説明

含フッ素フタロシアニン−サブフタロシアニン縮環ダイマー及びその製造法

【課題】含フッ素フタロシアニン−サブフタロシアニン縮環ダイマー及びその製造法
【解決手段】フタロシアニンの置換基としてフルオロアルコキシ基を導入することにより得られるフタロシアニンとサブフタロシアニンの縮環した二量体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,含フッ素フタロシアニン−サブフタロシアニン縮環ダイマー及びその製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フタロシアニンは青・緑色の顔料として利用されてきた。その優れた物理学的な性質から,電荷発生材,光磁気ディスク用色素として利用されている機能性色素である。さらに光線力学的治療の光増感剤,非線型光学材料等,さまざまな分野での応用が期待されている。フタロシアニン誘導体は一般的に有機溶媒への溶解性が悪いとの問題を抱える。
【0003】
また,フタロシアニン誘導体として,サブフタロシアニンがある。サブフタロシアニンはホウ素が配位したフタロシアニンの合成を試みた際に,紫色の化合物が生成されているのに気付き,存在が確認された化合物である。フタロシアニンは様々な機能性材料,光線力学的治療剤として注目され,様々な研究が為されており,サブフタロシアニンにも同等の機能を有することが知られている。
【0004】
これまで我々は,サブフタロシアニンに電子吸引性のトリフルオロエトキシ基を導入したトリフルオロエトキシコーティングサブフタロシアニンを開発し,アキシアル位の置換反応がこれまでのサブフタロシアニンよりも高い反応性を有していることを報告した(非特許文献1)。更に,トリフルオロエトキシ基を導入することで,電子豊富なサブフタロシアニンが電子不足となり,サブフタロシアニンの凹面に電子豊富なベンゼン分子が取り込まれることから,分子フラスコとして使用できる可能性が示唆される。また,フタロシアニン同士,サブフタロシアニン同士がベンゼン環やナフタレン環を介して縮合した二量体や三量体は,共役の広がりから単量体では見られない特異な分光学的性質を示す(非特許文献2乃至6)。
【0005】
しかし,フタロシアニン同様,その溶解性は非常に悪く,材料としての加工,薬剤としての投与の面で問題が残っている。またフタロシアニンとサブフタロシアニンが縮合した二量体の報告はなく,その分光学的性質に興味が持たれ,新たな材料への展開が期待できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Shibata, N.; Das, B.; Tokunaga, E.; Shiro, M.; Kobayashi, N. Chem. Eur. J. 2010, doi:10.1002/chem.201000373
【非特許文献2】Leznoff, C. C.; Lam, H.; Marcuccio, S. M.; Nevin, W. A.; Janda, P.; Kobayashi, N.; Lever, A. B. P. J. Chem. Soc., Chem. Commun.1987, 699.
【非特許文献3】Claessens, C. G.; Torres, T. Angew. Chem., Int. Ed. 2002, 41, 2561
【非特許文献4】Fukuda, T.; Stork, J. R.; Potucek, R. J.; Olmstead, M. M.; Noll, B. C.; Kobayashi, N.; Durfee, W. S. Angew. Chem., Int. Ed. 2002, 41, 2565.
【非特許文献5】Calvete, M.; Hanack, M. Eur. J. Org. Chem. 2003, 11, 2080.
【非特許文献6】Iglesias, R. S.; Claessens, C. G.; Torres, T.; Herranz, M. A.; Ferro, V. R.; de la Vega, J. M. G. J. Org, Chem. 2007, 72, 2967.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記点に鑑みて,溶解性が高く,凝集作用を抑えた新規含フッ素フタロシアニン−サブフタロシアニン縮環ダイマーの合成とその合成法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、以下の[1]および[2]を提供する。
【0009】
[1] フタロシアニンの置換基としてフルオロアルコキシ基を導入して得られるフタロシアニンとサブフタロシアニンの縮環した二量体であって、下記一般式(1)で表されるフタロシアニン−サブフタロシアニン縮環ダイマー。
【化1】


(式中,R1,R2,R3,R4,R5,R6,R7,R8,R9,R10,R11,R12,R13,R14,R15,R16,R17,R18,R19,及びR20はそれぞれ独立にフッ素原子を少なくとも1つ含むアルキル基;アルケニル基;又はアルキニル基を示し,R1乃至R20のうち隣接する2つの基は一緒になって置換基を有していてもよい5乃至7員環を形成してもよく; R17,及びR18はそれぞれ独立に水素原子,アルキル基,アルコキシ基,ハロゲン原子,置換基を有していてもよいアミノ基,ヒドロキシル基,アルキルチオ基,カルボニル基,置換基を有していてもよいカルバモイル基,シアノ基,ニトロ基,アリール基,アリールオキシ基,アルケニル基,又はアルキニル基を示し;M1,M2は水素原子,金属元素,半金属元素,金属酸化物,半金属酸化物, 金属水酸化物,半金属水酸化物,金属ハロゲン化物,半金属ハロゲン化物を示し;X1はハロゲン原子,水酸基,シリロキシ基,アルコキシ基,アルキルチオ基,置換基を有していても良いアリールオキシ基,カルボキシ基を示す。)

[2]前記の一般式(1)で表される含フッ素フタロシアニン縮環ダイマーの合成法であって,下記一般式(2)で表されるフタロニトリル誘導体と下記一般式(3)で表されるフタロニトリル誘導体を反応させ,下記一般式(4)で表されるフタロシアニン誘導体とした後に,シアノ化合物と反応させ,下記一般式(5)で表せるジシアノフタロシアニン誘導体とし,その後,再び下記一般式(2)で表されるフタロニトリル誘導体を反応させる工程を備えることを特徴とする製造方法。
【化2】


(式中,R1,R2,R3,及びR4は式(1)記載の通りである。)
【化3】


(式中,R21,及びR22は式(1)記載の通りであり;X2はハロゲン原子を示す。)
【化4】


(式中,R1,R2,R3,R4,R5,R6,R7,R8,R9,R10,R11,R12,R21,R22,及びM1は式(1)記載の通りであり;X2は式(3)記載の通りである。)
【化5】


(式中,R1,R2,R3,R4,R5,R6,R7,R8,R9,R10,R11,R12,R21,R22,及びM1は式(1)記載の通りである。)

【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において,R1,R2,R3,R4,R5,R6,R7,R8,R9,R10,R11,R12,R13,R14,R15,R16,R17,R18,R19,及びR20が示すフッ素原子が少なくとも1つ含むアルキル基としては,例えば,炭素数1乃至20程度のアルキル基を用いることができる。具体的には,メチル基,エチル基,プロピル基,ブチル基,ペンチル基,ヘキシル基,ヘプチル基,オクチル基,ノニル基,デシル基,ウンデシル基,ドデシル基,トリデシル基,テトラデシル基,ペンタデシル基,ヘキサデシル基,ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基,イコシル基,又はこれらの環状アルキル基,分鎖アルキル基などを用いることができる。
R1,R2,R3,R4,R5,R6,R7,R8,R9,R10,R11,R12,R13,R14,R15,R16,R17,R18,R19,及びR20が示すフッ素原子が少なくとも1つ含むアルケニル基又はアルキニル基に含まれる不飽和結合の数は特に限定されないが,好ましくは1乃至2個程度である。該アルケニル基又はアルキニル基は,直鎖状又は分枝鎖状のいずれでもよい。
【0011】
R21,及びR22が示すアルキル基は,例えば,炭素数1乃至20程度のアルキル基を用いることができる。具体的には,メチル基,エチル基,プロピル基,ペンチル基,ヘキシル基,ヘプチル基,オクチル基,ノニル基,デシル基,ウンデシル基,ドデシル基,トリデシル基,テトラデシル基,ペンタデシル基,ヘキサデシル基,ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基,イコシル基,又はこれらの環状アルキル基,分鎖アルキル基などを用いることができる。
R21,及びR22が示すアルケニル基又はアルキニル基に含まれる不飽和結合の数は特に限定されないが,好ましくは1乃至2個程度である。該アルケニル基又はアルキニル基は,直鎖状又は分枝鎖状のいずれでもよい。
【0012】
R21,R22,及びX1が示すアルコキシ基としては,例えば,炭素数1〜6程度のアルコキシ基を用いることができる。より具体的には,メトキシ基,エトキシ基,n−プロポキシ基,イソプロポキシ基,n−ブトキシ基,sec−ブトキシ基,tert−ブトキシ基,シクロプロピルメチルオキシ基,n−ペントキシ基,n−ヘキソキシ基,トリエチレングリコシル基などを挙げることができる。
【0013】
R21,R22,X1,及びX2示すハロゲン原子はフッ素原子,塩素原子,臭素原子,又はヨウ素原子のいずれでもよい。
【0014】
R21,及びR21が示すアミノ基が置換基を有する場合,置換基として,例えば,上記に説明した炭素数1〜10程度のアルキル基又はハロゲン化アルキル基等を有していてもよい。より具体的には,炭素数1〜6程度のアルキル基で置換されたモノアルキルアミノ基,又は炭素数1〜6程度の2個のアルキル基で置換されたジアルキルアミノ基(2個のアルキル基は同一でも異なっていてもよい)などを挙げることができる。
【0015】
R21,R22,及びX1が示すアルキルチオ基としては,上記に説明した炭素数1〜10程度のアルキルチオ基を用いることができる。例えば,メチルチオ基、エチルチオ基などを挙げることができる。
【0016】
R21,R22,及びX1が示すカルボキシ基としては,例えば,アルキル基,アルコキシ基,アルケニル基,アルキニル基,又はアリール基を有するカルボキシ基を用いることができる。具体的には,アセトキシ基,プロピオノキシ基,ブタノキシ基,ペンタノキシ基,ヘキサノキシ基,メトキシカルボニル基,エトキシカルボニル基などが挙げられる。
R21,及びR22が示すカルバモイル基が置換基を有する場合、置換基として、例えば、上記に説明した炭素数1〜6程度のアルキル基又はハロゲン化アルキル基等を有していてもよい。カルバモイル基が2個の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。
【0017】
R21,及びR22が示すアリール基としては,ヘテロアリール基も含有し,具体例としては,例えば炭素数2〜30のアリール基,具体的にはフェニル基,ナフチル基,アンスラニル基,ピレニル基,ビフェニル基,インデニル基,テトラヒドロナフチル基,ピリジル基,ピリミジニル基,ピラジニル基,ピリダニジル基,ピペラジニル基,ピラゾリル基,イミダゾリル基,キニリル基,ピロリル基,インドリル基,フリル基などが挙げることができる。
【0018】
X1が示すシリロキシ基としては,例えばアルキル基,又はアリール基を有するシリロキシ基を用いることができる。具体的には,トリメチルシリロキシ基,トリエチルシリロキシ基,tert−ブチルジメチルシリロキシ基,トリイソプロピルシリロキシ基,tert−ブチルジフェニルシリロキシ基などが挙げることができる。
【0019】
R21,R22,及びX1が示すアリールオキシ基としては,ヘテロアリールオキシ基も含有し,具体例としては,例えば炭素数2〜30のアリール基,具体的にはフェニルオキシ基,ナフチルオキシ基,アンスラニルオキシ基,ピレニルオキシ基,ビフェニルオキシ基,インデニルオキシ基,テトラヒドロナフチルオキシ基,ピリジルオキシ基,ピリミジニルオキシ基,ピラジニルオキシ基,ピリダニジルオキシ基,ピペラジニルオキシ基,ピラゾリルオキシ基,イミダゾリルオキシ基,キニリルオキシ基,ピロリルオキシ基,インドリルオキシ基,フリルオキシ基などが挙げることができる。
【0020】
R21,R22,及びX1が示すアリールオキシ基が置換基を有する場合,置換基として,例えば、上記に説明した炭素数1〜10程度のアルキル基,ハロゲン化アルキル基,ハロゲン原子,アリール基等を有していてもよい。アリールオキシ基が2個の置換基を有する場合には,それらは同一でも異なっていてもよい。
【0021】
アルキル基又はアルキル部分を含む置換基(例えば,アルコキシ基,アルキルチオ基,アルコキシカルボニル基など)のアルキル部分,アリール基又はアリール部分を含む置換基(例えば,アリールオキシ基など)のアリール部分は,フッ素原子,塩素原子,臭素原子,及びヨウ素原子からなる群から選ばれる1又は2個以上のハロゲン原子有していてもよく,2個以上のハロゲン原子が置換している場合には,それらは同一でも異なっていてもよい。
【0022】
R1,R2,R3,R4,R5,R6,R7,R8,R9,R10,R11,R12,R13,R14,R15,R16,R17,R18,R19,R20,R21,R22,及びX1はそれぞれ独立に上記に定義されたいずれかの置換基を示すが,全部が同一の置換基であってもよく,X1,及びX2は有していなくてもよい。
【0023】
M1及びM2が示す金属元素としては,アルカリ金属,アルカリ土類金属,遷移金属,ランタノイド系金属,アクチノイド系金属を用いることができる。具体的には,リチウム,ナトリウム,カリウム,マグネシウム,カルシウム,スカンジウム,イットリウム,チタン,ジルコニウム,クロム,マンガン,モリブデン,鉄,ルテニウム,コバルト,ロジウム,ニッケル,パラジウム,ニッケル,銅,亜鉛,アルミニウム,ガリウム,インジウム,スズ,ランタン,ウランなどが挙げることができる。
【0024】
M1及びM2が示す半金属元素としては,例えば,ホウ素,ケイ素,砒素,ゲルマニウム,鉛などが挙げることができる。
【0025】
M1及びM2が示す金属酸化物としては,アルカリ金属,アルカリ土類金属,遷移金属,ランタノイド系金属,アクチノイド系金属の酸化物を用いることができる。具体的には,酸化リチウム,酸化マグネシウム,酸化カルシウム,酸化チタン,酸化クロム,酸化マンガン,酸化モリブデン,酸化鉄,酸化ルテニウム,酸化銅,酸化亜鉛,酸化アルミニウム,酸化ガリウム,酸化ランタン,酸化ウランなどが挙げることができる。
【0026】
M1及びM2が示す半金属酸化物としては,例えば,ホウ素酸化物,ケイ素酸化物,砒素酸化物,ゲルマニウム酸化物,鉛酸化物などが挙げることができる。
【0027】
M1及びM2が示す半金属水酸化物としては,例えば,ホウ素水酸化物,ケイ素水酸化物,砒素水酸化物,ゲルマニウム水酸化物,鉛水酸化物などが挙げることができる。
【0028】
M1及びM2が示す金属ハロゲン化物としては,アルカリ金属,アルカリ土類金属,遷移金属,ランタノイド系金属,アクチノイド系金属のハロゲン化物を用いることができる。ハロゲン原子としては,フッ素原子,塩素原子,臭素原子,又はヨウ素原子のいずれでもよい。
【0029】
M1及びM2が示す半金属ハロゲン化物としては,例えば,例えば,ホウ素ハロゲン化物,ケイ素ハロゲン化物,砒素ハロゲン化物,ゲルマニウムハロゲン化物,鉛ハロゲン化物などが挙げることができる。ハロゲン原子としては,フッ素原子,塩素原子,臭素原子,又はヨウ素原子のいずれでもよい。
【0030】
本発明の化合物の絶対配置は(S)又は(R)配置のいずれであってもよく,光学異性体又はジアステレオ異性体などの立体異性体はいずれも本発明の範囲に包含される。光学的に純粋な形態の異性体は本発明の好ましい態様である。また,立体異性体の任意の混合物,ラセミ体なども本発明の範囲に包含される。本発明の含フッ素サブフタロシアニン縮環ダイマーは置換基の種類に応じて塩を形成する場合があり,また水和物又は溶媒和物として存在する場合もあるが,これらの物質はいずれも本発明の範囲に包含される。
【0031】
本発明の化合物はX1を架橋部位とし,二量体を形成することができる。具体的にはトリエチレングリコシル基によって架橋された二量体,酸素原子によって架橋された二量体,ジヒドロキシベンゼンによって架橋された二量体などが挙げられる。
【0032】
本発明の含フッ素フタロシアニン−サブフタロシアニン縮環ダイマーの製造方法は特に限定されないが,前記式(2)で表されるフタロニトリル誘導体と前記式(3)で表されるフタロニトリル誘導体を金属もしくは半金属化合物存在下,溶媒中で反応させ,前記式(4)で表されるフタロシアニン誘導体とした後に,シアノ化合物と金属触媒存在下反応させ,前記式(5)で表せるジシアノフタロシアニン誘導体とし,その後,再び前記式(2)で表されるフタロニトリル誘導体と金属もしくは半金属化合物存在下,溶媒中で反応させることによって前記式(1)の含フッ素フタロシアニン−サブフタロシアニン縮環ダイマーを製造することができる。
【0033】
また,これらの反応系中に塩基を添加することによっても製造できる。
前記式(2)で表されるフタロニトリル誘導体は特に限定されないが,非特許文献7などによって合成される3,4,5,6−テトラキス(2,2,2−トリフルオロエトキシ)フタロニトリルなどを用いることができる。
【0034】
【非特許文献7】Eberhardt, W.; Hanak, M. Synthesis 1997, 95.
【0035】
金属もしくは半金属化合物としては,前記の金属酸化物,半金属酸化物の他,金属単体,ハロゲン化金属,ハロゲン化半金属,金属アルコキシド等が挙げられるが,具体的は,リチウム,ナトリウム,塩化マグネシウム,塩化アルミニウム,塩化亜鉛,三フッ化ホウ素,三塩化ホウ素,三臭化ホウ素,二塩化フェノキシホウ素,臭化亜鉛,四塩化ケイ素,四塩化ゲルマニウム,塩化スズ,塩化鉄(III),塩化インジウム,四塩化ウラン,アルミニウムブトキシド,タリウムエトキシド,塩化ルテニウムである。用いる金属化合物の形態はガス状,溶液状,塩状,どれでも使用可能であり,特に好ましくは塩上,溶液状である。
【0036】
溶媒の種類は特に限定されないが,ジエチルエーテル,ジイソプロピルエーテル,n−ブチルメチルエーテル,tert−ブチルメチルエーテル,テトラヒドロフラン,ジオキサン等のエーテル系溶媒;ヘプタン,ヘキサン,シクロペンタン,シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒;クロロホルム,四塩化炭素,塩化メチレン,ジクロロエタン,トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ベンゼン,トルエン,キシレン,クメン,シメン,メシチレン,ジイソプロピルベンゼン,ピリジン,ピリミジン,ピラジン,ピリダジン等の芳香族系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;アセトン,メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;ジメチルスルホキシド,ジメチルホルムアミド等の溶媒;メタノール,エタノール,プロパノール,i-プロピルアルコール,アミノエタノール,N,N-ジメチルアミノエタノール等のアルコール系溶媒;超臨界二酸化炭素,イオン性液体が挙げられるが,p−キシレン,N,N-ジメチルアミノエタノールが最も好ましい。
【0037】
シアノ化合物としては,特に限定されないが,シアン化ナトリウム,シアン化カリウム,シアン化銅,シアン化亜鉛,トリメチルシリルシアニド等が挙げられるが,最も好ましくは,シアン化亜鉛である。
【0038】
金属触媒としては,銅触媒,パラジウム触媒,ニッケル触媒を用いることができ,好ましくはテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジム錯体である。
【0039】
用いる塩基は無機塩基,有機塩基,有機金属試薬等が使用できるが,例えば,炭酸カリウム,炭酸セシウム等の炭酸塩;水酸化ナトリウム,水酸化カリウム等の水酸化物;ナトリウム メトキシド,セシウム tert−ブトキシド等のアルコキシド化合物;DABCO,トリエチルアミン,N,N−ジメチルアミノピリジン等の有機塩基;n−ブチルリチウム,sec−ブチルリチウム,tert−ブチルリチウム,リチウムジイソプロピルアミド,ヘキサメチルジシラザン リチウム塩,ヘキサメチルジシラザン ナトリウム塩,ヘキサメチルジシラザン カリウム塩などが挙げられる。使用量は一般的に式(2)に対して,1〜10当量で,好ましくは1〜5当量である。
【0040】
式(1)の製造は加圧下に行うこともできるが,通常は常圧で行う。反応温度は0℃から溶媒の沸点までの間で行うことができるが,好ましくは50℃乃至200℃である。
【実施例】
【0041】
以下,実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが,本発明は下記の実施例に限定されることはない。
【0042】
(第1実施例)
塩化亜鉛359mg(2.632mmol)を30mLナスフラスコに取り,非特許文献6によって合成した3,4,5,6−テトラキス(2,2,2−トリフルオロエトキシ)フタロニトリル 3.01g(5.791mmol)と,非特許文献8によって合成した4,5−ジヨードフタロニトリル200mg(0.526mmol)を加え,アルゴン置換した。その後,N,N−ジメチルアミノエタノール(DMAE) 9mLを加え,110℃で加熱した。4.5時間後,室温まで放冷し,1N塩酸を加え,生じた沈殿をろ過した。ろ過した沈殿をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=75/25)にて精製し,目的物である1,2−ジヨード−7,8,9,10,14,15,16,17,21,22,23,24−ドデカキス(2,2,2−トリフルオロエトキシ)フタロシアニン亜鉛を収量649.3mg,収率62%で得た(下記式(化6))。
【非特許文献8】Terekhov, D. S.; Nolan, K. J. M.; McArthur, C. R.; Leznoff, C. C. J. Org. Chem. 1996, 6, 3034.
【化6】


以下に1,2−ジヨード−7,8,9,10,14,15,16,17,21,22,23,24−ドデカキス(2,2,2−トリフルオロエトキシ)フタロシアニン亜鉛の化合物データを示す。
1H NMR (600 MHz, Acetone-d6) δ 5.1-5.3 (brm, 12H), 5.6-5.7 (brm, 4H), 5.7-5.9 (brm, 8H), 9.2 (m, 2H)
19F NMR (282 MHz, Acetone-d6) δ -74.1, -73.6, -73.0
MALDI-TOF calculated for C56H25F36I2N8O12Zn[M-H+]-2002.84 found 2001.3 (isotopic pattern)
【0043】
(第2実施例)
非特許文献9を参考に反応を行った。よく乾燥させ,アルゴン置換したシュレンク管に,第1実施形態で合成した1,2−ジヨード−7,8,9,10,14,15,16,17,21,22,23,24−ドデカキス(2,2,2−トリフルオロエトキシ)フタロシアニン亜鉛328mg(0.1635mmol)とジシアノ亜鉛 46.1mg(0.3924mmol),テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム 18.9mg(0.0164mmol)を取り,N,N−ジメチルホルムアミド3mLとピリジン13.2μL(0.1635mmol)を加え,120℃で加熱した。48時間後,室温まで放冷し,10%アンモニア水溶液を加え,生じた沈殿をろ過した。ろ過した沈殿をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=7/3)にて精製し,目的物である1,2,3,4,8,9,10,11,15,16,17,18−ドデカキス(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−23,24−ジシアノフタロシアニン亜鉛を収量121.6mg,収率41%で得た(下記式(化7))。
【0044】
【非特許文献9】Juricek, M.; Kouwer, P. H. J.; Rehak, J.; Sly, J.; Rowan, A. E. J, Org. Chem.2009, 74, 21.
【化7】


以下に1,2,3,4,8,9,10,11,15,16,17,18−ドデカキス(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−23,24−ジシアノフタロシアニン亜鉛の化合物データを示す
1H NMR (600 MHz, Acetone-d6) δ5.1-5.3 (brm, 12H), 5.6 (m, 4H), 5.8-5.9 (brm, 8H), 8.5 (m, 2H)
19F NMR (282 MHz, Acetone-d6) δ -74.1, -73.7, -73.1
MALDI-TOF calculated for C58H27F36N10O12Zn[M+H+]+1803.05 found 1801-1806 (isotopic pattern)
【0045】
(第3実施例)
3,4,5,6−テトラキス(2,2,2−トリフルオロエトキシ)フタロニトリル 106.3mg(0.204mmol)と,第2実施形態で合成した1,2,3,4,8,9,10,11,15,16,17,18−ドデカキス(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−23,24−ジシアノフタロシアニン亜鉛 73.7mg(0.0408mmol)を30mLナスフラスコに取り,アルゴン置換した後に三塩化ホウ素のp−キシレン溶液(1.0mol/L)4.0mL(4.0mmol)を加え,還流した。3時間後,室温まで放冷し,アルゴンで系内を置換して気化した三塩化ホウ素を除いた。溶媒を留去し,シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=6/4にて精製し,得られた租精製物をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=7/3)にて精製することで,目的物であるトリフルオロエトキシ置換フタロシアニン−サブフタロシアニン縮環ダイマーを収量3.7mg,収率3%で得た(下記式(化8))。
【化8】


以下にトリフルオロエトキシ置換フタロシアニン−サブフタロシアニン縮環ダイマーの化合物データを示す
1H NMR (600 MHz, Acetone-d6) δ4.4-4.5 (brm, 12H), 4.6-4.7 (brm, 6H), 4.9-5.0 (brm, 8H), 5.3-5.6 (brm, 14H), 10.8 (m, 2H)
19F NMR (Acetone-d6) δ-75.5, -75.3, -75.2, -74.7, 74.0
MALDI-TOF calculated for C90H43BClF60N14O20Zn[M+H+]+2889.09 found 2887.3-2893.2 (isotopic pattern)
UV-Vis (dioxane, 1.0´10-4 M) 360(4.82), 663(4.40), 718(4.89), 738(4.84), 801(5.27)
【産業上の利用可能性】
【0046】
含フッ素フタロシアニン−サブフタロシアニン縮環ダイマーは、電荷発生材,光磁気ディスク用色素等の機能性材料として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される含フッ素フタロシアニン−サブフタロシアニン縮環ダイマー。
【化1】


(式中,R1,R2,R3,R4,R5,R6,R7,R8,R9,R10,R11,R12,R13,R14,R15,R16,R17,R18,R19,及びR20はそれぞれ独立にフッ素原子を少なくとも1つ含むアルキル基;アルケニル基;又はアルキニル基を示し,R1乃至R20のうち隣接する2つの基は一緒になって置換基を有していてもよい5乃至7員環を形成してもよく; R17,及びR18はそれぞれ独立に水素原子,アルキル基,アルコキシ基,ハロゲン原子,置換基を有していてもよいアミノ基,ヒドロキシル基,アルキルチオ基,カルボニル基,置換基を有していてもよいカルバモイル基,シアノ基,ニトロ基,アリール基,アリールオキシ基,アルケニル基,又はアルキニル基を示し;M1,M2は水素原子,金属元素,半金属元素,金属酸化物,半金属酸化物, 金属水酸化物,半金属水酸化物,金属ハロゲン化物,半金属ハロゲン化物を示し;X1はハロゲン原子,水酸基,シリロキシ基,アルコキシ基,アルキルチオ基,置換基を有していても良いアリールオキシ基,カルボキシ基を示す。)
【請求項2】
前記の一般式(1)で表される含フッ素フタロシアニン縮環ダイマーの合成法であって,下記一般式(2)で表されるフタロニトリル誘導体と下記一般式(3)で表されるフタロニトリル誘導体を反応させ,下記一般式(4)で表されるフタロシアニン誘導体とした後に,シアノ化合物と反応させ,下記一般式(5)で表せるジシアノフタロシアニン誘導体とし,その後,再び下記一般式(2)で表されるフタロニトリル誘導体を反応させる工程を備えることを特徴とする製造方法。
【化2】


(式中,R1,R2,R3,及びR4は式(1)記載の通りである。)
【化3】


(式中,R21,及びR22は式(1)記載の通りであり;X2はハロゲン原子を示す。)
【化4】


(式中,R1,R2,R3,R4,R5,R6,R7,R8,R9,R10,R11,R12,R21,R22,及びM1は式(1)記載の通りであり;X2は式(3)記載の通りである。)
【化5】


(式中,R1,R2,R3,R4,R5,R6,R7,R8,R9,R10,R11,R12,R21,R22,及びM1は式(1)記載の通りである。)