説明

向上した力学的特性を有する熱可塑性ポリカーボネート組成物、これから作製される物品および製造方法

ポリカーボネート樹脂、鉱物充填材および酸または酸塩、ならびに場合により芳香族ビニルコポリマーおよび/または耐衝撃性改良剤を含む熱可塑性組成物が、酸または酸塩を含まない充填された熱可塑性組成物よりも向上した特徴および少ない分解を示すことが見出された。一部の実施形態において、本組成物は、向上した衝撃強度および延性、ならびに分子量の保持を示す。物品は、かかる組成物を成形、押出し、シェーピング、またはフォーミングして物品を形成することによって形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリカーボネートを含む熱可塑性組成物、および特に向上した力学的特性を有する充填された熱可塑性ポリカーボネート組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートは、自動車部品から電子機器に至る広い範囲の用途のための物品および構成要素の製造において有用である。これらは、特に自動車用途などの金属代替用途において広く使用されるので、優れた延性および流動性を維持しつつ高い剛性、低い熱膨張率を必要とする。
【0003】
ポリカーボネートの剛性を高める1つの知られている方法は、タルクやマイカなどの鉱物充填材を添加するものである。鉱物を充填したポリカーボネート組成物およびポリカーボネート組成物のブレンドの1つの問題は、鉱物を充填された、具体的にはタルクおよび/またはマイカを充填されたポリカーボネートもしくはポリカーボネートブレンドは、加工の際に分解することである。本明細書において使用する「分解する」およびポリカーボネートまたはポリカーボネートブレンドの「分解」という用語は、当業者には知られており、一般に分子量の低下および/または力学的もしくは物理的特性の悪化のことを指す。
【特許文献1】米国特許第5608027号
【特許文献2】米国特許第2465319号
【特許文献3】米国特許第3047539号
【特許文献4】米国特許第4746701号
【特許文献5】米国特許第4154775号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
充填ポリマー材料を用いて遭遇する分解の量を低減または抑制すること、ならびに充填されていないポリカーボネートおよびポリカーボネートブレンドと類似の向上した力学的特性を有する充填材料を提供することの必要性が依然としてある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
熱可塑性組成物は、ポリカーボネート樹脂、鉱物充填材、および酸または酸塩を含み、酸または酸塩は組成物中に少なくとも0.0035:1の酸対充填材の重量比で存在する。本発明の熱可塑性組成物は向上した力学的特性を有する。
【0006】
別の実施形態においては、熱可塑性組成物は、ポリカーボネート樹脂、耐衝撃性改良剤、鉱物充填材、および酸または酸塩、ならびに場合により芳香族ビニルコポリマーを含み、酸または酸塩は組成物中に少なくとも0.0035:1の酸対充填材の重量比で存在する。この組成物は、向上した力学的特性を有する。
【0007】
代替の一実施形態においては、熱可塑性組成物は、ポリカーボネート樹脂、耐衝撃性改良剤、鉱物充填材、および酸または酸塩、ならびに芳香族ビニルコポリマーを含み、酸または酸塩は組成物中に少なくとも0.0035:1の酸対充填材の重量比で存在する。
【0008】
物品は、かかる組成物を成形、押出し、シェーピングまたはフォーミングして物品を形成することによって形成することができる。
【0009】
物品を形成する1つの方法は、組成物を成形、押出し、シェーピングまたはフォーミングして物品を形成する段階を含む。
【0010】
上記の特徴およびその他の特徴は、以下の詳細な説明によって例証される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
ポリカーボネート樹脂、鉱物充填材、および酸または酸塩、ならびに場合により芳香族ビニルコポリマーおよび/または耐衝撃性改良剤を含み、酸または酸塩は組成物中に少なくとも0.0035:1の酸対充填材の重量比で存在する熱可塑性組成物は、酸または酸塩を有しない充填された熱可塑性組成物よりも向上した力学的特性および他の特徴ならびにより少ない分解を示すことが見出されている。一部の実施形態においては、この組成物は向上した耐衝撃性および延性ならびに分子量の保持を示す。本明細書において使用する「分子量の保持」は、ある種の加工を行った後で測定されたポリカーボネートの分子量が、加工する前のポリカーボネートの分子量と同様または顕著には違わないことを意味する。加工には、例えば、配合、成形、押出し、および当業者には知られている他の種類の加工が含まれる。
【0012】
望ましくない成分をクエンチング、非活性化または不活性化する目的のためにおよびポリカーボネートまたはポリカーボネートブレンドを安定化させるために、ポリカーボネートおよびポリカーボネートブレンドに酸または酸塩を非常に少量で添加することは、当技術分野において知られている。酸の添加は、しばしばエステル交換触媒、ポリカーボネート合成即ち縮合触媒を不活性化する。望ましくない成分を不活性化または非活性化するために、亜リン酸含有酸と亜リン酸含有酸のエステルの組合せを含む組成物を使用することも知られている。例えば、参照により本明細書に組み入れるCrosbyらの米国特許第5608027号を参照されたい。酸、酸塩および酸のエステルは、クエンチまたは非活性化のためには非常に低いレベルで使用されるが、もっと高いレベルで使用する場合にはポリカーボネートの分解が起こることが知られている。
【0013】
本明細書において使用する「ポリカーボネート」および「ポリカーボネート樹脂」は、式(1)の反復構造カーボネート単位を有する組成物を意味し、
【0014】
【化1】

【0015】
この中のR1基全数の少なくとも約60パーセントは芳香族有機基であり、その残りは脂肪族、脂環式、または芳香族基である。一実施形態においては、それぞれのR1は、芳香族有機基、例えば式(2)の基であり、
-A1-Y1-A2- (2)
式中のA1およびA2のそれぞれは、単環式二価アリール基であり、Y1は、A1とA2を隔てる1つまたは2つの原子を有する架橋基である。例となる一実施形態においては、1つの原子がA1をA2から分離する。この種の基を例示する非限定的な例は、-O-、-S-、-S(O)-、-S(O2)-、-C(O)-、メチレン、シクロヘキシルメチレン、2-[2.2.1]-ビシクロヘプチリデン、エチリデン、イソプロピリデン、ネオペンチリデン、シクロヘキシリデン、シクロペンタデシリデン、シクロドデシリデン、およびアダマンチリデンである。架橋基Y1は、炭化水素基または飽和炭化水素基例えばメチレン、シクロヘキシリデン、またはイソプロピリデンでよい。
【0016】
ポリカーボネートは、式HO-R1-OHを有するジヒドロキシ化合物の界面反応によって生成され、このジヒドロキシ化合物には式(3)のジヒドロキシ化合物が含まれ、
HO-A1-Y1-A2-OH (3)
式中、Y1、A1およびA2は、上記の通りである。また、一般式(4)のビスフェノール化合物も含まれ、
【0017】
【化2】

【0018】
式中、RaおよびRbは、それぞれハロゲン原子または一価の炭化水素基を表し、同じであっても異なってもよく;pおよびqは、それぞれ独立に0〜4の整数であり;X6は、式(5)の基の1つを表し、
【0019】
【化3】

【0020】
式中、RcおよびRdは、それぞれ独立に水素原子または一価の直鎖もしくは環状炭化水素基を表し、Reは、二価の炭化水素基である。
【0021】
適当なジヒドロキシ化合物を例示する非限定的な例には以下のものが含まれる: レゾルシノール、4-ブロモレゾルシノール、ヒドロキノン、4,4'-ジヒドロキシビフェニル、1,6-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-ナフチルメタン、1,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-(3-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-ブロモフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)イソブテン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロドデカン、トランス-2,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-ブテン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)アダマンチン、α,α'-ビス(4-ヒドロキシフェニル)トルエン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)アセトニトリル、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-エチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-n-プロピル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-イソプロピル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-sec-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-アリル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,1-ジクロロ-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エチレン、1,1-ジブロモ-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エチレン、1,1-ジクロロ-2,2-ビス(5-フェノキシ-4-ヒドロキシフェニル)エチレン、4,4'-ジヒドロキシベンゾフェノン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-ブタノン、1,6-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,6-ヘキサンジオン、エチレングリコールビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フッ素、2,7-ジヒドロキシピレン、6,6'-ジヒドロキシ-3,3,3',3'-テトラメチルスピロ(ビス)インダン(「スピロビインダンビスフェノール」)、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フタリド、2,6-ジヒドロキシジベンゾ-p-ジオキシン、2,6-ジヒドロキシチアンスレン、2,7-ジヒドロキシフェノキサチン、2,7-ジヒドロキシ-9,10-ジメチルフェナジン、3,6-ジヒドロキシジベンゾフラン、3,6-ジヒドロキシジベンゾチオフェン、および2,7-ジヒドロキシカルバゾール、ならびに類似のもの、加えて前述のジヒドロキシ化合物の少なくとも1つを含む組合せ。
【0022】
式(3)によって表すことができるビスフェノール型化合物の具体例には、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(本明細書においては以後「ビスフェノールA」または「BPA」)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-1-メチルフェニル)プロパン、および1,1-ビス(4-ヒドロキシ-t-ブチルフェニル)プロパンが含まれる。前述のジヒドロキシ化合物の少なくとも1つを含む組合せも使用することができる。
【0023】
分岐ポリカーボネートも、直鎖ポリカーボネートと分岐ポリカーボネートのブレンドと同じく有用である。分岐ポリカーボネートは、重合中に分岐剤を添加することによって調製することができる。これらの分岐剤には、ヒドロキシ、カルボキシル、カルボン酸無水物、ハロホルミル、および前述の官能基の混合物から選択される少なくとも3つの官能基を有する多官能性有機化合物が含まれる。具体例には、トリメリット酸、無水トリメリット酸、トリメリット酸三塩化物、トリス-p-ヒドロキシフェニルエタン、イサチンビスフェノール、トリスフェノールTC(1,3,5-トリス((p-ヒドロキシフェニル)イソプロピル)ベンゼン)、トリスフェノールPA(4(4(1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)エチル)α,α-ジメチルベンジル)フェノール)、4-クロロホルミルフタル酸無水物、トリメシン酸、およびベンゾフェノンテトラカルボン酸が含まれる。分岐剤は、約0.05重量%〜約2.0重量%のレベルで添加することができる。あらゆる種類のポリカーボネート末端基は、かかる末端基が熱可塑性組成物の所望の特性に顕著に影響しなければ、ポリカーボネート組成物中において有用であると考えられる。
【0024】
本明細書において使用する「ポリカーボネート」および「ポリカーボネート樹脂」はさらに、ポリカーボネートの、カーボネート鎖単位を含む他のコポリマーとのブレンドをも含む。具体的な適当なコポリマーは、コポリエステルポリカーボネートとしても知られているポリエステルカーボネートである。かかるコポリマーには、式(1)のカーボネート鎖反復単位に加えて、さらに式(6)の反復単位を含み、
【0025】
【化4】

【0026】
式中、Dは、ジヒドロキシ化合物から誘導される二価の基であり、例えばC2〜10アルキレン基、C6〜20脂環式基、C6〜20芳香族基またはアルキレン基が2〜約6個、詳細には2、3もしくは4個の炭素原子を含むポリオキシアルキレン基でよく;Tは、ジカルボン酸から誘導される二価の基であり、例えばC2〜10アルキレン基、C6〜20脂環式基、C6〜20アルキル芳香族基、またはC6〜20芳香族基でよい。
【0027】
一実施形態においては、Dは、C2〜6アルキレン基である。他の一実施形態においては、Dは、式(7)の芳香族ジヒドロキシ化合物から誘導され、
【0028】
【化5】

【0029】
式中、それぞれのRfは、独立に水素原子、C1〜10炭化水素基、またはC1〜10ハロゲン置換炭化水素基であり、nは、0〜4である。ハロゲンは、通常臭素である。式(7)で表すことができる化合物の例には、レゾルシノール、置換レゾルシノール化合物例えば5-メチルレゾルシノール、5-エチルレゾルシノール、5-プロピルレゾルシノール、5-ブチルレゾルシノール、5-t-ブチルレゾルシノール、5-フェニルレゾルシノール、5-クミルレゾルシノール、2,4,5,6-テトラフルオロレゾルシノール、2,4,5,6-テトラブロモレゾルシノール、または類似のもの;カテコール;ヒドロキノン、置換ヒドロキノン例えば2-メチルヒドロキノン、2-エチルヒドロキノン、2-プロピルヒドロキノン、2-ブチルヒドロキノン2-t-ブチルヒドロキノン、2-フェニルヒドロキノン、2-クミルヒドロキノン、2,3,5,6-テトラメチルヒドロキノン、2,3,5,6-テトラ-t-ブチルヒドロキノン、2,3,5,6-テトラフルオロヒドロキノン、2,3,5,6-テトラブロモヒドロキノン、または類似のもの;あるいは前述の化合物の少なくとも1つを含む組合せが含まれる。
【0030】
ポリエステルを調製するために使用することができる芳香族ジカルボン酸の例には、イソフタル酸またはテレフタル酸、1,2-ジ(p-カルボキシフェニル)エタン、4,4'-ジカルボキシジフェニルエーテル、4,4'-ビス安息香酸、および前述の酸の少なくとも1つを含む混合物が含まれる。縮合環を含む酸、例えば1,4-、1,5-、または2,6-ナフタレンジカルボン酸も存在することができる。具体的なジカルボン酸は、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、またはこれらの混合物である。1つの具体的なジカルボン酸は、イソフタル酸とテレフタル酸の混合物であり、テレフタル酸とイソフタル酸の重量比は、約10:1〜約0.2:9.8である。他の特定の一実施形態においては、Dは、C2〜6アルキレン基であり、Tは、p-フェニレン、m-フェニレン、ナフタレン、二価の脂環式基、またはこれらの混合物である。この種のポリエステルには、ポリ(アルキレンテレフタレート)が含まれる。
【0031】
特定の一実施形態においては、ポリカーボネートは、A1およびA2それぞれがp-フェニレンであり、Y1がイソプロピリデンであるビスフェノールAから誘導される直鎖のホモポリマーである。
【0032】
適当なポリカーボネートは、界面重合および溶融重合などのプロセスによって製造することができる。界面重合のための反応条件はさまざまでありうるが、典型的なプロセスは、一般に二価フェノール反応物を苛性ソーダまたは苛性カリ水溶液に溶解または分散させること、得られた混合物を適当な水混和性の溶媒媒体に加えること、および反応物をトリエチルアミンまたは相間移動触媒などの適当な触媒の存在下、例えば約8〜約10に制御されたpH条件で、カーボネート前駆体と接触させることを含む。最も一般に使用される水混和性溶媒には、メチレンクロリド、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、トルエンなどが含まれる。適当なカーボネート前駆体には、例えば、ハロゲン化カルボニル、例えば臭化カルボニル、または塩化カルボニル、またはハロホルメート、例えば二価フェノールのビスハロホルメート(例えば、ビスフェノールA、ヒドロキノン、または類似のもののビスクロロホルメート)もしくはグリコールのハロホルメート(例えば、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、または類似のもののビスハロホルメート)が含まれる。前述の種類のカーボネート前駆体の少なくとも1つを含む組合せも使用することができる。
【0033】
使用することができる相間移動触媒は、とりわけ式(R3)4Q+Xの触媒であり、式中のそれぞれのR3は同じまたは異なってC1〜10アルキル基であり;Qは窒素またはリン原子であり;Xはハロゲン原子またはC1〜8アルコキシ基またはC6〜188アリールオキシ基である。適当な相間移動触媒には、例えば、[CH3(CH2)3]4NX、[CH3(CH2)3]4PX、[CH3(CH2)5]4NX、[CH3(CH2)6]4NX、[CH3(CH2)4]4NX、CH3[CH3(CH2)3]NX、およびCH3[CH3(CH2)2]3NXが含まれ、式中のXはCl-、Br-、C1〜8アルコキシ基またはC6〜188アリールオキシ基である。相間移動触媒の有効量は、ホスゲン化混合物中のビスフェノール重量に対して約0.1〜約10重量%であればよい。他の一実施形態においては、相間移動触媒の有効量は、ホスゲン化混合物中のビスフェノール重量に対して約0.5〜約2重量%であればよい。
【0034】
あるいは、ポリカーボネートを製造するためには溶融法を使用してもよい。一般に、溶融重合法においては、ポリカーボネートは、ジヒドロキシ反応物およびジアリールカーボネートエステル、例えばジフェニルカーボネートを、溶融状態においてエステル交換触媒の存在下で、均一な分散体を形成させるための、二軸スクリュー押出機、Banbury(登録商標)ミキサー、または類似のものの中で、共反応させることによって調製することができる。揮発性の一価フェノールは、溶融反応物質から蒸留によって除去され、ポリマーは、溶融残留物として単離される。
【0035】
ポリカーボネート樹脂は、界面重合によって調製することもできる。ジカルボン酸自体を使用するよりもむしろ、酸の反応性誘導体、例えば対応する酸ハライド、特に酸ジクロリドおよび酸ジブロマイドを使用することが可能であり、ときには好ましくさえある。したがって、例えばイソフタル酸、テレフタル酸、またはこれらの混合物を使用する代わりにイソフタロイルジクロリド、テレフタロイルジクロリド、およびこれらの混合物を使用することができる。
【0036】
上記のポリカーボネートに加えて、ポリカーボネートと他の熱可塑性ポリマーとの組合せ、例えばポリカーボネートおよび/またはポリカーボネートコポリマーとポリエステルとの組合せを使用することも可能である。本明細書において使用する「組合せ」は、すべての混合物、ブレンド、アロイなどを包含するものである。適当なポリエステルは、式(6)の反復単位を含み、例えばポリ(アルキレンジカルボキシレート)、液晶ポリエステル、およびポリエステルコポリマーでよい。また分岐剤、例えば3つ以上のヒドロキシル基を有するグリコールまたは三官能性もしくは多官能性カルボン酸が組み込まれた分岐ポリエステルを使用することも可能である。さらに、組成物の最終用途に応じて、さまざまな濃度の酸およびヒドロキシル末端基をポリエステル上に有することが望ましいことがある。
【0037】
一実施形態においては、ポリ(アルキレンテレフタレート)が使用される。適当なポリ(アルキレンテレフタレート)の具体的な例は、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリ(1,4-ブチレンテレフタレート)(PBT)、ポリ(エチレンナフタレート)(PEN)、ポリ(ブチレンナフタレート)(PBN)、(ポリプロピレンテレフタレート)(PPT)、ポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレート(PCT)、および前述のポリエステルの少なくとも1つを含む組合せである。脂肪族二塩基酸および/または脂肪族ポリオールから誘導された単位の少量、例えば約0.5〜約10重量パーセントを有する上記ポリエステルも、コポリエステルを生成するために熟慮されている。
【0038】
複数のポリカーボネートのブレンドおよび/または混合物も使用することができる。例えば、高流動性および低流動性のポリカーボネートを一緒にブレンドすることができる。
【0039】
熱可塑性組成物は、その耐衝撃性を増大させるために1つまたは複数の耐衝撃性改良剤組成物を場合によりさらに含む。これらの耐衝撃性改良剤は、(i)約10℃未満、より詳しくは約-10℃未満、より詳しくは約-40℃〜-80℃のTgを有するエラストマー状(即ちゴム状)ポリマー基材、および(ii)エラストマー状ポリマー基材にグラフトされた剛性ポリマー外層を含むエラストマー変性グラフトコポリマーを含むことができる。知られているように、エラストマー変性グラフトコポリマーは、まずエラストマー状ポリマーを準備すること、次いで剛性相の構成モノマーをエラストマーの存在下で重合させてグラフトコポリマーを得ることによって調製することができる。グラフトは、グラフト分岐として取り付けられてもエラストマーコアに対するシェルとして取り付けられてもよい。シェルは単に物理的にコアを包み込むだけでもよく、部分的にまたは本質的に完全にコアにグラフトしてもよい。
【0040】
エラストマー相としての使用に適当な材料には、例えば、共役ジエンゴム;共役ジエンと約50重量%未満の共重合性モノマーとのコポリマー;エチレンプロピレンコポリマー(EPR)またはエチレン-プロピレン-ジエンモノマーゴム(EPDM)などのオレフィンゴム;エチレン-酢酸ビニルゴム;シリコーンゴム;エラストマー状C1〜8アルキルアクリレート(メタクリレート);C1〜8アルキルアクリレート(メタクリレート)とブタジエンおよび/またはスチレンとのエラストマー状コポリマー;あるいは前述のエラストマーの少なくとも1つを含む組合せなどがある。
【0041】
エラストマー相の調製のための適当な共役ジエンモノマーは、式(8)のものであり、
【0042】
【化6】

【0043】
式中、それぞれのXbは、独立に水素、C1〜C5アルキル、または類似のものである。使用することができる共役ジエンモノマーの例は、ブタジエン、イソプレン、1,3-ヘプタジエン、メチル-1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-エチル-1,3-ペンタジエン、1,3-および2,4-ヘキサジエンなど、ならびに前述のジエンモノマーの少なくとも1つを含む混合物である。特に共役ジエンホモポリマーには、ポリブタジエンおよびポリイソプレンが含まれる。
【0044】
共役ジエンゴムのコポリマー、例えば共役ジエンおよびこれと共重合可能な1つまたは複数のモノマーの水性エマルジョンラジカル重合によって製造されるものも使用することができる。共役ジエンとの共重合に適当なモノマーには、縮合芳香族環構造を含むモノビニル芳香族モノマー、例えばビニルナフタレン、ビニルアントラセンなど、または式(9)のモノマーが含まれ、
【0045】
【化7】

【0046】
式中、それぞれのXcは、独立に水素、C1〜C12アルキル、C3〜C12シクロアルキル、C6〜C12アリール、C7〜C12アラルキル、C7〜C12アルコキシ、C3〜C12シクロアルコキシ、C6〜C12アリールオキシ、クロロ、ブロモ、またはヒドロキシであり、Rは、水素、C1〜C5アルキル、ブロモ、またはクロロである。使用することができる適当なモノビニル芳香族モノマーの例には、スチレン、3-メチルスチレン、3,5-ジエチルスチレン、4-n-プロピルスチレン、α-メチルスチレン、α-メチルビニルトルエン、α-クロロスチレン、α-ブロモスチレン、ジクロロスチレン、ジブロモスチレン、テトラ-クロロスチレンなど、および前述の化合物の少なくとも1つを含む組合せが含まれる。スチレンおよび/またはα-メチルスチレンは、共役ジエンモノマーと共重合可能なモノマーとして使用することができる。
【0047】
共役ジエンと共重合させることが可能な他のモノマーは、モノビニル系モノマー例えばイタコン酸、アクリルアミド、N-置換アクリルアミドまたはメタクリルアミド、無水マレイン酸、マレイミド、N-アルキル-、アリール、またはハロアリール置換マレイミド、グリシジルアクリレート(メタクリレート)、および一般式(10)のモノマーであり、
【0048】
【化8】

【0049】
式中、Rは、水素、C1〜C5アルキル、ブロモ、またはクロロであり、Xdは、シアノ、C1〜C12アルコキシカルボニル、C1〜C12アリールオキシカルボニル、ヒドロキシカルボニル、または類似のものである。式(10)のモノマーの例には、アクリロニトリル、エタクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、β-クロロアクリロニトリル、α-ブロモアクリロニトリル、アクリル酸、メチルアクリレート(メタクリレート)、エチルアクリレート(メタクリレート)、n-ブチルアクリレート(メタクリレート)、t-ブチルアクリレート(メタクリレート)、n-プロピルアクリレート(メタクリレート)、イソプロピルアクリレート(メタクリレート)、2-エチルヘキシルアクリレート(メタクリレート)など、および前述のモノマーの少なくとも1つを含む組合せが含まれる。n-ブチルアクリレート、エチルアクリレート、および2-エチルヘキシルアクリレートなどのモノマーが、共役ジエンモノマーと共重合可能なモノマーとして一般に使用される。前述のモノビニルモノマーおよびモノビニル芳香族モノマーの混合物も使用することができる。
【0050】
エラストマー相としての使用に適する適当なアクリレート(メタクリレート)モノマーは、C1〜8アルキルアクリレート(メタクリレート)、特にC4〜C6アルキルアクリレート、例えばn-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレートなど、および前述のモノマーの少なくとも1つを含む組合せの架橋された微粒子状エマルジョンホモポリマーまたはコポリマーでよい。C1〜8アルキルアクリレート(メタクリレート)モノマーは、場合によっては15重量%までの式(8)、(9)、または(10)のコモノマーとの混合物中で重合させることができる。例示的なコモノマーには、ブタジエン、イソプレン、スチレン、メチルメタクリレート、フェニルメタクリレート、フェネチルメタクリレート、N-シクロヘキシルアクリルアミド、ビニルメチルエーテルまたはアクリロニトリル、および前述のコモノマーの少なくとも1つを含む混合物が含まれるが、これらだけには限定されない。5重量%までの多官能性架橋コモノマー、例えばジビニルベンゼン、アルキレンジオールジアクリレート(メタクリレート)、例えばグリコールビスアクリレート、アルキレントリオールトリアクリレート(メタクリレート)、ポリエステルジアクリレート(メタクリレート)、ビスアクリルアミド、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、アリルアクリレート(メタクリレート)、マレイン酸ジアリル、フマル酸ジアリル、アジピン酸ジアリル、クエン酸トリアリルエステル、リン酸トリアリルエステルなど、および前述の架橋剤の少なくとも1つを含む組合せが、場合によっては存在してもよい。
【0051】
エラストマー相は、塊状法、乳化法、懸濁法、溶液法または組合せ法、例えばバルク-懸濁法、乳化-バルク法、バルク-溶液法または連続法、セミバッチ法、もしくはバッチ法を使用する他の技法によって重合させることができる。エラストマー基材の粒子サイズには決定的な重要性はない。例えば、乳化で重合させたゴム格子に対しては、約0.001〜約25マイクロメートル、詳しくは約0.01〜約15マイクロメートル、さらに詳しくは約0.1〜約8マイクロメートルの平均粒子サイズを使用することができる。バルク重合させたゴム基材に対しては約0.5〜約10マイクロメートル、詳しくは約0.6〜約1.5マイクロメートルの粒子サイズを使用することができる。粒子サイズは、単純な光透過法またはキャピラリーハイドロダイナミッククロマトグラフィー(CHDF)によって測定することができる。エラストマー相は、微粒子状の中等度に架橋された共役ブタジエンまたはC4〜6アルキルアクリレートゴムでよく、好ましくは70%を超えるゲル含有量を有する。ブタジエンとスチレンおよび/またはC4〜6アルキルアクリレートゴムとの混合物も適当である。
【0052】
エラストマー相は、グラフトコポリマー全体の約5重量%〜約95重量%、より詳しくは約20重量%〜約90重量%、さらに詳しくはエラストマー変性グラフトコポリマーの約40重量%〜約85重量%占めることができ、残りは剛性のグラフト相である。
【0053】
エラストマー変性グラフトコポリマーの剛性相は、1つまたは複数のエラストマー状ポリマー基材の存在下に、モノビニル芳香族モノマーおよび場合により1つまたは複数のコモノマーを含む混合物をグラフト重合させることによって形成させることができる。上記の式(9)のモノビニル芳香族モノマーを剛性グラフト相中で使用することができ、スチレン、α-メチルスチレン、ジブロモスチレンなどのハロスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ブチルスチレン、パラヒドロキシスチレン、メトキシスチレン、または類似のもの、あるいは前述のモノビニル芳香族モノマーの少なくとも1つを含む組合せなどがある。適当なコモノマーには、例えば、上記のモノビニル系モノマーおよび/または一般式(10)のモノマーが含まれる。一実施形態においては、Rは、水素またはC1〜C2アルキルであり、Xdは、シアノまたはC1〜C12アルコキシカルボニルである。剛性相において使用するのに適当なコモノマーの具体的な例には、アクリロニトリル、エタクリロニトリル、メタクリロニトリル、メチルアクリレート(メタクリレート)、エチルアクリレート(メタクリレート)、n-プロピルアクリレート(メタクリレート)、イソプロピルアクリレート(メタクリレート)など、および前述のコモノマーの少なくとも1つを含む組合せが含まれる。
【0054】
剛性グラフト相中のモノビニル芳香族モノマーとコモノマーの相対的な比率は、エラストマー基材の種類、モノビニル芳香族モノマーの種類、コモノマーの種類、および耐衝撃性改良剤に所望する特性に応じて非常に幅広く変わりうる。剛性相は、一般に100重量%までのモノビニル芳香族モノマー、詳しくは約30〜約100重量%、より詳しくは約50〜約90重量%のモノビニル芳香族モノマーを含むことができて、残りはコモノマーである。
【0055】
存在するエラストマー変性ポリマーの量に応じて、グラフトされていない剛性ポリマーまたはコポリマーから成る別のマトリックスまたは連続相が、エラストマー変性グラフトコポリマーと共に、同時に得られることがある。通常、かかる耐衝撃性改良剤は、耐衝撃性改良剤の全重量に対して約40重量%〜95重量%のエラストマー変性グラフトコポリマーおよび約5重量%〜約65重量%のグラフト(コ)ポリマーを含む。他の一実施形態においては、かかる耐衝撃性改良剤は、耐衝撃性改良剤の全重量に対して約50重量%〜約85重量%、より詳しくは約75重量%〜約85重量%のゴム改良グラフトコポリマーを、約15重量%〜約50重量%、より詳しくは約15重量%〜約25重量%のグラフト(コ)ポリマーと共に含む。
【0056】
他の1つの特定の種類のエラストマー変性耐衝撃性改良剤は、少なくとも1つのシリコーンゴムモノマー、式H2C=C(Rg)C(O)OCH2CH2Rh(式中、Rgは水素またはC1〜C8直鎖もしくは分岐ヒドロカルビル基であり、Rhは分岐C3〜C16ヒドロカルビル基である。)を有する分岐アクリレートゴムモノマー、第1のグラフトリンクモノマー、重合性アルケニル含有有機物質、および第2のグラフトリンクモノマーから誘導される構造単位を含んでいる。シリコーンゴムモノマーは、例えば環状シロキサン、テトラアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、(アクリルオキシ)アルコキシシラン、(メルカプトアルキル)アルコキシシラン、ビニルアルコキシシランまたはアリルアルコキシシランを単独または組み合わせて含むことができ、例えば、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトラシロキサン、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロテトラシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサンおよび/またはテトラエトキシシランがある。
【0057】
例示的な分岐アクリレートゴムモノマーには、イソオクチルアクリレート、6-メチルオクチルアクリレート、7-メチルオクチルアクリレート、6-メチルヘプチルアクリレートなどの単独または組合せが含まれる。重合性アルケニル含有有機物質は、例えば式(9)もしくは(10)のモノマー、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、または分岐のないアクリレート(メタクリレート)例えばメチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレートなどの単独または組合せでよい。
【0058】
少なくとも1つの第1グラフトリンクモノマーは、単独または組合せの(アクリルオキシ)アルコキシシラン、(メルカプトアルキル)アルコキシシラン、ビニルアルコキシシラン、またはアリルアルコキシシラン、例えば(γ-メタクリルオキシプロピル)(ジメトキシ)メチルシランおよび/または(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシランでよい。少なくとも1つの第2のグラフトリンクモノマーは、少なくとも1つのアリル基を有するエチレン性不飽和化合物、例えばアリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、またはトリアリルイソシアヌレートなどの単独あるいは組合せである。
【0059】
シリコーンアクリレート耐衝撃性改良剤組成物は、乳化重合によって調製することができる。その際には、例えば少なくとも1つのシリコーンゴムモノマーを少なくとも1つの第1のグラフトリンクモノマーと、ドデシルベンゼンスルホン酸などの界面活性剤の存在下で、約30℃〜約110℃の温度で反応させてシリコーンゴムラテックスを生成させる。あるいは、シクロオクタメチルテトラシロキサンなどの環状シロキサンおよびテトラエトキシオルトシリケートを、(γ-メタクリルオキシプロピル)メチルジメトキシシランなどの第1のグラフトリンクモノマーと反応させることによって、約100ナノメートル〜約2マイクロメートルの平均粒子サイズを有するシリコーンゴムを得ることができる。次いで、少なくとも1つの分岐アクリレートゴムモノマーをシリコーンゴム粒子と共に、場合によりアリルメタクリレートなどの架橋性モノマーを存在させて、過酸化ベンゾイルなどのフリーラジカルを生成する重合触媒の存在下で重合させる。次いで、このラテックスを重合性アルケニル含有有機物質および第2のグラフトリンクモノマーと反応させる。グラフトシリコーン-アクリレートゴム混成物のラテックス粒子を(凝固剤処理による)凝固によって水性相から分離し、乾燥して微粉にするとシリコーン-アクリレートゴム耐衝撃性改良剤組成物を製造することができる。この方法は、一般に、約100ナノメートル〜約2マイクロメートルの粒子サイズを有するシリコーン-アクリレート耐衝撃性改良剤を製造するために使用することができる。
【0060】
前述のエラストマー変性グラフトコポリマーの形成のための知られている方法には、塊状法、乳化法、懸濁法、溶液法、または組合せ法、例えばバルク-懸濁法、乳化-バルク法、バルク-溶液法または連続法、セミバッチ法、もしくはバッチ法を使用する他の技法が含まれる。
【0061】
一実施形態においては、前述の種類の耐衝撃性改良剤は、C6〜30脂肪酸のアルカリ金属塩、例えばステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸リチウム、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウムなど、アルカリ金属炭酸塩、ドデシルジメチルアミン、ドデシルアミンなどのアミン、およびアミンのアンモニウム塩などの、塩基性物質を含まない乳化重合法によって調製される。かかる物質は乳化重合における界面活性剤として広く使用されており、ポリカーボネートのエステル交換および/または分解を触媒する可能性がある。代わりに、イオン性の硫酸塩、スルホン酸塩またはリン酸塩界面活性剤は、耐衝撃性改良剤、特に耐衝撃性改良剤のエラストマー基材部分の調製において使用することができる。適当な界面活性剤には、例えば、C1〜22アルキルまたはC7〜25アルキルアリールスルホン酸塩、C1〜22アルキルまたはC7〜25アルキルアリール硫酸塩、C1〜22またはC7〜25アルキルアリールリン酸塩、置換シリケート、およびこれらの混合物が含まれる。詳しい界面活性剤はC6〜16、詳しくはC8〜12アルキルスルホン酸塩である。この乳化重合法は、さまざまな特許ならびにRohm & HaasおよびGeneral Electric Companyなどの会社の文献で記載および開示されている。実際に、上記の耐衝撃性改良剤はどれでも、脂肪酸のアルカリ金属塩、アルカリ金属炭酸塩および他の塩基性物質を含んでいなければ、使用することができる。
【0062】
具体的なこの種類の耐衝撃性改良剤は、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン(MBS)耐衝撃性改良剤であり、この中のブタジエン基材は、界面活性剤として上記のスルホン酸塩、硫酸塩、またはリン酸塩を使用して調製される。ABSおよびMBS以外のエラストマー改変グラフトコポリマーの例には、アクリロニトリル-スチレン-ブチルアクリレート(ASA)、メチルメタクリレート-アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(MABS)、およびアクリロニトリル-エチレン-プロピレン-ジエン-スチレン(AES)が含まれるが、これらだけには限定されない。
【0063】
一部の実施形態においては、耐衝撃性改良剤は、高いゴム含有量、即ちグラフトポリマーの約50重量%以上、場合により約60重量%以上を有するグラフトポリマーである。ゴムは、好ましくはグラフトポリマーの約95重量%以下、場合により約90重量%以下の量で存在する。
【0064】
ゴムは、グラフトポリマーから成る骨格を形成し、好ましくは式(11)を有する共役ジエンのポリマーであり、
【0065】
【化9】

【0066】
式中、Xeは、水素、C1〜C5アルキル、塩素、または臭素である。使用することができるジエンの例は、ブタジエン、イソプレン、1,3-ヘプタジエン、メチル-1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-エチル-1,3-ペンタジエン: 1,3-および2,4-ヘキサジエン、クロロおよびブロモ置換ブタジエン、例えばジクロロブタジエン、ブロモブタジエン、ジブロモブタジエン、前述のジエンの少なくとも1つを含む混合物などである。好ましい共役ジエンはブタジエンである。共役ジエンの他のモノマーとのコポリマー、例えばブタジエン-スチレン、ブタジエン-アクリロニトリルのコポリマーなども使用することができる。あるいは、骨格は、アクリレートゴム、例えばn-ブチルアクリレート、エチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、前述のものの少なくとも1つを含む混合物などをベースとするものであってもよい。加えて、わずかな量のジエンを、アクリレートゴム骨格中で共重合させて向上したグラフト化を得ることもできる。
【0067】
骨格ポリマーの形成後に、グラフトモノマーを骨格ポリマーの存在下で重合させる。グラフト化モノマーの1つの好ましい種類は、式(12)を有するモノビニル芳香族炭化水素であり、
【0068】
【化10】

【0069】
式中、Xbは、上記で定義した通りであり、Xfは、水素、C1〜C10アルキル、C1〜C10シクロアルキル、C1〜C10アルコキシ、C6〜C18アルキル、C6〜C18アラルキル、C6〜C18アリールオキシ、塩素、臭素などである。例には、スチレン、3-メチルスチレン、3,5-ジエチルスチレン、4-n-プロピルスチレン、α-メチルスチレン、α-メチルビニルトルエン、α-クロロスチレン、α-ブロモスチレン、ジクロロスチレン、ジブロモスチレン、テトラ-クロロスチレン、前述の化合物の少なくとも1つを含む混合物などが含まれる。
【0070】
ポリマー骨格の存在下で重合させることができる第2の種類のグラフトモノマーの1つは、式(13)のアクリル系モノマーであり、
【0071】
【化11】

【0072】
式中、Xbは、先に定義した通りであり、Y2は、シアノ、C1〜C12アルコキシカルボニルなどである。かかるアクリル系モノマー例には、アルリロニトリル、エタクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、β-クロロアクリロニトリル、α-ブロモアクリロニトリル、β-ブロモアクリロニトリル、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、前述のモノマーの少なくとも1つを含む混合物などが含まれる。
【0073】
グラフトモノマーの混合物も、グラフトコポリマーを得るために使用することができる。好ましい混合物は、モノビニル芳香族炭化水素とアクリル系モノマーとを含む。好ましいグラフトコポリマーには、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂およびメタクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(MBS)樹脂が含まれる。適当なゴム含有量の多いアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂は、General Electric CompanyからBLENDEX(登録商標)品種131、336、338、360、および415として入手することができる。
【0074】
組成物は、芳香族ビニルコポリマー、例えば、スチレン系コポリマー(「ポリスチレンコポリマー」とも呼ばれる)も含むことができる。本明細書で使用する用語「芳香族ビニルコポリマー」および「ポリスチレンコポリマー」および「スチレン系コポリマー」は、少なくとも1つのモノビニル芳香族炭化水素を使用して、バルク、懸濁、および乳化重合を含む当技術分野において知られている方法によって調製されたポリマーを含む。ポリスチレンコポリマーは、ランダム、ブロック、またはグラフトコポリマーでよい。モノビニル芳香族炭化水素の例には、アルキル-、シクロアルキル-、アリール-、アルキルアリール-、アラルキル-、アルコキシ-、アリールオキシ-、およびその他で置換されたビニル芳香族化合物がこれらの組合せとして含まれる。具体的な例には、スチレン、4-メチルスチレン、3,5-ジエチルスチレン、4-n-プロピルスチレン、α-メチルスチレン、α-メチルビニルトルエン、α-クロロスチレン、α-ブロモスチレン、ジクロロスチレン、ジブロモスチレン、テトラクロロスチレンなど、およびこれらの混合物が含まれる。使用される好ましいモノビニル芳香族炭化水素は、スチレンおよびα-メチルスチレンである。
【0075】
本組成物は、芳香族ビニルコポリマーを場合により含む。芳香族ビニルコポリマーは、ビニルモノマー、アクリル系モノマー、無水マレイン酸および誘導体など、およびこれらの組合せなどのコモノマーを含有する。本明細書において定義されるビニルモノマーは、少なくとも1つの重合性炭素-炭素二重結合を有する脂肪族化合物である。2つ以上の炭素-炭素二重結合が存在する場合は、これらは互いに共役することがあり、しないこともある。適当なビニルモノマーには、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン(1-ブテン、2-ブテン、およびイソブテンを含む)、ペンテン、ヘキセンなど;1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、1,4-ペンタジエン、1,5-ヘキサジエンなど、およびこれらの混合物が含まれる。
【0076】
アクリル系モノマーには、例えば、アクリロニトリル、エタクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、β-クロロアクリロニトリル、α-ブロモアクリロニトリル、およびβ-ブロモアクリロニトリル、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレートなど、およびこれらの混合物が含まれる。
【0077】
無水マレイン酸およびこれの誘導体には、例えば、無水マレイン酸、マレイミド、N-アルキルマレイミド、N-アリールマレイミドまたはアルキル-もしくはハロ-置換N-アリールマレイミドなど、およびこれらの混合物が含まれる。
【0078】
芳香族ビニルコポリマー中に存在するコモノマーの量はさまざまであってよい。しかし、そのレベルは一般に約2モル%〜約75モル%にある。この範囲内で、コモノマーのモルパーセンテージは詳しくは少なくとも4%、より詳しくは少なくとも6%でよい。またこの範囲内で、コモノマーのモルパーセンテージは詳しくは約50%まで、より詳しくは約25%まで、さらにより詳しくは約15%まででよい。具体的なポリスチレンコポリマー樹脂には、一般に「SMA」と呼ばれるポリ(スチレン無水マレイン酸)、および一般に「SAN」と呼ばれるおよびポリ(スチレンアクリロニトリル)が含まれる。
【0079】
一実施形態においては、芳香族ビニルコポリマーは、(a)芳香族ビニルモノマー成分および(b)シアニドビニルモノマー成分を含む。(a)芳香族ビニルモノマー成分の例には、α-メチルスチレン、o-、m-、またはp-メチルスチレン、ビニルキシレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、モノブロモスチレン、ジブロモスチレン、フルオロスチレン、p-tert-ブチルスチレン、エチルスチレン、およびビニルナフタレンが含まれ、これらの物質は個別にまたは組合せで使用することができる。(b)シアニドビニルモノマー成分の例には、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが含まれ、これらは個別にでも2つ以上の組合せででも使用することができる。(a)および(b)から成る芳香族ビニルコポリマー中の(a)と(b)の組成比に関しては、特に制限はなく、またこの比は対象となっている用途に従って選択しなければならない。場合によっては、芳香族ビニルコポリマーは、芳香族ビニルコポリマー中の(a)+(b)の重量に対して約95重量%〜約50重量%の(a)、場合によっては約92重量%〜約65重量%の(a)、およびこれに対応して芳香族ビニルコポリマー中の(a)+(b)の重量に対して約5重量%〜約50重量%の(b)、場合によっては約8重量%〜約35重量%の(b)を含有することができる。
【0080】
芳香族ビニルコポリマーの重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定して、30,000〜200,000、場合によっては30,000〜110,000であればよい。
【0081】
芳香族ビニルコポリマーを製造する方法には、バルク重合、溶液重合、懸濁重合、バルク懸濁重合、および乳化重合が含まれる。さらに、個々に共重合された樹脂をブレンドすることもできる。芳香族ビニルコポリマーのアルカリ金属含有量は、芳香族ビニルコポリマーの重量に対して約1ppm以下、場合によっては約0.5ppm以下、例えば、約0.1ppm以下であればよい。さらに、アルカリ金属のうちでも、成分(b)中のナトリウムおよびカリウムの含有量は、約1ppm以下、場合によっては約0.5ppm以下、例えば0.1ppmであることができる。
【0082】
一実施形態においては、芳香族ビニルコポリマーは、「フリーの」スチレン-アクリロニトリルコポリマー(SAN)、即ち他のポリマー鎖にグラフトしていないスチレン-アクリロニトリルコポリマーを含む。特定の一実施形態においては、フリーのスチレン-アクリロニトリルコポリマーは、ポリスチレン標準分子量目盛上で50,000〜約200,000の分子量を有することがあり、スチレン対アクリロニトリルのさまざまな比率を含んでいることもある。例えば、フリーのSANは、フリーのSANコポリマーの全重量に対して約75重量%のスチレンおよび約25重量%のアクリロニトリルを含むことがある。フリーのSANは、場合によっては、組成物中にフリーのSANを含有しているグラフトされたゴムの耐衝撃性改良剤を添加したことが原因で存在することもあり、および/またはフリーのSANは組成物中の耐衝撃性改良剤とは無関係に存在することもある。
【0083】
本組成物は、本明細書の実施例で示すように、組成物の重量に対して約2重量%〜約25重量%、場合によっては、約2重量%〜約20重量%のフリーのSAN、例えば、約5重量%〜約15重量%のフリーのSAN、場合によっては約7.5重量%〜約10重量%のフリーのSANを含むことがある。
【0084】
本組成物は、少なくとも1つの鉱物充填材も含む。本組成物中で使用するのに適当な鉱物充填材の網羅的ではない例には、タルク、マイカ、ウォラストナイト、粘土などが含まれるが、これらだけには限定されない。充填材の組合せを使用してもよい。本明細書で使用する「鉱物充填材」には、均衡の取れた物理的特性を実現する相乗効果を得るために酸または酸塩と組み合わせることができ、かつポリカーボネートまたはポリカーボネートブレンドを分解させない、任意の合成および天然に存在するポリカーボネートおよびポリカーボネートブレンド用強化剤が含まれる。
【0085】
本組成物は、酸または酸塩も含む。一実施形態においては、酸または酸塩は、無機酸または無機酸塩である。一実施形態においては、酸は亜リン酸含有オキシ酸を含む酸である。
【0086】
一実施形態においては、亜リン酸含有オキシ酸は、一般式(14)を有する多プロトン亜リン酸含有オキシ酸であり、
HmPtOn (14)
ここで、mおよびnは、それぞれ2以上であり、tは、1以上である。
【0087】
式(14)の酸の例には、以下の式によって表される酸を含むが、これらだけには限定されない: H3PO4、H3PO3、およびH3PO2。一部の実施形態においては、酸には以下のものの1つが含まれる: リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、次リン酸、ホスフィン酸、ホスホン酸、メタリン酸、ヘキサメタリン酸、チオリン酸、フルオロリン酸、ジフルオロリン酸、フルオロ亜リン酸、ジフルオロ亜リン酸、フルオロ次亜リン酸、またはフルオロ次リン酸。あるいは、酸および酸塩、例えば硫酸、亜硫酸塩、リン酸一亜鉛、リン酸一カルシウム、リン酸一ナトリウムなどを使用することができる。酸または酸塩は、好ましくはこれを鉱物充填材と効果的に組み合わせて、ポリカーボネートまたはポリカーボネートブレンド中における相乗効果ならびに流動性および耐衝撃性などの特性の均衡を実現するように選択する。
【0088】
所望とあれば他の充填材および/または強化剤を、これらが組成物をさらに分解しない限りは使用することができる。適当な充填材または強化剤には、これらの用途向けに知られている任意の物質が含まれる。例えば、適当な充填材および強化剤には、ケイ酸塩およびシリカ粉末、例えばケイ酸アルミニウム(ムライト)、合成ケイ酸カルシウム、ケイ酸ジルコニウム、溶融シリカ、結晶グラファイトシリカ、天然珪砂など;ホウ素粉末、例えば窒化ホウ素粉末、ケイ酸塩ホウ素粉末など;TiO2、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムなどの酸化物;硫酸カルシウム(無水物、二水和物または三水和物として);炭酸カルシウム、例えばチョーク、石灰石、大理石、合成沈降炭酸カルシウムなど;繊維状、モジュラー、針状、層状タルクなどを含むタルク;ウォラストナイト;表面処理ウォラストナイト;ガラス球、例えば中空および中実ガラス球、ケイ酸塩球、セノスフェア、アルミノケイ酸塩(armosphere)など;カオリン、硬質カオリン、軟質カオリン、か焼カオリン、ポリマーマトリックス樹脂との相容性を高めるための当技術分野で知られているさまざまな被覆を含むカオリンなど;単結晶繊維即ちシリコンカーバイド、アルミナ、炭化ホウ素、鉄、ニッケル、銅などの「ウィスカー」など;繊維(連続および刻まれた繊維)例えばアスベスト、炭素繊維、ガラスファイバー、例えばE、A、C、ECR、R、S、D、またはNEガラスなど;硫化物例えば硫化モリブデン、硫化亜鉛など;バリウム化合物例えばチタン酸バリウム、バリウムフェライト、硫酸バリウム、重晶石など;金属および金属酸化物例えば粒子状または繊維状アルミニウム、ブロンズ、亜鉛、銅およびニッケルなど;フレーク化充填材、例えばガラスフレーク、フレーク化炭化ケイ素、二ホウ化アルミニウム、アルミニウムフレーク、スチールフレークなど;繊維状充填材、例えば無機短繊維例えばケイ酸アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、および硫酸カルシウム半水和物などの少なくとも1つを含むブレンドから誘導されるものなど;天然充填材および強化剤、例えば木材を粉砕することによって得られる木材粉、繊維状製品例えばセルロース、木綿、サイザル、ジュート、デンプン、コルク粉、リグニン、粉砕ナッツ殻、コーン、もみ殻など;有機充填材例えばポリテトラフルオロエチレン;繊維
形成能力がある有機ポリマー例えばポリ(エーテルケトン)、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリ(フェニレンスルフィド)、ポリエステル、ポリエチレン、芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリテトラフルオロエチレン、アクリル系樹脂、ポリ(ビニルアルコール)などから形成される強化用有機繊維状充填材;ならびに追加の充填材および強化剤例えばマイカ、粘土、長石、煙塵、フィライト、石英、クオーツァイト、パーライト、トリポリ、珪藻土、カーボンブラックなど、または前述の充填材もしくは強化剤の少なくとも1つを含む組合せが含まれる。
【0089】
充填材および強化剤は、導電性を高めるために金属性材料の層で被覆したり、あるいはポリマーマトリックス樹脂との接着および分散を改善するためにシランで表面処理したりすることができる。加えて、強化充填材はモノフィラメントで提供されてもマルチフィラメント繊維の形態で提供されてもよく、また単独で使用しても、または例えば共織りもしくはコア/シース、サイドバイサイド、オレンジ-タイプもしくはマトリックスおよびフィブリル構成によって、あるいは繊維製造の当業者に知られている他の方法によって、他の種類の繊維と組み合わせて使用してもよい。適当な共織り構成としては、例えばガラス繊維-炭素繊維、炭素繊維-芳香族ポリイミド(アラミド)繊維、および芳香族ポリイミド繊維-ガラス繊維などがある。繊維状充填材は、例えばロービング、0〜90度のファブリク(織物)などの織った繊維状強化材、連続ストランドマット、切断されたストランドマット、ティッシュー、紙およびフェルトなどの不織繊維状強化材、またはブレイドなどの三次元強化材の形態で供給されることができる。充填材は一般に、ポリカーボネート樹脂、芳香族ビニルコポリマーおよびすべての耐衝撃性改良剤の100重量部に対して約0〜約50重量部、場合によっては約1〜約20重量部、一部の実施形態においては約4〜約15重量部の量で使用する。
【0090】
本組成物は、他のポリカーボネートブレンドおよびコポリマー、例えばポリカーボネート-ポリシロキサンコポリマー、エステルなどを場合により含むことができる。
【0091】
本熱可塑性組成物は、ポリカーボネート樹脂、充填材および酸に加えて、通常この種の樹脂組成物に組み込まれる種々の添加物を含むことができるが、これらの添加物は好ましくは熱可塑性組成物の所望の特性に顕著に悪影響を与えないように選択するという条件が付く。添加物の混合物も使用することができる。かかる添加物は、組成物を形成させるために成分を混合する間の適当な時点で混合すればよい。
【0092】
本熱可塑性組成物は、場合によっては環式脂肪族ポリエステル樹脂を含むことができる。環式脂肪族ポリエステル樹脂は、式(15)の反復単位を有するポリエステルを含み、
【0093】
【化12】

【0094】
式中、R15またはR16の少なくとも1つはシクロアルキル含有基である。
【0095】
このポリエステルは、縮合生成物であり、R15は、アリール、アルカンまたはシクロアルカンを含有し6〜20個の炭素原子を有するジオールまたはその化学的等価物の残基であり、R16は、アリール、脂肪族またはシクロアルカンを含有し炭素原子6〜20個の二塩基酸またはその化学的等価物から誘導される脱カルボキシされた残基であり、ただしR15 およびR16の少なくとも1つは環式脂肪族であるという条件が付く。本発明の好ましいポリエステルは、R15およびR16の両方に環式脂肪族を有する。
【0096】
環式脂肪族ポリエステルは、脂肪族二塩基酸、または化学的等価物および脂肪族ジオール、または化学的等価物の縮合生成物である。環式脂肪族ポリエステルは、脂肪族二塩基酸および脂肪族ジオールの混合物から形成されるが、少なくとも50モル%の環状二酸および/または環状ジオール成分を含有しなければならず、残余は、あるならば、直鎖脂肪族の二塩基酸および/またはジオールである。
【0097】
ポリエステル樹脂は、通常、ジオールまたはジオール等価成分の二塩基酸または二塩基酸の化学的等価成分との縮合またはエステル交換重合によって得る。
【0098】
R15およびR15は、好ましくは以下の式から独立に選択されるシクロアルキル基である。
【0099】
【化13】

【0100】
好ましい環式脂肪族基R16は、1,4-シクロヘキシル二塩基酸から誘導され、最も好ましくはその70モル%超がトランス異性体の形態である。好ましい環式脂肪族基R15は、1,4-シクロヘキシル第一級ジオール例えば1,4-シクロヘキシルジメタノールから誘導され、最も好ましくはその70モル%超がトランス異性体の形態である。
【0101】
本発明のポリエステル樹脂の調製において有用な他のジオールは、直鎖、分岐、または脂環式アルカンジオールであり、2〜12個の炭素原子を含有しておればよい。かかるジオールの例には、エチレングリコール、プロピレングリコール、即ち1,2-および1,3-プロピレングリコール;2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール;2-エチル、2-メチル、1,3-プロパンジオール;1,3-および1,5-ペンタンジオール;ジプロピレングリコール;2-メチル-1,5-ペンタンジオール;1,6-ヘキサンジオール;ジメタノールデカリン、ジメタノールビシクロオクタン;1,4-シクロヘキサンジメタノールおよび特にこれのシス-およびトランス-異性体;2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール(TMCBD)、トリエチレングリコール;1,10-デカンジオール;および任意の前述のものの混合物が含まれるが、これらだけには限定されない。好ましくは環式脂肪族ジオールまたはその化学的等価物、特に1,4-シクロヘキサンジメタノールまたはこれの化学的等価物がジオール成分として使用される。
【0102】
ジオールに対する化学的等価物には、エステル、例えばジアルキルエステル、ジアリールエステルなどが含まれる。
【0103】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂の調製において有用な二塩基酸は、好ましくは環式脂肪族二塩基酸である。これはそれぞれが飽和炭素に付けられた2つのカルボキシル基を有するカルボン酸を含むということである。好ましい二塩基酸は、シクロまたはビシクロ脂肪酸、例えばデカヒドロナフタレンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、ビシクロオクタンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸または化学的等価物であり、最も好ましいものはトランス-1,4-シクロヘキサンジカルボン酸または化学的等価物である。アジピン酸、アゼライン酸、ジカルボキシルドデカン酸およびコハク酸のような直鎖のジカルボン酸も有用であり得る。
【0104】
シクロヘキサンジカルボン酸およびこれらの化学的等価物は、例えば、環状芳香族二塩基酸および対応する誘導体例えばイソフタル酸、テレフタル酸またはナフタレン酸の、水または酢酸などの適当な溶媒中で、炭素またはアルミナに担持させたロジウムなどの適当な触媒を使用する水素化によって調製することができる。これらはまた、カーボンまたはシリカ上のパラジウムまたはルテニウム触媒を用いて、反応条件下でフタル酸が少なくとも部分的に可溶な不活性液体媒体を使用することによっても調製することができる。
【0105】
通常、水素化においては、カルボン酸基がシスまたはトランスの位置にある2つの異性体が得られる。シスおよびトランス異性体は、溶媒、例えば、n-ヘプタン、を用いてまたは溶媒なしで結晶化によって、あるいは蒸留によって分離することができる。
【0106】
シス異性体はより良好にブレンドする傾向があるが、トランス異性体はより高い融点および結晶化温度を有するので、好ましいことがある。シスおよびトランス異性体の混合物も本明細書においては同様に有用である
【0107】
異性体の混合物または複数の二塩基酸もしくはジオールを使用する場合は、本発明の環式脂肪族ポリエステル樹脂として、コポリエステルまたは2つのポリエステルの混合物を使用することができる。
【0108】
これらの二塩基酸の化学的等価物には、エステル、アルキルエステル、例えばジアルキルエステル、ジアリールエステル、無水物、塩、酸クロリド、酸ブロマイドなどが含まれる。好ましい化学的等価物は、環式脂肪族二塩基酸のジアルキルエステルを含み、最も好まれる化学的等価物は、酸のジメチルエステル、特にジメチル-1,4-シクロヘキサンジカルボキシレートを含む。
【0109】
好ましい環式脂肪族ポリエステルは、ポリ(シクロヘキサン-1,4-ジメチレンシクロヘキサン-1,4-ジカルボキシレート)であり、ポリ(1,4-シクロヘキサン-ジメタノール-1,4-ジカルボキシレート)(PCCD)とも呼ばれ、式(16)の反復単位を有する。
【0110】
【化14】

【0111】
先に説明したPCCDに関する一般式を参照すると、R15は1,4-シクロヘキサンジメタノールから誘導され;R16はシクロヘキサンジカルボキシレートまたはその化学的等価物から誘導されるシクロヘキサン環である。好ましいPCCDは、シス/トランス形を有する。
【0112】
ポリエステルの重合反応は、一般にテトラキス(2-エチルヘキシル)チタネートなどの適当な触媒の適当量、通常最終生成物に対してチタン約50〜200ppmの存在下の、溶融物中で行う。
【0113】
好ましい脂肪族ポリエステルは、約50℃を超える、より好ましくは約80℃を超える、最も好ましくは約100℃を超えるガラス転移温度(Tg)を有する。
【0114】
本明細書においては、ポリマー状脂肪酸および/またはポリマー状脂肪族ポリオールから誘導される単位の約1〜約50重量%を有する上記のポリエステルは、コポリエステルを形成することも想定されている。脂肪族ポリオールには、ポリ(エチレングリコール)またはポリ(ブチレングリコール)などのグリコールが含まれる。かかるポリエステルは、例えば米国特許第2465319号、および米国特許第3047539号の教示に従って作ることができる。
【0115】
本組成物は、ポリカーボネートブロックおよびポリジオルガノシロキサンブロックを含むポリカーボネート-ポリシロキサンコポリマーをさらに含む。コポリマー中のポリカーボネートブロックは、上記の式(1)の反復構造単位を含み、例えばその中のR1は、上記の式(2)のものである。これらの単位は、上記の式(3)のジヒドロキシ化合物の反応から誘導することができる。一実施形態においては、ジヒドロキシ化合物はビスフェノールAであり、その中のA1およびA2のそれぞれは、p-フェニレンであり、Y1は、イソプロピリデンである。
【0116】
ポリジオルガノシロキサンブロックは、式(17)の反復構造単位(本明細書においてときには「シロキサン」と呼ばれる)を含み、
【0117】
【化15】

【0118】
式中、各Rは出現するごとに、同じまたは異なり、C1〜13の一価の有機基である。例えば、RはC1〜C13アルキル基、C1〜C13アルコキシ基、C2〜C13アルケニル基、C2〜C13アルケニルオキシ基、C3〜C6シクロアルキル基、C3〜C6シクロアルコキシ基、C6〜C10アリール基、C6〜C10アリールオキシ基、C7〜C13アラルキル基、C7〜C13アラルコキシ基、C7〜C13アルカリール基、またはC7〜C13アルカリールオキシ基であることができる。前述のR基の複数の組合せを同じコポリマー中で使用することができる。
【0119】
式(17)中のDの値は、熱可塑性組成物中のそれぞれの成分の種類および相対的な量、組成物の所望の特性、および類似の考慮に応じて幅広く変わってよい。一般に、Dは2〜約1000、詳しくは約2〜約500、より詳しくは約5〜約100の平均値を有することができる。一実施形態においては、Dは約10〜約75の平均値を有し、さらに他の一実施形態においては、Dは約40〜約60の平均値を有する。Dが小さめの値、例えば約40未満である場合には、比較的多めの量のポリカーボネート-ポリシロキサンコポリマーを使用することが望ましいことがある。反対に、Dが大きめの値、例えば約40を超える場合には、比較的少なめの量のポリカーボネート-ポリシロキサンコポリマーを使用することが必要なことがある。
【0120】
第1および第2の(またはこれ以上の)ポリカーボネート-ポリシロキサンコポリマーの組合せを使用することもでき、この場合は第1のコポリマーのDの平均値は、第2のコポリマーのDの平均値よりも小さい。
【0121】
一実施形態においては、ポリジオルガノシロキサンブロックは、式(18)の構造単位を反復することによって得られる:
【0122】
【化16】

【0123】
式中、Dは、上記で定義した通りであり、それぞれのRは同じでも異なってもよく、上記で定義した通りであり、Arは同じでも異なってもよく、置換または無置換のC6〜C30アリーレン基であり、結合は芳香族部分に直接接続している。式(9)中の適当なAr基は、C6〜C30ジヒドロキシアリーレン化合物、例えば上記の式(3)、(4)、または(7)のジヒドロキシアリーレン化合物から誘導することができる。前述のジヒドロキシアリーレン化合物の少なくとも1つを含む組合せも使用することができる。適当なジヒドロキシアリーレン化合物の具体的な例は、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-1-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニルスルフィド)、および1,1-ビス(4-ヒドロキシ-t-ブチルフェニル)プロパンである。前述のジヒドロキシ化合物の少なくとも1つを含む組合せも使用することができる。
【0124】
かかる単位は、以下の式(19)の対応するジヒドロキシ化合物から誘導することができる:
【0125】
【化17】

【0126】
式中、ArおよびDは、上に記載した通りである。かかる化合物は、Kressらの米国特許第4746701号にさらに詳しく記載されている。この式の化合物は、ジヒドロキシアリーレン化合物の、例えばα,ω-ビスアセトキシポリジオルガノシロキサンとの相間移動条件下の反応によって得ることができる。
【0127】
他の一実施形態においては、ポリジオルガノシロキサンブロックは、式(20)の反復構造単位を含む:
【0128】
【化18】

【0129】
式中、RおよびDは、上記で定義した通りである。式(20)中のR2は二価のC2〜C8脂肪族基である。式(20)中のそれぞれのMは、同じであっても異なってもよく、ハロゲン、シアノ、ニトロ、C1〜C8アルキルチオ、C1〜C8アルキル、C1〜C8アルコキシ、C2〜C8アルケニル、C2〜C8アルケニルオキシ基、C3〜C8シクロアルキル、C3〜C8シクロアルコキシ、C6〜C10アリール、C6〜C10アリールオキシ、C7〜C12アラルキル、C7〜C12アラルコキシ、C7〜C12アルカリール、またはC7〜C12アルカリールオキシでよく、それぞれのnは独立に0、1、2、3、または4である。
【0130】
一実施形態においては、Mは、ブロモもしくはクロロ、メチル、エチル、もしくはプロピルなどのアルキル基、メトキシ、エトキシ、もしくはプロポキシなどのアルコキシ基、またはフェニル、クロロフェニル、もしくはトリルなどのアリール基であり;R2は、ジメチレン、トリメチレンまたはテトラメチレン基であり;およびRは、C1〜8アルキル、トリフルオロプロピルなどのハロアルキル、シアノアルキル、またはフェニルなどのアリール、クロロフェニルまたはトリルである。他の一実施形態においては、Rは、メチル、またはメチルおよびトリフルオロプロピルの混合物、またはメチルおよびフェニルの混合物である。他の一実施形態においては、Mはメトキシであり、nは1であり、R2は二価のC1〜C3脂肪族基であり、Rはメチルである。
【0131】
これらの単位は、式(21)の対応するジヒドロキシポリジオルガノシロキサン(21)から誘導することができる:
【0132】
【化19】

【0133】
式中、R、D、M、R2、およびnは上に記載した通りである。
【0134】
かかるジヒドロキシポリシロキサンは、式(22)のシロキサンハイドライドの間で白金触媒による付加を実施することによって作ることができる。
【0135】
【化20】

【0136】
式中、RおよびDは、先に定義した通りであり、脂肪族的に不飽和の一価フェノールである。適当な脂肪族的に不飽和の一価フェノールには、例えば、オイゲノール、2-アルキルフェノール、4-アリル-2-メチルフェノール、4-アリル-2-フェニルフェノール、4-アリル-2-ブロモフェノール、4-アリル-2-t-ブトキシフェノール、4-フェニル-2-フェニルフェノール、2-メチル-4-プロピルフェノール、2-アリル-4,6-ジメチルフェノール、2-アリル-4-ブロモ-6-メチルフェノール、2-アリル-6-メトキシ-4-メチルフェノールおよび2-アリル-4,6-ジメチルフェノールが含まれる。前述のものの少なくとも1つを含む混合物も使用することができる。
【0137】
ポリカーボネート-ポリシロキサンコポリマーは、ジフェノール型ポリシロキサン(21)のカーボネート源および式(3)のジヒドロキシ芳香族化合物との、場合により前記の相間移動触媒の存在下における、反応によって製造することができる。適当な条件は、ポリカーボネートの形成において有用なものと類似である。例えば、このコポリマーは、0℃未満〜約100℃、好ましくは約25℃〜約50℃におけるホスゲン化によって調製する。この反応は発熱反応であるので、ホスゲン添加の速度を、反応温度の制御に使用することができる。必要なホスゲンの量は、一般に二価反応物の量に依存する。あるいは、このポリカーボネート-ポリシロキサンコポリマーは、ジヒドロキシモノマーおよびジアリールカーボネートエステル例えばジフェニルカーボネートを、上記のエステル交換触媒の存在下、溶融状態で共反応させることによって調製することができる。
【0138】
ポリカーボネート-ポリシロキサンコポリマーの製造においては、ジヒドロキシポリジオルガノシロキサンの量は、コポリマー中に所望量のポリジオルガノシロキサン単位をもたらすように選択する。ポリジオルガノシロキサン単位の量は広い範囲で変動しうる、即ち約1重量%〜約99重量%のポリジメチルシロキサン、または他の1つのポリジオルガノシロキサンの等モル量であり得て、残余はカーボネート単位である。したがって、具体的な使用量は、熱可塑性組成物の所望の物理的特性、Dの値(2〜約1000の範囲内)、および熱可塑性組成物中のそれぞれの成分の種類と相対的な量(ポリカーボネートの種類と量、耐衝撃性改良剤の種類と量、ポリカーボネート-ポリシロキサンコポリマーの種類と量、および他の添加物の種類と量を含む)に応じて決定する。ジヒドロキシポリジオルガノシロキサンの適当な量は、当業者によって、不必要な実験を行うことなく、本明細書において教示される指針を使用して決定されることができる。例えば、ジヒドロキシポリジオルガノシロキサンの量は、約1重量%〜約75重量%、または約1重量%〜約50重量%のポリジメチルシロキサン、または他の1つのポリジオルガノシロキサンの等モル量を含むコポリマーを生成するように選択すればよい。一実施形態においては、コポリマーは、約5重量%〜約40重量%、場合により約5重量%〜約25重量%のポリジメチルシロキサン、または等モル量の他の1つのポリジオルガノシロキサンを含み、残余はポリカーボネートである。特定の一実施形態においては、コポリマーは、約20重量%のシロキサンを含む。
【0139】
さまざまな実施形態において、熱可塑性組成物は、約30重量%〜約99重量%のポリカーボネート樹脂、場合により約40重量%〜約95重量%のポリカーボネート、場合により約45重量%〜85重量%のポリカーボネートを含む。熱可塑性組成物は、約60重量%未満の耐衝撃性改良剤、場合により約0.1重量%〜約50重量%の耐衝撃性改良剤、一部の実施形態においては約2重量%〜約40重量%の耐衝撃性改良剤も含むことができる。本組成物はさらに、約1重量%〜50重量%の鉱物充填材、場合により約3重量%〜約40重量%の鉱物充填材、一部の実施形態においては約5重量%〜約20重量%の鉱物充填材を含むことができる。本組成物はさらに、約0.01重量%〜約5重量%の酸、場合により約0.05重量%〜約2重量%、一部の実施形態においては約0.1重量%〜約1重量%の酸を含むことができる。本熱可塑性組成物は、約5重量%〜約40重量%の芳香族ビニルコポリマー、場合により約5重量%〜約30重量%の芳香族ビニルコポリマー、一部の実施形態においては約5重量%〜約25重量%の芳香族ビニルコポリマーを場合により含むことができる。組成物中の酸対充填材の重量比は、所望の特性の均衡に応じて、少なくとも0.0035:1、場合により少なくとも0.005:1、場合により少なくとも0.0075:1、場合により少なくとも0.015:1、場合により少なくとも0.03:1、場合により少なくとも0.06:1、場合により少なくとも0.12:1でなければならない。前述の重量%値のすべては、ポリカーボネート樹脂、鉱物充填材、酸、および場合により耐衝撃性改良剤および/または芳香族ビニルコポリマーを合わせた重量に対するものである。例示的な実施形態において、ある組成物は、約50重量%〜約98重量%のポリカーボネート樹脂、約2重量%〜約20重量%のタルク、約0.05重量%〜約2重量%の亜リン酸を含むことができ、あるいはある組成物は、約50重量%〜約90重量%のポリカーボネート樹脂、約1重量%〜約10重量%のABS、約5重量%〜約20重量%のタルク、約0.05重量%〜約2重量%の亜リン酸、および場合により約5重量%〜約20重量%のSANを含むことができる。
【0140】
本明細書で記載する組成物は、主たる酸化防止剤または「安定剤」(例えば、ヒンダードフェノールおよび/または第二級アリールアミン)および、場合によっては副次的な酸化防止剤(例えば、リン酸塩および/またはチオエルテル)を含むことができる。適当な酸化防止添加物には、例えば、オルガノホスファイト例えばトリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイトなど;アルキル化モノフェノールまたはポリフェノール;アルキル化されたポリフェノールとジエンの反応生成物、例えばテトラキス[メチレン(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナメート)]メタンなど;ブチル化されたパラクレゾールとジシクロペンタジエンの反応生成物;アルキル化されたヒドロキノン;ヒドロキシ化チオジフェニルエーテル;アルキリデン-ビスフェノール;ベンジル化合物;β-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオン酸の一価アルコールまたは多価アルコールとのエステル;β-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)-プロピオン酸の一価アルコールまたは多価アルコールとのエステル;チオアルキルまたはチオアリール化合物のエステル例えばジステアリルチオプロピオネート、ジラウリルチオプロピオネート、ジトリデシルチオジプロピオネート、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]など;β-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオン酸などのアミド、あるいは前述の酸化防止剤の少なくとも1つを含む組合せが含まれる。酸化防止剤は、一般に、ポリカーボネート樹脂、およびすべての任意選択の芳香族ビニルコポリマーおよび/または耐衝撃性改良剤の100重量部に対して約0.01〜約1重量部、場合により約0.05〜約0.5重量部の量で使用する。
【0141】
適当な熱安定添加物には、例えば、オルガノホスファイト、例えばトリフェニルホスファイト、トリス-(2,6-ジメチルフェニル)ホスファイト、トリス-(モノおよびジ混合ノニルフェニル)ホスファイトなど;ホスホネート例えばジメチルベンゼンホスホネートなど、リン酸エステル例えばリン酸トリメチルなど、または前述の熱安定剤の少なくとも1つを含む組合せが含まれる。熱安定剤は、一般に、ポリカーボネート樹脂、およびすべての任意選択の芳香族ビニルコポリマーおよび/または耐衝撃性改良剤の100重量部に対して約0.01〜約5重量部、場合により約0.05〜約0.3重量部の量で使用する。
【0142】
光安定剤および/または紫外線(UV)吸収添加物も使用することができる。適当な光安定剤添加物には、例えば、ベンゾトリアゾール例えば2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ5-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾールおよび2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノンなど、または前述の光安定剤の少なくとも1つを含む組合せが含まれる。光安定剤は、一般に、ポリカーボネート樹脂、芳香族ビニルコポリマーおよび/または耐衝撃性改良剤の100重量部に対して約0.01〜約10重量部、場合により約0.1〜約1重量部の量で使用する。
【0143】
適当なUV吸収添加物には、例えば、ヒドロキシベンゾフェノン;ヒドロキシベンゾトリアゾール;ヒドロキシベンゾトリアジン;シアノアクリレート;オキサニリド;ベンゾキサジノン;2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール(CYASORB(商標)5411);2-ヒドロキシ-4-n-オクチルオキシベンゾフェノン(CYASORB(商標)531);2-[4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-(オクチルオキシ)-フェノール(CYASORB(商標)1164);2,2'-(1,4-フェニレン)ビス(4H-3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)(CYASORB(商標)UV-3638);1,3-ビス[(2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリロイル)オキシ]-2,2-ビス[[(2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリロイル)オキシ]メチル]プロパン(UVINUL(商標)3030);2,2'-(1,4-フェニレン)ビス(4H-3,1-ベンゾキサジン-4-オン);1,3-ビス[(2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリロイル)オキシ]-2,2-ビス[[(2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリロイル)オキシ]メチル]プロパン;ナノサイズ無機材料例えば酸化チタン、酸化セリウム、および酸化亜鉛、すべて約100ナノメ-トル未満の粒子サイズを有するもの;などならびに前述のUV吸収剤の少なくとも1つを含む組合せが含まれる。UV吸収剤は、一般に、ポリカーボネート樹脂、ならびにすべての任意選択の芳香族ビニルコポリマーおよび/または耐衝撃性改良剤の100重量部に対して約0.1〜約5重量部の量で使用する。
【0144】
可塑剤、潤滑剤、および/または離型剤添加物も使用することができる。これらの種類の材料の間にはかなりの共通性があり、これらの材料には、例えば、フタル酸エステル例えばジオクチル-4,5-エポキシ-ヘキサヒドロフタレート;トリス-(オクトキシカルボニルエチル)イソシアヌレート;トリステアリン;二官能性または多官能性芳香族リン酸エステル例えばレゾルシノールテトラフェニルジホスフェート(RDP)、ヒドロキノンのビス(ジフェニル)ホスフェートおよびビスフェノールAのビス(ジフェニル)ホスフェート;ポリ-α-オレフィン;エポキシ化大豆油;シリコーンオイルを含むシリコーン;エステル、例えばアルキルステアリルエステルなどの脂肪酸エステル、例えば、ステアリン酸メチル、ステアリン酸ステアリル、テトラステアリン酸ペンタエリスリトールなど;ポリエチレングリコールポリマー、プロピレングリコールポリマー、およびこれらのコポリマーを含む、親水性および疎水性非イオン界面活性剤とステアリン酸メチルとの混合物、例えば、適当な溶媒中のステアリン酸メチルおよびポリエチレン-ポリプロピレングリコールコポリマー;ワックス例えば蜜蝋、モンタンワックス、パラフィンワックスなどが含まれる。かかる材料は、一般に、ポリカーボネート樹脂、ならびにすべての任意選択の芳香族ビニルコポリマーおよび/または耐衝撃性改良剤の100重量部に対して約0.1〜約20重量部、場合により約1〜約10重量部の量で使用する。
【0145】
「静電防止剤」という用語は、導電性および全体的な物理的性能を向上させるために、ポリマー樹脂中に導入および/または材料もしくは物品の表面にスプレーすることができる、モノマー状、オリゴマー状、またはポリマー状の材料を指す。モノマー状静電防止剤には、グリセリンモノステアリン酸エステル、グリセリンジステアリン酸エステル、グリセリントリステアリン酸エステル、エトキシ化アミン、第一級、第二級および第三級アミン、エトキシ化アルコール、アルキル硫酸塩、アルキルアリール硫酸塩、アルキルリン酸塩、アルキルアミン硫酸塩、アルキルスルホン酸塩例えばステアリルスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなど、第四級アンモニウム塩、第四級アンモニウム樹脂、イミダゾリン誘導体、ソルビタンエステル、エタノールアミド、ベタインなど、または前述のモノマー状静電防止剤の少なくとも1つを含む組合せが含まれる。
【0146】
例となるポリマー状静電防止剤には、それぞれポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリアルキレングリコール部分を含む、ある種のポリエステルアミド、ポリエーテルポリアミド(ポリエーテルアミド)ブロックコポリマー、ポリエーテルエステルアミドブロックコポリマー、ポリエーテルエステル、またはポリウレタンが含まれる。かかるポリマー状静電防止剤は、例えばPelestat(商標)6321(三洋)、Pebax(商標)MH1657(Atofina)、ならびにIrgastat(商標)P18およびP22(Ciba-Geigy)などが市販されている。静電防止剤として使用することができる他のポリマー状材料は、本来導電性であるポリマー例えばポリアニリン(PanipolからPANIPOL(登録商標)EBとして市販されている)、ポリピロールおよびポリチオフェン(Bayerから市販されている)、これらは高められた温度での溶融加工後もその本質的な導電性を部分的に保持している。一実施形態においては、炭素繊維、炭素ナノ繊維、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、または前述のものの任意の組合せを、化学的静電防止剤を含有しているポリマー樹脂中で使用して、組成物を静電的に消散性にすることができる。静電防止剤は、一般に、ポリカーボネート樹脂、ならびにすべての任意選択の芳香族ビニルコポリマーおよび/または耐衝撃性改良剤の100重量部に対して約0.1〜約10重量部の量で使用する。
【0147】
顔料および/色素添加物などの着色料も存在してよい。適当な顔料には、無機顔料例えば金属酸化物および混合金属酸化物例えば酸化亜鉛、二酸化チタン、酸化鉄など;スルフィド例えば亜鉛スルフィドなど;アルミネート;ナトリウムスルホシリケートサルフェート、クロメートなど;カーボンブラック;亜鉛フェライト;ウルトラマリンブルー;ピグメントブラウン24;ピグメントレッド101;ピグメントイエロー119;有機顔料例えばアゾ、ジアゾ、キナクリドン、レリレン、ナフタレンテトラカルボン酸、フラバンスロン、イソインドリノン、テトラクロロイソインドリノン、アントラキノン、アンサンスロン、ジオキサジン、フタロシアニン、およびアゾレーキ;ピグメントブルー60、ピグメントレッド122、ピグメントレッド149、ピグメントレッド177、ピグメントレッド179、ピグメントレッド202、ピグメントバイオレット29、ピグメントブルー15、ピグメントグリーン7、ピグメントイエロー147、およびピグメントイエロー150、または前述の顔料の少なくとも1つを含む組合せが含まれる。顔料は、一般に、ポリカーボネート樹脂、すべての任意選択の芳香族ビニルコポリマーおよび/または耐衝撃性改良剤の100重量部に対して約0.01〜約10重量部の量で使用する。
【0148】
適当な色素は、一般に有機物質であり、例えばクマリン色素例えばクマリン460(ブルー)、クマリン6(グリーン)、ナイルレッドなど;ランタニド錯体;炭化水素および置換炭化水素色素;多環式芳香族炭化水素色素;蛍光色素例えばオキサゾールまたはオキサジアゾール色素;アリールまたはヘテロアリール置換ポリ(C2〜8)オレフィン色素;カルボシアニン色素;インダンスロン色素;フタロシアニン色素;オキサジン色素;カルボスチリル色素;ナフタレンテトラカルボン酸色素;ポルフィリン色素;ビス(スチリル)ビフェニル色素;アクリジン色素;アントラキノン色素;シアニン色素;メチン色素;アリールメタン色素;アゾ色素;インジゴ系色素;チオインジゴ系色素;ジアゾニウム色素;ニトロ色素;キノンイミン色素;アミノケトン色素;テトラゾリウム色素;チアゾール色素;ペリレン色素;ペリノン色素;ビス-ベンゾオキサゾリルチオフェン(BBOT);トリアリールメタン色素;キサンテン色素;チオキサンテン色素;ナフタルイミド色素;ラクトン色素;フルオロホア例えば近赤外波長で吸収しかつ可視波長で放射する反ストークスシフト色素など;発光色素例えば7-アミノ-4-メチルクマリン;3-(2'-ベンゾチアゾリル)-7-ジエチルアミノクマリン;2-(4-ビフェニリル)-5-(4-t-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール;2,5-ビス-(4-ビフェニリル)-オキサゾール;2,2'-ジメイル-p-クォーターフェニル;2,2-ジメチル-p-ターフェニル;3,5,3"",5""-テトラ-t-ブチル-p-クインケフェニル;2,5-ジフェニルフラン;2,5-ジフェニルオキサゾール;4,4'-ジフェニルスチルベン;4-ジシアノメチレン-2-メチル-6-(p-ジメチルアミノスチリル)-4H-ピラン;1,1'-ジエチル-2,2'-カルボシアニンアイオダイド;3,3'-ジエチル-4,4',5,5'-ジベンゾチアトリカルボシアニンアイオダイド;7-ジメチルアミノ-1-メチル-4-メトキシ-8-アザキノロン-2;7-ジメチルアミノ-4-メチルキノロン-2;2-(4-(4-ジメチルアミノフェニル)-1,3-ブタジエニル)-3-エチルベンゾチアゾリウムパークロレート;3-ジエチルアミノ-7-ジエチルイミノフェノキサゾニウムパークロレート;2-(1-ナフチル)-5-フェニルオキサゾール;2,2'-p-フェニレン-ビス(5-フェニルオキサゾール);ローダミン700;ローダミン800;ピレン;クリセン;ルブレン;コロネンなど、または前述の色素の少なくとも1つを含む組合せが含まれる。色素は、一般に、ポリカーボネート樹脂、ならびにすべての任意選択の芳香族ビニルコポリマーおよび/または耐衝撃性改良剤の重量に対して約0.1〜約10ppmの量で使用する。
【0149】
添加することができる適当な難燃剤は、リン、臭素、および/または塩素を含む有機化合物でよい。ある種の用途においては規制上の理由で、臭素化されておらずかつ塩素化されていないリン含有難燃剤、例えば有機ホスフェートおよびリン-窒素結合を含有する有機化合物が好ましい。
【0150】
例示的な有機ホスフェートの1つの種類は、式(GO)3P=Oの芳香族ホスフェートであり、式中、それぞれのGは独立にアルキル、シクロアルキル、アリール、アルカリール、またはアラルキル基であり、少なくとも1つのGは芳香族基であるという条件が付く。2つのG基は、一緒になって環状基、例えばAxelrodによって米国特許第4154775号に記載されているジフェニルペンタエリスリトールジホスフェートを与えてもよい。他の適当な芳香族ホスフェートは、例えば、フェニルビス(ドデシル)ホスフェート、フェニルビス(ネオペンチル)ホスフェート、フェニルビス(3,5,5'-トリメチルヘキシル)ホスフェート、エチルジフェニルホスフェート、2-エチルヘキシルジ(p-トリル)ホスフェート、ビス(2-エチルヘキシル)p-トリルホスフェート、トリトリルホスフェート、ビス(2-エチルヘキシル)フェニルホスフェート、トリ(ノニルフェニル)ホスフェート、ビス(ドデシル)p-トリルホスフェート、ジブチルフェニルホスフェート、2-クロロエチルジフェニルホスフェート、p-トリルビス(2,5,5'-トリメチルヘキシル)ホスフェート、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェート、などでよい。具体的な芳香族ホスフェートは、それぞれのGが芳香族、例えばトリフェニルホスフェート、トリクレシルホスフェート、イソプロピル化トリフェニルホスフェートなどのものである。
【0151】
二官能性または多官能性芳香族リン含有化合物、例えば以下の式の化合物も有用である:
【0152】
【化21】

【0153】
式中、それぞれのG1は、独立に1〜約30個の炭素原子を有する炭化水素であり;それぞれのG2は、独立に1〜約30個の炭素原子を有する炭化水素またはハイドロカーボンオキシであり;それぞれのXaは、上記で定義した通りであり;それぞれのXは、独立に臭素または塩素であり;mは、0〜4であり、nは、1〜約30である。適当な二官能性または多官能性芳香族リン含有化合物の例には、レゾルシノール、テトラフェニルジホスフェート(RDP)、それぞれヒドロキノンのビス(ジフェニル)ホスフェートおよびビスフェノールAのビス(ジフェニル)ホスフェート、これらのオリゴマー状およびポリマー状対応物などが含まれる。
【0154】
例となる適当なリン-窒素結合を含有する難燃化合物には、ホスホニトリルクロリド、リン酸エステルアミド、リン酸アミド、ホスホン酸アミド、ホスフィン酸アミド、トリス(アジリジニル)ホスフィンオキシドが含まれる。
【0155】
ハロゲン化された物質、例えば式(23)のハロゲン化化合物および樹脂も難燃剤として使用することができる:
【0156】
【化22】

【0157】
式中、Rは、アルキレン、アルキリデンまたは脂環式連結鎖、例えばメチレン、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、イソプロピリデン、ブチレン、イソブチレン、アミレン、シクロヘキシレン、シクロペンチリデンなど;または酸素エーテル、カルボニル、アミン、もしくはイオウ含有連結鎖、例えばスルフィド、スルホキシド、スルホンなどである。Rはまた、芳香族、アミノ、エーテル、カルボニル、スルフィド、スルホキシド、スルホンなどの基で接続された2つ以上のアルキレンまたはアルキリデン連結鎖で構成されることもできる。
【0158】
式(23)中のArおよびAr'は、それぞれ独立に単環または複環の炭素環式芳香族基例えばフェニレン、ビフェニレン、ターフェニレン、ナフチレンなどである。
【0159】
Yは、有機、無機、または有機金属基、例えば(1)ハロゲン、例えば、塩素、臭素、ヨウ素、フッ素、または(2)一般式OEのエーテル基、式中、Eは、Xと類似の一価の炭化水素基または(3)Rで表される種類の一価の炭化水素基または(4)他の置換基、例えば、ニトロ、シアノなどであり、前記置換基は、本質的に不活性であり、アリール核1つ当たりに少なくとも1つ、場合によっては2つのハロゲン原子があることという条件が付く。
【0160】
存在する場合には、それぞれのXは、独立に一価の炭化水素基、例えばアルキル基例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、デシルなど;アリール基、例えばフェニル、ナフチル、ビフェニル、キシリル、トリルなど;アラルキル基、例えばベンジル、エチルフェニルなど;および脂環式基例えばシクロペンチル、シクロヘキシルなどである。一価の炭化水素基は、それ自体が不活性な置換基を含有してもよい。
【0161】
それぞれのdは、独立に1からArまたはAr'を構成する芳香族環上にある置換可能な水素の数と等価な最大数までである。それぞれのeは、独立に0からR上にある置換可能な水素の数と等価な最大数までである。それぞれのa、b、およびcは、独立に0を含む整数である。bが0でない場合は、aもcも0にはなれない。そうでない場合は、aまたはcの、両方ではなく、どちらかは0でもよい。bが0である場合は、芳香族基は直接炭素-炭素結合によって接続される。
【0162】
芳香族基ArおよびAr'上のヒドロキシルおよびY置換基は、芳香族環上のオルト、メタまたはパラ位で変えることができ、かつこれらの基は互いに可能などの幾何学的関係にもあることができる。
【0163】
上の式の範囲内にはビスフェノールが含まれ、それらのうちで以下のものが代表的である: 2,2-ビス-(3,5-ジクロロフェニル)-プロパン: ビス-(2-クロロフェニル)-メタン: ビス(2,6-ジブロモフェニル)-メタン;1,1-ビス-(4-ヨードフェニル)-エタン;1,2-ビス-(2,6-ジクロロフェニル)-エタン;1,1-ビス-(2-クロロ-4-ヨードフェニル)-エタン;1,2-ビス-(2-クロロ-4-メチルフェニル)-エタン;1,1-ビス-(3,5-ジクロロフェニル)-エタン;2,2-ビス-(3-フェニル-4-ブロモフェニル)-エタン;2,6-ビス-(4,6-ジクロロナフチル)-プロパン;2,2-ビス-(2,6-ジクロロフェニル)-ペンタン;2,2-ビス-(3,5-ジブロモフェニル)-ヘキサン;ビス-(4-クロロフェニル)-フェニルメタン;ビス-(3,5-ジクロロフェニル)-シクロヘキシルメタン;ビス-(3-ニトロ-4-ブロモフェニル)-メタン;ビス-(4-ヒドロキシ-2,6-ジクロロ-3-メトキシフェニル)-メタン;2,2-ビス-(3,5-ジクロロ-4-ヒドロキシフェニル)-プロパン;および2,2-ビス-(3-ブロモ-4-ヒドロキシフェニル)-プロパンがある。同様に上記の構造式の中に含まれるものには、1,3-ジクロロベンゼン、1,4-ジブロモベンゼン、1,3-ジクロロ-4-ヒドロキシベンゼン、ならびにビフェニル例えば2,2'-ジクロロビフェニル、複数ブロム化された1,4-ジフェノキシベンゼン、2,4'-ジブロモビフェニル、および2,4'-ジクロロビフェニルならびにデカブロモジフェニルオキシドなどがある。
【0164】
同様に有用なものは、オリゴマー状およびポリマー状のハロゲン化された芳香族化合物、例えばビスフェノールAとテトラブロモビスフェノールAのコポリカーボネート、およびカーボネート前駆体例えばホスゲンである。金属相乗剤例えば酸化アンチモニーも難燃剤と共に使用することができる。
【0165】
無機難燃剤、例えばC2〜16アルキルスルホン酸塩例えばパーフルオロブタンスルホン酸カリウム(Rimer salt)、パーフルオロオクタンスルホン酸カリウム、パーフルオロヘキサンスルホン酸テトラエチルアンモニウム、およびジフェニルスルホンスルホン酸カリウムなどの塩;例えばアルカリ金属またはアルカリ土類金属(例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムおよびバリウム塩)および無機酸錯塩、例えばオキソアニオンを反応させることによって形成される塩、例えば炭酸のアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩、例えばNa2CO3、K2CO3、MgCO3、CaCO3、およびBaCO3、またはフルオロアニオン錯体例えばLi3AlF6、BaSiF6、KBF4、K3AlF6、KalF4、K2SiF6、および/またはNa3AlF6なども使用することができる。
【0166】
難燃剤の別の有用な種類は、式(24)の反復構造単位を含むポリジオルガノシロキサンブロックを有するポリシロキサン-ポリカーボネートコポリマーである:
【0167】
【化23】

【0168】
式中、各Rは出現するごとに、互いに同じまたは異なって、C1〜13一価有機基である。例えば、Rは、C1〜C13アルキル基C1〜C13アルコキシ基、C2〜C13アルケニル基、C2〜C13アルケニルオキシ基、C3〜C6シクロアルキル基、C3〜C6シクロアルコキシ基、C6〜C10アルール基、C6〜C10アリールオキシ基、C7〜C13アラルキル基、C7〜C13アラルコキシ基、C7〜C13アルカリル基、またはC7〜C13アルカリールオキシ基でよい。前述のR基の組合せを同じコポリマー中で使用することができる。式(24)中のR2は、二価のC1〜C8脂肪族基である。式(24)中のそれぞれのMは、同じまたは異なって、ハロゲン、シアノ、ニトロ、C1〜C8アルキルチオ、C1〜C8アルキル、C1〜C8アルコキシ、C2〜C8アルケニル、C2〜C8アルケニルオキシ基、C3〜C8シクロアルキル、C3〜C8シクロアルコキシ、C6〜C10アリール、C6〜C10アリールオキシ、C7〜C12アラルキル、C7〜C12アラルコキシ、C7〜C12アルカリール、C7〜C12アルカリールオキシでよく、式中、それぞれのnは、独立に0、1、2、3、または4である。
【0169】
式(24)中の下付き文字dは、熱可塑性組成物に有効なレベルの難燃性を提供するように選択する。したがって、dの値は、ポリカーボネート、耐衝撃性改良剤、ポリシロキサン-ポリカーボネートコポリマー、および他の難燃剤の種類と量を含む、熱可塑性組成物の各成分の種類および相対的な量に応じて変化する。適当なdの値は、当業者によって、本明細書において教示される指針を使用して、不必要な実験を行うことなく決定され得る。一般には、dは、2〜約1000、詳しくは約10〜約100、より詳しくは約25〜約75の平均値を有する。一実施形態においては、dは、約40〜約60の平均値を有し、さらに他の実施形態においては、dは、約50の平均値を有する。dが小さめの値、例えば約40未満である場合は、比較的多めの量のポリシロキサン-ポリカーボネートコポリマーを使用することが必要なことがある。反対に、dが大きめの値、例えば約40超である場合は、比較的少なめの量のポリシロキサン-ポリカーボネートコポリマーを使用することが必要なことがある。
【0170】
一実施形態においては、Mは、独立にブロモまたはクロロ、C1〜C3アルキル基例えばメチル、エチル、もしくはプロピル、C1〜C3アルコキシ基例えばメトキシ、エトキシ、もしくはプロポキシ、またはC6〜C7アリール基例えばフェニル、クロロフェニル、もしくはトリルであり、R2は、ジメチレン、トリメチレン、またはテトラメチレン基であり、およびRは、C1〜8アルキル、ハロアルキル例えばトリフルオロプロピル、シアノアルキル、またはアリール例えばフェニル、クロロフェニルもしくはトリルである。他の一実施形態においては、Rは、メチル、またはメチルおよびトリフルオロプロピルの混合物、またはメチルおよびフェニルの混合物である。さらに他の一実施形態においては、Mはメトキシであり、nは1であり、R2は二価のC1〜C3脂肪族基であり、Rはメチルである。
【0171】
ポリシロキサン-ポリカーボネートコポリマーは、対応するジヒドロキシポリシロキサンの、カーボネート源および式(3)のジヒドロキシ芳香族化合物との、場合により上記のエステル交換触媒の存在下での、反応によって製造することができる。適当な条件はポリカーボネートの形成において有用なものと類似である。あるいは、ポリシロキサン-ポリカーボネートコポリマーは、ジヒドロキシモノマーおよびジアリールカーボネートエステル、例えばジフェニルカーボネートを、上記の相間移動触媒の存在下で、溶融状態で共反応させることによって調製することができる。一般には、ジヒドロキシポリジオルガノシロキサンの量は、ポリカーボネートブロックのモル数に対して約1〜約60モルパーセントのポリジオルガノシロキサンブロック、より一般にはポリカーボネートブロックのモル数に対して約3〜約50モルパーセントのポリジオルガノシロキサンブロックを含むコポリマーを生成するように選択する。
【0172】
防滴剤、例えば線維形成性または線維形成性でないフルオロポリマー例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)も使用することができる。防滴剤は、上記の剛性コポリマー、例えばSAN中にカプセル化されていてもよい。SAN中にカプセル化されたPTFEはTSANとして知られている。カプセル化されたフルオロポリマーは、カプセル化するポリマーを、例えば水性分散体の、フルオロポリマーの存在下で重合させることによって作ることができる。TSANは、TSANの方が組成物中に分散させやすいという点で、PTFEを超える顕著な利点を提供する。適当なTSANは、例えば、カプセル化されたフルオロポリマーの全重量に対して約50重量%のPTFEおよび約50重量%のSANを含めばよい。SANは、例えば、コポリマーの全重量に対してスチレン約75重量%およびアクリロニトリル約25重量%を含めばよい。あるいは、フルオロポリマーは、何らかの方法で第2のポリマー、例えば芳香族ポリカーボネート樹脂またはSANと、予めブレンドされて防滴剤として使用するための造粒物を形成してもよい。いずれの方法もカプセル化されたフルオロポリマーを製造するために使用することができる。
【0173】
発泡体を所望する場合、適当な発泡剤には、例えば、低沸点ハロ炭化水素および二酸化炭素を発生するもの;室温では固体であり、その分解温度よりも高い温度まで加熱されると窒素、二酸化炭素またはアンモニアガスなどのガスを発生する発泡剤、例えばアゾジカーボンアミド、アゾジカーボンアミドの金属塩、4,4'-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウムなど、または前述の発泡剤の少なくとも1つを含む組合せが含まれる。
【0174】
本熱可塑性組成物は、当技術分野において一般に利用可能な方法によって製造することができ、例えば、一実施形態において、手順の1つの方法では、粉末にしたポリカーボネート樹脂、鉱物充填材、酸または酸塩、任意選択の耐衝撃性改良剤、任意選択の芳香族ビニルコポリマーおよびすべての他の任意選択の成分は、場合により他の充填材と共に、まずHenschel(商標)高速度ミキサーまたは他の適当なミキサー/ブレンダー中でブレンドされる。他の、手で混合することを含むがこれだけには限定されない低せん断法も、このブレンドを達成することができる。次いでブレンドはホッパーを経て二軸スクリュー押出機の投入口に供給される。あるいは、1つまたは複数の成分を、投入口および/または下流の脇の投入口から直接押出機の中へ供給することによって、組成物中に組み入れることができる。かかる添加物は、所望のポリマー樹脂と共に配合してマスターバッチとし、押出機に供給することもできる。押出機は、一般に、組成物を流動させるのに必要な温度よりも高い温度で操作される。押し出されたものは、直ちに水浴中で急冷してペレット化する。こうして調製されたペレットは、押出物を切断する場合は、所望により4分の1インチ以下の長さでよい。かかるペレットは、以後の成形、シェーピング、またはフォーミングで使用することができる。
【0175】
本ポリカーボネート組成物を含むシェーピング、フォーミング、または成形された物品も提供される。本ポリカーボネート組成物は、射出成形、押出成形、回転成形、ブロー成形、熱成形などのさまざまな手段によってシェーピングされた有用な物品に成形されて、物品、例えばコンピューターおよびビジネス機器のハウジング例えばモニターのハウジング、手持ち用電子デバイスのハウジング例えば携帯電話のハウジング、電気接続具、および照明器具の部品、装飾、家庭用器具、屋根、温室、サンルーム、水泳プールの囲い、電子デバイスのケーシング、および標識などを形成する。加えて、本ポリカーボネート組成物は、自動車用パネルおよび装飾などの用途に使用することができる。
【0176】
本組成物は、表1に示す成分から調製された以下の非限定的実施例によってさらに例示される。
【0177】
【表1】


【0178】
5つのサンプル組成物のそれぞれは、表2中の量に従って調製した。すべての量は重量パーセントで表す。サンプル1は、充填材および酸を入れていない対照サンプルであり、サンプル2は、充填材入りで酸は入っていない対照サンプルであり、サンプル3〜5は、異なる酸量の本発明の実施例である。分子量およびメルトフローレートを測定した結果を表2で示す。実施例のそれぞれにおいて、サンプルは、Werner & Pfleider(商標)の25mm 二軸スクリュー押出機による、300℃(572°F)の公称メルト温度、約0.7barの水銀真空、約300rpmにおけるメルトエクストルージョンによって調製した。押出物はペレット化し、約120℃(248°F)で約2時間乾燥した。試験試料を作るために、乾燥ペレットを110トン射出成形機によって310℃の公称メルト温度で射出成形したが、このとき射出成形機の胴の温度は約310℃〜約325℃で変動した。前に記載した加工条件を本明細書では「純粋な」ポリカーボネートブレンド(耐衝撃性改良剤などが入っていない)のための高温プロファイルと呼ぶ。
【0179】
【表2】

【0180】
表2から分かるように、タルクを含有しているが酸は含有していないサンプル2は、MVRの顕著な増加と分子量の低下を生じ、それによって充填剤を添加するとポリカーボネートが分解することを示している。サンプル3〜5は、すべてサンプル2よりも大幅に良好な分子量を有しており、タルクを含まないサンプル1の分子量に近く、分解が大幅に少なかったことを示している。
【0181】
表1の材料を使用して追加のサンプルを作った。加えて、0.85重量%の添加物を、当業者には知られているように各サンプルに添加した。この添加物パッケージは、離型剤ならびに主たる酸化防止剤および副次的な酸化防止剤を含んでいた。これらの実施例のそれぞれにおいて、Werner & Pfleider(商標)の25mm二軸スクリュー押出機による、約280℃(536°F)の公称メルト温度、約0.7barの水銀真空、約450rpmにおけるメルトエクストルージョンによってサンプルを調製した。押出物はペレット化し、約100℃(212°F)で約2時間乾燥した。試験試料を作るために、乾燥ペレットを110トン射出成形機によって280℃(536°F)の公称メルト温度で射出成形したが、このとき射出成形機の胴の温度は約280℃〜約295℃(536°F〜563°F)で変動した。前に記載した加工条件を本明細書では耐衝撃性改良ポリカーボネートブレンドのための低温プロファイルと呼ぶ。配合は表3に示し、結果は表4に示す。表3にあるすべての量は、別途に指定しない限りは重量パーセントである。
【0182】
【表3】

【0183】
表3の組成物を、ポリカーボネートの分子量、メルト体積流量、ノッチ付きシャルピー衝撃強度、曲げ弾性率、熱変形温度、ノッチ付きアイゾッド衝撃強度、溶融粘度およびビカットB/50を求めるために試験した。実施例において使用するこれらの試験および他の試験(引張りおよび柔軟プレート衝撃特性など)の詳細は当業者には知られており、以下のように要約することができる。
【0184】
ノッチ付きシャルピー衝撃試験ISO179は、プラスチック材料の耐衝撃性を比較するために使用される。ノッチ付きシャルピー衝撃強度は、厚さ4mmの成形衝撃バーを使用して判定する。このISOの結果は、試験試料を破壊するために使用された衝撃エネルギーをジュールで表したものを、ノッチの位置での試料の面積で割ったものと定義される。結果はkJ/m2で記録される。
【0185】
分子量は、塩化メチレン溶媒中でのゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定される。ポリスチレン較正標準が判定に使用され、相対的な分子量が記録される(記録される値はポリスチレンと相対比較したポリカーボネート分子量であって、絶対的なポリカーボネートの分子量数ではない)。通常、重量平均の分子量の変化が使用される。これはポリマー材料の鎖長の変化を測る手段を提供し、これは加工された結果としての熱可塑性物質の分解の程度を判定するために使用することができる。分解した材料は、一般に低下した分子量を示し、劣化した物理的特性を示すこともありうる。通常、分子量は加工の前後で判定し、次いで相違のパーセンテージを計算する。
【0186】
メルト体積流量(MVR)は、表2のサンプルについては2.16キログラムの錘を使用して300℃で10分間にわたって、表3のサンプルについては5キログラムの錘を使用して260℃で10分間にわたって、ISO1133に従って判定した。
【0187】
アイゾッド衝撃強度試験ISO180(「NII」)は、プラスチック材料の耐衝撃性を比較するために使用される。アイゾッド衝撃強度は厚さ4mmの成形されたノッチ付きアイゾッド衝撃(INI)バーを使用して判定された。これはISO180/1Aによって判定された。ISOの表示は試料の型およびノッチの形を反映している:ISO180/1Aは試料の1型およびノッチのA型を意味する。ISO180/1Uは、同じ1型試料、ただし逆向きにクランプされることを意味する(ノッチなしを示唆している)。ISOの結果は、試験試料を破壊するのに使用された衝撃エネルギーをジュールで表したものを、ノッチの位置での試料の断面積で割ったものと定義される。結果はkJ/m2で記録される。
【0188】
曲げ弾性率は厚さ4mmのINIバーを使用して、ISO178に従って判定した。
【0189】
熱変形温度(HDT)は、材料の、荷重を支えながら高められた温度で短時間機能する能力の相対的尺度である。この試験は、剛性に対する温度の影響を測定する:標準の試験試料に所定の表面応力を与えて、温度を一定の速度で上げる。熱変形試験(HDT)は、ISO75Afに従って、平らな厚さ4mmのバー、指示の通り1.8Mpaおよび/または0.45Mpaを加えられた成形された引張りバーを使用して判定した。試験基準では言及されていないが、2つのacronymは、共通に使用した: HDT/Aは荷重1.80Mpa用、HDT/Bは荷重0.45Mpa用。
【0190】
ビカット軟化温度(ISO306)は、プラスチックが急速に軟化し始める温度の目安である。丸くて先端が平らな断面積1mm2の針が、所定の荷重を受けているプラスチックの試験試料の表面を貫入し、温度を一定の速度で上昇させる。ビカット軟化温度、即ちVSTは、貫入が1mmに達する温度である。ISO306は、2つの方法を記載している: 方法A-荷重10ニュートン(N)、方法B-荷重50N、温度上昇の可能な速度は2つある: 50℃/時間(℃/h)または120℃/h。この結果ISO値はA/50、A/120、B/50、またはB/120として提示される。試験アセンブリは開始温度23℃の加熱浴に漬ける。5分間(min)後に荷重を掛ける: 10Nまたは50N。圧入する先端が1±0.01mm貫入したときの浴の温度を、選択した荷重および温度上昇におけるその材料のVSTとして記録する。
【0191】
溶融粘度(MV)は、分子鎖が互いに相対的に動ける所定の温度のポリマーの測定値である。溶融粘度は、分子量が高いほど、絡み合いが強くかつ溶融粘度は高いという点で、分子量に依存する。したがって、溶融粘度は、熱可塑性材料の分解の程度を判定するために使用することができる。分解した材料は、一般に低下した粘度を示し、劣化した物理的特性を示すことがありうる。溶融粘度は、100;500;1,000;1,500;5,000;および10,000s-1 などの異なるせん断速度対して判定され、ISO11443によって好都合に判定することができる。
【0192】
引張り強度および引張り伸びなどの引張り特性は、厚さ4mmの成形引張りバーを使用してISO527に従って5mm/minで判定した。特定の用途のために所望とあれば、50mm/minで測定することも可能ではあるが、表5〜10中の実験において測定されたサンプルは、5mm/minで測定し、表12および13中のものは50mm/minで測定した。引張り弾性率は、常に試験の開始時に初期速度1mm/minで測定し、その後試験を5mm/minまたは50mm/minで続けて、他の引張り特性を測定した。
【0193】
柔軟プレート衝撃強度は、ISO6603に従って判定され、記載されている実験においては2.25m/sの衝撃速度で測定する。記録される値はFPI%で表した延性および破裂エネルギーである。FPI%延性(0または20℃などのある温度で)は、衝撃試験に失敗したときに剛性破壊ではなく延性破壊を示した5つのサンプルのパーセンテージとして記録される。剛性破壊は亀裂の発生および破片の形成によって特徴付けられる。破裂エネルギーは、所与の温度における材料のエネルギー吸収能力の目安である。
【0194】
サンプル6〜9に関する試験の結果は、下の表4に示す。
【0195】
【表4】

【0196】
表4は、充填されたブレンドに亜リン酸(酸1)が添加された場合には、ノッチ付き衝撃特性(シャルピーおよびアイゾッド両方)が向上することを例示している。酸および充填材の組合せは、ポリカーボネートの分解を効果的に防止するかまたは分解の量を少なくする。
【0197】
さまざまな充填材の種類、酸の種類、および酸のレベルを比較するために、追加のサンプルを、先に記載したのと同じ方法で、表1の材料を使用して調製した。配合および結果を、以下の表5〜11に示す。
【0198】
押出しおよび成形のための操作条件が2組ある。「純粋な」ポリカーボネートブレンド(表2にあるものなどの耐衝撃性改良剤またはビニル芳香族コポリマーがないもの)は、表2のサンプルに関して記載した高温プロファイルを使用して製造する。耐衝撃性改良ポリカーボネートブレンドは、表3および4のサンプルに関して記載したような低温プロファイルを使用して製造する。
【0199】
【表5】

【0200】
【表6】

【0201】
【表7】

【0202】
【表8】

【0203】
【表9】

【0204】
【表10】

【0205】
【表11】

【0206】
表5は、充填材はないが、さまざまなレベルの酸があるサンプルは、充填材があるものよりもポリカーボネートブレンドの分解が多いことを例示している。サンプル11、14および17をサンプル18、19および20と比較されたい。サンプル11、14および17は、8%のタルクならびにそれぞれ0.03、0.24、および1.92%の酸レベルを有しているが、サンプル18、19および20は、同じ酸レベルを有しているが、充填材は添加されていない。-20℃におけるFPI延性は、極めて少量(約0.03%)の酸の添加およびわずかに0.00375の酸対充填材の重量比によって顕著に向上する。諸特性の最良のバランスを有するポリカーボネートブレンドを提供する最適の結果は、より高い酸レベルである約0.06%〜約0.96%の酸において、酸対充填材の重量比が約0.0075〜約0.12で達成された。
【0207】
表6は、さまざまな酸の効果を例示しており、一部の酸が充填されたポリカーボネートに対して他のものよりも大きい効果を有することを示してはいるが、実施例で使用したすべての酸は充填ポリカーボネートに添加された場合に、有効でありかつ特性の良好なバランスおよび分子量の保持をもたらした。
【0208】
表7は、1つの酸(亜リン酸、酸1など)が異なる充填材と一緒になったときの効果を比較しており、酸はガラス充填ポリカーボネートに対してはわずかな改善効果しかないことを示している。この表の結果は、酸が、ほとんどの事例において、鉱物充填ポリカーボネートの性能を顕著に向上させることをも裏付けるものである。
【0209】
表8は、さまざまなレベルのタルクを有し、酸が添加されているサンプルおよび酸が添加されていないサンプルを比較している。サンプル37〜40は、2〜20%の充填材レベルを有して酸は含まず、サンプル41〜44は、同じ充填材および充填材レベルを有し、0.06〜0.6%で増加する酸レベルを、0.03:1で一定に留まる酸対充填材の重量比で有する。加えて、充填材を有するが酸は有さないサンプル38を、酸は有するが充填材は有さないサンプル45と比較すると、充填材と酸の組合せがないとポリカーボネートブレンドは分解することが分かる。表6および7で示すように、サンプル22は、充填されたポリカーボネートブレンドに対する酸の添加の効果を、酸がポリカーボネートの分解を誘発するものと明瞭に示している。しかし、意外にも、鉱物が充填されたポリカーボネートまたはポリカーボネートブレンドへの酸の添加は、非常に高い酸レベルでさえ鉱物が充填されたポリカーボネートまたはポリカーボネートブレンドを顕著に向上させる(例えば、表5を参照されたい)。
【0210】
表8および9は、2種類の充填材をさまざまな酸レベルにおいて、それぞれの充填材を2つの異なる酸対充填材比で、および異なるTSANレベルで比較して、比較している。充填材1(Jetfine 3CA)は、酸と共に使用した場合に、充填材2(タルク9102)よりも良好な性能を示した。加えて、追加の成分としてTSANを有するブレンドは、TSANがないものと同じレベルの向上を示さなかった。サンプル58〜63は、流動性、衝撃強度および剛性(延性)などの物理的特性の良好なブレンドを示した。
【0211】
サンプル64および65のポリカーボネートの分子量(PC Mw)を、加工(押出しおよび成形)の前後で測定した。表11は、サンプル64および65のPC Mwを比較している。サンプル64は、ブレンドへの酸を有していなかった。サンプル64のポリカーボネート分子量(PC Mw)は、当初56000、押出しおよび成形後46800と測定され、サンプル65のPC Mwは当初46000、押出しおよび成形後45500と測定された。サンプル65は、わずかに100%より低いPC Mw保持を示したが、酸を有さなかったサンプル64は、約84%のMw保持しかなかった。サンプル64は高いPC Mwでスタートしたが、成形されたサンプルのPC Mwは分解のために低下して、押出しおよび成形後には、ごくわずかしか分解しなかったサンプル65と同程度であった。サンプル65は、サンプル64よりも優れた衝撃強度およびより良好な流動性(低い粘度)を有し、優れた衝撃強度/流動性のバランスをもたらす酸添加の効果を明瞭に実証している。特性の優れたバランスに加えて、分子量保持(即ちポリカーボネートの分解がないこと)は、顧客にとって反りなどの欠陥または不都合な特性を避けるために必要な加工安定性を提供する。
【0212】
ポリカーボネート/ポリ(エチレンテレフタレート)(PC/PET)ブレンド中のさまざまな酸の種類およびレベルを比較するために、表1の材料を使用して追加のサンプルを調製した。サンプルは、溶融温度が約5〜10℃高いので、材料を270℃で配合し、約275℃で成形した以外は、先に記載したものと同じ方法で調製した。配合および結果を以下の表12および13に示す。
【0213】
【表12】

【0214】
【表13】

【0215】
充填された、および充填されていないポリカーボネート/ポリ(エチレンテレフタレート)ブレンドへのさまざまな酸および酸塩の添加は、PC/PETブレンドを分解した。PC/PETブレンドは、酸を添加すると衝撃強度などの特性の低下、およびMVRの増大を示した。これらの実施例は、PC/PETブレンドなどある種のポリカーボネートブレンドへの比較的多い量(即ち、ポリカーボネートまたはポリカーボネートブレンドのクエンチングおよび安定化に必要とするより多い量)での酸の添加は、常に衝撃強度および流動性などの特性のバランスをもたらすとは限らないことを示している。かなり低いレベルでの酸の添加(酸/充填材重量比0.0053の場合で0.08%)でさえ、PC/PETブレンドの特性は望ましくないほど低下し始める。
【0216】
単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明らかにそうではないことを示さない限りは、複数の対象を含む。同じ特徴を示す、すべての範囲の両終点は、組合せ可能であり、かつ示した両終点を包含する。すべての参考文献は参照により本明細書に組み入れる。化合物は標準の命名法により記載されている。例えば、表示されているいかなる基によっても置換されていないいかなる位置も、その結合価は表示されている結合または水素原子によって満たされているものと解釈する。2つの文字または記号の間にはないダッシュ(「-」)は、置換基のための接続点を表示するために使用されている。例えば、-CHOは、このカルボニル基の炭素を通じて接続されている。量に関連して使用されている「約」という修飾語は、ある量が記載されている値を包含しかつ文脈によって決定される意味を有する(例えば、特定の量の測定に付随する誤差の程度を含む)。
【0217】
例示の目的で通常の実施形態を提示したが、前記の記載は、本明細書の範囲に対する限定とみなしてはならない。したがって、当業者は、本明細書の精神および範囲を逸脱することなく、さまざまな変更形態、適合形態、代替形態を考えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂、
鉱物充填材、および
酸または酸塩
を含み、酸または酸塩が、少なくとも0.0035:1の酸対充填材の重量比で組成物中に存在する熱可塑性組成物。
【請求項2】
前記酸が無機酸または無機酸塩である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記鉱物充填材が、タルク、粘土、マイカ、ケイ灰石、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
芳香族ビニルコポリマーをさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記芳香族ビニルコポリマーがSANを含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
耐衝撃性改良剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記耐衝撃性改良剤が、ABS、MBS、バルクABS、AES、ASA、MABS、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記酸または酸塩が、少なくとも0.005:1の酸対充填材の重量比で組成物中に存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記酸または酸塩が、少なくとも0.0075:1の酸対充填材の重量比で組成物中に存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1に記載の組成物を含む物品。
【請求項11】
請求項1に記載の組成物を、成形、押出し、シェーピングまたはフォーミングして物品を形成する段階を含む、物品を形成する方法。
【請求項12】
ポリカーボネート樹脂、
鉱物充填材、および
無機酸または無機酸塩
を含み、前記酸または酸塩が、0.0035:1超の酸対充填材の重量比で組成物中に存在する熱可塑性組成物。
【請求項13】
耐衝撃性改良剤をさらに含む、請求項12に記載の熱可塑性組成物。
【請求項14】
前記酸または酸塩が、少なくとも0.005:1の酸対充填材の重量比で組成物中に存在する、請求項12に記載の組成物。
【請求項15】
前記酸または酸塩が、少なくとも0.0075:1の酸対充填材の重量比で組成物中に存在する、請求項12に記載の組成物。
【請求項16】
ポリカーボネート樹脂、
耐衝撃性改良剤、
鉱物充填材、および
酸または酸塩
を含み、組成物中に、酸または酸塩が、0.0035:1超の酸対充填材の比で存在する熱可塑性組成物。
【請求項17】
芳香族ビニルコポリマーをさらに含む、請求項16に記載の熱可塑性組成物。
【請求項18】
前記酸が無機酸または無機酸塩である、請求項16に記載の組成物。
【請求項19】
前記鉱物充填材が、タルク、粘土、マイカ、ケイ灰石、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項16に記載の組成物。
【請求項20】
前記酸または酸塩が、少なくとも0.005:1の酸対充填材の重量比で組成物中に存在する、請求項16に記載の組成物。
【請求項21】
前記酸または酸塩が、少なくとも0.0075:1の酸対充填材の重量比で組成物中に存在する、請求項16に記載の組成物。

【公表番号】特表2008−544018(P2008−544018A)
【公表日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−516809(P2008−516809)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【国際出願番号】PCT/US2005/027146
【国際公開番号】WO2007/001330
【国際公開日】平成19年1月4日(2007.1.4)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【復代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
【Fターム(参考)】