説明

同軸ケーブル

【課題】低静電容量化を達成でき、誘電体の絶縁性や内部導体の導電性の低下を防止できる低コストで成形容易な同軸ケーブルを提供すること。
【解決手段】本発明の同軸ケーブル1は、内部導体11と、該内部導体の外周に設けられた発泡樹脂でなる誘電体12と、該誘電体の外周に設けられた外部導体14と、該外部導体の外周に設けられた外被15とを備え、誘電体が、発泡核剤を含有している。発泡核剤を含有する樹脂を発泡させて誘電体を形成することにより、発泡率を60%未満に抑えてケーブル端末を端末処理する際のレーザの熱による誘電体の絶縁性や内部導体の導電性の低下を防止できると共に、同軸ケーブルの低静電容量化も達成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同軸ケーブルに関し、例えば、医療機器、通信機器、コンピュータ等の電子機器に用いられる同軸ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器においては、通常、複数本の同軸ケーブルを束ね、束ねた同軸ケーブルの端末を並列配置し、並列配置したケーブル端末を端末処理して外部導体及び内部導体を露出し、露出した外部導体及び内部導体にコネクタを電気的に接続した構成のものが使用される。この同軸ケーブルの端末処理方法としては、レーザを用いた端末処理が作業効率や作業コストの面から優れているため多用されている。
【0003】
ところが、近年、例えば医療用超音波プローブケーブルや内視鏡ケーブル等の小型軽量化に伴って同軸ケーブルの細径化が要求されてきており、かかる同軸ケーブルの電気的性能等を劣化させることなく端末処理することが困難になってきている。例えば、外径が1mm以下の同軸ケーブルの場合、外部導体と内部導体の間に介在する誘電体の厚さは数十μm程度と薄肉になるので、外部導体をレーザの熱により剥離する際に誘電体を溶融してその絶縁性を低下させたり、内部導体を損傷してしまうおそれがある。
【0004】
この問題を解消するものとして、特許文献1には、充実フッ素樹脂でなる誘電体(内部絶縁体)にカーボンブラックを所定量添加して着色した同軸ケーブルが開示されている。この同軸ケーブルによれば、誘電体をレーザを吸収する吸収体として機能させることができるため、レーザの熱による誘電体の絶縁性の低下や内部導体の損傷を防止できる。また、特許文献2には、充実フッ素樹脂でなる誘電体(内部絶縁体)に酸化チタンを所定量添加した同軸ケーブルが開示されている。この同軸ケーブルによれば、誘電体をレーザを散乱する反射体として機能させることができるため、レーザの熱による誘電体の絶縁性の低下や内部導体の損傷を防止できる。
【0005】
ところが、さらに医療用超音波プローブケーブルや内視鏡ケーブル等においては、省電力化に伴って同軸ケーブルの低静電容量化が要求されてきている。上記特許文献1もしくは2に記載の同軸ケーブルでは、誘電体を充実フッ素樹脂で形成しているため、要求される低静電容量化を達成することが困難となっている。この問題を解消するものとして、特許文献3には、発泡樹脂でなる第1誘電体(第1被覆層)と、この発泡樹脂の熱変形温度よりも高い樹脂でなる第2誘電体(第2被覆層)を第1誘電体の外周に設けた同軸ケーブルが開示されている。この同軸ケーブルによれば、第1誘電体により低静電容量化を達成でき、端末処理する際にも、第2誘電体によりレーザの熱による第1誘電体の絶縁性の低下や内部導体の損傷を防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−251522号公報
【特許文献2】特開2007−234574号公報
【特許文献3】特開平11−144533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献3に記載の同軸ケーブルは、同文献の段落0009に記載されているように、発泡率が60%を超える発泡樹脂の第1誘電体のみでは材料の融点以下の温度でも容易に発泡体構造が破壊されてしまうという性質を補完するために、発泡樹脂の熱変形温度よりも高い樹脂でなる第2誘電体を設けたものである。このため、第1誘電体を形成するための樹脂と、第2誘電体を形成するための樹脂とを別々に揃える必要があり、コストが増加すると共に成形作業が煩雑となるおそれがある。
【0008】
本発明は、上記のような課題に鑑みなされたものであり、その目的は、低静電容量化を達成でき、誘電体の絶縁性の低下や内部導体の損傷を招くことなく、容易、低コストで端末処理できる同軸ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的達成のため、本発明の同軸ケーブルでは、内部導体と、該内部導体の外周に設けられた発泡樹脂でなる誘電体と、該誘電体の外周に設けられた外部導体と、該外部導体の外周に設けられた外被とを備えた同軸ケーブルであって、前記誘電体が、発泡核剤を含有していることを特徴としている。
【0010】
本発明者は、同軸ケーブルについて鋭意研究を重ねた結果、発泡核剤を含有する樹脂を発泡させて誘電体を形成することにより、ケーブル端末を端末処理する際のレーザの熱による誘電体の絶縁性の低下や内部導体の損傷を防止できると共に、同軸ケーブルの低静電容量化も達成できることを見出した。
【0011】
また、前記発泡樹脂でなる誘電体の外周に前記発泡樹脂と同一材質の充実樹脂でなる誘電体を設けても良い。この充実樹脂でなる誘電体は発泡樹脂でなる誘電体と同一の材質で形成されており、発泡樹脂でなる誘電体の表面を覆って良好な成形性を維持するためのものである。このため、発泡樹脂でなる誘電体を形成するための樹脂と、充実樹脂でなる誘電体を形成するための樹脂とを別々に揃える必要がなく、コスト増を抑えることができる共に成形作業を容易なものとすることができる。使用する発泡核剤としては、窒化ホウ素又はホウ酸アルミニウムウィスカが好適であり、少なくとも0.5重量%含有することが望ましいことが実験により見出された。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(A)、(B)は、本発明の同軸ケーブルの第1の実施形態を軸と直交する方向から見た図及び軸方向から見た図である。
【図2】(A)、(B)は、本発明の同軸ケーブルの第2の実施形態を軸と直交する方向から見た図及び軸方向から見た図である。A
【図3】同軸ケーブルの実施例と比較例の静電容量、誘電率、成形性及び各同軸ケーブルを端末処理試験したときの導体損傷を示す図である。
【図4】図2における導体損傷の状態を示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に説明する実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の成立に必須であるとは限らない。
【0014】
図1(A)、(B)は、本発明の同軸ケーブルの第1の実施形態を軸と直交する方向から見た図及び軸方向から見た図である。この同軸ケーブル1は、中心導体11(内部導体)と、コア誘電体12(誘電体)と、外部導体14と、ジャケット15(外被)とにより略構成されている。本発明の特徴的な部分であるコア誘電体12は、後述する発泡核剤を含有した樹脂を発泡させた発泡樹脂でなる。
【0015】
このような構成の同軸ケーブル1は以下の手順により形成される。先ず、複数本の導線11aを撚り合わせて中心導体11を形成し、この中心導体11の外周に押出機(図示せず)を用いて発泡核剤が含有された樹脂を押出し被覆して発泡樹脂でなるコア誘電体12を形成する。次に、このコア誘電体12の外周に複数本の導体素線14a、もしくは金属箔を長手軸方向に対して所定角度(螺旋状)で横巻きし、もしくは編組して外部導体14を形成する。最後に、この外部導体14の外周に樹脂テープを長手軸方向に対して所定角度(螺旋状)で巻回し、もしくは、押出機を用いて樹脂を押出し被覆してジャケット15を形成することにより、同軸ケーブル1が完成する。
【0016】
この同軸ケーブル1は以下の手順により端末処理される。先ず、ジャケット15をCOガスレーザを用いて切断して外部導体14から剥離する。次に、外部導体14をYAGレーザもしくはCOガスレーザを用いて溶融切断して取り除く。最後に、コア誘電体12を機械加工又はCOガスレーザを用いて切断して中心導体11から剥離し、中心導体11を露出させる。以上により、同軸ケーブル1の端末処理が完了する。
【0017】
導線11aの材質としては銅合金、例えば銀めっき錫入り軟銅、コア誘電体12の材質としてはフッ素樹脂、例えばテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(以下、単にPFAとする)、導体素線14aもしくは金属箔の材質としては銅合金、例えば錫めっき軟銅、ジャケット15の材質としては一般的な樹脂、例えばポリエステルが使用可能である。また、発泡核剤の種類としては窒化ホウ素又はホウ酸アルミニウムウィスカが好適であることが以下に詳述する実験により見出された。
【0018】
図2(A)、(B)は、本発明の同軸ケーブルの第2の実施形態を図1(A)、(B)と対応させて示す図であり、同一構成部材は同一番号を付して詳細な説明は省略する。この同軸ケーブル2は、コア誘電体12と外部導体14との間に、スキン13が形成されている。このスキン13は、コア誘電体12と同一材質であるPFAで形成されているが、コア誘電体12が発泡樹脂でなるのに対し、スキン13は充実樹脂でなる。スキン13は、コア誘電体12の表面を覆って良好な成形性を維持するためのものであり、第1の実施形態の同軸ケーブル1と同様の作用効果を奏する。そして、従来のようにコア誘電体12を形成するための樹脂と、スキン13を形成するための樹脂とを別々に揃える必要がなく、コスト増を抑えることができる共に成形作業を容易なものとすることができる。
【0019】
図3は、同軸ケーブルの比較例と実施例の静電容量、誘電率、成形性及び各同軸ケーブルを端末処理試験したときの導体損傷を示す図、図4は、図3における導体損傷の状態を示す電子顕微鏡写真である。ここで、静電容量は、静電容量測定器(LCR−HiTESTER HIOKI 3522−50)を用いて測定周波数を1kHzとして測定した。成形性は、コア誘電体12の外観の荒れ、外径変動によって判定し、外観が良好で外径変動が小さい場合は“○”、外観が荒れて(発泡が不安定)外径が安定していない場合は“×”と表示した。導体損傷は、外部導体14をYAGレーザを用いて溶融切断した後の中心導体11の表面を走査型電子顕微鏡で観察し、切断されていない場合もしくは軽度の傷付きしかない場合は“○”、切断されている場合もしくは重度の傷付きがある場合は“×”と表示した。
【0020】
比較例1,2及び実施例1〜10の同軸ケーブルは、コア誘電体12のみが異なる構造で作製され、他の部分は同一の構造(ただし、実施例10は外径のみが異なる)で作製されている。同一構造部分としては、導線11aとして外径0.025mmの銀めっき錫入り軟銅線を7本撚り合わせて中心導体11を形成する。そして、この中心導体11の外周にPFAを被覆して外径0.29mm(ただし、実施例10のみは0.25mm)となるようにコア誘電体12を形成する。そして、このコア誘電体12の外周に導体素線14aとして外径0.03mmの錫めっき軟銅線を30本、長手軸方向に対して所定角度を与えて横巻きして外径0.35mm(ただし、実施例10のみは0.31mm)となるように外部導体14を形成する。そして、この外部導体14の外周に、厚さ0.2mmのポリエステルテープを長手軸方向に対して所定角度で巻回してジャケット15を形成し、最終的にケーブル外径を0.39mm(ただし、実施例10のみは0.34mm)とする。
【0021】
異なる構造部分としては、図3に示すように、比較例1の同軸ケーブルは、発泡核剤を含有していないPFAを用いて充実(発泡率0)のコア誘電体12を形成したものである。比較例2の同軸ケーブルは、発泡核剤を含有させていないPFAを発泡(発泡率58%)させてコア誘電体12を形成したものである。実施例1〜7は、発泡核剤として窒化ホウ素を0.025質量%、0.05質量%、0.1質量%、0.5質量%、1.0質量%、3.0質量%、5.0質量%含有させたPFAを発泡(発泡率49%、41%、49%、48%、52%、47%、43%)させてコア誘電体12を形成したものである。実施例8〜10は、発泡核剤としてホウ酸アルミニウムウィスカを0.5質量%、1.0質量%、1.0質量%含有させたPFAを発泡(発泡率50%、51%、56%)させてコア誘電体12を形成したものである。
【0022】
図3から明らかなように、充実樹脂のコア誘電体12を有する比較例1の同軸ケーブルは、静電容量が82.5pF/m、誘電率が2.1であるのに対し、発泡樹脂のコア誘電体12を有する比較例2及び実施例1〜10の同軸ケーブルは、静電容量が53.8〜60.8pF/m、誘電率が1.4前後になっており、発泡の効果により低誘電容量化を達成できることが判る。
【0023】
また、図3から明らかなように、比較例2及び実施例1〜2の同軸ケーブルは、発泡樹脂のコア誘電体12の外観が荒れて(発泡が不安定)外径が安定していないのに対し、実施例3〜10の同軸ケーブルは、発泡樹脂のコア誘電体12の外観が良好で外径変動が小さくなっており、発泡核剤として窒化ホウ素を0.1質量%〜5.0質量%含有させたPFA及び発泡核剤としてホウ酸アルミニウムウィスカを0.5質量%〜1.0質量%含有させたPFAを用いることで成形性を高められることが判る。また、実施例9と実施例10から明らかなように、同軸ケーブルのコア誘電体12、外部導体14、ジャケット15の各外径の違いは成形性に影響しないことが判る。
【0024】
また、図3及び図4から明らかなように、比較例1,2及び実施例1〜3の同軸ケーブルは、中心導体11の表面が切断されているか重度の傷付きがあるのに対し、実施例4〜10の同軸ケーブルは、中心導体11の表面が切断されていないか軽度の傷付きしかなく、発泡核剤として窒化ホウ素を0.5質量%〜5.0質量%含有させたPFA及び発泡核剤としてホウ酸アルミニウムウィスカを0.5質量%〜1.0質量%含有させたPFAを用いることで導体損傷を防止できることが判る。また、実施例9と実施例10から明らかなように、同軸ケーブルのコア誘電体12、外部導体14、ジャケット15の各外径の違いは導体損傷に影響しないことが判る。
【0025】
以上のように、本実施形態の同軸ケーブル1によれば、窒化ホウ素又はホウ酸アルミニウムウィスカの発泡核剤を望ましくは少なくとも0.5重量%含有するPFAを発泡させてコア誘電体12を形成することにより、発泡率を60%未満に抑えてケーブル端末を端末処理する際のYAGレーザの熱によるコア誘電体12の絶縁性の低下や中心導体11の損傷を防止できると共に、同軸ケーブル1の低静電容量化も達成できる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の同軸ケーブルは、医療機器、通信機器、コンピュータ等の電子機器は勿論、自動車、飛行機等の制御機器を狭小部に搭載する必要のある機械の制御回路にも適用可能である。
【符号の説明】
【0027】
1、2 同軸ケーブル、11 中心導体、11a 導線、12 コア誘電体、13 スキン、14 外部導体、14a 導体素線、15 ジャケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部導体と、
該内部導体の外周に設けられた発泡樹脂でなる誘電体と、
該誘電体の外周に設けられた外部導体と、
該外部導体の外周に設けられた外被とを備えた同軸ケーブルであって、
前記誘電体が、発泡核剤を含有していることを特徴とする同軸ケーブル。
【請求項2】
前記誘電体の外周に前記誘電体と同一材質の充実樹脂でなる誘電体を設けたことを特徴とする請求項1に記載の同軸ケーブル。
【請求項3】
前記発泡核剤は、窒化ホウ素又はホウ酸アルミニウムウィスカであることを特徴とする請求項1又は2に記載の同軸ケーブル。
【請求項4】
前記発泡核剤は、少なくとも0.5重量%含有されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の同軸ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−212185(P2010−212185A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59365(P2009−59365)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000145530)株式会社潤工社 (71)
【Fターム(参考)】