説明

吸収性物品の表面シート

【課題】吸収性物品の高い液吸収性及び液保持性を実現し、表面の液残りを抑制し、しかもクッション性に富み肌当たりがやさしく柔らかい吸収性物品の表面シートを提供する。
【解決手段】凸部3が略千鳥状に配設された、繊維からなる表面シートであって、前記凸部3は内部に空間を保持し、該凸部3はこれより細幅の尾根部5により互いに連結されて凸部列11をなし、該凸部列11はこの間に配される溝部8が折れ線状になるよう並列し、前記折れ線状の溝部8は前記尾根部5の両側において谷部4を有する吸収性物品の表面シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収性物品の表面シートに関する。特に、着用者の肌に直接当てて用いられる吸収性物品の表面シートに関する。
【背景技術】
【0002】
使い捨ておむつ、生理用ナプキン、パンティーライナー、及び使い捨ておむつといった吸収性物品は通常着用者の肌に当接して、液体の吸収保持等に用いられる。特に肌荒れのしやすいところに用いられることが多く、しかも長時間にわたって着用されることがある。そのため柔らかく肌あたりのやさしいものが望まれる。他方、吸収性物品には液吸収性及び液保持性が要求される。
【0003】
上記のような機能性でありかつ触感のよい表面シートの開発が試みられている。例えば特許文献1には、2層の不織シートを複数の間欠的に設けたピンエンボスにより接合し、下層のシートを熱乾燥により選択的に収縮させて、上層のシートを波打つように離間させた表面シートが開示されている。特許文献2には、上層シート及び下層シートからなる表面シートであって、内部が空洞になっている多数の凸部を有する表面シートが開示されている。この特許文献2に記載の表面シートの凸部の底部は矩形であり、該凸部は全体として直方体又は截頭四角錐体状にされている。
しかしながら、特許文献1に記載の表面シートでは、凹部における接合部によってシート同士が固定されているが、それ以外の部位ではシートとシートの間が離間しており、外部からの圧力に弱く、構造が維持し難い。また、特許文献2に記載の表面シートで例示されている構造では、形状維持性は高いが、凸部が柔軟に動き難く、違和感や硬い印象を持たれる場合がある。
【0004】
【特許文献1】特開2002−165830号公報
【特許文献2】特開2004−174234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、吸収性物品の高い液吸収性及び液保持性を実現し、表面の液残りが抑制され、しかもクッション性に富み肌当たりがやさしく柔らかい吸収性物品の表面シートの提供を目的とする。また本発明は特に、なめらかでソフトな触感、表面の液残りの抑制、高粘性液の良好な透過処理性、ドレープ性に優れ、凸部の構造に柔軟性を有するため着用者に違和感を与え難い吸収性物品の表面シートを提供する。さらには体圧がかかり表面シートが潰されたときであっても液戻りしにくく、また、一度潰されてもシートの厚みを回復しやすい、着用後にもソフトな触感が長時間持続され、シート面と平行な方向の通気性の良い吸収性物品の表面シートの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題は、凸部が略千鳥状に配設された、繊維からなる表面シートであって、前記凸部は内部に空間を保持し、該凸部はこれより細幅の尾根部により互いに連結されて凸部列をなし、該凸部列はこの間に配される溝部が折れ線状になるよう並列し、前記折れ線状の溝部は前記尾根部の両側において谷部を有する吸収性物品の表面シートによって解決された。
【発明の効果】
【0007】
本発明の吸収性物品の表面シートは、吸収性物品の高い液吸収性及び液保持性を示すとともに表面の液残りを抑制し、しかもクッション性に富み、肌当たりが柔らかく、やさしい風合いを有する。また本発明の表面シートは、なめらかでソフトな触感、表面の液残りの抑制、高粘性液の良好な透過処理性、ドレープ性に優れ、凸部の構造に柔軟性を有するため着用者に違和感を与え難い。さらには体圧がかかり表面シートが潰されたときであっても液戻りしにくく、また、一度潰されてもシートの厚みを回復しやすく、着用後にもソフトでサラッとした触感が長時間持続されるという優れた作用効果を奏し、シート面と平行な方向の通気性の良いシートが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を、その好ましい実施形態を示す図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の吸収性物品の表面シートの一実施形態の要部を模式的に示す部分斜視図であり、図2は図1における領域IIの部分を多少異なる角度からみて拡大して示す斜視図である。本実施形態の表面シート10は上層シート1及び下層シート2を有する。この表面シート10は例えば生理用ナプキンや使い捨ておむつなどの吸収性物品に適用することが好ましく、下層シート2の下面に吸収体を配し、上層シート1を着用者の肌に直接当てて使用することができる。
【0009】
本実施形態の吸収性物品の表面シート10の上層シート1側、すなわち着用者の肌に当接する側に、多数の凸部3が略千鳥状に設けられている。凸部3は上層シート1の凹凸賦型により形成されたドーム形状の空間6を内部に保持しており、極めて柔らかく肌当たりの良いやさしい触感が得られる。すなわち、凸部3がエアクッションとして作用し、着用者の肌の起伏があるところであっても、柔らかくフィットしてソフトな感触を与えることができる。また溝部に沿って空気が移動しやすいことに加えて、凸部内部のドーム状空間6が空気を保持し、これが出入りしうる。また、軟便等の高粘性の液体や半固形物の排泄があっても、まず谷部にストックし、続いて粘性が低い液体を凸部内部の空間6や表面シートの下層シートへ移動させて隠蔽して吸収するため、着用者に不快感を与えない。特に乳幼児に対しては、軟便や下痢便等がそのまま肌に触れ続けることが避けられ、肌を清潔に保ち、肌荒れやかぶれの抑制に効果的である。
【0010】
本実施形態の表面シートにおいて上記の略千鳥状に配置された凸部3は、尾根部により連結され凸部列11(11a、11b、11c、11d・・・)をなしている。図2においては、凸部列11a、凸部列11b、及び凸部列11cの3列の凸部列を示している。そして、各凸部列11a,11b,11cは並列し、隣在する凸部列の間には、尾根部5の両側に配された谷部4を繋ぐようにして形成された折れ線状の溝部8が配されている。この溝部8の底面は平面ではなく、谷部4の間に小山をなすように小凸部9が交互に配され、起伏のある底面形状とされている。また、尾根部5の内部にはトンネル状空間7(図3、図4参照)が設けられ、隣在するドーム状の凸部内部の空間6が互いに連繋されている。
【0011】
上述のようにして、本実施形態の表面シートは、凸部が連結されてなす山脈状の凸部列が、緩やかに曲がった渓谷状の溝部を挟んで並設された、特有の外表面形状を有する。そして、凸部内部のドーム状空間6はトンネル状空間7により繋がれており、この特有の内部空間と上記特有の外表面形状とが立体的ネットワークを形成する。このネットワーク構造がなす吸収性物品における表面シートの個別の作用は後に詳しく述べるが、これにより本実施形態の表面シートはドレープ性(複雑な起伏を有する肌表面に対しても柔らかく変形して座屈することなくフィットし、着用者の動き等により肌の起伏形状が変わっても追従しうる性質)を有する。例えば股間部のように複雑に起伏し動きのある部分に当接して用いるときに特に高い効果が発揮され、表面シートと肌との間に過度の隙間を与えることなく当接し、その良好なフィット性が維持される。さらに、表面シート全体としては低目付であっても十分な厚みが実現されクッション性に富み、しかも凸部等が一度体圧等で潰されても形状が復元して、ソフトな触感を失うことなく持続される。また、液体や軟便等の吸収性においては、上記特有の外表面形状と内部構造とのネットワークにより、液体等を吸収体に移行させる、あるいは隠蔽する作用が高い。これにより、液体や軟便等の排泄があった後でも不快感を与えず、また軟便等の逆戻りによる付着などを抑え清潔な肌状態を維持する。
【0012】
図3は図1のIII−III線断面を示す断面図である。この断面においては凸部3が尾根部5により連結され、かつドーム状の凸部内部の空間6がトンネル状空間7で空間的に連続するようにされている。これにより、軟便等を空間6及び空間7がなす内部空間ネットワークに、効果的に隠蔽する。この軟便等の透過処理作用について以下のように説明することができる。軟便等の排泄があると、表面シートの外表面においては、まずこれが溝部8の底の方に移行して留まり、その後、あるいはそれと同時に表面シートの繊維間を通過し軟便等が内部空間6に保持される。ここで内部空間6に収納された軟便等は次第に表面シートの下側に配される吸収体等によって水分を吸われ乾燥していき、逆戻りしない状態になり着用者に対する良好な触感が維持される。そして、本実施形態の表面シートはドーム状の凸部内部の空間6が尾根部内部のトンネル状空間7により連繋されている。このため、表面シートに例えば大きな体圧がかかったときにも、尾根部等による変形抑制により肌当接面側への逆戻りを抑制・防止することが可能となる。また、空間6内に収納された軟便等を、トンネル状空間7を通じて表面シートの面方向に拡散させて、肌当接面側への逆戻りを抑制・防止する。これにより、軟便や下り物に含まれる高粘性の液体や半固形物の排泄があっても、極めて良好な着用感及び肌の清潔な状態が長時間にわたって保たれる。
【0013】
本実施形態の表面シートにおいては凸部3の高さhは特に限定されないが、0.7〜7mmであることが好ましく、より好ましくは1〜2.5mmである。また本実施形態においては凸部の高さhより尾根部5の高さhが低くなるようにされており、凸部3と尾根部5の高さの比(h/h)は0.15〜0.8が好ましい。なお、本実施形態における尾根部5の高さhより小凸部9の高さh(図5参照)との関係をここでいうと、該小凸部9は尾根部より低くなるようにされており、尾根部5と小凸部9の高さの比(h/h)は0.1〜0.9であることが好ましい。凸部の頂点のMD方向の間隔については、特に限定されないが、1.5〜10mmであることが好ましく、より好ましくは2mm〜6mmである。ここでMD方向とは不織布等のシート材が製造時に流れる方向をいい、「Machine Direction」の略語であり、単にMDと表記してその方向を示すことがある。これに対して、CD方向とは上記MD方向に直交する方向であり、「Cross Direction」の略語であり、単にCDと表記してその方向を示すことがある。
【0014】
本発明において凸部ないし尾根部の内部の空間とは表面シートを構成する所定のシート(本実施形態においては上層シート1)の所定の面側(通常は肌当接面側)に突出した凸形状の賦形部に対応してこの裏面側(通常は非肌当接面側)に形成された凹形状の賦形部をいう。このように凸部が内部空間を有することを凸部の中空構造ということもある。上記所定のシートの裏面(通常は非肌当接面)を別の所定の平面(例えば下層シート2ないしは吸収体の表面)に積層したときに、上記内部空間においては、両面の間に0.1mm以上の間隔があることが好ましい。この間隔は、凸部内部のドーム状空間6における最も広い部分における間隔h(図3参照)で0.15〜6.5mmであることが好ましく、より好ましくは0.2mm〜1.2mmである。尾根部内部のトンネル状空間7における最も広い部分におる間隔hで0.1〜5mmであることが好ましく、より好ましくは0.1mm〜1mmである。
【0015】
図4は図1のIV−IV線断面を示す断面図である。この断面においては、尾根部5の両側に溝部を構成する谷部4が配され、さらにその両側に凸部3が配されている。同図でも分かるように、尾根部5はトンネル構造にされている。ここで凸部3の形状について詳しくいうと、凸部3は機能的に頂部3a、肩部3b、側壁部3cに区分することができる。本実施形態の凸部3は頂部3aから肩部3bを通り側壁部3cにかけて丸みを帯びた略山形の形状であり、内部に中空空間6を有する。このように、丸みを帯びた凸部とすることにより、着用者の運動等により吸収性物品が多少ずれたときにも、擦れる感じが抑えられなめらかな触感が得られる。
【0016】
さらに本実施形態の表面シートにおいては、凸部3が上述のとおり丸みを帯びたこぶ状にされている。このようにすることで、表面シートの柔らかでなめらかな触感とともに、見た目にも柔らかく、なめらかで、しかも優美な印象を与える。また、特に凸部の肩部3bから頂部3aにかけて山形に緩やかに突起した形状を有するため、着用者の肌との接触面積が小さい。このように表面シートと着用者との接触面積を減少させることにより、液体を一度吸収したシートが面接触してベタつく感じを大幅に低減し、サラッとした状態を実現する。このような表面シートの、柔らかさ、なめらかさ、サラッとした触感、ないしはそのような印象を与える見た目の良さは、凸部を矩形基調の直方体状又は截頭四角錐体状としたのでは得がたい。
【0017】
本実施形態において凸部3の側壁部3cは、繊維が疎になって形成された細孔(図せず)ないし薄部(図示せず)を有する。これは典型的には、後述する歯を有するロールの噛み合わせによるシート成形において、単一厚みの不織布シートが凹凸賦形されることにより、不織布シートは全体的に引伸ばされながらもMD方向に繊維が配列する傾向を有するため、繊維が集まる部分と繊維が少なくなる部分が形成されやすいことによる。他方、製造工程中に局部的に繊維が集中する部分が形成される。
【0018】
ここで凸部側壁部3cは、凸部の高さh(図3参照)の略中間点より下方(非肌当接面側)にあたる部分に配されている。そして凸部側壁部3cは谷部4につながる凸部3の裾野にあたる位置にあり、かつ谷部4を配した溝部8は折れ線状に蛇行しているため溝部における排泄物の流動が抑えられ、谷部4に軟便等の粘性のある液体ないし半固形物が一時溜まる。
【0019】
本実施形態の表面シートにおいては谷部4において上層シート1と下層シート2とがヒートエンボスにより接合されている。ただし、この接合方法は特に限定されず。超音波エンボスやホットメルトによる接着方法でもよい。谷部の幅w(図4参照)は特に限定されないが、0.5〜3mmであることが通常の吸収性物品の寸法との関係を考慮したときに実際的である。
【0020】
本実施形態の表面シートにおいて、尾根部5の幅wは凸部3の幅wより細いものとされている。これらの具体的な幅は特に限定されないが、例えば尾根部5の幅wと凸部3の幅wとの比(w/w)を0.1〜0.6の範囲とすることが好ましい。
【0021】
図5は図1におけるV−V線断面を拡大して示した断面図である。同図に示した断面においては、各凸部が溝部8を挟んで連設されているが、この溝部には小凸部9が配されている。本実施形態において、この小凸部9は、尾根部5より低くされており、一方谷部4の底部(最も低い非肌当接面側となる部分)より高さの有る状態にされている。この小凸部9により、溝部8の底面が平坦なU字溝状にならず、上述したように機能的な凹凸面とされている。また、本実施形態において、この小凸部9は下層シート2と接しているが、谷部4のようにエンボス接合はされていない。このように、略千鳥格子状の凸部3と谷部4の配列中に、高さや、幅、接合状態の異なる尾根部5と小凸部9とが配設されていることにより、単に線状シールで溝状部を形成したのではなし得ないドレープ性等の機能を示す。
【0022】
凸部内部に単に空間を形成したのでは大きな圧力に対しては潰れやすくなるが、本実施形態の表面シートにおいては、凸部3が細幅の尾根部5により連結され山脈状に連なった形状とされたため、良好なクッション性を維持しながら、凸部3が強く押圧されたときには変形されすぎない。すなわち、内部に空間6を保持することによる凸部3の変形性と、尾根部5や小凸部9による変形の抑制がおこなわれ、凸部が潰されすぎず極めて良好なクッション性が実現される。尾根部5や小凸部9は上層シート及び下層シートが接合または接着により形成された谷部4に挟まれており、曲率が凸部3より小さいため変形を起こし難く、凸部3の変形に対して尾根部5や小凸部9各々のもつ高さにより段階的に変形を抑制することができる。したがって、本実施形態の表面シートを吸収性物品に適用しこれを肌に当接して用いたときには、小さな圧力に対しては凸部3の頂部周辺が小さく変形してソフト感を与え、大きな圧力に対しては凸部3だけではなく尾根部5及び小凸部9が弾力的に支える。その結果、着用者の動きや体重がかかることにより多様な圧力が表面シートにかかるときにも、機能的に応答して適度な反発力を示し、柔軟でやさしい肌当たりとなる。
【0023】
また、凸部3が孤立せず、弾力のある尾根部5で連結されたため、シートが折り曲げられたときにも、凸部3が不可逆的な変形状態となりにくい。これにより、シートが肌の起伏や激しい動きにより大きな屈曲変形をうけても、脱力された後には凸部3及び尾根部5との連結構造が復元され元の厚みのあるソフトな表面シートの状態に回復する。さらには、上述のように適度な高さで凸部3の変形が押さえられることにより、空間6内部に収納された粘性の液体等が押し出されにくく、肌当接面側への逆戻りが抑制され、サラッとして清潔な着用状態が維持される。
【0024】
本発明の吸収性物品の表面シートにおいては、上記の実施形態において示したように、凸部3を略千鳥状に配置することが好ましい。ここで千鳥状とは、各例の凸部3が等間隔に配置され、隣在する列どうしで互いに凸部が(好ましくは半ピッチ)ずらされている状態をいう。さらに詳述すれば、各列の凸部3をこの列に直交する方向に投影したときに、特定の列の各凸部3の投影像の間に(好ましくは中間に)、これと隣在する列の凸部の投影像が配置される状態をいう。そして略千鳥状というときには、上記千鳥状の配置において、製造上不可避的なずれなど、わずかに上記の配列がずれている場合も含む意味である。このように凸部3を略千鳥格子状に配列することにより、着用者の肌に当接する圧力が均一に分散され良好なクッション性が実現される。また液体の吸収保持においても均一にシート全体においてその作用が発揮されるため好ましい。
【0025】
本実施形態の表面シート10は上層シート1及び下層シート2の2層構造とされているが(図1等参照)、上層シート1のみにより構成された表面シート(図示せず)としてもよい。その場合の使用態様としては、例えば上層シート1からなる表面シートを、その非肌当接面側(谷部4を形成している側)の裏面が接するように吸収体上面に積層して用いることが挙げられる。このとき、上層シート1からなる表面シートの裏面と吸収体上面とを接合してもよい。このようにすることで、肌当接面側に配された凸部3及びこれに対応する空間6、さらにはこれらが尾根部5により連結されたことによる弾力性や柔軟性は上述の2層構造のものと同様に発揮される。また、液体や軟便等の透過処理機能についても、ドーム状空間6及びこれがトンネル状空間7により連繋されてなす作用は、吸収体等との組み合わせにより発揮される。このとき、特に空間6の内部に隠蔽された軟便等が直接吸収体に接しているため水分が吸収体に移行しやすく、速やかに軟便等が乾燥していく点で好ましい。また、繊維密度が高められた尾根部5や谷部4に移行した液が下層シート2を介さずに、直接吸収体に吸収保持される点でも好ましい。なお本実施形態の表面シートを1層構造のものとして製造する好ましい製造方法については後述する。
【0026】
図6は本実施形態の表面シートにおける6点エンボスパターンを模式化して示したパターン図である。同図においては12行×12列のマス目によりエンボスパターンが示されており、6点を1組としたエンボスパターンの各構成要素として示すと下記のとおりとなる。エンボス(1,2),(1,4),(3,1),(3,5),(5,2),(5,4)の6点で第1の6点パターン要素(第1要素)が構成されている。ここで( )内の数値は、(行番号,列番号)を表す。そして右隣りの第2要素は、エンボス(1,8),(1,10),(3,7),(3,11),(5,8),(5,10)の6点で構成されている。さらに第1要素の下方の第3要素は、第1要素の下部の2点(5,2),(5,4)を共有するようにして、(7,1),(7,5),(9,2),(9,4)とともに6点で構成されている。さらにこの右の第4要素は、エンボス(3,5),(3,7),(5,4),(7,5),(5,8)を第1〜3要素のいずれかと共有し、エンボス(7,7)と合わせた6点で構成されている。このようにして各要素の一部(少なくとも2点)を互いに共有しつつ、6点パターンが広く繰り返され構成されている。
【0027】
このように、エンボス部分(谷部)を間欠的にパターン化して設けたことにより、連続シールによるものとは異なり、賦形部が折れても形状が維持復元され、肌の起伏に対する良好な密着状態が維持される効果が高まる。また、上述のようなエンボスの局部的な賦形により谷部をなしたため、これに対応して形成された凸部は低繊維密度に保たれ、触感及び液吸収性能に優れる。さらに、上記のような凸部の配置形態とすることで、高い液漏れ防止作用を発揮する。詳しくは、吸収性物品の表面シート10を例えば使い捨ておむつ、特に高粘度の排泄物である軟便を排泄する低月齢児用のおむつの表面シートとして用いた場合に、次のような作用を奏する。軟便は高粘度であることから、一般に表面シートを速やかに透過しづらくシート上に滞留して横流れを起こしやすい。これに対して、本実施形態の吸収性物品の表面シート10によれば、折れ線状に蛇行する溝部8の中で、しかも凸部3によって取り囲まれて形成され略すり鉢状とされた谷部4(図1、図2参照)に軟便が捕捉される。それにより横流れを起こしづらくなり、軟便に含まれる液体分の吸収体方向への移動が促進される。その結果、軟便からの液漏れを効果的に防止することができる。そして、凸部3の内部には空間6があり、そこに軟便を収納して隠蔽することができる。この隠蔽作用は凸部3を略千鳥格子状に配列することにより均一化され、シート表面全域にわたり清潔な状態を維持することができる。上記作用について軟便を例に説明したが、それと同様に下り物等に含まれる高粘度の排泄物を吸収するための生理用ナプキンの表面シートとして用いたときにも同様の作用を奏する。
【0028】
本実施形態の吸収性物品の表面シート10において、上層シート1もしくは下層シート2を構成する繊維は特に限定されず、例えば繊度1〜8dtexのものを用いることが好ましい。本実施形態においては上層シート1及び下層シート2をそれぞれ1層構造のものとして示したが、2層以上にしてもよく、また各層の間及び/又は外側に他の機能性の層を設けてもよい。上層シート1及び下層シート2の坪量は特に限定されないが、通常の吸収性物品に適用することを考慮すると上層シート1及び下層シート2の坪量がそれぞれ8〜80g/mの範囲にあることが実際的である。
【0029】
上層シート1及び下層シート2として不織布を用いることが好ましい。この不織布としてはカード法により製造されたエアースルー不織布やヒートボンド不織布、その他にスパンボンド不織布、メルトブローン不織布、スパンレース不織布、及びニードルパンチ不織布等の種々の不織布が挙げられる。また、上層シート1と下層シート2とを後述するように熱融着によって接合する場合には、前記不織布に熱融着繊維が含まれることが好ましい。熱融着繊維としては、PET/PE、PP/PEなどの芯鞘構造のものが好ましい。また、前記不織布には、界面活性剤等を用いた親水化処理を施すことが好ましい。上層シート1及び下層シート2の構成繊維の種類のうち、好ましい組み合わせはPET/PE繊維どうしの組み合わせである。中でも、本発明においては所定方向における破断伸度(脱力状態にある不織布の元の長さをL1とし、伸長した時の長さをL2としたとき、特定の方向に不織布を伸長して破断させたときの伸長率((L2−L1)/L1))が50%以上である不織布を用いることが好ましい。このような不織布を用いることにより、賦形形状が均一な表面シートが得られる。
【0030】
次に、本実施形態の吸収性物品の表面シート10の好ましい製造方法を図面を参照しながら説明する。図7は本実施形態の吸収性物品の表面シートを製造する一実施態様を模式的に示す工程説明図である。同図に示すように、まず上層シート1を原反ロール(図示せず)から繰り出す。これとは別に、下層シート2を原反ロール(図示せず)から繰り出す。上層シート1及び下層シート2はそれぞれ、そのMD方向(方向d及びd)に沿って繰り出される。
【0031】
繰り出された上層シート1を、周面が凹凸形状となっている第1ロール51と、その凹凸形状と噛み合い形状となっている凹凸形状を周面に有する第2ロール52との噛み合わせ部Pに噛み込ませて上層シート1を凹凸賦形する。第1ロール51における各歯車の歯溝部には吸引孔(図示せず)が形成されていることが好ましい。この歯溝部は、第1ロール51の周面における凹凸形状のうちの凹部に相当するものである。吸引孔は、ブロワや真空ポンプなどの吸引源(図示せず)に通じ、第1ロール51(回転方向:矢印d)と第2ロール52(回転方向:矢印d)との噛み合い部Pから上層シート1と下層シート2とを接合した表面シートを送り出す部分Pに至るまで吸引されるように制御されていることが好ましい。これにより、第1ロールと第2ロールとの噛み合いによって凹凸賦形された上層シート1は、吸引孔による吸引力によって第1ロール51周面に密着したまま、その凹凸賦形された状態が保持される。
【0032】
合流部Pでは、上層シート1を第1ロール51の周面に吸引密着させた状態で、別に供給されている下層シート2と積層する。ここで両シートを第1ロール51と第3ロール53とで挟圧することが好ましくい。第3ロール53としては凹凸を有しないアンビルロールを用いることが好ましく、第3ロール53のみを所定温度に加熱しておくことが好ましい。これによって、第1ロール51の歯車の凸部先端に位置する上層シート1と下層シート2とが熱融着によって接合される。この押圧接合により表面シートとしたときに谷部4(図1、図2参照)が形成される。一方、歯車の凹部においては上層シート1及び下層シート2は挟圧されず、熱融着が起こらず凸部3(図1、図2参照)が形成される。すなわち、本実施態様においては第1ロール51と第2ロール52とによるシート賦形において圧熱加工はしていないため、凸部3の頂部において柔らかさが保たれる。したがって表面シートとして用いたときに、谷部4となる部分においては加熱狭圧され不織布繊維が熱溶融し多少硬化していても、凸部3は柔らかく突出しているため、硬い部分が直接肌に当接することなく良好な触感が実現される。なお尾根部5の形成については後述する。
【0033】
本実施態様の製造方法においては、上層シート1と下層シート2とが貼り合わされた複合シートが、第1ロール51及び第4ロール54によって挟まれた部分Pで加熱挟圧される。このとき第4ロール54は第3ロール53と同様に外周に凹凸を有さないアンビルロールであることが好ましく、所定の温度に加熱されていることが好ましい。このようにして、しっかりと固定された接合部が形成され、凸部の形状安定性が維持される。
【0034】
図8は本実施形態の吸収性物の表面シートを製造する別の実施態様を模式的に示す工程説明図である。同図に示すように、第1〜第4のロール(51,52,53,54)を用いる点で上記の図7に示した実施態様と共通する。しかし、図8に示した実施態様においては下層シート2を用いず、上層シート1のみが用いられており、この上層シート1に凸部3と谷部4となる凹凸が賦形されている。したがって、谷部4において他のシートと接合されていないが、第1ロール51と第3ロール53もしくは第4ロール54とで加熱狭圧され、不織布繊維が熱溶融され硬化した状態にされている。このようにして単に凹凸形状に屈曲させられているだけでなく、上述した表面シートとしたときに特定の機能を示す凸部3及び谷部4となるよう賦形される。その他、第1ロール51と第2ロール52との歯の噛み込みによるシート賦形及び第1ロール51によるP〜Pにかけての吸引は、図7に示した実施態様と同様である。
【0035】
図9は図7に示した実施態様の製造方法において第1ロール及び第2ロールの歯が互いに噛み込む状態を模式的に示したパターン図である。図9においては、第1ロール及び第2ロールの歯が噛み込んでいる点Pにおける両ロールの歯の先端を図7の矢印IXの方向から投影した状態で示しており、実線が第2ロール52の歯(歯の先端)52aを示し、点線が第1ロール51の歯(歯の先端)51aを示している。ただし、実際の両ロールは正面図(図7参照)において円形であり互いに1列の歯でのみ噛み合うが、図9においては、これを対向する平板上の歯が面で噛み合うようにみたてて(あるいは点Pにおける噛み合い状態を時間的に連続してMD方向に送って)パターン図化して示している。
【0036】
以下に上記両ロールの歯の噛み合い状態についてさらに詳しく説明する。図9に示したパターン図においては、図7において方向IXから見た状態であるから、歯の先端52aが紙面奥側の方向に没入する方向に、歯の先端51aが紙面手前側に突出してくる方向に動作し、両者が噛み合うといえる。すなわち、歯の先端52aが紙面奥側に没入しながら上層シート1(図7では示されていない。)を押し込み、表面シートとしたときに凸部3(図1参照)をなす局部的な屈曲形状を多数賦形する。一方、歯の先端51aが上層シートを紙面手前側に押し上げるようにして、表面シートとしたときに谷部4をなす局部的な屈曲形状を多数賦形する。このように凹凸賦形された上層シートが第1ロールとの密着状態を維持され第3ロールの方へと送られ、先に述べたように別途送られてきた下層シート2と積層される(図7参照)。そして、第1ロール51の歯の先端51aと第3ロール53ないし第4ロール54の周面とで両シートが加熱狭圧され、歯の先端51aの部分で熱溶融接合されたヒートエンボスが形成される。
【0037】
ここで、図9における歯の先端51aのうちT〜Tを取り出していうと、歯の先端T〜Tがそれぞれ谷部4となる部分を形成する。このとき、歯の先端51a,52aで押し出されるあるいは押し込まれる部分の不織布は引き伸ばしないしは圧縮により、局部的に移動しながら、例えば先端部に位置する繊維が両ロールの歯の隙間入り込もうとする。このとき、通常上層シート1に対しMD方向にテンションがかけられているため、これが影響して、上層シートをなす不織布の繊維の流動において特有の動きを与える。具体的には、先に述べた歯の先端T〜Tのそれぞれの歯の間に繊維が入り込もうとするとき、MD方向にかけられたシートテンションとの関係で、MD方向及びCD方向のそれぞれにおいて繊維の流動状態が異なる。すなわち、歯の先端TとTとの間及び歯の先端TとTとの間をなす領域91では、その他の領域92より入り込んでくる繊維の量が多くなり、表面シートとしたときに尾根部5となる部分が形成される。そして、領域91の部分は歯の先端52aにより加熱狭圧されないので、その部分には下層シート2と接合されず、表面シートにおけるトンネル状空間7が形成される。なお、図9におけるMD方向は、図1及び図2に示した実施形態の表面シートにおいてX方向に相当する。
【0038】
これに対して、領域92においては入り込んでくる繊維量が比較的少なく、結果として表面シートにしたときに小凸部9(図5参照)をなす程度となる。こうして、歯の先端51aにより狭圧された部分がなす谷部4と上記小凸部9とが連続して折れ線状の溝部をなすこととなる。図示したもので具体的に溝部となったときの形態を示すと、T、T、及びTがなす列、並びにT、T、及びTがなす列がそれぞれMD方向に沿って1つの折れ線状に連続した溝部8を形成することとなる。したがって、表面シートにおける凸部と尾根部とが図1及び図2におけるX方向に連結された山脈状の凸部列11が、本実施態様の製造方法においてはMD方向(図9参照)に沿って形成される。これに対し、図1及び図2のY方向に延びる図4に示した断面形状は、図9に示したCD方向に沿って形成される。
【0039】
ここで、第1ロールの歯(先端面)51aのT〜Tの中心を結んだ六角形の面積を基本面積Aとする。第1ロールの歯51aのT〜Tの中心を結んだ六角形内に含まれる面積を面積Bとし、面積Bの基本面積Aに対する比(B/A)は0.10〜0.25が好ましい。この比(B/A)の値が小さくなりすぎると凸部3と尾根部5の差が無くなり、一つの凸部になってしまい尾根部5が成型できなくなるため潰れやすくなる。この比(B/A)の値が大きくなりすぎると尾根部5の空間が無くなり空間の連続性が損なわれる。また、基本面積A内の第2ロールの歯(先端面)52aの面積Cの基本面積Aに対する比(C/A)は0.10〜0.25が好ましい。この比(C/A)の値が小さくなりすぎると賦形部3の形状が安定せず凸部の成型が難しい。この比(C/A)の値が大きすぎると凸部が直方体形状になり、硬くなってしまい柔らかな感触が低下する。第1ロールの歯の間隔97を第2ロールの歯のCD寸法98で割った値は0.25〜0.83が好ましい。この値の設定範囲において最も安定した略山形形状の凸部3と尾根部5を得られる。
第1ロールの歯のMD寸法101は特に限定されないが、例えば0.5〜3.5mmであることが好ましく、より好ましくは0.6〜2mmである。また、CD寸法100は特に限定されないが、例えば0.5〜3.5mmであることが好ましく、より好ましくは0.6〜2mmである。また、第1ロールの歯の間97は特に限定されないが、例えば0.8〜5mmであることが好ましく、より好ましくは1〜2mmである。第2ロールの歯のMD寸法99は特に限定されないが、例えば0.5〜3.5mmであることが好ましく、より好ましくは0.6〜2mmである。また、CD寸法98は特に限定されないが、例えば0.5〜6mmであることが好ましく、より好ましくは0.6〜4mmである。第1ロール及び第2ロールの歯の間隔94は適宜に定めることができるが、例えば1.5〜10mmとすることが好ましく、より好ましくは2〜6mmである。第1ロールのMD方向の歯の間隔102は特に限定されないが、例えば0.4〜4mmであることが好ましい。第2ロールのMD方向の歯の間隔103についても特に限定されないが、第1ロールのMD方向の歯の間隔102と同じ寸法が好ましく、例えば0.4〜4mmであることが好ましい。また、CD方向の歯の間隔104についても特に限定されないが、例えば1.2〜7.5mmであることが好ましい。
さらに第1ロール及び第2ロールの歯の高さや形状は、目的とする表面シートの形態によって適宜に定めることができるが、例えば0.8〜9mmであることが好ましい。なお、図9については第1ロール及び第2ロールの歯の噛み込みによるシートの賦形について図7に示した実施態様の製造方法との関係で説明したが、このことは図8に示した実施態様の製造方法においても同様である。
また、MDの破断伸長率が100%以上の不織布が好ましく、本願発明の好ましい賦形形状の表面シートが加工できる。
【0040】
図10は本発明の吸収性物品の表面シートを用いた使い捨ておむつを一部切欠して模式的に示す斜視図である。同図に示した使い捨ておむつ80は、同物品において一般的な形態を有しており外包体81と吸収体88とを組み合わせて形成されている。
【0041】
外包体81は1枚のシートからなるものであっても、複数のシートからなるものであってもよい。外包体81には横漏れ防止ギャザー84が設けられており、乳幼児の運動による液漏れの防止に効果を奏する。本実施形態のおむつにおいては、さらに機能的な構造部やシート材等を設けてもよい。
さらに本実施形態のおむつはテープ型のおむつとして示しており、背側rのフラップ部にはテープ85が設けられている。このテープを腹側fのフラップ部に設けたテープ貼付部(図示せず)に貼付して装着固定することができる。このとき、おむつ中央cを緩やかに内側に折り曲げて、吸収体88が乳幼児の臀部から下腹部にわたって沿わされるように着用する。これにより排泄物が的確に吸収体88に吸収保持される。
【0042】
吸収体88には、厚みのある吸収材83の表面に本実施形態の表面シート10が配設されている。通常吸収材自体は肌当りがあまり良くなく、液体を一度吸収した後にはベタついた感じを与えてしまうが、上記のように本実施形態の表面シートを乳幼児の肌に当接するように配設したことで肌触りが良化し、サラッとした触感となる。特に空間を保持した凸部と、谷部、及び特別の形状を有する尾根部とがネットワーク構造により、上述した多様な作用を発揮し、大幅に吸収性物品の着用感、フィット性、液体吸収性能等が向上する。しかも柔らかい肌あたりで運動などにより多少おむつの位置がずれたときにも違和感を与えない。さらには、丸みを帯びた凸部が多数表面に連設されているため、外観においても柔らかさを感じさせ、看者に対し肌にやさしい印象を与える。
【0043】
本実施形態のおむつ80において、外包体81、テープ85、ギャザー84、吸収材83等に用いられる材料は通常おむつに用いられるものを用いることができ、特に限定されるものではない。本発明の吸収性物品の表面シートは、上記使い捨ておむつに限らず、ナプキン及びパンティーライナー等の各種の吸収性物品にも好適に用いることがきる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定して解釈されるものではない。
【0045】
(実施例1)
上層シートを構成する不織布として、芯がポリエチレンテレフタレートで鞘がポリエチレンからなる2.2dtex×51mmの芯鞘型複合繊維6g/mと4.4dtex×51mmの芯鞘型複合繊維12g/mを積層した坪量18g/mのエアースルー不織布を用いた。上層シートは賦形加工により、MD方向に折り曲げられ目付が上がるため賦形後は22g/mになる(上層の繰出し速度は、下層シート繰出し速度の約20%増であった)。下層シートを構成する不織布として、芯がポリエチレンテレフタレートで鞘がポリエチレンからなる2.2dtex×51mmの芯鞘型複合繊維を構成繊維とする坪量18g/mのエアースルー不織布を用いた。これらのシートを用い、図7に示す装置を用いて、図9に示す歯の噛み込みパターン(間隔94は3.2mm、間隔97は1mm、幅98は2mm、長さ99は0.8mm、幅100は1mm、長さ101は0.8mm)となる第1ロール及び第2ロールにより、図6に示す6点エンボスパターンの表面シート(試験材1)を作製した。得られた表面シート(試験材1)は図1〜図5に示した特有のシート形状を有し、凸部の高さhはおよそ1.7〜2.1mmであり、尾根部の高さhはおよそ0.6〜1.0mmであった。この表面シート(試験材1)の上層シート側の表面形状を表面形状解析顕微鏡(キーエンス社製、VHX−900(商品名))で測定し斜視図として画像化した表面形状解析図を図11に示す。同図中、「t」が凸部、「b」が谷部、「o」が尾根部、「s」が小凸部をそれぞれ示す。なお、図中における寸法の単位は「um」と表記されているが「μm」の意味である。
【0046】
(実施例2)
上層シート及び下層シートを構成する不織布として、芯がポリエチレンテレフタレートで鞘がポリエチレンからなる2.2dtex×51mmの芯鞘型複合繊維18g/mのエアースルー不織布を用いた。上層シートは賦形加工により、MD方向に折り曲げられ目付が上がるため賦形後は22g/mになる。(上層の繰出し速度は、下層シート繰出し速度の約20%増であった)これらのシートを用い、図7に示す装置を用いて、図9に示す歯の噛み込みパターン(間隔94は3.2mm、間隔97は1mm、幅98は2mm、長さ99は0.8mm、幅100は1mm、長さ101は0.8mm)となる第1ロール及び第2ロールにより、図6に示す6点エンボスパターンの表面シート(試験材2)を作製した。得られた表面シート(試験材2)は図1〜図5に示した特有のシート形状を有し、凸部の高さhはおよそ1.3〜1.7mmであり、尾根部の高さhはおよそ0.4〜0.7mmであった。
【0047】
(比較例1)
上層シートを構成する繊維ウェブとして、芯がポリエチレンテレフタレートで鞘がポリエチレンからなる7.7dtex×51mmの芯鞘型複合繊維を構成繊維とする坪量16g/mに、下層シートを構成する繊維ウェブとして、芯がポリエチレンテレフタレートで鞘がポリエチレンからなる3.3dtex×51mmの芯鞘型複合繊維を坪量24g/mを積層したエアースルー不織布を用いた。これらのシートを積層させ接合し、比較のための表面シート(試験材3)を得た。表面シート(試験材3)の厚みはおよそ1mmであった。
(比較例2)
上層シートと下層シートを構成する不織布として、芯がポリエチレンテレフタレートで鞘がポリエチレンからなる2.2dtex×51mmの芯鞘型複合繊維を構成繊維とする坪量20g/mのエアースルー不織布を2枚重ね超音波により接合したものを用い、表面シート(試験材4)を得た。表面シート(試験材4)の厚みはおよそ1mmであった。
【0048】
〔表層液戻り試験〕
重量を測定した表面シート(試験材)を吸収材(フラッフパルプと高吸収性ポリマーとの積繊体であり、パルプの坪量及びポリマーの坪量をいずれも257g/mとしたものを用いた。)の上に載置した。次に、表面シートの中心部より定量ポンプを使い80gの人工尿を注入する。注入後、10分間放置する。その後、表面シートの重量を測定し評価前の重量を差し引いた。その値を不織布の表層液残り量とした。この液残り量が300mg以下であれば実用上の要求を満足し、150mg以下であれば実用上の要求を高いレベルで満足しうる。
【0049】
〔横通気試験〕
表面シート(各試験材)について、35g/cm圧力下でのシート面と平行な方向への空気通過容量は以下の方法で測定した。
先ず、KES圧縮試験機(カトーテック(株)社製、KES FB−3 AUTO−A(商品名)、接触部円形(面積2cm)を用い、35g/cmの荷重を加えたときの表面シートの厚みTh1を測定した。
厚みを測定した表面シートを、中央に一辺10mmの正方形状の開口部を有する正方形状の第1アクリル板(寸法:50mm×50mm×3mm)と、開口部を有しない以外は第1アクリル板と同じ第2アクリル板との間に、該表面シートの着用者の肌側に向けられる面を第1アクリル板側にして挟んだ。これを、JIS P 8117の「ガーレー試験機法」に規定されるガーレー試験機(B型)のガスケット下に第1アクリル板側を上に向けてセットし、表面シートが上記厚みTh1となるまで圧縮する。
次いで、厚みTh1を維持した表面シートの中央部に、上記開口部を介して空気を導入して300mLの空気を導入するのに要した時間を計測する。
そして、開口部の単位面積(1cm)×1秒当たりの空気導入量(cc)を算出した。この横通気試験の結果は表面シートにおける空気の移動しやすさ、つまりムレにくさを示し、横通気量が30cc/sec以上であれば実用上の要求を満足し、70cc/sec以上であれば実用上の要求を高いレベルで満足しうる。
【0050】
〔KES厚み〕
各表面シート(各試験材)について、KES圧縮試験機(カトーテック(株)社製、KES FB−3 AUTO−A(商品名)、接触部円形(面積2cm)を用い、0.5g/cm及び50g/cmの荷重をそれぞれ加えたときの厚み(凸部の高さh(図3参照)に下層シートの厚さを加えたサンプル厚さ)を測定した。この厚さの値が大きいほど、おむつを実際に着用して使用したときに良好なクッション性が維持される。具体的に、上記0.5g/cmの荷重条件でKES厚みが1.2以上であり、20g/cmの荷重条件でKES厚みが0.8以上で、50g/cmの荷重条件でKES厚みが0.5以上であるとき、実用上の要求を満足しうる。
【0051】
〔圧縮硬さ(KES)試験〕
各表面シート(各試験材)について、50g/cm荷重下での圧縮硬さの測定を行った。
表面シートをKES圧縮試験機(カトーテック(株)社製、KES FB−3 AUTO−A(商品名)、接触部円形(面積2cm)を用い、50g/cm荷重まで加圧を行い圧縮特性を測定した。上記圧縮硬さ(KES)試験において、LCの値は小さい力での圧縮性を意味し、0.75以下であれば実用上の要求を満足しうる。WCの値はふんわり感を意味し、0.5gf・cm/cm以上であれば実用上の要求を満足し、1.0gf・cm/cm以上であれば実用上の要求を高いレベルで満足する。RCの値は圧縮回復性を意味し、30%以上であれば実用上の要求を高いレベルで満足する。
【0052】
〔ドレープ性、KES曲げ特性B’試験〕
各表面シート(各試験材)について、一定曲率(±2.5cm−1)をあたえた時の曲げモーメントの測定を行った。
表面シートを20cm×10cm(MD×CD)の形状に裁断し試験片とした。得られた試験片を、KES純曲げ試験機(カトーテック(株)社製、KES FB−2 AUTO−A(商品名)を用い、MD方向とCD方向のそれぞれで一定曲率(±2.5cm−1)をあたえた時の曲げモーメントを測定した。曲率±2.5cm−1の曲げモーメントの値をB‘としている。
上記ドレープ性、KES曲げ特性B’試験において、値が小さいほど曲がり易いことを意味し、一方向(MD方向)において0.35gf・cm/cm以下であれば実用上の要求を満足し、0.2gf・cm/cm以下であれば実用上の要求を高いレベルで満足する。他の方向(CD方向)において0.20gf・cm/cm以下であれば実用上の要求を満足する。
【0053】
〔座屈有無(MD2つ折り部)試験〕
各表面シート(各試験材)について、定規を置き基点として二つ折り(MD方向)にし、開いた時の折れ目の状態を確認した。この評価において○以上であれば実用上の要求を満足し、◎以上であれば実用上の要求を高いレベルで満足する。
×: 折れ目が多数付いてシワや角ができ、折れ目の硬さを感じる。
△: 折れ目が付いて複数のシワが残り、折れ目の硬さを少し感じる。
○: 折れ目は付くがシワは付かない。折れ目の硬さは殆ど感じられない。
◎: 折れ目が付かず元の状態のまま。折れ目の硬さは全く感じない。
【0054】
〔手触り感触試験〕
上記の表層液残り量測定試験を行ったおむつの表面シートを手のひらで直接触って触感を確認した。おむつに組み込む前の表面シートの表面(上層の表面)を手のひらで直接触れ、その感触を以下の基準に従って判定した。判定は3人以上で行い、最も支持の多い意見を判定の結果とした。判定が1人ずつに分かれた場合は、それらの中間となる意見を判定結果とした。この評価において○以上であれば実用上の要求を満足し、◎以上であれば実用上の要求を高いレベルで満足する。
×:硬い。抵抗感(ざらざら感)がある。
△:やや硬い。抵抗感(ざらざら感)が少しある。
○:やや柔らかい。なめらかな感じが少しある。
◎:柔らかく、なめらかな感じがある。
【0055】
【表1】

【0056】
上記の結果より、本発明による表面シート(試験材1、2)は、比較例のものに対して、高い表面液戻り性及び横通気性を示すことが分かる。また、本発明の表面シート(試験材1、2)は、上記表面シートの各特性評価(KES厚み試験、圧縮硬さ試験、ドレープ性試験、座屈有無試験、及び手触り感触試験)において比較例のものに対して優れた結果を示し、肌の起伏に追従しやすく柔らかくなめらかな風合いを有するものであることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の表面シートの一実施形態における要部を一部断面により模式的に示す斜視図である。
【図2】図1の領域IIの周辺を拡大して示す斜視図である。
【図3】図1のIII−III線断面を示す断面図である。
【図4】図1のIV−IV線断面を示す断面図である。
【図5】図1のV−V線断面を示す断面図である。
【図6】本実施形態におおける略千鳥状の6点エンボスパターンを座標化して示すパターン図である。
【図7】本実施形態の表面シートの製造方法を説明するための工程説明図である。
【図8】別の実施形態の表面シートの製造方法を説明するための工程説明図である。
【図9】第1ロール及び第2ロールの歯が噛み込んだときの歯の先端の配列を示すパターン図である。
【図10】本実施形態の表面シートを用いた使い捨ておむつを一部切欠して模式的に示す斜視図である。
【図11】実施例で作製した表面シート(試験材1)の表面形状を表面形状解析顕微鏡で測定し斜視図として画像化した表面形状解析図である。
【符号の説明】
【0058】
1 上層シート
2 下層シート
3 凸部
3a 凸部頂部
3b 凸部肩部
3c 凸部側壁部
4 谷部
5 尾根部
6 凸部内部の空間
7 トンネル状空間
8 溝部
9 小凸部
10 表面シート
11、11a、11b、11c、11d 凸部列
51 第1ロール
51a 第1ロールの歯(歯の先端)
52 第2ロール
52a 第2ロールの歯(歯の先端)
53 第3ロール
54 第4ロール
80 使い捨ておむつ
81 外包体
83 吸収材
84 横漏れ防止ギャザー
85 テープ
88 吸収体
91 尾根部をなす上層シート賦形領域
92 小凸部をなす上層シート賦形領域
94 ロールの歯の間隔
97 第1ロールの歯のCD方向の間隔
98 第2ロールの歯のCD方向の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凸部が略千鳥状に配設された、繊維からなる表面シートであって、前記凸部は内部に空間を保持し、該凸部はこれより細幅の尾根部により互いに連結されて凸部列をなし、該凸部列はこの間に配される溝部が折れ線状になるよう並列し、前記折れ線状の溝部は前記尾根部の両側において谷部を有する吸収性物品の表面シート。
【請求項2】
前記尾根部の内部にトンネル状空間を有し、前記凸部の内部空間が互いに連繋された請求項1記載の吸収性物品の表面シート。
【請求項3】
前記尾根部の高さが、前記凸部の高さの80%〜15%である請求項1又は2に記載の吸収性物品の表面シート。
【請求項4】
所定方向における破断伸度が100%以上である不織布からなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の吸収性物品の表面シート。
【請求項5】
前記表面シートが、前記谷部で互いに接合された上層シート及び下層シートからなる請求項1〜4のいずれか1項に記載の吸収性物品の表面シート。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−160035(P2009−160035A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−339651(P2007−339651)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】