説明

含浸食品及びその製造方法

【課題】減圧含浸した食品において、食品の内部深くまで液状原料が十分浸透しているにもかかわらず液状原料の風味が強すぎず、良好な嗜好性を有する含浸食品、及び該含浸食品を製造する方法を提供することを課題とした。
【解決手段】密閉系内にて液状原料に固形原料を埋没させた状態で系内を減圧に保持し、しかる後に常圧に戻して液状原料から固形原料を取り出し、その後前記固形原料を液状原料に埋没させない状態で、再度、密閉系内を減圧に保持し、更に常圧に戻すことにより固形原料中に含浸された液状原料が内部まで浸透して均一に含浸されるとともに、液状原料の一部が押し出されることで液状原料の含浸量をコントロールすることが可能となった。 また、含浸食品の内部深くまで液状原料が十分浸透しているにもかかわらず、液状原料の風味が強すぎず、風味・食感に優れた含浸食品が得られた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減圧して多孔質の固形原料に液状原料を含浸した食品及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多孔質の固形原料、例えば、焼き菓子や、乾燥食品、肉、野菜、果実等の凍結乾燥食品を減圧処理する前後または減圧状態で液状原料と接触させて食品中に液体原料を含浸させることにより得られる含浸食品やその製造方法が提案されている(特許文献1〜3)。減圧処理と減圧開放処理について1回のみで、再度減圧処理を行った含浸食品に関する報告はない。このように1回の減圧処理を施し、常圧に戻す一連の一次減圧処理で、食品内部にまで液状原料を含浸させることができ、液状原料と含浸された食品の一体感に秀でた複合食品を得ることができるが、以下のような欠点がある。例えば、チョコレートの含浸焼き菓子では、一次減圧処理だけではチョコレートが焼き菓子の表層付近に多く残り、チョコレート味やその食感が強くなってしまい、固形原料である焼き菓子のもつ味と食感が負けてしまいがちである。それを避けるために減圧度を低くすると、所定量を含浸させることはできても表面付近の浅いところまででチョコレートはそれ以上含浸せず、深部まで均一に含浸することができない場合がある。
【特許文献1】特許3343127号公報
【特許文献2】特開平10−150917号公報
【特許文献3】特開2001−238612号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は上記現状を鑑みなされたものであり、減圧含浸した食品において、食品の内部深くまで液状原料が十分浸透しているにもかかわらず液状原料の風味が強すぎず、良好な嗜好性を有する含浸食品、及び該含浸食品を製造できる方法を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題解決のために鋭意検討を行い、密閉系内にて液状原料に固形原料を減圧下で埋没し、常圧に戻した後液状原料から固形原料を取り出し、固形原料を液状原料に埋没させることなく、再度密閉系内にて減圧を行い常圧に戻すことを行うと、固形原料中に含浸された液状原料が内部まで浸透して均一に含浸されるとともに、液状原料の一部が押し出されることで液状原料の含浸量をコントロールすることが可能となり、固形原料の内部深くまで液状原料が十分含浸しているにもかかわらず、液状原料の風味が強すぎず、風味・食感に優れた含浸食品が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0005】
本発明は以下の構成からなる。
(1)固形原料に液状原料が含浸した含浸食品の中心部を切断した切断面において、液状原料が浸透していない部分の面積の切断面全体の面積に対する比率が、0〜8%である含浸食品。
(2)含浸した液状原料の重量が含浸食品全体の重量に占める割合が、40〜75%である(1)に記載の含浸食品。
(3)固形原料が焼き菓子または膨化菓子である(1)又は(2)に記載の含浸食品。
(4)液状原料が油脂食品である(1)〜(3)の何れかに記載の含浸食品。
(5)密閉系内にて液状原料に固形原料を埋没させた状態で系内を減圧に保持し、しかる後に常圧に戻して液状原料から固形原料を取り出し、その後前記固形原料を液状原料に埋没させない状態で、再度、密閉系内を減圧に保持し、更に常圧に戻すことを特徴とする含浸食品の製造方法。
(6)一次減圧処理時の密閉系内での最低気圧が5〜70kPaである(5)に記載の含浸食品の製造方法。
(7)二次減圧処理時の密閉系内での最低気圧が1〜50kPaである(5)又は(6)に記載の含浸食品の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、食品の内部まで液状原料が十分含浸し、液状原料の風味が強すぎず、風味・食感に優れた含浸食品を得ることができる。すなわち、例えばチョコレートは深部にまで染みこみ、且つチョコレートと焼き菓子の一体感があり、チョコレートの風味が強すぎないお菓子を提供できる。本発明は、特に、チョコスナック、膨化菓子等に好適に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の含浸食品は、固形原料に液状原料が含浸した含浸食品の中心部を切断した切断面において、液状原料が浸透していない部分の面積の切断面全体の面積に対する比率が、0〜8%であるものである。ここで、切断面の面積比率は、例えばデジタルカメラ等により得られた画像データを、画像処理ソフトウエアを用いて、固形原料そのものの色の部分、液状原料が染み込んで色が異なった部分それぞれの面積を測定することにより得られる。中心部を切断するとは、切断した2つの部分がほぼ同じ重さになるように切断することであり、切断面は平面とする必要がある。一般に一回目の減圧処理のみでは液状原料が浸透していない部分の面積は10〜30%ある。
また、本発明においては、液状原料の含浸重量が含浸食品全体の重量に占める割合は含浸される固形原料の比重により適宜変化するが、チョコレート生地やチーズシーズニング液を含浸させた複合菓子とする場合は、40〜75%、より好ましくは45〜70%であると固形原料と液状原料とのバランスがよく、風味、食感が良好である。
【0008】
本発明において、密閉系内にて液状原料に固形原料を埋没させた状態で系内を減圧にし、その後常圧に戻す一連の操作を一次減圧処理という。また、密閉系内にて系内を再度減圧にし、その後再度常圧に戻す一連の操作を二次減圧処理という。
【0009】
本発明の固形原料は少なくとも一部に多孔質構造の空隙を有するものである。例えば、パイ、ワッフル、食パン、コッペパン、フランスパンなどの含水率30〜40重量%程度の食材;ドーナツなどの含水率20〜30重量%程度の食材;凍り豆腐、ふ、乾燥湯葉、はるさめ、あずき、インゲン豆、えんどう豆、ささげ、大豆、乾麺、そうめん、冷麦、マカロニ、スパゲッティ、パスタ、とうもろこしなどの含水率10〜20重量%程度の食材;
【0010】
含水率10重量%以下の食材、例えば、以下にあげるもの。フリーズドライ食品;例えば、果実類(いちご、ぶどう、クロスグリ(カシス)、ブルーベリー、レモン、マンゴー、ラズベリー、バナナ、リンゴ、クランベリー、オレンジ、チェリー、桃など)、野菜全般、魚介類、畜肉類、たまご類、イモ類、成型食品、健康食品群(アガリクス、プロポリス、ローヤルゼリーなど)、アニバーサリーフーズ(おせち料理、七草など);マッシュポテトフレーク、ポテトチップス、ポップコーン、コーンフレークなどの膨化スナックや、各種せんべい、あられ、おこし、かりんとう、ウエハース、ビスケット、クルトン、クッキー、スポンジケーキなどの焼き菓子などが挙げられる。
【0011】
本発明では、このような固形原料に、液状原料を含浸させる。含浸する液状原料としては、液体、溶液、スラリー液、分散液など形態は問わず、含浸時に液状で取り扱い可能な可食成分を用いることができる。また、マーガリン、バター、チョコレートなど、常温で固体であっても、温度などの含浸条件を調整することにより液体として取り扱いの可能な原料もまた、好適に用いることができる。本発明においては、圧力あるいは温度などの含浸条件を選択することにより、比較的高粘度の液状原料も含浸に用いることができ、例えばクリーム状あるいはジャム状の成分も含浸可能な流動性を有していれば液状原料として用いることができる。また、オリーブ油、サラダ油、マーガリン、バターなどの食用油または油脂;醤油、みそなどの発酵調味料;コーヒーや茶の抽出物などの食品抽出成分;ブランデー、ラム酒、コニャック、キュラソーなどの酒類、果汁、ジュース、スープ、水飴、牛乳、ココアなどの飲料;コンデンスミルク、ヨーグルト、生クリームなどが液体原料として挙げられる。
【0012】
本発明において、一次減圧処理は、液状原料に固形原料を埋没させた状態で減圧保持することが重要であり、液状原料に固形原料を埋没させた後に減圧しても、減圧した状態で液状原料に固形原料を埋没させても構わない。一次減圧処理後に、固形原料内部には液状原料が浸透せず、空気が残存している部分が存在することが必要である。一次減圧処理後の固形原料の内部の模式図を図1に示す。二次減圧処理は一次減圧処理と同一の密閉容器内で行っても良く、異なる密閉容器内で行っても良い。また、一次減圧処理されたものを表面に液状原料が付着した状態で、そのまま二次減圧をしても良く、必要に応じ振動やエアブローなど公知の方法で表面に付着した過剰の液状原料を取り除いた後、再度減圧に供しても良い。
【0013】
一次減圧処理により、液状原料が固形原料に含浸される。そして二次減圧処理時、減圧により固形原料内部に残存していた空気が膨張する。これにより液状原料の一部が残存空気とともに固形原料内部より押し出される。その後常圧に戻すと、固形原料内部に残存する液状原料が一次減圧処理時に空気が残存していた部分にまで浸透する。二次減圧処理後の固形原料の内部の模式図を図2に示す。再度の減圧により、一次減圧処理時の密閉系内における液状原料に固形原料を埋没させた状態で到達する最低気圧は、5〜70kPaであることが好ましい。5kPaを下回ると、一次減圧処理終了時点で固形原料内部に存在する空気の残存量が十分でなく、二次減圧処理時に固形原料内部の液状原料が十分に排出されない。また70kPaを上回ると、二次減圧処理後でも液状原料が固形原料の内部深くまで浸透しにくい。二次減圧処理時の密閉系内での最低気圧は1〜50kPaであることが好ましく、5〜30kPaであるとさらに好ましい。1kPaを下回ると、液状原料が固形原料から排出されすぎてしまい、50kPaを上回ると液状原料の固形原料内部への浸透や排出が十分でなくなる。また、二次減圧処理時の密閉系内での最低気圧が、一次減圧処理時の密閉系内での最低気圧以下であると、より多くの液状原料が排出される。得られた複合食品に、被覆やトッピングなどの公知の方法でさらに加工を施すこともできる。また、冷却等により染み込んだ液状原料を固化させてもよい。
【0014】
以下、実施例を挙げ更に説明するが、本発明がこれによって限定されるものではない。
【実施例】
【0015】
実施例1
鶏卵315重量部、砂糖200重量部、薄力粉150重量部、ベーキングパウダー1.5重量部をよく攪拌混合し、これに溶解したバター15重量部、牛乳45重量部を混合して水ダネを得た。これを金属製のバットに流し込み、オーブンで180℃、30分焼成し、スポンジ生地を得た。スポンジ生地を冷ました後、55mm×15mm×15mmの大きさに切り、これをさらに100℃、30分乾燥して、焼き菓子である乾燥スポンジを得た。また、カカオマス200重量部、砂糖380重量部、粉乳150重量部、カカオバター263重量部、乳化剤7重量部にて、定法にてチョコレート生地を作成した。35℃にて、このチョコレート生地100重量部に対してチョコシードB(不二製油製)を3重量部添加混合し、35℃に保持した状態で該チョコレート生地に前記乾燥スポンジを埋没させ、これらを密閉真空容器に入れ5kPaになるまで減圧処理を施した後、直ちに常圧に戻し、チョコレート生地より取り出した。一次減圧処理で得られた乾燥スポンジの、表面に付着したチョコレートをエアブローにて除去した。これを再び密閉真空容器に入れ、5kPaになるまで二次減圧処理を施し、常圧に戻した。これを15℃で冷却固化させ、チョコレート生地が含浸した含浸食品を得た。
【0016】
実施例2
一次減圧時の密閉真空容器内の圧力を10kPaとする以外は、実施例1と同様に含浸食品を得た。
【0017】
実施例3
一次減圧時の密閉真空容器内の圧力を60kPaとする以外は、実施例1と同様に含浸食品を得た。
【0018】
実施例4
二次減圧時の密閉真空容器内の圧力を10kPaとする以外は、実施例1と同様に含浸食品を得た。
【0019】
実施例5
二次減圧時の密閉真空容器内の圧力を30kPaとする以外は、実施例3と同様に含浸食品を得た。
比較例1
二次減圧処理の密閉真空容器内の圧力を60kPaとする以外は、実施例1と同様に含浸食品を得た。
【0020】
実施例6
小麦粉100重量部、パーム油3重量部、砂糖5重量部、塩0.5重量部を混合し、2軸エクストルーダー(東芝機械製TM-50B)にてバレル温度200℃、スクリュー回転数300r.p.mでクッキングし、エクストルーダーから生地を突出させ、直後に切断し、続いて150℃にて乾燥し、1粒約3g、水分約1重量%の膨化スナック菓子生地を得た。一方、パームオレイン80重量部、チーズシーズニング20重量部を混合して、チーズシーズニング液を得た。これら膨化スナック菓子生地及びチーズシーズニング液を密閉真空容器に入れ15kPaになるまで減圧処理を施した後、膨化スナック菓子生地を40℃に保温したチーズシーズニング液に埋没させ、直ちに常圧に戻しチーズシーズニング液より取り出した。一次減圧処理で得られた膨化スナック菓子生地の、表面に付着したチーズシーズニング液をエアブローにて除去した。これを再び密閉真空容器に入れ、5kPaになるまで減圧処理を施し、常圧に戻し、チーズシーズニング液が含浸した含浸食品を得た。
【0021】
試験例1
実施例1〜5及び比較例1において、一次減圧処理、二次減圧処理時の固形原料を、切断後の部位が等量になるように、2つに切断した。その切断面をデジタルカメラで撮影し、撮影した画像を画像処理ソフトウエアimageJ(サンマイクロ・システムズ社製の無料ソフト;http://rsb.info.nih.gov/ij/)にて、色の違いによりチョコレートまたはシーズニング液が染み込んだ部分の面積及び、切断面全体の面積を求め、チョコレートまたはシーズニング液が染み込んだ部分の面積の切断面全体の面積に対する割合を計算した。結果を表2に示す。一次減圧処理では、浸透していない面積が10%以上あったが、二次減圧処理時に、50kPa以下の最低圧力で減圧処理することにより、浸透しない部分の面積は0〜8%にすることができた。
【0022】
【表1】

試験例2
実施例1〜6及び比較例1において、含浸前の固体原料の重量、一次減圧処理後及び二次減圧処理後の含浸食品全体の重量を測定して含浸された液状原料の量を調べた。また、二次減圧処理時の含浸食品重量に対するチョコレート生地またはシーズニング液の含浸重量の比率を求めた。その結果を表2に示す。なお、一次減圧処理後の重量は、エアブローし、余分の液体原料を除去したものの重量とした。重量比率とは、二次減圧処理により含浸した液状原料の重量が二次減圧処理後の含浸食品全体の重量に占める割合を示す。実施例1〜6の重量比率は47.2〜74.1%であったのに対し、比較例1では77.6%であった。また、比較例1の一次減圧処理による含浸した液状原料の重量が一次減圧処理後の含浸食品全体に占める割合は77.8%であった。また、一次減圧処理での実施例1〜6の重量比率はそれぞれ、77.4,74.9,57.9,76.2,72.8,及び76.3であった。 実施例により得られた含浸食品はチョコレート生地もしくはシーズニング液が内部深くまで浸透し、かつ食感、風味の軽いものであった。一方比較例及び一次減圧処理のみ実施した含浸食品は、チョコレート生地もしくはシーズニング液が内部深くまでは浸透しておらず、風味がくどく感じられるものであった。
【0023】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】一次減圧処理後の含浸食品の切断面の模式図
【図2】二次減圧処理後の含浸食品の切断面の模式図
【符号の説明】
【0025】
1 液状原料が染みこんだ部分
2 液状原料が染みこんでいない部分









【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形原料に液状原料が含浸した含浸食品の中心部を切断した切断面において、液状原料が浸透していない部分の面積の切断面全体の面積に対する比率が、0〜8%である含浸食品。
【請求項2】
含浸した液状原料の重量が含浸食品全体の重量に占める割合が、40〜75%である請求項1に記載の含浸食品。
【請求項3】
固形原料が焼き菓子または膨化菓子である請求項1又は2に記載の含浸食品。
【請求項4】
液状原料が油脂食品である請求項1〜3の何れかに記載の含浸食品。
【請求項5】
密閉系内にて液状原料に固形原料を埋没させた状態で系内を減圧に保持し、しかる後に常圧に戻して液状原料から固形原料を取り出し、その後前記固形原料を液状原料に埋没させない状態で、再度、密閉系内を減圧に保持し、更に常圧に戻すことを特徴とする含浸食品の製造方法。
【請求項6】
一次減圧処理時の密閉系内での最低気圧が5〜70kPaである請求項5に記載の含浸食品の製造方法。
【請求項7】
二次減圧処理時の密閉系内での最低気圧が1〜50kPaである請求項5又は6に記載の含浸食品の製造方法。




















【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−5745(P2008−5745A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−178287(P2006−178287)
【出願日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【出願人】(000006091)明治製菓株式会社 (180)
【Fターム(参考)】