説明

含フッ素環状カーボネートの製造方法

【課題】水分がほとんど含まれない含フッ素環状カーボネートを製造する方法を提供する。
【解決手段】水、溶媒、及び含フッ素環状カーボネートを共沸蒸留させることにより水分が除去された含フッ素環状カーボネートを得る工程(1)を含むことを特徴とする含フッ素環状カーボネートの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素環状カーボネートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、正極、負極、セパレーター、非水系電解液等から構成される。非水系電解液中に水が存在すると、水の電気分解、水とリチウム金属との反応、リチウム塩の加水分解等が起こる可能性があり、電池の保存特性やサイクル特性を劣化させる。
【0003】
特許文献1には、非水系電解液に含まれるLiPFが水分と反応してフッ酸を発生し、このフッ酸によって、電池缶の腐食を引き起こすだけでなく、活物質であるリチウムを消費してしまいLiFを形成して、電池容量を低下させるという問題があったこと、この問題に対して、金属酸化物からなるフッ素吸着剤で処理した電解液を用いることによって、電解液中の遊離フッ素濃度が低減され、保存中におけるFとLiとの反応を抑制でき、電池内部抵抗の増大を抑制することができることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、電解質における水分量を電解質に対する質量比で20ppm以下とするようにすることにより、高電圧下においてもリチウム複合酸化物からの金属の溶出を抑制することができ、高いエネルギー密度を得ることができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平07−211349号公報
【特許文献2】国際公開第03/019713号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
含フッ素環状カーボネート、例えば、フルオロエチレンカーボネートはリチウム二次電池の非水系電解液の添加剤として使用される。非水系電解液中に水が存在すると、電池の保存特性やサイクル特性を劣化させるので、フルオロエチレンカーボネートに含まれる水分は除去することが好ましい。
【0007】
しかしながら、含フッ素環状カーボネートはカーボネート基を有することから、水との吸着性が大きく、水分を除去することが容易でなかった。
【0008】
本発明は、水分がほとんど含まれない含フッ素環状カーボネートを製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、水、溶媒、及び含フッ素環状カーボネートを共沸蒸留させることにより水分が除去された含フッ素環状カーボネートを得る工程(1)を含むことを特徴とする含フッ素環状カーボネートの製造方法である。(以下、本発明の第1の製造方法ということがある。)
【0010】
本発明は、脱水剤を含フッ素環状カーボネートに接触させることにより水分含有量が10ppm以下の含フッ素環状カーボネートを得る工程(2)を含むことを特徴とする含フッ素環状カーボネートの製造方法でもある。(以下、本発明の第2の製造方法ということがある。)
【0011】
本発明は、水、溶媒、及び含フッ素環状カーボネートを共沸蒸留させることにより水分が除去された含フッ素環状カーボネートを得る工程(1)、脱水剤を含フッ素環状カーボネートに接触させることにより水分含有量が10ppm以下の含フッ素環状カーボネートを得る工程(2)を含むことを特徴とする含フッ素環状カーボネートの製造方法でもある。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法は、上記の構成よりなるので、水分がほとんど含まれない含フッ素環状カーボネートを簡便に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の第1の製造方法は、水、溶媒、及び含フッ素環状カーボネートを共沸蒸留させることにより水分が除去された含フッ素環状カーボネートを得る工程(1)を含むことを特徴とする。
【0014】
含フッ素環状カーボネートは、式(A):
【0015】
【化1】

【0016】
(式中、X〜Xは同じかまたは異なり、いずれも−H、−CH、−F、−CF、−CFH、−CFH、−CFCF、−CHCFまたは−CHOCHCFCF;ただし、X〜Xの少なくとも1つは−F、−CF、−CFCF、−CHCFまたは−CHOCHCFCFである)
で示される含フッ素環状カーボネートであることが好ましい。
【0017】
〜Xは、−H、−CH、−F、−CF、−CFH、−CFH、−CFCF、−CHCFまたは−CHOCHCFCFである。誘電率、粘性が良好で、他の溶媒との相溶性に優れる点から−F、−CF、−CHCFが好ましい。
【0018】
式(A)において、X〜Xの少なくとも1つが−F、−CF、−CFCF、−CHCFまたは−CHOCHCFCFであれば、−H、−F、−CF、−CFH、−CFH、−CFCF、−CHCFまたは−CHOCHCFCFは、X〜Xの1箇所のみに置換していてもよいし、複数の箇所に置換していてもよい。なかでも、誘電率、耐酸化性が良好な点から、置換箇所は1〜2個が好ましい。
【0019】
含フッ素環状カーボネートとしては、たとえば、
【0020】
【化2】

などがあげられる。
【0021】
他にも、含フッ素環状カーボネートとしては、
【0022】
【化3】

などがあげられる。
【0023】
上記共沸蒸留によって、水と溶媒とが共沸して水分が除去される。上記溶媒は、水との共沸が可能な溶媒であることが好ましい。溶媒としては、水に不溶性あるいは難溶性であって、水と共沸組成物を生成する有機溶媒であることが好ましく、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、クメンのような芳香族炭化水素類;メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトンのようなケトン類;酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチルのようなエステル類;ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタンのような鎖状又は環状アルカンがより好ましく、中でも、キシレン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、及びヘプタンからなる群より選択される少なくとも1種であることが更に好ましい。共沸蒸留を行う時の溶媒の量は、水の量等によって適宜設定すればよいが、例えば、溶媒は、含フッ素環状カーボネートに対して、1〜20重量%であることが好ましい。より好ましくは、5〜10重量%である。工程(1)において、水は、含フッ素環状カーボネートに対して、10ppmを超えるものであってよく、200ppmを超えるものであってもよい。また、500ppmを超えるものであってもよい。また、1500ppm未満であってもよい。
【0024】
共沸蒸留は、より具体的には、含フッ素環状カーボネートと溶媒とを混合して容器に仕込み、混合液を攪拌しながら加熱して、水−溶媒の共沸混合物を留出させることにより行うことができる。
【0025】
100℃以下で共沸蒸留することが好ましい。20〜100℃で共沸蒸留することがより好ましい。温度が高すぎると含フッ素環状カーボネートが分解するおそれがあり、温度が低すぎると生産効率に劣るおそれがある。
【0026】
留出させた水−溶媒の共沸混合物を冷却して溶媒層と水層に分離させ、水を除去した溶媒を回収して再度利用することも可能である。
【0027】
留出温度が有機溶媒の沸点に達するまで共沸蒸留を継続することにより水分が除去された含フッ素環状カーボネートを得ることができる。本発明の第1の製造方法により、水分含有量が500ppm以下の含フッ素環状カーボネートを得ることができる。また、水分含有量が300ppm以下の含フッ素環状カーボネートを得ることもできるし、水分含有量が10ppm以下の含フッ素環状カーボネートを得ることも可能である。
【0028】
本発明の第2の製造方法は、脱水剤を含フッ素環状カーボネートに接触させることにより、水分含有量が10ppm以下の含フッ素環状カーボネートを得る工程(2)を含むことを特徴とする。
【0029】
脱水剤は、モレキュラーシーブ、シリカゲル、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、及び、無機酸化物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。なお、無機酸化物としては、酸化カルシウム及び酸化マグネシウムからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0030】
脱水剤は、モレキュラーシーブであることがより好ましい。モレキュラーシーブとしては、モレキュラーシーブ3A、モレキュラーシーブ4A、及び、モレキュラーシーブ13Xからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、モレキュラーシーブ3A及びモレキュラーシーブ4Aからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。更に好ましくは、モレキュラーシーブ4Aである。
【0031】
モレキュラーシーブは、使用前に乾燥することが好ましく、乾燥は100〜200℃に24〜48時間放置して行うことができる。
【0032】
本発明の第2の製造方法において、脱水剤を20〜80℃で含フッ素環状カーボネートに接触させることが好ましい。また、脱水剤を20〜60℃で含フッ素環状カーボネートに接触させることがより好ましい。温度が高すぎると含フッ素環状カーボネートが分解するおそれがあり、温度が低すぎると含フッ素環状カーボネートが凝固するおそれがある。
【0033】
脱水剤と含フッ素環状カーボネートとを接触させる時間は、接触前の含フッ素環状カーボネートの水分量や、処理すべき含フッ素環状カーボネートの量にもよるが、12〜48時間であってよい。
【0034】
脱水剤と含フッ素環状カーボネートとの接触は、攪拌翼を備えた撹拌容器に含フッ素環状カーボネートを投入し撹拌を開始したのち、脱水剤を投入して撹拌を継続することにより行うことができる。また、脱水剤をカラムに充填した後、含フッ素環状カーボネートをカラムに流通させることにより行うこともできる。
【0035】
脱水剤は、含フッ素環状カーボネートに対して0.5〜30質量%であることが好ましい。より好ましくは、1〜30質量%である。脱水剤が少なすぎると水分含有量が小さい含フッ素環状カーボネートを得ることができないおそれがあり、脱水剤が多すぎると添加量に見合った効果が得られず不経済である。工程(2)において、脱水剤に接触させる前の含フッ素環状カーボネートは、含フッ素環状カーボネートに対して、10ppmを超える水を含有するものであってよく、200ppmを超える水を含有するものであってもよい。また、1500ppm未満の水を含有するものであってもよい。
【0036】
本発明の含フッ素環状カーボネートの製造方法は、上記の工程(1)、及び、脱水剤を工程(1)で得られた含フッ素環状カーボネートに接触させることにより、水分含有量が10ppm以下の含フッ素環状カーボネートを得る工程(2)を含むことをことが好ましい。
【0037】
工程(1)及び工程(2)を連続して実施することにより、簡便かつ確実に水分含有量が10ppm以下の含フッ素環状カーボネートを製造することができる。
【実施例】
【0038】
つぎに本発明を実施例をあげて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0039】
実施例の各数値は以下の方法により測定した。
【0040】
(含フッ素環状カーボネートの水分含有量の測定方法)
露点計が30℃以上の雰囲気下でカールフィッシャーを設置し、水分測定を行う。
【0041】
(含フッ素環状カーボネート)
実施例1〜12では、含フッ素環状カーボネートとして、下記式(B):
【0042】
【化4】

で表される化合物を用いた。実施例1〜12において用いた式(B)で表される化合物のRfは下記表1に示している。
【0043】
実施例13では、含フッ素環状カーボネートとして、下記式(C):
【0044】
【化5】

(式中、Meはメチル基を表す。)で表される化合物を用いた。
【0045】
(実施例1)
1143ppmの水分を含有する含フッ素環状カーボネート(RfがFである式(B)で表される化合物)に、トルエン(和光純薬株式会社製)を表1に示す割合(溶媒添加量:含フッ素環状カーボネートの重量に対する重量割合)で混合して反応釜に仕込み、この混合液を攪拌しながら表1に示す温度で共沸蒸留を行い、水−溶媒の共沸混合物を留出させた。共沸蒸留後の含フッ素環状カーボネートの水分含有量は表1に示す。
【0046】
次に、共沸蒸留して得られた含フッ素環状カーボネートを反応容器に仕込み、表1に示す割合(脱水剤添加量:含フッ素環状カーボネートの重量に対する重量割合)で脱水剤(和光純薬株式会社製、商品名:モレキュラーシーブ3A〔MS3A〕)を撹拌しながら添加し、30〜60℃で36時間撹拌を継続した。得られた含フッ素環状カーボネートの水分量は10ppm未満であった。
【0047】
(実施例2〜4)
それぞれ、溶媒添加量、共沸蒸留の温度、脱水剤の種類、脱水剤添加量、脱水剤による処理時間及び処理温度を表1のようにしたこと以外は、実施例1と同じ方法で、水分の除去を行った。得られた含フッ素環状カーボネートの水分量を表1に示す。
【0048】
(実施例5)
1143ppmの水分を含有する含フッ素環状カーボネート(RfがFである式(B)で表される化合物)を反応容器に仕込んで、表1に示す割合で脱水剤(和光純薬株式会社製、商品名:モレキュラーシーブ4A〔MS4A〕)を撹拌しながら添加し、30〜60℃で12時間撹拌を継続した。得られた含フッ素環状カーボネートの水分量は10ppm未満であった。
【0049】
(実施例6)
RfがCHFである式(B)で表される化合物を含フッ素環状カーボネートとして用い、溶媒添加量、共沸蒸留の温度、脱水剤の種類、脱水剤添加量、脱水剤による処理時間及び処理温度を表1のように変更したこと以外は、実施例1と同じ方法で、水分の除去を行った。得られた含フッ素環状カーボネートの水分量を表1に示す。
【0050】
(実施例7)
RfがCFである式(B)で表される化合物を含フッ素環状カーボネートとして用い、溶媒添加量及び共沸蒸留の温度を表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同じ方法で共沸蒸留を行って水分の除去を行った。得られた含フッ素環状カーボネートの水分量を表2に示す。
【0051】
(実施例8)
RfがCFである式(B)で表される化合物を含フッ素環状カーボネートとして用い、脱水剤の種類、脱水剤添加量、脱水剤による処理時間及び処理温度を表2のようにしたこと以外は、実施例5と同じ方法で水分の除去を行った。得られた含フッ素環状カーボネートの水分量を表2に示す。
【0052】
(実施例9〜12)
それぞれ、表2で示されるRfを有する式(B)で表される化合物を含フッ素環状カーボネートとして用い、脱水剤の種類、添加割合、処理時間、及び処理温度を表2に示すようにしたこと以外は、実施例1と同じ方法で水分の除去を行った。得られた含フッ素環状カーボネートの水分量を表2に示す。
【0053】
(実施例13)
上記式(C)で表される化合物を含フッ素環状カーボネートとして用い、脱水剤の添加割合、処理時間、及び処理温度を表3に示すように変更したこと以外は、実施例5と同じ方法で水分の除去を行った。得られた含フッ素環状カーボネートの水分量を表3に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の製造方法により得られた含フッ素環状カーボネートは、リチウム2次電池の電解液に添加して使用することができ、電池の保存特性やサイクル特性を向上させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、溶媒、及び含フッ素環状カーボネートを共沸蒸留させることにより水分が除去された含フッ素環状カーボネートを得る工程(1)
を含むことを特徴とする含フッ素環状カーボネートの製造方法。
【請求項2】
脱水剤を含フッ素環状カーボネートに接触させることにより水分含有量が10ppm以下の含フッ素環状カーボネートを得る工程(2)
を含むことを特徴とする含フッ素環状カーボネートの製造方法。
【請求項3】
水、溶媒、及び含フッ素環状カーボネートを共沸蒸留させることにより水分が除去された含フッ素環状カーボネートを得る工程(1)、及び、
脱水剤を含フッ素環状カーボネートに接触させることにより水分含有量が10ppm以下の含フッ素環状カーボネートを得る工程(2)
を含むことを特徴とする含フッ素環状カーボネートの製造方法。
【請求項4】
溶媒は、水との共沸が可能な溶媒である請求項1又は3記載の製造方法。
【請求項5】
脱水剤は、モレキュラーシーブ、シリカゲル、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、及び、無機酸化物からなる群より選択される少なくとも1種である請求項2、3又は4記載の製造方法。
【請求項6】
含フッ素環状カーボネートは、式(A):
【化1】

(式中、X〜Xは同じかまたは異なり、いずれも−H、−CH、−F、−CF、−CFH、−CFH、−CFCF、−CHCFまたは−CHOCHCFCF;ただし、X〜Xの少なくとも1つは−F、−CF、−CFCF、−CHCFまたは−CHOCHCFCFである)
で示される含フッ素環状カーボネートである請求項1、2、3、4又は5記載の製造方法。
【請求項7】
20〜100℃で共沸蒸留する請求項1、3、4、5又は6記載の製造方法。
【請求項8】
脱水剤を20〜80℃で含フッ素環状カーボネートに接触させる請求項2、3、4、5、6又は7記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−67017(P2012−67017A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−210894(P2010−210894)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)