説明

含フッ素ジオール及びその誘導体の製造方法

【課題】工業的規模での製造に適した含フッ素ジオールの製造方法を提供する。
【解決手段】ヒドロキシケトンをルテニウム触媒の存在下、水素により還元することにより、含フッ素ジオールを得る。従来、非常に高い温度や反応圧力等、過酷な条件が必要であったのに比べ、本発明では、従来よりも非常に低い温度及び圧力下で反応させることにより、従来よりも高選択率及び高収率で目的物である含フッ素ジオールを製造できる。また得られた含フッ素ジオールは、アクリル酸誘導体と反応させると、有用なモノマーである、含フッ素アクリル酸エステルに誘導できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、次世代フォトレジストに対応するモノマー原料として有用な化合物である式[2]で表される含フッ素ジオール
【0002】
【化6】

【0003】
の製造方法に関する。
【背景技術】
【0004】
含フッ素ジオール類のアクリル酸、メタクリル酸等アクリル酸類のエステルは、次世代レジスト材料のモノマー原料として有望な化合物であり、該エステルを構成要素として含有するレジストは光の透過性、表面吸着性に優れていることが知られている(特許文献1)。本発明の目的化合物である式[2]で示される含フッ素ジオールに関しても、これから誘導される、式[4]で表される含フッ素エステル
【0005】
【化7】

【0006】
(式中、R1はH,Cm2m+1,Cn2n+1の何れかの基を表す(m、nは各々1〜4の整数を表す)
も次世代レジスト材料のモノマー原料として有望な化合物である。
【0007】
本発明の目的物である、式[2]で示される含フッ素ジオールの関連する製造技術として、従来、式[5]で表される含フッ素ヒドロキシケトン
【0008】
【化8】

【0009】
(式中、R1は水素原子、または炭素数1〜7の鎖状もしくは環状アルキル基である。R2は炭素数1〜7の鎖状もしくは環状アルキル基、フェニル基または置換されたフェニル基である。R1およびR2はつながって環を形成していてもよい。)を、イソプロパノールを溶媒として、アルミニウムイソプロポキシドで還元し、式[6]で表される含フッ素ジオール類
【0010】
【化9】

【0011】
(式中、R1、R2は式[5]に同じ)
を得る方法が知られている(特許文献2)。
【特許文献1】特開2003−040840号公報
【特許文献2】米国特許3662071号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献2の方法では、イソプロパノールを溶媒として、大量のアルミニウムイソプロポキシドを還元剤として使用しているので、アルミニウム廃棄物、含有機排水等を大量に排出するという問題があり、工業的規模で実施する場合には、負荷のかかるものであった。
【0013】
ここで本発明では、式[2]で示される含フッ素ジオールの製造方法を工業規模で実施しうる条件を提供することが課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らはかかる従来技術の問題点に鑑み、鋭意検討を行った。その結果、式[1]で示されるヒドロキシケトン
【0015】
【化10】

【0016】
をルテニウム触媒の存在下、水素により還元することにより、式[2]で示される含フッ素ジオール
【0017】
【化11】

【0018】
を穏和な反応条件で、廃棄物も少なく、収率良く製造できることを見出した(第1工程)。
【0019】
ここで、「ルテニウム触媒」とは、ルテニウム金属、またはルテニウムを担体(活性炭、アルミナ、シリカ、クレー等)に担持したものの他、ルテニウム塩(例えば、RuCl3,RuBr3、Ru(NO33など)、ルテニウム錯体(例えばRu(CO)5,Ru(NO)5,K4[Ru(CN)6]、Ru(phen)3Cl3(なおphenはフェナントロリンを表す))、酸化ルテニウム等のことを指す。
【0020】
本発明者らは、式[5]で表される含フッ素ヒドロキシケトン
【0021】
【化12】

【0022】
をルテニウム触媒の存在下、水素と接触させることにより、式[6]で表される含フッ素ジオール類を製造できることを見出し、既に特許出願している(特願2005−018862号)。
【0023】
当該方法によれば、式[5]で表される出発化合物として、「R1がHであり、かつR2がシクロヘキシル基である化合物」(次の式[7]で表される化合物)
【0024】
【化13】

【0025】
を用いることにより、本願の目的物である式[2]で表される含フッ素ジオールを製造できることになる。しかしながら、式[7]で表される化合物は非常に高価であり、大量の入手が困難という問題があった。
【0026】
ここで、本発明者らがさらに検討を続けたところ、式[1]で表されるヒドロキシケトンをルテニウム触媒の存在下、水素と接触させると、フェニル基も水素化(還元)された、式[2]で表される含フッ素ジオールが併せて生成することが判明した。
【0027】
式[1]で表されるヒドロキシケトンは、ヘキサフルオロアセトンとアセトフェノンを原料としてごく安価に製造することができる化合物である。すなわち本発明の結果、式[2]で表される含フッ素ジオールを、式[7]に表される化合物を原料とする場合に比較して、経済的に格段に有利に製造できることとなった。
【0028】
さらに、本発明者らは、上記反応が、特定の反応条件において、高選択率で進行することを見出した。すなわち、式[1]で表されるヒドロキシケトンをルテニウム触媒の存在下、水素と接触させることにより式[2]で表される含フッ素ジオールを生成する反応は、70℃以下という比較的低い温度で、特に高い選択率をもって進行することを見出した。
【0029】
芳香族化合物を、遷移金属触媒の存在下で、水素と接触させ、該化合物の芳香環をシクロヘキシル環に還元する反応は、一般に知られている反応である。しかしながら、この反応は一般に高い温度、反応圧力を必要とすることが多い。例えば次の反応
【0030】
【化14】

【0031】
では、温度150−190℃、圧力6.9MPaという条件を必要とする(出典:S.J.Lapporte,W.R.Schuett,Journal of Organic Chemistry,第28巻,1947〜1948頁、1963年(米国))。このような過酷な条件では、反応器に要求される性能が高く、大量での合成に際しては操作が煩雑になる上、本発明の対象とする基質ではトリフルオロメチル基の分解等が懸念される。
【0032】
ところが、本発明者らが本発明の基質について検討を行ったところ、上述の比較的低い温度でも反応が十分な速度で進行し、しかもこのような条件で、特に高い選択率をもって目的物が得られることが判った(実施例1)。これにより、目的とする式[2]で表される含フッ素ジオールの大量規模での製造が著しく容易になった。
【0033】
また、このようにして得られた式[2]で表される含フッ素ジオールを、式[3]で表されるアクリル酸誘導体
【0034】
【化15】

【0035】
(式中、R1はH,Cm2m+1,Cn2n+1の何れかの基を表す(m、nは各々1〜4の整数を表す)。XはF,Cl,または次の式[3a]で表される基
【0036】
【化16】

【0037】
の何れかを表す。なお式[3a]中のR1の意味は、式[3]と同じ。)と反応させるこ
とで、次世代レジスト材料のモノマー原料として有望である、式[4]で表される含フッ素エステル
【0038】
【化17】

【0039】
(式中、R1の意味は式[3]と同じ。)
を容易に製造できる(第2工程)。
【0040】
すなわち、本発明は、式[1]で示されるヒドロキシケトンをルテニウム触媒の存在下、水素により還元することを特徴とする、式[2]で表される含フッ素ジオールの製造方法を提供する。また、上記方法で得られた式[2]で表される含フッ素ジオールを、式[3]で表されるアクリル酸誘導体と反応させることを特徴とする、式[4]で表される含フッ素エステルの製造方法も併せて提供する。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、ルテニウム触媒の存在下、水素により還元するという簡便な操作により、目的とする1−シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1,3−ジオールを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明の方法は、バッチ式反応装置において実施することができる。以下においてその反応条件を述べるが、それぞれの反応装置において、当業者が容易に調節しうる程度の反応条件の変更を妨げるものではない。
【0043】
本発明は、第1工程(式[1]で表されるヒドロキシケトンをルテニウム触媒の存在下、水素により還元することで、式[2]で表される含フッ素ジオールを得る工程)を必須の要素とし、必要に応じ、これに第2工程(第1工程で得られた式[2]で表される含フッ素ジオールを、式[3]で表されるアクリル酸誘導体と反応させることで、式[4]で表される含フッ素エステルを得る工程)を加えることによってなる(以下、スキーム1参照)。
【0044】
【化18】

【0045】
まず、第1工程について説明する。第1工程では、式[1]で表されるヒドロキシケトンをルテニウム触媒の存在下、水素により還元することで、式[2]で表される含フッ素ジオールを得る工程である。
【0046】
式[1]で表されるヒドロキシケトンの合成法に関しては、特許文献2に開示された公知の方法により製造することができる。
【0047】
ここで、式[1]で表されるヒドロキシケトンをルテニウム触媒の存在下、水素により還元する際の反応温度及び反応圧力について、以下、詳細に述べる。
【0048】
まず、本反応を実施する際の反応温度は、詳細は後に述べるが、0℃〜150℃であり、10℃〜120℃が好ましく、30℃〜70℃が特に好ましい。0℃未満では反応速度が極めて遅く実用的製造法とはならない。
【0049】
また、100℃以上、例えば110℃では式[8]で表される副生成物
【0050】
【化19】

【0051】
が増加しはじめ、目的の化合物の選択率が低下する(実施例2参照)。とりわけ、150℃を超える温度に加熱することは更なる目的化合物の選択率の低下を招き、エネルギー効率の観点からも経済的に好ましくない。
【0052】
本反応では、反応温度を30〜70℃、特に40℃〜60℃(例えば50℃)にすることは、式[8]で表される副生成物は生成せずに、該目的物である式[2]で表される含フッ素ジオールを非常に高い選択率で得ることが可能であることから、特に好ましい実施態様の一つである(実施例1参照)。
【0053】
第1工程における反応圧力(水素圧をいう。以下同じ)は、通常0.1〜6MPa(絶対圧。以下、本明細書において同じ。)であるが、0.15〜4.0MPaが好ましく、0.2〜4.0MPaが特に好ましい。但し、好まれる反応圧力には、温度への依存性がある。すなわち、比較的高い温度(80℃以上)で反応を行う場合には、1.0MPa以下の反応圧力でも十分な速度で反応が進行し、それが好適なことが多いが、低い温度(80℃未満)で反応を行う場合には、より高い反応圧力(例えば1.6MPa以上)が好適なことが多い。例えば、30〜70℃で反応を行う場合には、1.6〜4.0MPaの反応圧力が特に好ましい。反応圧力は、反応温度、後述する触媒の種類、量などの諸条件に応じて、最適化することが望ましい。
【0054】
なお、0.1MPa未満の反応圧力でも、反応は進行するが、十分な反応速度を得るために、150℃を上回る温度が要求されることがあり、副反応が促進される結果となるため、好ましくない。一方、6MPaを超えると、高度の圧力に耐え得る反応容器等が必要となり、煩雑となるため、好ましくない。
【0055】
第1工程において使用されるルテニウム触媒としては、ルテニウム金属、またはルテニウムを担体(活性炭、アルミナ、シリカ、クレー等)に担持したものの他、ルテニウム塩(例えば、RuCl3,RuBr3、Ru(NO33など)、ルテニウム錯体(例えばRu(CO)5,Ru(NO)5,K4[Ru(CN)6]、Ru(phen)3Cl3(なおphenはフェナントロリンを表す))、酸化ルテニウム等が、用いられる。
【0056】
この中でも、特に入手のしやすさ及び取り扱いのしやすさの観点から、ルテニウムを担体に担持した固相触媒が好ましい。これらの固相触媒は、例えばルテニウム塩を溶液に溶かし、この溶液を担体に含浸させた後、加熱しながら、H2ガスで還元処理することで調製できる。特にRu/C(ルテニウム−カーボン触媒)、ルテニウム−アルミナ触媒、ルテニウム−シリカ触媒は商業的に容易に入手でき、活性も高いことから好ましい。これらは含水品(例えば、触媒全重量中、50重量%の水を含む製品)を使用すると特に取扱いやすい。またこれらの触媒の固体成分(水以外の成分)中のRuの含量には特別な制限はないが、2重量〜10重量%程度(例えば5重量%)のものが、入手も容易で、安定性も高く、取扱いやすいため、好ましく用いられる。
【0057】
なお、これらのルテニウム触媒の複数種類を共存させて反応を行うこともできるが、通常、特別のメリットはない。
【0058】
ルテニウム触媒の量は、式[1]で表されるヒドロキシケトン1モルあたり、Ru原子換算で通常0.0002モル〜0.04モルであり、0.0004モル〜0.02モルが好ましく、0.001モル〜0.01モルがさらに好ましい。ルテニウム触媒が上記下限値よりも少ないと、反応速度が低下し、上限値よりも多いと経済的に好ましくない。
【0059】
本反応において溶媒を使用することができる。使用可能な溶媒の種類に特別な制限はないが、ジエチルエーテル、メチル-t-ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、トリフルオロエタノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール等のアルコール系溶媒が好ましく、これらは単独で用いても、複数の溶媒を併用しても良い。本反応に使用する溶媒の溶媒量は式[1]で表されるヒドロキシケトン1gに対して0.005〜100gであり、0.01〜20gが好ましく、0.1〜10gがより好ましい。100gを超えると生産性の観点から経済的に好ましくない。
【0060】
本反応において、四フッ化エチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂、ガラスなどを内部にライニングしたもの、グラス容器、もしくはステンレスで製作した反応器を使用することができる。
【0061】
本発明を実施する方法は限定されるものではないが、望ましい態様の一例につき、詳細を述べる。
【0062】
反応条件に耐えられる反応器に式[1]で表されるヒドロキシケトン、溶媒、触媒を加え、外部より加熱しながら水素を供給して反応を進行させる。反応に要する時間は、反応温度、触媒の種類、量に依存する。反応器内の圧力等からH2の消費状況を随時観察し、H2の消費が事実上完了した段階で反応を終了することが好ましい。
【0063】
サンプリング等により原料の消費をモニタリングし、反応が終了したのを確認し、反応液を冷却する。製造された式[2]で表される含フッ素ジオールは公知の方法を適用して精製されるが、例えば、得られた反応液から触媒を濾別した後、濾液を蒸留するかまたは濾液から晶析することにより容易に式[2]で表される含フッ素ジオールを得ることが可能である。
【0064】
次に、第2工程について説明する。第2工程は、第1工程で得られた式[2]で表される含フッ素ジオールを、式[3]で表されるアクリル酸誘導体
【0065】
【化20】

【0066】
(式中、R1はH,Cm2m+1,Cn2n+1の何れかの基を表す(m、nは各々1〜4の整数を表す)。XはF,Cl,または次の式[3a]で表される基
【0067】
【化21】

【0068】
の何れかを表す。なお式[3a]中のR1の意味は、式[3]と同じ。)と反応させることで、式[4]で表される含フッ素エステル
【0069】
【化22】

【0070】
(式中、R1、の意味は式[3]と同じ。)
を得る工程である。
【0071】
式[3]で表されるアクリル酸誘導体の置換基R1としては、H、メチル、トリフルオロメチルが、式[4]で表される生成物の有用性から特に好ましい。
【0072】
本工程は、一般的なエステル化の手段によればよいが、好ましい方法、条件等につき、以下に述べる。
【0073】
まず、式[3]で表されるアクリル酸誘導体がα−置換アクリル酸ハロゲン化物の場合について説明する。本工程は塩基の共存下、行うことが好ましい。塩基としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、2,6−ジメチルピリジン、ジメチルアミノピリジン、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも一種のものが、好適に用いられる。これらのうちピリジン、2,6−ジメチルピリジンが特に好ましい。
【0074】
本工程において使用する塩基の量は式[2]で表される含フッ素ジオール1モルに対して0.2〜2モルであり、0.5〜1.5が好ましく、0.9〜1.2モルがより好ましい。式[2]で表される含フッ素ジオ−ル1モルに対して塩基の量が0.2モル未満では反応の選択率、目的物の収率共に低下し、2モルを超えると反応に関与しない塩基の量が増加するため経済的に好ましくない。
【0075】
本工程において使用するα−置換アクリル酸ハロゲン化物の量は式[2]で表される含フッ素ジオール1モルに対して0.2〜2モルであり、0.5〜1.5モルが好ましく、0.9〜1.2モルがより好ましい。式[2]で表される含フッ素ジオール1モルに対してα−置換アクリル酸ハロゲン化物の量が0.2モル未満では反応の選択率、目的物の収率共に低下し、2モルを超えると反応に関与しないα−置換アクリル酸ハロゲン化物が増加し、廃棄の手間から経済的に好ましくない。
【0076】
本工程においては副生成物として塩基のハロゲン化水素酸塩(フッ化水素酸塩、塩酸塩)が析出する。操作性を改善するため溶媒を使用する必要がある。使用可能な溶媒の種類に特別な制限はないが、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族化合物、ジエチルエーテル、メチル-t-ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン系溶媒が好ましく、これらは単独で用いても、複数の溶媒を併用しても良い。
【0077】
本工程に使用する溶媒の溶媒量は式[2]で表される含フッ素ジオール1gに対して0.5〜100gであり、1〜20gが好ましく、2〜10gがより好ましい。溶媒量が式[2]で表される含フッ素ジオール1gに対して0.5g未満では、反応中に析出する塩基のフッ化水素酸塩、塩酸塩のスラリー濃度が高過ぎるため操作性が低下する。100gを超えると生産性の観点から経済的に好ましくない。
【0078】
本工程を実施する際の反応温度は−50〜200℃であり、−20〜150℃が好ましく、0℃〜120℃がより好ましい。−50℃未満では反応速度が極めて遅く実用的製造法とはならない。また、200℃を超えると原料のα−置換アクリル酸ハロゲン化物もしくは生成物の式[4]で表される含フッ素エステルが重合することから好ましくない。
【0079】
本工程の反応において原料のα−置換アクリル酸ハロゲン化物もしくは生成物の含フッ素エステル化合物が重合することを防止することを目的として、重合禁止剤を共存させて行っても良い。使用する重合禁止剤はヒドロキノン、メトキノン、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、1,2,4−トリヒドロキシベンゼン、2,5−ビステトラメチルブチルヒドロキノン、ロイコキニザリン、ノンフレックスF、ノンフレックスH、ノンフレックスDCD、ノンフレックスMBP、オゾノン35、フェノチアジン、2−メトキシフェノチアジン、テトラエチルチウラム ジスルフィド、1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル、1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジン、Q−1300、Q−1301から選ばれる少なくとも一種の化合物である。上記の重合禁止剤は市販品であり容易に入手可能である。
【0080】
本工程に使用する重合禁止剤の量は原料の式[2]で表される含フッ素ジオール1モルに対して0〜0.1モルであり、0.00001〜0.05モルが好ましく、0.0001〜0.01モルがより好ましい。重合禁止剤の量が原料の式[2]で表される含フッ素ジオール1モルに対して0.1モルを超えても重合を防止する能力に大きな差異はなく、そのため、経済的に好ましくない。
【0081】
本工程の反応を行う反応器は、四フッ化エチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂、ガラスなどを内部にライニングしたもの、グラス容器、もしくはステンレスで製作したものが好ましい。
【0082】
次に式[3]で表されるアクリル酸誘導体がα−置換アクリル酸無水物の場合の、本工程の反応を説明する。
【0083】
使用するα−置換アクリル酸無水物の量は、式[2]で表される含フッ素ジオール1モルに対して通常0.5〜5モルであり、0.7〜3モルが好ましく、1〜2モルがより好ましい。式[2]で表される含フッ素ジオール1モルに対してα−置換アクリル酸無水物の量が0.5モル未満では反応の転化率、目的物の収率が共に十分でなく、5モルを超えると反応に関与しないα−置換アクリル酸無水物が増加し、廃棄の手間から経済的に好ましくない。
【0084】
反応を促進するために添加剤を添加することができる。使用される添加剤としてはメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等有機スルホン酸類、ルイス酸類の群から選ばれる少なくとも一種の酸が、好適に用いられる。本反応に使用する添加剤の量は基質の式[2]で表される含フッ素ジオール1モルに対して0.01〜2モルあり、0.02〜1.8が好ましく、0.05〜1.5モルがより好ましい。基質の式[2]で表される含フッ素ジオール1モルに対して添加剤の量が0.01モル未満では反応の転化率、目的物の収率共に低下し、2モルを超えると反応に関与しない添加剤の量が増加するため経済的に好ましくない。
【0085】
本反応を実施する際の反応温度は添加剤を添加しない場合は通常80〜200℃、好ましくは100〜180℃、さらに好ましくは120〜160℃である。この場合80℃未満では反応速度が極めて遅く、200℃を超えると原料のα−置換アクリル酸無水物もしくは生成物の式[4]で表される含フッ素エステルが重合することがあるから好ましくない。添加剤を添加する場合は0〜80℃、好ましくは10〜70℃、さらに好ましくは20〜60℃である。この場合0℃未満では反応速度が遅く実用的製造法とはならない。また、80℃を超えると副反応が進行し易くなり、目的物の含フッ素エステル化合物の選択率が低下することがあるから好ましくない。本発明においては、添加剤を加えた方が低い温度で十分な反応性が得られ、選択率が向上するので好ましい。すなわち、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等の添加剤を系内に共存させ、20〜60℃の温度範囲で、反応を実施することは、本工程の特に好ましい態様の一つである。
【0086】
本反応は、無溶媒でも進行するが反応の均一性、反応後の操作性を考慮すると溶媒を使用するのが望ましい。使用可能な溶媒の種類に特別な制限はないが、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族化合物、ジエチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン系溶媒が好ましく、これらは単独で用いても、複数の溶媒を併用しても良い。
【0087】
本反応に使用する溶媒の量は式[2]で表される含フッ素ジオール1gに対して通常0.1〜100gであり、0.5〜50gが好ましく、1〜20gがより好ましい。溶媒量が式[2]で表される含フッ素ジオール1gに対して0.1g未満では溶媒を使用するメリットを十分に引き出せない。100gを超えると生産性の観点から経済的に好ましくない。
【0088】
この反応においてα−置換アクリル酸無水物もしくは生成物(含フッ素エステル化合物)が重合することを防止することを目的として、重合禁止剤を共存させて行っても良く、通常は重合禁止剤を使用することが望ましい。使用する重合禁止剤はヒドロキノン、メトキノン、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、1,2,4−トリヒドロキシベンゼン、2,5−ビステトラメチルブチルヒドロキノン、ロイコキニザリン、ノンフレックスF、ノンフレックスH、ノンフレックスDCD、ノンフレックスMBP、オゾノン35、フェノチアジン、2−メトキシフェノチアジン、テトラエチルチウラム ジスルフィド、1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル、1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジン、Q−1300、Q−1301から選ばれる少なくとも一種の化合物である。上記の重合禁止剤は市販品であり容易に入手可能である。
【0089】
本発明に使用する重合禁止剤の量は原料の式[2]で表される含フッ素ジオール1モルに対して通常0.00001〜0.1モルであり、0.0001〜0.05モルが好ましく、0.001〜0.01モルがより好ましい。重合禁止剤の量が原料の式[2]で表される含フッ素ジオール1モルに対して0.1モルを超えても重合を防止する能力に大きな差異はなく、そのため、経済的に好ましくない。
【0090】
この反応に使用される反応器は、四フッ化エチレン樹脂、クロロ−トリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂、ガラスなどを内部にライニングしたもの、グラス容器、もしくはステンレスで製作したものが好ましい。
【0091】
第2工程を実施する方法は限定されるものではないが、望ましい態様の一例につき、詳細を述べる。
【0092】
(ア)式[3]で表されるアクリル酸誘導体がα−置換アクリル酸ハロゲン化物の場合
反応条件に耐えられる反応器に塩基、溶媒、原料の式[2]で表される含フッ素ジオール、α−置換アクリル酸ハロゲン化物および重合禁止剤を加え、攪拌しながら外部より加熱して反応を進行させる。サンプリング等により原料の消費をモニタリングし、反応が終了したのを確認し、反応液を冷却するのが好ましい。
【0093】
本発明の方法で製造された式[4]で表される含フッ素エステルは公知の方法を適用して精製されるが、例えば、反応液中に含まれる塩基の塩酸塩をろ過により除去後、濾液を塩酸水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、塩化ナトリウム水溶液の順で処理し、さらに溶媒を留去することで粗有機物が得られる。得られた粗有機物はカラムクロマトグラフィーや蒸留等の精製を行うことで高純度の式[4]で表される含フッ素エステルを得ることができる。
【0094】
(イ)式[3]で表されるアクリル酸誘導体がα−置換アクリル酸無水物の場合
反応条件に耐えられる反応器に溶媒、原料の式[2]で表される含フッ素ジオール、α−置換アクリル酸無水物、重合禁止剤及び添加剤を加え、攪拌しながら外部より加熱して反応を進行させる。サンプリング等により原料の消費をモニタリングし、反応が終了したのを確認し、反応液を冷却するのが好ましい。本発明の方法で製造された式[4]で表される含フッ素エステルは公知の方法を適用して精製されるが、例えば、反応液を水、炭酸水素ナトリウム水溶液、食塩水の順で処理し、さらに溶媒を留去することで粗有機物が得られる。得られた粗有機物はカラムクロマトグラフィーや蒸留等の精製を行うことで高純度の式[4]で表される含フッ素エステルを得ることができる。
【実施例】
【0095】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するがこれらの実施態様に限られない。ここで、組成分析値の「%」とは、反応混合物の一部を採取してガスクロマトグラフィーによって測定して得られた「面積%」を表す。
[実施例1]
1−シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1,3−ジオールの製造(第1工程)
圧力計、温度計及び攪拌機を備えた1Lステンレス鋼製耐圧反応器にジイソプロピルエ−テル355g、4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−1−フェニル−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1−オン350g (1.22モル)、5%Ru/C(50%含水品、エヌ・イ−ケムキャット製)を35.0g入れ、反応器内を水素で置換した後、オイルバスにより加熱し、内温50℃、反応圧力2.6MPa(絶対圧)で反応させた。16時間後、室温まで冷却し反応を終了とした。反応液をサンプリングして組成をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、溶媒として使用したジイソプロピルエ−テルを除くと目的とする1−シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1,3−ジオールが96.0%、その他が4.0%であった。触媒の5%Ru/Cを濾別し、濾液から溶媒留去後、ヘキサンから再結晶して目的とする1−シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1,3−ジオールが97.5%の純度で318.2g得られた。収率は91%であった。
1H NMR(溶媒:CDCl3,基準物質:TMS);δ4.01(s,1H),6.31(s,1H),2.2(m, 2H),2.06(m, 3H),1.60(m, 6H),1.21(m, 3H).
19F NMR(溶媒:CDCl3,基準物質:CCl3F);δ−75.9(d,J=10.7Hz, 3F), −72.9(d, J =9.16Hz, 3F).
CI MS m/z(relative intensity):277(100.0), 211(26.3), 83(55.8).
[実施例2]
1−シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1,3−ジオールの製造(第1工程)
温度計及び圧力計を備えた10MPa耐圧100mLステンレス鋼製反応器に四フッ化エチレン樹脂で被覆された撹拌子、4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−1−フェニル−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1−オン3.0g(0.010モル)、5%Ru/C触媒0.3g(10wt%)、及びジイソプロピルエーテル10mLを入れ、反応器内を水素で置換した後、攪拌機で撹拌、オイルバスにより110℃で加熱しながら水素を0.6(絶対圧)MPaで連続導入した。4時間後、内圧の低下がおさまったことを確認して室温まで冷却し、反応液をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、溶媒として使用したジイソプロピルエーテルを除くと目的とする1−シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1,3−ジオールが69.0%、4−シクロヘキシル−1,1,1−トリフルオロ−2−(トリフルオロメチル)ブタン−2−オールが29.9%、その他が1.1%であった。
[実施例3]
1−シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−3−(トリフルオロメチル)ブチル 2−メチルアクリレートの製造(第2工程)
撹拌装置、温度計、還流冷却器を備えたガラス製1L3つ口フラスコに1−シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1,3−ジオール296.5g(1モル)、メタクリル酸無水物170.8g(1.1モル)、トリフルオロメタンスルホン酸1.0g、重合禁止剤として2−メトキシフェノチアジン0.1gを入れ、130℃で加熱攪拌した。3時間後、原料1−シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1,3−ジオールの転化率が99%以上となったところで反応を終了とした。室温まで冷却した後、反応混合物を減圧下、蒸留して112−115℃/0.09kPaの留分を集めたところ、目的とする1−シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−3−(トリフルオロメチル)ブチル 2−メチルアクリレートが96%の純度で312.8g得られた。収率は90%であった。1H NMR(溶媒:CDCl3,基準物質:TMS);δ6.19(d, J = 1.2, 1H),5.68(d,J = 1.2, 1H),4.89(dt, J = 3.9, 4.1, 1H), 2.41 (dd, J = 3.4, 3.7, 1H), 2.11 (dd, 1.2, 2.2, 1H),1.96 (s, 3H), 1.76 (m, 6H), 1.20 (m, 6H).
19F NMR(溶媒:CDCl3,基準物質:CCl3F);δ−77.07 (q, J = 9.1Hz, 3F), −79.39 (q, J = 9.1Hz, 3F).
CI MS m/z(relative intensity):69(100),276(24),362(M+, 0.6).
[比較例1]
圧力計、温度計及び攪拌機を備えたガラス製100mL耐圧反応器に4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−1−フェニル−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1−オン10.4g(0.04モル)、10%Pd/C(50%含水品、エヌ・イ−ケムキャット製)1.0g、及びジイソプロピルエーテル20mLを入れ、反応器内を水素で置換した後、40℃で加熱しながら水素を1.0MPa(絶対圧)で連続導入した。12時間後、室温まで冷却し、反応混合物24.5gを得た。反応液をサンプリングして組成をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、溶媒として使用したジイソプロピルエーテルを除くと4,4,4−トリフルオロ−1−フェニル−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1,3−ジオールが97.1%、その他が2.9%であった。この反応混合物から触媒の10%Pd/Cを濾別、濾液から溶媒を留去し、つづいて減圧下、蒸留して、140℃〜143℃/2.0kPaの留分を集めたところ、4,4,4−トリフルオロ−1−フェニル−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1,3−ジオールが98.6%の純度で7.97g得られた。収率は76.1%であった。
1H NMR(溶媒:CDCl3,基準物質:TMS);δ7.24−7.34(m, 5H),
6.41(s, 1H), 5.24(d, J =11.7Hz, 1H), 2.91(s, 1H), 2.18−2.40(m, 2H).
19F NMR(溶媒:CDCl3,基準物質:CCl3F);δ−75.8 (q, J =9.92Hz, 3F), −79.7 (q, J =9.92Hz, 3F).
EI-MS m/z(relative intensity):288(M+, 0.8), 201(3.5), 109(3.4), 107(100), 79(63), 77(35), 69(8.8), 51(12).
このように、比較例1では、本発明の目的物である、1−シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1,3−ジオールを得ることはできなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式[1]で表されるヒドロキシケトン
【化1】

をルテニウム触媒の存在下、水素により還元することを特徴とする、式[2]で表される含フッ素ジオール
【化2】

の製造方法。
【請求項2】
反応温度を10〜120℃とすることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
反応温度を30〜70℃とすることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ルテニウム触媒が、ルテニウムを活性炭、アルミナ、またはシリカに担持した固相触媒であることを特徴とする、請求項1乃至3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかの方法で製造した、式[2]で表される含フッ素ジオールを、式[3]で表されるアクリル酸誘導体
【化3】

(式中、R1はH,Cm2m+1,Cn2n+1の何れかの基を表す(m、nは各々1〜4の整数を表す)。XはF,Cl,または次の式[3a]で表される基
【化4】

の何れかを表す。なお式[3a]中のR1の意味は、式[3]と同じ。)と反応させることを特徴とする、式[4]で表される含フッ素エステル
【化5】

(式中、R1の意味は式[3]と同じ。)
の製造方法。


【公開番号】特開2007−63255(P2007−63255A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−197529(P2006−197529)
【出願日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】