説明

吸収性物品の表面シート

【課題】液の引き込み性及び液の透過性に優れた吸収性物品の表面シートを提供すること。
【解決手段】本発明の吸収性物品の表面シート2は、肌当接面側に凹部20及び凸部を有し、構成繊維が、熱伸長性繊維を含んでおり、凹部20は、線状のエンボス21で形成され、該線状のエンボス21の際に隣接する非エンボス領域24にある繊維25は、該際においてエンボスの線方向と交差する方向Qに概ね揃って配向されている。表面シート2は、凸部に、交差した構成繊維どうしが互いの交点において熱融着した熱融着点を有していることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収性物品の表面シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生理用ナプキンや使い捨ておむつ等の吸収性物品の表面シートとして、不織布からなるものや、樹脂フィルムに立体的な開孔を形成した開孔フィルムからなるものが汎用されている。
不織布製の表面シートは、毛管現象により繊維間に液を引き込むことができ、吸い込み性が良好である一方、引き込んだ液がシート内に滞留し易く、着用者の肌により圧力が加わったときに着用者に湿潤感を与えやすい。他方、立体的な開孔を形成した開孔フィルム製の表面シートは、液の透過性に優れ、着用者の肌に湿潤感を与えにくい一方、重力に反する方向の液の吸い込み性に劣り、例えば、就寝中に液が肌を伝って移動し、漏れ等に繋がることがある。
【0003】
また、吸収性物品の表面層として、一方向へ並行して延びる多数の熱可塑性合成樹脂の連続フィラメントによって構成された表面層であって、フィラメントどうしの接合部位が前記一方向に間欠的に配設されているものが提案されている(特許文献1参照)。
また、基材と連続フィラメントの層とを有し、連続フィラメントの延びる方向に間隔を開けた複数の接合部により基材と連続フィラメントの層とが接合され、接合部と接合部との間で、連続フィラメントをループ状に隆起させたものが知られている(特許文献2参照)。
しかし、これらは、多数本の連続フィラメントが、接合部どうし間を含めたその全長に亘って並行して配されているため、不織布としての強度に劣り、また、経血等の液の隠蔽性能にも劣る。
【0004】
【特許文献1】特開平10−151152号公報
【特許文献2】特開2002−65736号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、液の引き込み性及び液の透過性に優れた、吸収性物品の表面シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、肌当接面側に凹部及び凸部を有し、構成繊維が、熱伸長性繊維を含んでおり、
前記凹部は、線状のエンボスで形成され、該線状のエンボスの際(きわ)に隣接する非エンボス領域にある繊維は、該際においてエンボスの線方向と交差する方向に概ね揃って配向されている吸収性物品の表面シートを提供することにより前記目的を達成したものである。
【0007】
また、本発明は、肌当接面を形成する表面シート、非肌当接面を形成する裏面シート及びこれら両シート間に介在された吸収体を具備する吸収性物品において、前記表面シートが、本発明の表面シートである吸収性物品を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の吸収性物品の表面シートは、液の引き込み性及び液の透過性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明をその好ましい一実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の吸収性物品の表面シートの一実施形態を示す斜視図である。
本実施形態における表面シート2は、図1に示すように、単層構造の不織布からなり、構成繊維が熱融着により一体化された線状のエンボス21を格子状に有している。
本発明で線状とは、エンボス形状が平面視直線に限られず曲線を含み、各線は、連続線及び破線の何れであっても良いが、円形などの点が間欠的に形成されたエンボス形状は含まない。間欠的にとは、点状のエンボスの隣り合う間隔が5mm以上離れていることをいう。
より具体的に説明すると、表面シート2は、図2に示すように、線状のエンボス21として、互いに平行に且つ所定の間隔で形成された多数本の第1線状のエンボス21aと、互いに平行に且つ所定の間隔で形成された多数本の第2線状のエンボス21bとを有しており、第1線状のエンボス21aと第2線状のエンボス21bとが角度αをなして互いに交差している。第1線状のエンボス21aの幅W1と第2線状のエンボス21bの幅は同じであり、第1線状のエンボス21aどうし間の間隔W2と第2線状のエンボス21bどうし間の間隔も同じである。
【0010】
第1及び第2線状のエンボス21a,21bの幅W1(一方のみ図示)は、該線状のエンボスにおいて繊維を確実に固定するために0.1〜1.5mm、特に0.3〜0.9mmであることが好ましく、第1線状のエンボス21aどうし間の間隔W2及び第2線状のエンボス21bどうし間の間隔は、後述する繊維並列起立部を形成しやすいように2〜14mm、特に2〜8mmであることが好ましい。W1及びW2は、線に対して直行する方向に計測される。線の幅は交点部分から変化があっても良いが、W1は交点と交点の中点で計測される。W2は区画領域22の対辺同士を結ぶ線で計測される。
なお、図1及び図2中のX方向は、表面シート製造時におけるシートの流れ方向(MD)と同方向であり、後述する生理用ナプキン1に組み込む際に該ナプキン1の長手方向と一致させる方向とも同じである。図1及び図2中のY方向は、表面シート製造時におけるシートの流れ方向に直交する方向(CD)と同方向であり、後述する生理用ナプキン1に組み込む際に該ナプキン1の幅方向と一致させる方向とも同方向である。
【0011】
表面シート2は、吸収性物品に組み込まれたときに着用者の肌側に向けられる面(非肌当接面2a)側に、熱エンボス加工によって形成された凹部20を有しており、該凹部20内に前述した線状のエンボス21を有している。
線状のエンボス21は、前述したように格子状に形成されているため、表面シート2には、該線状のエンボス21によって区画化された区画領域22,22・・が形成されている。
個々の区画領域22は、それぞれ周囲を線状のエンボス21に囲まれた領域であり、平面視菱形形状である。各区画領域22の中央部は、該区画領域22を囲む凹部20に対して相対的に隆起して凸部23となっている。
【0012】
本実施形態の表面シート2における線状のエンボス21は、カード法によって形成した繊維ウエブに熱エンボス加工を施して形成されている。熱エンボス加工に代えて、高周波エンボスや超音波エンボスで線状のエンボス21を形成することもできる。
線状のエンボス21においては、表面シート2又はそれを構成する不織布の構成繊維である熱融着性繊維が熱融着により一体化している。線状のエンボス21における熱融着性繊維は、熱融着成分が溶融して繊維の形態を維持していない。
【0013】
本実施形態の表面シート2は、構成繊維として、熱伸長性繊維を含んでいる。熱伸長性繊維は、熱融着性繊維であることが好ましい。
熱伸長性繊維としての熱融着性繊維は、熱融着成分と該熱融着成分より融点の高い高融点成分よりなる複合繊維であることが好ましく、より好ましくは、熱融着成分を鞘、高融点成分を芯とする芯鞘型複合繊維が用いられる。熱融着成分及び高融点成分は、熱可塑性樹脂であることが好ましい。熱融着成分としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリペンテン−1、又はこれらのランダム若しくはブロック共重合体等が挙げられる。高融点成分としては、例えば、ポリエチレンテレフテレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ナイロン−6やナイロン−66などのポリアミド等が挙げられる。
熱融着成分と高融点成分の好ましい組み合わせとしては、ポリエチレンとポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンとポリプロピレン、低融点のポリエチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンとポリブチレンテレフタレート等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。芯鞘型複合繊維は、同芯タイプの他、偏芯タイプのもの、更には繊維の全周の一部に芯成分が露出しているもの等であっても良い。
【0014】
熱融着性繊維は、後述する繊維並列起立部の形成性や凹凸形状の形成性の点から、熱伸長性複合繊維であることが好ましい。熱伸長性複合繊維は、加熱によってその長さが伸びる繊維であり、温度が90℃以上、好ましくは、110℃〜130℃で伸張する繊維である。熱伸長性複合繊維は、表面シート2の製造時に伸長させることにより、起伏の大きい凹凸を形成し得ると共に後述する繊維並列起立部を容易に生じさせることができる。従って、表面シート2として完成した後においては、その多くが伸長した状態となっており、その状態から更に伸長される繊維という意味ではない。伸長後の熱伸長性複合繊維も熱伸長性複合繊維に含める。
【0015】
熱伸長性複合繊維としては、例えば加熱により樹脂の結晶状態が変化して伸びたり、あるいは捲縮加工が施された繊維であって捲縮が解除されて見かけの長さが伸びる繊維が挙げられる。
熱伸長性複合繊維としては、熱融着成分の軟化点より10℃高く、さらに融点より10℃低い温度での伸張率が5〜40、特に10〜30%であることが、繊維並列起立部や凹凸形状を顕著に形成させる点から好ましい。熱伸長性複合繊維の好ましい例は、特開2005−350836号公報の段落〔0024〕〜〔0040〕に記載されている。
【0016】
熱融着成分と高融点成分よりなる複合繊維、特に熱伸長性複合繊維の割合は、表面シートの構成繊維中、40〜100質量%であることが好ましく、より好ましくは70〜100質量%、更に好ましくは95〜100質量%である。これらの複合繊維の以外に配合する繊維としては、熱可塑性樹脂からなる繊維(非複合繊維)等が挙げられる。
【0017】
本実施形態の表面シート2においては、図3及び図4に示すように、凹部20は、線状のエンボス21で形成され、該線状のエンボス21の際(きわ)に隣接する非エンボス領域にある繊維25は、該際においてエンボスの線方向Pと交差する方向Qに概ね揃って配向されている。
より具体的に説明すると、本実施形態の表面シート2は、図3および図4に示すように、線状のエンボス21の近傍に、構成繊維(より具体的には熱伸長性複合繊維)が、該線状のエンボス21から離れる方向に並列に並んで立ち上がる繊維並列起立部24を有している。繊維並列起立部24は、第1線状のエンボス21a及び第2線状のエンボス21bそれぞれに隣接して形成されている。各繊維並列起立部24の繊維25は、図4に示すように、長手方向の一端25aが、熱融着性成分の溶融により線状のエンボス21に固定されており、長手方向の他端側は、表面シート2の平面視において、第1又は第2線状のエンボス21a,21bが延びる方向Pと交差する方向、より具体的には、該方向Pに略直交する方向(Q方向)に向かって延びている。
繊維並列起立部24を形成する繊維25は、図4に示すように、表面シート2の平面視において前記P方向に並列に並んだ状態に配されており、また、図3に示すように、線状のエンボス21から立ち上がるように配されている。立ち上がる方向は、吸収性物品の表面シートとして用いたときに、着用者の肌に近づく方向である。
線状のエンボスを線状に形成することで、線の際から熱伸長性繊維が平行に延びる。線状は、連続した直線や曲線が好ましく、破線の場合、線の間隔が極端に離れなければもかまわないが、線の間隔は2mm以下が好ましい。
また、繊維並列起立部24に配されている繊維25は、繊維並列起立部24を越えて延びる延出部分25bを有しており、それらの延出部分25bは、凸部23に非平行状に延在し、該凸部23、特にその中央部に、交差した構成繊維どうしが互いの交点において熱融着した繊維接合点(図示せず)を形成している。
【0018】
繊維並列起立部24は、肌当接面2a側の表面を構成する繊維に沿って測定した長さL(図3及び図4参照)が、0.5〜4.0mmであることが好ましく、より好ましくは0.5〜2.0mm、更に好ましくは0.5〜1.0mmである。
また、第1又は第2線状のエンボス21a,21bに隣接して形成された繊維並列起立部24は、区画領域22の周囲に、その全周に亘って形成されている場合を100%として、70%以上、特に40%以上の範囲に形成されていることが好ましい。
【0019】
繊維並列起立部24における並列に並んだ繊維間にはストロー状の空間が形成され、該空間を介して、液が線状のエンボス21に向かって引き込まれる。また、線状のエンボス21近傍の繊維が線状のエンボス21が延びる方向と交差する方向に延びつつ起立しているため、線状のエンボス21との境界部に達した液の、線状のエンボス21が延びる方向に沿って移動が比較的起こりにくい。
そのため、表面シート2の肌当接面2a側に供給された液は、図5に示すように、繊維並列起立部24を介して吸収体4へとスムーズに移行し、表面シート2に液が残りが生じにくい。
【0020】
しかも、線状のエンボス21により区画化された区画領域22が形成され、区画領域22の周囲に繊維並列起立部24が形成されているため、区画領域22を跨いでの液の移動が抑制され、表面シート2上を液が流れることによる液漏れ等の不都合が生じ難い。
【0021】
また、本実施形態の表面シート2は、繊維並列起立部24を有する一方、凸部23の中央部に、交差した構成繊維どうしが互いの交点において熱融着した繊維接合点を有しているため、トウや熱可塑性繊維からなる連続フィラメントがその長手方向の全域に亘って並行している表面材と異なり、シートないし不織布としての強度が充分に得られると共に、経血等の有色液の隠蔽性にも優れている。
【0022】
個々の区画領域22の面積は、0.25〜2cm2であることが好ましい。
また、線状のエンボス21の面積率は16%以下、特に14%以下であることが、表面シート中に液が残りにくくなることから好ましい。線状のエンボス21の面積率が高すぎると、シートの凸部が押さえつけられて、表面シートの中に液が残り易くなる。
また、線状のエンボス21の面積率は、10%以上、特に11%以上であることが、液の吸い込み性が向上することから好ましい。線状のエンボス21の面積率が低すぎると、線状のエンボスの幅が細くなり線状のエンボスの強度が確保できないので、液の吸い込み性が悪化する。
線状のエンボスの面積率の測定方法は、実施例において後述する。
【0023】
また、本実施形態の表面シート2は、図3に示すように、非肌当接面側における、繊維並列起立部24と重なる部位に、表面シート2を構成する不織布の構成繊維が、線状のエンボス21から離れる方向に並列に並んでいる繊維並列部26を有している。
繊維並列起立部24と重なる部位に繊維並列部26を有することで、繊維並列起立部24を通して引き込まれた液が、表面シート2の非肌当接面付近に滞留することが防止され、図5に示すように、液Aが、吸収体4へと一層スムーズに移行する。
吸収体4への液の移行性を一層向上させる観点から、表面シート2を、吸収性物品に組み込む際には、図5に示すように、繊維並列部26が吸収体4に略平行に接触するように配置することが好ましい。なお、繊維並列部26は、起立させない以外は、繊維並列起立部24と同様の構成を有することが好ましい。
【0024】
表面シートに線状のエンボスによって囲まれた区画領域を形成する場合、個々の区画領域又は寸法が異なる2種類の区画領域が、黄金比又は白銀比の寸法比率を有して形成されていることが好ましい。
黄金比とは、古代から最も美しいとされる比であり、おおよその比a:bは9:16であるが、本発明における黄金比a:bは9:15〜9:17の範囲とする。黄金比を有する区画領域を形成することで、優れた吸収性能を有する上に、外観の美しい表面シートや吸収性物品を得ることができる。
白銀比とは、日本古来からある木割りを基にした比で、安定した飽きのこない美しさを持つとされる比であり、a:bは1:1.414であるが、本発明における白銀比a:bは1:1.3〜1:1.5の範囲とする。白銀比を有する区画領域を形成することで、優れた吸収性能を有する上に、安定感や安心感を与える表面シートや吸収性物品を得ることができる。
【0025】
個々の区画領域に、黄金比又は白銀比の寸法比率を持たせる例としては、図2に示すように、菱形形状の区画領域22の対角線の長さL1,L2の比を、黄金比又は白銀比a:bとすることが挙げられる。この場合、黄金比又は白銀比a:bのaをL1、bをL2としても良いし、aをL2、bをL1としても良い。また、図に示す21a(21)と21b(21)の交点の中心を起点・終点とする長さを、L1,L2に対応する長さとしても良い。
複数種類の区画領域に、黄金比又は白銀比の寸法比率を持たせる例としては、図6に示すように、寸法や形状等が異なる2種類の区画領域22A,22Bについて、互いに平行又は一直線上に並ぶ対角線L3,L4の長さの比を、黄金比又は白銀比a:bとすることが挙げられる。この場合、黄金比又は白銀比a:bのaをL3、bをL4としても良いし、aをL4、bをL3としても良い。
なお、個々の区画領域の対角線を黄金比または白銀比を構成する仮想線として想起させる場合、吸収性物品端部のラインやサイド溝エンボスが補助的役割を果たす。よって、製品の長手方向に各比の大きい方を一致させるとより効果的である。
【0026】
上述した表面シート2の製造方法について、熱伸長性複合繊維を用いて製造する場合を例に図7を参照しながら説明する。
先ず、所定のウエブ形成手段(図示せず)を用いて表面シート2の原反となるウエブ2Aを作製する。ウエブ2Aは、熱伸長性複合繊維を含むものであるか、又は熱伸長性複合繊維からなるものである。ウエブ形成手段としては、例えば(a)カード機を用いて短繊維を開繊するカード法、(b)溶融紡糸された連続フィラメントを直接エアサッカーで牽引してネット上に堆積させる方法(スパンボンド法)、(c)短繊維を空気流に搬送させてネット上に堆積させる方法(エアレイ法)などの公知の方法を用いることができる。
【0027】
そして、ウエブ2Aをヒートエンボス装置51に導入する。そして、ヒートエンボス装置51内で、ウエブ2Aにヒートエンボス加工が施される。ヒートエンボス装置51は、一対のロール52,53を備えている。ロール52は周面が平滑となっている平滑ロールである。一方、ロール53は、その周面に、線状のエンボス21に対応する格子状の凸部が形成されている彫刻ロールである。各ロール52,53は所定温度に加熱可能になっている。
【0028】
ヒートエンボス加工は、ウエブ2A中の熱伸長性複合繊維の熱融着成分が溶融する温度で行う。ヒートエンボス加工の加工温度は、ウエブ2A中の熱伸長性複合繊維における熱融着成分の融点以上で且つ高融点成分の融点未満の温度で行われることが好ましい。また熱伸長性繊維の伸長開始温度未満の温度で行われることが好ましい。
【0029】
ヒートエンボス加工によって、線状のエンボス21を有する不織布54が得られる。
次いで、その不織布54は、熱風吹き付け装置55に搬送される。熱風吹き付け装置55においては不織布54にエアスルー加工が施される。熱風吹き付け装置55は、所定温度に加熱された熱風が不織布54を貫通するように構成されている。エアスルー加工は、不織布54中の熱伸長性複合繊維が加熱によって伸長する温度で行われる。且つ不織布54における線状のエンボス21以外の部分に存するフリーな状態の熱伸長性複合繊維どうしの交点が熱融着する温度で行われる。尤も、斯かる温度は熱伸長性複合繊維の高融点成分の融点未満の温度で行うことが好ましい。
【0030】
このようなエアスルー加工によって、不織布54に含まれる熱伸長性複合繊維が、線状のエンボス21以外の部分において伸長する。熱伸長性複合繊維はその一部が線状のエンボス21によって固定されているので、伸長するのは線状のエンボス21間の部分である。熱伸長性複合繊維はその一部が線状のエンボス21によって固定されていることによって、伸長した熱伸長性複合繊維の伸び分は、不織布54の平面方向への行き場を失い、エアスルー加工時の熱風吹きつけ側の熱伸長性複合繊維は、該不織布54の厚み方向へ移動する。これによって、線状のエンボス21の近傍に繊維並列起立部24が形成されると共に、線状のエンボス21に囲まれた区画領域の中央部には凸部23が形成される。また、エアスルー加工によって線状のエンボス21間に存する熱伸長性複合繊維どうしの交点が熱融着によって接合され、凸部23には、繊維接合点が3次元的に分散した状態に形成される。
このようにして目的とする表面シート2が得られる。
【0031】
図8は、本発明の吸収性物品の表面シートの他の実施形態を示す図である。図8に示す表面シート2Aについて特に説明しない点は、上述した表面シート2と同様である。
図8に示す表面シート2Aは、上層27と下層28とが積層された2層構造を有しており、表面シート2Aは、上層27側を着用者の肌側に向け、下層28側を吸収体側に向けて吸収性物品に組み込まれて使用される。
【0032】
上層27は、前述した熱伸長性複合繊維からなるか又は該熱伸長性複合繊維を含んでおり、下層28は、該熱伸長性複合繊維を含まないか又は上層27より少量の該熱伸長性複合繊維を含んでいる。上層27と下層28は、エンボス加工によって形成された格子状の接合部で接合されており、該接合部が、表面シート2Aにおける線状のエンボス21となっている。
上層27における線状のエンボス21の近傍には、該線状のエンボス21に隣接して、上述した表面シート2の繊維並列起立部と同様の繊維並列起立部24が形成されており、上層27によって形成される凸部23には、熱伸長性複合繊維どうしが互いの交点において熱融着した熱融着点29が形成されている。
表面シート2Aも、繊維並列起立部24を有するため、表面シート2と同様の作用効果が奏される。
【0033】
表面シート2Aのように、上層27と下層28とが積層された2層構造を有する場合、表面シート2Aの非肌当接面側を構成する下層28には、上層27の構成繊維よりも剛性の高い繊維を用いることが好ましい。非肌当接面側に、剛性の高い繊維を用いることで、表面シートにヨレが生じることを効果的に防止することができる。ここで剛性の高い繊維とは、肌当接面側に用いる繊維よりも融点が高い、または樹脂密度が高い繊維である。
【0034】
本発明の吸収性物品の表面シートは、吸収性物品の表面シートとして用いられる。
吸収性物品は、主として尿や経血等の排泄体液を吸収保持するために用いられるものである。吸収性物品には、例えば使い捨ておむつ、生理用ナプキン、失禁パッド等が包含されるが、これらに限定されるものではなく、人体から排出される液の吸収に用いられる物品を広く包含する。
吸収性物品は、典型的には、表面シート、裏面シート及び両シート間に介在配置された液保持性の吸収体を具備している。吸収性物品は、一般に、着用時に着用者の肌に当接する肌当接面及びそれとは反対側(通常、ショーツ等の衣類側)に向けられる非肌当接面を有し、表面シートは、肌当接面側に配され、裏面シートは、非肌当接面側に配される。本発明における表面シートは、繊維並列起立部が立ち上がる方向を着用者の肌側に向けて配される。
【0035】
図9及び図10は、上述した実施形態の表面シート2を、表面シートとして用いた生理用ナプキン1を示す図である。
生理用ナプキン1における表面シート2は、全域に亘って上述した格子状の線状のエンボス21が形成されている。より具体的には、上述した第1及び第2線状のエンボス21a,21bは、生理用ナプキン1の長手方向の一方の側部11から他方の側部12に至る多数本の線を描くように、ナプキン幅方向の両端部間の全長に亘って形成されている。
線状のエンボス21が、生理用ナプキン1の長手方向の一方の側部11から他方の側部12に至る多数本の線を描くように形成されていることによって、生理用ナプキン1の幅方向からの変形圧力に対してシワが生じることが防止される。生理用ナプキン1に用いた表面シート2は、上述のように、線状のエンボス21の近傍の繊維が液が滲みにくい繊維配向となっているので、エンボス部(線状のエンボス21)を液が滲みて横漏れにつながることを防止しつつ、このようなシワ防止効果を得ることができる。
【0036】
また、生理用ナプキン1は、図10に示すように、長手方向の両側部に、吸収体4の長手方向の長手方向の側縁41より外方にそれぞれ延出した表面シート2及び裏面シート3からなるサイドフラップ部13を有する。表面シート2は、吸収体の側縁41より外方に延出前述した部分にも、前述した区画領域22を有している。表面シート2の、区画領域22及び前述した繊維並列起立部24を有する部分は、それらを有しない場合に比して液を拡散させにくいため、サイドフラップ部13に、表面シート2の区画領域22を有する部分を配することで、表面シート2の側部を覆う防漏性シートや立体ガード等を別途設けなくても、横漏れ防止性に優れた生理用ナプキンとなる。図10中、符号14は、接着剤である。
【0037】
生理用ナプキン1の吸収体4及び裏面シート3としては、当該技術分野において通常用いられている材料を特に制限無く用いることができる。例えば吸収体としては、パルプ繊維等の繊維材料からなる繊維集合体又はこれに吸収性ポリマーを保持させたものを、ティッシュペーパーや不織布等の被覆シートで被覆してなるものを用いることができる。裏面シートとしては、熱可塑性樹脂のフィルムや、該フィルムと不織布とのラミネート等の液不透過性ないし撥水性のシートを用いることができる。裏面シートは水蒸気透過性を有していてもよい。
【0038】
以上、本発明の好ましい幾つかの実施形態について説明したが、本発明の表面シート及び吸収性物品は、上述した実施形態に制限されず、適宜変更が可能である。
例えば、区画領域の平面視形状は、菱形状の限られず、正方形、長方形、平行四辺形、楕円形、三角形等の任意の形状とすることができる。また、一枚の表面シートに、菱形形状の区画領域と平行四辺形状の区画領域とを組み合わせて設ける等、平面視形状の異なる複数種類の区画領域を設けることもできる。
【0039】
また、吸収性物品には、表面シート、吸収体及び裏面シート以外に、吸収性物品の具体的な用途に応じた各種部材を具備していてもよい。そのような部材は当業者に公知である。例えば吸収性物品を使い捨ておむつや生理用ナプキンに適用する場合には、表面シート上の左右両側部に一対又は二対以上の立体ガードを配置することができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例を用いて更に説明するが、本発明は、かかる実施例によって何ら制限されるものではない。
〔実施例1〕
繊維径4dtex伸長率8%の芯鞘型複合繊維(芯がポリプロピレン、鞘がポリエチレン)をカード機に通してウェブとし、該ウエブを、ヒートエンボス装置に導入して、該ウエブに線状のエンボスを形成した。次いで、そのウエブを、熱風吹き付け装置に導入し、エアスルー加工による熱風処理を行い、線状のエンボスの近傍に繊維並列起立部を有する表面シートを得た。得られた表面シートの線状のエンボスの形成パターンは、図2に示すパターンであり、第1及び第2線状のエンボス21a,21bそれぞれの幅W1は0.5mm、第1線状のエンボス21aどうし間の間隔及び第2線状のエンボス21bどうし間の間隔W2は6mm、形成された菱形の区画領域の対角線L1,L2の比(L1:L2)は、7:13であった。また、線状のエンボスの面積率が14%であった。
【0041】
〔線状のエンボスの面積率の測定方法〕
線状のエンボスの面積率は、実物の写真を画像解析して得る。このとき、線状のエンボスに繊維の欠損部分がある場合は手動補正を行い、繊維があるものと仮定して測定する。
【0042】
〔実施例2〕
前述した幅W2及び比(L1:L2)を、順に7.5mm及び9:13に代えた以外は、実施例1と同様にして表面シートを得た。得られた表面シートは、線状のエンボスの面積率が11%であった。
【0043】
〔実施例3〕
前述した実施例1において、用いる繊維を二種類にし(繊維径4dtexの芯鞘型複合繊維(芯がポリプロピレン、鞘がポリエチレン)を重量比50%、及び、繊維径3.3dtexの芯鞘型複合繊維(芯がポリエチレンテレフタレート、鞘がポリエチレン)を重量比50%)にし、それぞれの繊維をカード機に通してウェブとし、該ウエブを重ねて、ヒートエンボス装置に導入して、該ウエブに線状のエンボスを形成した。
【0044】
〔実施例4〕
前述した実施例3において、用いた二種類の繊維を混合してからカード機に通してウェブとし、該ウエブを、ヒートエンボス装置に導入して、該ウエブに線状のエンボスを形成した。
【0045】
〔評価〕
花王株式会社の市販の生理用ナプキン(商品名「ロリエさらさらクッション肌きれい吸収」)から表面シートを取り除き、その代わりに、実施例及び比較例の各表面シートを積層し、その周囲を固定して評価用の生理用ナプキンを得た。
【0046】
各生理用ナプキンを用いて下記の評価を行い、その結果を表1に示した。
〔液残り量〕
生理用ナプキンを水平に置き、直径1cmの注入口のついたアクリル板を重ねて、注入口から脱繊維馬血(日本バイオテスト(株)製)3gを注入し、注入後1分間その状態を保持した。次に、アクリル板を取り除き、表面シートをナプキンからと取り出し、注入前後の表面シートの重さを測定して、シート中に残存した脱繊維馬血の重量を測定して表面液残り量とした。
【0047】
〔吸上げ残存量〕
水平に置いたガラス製の表面平滑なプレート上に、脱繊維馬血(日本バイオテスト(株)製)1gを滴下し、その上に、表面シートを下に向けて生理用ナプキンを載置した。1分間その状態を保持した後生理用ナプキンを取り除き、プレートに残存する脱繊維馬血の重量を測定した。
【0048】
【表1】

【0049】
表1に示す結果から、線状のエンボス21の面積率は、見た目のドライ感につながる液残り量という観点からは14%以下、肌の濡れにつながる吸い上げ残存量という観点からは11%以上がより好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、本発明の吸収性物品の表面シートの一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図2は、図1に示す表面シートの肌当接面側の一部を拡大して示す平面図である。
【図3】図3は、図1に示す表面シートのIII−III線断面を示す模式断面図である。
【図4】図4は、線状エンボス及び該線状エンボスに隣接する繊維並列起立部を、表面シートの肌当接面側から見た顕微鏡写真である。
【図5】図5は、図1に示す表面シートを生理用ナプキン等の吸収性物品の吸収体上に配置した状態を示す断面図である。
【図6】図6は、個々の区画領域又は複数種類の区画領域が、黄金比又は白銀比の寸法比率を有する場合のいくつかの例を示す模式図である。
【図7】図7は、図1に示す表面シートの製造方法の概略説明図である。
【図8】図8は、本発明の表面シートの他の実施形態を示す断面図である。
【図9】図9は、本発明の吸収性物品の一実施形態を表面シート側から見た平面図である。
【図10】図10は、図9のX−X線断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 生理用ナプキン
2 表面シート
2a 表面シートの肌当接面側
2b 表面シートの非肌当接面側
20 凹部
21 線状のエンボス
21a 第1線状のエンボス
21b 第2線状のエンボス
22 区画領域
23 凸部
24 繊維並列起立部
25 繊維並列起立部を構成する繊維
26 繊維並列部
3 裏面シート
4 吸収体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肌当接面側に凹部及び凸部を有し、構成繊維が、熱伸長性繊維を含んでおり、
前記凹部は、線状のエンボスで形成され、該線状のエンボスの際に隣接する非エンボス領域にある繊維は、該際においてエンボスの線方向と交差する方向に概ね揃って配向されている吸収性物品の表面シート。
【請求項2】
前記凸部に、交差した構成繊維どうしが互いの交点において熱融着した熱融着点を有している、請求項1記載の表面シート。
【請求項3】
前記線状のエンボスによって区画化された多数の区画領域を有し、個々の領域の面積が0.25〜2cm2であり、該線状のエンボスの面積率が16%以下である、請求項1又は2に記載の表面シート。
【請求項4】
前記線状のエンボスによって区画化された多数の区画領域を有し、個々の区画領域又は複数種類の区画領域が、黄金比又は白銀比の寸法比率を有して形成されている、請求項1〜3の何れかに記載の表面シート。
【請求項5】
非肌当接面側に、肌当接面側の構成繊維よりも高い曲げ剛性を有する繊維が用いられている、請求項1〜4の何れかに記載の表面シート。
【請求項6】
肌当接面を形成する表面シート、非肌当接面を形成する裏面シート及びこれら両シート間に介在された吸収体を具備する吸収性物品において、
前記表面シートが、請求項1〜5の何れかに記載の表面シートである吸収性物品。
【請求項7】
前記表面シートは、前記線状のエンボスによって区画化された多数の区画領域を有し、該表面シートの前記区画領域を有する部分が、前記吸収体の長手方向の両側縁の位置より幅方向外方に延出している、請求項6に記載の吸収性物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−148730(P2010−148730A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331374(P2008−331374)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】