説明

含フッ素ボロン酸エステル化合物およびその製造方法

【課題】低融点の含フッ素ボロン酸エステル化合物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】両末端ジハロゲノハイドロフルオロカーボン化合物


(ここで、Rfは炭素数2〜20のパーフルオロアルキレン基であり、Xは臭素原子またはヨウ素原子であり、nは1〜5の整数である)に、ヒドロキシフェニルボロン酸エステル化合物を反応させることにより、含フッ素ボロン酸エステル化合物


(ここで、R1は炭素数2〜10の直鎖状または分岐状の2価脂肪族炭化水素基であり、aは1または2である)を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素ボロン酸エステル化合物およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、低融点の含フッ素ボロン酸エステル化合物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ボロン酸またはそのエステル化合物は、水や空気に対して安定でありかつ毒性も低いので、取り扱いが容易な有用な化合物である。特に、遷移金属触媒によるハロゲン化ビニル化合物またはハロゲン化アリール化合物とアルケニルボロン酸化合物またはアリールボロン酸化合物のクロスカップリング反応は、鈴木-宮浦反応として知られ、医薬品合成、農薬合成、液晶材料合成等の面で工業的に利用されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO 2008/126436
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Chem. Rev. 95巻 2457頁 (1995)
【非特許文献2】J. Fluorine Chem. 107巻 81頁 (2001)
【非特許文献3】Macromolecules 29巻 646頁 (1996)
【非特許文献4】J. Org. Chem. 60巻 7508頁 (1995)
【非特許文献5】Tetrahedron Lett. 45巻 6657頁 (2004)
【0005】
最近では上記反応がOLEDや導電性高分子材料の探索研究に多用されており、この場合には芳香族ジボロン酸またはそのエステル化合物がしばしば用いられる。また、芳香族ジボロン酸化合物、芳香族トリボロン酸化合物は、高分子材料の硬化剤として用いられる。しかしながら、これらの化合物は、有機溶媒に対する溶解性が低かったり、融点が非常に高い場合が多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は先に、耐熱性、低温特性および成形加工性にすぐれ、しかもフッ化水素酸等の酸性条件下での使用に耐え得る硬化物の主原料として、一般式

R1:H、アルキル基、フェニル基
X:I、Br
l+m:30〜130
で表される含フッ素ポリエーテル化合物を提案している(特許文献1参照)。
【0007】
この含フッ素ポリエーテル化合物は、そこに1,3,5-トリス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3-ジオキサボロラン-イル)ベンゼン、有機パラジウム化合物、塩基性無機または有機化合物(および有機リン化合物)を配合し、硬化性組成物を形成させることができる。
【0008】
しかしながら、硬化剤として用いられる芳香族トリボロン酸エステルである1,3,5-トリス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3-ジオキサボロラン-イル)ベンゼンは融点が200℃以上と高く、硬化性組成物中へ分散性が懸念され、そのため硬化温度以下、具体的には150℃以下の融点を有するボロン酸エステル化合物が望まれている。
【0009】
本発明の目的は、低融点の含フッ素ボロン酸エステル化合物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によって、一般式

(ここで、R1は炭素数2〜10の直鎖状または分岐状の2価脂肪族炭化水素基であり、Rfは炭素数2〜20のパーフルオロアルキレン基であり、aは1または2であり、nは1〜5の整数である)で表される含フッ素ボロン酸エステル化合物が提供される。
【0011】
かかる含フッ素ボロン酸エステル化合物は、一般式

(ここで、Rfは炭素数2〜20のパーフルオロアルキレン基であり、Xは臭素原子またはヨウ素原子であり、nは1〜5の整数である)で表される両末端ジハロゲノハイドロフルオロカーボン化合物に、一般式

(ここで、R1は炭素数2〜10の直鎖状または分岐状の2価脂肪族炭化水素基であり、aは1または2である)で表されるヒドロキシフェニルボロン酸エステル化合物を反応させることにより製造される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の含フッ素ボロン酸エステル化合物は、低融点であるため、共役系高分子材料の出発物質またはエラストマー性高分子化材料の硬化剤として好適に利用することができる。
【0013】
具体的には、一般式

X:臭素原子またはヨウ素原子
a:1または2
l+m:それぞれ独立に10以上の整数であり、ただしl+m=30〜200である
で表される含フッ素ポリエーテル化合物と反応し、エラストマー性の硬化物を与えることができる。このようにして得られるエラストマー硬化物は、耐薬品性、耐熱性および低温特性にすぐれているので、自動車、半導体、航空機等の油圧系シール材として有効に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の含フッ素ボロン酸エステル化合物は、一般式

で表される。R1は、炭素数2〜10の2価の直鎖状または分岐状脂肪族炭化水素基であり、具体的には、例えば-CH2C(CH3)2CH2-、-CH2CH2CH2-、-C(CH3)2C(CH3)2-、-C(CH3)2CH2C(CH3)2-、-CH(CH3)CH2C(CH3)2-基等が挙げられ、特に-C(CH3)2C(CH3)2-基が製造の容易さから選ばれる。Rfは、炭素数2〜20のパーフルオロアルキレン基であり、具体例としては-(CF2)m- (m:2〜20の整数、好ましくは2〜10)で表されるパーフルオロアルキレン基が挙げられる。aは1または2の整数であり、a=2はジ置換体を示している。nは、1〜5の整数であり、特に熱に対する耐性が必要な場合には1〜3が好ましい。
【0015】
本発明として、下記の含フッ素ボロン酸エステル化合物が例示される。












【0016】
これらの含フッ素ボロン酸エステル化合物は、例えば以下の反応式に示されるように、両末端ジハロゲノハイドロフルオロカーボン化合物(X:Br、I)にヒドロキシフェニルボロン酸エステル化合物を、炭酸カリウム等の無機塩基性化合物の存在下で反応させることにより製造することができる。

【0017】
この反応の反応溶媒としては、アセトン、ジオキサン、2-ブタノン、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の非プロトン性有機溶媒が用いられる。
【0018】
この際、ヒドロキシフェニルボロン酸エステルに水素化ナトリウムを作用させ、ナトリウムフェノラート化合物とした後、両末端ジハロゲノハイドロフルオロカーボン化合物と反応させてもよい。
【0019】
一方の反応原料である両末端ジハロゲノハイドロフルオロカーボン化合物は、両末端ジハロゲノパーフルオロカーボンまたはその誘導体から製造することができる(非特許文献2〜3参照)。なお、両末端ジハロゲノハイドロフルオロカーボン化合物において、nが1または2の場合、反応性が著しく低下する場合がある。この場合には、Xは-OSO2CH3、-OSO2CF3、-OSO2C4F9、-OSO2C6H4CH3基等であることが好ましい。
【0020】
他方の反応原料であるヒドロキシフェニルボロン酸エステル化合物は、例えば以下のようにして製造することができる(非特許文献4〜5参照)。

注) BnBr:ベンジルブロミド
Pd((dppf)Cl2:〔1,1-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン〕ジクロロパラジ
ウム
【実施例】
【0021】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0022】
実施例1
1,10-ビス〔3,5-ビス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェノキシ〕-1H,1H,2H,2H,3H,3H,8H,8H,9H,9H,10H,10H-パーフルオロデカンの製造

3,5-ビス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェノール 3.6g(10ミリモル)のジメチルホルムアミド(60ml)溶液に、65℃で炭酸カリウム4.3g(31ミリモル)を加え、10分間攪拌した。次いで、1,10-ジブロモ-1H,1H,2H,2H,3H,3H,8H,8H,9H,9H,10H,10H-パーフルオロデカン 2.1g(4.7ミリモル)を滴下し、その後3時間反応させた。反応混合物を室温まで冷却した後、通常の反応処理を行い、粗生成物5.9gを得た。これをn-ヘキサン/ジエチルエーテル(1/1(v/v))を溶出液としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーを行った後、エタノールから再結晶を行い、目的とする1,10-ビス〔3,5-ビス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェノキシ〕-1H,1H,2H,2H,3H,3H,8H,8H,9H,9H,10H,10H-パーフルオロデカンを、無色の結晶として3.3g(1,10-ジブロモ-1H,1H,2H,2H,3H,3H,8H,8H,9H,9H,10H,10H-パーフルオロデカンを基準とした収率72%)を得た。
融点:103〜110℃
IR(KBr):2,980cm-1、1,603cm-1、1,456cm-1、1,381cm-1、1,330cm-1
1,167cm-1、1,143cm-1、1,031cm-1、967cm-1、849cm-1、713cm-1
CDCl3中で測定した、19F-NMR(ケミカルシフトはCFCl3基準)および1H-NMR(ケミカ
ルシフトはTMS基準)のケミカルシフト(s:singlet、d:doublet、t:triplet、
m:multiplet、J:カップリング定数(Hz)):
【0023】
また、この含フッ素ボロン酸エステル化合物の1,3-ビス(トリフルオロメチルベンゼン)(後記各参考例で使用した含フッ素有機溶媒)の溶解度は、0.85g/10ml・溶媒であった。ここでの溶解度は、25℃において上記含フッ素有機溶媒10mlに含フッ素ボロン酸エステル化合物を添加して攪拌した後、均一な溶液状態となり得る最大添加量を目測で測定して決定した値である。
【0024】
これに対して、芳香族ジボロン酸エステル化合物である1,4-ビス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)ベンゼン(融点240℃)の上記含フッ素溶媒に対する溶解度は0.17g/10ml・溶媒であり、また芳香族トリボロン酸エステル化合物である1,3,5-トリス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)ベンゼン(融点は200℃以上であるが、明確な融点を示さない)の溶解度は0.20g/10ml・溶媒である。

【0025】
実施例2
1,10-ビス〔3-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェノキシ〕-1H,1H,2H,2H,3H,3H,8H,8H,9H,9H,10H,10H-パーフルオロデカンの製造

3-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェノール 0.34g(1.5ミリモル)のジメチルホルムアミド(20ml)溶液に、65℃で炭酸カリウム0.80g(5.8ミリモル)を加え、10分間攪拌した。次いで、1,10-ジブロモ-1H,1H,2H,2H,3H,3H,8H,8H,9H,9H,10H,10H-パーフルオロデカン 0.33g(0.74ミリモル)を滴下し、その後3時間反応させた。反応混合物を室温まで冷却した後、通常の反応処理を行い、粗生成物0.50gを得た。これをn-ヘキサン/ジエチルエーテル(1/1(v/v))を溶出液としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーを行った後、エタノールから再結晶を行い、目的とする1,10-ビス〔3-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェノキシ〕-1H,1H,2H,2H,3H,3H,8H,8H,9H,9H,10H,10H-パーフルオロデカンを、無色の結晶として0.31g(1,10-ジブロモ-1H,1H,2H,2H,3H,3H,8H,8H,9H,9H,10H,10H-パーフルオロデカンを基準とした収率53%)を得た。
融点:124〜127℃
IR(KBr):2,981cm-1、1,575cm-1、1,490cm-1、1,437cm-1、1,359cm-1
1,226cm-1、1,166cm-1、1,144cm-1、1,028cm-1、967cm-1、852cm-1
709cm-1
CDCl3中で測定した、19F-NMR(ケミカルシフトはCFCl3基準)および1H-NMR(ケミカ
ルシフトはTMS基準)のケミカルシフト(s:singlet、d:doublet、t:triplet、
m:multiplet、J:カップリング定数(Hz)):
この含フッ素ボロン酸エステル化合物の1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンに対する溶解度(25℃)は、0.20g/10ml・溶媒であった。

【0026】
参考例1
含フッ素ポリエーテル化合物(l+m=102、25℃における粘度15Pa・s)

100重量部、実施例1で調製された1,10-ビス〔3,5-ビス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェノキシ〕-1H,1H,2H,2H,3H,3H,8H,8H,9H,9H,10H,10H-パーフルオロデカン4.1重量部、酢酸パラジウム0.033重量部、トリフェニルホスフィン0.076重量部およびリン酸カリウム3.6重量部を、エタノール125重量部、水25重量部および1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン400重量部からなる混合溶媒中に加え、窒素雰囲気下、室温で5分間混合し、次いで減圧下、室温で揮発性物質を除去した。この混合物に、アセチレンカーボンブラックを13重量部加えた。このようにして得られた硬化性組成物について、モンサントディスクレオメーターを使用して130℃、30分間硬化トルクを測定した。
ML:0.5dN・m
MH:7.8dN・m
t10:5.1分
t50:12.0分
t90:20.9分
【0027】
参考例2
含フッ素ポリエーテル化合物(l+m=102、25℃における粘度14Pa・s)

100重量部、実施例1で調製された1,10-ビス〔3,5-ビス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェノキシ〕-1H,1H,2H,2H,3H,3H,8H,8H,9H,9H,10H,10H-パーフルオロデカン4.1重量部、酢酸パラジウム0.033重量部、2-(ジシクロヘキシルホスフィノ)ビフェニル0.19重量部およびリン酸カリウム5.5重量部を、エタノール125重量部、水25重量部および1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン400重量部からなる混合溶媒中に加え、窒素雰囲気下、室温で5分間混合し、次いで減圧下、室温で揮発性物質を除去した。この混合物に、アセチレンカーボンブラックを13重量部加えた。このようにして得られた硬化性組成物について、モンサントディスクレオメーターを使用して130℃、30分間硬化トルクを測定した。
ML:0.7dN・m
MH:6.5dN・m
t10:6.8分
t50:11.3分
t90:16.7分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式

(ここで、R1は炭素数2〜10の直鎖状または分岐状の2価脂肪族炭化水素基であり、Rfは炭素数2〜20のパーフルオロアルキレン基であり、aは1または2であり、nは1〜5の整数である)で表される含フッ素ボロン酸エステル化合物。
【請求項2】
一般式〔I〕において、R1が-C(CH3)2C(CH3)2-基である請求項1記載の含フッ素ボロン酸エステル化合物。
【請求項3】
一般式〔I〕において、Rfが-(CF2)m-基(ここで、mは2〜10の整数である)である請求項1記載の含フッ素ボロン酸エステル化合物。
【請求項4】
一般式

(ここで、Rfは炭素数2〜20のパーフルオロアルキレン基であり、Xは臭素原子またはヨウ素原子であり、nは1〜5の整数である)で表される両末端ジハロゲノハイドロフルオロカーボン化合物に、一般式

(ここで、R1は炭素数2〜10の直鎖状または分岐状の2価脂肪族炭化水素基であり、aは1または2である)で表されるヒドロキシフェニルボロン酸エステル化合物を反応させることを特徴とする請求項1記載の含フッ素ボロン酸エステル化合物の製造方法。
【請求項5】
一般式〔III〕において、R1が-C(CH3)2C(CH3)2-基である請求項4記載の含フッ素ボロン酸エステル化合物の製造方法。
【請求項6】
一般式〔III〕において、Rfが-(CF2)m-基(ここで、mは2〜20の整数である)である請求項4記載の含フッ素ボロン酸エステル化合物の製造方法。

【公開番号】特開2010−241705(P2010−241705A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90124(P2009−90124)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(502145313)ユニマテック株式会社 (169)
【Fターム(参考)】