説明

吸収性物品

【課題】軟便や水様便の流動・拡散を阻害することができるのは勿論のこと、着用者に対して快適な着用感を与えることができ、スキントラブルも発生し難い吸収性物品を提供する。
【解決手段】吸収体22と、少なくとも一部が液透過性材料からなり、吸収体22の上面を被覆するように配置されたトップシート18と、液不透過性材料からなり、吸収体22の下面を被覆するように配置されたバックシート20と、を備え、トップシート18は、その表面側の一部に、軟便流動速度が小さい流動阻害領域50を有するものであり、流動阻害領域50は、トップシート18に、凸部及び凹部のうちの少なくとも一種が形成されたものである吸収性物品。
[軟便流動速度]粘度200cpsの擬似軟便が、傾斜角30°の斜面上に配置された測定サンプルの表面を流動する速度。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収体、トップシート、バックシートを備えた吸収性物品であり、トップシートの一部に軟便や水様便の流動・拡散を阻害する流動阻害領域を有する吸収性物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、乳幼児用、或いは高齢者・障害者用のおむつとして、吸収体と、少なくとも一部が液透過性材料からなり、吸収体の上面を被覆するように配置されたトップシートと、液不透過性材料からなり、吸収体の下面を被覆するように配置されたバックシートとを備えた使い捨ておむつが汎用されている。
【0003】
このような使い捨ておむつは、トップシートの表面を着用者の肌に接するように宛がって使用することにより、着用者の排泄した尿はトップシートを透過して、吸収体によって吸収・保持されるとともに、防漏性に優れたバックシートによって、排泄物のおむつ外部への漏洩が防止されるものである。
【0004】
しかしながら、前記のような構成の使い捨ておむつは、尿の吸収・保持を念頭に作られたものであり、軟便や水様便の吸収・保持についてはあまり考慮されていなかった。即ち、軟便や水様便は固形分を含み粘性があるため、尿と比較してトップシートを透過し難い。従って、トップシートを透過し、吸収体に吸収される前に、トップシートの表面上を流動して広い領域に拡散してしまい、おむつ外部への漏れが生じ易いという問題がある。
【0005】
そこで、トップシートの表面のうち、股下部領域の両側に、複数の短冊片を重ね合わせて固定した房状の体液防漏手段を備えた使い捨ておむつが提案されている(特許文献1参照)。また、前記房状の体液防漏手段を、トップシートの表面のうち股下部領域に、おむつの幅方向に向かって延びるように配置した使い捨ておむつも提案されている(特許文献2参照)。このような構造の使い捨ておむつでは、房状の体液防漏手段によって軟便や水様便の流動・拡散を阻害することが期待できる。
【0006】
【特許文献1】特開2005−230103号公報
【特許文献2】特開2005−342203号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記の使い捨ておむつは、体液防漏手段を構成する短冊片の縁部や角部が着用者の肌に接触するため、着用者の肌に対して刺激を与えてしまうおそれがあった。即ち、着用者に対して快適な着用感を与え、スキントラブルを発生させ難くする、という観点からは未だ不十分なものであり、解決すべき課題が残されていた。
【0008】
本発明は、このような従来技術の課題を解決するためになされたものであって、軟便や水様便の流動・拡散を阻害することができるのは勿論のこと、着用者に対して快適な着用感を与えることができ、スキントラブルも発生し難い吸収性物品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記の従来技術の課題を解決するために鋭意検討した結果、従前の使い捨ておむつにおいては、体液防漏手段が房状であり、複数の短冊片の集合体であるために、前記の諸問題が発生しているという知見を得た。そして、トップシートの表面を加工して凸部や凹部を形成し、その凸部等によって軟便の流動を阻害すること等によって、前記課題が解決されることに想到し、本発明を完成させた。具体的には、本発明により、以下の吸収性物品が提供される。
【0010】
[1] 吸収体と、少なくとも一部が液透過性材料からなり、前記吸収体の上面を被覆するように配置されたトップシートと、液不透過性材料からなり、前記吸収体の下面を被覆するように配置されたバックシートと、を備え、前記トップシートは、その表面側の一部に、下記軟便流動速度が小さい流動阻害領域を有するものであり、前記流動阻害領域は、前記トップシートに、凸部及び凹部のうちの少なくとも一種が形成されたものである吸収性物品。
[軟便流動速度]粘度200cpsの擬似軟便が、傾斜角30°の斜面上に配置された測定サンプルの表面を流動する速度。
【0011】
[2] 前記流動阻害領域として、前記トップシートの便落下領域より側方の領域に、吸収性物品の前後方向に沿って形成された第1流動阻害領域を有する前記[1]に記載の吸収性物品。
【0012】
[3] 前記流動阻害領域として、前記トップシートの便落下領域より後方の領域に、吸収性物品の前後方向と直交する方向に形成された第2流動阻害領域を有する前記[1]に記載の吸収性物品。
【0013】
[4] 前記流動阻害領域として、前記トップシートの便落下領域より前方の領域に、吸収性物品の前後方向と直交する方向に形成された第3流動阻害領域を有する前記[1]に記載の吸収性物品。
【0014】
[5] 前記流動阻害領域として、前記トップシートの便落下領域より側方の領域に、吸収性物品の前後方向に沿って形成された第1流動阻害領域と、前記便落下領域より後方の領域に、吸収性物品の前後方向と直交する方向に形成された第2流動阻害領域とを有し、前記第1流動阻害領域と前記第2流動阻害領域とが、前記便落下領域を三方から包囲するように、連続的に形成されている前記[1]に記載の吸収性物品。
【0015】
[6] 前記流動阻害領域として、前記トップシートの便落下領域より側方の領域に、吸収性物品の前後方向に沿って形成された第1流動阻害領域と、前記便落下領域より後方の領域に、吸収性物品の前後方向と直交する方向に形成された第2流動阻害領域と、前記便落下領域より前方の領域に、吸収性物品の前後方向と直交する方向に形成された第3流動阻害領域とを有し、前記第1流動阻害領域と前記第2流動阻害領域と前記第3流動阻害領域とが、前記便落下領域を四方から包囲するように、連続的に形成されている前記[1]に記載の吸収性物品。
【0016】
[7] 前記流動阻害領域が、少なくとも前記トップシートの便落下領域に形成されている前記[1]に記載の吸収性物品。
【0017】
[8] 撥水性シートからなり、立体的に起立可能に構成された、一対の立体ギャザーを備え、前記立体ギャザーは、その内面側の一部に、前記軟便流動速度が小さい流動阻害領域を有するものであり、前記流動阻害領域は、前記立体ギャザーに、凸部及び凹部のうちの少なくとも一種が形成されたものである前記[1]〜[7]のいずれかに記載の吸収性物品。
【発明の効果】
【0018】
本発明の吸収性物品は、軟便や水様便の流動・拡散を阻害することができるのは勿論のこと、着用者に対して快適な着用感を与えることができ、スキントラブルも発生し難い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の吸収性物品を実施するための最良の形態について説明する。但し、本発明はその発明特定事項を備える吸収性物品を広く包含するものであり、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0020】
なお、「前身頃」とは、着用者に吸収性物品を装着した際に、着用者の腹側(身体前方)を覆う部分、「股下部」とは、着用者に吸収性物品を装着した際に、着用者の股下を覆う部分、「後身頃」とは、着用者に吸収性物品を装着した際に、着用者の背側(身体後方)を覆う部分を意味するものとする。
【0021】
[1]本発明の吸収性物品の特徴部分の構成:
本発明の吸収性物品は、図1に示すように、トップシート18の表面側の一部に、軟便流動速度が小さい流動阻害領域50を有し、その流動阻害領域50は、トップシート18に、凸部及び凹部のうちの少なくとも一種が形成されている点に特徴がある。
【0022】
トップシートに凸部又は凹部を形成すると、軟便や水様便は凸部を乗り越え、凹部を満たしながらトップシートの表面上を流動・拡散する。従って、通常よりも軟便や水様便の流動が阻害され、その拡散を遅滞させることができる。即ち、軟便や水様便がトップシートの表面上を流動して広い領域に拡散するのに先立って、軟便や水様便を十分に吸収体に吸収させることが可能となり、吸収性物品外部への漏れが有効に防止される。
【0023】
また、本発明の吸収性物品は、特許文献1及び2に記載される房状の体液防漏手段のように複数の短冊片を有していないため、短冊片の縁部や角部が着用者の肌に接触して、着用者の肌に対して刺激を与えることがない。従って、着用者に対して快適な着用感を与え、スキントラブルを発生させ難くすることができる。
【0024】
[1−1]流動阻害領域:
本発明の吸収性物品は、トップシートの表面側の一部に、軟便流動速度が小さい流動阻害領域を有している。そして、その流動阻害領域は、トップシートに、凸部及び凹部のうちの少なくとも一種が形成されたものである。
【0025】
トップシートの他の部位と比較して、軟便流動速度が小さい限り、「凸部」、「凹部」の形状・構造について特に制限はない。例えば、以下のような形態のものを挙げることができる。
【0026】
[1−1A]凸部:
「凸部」とは、非加工時のトップシートの表面を基準面として、これより突出している部分を意味する。具体的には、突起、畝、襞、皺、起毛等の形態を挙げることができる。
【0027】
「突起」は、トップシートに、点在的に複数箇所形成される凸部である。着用者の肌に対する刺激を少なくするため、肌と接触する先端部が平面的に形成されている形状又はR形状であることが好ましい。例えば、円柱状、半球状等の形状等を好適に用いることができる。
【0028】
「突起」は、トップシートに、行列状、千鳥状等に配置すればよい。「突起」は、例えば、所望形状の突起が彫刻されたエンボスロールを用い、トップシートとなる液透過性シートの裏面側からエンボス加工を施して突起部分を打ち出す方法等で形成することができる。また、水流により、トップシートとなる液透過性シートの裏面側からウォータージェット加工を施して突起部分を打ち出す等の方法で形成することもできる。
【0029】
「畝」は、トップシートに、線状又は帯状に形成される凸部である。例えば、断面形状が半円形、矩形、台形等の形状のものを好適に用いることができる。断面形状が矩形や台形の場合には、エッジ部分の当たりを柔らかくするため、面取りしてR形状とすることも好ましい。
【0030】
「畝」は、トップシートに、一箇所又は複数箇所形成することができる。そして、「畝」は、軟便や水様便の流動方向と直交するように配置することが好ましい。軟便や水様便は着用者の臀溝に沿って、吸収性物品の前後方向に向かって流動するので、吸収性物品の前後方向と直交する方向、即ち、吸収性物品の左右方向に向かって配置することが好ましい。「畝」についても、「突起」と同様にエンボス加工等により形成することができる。
【0031】
「襞」は、トップシートが上側に凸となるように、折り曲げられることによって形成される凸部である。「襞」は、一箇所又は複数箇所形成することができる。そして、「畝」と同様に、軟便や水様便の流動方向と直交する方向、即ち、吸収性物品の左右方向に向かって配置することが好ましい。「襞」については、トップシートの一部を折り曲げ加工することによって形成することができる。
【0032】
「皺」は、トップシートを表面方向に圧縮することにより形成される縮み皺状の凸部である。「皺」は、トップシートに、一箇所又は複数箇所形成することができる。そして、「畝」や「襞」と同様に、軟便や水様便の流動方向と直交する方向、即ち、吸収性物品の左右方向に向かって配置することが好ましい。「皺」については、トップシートの一部をクレープ加工する、クレープ加工された液透過性シートを継ぎ合わせてトップシートの一部とする等の方法で形成することができる。
【0033】
「起毛」は、トップシートの一部を毛羽立たせることにより形成される凸部である。そして、起毛方向を軟便や水様便の流動方向と逆らう方向、即ち、起毛方向が吸収性物品の中心に向かうように毛羽立たせることが好ましい。「起毛」は、トップシートに、一箇所又は複数箇所形成することができる。「起毛」については、トップシートの一部を起毛加工する、起毛加工された液透過性シートを継ぎ合わせてトップシートの一部とする等の方法で形成することができる。
【0034】
[1−1B]凹部:
「凹部」とは、非加工時のトップシートの表面を基準面として、これより凹んでいる部分を意味する。具体的には、開孔、窪み、溝等の形態を挙げることができる。
【0035】
「開孔」は、トップシートを貫通するように形成される凹部である。トップシートに開孔を形成すると、その開孔を通じて軟便や水様便の水分が吸収体に吸収され、軟便流動速度を低下させることができる。また、軟便や水様便自体がその開孔を通過することが可能となる。従って、水様便や軟便のように粘度が高く、トップシートを透過し難い液体の透過性を高めることができるという利点もある。
【0036】
「開孔」の形状について特に制限はないが、例えば、円形、楕円形等が好ましい。円形の場合、直径2〜20mmの範囲が好ましく、10〜20mmの範囲が更に好ましい。楕円形の場合、短径が2〜10mm、長径が5〜20mmの範囲が好ましく、短径が5〜10mm、長径が10〜20mmの範囲が更に好ましい。また、流動阻害領域における開孔率は、10〜50面積%の範囲が好ましく、20〜50面積%の範囲が更に好ましい。
【0037】
「開孔」は、トップシートに、行列状、千鳥状等に配置すればよい。「開孔」は、例えば、トップシートとなる液透過性シートの所望の部分について孔開け加工を施す等の方法で形成することができる。
【0038】
なお、「開孔」の一形態として、トップシートの一部を目の粗いシートやメッシュシートで構成する形態を挙げることができる。
【0039】
「目の粗いシート」としては、例えば、エアスルー不織布等の嵩高で空隙を多く形成することができる不織布シートを用いることができる。トップシートを構成する不織布としては、目付け15〜40g/mのエアスルー不織布が用いられることが一般的である。従って、流動阻害領域を構成するシートとしては、目付け15〜40g/mのエアスルー不織布を用いることが好ましい。
【0040】
「メッシュシート」とは、糸を網目織りにしたシートであり、例えば、糸を平織り等の織り方で織り上げたシートを用いることができる。目穴サイズ3〜5mmφの目穴が形成されたものが好適に用いられる。メッシュシートは複数枚を重ねて用いることもできる。メッシュシートを構成する繊維素材としては、綿、黄麻、ケナフ、亜麻、インド麻、マニラ麻等の天然繊維;レーヨン、リヨセル、キュプラ、アセテート、トリアセテート、ビニロン、アクリル、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸等の化学繊維;等を挙げることができる。
【0041】
「窪み」は、トップシートに形成される非貫通の凹部である。「窪み」の形状について特に制限はないが、例えば、開口形状が円形、楕円形等で椀状の内部空間が形成されているものが好ましい。但し、円柱状、楕円柱状の内部空間が形成されているものであってもよいし、円錐状、角錐状の内部空間が形成されているものであってもよい。
【0042】
開口形状が円形の窪みの場合、開口径は2〜20mmの範囲が好ましく、10〜20mmの範囲が更に好ましい。深さは最深部で2〜15mmであることが好ましく、3〜10mmであることが更に好ましい。開口形状が楕円形の窪みの場合、短径が2〜10mm、長径が5〜20mmの範囲が好ましく、短径が5〜10mm、長径が10〜20mmの範囲が更に好ましい。深さは最深部で2〜15mmであることが好ましく、3〜10mmであることが更に好ましい。また、流動阻害領域において窪みの開口面積率は、10〜50面積%の範囲が好ましく、20〜50面積%の範囲が更に好ましい。
【0043】
「窪み」も、トップシートに、行列状、千鳥状等に配置すればよい。「窪み」は、例えば、窪みと相補的な形状の突起が彫刻されたエンボスロールを用い、トップシートとなる液透過性シートの表面側からエンボス加工等を施して突起部分を打ち出す等の方法で形成することができる。また、水流により、トップシートとなる液透過性シートの裏面側からウォータージェット加工を施して突起部分を打ち出す等の方法で形成することもできる。
【0044】
「溝」は、トップシートに、線状又は帯状に形成される凹部である。例えば、溝の断面形状が半円形、三角形、矩形、台形等の形状のものを好適に用いることができる。「溝」は、トップシートに、一箇所又は複数箇所形成することができる。そして、「溝」の場合は、吸収性物品の前後方向と直交する方向、即ち、吸収性物品の左右方向に向かって配置することが好ましい。「溝」の深さは最深部で2〜15mmであることが好ましく、3〜10mmであることが更に好ましい。「溝」については、トップシートにエンボス加工等を施すことにより形成することができる。
【0045】
なお、本発明の吸収性物品においては、トップシートに、「凹部」と「凸部」を組み合わせて形成してもよい。
【0046】
[1−1C]配置位置:
流動阻害領域は、トップシートの表面側の一部に形成されていればよい。軟便や水様便の流動を阻害するという効果を発揮させるためには、トップシートの便落下領域の周縁に流動阻害領域を形成することが好ましい。ここで、「便落下領域」とは、吸収性物品を着用した状態において、着用者の肛門の直下に位置する領域を意味し、通常は、トップシートの股下部領域及び/又は後身頃領域の一部である。
【0047】
本発明の吸収性物品は、図4Aに示すように、流動阻害領域50として、トップシート18の便落下領域52より側方の領域に、吸収性物品の前後方向に沿って形成された第1流動阻害領域50aを有するものが好ましい。このような位置に流動阻害領域を配置することで、おむつの脚周り開口部やインナーパッドの側縁部からの軟便や水様便の漏れを効果的に抑制することができる。
【0048】
また、本発明の吸収性物品は、図4Bに示すように、流動阻害領域50として、トップシート18の便落下領域52より後方の領域に、吸収性物品の前後方向と直交する方向に形成された第2流動阻害領域50bを有するものが好ましい。
【0049】
このような位置に流動阻害領域を配置することで、おむつやインナーパッドの後身頃側端部からの軟便や水様便の漏れを効果的に抑制することができる。また、吸収性物品の前後方向と直交する方向、即ち、吸収性物品の左右方向に向かって流動阻害領域を形成することで、着用者の臀溝に沿って軟便や水様便が吸収性物品前方へ流動・拡散する事態を確実に回避することができる。
【0050】
更に、本発明の吸収性物品は、図4Cに示すように、流動阻害領域50として、トップシート18の便落下領域52より前方の領域に、吸収性物品の前後方向と直交する方向に形成された第3流動阻害領域50cを有するものが好ましい。このような位置に流動阻害領域を配置することで、軟便や水様便が吸収性物品前方に流動・拡散することを抑制することができる。
【0051】
前記形態では、便落下領域より前方の領域の中でも、トップシートの股下部領域に流動阻害領域を配置することが好ましい。このような位置に流動阻害領域を配置することで、軟便や水様便の性器周りへの付着を有効に防止することができる。この効果をより確実に発揮させるためには、吸収性物品を着用した状態において、着用者の会陰部の直下に位置する領域に、流動阻害領域を配置することが好ましい。
【0052】
更にまた、本発明の吸収性物品は、図4Dに示すように、トップシート18の便落下領域52より側方の領域に、吸収性物品の前後方向に沿って形成された第1流動阻害領域50aと、便落下領域52より後方の領域に、吸収性物品の前後方向と直交する方向に形成された第2流動阻害領域50bとを有し、第1流動阻害領域50aと第2流動阻害領域50bとが、便落下領域52を三方から包囲するように、連続的に形成されていることが好ましい。
【0053】
第1流動阻害領域に加えて、第2流動阻害領域を形成することによって、漏れが発生し易い、おむつの脚周り開口部(又はインナーパッドの側縁部)とおむつやインナーパッドの後身頃側端部からの軟便や水様便の漏れを効果的に抑制することができる。また、便落下領域が、全体としてコの字型を呈するように配置され、後方及び両側方の三方向から連続的に包囲されるため、第1流動阻害領域と第2流動阻害領域を個別に形成した場合よりも高い漏れ防止効果が発揮される。
【0054】
また、本発明の吸収性物品は、図4Eに示すように、流動阻害領域50として、トップシート18の便落下領域52より側方の領域に、吸収性物品の前後方向に沿って形成された第1流動阻害領域50aと、便落下領域52より後方の領域に、吸収性物品の前後方向と直交する方向に形成された第2流動阻害領域50bと、便落下領域52より前方の領域に、吸収性物品の前後方向と直交する方向に形成された第3流動阻害領域50cとを有し、第1流動阻害領域50aと第2流動阻害領域50bと第3流動阻害領域50cとが、便落下領域52を四方から包囲するように、連続的に形成されていることが好ましい。
【0055】
この形態は、図4Dの形態と同様の効果を有することに加え、軟便や水様便が吸収性物品前方に流動・拡散することを抑制することができる。従って、軟便や水様便の性器周りへの付着を有効に防止することができる。
【0056】
更に、本発明の吸収性物品は、便落下領域を包囲するのみならず、図4Fに示すように、流動阻害領域50が、少なくともトップシート18の便落下領域52に形成されていることも好ましい(第4流動阻害領域50d)。
【0057】
このような形態は、流動阻害領域を帯状に形成した場合のように、既に拡散している軟便や水様便の流動を阻害するのみならず、軟便や水様便がトップシート表面に落下した直後から、トップシートの表面における拡散自体を阻害することができるという利点がある。
【0058】
この場合、第4流動阻害領域は、その面積比率が吸収性物品の後半分(吸収性物品を全長の1/2の部分で前後に分割した場合の後方の領域を指す。)のトップシートの面積に対して、5〜90%の範囲内であることが好ましい。面積比率を5%以上とすると、第4流動阻害領域の面積が肛門の直下の部分の面積より大きく形成されることになり、少なくとも肛門の直下の領域においては効果を得ることができる。一方、面積比率が85%程度になるとほぼ後身頃が覆われるようになり、臀溝に沿って水様便が拡散したような場合でも十分な効果を得ることができる。従って、第4流動阻害領域の面積比率を必ずしも90%超とする必要はない。
【0059】
インナーパッドの場合には、第4流動阻害領域の面積が10〜250cmの範囲内であることが好ましい。面積を10cm以上とすることにより、第4流動阻害領域の面積が肛門の直下の部分の面積より大きく形成されることになり、少なくとも肛門の直下の領域においては効果を得ることができる。一方、面積が200cm程度になるとほぼ後身頃が覆われるようになり、臀溝に沿って水様便が拡散したような場合でも十分な効果を得ることができる。従って、第4流動阻害領域の面積を必ずしも250cm超とする必要はない。
【0060】
[1−1D]軟便流動速度:
「軟便流動速度」とは、粘度200cpsの擬似軟便が、傾斜角30°の斜面上に配置された測定サンプルの表面を流動する速度を意味し、より具体的には、以下の方法により測定することができる。
【0061】
まず、ベントナイト5.0質量部、市販のマヨネーズ5.0質量部、水90.0質量部を基本組成とし、粘度が200cpsとなるように水の量を調整した擬似軟便を調製する。なお、粘度は、JIS Z8803に記載の方法に準拠して、単一円筒形回転粘度計により測定した粘度を意味するものとする。
【0062】
そして、図5に示すように、傾斜角30°の斜面70を有する設置台72上に、流動阻害領域と同一構成のサンプル74とトップシートと同一構成の測定サンプル76とを配置し、ピペット78を用い、10mlの擬似軟便80を、10ml/secの速度で測定サンプル74,76の表面上に滴下する。この際の擬似軟便80の滴下位置と滴下30秒後に擬似軟便80が斜面70に沿って到達した最先端位置との間の距離L,Lを測定し、この距離L,Lと到達時間との関係から軟便流動速度(mm/sec)を算出する。
【0063】
本発明の吸収性物品においては、流動抵抗領域の軟便流動速度Vがトップシートの他の領域の軟便流動速度Vよりも小さければその効果を得ることができる。但し、本発明の効果をより確実に得るためには、トップシートの他の領域の軟便流動速度Vに対する流動抵抗領域の軟便流動速度Vの比率を0.8以下とすることが好ましく、0.5以下とすることが更に好ましい。
【0064】
[1−2]立体ギャザーへの適用:
本発明の吸収性物品は、撥水性シートからなり、立体的に起立可能に構成された、一対の立体ギャザーを備え、立体ギャザーの内面側の一部に、軟便流動速度が小さい流動阻害領域を有するものも好ましい。立体ギャザーの内面も着用者の肌と接触する場合があるため、立体ギャザーの内面を伝って、軟便や水様便が流動・拡散する事態を効果的に防止することができる。
【0065】
立体ギャザーにおける流動阻害領域は、トップシートにおける流動阻害領域に準じて形成することができる。即ち、立体ギャザーにおける流動阻害領域は、立体ギャザーの内面側に、凸部及び凹部のうちの少なくとも一種を形成すればよい。但し、立体ギャザーの防漏性を確保する観点から、「凹部」としては、窪みや溝が好ましい。開孔を形成する形態や、立体ギャザー自体をメッシュシートで構成する形態は、立体ギャザーの防漏性を低下させるおそれがあるからである。
【0066】
[2]本発明の吸収性物品の他の部分の構成:
本発明の吸収性物品は、例えば、図1〜図3に示す使い捨ておむつ1のように、前身頃2、股下部4、後身頃6の各部から形成され、吸収体22と、少なくとも一部が液透過性材料からなり、吸収体22の上面を被覆するように配置されたトップシート18と、液不透過性材料からなり、吸収体22の下面を被覆するように配置されたバックシート20と、を備えた吸収性物品である。
【0067】
[2−1]吸収体:
吸収体は、着用者の尿を吸収し、保持するための部材である。吸収体は、着用者の尿や体液を吸収し保持する必要から、吸収性材料によって構成される。
【0068】
吸収体を構成する吸収性材料としては、使い捨ておむつ、その他の吸収性物品に通常使用される従来公知の吸収性材料、例えば、フラッフパルプ、高吸水性ポリマー(Super Absorbent Polymer;以下、「SAP」と記す。)、親水性シート等を挙げることができる。フラッフパルプとしては木材パルプや非木材パルプを綿状に解繊したものを、SAPとしてはポリアクリル酸ナトリウムを、親水性シートとしてはティシュ、吸収紙、親水化処理を行った不織布を用いることが好ましい。
【0069】
これらの吸収性材料は、通常、単層又は複層のマット状として用いられる。この際、前記の吸収性材料のうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、フラッフパルプ100質量部に対して、10〜500質量部程度のSAPを併用したものが好ましい。この際、SAPはフラッフパルプの各マット中に均一に混合されていてもよいし、複層のフラッフパルプの層間に層状に配置されていてもよい。
【0070】
吸収体は、トップシートとバックシートの間の少なくとも一部に介装されることが好ましい。通常、吸収体は、トップシートとバックシートの間に挟み込まれ、その周縁部が封着されることによって、トップシートとバックシートとの間に介装される。従って、吸収体の周縁部にはトップシートとバックシートの間に吸収体が介装されていないフラップ部が形成されることになる。
【0071】
吸収体は、その全体が親水性シートによって包み込まれていることが好ましい。このような構成は、吸収体からSAPが漏洩することを防止し、吸収体に形状安定性を付与することができるという利点がある。
【0072】
吸収体の形状については特に制限はないが、従来の使い捨ておむつ、その他の吸収性物品において使用される形状、例えば、矩形状、砂時計型、ひょうたん型、T字型等を挙げることができる。
【0073】
[2−2]トップシート:
トップシートは、吸収体の上面(吸収性物品の装着時において着用者の肌側に位置する面)を被覆するように配置されるシートである。トップシートは、その下面側に配置された吸収体に、着用者の尿を吸収させる必要から、その少なくとも一部(全部又は一部)が液透過性材料により構成される。
【0074】
トップシートを構成する液透過性材料としては、例えば、織布、不織布、多孔性フィルム等を挙げることができる。中でも、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ナイロン等の熱可塑性樹脂からなる不織布に親水化処理を施したものを用いることが好ましい。
【0075】
トップシートは単一のシート材によって構成されていてもよいが、複数のシート材によって構成されていてもよい。テープ型使い捨ておむつにおいては、おむつの中央部には液透過性材料からなるトップシート(センターシート)を配置し、おむつのサイドフラップ部分には撥水性材料からなるトップシート(サイドシート)を配置する形態がよく利用される。
【0076】
サイドシートを構成する撥水性材料としては、スパンボンドやカードエンボス等の不織布を用いることができる。中でも、SMS(スパンボンド/メルトブロー/スパンボンド)、SMMS(スパンボンド/メルトブロー/メルトブロー/スパンボンド)等の不織布は耐水圧が高いという利点があり、好適に用いることができる。
【0077】
[2−3]バックシート:
バックシートは、吸収体の下面(吸収性物品の装着時において着用者の着衣側に位置する面)を被覆するように配置されるシートである。バックシートは、着用者の尿が吸収性物品外部に漏洩してしまうことを防止する必要から、液不透過性材料によって構成される。
【0078】
バックシートを構成する液不透過性材料としては、例えば、ポリエチレン等の樹脂からなる液不透過性フィルム等を挙げることができ、中でも、微多孔性ポリエチレンフィルムを用いることが好ましい。この微多孔性ポリエチレンフィルムは、0.1〜数μmの微細な孔が多数形成されており、液不透過性ではあるが透湿性を有するため、吸収性物品内部の蒸れを防止することができるという利点がある。
【0079】
なお、バックシートには、その外表面側にシート材(カバーシート)を貼り合わせてもよい。このカバーシートは、バックシートを補強し、バックシートの手触り(触感)を良好なものとするために用いられる。
【0080】
カバーシートを構成する材料としては、例えば、織布、不織布等を挙げることができる。中でも、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等の熱可塑性樹脂からなる乾式不織布、湿式不織布を用いることが好ましい。
【0081】
[2−4]立体ギャザー:
立体ギャザーは、着用者の排泄した尿の横漏れを防止するための部材であり、立体的に起立可能なように構成された防漏壁である。この立体ギャザーを形成することにより、立体ギャザーが防波堤となり、おむつの脚周り開口部やインナーパッド側縁部等からの漏れ(いわゆる「横漏れ」)を有効に防止することができる。
【0082】
本発明の吸収性物品においては、トップシートの表面のうち、吸収体の両側縁に沿って、撥水性シートからなり、立体的に起立可能に構成された、一対の立体ギャザーが付設されていることが好ましい。
【0083】
立体ギャザーの構成は、従来の使い捨ておむつ、その他の吸収性物品に使用される構成を採用することができる。例えば、シート材の一部に伸縮材(立体ギャザー伸縮材)を配置し、その立体ギャザー伸縮材によってシート材にギャザー(襞)を形成したもの等を好適に用いることができる。
【0084】
立体ギャザーを構成するシート材としては、立体ギャザーの防漏性を向上させるという観点から、撥水性材料からなるシート(撥水性シート)を用いることが好ましい。
【0085】
立体ギャザー伸縮材としては、従来の使い捨ておむつで使用されてきた伸縮材を好適に用いることができる。具体的には、天然ゴムや合成ゴム(ウレタンゴム等)の弾性材からなる糸ゴム、平ゴムの他、伸縮性ネット、伸縮性フィルム、伸縮性フォーム(ウレタンフォーム等)等を挙げることができる。
【0086】
前記のような立体ギャザー伸縮材は、撥水性シートに対して、接着剤その他の手段により固定される。固定方法としては、例えば、ホットメルト接着剤、その他の流動性の高い接着剤を用いた接着であってもよいし、ヒートシールをはじめとする熱や超音波等による溶着であってもよい。
【0087】
立体ギャザー伸縮材は、立体ギャザーに十分な伸縮力を作用させるため、伸長状態で固定することが好ましい。立体ギャザー伸縮材が天然ゴムや合成ゴムから構成される場合には、120〜400%の伸長状態で固定することが好ましく、200〜300%の伸長状態で固定することがより好ましい。このような範囲の伸長状態で固定することにより、十分な伸縮力を作用させることが可能となり、立体ギャザーを確実に起立させることができる。
【0088】
立体ギャザーの種類としては、(1)吸収性物品の内側に向かって傾倒する内倒しギャザー、(2)吸収性物品の外側に向かって傾倒する外倒しギャザー、(3)高さ方向の一部に、曲げ部や折り返し部を形成した立体ギャザー(C折りギャザーやZ折りギャザー等)等を挙げることができる。これらの中では、防漏性が高い点において内倒しギャザーが好ましい。
【0089】
なお、立体ギャザーは、吸収体の両側縁全域に渡って形成することが好ましいが、尿の横漏れを防止するという目的から、少なくとも吸収性物品の股下部に相当する部分に配置されていればよい。
【0090】
「吸収体の各側縁に沿って」とは、概ね吸収体の側縁と同方向に付設されていることを意味する。但し、吸収体の側縁は、脚周り開口部に沿って曲線的に形成される場合もあり、直線的に形成されているとは限らない。従って、必ずしも吸収体の側縁に接するように付設されている必要はなく、吸収体の側縁と同一の軌跡を描くように付設されている必要もない。通常は、吸収体の形状に拘らず、直線的に支持壁を配置することが多い。
【0091】
[2−5]各種伸縮材:
吸収性物品においては、漏れ防止やフィット性向上を目的として、各種伸縮材が配置される。例えば、テープ型使い捨ておむつの場合は、脚周り伸縮材を配置し、ウエスト周り伸縮材を配置することが一般的である。一方、パンツ型の使い捨ておむつにおいては、これに加えて腹周り伸縮材を配置することも行われている。
【0092】
脚周り伸縮材は、脚周り開口部に沿って配置される伸縮材である。この脚周り伸縮材を配置することによって、脚周り開口部に伸縮性に富むギャザー(レグギャザー)を形成することができる。従って、脚周りに隙間が形成され難くなり、脚周り開口部からの尿漏れを効果的に防止することができる。
【0093】
ウエスト周り伸縮材は、ウエスト周り開口部に沿って配置される伸縮材である。ウエスト周り伸縮材を配置することによって、ウエスト開口部に伸縮性に富むギャザー(ウエストギャザー)を形成することができる。このウエストギャザーにより、ウエスト周りに隙間が形成され難くなり、ウエスト周りからの尿漏れを防止することができる他、着用者へのおむつのフィット性が良好となり、おむつのずり下がりが防止される。
【0094】
腹周り伸縮材は、ウエスト周り開口部と脚周り開口部との間の部分(即ち、着用者の腹周りに相当する部分)に配置される伸縮材である。腹周り伸縮材を配置することによって、着用者の腹周りに伸縮性に富むタミーギャザーを形成することができる。このタミーギャザーは、ウエストギャザーと相俟って、おむつのフィット性やずり下がり防止効果を一層優れたものとすることができる。
【0095】
これらの伸縮材については、既に述べた立体ギャザー伸縮材と同様の構成を採用することができる。そして、ギャザーの収縮の程度等を勘案した上で、構成材料、その材料の伸長率、固定時の伸長状態等を決定すればよい。
【実施例】
【0096】
本発明の吸収性物品について、図1〜図3に示すテープ型の使い捨ておむつ1を例として更に具体的に説明する。但し、本発明の吸収性物品は、その発明特定事項を備えた吸収性物品を全て包含するものであり、以下の実施例に限定されるものではない。
【0097】
なお、「テープ型使い捨ておむつ」とは、図1〜図3に示す使い捨ておむつ1のように、前身頃2、股下部4、後身頃6の各部から形成され、吸収体22と、少なくとも一部が液透過性材料からなり、吸収体22の上面を被覆するように配置されたトップシート18と、液不透過性材料からなり、吸収体22の下面を被覆するように配置されたバックシート20と、後身頃6の左右の各側縁部6a,6bから延出するように配置され、前身頃2と後身頃6とを固定するための止着テープ10を備えた使い捨ておむつを意味する。
【0098】
[1]流動阻害領域の構成:
使い捨ておむつ1は、トップシート18の表面側の一部に、軟便流動速度が小さい流動阻害領域50を有している。この流動阻害領域50は、トップシート18の便落下領域52より側方の領域に、おむつの前後方向に沿って形成された第1流動阻害領域50aと、便落下領域52より後方の領域に、おむつの前後方向と直交する方向に形成された第2流動阻害領域50bとからなる。そして、第1流動阻害領域50aと第2流動阻害領域50bとはが隙間なく配置され、便落下領域52を三方から包囲するように連続的に形成されている。
【0099】
第1流動阻害領域50aは、幅15cm×長さ180cmの帯状であり、1対の立体ギャザー26の下端縁38(固定端、起立線)に沿って、第2流動阻害領域50bの配置部分から前方に、股下部4の大部分をカバーするように配置されている。一方、第2流動阻害領域50bは、幅130cm×長さ15cmの帯状であり、おむつの後身頃側端部に沿って、1対の立体ギャザー26の内側の領域の幅140cmの大部分をカバーするように配置されている。
【0100】
この第1流動阻害領域50a、第2流動阻害領域50bは、トップシート18となる液透過性シートにエンボス加工によって複数の凹部(窪み)を形成したものである。この窪みは開口形状が楕円形で、椀状の内部空間が形成されたものである。開口形状は、短径が10mm、長径が20mmの楕円形であり、最深部の深さは8mmである。また、窪みは、トップシート18の表面に千鳥状に配置されている。そして、流動阻害領域50において窪みの開口部が占める面積率は、45面積%である。
【0101】
この第1流動阻害領域50a、第2流動阻害領域50bの軟便流動速度は2.2mm/secであり、トップシート18の流動阻害領域50以外の領域の軟便流動速度6.8mm/secより小さく構成されている。トップシート18の流動阻害領域50以外の領域の軟便流動速度Vに対する流動阻害領域50の軟便流動速度Vの比率は0.32である。
【0102】
[2]他の部分の構成:
吸収体22は、フラッフパルプ100質量部に対して、100質量部のSAPを含む吸収体であり、その全体がティシュによって包み込まれている。吸収体22は矩形状であり、トップシート18とバックシート20の間に挟み込まれ、その周縁部が封着されることによって、トップシート18とバックシート20との間に介装されている。
【0103】
トップシート18は、複数のシート材によって構成されている。おむつの中央部に液透過性材料からなるトップシート(センターシート18a)が配置され、おむつのサイドフラップ8部分に撥水性材料からなるトップシート(サイドシート18b)が配置されている。センターシート18aは、ポリプロピレンからなる不織布に親水化処理を施した液透過性のエアスルー不織布により形成されている。一方、サイドシート18bは、撥水性で耐水圧が高いSMS不織布によって構成されている。
【0104】
バックシート20は、微細な孔が多数形成された透湿度5000g/m・24hである微多孔性ポリエチレンフィルムによって構成されている。そして、バックシート20の外表面側にはポリエチレン製の不織布からなるカバーシートが貼り合わされている。
【0105】
また、使い捨ておむつ1は、後身頃6の左右の側縁部6a,6bに、止着テープ10が1個ずつ配置されている。この止着テープ10は、不織布からなる基材48と基材48の表面に付設されたメカニカルファスナーのフック材44とからなるものである。一方、前身頃2には、図示されないメカニカルファスナーのループ材からなるフロントパッチが配置されており、フック材44を固定することが可能なように構成されている。
【0106】
使い捨ておむつ1においては、おむつの前後方向に向かって直線的に、一対の立体ギャザー26が付設されている。この立体ギャザー26は撥水性シートからなり、サイドシート18bと一体的に構成された内倒し式の立体ギャザーである。そして、立体ギャザー26の高さ(下端縁38から上端縁34までの長さ)は、45mmである。また、立体ギャザー26は、使い捨ておむつ1の長手方向全域をカバーする長さに形成されている。
【0107】
立体ギャザー26の上端縁34近傍には立体ギャザー伸縮材36が配置されている。この立体ギャザー26は、撥水性シート32の自由端側(トップシート18に固定されていない側の端部)を折り返し、その折り返し部分に2本の立体ギャザー伸縮材36を挟み込むように配置したものである。この立体ギャザー伸縮材36は、280%の伸張率で撥水性シート32に固定されている。
【0108】
使い捨ておむつ1は、おむつの長手方向に沿って、立体ギャザー26の下端縁38(固定端、起立線)より外側の部分に、直線的に三本の脚周り伸縮材40を配置している。また、使い捨ておむつ1は、おむつの前身頃2の端縁及び後身頃6の端縁に沿って帯状のウエスト周り伸縮材42を配置している。この帯状のウエスト周り伸縮材42は、ウレタンフォームによって構成されている。
【0109】
[3]製造方法:
以下、本発明の吸収性物品の製造方法を、図1〜図3に示す使い捨ておむつ1を製造する場合の例で説明する。まず、バックシート20の材料となる長尺のシート材(バックシート材)の表面に、ティシュに包まれた吸収体22及び脚周り伸縮材40を載置し、更にその表面にトップシート18の材料となる長尺のシート材(トップシート材)を載置することにより、おむつの中間体となる積層体(おむつ連続体)を得る。
【0110】
この際、トップシート材は、センターシート18aに相当するトップシート材と、サイドシート18bに相当するトップシート材の2種類が使用される。トップシート材には、予めエンボス加工により、流動阻害領域50となる凹部(窪み)を形成しておく。サイドシート18bに相当するシート材は折り返し部分を設けることによって、立体ギャザー26となる部分を形成しておく。
【0111】
前記のようにして得られたおむつ連続体は、おむつの脚周り開口部に相当する部分を円弧状に切り抜いて切除し(Rカット)、脚周り開口部を形成する。最後に、おむつの後身頃6の側縁部6a,6bに、止着テープ10を付設し、おむつ連続体を個々のおむつに切断することにより、使い捨ておむつ1を製造する。この際、後身頃6の左右の側縁部6a,6bと止着テープ10の末端部とはホットメルト接着剤によって接合する。
【0112】
なお、上記のような方法の他、予めトップシート材に伸縮性止着テープを付設しておき、バックシート材の表面に、親水性シートに包まれた吸収体及び脚周り伸縮材を載置し、更にその表面に伸縮性止着テープが付設されたトップシート材を載置することにより、おむつ連続体を得てもよい。
【0113】
また、前記のような一連の工程は、機械的な手段によって連続的に行うことが可能である。例えば、長尺のシート材をローラーから連続的に送出する等の方法・装置を採用することにより、テープ型おむつの連続製造が可能となり、生産性の向上に資する。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の吸収性物品は、乳幼児用、或いは介護を必要とする高齢者や障害者等の成人用のおむつとして好適に利用することができる。そして、本発明の吸収性物品は、後身頃側端部からの軟便や水様便の漏れを有効に防止できるので、寝たきりの老人用の使い捨ておむつやインナーパッドとして特に好適に用いることができる。
【0115】
なお、本発明の使い捨ておむつは、テープ型の使い捨ておむつの他、パンツ型の使い捨ておむつ、インナーパッドにも適用することができる。
【0116】
「パンツ型の使い捨ておむつ」とは、前身頃と後身頃の対応する側縁部同士を接合することによって、一つのウエスト周り開口部及び一対の脚周り開口部が形成され、予めパンツ型に構成されたおむつを意味するものとする。
【0117】
例えば、着用者の排泄物を吸収し、保持する機能(吸収・保持機能)を担う吸収性本体と、着用者の身体を被包する機能(装着機能)を担う外装部材とから構成され、外装部材の内側に吸収性本体が配置された2ピースタイプのパンツ型の使い捨ておむつであれば、吸収性本体を構成するトップシートの表面上に流動阻害領域を形成すること等によって、本発明の効果を享受することができる。
【0118】
「インナーパッド」は、尿取りパッド、補助パッドとも称され、使い捨ておむつと同様の吸収体を備えているが、専ら尿吸収を目的とする小型の吸収パッドである。トップシートとバックシートの間の少なくとも一部に吸収体が介装されたパッド状に構成されることが一般的である。このインナーパッドは、使い捨ておむつのトップシートの表面に載置した状態で用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】本発明の吸収性物品の一の実施形態を示す平面図であり、使い捨ておむつを展開し、トップシート側から見た状態を示す平面図である。
【図2】本発明の吸収性物品の一の実施形態を示す概略断面図であり、図1に示す使い捨ておむつをX−X’線に沿って切断した断面を示す概略断面図である。
【図3】本発明の吸収性物品の一の実施形態を示す概略断面図であり、図1に示す使い捨ておむつをY−Y’線に沿って切断した断面を示す概略断面図である。
【図4A】本発明の使い捨ておむつの一の実施形態を示す一部平面図であり、1対の立体ギャザーの内側の領域を、トップシート側から見た状態を示す図である。
【図4B】本発明の吸収性物品の別の実施形態を示す一部平面図であり、1対の立体ギャザーの内側の領域を、トップシート側から見た状態を示す図である。
【図4C】本発明の吸収性物品の更に別の実施形態を示す一部平面図であり、1対の立体ギャザーの内側の領域を、トップシート側から見た状態を示す図である。
【図4D】本発明の吸収性物品の更にまた別の実施形態を示す一部平面図であり、1対の立体ギャザーの内側の領域を、トップシート側から見た状態を示す図である。
【図4E】本発明の吸収性物品の別の実施形態を示す一部平面図であり、1対の立体ギャザーの内側の領域を、トップシート側から見た状態を示す図である。
【図4F】本発明の吸収性物品の更に別の実施形態を示す一部平面図であり、1対の立体ギャザーの内側の領域を、トップシート側から見た状態を示す図である。
【図5】軟便流動速度の測定方法を示す模式的側面図である。
【符号の説明】
【0120】
1:使い捨ておむつ、2:前身頃、2a,2b:側縁部、4:股下部、6:後身頃、6a,6b:側縁部、8:サイドフラップ、10:止着テープ、18:トップシート、18a:センターシート、18b:サイドシート、20:バックシート、22:吸収体、26:立体ギャザー、32:撥水性シート、34:上端縁、36:立体ギャザー伸縮材、38:下端縁、40:脚周り伸縮材、42:ウエスト周り伸縮材、44:フック材、48:基材、50:流動阻害領域、50a:第1流動阻害領域、50b:第2流動阻害領域、50c:第3流動阻害領域、50d:第4流動阻害領域、52:便落下領域、70:斜面、72:設置台、74,76:測定サンプル、78:ピペット、80:擬似軟便、L,L:距離。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸収体と、少なくとも一部が液透過性材料からなり、前記吸収体の上面を被覆するように配置されたトップシートと、液不透過性材料からなり、前記吸収体の下面を被覆するように配置されたバックシートと、を備え、
前記トップシートは、その表面側の一部に、下記軟便流動速度が小さい流動阻害領域を有するものであり、
前記流動阻害領域は、前記トップシートに、凸部及び凹部のうちの少なくとも一種が形成されたものである吸収性物品。
[軟便流動速度]
粘度200cpsの擬似軟便が、傾斜角30°の斜面上に配置された測定サンプルの表面を流動する速度。
【請求項2】
前記流動阻害領域として、前記トップシートの便落下領域より側方の領域に、吸収性物品の前後方向に沿って形成された第1流動阻害領域を有する請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記流動阻害領域として、前記トップシートの便落下領域より後方の領域に、吸収性物品の前後方向と直交する方向に形成された第2流動阻害領域を有する請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項4】
前記流動阻害領域として、前記トップシートの便落下領域より前方の領域に、吸収性物品の前後方向と直交する方向に形成された第3流動阻害領域を有する請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項5】
前記流動阻害領域として、前記トップシートの便落下領域より側方の領域に、吸収性物品の前後方向に沿って形成された第1流動阻害領域と、前記便落下領域より後方の領域に、吸収性物品の前後方向と直交する方向に形成された第2流動阻害領域とを有し、
前記第1流動阻害領域と前記第2流動阻害領域とが、前記便落下領域を三方から包囲するように、連続的に形成されている請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項6】
前記流動阻害領域として、前記トップシートの便落下領域より側方の領域に、吸収性物品の前後方向に沿って形成された第1流動阻害領域と、前記便落下領域より後方の領域に、吸収性物品の前後方向と直交する方向に形成された第2流動阻害領域と、前記便落下領域より前方の領域に、吸収性物品の前後方向と直交する方向に形成された第3流動阻害領域とを有し、
前記第1流動阻害領域と前記第2流動阻害領域と前記第3流動阻害領域とが、前記便落下領域を四方から包囲するように、連続的に形成されている請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項7】
前記流動阻害領域が、少なくとも前記トップシートの便落下領域に形成されている請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項8】
撥水性シートからなり、立体的に起立可能に構成された、一対の立体ギャザーを備え、
前記立体ギャザーは、その内面側の一部に、前記軟便流動速度が小さい流動阻害領域を有するものであり、
前記流動阻害領域は、前記立体ギャザーに、凸部及び凹部のうちの少なくとも一種が形成されたものである請求項1〜7のいずれか一項に記載の吸収性物品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図4C】
image rotate

【図4D】
image rotate

【図4E】
image rotate

【図4F】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−136309(P2009−136309A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−312281(P2007−312281)
【出願日】平成19年12月3日(2007.12.3)
【出願人】(390036799)王子ネピア株式会社 (387)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】