体とせずに、これらを一体的に形成した上枠部材30としてもよく、さらには、上レール32のみを上枠部材30として把握するようにしてもよい。また、上枠部材30を天井や垂れ壁等に埋め込むように配設する態様としてもよい。また、上レール32の形状は、上記した形状に限られず、吊戸体10に連結される吊下ランナー16の形状や構造に応じて、略L字状とされたものや、横向きに開口した略コ字状とされたものとしてもよい。
また、下枠部材40も略同様、下枠材41及び下レール42をそれぞれ別体とせずに、これらを一体的に形成した下枠部材40としてもよく、さらには、下レール42のみを下枠部材40として把握するようにしてもよい。また、下レール42の形状も上記した形状に限られず、吊戸体10の下端部側をガイドする構成とすればよい。
【符号の説明】
【0048】
1 吊戸装置
10 折戸(吊戸体)
19 下端面
21 マーキング体
22 ガイド突起部(突起部)
24 尖頭部(先端)
25a ロッド上端部(保持機構)
28 保持凹所(保持機構)
29 ばね部材(付勢部材)
30 上枠部材
32 上レール(上レール部)
40 下枠部材
42 下レール(下レール部)
43 ガイド溝
45 挿通孔
2 開口
3 上枠下地
4 下枠下地
8 固定止具
9 窪み状マーキング(マーキング)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊戸体と、この吊戸体をスライド自在に吊り下げ支持する上レール部を有した上枠部材と、前記吊戸体の下端部側をガイドする下レール部を有した下枠部材と、を備えており、
前記吊戸体の下端部には、開口の上枠下地に固定された前記上枠部材に当該吊戸体が吊り下げられ、かつ前記下枠部材が開口の下枠下地に固定されていない状態で、該下枠部材の固定位置を前記下枠下地にマーキングするマーキング体が上下方向に進退自在に設けられていることを特徴とする吊戸装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記下枠部材には、当該下枠部材を前記下枠下地に固定する固定止具が挿通される上下方向に貫通する挿通孔が前記下レール部の幅方向略中央位置に設けられており、
前記マーキング体は、前記吊戸体の下端面の幅方向略中央位置から下方に向けて進出される突起部を備え、該突起部の先端を、前記下枠下地における前記下枠部材の前記挿通孔に対応する位置に突き当てることでマーキングする構成とされていることを特徴とする吊戸装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記下枠部材の下レール部は、上方に向けて開口するガイド溝を設けた構成とされており、
前記マーキング体の突起部は、前記ガイド溝に係合してガイドされるガイド突起部であることを特徴とする吊戸装置。
【請求項4】
請求項2または3において、
前記吊戸体の下端部には、前記マーキング体の突起部を下方に向けて付勢する付勢部材と、該付勢部材の付勢に抗して該突起部を上方に引退させた状態に保持する保持機構とが設けられていることを特徴とする吊戸装置。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれか1項において、
前記マーキング体は、その突起部の先端が下方に向けて先細り状の尖頭形状とされ、該先端を前記下枠下地に突き当てることで窪み状のマーキングを施す構成とされていることを特徴とする吊戸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−108293(P2013−108293A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254521(P2011−254521)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】