説明

吸収性物品

【課題】液戻り防止性の改善された吸収性物品の提供。
【解決手段】特に加圧下での液戻り防止性についてより高い性能が求められている。本発明は、平均一次粒子径が3〜30nmの親水性無機化合物を、吸収性物品全量に対し4〜40質量%含有する吸収性物品を提供する。本発明の吸収性物品は、平均一次粒子径が3〜30nmの親水性無機化合物を特定割合で含有することにより、吸収した尿や血液等の体液を吸収性物品内部で増粘、固化させて、流動性を失わせ、圧力がかかった状態でも液戻り等を低減させるものである。このような親水性無機化合物としては、シリカ、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛等の金属酸化物、或いはゼオライト等の複合酸化物が例示でき、この中でシリカが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙おむつ、生理用ナプキン、タンポン、パンティーライナー等の吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、体液を吸収することを目的とした紙おむつ、生理用ナプキンなどの吸収性物品では、その吸収性材料としてパルプや高吸水性ポリマーが幅広く利用されている。しかし、パルプの吸収機構は毛細管現象であるため、吸収量が低く、加圧すると吸収した水を吐き出してしまうという欠点がある。これに対し、高吸水性ポリマーは、吸収機構が高分子電解質と水との親和力及び浸透圧であるため、パルプよりも大量の水を吸収することができ、また吸水状態で加圧しても簡単に水を吐き出さないという特徴を有している。
【0003】
しかしながら、高吸水性ポリマーにおいてもゲルブロッキングにより吸収量、吸水速度が低下する場合があり、ゲルブロッキング現象は被吸収液が血液の場合に顕著である。そこで、高吸水性ポリマーの粒子形態を不定形にすることでゲルブロッキングを抑制した生理用ナプキンが提案されている(特許文献1参照)。また特許文献2には、吸水性樹脂粒子表面に吸水性樹脂100重量部に対して0.05〜5重量部の二酸化ケイ素を付着させることで吸水性樹脂の強度を向上させ、ドライ感を向上させた紙おむつ用吸収剤組成物が開示されている。他方、特許文献3には吸収性コアとシリカを含有する臭気制御システムを備える吸収製品についての開示がある。
【特許文献1】特開平7−184956号公報
【特許文献2】特開平7−88171号公報
【特許文献3】特表平11−512945号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記いずれの技術においても、液戻り防止性、特に加圧下での液戻り防止性については満足されるものではなく、より高い性能が求められている。また、特許文献3においては液戻り防止性については何ら記載がなく、単にシリカを用いるだけでは、吸収性物品における液戻り防止性の改善を実現できるというものではない。
【0005】
すなわち、本発明の課題は、液戻り防止性の改善された吸収性物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、平均一次粒子径が3〜30nmの親水性無機化合物を、吸収性物品全量に対し4〜40質量%含有する吸収性物品を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の吸収性物品は、尿はもとより、経血、循環血、脱繊維血等の血液をも効果的に固定化することが可能となり、これにより、多量に血液等の体液を吸収しても液戻りを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の吸収性物品は、平均一次粒子径が3〜30nmの親水性無機化合物を特定割合で含有することにより、吸収した尿や血液等の体液を吸収性物品内部で増粘、固化させて、流動性を失わせ、圧力がかかった状態でも液戻り等を低減させるものである。
【0009】
ここで、血液とは、人間もしくは動物の循環血及び経血、並びにそれらから特定の成分を取り除いた血液などのことである。
【0010】
本発明における尿や血液の増粘、固化とは、親水性無機化合物と尿や血液中の何らかの成分との相互作用により、尿や血液全体の流動性が失われる現象を意味し、高吸水性ポリマーのように尿や血液中の水分を吸収するものとはメカニズムが異なる。
【0011】
本発明において、無機化合物が「親水性」とは、以下の実施例に示す親水性の判断方法に従って、水に無機化合物を散布したときに、10分以内に水面下に沈降したものをいう。
【0012】
このような親水性無機化合物としては、シリカ、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛等の金属酸化物、或いはゼオライト等の複合酸化物が例示でき、この中でシリカが好ましく、シリカとしては非晶質シリカがより好ましく、ヒュームドシリカがさらに好ましい。本発明の親水性無機化合物は多孔質であっても、非多孔質であってもよい。これらの親水性無機化合物は1種単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0013】
本発明に用いられる親水性無機化合物の平均一次粒子径は、尿や血液の流動性を迅速に、効率よく失わせる観点から、30nm以下であり、20nm以下が好ましく、15nm以下がより好ましく、10nm以下が更に好ましい。また、化合物の取り扱い性の観点から、3nm以上であり、5nm以上が好ましい。粒子は一次粒子のままでもよく、又は一次粒子が凝集した粒子でもよい。平均一次粒子径は、例えば走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡による観察で測定することができる。
【0014】
本発明に用いられる親水性無機化合物の嵩比重は、尿や血液の流動性を迅速に、効率よく失わせる観点から、300g/L以下が好ましく、200g/L以下がより好ましく、100g/L以下が更に好ましい。また、嵩比重の下限は特に限定されないが、静電気の発生等の化合物の取り扱い性の観点から、3g/L以上が好ましく、10g/L以上が更に好ましく、20g/L以上が特に好ましい。ここで、嵩比重は、JIS規格K6720−2の方法で測定された値である。
【0015】
親水性無機化合物の比表面積は特に限定されるものではないが、尿や血液の流動性を迅速に、効率よく失わせる観点から、10m2/g以上が好ましく、50m2/g以上がより好ましく、100m2/g以上が更に好ましく、200m2/g以上が特に好ましい。また化合物の強度の観点から、2000m2/g以下が好ましく、1200m2/g以下が更に好ましく、1000m2/g以下が特に好ましい。
【0016】
尚、本明細書において、無機化合物の比表面積は、無機化合物の表面に吸着される気体の吸着量、その時の平衡圧、吸着ガスの飽和蒸気圧から単分子層として表面を覆いきる気体量を求め、これに吸着気体分子の平均断面積を乗じて算出されるBET比表面積を指すものであり、吸着気体としては、窒素ガス、酸素ガス、アルゴンガス、メタンガス等が使用される。この方法によれば、細孔を含めた表面積値が測定される。
【0017】
本発明の吸収性物品は、上記親水性無機化合物を含有するものであれば、構成、形状、他の成分等に制限はない。ここで、吸収性物品とは、紙おむつ、生理用ナプキン、タンポン、パンティーライナー、創傷治療用品、ドレープ吸収材、手術用シートなど、血液等の体液を吸収することを目的とした物品のことである。
【0018】
本発明の吸収性物品の好ましい構成としては、液透過性のトップシート、液不透過性のバックシート、及びトップシートとバックシートの間にある吸収性コアを含んでなる構造体を挙げることができ、そのような構造体において利用価値が高い。トップシートとは、肌と直接接する表面材のことであり、多くは不織布やフィルムで作られ、尿や経血などの体液を素早く透過することが機能として要求される。またバックシートとは、吸収した体液を漏らさないようにフィルム等で作られている裏面材のことであり、通常の使用条件で液体を透過しない機能が要求される。さらに、吸収性コアとはトップシートとバックシートの間にあり、体液を吸収保持する中心的部位のことである。吸収性コアは、パルプ、吸水性樹脂(高吸水性ポリマー)、紙、不織布等によって構成されており、体液を吸収・固定化する機能を有する。
【0019】
本発明の吸収性物品は、親水性無機化合物を含有する場所について特に制限はなく、吸収性コアの上層、あるいは下層、吸収性コア全体など、自由に選択することができる。体液の固化性、装着者の肌接触性との観点からは、吸収性コア全体に親水性無機化合物を含有させるのが好ましい。また、吸収性コアの下層に多く分布させることにより、親水性無機化合物が吸収性コア間に含まれた液体を吸収して固化する作用が働き、吸収性コアにおける液体量が減少するため、液戻り防止性がより向上し、さらに好ましい。
【0020】
本発明の吸収性物品中の親水性無機化合物の含有量は、体液の固化性能及び液戻り防止性の観点から、吸収性物品全量に対して4質量%以上であり、6質量%以上が好ましい。また含有量の上限は、吸収性物品の成形性の観点から、40質量%以下であり、30質量%以下が好ましい。
【0021】
本発明の吸収性物品が吸水性ポリマーを含有する場合、親水性無機化合物による液戻り性の効果を十分に発揮させるため、吸水性ポリマーの含有量は親水性無機化合物の10重量倍以下が好ましい。また、本発明の吸収性物品は、吸水性ポリマーを含有しなくてもよい。
【0022】
また親水性無機化合物を吸収性物品に含有させる手段については特に限定されず、例えば、親水性無機化合物の水溶液あるいは水分散液をスプレー等で吸収性物品の吸収性コアに散布し乾燥させる方法、親水性無機化合物を溶解あるいは分散させた水中に吸収性コアを含浸し乾燥させる方法などが望ましい。
【0023】
尿や血液等の体液の増粘、固化作用は、親水性無機化合物と体液が接触すると同時に起こる。したがって、被吸収液が血液の場合、血液中の水分を吸収する吸水性ポリマーと比較して、親水性無機化合物は素早く血液の流動性を失わせることが可能である。その結果、親水性無機化合物を含有する吸収性物品は、液戻り防止性等の点において優れた性能を発揮する。すなわち、本発明の吸収性物品は、生理用ナプキン、タンポン、パンティーライナー等に、より好適に用いることができる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。しかし、本発明の範囲はかかる実施例に限定されるものではない。
【0025】
尚、実施例及び比較例に用いた無機化合物A〜Fの物性と、以下の方法で行った親水性の判断結果をまとめて表1に示す。
【0026】
<親水性の判断方法>
親水性の判断は、200mLの水の入った300mLビーカーの中に、無機化合物0.1gを均一に散布し、無機化合物の水への沈降性を観察することで行った。10分後に90質量%以上が水面下に沈降したものを親水性であると判断し、○で示す。10分後に90質量%未満が水面下に沈降したものを親水性ではないと判断し、×で示す。
【0027】
【表1】

【0028】
実施例1
生理用ナプキンとして、市販のロリエさらさらクッションふつう用ウイングつき(花王(株)製、吸水性ポリマーを2.4質量%含有、販売名:ロリエNW−a−11、ロリエは登録商標、以下同じ)を用いた。各生理用ナプキンのトップシートを縁部に沿って切ることにより、吸収性繊維状コアを露出させた。
【0029】
親水性無機化合物として無機化合物Aを用い、無機化合物Aの5.0質量%イオン交換水分散液10gを霧状噴射機にて吸収性繊維状コアに吹き付けて含浸させた後、室温(22℃、53%RH)にて1日乾燥させて、吸収性コアを再構築した。次いで、トップシートを本来の位置に戻して生理用ナプキンを得た。得られた生理用ナプキン全量に対する無機化合物Aの含有量は8.3質量%であり、吸水性ポリマーの含有量が無機化合物Aの0.29重量倍であった。
【0030】
実施例2
無機化合物Aの2.5質量%水分散液を10g使用する以外は、実施例1と同じ方法で親水性無機化合物を含有する生理用ナプキンを作製した。得られた生理用ナプキン全量に対する無機化合物Aの含有量は4.3質量%であり、吸水性ポリマーの含有量が無機化合物Aの0.58重量倍であった。
【0031】
実施例3〜5
無機化合物Aの代わりに無機化合物B〜Dを用いる以外は、実施例1と同じ方法で親水性無機化合物を含有する生理用ナプキンを作製した。
【0032】
実施例6
生理用ナプキンとして、実施例1と同じ市販のロリエさらさらクッションふつう用ウイングつきを用い、生理用ナプキンのバックシートを縁部に沿って切ることにより、吸収性繊維状コアを露出させる以外は実施例1と同様にして、イオン交換水に分散させた無機化合物Aの水分散液を、コアの裏面より霧状噴射機にて吹き付けて含浸させ、その後、吸収性コアを再構築し、次いで、バックシートを本来の位置に戻して生理用ナプキンを得た。
【0033】
実施例7
生理用ナプキンとして、市販のロリエさらさらクッションウイングなし(販売名:ロリエNs−114,吸水性ポリマーなし)を用いる以外は、実施例6と同じ方法で親水性無機化合物を含有する生理用ナプキンを作製した。
【0034】
得られた生理用ナプキン全量に対する無機化合物Aの含有量は10質量%であり、吸水性ポリマーは含有しない。
【0035】
比較例1
生理用ナプキンとして、市販のロリエさらさらクッションふつう用ウイングつき(花王(株)製、販売名:ロリエNW−a−11)を用いた。つまり、親水性無機化合物を生理用ナプキンに添加しなかった以外は、実施例1と同じ生理用ナプキンを用いた。
【0036】
比較例2
無機化合物Aの5.0質量%イオン交換水分散液10gの代わりに無機化合物Eの5.0質量%エタノール分散液10gを用いる以外は、実施例1と同じ方法で無機化合物を含有する生理用ナプキンを作製した。
【0037】
比較例3
無機化合物Aの5.0質量%イオン交換水分散液10gを霧状噴射機にて吸収性繊維状コアに吹き付けて含浸させた後、室温(22℃、53%RH)にて1日乾燥させる代わりに、無機化合物F0.5gを吸収性繊維状コアに直接散布する以外は、実施例1と同じ方法で無機化合物を含有する生理用ナプキンを作製した。
【0038】
比較例4
無機化合物Aの1.2質量%水分散液を10g使用する以外は、実施例1と同じ方法で親水性無機化合物を含有する生理用ナプキンを作製した。得られた生理用ナプキン全量に対する無機化合物Aの含有量は2.0質量%であった。
【0039】
比較例5
生理用ナプキンとして、市販のロリエさらさらクッションウイングなし(販売名:ロリエNs−114,吸水性ポリマーなし)を用いた。つまり、親水性無機化合物を生理用ナプキンに添加しなかった以外は、実施例7と同じ生理用ナプキンを用いた。
【0040】
実施例1〜7及び比較例1〜5の生理用ナプキンを用いて、以下の方法で脱繊維馬血の液戻り量を測定した。結果を表2に示す。
【0041】
<脱繊維馬血の液戻り量の測定法>
生理用ナプキンを、トップシート側を上面にして水平に置き、直径5mmの注入口のついたアクリル板と重りを載せて、生理用ナプキンに4g/cm2の荷重がかかるようにした。次いで注入孔から脱繊維馬血6gを注入した後、1分間その状態を保持した後、アクリル板と重りを外し、生理用ナプキンの上に6cm×10cmで坪量23g/m2の吸収紙(市販のティッシュペーパー)を24枚、試験用の生理用ナプキンの肌当接面側に重ね、70g/cm2の荷重を2分間かけた。荷重後、吸収紙24枚を取りだし、荷重前後の吸収紙の重さを測定して、吸収紙に吸収された血液量を求めることにより、生理用ナプキンの表面から戻った血液の戻り量を求めた。
【0042】
【表2】

【0043】
表2に示す結果から明らかなように、本発明に係わる生理用ナプキンは、比較の生理用ナプキンに比べ脱繊維馬血の液戻り量を減少できることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均一次粒子径が3〜30nmの親水性無機化合物を、吸収性物品全量に対し4〜40質量%含有する吸収性物品。
【請求項2】
吸水性ポリマーの含有量が親水性無機化合物の10重量倍以下である、請求項1記載の吸収性物品。
【請求項3】
吸水性ポリマーを含有しない、請求項1記載の吸収性物品。
【請求項4】
親水性無機化合物の比表面積が10m2/g以上である請求項1〜3のいずれかに記載の吸収性物品。
【請求項5】
親水性無機化合物が、非晶質シリカである請求項1〜4のいずれかに記載の吸収性物品。
【請求項6】
液透過性のトップシート、液不透過性のバックシート、及びトップシートとバックシートの間にある吸収性コアを含む請求項1〜5のいずれかに記載の吸収性物品。
【請求項7】
親水性無機化合物が、吸収性コアに含有されている請求項6記載の吸収性物品。

【公開番号】特開2007−159690(P2007−159690A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−357343(P2005−357343)
【出願日】平成17年12月12日(2005.12.12)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】