説明

同軸ケーブルとその製造方法

【課題】絶縁体に発泡絶縁体を用いることなく、所定の電気特性と機械的特性が確保できると共に、コスト高とならない細径の同軸ケーブルとその製造方法を提供する。
【解決手段】中心導体2、絶縁体3、外部導体4、外被5からなる細径の同軸ケーブルであって、中心導体2の断面積が0.005mm以下で3本撚りの撚線からなり、中心導体2と絶縁体3との密着力が中心導体2の破断強度の1/3以下であることを特徴とする。また、前記の中心導体2の撚りピッチは、撚線外径の11〜16倍とする。さらに前記の中心導体2は、銀の含有率が0.5重量%以上2.2重量%以下である銀銅合金で形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中心導体、絶縁体、外部導体、外被からなる細径の同軸ケーブルとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小型の通信機器、電子機器、医療機器等に用いられる同軸ケーブルは、通常、ケーブル外径が0.5mm以下の細径で形成され、さらなる細径化が求められている。この細径化の要求に対して、中心導体の線径や絶縁体の被覆厚さ等が小さくされるが、信頼性の確保の点から、機械的な強度や耐屈曲性についても改善が求められている。
また、近年の伝送信号の高速化に伴い、信号減衰の少ない同軸ケーブルが要求されている。信号減衰を少なくするには、中心導体を囲む絶縁体の誘電率を小さくすることが必要とされる。
【0003】
細径の同軸ケーブルにおいて、例えば、特許文献1には、中心導体の素線導体に銀を1〜3重量%を含有し、残部が銅の銅合金線を用いた同軸ケーブルが開示されている。また、この同軸ケーブルの中心導体は、素線導体径が0.010mm〜0.025mmの素線導体を7本撚りして、引張強さが850MPa以上、その導電率85%以上とし、絶縁体の厚さは0.07mm以下とする技術が開示されている。また、特許文献2には、上記の構成で、絶縁体に発泡絶縁体を用いる技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、同軸ケーブルの中心導体を囲う絶縁体を、無発泡の充実層で形成するとともに、中心導体の表面と絶縁体との間に空隙を設けることにより、電気特性と機械的特性を改善することが開示されている。なお、中心導体の表面と絶縁体との間に空隙を設ける方法として、中心導体に螺旋状の凹凸を設けることが記載され、具体的には、2本あるいは3本の素線導体を撚り合わせた撚線を、さらに2本あるいは3本撚り合わせた2重撚線で形成することも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−172928号公報
【特許文献2】特開2007−169687号公報
【特許文献3】特開2007−242264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
細径の同軸ケーブルで、一層の信号伝送速度の高速化、細径化、耐屈曲性に加えて低コスト化についても要望されている。これらの要望に対して、特許文献1では、径の細い導線(素線)を撚り合わせた中心導体(撚線)を用い、これによる引張強度や導電率の低下を抑えるために、銀の含有量や熱処理を適正にすることを提示している。しかし、中心導体の素線の径を細径とすることは加工費が増加し、コスト高となると共に、伝送信号の減衰率が増加するという問題がある。
【0007】
また、特許文献2に開示のように、絶縁体に発泡絶縁体を用いることにより絶縁体の厚さを薄くして細径化を図り、かつ、所定値以上の静電容量を確保することを提示している。しかし、中心導体を囲う絶縁体を発泡絶縁体で形成すると、上記の特許文献3おいても開示のように、電気特性にバラツキが生じやすい、細径化が難しい、生産性が悪くコストが高くなる等の問題がある。
【0008】
このため、特許文献3では、中心導体に凹凸を持たせて絶縁体との間に空隙を有するようにして、絶縁体を無発泡としている。しかしながら、この特許文献3の中心導体は、1対の素線導体を撚った対撚線を、さらに複数本撚って2重撚線で形成している。また、比較例として1対の素線導体を撚った対撚線を中心導体とすることについても開示されているが、十分な空隙を得ることができず、2重撚線では撚り加工を2回かけるためコスト高であるという問題がある。
【0009】
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたもので、絶縁体に発泡絶縁体を用いることなく、所定の電気特性と機械的特性が確保できるとともに、コスト高とならない細径の同軸ケーブルとその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による同軸ケーブルは、中心導体、絶縁体、外部導体、外被からなる細径の同軸ケーブルであって、中心導体の断面積が0.005mm以下で3本撚りの撚線からなり、中心導体と絶縁体との密着力が中心導体の破断強度の1/3以下であることを特徴とする。また、前記の中心導体の撚りピッチは、撚線外径の11〜16倍とするのが好ましい。さらに前記の中心導体は、銀の含有率が0.5重量%以上2.2重量%以下である銀銅合金で形成するのが好ましい。
【0011】
また、本発明による同軸ケーブルの製造方法は、中心導体、絶縁体、外部導体、外被からなる細径の同軸ケーブルの製造方法であって、中心導体を3本撚りの撚線で製造してその断面積を0.005mm以下とし、メルトフローレイト(MFR)が40g/10分以下のフッ素樹脂を押出して絶縁体とし、中心導体と絶縁体との密着力を中心導体の破断強度の1/3以下とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、発泡絶縁体を用いなくても、従来と同程度の電気的特性と機械的特性を得ることができると共に、生産性を向上させて、低コスト化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明による細径の同軸ケーブルの概略を説明する図である。
【図2】中心導体と絶縁体との密着力を測定する方法を説明する図である。
【図3】本発明による同軸ケーブルを、中心導体が7本撚線で同程度の断面積を有する同軸ケーブルと比較した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図により本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明による細径の同軸ケーブルの一例を示す図で、図中、1は同軸ケーブル、2は中心導体、3は絶縁体、4は外部導体、5は外被を示す。
【0015】
同軸ケーブル1は、図1に示すように、中心導体2の外側を誘電率の小さい絶縁体3で囲い、その外側に外部導体4を横巻きで形成し、外部導体4の外面を外被5(ジャケットとも言う)で被覆して構成される。細径(極細ともいう)の同軸ケーブルは、通常、ケーブル外径を細径するために、その中心導体径および絶縁体外径が細径化されている。なお、中心導体2と絶縁体3との間には、通常わずかな空隙6が生じる。
【0016】
中心導体2は、例えば、AWG(American Wire Gauge )で#40相当以上の細径の撚線(中心導体の断面積にして0.005mm以下、従来は7本撚り)が用いられている。また、絶縁体3に厚さ0.06mm程度のフッ素樹脂を押出し成形あるいは樹脂テープを巻付けて形成している。また、外部導体4は、中心導体2に用いた素線導体と同程度の太さの導体を横巻きで巻付け、その外面を厚さ0.03mm程度で押出し成形あるいは樹脂テープの巻付けで外被5を形成し、例えば、外径0.3mm前後の細径の同軸ケーブルとしている。なお、細径の同軸ケーブルは、複数本を平行一列に並べてまたは丸ケーブル状に束ねて多芯ケーブルとして構成されることが多い。
【0017】
本発明では、上述の同軸ケーブルの中心導体2の断面積を変えずに、また、絶縁体3の誘電率を下げるのに発泡絶縁体とすることなく、中心導体2と外部導体4との間の誘電率(静電容量)を小さくして信号の減衰を少なくし、伝送性能を向上させることにある。このため、特許文献3で開示のように、中心導体2と絶縁体3との間に生じる空隙6の断面積を大きくする方法を用いて、中心導体2と外部導体4間の静電容量を低減し、電気特性の改善を図っている。
【0018】
中心導体2と絶縁体3との間の空隙容積を拡大する方法としては、中心導体2の断面積を変えずに撚線の素線導体数を7本から3本とする。撚線の素線導体数が2本では、撚り状態が安定せず、長さ方向で均一な電気特性が得られず、外観を良好とすることも難しい。また、4本〜6本では、電気特性の改善に寄与する十分な空隙を得ることが難しい。
【0019】
撚線の素線導体数を7本から3本とすることにより、中心導体2の外面に安定した撚り形状の凹凸断面が形成され、電気特性の改善に寄与するに十分な空隙6を得ることができる。また、中心導体2の断面積を変えずに、素線導体数を少なくする場合、撚線の素線導体を太径にすることができる。単位重量当たりの線材を得るのに、線材の導体径が小さければ小さいほど細径化のための加工コストがかかる。したがって、中心導体2の断面積を同じにして、その素線導体径を太径にすることは、コスト的に有利になる。
【0020】
本発明では、さらに中心導体2と絶縁体3の密着力が中心導体2の破断強度の1/3以下であることを特徴とする。ここで中心導体2と絶縁体3の密着力は、図2(A)に示すようにして測定することができる。
(1)同軸ケーブル1の外被5と外部導体4を除去して絶縁体3を50mm剥き出す。
(2)露出された絶縁体3のうち40mmを除去して中心導体を40mm剥き出す。そして、中心導体2の先端から50mmの位置で絶縁体3と中心導体2を同軸ケーブル1から切り離す。絶縁体3は10mm剥き出しになる。
(3)中心導体2の径よりも大きくかつ絶縁体3の径よりも小さな径の穴のダイス10を用意する。このダイス10に中心導体2を通す。
【0021】
次に、中心導体2をクランプ部材11で把持し、ダイス10をクランプ部材12で把持し、ダイス10は移動しないように固定し、中心導体2が絶縁体3から引き抜かれるように中心導体2を100mm/分の速度で10mm引っ張る。このとき、中心導体2を引き抜く力(N)を測定し、その平均値(N)を密着力とする。
中心導体2の破断強度は、同じ材質の導体を使用しても断面積により値が異なるが、例えば、中心導体2の破断強度が2.26Nの場合、本発明の同軸ケーブルでは、中心導体2と絶縁体3との密着力が0.75N以下とされる。
【0022】
中心導体2と絶縁体3との密着力が大きいということは、図2(B)に示すように、絶縁体3が鎖線で示す円形状から中心導体2の隙間に落ち込んでいるということである。中心導体2と絶縁体3との間の空隙6が小さくなるので、静電容量が大きくなり電気特性が悪くなる。そして、この同軸ケーブルを曲げたときには中心導体2が絶縁体3に締め付けられる力が強いので繰り返しの曲げにより破断し易く機械特性(耐屈曲性)も悪くなる。本発明は、中心導体2を3本撚りとした場合に、中心導体2と絶縁体3との密着力が中心導体2の破断強度の1/3以下とすることにより、従来の7本撚りの中心導体と同等の電気特性と機械特性を有しかつ製造性がよくコストがかからないという効果を奏するものである。
【0023】
上記の中心導体2と絶縁体3との密着力は、製造線速と絶縁体の成形ダイスから冷却水までの距離によって調整することができる。押出し成形された絶縁体3の冷却が遅くなると絶縁体3が中心導体2の隙間に落ち込み、早くに冷却すると絶縁体が中心導体2の隙間に落ち込む前にその形状を安定させることができる。例えば、製造線速を100m/分とした場合、成形ダイスから冷却水までの距離を3m以下とすることにより、上記の密着力を中心導体2の破断強度の1/3以下とすることができる。一方、製造線速を100m/分で成形ダイスから冷却水までの距離を5m程度とすると、上記の密着力が中心導体2の破断強度の1/3超となる。なお、成形ダイスから冷却水までの距離を3m〜5mの間とすると、上記の密着力が中心導体2の破断強度の1/3以下となったり、ならなかったりして不確定である。
【0024】
本発明においては、中心導体2の3本撚線の撚りピッチを、3本撚線外径の11〜16倍とするのが好ましい。この範囲の撚りピッチであれば、耐屈曲性を特に良好とすることができる。また、同軸ケーブルの端末加工(コネクタ付けなど)の場合に絶縁体3を除去して中心導体2を露出する際に、中心導体2がばらけることもなく加工性が良好となる。
【0025】
また、本発明において、中心導体2として3本撚線で形成すると共に、その素線導体は銀の含有率が0.5〜2.2%の銀銅合金線を用いることが好ましい。この銀銅合金線を用いることにより中心導体2の引張強さを900MPa以上、導電率を70〜85%と特に良好な範囲とすることができる。中心導体が3本撚りの場合も7本撚りの場合も、中心導体2の銀の含有率が0.5%未満では耐屈曲性がやや低下し、銀の含有率が3.0%を超えると信号の減衰率がやや低下する。
【0026】
絶縁体3としては、PFA(テトラフルオロエチレン−フルオロアルキルビニルエーテル共重合体)やFEP(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体)等のフッ素系樹脂材の押出成型で形成される。この押出成型されるフッ素樹脂材は、その流動性を示すメルトフローレイト(MFR:Melt Flow Rate)が40g/10分以上のものを使用し、引き落とし率を大きくして、薄肉の絶縁体とすることが好ましい。本発明では、中心導体を7本撚りとする場合よりも絶縁体は薄肉とする必要があるので、そのためにはMFRが40g/10分以上のフッ素樹脂を使用するのが有効である。
【0027】
外部導体4は、軟銅線、銅合金線など通常使用される導体を使用することがきる。中心導体2に用いた素線導体と同じ導体を用い、絶縁体3の外面に横巻きで形成することもできる。ただ、本発明では、中心導体2を3本撚線で形成しているので、その素線導体の線径が多少太径となっている。したがって、中心導体と同じ線径の素線導体を用いると、ケーブル外径が大きくなるので、中心導体2の素線導体径より多少細径のものを用いるようにしてもよい。
外被5は、上述したPFA、FEP等のフッ素樹脂材を押出成形で形成することができる。外被5に使用するフッ素樹脂材もMFRが40g/10分以上のものが好ましい。また、この他に、ポリエステルテープやポリオレフィンテープ等を巻付けて形成するようにしてもよい。
【0028】
図3は、本発明による同軸ケーブルを、7本撚線からなる中心導体と同程度の断面積を有する同軸ケーブルと比較した結果を示す図である。
【0029】
中心導体がAWG#42相当の本発明による3本撚線の場合、中心導体断面積(外径0.04mm×3本)は、0.00377mmとなる。この場合、本発明では、中心導体が内接する絶縁体内の円の直径(撚線外径)が0.086mm、絶縁体の外径を0.18mmとなるように押出成形で引き落とし形成する。この絶縁体の外側に外部導体として外径0.03mmの錫メッキ軟銅線を横巻きし、その外面をPFAを被覆厚さ0.03mmで覆うと、外径0.30mm程度の細径の同軸ケーブルが得られる。
【0030】
中心導体と絶縁体との間の空隙断面積は、引き落とし率、樹脂の押出し圧力、成形ダイスのニップル先端位置を調整することにより、0.002mmが得られたとする。この場合、ケーブル長さ1m当たりの空隙容積が、撚り倍率(=撚りピッチ/撚線外径)が11倍の場合は、1.936mmで、撚り倍率が16倍のときで1.954mmとなる。撚り倍率が11倍(実施例1)のとき、絶縁体の容積に対する前記空隙の容積の割合は33.3%となる。撚り倍率が16倍(実施例2)のときは、絶縁体の容積に対する前記空隙の容積の割合が33.6%となる。なお、撚り倍率を11倍(実施例1)とした中心導体の素線導体には、銀の含有率が0.5%〜2.5%のものを用いた。
【0031】
実施例1と実施例2の違いは、中心導体の撚りピッチである。実施例1では中心導体の撚りピッチを中心導体の径の11倍とし、それを実施例2では16倍とした。
また、実施例1,2は、いずれも中心導体の破断強度が3.39Nであるものとし、中心導体と絶縁体との密着力はその1/3(1.13N)以下とした。
比較例では、中心導体と絶縁体との密着力を中心導体の破断強度の1/3よりも大きなものとした。
【0032】
一方、7本撚線の場合(参考例)は、導体断面積(外径0.025mm×7本)は、0.00344mmとなる。この場合、中心導体が内接する絶縁体内の円の直径(撚線外径)が0.075mm、絶縁体外径0.18mmとなるように同様に押出成形で形成し、絶縁体の外側に外部導体として外径0.03mmの錫メッキ軟銅線を横巻きし、その外面をPFAを被覆厚さ0.03mmで覆うと、外径0.30mm程度のの細径の同軸ケーブルを得られる。
【0033】
参考例の中心導体と絶縁体との間の空隙断面積は、引き落とし率、樹脂の押出し圧力、成形ダイスのニップル先端位置等を調整することにより、0.0008mmが得られた。この7本撚線の中心導体の素線導体には、銀の含有率が0.5%〜2.5%の範囲内のものを用いた。
【0034】
機械特性(耐屈曲性)、電気特性(減衰量および静電容量)、加工性について各例を評価した。機械特性は曲げ半径1mmとして同軸ケーブルを直線状に伸ばした状態から±90°屈曲させることを繰り返し、中心導体が断線するまでの回数を測定した。その回数が12,000回から20,000回の間であれば可、20,000回以上であれば良と評価した。
【0035】
減衰量は10MHzの信号の減衰量を測定した。減衰量が0.6dB/m以下であれば良、0.6dBを超え1.0dB以下を可と評価した。
静電容量は、測定する同軸ケーブルに1KHzの交流電圧を掛けてLCRメータを用いて測定した。静電容量が110pF/m以下のものを良、110pF/mを超え120pF/mのものを可と評価した。
加工性は、同軸ケーブルの端末部分で外被、外部導体を除去した後さらに絶縁体を10mm除去して中心導体を露出するときの中心導体のばらけによる不良率を測定した。不良率が5%以下を良、5%を超え10%以下を可と評価した。
【0036】
各評価の結果、実施例1、実施例2、参考例のいずれの同軸ケーブルにおいても、機械特性、電気特性、加工性とも良となった。すなわち、中心導体を3本撚線で形成し、中心導体と絶縁体との密着力を中心導体の破断強度の1/3以下とすることにより、7本撚線と同等の電気的特性と機械的特性を備える細径の同軸ケーブルを得ることができる。この場合、3本撚線の中心導体からなる同軸ケーブルは、中心導体に素線導体径が太径のものを用いることができるので、コスト的に安価となる。
【0037】
一方、比較例では機械特性、静電容量、加工性が可となり、中心導体を3本撚りとするときに中心導体と絶縁体との密着力が中心導体の破断強度の1/3より大きいと、中心導体を7本撚りとする場合よりも機械特性、電気特性、加工性が悪くなる結果となった。この理由は以下のように考えられる。3本撚りで中心導体と絶縁体との密着力が中心導体の破断強度の1/3より大きいということは、絶縁体が中心導体の撚りの隙間にやや落ち込んでいるということであるが、そうなると同軸ケーブルを屈曲させるための力が大きくなる。その分、導体に負荷がかかり断線し易くなると考えられる。また、中心導体と絶縁体との隙間が小さくなるので静電容量が大きくなると考えられる。そして、密着力が大きいと、絶縁体を剥いで中心導体を露出させるときに中心導体に掛かる力が大きくなり、中心導体がばらけ易くなるため不良率が大きくなると考えられる。
【0038】
中心導体を3本撚りとする場合、中心導体の撚りピッチが撚線外径の11倍以上であると機械特性および静電容量が良となる。撚りピッチを10.8倍とした場合、機械特性が可、静電容量が可となった。また、中心導体の撚りピッチが撚線外径の16倍以下であると加工性が良となる。撚りピッチを16.2倍とした場合、中心導体がばらけ易く加工性が可となった。しかし、中心導体を7本撚りとしても、撚りピッチが11倍よりも小さい場合、16倍より大きい場合とも中心導体を3本撚りとする場合と同様な結果となった。逆にいうと、中心導体を3本撚りとする場合、中心導体と絶縁体との密着力が前記中心導体の破断強度の1/3以下であれば、中心導体の撚りピッチによらず中心導体を7本撚りとする場合と同等の機械特性、電気特性、加工性とすることができる。
【0039】
中心導体の銀濃度が機械特性または減衰量に影響する。銀濃度が0.5%以上2.5%以下であれば、機械特性および減衰量とも良となった。中心導体の銀濃度を0.2%とすると機械特性が可となり、3.0%とすると減衰量が可となった。これは中心導体が3本撚り、7本撚りいずれも同様であった。つまり、中心導体を3本撚りとする場合、中心導体と絶縁体との密着力が前記中心導体の破断強度の1/3以下であれば、中心導体の銀濃度によらず中心導体を7本撚りとする場合と同等の機械特性、電気特性、加工性とすることができる。
【0040】
上述の例では、AWG42の細径同軸ケーブルについて評価したが、AWG40より細い(中心導体の断面積にして0.005mm以下)同軸ケーブルにおいて、中心導体と絶縁体との密着力が絶縁体の落ち込みを示すことには相似の関係があると考えられる。したがって、AWG40より細い同軸ケーブルにおいて同様の評価結果となるものと考えられる。
【符号の説明】
【0041】
1…同軸ケーブル、2…中心導体、3…絶縁体、4…外部導体、5…外被、6…空隙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心導体、絶縁体、外部導体、外被からなる細径の同軸ケーブルであって、前記中心導体の断面積が0.005mm以下で3本撚りの撚線からなり、前記中心導体と前記絶縁体との密着力が前記中心導体の破断強度の1/3以下であることを特徴とする同軸ケーブル。
【請求項2】
前記中心導体の撚りピッチが、撚線外径の11〜16倍であることを特徴とする請求項1に記載の同軸ケーブル。
【請求項3】
前記中心導体は、銀の含有率が0.5重量%以上2.2重量%以下である銀銅合金であることを特徴とする請求項1または2に記載の同軸ケーブル。
【請求項4】
中心導体、絶縁体、外部導体、外被からなる細径の同軸ケーブルの製造方法であって、前記中心導体を3本撚りの撚線で製造してその断面積を0.005mm以下とし、メルトフローレイトが40g/10分以下のフッ素樹脂を押出して前記絶縁体とし、前記中心導体と前記絶縁体との密着力を前記中心導体の破断強度の1/3以下とすることを特徴とする同軸ケーブルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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