説明

吸収性物品の表面シート

【課題】表面シート内に液が残りにくく、肌触りも良い、吸収性物品の表面シートを提供すること。
【解決手段】本発明の吸収性物品の表面シート10は、肌当接面側に上層11、非肌当接面側に下層12を有する2層構成の表面シートであり、上層11は、熱伸長性繊維を用いて形成され、該熱伸長性繊維どうしの交点が接合された繊維接合部を有し、下層12は、熱伸長性繊維を含まないか又は熱伸長性繊維を上層より低い割合で含み、上層11の肌当接面側が凹凸形状をなしており、上層11と下層12との界面は、互いに接合された固着部13と、該上層11と該下層12とが剥離可能に積層された非固着部18とを有し、上層11の繊維間距離が下層12の繊維間距離よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収性物品の表面シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生理用ナプキン、失禁パット、パンティライナー等の、身体から排出される液の吸収に用いられる吸収性物品の表面シートとして、不織布の肌側に向けられる面を凹凸形状に形成することにより、着用者の肌と不繊布の接触を少なくして蒸れやかぶれを防止する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、繊維径の異なる繊維層を重ね繊維密度に勾配を有する粗密構造を形成し、液の引き込み性を向上させる技術も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
また、凹凸形状を少なくとも一方の面に有し、構成繊維として、加熱によってその長さが延びる熱伸長性繊維を用いた立体賦形不織布が知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−97858号公報
【特許文献2】特開平5−247816号公報
【特許文献3】特開2005−350836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の表面シートは、肌側に向けられる上層と、熱収縮性繊維を含み吸収体側に向けられる下層とを有し、下層に含まれる熱収縮性繊維の収縮により下層を収縮させて得られるものであるため、熱収縮によって高密度化した下層に液が残り易い。
特許文献2記載の表面シートは、肌側に向けられる上層を構成する繊維の繊維径が、下層を構成する繊維の繊維径よりも太くなっている。そのため、肌側に接する上層の柔軟性に劣り、肌触りが良くない。
特許文献3記載の表面シートは、熱伸長性繊維を用いたものであるが、単層構造であるため、隆起構造の制御が難しく、肌触りや吸収性能等の性能が安定して発現しにくい。
【0006】
本発明は、表面シート内に液が残りにくく、肌触りも良い、吸収性物品の表面シートに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、肌当接面側に上層、非肌当接面側に下層を有する2層構成の表面シートであり、前記上層は、熱伸長性繊維を用いて形成され、該熱伸長性繊維どうしの交点が接合された繊維接合部を有し、前記下層は、熱伸長性繊維を含まないか又は熱伸長性繊維を上層より低い割合で含み、前記上層の肌当接面側が凹凸形状をなしており、前記上層と前記下層との界面は、互いに接合された固着部と、該上層と該下層とが剥離可能に積層された非固着部とを有し、前記上層の繊維間距離が前記下層の繊維間距離よりも大きい吸収性物品の表面シートを提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の吸収性物品の表面シートは、表面シート内に液が残りにくく、肌触りも良いものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態の吸収性物品の表面シートをその上層側から視た状態を示す平面図である。
【図2】図1のII−II線一部拡大断面図である。
【図3】図1に示す表面シートの製造方法を示す模式図である。
【図4】本発明の他の実施形態の吸収性物品の表面シートを示す断面図である。
【図5】本発明の更に他の実施形態の吸収性物品の表面シートを示す断面図である。
【図6】本発明の更に他の実施形態の吸収性物品の表面シートを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の第1実施形態である吸収性物品の表面シート10(以下、表面シート10ともいう)をその上層11側から視た状態を示す平面図である。
第1実施形態の表面シート10は、肌当接面側に上層11、非肌当接面側に下層12を有する2層構成の表面シートである。即ち、図2に示すように、表面シート10は、上層11と下層12とが積層された2層構造を有しており、表面シート10は、上層11側を着用者の肌側に向け、下層12側を吸収体側に向けて吸収性物品に組み込まれて使用される。
【0011】
また、上層11と下層12との界面は、図2に示すように、互いに接合された固着部13と、上層11と該下層12とが剥離可能に積層された非固着部18とを有している。
本実施形態における固着部13は、上層11の原反であるウエブ又は不織布と、下層12の原反であるウエブ又は不織布とを積層し、その積層体に、熱を伴うか又は伴わないエンボス加工、超音波エンボス加工などのエンボス加工を施して形成されている。固着部13は、エンボス加工に代えて、上下層11,12間を接着剤を介して接合することで形成することもできる。
【0012】
また、表面シート10は、上層11の肌当接面側が凹凸形状をなしている。
より詳細に説明すると、表面シート10における固着部13は、図2に示すように、上層11側及び下層12側それぞれに凹部14,15を有している。また、上層11側の面10aにおける、凹部14どうし間は凸部16となっており、表面シート10は、上層11側の面10aが凹凸形状をなしている。表面シート10の上層11側の面10aが凹凸形状をなしていることで、該表面シート10を吸収性物品に組み込んで使用したときに、表面シート10と着用者の肌との接触面積が低減して蒸れやかぶれが効果的に防止される。
【0013】
凹部14と凸部16とは、表面シート10の一方向(図1中X方向)において交互に配置されている。また、凹部14と凸部16とは、表面シート10の前記一方向と直交する方向(図1中Y方向)においても交互に配置されている。
表面シート10は、固着部13として、図1に示すように、X方向に対して互いに逆向きに傾斜した、第1固着線13a及び第2固着線13bを有している。第1固着線13a及び第2固着線13bは、それぞれ、互いに平行に多数本形成されており、それぞれ、隣接する固着線間の間隔が広い箇所と該間隔が狭い箇所とを交互に有している。
第1固着線13a及び第2固着線13bそれぞれの肌当接面側及び非肌当接面側には、各固着線に沿って延びるように溝状の凹部14,15が形成されている。第1固着線13aと第2固着線13bとは、図1に示すように、格子状に交差している。
また、第1固着線13aに沿って延びる溝状の凹部14,15と、第2固着線13bに沿って延びる溝状の凹部14,15も、固着線13a,13bと同様の格子状に交差しており、表面シート10の上層11側(肌当接面側)には、大きさ及び高さが異なる3種類の凸部16a,16b,16cが形成されている。凸部16a及び凸部16bは、何れも平面視して菱形状をなしており、凸部16aは、凸部16bに比べて面積が大きく高さD1も高い。凸部16cは、平面視して平行四辺形状をなしており、凸部16aと凸部16bの中間の面積及び高さを有している。
【0014】
また、上層11と下層12との界面は、表面シート10の平面方向における、固着部13,13間に、上層11と下層12とが剥離可能に積層された非固着部18を有する。非固着部18における、上層11と下層12との間は、接触しているが、接合はされておらず、非固着部18における上層11と下層12の境界で接触した繊維のみの繊維同士の融着が形成されている。これは、上層11及び下層12各々における繊維は、平面方向に交差・融着しているだけでなく厚み方向においても交差・融着しているため、各層内で層状に分離することはできないが、上層11と下層12は基本的に異なる工程によってウエブもしくは不織布とされるため、その境界を越えて各層の繊維が入り込み厚み方向に繊維が交差・融着することが極端に少なく、境界において強固な交差・融着状態を形成しにくいためである。
【0015】
表面シート10の上層11は、熱伸長性繊維を用いて形成されている。また、上層11は、熱伸長性繊維どうしの交点が接合された繊維接合部17を有している。
熱伸長性繊維は、加熱によってその長さが伸びる繊維であり、温度が90℃以上、好ましくは、110℃〜130℃で伸張する繊維である。
熱伸長性繊維としては、例えば加熱により樹脂の結晶状態が変化して伸びたり、あるいは捲縮加工が施された繊維であって捲縮が解除されて見かけの長さが伸びる繊維が挙げられる。本発明における熱伸長性繊維では、不織布製造時あるいは不織布化後の熱処理により繊維が伸長する結果、非伸長性の繊維に比べて繊維空間が大きくなる繊維であり、鞘成分にポリエチレン、芯成分にポリプロピレンを用いた芯鞘構造繊維(熱処理後の繊維太さ2〜5dtex、繊維長51mm、伸長率10%)による伸長性繊維と非伸長性繊維による不織布の比較では、後述する繊維間距離の測定方法によって算出した値で5〜20μm程度伸長性繊維による不織布の繊維間距離が大きくなる。
好ましい熱伸長性繊維としては、配向指数が20〜80%(より好ましくは40〜70%)の第1樹脂成分と、該第1樹脂成分の融点より低い融点又は軟化点を有し且つ配向指数が10〜80%(より好ましくは20〜60%)の第2樹脂成分とからなり、第2樹脂成分が繊維表面の少なくとも一部を長さ方向に連続して存在している複合繊維(以下、この繊維を熱伸長性複合繊維という)等が挙げられ、熱伸張時に熱融着が起こる繊維が好ましい。
【0016】
以下に、この熱伸長性複合繊維を用いた表面シート10の好ましい製造方法を、図3を参照しながら説明する。
【0017】
先ず、所定のウエブ形成手段(図示せず)を用いて下層12の原反となるウエブ12Aを作製する。ウエブ12Aは、熱伸長性複合繊維や他の熱伸長性繊維を含まないか、又は熱伸長性複合繊維や他の熱伸長性繊維を上層より低い割合で含むものである。ウエブ形成手段としては、例えば(a)カード機を用いて短繊維を開繊するカード法、(b)溶融紡糸された連続フィラメントを直接エアサッカーで牽引してネット上に堆積させる方法(スパンボンド法)、(c)短繊維を空気流に搬送させてネット上に堆積させる方法(エアレイ法)などの公知の方法を用いることができる。
【0018】
また、下層12用のウエブ12Aとは別に、所定のウエブ形成手段(図示せず)を用いて、上層11の原反となるウエブ11Aを作製する。ウエブ11Aは、熱伸長性複合繊維を含むものであるか、又は熱伸長性複合繊維からなるものである。ウエブ形成手段としては、例えば(a)カード機を用いて短繊維を開繊するカード法、(b)溶融紡糸された連続フィラメントを直接エアサッカーで牽引してネット上に堆積させる方法(スパンボンド法)、(c)短繊維を空気流に搬送させてネット上に堆積させる方法(エアレイ法)などの公知の方法を用いることができる。
上層11の原反として長繊維の束であるトウを該長繊維と直交する方向に拡げたもの等、繊維が概ね一方向に配向したものを用いた場合には、個々の繊維の自由度が高く、個々の繊維が個々に伸長するため、繊維どうしの交点が接合された繊維接合部が形成されにくく、また、上層11が下層12から大きく離間し両層11,2との間に空洞ができ易い。
上層11の原反として、上述したようなウエブ11Aを用いることで、上層11と下層12との間の接触ないし近接状態を維持させながら、上層11によって凸部16を形成させることができる。
【0019】
そして、下層12用のウエブ12Aと上層11用のウエブ11Aとが重ねた状態とされて、ヒートエンボス装置21に導入される。そして、ヒートエンボス装置21内で、重ねた状態の両ウエブ12A,11Aに一体的にヒートエンボス加工が施される。ヒートエンボス装置21は、一対のロール22,23を備えている。ロール22は周面が平滑となっている平滑ロールである。一方、ロール23は、その周面に、固着部13に対応する形状の凸部が形成されている彫刻ロールである。各ロール22,23は所定温度に加熱可能になっている。
【0020】
ヒートエンボス加工は、ウエブ12A及び/又はウエブ11A中の成分が溶融し、ウエブ12Aとウエブ11Aとが熱融着する温度で行う。ヒートエンボス加工の加工温度は、ウエブ11A中の熱伸長性複合繊維における低融点成分の融点以上で且つ高融点成分の融点未満の温度で行われることが好ましい。また熱伸長性繊維の伸長開始温度未満の温度で行われることが好ましい。
ヒートエンボス加工によって、ウエブ12Aとウエブ11Aとが剥離不能に固着されて固着部13が形成され、上下層11,12が固着部13において接合した積層不織布24が得られる。
【0021】
そして、固着部13が形成された積層不織布24は、熱風吹き付け装置25に搬送される。熱風吹き付け装置25においては積層不織布24にエアスルー加工が施される。熱風吹き付け装置25は、所定温度に加熱された熱風が積層不織布24を貫通するように構成されている。
【0022】
エアスルー加工は、積層不織布24中の熱伸長性複合繊維が加熱によって伸長する温度で行われる。且つ積層不織布24における固着部13以外の部分に存するフリーな状態の熱伸長性複合繊維どうしの交点が熱融着する温度で行われる。尤も、斯かる温度は熱伸長性複合繊維の高融点成分の融点未満の温度で行うことが好ましい。
【0023】
このようなエアスルー加工によって、上層11に含まれる熱伸長性複合繊維が、固着部13以外の部分において伸長する。熱伸長性複合繊維はその一部が固着部13によって固定されているので、伸長するのは固着部13間の部分である。熱伸長性複合繊維はその一部が固着部13によって固定されていることによって、伸長した熱伸長性複合繊維の伸び分は、積層不織布24の平面方向への行き場を失い、該不織布24の厚み方向へ移動する。これによって、上層11における固着部13間に凸部11が形成される。
また、エアスルー加工によって固着部13間に存する熱伸長性複合繊維どうしの交点が熱融着によって接合され、繊維接合部17が3次元的に分散した状態に形成される。
【0024】
また、上層11における下層12との隣接部に存在する熱伸長性複合繊維は、エアスルー加工によっても実質的に伸長しない下層12によって下方への移動が大きく制限されるため、下層12中に入り込んで下層12中の繊維と交絡するといった現象が殆ど生じない。そのため、得られた表面シート10の平面方向における、上層11と下層12とが剥離不能に接合された固着部13間には、上層11と下層12とが剥離可能に積層された非固着部18が形成される。さらに熱伸長性繊維によるウエブである上層と熱伸長性のないウエブまたは不織布である下層の境界では、伸長によって繊維同士の接触(交差)位置が変わるため繊維同士の融着に充分な融着性樹脂が接触部分で得られにくく、融着自体が起こりにくく、融着強度も低くなりやすい。
このようにして目的とする表面シート10が得られる。
【0025】
以上の説明から明らかなように、表面シート10においては、下層12が収縮せず伸長が上層より抑制されている一方で、上層11中の熱伸長性複合繊維が伸長して、上記の凸部16を上層方向に突出するように形成するため、上層11を構成する繊維として下層12の繊維よりも太い繊維を用いたり、下層12を熱収縮させたりしなくても、粗な構造の凸部16を形成でき、上層11と下層12との間に繊維密度の勾配を形成することができる。そのため、本実施形態の表面シート10においては、凸部16が柔らかく、上層11側の面10aの肌触りが良好であると共に、上層11から下層12への液の引き込み性及び下層12から更にその下に配される吸収体(図示せず)への液の移行性に優れている。
【0026】
さらに、本実施形態の表面シート10は、平面方向における、固着部13,13間に、上層11と下層12とが剥離可能に積層された非固着部18を有するため、上層と下層の間には層間境界が形成され、上層の熱伸長繊維の伸長方向を上層側に向けることができる。このため、下層は予め不織布とされているか、伸長性繊維によってウエブが平面方向及び厚さ方向に変形しない程度であることが好ましい。また、下層が不織布であるかウエブであるかを問わず熱伸長性繊維による上記変形がおこらない程度に配されていると、繊維による網目構造が乱されて、大きな空隙形成による液通過性を高める効果を有する。
【0027】
表面シート10内の液が残りにくくする観点から、繊維の伸長後における上層11を構成する繊維の平均径と繊維の伸長後における下層12を構成する繊維の平均径は、略同一であるか下層11の方が大きいことが好ましく、繊維間距離(繊維と繊維との隙間)は、上層11が下層12よりも大きいことが好ましい。
【0028】
平均径が略同一であるとは、下記方法により測定した平均繊維径を比較したときに、上層11を構成する繊維の平均径と、下層12を構成する繊維の平均径との比(前者/後者)が、0.9〜1.1であることをいう。
【0029】
<構成繊維の平均径の測定方法>
構成繊維の平均径は、繊維の断面形状により異なる2通りの方法のいずれかにより計測した。計測には、日本電子株式会社製「キャリースコープJCM−5100」を使用した。
まず、構成繊維の断面輪郭形状を500〜1000倍の倍率にて確認した。この際、繊維の断面輪郭だけでなく、芯鞘構造繊維/単繊維、芯成分/鞘成分面積比率、繊維の(太さ・形状等により区別される)種類を把握する。(断面は異なる5〜10ヶ所を測定する)
第1の方法は、断面が円形の繊維のみで形成されている場合の計測方法であり、上層及び下層各々5ヶ所の200〜500倍の平面拡大画像より、繊維融着部を除く任意の20本の繊維の太さを計測し平均して「構成繊維の平均径」を得る。
第2の方法は、繊維の断面が円形ではない繊維が含まれている場合の計測方法であり、繊維の断面輪郭形状を計測するための500〜1000倍の倍率の拡大画像を使用し、繊維を略90度で切断した一本の繊維の断面の面積を画像解析装置等の面積を算出できる手段により算出し、その面積を円に見立てて直径を繊維の径とする。このような一本の繊維の断面の観察結果が50本となるまで、電子顕微鏡による画像観察をおこない、50本の平均値を「構成繊維の平均径」とする。
繊維の断面の面積を計測する画像解析装置としては、例えばNEXUS社製の画像解析ソフトNEW QUBE(ver.4.20)を使用できる。
【0030】
繊維間距離(繊維と繊維との隙間)は、下記方法で測定した繊維間距離を比較したときに、上層11の繊維間距離と、下層12の繊維間距離との差(前者−後者)が、0μm以上であることが液の移動の観点から好ましく、0〜50μmであることが表面シートの強度と肌触りの観点より好ましい。
【0031】
<繊維間距離の測定方法>
下記Wrotnowskiの式により求めた。
【数1】

【0032】
ここで、繊維の充填密度及び繊度(デニール)は以下のように計測する。
繊維の充填密度の計測は、以下の手順でおこなう。
表面シートの上層側の平面画像より固着部の面積率を算出する。算出に当たっては固着部が20ヶ所程度を一度に計測することが好ましい。次いで、縦方向及び横方向の長さと、重量を計測した矩形状の表面シートを上層及び下層に分離し、上層及び下層の重量を計測する。この際、固着部が除去できる場合は固着部を除去し、除去できない場合は上層・下層のいずれに固着部が含まれているか把握しておく。表面シート、上層及び下層各々の重量と、縦方向と横方向の長さより坪量(g/m2)を算出する。算出に当たっては、固着部の面積の因子を補正する。(例えば、上層側に固着部がなく、下層側に固着部がある場合には、縦方向及び横方向の長さを乗じて得られる表面シートの面積から固着部分の面積を算出し、表面シートの重量における固着部分を算出して、上層の坪量算出時には表面シートの面積から固着部分を差し引いた面積を使用し、下層の坪量算出時には下層重量から固着部分の重量を差し引いて固着部分を差し引いた面積を使用する。)次いで、表面シートの断面積を計測する。計測には、電子顕微鏡を使用することが好ましいが、キーエンス製デジタルハイスコープVH8000のような光学式の装置を使用してもかまわない。拡大画像は固定部から凸部の頂部が含まれたものであり、凸部が異なる高さを有する場合は、各々の断面画像について観察する。充填密度の算出には坪量(g/m2)を高さ(m)で除することで得られるが、本発明のように固定部から凸部まで実質的な坪量が同じで高さが変化する場合には、上層及び下層各々の断面面積から平均高さを算出し、この平均高さを算出時の「高さ」として「繊維の充填密度」を得る。断面面積は、固定部を除く部分について、画像解析装置により計測し、断面面積から固定部を除く固定部間の長さを除することで得る。
繊度(デニール)は、上層及び下層の繊維がそれぞれ1種類の繊維からなっている場合には、DSCにより繊維に使用されている樹脂を特定し、比重(実質的に密度)と繊維の断面積より繊維の長さが9000mのときの重量がデニールとなる。芯鞘構造のような複合繊維では、鞘成分が融着成分であるので、同様にDSCを使用して樹脂の特定をおこない、拡大観察時の断面から平均比重を算出して求める。複数の繊維が用いられている場合には、平均径計測における方法2より繊維の配合比率より平均比重を算出する。(本発明では、高密度ポリエチレンの比重を0.94、ポリプロピレン0.96、ポリエステル1.36としている)
【0033】
上述した製造方法で製造した本実施形態の表面シート10は、ウエブ11A,12Aにヒートエンボス加工を施す際に、上層11用のウエブ11A側を彫刻ロール23側に位置させて加圧すると共に、エアースルー加工の際に、熱伸長性繊維の伸長により上層11が、下層12に比して大きく伸長し、一面10a側に膨らんでいるため、固着部13は、上層11側及び下層12側それぞれに凹部14,15を有し、上層11側の凹部14の深さD1と下層12側の凹部の深さD2の比(D1/D2)が、上層の繊維の坪量T1と下層の繊維の坪量T2の比(T1/T2)よりも大きくなっている。
熱収縮性繊維を用いて下層12を収縮させた場合とは異なり、下層12の繊維密度がさほど高くないことに加え、凹部14の底部と、下層12の更に下に配される吸収体との間の距離が小さいことによって、表面シート10内に液が残ることが一層効果的に防止される。
【0034】
前記比(D1/D2)は、2以上であることが好ましく、2.5以上であることがより好ましい。前記比(T1/T2)は、1〜5であることが好ましく、1.5〜4であることがより好ましい。
【0035】
<前記深さD1及びD2の測定方法>
次に、前記深さD1及びD2の測定方法の一例を、以下に述べる。
固着部13が線状である場合は隣接する交点を結ぶ線で、固着部13が点状である場合は隣接する点を結ぶ線で、切断した断面を電子顕微鏡にて観察し、凹部14の底部と凹部15の底部を2等分した位置と、上層11との高低差の最大値を深さD1とする。また、凹部14の底部と凹部15の底部を2等分した位置と、下層12との高低差の最大値を深さD2とする。
【0036】
また、積層不織布24の上層11側には、ヒートエンボス加工により凹部が形成されており、その積層不織布24に対してエアスルー加工を施したため、凸部16の膨出量を効果的に増大させることができる。
【0037】
先に述べた通り、上層11用のウエブ11Aは、熱伸長性複合繊維を含んでなるものであるか、又は熱伸長性複合繊維からなるものである。上層11用のウエブ11Aが熱伸長性繊維を含んでなるものである場合、該ウエブ11Aに含まれる他の繊維としては、熱伸長性複合繊維の熱伸長発現温度よりも高い融点を有する熱可塑性樹脂からなる繊維や、本来的に熱融着性を有さない繊維(例えばコットンやパルプ等の天然繊維、レーヨンやアセテート繊維など)が挙げられる。当該他の繊維は、上層11用のウエブ11A又は上層11中に好ましくは0〜40重量%、更に好ましくは5〜15重量%含まれる。一方、熱伸長性複合繊維は、上層11用のウエブ11A又は上層11中に50〜100重量%、特に70〜95重量%含まれることが、立体的な凹凸形状を効果的に形成し得る点から好ましい。立体的な凹凸形状を更に効果的に形成し得る点から、特に好ましくは、上層11用のウエブ11A又は上層11は、熱伸長性複合繊維からなる。
【0038】
熱伸長性複合繊維の好ましい例は、特許文献3の段落〔0024〕〜〔0040〕に記載されている。また、熱伸張性複合繊維は、第2樹脂成分の融点又は軟化点より10℃高い温度での伸張率が5〜40、特に10〜30%であることが、凹凸形状を顕著に形成させる点から好ましい。
【0039】
下層用のウエブ12A又は下層12を構成する繊維としては、芯成分にポリプロピレンやポリエステル、鞘成分にポリエチレンを用いた、芯鞘構造型(サイドバイサイド型含む)複合繊維等が好ましく用いられる。下層用のウエブ12A又は下層12は、熱伸長性複合繊維等の熱伸長性繊維を含んでいても良いが、該ウエブ12A又は下層12中の、熱伸長性繊維の含有割合は、30重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましく、更に好ましくは5重量%以下である。下層用のウエブ12A又は下層12は、熱伸長性複合繊維等の熱伸長性繊維を含んでいないことが最も好ましい。
また、下層用のウエブ12A又は下層12は、加熱により熱収縮する熱収縮性繊維を含んでいないか、含んでいても、エアースルー工程において、下層12を熱収縮させない程度であることが好ましい。ウエブ12A又は下層12を、熱収縮性繊維で熱収縮させないことで、上層11及び下層12の繊維密度を小さくでき、全体として液残り量の少ない表面シート10が得られる。
【0040】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。他の実施形態については、上述した第1実施形態との相違点について主として説明し、同様の点については説明を省略する。同様の点については第1実施形態についての説明が適宜適用される。
【0041】
第2実施形態の吸収性物品の表面シート10Aは、図4に示すように、上層11における、下層12の近傍に位置する繊維のみが下層12と熱融着してなる固着部13Aを有している。上層11における、表面シート10Aの表面に位置する繊維は、エアースルー加工によって繊維どうしの交点が接合した繊維接合部17において接合しているが、固着部13Aには固定されることなく、該固着部13Aを覆っている。表面シート10Aは、上述した表面シート10の製造方法において、上層11用のウエブと下層12用のウエブとを積層した後、彫刻ロールを、下層12用のウエブ側に位置させると共に彫刻ロールと平滑ロールとのクリアランスを比較的大きく維持して、ヒートエンボス加工を行い、次いで、上記と同様に、エアースルー加工を施すことによって製造することができる。第2実施形態の吸収性物品の表面シート10Aは、熱伸長性繊維を含む上層11が、下層12の近傍に位置する部分を固着部13Aに固定された状態で伸長した結果、上層11側の面に凸部16が形成されている。
第2実施形態の吸収性物品の表面シート10Aにおいては、固着部13Aが、上層11側の面から見えにくく、固着部13Aに液が吸収された場合の液の色等の隠蔽性に優れている。
【0042】
第3実施形態の吸収性物品の表面シート10Bは、図5に示すように、上層11と下層12とを貫通する貫通孔19を有し、該貫通孔19の内周面に、上層11と下層12とが、何れか一方又は両方の構成繊維の溶融固化により固着された固着部10Bが形成されている。表面シート10Bは、上述した表面シート10の製造方法において、重ね合わせた上層11用のウエブと下層12用のウエブとに一体的にヒートエンボス加工を施すのに代えて、重ね合わせた両ウエブに、加熱したピンを貫通させ、次いで、上述した表面シート10の製造方法と同様にエアースルー加工を施すことにより得られる。
貫通孔19の内周面に固着部10Bを形成すると、貫通孔19を通って、表面シート10Bを液が貫通すると共に、固着部10Bの平面視面積を小さくできるので、表面シート10Bは、液残り防止性に一層優れている。
【0043】
第4実施形態の吸収性物品の表面シート10Cは、図6に示すように、第1実施形態の表面シート10と同様に、平面方向に、上層11と下層12とが剥離不能に接合された固着部13を有しているが、その固着部13の上に、上層11によって形成された凸部16の一部16d,16dが張り出し、該固着部13の一部が、凸部16の一部16d,16dに覆われている。表面シート10Cは、上述した表面シート10の製造方法において、上層11用のウエブ11Aとして坪量がより大きいものを用いる以外は同様にして製造することができる。表面シート10Cによれば、液が残りやすい固着部13が、凸部16の一部16d,16dに覆われて、該表面シート10Dの上層11側の面10a側から見えにくくなるので、固着部13に残った経血等の液の隠蔽性に優れている。
【0044】
本発明の吸収性物品の表面シートは、吸収性物品の表面シートとして用いられる。
吸収性物品は、主として尿や経血等の排泄体液を吸収保持するために用いられるものである。吸収性物品には、例えば使い捨ておむつ、生理用ナプキン、失禁パッド等が包含されるが、これらに限定されるものではなく、人体から排出される液の吸収に用いられる物品を広く包含する。
吸収性物品は、典型的には、表面シート、裏面シート及び両シート間に介在配置された液保持性の吸収体を具備している。吸収性物品は、一般に、着用時に着用者の肌に当接する肌当接面及びそれとは反対側(通常、ショーツ等の衣類側)に向けられる非肌当接面を有し、表面シートは、肌当接面側に配され、裏面シートは、非肌当接面側に配される。本発明における表面シートは、上層側の面を着用者の肌側に向けて配される。
吸収体及び裏面シートとしては、当該技術分野において通常用いられている材料を特に制限無く用いることができる。例えば吸収体としては、パルプ繊維等の繊維材料からなる繊維集合体又はこれに吸収性ポリマーを保持させたものを、ティッシュペーパーや不織布等の被覆シートで被覆してなるものを用いることができる。裏面シートとしては、熱可塑性樹脂のフィルムや、該フィルムと不織布とのラミネート等の液不透過性ないし撥水性のシートを用いることができる。裏面シートは水蒸気透過性を有していてもよい。吸収性物品は更に、該吸収性物品の具体的な用途に応じた各種部材を具備していてもよい。そのような部材は当業者に公知である。例えば吸収性物品を使い捨ておむつや生理用ナプキンに適用する場合には、表面シート上の左右両側部に一対又は二対以上の立体ガードを配置することができる。
【0045】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば第1実施形態においては、固着部13の形成に熱を伴うエンボス加工であるヒートエンボス加工を用いたが、これに代えて熱を伴わないエンボス加工や、超音波エンボス加工によって固着部を形成することもできる。或いは接着剤によって固着部を形成することもできる。
また、表面シートの製造に、上層11及び下層12それぞれの原反として、ウエブ11A,12Aを用いるのに代えて、何れか一方又は両方に、不織布を用いても良い。特に下層の平坦さ(吸収体との接触性)、上層繊維の入り込みをより一層抑制することによる上層側の凸形状の形成の容易さの点から、下層側を不織布とすることが好ましい。また、上層に用いる繊維に比べて下層に用いる繊維の融点を高くする、具体的には上層繊維の芯成分融点より下層繊維または下層繊維の芯成分融点が高いことが、熱による固着部形成時及び吸収性物品形成時の熱加工の容易さの点から好ましい。
【0046】
また、線状の固着部13を、図1に示すようなパターンで形成するのに代えて、線状の固着部13を、他のパターンで形成しても良い。線状の固着部13は、線の幅が、例えば0.1〜3.0mmである。
また、線状の固着部13に代えて、表面シートに散点状に固着部13を形成しても良い。その場合の固着部13の面積は、1〜10mm2程度が好ましく、固着部13の形状は、円形、三角形、矩形、菱形その他の多角形、L字形、ハート形等の任意の形状とすることができ、これらの2種の組み合わせ等とすることもできる。
また、立体的な凹凸形状を形成させる点から、固着部13に固定されていない状態の熱伸長性複合繊維がある程度存在している必要があり、エンボス率は1〜20%、更に好ましくは2〜10%であることが立体的な凹凸形状を効果的に形成し得る点から好ましい。
【0047】
前述した一の実施形態における説明省略部分及び一の実施形態のみが有する要件は、それぞれ他の実施形態に適宜適用することができ、また、各実施形態における要件は、適宜、実施形態間で相互に置換可能である。
【符号の説明】
【0048】
10,10A〜10C 吸収性物品の表面シート
11 上層
11A 上層用のウエブ
12 下層
12A 下層用のウエブ
13,13A,13B 固着部
14 上層側の凹部
15 下層側の凹部
16 凸部
17 繊維接合部
18 非固定部
19 貫通孔
21 ヒートエンボス装置
22,23 ロール
24 積層不織布
25 熱風吹き付け装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肌当接面側に上層、非肌当接面側に下層を有する2層構成の表面シートであり、
前記上層は、熱伸長性繊維を用いて形成され、該熱伸長性繊維どうしの交点が接合された繊維接合部を有し、前記下層は、熱伸長性繊維を含まないか又は熱伸長性繊維を上層より低い割合で含み、
前記上層の肌当接面側が凹凸形状をなしており、
前記上層と前記下層との界面は、互いに接合された固着部と、該上層と該下層とが剥離可能に積層された非固着部とを有し、
前記上層の繊維間距離が前記下層の繊維間距離よりも大きい吸収性物品の表面シート。
【請求項2】
前記下層は、熱伸長性を有しない繊維から形成されている、請求項1記載の吸収性物品の表面シート。
【請求項3】
前記上層を構成する繊維の平均径と前記下層を構成する繊維の平均径は、略同一であるか前記下層の方が大きい請求項1又は2記載の吸収性物品の表面シート。
【請求項4】
前記上層は、平面視前記固着部の一部を覆っている請求項1〜3の何れかに記載の吸収性物品の表面シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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