説明

含水性コンタクトレンズの水和処理ケースおよびそれを用いた水和処理方法

本発明は、乾燥状態の含水性コンタクトレンズを水和処理するためのケース、水和処理装置、水和処理方法に関する。
ケース(2)は凹部(4)内面(6)に複数の溝(8)を設けたものとする。このケース内にレンズを収容し、第一段階でケース内の凹部(4)の壁内面に沿わせるように適当量の水和処理液を注入する。続いて第二段階でケース上部から凹部内に水和処理液を注入して、コンタクトレンズ(3)を含水膨潤させる。
これにより、第一段階でレンズの前面の広い範囲で均一に水和処理液に接触させることができ、第二段階で全体の水和処理を行うことができるので、レンズのカールや気泡の巻き込みが防止されて効率的な水和処理が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、含水性コンタクトレンズの水和処理ケースおよびそれを用いた水和処理方法等に係り、特に、乾燥状態の含水性コンタクトレンズから未反応モノマーを溶出させ、含水性コンタクトレンズをできるだけ均一に平衡膨潤状態にするための水和処理ケースおよび該水和処理方法に関する。
【背景技術】
一般に、含水性コンタクトレンズは、各種の方法により、所定のレンズ形状に作成された後、未反応モノマー等の不純物の除去等を目的とした水和処理乃至洗浄処理とが施されて、製品化されており、例えば特開平7−113990号公報や特開平4−227643号公報には、そのような水和・洗浄処理を行う処理容器が提案されている。
すなわち、前記公報に記載されたレンズの処理容器は、上下方向に互いに組み付け可能に構成された雄チャンバと雌チャンバとを有し、それら雌雄二つのチャンバが相互に組み付けられた状態下で、互いの対向面間に、レンズを収容可能な空間が形成されるようになっている。また、雄チャンバには、雌チャンバとの組み付け下において、レンズを収容する空間内に、該レンズの水和乃至は洗浄処理を行うための処理水を供給する一つの注水口(前記公報では、水洗用管路として記載される)が、雄チャンバと雌チャンバとの対向面の中心部を上下方向に貫通するように設けられ、さらに、該処理水を、前記空間内から排出する複数の排出口が、該雄チャンバの前記対向面の周縁部から上下方向に延びだした側壁に対して、その周方向に等間隔をおいて形成されている。そして、かかる処理容器にあっては、雌雄二つのチャンバを組み付けて、それらの間に形成される空間内に、所定のレンズ形状に作製された直後のレンズを収容せしめ、その状態下で、前記処理水を雄チャンバの注入口を通じて前記空間内に連続的に供給して、該空間内を該処理水にて満たすことにより、該空間内のレンズが該処理水中に浸漬され、膨潤せしめられて、該レンズの水和処理が行われるようになっており、また、該空間内に過剰に供給された処理水を前記複数の排出口から排出して、処理水を注入口から複数の排出口に向かって流通させることにより、処理水が、レンズの内面上と外面上とにおいて、それぞれ、中心部から放射状に流動せしめられて、該レンズの洗浄処理が実施されるようになっているのである。
ところが、このような構造の処理容器にあっては、レンズの水和処理後は、改めて流通ケースに移し替える必要がある。含水性コンタクトレンズは水を含む前は硬いために機械的に取り扱い易いのであるが、含水して柔軟になると、ちょっとした操作上の作用により破損し易く、機械的に取り扱い難い状態となる。したがって、含水性コンタクトレンズが加工・成形された後は出来る限り取り扱い操作を少なくすることが重要であり、特に含水状態のレンズに直接接触するような操作はない方が望ましいのである。
そこで、このような問題に対処するために、例えば、特開2002−221696号公報には、流通ケースを水和処理ケースとして用い、該水和処理ケースに設けた収容凹部に乾燥状態の含水性コンタクトレンズを収容せしめた状態で水和処理液に接触させて含水膨潤および通水洗浄した後、かかる水和処理ケースを封止してそのまま流通ケースとして利用する技術が開示されている。
しかしながら、かかる特開2002−221696号公報に記載の如き従来構造の流通ケースにおけるレンズ収納部の内面は、保存中のコンタクトレンズの変形を抑えるために一般にコンタクトレンズの前面に近似した曲率をもった滑らかな球状凹面とされているが、含水性コンタクトレンズは、その柔軟性故に、かかる球状凹面に吸着して、却ってレンズが変形したり、取り出すときに取り出し難いといった問題が生じていた。
また、特開2002−221696号公報に記載された従来の水和処理方法に従うと、乾燥状態の含水性コンタクトレンズが膨潤するに際してカールしたり、該カールした部分に気泡を巻き込んでケース内の処理空間に含水性コンタクトレンズが浮き上がってしまう場合のあることが、本発明者によって確認された。そして、含水性コンタクトレンズが一度巻き込んだ空気は、その後に含水性コンタクトレンズから離すことが極めて困難であり、含水性コンタクトレンズが浮き上がってしまうと均一な吸水膨潤が妨げられると共に、未反応モノマーの抽出が効率良く行われなかったりするおそれがあるという問題が内在していたのである。
【発明の開示】
ここにおいて、本発明は、上述した事情を背景として為されたものであって、本発明が解決しようとする課題は、含水性コンタクトレンズを水和処理するに際しての該含水性コンタクトレンズにおけるカール等の不均一な変形が抑えられて、目的とする水和処理を安定して行うことの出来る、新規な構造の水和処理ケースを提供すること、およびかかる水和処理ケースを利用した新規な水和処理方法を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする課題は、含水性コンタクトレンズを水和処理するに際しての気泡の巻き込みが抑えられて、含水性コンタクトレンズができるだけ均一に吸水膨潤せしめられると共に、未反応モノマーを効率的に抽出することの出来る、新規な構造の水和処理ケースを提供すること、およびかかる水和処理ケースを利用した新規な水和処理方法を提供することにもある。
そして、このような課題を解決するために、本発明は、以下の記載の如き(I)含水性コンタクトレンズの水和処理ケースと、(II)かかる水和処理ケースを用いた含水性コンタクトレンズの水和処理装置と、(III)かかる水和処理ケースを用いた含水性コンタクトレンズの水和処理方法を、それぞれ提供する。
〔水和処理ケースに関する本発明の第一の態様〕
水和処理ケースに関する本発明の第一の態様は、含水性コンタクトレンズが収容される収容凹部を備え、該収容凹部内で乾燥状態の該含水性コンタクトレンズを水和処理液に接触させて含水膨潤せしめるのに用いられる水和処理ケースにおいて、前記収容凹部における凹状内面の前記含水性コンタクトレンズが載置される領域を該含水性コンタクトレンズの前面に略対応した曲率の凹状湾曲面とすると共に、該凹状湾曲面に開口する窪みを形成することにより該含水性コンタクトレンズと該収容凹部との間に隙間が形成されるようにして、該凹状内面に沿って前記水和処理液を流下せしめた際に該水和処理液が該隙間に入り込むようにしたことを、特徴とする。
このような本態様に従う構造とされた水和処理ケースにおいては、含水性コンタクトレンズが収容位置せしめられる収容凹部を形成する凹状内面に対して窪みが形成されていることから、含水性コンタクトレンズと凹状内面(凹状湾曲面)との接触面積を減少させて、含水性コンタクトレンズと収容凹部との間に隙間を形成することが出来る。そして、この隙間に水和処理液が入り込むことによって、含水性コンタクトレンズの前面の全体に水和処理液が接触し易くなり、未反応モノマーなどの抽出効率を向上させることが可能となる。
また、本態様に係る水和処理ケースにおいては、含水性コンタクトレンズと収容凹部との間に小さな隙間が形成されることから、凹状内面に沿って水和処理液を流下させることにより、かかる隙間による水和処理液の毛細管現象等も発揮されて、水和処理液が含水性コンタクトレンズと収容凹部との間に有利に入り込ませることが可能となる。そして、このように含水性コンタクトレンズの前面の広い範囲に対して積極的に水和処理液を接触させることにより、含水性コンタクトレンズを含水膨潤させるに際してのカール等のいびつな変形が有利に回避され得ると共に、含水性コンタクトレンズの内部に残存する未反応モノマーの除去効率の向上も図られ得る。
さらに、本態様に係る水和処理ケースにおいては、凹状湾曲面自体が含水性コンタクトレンズの前面に略対応した曲率を有していることから、窪みが形成されていない部分では、該凹状湾曲面によって含水性コンタクトレンズの前面が充分に広い面積で支持され得るのであり、例えば、含水性コンタクトレンズの含水膨潤工程中にも含水性コンタクトレンズの形状が安定して保持され得ると共に、含水性コンタクトレンズを長い期間保存する場合にもその形状が安定して保持され得ることとなる。
しかも、凹状湾曲面は、そこに形成された窪みによって、含水性コンタクトレンズの前面の全てに対する接触が回避されていることから、含水性コンタクトレンズと凹状湾曲面との物理的な接着が防止されて、水和時や保存時にも含水性コンタクトレンズの自由な動きを確保して、含水膨潤の効率を向上させたりレンズの変形等を回避したりすることが可能となると共に、含水性コンタクトレンズの水和処理ケースからの取り出しも容易となる。
なお、本態様における窪みの形状や数,位置等は、収容位置せしめられる含水性コンタタトレンズに対して、支持力によって変形等の悪影響を及ぼさず、含水性コンタクトレンズの前面における水和処理液に接触する面積を充分に確保できる範囲内で、且つ、成形可能な程度において、例えば、直線形状,渦巻き形状,蛇行形状,幾何学的な模様を有する形状、或いは、これらの形状を部分的に組合わせた形状等、任意に設計することが出来る。そこにおいて、かかる窪みを利用して、収容ケースに対して何等かの文字や模様,マーク等を付加したり、使用者の嗜好を考慮したデザイン的な要素を付加することも可能である。なお、このような各種形状を窪みに採用することは、一般に水和処理ケースが合成樹脂材による射出成形によって製造されることから、成形金型に対応する形状を付与することよって容易に実現され得る。
〔水和処理ケースに関する本発明の第二の態様〕
水和処理ケースに関する本発明の第二の態様は、前記第一の態様に係る水和処理ケースにおいて、前記収容凹部の前記凹状湾曲面に前記含水性コンタクトレンズを載置せしめた際に、該含水性コンタクトレンズと該収容凹部との間に形成される前記隙間が、該含水性コンタクトレンズの外周側に開口して、かかる開口部から径方向内方に向かって連続して広がるように、前記窪みが形成されていることを、特徴とする。
本態様においては、含水性コンタクトレンズと収容凹部との間に形成される隙間に対して、凹状内面に沿って流下せしめた水和処理液を有利に入り込ませることが出来る。これにより、かかる隙間に対して水和処理液を速やかに入り込ませて、含水性コンタクトレンズの水和処理を一層効率的に行うことが可能となる。
〔水和処理ケースに関する本発明の第三の態様〕
水和処理ケースに関する本発明の第三の態様は、前記第一又は第二の態様に係る水和処理ケースにおいて、前記窪みが、少なくとも一つの溝によって形成されていることを、特徴とする。
本態様においては、含水性コンタクトレンズと収容凹部の間で隙間を形成する溝の形態を適当に設定することにより、かかる隙間に入り込んだ水和処理液の流れを制御することが出来る。それ故、例えば含水性コンタクトレンズの広い領域に水和処理液をより均一に接触させることが可能となり、或いは水和処理液を接触せしめる初期の段階で含水性コンタクトレンズにおける特定の部位から含水膨潤させること等も可能となる。また、溝の形態をもって窪みを形成することにより、隙間における水和処理液に対する毛細管現象も一層有利に発揮され得て、水和処理液の入り込みを促進することも可能となる。
〔水和処理ケースに関する本発明の第四の態様〕
水和処理ケースに関する本発明の第四の態様は、前記第三の態様に係る水和処理ケースにおいて、前記溝の少なくとも一つが、前記凹状湾曲面の略周方向に延びる形態のものであることを、特徴とする。
本態様においては、含水性コンタクトレンズの前面においてその特に周方向で略均一に且つ速やかに水和処理液を導いて、水和処理液を含水性コンタクトレンズに接触させることが出来るのであり、含水性コンタクトレンズの水和処理に際して、その周方向におけるいびつな変形を一層有利に抑えることが可能となる。なお、本態様に従う周方向に延びる溝は、例えば同心的な複数状の環状溝や、一つ或いは適数の渦巻状溝によって有利に形成される。また、それら周方向に延びる溝は、全体に略同じ断面形状および寸法として、特定の溝にだけ水和処理液が入り込んだり流れたりし易くなってしまうことを防止することも出来る。或いはまた、径方向断面において、複数の溝が略等間隔で位置せしめられるようにしたり、それら複数の溝の間隔が次第に異なるようにしたり、或いはそれら複数の溝の形状が相互に異なるようにすること等によって、水和処理液の拡散等を調節することも可能である。
〔水和処理ケースに関する本発明の第五の態様〕
水和処理ケースに関する本発明の第五の態様は、前記第三又は第四の態様に係る水和処理ケースにおいて、前記溝の少なくとも一つが、前記凹状湾曲面の略径方向に延びる形態のものであることを、特徴とする。
本態様においては、含水性コンタクトレンズの前面においてその特に径方向で略均一に且つ速やかに水和処理液を導いて、水和処理液を含水性コンタクトレンズに接触させることが出来るのであり、含水性コンタクトレンズの水和処理に際して、その径方向におけるいびつな変形を一層有利に抑えることが可能となる。なお、径方向に延びる溝は、その形状を径方向内方に行くに従って次第に細くなるような形状とすることも可能である。また、径方向に延びる溝は、直線的にある必要はなく、例えば扇風機の羽根の端縁部のように湾曲していても良い。更にまた、本態様に係る径方向に延びる溝は、前記第四の態様に係る周方向に延びる溝と組み合わせて、それら両方の溝を、相互に交叉する形態をもって形成することも可能であり、それにより、含水性コンタクトレンズの前面においてその周方向と径方向の両方で水和処理液を広い領域に亘って一層有利に導くことが可能となる。
〔水和処理ケースに関する本発明の第六の態様〕
水和処理ケースに関する本発明の第六の態様は、前記第三乃至第五の何れかの態様に係る水和処理ケースにおいて、前記溝の深さ寸法を、該溝の幅寸法が1mm以下の場合には0.05mm以上とする一方、該溝の幅寸法が3mm以上の場合には0.05mmに満たない深さ寸法としたことを、特徴とする。
〔水和処理ケースに関する本発明の第七の態様〕
水和処理ケースに関する本発明の第七の態様は、前記第一乃至第六の何れかの態様に係る水和処理ケースにおいて、前記含水性コンタクトレンズが載置される前記凹状湾曲面の全面積:Aaに対する前記窪みの占める面積:Abの割合が、0.2≦Ab/Aa≦0.8であることを、特徴とする。
上述の第六の態様や第七の態様に従えば、窪み(溝を含む)によって含水性コンタクトレンズと収容凹部の間に形成される隙間への水和処理液の入り込みを良好となしつつ、窪みの形成に起因する含水性コンタクトレンズの変形を抑えて、目的とする水和処理をより速やかに且つ高精度に行うことが可能となる。
すなわち、本発明の前記第三の態様等における溝の幅寸法や深さ寸法は、特に限定されるものではないが、溝の幅が広い場合には、含水性コンタクトレンズが溝に入りこんで変形することがないように、浅い溝であることが望ましく、また、溝の幅が狭い場合には、含水性コンタクトレンズが溝に入りこむおそれがないので、水和処理液の流動量や流動し易さ、即ち、水和処理液の循環を考慮して深い溝であることが望ましい。かかる趣旨から、溝の幅が3mm以上と広い場合には、0.05mmよりも浅い溝とすることが望ましく、また、溝の幅が1mm以内と狭い場合には、0.05mm以上の深い溝とすることが望ましい。
また、本発明の前記第一の態様等における窪み(前記第三の態様等における溝を含む)の凹状湾曲面に対する面積比(Ab/Aa)は、特に限定されるものではないが、20〜80%程度が望ましく、より好適には50%とされる。けだし、窪みの凹状湾曲面に対する面積比が大きすぎると、含水性コンタクトレンズと接触して含水性コンタクトレンズを支持する凹状湾曲面による支持面積が少なくなってしまい、含水性コンタクトレンズの変形を助長してしまうこととなるからであり、一方、窪みの凹状湾曲面に対する面積比が小さすぎると、含水性コンタクトレンズ前面に対する水和処理液の接触効率が低下していまうからである。
〔水和処理ケースに関する本発明の第八の態様〕
水和処理ケースに関する本発明の第八の態様は、前記第一乃至第七の何れかの態様に係る水和処理ケースにおいて、前記凹状湾曲面の中央部分に溝が形成されていない中央支持部を設けて、前記含水性コンタクトレンズの中央部分が該中央支持部の略全面に亘って重ね合わせられるようにしたことを、特徴とする。
〔水和処理ケースに関する本発明の第九の態様〕
水和処理ケースに関する本発明の第九の態様は、前記第一乃至第七の何れかの態様に係る水和処理ケースにおいて、前記収容凹部の中央部分に中央窪地を形成し、該中央窪地によってレンズ中央が該収容凹部から浮いた状態で支持されるようにしたことを、特徴とする。
上述の第八の態様や第九の態様に従えば、目的とする光学特性を与えるために寸法や形状の精度が特に要求されることとなる含水性コンタクトレンズの中央部分を、その前面において中央支持部で略均一に支持せしめたり(第八の態様)、或いはその前面において中央窪地でケースから全体的に浮き上がらせたり(第九の態様)することができる。それによって、かかるレンズの中央部分に局部的な応力やそれに起因する歪みが発生することが効果的に防止され得て、目的とする光学特性が一層有利に発現され得る。
〔水和処理ケースに関する本発明の第十の態様〕
水和処理ケースに関する本発明の第十の態様は、前記第一乃至第九の何れかの態様に係る水和処理ケースにおいて、前記凹状湾曲面と共に、前記窪みの底面も、滑らかな略鏡面としたことを、特徴とする。
本態様においては、透明な合成樹脂材料で水和処理ケースを製造することにより、水和処理ケースの底部外方から収容凹部内の含水性コンタクトレンズを視認することが可能となる。それにより、例えば封止した水和処理ケースを開封しないで含水性コンタクトレンズの有無や損傷等の検査などを行うことができる。なお、レンズ検査では、水和処理ケースや流通ケース等の収容ケース内のレンズを画像により取り込んで表面状態を観察する方法が一般的に採用されているが、収容ケースの凹状湾曲面が一定の曲率を有する半球形状である場合と比較して、溝等の窪みを設けたことにより窪みの境界域でよりコントラストが強調され、レンズの欠陥の発見に寄与することもある。
〔水和処理ケースに関する本発明の第十一の態様〕
水和処理ケースに関する本発明の第十一の態様は、前記第一乃至第十の何れかの態様に係る水和処理ケースにおいて、前記収容凹部の開口周縁部に嵌合部が形成されており、該嵌合部に嵌め合わせられることによって蓋体が取り外し可能に組み付けられるようになっていることを、特徴とする。
本態様においては、含水性コンタクトレンズが収容される収容凹部を蓋体によって容易に覆蓋することが出来るのであり、それによって、例えば以下の第十二や第十三の態様を採用することにより、含水性コンタクトレンズの水和処理に際して或いは流通過程において、収容凹部への異物や雑菌の侵入を容易に且つ有利に防止することが可能となる。
〔水和処理ケースに関する本発明の第十二の態様〕
水和処理ケースに関する本発明の第十二の態様は、前記第十一の態様に係る水和処理ケースにおいて、前記蓋体には管体挿通孔が形成されており、前記収容凹部に前記水和処理液を供給するための供給管体が該管体挿通孔に挿通されることによって、該蓋体で該収容凹部を覆蓋せしめた状態で該供給管体を通じて該水和処理液を該収容凹部に供給することができるようになっていることを、特徴とする。
特に本態様に従う構造とされた水和処理ケースにおいては、水和処理に際して収容凹部への水和処理液の供給を可能としつつ、収容凹部内を有利に覆蓋状態に保つことが可能となる。即ち、水和処理方法においては、処理ケースの収容凹部を覆蓋することなく水和処理液を注入および排出して水和処理することも可能であるが、含水性コンタクトレンズから未反応モノマーを抽出するためには、一般に、数分間以上含水性コンタクトレンズを水和処理液に浸漬して静置し、時間をかけて含水性コンタクトレンズ内部から未反応モノマーを溶出させ、しかる後再び新しい水和処理液を注入し収容凹部内の液交換を行うという操作を繰り返すことが行われる。その際、蓋体を用いない場合には、繰り返し行われる水和処理液の注入・排出操作中に水和処理液が外部に溢れたり、また、静置期間中に収容凹部に充填された水和処理液へ異物が混入するおそれがある。
ここにおいて、本態様に従う構造とされた水和処理ケースにおいては、蓋体によって水和処理中にも収容凹部を覆蓋することが可能であり、しかも蓋体に設けた管体挿通孔を通じて、導管(即ち、水和処理液を供給する供給管体や、更に排出するための排出管体)を挿通せしめることが出来ることから、該導管を通じて水和処理液を注入すると共に水和処理液を排出することで、水和処理液を収容凹部内で流動させながら、含水性コンタクトレンズに対して水和処理液を連続的に接触させることが可能となる。これにより、収容凹部内での含水性コンタクトレンズの水和処理(抽出された未反応モノマーの除去を含む)を一層効率的に且つ容易に行うことが可能となるのである。特に、収容凹部が蓋体で覆蓋されていることから、水和処理の期間中に異物の侵入が防止されることは勿論、水和処理液の注入時に水和処理ケース外へ水和処理液が溢れることを防止しつつ、収容凹部内を水和処理液で満たすことが出来るのであり、含水性コンタクトレンズへの水和処理液の接触を一層有利に且つ安定して行うことが可能となる。
なお、本態様では、前述の如き、所定時間に亘って含水性コンタクトレンズを水和処理液に浸漬して静置し、時間をかけて含水性コンタクトレンズ内部から未反応モノマーを溶出させる静置期間中には、蓋体の管体挿通孔から管体を引き抜いておいても良いが、その際にも、蓋体によって、収容凹部の開口部が狭窄されて外部への開口面積が小さくされていることから、収容凹部に貯留されている水和処理液への異物の混入を抑えることが出来る。
そこにおいて、導管における収容凹部内に位置せしめられる部分、即ち、水和処理液を注入するための管体先端部(ノズル)が、単一の管体構造でありながら全ての水和処理液を給排水する全ての注入口や排水口を備えたものを使用することが望ましい。それにより、蓋体に形成された貫痛孔を1つにすることができるので、導管の配置が複数の管の入り組んだ構造から簡略化され、蓋体の貫通孔からレンズ収容空間内への異物混入などを効果的に減少せしめることができる。
また、本態様においては、蓋体に設けた少なくとも一つの貫通孔に対して水和処理液を注入する注入口と該水和処理液を排出する排出口を有する導管を挿通すると共に、該蓋体を該水和処理ケースに対して押さえつけるようにして該導管を固定せしめることが望ましい。このような態様では、蓋体を水和処理ケースに対して押さえつけるようにして導管を固定していることから、水和処理液の注入及び排出処理の後は容易に導管と蓋体を分離させることが可能となる。また、このような態様を採用することにより、後続する別のレンズの水和処理ケース(蓋体が組み付けられたもの)に対して順次継続的に水和処理液の注入および排出処理を速やかに行うことが可能となり、それによって、自動化・量産化体制の中の一工程として取り入れることが可能となり、その結果、生産コストの低減が有利に図られ得ることとなる。
更にまた、そのような態様においては、更に、蓋体に設けられた貫通孔の上から水和処理液を収容凹部内4へ導入するための導管を押さえつけることにより、水和処理ケース、蓋体、導管から構成されるコンタクトレンズの収容凹部内が密閉された構造となり、即ち、処理ケースの凹部と蓋体の対向面間によって形成されて、且つ、蓋体に設けられた貫通孔を通じて外部に通じている収容凹部内が、貫通孔に導管が挿通されることで密閉された構造となり、水和処理液の注入時に水和処理ケース外へ水和処理液が溢れることなく、収容凹部内を水和処理液で満たすことが出来るのである。そこにおいて、水和処理ケースおよび蓋体はそれぞれ樹脂製であることが望ましく、それによって、導管を押しつける圧力とそれに基づく蓋体の樹脂の反発力を利用して、収容空間の密閉度を上げることができる。なお、蓋体に設けられた貫通孔の上から導管を押さえつける態様は、貫通孔と同じかそれより僅かに大きな外周面形状の導管を採用して、貫通孔に導管を圧入することで、導管の外周面を貫通孔の内周面に対して全周に亘って略密着状態で挿通せしめる態様を含む。
〔水和処理ケースに関する本発明の第十三の態様〕
水和処理ケースに関する本発明の第十三の態様は、前記第十一又は第十二の態様に係る水和処理ケースにおいて、前記収容凹部の開口を前記蓋体を利用して液密に覆蓋することにより、前記含水性コンタクトレンズを流通保存液に浸漬せしめた状態で該収容凹部に封入せしめて流通ケースを構成したことを、特徴とする。
特に本態様においては、含水処理を行う水和処理ケースを、そのまま流通ケースとして利用することとなるから、含水状態のコンタクトレンズに直接接触する操作をなくして出荷して流通経路にのせることが出来るのであり、含水状態のコンタクトレンズに接触することに起因する損傷等の不良発生の問題が回避され得る。しかも、本態様において利用される水和処理ケースは、含水性コンタクトレンズの前面が載置される支持面が、含水性コンタクトレンズの前面に対応した曲率を有する凹状湾曲面とされていることから、レンズを長期間に亘って収容保管するに際しても、含水性コンタクトレンズにおける変形等の問題が可及的に回避され得るのであり、それに加えて、かかる凹状湾曲面には適当な窪みが形成されていることから、単純に滑らかな曲率を有する曲面の場合のように保管中、或いは、運搬中に含水性コンタクトレンズが収容凹部の内面に吸着するようなこともない。
なお、水和処理ケースを流通ケースとしても用いる場合には、水和処理液の注入および排出を繰り返すことによりレンズから充分に未反応モノマーを抽出し、最後に流通保存液を充填して、例えば前記第十二の態様に従う構造の水和処理ケースの場合には蓋体から導管を引き抜き、蓋体を取り付けた状態で、あるいは蓋体を取り除いた状態で、含水処理が完了した含水性コンタクトレンズを収容する収容凹部の周囲を封止シート(例えばポリプロピレンや他の適当なプラスチックフィルムとアルミニウム箔のラミネートや、プラスチック層を有するバリア材料を形成する酸化シリコンで構成された単一の柔軟なシート)で覆い、収容凹部の周りに延びる平坦部分に対して封止シートをヒートシールすること等で、収容した含水性コンタクトレンズの密封環境を形成することによって、一般に販売されているブリスターケースとして完成品とすることが出来る。
そこにおいて、例えば前記第十一又は第十二の態様に従う構造の水和処理ケースで、蓋体をしたままで封止する場合には、封止シートと蓋体の少なくとも一部を熱により接着しておくことにより、シートを引き剥がすと同時に、シートに付いたままで蓋体をはずすことができることとなり、それによって、レンズを取り出す操作が容易になり、従来のシートのみで封していた時と同じような取り扱いとなる。そして、蓋体ごと封止シートにより封する場合は、流通過程などでシートに加えられる不意の衝撃に対して、従来タイプのブリスターケースでは封止シートに穴があいて容器の無菌状態が破られることがあったが、このように蓋体ごと封止シートにより封する場合には、蓋体による封止シートの補強効果によって封止シートの破損を有利に防止することができる。
さらに、前記第十二の態様に従う構造と水和処理ケースを流通ケースと兼用する場合には、導管を除いて収容空間が開放状態となった際に、処理ケース内への異物の侵入を防止するためにも蓋体に形成される貫通孔の数は少ない方が望ましく、また、孔径も小さい方が望ましい。
〔水和処理装置に関する本発明の第一の態様〕
水和処理装置に関する本発明の第一の態様は、前述の如き水和処理ケースに関する本発明の第一乃至第十三の何れかの態様に係る水和処理ケースを用いて、該水和処理ケースの前記収容凹部内で乾燥状態の前記含水性コンタクトレンズを含水膨潤せしめるのに用いられる水和処理装置であって、前記水和処理ケースにおける前記収容凹部の開口部分に臨むようにセットされる通水管体を備えていると共に、該通水管体にはそれぞれ前記水和処理液を該収容凹部に供給する第一の注入口と第二の注入口が形成されており、該第一の注入口が該水和処理ケースの前記収容凹部において前記凹状湾曲面よりも開口部側の前記凹状内面に向かって開口せしめられる一方、該第二の注入口が該水和処理ケースの該凹状湾曲面に載置される前記含水性コンタクトレンズの後面に向かって開口せしめられるようになっていると共に、該第一の注入口を通じての該水和処理液の供給と該第二の注入口を通じての該水和処理液の供給がそれぞれ各別に制御可能とされている含水性コンタクトレンズの水和処理装置を、特徴とする。
〔水和処理装置に関する本発明の第二の態様〕
水和処理装置に関する本発明の第一の態様は、前述の如き水和処理ケースに関する本発明の第一乃至第十三の何れかの態様に係る水和処理ケースを用いて、該水和処理ケースの前記収容凹部内で乾燥状態の前記含水性コンタクトレンズを含水膨潤せしめるのに用いられる水和処理装置であって、前記水和処理ケースにおける前記収容凹部の開口部分に臨むようにセットされる通水管体を備えていると共に、該通水管体には前記水和処理液を該収容凹部に供給する注入口が形成されており、該通水管体を該水和処理ケースに対して傾斜せしめることによって該注入口の該収容凹部に対する開口方向が可変とされており、該注入口が該水和処理ケースの前記収容凹部において前記凹状湾曲面よりも開口部側の前記凹状内面に向かって開口せしめられる第一の開口位置と、該注入口が該水和処理ケースの該凹状湾曲面に載置される前記含水性コンタクトレンズの後面に向かって開口せしめられる第二の開口位置とに、選択的に位置せしめられるようになっている含水性コンタクトレンズの水和処理装置を、特徴とする。
このような本発明の第一又は第二の態様に従う構造とされた水和処理装置においては、第一の注入口(第一の態様)または第一の開口位置(第二の態様)において噴出される水和処理液が水和処理ケースの収容凹部における凹状湾曲面よりも開口部側の凹状内面に噴き付けられて該凹状内面に沿って流下せしめられることにより、水和処理ケースに収容された含水性コンタクトレンズと収容凹部の間の隙間に導かれる。そして、かかる隙間を形成する窪みによって含水性コンタクトレンズの前面の充分に広い領域に亘って水和処理液が有利に入り込ませられるのであり、それによって、含水性コンタクトレンズを、その前面から、しかも広い領域において含水処理することが出来るのである。
また、かかる第一の注入口または第一の開口位置において水和処理液を噴出せしめた後、第二の注入口(第一の態様)または第二の開口位置(第二の態様)において噴出される水和処理液が、水和処理ケースに収容された含水性コンタクトレンズにおける上方に開口せしめられた後面に向けて噴出されて、水和処理ケースに供給されるのであり、それによって、含水性コンタクトレンズの浮き上がりを抑えつつ、含水性コンタクトレンズを水和処理ケースの収容凹部内で浸漬せしめることが出来るのである。
〔水和処理装置に関する本発明の第三の態様〕
水和処理装置に関する本発明の第三の態様は、前記第一又は第二の態様に従う構造とされた水和処理装置であって、前記通水管体において、前記収容凹部に入り込んで開口せしめられる排出口が形成されており、該収容凹部に供給された前記水和処理液を該排出口を通じて吸引することにより、該収容凹部から排出せしめるようになっていることを、特徴とする。
本態様に従う構造とされた水和処理装置においては、水和処理ケースの収容凹部内に注入口を通じて水和処理液を供給しつつ、排出口を通じて水和処理液を排出することにより、かかる収容凹部内に連続的に通水することが出来るのであり、それによって収容凹部に収容配置された含水性コンタクトレンズを一層効率的に水和処理(未反応モノマー等の抽出処理を含む)することが可能となる。
なお、本態様においては、上述の如く、水和処理液の注入と水和処理液の排出を同時に行うことで、水和処理液を収容凹部内で流動させる、即ち、注入される水和処理液によって収容凹部内を攪拌しつつ、水和処理液の交換を行いながら排出口から処理済の水和処理液を排出することが出来るが、その他、初めに排出口より収容凹部内の水和処理液を排出した後、新鮮な水和処理液を収容凹部内に充填することも、勿論、可能である。
〔水和処理方法に関する本発明の第一の態様〕
水和処理方法に関する本発明の第一の態様は、前述の如き水和処理ケースに関する本発明の第一乃至第十三の何れかの態様に係る水和処理ケースを用いて、該水和処理ケースの前記収容凹部内で乾燥状態の前記含水性コンタクトレンズを含水膨潤せしめる水和処理方法であって、(a)前記水和処理ケースの前記収容凹部に乾燥状態の前記含水性コンタクトレンズを収容せしめて、該含水性コンタクトレンズの前面を前記凹状湾曲面に載置して支持せしめた状態下で、該収容凹部における前記凹状湾曲面よりも開口部側の前記凹状内面に沿わせて前記水和処理液を供給することにより、該水和処理液を前記窪みによって該含水性コンタクトレンズと該収容凹部との間に形成された前記隙間に入り込ませて該含水性コンタクトレンズの前面に接触せしめる第一の注水工程と、(b)該第一の注水工程の後、前記収容凹部に収容せしめた前記含水性コンタクトレンズの後面に向かって前記水和処理液を供給することにより、該収容凹部内で該含水性コンタクトレンズを該水和処理液に浸漬せしめる第二の注水工程とを、含む含水性コンタクトレンズの水和処理方法を、特徴とする。
このような本態様の水和処理方法に従えば、第一の注水工程において、乾燥状態の含水性コンタクトレンズの前面に対して水和処理液が接触せしめられて、含水性コンタクトレンズが前面から含水膨潤せしめられることとなる。そこにおいて、含水性コンタクトレンズの前面を支持する凹状湾曲面には窪みが形成されていることから、かかる窪みで形成された隙間により水和処理液がレンズ前面の広い範囲に有利に且つ速やかに導かれて接触せしめられる。それ故、含水性コンククトレンズの局部的な含水膨潤等に起因するカール等のいびつな変形やそれに伴う気泡の巻き込みが防止され得て、良好な含水膨潤処理が安定して行われることとなるのである。
しかも、含水性コンタクトレンズの前面には、それを支持する凹状湾曲面の窪みで隙間が広がって形成されていることから、第一の注水工程で供給された水和処理液と含水性コンタクトレンズの接触面積を、レンズ前面において充分に大きくすることが可能となり、未反応モノマーなどの抽出効率も向上せしめられ得る。
さらに、含水性コンタクトレンズを前面から含水膨潤せしめた後、第二の注水工程により、含水性コンタクトレンズの後面から収容凹部内に注水されることにより、収容凹部に満たされた水和処理液に対して含水性コンタクトレンズが浸漬せしめられることとなり、それによって含水性コンタクトレンズの全面に対する含水膨潤が、含水性コンタクトレンズの形状を安定して保ちつつ、また気泡の巻き込みもない状態で、進められることとなる。
すなわち、含水前の乾燥状態にある含水性コンタクトレンズは水和処理液と接触すると急激に吸水するため、乾燥状態の含水性コンタクトレンズが収容された収容空間に対して、いきなり水和処理液を充填しはじめると、コンタクトレンズがカールしたり、また、このようにコンタクトレンズがカールすることでカールした部分に気泡を巻き込んで、収容空間内でコンタクトレンズが浮き上がってしまい、コンタクトレンズの均一な吸水膨潤が妨げられ、未反応モノマーの抽出が効率良く行われないおそれがある。しかも、一度巻き込んだ空気をコンタクトレンズから離すのは、一般的に困難である。そこにおいて、本態様に従えば、先ず、第一の注水工程において、乾燥状態の含水性コンタクトレンズの前面と凹状湾曲面との間に水和処理液をなじませた後、第二の注水工程において、含水性コンタクトレンズにおける後面側から追加の水和処理液を収容空間内に充填するようになっていることから、第一の注水工程において凹状湾曲面に沿ってコンタクトレンズが固定的に保持されることとなり、後の第二の注水工程でも、水和処理液の充填に際して気泡を巻き込んだり、コンタクトレンズが浮き上がってしまうことを回避することが可能となるのである。
〔水和処理方法に関する本発明の第二の態様〕
水和処理方法に関する本発明の第二の態様は、前記第一の態様に係る水和処理方法において、前記第一の注水工程における前記水和処理液の供給量を2ml以下とすることを、特徴とする。
本態様に従えば、第一の注水工程で過剰な水和処理液を注入することにより水和処理液が含水性コンタクトレンズの後面側にのって接触してしまうことを防止することが出来るのであり、含水性コンタクトレンズの前面からの含水膨潤処理による形状安定効果等が一層有利に実現可能となる。即ち、第一の水和処理工程において噴出する水和処理液の量は、レンズ前面と処理ケースの凹状湾曲面およびその周辺とを潤す程度の量でよく、大量に噴出すると却ってコンタクトレンズがカールしたり、気泡を巻き込む可能性があることから、好ましくは2ml以下、より好ましくは1ml以下、更にレンズの大きさや凹状湾曲面の窪みの形状等によっては0.5ml以下の少量が良い。なお、第一の水和処理工程が終了した後、若干の間隔をおいてから実施される第二の水和処理工程においては、収容凹部内で含水性コンタクトレンズが完全に浸漬状態に保たれ得るだけの量の水和処理液、好ましくは収容凹部を充満するだけの水和処理液を充填するようにされる。
〔水和処理方法に関する本発明の第三の態様〕
水和処理方法に関する本発明の第三の態様は、前記第一又は第二の態様に係る水和処理方法において、前記第二の注水工程の後、更に前記収容凹部に前記水和処理液を連続的に供給すると同時に該収容凹部から余剰の該水和処理液を排出する通水工程を行うことを、特徴とする。
本態様に従えば、第一及び第二の工程によって含水性コンタクトレンズの表面に抽出せしめられた未反応モノマーを一層効率的に除去することが可能となる。なお、本態様の方法を実施する際には、特に、前述の水和処理ケースに関する本発明の第十二の態様に係る水和処理ケースが有利に用いられ、また、前述の水和処理装置に関する本発明の第一乃至第三の何れかの態様に係る水和処理装置が好適に用いられる。
〔水和処理方法に関する本発明の第四の態様〕
水和処理方法に関する本発明の第四の態様は、前記第三の態様に係る水和処理方法であって、前記通水工程において、前記収容凹部に対する前記水和処理液の供給および排出による通水量を段階的に変化させることを、特徴とする。
本態様に従えば、含水性コンタクトレンズからの未反応モノマーの抽出や、コンタクトレンズの表面に付着するゴミ等の除去が、未反応モノマーの抽出程度の経時的変化等を考慮して一層効果的になされ得ることとなる。
なお、上述の如き第一乃至第四の何れかの態様に係る本発明方法に従って水和処理を施した場合において、前記水和処理ケースに関する本発明の第十三の態様に係る水和処理ケースを採用して、水和処理ケースをそのまま流通ケースとして用いる場合には、一般にレンズケースは射出成形により製造されるが、成形後直ちに加工品の乾燥状態にある含水性コンタクトレンズを収容凹部に入れて、前述の如き蓋体等で覆蓋すれば収容凹部内に浸入するほこり等の異物を極力減少させることが出来る。一層好適には、含水性コンタクトレンズを収容凹部に入れる作業を含む水和処理工程全体をクリーンエリア内で実施等することで、製品の品質向上に一層の効果を奏することとなる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の一実施形態としての水和処理ケースの斜視図である。図2は、図1に示された水和処理ケースの平面図である。図3は、図2におけるIII−III断面図である。図4は、本発明の水和処理方法において採用される処理容器の断面図である。図5は、本発明の水和処理方法の実施状態を説明する図である。図6は、本発明の水和処理ケースの他の実施態様を示す斜視図である。図7は、本発明の水和処理ケースの他の実施態様を示す斜視図である。図8は、本発明の水和処理ケースの他の実施態様を示す斜視図である。図9は、本発明の水和処理ケースの他の実施態様を示す斜視図である。図10は、本発明の水和処理ケースの他の実施態様を示す断面図である。図11は、本発明の水和処理方法の他の実施態様を説明する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
先ず、図1乃至図3には、本発明の一実施形態としての含水性コンタクトレンズの処理ケース2が示されている。この処理ケース2には、コンタクトレンズ(3)を収容する収容凹部としての凹部4が設けられている。なお、以下の説明において、上下方向とは、原則として、図3中の上下方向をいうものとする。
より詳細には、処理ケース2は、矩形の天板部5と、該天板部5の四隅からそれぞれ天板部5の厚さ方向一方、即ち、下方に向かって一体的に延びだした4つの脚部を有する構造とされている。なお、本実施形態では、天板部5は全体として正方形状とされている。また、処理ケース2の天板部5の略中央部分には、天板部5の厚さ方向他方、即ち、上方に開口するようにして凹部4が形成されている。この凹部4は、円形の開口部を有しており、全体として球殻を半分にした形状を呈している。また、凹部4の開口周縁部には、全周に亘って嵌合部としての周溝7が形成されている。
そこにおいて、本実施形態では、処理ケース2に形成された凹部4は、その開口部の径方向寸法が、かかる開口部から含水性コンタクトレンズ(3)が容易に出し入れできる程度の大きさとされており、具体的には、コンタクトレンズ(3)の直径よりも大きいが、コンタクトレンズ(3)の直径の2倍よりは小さくされている。また、凹部4の深さ方向の寸法は、コンタクトレンズ(3)の水和処理乃至は洗浄処理を行う水和処理液と共に、コンタクトレンズ(3)を水和処理液に浸漬せしめた状態で収容できる程度の深さ寸法とされており、具体的には、コンタクトレンズ(3)の直径よりは小さいが、コンタクトレンズ(3)の半径よりは大きくされている。
さらに、凹部4の凹状内面には、コンタクトレンズ(3)が載置される領域、即ち、凹部4における底側の領域においてコンタクトレンズ(3)、特に、含水状態のコンタクトレンズ(3)の前面に略対応した曲率の凹状湾曲面6が形成されている。これにより、凹状湾曲面6は乾燥状態のコンタクトレンズ(3)の外面曲率よりも大きい曲率を有することとなり、含水状態のコンタクトレンズ(3)に対して余分な外力が加わらないようなっている。特に、本実施形態では、凹部4における底側部分と開口側部分では曲率が異ならされており、それによって、凹部4における底側部分と開口側部分、即ち、凹状湾曲面6が形成されている部分と形成されていない部分の境界において段差が形成されている。
このような凹部4には、窪みとしての複数の溝8が形成されている。この複数の溝8は、それぞれ、凹部4の開口端側から凹部4の中心、即ち、凹部4の底側の中央部分に向かって直線的に延びており、凹部4を周方向に等間隔に分割したように形成されている。要するに、複数の溝8は、凹部4の底側の中央部分から凹部4の開口端に向かって放射状に形成されており、その間隔は、周方向に等間隔とされている。そこにおいて、本実施形態では、複数の溝8は、凹状湾曲面6に開口するように形成されている。これにより、凹部4における開口端側には、溝が形成されていないこととなる。なお、本実施形態では、溝8の底面と凹状内面は互いに同じ曲率とされている。また、各溝8は、互いに同じ断面形状で径方向に延びるように形成されており、本実施形態では、凹部4における開口端側から底の中央部分に行くに従って次第にその幅寸法が小さくなっていると共に、その深さ寸法も小さくなっている。そして、本実施形態では、凹部4の底の中央部分、即ち、凹状湾曲面6の中央部分には、溝が形成されておらず、かかる溝が形成されていない凹状湾曲面6の中央部分が中央支持部9とされている。このように複数の溝8が凹状湾曲面6に形成されることで、コンタクトレンズ(3)が前面、即ち、凸側面で凹状湾曲面6に載置された状態下において、コンタクトレンズ(3)と凹部4との間に隙間が形成されるようになっており、それによって、凹状湾曲面6とコンタクトレンズ(3)との接触面積が調節されるようになっている。また、コンタクトレンズ(3)が前面側で凹状湾曲面6に載置された状態下において、コンタクトレンズ(3)と凹部4の間に形成された隙間は、コンタクトレンズ(3)の外周側に開口するようになっており、かかる開口部から水和処理液が入りこむようになっている。
また、溝8の表面、即ち、溝8の底面は、コンタクトレンズ(3)と直接に接触することがないので凹凸の面であっても良いが、コンタクトレンズ(3)を処理ケース2に入れたままの状態で検査することを考慮すると、平滑な面又は鏡面であることが望ましい。一方、溝8が形成された箇所以外の凹状湾曲面6は、コンタクトレンズ(3)と直接接触することから、コンタクトレンズ(3)を傷つけないように滑らかな面であることが望ましい。特に、本実施形態では、凹状湾曲面6は、複数の溝8が形成された以外の部分は、全体としてコンタクトレンズ(3)の全面曲率に近似した曲率を有する凹面を形成している。
このような構造とされた処理ケース2は、安価で取り扱いやすいように、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンビニルアセテート、プロピレンコポリマー、ポリスチレン、ナイロン等から適宜選択される熱可塑性プラスチックによって形成されており、射出成形や熱圧縮成形により成形されるようになっている。
続いて、このような処理ケース2を用いた水和処理方法について、説明する。この水和処理方法は、図4に示されているような処理容器1を用いて行われるようになっており、かかる処理容器1は、処理ケース2と、かかる処理ケース2に対して取り付けられる蓋体10によって構成される。この蓋体10は、合成樹脂材によって形成されており、全体として処理ケース2に設けられた凹部4の開口部よりも一回り大きな形状を有しており、特に、本実施形態では、蓋体10は、全体として円板形状を呈している。また、蓋体10には、その中央部分において管体挿通孔としての貫通孔21が一つ形成されていると共に、その外周縁部において凸条11が全周に亘って周方向に連続して延びるように形成されている。
このような蓋体10は、処理ケース2における凹部4の開口部を覆うようにして処理ケース2に組み付けられるようになっており、このように処理ケース2に蓋体10が組み付けられた状態下において、蓋体10の凸条11が処理ケース2における周溝7に嵌め込まれている。これにより、蓋体10と凹部4の対向面間において、コンタクトレンズ3が収容位置せしめられる収容空間12が形成されるようになっており、かかる収容空間12は、蓋体10に設けられた貫通孔21のみを通じて外部空間と接続されている。なお、処理ケース2への蓋体10の組み付けは、凹部4にコンタクトレンズ3を収容した状態で行われる。
そして、処理容器1を構成する蓋体10に対して、図5に示されているように、供給管体(通水管体)としての導管20が組み付けられるようになっている。この導管20は、二つの注入側流路32,33と、一つの排出側流路34を備えた構造とされており、その先端部分は、二つの注入側流路32,33を流れる水和処理液を収容空間12内に注入するための二つの注入口22,23と、収容空間12内に注入された水和処理液を排出側流路34を通じて排出するための排出口24を有する注入ノズルとされている。そこにおいて、本実施形態では、注入口22は、導管20における先端部分、即ち、注入ノズルの筒状外周面において開口している一方、注入口23は、注入ノズルの突出先端面において開口している。また、本実施形態では、排出口24は、注入ノズルの筒状外周面において開口している。更に、本実施形態では、注入ノズルは、導管20の本体部分よりも小径とされており、それによって、注入ノズルと本体部分の境界において環状の段差面が形成されている。なお、上述の説明から明らかなように、本実施形態では、注入口22によって第一の注入口が構成されていると共に、注入口23によって第二の注入口が構成されている。
また、図面上では明示されていないが、導管20には、二つの注入側流路32,33を通じて水和処理液を収容空間12内に注入するための注入用ポンプや収容空間12内に注入するための水和処理液を貯蔵しておく注入側タンク,排出側流路34を通じて排出された水和処理液を貯蔵しておくための排出側タンク等が接続されている。なお、必要に応じて、収容空間12内に注入された水和処理液を排出側流路34を通じて排出するための吸引用ポンプを設けても良い。また、注入用ポンプや吸引用ポンプは、制御装置によって制御されるようになっている。このことから明らかなように、本実施形態では、水和処理装置は、導管20および導管20に接続されている各種タンクおよび各種ポンプ,各種ポンプを制御するための制御装置等を含んで構成されている。
そして、導管20における注入ノズルが貫通孔21に対して挿通されることで導管20が蓋体10に対して組み付けられるようになっている。その際、導管20を蓋体10に押さえつける、即ち、導管20における本体部分と注入ノズルとの境界部分に形成された環状の段差面を蓋体10における貫通孔21の周囲の外面に外方(図中の上方)から押し付けるようにして押さえつけることにより、注導管20と蓋体10の間が密着せしめられて貫通孔21が流体密に閉塞されると共に、蓋体10の凸条11と処理ケース2の周溝7とが密着し、収容空間12の液密性が確保されることとなり、これによって、収容空間12が外部に対して密閉された空間とされる。この場合の導管20を蓋体10に押さえつける圧力は、水和処理液を収容空間12内に注入する際に、収容空間12内から水和処理液の漏出が防止される程度の圧力で良い。その際、収容空間12内に予め入っている空気が速やかに抜けることが望ましいことは言うまでもない。具体的には、例えば空気抜孔を注入ノズルに設けても良いが、水和処理駅の漏出が押さえられる程度の空気抜き用のすきまが、例えば蓋体10と導管20の間等に形成されるようになっていても良い。
続いて、導管20の一方の注入側流路32を通じて注入口22より水性処理液を注入する第一の注水工程としての第一の水和処理工程が行われる。この水性処理液は、例えば、脱イオン化された水、界面活性剤を含む水溶液、生理的食塩水など含水コンタクトレンズの水和処理乃至は洗浄処理において従来から用いられていたものが適宜選択される。そして、第一の水和処理工程においては、注入口22から処理ケース2における凹部4の側壁、即ち、凹部4における開口端付近の壁部に向かって水和処理液が噴射され、噴射された水和処理液は凹状内面を伝って凹部4における底側の部分、即ち、コンタクトレンズ3が位置せしめられている部分に流れ込むこととなる。そして、水和処理液がコンタクトレンズ3の周辺部分からコンタクトレンズ3と凹部4における底側の壁面との間にしみこむこととなり、コンタクトレンズ3が予備的に含水せしめられることとなる。これにより、コンタクトレンズ3が凹部4の曲面に対して適度に吸着し、或いは、水和されることとなる。
その後、所定時間(例えば、数秒から十数秒)の間隔をおいて、導管20の他方の注入側流路33を通じて注入口23から水和処理液を注入する第二の注水工程としての第二の水和処理工程が行われる。なお、第二の水和処理工程において注入される水和処理液は、第一の水和処理工程において注入されるものと同じである。そして、注入口23からコンタクトレンズ3の後面に向かって水和処理液が注入されて、収容空間12が水和処理液で満たされた後、適当な時間コンタクトレンズ3を浸漬することにより、コンタクトレンズ3内に残存する未反応モノマーが抽出される。続いて、二つの注入側流路32,33を通じて新鮮な水和処理液を収容空間12内に注入し、オーバーフローする水和処理液を排出口24から排出側流路34を通じて収容空間12外へと排出する通水工程が行われる。
そこにおいて、上述の如き水和処理液を注入する際の注入側流路32,33の切換は、例えば、各注入側流路毎に注入用タンクおよびポンプが接続されている場合には、各ポンプ毎に電源をオン/オフすること等で実現可能であり、また、注入側流路32,33が共通の注入用タンクおよびポンプを備えている場合には、共通の注入用タンクおよびポンプに接続される注入側流路32,33を切りかえるための切換バルブをポンプと注入側流路32,33を接続する管路に設け、この切換バルブを操作すること等で実現可能であり、このような構成を採用することにより、注入口22を通じての水和処理液の供給と注入口23を通じての水和処理液の供給がそれぞれ各別に制御可能となる。
また、上述の如き水和処理においては、収容空間12内での水和処理液の流速が、好ましくは数cc/sec〜数十cc/sec程度とされると共に、該水和処理液の温度が好ましくは20〜80℃程度とされ、更に、水和処理液の交換間隔が好ましくは数分から数十分程度とされる。このように温水を注入することで、コンタクトレンズ3内からの未反応モノマー等が効率的に除去されることとなる。
さらに、水和処理液の流速または注入を多段階的に行うことによりコンタクトレンズ3の洗浄乃至は水和処理の効率を上げることができる。例えば、最初の注入時は乾燥状態から含水状態へ移行する場合であり、コンタクトレンズ3が膨潤してサイズが大きくなりつつある状態であるため、形状が不安定になりがちで、その際の流速が速すぎると後に得られるコンタクトレンズ3の変形を惹起すると考えられるので、初めの流速はゆっくりとし、2回目以降の水和処理液の充填は逆に流速を早くして内溶液、即ち、収容空間12内の水和処理液を攪拌し液の交換効率を高める。含水状態が平衡に達したと思われる時には、流速を速くしてコンタクトレンズ3に対して新鮮な水和処理液を接触させコンタクトレンズ3から抽出される未反応モノマーなどの溶出を促進する。また、水和処理液の交換の間隔も、初めの頃は抽出される未反応モノマー量が多いので比較的短期間で行い、次第に交換間隔を開けることで、水和処理液の利用効率も向上する。
更にまた、導管20はコンタクトレンズ3の処理が終わるまで継続して収容空間12に連結させ続ける必要はなく、むしろコンタクトレンズ3を単に浸漬する時間には、導管20を他の処理容器と連結させることにより導管20の効率的な使用が達成される。
そして、水和処理が終了すると、最後に流通過程でのコンタクトレンズ3の保存液を収容空間12に注入して、導管20は取り除かれる。その後、蓋体10を覆蓋したまま乃至はこれを取り除いて、処理ケース2の天板部5を、封止シールで覆いさらにヒートシールすることにより凹部4を密封空間とする。
このように、本実施形態においては、コンタクトレンズ3の処理ケース2と流通ケースが兼用となるため、含水状態のレンズ3に対して直接機械的に接触することがないのでレンズ3の破損等の不良が効果的に防止されることとなる。このように密封された処理ケース2は、必要に応じて滅菌処理され適当な包装、印刷などが施された後、流通過程にのせられる。
そこにおいて、含水性コンタクトレンズ3の処理が終わった後に封止する封止シートは、熱シールまたは接着剤により良好な接着性を与えるように、ポリエチレン、ポリプロピレンなど処理ケース基材と類似の材料をその表面に有するアルミニウム箔のラミネートや、プラスチック層を有するバリア材料を形成する酸化シリコンで構成された他の材料を使用することが望ましい。
このような本実施形態の水和処理方法においては、凹状湾曲面6に複数の溝8が形成された処理ケース2を用いて水和処理をおこなっていることから、凹部4の表面、特に、凹状湾曲面6とコンタクトレンズ3との接触面積を調整することが可能となり、それによって、レンズ全面に水和処理液がいきわたるようにされ、コンタクトレンズ3の自由な動きがより許容されるところから乾燥状態のコンタクトレンズ3が全体的に吸水することにより、均一な膨潤を促し、いわゆる水和処理初期の急激な吸水により不均一になりがちなレンズ形状の変形を抑えることができる。
また、本実施形態では、凹部4における凹状湾曲面6の略全面に均一・均等に溝を設けられていることにより、レンズ水和時、保管時等にコンタクトレンズ3の変形を防止する効果が高い。
さらに、本実施形態では、凹部4における凹状湾曲面6は、溝8の部分を除いて考えると、全体的にはコンタクトレンズ3の全面曲率に近似した曲率を有する凹面を形成していることから、流通ケースに兼用した場合の、長期間の保存中にコンタクトレンズ3に対してよけいな応力が加わることがなく、コンタクトレンズ3の変形を有利に防止することができるのである。
また、本実施形態では、凹部4の深さは、適度に調節されていることから、運搬中にコンタクトレンズ3が回転することが無い。
さらに、本実施形態では、凹状湾曲面6に複数の溝8が形成されていることから、コンタクトレンズ3と凹状湾曲面の物理的な接着を防止し、水和時、保存、運搬時においてコンタクトレンズ3の自由な動きを確保して、コンタクトレンズ3の変形等を回避することが可能となる。
また、本実施形態では、初期の充填を二段階にて行うことにより、はじめからコンタクトレンズ3の上方より水和処理液を充填する場合に比較して、コンタクトレンズ3に対する気泡の付着やコンタクトレンズ3がカールするようなことの無い水和処理液の充填が可能となる。
以上、本発明の具体的な構成について記述してきたが、これはあくまでも例示にすぎないのであって、本発明は上記の記載によって、何等の制約をも受けるものではない。
例えば、前記実施形態では、複数の溝8は、放射状に形成されていたが、図6乃至9に示されるような形状であっても良い。因みに、図6に示される溝8は渦巻き状に形成されたものである。図7に示される溝8は蛇行したような形状であり、溝8が略周方向に延びるように形成されている。図8に示される溝8は環状の溝が幾重にも形成されたものである。即ち、図8に示された溝8は、それぞれ、周方向に延びるように形成されている。図9に示されるものは図1に示す直線状の溝8の一部を形成したものである。なお、これらは、あくまでも溝の例示にすぎず、水和処理を効率よく実施できるものであれば、これらを組み合わせたり、一部に形成した形状など種々の形状を取りうる。また、これらの溝を模様の一部として形成しても良い。
また、前記実施形態では、コンタクトレンズ3は、凹部4に収容された状態下において、その前面中央部分が、凹状湾曲面6における溝8が形成されていない部分、即ち、中央支持部9に対して接触せしめられていたが、図10に示すように、凹部4に接触していない状態であっても良い。
具体的には、前記実施形態では、各溝8は、凹部4の底側に行くに従ってその深さ寸法が小さくなり、凹部4の底の中央部分では、溝8が形成されておらず、コンタクトレンズ3の前面中央部分が凹部4の底に対して接触するようになっていたが、図10に示された態様においては、溝8は凹部4の底側に行っても深さ寸法が変化しないようになっており、凹部4の底の中央付近において溝8の側壁部分が切断された如く形成されていない状態とされている。そして、溝8の側壁部分の上面にのみコンタクトレンズ3が接触するようになっており、それによって、コンタクトレンズ3が凹部4に収容された状態下において、コンタタクトレンズ3の前面中央部分が凹部4と接触していないようになっている。このことから明らかなように、図10に示された態様においては、凹部4の底の中央部分において中央窪地13が形成されているのである。なお、理解を容易にするために、第一の実施形態と同様な構造とされた部材および部位には、第一の実施形態と同一の符号を付してある。
また、前記実施形態では、蓋体10の貫通孔21を1個とした場合の処理方法を示したが、例えば、前記注入口22、23およびこれと連通する流路32、33を有する導管と、排出口24これと連通する流路34を有する導管の二種を用いて処理する場合には、2つの貫通孔を有する蓋体であってもよく、さらには、貫通孔が1つであっても、前記導管を交互に蓋体と連結させて処理することも可能である。
更にまた、含水性コンタクトレンズの前面に略対応した曲率の凹状湾曲面6は、含水性コンタクトレンズの前面の中央部分が充分な面積で当接支持せしめられることが望ましく、それによって含水性コンタクトレンズの変形を一層有利に抑えることが出来るが、一方、含水性コンタクトレンズの外周縁部は、凹状湾曲面6から少し浮き上がっていてもよい。蓋し、それによって、含水性コンタクトレンズの前面側への隙間に対する水和処理液の入り込みが促進されることとなるからである。そして、このように含水性コンタクトレンズの外周縁部を凹状湾曲面6から僅かに浮き上がらせた態様も、略対応した曲率の範囲内であって、本発明の態様の一形態である。
その他、図11には、第一段階である第一の注水工程で凹面側壁としての凹状内面に向かって水和処理液を噴射し、第二段階である第二の注水工程でレンズ方向に向かって水和処理水を充填するための注入口としての注入管を一つで行う例を示す。この例では一つの注入管40を通水管体としての導管20から突出するようにして設けており、一つの注入管40で水和処理液の噴射方向を変えるために、蓋体10の貫通孔21に注入管40を挿入する角度を第一段階(図11(a)で示す)と第二段階(図11(b)で示す)で変更するようになっている。そこにおいて、注入管40の突出先端部分は、第一の注水工程において注入管40を蓋体10の貫通孔21に挿入する際の角度、即ち蓋体10の上面に垂直な方向に対する導管20の傾斜角度が大きくなり過ぎないように、且つ、第二の注水工程において、レンズ方向に向かって水和処理液を充填できるように適度に曲げられている。なお、上述の説明から明らかなように、第一の段階における注入管40の開口位置が第一の開口位置とされている一方、第二の段階における注入管40の開口位置が第二の開口位置とされている。この方法の利点は、注入管が一つでよくなるためそれに接続されるポンプの数を減らすことができ、また、各注入管に接続される導水パイプについてもその数を減らせることにより、設備面、コスト面の削減と、空間配置の簡略化が達成できる。
さらに、図5および図11には、蓋体に対して1つまたは2つの貫通孔が形成された場合の例を示しているが、3つ以上の複数個有していてもよく、更には貫通孔の場所が中心から偏寄させられていてもよい。更にまた凹部4乃至天板部5の形状や大きさ等は、適宜に変更されるものであることは言うまでもないところである。
以上説明したように、本発明に従う含水性コンタクトレンズの処理ケースおよびそれを用いた水和処理方法、更には本発明に従う構造とされた水和処理装置においては、コンタクトレンズがカールしたり気泡を巻き込むことを回避しつつ、含水性コンタクトレンズの水和処理を有利に行うことを可能と為し得るのである。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水性コンタクトレンズが収容される収容凹部を備え、該収容凹部内で乾燥状態の該含水性コンタクトレンズを水和処理液に接触させて含水膨潤せしめるのに用いられる水和処理ケースであって、
前記収容凹部における凹状内面の前記含水性コンタクトレンズが載置される領域を該含水性コンタクトレンズの前面に略対応した曲率の凹状湾曲面とすると共に、該凹状湾曲面に開口する窪みを形成することにより該含水性コンタクトレンズと該収容凹部との間に隙間が形成されるようにして、該凹状内面に沿って前記水和処理液を流下せしめた際に該水和処理液が該隙間に入り込むようにしたことを特徴とする含水性コンタクトレンズの水和処理ケース。
【請求項2】
前記収容凹部の前記凹状湾曲面に前記含水性コンタクトレンズを載置せしめた際に、該含水性コンタクトレンズと該収容凹部との間に形成される前記隙間が、該含水性コンタクトレンズの外周側に開口して、かかる開口部から径方向内方に向かって連続して広がるように、前記窪みが形成されている請求項1に記載の水和処理ケース。
【請求項3】
前記窪みが、少なくとも一つの溝によって形成されている請求項1又は2に記載の水和処理ケース。
【請求項4】
前記溝の少なくとも一つが、前記凹状湾曲面の略周方向に延びる形態のものである請求項3に記載の水和処理ケース。
【請求項5】
前記溝の少なくとも一つが、前記凹状湾曲面の略径方向に延びる形態のものである請求項3又は4に記載の水和処理ケース。
【請求項6】
前記溝の深さ寸法を、該溝の幅寸法が1mm以下の場合には0.05mm以上とする一方、該溝の幅寸法が3mm以上の場合には0.05mmに満たない深さ寸法とした請求項1乃至5の何れかに記載の水和処理ケース。
【請求項7】
前記含水性コンタクトレンズが載置される前記凹状湾曲面の全面積:Aaに対する前記窪みの占める面積:Abの割合が、0.2≦Ab/Aa≦0.8である請求項1乃至6の何れかに記載の水和処理ケース。
【請求項8】
前記凹状湾曲面の中央部分に前記溝が形成されていない中央支持部を設けて、前記含水性コンタクトレンズの中央部分が該中央支持部の略全面に亘って重ね合わせられるようにした請求項1乃至7の何れかに記載の水和処理ケース。
【請求項9】
前記収容凹部の中央部分に中央窪地を形成し、該中央窪地によってレンズ中央が該収容凹部から浮いた状態で支持されるようにした請求項1乃至7の何れかに記載の水和処理ケース。
【請求項10】
前記凹状湾曲面と共に、前記窪みの底面も、滑らかな略鏡面とした請求項1乃至9の何れかに記載の水和処理ケース。
【請求項11】
前記収容凹部の開口周縁部に嵌合部が形成されており、該嵌合部に嵌め合わせられることによって蓋体が取り外し可能に組み付けられるようになっている請求項1乃至10の何れかに記載の水和処理ケース。
【請求項12】
前記蓋体には管体挿通孔が形成されており、前記収容凹部に前記水和処理液を供給するための供給管体が該管体挿通孔に挿通されることによって、該蓋体で該収容凹部を覆蓋せしめた状態で該供給管体を通じて該水和処理液を該収容凹部に供給することができるようになっている請求項11に記載の水和処理ケース。
【請求項13】
前記収容凹部の開口を前記蓋体を利用して液密に覆蓋することにより、前記含水性コンタクトレンズを流通保存液に浸漬せしめた状態で該収容凹部に封入せしめて流通ケースを構成した請求項11又は12に記載の水和処理ケース。
【請求項14】
請求項1乃至13の何れかに記載の水和処理ケースを用いて、該水和処理ケースの前記収容凹部内で乾燥状態の前記含水性コンタクトレンズを含水膨潤せしめるのに用いられる水和処理装置であって、
前記水和処理ケースにおける前記収容凹部の開口部分に臨むようにセットされる通水管体を備えていると共に、該通水管体にはそれぞれ、前記水和処理液を該収容凹部に供給する第一の注入口と第二の注入口が形成されており、該第一の注入口が該水和処理ケースの前記収容凹部において前記凹状湾曲面よりも開口部側の前記凹状内面に向かって開口せしめられる一方、該第二の注入口が該水和処理ケースの該凹状湾曲面に載置される前記含水性コンタクトレンズの後面に向かって開口せしめられるようになっていると共に、該第一の注入口を通じての該水和処理液の供給と該第二の注入口を通じての該水和処理液の供給がそれぞれ各別に制御可能とされていることを特徴とする含水性コンタクトレンズの水和処理装置。
【請求項15】
請求項1乃至13の何れかに記載の水和処理ケースを用いて、該水和処理ケースの前記収容凹部内で乾燥状態の前記含水性コンタクトレンズを含水膨潤せしめるのに用いられる水和処理装置であって、
前記水和処理ケースにおける前記収容凹部の開口部分に臨むようにセットされる通水管体を備えていると共に、該通水管体には前記水和処理液を該収容凹部に供給する注入口が形成されており、該通水管体を該水和処理ケースに対して傾斜せしめることによって該注入口の該収容凹部に対する開口方向が可変とされており、該注入口が該水和処理ケースの前記収容凹部において前記凹状湾曲面よりも開口部側の前記凹状内面に向かって開口せしめられる第一の開口位置と、該注入口が該水和処理ケースの該凹状湾曲面に載置される前記含水性コンタクトレンズの後面に向かって開口せしめられる第二の開口位置とに、選択的に位置せしめられるようになっていることを特徴とする含水性コンタクトレンズの水和処理装置。
【請求項16】
前記通水管体において、前記収容凹部に入り込んで開口せしめられる排出口が形成されており、該収容凹部に供給された前記水和処理液を該排出口を通じて吸引することにより、該収容凹部から排出せしめるようになっている請求項14又は15に記載の含水性コンタクトレンズの水和処理装置。
【請求項17】
請求項1乃至13の何れかに記載の水和処理ケースを用いて、該水和処理ケースの前記収容凹部内で乾燥状態の前記含水性コンタクトレンズを含水膨潤せしめる、水和処理方法であって、
前記水和処理ケースの前記収容凹部に乾燥状態の前記含水性コンタクトレンズを収容せしめて、該含水性コンタクトレンズの前面を前記凹状湾曲面に載置して支持せしめた状態下で、該収容凹部における前記凹状湾曲面よりも開口部側の前記凹状内面に沿わせて前記水和処理液を供給することにより、該水和処理液を前記窪みによって該含水性コンタクトレンズと該収容凹部との間に形成された前記隙間に入り込ませて該含水性コンタクトレンズの前面に接触せしめる第一の注水工程と、
該第一の注水工程の後、前記収容凹部に収容せしめた前記含水性コンタクトレンズの後面に向かって前記水和処理液を供給することにより、該収容凹部内で該含水性コンタクトレンズを該水和処理液に浸漬せしめる第二の注水工程とを、
含むことを特徴とする含水性コンタクトレンズの水和処理方法。
【請求項18】
前記第一の注水工程における前記水和処理液の供給量を2ml以下とする請求項17に記載の含水性コンタクトレンズの水和処理方法。
【請求項19】
前記第二の注水工程の後、更に前記収容凹部に前記水和処理液を連続的に供給すると同時に該収容凹部から余剰の該水和処理液を排出する通水工程を行う請求項17又は18に記載の含水性コンタクトレンズの水和処理方法。
【請求項20】
前記通水工程において、前記収容凹部に対する前記水和処理液の供給および排出による通水量を段階的に変化させる請求項19に記載の含水性コンタクトレンズの水和処理方法。

【国際公開番号】WO2004/019114
【国際公開日】平成16年3月4日(2004.3.4)
【発行日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−530551(P2004−530551)
【国際出願番号】PCT/JP2003/010262
【国際出願日】平成15年8月12日(2003.8.12)
【出願人】(000138082)株式会社メニコン (150)
【出願人】(000222473)株式会社トーメー (20)
【Fターム(参考)】