説明

同軸落射照明装置

【課題】対物レンズの設計に制約を設けることが無く、低倍率の顕微鏡でも中心部の光量の低下が少なく、フレアスポットを減少させることができる同軸落射照明装置を提供する。
【解決手段】顕微鏡システムで撮像される観察対象物に照明光を照射できる対物レンズ400を備える顕微鏡本体に組み込まれる同軸落射照明装置1であって、照射光を発生する光源100と、対物レンズ400の入射面側410に光源100の像を形成する照明レンズを含む照明光学系300とを有し、さらに光源100からの照明光を照明光学系300に向けて放出する円形の発光面210の中心部の発光を防ぐ遮断手段600を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡システム等のため観察対象物を人工光により照射する照明装置に関し、特に、反射光により観察画像の中心部が明るくなるフレアスポットを低減させる機能を備えた同軸落射照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
顕微鏡システム等は、観察光学系を備え、製造工程における高精度な位置決めおよび基板検査等に使用されている。そのような顕微鏡システムは、対物レンズ、鏡筒部および接眼レンズを有する顕微鏡本体に加えて、人工光により観察対象物を照射する照明装置と、撮像素子を有して観察対象物の撮像データを出力するカメラ等が接続される。観察対象物の撮像データは、必要に応じて、制御部内の演算素子等により画像処理及び各種演算処理が実施され、上記した位置決め処理および基板検査等に用いられる。
【0003】
従来の顕微鏡システムは、例えば、リングライトガイドなどによる斜め方向からの照明によって観察対象物を照明し、カメラの感度に対して十分な光量の観察像を得ていた。しかし、金属鏡面や表面がなめらかな樹脂、半導体ウェハ等の観察対象物では、斜めからの照明では反射光がレンズに充分に入光せず、光量が不足することがあった。また、観察対象物の表面の光沢や組織の違いを観察したい場合に必要になる正反射光を出力できないという問題があった。そのような問題に対処するために、ハーフミラーを用いることで、顕微鏡システムの側面方向から入射する照明光を観察対象物に対して垂直になるように方向を変え、且つ、その際にレンズの光軸と照明の光軸を一致させて照明する同軸落射照明が知られている。そのような同軸落射照明装置では、対物レンズは、照明光を集光するコンデンサとしても機能する。
【0004】
顕微鏡システムに用いられる同軸落射照明装置は、例えば、顕微鏡本体の観察対象物側の対物レンズおよび接眼レンズ(又は撮像素子の撮像面)の間の鏡筒部に、分割プリズム(ハーフミラー)を介して側面から観察対象物に向けて照明光を、鏡筒内の光路の中心と同軸に供給できるように接続される。照明光は、例えば、光源から照明用光ファイバを介して供給される。また、顕微鏡本体は、観察対象物に対するピント合わせ機能の他に、拡大倍率を変更するための機能、例えば、レンズの位置を光路中でスライドさせて広領域(ワイド)側と狭領域(テレ)側の間の任意の倍率に変更するズーム機能を備えるものがある。また、同軸落射の照明光学系には、絞りを備えたものがあり、絞りの開閉によって、照明光を照射する範囲、照射する角度を制限できるものがある。さらに、照明する光束の端部を遮蔽し、斜め照射に近い観察を可能としているものもある。
【0005】
ところで、同軸落射照明装置では、対物レンズをコンデンサとして用い、対物レンズを通して照明光を照射しており、対物レンズの表面で反射した光線が観察像に重畳することから、撮像素子の撮像面における観察像の中心と周辺部に大きな光量差で明るさムラが生じる。その結果、同軸落射照明装置では、中心部の画像のコントラストを低下させ、観察精度を低減させるフレアスポット(ホットスポット)が発生するという問題がある。
【0006】
フレアスポットは、光軸に沿って入射した照明光の大部分が対物レンズを透過する一方で、照明光の一部が対物レンズの入射側表面(背面)等で反射し、反射した照明光の一部は、反射後も光軸に沿って進み、観察に使用するカメラの撮像素子の撮像面にまで達することで発生する。また、反射光としては、その他に、撮像素子の表面に入射する光の一部が反射した反射光がさらに分割プリズム表面で再反射して撮像素子の表面に戻るものも含まれる。特に、反射光がカメラの中心部に集光される場合には、観察像の中心の光量と周辺部の光量に大きな差を有するフレアスポットが発生する。このようなフレアスポットは、近年の撮像素子の高画素化及び高感度化により、発生しやすくなってきている。
【0007】
中心と周辺部とで大きな光量差を有するフレアスポットが発生した場合、カメラが検知できる光量の範囲(最暗部と再明部の差)を上回る光量差が生じることがある。その場合は、照明光量を調整しても、中心部の白とび若しくは周辺部の黒つぶれが起こり、良質な画像を得ることが出来なくなる。
【0008】
このフレアスポットを軽減するために、従来は、片射フィルタ等を含む減光フィルタを撮像素子の手前に設置したり、対物レンズと撮像素子の間にλ/4波長板や偏光板を配置したり、さらにそれらを光軸から傾けて配置したり、高精度な反射防止膜を用いることが提案された。しかし、照明光の強度が強い場合や照明光が赤外域の波長の場合にはフレアスポットの除去ができず、部品点数が多くなったり、コストが高くなったり、あるいは、撮像素子の手前に配置されるフィルタ等の表面精度が悪いと解像力が低下し、位置決めを行う場合の精度が低下する問題があった。
【0009】
上記の問題に対して、上記の撮像素子の手前にフィルタ等を配置しないで、各レンズの背面(反射面)の曲率半径と、反射面の後方に配置されるレンズの合成焦点距離を条件化すること、すなわち、対物レンズの設計に制限を設け、反射光が中心に集まらないよう注意深く設計することで、フレアスポットを低下させる方法が提案されている(例えば、引用文献1参照)。また、対物レンズ(コンデンサ)の瞳位置の近傍に中央の光束を遮光する遮光手段を配置する方法が提案されている(例えば、引用文献2参照)。さらに、照明の発光面の半分を覆って遮光する片射アダプタ(片射フィルタ)が知られている。片射アダプタを照明の発光面に取り付けることで、同軸落射照明下でも検出しにくい詳細な表面形状を浮き立たせることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−251081号公報
【特許文献2】特開2006−330359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、近年の対物レンズへの仕様要求が高まるにつれ、引用文献1の方法では、対物レンズ側で対処するので、対物レンズの設計の制約を無くせないことと、既存の対物レンズを用いた顕微鏡システムを改善できないことから、レンズ設計への制限を無くす要望が高まってきている。
【0012】
また、引用文献2の方法は、あらゆる場合に問題無くフレアスポットを改善できるわけではない。引用文献2の対物レンズの瞳位置の近傍を遮蔽する方法では、光源からの照明光は対物レンズに入射する際に減少し、観察対象物からの反射光が対物レンズを通過して観察光学系に入射する際にも減少するので、照明光が往復する両方で2回減少する。そのため、その遮蔽が観察時の光量に影響がほとんど無いような場合、例えば、NAが大きく対物レンズからの出射光束が大きい顕微鏡の場合ならば、光量の低下を問題としないでフレアスポットを改善できる。しかし、例えば、顕微鏡がズーム機能を有しており、そのズーム機能で低倍率側(ワイド側)にしたときのようにNAが小さく対物レンズからの出射光束が小さい場合に、引用文献2の方法で対物レンズの瞳位置の近傍を遮蔽すると、観察画像の中心部の光量が観察に不適切なレベルに低下するという問題がある。また、片射アダプタも基本的に光量が半分になるので、光量を多く必要な場合には観察に不適切なレベルに低下してしまうという問題がある。
【0013】
そこで本発明は、上記の課題を解決するために、対物レンズの設計に制約を設けることが無く、低倍率の顕微鏡でも観察画像の中心部の光量の低下が少なく、フレアスポットを減少させることができる同軸落射照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1)上記課題を解決するために、本発明の一実施態様に係る同軸落射照明装置は、撮像される観察対象物に照明光を照射できるコンデンサ機能を有する対物レンズを備える顕微鏡本体に組み込まれる同軸落射照明装置であって、照射光を発生する光源と、対物レンズの入射面側に光源の像を形成する照明レンズを含む照明光学系とを有し、さらに光源からの照明光を照明光学系に向けて放出する円形の発光面の中心部の発光を防ぐ遮断手段を設ける。
本実施態様によれば、遮蔽手段を設けることで、対物レンズの設計を制約することなく、フレアスポットを減少させつつ、低倍率時でも観察画像の中心部の光量低下を少なくできる。
【0015】
(2)好ましくは、本発明の一実施態様に係る同軸落射照明装置では、照射光を前記発光面まで導く導光部を有し、照明光学系は、発光面から放出された照射光を顕微鏡内の光路と同軸になるように導くようにしてもよい。
本実施態様によれば、導光部と照明光学系により、光源からの照射光を減衰量や拡散量が少なく照明光学系に導くことができる。
【0016】
(3)好ましくは、本発明の一実施態様に係る同軸落射照明装置では、遮蔽手段は、発光面の中心部の発光を、発光面の直径よりも小さい直径の円形に防ぐ不透明な円板であるようにしてもよい。
本実施態様によれば、発光面の中心部の発光を、発光面の直径よりも小さい直径の円形に防ぐので、観察画像の中心部の光量低下を少なくしつつ、フレアスポットを減少させることができる。
【0017】
(4)好ましくは、本発明の一実施態様に係る同軸落射照明装置では、遮蔽手段は、照明光学系の光軸上で光源の位置から照明レンズの入射瞳を見込む円盤の直径より大きい寸法の円形であるようにしてもよい。
本実施態様によれば、遮蔽手段を照明レンズの入射瞳を見込む円盤よりも大きくするので、フレアスポットを有効に減少させることができる。
【0018】
(5)好ましくは、本発明の一実施態様に係る同軸落射照明装置では、遮蔽手段は、発光面の照明光学系側の前面の中心部に配置された、発光面の直径よりも小さい所定直径の領域を有する不透明な円形遮蔽板であるようにしてもよい。
本実施態様によれば、円形の発光面に対して、その発光面よりも小さい直径の不透明な円形遮光板で光線の一部を遮断するので、円形の発光面の中心部を除き全方向の周囲部分から均等に光を放出させることができ、観察画像の中心部の光量低下を少なくしつつ、フレアスポットを減少させることができる。
【0019】
(6)好ましくは、本発明の一実施態様に係る同軸落射照明装置では、発光面から照明光学系側へ所定距離だけ前に、発光面の直径よりも小さい所定直径の円形遮蔽手段を配置してもよい。
本実施態様によれば、発光面の直径よりも小さい所定直径の円形遮光板を発光面の所定距離だけ前に配置して光線の一部を遮断するので、低倍率時でも観察画像の中心部の光量低下を少なくしつつ、フレアスポットを減少させることができる。
【0020】
(7)好ましくは、本発明の一実施態様に係る同軸落射照明装置では、発光面は直径が3.8mmの円形であり、遮蔽手段は、直径が1.0mmの円形であり、発光面から0.7mm前に配置されてもよい。
本実施態様によれば、直径が3.8mmの円形の発光面に対し、遮蔽手段を直径1.0mmの円形にすることで、低倍率時でも観察画像の中心部の光量低下を少なくしつつ、フレアスポットを減少させることができる。
【0021】
(8)好ましくは、本発明の一実施態様に係る同軸落射照明装置では、遮蔽手段は、発光面の中心に設けられた円形の不透明部であるようにしてもよい。
本実施態様によれば、円形の発光面の中心部に円形断面の不透明部を設け、発光面に対して、その発光面よりも小さい直径の不透明な不透明部で光線が遮られるので、円形の発光面の中心部を除き全方向の周囲部分から均等に光を放出させることができ、観察画像の中心部の光量低下を少なくしつつ、フレアスポットを減少させることができる。
【0022】
(9)好ましくは、本発明の一実施態様に係る同軸落射照明装置では、遮蔽手段は、導光部の中心に設けられた円形断面の空洞部であり、導光部の断面がドーナッツ形状であるようにしてもよい。
本実施態様によれば、円形断面の導光部の中心部に円形断面の空洞部を設け、導光部の断面がドーナッツ形状であるようにしたので、発光面に対して、その発光面よりも小さい直径の空洞部との境界面で光線が反射されて空洞部内に入射する光は少ないので、円形の発光面の中心部を除き全方向の周囲部分から均等に光を放出させることができ、観察画像の中心部の光量低下を少なくしつつ、フレアスポットを減少させることができる。
【0023】
(10)好ましくは、本発明の一実施態様に係る同軸落射照明装置では、光学系は、発光面から放出された照射光を対物レンズの出射側(観察面側)では平行光にするテレセントリック光学系であってもよい。
本実施態様によれば、照明光学系をテレセントリック系としているので、結像位置への距離の増減によりフレアスポットの光学強度が増減することを少なくできる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の同軸落射照明装置によれば、対物レンズの設計に制約を設けることが無く、既存の対物レンズにも適用でき、低倍率の顕微鏡でも観察画像の中心部の光量の低下が少なく、フレアスポットを減少させることができ、良質な画像を観察することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(a)〜(c)は従来の同軸落射照明装置の光路における発光面から出射した光が顕微鏡に入射するまでの概略構成を示す図である。
【図2】(a)、(b)は従来の同軸落射照明装置から出射した光が顕微鏡の対物レンズで反射してフレアスポットを発生させる概略構成を示す図である。
【図3】(a)〜(c)は従来の同軸落射照明装置から出射した光が顕微鏡の対物レンズで反射して発生されたフレアスポットを示す図である。
【図4】(a)〜(j)は従来の同軸落射照明装置において発光面の各部から出射して観察面に達する光線のスポットダイヤグラムである。
【図5】図4の(a)〜(i)の各スポットのエンサークルドエネルギーを示すグラフである。
【図6】従来の同軸落射照明装置顕微鏡の拡大倍率がワイド側の集中したフレアスポットを撮影した写真である。
【図7】(a)〜(c)は同軸落射照明装置の光路に片射アダプタを付与した発光面から出射した光が顕微鏡に入射するまでの概略構成を示す図である。
【図8】(a)〜(j)は発光面に片射アダプタを付与した同軸落射照明装置において、その発光面の各部から出射して観察面に達する光線のスポットダイヤグラムである。
【図9】図8の(a)〜(i)の各スポットのエンサークルドエネルギーを示すグラフである。
【図10】(a)〜(j)は対物レンズの瞳位置の近傍に中央の光束を遮光する遮光手段を配置した同軸落射照明装置において、その発光面の各部から出射して観察面に達する光線のスポットダイヤグラムである。
【図11】図10の(a)〜(i)の各スポットのエンサークルドエネルギーを示すグラフである。
【図12】(a)〜(d)は本願発明の一実施形態の同軸落射照明装置の光路における発光面から出射した光が顕微鏡に入射するまでの概略構成を示す図である。
【図13】(a)、(b)は本願発明の同軸落射照明装置から出射した光が顕微鏡の対物レンズで反射してフレアスポットを発生させない概略構成を示す図である。
【図14】(a)〜(j)は本願発明の軸落射照明装置の発光面の各部から出射して観察面に達する光線のスポットダイヤグラムである。
【図15】図14の(a)〜(i)の各スポットのエンサークルドエネルギーを示すグラフである。
【図16】本願発明の軸落射照明装置で顕微鏡の拡大倍率を最も低くワイド側にした場合の集中したフレアスポットを撮影した写真である。
【図17】(a)〜(d)は本願発明の他の実施形態の同軸落射照明装置の主要な構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明における第1実施形態の について、以下に図面を参照して詳細に説明する。
<従来技術の補足説明>
図1(a)が光源から顕微鏡の対物レンズまでの概略図、図1(b)が光ファイバの発光面から観察対象物までの光路図、図1(c)が発光面から照明光学系の拡大図である。また、図2(a)が顕微鏡の拡大倍率を最も低くワイド側にした場合の集中したフレアスポットを発生させる場合の観察光学系と光路を示す図であり、図2(b)が顕微鏡の拡大倍率を最も高くテレ側にした場合の拡散したフレアスポットを発生させる場合の観察光学系と光路を示す図である。さらに、図3(a)は図2(a)に対応するワイド側にした場合の集中したフレアスポットを示す図であり、図3(c)は図2(c)に対応するテレ側にした場合の拡散したフレアスポットを示す図であり、(b)はその中間の拡大率のフレアスポット2000を示す図である。
【0027】
図1と図2に示された同軸落射照明装置1は、図1(b)の上側に示された撮像される観察対象物800に対して照明光を同軸に照射できるようにする装置であり、顕微鏡の対物レンズ400と観察光学系900との間に、ハーフミラー700を有する分割プリズム等を挿入することで、顕微鏡の光軸とは垂直方向から照明光を入れて顕微鏡の光軸と同軸に観察対象物800を照明するものである。光源100から出射した照明光は、円形断面の導光部である光ファイバ200により円形の発光面210まで導光され、発光面210から照明光が照明光学系300に向けて放出される。照明光は、図1(c)に示すように発光面210の中心部からも周辺部からも放出される。光ファイバ200は、光源100からの照射光を減衰量や拡散量が少なく照明光学系300に導くことができ、単一のファイバでも、複数のファイバをバンドルしたものでもよい。
【0028】
照明光学系300は、発光面210から放出された照明光を、顕微鏡内の光路と同軸になるように、顕微鏡内の対物レンズ400まで導く。また、照明光学系300は、発光面210から放出された照射光を、対物レンズ400の出射面側(観察面側)から平行光で出射させるテレセントリック光学系である。照明光学系300をテレセントリック系とすることで、結像位置への距離の増減によるフレアスポット2000の光学強度の増減を少なくしている。さらに、照明光学系300は、内部の照明レンズにより、対物レンズ400の入射面側410に光源100の像を形成する。
【0029】
対物レンズ400は、照明光を観察対象物800に集光させるコンデンサ機能を有し、観察対象物800からの反射光を観察光学系900に入光させる。観察光学系900は、拡大倍率を広角(ワイド)側から狭角(テレ)側まで変更できる倍率変更光学系910を有し、カメラ(不図示)の撮像素子1000上に観察対象物800の像を結像させることができる。
【0030】
一方、上記したように、照明光学系300から放出された照明光の一部は対物レンズ400の表面で反射される。反射された照明光は、観察対象物800からの反射光と共に観察光学系900に入光される。対物レンズ400からの反射光は、撮像素子1000上に観察対象物800の観察像に重畳され、重畳部の輝度を上げる。図2(a)のように顕微鏡の拡大倍率をワイド側にした場合には、対物レンズ400からの反射光は観察光学系900により集光されて、図3(a)に示したように撮像素子1000上にフレアスポット2000を発生させる。図3(a)の場合は、撮像素子1000の撮像面における観察像の中心と周辺部が大きな光量差となり、大きな明るさ(輝度)のムラが生じる。その結果、同軸落射照明装置1が、顕微鏡観察画像の中心部の画像のコントラストを低下させ、観察精度を低減させるフレアスポット(ホットスポット)2000を発生させてしまう。それに対して図2(b)のように顕微鏡の拡大倍率をテレ側にした場合には、対物レンズ400からの反射光は観察光学系900により拡散されるので、図3(c)のようにフレアスポット2000を発生させる割合は少なくなる。図3(b)は、上記両者の中間の拡大率のフレアスポット2000を示している。
【0031】
図4(a)が発光面の中心のスポット図、図4(b)が発光面の中心から0.5mm上のスポット図、図4(c)が発光面の中心から1.0mm上のスポット図、図4(d)が発光面の中心から1.5mm上のスポット図、図4(e)が発光面の中心から1.9mm上のスポット図、図4(f)が発光面の中心から0.5mm下のスポット図、図4(g)が発光面の中心から1.0mm下のスポット図、図4(h)が発光面の中心から1.5mm下のスポット図、図4(i)が発光面の中心から1.9mm下のスポット図、図4(j)が(a)〜(i)を重ねた図である。図5は、図4の(a)〜(i)の各スポットのエンサークルドエネルギーを示しており、発光面の中心(x=0.0、y=0.0)から上下に1.5mmのスポットまではほぼ同様であり、発光面から出射した光線は、観察面の中心から半径5000μmの円内に到達します。発光面の中心から上下に1.9mm以上では観察面に光線が到達しないことを示す。図6は、図3(a)の拡大倍率を最も低くワイド側にした場合の集中したフレアスポット2000を撮影した写真である。このように、拡大倍率をワイド側にした場合には、フレアスポット2000の影響により、撮像素子1000の撮像面における観察像を明確に観察できなかった。
【0032】
<従来技術の補足説明:従来の参考例1(片射アダプタ)>
図7(a)が光源から顕微鏡の対物レンズまでの概略図、図7(b)が光ファイバの発光面から観察対象物までの光路図、図7(c)が発光面から照明光学系の拡大図である。また、図8(a)が発光面の中心のスポット図、図8(b)が発光面の中心から0.5mm上のスポット図、図8(c)が発光面の中心から1.0mm上のスポット図、図8(d)が発光面の中心から1.5mm上のスポット図、図8(e)が発光面の中心から1.9mm上のスポット図、図8(f)が発光面の中心から0.5mm下のスポット図、図8(g)が発光面の中心から1.0mm下のスポット図、図8(h)が発光面の中心から1.5mm下のスポット図、図8(i)が発光面の中心から1.9mm下のスポット図、図8(j)が(a)〜(i)を重ねた図である。図9は、上下に1.9mm以上の地点および発光面の中心から下側半分から出射した光線は、観察面に到達しないことを示す。
【0033】
参考例1では、同軸落射照明下でも検出しにくい詳細な表面形状を浮き立たせるために、照明の発光面210に、照明の発光面210の半分を覆って遮光する片射アダプタ(片射フィルタ)500を取り付けている。この発光面210と照明光学系300の間に片射アダプタ500を設けることで、理論上は発光面の半分の面積の照射光のみが撮像素子1000に到達する。しかし、図8と図4との比較からわかるように、実際は、発光面の半分の(a)〜(d)が完全に無くなることに加え、(f)の光量も一部減少しており、有効な照明光が半分以下になっている。従って、片射アダプタを使用する参考例1では、全体的に光量が減少し、中心部の光量も減少するので、フレアスポット2000の影響を低減させることができる可能性はあるが、全体的な光量や中心部の光量が不足することや、光量がカットされた片側の観察像の撮像に必要な光量が不足するため、良質な画像を観察することができなくなる可能性があり、特に光量を多く必要な場合には観察に不適切なレベルに低下してしまうという問題がある。
【0034】
<従来技術の補足説明:従来の参考例2(特許文献2)>
図10(a)が発光面の中心のスポット図、図10(b)が発光面の中心から0.5mm上のスポット図、図10(c)が発光面の中心から1.0mm上のスポット図、図10(d)が発光面の中心から1.5mm上のスポット図、図10(e)が発光面の中心から1.9mm上のスポット図、図10(f)が発光面の中心から0.5mm下のスポット図、図10(g)が発光面の中心から1.0mm下のスポット図、図10(h)が発光面の中心から1.5mm下のスポット図、図10(i)が発光面の中心から1.9mm下のスポット図、図10(j)が(a)〜(i)を重ねた図である。また、図11は、上下に1.9mm以上の地点および発光面の中心から出射した光線は観察面に到達しないが、それ以外の各点から出射した光線は観察面の中心から半径5000μmの円内に到達し、上記の従来技術と同様に、観察に必要な照明が行なわれていることを示す。
【0035】
この場合、対物レンズ400の瞳位置の近傍に中央の光束を遮光する遮光手段を配置している。従って、光源100から出射した照明光は、光ファイバ200と照明光学系300を経由して対物レンズ400に入射する際に遮光手段で中央の光束を遮光するだけでなく、一旦、観察対象物800に当たり、そこからの反射光が再度対物レンズ400を通過して観察光学系900に入射する前に、中央の光束を遮光手段で遮光するので、照明光が対物レンズ400に入射する際と、出射する際の往復で2回遮光する。例えば、NAが大きく対物レンズ400からの出射光束が大きい顕微鏡の場合ならば、対物レンズ400の瞳位置の近傍を遮蔽することは観察時の光量に影響がほとんど無い。従って、その場合であれば、光量の低下を問題としないでフレアスポット2000を改善できる。
【0036】
しかし、引用文献2の方法で対物レンズ400の瞳位置の近傍を遮蔽する場合、例えば、NAが小さい対物レンズ400で、顕微鏡のズーム機能で低倍率側(ワイド側)にしたときには、対物レンズからの出射光束が小さく、観察画像の中心部の光量が観察に不適切なレベルに低下するという問題がある。
【0037】
<第1実施形態>
図12(a)が光源から顕微鏡の対物レンズまでの概略図、図12(b)が光ファイバの発光面から観察対象物までの光路図、図12(c)が発光面から照明光学系の拡大図であり、(d)が(c)の発光面と遮蔽物を顕微鏡側から見た図である。また、図13(a)が顕微鏡の拡大倍率を最も低くワイド側にした場合の集中したフレアスポットを発生させない場合の光学系と光路を示す図であり、図13(b)が顕微鏡の拡大倍率を最も高くテレ側にした場合の拡散したフレアスポットを発生させない場合の光学系と光路を示す図である。また、図14(a)が発光面の中心のスポット図、図14(b)が発光面の中心から0.5mm上のスポット図、図14(c)が発光面の中心から1.0mm上のスポット図、図14(d)が発光面の中心から1.5mm上のスポット図、図14(e)が発光面の中心から1.9mm上のスポット図、図14(f)が発光面の中心から0.5mm下のスポット図、図14(g)が発光面の中心から1.0mm下のスポット図、図14(h)が発光面の中心から1.5mm下のスポット図、図14(i)が発光面の中心から1.9mm下のスポット図、図14(j)が(a)〜(i)を重ねた図である。また、図15は、発光面の中心から上下に1.9mm以上の地点および発光面の中心から出射した光線は観察面に到達しないが、それ以外の各点から出射した光線は観察面の中心から半径5000μmの円内に到達し、上記の従来技術と同様に、観察に必要な照明が行なわれていることを示す。図16は、図6に示した従来の構成により撮影した観察像を、本発明の第1実施形態の構成を用いて撮影しなおした写真である。図16の写真では、従来の図6の写真では非常に強く現れていたフレアスポット2000の影響が非常に少なくなっており、撮像素子1000上に結像する観察対象物800の像が明確になっていることが確認できる。
【0038】
本発明の第1実施形態では、上記した従来の構成に加え、光源100からの照明光を照明光学系300に向けて放出する円形の発光面210の中心部の発光を防ぐ遮断手段を設けている。遮蔽手段は、発光面210の照明光学系300側の前面の中心部に配置され、発光面210の直径よりも小さい所定直径の領域を有する不透明な円板である円形遮蔽板600であり、発光面210の中心部の発光を、発光面210の直径よりも小さい直径の円形に防ぐことができる。発光面210の直径よりも小さい直径の円形とは、例えば、照明光学系300の光軸上で発光面210の位置から、照明光学系300内の照明レンズの入射瞳を見込む円盤の直径より大きい寸法の円形とする。
【0039】
本実施形態では、発光面210の直径よりも小さい所定直径の円形遮蔽板600を、発光面210から照明光学系300側へ所定距離だけ前に配置する。具体的には、例えば、発光面210の直径が3.8mmの円形である場合、遮蔽手段600は、直径が1.0mmの円形であり、発光面210から0.7mm前に配置される。
【0040】
このように、本実施形態では、光源100からの照射光を放出する円形の発光面210から0.7mm前方に直径1mmの円形の遮蔽板600を置き、発光面210の中心(光軸との交点)から発した光線を遮断することで、対物レンズ400の入射口において光軸に沿って入射する照明光が消失する。その一方で、遮蔽物を置いたことにより、対物レンズ400に入射する全照明光量の減衰は20%以下であり、照明光の利用効率を損なうことなく、効果的にフレアスポット2000を取り除くことができる。なお、遮蔽板600の配置は、発光面210から0.7mm前方に限らず、例えば、1mm前方でもよく、同様な結果を得ることができる。
【0041】
上記した本実施態様によれば、円形の発光面に対して、その発光面210の前に、その発光面210の直径よりも小さい直径で照明レンズの入射瞳を見込む円盤よりも大きい不透明な円形遮蔽板600を設ける。これにより本実施態様では、発光面210の中心部の発光の一部を、円形に遮断して射出を防ぐが、その円形の発光面210の中心部を除けば、発光面210の全方向の周囲部分から均等に光を放出させることができる。その発光の遮断は、参考例2の場合と異なり、発光面210からの射出時の1回のみであり、その後は光量が減らないが、中心部の光量のみは確実に減少させることができる。従って、本実施形態では、対物レンズ400の設計を制約することなく、低倍率時でも観察画像の中心部の光量低下を少なくしつつ、フレアスポット2000を有効に減少させることができる。
【0042】
<第1実施形態の応用例>
図17(a)が円形の発光面の中心に円形の不透明部を設けた場合の図であり、図17(b)〜(d)は導光部の中心に円形断面の空洞部を設けた場合の図であり、図17(d)は図17(c)の導光部が複数のファイバーを束ねたバンドルファイバーであり、出光側で各ファイバーを外側に偏らせることでバンドルファイバーの中心に空洞部を設けた場合の図である。
【0043】
応用例1の同軸落射照明装置1では、遮蔽手段は、発光面210の中心に設けられた円形の不透明部215であり、特に、発光面210とは別体の円形遮蔽板600ではなく、発光面210の中心に、例えば貼着される。あるいは、導光部200の中心に不透明な導光部を設けてもよい。本応用例1によれば、円形の発光面210の中心部に円形断面の不透明部215を設け、発光面210に対して、その発光面210よりも小さい直径の不透明な不透明部215で光線が遮られる。そのため円形の発光面210の中心部を除き全方向の周囲部分から均等に光を放出させることができ、上記した実施形態と同様に、観察画像の中心部の光量低下を少なくしつつ、フレアスポット2000を減少させることができる。
【0044】
応用例2の同軸落射照明装置1では、遮蔽手段は、導光部200の中心に設けられた円形断面の空洞部250であり、導光部200の断面がドーナッツ形状としている。本応用例2によれば、円形断面の導光部200の中心部に円形断面の空洞部250を設け、導光部200の断面がドーナッツ形状であるようにした。この場合、発光面210に対して、その発光面210よりも小さい直径の空洞部250との境界面で光線が全反射されて空洞部250内に入射する光は少なくなる。また、図17(d)のように導光部200を複数のファイバーを束ねたバンドルファイバーとした場合には、入光側はそのまま束ねるが、出光側においては、各ファイバーを外側に偏らせることでバンドルファイバーの中心に空洞部を設けて束ねるようにすることで、出光側の中心に円形断面の空洞部250を設けることができる。従って、円形の発光面210の中心部を除き全方向の周囲部分から均等に光を放出させることができ、上記した実施形態と同様に、観察画像の中心部の光量低下を少なくしつつ、フレアスポット2000を減少させることができる。
【0045】
本実施形態では、発光面の中心部の前方に遮蔽板を設ける場合を示し、応用例では発光面の中心部に不透明部を設ける例、導光部の中心に不透明部を設ける例を示したが、本発明はそれに限らず、発光部と照明光学系の間の光路において中心部の光を遮断できる方法であればよい。なお、本発明は、上述の実施の形態例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲であれば、種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0046】
1 同軸落射照明装置、
100 光源、
200 光ファイバ、
210 発光面、
215 不透明部、
250 空洞部、
300 照明光学系、
400 対物レンズ、
410 入射面側、
500 片射アダプタ(片射フィルタ)、
600 遮蔽板、
700 ハーフミラー、
800 観察対象物、
900 観察光学系、
910 倍率変更光学系、
1000 撮像素子、
2000 フレアスポット(ホットスポット)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微鏡システムで撮像される観察対象物に照明光を照射できる対物レンズを備える顕微鏡本体に組み込まれる同軸落射照明装置であって、
照射光を発生する光源と、
前記対物レンズの入射面側に前記光源の像を形成する照明レンズを含む照明光学系と
を有し、
さらに前記光源からの照明光を前記照明光学系に向けて放出する円形の発光面の中心部の発光を防ぐ遮断手段を設ける
ことを特徴とする同軸落射照明装置。
【請求項2】
前記照射光を前記発光面まで導く導光部を有し、
前記照明光学系は、前記発光面から放出された照射光を顕微鏡内の光路と同軸になるように導く
ことを特徴とする請求項1に記載の同軸落射照明装置。
【請求項3】
前記遮蔽手段は、前記発光面の中心部の発光を、前記発光面の直径よりも小さい直径の円形に防ぐ不透明な円板である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の同軸落射照明装置。
【請求項4】
前記遮蔽手段は、前記照明光学系の光軸上で前記発光面の位置から前記照明レンズの入射瞳を見込む円盤の直径より大きい寸法の円形である
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の同軸落射照明装置。
【請求項5】
前記遮蔽手段は、前記発光面の照明光学系側の前面の中心部に配置された、前記発光面の直径よりも小さい所定直径の領域を有する不透明な円形遮蔽板である
ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の同軸落射照明装置。
【請求項6】
前記円形遮蔽板は、前記発光面の前面から前記対物レンズ側に所定距離だけ離して配置される
ことを特徴とする請求項5に記載の同軸落射照明装置。
【請求項7】
前記発光面は直径が3.8mmの円形であり、
前記遮蔽手段は、直径が1.0mmの円形であり、発光面から0.7mm前に配置される
ことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の同軸落射照明装置。
【請求項8】
前記遮蔽手段は、前記発光面の中心に設けられた円形の不透明部である
ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の同軸落射照明装置。
【請求項9】
前記遮蔽手段は、前記導光部の中心に設けられた円形断面の空洞部であり、
前記導光部の断面がドーナッツ形状である
ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の同軸落射照明装置。
【請求項10】
前記照明光学系は、発光面から放出された照射光を前記対物レンズの出射面側では平行光にするテレセントリック光学系である
ことを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の同軸落射照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−123326(P2012−123326A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276140(P2010−276140)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(592253736)シグマ光機株式会社 (46)
【Fターム(参考)】