説明

含フッ素ポリマー固定化遷移金属触媒

【課題】含フッ素遷移金属錯体の固定化率が高く、使用可能な反応溶剤が広範で、反応活性が高く、遷移金属の漏出が極めて低く、繰り返し使用寿命が長い含フッ素ポリマー固定化遷移金属触媒を提供する。
【解決手段】架橋性基を有する含フッ素架橋性ポリマー(a)を架橋して得られる含フッ素架橋ポリマー(A)の架橋構造中に、含フッ素遷移金属錯体(B)が固定化されてなる含フッ素ポリマー固定化遷移金属触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素ポリマー固定化遷移金属触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー固定化触媒を用いる反応は、触媒と生成物との分離が容易であり、触媒の回収・再使用が可能になるため、経済性、資源の有効利用、環境保全の観点から近年注目を集めている。従って、より有効なポリマー固定化触媒を開発するためには、触媒の新しい固定化法の開発が望まれている。
【0003】
金属をナノサイズにまで微粒子化するとバルクの性質とは異なる様々な性質が発現する。このような金属クラスターと呼ばれる微粒子は通常数十個の金属で構成され、数ナノメーターのサイズを持ち特異な物性を示す。このような金属クラスターを有機合成用触媒として用いると、触媒活性が飛躍的に向上するが、金属クラスターは不安定できわめて凝集し易いため、汎用的な触媒としての利用は困難とされている。金属クラスターを安定に得るための手法の一つとして、安定剤の存在下で金属イオンを還元し、金属クラスターを得ようとする試みがある。この場合の安定化方法としては、シクロデキストリンなど空洞を持つ分子に取り込む方法、テトラアルキルアンモニウムハライドなどの4級アンモニウム塩で取り囲む方法、ポリマーミセルに担持させる方法などが報告されている(非特許文献1)。しかしながら、このような手法で得られた金属クラスターの安定性は低く、化学反応における様々な条件下でその構造を保つことは困難であり、回収再使用などはほとんど不可能である。
【0004】
一方、化学工業の分野においては、環境問題の深刻化やコスト削減の必要性により、触媒使用量の低減化や、使用後の回収再使用が求められている。金属触媒を担体上に固定化する試みは古くから行われているが、通常、触媒を触媒活性や反応の選択性が低下、反応中の触媒金属の漏出による生成物の汚染、回収後の触媒活性の低下などを伴うため、より有効な金属触媒の固定化方法が求められている。
【0005】
近年、マイクロカプセル化を利用して金属触媒をポリマーに担持させたポリマー固定化触媒が開発されている(非特許文献2〜5)。しかしながら、これらのポリマー固定化触媒においても、耐溶剤性が不十分であったり、反応の種類によっては担持された金属が漏れ出すという問題があった(特許文献1)。
【0006】
また、パラジウム触媒を、マイクロカプセル化法により架橋性官能基を有するポリスチレン系のコポリマーにナノサイズクラスターとして担持し、その後熱架橋させることで、安定に固定化する技術を開発されている。この架橋ポリマー中のパラジウムは0価で、リン原子などのリガンドも配位していない状態でいながら極めて安定に存在している(特許文献2、3、非特許文献6、7)。しかしながら、本手法には、金属、または塩や配位子の種類によっては固定化が困難な場合が残されていた。
【0007】
このようななか、芳香族側鎖、親水性側鎖および架橋性基を有する架橋性ポリマーと、遷移金属化合物とを、当該架橋性ポリマーを溶解する4級アンモニウム塩を含む溶媒中で均一化させ、生じた組成物を析出させ、当該析出物中の架橋性基を架橋反応させることで、遷移金属化合物を高度に固定化させ、種々の反応において高い活性を示すばかりでなく、金属の漏出を伴うことなく回収・再使用できるポリマー固定化金属触媒とその製法が開発されている(特許文献4)。しかし、フッ素を含む架橋性ポリマーとフッ素を含む遷移金属化合物の組み合わせについては、検討されていない。
【0008】
【特許文献1】特開2002−66330号公報
【特許文献2】特開2002−253972号公報
【特許文献3】国際公開2004/024323号パンフレット
【特許文献4】特開2006−205105号公報
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc. 119, 10116 (1997).
【非特許文献2】S. Kobayashi et al. J. Am. Chem. Soc. 120, 2985 (1998).
【非特許文献3】S. Kobayashi et al. Org. Lett. 3, 2649 (2001).
【非特許文献4】T. Ishida et al. Adv. Synth. Catal. 345, 576 (2003).
【非特許文献5】S. Kobayashi et al. Chem. Commun. 2003, 449.
【非特許文献6】K. Okamoto et al. J. Org. Chem. 69, 2871 (2004).
【非特許文献7】K. Okamoto et al. Org. Lett. 6, 1987 (2004).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、含フッ素遷移金属錯体の固定化率が高く、使用可能な反応溶剤が広範で、反応活性が高く、遷移金属の漏出が極めて低く、繰り返し使用寿命が長い含フッ素ポリマー固定化遷移金属触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、架橋性基を有する含フッ素架橋性ポリマー(a)を架橋して得られる含フッ素架橋ポリマー(A)の架橋構造中に、含フッ素遷移金属錯体(B)が固定化されてなる含フッ素ポリマー固定化遷移金属触媒に関する。
【0011】
前記含フッ素架橋性ポリマー(a)は、芳香族基を有することが好ましい。
【0012】
前記含フッ素架橋性ポリマー(a)は、式(a1):
【0013】
【化1】

(式中、R1は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基または炭素数1〜10の含フッ素アルキル基である)
で示されるスチレン系単位(a1)と、
式(a2):
【0014】
【化2】

(式中、R2は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基または炭素数1〜10の含フッ素アルキル基であり、R3は炭素数1〜10のエーテル結合および/またはフッ素原子を含んでいてもよいアルキレン基である)
で示されるスチレン系単位(a2)と、
式(a3−1):
【0015】
【化3】

(式中、R4は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基または炭素数1〜10の含フッ素アルキル基、R5およびR6は同じかまたは異なり、いずれもフッ素原子を含んでいてもよい炭素数1〜10のアルキレン基であり、mは1〜30の整数である)
または式(a3−2):
【0016】
【化4】

(式中、R4、R6およびmは式(a3−1)と同一である)
で示されるスチレン系単位(a3)とを含む(ただし、R1〜R6の少なくとも1つはフッ素原子を含む)ことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、含フッ素架橋ポリマー(A)に、含フッ素遷移金属錯体(B)を固定化することで、繰り返し使用寿命が長く、使用可能な反応溶剤が広範で、活性が高い含フッ素ポリマー固定化遷移金属触媒を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の含フッ素ポリマー固定化遷移金属触媒は、含フッ素架橋性ポリマー(a)を架橋して得られる含フッ素架橋ポリマー(A)の架橋構造中に、含フッ素遷移金属錯体(B)が固定化されてなる。
【0019】
ここで、固定化とは、架橋性基を有する含フッ素架橋性ポリマー(a)が架橋して3次元的に籠状に張り巡らされた含フッ素架橋ポリマー(A)の構造中に含フッ素遷移金属錯体(B)が閉じ込められる(以下、マイクロカプセル化ともいう)ことであり、含フッ素架橋ポリマー(A)に含フッ素遷移金属錯体(B)が吸着や付着、化学結合をしているものではない。
【0020】
本発明で使用する含フッ素架橋性ポリマー(a)は、架橋するために架橋性基を有するものであり、さらに、金属の固定化率や金属の低漏出性に優れる点から芳香族基を、水やアルコールなどの極性溶剤への親和性に優れる点から親水性基を有することが好ましい。
【0021】
架橋性基、芳香族基、親水性基は、含フッ素架橋性ポリマー(A)の主鎖中に含んでいてもよいし、側鎖中に含んでいてもよいが、合成の容易さやマイクロカプセル化に優れる点から、側鎖中に含んでいることが好ましい。
【0022】
架橋性基としては、たとえば、エポキシ基、カルボキシル基、イソシアネート基、チオイソシアネート基、水酸基、第1級アミノ基、第2級アミノ基、チオール基などがあげられ、なかでも、架橋反応性に優れる点から、エポキシ基、カルボキシル基、イソシアネート基、チオイソシアネート基が好ましい。これらの架橋性基は、単独のみを含んでいてもよいし、必要に応じて複数含んでいてもよい。
【0023】
架橋性基の好ましい組み合わせとしては、たとえば、エポキシ基と水酸基、エポキシ基と第1級アミノ基、エポキシ基と第2級アミノ基、エポキシ基とカルボキシル基、イソシアネート基と水酸基、イソシアネート基と第1級アミノ基、イソシアネート基と第2級アミノ基、イソシアネート基とカルボキシル基などがあげられる。これらのなかでも、架橋反応性や低触媒被毒性に優れる点から、エポキシ基と水酸基の組み合わせが好ましい。なお、含フッ素架橋性ポリマー(a)中に架橋性基を複数種有する場合、架橋性基の結合位置に制限はないが、異なる位置の側鎖に含まれていることが好ましい。
【0024】
芳香族基としては、アルキル基または含フッ素アルキル基で置換されていてもよいアリール基やアラルキル基などがあげられる。
【0025】
アルキル基または含フッ素アルキル基で置換されていてもよいアリール基としては、通常炭素数6〜30、好ましくは6〜26、より好ましくは6〜16のものがあげられ、たとえば、
【0026】
【化5】

などがあげられる。
【0027】
これらのなかでも特に、芳香族基とフルオロアルキル基との間に非フッ素基があるものが、遷移金属の低漏出性に優れる点から好ましい。
【0028】
アルキル基または含フッ素アルキル基で置換されていてもよいアラルキル基としては、通常炭素数7〜30、好ましくは7〜10のものがあげられ、たとえば、
【0029】
【化6】

などがあげられる。
【0030】
親水性基としては、−R7OH、−R7OR8、−R7(OR9nOH、−R7(OR9n8、−R7(COOR9pOH、−R7(COOR9p8、−R7(COOR9q(OR10rOH、−R7(COOR9q(OR10r8(R7は炭素数1〜6のフッ素原子を含有していてもよいアルキレン基;R8は炭素数1〜10のアルキル基;R9およびR10は同じかまたは異なり、いずれも炭素数2〜4のアルキレン基;n、p、rは同じかまたは異なり、いずれも1〜10の整数;qは1または2である)で表されるものがあげられる。
【0031】
これらを満たす好ましい親水性基の具体例としては、たとえば、−CH2(OC244OH、−CH2(OC246OH、−CH2(OC248OH、−CH2(OC2410OH、−CH2(OC244OCH3、−CH2(OC246OCH3、−CH2(OC248OCH3、−CH2(OC2410OCH3などがあげられる。
【0032】
本発明で使用する含フッ素架橋性ポリマー(a)は、これらの官能基を有するものであればいかなるものであってもよいが、具体的には、式(a1):
【0033】
【化7】

(式中、R1は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基または炭素数1〜10の含フッ素アルキル基である)
で示されるスチレン系単位(a1)と、
式(a2):
【0034】
【化8】

(式中、R2は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基または炭素数1〜10の含フッ素アルキル基であり、R3は炭素数1〜10のエーテル結合および/またはフッ素原子を含んでいてもよいアルキレン基である)
で示されるスチレン系単位(a2)と、
式(a3−1):
【0035】
【化9】

(式中、R4は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基または炭素数1〜10の含フッ素アルキル基、R5およびR6は同じかまたは異なり、いずれもフッ素原子を含んでいてもよい炭素数1〜10のアルキレン基であり、mは1〜30の整数である)
または式(a3−2):
【0036】
【化10】

(式中、R4、R6およびmは式(a3−1)と同一である)
で示されるスチレン系単位(a3)とを含む(ただし、R1〜R6の少なくとも1つはフッ素原子を含む)ものが好ましい。
【0037】
好ましいスチレン系単位(a1)の具体例としては、たとえば、
【0038】
【化11】

などがあげられ、好ましいスチレン系単位(a2)の具体例としては、たとえば、
【0039】
【化12】

などがあげられ、好ましいスチレン系単位(a3)の具体例としては、たとえば、
【0040】
【化13】

などがあげられる。
【0041】
スチレン系単位(a1)〜(a3)の組み合わせとしては、
(1)a1:含フッ素、a2:含フッ素、a3:含フッ素
(2)a1:含フッ素、a2:含フッ素、a3:非フッ素系
(3)a1:含フッ素、a2:非フッ素系、a3:含フッ素
(4)a1:非フッ素系、a2:含フッ素、a3:含フッ素
(5)a1:含フッ素、a2:非フッ素系、a3:非フッ素系
(6)a1:非フッ素系、a2:含フッ素、a3:非フッ素系
(7)a1:非フッ素系、a2:非フッ素系、a3:含フッ素
があるが、なかでも、
【0042】
【化14】

の組み合わせ、
【0043】
【化15】

の組み合わせ、
【0044】
【化16】

の組み合わせ、
【0045】
【化17】

の組み合わせ、
【0046】
【化18】

の組み合わせが好ましい。
【0047】
含フッ素架橋性ポリマー(a)において、遷移金属の固定化率や金属の低漏出性、触媒の活性に優れる点から、スチレン系単位(a1)を1〜90モル%、スチレン系単位(a2)を1〜40モル%、スチレン系単位(a3)を1〜50モル%含むことが好ましい。
【0048】
また、含フッ素架橋性ポリマー(a)には、スチレン系単位(a1)〜(a3)以外の単位(以下、他の単位とする)を含んでいてもよい。
【0049】
他の単位としては、たとえば、スチレン、(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリル酸、マレイン酸エステル類、マレイン酸、フマル酸エステル類、フマル酸、ビニルエステル類などのモノマーがあげられる。これらの他の単位はフッ素系モノマーであってもよいし架橋性基を有するモノマーであってもよい。具体例としては、
【0050】
【化19】

(式中、Rfは炭素数3〜21の含フッ素アルキル基;R11は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基;R12は炭素数1〜10のアルキル基;R13は水素原子またはメチル基;Arは置換基を有していてもよいアリーレン基;nは1〜10の整数である)
などがあげられる。
【0051】
含フッ素架橋性ポリマー(a)が他の単位を含む場合、含フッ素架橋性ポリマー(a)において、金属錯体の固定化率や金属の低漏出性、触媒活性に優れる点から、スチレン系単位(a1)を5〜85モル%含むことが好ましい。
【0052】
なお、含フッ素架橋性ポリマー(a)は、ランダム共重合体でも、ブロック共重合体でもよい。
【0053】
本発明の含フッ素ポリマー固定化遷移金属触媒における含フッ素遷移金属錯体(B)としては、触媒活性に優れる点から、スカンジウム、イットリウム、イッテルビウムなどの希土類を含む遷移金属塩、アルミニウム塩、ジルコニウム塩、ハフニウム塩、ニッケル塩、ガリウム塩、インジウム塩、タリウム塩、ケイ素塩、ゲルマニウム塩、スズ塩、鉛塩、アンチモン塩、ビスマス塩が好ましく、希土類塩がより好ましく、スカンジウム塩またはイッテルビウム塩がより好ましい。
【0054】
また、本発明の含フッ素ポリマー固定化遷移金属触媒における含フッ素遷移金属錯体(B)としては、触媒活性、特に水中での反応性に優れる点から、式(B1):
M(OCORf1t
(式中、Mはスカンジウム、イットリウム、イッテルビウムなどの希土類を含む遷移金属、アルミニウム、ジルコニウム、ハフニウム、ニッケル、ガリウム、インジウム、タリウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、アンチモンまたはビスマス;Rf1は炭素数1〜16の含フッ素炭化水素基;tはMの原子価と同数の整数である)
で示される含フッ素カルボン酸金属塩(B1)、
式(B2):
M(SO3Rf1t
(式中、M、Rf1およびtは式(B1)と同一である)
で示される含フッ素スルホン酸金属塩、
式(B3):
M[C(SO2Rf13t
(式中、M、Rf1およびtは式(B1)と同一である)
で示される含フッ素スルホン酸メチド金属塩、または
式(B4):
M[N(SO2Rf12t
(式中、M、Rf1およびtは式(B1)と同一である)
で示される含フッ素スルホン酸イミド金属塩が好ましい。
【0055】
以上の要件を満たす含フッ素遷移金属錯体(B)としては、含フッ素カルボン酸希土類塩、含フッ素スルホン酸希土類塩、含フッ素スルホン酸メチド希土類塩、含フッ素スルホン酸イミド希土類塩などがあげられ、なかでも、含フッ素カルボン酸スカンジウム塩、含フッ素スルホン酸スカンジウム塩、含フッ素スルホン酸メチドスカンジウム塩、含フッ素スルホン酸イミドスカンジウム塩、含フッ素カルボン酸イッテルビウム塩、含フッ素スルホン酸イッテルビウム塩、含フッ素スルホン酸メチドイッテルビウム塩、含フッ素スルホン酸イミドイッテルビウム塩などが好ましい。
【0056】
本発明で使用できる含フッ素遷移金属錯体(B)の具体例としては、たとえば、Sc(SO3493、Sc(SO36133、Sc(SO38173、Y(SO3493、Y(SO36133、Y(SO38173、Yb(SO3493、Yb(SO36133、Yb(SO38173などがあげられ、入手の容易性や触媒活性、低環境負荷性に優れる点から、Sc(SO3493が好ましい。
【0057】
通常、ポリマー固定化金属触媒を製造する際には、架橋ポリマーと遷移金属化合物とを、4級アンモニウム塩を含有する溶媒に均一に溶解または分散させるが、本発明では、前記含フッ素架橋ポリマー(A)および含フッ素遷移金属錯体(B)を使用することで、水やアルコールなどの一般的な有機溶媒を使用することができる。
【0058】
以下、本発明の含フッ素ポリマー固定化遷移金属触媒の製造方法を説明する。
【0059】
まず、含フッ素架橋性ポリマー(a)と含フッ素遷移金属錯体(B)とを良溶媒に溶解した後、適当な貧溶媒を加えて相分離を起こすことにより、遷移金属をポリマー凝集物またはミセル様集合体に取り込むことができる。
【0060】
それは、たとえば、
(I)適当な極性の良溶媒に溶解させた後適当な極性の貧溶媒で凝集させる方法
(II)極性の良溶媒に溶解させた後適当な非極性溶媒を加えて遷移金属固定化ミセル様集合体を形成させ、更に、極性の貧溶媒で凝集させる方法
(III)適当な非極性の良溶媒に溶解させた後適当な非極性の貧溶媒で凝集させる方法
(IV)非極性の良溶媒に溶解した後適当な極性溶媒を加えて遷移金属固定化ミセル様凝集体を形成させ、更に非極性の貧溶媒で凝集させる方法
などにより行うことができる。この場合、(I)および(II)の方法では、形成されたミセル様凝集体の内方向に疎水性側鎖が、外方向に親水性側鎖が位置することになり、(III)および(IV)の方法では、形成されたミセル様凝集体の外方向に疎水性側鎖が内方向に親水性側鎖が位置することになる。
【0061】
極性の良溶媒としては、たとえば、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などがあげられ、非極性の良溶媒としては、たとえば、トルエン、シクロヘキサン、ジクロロメタン、クロロホルムなどがあげられる。
【0062】
一方、極性の貧溶媒としては、たとえば、メタノール、エタノール、ブタノール、アミルアルコールなどがあり、非極性の貧溶媒としてはヘキサン、ヘプタン、オクタンなどが使用できる。
【0063】
この際、含フッ素遷移金属錯体(B)の配位子の一部または全てが脱離する現象が認められる。含フッ素架橋性ポリマー(a)が芳香族基を有する場合、遷移金属超微粒子はミセル様凝集体において芳香族基との相互作用により固定化される。また、遷移金属は通常0価で固定されるが、含フッ素遷移金属錯体(B)がイオンの場合は相分離の際に還元処理することにより0価の遷移金属として固定できる。ここで、良溶媒中の含フッ素架橋性ポリマー(a)の濃度は約1〜100mg/ml、含フッ素遷移金属錯体(B)の量は含フッ素架橋性ポリマー(a)に対して0.01〜0.5質量%、貧溶媒の量は良溶媒に対して0.2〜10体積%用いられ、貧溶媒の添加時間は通常10分〜2時間かけて行われる。相分離の際の温度は特に制限はないが、通常室温で行われる。
【0064】
次に、含フッ素架橋性ポリマー(a)の架橋性基を架橋反応させる。
【0065】
架橋反応は、架橋性基の種類により、加熱や紫外線照射により反応させることができる。架橋反応は、これらの方法以外にも、使用する直鎖型有機ポリマー化合物を架橋するための従来公知の方法である、たとえば架橋剤を用いる方法、縮合剤を用いる方法、過酸化物やアゾ化合物などのラジカル重合触媒を用いる方法、酸または塩基を添加して加熱する方法、たとえばカルボジイミド類のような脱水縮合剤と適当な架橋剤を組み合わせて反応させる方法などに準じて行うことができる。
【0066】
架橋性基を加熱により架橋させる際の温度は、通常50〜200℃が好ましく、70〜180℃がより好ましく、100〜160℃がさらに好ましい。また、加熱架橋反応させる際の反応時間は、通常0.1〜100時間が好ましく、1〜50時間がより好ましく、2〜10時間がさらに好ましい。
【0067】
このようにして得られた含フッ素ポリマー固定化遷移金属触媒は、含フッ素架橋性ポリマー(a)が芳香族基を有する場合には、遷移金属が含フッ素架橋ポリマー(A)中の芳香族基との相互作用により超微粒子として固定化された形態を有していると考えられ、各種の反応、たとえば、オレフィンやケトンの水素化反応やオレフィンへのヒドロシリル化反応などに対して高い触媒活性を示す。
【実施例】
【0068】
つぎに本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0069】
なお、本発明で採用した測定法は以下のとおりである。
(1)誘導結合高周波プラズマ分光分析:(株)島津製作所製のICPS−7510を使用。測定はサンプルが水に不溶の場合には200℃に加熱した2mLの96%濃硫酸中で固形分が完全に消失するまで60%濃硝酸を断続的に滴下し、室温まで冷却後に50mLに希釈して行った。サンプルが水溶液の場合には96%濃硫酸を2mL加えた後に50mLに希釈して測定を行った。何れの場合においてもスカンジウムの固有ピーク(363.074nm)を観測対象とした。
【0070】
合成例1:含フッ素架橋性ポリマー(a−1)の合成
スチレン系モノマー(a1a):
【0071】
【化20】

2.09g(4.01mmol)、スチレン系モノマー(a2a):
【0072】
【化21】

0.111g(0.585mmol)、スチレン系モノマー(a3a):
【0073】
【化22】

0.158g(0.510mmol)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)3.87mgをクロロホルム15.5mLに溶解し、アルゴン雰囲気下で24時間、還流条件下で加熱攪拌した。冷却後反応混合物をメタノール50mL中に注いでポリマーを固化させた。デカントして上澄みを取り除いた後、再びメタノールに注いだ。沈殿したポリマーを濾過し、室温減圧下で乾燥し、含フッ素架橋性ポリマー(a−1):
【0074】
【化23】

(式中、x:y:zは80:10:10(モル%比)である)
1.23gを得た(収率52%)。
【0075】
合成例2:含フッ素架橋性ポリマー(a−2)の合成
スチレン系モノマー(a1b):
【0076】
【化24】

4.17g(7.58mmol)、スチレン系モノマー(a2a):
【0077】
【化25】

0.180g(0.942mmol)、スチレン系モノマー(a3a):
【0078】
【化26】

0.294g(0.945mmol)、AIBN3.87mgをクロロホルム15.5mLに溶解し、アルゴン雰囲気下で24時間、還流条件下で加熱攪拌した。冷却後反応混合物をメタノール50mL中に注いでポリマーを固化させた。デカントして上澄みを取り除いた後、少量のTHFに溶解し、再びメタノールに注いだ。沈殿したポリマーを濾過し、室温減圧下で乾燥し、含フッ素架橋性ポリマー(a−2):
【0079】
【化27】

(式中、x:y:zは80:10:10(モル%比)である)
1.59gを得た(収率34%)。
【0080】
調製例1:含フッ素ポリマー固定化遷移金属触媒(1)の調製
合成例1で得られた含フッ素架橋性ポリマー(a−1)0.400g、含フッ素遷移金属錯体(B)としてパーフルオロブタンスルホン酸スカンジウム(Sc(SO3493)0.101g、ジクロロメタン2mL、パーフルオロ−n−ヘキサン1mLを投入し、室温下で4 時間攪拌を行った。
【0081】
その後にフラスコを氷水浴で冷却し、メタノール30mLを加えて生じたガム状析出物をさらに30mLのメタノールで2回洗浄した。次いで120℃の乾燥機中で6.5時間減圧乾燥を行い、赤茶色固体のパーフルオロブタンスルホン酸スカンジウム固定化コポリマーを得た。得られた淡赤色固体0.301gをメタノール15mLとイオン交換水15mLの混合液で3回洗浄した後に40℃の乾燥機中で減圧乾燥を行い、淡黄色固体のパーフルオロブタンスルホン酸スカンジウム固定化コポリマー(含フッ素ポリマー固定化遷移金属触媒(1))を得た。
【0082】
誘導結合高周波プラズマ分光分析によって含フッ素ポリマー固定化遷移金属触媒(1)中のスカンジウム量を定量したところ、含フッ素ポリマー固定化遷移金属触媒(1)1gあたり0.057mmolであった。
調製例2:含フッ素ポリマー固定化遷移金属触媒(2)の調製
合成例2で得られた含フッ素架橋性ポリマー(a−2)0.409g、含フッ素遷移金属錯体(B)としてパーフルオロブタンスルホン酸スカンジウム(Sc(SO3493)0.101g、ジクロロメタン2mL、パーフルオロ−n−ヘキサン1mLを投入し、室温下で4時間攪拌を行った。
【0083】
その後にフラスコを氷水浴で冷却し、メタノール30mLを加えて生じたガム状析出物をさらに30mLのメタノールで2回洗浄した。次いで120℃の乾燥機中で6.5時間減圧乾燥を行い、得られた淡赤色固体をメタノール15mLとイオン交換水15mLの混合液で3回洗浄した後に40℃の乾燥機中で減圧乾燥を行い、淡赤色固体のパーフルオロブタンスルホン酸スカンジウム固定化コポリマー(含フッ素ポリマー固定化遷移金属触媒(2))を得た。
【0084】
誘導結合高周波プラズマ分光分析によって含フッ素ポリマー固定化遷移金属触媒(2)中のスカンジウム量を定量したところ、含フッ素ポリマー固定化遷移金属触媒(2)1gあたり0.064mmolであった。
【0085】
実施例1
10mLの丸底フラスコにベンズアルデヒド23.6mg、(Z)−1−フェニル−1−トリメチルシリロキシ−1−プロピレン63.3mg、イオン交換水1.5mLおよび合成例1で得られた含フッ素ポリマー固定化遷移金属触媒(1)174.9mgを投入し、室温下で12時間攪拌を行った。
【0086】
その後に反応溶液を濾過し、濾紙上に残った含フッ素ポリマー固定化遷移金属触媒(1)をイオン交換水10mLおよびジクロロメタン30mLで洗浄した。分液したジクロロメタン層から12.4mg、23%収率で目的物である3−ヒドロキシ−2−メチル−1,3−ジフェニル−プロパン−1−オンを得た。
【0087】
また、水層およびジクロロメタン層へのスカンジウムの溶出率を誘導結合高周波プラズマ分光分析によって定量した。結果を表1に示す。
【0088】
実施例2
10mLの丸底フラスコにベンズアルデヒド22.3mg、(Z)−1−フェニル−1−トリメチルシリロキシ−1−プロピレン63.2mg、イオン交換水1.5mLおよび合成例2で得られた含フッ素ポリマー固定化遷移金属触媒(2)157.4mgを投入し、室温下で12時間攪拌を行った。
【0089】
その後に反応溶液を濾過し、濾紙上に残った含フッ素ポリマー固定化遷移金属触媒(2)をイオン交換水10mLおよびジクロロメタン30mLで洗浄した。分液したジクロロメタン層から23.4mg、46%収率で目的物である3−ヒドロキシ−2−メチル−1,3−ジフェニル−プロパン−1−オンを得た。
【0090】
また、水層およびジクロロメタン層へのスカンジウムの溶出率を誘導結合高周波プラズマ分光分析によって定量した。結果を表1に示す。
【0091】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋性基を有する含フッ素架橋性ポリマー(a)を架橋して得られる含フッ素架橋ポリマー(A)の架橋構造中に、含フッ素遷移金属錯体(B)が固定化されてなる含フッ素ポリマー固定化遷移金属触媒。
【請求項2】
含フッ素架橋性ポリマー(a)が、芳香族基を有する請求項1記載の含フッ素ポリマー固定化遷移金属触媒。
【請求項3】
含フッ素架橋性ポリマー(a)が、
式(a1):
【化1】

(式中、R1は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基または炭素数1〜10の含フッ素アルキル基である)
で示されるスチレン系単位(a1)と、
式(a2):
【化2】

(式中、R2は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基または炭素数1〜10の含フッ素アルキル基であり、R3は炭素数1〜10のエーテル結合および/またはフッ素原子を含んでいてもよいアルキレン基である)
で示されるスチレン系単位(a2)と、
式(a3−1):
【化3】

(式中、R4は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基または炭素数1〜10の含フッ素アルキル基、R5およびR6は同じかまたは異なり、いずれもフッ素原子を含んでいてもよい炭素数1〜10のアルキレン基であり、mは1〜30の整数である)
または式(a3−2):
【化4】

(式中、R4、R6およびmは式(a3−1)と同一である)
で示されるスチレン系単位(a3)とを含む(ただし、R1〜R6の少なくとも1つはフッ素原子を含む)請求項1または2記載の含フッ素ポリマー固定化遷移金属触媒。

【公開番号】特開2008−221067(P2008−221067A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−60124(P2007−60124)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】