説明

含水廃液のための処理剤および含水廃液の処理方法

【課題】 フロアーワックス剥離汚水などの含水廃液を簡単かつ迅速に固形化するための処理剤および処理方法を提供すること。
【解決手段】 高分子吸水剤と、この高分子吸水剤の分散剤とを必須成分とし、前記分散剤は木粉を含有する、含水廃液の処理剤であって、
前記木粉は、微視的構造において、フィブリル(微小繊維群)の集合体をなし、50 メッシュパスが50重量%以上の粒度分布を有する
ことを特徴とする、含水廃液の処理剤と、この処理剤による含水廃液の固形化方法。或いは、前記分散剤として、木粉と共に米ぬかを用い、若しくは米ぬかを単独に用い、この米ぬかは、微視的構造において、多様で不均一な起伏に富んだ表面を呈する粒子の集合体をなしている、含水廃液の処理剤と、この処理剤による含水廃液の固形化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含水廃液に加えられてこの含水廃液を物理的に処理するための処理剤に関するものである。また、本発明は、含水廃液に処理剤を加えることによって、上記含水廃液を物理的に処理するようにした含水廃液の処理方法にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
オフィスビルディング、工場、あるいは、食堂、自動車修理工場、ガソリンスタンド、食堂の調理場、美容院、醸造酒の製造所、あるいは、病院、特養老人施設などから家庭に至るまで、我々は多くの含水廃液を垂れ流しにしている。そして、これらの含水廃液は、知らず知らずの間に、莫大な環境汚染を行っている。したがって、これらの環境汚染は、総合すると、莫大な環境汚染の元凶であることに驚かされる。それにもかかわらず、これらの汚染に対しては、何らの対策も採られておらず、その対策についての優れた方法も、実は皆無である。
【0003】
一時的に排出される含水廃液(以下、「一時廃液」という。)は、工場廃水のように汚水を定常的にかつ大規模に排出するものではない。しかし、このような一時廃液は、個別的には量も少なくかつ排出時間も短いにもかかわらず、全体を総合すると莫大な量になる。そして、このような一時廃液は、汚水の排出総量においては、工場排水を遥かに上回っている。現実的には、一時廃液をその発生現場で簡単かつ短時間に処置する方法がないために、公害発生を無視して、このような一時廃液を排水口などにたれ流しているのが現状である。このような現状は、環境破壊の防止の観点から、早急に解決されなければならない重要な問題である。注意すべきことに、これらの一時廃液に含まれる単位容積当たりの公害物質の絶対量は、大量に排出される工場廃水の場合によりも遥かに大きいことである。このことは、現在はまだ顕在化していないが、環境汚染の主役であることに注目すべきである。
【0004】
このような一時廃液の例について、つぎに説明すると、オフィスビルディング、工場、コンビニエンスストアなどの建物などのフロアーの床面は、通常は、樹脂ワックスで塗装されている。しかし、この塗装後には、美しい床面も、時間とともに次第に汚れ、また、損傷を受けるために、定期的に美化再生されるのが、普通である。この場合、まず、汚れた床面のフロアーワックスに液状の剥離剤を塗布し、10分間〜30分間ぐらいの一定時間を置いてから、フロアーワックス用のポリシャーでフロアーワックスを剥離する。そして、この剥離によって生じた汚水(以下、「剥離汚水」または「剥離廃液」という。)は、これまで、作業現場において、下水溝にそのまま流されて処理されてきた。しかし、近年は、上述のような公害問題が惹起されているので、このような剥離汚水の処理は、緊急の課題になっている。
【0005】
このような剥離汚水は、工場廃水のように定常的にかつ大規模に排出されるものではない。しかし、フロアーワックスを剥離して生じる剥離汚水(以下、「フロアーワックス剥離廃液」という。)の排出は、環境保全の観点からも、早急に解決しなければならない重要な問題である。なお、フロアーワックスの剥離は、通常は、アルカノールアミンを含む剥離用の液体(以下、「剥離剤」という。)をフロアーワックス上に塗布し、上記一定時間をおいて上述の剥離作業を行い、生じた強アルカリ性の剥離汚水を、この剥離作業のそれぞれの現場において、ペール缶と呼ばれる筒状の容器(容量約20リットル)に回収するのが、常法である。そして、このようにして得られた剥離汚水を排水口に流している現状は、これまでは、あまり注目されていなかった。しかし、環境保全の観点から、世論は、剥離汚水の垂れ流しの禁止に緊急に動いており、その解決は、緊急の課題である。
【0006】
従来は、剥離汚水の処理には、剥離作業現場において処置する方法がないために、公害発生を無視して剥離汚水を排水口に流していることが、多かった。しかし、環境破壊の防止の観点から、産業廃棄物処理業者に引き取らせて廃棄する方法も、次第に普及してきている。一方、産業廃棄物処理業者は、汚水浄化設備を備えた工場にこの剥離汚水を持ち帰り、この工場において、従来から工場排水の浄化に用いられている汚水処理方法またはこれと類似する汚水処理方法によって、上記剥離汚水中に溶解している物質を沈殿させて取り除くことによりこの剥離汚水を無害化した後に、この剥離汚水を廃棄する役割を担っている。
【0007】
このような浄化方法によれば、かなり大掛かりな汚水浄化設備が剥離廃液の処理に必要である、したがって、フロアーワックスの剥離作業現場では、このような浄化方法による剥離廃液処理を行うことは、事実上不可能であった。そして、フロアーワックスを剥離する作業現場において剥離汚水を短時間に処理する技術は、これまで皆無であり、そのような技術の出現は、フロアーワックス剥離を行う必要がある業界においては、垂涎の的であった。
【0008】
これまでの剥離廃液の沈殿処理においては、工場廃水の処置などに用いられている処理方法と類似した処理方法が用いられているので、無機系の凝集剤が専ら用いられている。このような凝集剤を具体的に例示すれば、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、ポリ硫酸第2鉄、塩化第2鉄、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸ばんど(すなわち、硫酸アルミニウムと酸化アルミニウムと水との混合物)などが挙げられる。これらの凝集剤の総ては、溶解している溶質に作用して、溶質を経時的に沈殿させるものである。
【0009】
これらの凝集剤の総ては、上述のように、溶解している溶質に作用して、溶質を経時的に沈殿させるものである。しかし、現状に目を向けると、これらの凝集剤を用いてフロアーワックス剥離廃液を処理する技術においては、溶解している固形物を沈殿させるのにかなりの長時間(例えば、20分間以上から数日間)を必要とする。そして、このような沈殿物をさらに分解除去する工程には、少なくとも30分間以上の時間(場合によっては、数日間)がかかるのが普通である。なお、このような凝集剤を用いてフロアーワックス剥離廃液を処理する技術は、後記の特許文献1〜4(日本国特開2000−288554公報、日本国特開2000−301162公報、日本国特開2001−212598公報、日本国特開2007−277455公報)などの先行特許文献に開示されている。
【0010】
フロアーワックス剥離廃液の処理技術は、通常は、上記4件の先行特許文献に開示されているように、無機系の塩析凝固剤または無機系の酸凝固剤もしくは有機系の凝集剤を用いるものである。この場合、沈殿物は、フロック(floc)と呼ばれ、多量の水分を含んでいてべとべとした粘着性を有するものである。このような沈殿物は、沈殿生成に長時間がかかる上に、凝集工程に続く分離工程においてさらに処理する必要があり、また、濾過するときに目詰まりを起こすなどするので、その処理操作に難渋するのが普通である。さらに、分離した濾過排水の処理も、必要である。
【0011】
フロアーワックス剥離廃液の無公害廃棄を実用的に実現させて普及させるためには、つぎの(a)項〜(c)項に記載の事項が、必須不可欠である。
(a)剥離汚水は、ペール缶と呼ばれる約20リットルの筒型の容器に集められて処理されるので、このような少量の単位で処理することができるとともに、少なくとも(またはできるだけ)数分の間に処理を終了させ得ることが、実用上不可欠である。
(b)ペール缶に集められた剥離汚水を剥離の現場で処置するためには、溶解した状態またはどろどろの状態に混合されている物質(すなわち、剥離汚水に分散または溶解している固形物)を少なくとも(またはできるだけ)数分の間に沈殿させることができること、このようにして生じた沈殿の状態がつぎの工程となる廃棄工程に適した性状であることが、必要である。換言すれば、上記沈殿によって生じた沈殿物に粘着性がないことや、この沈殿物に対する濾過などの分離作業が容易であることなどが、重要である。そして、このような問題解決なしには、剥離汚水を剥離現場で処理することは、事実上不可能である。
(c)最も望ましい形態は、剥離汚水の全体がペール缶内においてそのまま流動性のない固形状物質に変化するとともに、このような固形状物質が取り扱い易い性状を持つことである。そして、生じた固形状物質の性状が、そのままで可燃性のごみとして処理されることができるか、もしくは、産業廃棄物として処理されることができることなどが、理想である。
【0012】
既述のような一時廃液の例についてさらに説明すれば、例えば、塗料製造の現場において、或る色の塗料を調合してからつぎに別の色の塗料を調合する場合には、最初の塗料を調合した容器を別の色の塗料の調合の前に洗浄することになる。そして、このときには、上記或る色の塗料を含んだ洗浄水をどのように処理するのかが、問題である。また、美容院からは、パーマネント処理液が生じ、醸造酒の製造所からも、アルコール含有廃液が生じる。さらに、ガソリンスタンドでのオイル交換で出てくる汚れたオイルの洗浄液も、一時廃液である。また、工場において、操業後に装置を洗浄したり、装置の一部を分解して洗浄したりした場合にも、一時的に含水廃液が生じる。
【0013】
一方、大学や、公立あるいは私立の研究機関においても、研究に使う薬品や反応済みの種々の含水廃液が、有機化合物や無機化合物を含んだままで、排水として流されている。このような含水廃液のうちには、不要になった油、不要になった含水溶剤、不要になった非水溶性の有機溶剤、水素イオン濃度(以下、「pH」という。)5以下の酸性廃液、pH9以上のアルカリ廃液などがある。さらには、上記含水廃液のうちには、特殊な廃液として、クロム酸混液、写真用の定着液、写真用の現像液などや、カドミウム、鉛、六価クロム、亜鉛などを含む重金属化合物溶液などがある。
【0014】
また、病院においても、患者のし尿や吐血物、患者の気管から吸引した喀痰を含む感染性汚染物などのような公害をもたらす含水廃液が、完全には処理されずに、下水溝に流されている。このような現状は、早急に解決すべきであるにもかかわらず、優れた廃液処理方法がまだないために、現在は、規制もされずに野放しになっている。そして、これらの一時廃液の総量は、持続的に排出される工場廃液を上回るとも言われている。しかし、これらの一時廃液を現場で速やかにかつ短時間でかつ高い完成度で簡単に処理する方法はなく、このことは、早急に解決されなければならない公害問題である。
【0015】
これまでの一時廃液の処理技術においては、工場廃水の処置などに使われている処理方法と類似した無機系の凝集剤または高分子系の凝集剤が専ら用いられ、いずれにせよ、凝集剤を利用するのが、通常である。このような凝集剤を例示すれば、前述のように、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、ポリ硫酸第2鉄、塩化第2鉄、塩化カルシュウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸ばんど(すなわち、硫酸アルミニウムと酸化アルミニウムと水との混合物)などが挙げられる。
【0016】
既述のような一時廃液の例をさらに挙げれば、工場の操業時に持続して排出される廃水のように常時持続的にかつ大量に排出される廃液ではなくて、病院内において一時的に制限された量で排出される病院内の廃液(以下、「病院内廃液」という。)が、一時廃液として、存在している。このような病院内廃液は、その量が少ないけれども、病原菌を含むことが多くかつ感染などの危険が付きまとう。したがって、操作が簡便でかつ安全で短時間のうちに確実にかつ衛生的に上記病院内廃液を処理する優れた処理方法は、垂涎の的であるにもかかわらず、優れた処理方法がないのが現状である。
【0017】
患者から排出される汚物の処理は、大病院から各種の診療所、開業医施設などに至るまでの医療施設における最もわずらわしい処置の一つである。このような汚物の処置には、感染防止の観点および環境汚染防止の観点から、完全で衛生的な方法が求められるが、旧態依然の方法が未だに常態化したままで汚物の処置に用いられている。
【0018】
病院などの医療施設においては、患者から排出される吐血物や嘔吐物あるいは喀痰、呼吸器官から吸引される肺内からの分泌物の吸引液、手術の際の患者から出る体液や血液などの含水の排出液、患者の排泄物などの多数の汚物が、排出される。これらの汚物を衛生的にかつ簡便でかつ完全に処理する方法は、垂涎のものであるにもかかわらず、良策も少なく、看護師や治療者が旧態依然の方法で処置しているのが、現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
現状に目を向けると、前記4件の先行特許文献に開示されているように、凝集剤を用いる従来の処理方法では、溶解している樹脂ワックスを沈殿させるのにかなりの長時間(例えば、20分間以上から数日間)を必要とする。そして、剥離汚水をさらに分離除去する工程には、少なくとも30分間以上の時間(場合によっては、数日間)かかるのが、普通である。また、これら4件の先行特許文献に開示されているフロアーワックス剥離廃液の処理方法は、無機系の塩析凝固剤または無機系の酸凝固剤もしくは有機系の凝集剤を用いるものである。そして、このような剥離廃液の処理方法の場合には、凝集工程において、フロックを形成させることなどに時間がかかるとともに、凝集工程に続く分離工程を伴い、さらに、分離工程で分離した濾過排水の処理が必要である。したがって、上記4件の先行特許文献における剥離廃液の処理方法は、フロアーワックスの剥離現場での限定された作業時間内に、ワックス剥離と並行してこれらの処理を行う必要があるので、非現実的である。そして、フロアーワックスの剥離現場において、ペール缶単位で剥離汚水の総てを短時間のうちに粒状に固形化できるということは、従来は、全く想定すらできないことであった。また、濾過工程の必要もなく、処理排液も生じない剥離汚水処理方法は、従来は、夢想だにできなかった。
【0020】
さらに、フロアーワックス剥離廃液の発生現場を含む一時廃液の発生現場において、限定された短い作業時間内に、小型の容器内で一時廃液の全体を数分間という短時間内に粒状体に固形化できるということは、従来は、想定すら全くできなかった。また、濾過工程などの分離工程の必要もなく処理排液も全く生じない廃液処置方法は、夢想だにできなかった。
【0021】
一時廃液を発生現場で無公害化することを実用的に実現させかつ普及させるためには、つぎの(d)項および(e)項に記載する事項が必要である。
(d)小型の容器に集められた一時廃液をこのような少量の単位です早く処理することができ、また、少なくとも(またはできるだけ)数分の間に処理を終了させ得ることが必要であり、このように短時間で処理することの可否が、実用化する上で、死命を制する。
(e)最も望ましい処理形態は、一時廃液の全体が、作業現場で集められた容器内でそのまま固形状の粒子に変化し、このような固形状の粒子が取り扱い易い性状を持つことである。そして、生じた固形物の性状がそのままで可燃性のごみとして処理することができるものであることなどが、理想である。また、上記粒状の固形物を燃料として再利用することが、望まれる。
【0022】
病院内廃液を発生現場で無公害化とその処理とを実用的にかつ簡便に行う方法を、実現化させかつ普及させるためには、つぎの(f)項〜(h)項に記載の事項が必要である。
(f)病院内廃液を少量に単位です早く処理することができて、少なくとも数分の間に処理を終了させ得ることが必要であり、このように短時間で処理することの可否が、実用化する上で、死命を制する。
(g)最も望ましい処理形態は、病院内で発生する廃液の全体が、その発生現場でそのまま固形状の粒子に変化し、その過程が安全であるとともに衛生的に取り扱い易い性状を持つことである。そして、生じた固形状粒子の性状がそのままで焼却処理できるものであることなどが、理想である。
(h)上記処理の操作が、作業中および作業終了後の諸過程を通して、一切の感染性を排していて、安全かつ衛生的で簡便性を備えていなければならない。
【0023】
本発明者らは、フロアーワックス剥離廃液を簡便にかつ衛生的に短時間に処理する方法を案出し、実用化に向けて鋭意検討を進めた結果、病院内廃液などの一時廃液、その他の含水廃液に対して広くかつ普遍的に適用できる有用な手法と技術とを案出して、本発明を想到するに至っている。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、その第1の観点においては、含水廃液に加えられてこの含水廃液を物理的に処理するための処理剤において、高分子吸水剤と、この高分子吸水剤を上記含水廃液中に分散させるために、上記高分子吸水剤と混合されている分散剤とを含み、上記含水廃液に加えられたときに、上記含水廃液と上記処理剤との全体が、平均的に0.2〜10mm(好ましくは、0.25〜8mm、さらに好ましくは、0.3〜6mm)の範囲の大きさの粉砕スポンジ様の粒状体の多数個が集合している集合体に固形化されるように構成されていることを特徴とする含水廃液のための処理剤に係るものである。また、本発明は、その第2の観点においては、含水廃液に処理剤を加えることによって、上記含水廃液を物理的に処理するようにした含水廃液の処理方法において、上記処理剤が、高分子吸水剤と、この高分子吸水剤を上記含水廃液中に分散させるために、上記高分子吸水剤と混合されている分散剤とを含み、上記含水廃液に上記処理剤を加えることによって、上記含水廃液と上記処理剤との全体が、平均的に0.2〜10mm(好ましくは、0.25〜8mm、さらに好ましくは、0.3〜6mm)の範囲の大きさの粉砕スポンジ様の粒状体の多数個が集合している集合体に固形化されることを特徴とする含水廃液の処理方法に係るものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によって奏する第1の効果は、含水廃液の全体が処理剤による処置で短時間(例えば、僅か数分間)のうちに望ましくは直径数ミリメートル前後の大きさの粉砕スポンジ様(換言すれば、粉砕されたスポンジのような状態)の粒状体の多数個が集合している集合体に固形化することである。
【0026】
本発明によって奏する第2の効果は、含水廃液の全体が粒状体に固形化するために、濾過などの分離工程が不要であることである。
【0027】
本発明によって奏する第3の効果は、含水廃液の処置において、液体の排出が皆無であることである。したがって、従来は問題であった排水による環境汚染は、全く存在しない。さらに、固形化時に吸収された廃液が経時によって再滲出することが実質的になく、上記粒状体の保存性も含めて安定な性状を示す。特に、病院内廃液(換言すれば、上記粒状体)から液が一滴もなくなり、上記粒状体が保存性も含めて安定な性状を示して感染などの危険性がないという処置方法は、夢想だにできなかった。
【0028】
本発明によって奏する第4の効果は、生成される粒状固形化物の性状がきわめて取り扱い易いことである。すなわち、前記4件の先行特許文献に開示されている凝固剤によって分離されたブロック状固形物に見られるような粘着性も上記粒状固形化物にはなくて、上記粒状固形化物がぱらぱら(またはさらさら)した取り扱い易い形態である。また、本発明の実施の際には、固形化処理剤の添加による廃液全体の容積増加は、きわめて小さくて、10容量%以下(多くの場合では、5容量%以下)である。このことは、上記固形化処理剤自体は嵩高いが、この処理剤の実際の重量が小さいためである。
【0029】
本発明によって奏する第5の効果は、生成される固形物をそのまま可燃性のごみとして処置することができるか、あるいは、通常の事業所系の一般廃棄物として廃棄することができることである。本発明においては、一時廃液から生成される固形物は、望ましくは直径数ミリメートル前後の大きさで粉砕スポンジ様の粒状体であるために、比表面積が大きくて、焼却処理時に吸蔵した水分が蒸発し易い構造を持っている。また、熱が上記粒子の内部に伝わりやすく、さらに、上記粒子は、多孔性のために、酸素あるいは空気の供給性も優れていて、可燃性を支える構造になっている。
【0030】
本発明によって奏する第6の効果は、いかなる種類の一時廃液(例えば、いかなる種類の病院内廃液)であっても、水分を含んでいれば、流動性の有無に関係なしに本発明を適用することができることである。したがって、このような一時廃液は、水分を含んでいれば、溶液状であっても、オイルを含んでいても、エマルジョンであっても、乳濁液または懸濁液であってもよく、また、細かい粒子の沈殿状のものであっても、振蕩によって均一に分散するものであっても、本発明を普遍的に適用することができる。また、本発明は、含水廃液の種類を問わず、含水廃液中の水分量が全体の10%以上であれば、適用されることができるという普遍性も有している。一時廃液が、例えば、フロアーワックス剥離廃液であっても、また、患者の吐瀉物のように流動性がなくて粘り気がある病院内廃液であっても、本発明による処理剤で完全に処理することが、可能である。従来は、本発明のように普遍性を有している技術は、存在しなかった。
【0031】
本発明によって奏する第7の効果は、含水の状態が例えばエマルジョンを形成している場合のように擬均一状態(換言すれば、準均一状態)になっている必要は必ずしもなくて、油と水との混合物のように2層に分離している溶液に対しても、本発明による処理剤を用いて廃液処理を問題なく行うことができることである。
【0032】
本発明によって奏する第8の効果は、可燃性の有機溶剤またはオイルを含む含水廃液を本発明によって粒状体化した場合に、この廃液の引火性を消失させることができることである。
【0033】
本発明によって奏する第9の効果は、病院内廃液の発生現場で短時間(例えば、数分間)のうちに、この廃液の全体を多数個の粒状体が集合している集合体に固形化できることである。このことは、従来は全く想定すらできないことであり、処理用混合粉体を病院内廃液と混合することが最終工程になり、それに引き続く分離工程などの後工程の必要が特にない。
【0034】
本発明によって奏する第10の効果は、病院内廃液の種類を問わず、病院内廃液中の含水量が含水廃液の10重量%以上であれば、本発明を適用し得るという適用の幅の広さがあることである。従来は、このように普遍性のある廃液処理技術は存在しなかった。
【0035】
上記第1〜第10の効果から明らかなように、実用化が困難であった種々の問題点が本発明によって解決されることができる。例えば、完全な感染予防を担保した状態でもって、病院内廃液を発生現場で最終過程まで実用的にかつ衛生的に処置することを普及させるためには、病院内廃液を発生場所です早く処理することができて、少なくとも(またはできれば)数分の間に処理を終了させることができ、病院内廃液の全体が固形化された粒状体に変化し、この変化した固形化物の性状がそのままで燃焼処理できるものであることなどが、理想である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施例1において用いられている木粉の顕微鏡写真である。
【図2】本発明の実施例8において用いられている米ぬかの顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明における特徴の1つは、含水廃液のための処理剤が高分子吸水剤を含むことである。そして、本発明の上記第1および第2の観点においては、上記高分子吸水剤として、合成高分子であってよいポリアクリル酸ナトリウムと、ポリアクリル酸ナトリウムの共重合体と、ポリアクリル酸ナトリウムをN,Nメチレンビスアクリルアミドなどで架橋したその架橋体と、上記ポリアクリル酸ナトリウムの共重合体の架橋体とを含むポリアクリル酸系の高分子吸水剤のうちの少なくとも1種が用いられることができる。さらに、本発明において用いられる高分子吸水剤として、上記ポリアクリル酸系の高分子吸水剤から成る第1の群と、ポリアスパラギン酸、ポリアクリルアミド、上記ポリアクリルアミドの誘導体(例えば、ポリN,N’ジメチルアクリルアミドおよびポリN・イソプロピルアクリルアミド)、上記ポリアクリルアミドの架橋体および上記誘導体の架橋体を含む合成高分子吸水剤から成る第2の群とから成る第3の群から選ばれた少なくとも1種が用いられることもできる。
【0038】
さらに、本発明における際立った特徴の1つは、含水廃液のための処理剤が上記高分子吸水剤を含水廃液中に分散させるための分散剤を含むことである。上記分散剤としては、木粉、セルロース粉末、エチルセルロース、メチルセルロース、粉末化した籾殻、藁または枯葉を乾燥して粉末状に粉砕した細粉などのセルロース系の粉末や、精米所において精米時に発生する米ぬかなどのグルコース系の粉末などを用いることができる。また、上記セルロース系、グルコース系などの分散剤に代えてまたは加えて、豆腐の製造時の副産物であるおからなどのように、現在は有用な用途がなくて捨てられているものを、分散剤に利用することもできる。
【0039】
これらの分散剤は、水に不溶で可燃性のものであるのが望ましい。このことは、後述のように、固形化した一時廃液を可燃ごみとして処理するときに、重要である。本発明の実施に際して用いられる分散液は、吸水性と保水性との両方の性質を有しているのが、好ましい。ここで、吸水性とは、その物質の実質組織内に水分を吸収する能力をいう。また、保水性とは、その物質の実質組織内に水分を吸収する能力よりも、その物質の周囲に水分を保持する能力が優れていることをいう。そして、保水性は、分散剤の実質組織内と、分散剤の間に介在する高分子吸水剤の実質組織内とに、水分が吸収され易い環境を提供するという重要な役目を果たす。したがって、吸水性と保水性との両方の性能を併せ持つことができる本発明における分散剤は、吸水性と保水性との両方の効果を相乗的に高めて、固形化した粒子に適度な柔らかさを与える。そして、これらの固形化した粒状体の集合体である固形物は、従来の方法において生じる沈殿物(すなわち、フロック)の問題点であるべとつきがなく、さらさらとした取り扱い易い性状の粒状体群(すなわち、粒状体の集合体)を生成する。このことは、実用性の観点からは重要な要因である。
【0040】
上述のように例示した分散剤のうちで、特に際立って有用なものには、木粉と米ぬかがある。これらの木粉および米ぬかが本発明による効果を十分に発揮する重要な因子は、そのミクロ的(換言すれば、微視的)な特徴である。本発明に用いられる分散剤は、粉末の形状がブロック状または棒状もしくは桿状のものでは効果が少なく、フィブリル状(すなわち、微小繊維の集合体形状)に互いに絡み合っていて、これらの微小繊維間に間隙が多く存在する構造(換言すれば、微細に粉砕されていて、微小繊維の多数体が互いに絡まった状態で集合している粒状体の多数個がさらに集合している集合体)のものが優れている。木粉がこのような構造を有する状態になるには、木粉をさらに機械的に粉砕することによって、その大きさが50メッシュパス50重量%以上になるまで粉末状にする必要がある。なお、本文において、上記「メッシュ」とは、日本工業規格JIS Z8801−1982「標準ふるい」に依るものである。さらに、高度な分散性が木粉に要求される場合には、木粉の大きさは、100メッシュパスが50重量%以上であるのが好ましく、100メッシュパスが90重量%以上であるのがさらに好ましく、場合によっては、400メッシュパスが90重量%以上であった方がよい。これらの点は、木粉以外のセルロース系の粒状体についても該当する。これに対し、グルコース系である米ぬかの粒子は、本来、かつお節の削り節を粉砕したような性状(図2参照)を備えている。なお、この図2において、実際の寸法は、図2中のスケールで示されている。したがって、精米所において精米時に発生する米ぬかは、特に小さく粉砕されなくても、本発明における分散剤として(または分散剤の一成分)として良好に用いられることができる。
【0041】
本発明者らは、木粉に機械的に応力を加えて十分に粉砕することによって、木粉の微小繊維が立体的にかつランダムに集合して、これらの微小繊維間に間隙が存在するような微視的構造を木粉にとらせることに成功した(図1参照)。なお、この図1において、実際の寸法は、図1中のスケールで示されている。このようなミクロ的な微小繊維の絡まりが、分散剤である木粉の重量の3〜5倍程度の保水性をこの木粉が持つことを実現し、これと同時に、木粉の吸水性も、分散剤である木粉の重量の2〜3倍程度に向上した。このような吸水性の向上は、機械的に粉砕する過程で分散剤の実質組織壁が破壊されたために、木粉による水分の吸収が飛躍的に向上したものであると考えられ、この点は、本発明者らの発見である。本発明者によるこのような驚くべき効果は、処理を目的とする含水廃液を上記微小繊維群の間隙に毛細管現象で吸い込んで保持させた上で、上記微小繊維群に分散して絡まった高分子吸水剤が含水廃液を容易に吸収する場を提供するとともに、分散剤自身の吸水性も飛躍的に向上したことによるものであると考えられる。
【0042】
ここで説明した事象は、米ぬかの場合にも、同様に見られる。なお、米ぬかは、熱処理したものが好ましく用いられる。米ぬかのこのような熱処理によって、この米ぬかに付着していた微生物が死滅して、米ぬかのその後の貯蔵中におけるかびの発生が防止される。また、米ぬかの粒子群が処理剤の製品化に至るまでの操作中に砕かれ易くなるので、米ぬかの粒子が小さくかつ均一性に富むようになり、この結果、後述の含水廃液への米ぬかの混合性能が向上する。米ぬかは、木粉のような微小繊維が絡まった態様とは多少異なるが、不定形の角張った切り込みの多い形態(換言すれば、その表面が不均一な起伏に富んだ粒状体の多数個が集合している集合体の形態)をしており、この集合体には、多くの間隙が存在している(図2参照)。
【0043】
上記粉砕木粉や米ぬかが、これらと類似している別種の粉末と異なる点は、含水廃液へのす早い均一混合性がある。一般的に、粉末を液体に混ぜようとしても、例えば、食品のでんぷん、ココアまたは粉末のスープの素を湯に溶かしたときに見られるように、混ぜた粉末が往々にして団子状、いわゆる「ままこ(継粉)」に塊まることがある。そして、このように塊まった状態にいったんなると、上記粉末を均一に分散させるのに、難渋する。また、これら団子状のものは、加熱して強烈な撹拌をしない限り、時間が経っても均一に分散させることができない。そして、このような現象は、誰もが経験していることである。
【0044】
木粉や米ぬかは、高分子吸水剤を含めた処理剤全体をほとんど瞬時に含水廃液に分散させることができるが、このことは、木粉および米ぬかの抜きんでて優れた性能である。そして、木粉及び米ぬかがこのような性能を発揮することができるのは、木粉に含まれるリグニンや米ぬかに含まれるライスオイルの界面活性的効果の寄与が大きいことに基づくものであることを、本発明者らは発見した。このような成分上での好ましい天然の配合状態と、毛細管現象で含水廃液を吸い込む多くの間隙を作り出す形態上の微細構造とが、即効的な混合に相乗的にかつ大きく貢献していると考えられる。この点は、木粉や米ぬかが有する異質な性質であり、本発明者によるこのような発見の成果が、本発明の実用化の成功への鍵であった。
【0045】
上述のように、木粉や米ぬかが処理剤全体を含水廃液にほとんど瞬時に分散させることができるという効果が十分に発揮されるようにするためには、実際には、必須の基本条件が満たされる必要がある。この基本条件とは、本発明に用いられる木粉や米ぬかが一定の水分を保持していなければならないということである。そして、木粉や米ぬかが一定の水分を保持していなければ、処理剤全体を含水廃液にほとんど瞬時に分散させることができるという特色が発揮できないばかりでなく、含水廃液に投入した木粉や米ぬかは、含水廃液の上部に浮いてしまって、処理剤を撹拌しても含水廃液に馴染まない。本発明者らは、木粉や米ぬかの水分が少ないときにこのような現象が生じることを見い出した。そして、本発明を実用化する際には、このような現象を皆無にするのが望ましい。本発明者らは、この点について検討を進めた結果、この解決には、木粉、米ぬか、その他の分散剤に4〜60重量%の水分を含ませる必要があることを見い出した。この含水量は、好ましくは、6〜40重量%であり、さらに好ましくは、8〜35重量%である。この含水量が4重量%よりも小さいと、含水廃液との分散剤の非親和現象の発現でもって湿潤性が損なわれて、分散剤の効果が発揮されないばかりでなく、木粉などの分散剤が処理作業中に飛散して作業者が吸入する危険性がある。また、上記含水量が60重量%よりも大きいと、分散剤による効果の増進が十分には得られない上に、加えた木粉、米ぬかなどの分散剤の粉末が含水廃液の底に沈降するために、不均一な分散が生じることがあり、含水廃液と処理剤との全体の固形化現象に不均一性をもたらすことがある。木粉、米ぬか、その他の処理剤に一定の水分を含ませると、処理作業中における処理剤の粉末の飛散を防止する効果も抜群であり、この点も、本発明者らの発見である。
【0046】
木粉、米ぬかまたは両方の混合物のような分散剤粉末の含水量が6重量%以上(特に8重量%以上)の場合には、驚くべきことに、撹拌という手段を全く採らなくても、含水廃液の粘度が低ければ、分散剤粉末を含水廃液上に投入するだけで、これらの分散剤粉末が含水廃液に急速に沈降し始める。そして、総ての分散剤粉末が30秒間〜1分間という短時間に緩やかな沈降を行うために、本発明による効果が分散剤粉末などを撹拌することなしに発揮されることができるという現象を、本発明者らは発見した。この場合、ある種の病院内廃液のように含水廃液が粘っこいときでも、わずかな撹拌でもって分散剤が均一にかつ簡単に混ざるので、実用性の観点から最も好ましい現象が提供される。このために、一連の処理作業のうちの1工程を省略することができるので、この点は、きわめて重要な発見である。この場合も、含水量が60重量%を超えると、分散剤の一部が含水廃液の底に不均一に沈降して、固形化現象に不均一性を生じることがある。
【0047】
木粉や米ぬかが異色の効果を示すことは、上述のとおりであるが、木粉と米ぬかとの混合物がきわめて重要な役割を果すことも、本発明者らは見い出している。木粉は既述のように種々の特徴を有しているが、木粉には、実際には、健康上の心配が存在する。本発明において好適に用いられる100メッシュパスが50重量%以上の木粉は、非常に細かくて比重の小さい粉末であるために、処理作業中に舞い上がったりして飛散する傾向がある。このために、作業者は、このような木粉を吸入する危険性が存在し、日常的に吸入し続けた場合には、鼻孔癌の発生に関連するかもしれない。
【0048】
本発明者らは、鋭意検討を進めた結果、木粉に米ぬかを分散剤の3〜60重量%(好ましくは、4〜40重量%、さらに好ましくは、5〜30重量%)混合することによって構成した分散剤を用いると、木粉のみの分散剤を用いる場合において処理作業中にしばしば見られる木粉の飛散を、ほぼ完全に防止できることを発見した。この場合、木粉は、上記分散剤の40〜97重量%(好ましくは、60〜96重量%、さらに好ましくは、70〜95重量%)であってよい。そして、分散剤は、木粉および/または米ぬかのみから構成されていてもよく、また、木粉および/または米ぬかを主成分として含んでいてもよい。このような点は、本発明を実施する際にきわめて重要である。また、本発明者らは、木粉に水分を4〜60重量%含ませると、処理作業時の粉末飛散を防止できることを見い出している。したがって、本発明の実施に際しては、分散剤として用いられる木粉や米ぬかに4〜60重量%(好ましくは、6〜40重量%、さらに好ましくは、8〜35重量%)の水分を含ませることは、本発明において重要な意義を有している。
【0049】
さらに、本発明における特徴の別の1つは、含水廃液が水分を含んでさえいれば、本発明における処理対象にすることができるという適用範囲の広さと普遍性とである。この場合、含水廃液の水分が含水廃液の全量に対して10重量%以上(好ましくは20重量%以上、さらに好ましくは、30重量%以上)であれば、このような含水廃液に本発明を適用することが可能である。
【0050】
本発明におけるもう1つの特徴は、どのような含水廃液であっても(換言すれば、均一相であっても、また、水分と油分が相分離していても)、その種類に関係なく、本発明を適用することができるという普遍性にある。このことは、本発明において用いられる処理剤の構成成分である分散剤が親脂性と親水性の両面を備えた界面活性的な性能を持っていることが大きく寄与して、高分子吸水剤による含水廃液の処理に対する実用性の発揮に不可欠の要因を備えているためである。高分子吸水剤は、通常、粉末状または細かい顆粒状である。そして、高分子吸水剤がその粒子内に水分を吸収するためには、これらの水分子が粒子内に効率的に拡散していかなければならない。高分子吸水剤の粒子の内部へのこのような水分子の侵入のし易さは、1つには、粒子内での水分子の拡散に対する抵抗(これは、「粒子内部拡散抵抗」と称せられる。)でもって支配される。
【0051】
一方、高分子吸水剤の粒子同士が密着して固まっているときに、水分子が上記粒子間を移動しなければならないが、この移動は、粒子間の拡散を支配する要素に大きく影響される。すなわち、各粒子の外側(換言すれば、粒子間の空間)の拡散抵抗(これは、「外部拡散抵抗」と称せられる。)の支配を受ける。粒子同士が接着状態になってブロックを形成しているか、あるいは、密接して絡み合っていると、外部拡散抵抗が大きいので、水分子の拡散が阻害され、このために、水が高分子吸水剤に吸収される速度が著しく遅くなってしまう。本発明者らは、水が高分子吸水剤に吸収される速度がこの外部拡散抵抗に圧倒的に支配されることを見い出して、本発明を完成した。
【0052】
本発明の意図する含水廃液を処理する作業現場において、敏速に処理を進めるためには、総体的にみて、含水廃液を高分子吸水剤に敏速に吸収させなければならない。このために、上述の外部拡散抵抗を最小限にする手法が、本発明の実用化の可否を決定する1つの要因になる。本発明において用いられる分散剤は、この点を達成するための鍵の役割を果たすものである。本発明においては、用いられる分散剤が高分子吸水剤の個々の微粒子の間に介入して存在することによって、上記微粒子の拡散による移動を促進するとともに、高分子吸水剤の微粒子同士が接触することによりこれらの微粒子が互いに連なって塊に成長する現象を完全に防止し、この結果、高分子吸水剤への含水廃液の吸収作用が円滑に進むことを担保している。
【0053】
上記分散剤が高分子吸水剤の粒子間に均一にかつ一様に介在するように十分良好に分布させるために、分散剤に求められる必須の条件が一般的に存在する。本発明者らは、この条件が分散剤を構成する粒子の大きさと均一性とであることを見い出した。このことは、本発明者らの実用化への重要な知見であり、重要な発見であると言える。例えば、分散剤におがくずを用いた場合には、おがくずは、粒子の大きさが大きく、また、粒子の形状も安定しないために、分散剤として高分子吸水剤と一様には混ざりにくく、不均一な分散の状態になり易い。このために、おがくずを高分子吸水剤にたとえ注意深く念入りに混合しても、混合物の内部では、おがくず同士が集まった集団ができ易い。この結果、高分子吸水剤の粒子間におがくずを一様に分散させて介在させることができないので、含水廃液を短時間で固形化できないことが判明した。すなわち、含水廃液は、長時間かけても、ゲル化した半固体状のフロック状態から抜け切れず、流動性のゾル状態を保っていた。そして、上記含水廃液を固形化するためには、乾燥工程をさらに設けてかなりの時間をかけて乾燥しなければならないことが判明した。これでは、含水廃液の固形化処理を短時間内に完成することは到底できない現実がある(後記比較例4参照)。このことは、おがくずのように粒子の形状が比較的大きくかつ粒子の大きさが不均一な場合には、おがくずの粒子同士が絡み合って塊になる傾向があるために、おがくずの粒子が高分子吸水剤の粒子と良好には混じり合わないことに起因するものであることを、本発明者らは見い出した。
【0054】
本発明における分散剤の役割を達成するためには、木粉、セルロース粉末などで代表されるセルロース系などの分散剤の粒子の大きさに一定レベル以上の均一性を付与するのが望ましい。このことが、分散剤を高分子吸水剤の粒子間に均一に介在させて、高分子吸水剤を含水廃液中に一様に分散させる能力になるという重要な知見を基にして、本発明は完成されている。これらの分散剤の粒子は、木粉などのセルロース系などの場合には、50メッシュパスが50重量%以上(好ましくは、100メッシュパスが50重量%以上、さらに好ましくは、100メッシュパスが90重量%以上)であるのが望ましい。
【0055】
粒子径が大きくかつ不揃いであるおがくずと、上述のように粒子径が細かく制御された木粉との分散性の性能上の違いは、大きく、この違いが分散性から単に期待されるものを超えていることが、判明した。このことは、含水廃液を固形化した固形化粒子の性状である。粉砕して細かくすることによって粒子の形状を制御した木粉を用いると、驚くべきことに、固形化粒子がさらさらした(またはぱらぱらになる状態の)ドライ(すなわち、乾燥)感覚の手触りの粒子群に再現性よくなることが判明した。このことは、実用上取り扱い易い点で重要な特性であって、上述のような特殊な粉砕木粉と米ぬかとが本発明において用いられる分散剤として突出して良好であることを、本発明者らは見い出した。このことは、微視的には、木粉の製造時に形成される微小繊維群が互いに絡まってそれらの間隙がポーラス(すなわち、図1に示すような多孔性の構造)になることによって、不均一な凹凸に富む表面を形成し、毛細管現象によって、含水廃液をす早く吸い上げるためであると思われる。このようにして木粉の粒子の比表面積が増加することの寄与も加わって、木粉が含水廃液を最大限に吸収することを、本発明者らは見い出している。このことは、実用化する上でのきわめて重要な本発明者らの発見である。このような現象は、巨視的には、木粉を粉砕することによって木粉の嵩比重が減少して嵩高い粉末になることによって証明される。このような嵩高い粉末を含水廃液の処理に用いることは、これまでは知られていない。本発明の実施に際し、効果的な木粉の嵩比重は、0.1〜0.35(好ましくは、0.15〜0.3、さらに好ましくは、0.2〜0.25)であってよい。また、本発明の分散剤として米ぬかを用いるときには、その嵩比重は、0.15〜0.6(好ましくは、0.2〜0.55、さらに好ましくは、0.25〜0.5)であってよい。
【0056】
本発明者らが詳細に検討した結果、既述のように、上記分散性の性能は、木粉の粒子の大きさが50メッシュパス50重量%以上になると急激に発揮され、100メッシュパス50重量%以上になると一段と発揮され、100メッシュパス90重量%以上になるとさらに一段と発揮され、粒子径が細かくなるほど効果が出るという現象を、本発明者らは見い出している。このような現象は、前述したような粉砕による比表面積の増加と、粉砕により生じるミクロな微細繊維の集合体が凹凸に富んだミクロ構造をなしていることと、機械的に粉砕する過程で分散剤の実質組織壁が破壊されて、実質組織内への水分の吸収も飛躍的に向上することとのためであると考えられる。このような記述は、過去の文献にはなく、本発明者らが発見した現象であって、本発明は、このような発見によって完成を見たのである、上述のような木粉のミクロな微細繊維の集合体は、巨視的には、嵩高い粉末状態を示すことになる。ミクロな微細繊維によって構成される間隙の状態は、巨視的には、嵩高さに対応するので、分散剤の嵩高さを知ることによってミクロな微細繊維の様態を推定することができる。本発明者らの測定によると、木粉の粒子の大きさが100メッシュパス90重量%以上の木粉では、嵩比重は0.22であった。
【0057】
上述のように分散剤をできる限り揃った微細な大きさに整えるには、例えば木粉の場合には、特殊な粉砕工程が必要である。このような粉砕による分散剤の均一性が本発明の目的(換言すれば、短時間内での含水廃液の好ましい処理が可能であるとともに、廃液発生現場での処理が円滑に遂行できること)を達成し得るかどうかの成否の鍵であることが、判明した。このことは、上記木粉以外の分散剤(特に、セルロース系の分散剤)についても、言えることである。本発明を実施するに際して用いられる分散剤としては、既述のように、木粉で代表されるセルロース系の粉末や米ぬかで代表されるグルコース系の粉末が、含水廃液の最終的な固形化形態に好ましい性状を与える点(すなわち、固形化物が最終的に流動性を持たず、固形化物の表面に一切のぬめり感がなくてさらさらしているためにきわめて取り扱い易い点)や、可燃物として処理する場合に、優れた可燃性を付与する点などで、優れている。特に、木粉と米ぬかとは、含水廃液の最終処理物に可燃性を付与する燃焼助剤として、著しい効果がある。
【0058】
既述のように、本発明において用いられる分散剤の役割は、高分子吸水剤の個々の微細粒子同士の接着を避けて、高分子吸水剤粒子の間に分散剤を介在させることである。したがって、本発明において用いられる分散剤は、上述のようなセルロース系の分散剤およびグルコース系の分散剤のみに限定されるものでは必ずしもなく、この目的のものであれば、別の種々な粉末を上記分散剤として利用することが可能である。例えば、上記分散剤は、でんぷん粉、砂糖、合成高分子のポリビニールアルコール粉末、ゼラチン、尿素などの有機化合物や、食塩、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、重曹などの無機化合物であってもよい。しかし、固形化した含水廃液を可燃物として処理する観点からは、上記分散剤が無機物であることは、あまり推奨されない、また、上記分散剤は、水に溶けないものであるのが好ましいが、本発明者らの実験によると、水に溶けるものであっても、分散効果を十分に発揮する。
【0059】
含水廃液がアルカリ性であるときには、本発明における分散剤に少量の粉末状弱酸を中和剤として加えることもできる。このような中和剤は、例えば、カルボン酸を有する有機酸(具体的には、酒石酸、蓚酸、こはく酸、クエン酸、マレイン酸、リンゴ酸およびグルタミン酸)や、水に溶けて弱酸性を示す無機酸(具体的には、硼酸)であってよい。また、上記中和剤は、例えば、カルボン酸基を有する高分子化合物(具体的には、アルギン酸、ポリアクリル酸およびポリメタクリル酸)であってもよい。上述のような弱酸は、融点が常温以上の粉末状であるので、このような弱酸を本発明における分散剤に適量加えておくと、含水廃液がアルカリ性の場合には、本発明における含水廃液と処理剤との全体が中性に保たれる。このために、生成される固形化物の性状が経時的に安定化するので、上記固形化物の廃棄処分を急ぐ必要がなくなる。このことは、実際の作業において時間的な余裕ができるので、好ましい。
【0060】
本発明において用いられる高分子吸水剤の量は、処理対象の含水廃液の量に対して、容量比(高分子吸水剤/含水廃液)で、1/800〜1/10であってよい。この容量比は、好ましくは、1/600〜1/20であり、さらに好ましくは、1/500〜1/30である。この容量比が1/800よりも小さいと、固形化が不十分であって、含水廃液と処理剤との全体に流動性が生じるために、固形化とは言えない状態になる。逆に、上記容量比が1/10よりも大きいと、上記固形化物が硬い塊になるために取り扱いに困難性が生じる。
【0061】
本発明において用いられる分散剤の役割は、上述のように、本発明に用いられる高分子吸水剤の粉末または顆粒状体の各々が相互に接着しないように、分散剤がこれらの粉末または顆粒状体の間に介在することである。したがって、高分子吸水剤と分散剤との比は、重量比で規制するよりも、容量比で規制した方が理にかなっている。そして、本発明においてそれぞれ用いられる分散剤に対する高分子吸水剤の容量比(高分子吸水剤/分散剤)は、1/500〜1/1であってよい。この容量比は、好ましくは、1/100〜1/2であり、さらに好ましくは、1/30〜1/3である。この容量比が1/500よりも小さくなっても分散剤の効果の増大が得られず、逆に、固形化物の性状が硬すぎて扱いにくくなる。これとは逆に、上記容量比が1/1より大きいと、分散剤の効果が不十分なために、高分子吸水剤の粒子同士が部分的に接着状態になるので、含水廃液の吸収に時間が掛かってしまう。
【0062】
上記第1の容量比(高分子吸水剤/含水廃液)と上記第2の容量比(高分子吸水剤/分散剤)との2種類の容量比の望ましい範囲は、上述のとおりである。したがって、これら2種類の容量比と同様に、第3の容量比(分散剤/含水廃液)の望ましい範囲も、自ずと存在している。すなわち、この第3の容量比は、1/10〜50(好ましくは、1/6〜10、さらに好ましくは、1/4〜5)の範囲であってよい。
【0063】
本発明における上記第2の容量比(すなわち、高分子吸水剤/分散剤)は、含水廃液の固形化の観点からこれまで論じられてきた。しかし、固形化された含水廃液の廃棄処理に視点を移すと、具体的には、分散剤が可燃性の木粉の場合には、固形化された含水廃液を燃えるごみとして焼却するときに、非常に燃え易くなって有利である。本発明における分散剤として、木粉などのセルロース系のものが推奨される1つの利点としては、分散剤そのものが燃焼助剤として働くことも、強調したい。したがって、含水廃液の固形化後に可燃物として処理する場合には、上記第2の容量比は、小さい方(換言すれば、分散剤の容量が多い方)が有利である。上述のように、固形化された含水廃液を燃えるごみとして処分するためには、本発明において用いられるセルロース系の分散剤が木粉やセルロース粉末などの場合には、固形化された含水廃液は、可燃性能の向上につながる点において、有用な燃焼助剤としての役割を十分に果たしている。
【0064】
本発明において用いられる高分子吸水剤としては、既述のように、ポリアクリル酸ナトリウム系のものが最もよい。この場合、ポリアクリル酸ナトリウム系の粒子の形状および大きさが含水廃液を実際に処理する作業のスピードおよび操作性に大きな違いを生じることを、本発明者らは見い出している。高分子吸水剤の形状は、球形状などのビーズ様の形状よりも、板状の形状や、凹凸が複雑で不均一な異形を示す形状が、好ましい。そして、高分子吸水剤の形状の形態は、含水廃液の吸収速度にも、塊状に固形化した最終の固形化体の性状にも影響する。
【0065】
また、高分子吸水剤の形状は、球状などビーズ様の形状、角形(つのがた)の形状、平板状の形状、砕いたような突起やへこみが雑多にあって複雑で不均一な異形を示す形状などであってよい。そして、高分子吸水剤の形状は、本発明の目的のためには、特に複雑で不均一な異形を示す形状であるのが最も好ましい。ビーズ様の形状を持つ高分子吸水剤の場合には、ビーズ表面に「ぬめり」を与えるので、このようなぬめりが生成される固形化物に流動性を与えることがあり、このために、実際の処理作業がやりにくくなることがある。一方、不均一な異形を示す高分子吸水剤の場合には、塊状になった固形化物が非常に取り扱い易いものになる。このことは、実際の処理作業では、重要なことである。なお、高分子吸水剤の大きさは、その粒子の長径が平均的に1mm以下ぐらいであるのがよく、実際には、上記長径が、平均的に0.05〜1.0mm(好ましくは、0.08〜0.9mm、さらに好ましくは、0.1〜0.8mm)であるのが、望ましい適用範囲である。
【0066】
本発明においては、処理すべき含水廃液を容器に集めてから、この含水廃液に上述のような処理剤が加えられるのが、作業性の観点から好ましいことが多い。このような容器の容量は、3〜200リットル(好ましくは、5〜100リットル、さらに好ましくは、10〜50リットル)の範囲であってよい。また、このような容器に集められる含水廃液の量は、2または2.5リットル〜100数十リットル(好ましくは、4または4.5リットル〜80または90リットル、さらに好ましくは、7または8リットル〜40または45リットル)の範囲であってよい。
【0067】
本発明においては、含水廃液がフロアーワックス剥離廃液であってよい。この場合には、本発明は、フロアーワックス剥離廃液の処理方法に適用されることになる。この場合、フロアーワックスとしての樹脂ワックスを例示すれば、架橋ウレタン系ワックス(例えば、ユーホーケミカル株式会社製の「SURPASSプラス」)、架橋アクリル系ワックス(例えば、ユーホーケミカル株式会社製の「エメラルド」)、アクリル樹脂とウレタン樹脂とを組み合せて配合したワックス(例えば、ペンギンワックス株式会社製の「ペンギンスーパーコアU」)などを挙げることができる。そして、本発明は、上述のような樹脂ワックスを含む各種のフロアーワックスの剥離廃液に対して、幅広く適用されることができる。
【0068】
上述のようなフロアーワックスを剥離するのに用いられる剥離剤としては、種々のものが用いられることができる。このような剥離剤を例示すれば、ペンギンワックス株式会社製の「スカッシュ」、スイショウ油化工業株式会社製の「ハイパーリムーバー」などを挙げることができる。本発明は、上述のような各種の剥離剤を用いて剥離したフロアーワックス剥離廃液に対して、幅広く適用されることができる。
【0069】
本発明においては、含水廃液が、医療施設で発生する含水廃液であってもよい。特にこの場合には、本発明において用いられる処理剤は、高分子吸水剤および分散剤に加えて、滅菌剤、殺菌剤および消毒剤(以下、これらの3成分を「上記滅菌剤など」という。)から成る群から選ばれた少なくとも1種を含んでいるのが、好ましい。上記滅菌剤などのうちの粉末状のものを例示すれば、グルタルアルデヒド(滅菌剤)、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、アルキルポリアミノエチルグリシン、両性界面活性剤(以上の4種類は、いずれも殺菌剤)などを挙げることができる。本発明において用いられる上記滅菌剤などは、粉体である必要は必ずしもなく、ポピドンヨード、ヨウ素液、イソプロパノール、ヨードチンキ(以上の4種類は、いずれも滅菌剤)、フェノール(殺菌剤)、クレゾール石鹸液(消毒剤)のように、本来、液状のものであってもよく、粉末状の上記滅菌剤などを水などに溶かした水溶液であってもよい。なお、上記滅菌剤などが液状のものの場合には、本発明において用いられる分散剤にこの液状のものを加えて分散剤に予め吸収させてから、上記液状のものを使用することができる。なお、上記滅菌剤などは、医療施設以外で発生する含水廃液の処理にも、必要に応じて用いられることができる。
【実施例】
【0070】
つぎに、本発明の実施例1〜18および比較例1〜5について詳述する。
【0071】
[実施例1]
或る工場内の廊下のフロアー上には、塩化ビニール樹脂タイルが敷設されていた。そして、このフロアーの上面である床面(換言すれば、上記塩化ビニール樹脂タイルの上面)には、樹脂ワックスが塗布されていた。なお、この床面に樹脂ワックスが塗布されてから1年間以上経過していて、この床面がすっかり汚れきっていたので、この床面の樹脂ワックスの剥離とこの床面の再生美化とを行った。
【0072】
この場合、ペンギンワックス株式会社製の剥離剤であるスカッシュ(商標)を剥離剤として用いた。そして、このスカッシュを水で5倍に希釈してから汚れた床面に塗布し、約10分間放置した後にポリシャーでもって樹脂ワックスの剥離を行った。このときの剥離物である剥離汚水は、常法に従って、ペール缶に集められた。この含水廃液としての剥離汚水の総容量は、約12リットルであった。また、高分子吸水剤としてのポリアクリル酸ナトリウム架橋体約250g(容量約380ミリリットル)と、分散剤としての木粉(100メッシュパス90重量%以上)約1.2リットルと、中和剤としてのクエン酸10gとを事前に混合することにより調製した混合粉体を、上記剥離汚水に撹拌下で加えた。この場合、この粉体は、剥離汚水中に均一にかつ容易に分散した。剥離剤は、pHが13で強アルカリを示していたが、混合粉体を加えた後に測定すると、pHが7の中性になっていた。そして、約4分間後には、剥離汚水と上記混合粉体との全体が、柔らかくかつ非粘着性で小さい塊(換言すれば、粒状体)の多数個がぱらぱらに容易になる状態で集合している集合体になった。また、この集合体は、液体が全く存在しないといえる性状であった。なお、この実施例1において分散剤として用いられた木粉は、図1にその顕微鏡写真で示すような性状を有していた。
【0073】
[実施例2]
剥離汚水を集めるためのペール缶の中に廃棄用のポリ袋を予め入れておいた。そして、このポリ袋の中に剥離汚水を入れた。また、この実施例2においては、これらの点を除けば、上記実施例1の場合と全く同一の操作を行った。この場合、上記実施例1の現象が再現された。したがって、剥離汚水は、取り扱いやすい性状の小さい粒状体の多数個がぱらぱらに容易になる状態で集合している集合体の状態で、ポリ袋の中に存在していた。このために、ポリ袋をペール缶から持ち上げて、このポリ袋の上部の適当箇所を紐などで縛ってから、このポリ袋(換言すれば、剥離汚水入りのポリ袋)を可燃性ごみとしてそのまま処分することができた。
【0074】
[比較例1]
この比較例1においては、高分子吸水剤としてのポリアクリル酸ナトリウム架橋体約250gを単独で剥離汚水の処理剤として用いた。そして、上記実施例1の場合に用いたような木粉などの分散剤は全く用いなかった。また、この比較例1においては、この点を除けば、上記実施例1の場合と全く同一の操作を行った。この比較例1の場合には、高分子吸水剤を加えるときに、激しく撹拌したり、また、全部を一度に加えないで少量ずつ時間をかけて加えたりして、加え方をいろいろ工夫しても、高分子吸水剤同士が集まって大きな塊になる傾向を阻止することができなかった。このために、高分子吸水剤が剥離汚水を吸収するのに必要な時間が3時間以上になってしまうので、剥離作業現場で剥離汚水を早急に処理することは、到底不可能であった。
【0075】
[比較例2]
この比較例2においては、上記実施例1において分散剤として用いた木粉の代わりに、分散剤としておがくずを用いたこと以外は、上記実施例1の場合と全く同一の操作を行った。この場合、おがくずの粒子は、その約90重量%が20メッシュオン(換言すれば、その約10重量%が20メッシュパス)であった。この比較例2においては、高分子吸水剤としてのポリアクリル酸ナトリウム架橋体と、分散剤としてのおがくずとを混合することにより調製した混合粉体を、上記剥離汚水に撹拌下で加えた。しかし、このように加えてから約1時間が経過しても、上記剥離汚水は、固まらないでゾル状の流動性のある物質になった。また、上述のように加えてから約24時間が経過しても、上記剥離汚水は、ゲル状の半固体状態と言えるものであった。そして、このゲル状の半固体状態である剥離汚水を固形化するためには、この剥離汚水をトレイに流し入れてから熱風で7時間以上乾燥する必要があった。この比較例2において、上記実施例1の場合とは異なる結果が得られた理由は、上記おがくずの粒子の大きさが上記実施例1において用いられた木粉の粒子の大きさに較べて大きすぎるためであると考えられる。
【0076】
[実施例3]
オフィスビルディングのフロアー上には、塩化ビニール樹脂タイルが敷設されていた。そして、この塩化ビニール樹脂タイルの上面である床面に塗布されていたワックスは、塗布してから約10ヶ月間が経過していたので、汚れがそうとう目立ってきていた。そこで、この床面のワックスの剥離とこの床面の再生美化とを行った。この場合、床面のワックスとしてどのような種類のワックスが用いられていたのかは、不明であった。そして、スイショウ油化工業社製の剥離剤であるハイパーリムーバー(商標)を剥離剤として用いた。また、水によるハイパーリムーバーの希釈率は、20倍であった。
【0077】
この剥離剤を汚れた床面に塗布してから、約15分間放置した後にポリシャーでもってワックスの剥離を行った。このときの剥離物である剥離汚水は、常法に従って、ペール缶に集められた。そして、この剥離汚水の総容量は、約16リットルであった。また、高分子吸水剤としてのポリアクリル酸ナトリウム架橋体約300グラムと、分散剤としてのセルロース粉末(粒度100メッシュパス90重量%以上で直径約37μm)約1.5リットルとを事前に混合することにより調製した混合粉体を、上記剥離汚水に撹拌下で加えた。なお、本文において、上記表記およびこれと類似の表記の場合、100メッシュパス以外の粒子(換言すれば、100メッシュオンの粒子)と100メッシュパスの粒子とが混り合った状態で使用されることを意味している。この場合、この混合粉体は、剥離汚水中に直ちにかつ均一に分散した。そして、約5分後には、剥離汚水と上記粉体との全体が、柔らかくかつ非粘着性で小さい粒状体の多数個がぱらぱらに容易になる状態で集合している集合体になった。また、この剥離汚水を含む集合体には、流動性は全くなく、この集合体は、液体が全く存在しないと言える性状であった。
【0078】
[実施例4]
或る工場内の廊下のフロアー上には、塩化ビニール樹脂タイルが敷設されていた。そして、このフロアーの上面である床面には、ワックスが塗布されていた。なお、この床面にワックスが塗布されてから約10ヶ月間以上経過していて、この床面がすっかり汚れきっていたので、この床面のワックスの剥離とこの床面の再生美化とを行った。
【0079】
この場合、コニシ株式会社製の剥離剤であるハクリスター8(商標)を剥離剤として用いた。そして、このハクリスター8を水で8倍に希釈してから汚れた床面に塗布し、約12分間放置した後にポリシャーでもってワックスの剥離を行った。このときの剥離物である剥離汚水は、常法に従って、ペール缶に集められた。この剥離汚水の総容量は、約13リットルであった。また、高分子吸水剤としてのポリアクリル酸ソーダ架橋体約270g(容量約400ミリリットル)と、分散剤としての乾燥した木粉(120メッシュパス90重量%以上)1.5リットルと、中和剤としてのクエン酸15gとを事前に混合することによって、混合粉体を調製した。そして、この混合粉体をペール缶内の剥離汚水に撹拌下で加えた。この混合粉体は、剥離汚水中ですぐに均一にかつ容易に分散した。上記混合前の剥離剤のpHは、13で、かなりのアルカリ性であったが、混合後に測定すると、剥離剤は中性(すなわち、pH7)になっていた。そして、約2分間後には、この剥離汚水と上記混合粉体との全体が、柔らかくかつ非粘着性で小さい粒状体の多数個がぱらぱらに容易になる状態で集合した集合体になった。また、この集合体は、液体が全く存在しないと言える性状であった。
【0080】
[実施例5]
赤色の水性塗料を調合釜内で調合してから、製品用に取り出し、引き続いて、黄色の塗料を上記調合釜内で調合することになった。このために、上記調合釜内に残っていた調合済の赤色水性塗料を水で洗浄して、この赤色塗料洗浄液を別の容器(すなわち、収容容器)に流し込んで収容した。そして、この洗浄および収容の操作を数回(例えば、5回)繰り返して赤色塗料洗浄液を上記収容容器に集めた。なお、この収容容器に集められた赤色塗料洗浄液の総量は、約14リットルであった。
【0081】
ついで、高分子吸水剤としてのポリアクリル酸ナトリウム架橋体約280g(容量約430ミリリットル)と、分散剤としての木粉(100メッシュパス90重量%以上)2.0リットルとを事前に混合することにより調製した混合粉体を、上記収容容器内の赤色塗料洗浄液に撹拌下で加えた。上記粉体は、上記赤色塗料洗浄液にすぐに均一にかつ容易に分散した。このように2.0リットルという多量の木粉を上記赤色塗料洗浄液に加えたにもかかわらず、この塗料洗浄液の液面の上昇はほとんど見られなかった。そして、上記混合粉末を加えてから約3分間後には、上記塗料洗浄液と上記粉体との全体が、柔らかくかつ非粘着性で小さい粒状体の多数個がぱらぱらに容易になる状態で集合している集合体になった。また、この小さい粒状体の集合体を白色の紙の上に15分間置いたところ、この集合体から上記紙への液体の滲み出しは、全く観察されなかった。さらに、上記集合体を上記紙上に置いてから60分間経過した後に再度観察したが、この集合体から上記紙への液の滲み出しは、全く観察されなかった。
【0082】
[実施例6]
この実施例6においては、上記実施例5の場合と同様に、水性塗料を調合釜内で調合してから、この調合された水性塗料を製品用に取り出した後に、上記調合釜内に残っている調合済の水性塗料を水で洗浄して、この洗浄液を収容容器(容量18リットル)に収容した。なお、この収容容器内には、廃棄用のポリ袋を予め入れてあり、このポリ袋内に上記塗料洗浄液を流し込んだ。ここまでの操作手順は、廃棄用のポリ袋を収容容器内に予め入れておいたことを除いて、上記実施例5の場合と同一であった。この実施例6において用いた木粉の粒子の大きさは、50メッシュパスが70重量%以上のものであった。この実施例6においても、上記実施例5における現象が再現された。また、上記塗料洗浄液と上記混合粉体との全体は、小さい粒状体の多数個がぱらぱらに容易になる状態で集合したスポンジ状の集合体の状態で、ポリ袋内に存在していた。そして、このスポンジ状集合体は、取り扱い易い性状のものであった。このために、上記ポリ袋を持ち上げてから、このポリ袋の上部の適当箇所を縛れば、このポリ袋を可燃性ごみとしてそのまま処分することができた。
【0083】
[比較例3]
この比較例3においては、高分子吸水剤としてのポリアクリル酸ナトリウム架橋体約220gを単独で用い、上記実施例5の場合に用いた分散剤としての木粉は、全く用いなかった。そして、この点を除けば、上記実施例5の場合と全く同一の操作を行った。また、この比較例3の場合には、高分子吸水剤を加えるときに、激しく撹拌したり、また、一度に全部加えないで少量ずつ時間をかけて加えたりして、加え方をいろいろ工夫しても、高分子吸水剤同士が集まって大きな塊となる傾向を阻止することができなかった。このために、高分子吸水剤が塗料洗浄液を吸収するのに必要な時間が5時間以上になってしまうので、塗装作業現場で塗料洗浄液を早急に処理することは、到底不可能であった。
【0084】
[比較例4]
この比較例4においては、上記実施例5の場合に用いた分散剤としての木粉の代わりに、比較例2の場合に用いたおがくずを用いたこと以外は、上記実施例5の場合と全く同一の操作を行った。この場合、おがくずの粒子は、その約90重量%が20メッシュオン(換言すれば、その約10重量%が20メッシュパス)であった。この比較例4においては、高分子吸水剤としてのポリアクリル酸ナトリウム架橋体と、分散剤としてのおがくずとを混合することにより調製した混合粉体を、上記塗料洗浄液に撹拌下で加えた。そして、このように加えてから約1時間が経過しても、上記塗料洗浄液は、固まらないで、ゾル状の流動性のある物質になった。また、上述のように加えてから約14時間が経過しても、上記塗料洗浄液は、ゲル状の半固体状態と言えるものであった。そして、この塗料洗浄液を固形化するためには、このゲル状の半固体状態である塗料洗浄液をトレイに流し入れてから熱風で約7時間乾燥する必要があったので、上記塗料洗浄液全体が1つの大きな塊まりになって、その取り扱いに難渋した。
【0085】
[実施例7]
美容院で常用しているパーマ剤の使用液(すなわち、パーマ使用廃液)を捨てずにポリエチレン容器に集めておいたところ、このパーマ使用廃液の全量が約13リットルになった。そこで、上記実施例5の場合と同様に、高分子吸水剤としてのポリアクリル酸ナトリウム架橋体約180g(容量約280ミリリットル)と、分散剤としての木粉(100メッシュパス70重量%以上)1.0リットルとを混合することにより調製した混合粉体を、上記ポリエチレン容器内の上記パーマ使用廃液に緩やかに撹拌しながら加えた。この混合粉体は、すぐに均一にかつ容易に分散した。そして、上記混合粉体を加えてから約3分間後には、パーマ使用廃液と上記混合粉体との全体は、柔らかくかつ非粘着性で小さい粒状体の多数個がぱらぱらに容易になる状態で集合した集合体になった。そして、この集合体は、液体が全く存在しないと言える性状であった。
【0086】
[実施例8]
青色の水性塗料を調合釜内で調合してから、この調合された青色水性塗料を製品用に取り出し、赤色の塗料を上記調合釜内で調合することになった。このために、上記調合釜内に残っている青色水性塗料を水で洗浄して、この青色塗料洗浄液を別の収容容器に収容した。この操作を数回(例えば、5回)繰り返して青色塗料洗浄液を上記収容容器に集めた。この収容容器に集められた青色塗料洗浄液の総量は、約12リットルであった。
【0087】
高分子吸水剤としてのポリアクリル酸ナトリウム架橋体約250g(容量約380ミリリットル)と、分散剤としての米ぬか約1.0リットルとを、事前に混合した。そして、この両方を混合した粉体を上記収容容器内の青色塗料洗浄液に撹拌下で加えた。この混合粉体は、上記青色塗料洗浄液にすぐに均一かつ容易に分散した。そして、上記混合粉体を加えてから約2分間後には、上記洗浄液と上記混合粉体との全体は、柔らかく非粘着性で小さい粒状体の多数個がぱらぱらに容易になる状態で集合している集合体になった。また、この集合体は、液体が全く存在していないと言える性状であった。なお、この実施例8において分散剤として用いられた米ぬかは、図2にその顕微鏡写真で示すような性状を有していた。
【0088】
[実施例9]
病院において血液検査を行ったときに生じた残血液を排血用容器に集めておいた。そして、別の収容容器内にビニール袋を予め入れてから、上記残血液を上記排血用容器からこのビニール袋内に注入した。この場合、上記収容容器のビニール袋内に集められた残血液の総量は、約230ミリリットルであった。一方、高分子吸水剤としてのポリアクリル酸ナトリウム架橋体約2.2gと、分散剤としての木粉(100メッシュパス90重量%以上)5.0g(約23ミリリットル)と、滅菌剤としての塩化ベンザルコニウム1.5gとを事前に均一に混合することによって、混合粉体を調製した。そして、上記残血液を収容したビニール袋にこの混合粉体を加えて振り混ぜた。上記混合粉体は、残血液にすぐに均一にかつ容易に分散して残血液を吸収した。そして、上記混合粉体を加えてから5分間後には、上記残血液と上記混合粉体との全体は、柔らかく非粘着性で小さい粒状体の多数個がぱらぱらに容易になる状態で集合している集合体になった。また、この集合体は、血液が全く存在していないと言える性状であった。このために、上記ビニール袋の上部の適当箇所を紐などで縛ってから、このビニール袋から残血液を一滴も漏らすことなく、このビニール袋をそのまま焼却処分することができた。
【0089】
[実施例10]
分散剤としての木粉(100メッシュパス90重量%以上)約250g(容量約1.2リットル)に滅菌剤としての5%(w/v)のグルコン酸クロルヘキシジン水溶液150ミリリットルを加えてかき混ぜると、木粉は、グルコン酸クロルヘキシジン水溶液を吸収してしまった。ついで、このようにグルコン酸クロルヘキシジン水溶液を吸収した上記木粉に高分子吸水剤としてのポリアクリル酸ナトリウム架橋体約7gを加えて均一に混合することによって、衛生粉体を調製した。
【0090】
上述のように調製された衛生粉体を、患者の嘔吐物の上にこの嘔吐物全体を覆うように振りかけた。そして、このように振りかけてから約5分間放置した後に、上記嘔吐物を掃き集めると、上記嘔吐物と上記衛生粉体との全体は、さらさらした小さい粒状体の多数個が集合している集合体になった。このために、この集合体をビニール袋に取り集める操作は簡単であったので、上記嘔吐物の総てを安全に処置することができた。また、この処置をした後には、嘔吐物があった付近に嘔吐物などの汚物の痕跡がなく、嘔吐物の処置を衛生的にかつ清潔に行うことができた。
【0091】
[実施例11]
分泌物過多のために喀痰吸引をしばしば行っていた感染症の患者が、喀痰を含んだ汚液を排出した。そして、この汚液の処置に上記実施例10において調製した衛生粉体を用いた。上記含喀痰汚液の総量は、約110ミリリットルであった。一方、容量200ミリリットルのビーカーにビニール袋を予め入れておいた。そして、このビニール袋内に上記含喀痰汚液を注ぎ入れた。また、上記ビニール袋内の上記含喀痰汚液の上から上記実施例10において調製した衛生粉体(換言すれば、木粉とポリアクリル酸ナトリウム架橋体とグルコン酸クロルヘキシジンとの混合粉体)を加えた。この衛生粉体は、放置しておいても、上記含喀痰汚液中に静かに沈み始めた。そして、上記衛生粉体を上記ビニール袋内に加えてから5分間後には、上記含喀痰汚液と上記衛生粉体との全体が、固形化した。このために、上記ビニール袋を上記ビーカーから取り上げて、このビニール袋の上部の適当箇所を紐などで縛ってから、このビニール袋の外側からこのビニール袋を揉むようにほぐすと、このビニール袋の内容物(換言すれば、喀痰汚液と衛生粉体との全体)をさらさらの粒子群に変換させることができた。この結果、感染性のある上記含喀痰汚液を衛生的に総て処置することができた。
【0092】
[実施例12]
赤色の水性塗料を調合釜内で調合してから、この調合された赤色水性塗料を製品として調合釜から取り出し、その後にこの調合釜で黄色の塗料を上記調合釜で調合することが予定されていた。このために、上記調合釜内に残っていた調合済の赤色の水性塗料を水で洗浄して、この赤色塗料洗浄液を別の容器(すなわち、収容容器)に流し込んで収容した。そして、この洗浄および収容の操作を数回(例えば、5回)繰り返して、赤色塗料洗浄液を上記収容容器に集めた。この収容容器に集められた赤色塗料洗浄液の総量は、約14リットルであった。
【0093】
ついで、高分子吸水剤としてのポリアクリル酸ナトリウム架橋体約280g(容量約430リットル)と、分散剤としての木粉(100メッシュパス90重量%以上)2.0リットルとを事前に混合することにより調製した混合粉体を、上記収容容器内の赤色塗料洗浄液に撹拌下で加えた。この実施例12における操作が上記実施例5の操作とは異なっている点は、この実施例12において用いた木粉が使用前には乾燥していてその含水率を4重量%以下に調整されていたことである。このように調整した理由は、冬場や貯蔵中の木粉の乾燥状態の変化が操作にどのような影響を与えるのかを調べるためであった。この場合、上記混合粉体は、撹拌されても赤色塗料洗浄液の上部に留まり、この洗浄液には、均一にはなかなか混ざらなかった。そして、上記混合粉体と上記洗浄液との全体をしばらく激しく撹拌していると、上記混合粉体は、上記洗浄液中に急に均一に分散して混合された。しかし、均一に混合されるのには時間と労力とを要するので、操作上の問題点を提起するものとして、この点は、重量な知見である。なお、このように上記混合粉体が上記洗浄液中に混合しにくかった理由は、木粉の表面が乾燥していて疎水化しているために、木粉が水分を一時的にはじく現象が生じたものであると思われる。そして、木粉の表面がいったん濡れると、その後は、上記実施例5の場合と同様の現象を再現したものであると思われる。
【0094】
[実施例13]
この実施例13の操作手順は、上記実施例12の操作手順とほとんど同一であった。しかし、この実施例13においては、上記実施例12において用いた乾燥木粉に水を加えた含水率14重量%の木粉を、比較のために用いた。この実施例13においては、上記実施例5における現象が完全に再現されたので、分散剤としての木粉の含水率が前記混合粉体の均一かつ即時の混合性に重量な働きをしていることが、確認された。このことは、木粉が水分の効果でもって親水化して、フィブリル化した木粉の内部への赤色塗料洗浄液の浸入に重要な役目を担っていることを、証明するものである。そして、これらの現象は、実用化での分散剤の含水率の管理が如何に重要であるのかを示している。また、この実施例13を実施したときに、木粉の飛散は、全く見られなかった。そして、木粉を比較のために含水率が3重量%になるまで乾燥してから、この木粉を用いて同一工程を行ったところ、木粉がこの工程中に飛散するために、前記混合粉体と前記洗浄液との全体を撹拌しても、木粉は、上記洗浄液の液面上でぐるぐると回るだけで、上記洗浄液にはなかなか馴染まなかった。このために、上記洗浄液への上記混合粉体の分散には難渋し、作業者は、上記木粉から飛散する飛散木粉の吸入をさけるために、マスクを掛ける必要があった。
【0095】
[実施例14]
この実施例14の操作手順は、上記実施例13の操作手順とほとんど同一であった。しかし、この実施例14においては、上記実施例13において用いた含水率14重量%の木粉を分散剤として含む1種類目の処理用粉体と、木粉と米ぬかとの含水率14重量%の混合粉体(混合重量比4:1)を分散剤として含む2種類目の処理用混合粉体とをそれぞれ準備した。そして、これら2種類の処理用混合粉体を前記赤色の塗料洗浄液上にそれぞれ投入しただけで、撹拌手段を一切用いずに上記処理用混合粉体および上記洗浄液を観察した。この場合、驚くべきことに、1種類目の処理用混合粉体も2種類目の処理用混合粉体も、洗浄液との接触部位からこの洗浄液内に急速に沈降を開始した。そして、このように沈降を開始してから1分間後には、総ての処理用混合粉体が沈降し、さらに、上述のように沈降を開始してから2分間後には、系全体の固形化が完結した。この実施例14は、上記木粉および米ぬかに水分を一定量含ませると、撹拌手段を用いなくても、処理剤としての好ましい効果が十分に発揮されることを示しており、このために、この点についての新しいかつ重要な知見を証明するものであった。
【0096】
[実施例15]
この実施例15における条件は、上記実施例14における条件とほぼ同様であった。しかし、この実施例15においては、含水率65重量%の木粉を分散剤として含む1種類目の処理剤と、木粉と米ぬかとの含水率70重量%の混合粉体(混合重量比4:1)を分散剤として含む2種類目の処理剤とを準備した。そして、この実施例15の条件は、これら2種類の処理剤を用いた点だけが、上記実施例14の条件とは異なっていた。これらの含水率が大きい木粉および米ぬかは、興味あることに、沈降速度が速すぎて、投入した木粉および米ぬかが容器の底にやや不均一に集中した。このために、目的とする全体の均一な固形化現象には不満があり、納得がいく成果を得るためには、上記洗浄液と上記処理剤との全体を簡単に撹拌する必要があった。したがって、分散剤としての分散用混合粉体の含水率が65重量%を超えると、固形化に不均一性が引き起こされる可能性を示唆しており、含水率は60重量%以下にするのが好ましいことが、判明した。
【0097】
[比較例5]
この比較例5においては、上記実施例9の場合に分散剤として用いた木粉の代わりに、比較例2の場合に用いたおがくずを用いたこと以外は、上記実施例9と全く同一操作を行った。おがくずの粒子は、その90重量%が20メッシュオンであった。この比較例5においては、高分子吸水剤としてのポリアクリル酸ナトリウム架橋体と、分散剤としてのおがくずとをまず混合して、混合粉体を作製した。さらに、この混合粉体に滅菌剤としての塩化ベンザルコニウム1.5gを加えて均一に混合することによって、処理剤としての調製粉体を調製した。そして、上記実施例9の場合と同様に、残血液を収容したビニール袋にこの調製粉体を加えて振り混ぜた。しかし、この比較例5においては、このように加えてから約1時間が経過しても、上記残血液は、上記実施例9の場合のようには固形化せず、ゲル状の半固体状態と言えるものであった。
【0098】
[実施例16]
分泌物過多のために喀痰吸引をしばしば行っていた感染症の患者の喀痰を含んだ汚液を吸引排出した。そして、この汚液の処置に上記実施例10において調製したのとほぼ同様の衛生粉体を用いた。上記含喀痰汚液の総量は、約110ミリリットルであった。一方、200ミリリットル容量のビーカーにビニール袋を予め入れておいた。そして、このビニール袋内に上記含喀痰汚液を注ぎ入れた。また、上記実施例10において調製した衛生粉体とほぼ同様の衛生粉体を、上記ビニール袋内の上記含喀痰汚液にその上から加えた。この実施例16において用いた木粉は、15重量%の水分を予め含ませておいた点において、上記実施例10において用いた木粉とは異なっていた。この衛生粉体は、そのまま放置しておいても、上記含喀痰汚液中に静かに沈み始めた。そして、上述のように衛生粉体を加えてから5分間後には、上記含喀痰汚液と上記衛生粉体との全体が、固形化した。そこで、上記ビニール袋を上記ビーカーから取り上げてから、このビニール袋の上部の適当箇所を紐などで縛った。そして、このビニール袋の外側からこのビニール袋を揉むようにほぐすと、このビニール袋の内容物をさらさらな状態の粒子群に変換することができた。この結果、感染性のある上記含喀痰汚液を衛生的に総て処置することができた。
【0099】
[実施例17]
この実施例17における操作手順は、上記実施例9の場合の操作手順とほぼ同様であるが、この実施例17において用いられた木粉には、水分を14重量%含ませておいた。この場合、処理用混合粉体を残血液の上から投入しただけで、撹拌手段を一切用いずに観察した。驚くべきことに、処理用混合粉体は、残血液との接触部から自然に沈降を開始した。そして、この沈降開始から約5分間後には、処理用混合粉体の総てが沈降し、さらに、上記沈降開始から約6分間後には、処理用混合粉体と残血液との全体が、その固形化を完結した。この実施例17は、上記処理用混合粉体に水分を一定量含ませると、撹拌手段を用いなくても、処理剤としての好ましい効果が十分に発揮できることを示しており、このために、この点についての新しいかつ重要な知見を証明するものであった。
【0100】
[実施例18]
この実施例18における操作手順は、つぎに記述する点を除いて、上記実施例10における操作手順と同一である。すなわち、この実施例18においては、分散剤としての木粉(100メッシュパス90重量%以上)約250g(容量約1.2リットル)に消毒剤としての5%(w/v)のクレゾール水溶液40ミリリットルを加えてかき混ぜた。この場合、木粉は、クレゾール水溶液を吸収してしまった。ついで、このようにクレゾール水溶液を吸収した上記木粉に高分子吸水剤としてのポリアクリル酸ナトリウム架橋体約6gを加えて均一に混合することによって、衛生粉体を調製した。
【0101】
上述のように調製された衛生粉体を患者の嘔吐物の上にこの嘔吐物の全体を覆うように振りかけた。そして、このように振りかけてから、約5分間放置した後に、上記嘔吐物を掃き集めると、上記嘔吐物と上記衛生粉体との全体は、さらさらした状態の小さい粒状体の多数個が集合している集合体になった。このために、この集合体をビニール袋に取集める操作は簡単であったので、上記嘔吐物の総てを安全にかつ衛生的に処置することができた。また、この処置をした後には、汚物の痕跡がなくて、嘔吐物の処置を衛生的かつ清潔に行うことができた。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、病院内廃液などの一時廃液、その他の含水廃液の固形化に対して広くかつ普遍的に適用できる有用な手法を提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0103】
【特許文献1】特開2000−288554号公報(特許請求の範囲、明細書)
【特許文献2】特開2000−301162号公報(特許請求の範囲、明細書)
【特許文献3】特開2001−212598号公報(特許請求の範囲、明細書)
【特許文献4】特開2007−277455号公報(特許請求の範囲、明細書)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子吸水剤と、この高分子吸水剤の分散剤とを必須成分とし、前記分散剤は木粉を含有する、含水廃液の処理剤であって、
前記木粉は、微視的構造において、フィブリル(微小繊維群)の集合体をなし、前記 木粉の粒度分布は、50メッシュパスが50重量%以上である
ことを特徴とする、含水廃液の処理剤。
【請求項2】
前記木粉の嵩比重が0.1〜0.35である、請求項1に記載した含水廃液の処理剤。
【請求項3】
前記分散剤が4〜60重量%の水分を含んでいる、請求項1に記載した含水廃液の処理剤。
【請求項4】
前記高分子吸水剤が、ポリアクリル酸ナトリウム若しくはその架橋体、又はポリアクリル酸ナトリウムの共重合体若しくはその架橋体からなる、請求項1に記載した含水廃液の処理剤。
【請求項5】
前記含水廃液に作用して、前記含水廃液の全体を多数個のぱらぱらの粒子群の集合体に固化する能力を有する、請求項1に記載した含水廃液の処理剤。
【請求項6】
前記含水廃液に作用して、前記含水廃液の全体を10分以内の短時間内に固化する能力を有する、請求項1に記載した含水廃液の処理剤。
【請求項7】
消毒剤、殺菌剤又は滅菌剤が更に含有されている、請求項1に記載した含水廃液の処理剤。
【請求項8】
高分子吸水剤と、この高分子吸水剤の分散剤とを必須成分とし、前記分散剤は米ぬかを含有し、この米ぬかは、微視的構造において、多様で不均一な起伏に富んだ表面を呈する粒子の集合体をなしている、含水廃液の処理剤。
【請求項9】
前記米ぬかの嵩比重が0.15〜0.6である、請求項8に記載した含水廃液の処理剤。
【請求項10】
前記分散剤が4〜60重量%の水分を含んでいる、請求項8に記載した含水廃液の処理剤。
【請求項11】
前記高分子吸水剤が、ポリアクリル酸ナトリウム若しくはその架橋体、又はポリアクリル酸ナトリウムの共重合体若しくはその架橋体からなる、請求項8に記載した含水廃液の処理剤。
【請求項12】
消毒剤、殺菌剤又は滅菌剤が更に含有されている、請求項8に記載した含水廃液の処理剤。
【請求項13】
含水廃液を処理剤によって固形化する処理方法であって、
前記処理剤として、高分子吸水剤と、この高分子吸水剤の分散剤とを必須成分とし、 この分散剤は木粉及び米ぬかから選ばれた少なくとも1種を含み、前記木粉は、微視的 構造において、フィブリル(微小繊維群)の集合体をなし、その粒度分布は、50メッ シュパスが50重量%以上であり、前記米ぬかは、微視的構造において、多様で不均一 な起伏に富んだ表面を呈する粒子の集合体をなしている処理剤を用い、
この処理剤を、前記含水廃液に作用させることにより、この含水廃液を固形化する
ことを特徴とする、含水廃液の処理方法。
【請求項14】
前記処理剤を前記含水廃液に作用させ、前記含水廃液の全体を多数個のぱらぱらの粒子群の集合体に固化させる、請求項13に記載した含水廃液の処理方法。
【請求項15】
前記処理剤を前記含水廃液に作用させ、前記含水廃液の全体を10分以内に固化させる、請求項13に記載した含水廃液の処理方法。
【請求項16】
前記木粉として、微細に粉砕して前記粒度分布にしたものを用い、前記米ぬかとして、熱処理したものを用いる、請求項13に記載した含水廃液の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−50957(P2011−50957A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250814(P2010−250814)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【分割の表示】特願2010−518977(P2010−518977)の分割
【原出願日】平成21年6月13日(2009.6.13)
【出願人】(507043830)富士メンテニール株式会社 (8)
【Fターム(参考)】