説明

同軸ケーブル及びその製造方法

【課題】 金属層の膜厚が均一でしかも誘電体と金属層との密着力が強く耐久性に優れるとともに、生産性に優れた同軸ケーブル及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 内部導体(1)を被覆するフッ素樹脂誘電体層(2)の外周に電解金属メッキ層(5)をシールド層として配した同軸ケーブルにおいて、該電解金属メッキ層(5)を導電樹脂膜(4)上に形成し、且つ、該導電樹脂膜(4)と該誘電体層(2)との間には両者に対して媒体的接着能を有する接着性樹脂膜(3)を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に優れた高周波特性が要求される情報通信機器、通信端末機器、更には計測機器等の高周波部品の信号伝達線路として用いられる同軸ケーブル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信機器や通信端末機器はますます小型化され、それに伴い使用される同軸ケーブルにも細径化が要求されている。そこで、該ケーブルのシールド層として常用されてきた金属編組層あるいは金属蒸着テープ層上の横巻層に代えて、より薄膜化できる金属メッキ層を採用することが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この提案では、フッ素樹脂からなる誘電体層の表面を予め粗面化してから金属メッキ層を配するもので、言わば、物理的なアンカー効果を利用したものである。
しかしながら、フッ素樹脂には元々、金属メッキ層が付着しにくいという固有の性質がある。そのため、金属メッキ層の膜厚が不均一になり易いばかりか、上記のアンカー効果だけでは、両者の密着力が依然として弱く、耐久性に劣るという同軸ケーブル品質上の問題があった。
上記の問題を解決するため、誘電体層上にABS樹脂被覆層を形成し、更に、このABS樹脂被覆層上に、無電解金属メッキ層、次いで電解金属メッキ層を設ける提案もなされている(例えば、特許文献2参照)。
しかし、この提案においても、ABS樹脂被覆層と無電解メッキ層との密着性を向上させるために、ABS樹脂層表面をエッチングしてアンカー層を形成する必要がある。その場合、金属メッキ下地に不可避的に凹凸が生じ、メッキ膜厚が不均一になる。更に、時間の掛かる無電解金属メッキ工程が必要なため、処理時間が長引く不利益がある。又、この提案では、無電解メッキ処理時に有害なクロム系処理液を使用せざるを得ない事情があり、廃液の処理等環境的にも問題がある。
【0003】
【特許文献1】実開昭62−33117号公報全文
【特許文献2】特開2000−138014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明の課題は、メッキ膜厚が均一でしかも誘電体層との密着力が改善された電解金属メッキ層をシールド層とする同軸ケーブル、及び該ケーブルの安全且つ効率的製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、導電樹脂膜上に電解金属メッキ層を設けても両者は堅固に結合されることに着目した結果、誘電体層と導電樹脂膜とを、両者に対して親和性を呈し、もって媒体的接着能を発揮するような接着性樹脂膜で接合することにより、上記の課題を一挙に解決するに至った。
【発明の効果】
【0006】
本発明の同軸ケーブル、更には、その製造方法にあっては、以下のような顕著な効果が奏される。
a.電解金属メッキ層は導電樹脂膜上に形成されるので、メッキの付着力が向上する。しかも、該導電樹脂膜と誘電体層との間には両者に対して媒体的接着能を有する接着性樹脂膜が介在するので、これら3者は三位一体的に結合される。
b.無電解金属メッキ工程が省略されることでメッキ工程の時間が大幅に削減されるので、生産性が大幅に向上する。
c.無電解金属メッキ工程で使用していた、環境に有害なクロム系のメッキ処理液が不要となり、廃棄物の処理の手間、処理費用が軽減できるるとともに、環境ヘの悪影響が防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の同軸ケーブルについて、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る同軸ケーブルの一例を示す側面図である。
図1において、(1)は内部導体、(2)は内部導体(1)上に形成された誘電体層、(3)は誘電体層(2)上に形成された、媒体的接着能を有する接着性樹脂膜、(4)は接着性樹脂膜(3)上に形成された、金属メッキとの付着性を改善するための導電樹脂膜、(5)は導電樹脂膜(4)上に形成された電解金属メッキ層である。
本発明の同軸ケーブルに特徴的なことは、誘電体層(2)と導電樹脂膜(4)との間に、双方に親和性を呈し、もって所謂媒体的(双方向的)接着能を発揮する接着性樹脂膜(3)を介在させながら、金属メッキの付着性に優れた導電樹脂膜(4)上に電解金属メッキ層(5)を設けることにある。
こうすることにより、誘電体層(2)と接着性樹脂膜(3)と導電樹脂膜(4)とが三位一体的に接着・結合される。
更に、本発明について詳述する。
誘電体層(2)上に被覆される接着性樹脂膜(3)は、誘電体層(2)及び導電樹脂膜(4)の両方に対して化学的親和性と物理的(変形ないし応力)追従性を有する接着性樹脂で構成される。このような接着性樹脂としては、接着剤用に開発された低融点の共重合(ないし変性)ナイロンが好ましい。具体的には、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、更にはナイロン610に第三成分を共重合することにより得られた、融点が150℃以下の共重合体が挙げられる。これら接着性樹脂にあって、フィブリル状に延展された膜を形成するものは特に好ましい。この理由については、後記の導電処理剤の項で述べる。更に、上記の接着性樹脂は、伸び率が200%を越え、フッ素樹脂の伸び率(300%前後)に接近している。従って、同軸ケーブルが屈曲されても、誘電体層(2)との界面、及び導電樹脂膜(4)との界面での応力集中を吸収する機能を呈する。このような接着性樹脂膜(3)の厚さの下限値は、誘電体層(2)との十分な接着力を得るため0.01μm以上であるのが好ましく他方、その上限値は誘電率の低下に配慮して3μm以下とするのが好ましい。接着性樹脂膜(3)を誘電体層(2)上に形成する手段としては、押出被覆、コーティング、更にはディッピング等があるが、工程の簡便さからコーティングが好ましく採用される。
次に、接着性樹脂膜(3)上に形成する導電樹脂膜(4)について述べる。
導電樹脂膜(4)を形成する処理剤としては、導電樹脂の有機溶剤溶液に導電化促進剤、及び金属触媒核を混在したものが好ましく用いられる。具体的に言えば、導電樹脂としてはピロール系、アニリン系、チオフェン系等が、導電化促進剤としてはチオジグリコール酸等の硫化物が、触媒核としてパラジウム金属イオン錯体や塩化物、硫酸塩、酢酸塩などのパラジウム化合物が挙げられる。導電樹脂膜(4)の形成は簡単であり、上述した混合溶液を、例えばディッピング処理を利用して接着性樹脂膜(3)上に適用すればよい。導電樹脂膜(4)の膜厚としては、電解金属メッキ層(5)との十分な結合力を確保しながらも電気特性に配慮して、0.001μm〜3μmとするのが好ましい。このような導電樹脂膜(4)と接着性樹脂膜(3)との界面接着状態は、後者の表面状態によって変わってくる。例えば、接着性樹脂膜(3)の表面が緻密で平坦な場合は、その表面に導電樹脂膜(4)が接着される。他方、上述したように、接着性樹脂膜(3)がフィブリル状にある場合は、フィブリル間に、導電処理液が入りこみながら導電樹脂膜(4)が形成されるので、その界面接着力は格段に向上する。
本発明では、上述の導電樹脂膜(4)が従来の無電解メッキ層(特許文献2)に相当する役割を果たしている。従って、時間の掛かる無電解メッキ工程を省略でき、生産性が向上する。しかも、この無電解メッキ工程の省略に伴い、環境に有害なクロム系のメッキ処理液が不要となり、廃棄物の処理の手間、処理費用が軽減できるるとともに、環境ヘの悪影響も解消される。
電解金属メッキ層(5)は、硫酸銅電気メッキ等の通常のメッキ処方で形成される。このときの電解金属メッキ層(5)の下限値は、十分なシールド特性を確保するために0.5μm以上が必要であり他方、その上限値は、同軸ケーブルの外径や可撓性を考慮して、30μm以下とするのが好ましい。
上記の電解金属メッキ層(5)上には、必要に応じて、シース層(保護層)が被覆される。シース層としては熱可塑性樹脂を配すればよい。このシース層は、フッ素樹脂、例えば、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)を溶融押出し成型して被覆することが好ましい。
更に、本発明のその余の構成について触れると、内部導体(1)としては、直径がφ0.01〜0.2mm程度の単線あるいは撚り線の軟銅線や銅被鋼線等にスズや銀のメッキを施したものが使用される。この内部導体(1)に被覆される誘電体層(2)を構成するフッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン(FEP)やテトラフルオロエチレン/パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)等が挙げられる。
【0008】
次に、本発明に係る同軸ケーブルの製造方法の一例について述べる。
本発明では、先ず、内部導体(1)上にフッ素樹脂からなる誘電体層(2)を押出被覆する。次に、上記の押出被覆された誘電体層(2)上に接着性樹脂膜(3)を形成する。このときの接着性樹脂は、濃度が10%〜20%(重量)の有機溶剤溶液として、これをスプレーコーティング等の手段にて誘電体層(2)上にコーティングしてから乾燥・固化すればよい。有機溶剤としては、例えば、メタノール等が用いられる。
更に、接着性樹脂層(3)上に、導電樹脂、導電化促進剤及び金属触媒核を含む導電処理剤を適用して導電樹脂膜(4)を形成する。導電樹脂膜(4)を形成する成分については既に述べたとおりである。導電樹脂膜(4)を形成するためには、接着性樹脂膜(3)を設けたケーブルを導電処理剤槽に浸漬して、該処理剤を接着性樹脂膜(3)上にディッピングしてから、乾燥・固化すればよい。このときの液温は20℃〜30℃、浸漬時間は2分〜5分程度であればよい。
最後に、導電樹脂膜(4)上に電解金属メッキ処理を施して、電解金属メッキ層(5)を形成する。ここで、電解金属メッキは、通常の電解メッキ処方であり、条件的には、メッキ液温度20℃〜35℃、電流密度0.1A/dm〜5A/dm、通電時間1分〜20分の範囲に、又。メッキ液としては硫酸銅液等の電解メッキ液を使用すればよい。
上記の態様において、電解金属メッキ層(5)を設けた後、更に、アニール処理することにより。メッキの固着性が更に改善される。アニール処理の条件としては加熱温度50℃〜200℃、加熱時間が10分〜24時間程度であればよい。
更に、電解金属メッキ層(5)上にシース層(保護層)被覆する場合には、シース層(保護層)を押出被覆等の方法で被覆する工程を追加すればよい。
【0009】
以上に述べた同軸ケーブルの製造方法に特徴的なことは、フッ素樹脂誘電体層(2)と導電樹脂膜(4)とが媒体的接着能を有する接着性樹脂膜(3)を介して三位一体的に結合されていること、及び導電樹脂膜(4)上に電解金属メッキ層(5)が堅固に付着していることである。
こうすることにより、接着性樹脂膜(3)や導電樹脂膜(4)の厚さを可及的に低減でき、併せて電解金属メッキ層(5)の厚みも安定化し、高品質で耐久性に優れた極薄メッキ層が得られる。その結果、誘電体層(2)の誘電率が低下することがないので、高周波特性及びシールド特性に優れた極細同軸ケーブルが実現される。
【実施例】
【0010】
以下、極細同軸ケーブル(AWG42)の製造を例にとって、本発明を具体的に説明する。
素線径0.025mmの錫メッキ銅合金線を7本撚った撚り外径が0.075mmの錫メッキ銅合金線からなる内部導体(1)上に誘電体層(2)としてテトラフルオロエチレン/パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)を被覆厚さ52.5μmにて押出し被覆した。
次に、誘電体層(2)上に、媒体的接着能を有する接着性樹脂としてナイロン610の共重合体を用い、これの80%エタノール溶液を誘電体層(2)上にスプレーして、膜厚が0.1μmの接着性樹脂膜(3)を形成した。このときの、液温は20℃とし、コーティング後の乾燥条件は乾燥温度50℃、乾燥時間5分とした。
次に、上記接着性樹脂膜(3)が形成されたケーブルを導電処理剤槽(槽温度30℃)で5分間ディッピング処理してから乾燥・固化して、膜厚が0.005μmの導電樹脂膜(4)を形成した。このとき、導電処理剤としては、ポリチオフェン(導電樹脂)の2%重量部、水96.5%重量部、チオジグリコールの硫化物(導電化促進剤)0.5%重量部、及び、塩化パラジウム1%重量部との混合液を用いた。
更に、上記導電樹脂膜(4)が形成されたケーブルに厚さ3μmの電解金属メッキ層(5)を上乗せした。このときの電解液は、4%の硫酸銅液で、電流密度は1.5A/dm 、通電時間は20分とした。
以上のようにして、外径が0.18mmの極細同軸ケーブルが完成した。
この極細同軸ケーブルにつき、メッキの剥離試験を行なった所、十分な密着力を有していた。又、シールド特性試験器により、シールド特性を測定した所、十分なシールド特性が得られていることも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0011】
本発明の同軸ケーブルは、容易に細径化されながらも優れた高周波特性及びシールド特性を呈するので、情報通信機器、通信端末機器、計測機器のみならず、小型電子機器用にも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る同軸ケーブルの一例を示す側面図である。
【符号の説明】
【0013】
1 内部導体
2 誘電体層
3 接着性樹脂膜
4 導電樹脂膜
5 電解金属メッキ層






【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部導体を被覆するフッ素樹脂誘電体層の外周に電解金属メッキ層をシールド層として配した同軸ケーブルにおいて、該電解金属メッキ層が導電樹脂膜上に形成され、且つ、該導電樹脂膜と該誘電体層との間には両者に対して媒体的接着能を有する接着性樹脂膜が介在していることを特徴とする同軸ケーブル。
【請求項2】
該接着性樹脂膜がナイロン系接着剤の膜である請求項1に記載の同軸ケーブル。
【請求項3】
該接着性樹脂膜の膜厚が0.01μm〜3μmである請求項1又は2に記載の同軸ケーブル。
【請求項4】
該導電樹脂膜が金属触媒核を含む請求項1〜3のいずれかに記載の同軸ケーブル。
【請求項5】
該導電樹脂膜の膜厚が0.001μm〜3μmである請求項1〜4のいずれかに記載の同軸ケーブル。
【請求項6】
該電解金属メッキ層の厚さが3μm〜30μmである請求項1〜5のいずれかに記載の同軸ケーブル。
【請求項7】
以下のa〜dの工程を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の同軸ケーブルの製造方法。
a.内部導体上にフッ素樹脂からなる誘電体層を押出被覆する工程、
b.該誘電体層上に、媒体的接着能を有する接着性樹脂膜を形成する工程、
c.該媒体的接着能を有する接着性樹脂膜上に、導電樹脂と導電化促進剤と金属触媒核とを含む導電処理液を適用して、導電樹脂膜を形成する工程、及び、
d.該導電樹脂膜上に電解金属メッキ層を形成する工程。
【請求項8】
該導電樹脂がポリピロール系、ポリアニリン系、又はポリチオフェン系である請求項7に記載の同軸ケーブルの製造方法。
【請求項9】
該導電化促進剤がチオジグリコール酸の硫化物である請求項7又は8に記載の同軸ケーブルの製造方法。
【請求項10】
該金属触媒核がパラジウム化合物である請求項7〜9のいずれかに記載の同軸ケーブルの製造方法。
【請求項11】
該電解金属メッキ層を設けた後、更に、アニール処理する請求項7〜10のいずれかに記載の同軸ケーブルの製造方法。
【請求項12】
該アニール処理が、加熱温度50℃〜200℃で加熱時間が10分〜24時間である請求項11に記載の同軸ケーブルの製造方法。




【図1】
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