説明

同軸ケーブル及び多心同軸ケーブル

【課題】コルデル構造の空気層を含む低誘電率の絶縁体を備え、外径を細径化できると共に、屈曲性に優れ生産性を向上させることが可能な同軸ケーブル及び多心同軸ケーブルを提供する。
【解決手段】内部導体12を形成する導電線条体と電気絶縁性の樹脂製の介在紐13とが互いに撚り合わせられ、その外側をチューブ状の絶縁体14で覆い、絶縁体14の外周に外部導体15を配している。なお、介在紐13及び絶縁体14は共にフッ素樹脂で形成するのが好ましい。この同軸ケーブル11の複数本を共通の外被で一括して被覆することにより多心同軸ケーブルとする。また、この場合、複数本の同軸ケーブルを平行一列の並べてフラット状の多心同軸ケーブルとすることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノートパソコン、携帯電話等の情報通信機器や超音波診断装置、内視鏡、CCDカメラ等に用いられる同軸ケーブル及び多心同軸ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコン、携帯電話、小型ビデオカメラ等の普及で、これら情報通信機器の小型・軽量化に加えて、データの高速伝送、高密度化が求められている。そして、これらの情報通信機器においては、通常、液晶表示部は折りたたみ可能な構造とされている。このため、機器本体部と表示部との間の電気接続は、回動又は捻回を伴う配線構造とされている。また、一般に、高周波の信号線から放射される電磁波によって、回路間に電磁干渉(EMI)が生じるのを抑制することが必要とされている。
【0003】
これに対応するために、従来、機器内への回路実装や配線に折り曲げ可能なフレキシブル基板(FPC)が用いられている。しかし、従来の折りたたみ式のものに加えて、最近では開閉+捻回タイプの情報機器が登場し、さらに使用周波数の高周波化、高速伝送に対応したものが求められるようになった。そこで、従来は医療機器の分野で広く用いられていた極細同軸ケーブル及びそのアセンブリが、情報通信機器の配線材料として注目され、その利用が試みられている。
【0004】
図5(A)は、一般的に知られている同軸ケーブルの一例を示す図である。この同軸ケーブル1は、中心に内部導体2、その外側を絶縁体3で覆い、絶縁体3の外周に押えテープ3aを巻き、その外周に外部導体4並びに外被5を同軸的に配して構成される。同軸ケーブル1の細径化を図るため、内部導体2と外部導体4との間の絶縁体3の誘電率を小さくして絶縁体3の厚さを薄くするようにしている。通常、絶縁体3には、他の樹脂と比べて比較的誘電率が小さいフッ素樹脂系のものが用いられ、また、これを発泡させて微小な気泡を多数形成させて誘電率を下げている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、図5(B)に示すようなコルデル構造の同軸ケーブルが知られている。この同軸ケーブル1’は、中央の内部導体2’の外周に絶縁材からなるコルデル紐7を螺旋状に巻き付け、その外周に絶縁チューブ6を押出し成形し、又はテープ巻き付けで形成している。そして、絶縁チューブ6の外周に外部導体4’を配し、その外面を外被5’で覆って保護するようにしたものである。この同軸ケーブル1’は、内部導体2’と外部導体4’の間を絶縁物で充満させずに空気層を介在させることで、低誘電率で誘電体損失を少なくするものとして知られているものである(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平11−144533号公報
【特許文献2】特開平7−182930号公報(図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図5(A)の同軸ケーブル1の発泡フッ素樹脂絶縁体3は、内部導体2の外面に押出し又はテープ巻き付けで形成されるが、発泡状態が潰れて内部導体2と外部導体4とが短絡する恐れがある。また、押えテープ3aには、通常、接着剤付きポリエステルテープが用いられるが、熱により収縮して半田付け加工中に絶縁体3が露出することがあり、耐熱性もよくない。さらに、絶縁体3をフッ素樹脂のテープ巻き付けで形成する場合は、内部導体2との密着性が低くて内部導体2が抜け出しやすく、また、製造線速が遅いなどの問題もある。
【0007】
図5(B)のコルデル構造の同軸ケーブル1’は、絶縁チューブ6が薄く形成されるためピンホールが発生しやすく、内部導体2’と外部導体4’の電気短絡が発生しやすい。また、絶縁チューブ6の内径は、「内部導体2’の外径+2×コルデル紐7の外径」となり、同軸ケーブルの細径化という点で問題がある。
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたもので、コルデル構造の空気層を含む低誘電率の絶縁体を備え、外径を細径化できると共に、屈曲性に優れ生産性を向上させることが可能な同軸ケーブル及び多心同軸ケーブルの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による同軸ケーブルは、内部導体を形成する導電線条体と電気絶縁性の樹脂製の介在紐とが互いに撚り合わせられ、その外側をチューブ状の絶縁体で覆い、絶縁体の外周に外部導体を配している。なお、介在紐及び絶縁体は共にフッ素樹脂で形成するのが好ましい。前記の同軸ケーブルの複数本を共通の外被で一括して被覆することにより多心同軸ケーブルとする。また、この場合、複数本の同軸ケーブルを平行一列に並べてフラット状の多心同軸ケーブルとしてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コルデル構造の空気層を有する低誘電率を備えた同軸ケーブルで、しかも、従来の発砲フッ素樹脂テープを巻付けてなる同軸ケーブルと同程度の細径化された同軸ケーブルを得ることができる。また、本発明による同軸ケーブルは、内部導体と絶縁紐を撚り合わせているため、チューブ状の絶縁体から内部導体が抜け出しにくくなり、また、丸形状に近い形でその外側にチューブ状絶縁体の薄肉成形が容易となり、生産性を高めることが可能となる。また、耐屈曲特性にも優れ、情報通信機器の屈曲部の配線などにも有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1により、本発明の同軸ケーブルの概略を説明する。図中、11は同軸ケーブル、12は内部導体、13は介在紐、14は絶縁体、15は外部導体、16は外被、17は空気層17を示す。本発明による同軸ケーブル11は、内部導体12を形成する導電線条体と電気絶縁性の樹脂からなる介在紐13とを撚り合わせ、その外周をチューブ状の絶縁体14で覆ってコア部分が形成される。そして、絶縁体14の外周には、外部導体15を同軸状に配し、その外側を外被16で被覆して構成される。
【0011】
内部導体12には、銅線、銅合金線等の導電線条体が単線又は撚り線の形態で用いられ、例えば、外経0.025mmの銀メッキ銅合金線7本を撚って、外経0.075mmの撚り線とされる。介在紐13は、フッ素樹脂系の電気絶縁材で形成され、内部導体12とほぼ同程度の太さ(例えば、外径0.075mm)のものが用いられる。内部導体12と介在紐13とは、ピッチ0.5mm〜10mm程度で撚り合わされる。
【0012】
絶縁体14は、撚り合わせられた内部導体12と介在紐13の外側に、内部導体12の太さと介在紐13の太さの合計分を内径とし、厚さ0.07mm程度で外径が0.29mm程度の円形チューブとなるように押出し成形で形成される。なお、この円形チューブの絶縁体14は、正確な円形断面形状を有していなくてもよく、内部導体12と介在紐13の両方に接触する円形断面形状であればよい。そして、絶縁体14の内径面と内部導体12との間には、誘電体としての空気層17が生じるようにする。
【0013】
絶縁体14の外周には、銅線、銅合金線等の導電線が横巻又は編組で巻き付けられ、例えば、外経0.03mmの銀メッキ銅合金線を横巻で巻き付けて外部導体15とする。外部導体15の外周には、例えば、厚さ約0.004mm程度のポリエステルテープを2枚重ね巻きして互いに融着して外被16とする。この結果、外経が0.38mm程度の極細同軸ケーブル11が得られる。
【0014】
上述のようにして形成された同軸ケーブル11は、内部導体12が絶縁体14と接する部分と接しない部分があるが、全体としては、内部導体12と外部導体15との間の絶縁体層は、多くの空気層を含むこととなる。この結果、平均値としての全体の誘電率は小さくなり、誘電体損失の少ない同軸ケーブルが得られる。しかも、従来のコルデル構造の同軸ケーブルと比べて絶縁体内径を小さくすることができ、従来の発泡フッ素樹脂絶縁体を用いた同軸ケーブルと同程度の電気的特性を確保することができる。さらに、絶縁体14の内径面には、内部導体12と介在紐13とが、互いに反対の位置で同時に接する形態となるので、円筒状の薄肉成形が可能となり、ピンホールの発生を少なくすることができる。
【0015】
また、発泡フッ素樹脂絶縁テープを用いた従来の同軸ケーブルと比べて、絶縁体14は押出し成形で形成できるので製造線速を高めて生産性を向上させることができる。さらに、内部導体12と介在紐13とが撚られた状態で絶縁体14内に配されることから、内部導体12の導体抜けが発生し難くなる。また、介在紐13と絶縁体14の両者を、同じ材料のフッ素樹脂(例えば、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体:略称PFA)を用いることにより耐熱性(250℃程度)を高め、耐半田処理性を向上させることができる。さらに、レーザによる端末処理において、絶縁体14と同時に介在紐13の切断除去も行なうことができ作業性がよくなる。
【0016】
図2は、上述した同軸ケーブルを複数本用いて多心同軸ケーブルを形成する例を示す図である。図中、18,18’,19,19’は共通外被、20,20’,21,21’は多心同軸ケーブルを示し、その他の符号は図1で用いたのと同じ符号を用いることで説明を省略する。図2(A)に示す多心同軸ケーブル20は、単心の同軸ケーブル11の複数本を円形状に配して、共通外被18で多心化した例である。この例においては、各同軸ケーブル11は、それぞれが外被16で保護され、単心に分岐しての配線が容易であり、外部導体15がバラけることもなく、その取扱性がよいものである。
【0017】
図2(B)に示す多心同軸ケーブル20’は、外被16を有しない状態の同軸ケーブル11’の複数本を円形状に配して、共通外被18’で多心化した例である。この例においては、各同軸ケーブル11’の外部導体15は、互いに接触して電気的に共通接続され、低抵抗にすることができ、シールド電位差を小さく抑えることができる。なお、図2(A)及び図2(B)のように複数の同軸ケーブルを円形状に集合させることにより、回動部における捻回性能を高めることができる。
【0018】
図2(C)は、外被16を有する同軸ケーブル11の複数本を、平行一列に並べて共通外被19でフラット形状にした多心同軸ケーブル21の例を示し、図2(D)は、外被16を有しない同軸ケーブル11’の複数本を、平行一列に並べて共通外被19’でフラット形状にした多心同軸ケーブル21’の例を示す。なお、図2(C)及び図2(D)の構成において、共通外被19,19’は、絶縁テープを同軸ケーブル11,11’の上下面に外被用のテープを接着接合させて被覆する形態であってもよい。
【0019】
なお、図2(C)及び図2(D)は、図2(A)及び図2(B)の多心同軸ケーブルをフラット形状としたもので、それぞれの利点としては、図2(A)及び図2(B)の場合と同様である。そして、フラット形状とすることにより、FPCと同様な使い方が可能であり、特に平坦面に沿っての配線に適し、また、屈曲性能を高めることができる。なお、図2(A)〜図2(D)の何れの例においても、各同軸ケーブルは、それぞれが外部導体15でシールドされていて、インピーダンス整合とEMI特性を確保することができる。
【0020】
図3は、図2の各種の多心同軸ケーブルに電気接続端末部を形成した例を示す図である。電気接続端末部は、図3(A)に示すように電気接続しやすい形態に各同軸ケーブル11,11’の端部を配列した接続端末22a、或いは、図3(B)に示すように、電気コネクタ等の接続手段を接続した接続端末22bで形成することができる。電気コネクタの場合は、通常、多数のコンタクトを高密度で一列に配列したジャックコネクタとプラグコネクタが用いられる。このため、多心同軸ケーブル11、11’の各ケーブル端を平行一列に並べて、予め所定のピッチでフラット形状に整列させておくか、電気コネクタを接続して電気コネクタ付きの多心同軸ケーブルとして提供されるのが好ましい。
【0021】
図4は、本発明の評価結果を説明する図で、図4(A)は、従来品と本発明品との構成及び電気特性を比較した図、図4(B)は屈曲試験方法を示す図である。図4(A)において、従来品としては、絶縁体として発泡フッ素樹脂テープ、具体的には、ポアフロンテープ(住友電工登録商標)を使用した。同軸ケーブルの中心に配される内部導体としては、従来品も本発明品も同じものを用い、外径0.025mmの銀メッキ銅合金線を7本撚りし、外径0.075mmの撚り線とした。
【0022】
絶縁体としては、従来品に発泡フッ素樹脂テープとその押え巻きにポリエステルテープを用い、トータルの絶縁外径が0.25mmになるようにした。これに対し、本発明品では、PFAの介在紐とPFA樹脂の押出し成形を用い、絶縁体の外径が0.29mmとなるようにした。外部導体は、従来品も本発明品も同じものを用い、外径0.03mmの銀メッキ銅合金線を横巻で形成した。外被には、従来品も本発明品も同じポリエステルテープを用いて重ね巻きしたところ、従来品の同軸ケーブル外径が0.34mm、本発明品の同軸ケーブル外径が0.38mmとなった。
【0023】
これらの電気特性を測定したところ、従来品も本発明品も同じ特性が得られ、導体抵抗で5800Ω/km、特性インピーダンスが80Ω(10MHz)、減衰量が430dB/km(10MHz)であった。上記のように形成した合軸ケーブルを図4(B)に示す方法で屈曲試験を行なった。
【0024】
試験結果(1)
マンドレル外径φ=2mm、荷重W=20gとし、屈曲角度±90°で30回/分の速度で屈曲させた。この結果、5サンプルの平均で、従来品は、7419回目で内部導体に断線が生じた。本発明品は、21860回目で断線が生じ、従来品のほぼ3倍の寿命を備えていた。
【0025】
試験結果(2)
マンドレル外径φ=10mm、荷重W=100gとし、屈曲角度±90°で30回/分の速度で屈曲させた。この結果、5サンプルの平均で、従来品は、29521回目で内部導体に断線が生じた。本発明品は、76259回目で断線が生じ、従来品のほぼ2.5倍の寿命を備えていた。
以上の結果から、本発明による同軸ケーブルは耐屈曲特性にも優れ、情報通信機器の屈曲部、例えば、ヒンジ部分を通る配線などに有用であることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明による同軸ケーブルの概略を説明する図である。
【図2】本発明による多心同軸ケーブルの一例を説明する図である。
【図3】多心同軸ケーブルに電気接続端末部を形成した例を示す図である。
【図4】本発明の評価結果を説明する図である。
【図5】従来の技術を説明する図である。
【符号の説明】
【0027】
11,11’…同軸ケーブル、12…内部導体、13…介在紐、14…絶縁体、15…外部導体、16…外被、17…空気層、18,18’,19,19’…共通外被、20,20’,21,21’…多心同軸ケーブル、22a,22b…接続端末。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部導体を形成する導電線条体と電気絶縁性の樹脂製の介在紐とが互いに撚り合わせられ、その外側をチューブ状の絶縁体で覆い、前記絶縁体の外周に外部導体が配されていることを特徴とする同軸ケーブル。
【請求項2】
前記介在紐及び絶縁体が共にフッ素樹脂で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の同軸ケーブル。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の同軸ケーブルの複数本を、絶縁材からなる共通外被で覆ったことを特徴とする多心同軸ケーブル。
【請求項4】
前記同軸ケーブルの複数本が、平行一列に並べられていることを特徴とする請求項3に記載の多心同軸ケーブル。
【請求項5】
少なくとも一方の端部に電気接続端末が形成されていることを特徴とする請求項3又は4に記載の多心同軸ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−202641(P2006−202641A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−14401(P2005−14401)
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】