説明

向上したイソプレノイドの生産

【課題】イソプレノイドの生産性を向上させることを課題とする。
【解決手段】メバロン酸経路またはイソペンテニルピロリン酸からファルネシルピロリン酸への経路に関与する酵素をコードする単離DNA配列であって、3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリル-補酵素A合成活性を有する酵素をコードし、a)特定の核酸配列、又はb)1つ以上のヌクレオチドの付加、挿入、欠失、および/または置換を有し、酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA配列の誘導体である単離DNA配列、該DNA配列を含むベクターまたはプラスミド、該DNA、またはベクターまたはプラスミドのいずれかによって形質転換された宿主、および該形質転換宿主細胞を利用したイソプレノイドおよびカロテノイドの製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソプレノイドの製造を目的とする分子生物学およびそれに有用な生物学的物質に関する。
【背景技術】
【0002】
アスタキサンチンは、動物(例えば、フラミンゴおよび紅色トキのような鳥類、ならびにニジマスおよびサケのような魚類)、藻類および微生物のような、非常に多様な生物に存在することが知られている。また、アスタキサンチンは酸素ラジカルに対する強力な抗酸化特性を有することが知られており、ガンのようないくつかの病気から、生細胞を守るための薬学的用途に応用することが期待されている。さらに、産業上の応用の観点からみると、アスタキサンチンは動物を明瞭なオレンジレッドに染色し、市場での消費者の要望に応えることから、染色試薬としてのアスタキサンチンの需要が、サケのような養殖魚産業で特に増加している。
【0003】
Phaffia rhodozymaは、アスタキサンチンを特異的に生成するカロテノイド生成酵母として知られている。他のカロテノイド生成酵母であるRhodotorula種と異なり、Phaffia rhodozyma (P. rhodozyma)は、D-グルコースのようないくつかの糖を発酵させることができる。この点は、産業上の応用の観点からみて、重要な特徴である。最近の分類学的研究において、P. rhodozymaの性周期が示され、その優性世代はXanthophyllomyces dendrorhousと命名された。(W.I. Golubev;Yeast 11, 101-110, 1995)。P. rhodozymaからアスタキサンチンの高産出株を得るための菌株改良研究が行われてきたが、ここ10年間は、そのような試みは通常の突然変異誘発法およびプロトプラスト融合法を利用することに限定されていた。最近、WeryらはP. rhodozymaのゲノムの複数コピー存在するリボゾームDNAの遺伝子座に、複製できないプラスミドを組み込んだP. rhodozymaを利用した宿主ベクター系を開発した(Weryら, Gene, 184, 89-97, 1997)。また、Verdoesらは、P. rhodozymaの形質転換体および、ゲラニルゲラニルピロリン酸からβ-カロテンへの反応を触媒する酵素をコードするP. rhodozymaの3つのカロテノイド生成遺伝子と共に、さらに改良されたベクターを報告した(国際公開公報第97/23633号)。近い将来、これまでの方法による限界に達した生産性を打破するために、P. rhodozymaの菌株改良研究において遺伝子工学の方法の重要性が増すと考えられる。
【0004】
一般的な代謝物であるアセチル補酵素Aからのカロテノイド生成経路は、カロテノイド生成真核生物では、図1で示すような複数の酵素反応過程から構成されることが報告されている。2分子のアセチル補酵素Aは縮合して、3-ヒドロキシルメチル-3-グルタリル補酵素A合成酵素の働きにより、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル補酵素A(HMG-CoA)に変換されるアセトアセチル補酵素Aを生成する。次に、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル補酵素A還元酵素により、HMG-CoAはメバロン酸に変換され、このメバロン酸にその後2分子のリン酸基が2種類のキナーゼ(メバロン酸キナーゼおよびホスホメバロン酸キナーゼ)の働きにより付加される。次にメバロン酸ピロリン酸は、メバロン酸ピロリン酸脱炭酸酵素の働きにより脱炭酸化され、イソペンテニルピロリン酸(IPP)が生成する。この物質は生物に必要な、多様性に富んだイソプレン分子の構成体となる。この経路は、重要な中間体であるメバロン酸から由来して、メバロン酸経路と呼ばれる。IPPは、IPPイソメラーゼの働きにより、ジメチルアリルピロリン酸(DMAPP)に異性化される。次にIPPおよびDMAPPは、ヘッドトゥテイル縮合によりC10単位であるゲラニルピロリン酸(GPP)へと変換される。GPPとIPPとの同様な縮合反応により、GPPはC15単位であるファルネシルピロリン酸(FPP)へと変換される。この物質は動物におけるコレステロールおよび酵母におけるエルゴステロールの重要な基質であり、かつRASタンパク質のような調節タンパク質のファルネシル化の重要な基質である。一般に、IPPおよびDMAPPからのGPPおよびFPPの生合成は、FPP合成酵素(Laskovicsら, Biochemistry, 20, 1893-1901, 1981)と呼ばれる一つの酵素により触媒される。一方、真正細菌のような原核生物では、イソペンテニルピロリン酸は、酵母や動物には存在しないピルビン酸から1-デオキシキシルロース-5-リン酸を経由した異なった経路によって合成された(Rohmerら, Biochem. J., 295, 517-524, 1993)。コレステロール生合成専門の研究では、コレステロール代謝の律速段階が、このメバロン酸経路の段階であり、特にHMG補酵素A合成酵素およびHMG補酵素A還元酵素により触媒される、その経路の初期段階であることが示された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開公報第97/23633号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】W.I. Golubev;Yeast 11, 101-110, 1995
【0007】
【非特許文献2】Weryら, Gene, 184, 89-97, 1997
【0008】
【非特許文献3】Laskovicsら, Biochemistry, 20, 1893-1901, 1981
【0009】
【非特許文献4】Rohmerら, Biochem. J., 295, 517-524, 1993
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、イソプレノイドの生産性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、コレステロールおよびカロテノイドの生合成経路が、アセチル補酵素AからFPPへの中間経路を共有することに注目し、カロテノイド生成経路における律速段階を改良しようと試みた。その経路はメバロン酸経路の段階に存在するものと考えられ、特にアスタキサンチンのようなカロテノイドの生産性を向上させるためのHMG補酵素A合成酵素およびHMG補酵素A還元酵素によって触媒される段階などにみられる初期メバロン酸経路に存在するものと考えられる。
【0012】
本発明者らの上記の努力に基づいて、本発明は考案された。本発明により、アスタキサンチン生成過程の改良に有用な生物材料である、アセチル補酵素AからFPPへのメバロン酸経路に含まれる遺伝子および酵素が提供される。本発明は、HMG補酵素A合成酵素、HMG補酵素A還元酵素、メバロン酸キナーゼ、メバロン酸ピロリン酸脱炭酸酵素およびFPP合成酵素をコードする遺伝子のクローニングおよび同定を含む。また本発明は、大腸菌のような適した宿主菌中での、その遺伝子の発現の結果として明らかになる酵素的特徴の解明を含む。これらの遺伝子は、P.rhodozymaのような適した宿主中で増幅され、カロテノイド生成の効果は、適当な培養条件のもとで適当な培養液で培養した形質転換体などによって、確認することができる。
【0013】
本発明に従い、メバロン酸経路またはイソペンテニルピロリン酸からファルネシルピロリン酸への、反応経路に関与する酵素をコードする単離されたDNA配列が提供される。さらに明確に言えば、該酵素は、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-補酵素A合成酵素活性、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-補酵素A還元酵素活性、メバロン酸キナーゼ活性、メバロン酸ピロリン酸脱炭酸酵素活性およびファルネシルピロリン酸合成酵素活性から成る群より選択される活性を有する酵素である。
【0014】
単離された該DNA配列は、次の点でさらに明確に特徴付けられる:
(a) 配列番号:6、7、8、9、および10に記載した配列からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する該酵素をコードするか、または
(b) (i)アリル変異体、および(ii)1つ以上のアミノ酸が付加、挿入、欠失、および/または置換されており、かつ記述された酵素活性を有する酵素から選択される該酵素の変異体をコードする。特に、上記の明示された単離DNA配列は、Phaffia rhodozymaの遺伝子に由来し、かつ(i)配列番号:1、2、4または5で示されたDNA配列、(ii) 配列番号:1、2、4または5に記載のDNA配列のアイソコード変異体またはアリル変異体、および(iii) 1つ以上のヌクレオチドが付加、挿入、欠失、および/または置換された、配列番号:1、2、4または5で示した、該酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA配列の誘導体から選択される配列である。これらの誘導体は、当技術分野で公知の方法、例えばSambrookらによって記された方法(Molecular Cloning, Cold Spring Harbour Laboratory Press, New York, USA second edition 1989)によって、本明細書に記載されたDNA配列を基にして組換え技術により作製できる。概して活性を変化させずにタンパク質およびペプチドのアミノ酸を改変する方法については、当技術分野で公知であり、例えばH. NeurathおよびR. L. Hillによって記された書「The Proteins」に記載されている(Academic Press, New York, 1979, 特に図6、14ページ参照)。最も一般的に行われている改変は次のようなものである:Ala/Ser、Val/Ile、Asp/Glu、Thr/Ser、Ala/Gly、Ala/Thr、Ser/Asn、Ala/Val、Ser/Gly、Tyr/Phe、Ala/Pro、Lys/Arg、Asp/Asn、Leu/Ile、Leu/Val、Ala/Glu、Asp/Gly、これらの逆も同様である。
【0015】
本発明により、(i)配列番号:3で示したDNA配列、(ii) 配列番号:3で示したDNA配列のアイソコード変異体またはアリル変異体、および(iii) 1つ以上のヌクレオチドが付加、挿入、欠失、および/または置換されており、メバロン酸キナーゼ活性を有するポリペプチドをコードする配列番号:3で示すDNA配列の誘導体から選択される単離DNA配列もまた提供される。
【0016】
さらに、本発明は、上記の、例えば配列表に開示されているDNA配列、ならびにその相補鎖、または該配列もしくはその断片と標準的な条件下でハイブリダイズするDNA配列、および遺伝コード縮退のため標準的な条件下で該配列とハイブリダイズしないが完全に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNA配列を含むDNA配列を目的とする。
【0017】
本明細書においてハイブリダイゼーションの「標準的な条件」とは、特異的なハイブリダイゼーションシグナルを検出するために当業者によって一般的に行われる条件で、例えばSambrookらによってCold Spring Harbour Laboratory Press1989, New York 「Molecular Cloning」第二版に記されている条件を意味する。また好ましくは、いわゆるストリンジェントなハイブリダイゼーションおよび非ストリンジェントな洗浄条件、より好ましくは、当業者が慣れ親しんでおり、例えばSambrookら(前記)に記載されているいわゆるストリンジェントなハイブリダイゼーションおよびストリンジェントな洗浄条件を意味する。さらに、当技術分野で公知の方法により、本明細書で開示されたDNA配列に基き設計されたプライマーを用いるポリメラーゼ連鎖反応により作製されるDNA配列もまた、本発明の目的である。本発明のDNA配列は、例えば欧州特許第747483号に記載されているように合成により作製することもできる。
【0018】
さらに本発明により、組換えDNA、好ましくは、メバロン酸経路または、イソペンテニルピロリン酸からファルネシルピロリン酸への反応経路で機能する酵素をコードする配列を含むベクターおよび/またはプラスミドが提供される。該組換えDNAベクターおよび/またはプラスミドは、上記したDNAのオープンリーディングフレーム同様プロモーターおよびターミネーターのような調節領域を含み得る。
【0019】
本発明により、宿主生物への形質転換のための該組換えDNA、ベクターまたはプラスミドの使用が提供される。組換えDNAの使用によって得られた組換え生物は、メバロン酸経路または、イソペンテニルピロリン酸からファルネシルピロリン酸への反応経路に関与する酵素をコードするDNA配列を、過剰に発現することができる。組換えDNAで形質転換された宿主生物は、イソプレノイドおよびカロテノイド、特にアスタキサンチンの製造過程の改良に有用であると考えられる。このように本発明により、組換え生物/形質転換宿主なども提供される。
【0020】
本発明はさらに、このようにして得られた組換え生物を培養することを含む、イソプレノイドまたはカロテノイド、好ましくはカロテノイドの製造法を提供する。
【0021】
本発明は、メバロン酸経路またはイソペンテニルピロリン酸からファルネシルピロリン酸への反応経路に関与する酵素の製造法であって該酵素が製造されるような条件下で上記の組換え生物を培養することを含む方法に関し、また該酵素自体にも関する。
【0022】
本発明は、添付の図面および下記のより詳細なる説明に基づいて、さらに容易に理解されると思われる。
【0023】
本発明により、メバロン酸経路またはイソペンテニルピロリン酸からファルネシルピロリン酸への反応経路から成る生物的経路に関与する酵素をコードする単離DNA配列が提供される。該酵素は、P. rhodozymaにおいてメバロン酸経路またはイソペンテニルピロリン酸からファルネシルピロリン酸への反応経路に関与する酵素、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-補酵素A合成酵素、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-補酵素A還元酵素、メバロン酸キナーゼ、メバロン酸ピロリン酸脱炭酸酵素およびファルネシルピロリン酸合成酵素などを例とすることができる。本発明は、メバロン酸経路から、カロテノイド生成経路への生物的経路に関与する化合物の製造、および該化合物からの多様な誘導体の製造にとって有用である。メバロン酸経路に関わる化合物には、アセトアセチル補酵素A、3-ヒドロキシメチル-3-グルタリル-補酵素A、メバロン酸、メバロン酸リン酸、メバロン酸ピロリン酸、およびイソペンテニルピロリン酸が含まれる。その後イソペンテニルピロリン酸は、図1に示すように「イソプレン生合成」反応により、ゲラニル-ピロリン酸およびファルネシルピロリン酸を経由して、ゲラニルゲラニル-ピロリン酸へと変換される。カロテノイド生成経路に関与する化合物は、ゲラニルゲラニル-ピロリン酸、フィトエン、リコペン、β-カロテンおよびアスタキサンチンである。上記した生合成に関連した化合物の中で、ゲラニル-ピロリン酸は、ユビキノンの製造に利用できる。ファルネシルピロリン酸は、コレステロールおよびエルゴステロールのようなステロールの製造に利用できる。ゲラニルゲラニル-ピロリン酸は、ビタミンK、ビタミンE、クロロフィルおよびその他の製造のための有用な物質である。このように本発明は、イソプレノイドの生物学的製造に応用する場合、特に有用であると考えられる。イソプレノイドは、骨格単位としてイソペンテニルピロリン酸を有する一連の化合物を集合的に定義した、一般的な名称である。イソプレノイドのさらなる例として、ビタミンAおよびビタミンD3が挙げられる。
【0024】
本発明の該DNAは、5’末端および3’末端の非翻訳領域にある短い断片に挟まれたオープンリーディングフレームのみを含むcDNA、ならびに目的の遺伝子の発現に必要なプロモーターおよびターミネーターのような調節配列をも含むゲノムDNAも指している。
【0025】
一般に遺伝子は、お互いに異なった機能を持ついくつかの部分から構成されている。真核生物では、リボゾームRNA(rRNA)、微小核RNA(snRNA)およびトランスファーRNA(tRNA)の遺伝子とは異なり、相当するタンパク質をコードする遺伝子は、未成熟メッセンジャーRNA(pre-mRNA)に転写される。RNAポリメラーゼII(PolII)は、この転写において中心的役割をしているが、プロモーターを含む上流域、および上流活性化配列(UAS)を含むシスエレメント、ならびにトランス作用タンパク質ファクターなしで、PolIIは単独で転写を始めることはできない。最初に、いくつかの基礎タンパク質成分からなる転写開始複合体は、発現する遺伝子の5’側に隣接した領域にあるプロモーター配列を認識する。この過程で、熱ショック応答、または栄養飢餓への適応などのある特別な調節の下で発現される遺伝子の場合、いくつかの付加的に動員される物質が必要である。そのような場合、UASがプロモーター配列の周辺にある5’末端非翻訳上流域に存在する必要があり、ポジティブまたはネガティブ調節タンパク質は、UASを認識し結合する。転写開始複合体のプロモーター配列への結合強度は、プロモーター周辺のトランス作用ファクターの結合のようなものに影響され、このことにより転写活性の調節が可能となる。
【0026】
リン酸化による転写開始複合体の活性化後、転写開始複合体は転写開始点から転写を開始する。転写開始複合体のいくつかの部分は、プロモーター領域から遺伝子の3’方向へ分離して伸長複合体となり(この段階は、プロモータークリアランスと呼ばれる)、伸長複合体は遺伝子の3’側の下流域に位置する終結配列へ到達するまで、転写を続ける。このようにして生成した前駆mRNAは核において、転写開始部位にほぼ相当するキャップサイトでのキャップ構造の付加により、修飾される。そして、3’側の下流域に位置するポリAシグナル部位で伸長したポリAの付加により修飾される。次に、イントロン構造はコード領域から除かれ、エキソン部分は結合し、相当するタンパク質の一次アミノ酸配列に相当するオープンリーディングフレームが生成される。成熟mRNAが生成されるこの修飾は安定な遺伝子の発現に必要である。一般的な意味でcDNAは、この成熟mRNA配列から逆転写されたDNA配列に相当する。cDNAは、実験的に成熟mRNAを鋳型として用い、ウイルス種に由来する逆転写酵素によって合成される。
【0027】
真核生物に由来する遺伝子を発現させるために、cDNAを大腸菌の発現ベクターへクローニングする方法は、本発明で示すようにしばしば利用される。これは、イントロン構造の特異性が、生物によって異なるということ、および他種からはイントロン配列を認識できない事が、原因となっている。実際、原核生物は、それ自体の遺伝的背景において、イントロン構造を持たない。酵母でさえ、遺伝的背景は、Saccharomyces cerevisiaeが属する子嚢菌類と、P. rhodozymaが属する担子菌類とで異なる。Weryらは、P. rhodozymaのアクチン遺伝子のイントロン構造は、Saccharomyces cerevisiaeのような子嚢菌類では、認識もスプライシングも起こらないことを示した(Yeast, 12, 641-651, 1996)。
【0028】
いくつかの種類の遺伝子のイントロン構造は、遺伝子の発現の調節に関係していることが、他の研究者らによりいくつか報告されている(Dabeva, M. D.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 83, 5854, 1986)。イントロン構造が、それ自体の遺伝子発現の調節に働く目的の遺伝子の自己クローニングの場合、イントロンを持つゲノム断片を利用することは重要であると考えられる。
【0029】
菌株改良研究のための遺伝子工学法を応用するために、転写や翻訳といった現象の遺伝的機構を研究することは必要である。遺伝的機構の研究のために、UAS、プロモーター、イントロン構造、およびターミネーターといった遺伝子配列を決定することは重要である。
【0030】
本発明により、メバロン酸経路に関する酵素をコードする遺伝子が、P. rhodozymaのゲノムDNAからクローニングされ、5’および3’末端近傍領域を含むHMG補酵素A合成酵素(hmc)遺伝子、およびHMG補酵素A還元酵素(hmg)遺伝子、メバロン酸キナーゼ(mvk)遺伝子、メバロン酸ピロリン酸脱炭酸酵素(mpd)遺伝子、およびFPP合成酵素(fps)遺伝子を含むゲノム配列、ならびにイントロン構造が決定された。
【0031】
はじめに本発明者らは、hmc遺伝子、hmg遺伝子、mvk遺伝子、mpd遺伝子、およびfps遺伝子の一部を含む部分的な遺伝子断片を、デジェネレートPCR法によりクローニングした。該デジェネレートPCRは、同一または類似の機能を有する他の種の既知の酵素とのアミノ酸配列相同性が高い目的の遺伝子をクローニングする方法である。デジェネレートPCRで使用されるプライマーであるデジェネレートプライマーは、アミノ酸配列の相当するヌクレオチドへの逆翻訳によって設計された(「デジェネレーテッド」)。このようなデジェネレートプライマーでは、A、C、GもしくはTのいずれかから成る混合プライマー、または多義コード部分においてイノシンを含むプライマーが一般的に使用される。本発明では、上記の遺伝子をクローニングするために、デジェネレートプライマーには混合プライマーが用いられた。使用したPCRの条件は、本明細書に後記するように、クローンに対するプライマーおよび遺伝子に応じて異なる。
【0032】
プロモーターまたはターミネーターのような調節領域同様、イントロンを有するコード領域を含む完全な遺伝子は、上記のようにデジェネレートPCRによって得られた部分的なDNA断片を、ラベルした後プローブとして用いることにより、適当な宿主中のファージベクターまたはプラスミドベクターとして構築されたゲノムライブラリーの選択によって染色体からクローニングできる。一般に、宿主菌として大腸菌、および大腸菌ベクター、λファージベクターのようなファージベクター、またはpUCベクターのようなプラスミドベクターは、ライブラリーの構築、およびその後の配列決定、制限酵素処理、ライゲーション等の遺伝子操作でよく用いられる。本発明では、P. rhodozymaのEcoRIゲノムライブラリーは、インサートのサイズに依存して、λベクター、λZAPIIおよびλDASHIIの誘導体により構築された。クローニングされるインサートサイズは、ライブラリーの構築の前に、それぞれの遺伝子に対するサザンブロットハイブリダイゼーションによって決定された。本発明では、プローブとして使用されるDNAは、供給会社(ベーリンガーマンハイム)によって調製されたプロトコールに従って、通常の32Pの代わりにステロイドハプテンであるジゴキシゲニン(DIG)でラベルされた。P. rhodozymaの染色体から構築されたゲノムライブラリーは、目的の遺伝子の一部を持つDIGでラベルされたDNA断片をプローブとして用いて選択された。ハイブリダイズしたプラークを拾い、その後の研究に用いた。λDASHII(インサートサイズは9kbから23kb)を利用する場合、調製したλDNAは、EcoRIで消化し、つぎにpUC19またはpBluescriptII SK+のようなプラスミドベクターへ、EcoRIインサートのクローニングを行った。λZAPIIをゲノムライブラリーの構築に用いる場合、インビボの切り出しプロトコールが、一本鎖M13ファージの誘導体であるExアシストファージ(ストラタジーン)を用いることにより、その後プラスミドベクターへのクローニングの段階に、便宜的に利用される。このようにして得られたプラスミドDNAについて、塩基配列決定を行った。
【0033】
本発明では、Taq DNAポリメラーゼがたいていの塩基配列決定に用いられるオートサイクル塩基配列決定プロトコールを利用して、自動蛍光DNAシーケンサー、ALFredシステム(ファルマシア)を使用した。
【0034】
ゲノム塩基配列の決定の後、コード領域の配列は、相当する遺伝子のcDNAのクローニングのために利用された。PCR法も、cDNA断片のクローニングのために利用した。オープンリーディングフレーム(ORF)の5’および3’末端の配列と同一の配列であるPCRプライマーは、適当な制限部位が付加されるように合成され、これらのPCRプライマーを用いてPCRを実行した。本発明では、cDNAプールを、このPCRでのcDNAのクローニングにおける鋳型として用いた。該cDNAプールは、P. rhodozymaから得られるmRNAを鋳型として用いて、ウイルス由来の逆転写酵素およびTaqポリメラーゼ(クロンテックによって製造されたCapFinder Kitを使用)により、インビトロで合成された種々のcDNAから構成される。このようにして得られた目的のcDNAは、その塩基配列によって確認された。さらに、lacまたはT7発現系のような強力なプロモーター活性の支配下で、大腸菌で機能する発現ベクターへのcDNA断片のクローニングの後、このようにして得られたcDNAは、その酵素活性の確認に利用した。
【0035】
酵素活性の確認に続いて、発現したタンパク質は精製され、精製された酵素に対する抗体の作製に用いられる。このようにして調製された抗体は、菌株改良研究、培養条件の最適化などの研究において、相当する酵素の発現の特徴を明らかにすることに利用できると考えられる。
【0036】
酵素反応の複数の段階から成る生合成経路における律速段階の決定後、そのゲノム配列を用いることによって、律速段階の反応の酵素活性を上昇させる3つの戦略がある。
【0037】
1つの戦略は、その遺伝子自体をそのままの形で利用するというものである。最も簡単なアプローチは、プロモーターおよびターミネーターのような調節配列を含むゲノム配列を増幅することである。P. rhodozymaで機能する選択マーカーを持つ適当なベクターへの、目的の酵素をコードするゲノム断片のクローニングにより実現する。毒性のある抗生物質の存在下で、宿主が生育できるようにする酵素をコードする薬剤耐性遺伝子は、選択マーカーとして、よく利用される。pGB−Ph9上にあるG418耐性遺伝子(Weryら、Gene 184, 89-97, 1997)は、薬剤耐性遺伝子の一例である。栄養相補マーカーは、適当な栄養要求マーカーを持つ宿主において用いられる。シチジンを生育に必要とするP. rhodozyma ATCC24221は、栄養要求株の一例である。ATCC24221に対するドナーDNAとしてCTP合成酵素を用いることにより、栄養相補を利用した宿主ベクター系を確立することができる。ベクターとして、2種類のベクターを用いられる。そのうちの1つのベクターは、自律複製配列を持たないインテグレートベクターである。上記のpGB−Ph9は、このタイプのベクターの一例である。そのようなベクターは、ベクター上に自律複製配列を持たないため、上記のベクターは自律複製できず、ベクターと染色体との間の相同配列間で起こる単交差組換えの結果として生じる宿主染色体に組み込まれた形でしか、存在できない。染色体上に組み込まれる遺伝子の数を増やす場合、遺伝子の増幅は、薬剤耐性マーカーのようなものを利用して行うことができる。相当する薬剤の選択培地中の濃度を上昇させることにより、組換えの結果、組み込まれた遺伝子が染色体上で増幅した株のみ、生育することができる。そのような選択を利用することにより、増幅した遺伝子を持つ株を選ぶことができる。別の種類のベクターは、自律複製配列を持つ複製可能なベクターである。そのようなベクターは多コピーで存在し、したがって含まれる遺伝子の量も、多コピーの状態で存在する。そのような戦略を利用することにより、増幅した遺伝子によってコードされる目的の酵素を、過剰発現させることが期待できる。
【0038】
目的の酵素を過剰発現させる別の戦略は、目的の遺伝子を強力なプロモーターの下流に置くことである。このような戦略では、遺伝子のコピー数は必ずしも多コピーである必要はない。この戦略は、プロモーター活性が適当な生育期、および適当な培養の時期において上昇するような、適当なプロモーターの支配下におくことで、目的の遺伝子を過剰発現させるためにも応用される。アスタキサンチンの生産は、二次代謝物の生産の場合のように、遅い生育期において加速する。したがって、カロテノイド生成遺伝子の発現は、遅い生育期において最高になると考えられる。そのような期間では、たいていの生合成酵素の遺伝子発現は低下する。例えば、メバロン酸経路に関連する酵素をコードする遺伝子のような増殖期プロモーター(vegetative promoter)の支配下で発現するアスタキサンチン前駆体の生合成に関与した遺伝子を、カロテノイド生成遺伝子のプロモーターの下流に置くことで、アスタキサンチンの生合成に関与する全ての遺伝子は、発現の時期と段階が同調するようになる。
【0039】
目的の酵素を過剰発現するための別の戦略は、その調節エレメントの変異の誘導である。この目的のために、β-ガラクトシダーゼ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、緑色蛍光タンパク質をコードする遺伝子等の、あるレポーター遺伝子は目的の遺伝子のプロモーター配列とターミネーター配列との間に挿入され、その際、プロモーター、ターミネーターおよびレポーター遺伝子を含む全ての部分が融合し、互いに機能し合う。該レポーター遺伝子が染色体またはベクターに導入されたP. rhodozymaの形質転換体は、目的の遺伝子のプロモーター領域中の変異を誘導するために、インビボで変異誘発される。変異はレポーター遺伝子によってコードされる活性の変化を検知することにより測定できる。もし変異が、遺伝子のシスエレメントで起こっている場合、変異部位は、変異遺伝子の回復および配列決定によって決定できる。決定した変異は、元のプロモーター配列と、変異配列との間の組換えによって染色体のプロモーター領域へ導入される。同様な方法により、トランス作用ファクターをコードする遺伝子に起こる変異もまた、得ることができる。これも目的の遺伝子の過剰発現に影響がある。
【0040】
プロモーター領域のシスエレメントのインビトロ変異誘発によって、変異を誘導することもできる。このアプローチでは、5’末端に目的の遺伝子に由来するプロモーター領域、および3’末端に目的の遺伝子に由来するターミネーター領域が融合したレポーター遺伝子を含む遺伝子カセットを、変異誘発し、次にP. rhodozymaへ導入する。レポーター遺伝子の活性の違いを検出することにより、効果的な変異をスクリーニングすることができる。そのような変異は、インビボの変異導入の場合と同じ方法で、染色体上の本来のプロモーター領域の配列に導入できる。
【0041】
ドナーDNAとして、メバロン酸経路の酵素、またはFPP合成酵素をコードする遺伝子は、単独で導入される、またはプラスミドベクター上に乗るようにして一緒に導入することが可能であろう。もともとの配列と同一なコード配列は、1つ以上のアミノ酸が付加、欠失、および/または置換されているアリル変異体同様、相当する酵素が安定な酵素活性を持つ限り利用できる。そしてそのようなベクターは、P. rhodozymaへ形質転換によって導入でき、形質転換体は、pGB-Ph9をベクターとする場合にはジェネチシンを含むYPD寒天培地または栄養要求株ATCC24221をレシピエントとして使う場合にはシチジンを欠く最小寒天培地のような適当な選択培地上に、形質転換した細胞を播くことにより選択することができる。
【0042】
そのような遺伝子的に処理されたP. rhodozymaを、適当な培地で培養し、アスタキサンチンの生産性を評価する。このようにして選択されたアスタキサンチンの高生産株は、その生産性と遺伝子工学によって導入された遺伝子またはタンパク質の発現のレベルとの関係をみて、確かめることができると思われる。
【0043】
本発明に係る単離DNA配列においては、(1)メバロン酸経路、またはイソペンテニルピロリン酸からファルネシルピロリン酸への経路に関連する酵素をコードする単離DNA配列であることを特徴とする。
【0044】
また、本発明に係る単離DNA配列においては、(2)酵素が3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-補酵素A合成酵素活性、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-補酵素A還元酵素活性、メバロン酸キナーゼ活性、メバロン酸ピロリン酸脱炭酸酵素活性、およびファルネシルピロリン酸合成酵素活性からなる群より選択される活性を有する、上記(1)記載の単離DNA配列であることを特徴とする。
【0045】
また、本発明に係る単離DNA配列においては、(3)以下の点を特徴とする、上記(1)または(2)記載の単離DNA配列であることを特徴とする:
(a)該DNA配列が、配列番号:6、7、8、9および10に記載の配列からなる群より選択されるアミノ酸配列を持つ酵素をコードする、または
(b)該DNA配列が、(i)アリル変異体と、(ii)1つ以上のアミノ酸付加、挿入、欠失、および/または置換を有し、記述された酵素活性を有する酵素とから選択される酵素の変異体をコードする。
【0046】
また、本発明に係る単離DNA配列においては、(4)Phaffia rhodozymaの遺伝子に由来し、以下の(i)〜(iii)から選択される、上記(1)〜(3)のいずれか一項記載の単離DNA配列であることを特徴とする:
(i)配列番号:1、2、4、または5に記載のDNA配列、
(ii)配列番号:1、2、4、または5に記載のDNA配列のアイソコード変異体またはアリル変異体、および
(iii)1つ以上のヌクレオチドの付加、挿入、欠失、および/または置換を有し、該酵素活性を有するポリペプチドをコードする、配列番号:1、2、4または5に記載のDNA配列の誘導体。
【0047】
また、本発明に係る単離DNA配列においては、(5)以下の(i)〜(iii)から選択される単離DNA配列であることを特徴とする:
(i)配列番号:3に記載のDNA配列、
(ii)配列番号:3に記載のDNA配列のアイソコード変異体またはアリル変異体、および
(iii)1つ以上のヌクレオチドの付加、挿入、欠失、および/または置換を有し、メバロン酸キナーゼ活性を有するポリペプチドをコードする、配列番号:3記載のDNA配列の誘導体。
【0048】
また、本発明に係る単離DNA配列においては、(6)以下の(i)および(ii)から選択される、上記(1)または(2)記載の単離DNA配列であることを特徴とする:
(i)配列番号:1〜10に記載の配列、またはその相補鎖もしくは断片と、標準的な条件下でハイブリダイズするDNA配列、および
(ii)遺伝コードの縮退のために(i)で定義されたようにハイブリダイズしないが、配列番号:1〜10に記載の配列と完全に同一なアミノ酸配列を有するポリペプチド、または上記(i)によって定義されたDNA配列によってコードされるポリペプチドをコードするDNA配列。
【0049】
また、本発明に係るベクターまたはプラスミドにおいては、(7)上記(1)〜(6)のいずれか一項記載のDNA配列を含むベクターまたはプラスミドであることを特徴とする。
【0050】
また、本発明に係る宿主細胞においては、(8)上記(1)〜(6)のいずれか一項記載のDNA配列、または請求項7記載のベクターもしくはプラスミドによって形質転換またはトランスフェクションされた宿主細胞であることを特徴とする。
【0051】
また、本発明に係る製造法においては、(9)メバロン酸経路またはイソペンテニルピロリン酸からファルネシルピロリン酸への経路に関連する酵素を製造する方法であって、該酵素が産生されるような条件下で、上記(8)記載の宿主細胞を培養することを含む方法であることを特徴とする。
【0052】
また、本発明に係る製造法においては、(10)適当な培養条件で上記(8)記載の宿主細胞を培養することを含む、イソプレノイドまたはカロテノイド、好ましくはアスタキサンチンの製造法であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0053】
本発明により、メバロン酸経路またはイソペンテニルピロリン酸からファルネシルピロリン酸への経路に関与する酵素をコードする単離DNA配列、該DNA配列を含むベクターまたはプラスミド、該DNA、またはベクターまたはプラスミドのいずれかによって形質転換された宿主、および該形質転換宿主細胞を利用したイソプレノイドおよびカロテノイドの製造法が提供された。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】P. rhodozymaにおけるアセチル補酵素Aからアスタキサンチンへの推測される生合成経路の概要を示した図である。
【図2】P. rhodozymaの擬mvk遺伝子のアミノ末端に人工的なヌクレオチドを付加して得られた、人工的なmvk遺伝子を利用した発現研究を示す図である。50μlの培養液から得た細胞を、10%ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)に供した。レーン1、大腸菌(M15(pREP4)(pQE30)IPTGなし); レーン2、大腸菌(M15(pREP4)(pQE30)1mM IPTG) ; レーン3、分子量マーカー(105kDa, 82.0kDa, 49.0kDa, 33.3kDaおよび28.6kDa, 上から下へ、BIO-RAD); レーン4、大腸菌(M15(pREP4)(pMK1209 #3334)IPTGなし) ; レーン5、大腸菌(M15(pREP4)(pMK1209 #3334) 1mM IPTG)。
【発明を実施するための形態】
【0055】
次に示す物質および方法が、以下に記載した実施例において使用された。
【0056】

P. rhodozyma ATCC96594(この株は1998年4月8日に寄託番号74438のブダペスト条約寄託として再寄託された。)
大腸菌DH5α:F-,φ80d,lacZΔM15,Δ(lacZYA-argF)U169,hsd(rK-,mK+),recA1,endA1,deoR,thi-1,supE44,gyrA96,relA1(Toyobo)
大腸菌XL1-Blue MRF':Δ(mcrA)183,Δ(mcrCB-hsdSMR-mrr)173,endA1,supE44,thi-1,recA1,gyrA96,relA1,lac[F'proAB,lacIqZΔM15,Tn10(tetr)](Stratagene)
大腸菌SOLR:e14-(mcrA),Δ(mcrCB-hsdSMR-mrr)171,sbcC,recB,recJ,umuC::Tn5(kanr),uvrC,lac,gyrA96,relA1,thi-1,endA1,λR,[F'proAB,laclqZΔM15]Su-(非抑制性)(Stratagene,CA,USA)
大腸菌XL1 MRA(P2):Δ(mcrA)183,Δ(mcrCB-hsdSMR-mrr)173,endA1,supE44,thi-1,gyrA96,relA1,lac(P2溶原菌)(Stratagene)
大腸菌BL21(DE3)(pLysS):dcm-,ompTrB-mB-lon-λ(DE3),pLysS(Stratagene)
大腸菌M15(pREP4)(QIAGEN)(Zamenhof P.J.ら、J.Bacteriol.110,171-178,1972)
大腸菌KB822:pcnB80,zad::Tn10,Δ(lacU169),hsdR17,endA1,thi-1,supE44
大腸菌TOP10:F-,mcrA,Δ(mrr-hsdRMS-mcrBC),φ80,ΔlacZ M15,ΔlacX74,recA1,deoR,araD139,(ara-leu)7697,galU,galK,rpsL(Strr),endA1,nupG(Invitrogen)
【0057】
ベクター
λZAPII(Stratagene)
λDASHII(Stratagene)
pBluescriptII SK+(Stratagene)
pUC57(MBI Fermentas)
pMOSBlue Tベクター(Amersham)
pET4c(Stratagene)
pQE30(QIAGEN)
pCR2.1TOPO(Invitrogen)
【0058】
培地

P. rhodozyma株はYPD培地(DIFCO)で通常に維持される。大腸菌は、LB培地(1リットルあたり、10gバクトトリプトン、5g酵母抽出物(DIFCO)、5gNaCl)で維持された。NZY培地(1リットルあたり、5gNaCl、2gMgSO4-7H2O、5g酵母抽出物(DIFCO)、10gNZアミンタイプA(Sheffield))の軟寒天培地(0.7%寒天(WAKO))はλファージの増殖に用いる。寒天培地を調製するときは、1.5%の寒天(WAKO)を添加した。
【0059】
方法
分子遺伝学の一般的な方法は、「Molecular cloning: a Laboratory Manual,第二版(Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989年)」に従って行った。制限酵素およびT4DNAリガーゼはTakara Shuzo〔日本〕から購入した。
【0060】
P. rhodozymaからの染色体DNAの単離は、QIAGEN Genomic Kit (QIAGEN)を用い、製造元が提供したプロトコールに従って行った。形質転換した大腸菌からのプラスミドDNAのMini-prepは、自動DNA単離システム(PI-50, Kurabo株式会社、日本)を用いて行った。大腸菌形質転換体からのプラスミドDNAのMidi-prepは、QIAGENカラム(QIAGEN)を用いて行った。λDNAの単離は、Wizard lambda preps DNA精製システム(Promega)を用い、製造元のプロトコールに従って行った。アガロースからのDNA断片の単離と精製はQIAquickまたはQIAEX II (QIAGEN)を用いた。λファージ誘導体の操作は、製造元(Stratagene)のプロトコールに従って行った。
【0061】
P. rhodozymaからの全RNAの単離は、Isogen(Nippon Gene, 日本)を用いたフェノール法によって行った。mRNAは、このようにして得られた全RNAからmRNA分離キット(Clontech)を利用して精製された。cDNAは、CapFinder cDNA construction kit (Clontech)を用いて合成された。
【0062】
インビトロパッケージングは、GigapackIII gold packaging extract (Stratagene)を用いて行った。
【0063】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、Perkin Elmer model 2400のサーマルサイクラーで行った。各々のPCRの条件は実施例に記載されている。PCRプライマーは市販の供給業者から購入、またはDNA合成機(model392, Applied Biosystems)によって合成した。DNA塩基配列決定の蛍光DNAプライマーは、Pharmaciaから購入した。DNA塩基配列決定は、自動蛍光DNAシーケンサー(ALFred, Pharmacia)で行った。
【0064】
コンピテントセルのDH5αは、Toyobo(日本)から購入した。コンピテントセルのM15(pREP4)は、Sambrookら(Molecular Cloning : a Laboratory Manual, 第二版, Cold Spring Harbour Laboratory Press 1989年)により記載されたCaCl2法により調製した。
【実施例】
【0065】
実施例1.P. rhodozymaからのmRNAの単離およびcDNAライブラリーの構築P. rhodozymaからcDNAライブラリーを構築するために、全RNAを、細胞破壊の直後、フェノール抽出法によって分離し、P. rhodozyma ATCC96594株からのmRNAを、mRNA分離キット(Clontech)を用いて精製した。
【0066】
はじめに、YPD培地で2日間培養した10mlからATCC96594株の細胞を、遠心分離(1500xg、10分)で回収し、抽出緩衝液(0.7 M KClを含む10mM クエン酸ナトリウム/ HClでpH 6.2に調製)で1回洗浄した。2.5mlの抽出緩衝液で懸濁させた後、細胞を1500kgf/cm2でFrench press homogenizer(Ohtake Works Corp., 日本)により破壊し、製造元が指定する方法に従って、二倍当量のisogen (Nippon gene)をすぐに混合した。この段階で、400μgの全RNAが回収された。
【0067】
次にこの全RNAを、製造元が指定する方法に従って、mRNA分離キット(Clontech)を用いて精製した。最終的に、P. rhodozyma ATCC96594株から16μgのmRNAを得た。
【0068】
cDNAライブラリーを構築するために、製造元が指定する方法に従って、CapFinder PCR cDNA構築キット(Clontech)を用いた。1μgの精製したmRNAは、最初の鎖の合成、続いてPCR増幅に用いた。このPCR増幅の後、1mgのcDNAプールを得た。
【0069】
実施例2.P. rhodozymaから部分的なhmc(3-ヒドロキシル-3-メチルグルタリル-補酵素A合成酵素)遺伝子のクローニングP. rhodozymaから部分的なhmc遺伝子をクローニングするために、デジェネレートPCR法を採用した。表1に示すように設計され、合成されたヌクレオチド配列を持つ二種類の混合プライマーは、他の種の既知のHMG-補酵素A合成遺伝子の共通配列に基づいている。
【表1】

【0070】
DNAポリメラーゼとしてExTaq (Takara Shuzo)ならびに鋳型として実施例1で得られたcDNAプールを用いた、95℃30秒、50℃30秒、72℃15秒を25サイクルから成るPCR反応の後、反応液をアガロースゲル電気泳動に供した。目的の長さのPCRバンドを回収し、製造元が提供する方法に従って、QIAquick(QIAGEN)により精製し、pMOSBlue T-vector (Amersham)にライゲーションした。コンピテント大腸菌DH5αへの形質転換の後、6個の白色コロニーを選択し、自動DNA単離システムで、プラスミドを単離した。塩基配列決定の結果、1つのクローンは推定アミノ酸配列が、既知のhmc遺伝子と類似していることが判った。この単離cDNAクローンをpHMC211と命名し、その後の試験に用いた。
【0071】
実施例3. P. rhodozymaからゲノムDNAの単離
P. rhodozymaからゲノムDNAを単離するため、QIAGENゲノムキットを、製造元の指示する方法に従って用いた。
【0072】
はじめに、YPD培地100mlの一晩培養液から、P. rhodozyma ATCC96594株の細胞を遠心分離(1500 x g, 10分)によって回収し、TE緩衝液(1mM EDTAを含む10mMTris/ HCl (pH 8.0))で一度洗浄した。QIAGENゲノムキットのY1緩衝液8mlに懸濁した後、酵素分解して細胞を破壊するために、2mg/mlの濃度のリティカーゼ(SIGMA)を加え、反応液は30℃、90分でインキュベートした後、次の抽出の段階に進めた。最終的に20μgのゲノムDNAが得られた。
【0073】
実施例4. プローブとしてpHMC211を用いたサザンブロットハイブリダイゼーション
サザンブロットハイブリダイゼーションを、P. rhodozymaからhmc遺伝子を含むゲノム断片をクローニングするために行った。2μgのゲノムDNAをEcoRIで消化し、アガロースゲル電気泳動にかけ、その後、酸およびアルカリ処理を行った。変性DNAを、トランスブロット(Joto Rika)によりナイロン膜(Hybond N+, Amersham)に1時間転写した。ナイロン膜に転写したDNAを、熱処理(80℃、90分)により固定した。DIGマルチプライミング法(Boehringer Mannheim)によって、鋳型DNA(EcoRIおよびSalIで消化したpHMC211)をラベルすることにより、プローブを調製した。ハイブリダイゼーションは製造元によって指示されている方法で行った。その結果、ハイブリダイズしたバンドは、3.5から4.0キロベース(kb)の範囲で視覚化された。
【0074】
実施例5. hmc遺伝子を含むゲノム断片のクローニング
4μgのゲノムDNAをEcoRIで消化し、アガロースゲル電気泳動を行った。その後、長さが3.0から5.0kbの間のDNAを、製造元が指定する方法に従って、QIAEX IIゲル抽出キット(QIAGEN)で、回収した。精製したDNAを、EcoRIで消化しCIAP(仔ウシ腸アルカリフォスファターゼ)処理した1μgのλZAPII(Stratagene)に16℃で一晩ライゲーションし、GigapackIII gold packaging extract (Stratagene)でパッケージングした。パッケージされた抽出物を、大腸菌XL1Blue MRF'株に感染させ、LB寒天培地上に積層するようにNZY培地を注入した。約6000個のプラークを、EcoRIおよびSalIで消化したpHMC211をプローブとしてスクリーニングした。2つのプラークは、ラベルしたプローブにハイブリダイズし、製造元(Stratagene)が指定する方法に従って、インビボ切り出しプロトコールの実験に用いた。単離したプラスミドは、制限酵素処理解析および塩基配列解析の結果、お互いに反対方向である同じ断片を持っていることが判明した。塩基配列解析の結果、得られたEcoRI断片は、pHMC211クローンと同じヌクレオチド配列を含んでいた。これらのプラスミドの中の1つを、pHMC526と命名し、更なる研究に用いた。完全なヌクレオチド配列は、pHMC526の欠失誘導体の塩基配列解析、およびプライマーウォーキング法による配列解析によって得られた。pHMC526のインサート断片は、10の完全なエキソン、1個の不完全なエキソン、10のイントロンおよび約1kb の3’末端非翻訳領域を持つ3431ヌクレオチドから成る。
【0075】
実施例6. hmc遺伝子の上流域のクローニング
hmc遺伝子の5’近傍領域のクローニングは、pHMC526がhmc遺伝子の5’末端を含まないので、Genome Walker Kit (Clontech)を用いて行われた。最初に、表2で示す配列を持つPCRプライマーを合成した。
【表2】

【0076】
ライブラリー構築およびPCR条件のためのプロトコールは、実施例3で得たゲノムDNA調製物をPCRの鋳型として用いる製造元によって指示されている方法と同じであった。5’末端(0.45kb)のEcoRV部位、および5’末端(2.7kb)のPvuII部位を持つPCR断片を回収し、大腸菌DH5αを宿主菌として用いることにより、pMOSBlue T-vectorへクローニングした。両構築物からの各々5つの独立したクローンの塩基配列解析の結果、hmc遺伝子の5’近傍領域はクローニングされ、3’末端にあるEcoRI断片の小さな部分(0.1kb)が見られることが確認された。上記の実験におけるPvuII構築物によって得られたクローンをpHMCPv708と命名し、その後の研究に用いた。
【0077】
次に、サザンブロット解析を、上記の実施例4で示す方法で行い、3kbのEcoRI断片に存在するhmc遺伝子の5’近傍領域を決定した。λZAPIIの2.5から3.5kbのEcoRIライブラリーの構築後、600個のプラークをスクリーニングし、6個の陽性クローンを選択した。これらの6個のクローンの塩基配列解析の結果、6個の陽性プラーク中4個のクローンが、pHMCPv708と同じ配列を持つことが明らかになり、そのうちの1つを、pHMC723と名付け、更なる解析に用いた。
【0078】
表3に示す配列を持つPCRプライマーを、P. rhodozymaの染色体の3.5kbから3.0kbのEcoRI断片に位置する小さな(0.1kb)EcoRI断片をクローニングするために合成した。
【表3】

【0079】
PCRの条件は、実施例2で示すものと同じであった。増幅した断片(長さ0.1kb)を、pMOSBlue T-vectorへクローニングし、大腸菌DH5αに形質転換した。プラスミドは5個の独立した白色コロニーから調製し、塩基配列解析に用いた。
【0080】
このようにして、hmc遺伝子(配列番号:1)を含むヌクレオチド配列(4.8kb)を決定した。コード領域は、11のエキソンと10のイントロンとから成る2432塩基対の中にあった。イントロンは5’または3’側の偏りが見られず、コード領域全てにわたって分布していた。オープンリーディングフレームは、他の種の既知のHMG-補酵素A合成酵素遺伝子のアミノ酸配列と非常に類似している配列を持つ467個のアミノ酸(配列番号:6)から構成されている(Schizosaccharomyces pombeのHMG-補酵素A合成酵素と49.6%が同一)。
【0081】
実施例7. 大腸菌におけるhmc遺伝子の発現、およびその酵素活性の確認
表4で示す配列を持つPCRプライマーを、hmc遺伝子のcDNA断片をクローニングするために合成した。
【表4】

【0082】
PCRの条件は次のとおりである;95℃30秒、55℃30秒、72℃3分を25サイクル。鋳型として実施例2で得た0.1μgのcDNAプールを用い、DNAポリメラーゼとしてPfuポリメラーゼを用いた。増幅した1.5kb断片を回収し、製造元が指定したプロトコールに従ってperfectly blunt cloning kit (Novagen)を用いてpT7Blue-3ベクター(Novagen)へクローニングした。大腸菌DH5α形質転換体の白色コロニーから、6個の独立したクローンを選択し、これらの形質転換体からプラスミドを回収した。制限酵素解析の結果、2個のクローンを、塩基配列解析による更なる選択のために選んだ。1つのクローンは、280位のアミノ酸置換(グリシンからアラニン)を有しており、別のクローンは53位にアミノ酸置換(アラニンからスレオニン)を有していた。既知のhmc遺伝子由来のアミノ酸配列のアラインメントにより、280番目のアラニン残基およびグリシン残基は、他の種の全ての配列によく見られるものであることが分かり、この事実から280番目の位置のアミノ酸の置換は、酵素活性に影響を及ぼさないと考えられることが示唆された。このクローン(280位の変異)は、その後の発現実験のため、pHMC731として選択された。
【0083】
次に、pHMC731をNdeIおよびBamHIで消化して得た1.5kbの断片を、同じ制限酵素の組合せで消化したpET11c (Stratagene)にライゲーションし、大腸菌DH5αへ導入した。制限酵素解析の結果、正常な構造(pHMC818)を持つプラスミドを回収した。次に、コンピテント大腸菌BL21(DE3) (pLysS)細胞(Stratagene)を形質転換し、正常な構造を持つ1つのクローンを更なる実験のために選択した。
【0084】
発現実験のために、BL21(DE3)(pLysS)(pHMC818)株およびベクター対照株BL21(DE3) (pLysS)(pET11c)を、100μg/mlのアンピシリン存在下で、600nmのODが0.8に達するまで37℃で100mlのLB培地にて培養した(約3時間)。次に、培地は等量になるように2つに分け、その1つに1mMのイソプロピルβ-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)を加えた。培養は37℃でさらに4時間続けた。25μlの培養液を、hmcクローンおよびベクター対照の誘導および非誘導培養液から採取し、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動解析(SDS-PAGE)に供した。ヌクレオチド配列から推定される分子量(50.8 kDa)とほぼ同じサイズのタンパク質は、誘導をかけたpHMC818を持つクローンの場合のみ発現されることを確認した。50ml培地からの細胞を、遠心分離(1500 x g, 10分)で回収し、1回洗浄し2mlのhmc緩衝液(200mM Tris-HCl (pH8.2))に懸濁した。細胞は1500kgf/cm2でFrench press homogenizer (Ohtake Works)で破壊し、粗ライセートを得た。粗ライセートの遠心分離の後、上清のフラクションを回収し、酵素解析のための粗抽出液として用いた。誘導をかけたpHMC818クローンのライセートの場合のみ、白色ペレットが沈殿し、これを回収した。3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-補酵素A(HMG-CoA)合成酵素のための酵素アッセイを、Stewartらによる方法に従って、光学アッセイによって行った(J.Biol.Chem.,241(5),1212-1221,1966)。全ての粗抽出液では、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-補酵素A合成酵素の活性は検出されなかった。粗抽出液のSDS-PAGE解析の結果、発現した培地で見られる発現タンパク質のバンドは消失した。その後、誘導をかけたpHMC818クローンの粗ライセートから回収した白色ペレットを、8M グアニジンHClで可溶化し、SDS-PAGE解析に用いた。発現したタンパク質は白色ペレットの中から回収された。それゆえ、発現したタンパク質は封入体を形成していることが示唆された。
【0085】
次に、より緩和な条件による発現実験を行った。細胞はLB培地で28℃にて培養し、誘導は0.1mMのIPTGを加えて行った。その後さらに28℃で3.5時間培養を続け、細胞を回収した。粗抽出液の調製は以前のプロトコールと同じであった。結果を表5に要約した。HMG-補酵素A合成酵素の活性は、hmc遺伝子を持つ組換え株の誘導をかけた培養液にのみ見られたことから、クローニングしたhmc遺伝子はHMG-補酵素A合成酵素をコードしていることが示唆された。
【表5】

【0086】
実施例8. hmg (3-ヒドロキシメチル-3-グルタリル-補酵素A還元酵素)遺伝子のクローニング
hmg遺伝子のクローニングのプロトコールは実施例2から7で示したhmc遺伝子のものとほとんど同じである。最初、他の種からHMG-補酵素A還元酵素遺伝子の共通配列に基づく、表6で示した配列を持つPCRプライマーを合成した。
【表6】

【0087】
DNAポリメラーゼとしてExTaq (Takara Shuzo)を用いた、95℃30秒、54℃30秒、72℃30秒を25サイクルから成るPCR反応の後、反応液をアガロースゲル電気泳動に用いた。目的の長さのPCRバンドを回収し、製造元が提供する方法に従って、QIAquick(QIAGEN)により精製し、pUC57ベクター (MBI Fermentas)にライゲーションした。コンピテント大腸菌DH5αへの形質転換の後、7個の白色コロニーを選択し、これらの形質転換体からプラスミドを単離した。塩基配列解析の結果、全てのクローンは推定アミノ酸配列が、既知のHMG-補酵素A還元酵素遺伝子と類似していることが判明した。この単離cDNAクローンの1つをpRED1219と名付け、その後の研究に用いた。
【0088】
次に、hmg遺伝子の5’および3’近傍領域を含むゲノム断片を、Genome Walkerkit (Clontech)でクローニングした。hmg遺伝子の5’近傍領域の2.5kb断片(pREDPVu1226)、および3’近傍領域の4.0kb断片(pREDEVd1226)をクローニングした。pREDPVu1226のインサート配列に基づいて、表7で示す配列を持つPCRプライマーを合成した。
【表7】

【0089】
次に、hmg cDNA配列の長い一部を含むcDNA断片を、Red8およびRed9をPCRプライマーとして、および実施例2で調製したcDNAプールを用いたPCR法によりクローニングし、このようにしてクローニングしたプラスミドを、pRED107と名付けた。PCRの反応条件は次のとおりである;94℃30秒、55℃30秒、72℃1分を25サイクル。
【0090】
サザンブロットハイブリダイゼーション実験を、P. rhodozymaから完全なhmg遺伝子を含むゲノム配列をクローニングするために行った。プローブを、DIGマルチプライミング法で鋳型DNAであるpRED107をラベルすることにより調製した。ハイブリダイゼーションは製造元によって指示されている方法で行った。その結果、ラベルしたプローブは、長さが12kbおよび4kbの2つのバンドとハイブリダイズした。pREDPVu1226の塩基配列解析の結果、クローニングしたhmg領域にはEcoRI部位は見られなかった。このことにより、hmg遺伝子の別の種(ハイブリダイズした4kbのEcoRI断片を有する)は、他の生物で見られるようにP. rhodozymaのゲノム上に存在することが示唆された。
【0091】
次に、λDASHIIベクター上に9から23kbのEcoRI断片から成るゲノムライブラリーを構築した。パッケージされた抽出物を、大腸菌XL1Blue、MRA(P2)株(Stratagene)に感染させ、LB寒天培地上に積層するようにNZY培地を播いた。約5000個のプラークを、StuIで消化したpRED107の0.6kb断片をプローブとして用いスクリーニングした。4つのプラークは、ラベルしたプローブにハイブリダイズした。次にファージライセートを調製し、製造元(Promega)が指定する方法に従って、DNAをWizard lambda 精製システムで精製し、EcoRIで消化し10kbのEcoRI断片を単離し、EcoRIで消化およびCIAP処理したpBluescriptII KS- (Stratagene)へクローニングした。11個の白色コロニーを選択し、Red9および-40ユニバーサルプライマー(Pharmacia)を用いたコロニーPCRを行った。コロニーPCRの鋳型DNAは、拾ったコロニーをPCR反応の前に10μlの滅菌水に懸濁させ、その細胞懸濁液を99℃で5分間加熱することにより調製した(PCR反応条件;94℃30秒、55℃30秒、72℃3分を25サイクル)。1つのコロニーから、陽性4kbのPCRバンドが得られた。そして、このクローンはhmg遺伝子を含む完全な領域を持つことが示唆された。この陽性クローンからのプラスミドを調製し、pRED611と名付けた。その後、pRED611の欠失誘導体を、塩基配列解析のために作製した。欠失変異体から得た配列と、プライマーウォーキング法で得た配列とを結合させることにより、P. rhodozymaのhmg遺伝子を含む7285塩基対のヌクレオチド配列を決定した(配列番号:2)。P. rhodozymaのhmg遺伝子は10のエキソンおよび9のイントロンから成る。長さが1092のアミノ酸から成る推定アミノ酸配列(配列番号:7)は、既知のHMG-補酵素A還元酵素と広範な相同性を示した(Ustilago maydisのHMG-補酵素A還元酵素と53.0%の同一性)。
【0092】
実施例9. 大腸菌におけるhmg遺伝子のカルボキシル末端ドメインの発現
原核生物のある種は、可溶性のHMG-補酵素A還元酵素または関連したタンパク質を有する(Lamら、J. Biol. Chem. 267, 5829-5834, 1992)。しかし真核生物では、HMG-補酵素A還元酵素は、アミノ末端膜ドメインによって小胞体に繋がれている(Skalnikら、J. Biol. Chem. 263, 6836-6841, 1988)。菌類(すなわち、Saccharomyces cerevisiaeおよび黒穂病菌のUstilago maydis)および動物では、膜ドメインは大きく複雑で、7または8個の膜貫通セグメントを含む(Croxenら、Microbiol. 140, 2363-2370, 1994)。対照的に植物のHMG-補酵素A還元酵素タンパク質の膜ドメインは、1つのみ、または2つの膜貫通セグメントを持っている(Nelsonら、Plant Mol. Biol. 25, 401-412, 1994)。膜貫通ドメインの構造および配列の違いに関わらず、触媒ドメインのアミノ酸配列は、真核生物、古細菌および真正細菌の間で保存されている。
【0093】
Croxenらはトウモロコシ病原菌のUstilago maydisに由来するHMG-補酵素A還元酵素のC末端ドメインが、大腸菌において活性型で発現することを示した(Microbiology, 140, 2363-2370, 1994)。本発明の発明者らは、酵素活性を確認するために、大腸菌においてP. rhodozymaのHMG-補酵素A還元酵素のC末端ドメインの発現を試みた。
【0094】
最初、表8に示す配列を持つPCRプライマーを合成し、hmg遺伝子の部分cDNA断片をクローニングした。センスプライマー配列は、597番目のアミノ酸残基(グルタミン酸)から始まる配列に相当し、得ることが期待されるタンパク質およびcDNAの長さは、それぞれ496アミノ酸、1.5 kbであった。
【表8】

【0095】
PCRの条件は次のとおりである;95℃30秒、55℃30秒、72℃3分を25サイクル。鋳型として実施例2で得た0.1μgのcDNAプールを用い、DNAポリメラーゼとしてExTaqポリメラーゼを用いた。増幅した1.5kb断片を回収し、pMOSBlue T-vector(Novagen)へクローニングした。大腸菌DH5α形質転換体の白色コロニーから、12個の独立したクローンを選択し、これらの形質転換体からプラスミドを調製した。制限酵素解析の結果、全てのクローンを、塩基配列解析による更なる選択のために選んだ。1つのクローンは、コード配列全てにわたって1つのアミノ酸置換もなく、pRED908と名付けた。
【0096】
次に、pRED908のKpnIおよびPstI消化によって得た1.5 kbの断片を、同じ制限酵素の組合せで消化したpQE30 (QIAGEN)へライゲーションし、大腸菌KB822へ形質転換した。制限酵素解析の結果、正常な構造を持つプラスミド(pRED1002)を回収した。次にコンピテント大腸菌M15(pREP4)細胞(QIAGEN)を形質転換し、正常な構造を持つ1つのクローンをさらなる研究のために選択した。
【0097】
発現実験のために、M15(pREP4)(pRED1002)株およびベクター対照株M15(pREP4)(pQE30)を、25μg/mlのカナマイシンおよび100μg/mlのアンピシリン存在下で、600nmのODが0.8(約5時間)に達するまで30℃で100mlのLB培地で培養した。次に、培地は等量になるように2つに分け、その1つに1mMのIPTGを加えた。培養は30℃でさらに3.5時間続けた。25μlの培養液を、hmgクローンおよびベクター対照の誘導および非誘導培養液から採取し、SDS-PAGE解析を行った。ヌクレオチド配列から推定される分子量(52.4 kDa)とほぼ同じサイズのタンパク質は、誘導をかけたpRED1002を持つクローンの場合のみ発現されることが確認された。50ml培養液からの細胞を、遠心分離(1500 x g, 10分)で回収し、1回洗浄し2mlのhmg緩衝液(1 mMのEDTAおよび10 mMのジチオスレイトールを含む100mM リン酸カリウム緩衝液 (pH7.0))に懸濁した。細胞は1500kgf/cm2でFrench press (Ohtake Works)で破壊し、粗ライセートを得た。粗ライセートの遠心分離の後、上清のフラクションを回収し、酵素解析のための粗抽出液として用いた。誘導をかけたpRED1002クローンのライセートの場合のみ、白色ペレットが沈殿し、これを回収した。3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-補酵素A(HMG-CoA)還元酵素のための酵素アッセイを、Servouseらによる方法に従って、光学アッセイによって行った(Biochem.J.240,541-547,1986)。全ての粗抽出液では、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-補酵素A合成酵素の活性は検出されなかった。粗抽出液のSDS-PAGE解析の結果、発現した培養液で見られた発現タンパク質のバンドは消失した。その後、誘導をかけたpRED1002クローンの粗ライセートから回収した白色ペレットを、等量の20%SDSで可溶化し、SDS-PAGE解析に用いた。発現したタンパク質は白色ペレットの中に回収された。それゆえ、発現したタンパク質は封入体を形成しているものと示唆された。
【0098】
次に、より緩和な条件による発現実験を行った。細胞はLB培地で28℃にて培養し、誘導は0.1mMのIPTGを加えて行った。その後さらに28℃で3.5時間培養を続け、細胞を回収した。粗抽出液の調製は以前のプロトコールと同じである。結果を表9に要約した。30倍以上の誘導が観察されたことから、クローニングしたhmg遺伝子はHMG-補酵素A還元酵素をコードしていることが示唆された。
【表9】

【0099】
実施例10. メバロン酸キナーゼ(mvk)遺伝子のクローニング
mvk遺伝子のクローニングのプロトコールは実施例2から7で示したhmc遺伝子のものとほとんど同じである。最初、他の種からのメバロン酸キナーゼ遺伝子の共通配列に基づく、表10に示した配列を持つPCRプライマーを合成した。
【表10】

【0100】
DNAポリメラーゼとしてExTaqを用いた、95℃30秒、46℃30秒、72℃15秒を25サイクルから成るPCR反応の後、反応液をアガロースゲル電気泳動に供した。部分的なmvk遺伝子を含むことが期待される長さの0.6 kbのPCRバンドを回収し、製造元が提示する方法に従って、QIAquickにより精製し、pMOSBlue T-vectorにライゲーションした。コンピテント大腸菌DH5α細胞への形質転換の後、4個の白色コロニーを選択し、プラスミドを単離した。塩基配列解析の結果、1つのクローンは推定アミノ酸配列が、既知のメバロン酸キナーゼ遺伝子と類似していることが判明した。この単離cDNAクローンをpMK128と命名し、その後の研究に用いた。
【0101】
次に、mvk遺伝子を含む部分的なゲノムクローンを、PCRによってクローニングした。表11に示したpMK128の内部配列に基づいた配列のPCRプライマーを合成した。
【表11】

【0102】
PCRの条件は、94℃30秒、55℃30秒、72℃1分を25サイクルである。増幅した1.4kb断片を回収し、pMOSBlue T-vectorへクローニングした。塩基配列解析の結果、典型的なイントロン構造を有するmvk遺伝子を含むゲノム断片が得られたことを確認した。このゲノムクローンをpMK224と名付けた。
【0103】
サザンブロットハイブリダイゼーション実験を、P. rhodozymaから完全なmvk遺伝子を含むゲノム断片をクローニングするために行った。プローブを、DIGマルチプライミング法で鋳型DNAであるNcoIで消化したpMK224をラベルすることにより調製した。ハイブリダイゼーションは製造元によって指示されている方法で行った。その結果、ラベルしたプローブは、長さが6.5 kbのバンドとハイブリダイズした。次に、5から7kbのEcoRI断片から成るゲノムライブラリーを、λZAPIIベクターに構築した。パッケージされた抽出物は、大腸菌XL1Blue、MRF'株(Stratagene)へ感染させ、LB寒天培地上へNZY培地を積層させた。約5000個のプラークを、NcoIで消化したpMK224の0.8 kb断片をプローブとして用い、スクリーニングした。7つのプラークはラベルしたプローブとハイブリダイズした。次に、ファージライセートを、製造元(Stratagene)によって指示されている方法に従って調製し、インビボの切り出しを、大腸菌XL1 Blue MRF'およびSOLR株を用いて行った。14個の白色コロニーを選択し、これらの選択した形質転換体からプラスミドを単離した。続いて、単離したプラスミドをNcoIで消化し、プラークハイブイリダイゼーションのときと同じプローブによるサザンブロットハイブリダイゼーションに用いた。全てのプラスミドのインサート断片は、プローブとハイブリダイズしたことから、mvk遺伝子を含むゲノム断片はクローニングされたことが示唆された。陽性クローンのうちの1つからプラスミドを調製し、pMK701と名付けた。約3 kbの配列を、プライマーウォーキング法によって決定し、mvk遺伝子の5’末端はpMK701へ含まれていないことが示された。
【0104】
次に、TTGTTGTCGTAGCAGTGGGTGAGAG(配列番号:29)の配列を有するPCRプライマーを合成し、製造元(Clontech)によって指示されている方法に従って、GenomeWalker Kitでmvk遺伝子の5’近傍ゲノム領域をクローニングした。特異的な1.4kbのPCRバンドが増幅され、pMOSBlue T-vectorへクローニングした。選択したDH5αの全ての形質転換体は、期待した長さのインサートを有していた。その後の塩基配列解析から、mvk遺伝子の5’近傍領域をクローニングできたことが示された。そのクローンのうちの1つをpMKEVR715と命名し、更なる研究に用いた。実施例3で調製したゲノムDNAを用いたサザンブロットハイブリダイゼーションの結果、ラベルしたpMKEVR715は、2.7 kbのEcoRIバンドとハイブリダイズした。次に、長さが1.4から3.0 kbのEcoRI断片が、λZAPIIへクローニングしてあるゲノムライブラリーを構築し、pMKEVR715からの1.0 kbのEcoRI断片でスクリーニングした。14個の陽性プラークを、5000個のプラークから選択し、インビボ切り出し法でこれらのプラークからプラスミドを調製した。
【0105】
pMKEVR715の内部配列に由来する、表12に示す配列を持つPCRプライマーを合成し、コロニーPCRで陽性クローンを選択した。
【表12】

【0106】
PCRの条件は次のとおりである;94℃30秒、50℃30秒、72℃15秒を25サイクル。1つのクローンを除く全ての候補から、陽性0.5 kbバンドが生じた。そのクローンの1つを選択しpMK723と名付け、mvk遺伝子の上流域の配列を決定した。pMK723の3’領域の塩基配列解析、およびpMK701の配列との結合の後、mvk遺伝子を含む4.8 kbの断片のゲノム配列を決定した。mvk遺伝子は4つのイントロンおよび5つのエキソンから構成されている(配列番号:3)。アミノ末端の4つのアミノ酸を除く推定アミノ酸配列(配列番号:8)は、既知のメバロン酸キナーゼと広範な相同性を示した(Rattus norvegicusのメバロン酸キナーゼと44.3%が同一)。
【0107】
実施例11. アミノ末端領域の1塩基の導入によるmvk遺伝子の発現
アミノ酸配列は既知のメバロン酸キナーゼと有意な相同性を示すが、mvk遺伝子の適当な開始コドンは見つからなかった。この結果から、クローニングした遺伝子は、メバロン酸キナーゼの偽遺伝子かもしれないと示唆された。この仮説を検証するため、表13で示す配列を持つPCRプライマーを合成し、アミノ末端に適当な開始コドンができるように人工的なヌクレオチドを導入した。
【表13】

【0108】
導入した人工的なアミノ末端配列は次のとおりである;NH2-Met-Arg-Ala-Gln。DNAポリメラーゼとしてExTaqポリメラーゼ (Takara Shuzo)を用いた、95℃30秒、55℃30秒、72℃30秒を25サイクルから成るPCR反応の後、反応液をアガロースゲル電気泳動に供した。目的の1.4 kbのPCRバンドが増幅し、pCR2.1 TOPOベクターへクローニングした。コンピテント大腸菌TOP10細胞の形質転換の後、6個の白色コロニーを選択しプラスミドを単離した。塩基配列解析の結果、1つのクローンはアミノ酸残基の変化を一つしか持たないことが判明した(配列番号:8の81番目のアミノ酸残基におけるAspからGlyへの変化)。このプラスミドをpMK1130 #3334と名付け、更なる研究に用いた。次に、pMK1130 #3334のインサート断片をpQE30へクローニングした。このプラスミドをpMK1209 #3334と名付けた。発現宿主M15 (pREP4)の形質転換の後、発現実験を行った。M15 (pREP4)(pMK1209 #3334)株およびベクター対照株(M15 (pREP4)(pQE30))を、100μg/mlのアンピシリンを含む3mlのLB培地へ植菌した。37℃で3.75時間の培養後、培養液を2つに分けた。1mM IPTGをその1つに添加し、培養を3時間続けた。細胞を遠心分離によって50μlの培養液から回収し、SDS-PAGE解析に用いた。48.5 kDaの期待された分子量を有するタンパク質は、M15 (pREP4)(pMK1209 #3334)の培養液へのIPTGの添加によって誘導されたが、ベクター対照培養液では、誘導されたタンパク質のバンドは観察されなかった(図2)。この結果から、メバロン酸キナーゼタンパク質の活性型は、アミノ末端の1ヌクレオチドの人工的な付加によって発現されることが示唆された。
【0109】
実施例12. メバロン酸ピロリン酸脱炭酸酵素(mpd)遺伝子のクローニング
mpd遺伝子のクローニングプロトコールは、実施例2から7で示すhmc遺伝子のものとほとんど同じである。最初に、他の種のメバロン酸ピロリン酸脱炭酸酵素遺伝子の共通配列に基づく表14で示した配列を有するPCRプライマーを合成した。
【表14】

【0110】
DNAポリメラーゼとしてExTaqを用いた、95℃30秒、50℃30秒、72℃15秒を25サイクルから成るPCR反応の後、反応液をアガロースゲル電気泳動に供した。部分的なmpd遺伝子を含むことが期待される長さの0.9 kbのPCRバンドを回収し、製造元が提示している方法に従って、QIAquickにより精製し、pMOSBlue T-vectorにライゲーションした。コンピテント大腸菌DH5αへの形質転換の後、6個の白色コロニーを選択し、プラスミドを単離した。6個中2個は期待される長さのインサートを持っていた。塩基配列解析の結果、1つのクローンは、推定されるアミノ酸配列が既知のメバロン酸ピロリン酸脱炭酸酵素遺伝子と類似していることが判明した。このcDNAクローンをpMPD129と命名し、その後の研究に用いた。
【0111】
次に、mpd遺伝子を含む部分的なゲノム断片をPCRでクローニングした。部分的なcDNA断片のクローニングの場合と同じPCR条件で、増幅した1.05 kb断片を得て、pMOSBlue T-vectorへクローニングした。塩基配列解析の結果、典型的なイントロン構造を持つmpd遺伝子を含むゲノム断片が得られたことが確認され、このゲノムクローンをpMPD220と名付けた。
【0112】
サザンブロットハイブリダイゼーション実験を、P. rhodozymaから完全なmpd遺伝子を含むゲノム断片をクローニングするために行った。プローブを、DIGマルチプライミング法で鋳型DNAであるKpnIで消化したpMPD220をラベルすることにより調製した。ハイブリダイゼーションは製造元によって指定された方法で行った。その結果、ラベルしたプローブは、長さが7.5 kbのバンドとハイブリダイズした。次に、6.5から9.0 kbのEcoRI断片から成るゲノムライブラリーを、λZAPIIベクターに構築した。パッケージされた抽出物は、大腸菌XL1Blue、MRF'株(Stratagene)へ感染させ、LB寒天培地上へNZY培地を積層させた。約6000個のプラークを、KpnIで消化したpMPD220の0.6 kb断片をプローブとして用い、スクリーニングした。4つのプラークはラベルしたプローブとハイブリダイズした。次に、ファージライセートを、製造元(Stratagene)によって指定された方法に従って調製し、インビボの切り出しを、大腸菌XL1 Blue MRF'およびSOLR株を用いて行った。4個の陽性プラークに由来するそれぞれの3個の白色コロニーを選択し、プラスミドをこれらの選択した形質転換体から単離した。次に、単離したプラスミドを実施例8と同様なプロトコールであるコロニーPCR法に供した。pMPD129で見られる配列をもとに表14に示す配列を持つPCRプライマーを合成し、コロニーPCRに用いた。
【表15】

【0113】
PCR条件はmvk遺伝子のクローニングのときとほとんど同じであった;94℃30秒、50℃30秒、72℃10秒を25サイクル。1つを除く全てのクローンは陽性の0.2 kbPCRバンドを生成した。プラスミドを陽性クローンの1つから調製し、該プラスミドをpMPD701と名付け、その約3kbの配列を、プライマーウォーキング法で決定した(配列番号:4)。既知のメバロン酸ピロリン酸脱炭酸酵素の配列と類似した402アミノ酸配列(配列番号:9)からなるORFが存在した(Schizosaccaromycespombeのメバロン酸ピロリン酸脱炭酸酵素と、52.3%が同一)。プロモーター配列を含むと考えられる5’近傍領域の0.4 kbも決定された。
【0114】
実施例13. ファルネシルピロリン酸合成酵素(fps)遺伝子のクローニング
fpg遺伝子のクローニングのプロトコールは、実施例2から7で示すhmc遺伝の場合とほとんど同じであった。最初に、他の種のファルネシルピロリン酸合成酵素遺伝子の共通配列に基づいた表16で示す配列を有するPCRプライマーを合成した。
【表16】

【0115】
DNAポリメラーゼとしてExTaqを用いた、95℃30秒、54℃30秒、72℃30秒を25サイクルから成るPCR反応の後、反応液をアガロースゲル電気泳動に供した。望ましい長さ(0.5kb)のPCRバンドを回収し、製造元が提供する方法に従って、QIAquickにより精製し、pUC57ベクターにライゲーションした。コンピテント大腸菌DH5αの形質転換の後、6個の白色コロニーを選択し、プラスミドを単離した。望ましい長さのインサート断片を持つプラスミドの1つを、塩基配列解析した。その結果、このクローンは、推定アミノ酸配列が、既知のファルネシルピロリン酸合成酵素遺伝子と類似した配列を持つことが判明した。このcDNAクローンをpFPS107と名付
け、その後の研究に用いた。
【0116】
次に、Fps1およびFps2の同一プライマーセットを用いて、ゲノム断片をPCRによりクローニングした。部分的なcDNAのクローニングの場合と同じPCR条件を用いた。生成した1.0 kbのバンドをクローニングし、塩基配列解析を行った。このクローンはpFPS107と同じ配列およびいくつかの典型的なイントロン断片を含んでいた。このプラスミドをpFPS113と名付け、更なる試験に用いた。
【0117】
その次に、実施例8で記載した方法でfps遺伝子を含む5’および3’近傍領域をクローニングした。最初、表17で示す配列を持つPCRプライマーを合成した。
【表17】

【0118】
増幅したPCRバンドを単離し、pMOSBlue T-vectorへクローニングした。塩基配列解析の結果、2.5 kbの長さの5’近傍領域、および2.0 kbの長さの3’近傍領域がクローニングされたことが判明した。これらのプラスミドをpFPSSTu117およびpFPSSTd117と、それぞれ名付けた。両方のプラスミドの塩基配列解析の結果、ORFは8つのイントロンを持つ1068塩基対から構成されていることが判明した。推定アミノ酸配列は、他の種に由来する既知のファルネシルピロリン酸合成酵素と広範な相同性を示した。決定した塩基配列を基に、表17に示す配列の2つのPCRプライマーを合成し、ゲノムfpsクローンおよび大腸菌におけるfps遺伝子の発現のためのcDNAクローンをクローニングした。
【表18】

【0119】
PCRの条件は次のとおりである;94℃30秒、50℃30秒、72℃30秒を25サイクル。PCRによって得たクローンの塩基配列解析の結果、正確な配列を有する1つのcDNAクローンを選択し、pFPS113と名付けた。次に、サザンブロットハイブリダイゼーション実験を行い、P. rhodozymaから完全なfps遺伝子を含むゲノム断片をクローニングした。プローブを、鋳型DNAのpFPS113をDIGマルチプライミング法でラベルして調製した。その結果、ラベルしたプローブは長さが約10 kbのバンドとハイブリダイズした。
【0120】
次に、9から15kbのEcoRI断片から成るゲノムライブラリーを、λDASHIIベクターに構築した。パッケージされた抽出物を大腸菌XL1 Blue, MRA(P2)株(Stratagene)へ感染させLB寒天培地上へNZY培地を積層させた。約10000個のプラークを、SacIで消化したpFPS113の0.6 kb断片をプローブとして用い、スクリーニングした。8つのプラークはラベルしたプローブとハイブリダイズした。次にファージライセートを製造元(Promega)によって指定された方法に従って調製した。全てのプラークをFps27プライマーおよびFps28プライマーを用いたプラークPCRに用いた。プラークPCRのための鋳型DNAを、PCR反応前にファージ粒子溶液の2μlを99℃で5分加熱して調製した。PCR条件は、本明細書に前記したpFPS113クローニングの場合と同じである。全てのプラークから2 kbの陽性PCRバンドが得られ、このことからこれらのクローンは、fps遺伝子を含む完全な領域を持つことが示唆された。fps遺伝子を持つλDNAのうちの1つを、EcoRIで消化し、10 kbのEcoRI断片を単離し、EcoRIで消化しCIAP処理したpBluescriptII KS- (Stratagene)へクローニングした。形質転換した大腸菌DH5αからの12個の白色コロニーを選択し、これらのクローンからプラスミドを調製し、Fps27およびFps28の同一プライマーセットを用いて、および同一PCR条件で、コロニーPCRを行った。2 kbの陽性バンドを12の候補から3つ得た。1つのクローンをクローニングし、pFPS603と名付けた。pFPSSTu117およびpFPSStd117の配列から以前決定したfps遺伝子の配列は、いくつかのPCRエラーはあるが、ほとんど正確であった。最終的に、P. rhodozymaからのfps遺伝子を含む4092塩基対のヌクレオチド配列を決定し(図3)、8つのイントロンを持つ365のアミノ酸から成るORFが見つかった(配列番号:5)。推定されるアミノ酸配列(配列番号:10)は、既知のFPP合成酵素と広範な相同性を示した(Kluyveromyces lactisのFPP合成酵素と65%同一)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メバロン酸経路、またはイソペンテニルピロリン酸からファルネシルピロリン酸への反応経路に関連する酵素をコードする単離DNA配列であって、
3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリル-補酵素A合成活性を有する酵素をコードし、
a)配列番号:1による核酸配列、又は
b)1つ以上のヌクレオチドの付加、挿入、欠失、および/または置換を有し、前記酵素活性を有するポリペプチドをコードする、配列番号:1に記載のDNA配列の誘導体である、
単離DNA配列。

【請求項2】
以下の点を特徴とする、請求項1記載の単離DNA配列:該DNA配列が、配列番号:6に記載の配列を有するアミノ酸配列を持つ前記酵素をコードする。
【請求項3】
Phaffia rhodozymaの遺伝子に由来する、請求項1又は2記載の単離DNA配列。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項記載のDNA配列を含むベクターまたはプラスミド。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項記載のDNA配列、または請求項4記載のベクターもしくはプラスミドによって形質転換またはトランスフェクションされた宿主細胞。
【請求項6】
メバロン酸経路に関連する酵素を製造する方法であって、該酵素が産生されるような条件下で、請求項5記載の宿主細胞を培養することを含む方法。
【請求項7】
適当な培養条件で請求項5記載の宿主細胞を培養することを含む、イソプレノイドまたはカロテノイド、好ましくはアスタキサンチンの製造法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−104378(P2010−104378A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7277(P2010−7277)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【分割の表示】特願平11−126015の分割
【原出願日】平成11年5月6日(1999.5.6)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】