説明

吸収性物品

【課題】表面シート上に体液が長時間滞留し難く、ヨレや皺が発生し難い吸収性物品を提供すること。
【解決手段】本発明の吸収性物品1は、繊維を含んで構成され且つ肌対向面2aを形成する表面シート2、非肌対向面3bを形成する裏面シート3、及び両シート2,3間に介在配置された吸収体4を具備し、着用時に着用者の腹側部から背側部に向かう方向に配される縦方向Xと該縦方向Xに直交する横方向Yとを有している。表面シート2の肌対向面2aに、縦方向X及び横方向Yそれぞれに交差する方向に延びる凹部20が格子状に形成されており、凹部20によって表面シート2が多数の領域に区画化されて、多数の区画領域22が形成されている。吸収体4の肌対向面4aに、クレープ加工による皺45が縦方向Xに延びて形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、失禁パッド、生理用ナプキン、パンティライナ(おりものシート)等の吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
生理用ナプキン等の吸収性物品として、肌対向面を形成する表面シート、非肌対向面を形成する裏面シート、及び両シート間に介在配置された液保持性の吸収体を具備するものが知られている。吸収性物品には、吸収性能と共に快適性能を満たすことが要求されている。快適性能のなかでも、特に、排泄された体液が着用者の肌と直接接する表面シートに長時間残らないようにすることは、重要な要求事項の一つである。この要求にこたえるべく、表面シートの種々物性を工夫したり、体液が透過又は拡散し易くなるよう、表面シートの肌対向面上に溝を設ける等の物理的工夫等がこれまで提案されている。例えば、特許文献1には、表面シートと吸収体との間に、該表面シートよりも親水性に富む導液用繊維層を設け、該表面シートと該導液用繊維層とを、該表面シートの上面に格子状模様をなすように配置された多数の凹状の融着部で一体化させた吸収性物品が記載されている。また、特許文献2には、トップシート(表面シート)と吸収体との間にセカンドシートを備え、該トップシート及び該セカンドシートの少なくとも一方に、該吸収体の長手方向軸に対して斜めに形成された斜め方向溝と、該斜め方向溝と交差する交差溝とを有し、これらの斜め方向溝と交差溝とによって、排泄された体液の面方向への拡散を促進させて、体液の吸収速度を向上させた吸収性物品が記載されている。
【0003】
また、本出願人は、先に、表面シート上に体液が長時間滞留することを防止する技術に関し、種々提案している。例えば、表面シートに複数のエンボス部で囲まれた凸部を設け、隣り合うエンボス部間に、該凸部の頂点における該表面シートの密度よりも高密度の中間部を設けることで、液の拡散及び液の厚み方向への移行を速やかに行う技術(特許文献3参照)、表面シートを肌対向面側の上層と非肌対向面側の下層との2層構成とし、該上層と該下層との間に空洞が保持されるように該上層が肌対向面側に突出する凸部を複数配設し、該上層を肌対向面側の第一層と非肌対向面側の第二層との2層構成とし、該第二層及び該下層それぞれの繊維太さを制御する技術(特許文献4参照)、肌側へ向かう凸部を有する第1繊維層と、吸収体側に配され且つ熱収縮性繊維を含みその収縮によって高密度化した部分を備える第2繊維層とを備え、体液を吸収体に素早く移行させることができ、肌表面側への液残りの少ない、吸収性物品用の表面シート(特許文献5参照)を提案している。
【0004】
また、吸収性物品に要求される吸収性能に関連して、吸収性物品には、表面シートにヨレや皺が発生し難く、吸収性能を良好に維持するために吸収性物品の横方向(幅方向)に力が加わった場合に変形し難いことが要求されている。例えば、本出願人は、先に、第1繊維層と第2繊維層とが接合部により接合された積層構造を有する、吸収性物品用の表面シートにおいて、該第1繊維層における該接合部以外の部位に、着用者の肌側へ隆起した多数の隆起部を形成し、該隆起部に、平面視において該接合部を部分的に被覆するように平面方向に張り出した張り出し部を形成し、該張り出し部における相対的に張り出し幅の大きい方向を、吸収性物品の幅方向に向ける技術を提案している(特許文献6参照)。特許文献5に記載の技術によれば、吸収性物品の着用時において、局所的に作用した外力が前記隆起部の緩衝を受けるため、吸収性物品が幅方向に変形しにくくなり、ヨレや皺が発生し難くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−328060号公報
【特許文献2】特開2010−11911号公報
【特許文献3】特開2009−512号公報
【特許文献4】特開2009−172354号公報
【特許文献5】特開2004−466号公報
【特許文献6】特開2007−97858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これら技術のうち、表面シート上に体液が長時間滞留する不都合を防止するために、主として表面シートの改良を図った技術では、斯かる不都合の防止は不十分であった。特に、特許文献3〜5に記載の技術は、経血のような粘性の高い体液に対しては、その表面シート上での長時間の滞留防止に高い効果を発揮するが、尿のような粘性の低い体液に対しては改善の余地があった。また、特許文献6に記載の技術は、ヨレや皺の発生防止に一定の効果はあるものの、表面シートの隆起部に所定方向に張り出した張り出し部を形成することは、煩雑な加工工程を必要とし、製造コスト等の面で不利であった。
【0007】
本発明の課題は、表面シート上に体液、特に尿のような粘性の低い体液が長時間滞留し難く、ヨレや皺が発生し難い吸収性物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、繊維を含んで構成され且つ肌対向面を形成する表面シート、非肌対向面を形成する裏面シート、及び両シート間に介在配置された吸収体を具備し、着用時に着用者の腹側部から背側部に向かう方向に配される縦方向と該縦方向に直交する横方向とを有する吸収性物品であって、前記表面シートの肌対向面に、前記縦方向及び前記横方向それぞれに交差する方向に延びる凹部が格子状に形成されており、該凹部によって該表面シートが多数の領域に区画化されて、多数の区画領域が形成されており、前記吸収体の肌対向面に、クレープ加工による皺が前記縦方向に延びて形成されている吸収性物品を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の吸収性物品は、表面シート上に体液が長時間滞留し難く、ヨレや皺が発生し難い。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の吸収性物品の一実施形態である失禁パッドの肌対向面側(表面シート側)を模式的に示す平面図である。
【図2】図2は、図1のI−I線断面を模式的に示す横断面図である。
【図3】図3は、図1に示す失禁パッドが備えている表面シートの一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図4】図4は、図3に示す表面シートの肌対向面側の一部を拡大して模式的に示す平面図である。
【図5】図5は、図4のII−II線断面を模式的に示す断面図である。
【図6】図6は、図3に示す表面シートの製造方法の概略説明図である。
【図7】図7は、図1に示す失禁パッドが備えている吸収体の肌対向面側を模式的に示す平面図である。
【図8】図8は、本発明の吸収性物品における吸収体の他の例を模式的に示す横断面図(図2相当図)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の吸収性物品を、その好ましい一実施形態である失禁パッドに基づき図面を参照して説明する。本実施形態の失禁パッド1は、図1及び図2に示すように、繊維を含んで構成され且つ肌対向面を形成する表面シート2、非肌対向面を形成する裏面シート3、及びこれら両シート2,3間に介在配置された液保持性の吸収体4を具備しており、実質的に縦長の形状(図1に示す如き平面視において一方向に長い形状)をしている。失禁パッド1は、着用時に着用者の腹側部から背側部に向かう方向に配される縦方向Xと該縦方向Xに直交する横方向Yとを有している。縦方向Xは、失禁パッド1の長手方向に一致し、横方向Yは、該長手方向に直交する失禁パッド1の幅方向に一致している。
【0012】
尚、本明細書において、肌対向面は、吸収性物品(失禁パッド)又はその構成部材における、吸収性物品の着用時に着用者の肌側に向けられる面であり、非肌対向面は、吸収性物品又はその構成部材における、吸収性物品の着用時に肌側とは反対側(着衣側)に向けられる面である。また、長手方向は、吸収性物品又はその構成部材の長辺に沿う方向であり、幅方向は、該長手方向と直交する方向である。
【0013】
表面シート2は吸収体4の肌対向面4aの全域を被覆し、裏面シート3は吸収体4の非肌対向面4bの全域を被覆している。表面シート2及び裏面シート3は、それぞれ、吸収体4よりも大きな寸法を有しており、吸収体4の外縁から外方に延出し、それらの延出部の端部において互いに接着剤、ヒートシール等の公知の接合手段により接合されてシール部5を形成している。表面シート2及び裏面シート3それぞれと吸収体4との間は、接着剤等の接合手段によって接合されていても良い。
【0014】
表面シート2の肌対向面2a(失禁パッド1の肌対向面)には、図1及び図3に示すように、縦方向X及び横方向Yそれぞれに交差する方向(即ち斜め方向)に延びる凹部20が格子状に形成されており、凹部20によって表面シート2が多数の領域に区画化されて、多数の区画領域22が形成されている。
【0015】
尚、図3〜図5中のX方向は、表面シート製造時におけるシートの流れ方向に直交する方向(CD)と同方向であり、失禁パッド1の縦方向X(図1参照)とも同方向である。また、図3〜図5中のY方向は、表面シート製造時におけるシートの流れ方向(MD)と同方向であり、失禁パッド1の横方向Y(図1参照)とも同方向である。
【0016】
表面シート2について更に説明すると、表面シート2は単層構造の不織布からなり、その肌対向面2aの全域は、図3に示すように、格子状に形成された凹部20及び該凹部20で囲まれた凸部21をそれぞれ多数有する凹凸形状を有している。一方、表面シート2の非肌対向面2bは、凹凸形状を実質的に有しておらず、略平坦となっている。表面シート2と吸収体4との間には他の部材が介在配置されておらず、両者は直接接しているところ、このように表面シート2の非肌対向面2bが略平坦であると、表面シート2が吸収体4の肌対向面4aに密着しやすく、表面シート2から吸収体4への液の移行がスムーズに行われやすい。
【0017】
凹部20は、表面シート2の構成繊維が圧着又は接着されて形成されている。繊維を圧着する手段としては、熱を伴うか又は伴わないエンボス加工、超音波エンボス加工等が挙げられる。本実施形態に係る表面シート2における凹部20は、カード法によって形成した繊維ウエブに熱エンボス加工を施して形成されている。凹部20においては、表面シート2又はそれを構成する不織布の構成繊維である熱融着性繊維が熱融着により一体化している。凹部20における熱融着性繊維は、熱融着成分が溶融して繊維の形態を維持していない。
【0018】
本実施形態において、凹部20は、表面シート2のみに形成されており、該表面シート2の下方に該表面シート2に隣接して配置されている、吸収体4には形成されていない。従って、表面シート2と吸収体4とは、凹部20を介しては接合されていない。但し、本発明における凹部は、表面シートと吸収体とが一体的に凹陥して形成されたものであっても良く、その場合、表面シートと吸収体とは、凹部を介して接合される。
【0019】
凹部20は線状である。ここで、「線状」とは、凹部20の形状が平面視において図3に示す如き直線に限られず、曲線を含み、各線は、連続線でも良く、あるいは平面視において長方形、正方形、菱形、円形、十字等の多数の窪み部(エンボス部)が実質的に間隔を置かずに連なって全体として連続線を形成していても良い。「実質的に間隔を置かずに」とは、窪み部の隣り合う間隔が5mm以内であることをいう。
【0020】
凹部20は、図3に示すように格子状に形成されている。より具体的には、表面シート2は、図4に示すように、凹部20として、互いに平行に且つ所定の間隔で形成された多数本の第1線状の凹部20aと、互いに平行に且つ所定の間隔で形成された多数本の第2線状の凹部20bとを有しており、第1線状の凹部20aと第2線状の凹部20bとが角度αをなして互いに交差している。第1線状の凹部20a及び第2線状の凹部20bは、何れも、縦方向X及び横方向Yそれぞれに交差する方向(即ち斜め方向)に直線状に延びている。第1線状の凹部20aの幅W1と第2線状の凹部20bの幅(図示せず)は同じであり、第1線状の凹部20aどうし間の間隔W2と第2線状の凹部20bどうし間の間隔(図示せず)も同じである。
【0021】
第1及び第2線状の凹部20a,20bの幅W1(一方のみ図示)は、該凹部において繊維を確実に固定するために0.1〜1.5mm、特に0.3〜0.9mmであることが好ましく、第1線状の凹部20aどうし間の間隔W2及び第2線状の凹部20bどうし間の間隔は、後述する繊維並列起立部を形成しやすいように2〜14mm、特に2〜8mmであることが好ましい。幅W1及びW2は、凹部20の線に対して直交する方向に計測される。凹部20の線の幅は交点部分から変化があっても良いが、幅W1は交点と交点の中点で計測される。幅W2は区画領域22の対辺同士を結ぶ凹部20の線で計測される。また、凹部20の線が曲線のような非直線状の場合には、4つの凹部20で囲まれた格子形状における非直線状の凹部20の、当該格子形状の2頂点を結んだ仮想直線を描いて格子形状の1辺とし、当該格子形状の対向する仮想直線2辺の間の距離を間隔W2とする。
【0022】
個々の区画領域22は、それぞれ周囲を線状の凹部20に囲まれた領域であり、平面視において菱形形状である。個々の区画領域22の面積は、0.25〜2cm2であることが好ましい。
【0023】
本実施形態における区画領域22は、図4に示すように、平面視において縦方向Xよりも横方向Yに長い菱形形状をしている。エンボス加工等によって形成された凹部20による区画領域22が、このように失禁パッド1の横方向Yに長い形状をしていると、該凹部20が多数形成されている表面シート2が、横方向Yに高い剛性を保持するようになり、これにより失禁パッド1の着用時におけるヨレや皴が効果的に防止される。失禁パッド1の着用時におけるヨレや皴は、主として、着用者の両大腿部間に挟まれた失禁パッド1が、該大腿部によって横方向Yから押圧されることに起因するところ、表面シート2が横方向Yに高い剛性を保持していると、横方向Yから押圧されても失禁パッド1の形状が維持されやすく、ヨレや皴が発生し難くなる。斯かる区画領域22の形状に起因する効果をより確実に奏させるようにする観点から、菱形形状の区画領域22の対角線D1(縦方向Xに延びる対角線)とD2(横方向Yに延びる対角線)との比(D1/D2)は、0.4〜0.7、特に0.4〜0.6であることが好ましい。
【0024】
各区画領域22には、該区画領域22を囲む凹部20に対して相対的に隆起する凸部21が形成されており、各区画領域22は肌対向面2a側に頂部21aを備えた凸形状をなしている。凸部21の頂部21aは、区画領域22の中央部に位置している。凸部21内は、図5に示すように、表面シート2の構成繊維25で満たされている。
【0025】
このように、凹部20と凸部21とが、表面シート2の縦方向X及び横方向Yそれぞれにおいて交互に配置されていることで、失禁パッド1の着用者の肌との接触面積が低減して蒸れやかぶれが効果的に防止される。また、凸部21(区画領域22)が、凹部20によって包囲され、平面視において閉じた形状をしていることにより、凸部21が凹部20によって包囲されていない場合に比して、凸部21における構成繊維が表面シート2の厚み方向に向かって伸張しやすくなるため凸部21の厚みが増し、これにより、1)液が素早く透過し、且つ、液残りが少なく、表面シート2の肌との接触面積が減少する、2)凸部21が規則正しいパターンで形成されるため、視覚的な印象が良好となる、等の効果が奏される。
【0026】
本実施形態においては、表面シート2の繊維配向が横方向Yと一致又は近似している。ここで、「表面シートの繊維配向が横方向と一致している」とは、表面シートの構成繊維の繊維配向方向が、吸収性物品(失禁パッド)の横方向と平行であることを意味し、「表面シートの繊維配向が横方向と近似している」とは、該繊維配向方向と該横方向とのなす角度が、45°よりも小さいことを意味する。言い換えれば、表面シート2の繊維配向が縦方向よりも横方向に優位に配向している状態である。このように、表面シート2の繊維配向が失禁パッド1の横方向Yと一致又は近似していると、表面シート2が横方向Yに高い剛性を保持するようになり、これにより失禁パッド1の着用時におけるヨレが効果的に防止される。
【0027】
表面シート2の繊維配向は、の王子計測機器の高精度型分子配向計MOA−6004を用いて常法に従って測定することができる。詳細には、測定はGAIN=1.0として行う。試験片をMDに90mm、CDに90mmの大きさに矩形に切る。それを専用のサンプルフォルダに、MD及びCDが指定の方向を向くように挟み、測定器に取り付ける。このとき、試験片の厚みに応じて適合するサンプルフォルダを用いる。
【0028】
表面シート2は、カード機を用いて繊維を開繊しウエブを形成後、繊維の交点を熱融着によって接合することで得られる。一般に、カード機を用いてウエブを形成すると、ウエブの流れ方向(MD)に繊維が配向した状態になる。その結果、表面シート2の製造時における流れ方向(MD)に繊維が配向する。前述したように、失禁パッド1の横方向Yは、表面シート2の製造時における流れ方向(MD)と同方向であり、従って、表面シート2の繊維配向は、失禁パッド1の横方向Yのみならず、表面シート2のMDとも一致又は近似している。表面シート2は、その製造時において通常、長尺状の表面シートに形成された後、ロール状に巻回されるところ、その巻回時に、長尺状の表面シートには巻回方向(長尺方向、MD)に張力が付与されるため、表面シート2の繊維配向は、表面シート2の長尺方向(MD)と同方向となり、失禁パッド1の横方向Yと一致又は近似することになる。
【0029】
本実施形態においては、表面シート2の各区画領域22では、肌対向面2a側の方が非肌対向面2b側よりも繊維間距離が長い。より具体的には、図5に示す如き断面視、即ち、表面シート2の繊維配向方向(失禁パッド1の横方向Yと一致又は近似する方向)に沿った断面視において、凸部21の頂部21a(区画領域22の中央部)の肌対向面2aから厚み方向に50μm以内の部位(即ち肌対向面2a側)における、隣接する繊維25,25間の距離r1の方が、頂部21aの下方(区画領域22の中央部)に位置し且つ表面シート2の非肌対向面2bから厚み方向に50μm以内の部位(即ち非肌対向面2b側)における、隣接する繊維25,25間の距離r2よりも長い。ここでいう肌対向面2a側の繊維間距離は、凸部21の頂部21aから吸収体4に向かって厚み方向に長さ50μmの垂線を引き、更にその垂線から面方向(該垂線と直交する方向)に延びる直線を任意に引いた場合に、それらの直線と当該凸部21が存する区画領域22の外縁との交点の群で囲まれた領域における繊維間距離を意味する。表面シート2の繊維配向方向と直交する方向(失禁パッド1の縦方向Xと一致又は近似する方向)に沿った断面視においても、繊維間距離r1と繊維間距離r2との関係は前記と同様になっている。本実施形態においては、表面シート2における隣接する繊維25,25間の距離は、肌対向面2aから表面シート2の厚み方向に沿って非肌対向面2bに向かうに従って漸減しており、厚み方向に関しては、肌対向面2a側で最大、非肌対向面2b側で最小となっている。一般に、繊維間距離は繊維密度と反比例し、繊維間距離が大きいほど繊維密度は低くなる。従って、表面シート2の厚み方向においては、相対的に繊維間距離が長い肌対向面2a側(頂部21aの近傍)は、相対的に繊維密度が低く疎となっており、相対的に繊維間距離が短い非肌対向面2b側(凸部21の底部)は、相対的に繊維密度が高く密となっている。
【0030】
また、表面シート2の区画領域22における隣接する繊維25,25間の距離に関し、本実施形態においては、前述したように厚み方向(垂直方向)に関して、肌対向面2a側の方が非肌対向面2b側よりも繊維間距離が長くなっていることに加えて、表面シート2の面方向(厚み方向と直交する方向、水平方向)に関して、頂部21a側(区画領域22の中央部)よりも凹部20側(区画領域の22の縁部)の方が短くなっている。より具体的には、表面シート2における隣接する繊維25,25間には、図5に示すように、区画領域22の中央部(頂部21a)から端部(凹部20)に向かって先細りのストロー状の空間が形成されており、このストロー状の空間を形成する、隣接する繊維25,25間の距離は、頂部21a(区画領域22の中央部)から面方向に沿って凹部20に向かうに従って漸減している。従って、隣接する繊維25,25によって形成された1つのストロー状の空間において、凹部20の縁20sから区画領域22の内方に向かって面方向に100μm以内の部位(即ち凹部20側)の方が、平面視で頂部21aと同位置にある部位(区画領域22の中央部)よりも、該隣接する繊維25,25間の距離が短い。このストロー状の空間は、失禁パッド1の縦方向X及び横方向Yの両方向に存在している。このようなストロー状の空間の形成により、表面シート2の面方向においては、相対的に繊維間距離が長い頂部21a側(区画領域22の中央部)は、相対的に繊維密度が低く疎となっており、相対的に繊維間距離が短い凹部20側(区画領域22の縁部)は、相対的に繊維密度が高く密となっている。ストロー状の空間は、表面シート2の肌対向面2a上に排泄された体液の面方向(水平方向)への導液路として作用し、体液は、該空間を介して凹部20に誘導される。
【0031】
表面シート2の頂部21a及びその近傍(シートの厚み方向の近傍)における繊維間距離、即ち、頂部21aにおける肌対向面2aから厚み方向に50μm以内の部位(肌対向面2a側)における繊維間距離r1(図5参照)は、好ましくは100〜500μm、更に好ましくは200〜400μmである。また、頂部21aの下方(区画領域22の中央部)に位置し且つ表面シート2の非肌対向面2bから厚み方向に50μm以内の部位(非肌対向面2b側)における繊維間距離r2(図5参照)は、好ましくは50〜400μm、更に好ましくは100〜300μmである。このように、各区画領域22は肌対抗面2a側に頂部21aを備えた凸形状をなし、頂部21a及びその近傍における繊維間距離r1が好ましくは100〜500μmであり、各区画領域22の非肌対向面2b側及びその近傍における繊維間距離r2が好ましくは50〜400μmである。
【0032】
また、表面シートの凹部20の近傍における繊維間距離、即ち、凹部20の縁20sから区画領域22の内方に向かって面方向に100μm以内の部位(凹部20側)における繊維間距離r3(図示せず)は、好ましくは0〜100μm、更に好ましくは1〜70μmである。また、繊維間距離r1とr2との比(r2/r1)は、好ましくは0.1〜0.8、更に好ましくは0.15〜0.7であり、隣接する繊維25,25によって形成された1つのストロー状の空間における繊維間距離r1とr3との比(r3/r1)は、好ましくは0.001〜0.3、更に好ましくは0.01〜0.25である。繊維間距離は次のようにして測定される。
【0033】
<繊維間距離の測定方法>
繊維間距離の測定は、特開平5−285172号公報記載の「繊維空間径の測定」に準じ、以下に説明する手順で行った。測定対象のシートを5cm四方の四角形形状にカットしたものを試料とし、マイクロスコープ(KEYENCE製 VHX−1000)により、この試料の100倍拡大画像を得、該拡大画像を基に、画像解析測定ソフト(Media Cybernetics社製Image−Pro Plus「The Proven Solution」Ver.4.5.12)により焦点が一致している繊維の外側を抽出し、そこに形成された面を繊維空間とする。前記拡大画像をスキャナー等で読み取り、繊維空間の占める面積を求めた。試料の任意の場所を5か所選択し、その選択した範囲における繊維空間1つ当たりの面積〔繊維空間面積(平均値)〕より、下記式(1)及び(2)によって繊維空間径(r)を求め、該繊維空間径(r)を繊維間距離とした。下記式中、Aは繊維空間面積(平均値)、Aiは測定した繊維空間の面積、Nは測定した個数である。
【0034】
【数1】

【0035】
表面シート2の構成繊維としては、この種の吸収性物品における表面シートの構成繊維として通常使用されているものを特に制限無く用いることができ、木材パルプ等の天然繊維、各種樹脂からなる合成繊維等を用いることができる。本実施形態においては、前述した表面シート2の構成・構造をより確実に得る観点から、表面シート2に、構成繊維として、加熱によってその長さが伸びる熱伸長性繊維を含ませている。
【0036】
表面シート2の構成繊維である熱伸長性繊維は、熱融着性繊維であることが好ましい。熱伸長性繊維としての熱融着性繊維は、熱融着成分と該熱融着成分よりも融点の高い高融点成分とからなる複合繊維であることが好ましく、より好ましくは、熱融着成分を鞘、高融点成分を芯とする芯鞘型複合繊維が用いられる。熱融着成分及び高融点成分は、熱可塑性樹脂であることが好ましい。熱融着成分としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリペンテン−1、又はこれらのランダム若しくはブロック共重合体等が挙げられる。高融点成分としては、例えば、ポリエチレンテレフテレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ナイロン−6やナイロン−66などのポリアミド等が挙げられる。
【0037】
熱融着成分と高融点成分との好ましい組み合わせとしては、ポリエチレンとポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンとポリプロピレン、低融点のポリエチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンとポリブチレンテレフタレート等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。芯鞘型複合繊維は、同芯タイプの他、偏芯タイプのもの、更には繊維の全周の一部に芯成分が露出しているもの等であっても良い。
【0038】
熱融着性繊維は、凹凸形状の形成性の点から、熱伸長性複合繊維であることが好ましい。熱伸長性複合繊維は、加熱によってその長さが伸びる複合繊維であり、温度が90℃以上、好ましくは、110℃〜130℃で伸張する繊維である。熱伸長性複合繊維は、表面シート2の製造時に伸長させることにより、起伏の大きい凹凸を形成し得る。従って、表面シート2として完成した後においては、その多くが伸長した状態となっており、その状態から更に伸長される繊維という意味ではない。伸長後の熱伸長性複合繊維も熱伸長性複合繊維に含める。
【0039】
熱伸長性複合繊維としては、例えば加熱により樹脂の結晶状態が変化して伸びたり、あるいは捲縮加工が施された繊維であって捲縮が解除されて見かけの長さが伸びる繊維が挙げられる。熱伸長性複合繊維としては、熱融着成分の軟化点より10℃高く、更に融点よりも10℃低い温度での伸張率が5〜40、特に10〜30%であることが、凹凸形状を顕著に形成させる点から好ましい。熱伸長性複合繊維の好ましい例は、特開2005−350836号公報の段落〔0024〕〜〔0040〕に記載されている。
【0040】
熱融着成分と高融点成分とからなる複合繊維、特に熱伸長性複合繊維の割合は、表面シート2の構成繊維中、30〜100質量%であることが好ましく、より好ましくは40〜100質量%、更に好ましくは40〜70質量%である。これらの複合繊維以外に配合する繊維としては、熱可塑性樹脂からなる繊維(非複合繊維)等が挙げられる。
【0041】
本実施形態における表面シート2は、前述したように熱伸長性繊維を含んでおり、該熱伸長性繊維を含むウエブに凹部20を格子状に形成した後、該ウエブを加熱処理して形成されている。以下、本実施形態における表面シート2の製造方法について、熱伸長性複合繊維を用いて製造する場合を例にとり図6を参照しながら説明する。
【0042】
先ず、所定のウエブ形成手段(図示せず)を用いて表面シート2の原反となるウエブ2Aを作製する。ウエブ2Aは、熱伸長性複合繊維を含むものであるか、又は熱伸長性複合繊維からなるものである。ウエブ形成手段としては、例えば(a)カード機を用いて短繊維を開繊するカード法、(b)溶融紡糸された連続フィラメントを直接エアサッカーで牽引してネット上に堆積させる方法(スパンボンド法)、(c)短繊維を空気流に搬送させてネット上に堆積させる方法(エアレイ法)等の公知の方法を用いることができる。
【0043】
次いで、ウエブ2Aをヒートエンボス装置51に導入する。そして、ヒートエンボス装置51内で、ウエブ2Aにヒートエンボス加工が施される。ヒートエンボス装置51は、一対のロール52,53を備えている。ロール52は周面が平滑となっている平滑ロールである。一方、ロール53は、その周面に、凹部20に対応する格子状の凸部が形成されている彫刻ロールである。各ロール52,53は所定温度に加熱可能になっている。
【0044】
ヒートエンボス加工は、ウエブ2A中の熱伸長性複合繊維の熱融着成分が溶融する温度で行う。ヒートエンボス加工の加工温度は、ウエブ2A中の熱伸長性複合繊維における熱融着成分の融点以上で且つ高融点成分の融点未満の温度で行われることが好ましい。また熱伸長性繊維の伸長開始温度未満の温度で行われることが好ましい。
【0045】
ヒートエンボス加工によって、凹部20が格子状に形成された不織布54が得られる。次いで、その不織布54は、熱風吹き付け装置55に搬送される。熱風吹き付け装置55においては不織布54にエアスルー加工(加熱処理)が施される。熱風吹き付け装置55は、所定温度に加熱された熱風が不織布54を貫通するように構成されている。エアスルー加工は、不織布54中の熱伸長性複合繊維が加熱によって伸長する温度で行われる。且つ不織布54における凹部20以外の部分に存するフリーな状態の熱伸長性複合繊維どうしの交点が熱融着する温度で行われる。尤も、斯かる温度は熱伸長性複合繊維の高融点成分の融点未満の温度で行うことが好ましい。
【0046】
このようなエアスルー加工によって、不織布54に含まれる熱伸長性複合繊維が、凹部20以外の部分において伸長する。熱伸長性複合繊維はその一部が凹部20によって固定されているので、伸長するのは凹部20間の部分である。熱伸長性複合繊維はその一部が凹部20によって固定されていることによって、伸長した熱伸長性複合繊維の伸び分は、不織布54の平面方向への行き場を失い、エアスルー加工時の熱風吹きつけ側の熱伸長性複合繊維は、該不織布54の厚み方向へ移動する。これによって、凹部20に囲まれた区画領域22の中央部に凸部23が形成される。また、エアスルー加工によって凹部20間に存する熱伸長性複合繊維どうしの交点が熱融着によって接合され、凸部23には、繊維接合点が3次元的に分散した状態に形成される。このようにして目的とする表面シート2が得られる。
【0047】
本発明に係る表面シートは、前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、区画領域22(凹部20で囲まれた領域)の平面視における形状は、図4に示す如き菱形に制限されず、例えば、長方形、正方形、平行四辺形、楕円形、三角形等の任意の形状とすることができる。また、一枚の表面シートに、菱形形状の区画領域と平行四辺形状の区画領域とを組み合わせて設ける等、平面視形状の異なる複数種類の区画領域を設けることもできる。
【0048】
吸収体4は、図1に示すように、一方向に長い略矩形形状をしており、その長手方向を失禁パッド1の縦方向Xに一致させて、失禁パッド1の横方向Yの中央に配置されており、図2に示すように、第1シート41、第2シート42、及び両シート41,42間に介在配置された吸水性ポリマー43を含んで構成されている。第1シート41は吸収体4の肌対向面4aを形成しており、第2シート42は吸収体4の非肌対向面4bを形成している。吸水性ポリマー43は、尿等の体液を吸液し膨潤する粒子状のポリマーであり、第1シート41と第2シート42との間に多数存在している。
【0049】
吸収体4の肌対向面4aには、図7に示すように、クレープ加工による皺45が縦方向Xに延びて形成されている。即ち、吸収体4の肌対向面4aを形成する第1シート41にはクレープ加工が施されており、そのクレープ方向は、失禁パッド1の縦方向Xと同方向である。第1シート41においては、吸収体4の肌対向面4aを形成する、第1シート41の一面(図7において図示されている面)のみがクレープ加工されて該一面に縮緬状の細かい皴45が多数形成されており、該一面とは反対側の他面はクレープ加工されていない。本発明に係るクレープ加工としては、例えば、公知のクレープ加工法を利用することができる。例えば、ドライクレープ加工法としては、第1シート41としてパルプ紙を用いる場合、抄紙されたパルプシートを乾燥する工程において、ヤンキードライヤーに当接したパルプシートをドクターブレードで掻き取ることによってクレープを形成する。一般に、クレープ加工は、エンボス加工に比して、シートに細かい皴(凹凸)を付与することができ、こうした細かい皴が、後述する皴45による作用効果(吸収体の使用効率の向上)を安定的に奏させることを可能にする。尚、ドライクレープ加工による皴は、該皴を有するシートを水に浸すと消失するのに対し、エンボス加工による皴は通常このように水に浸しても消失しないため、あるシートに形成されている皴がクレープ加工によるものであるか否かを判断する方法としては、該シートを水に浸漬する方法が有効である。また、本発明ではいわゆるウエットクレープを用いても良い。
【0050】
このように、吸収体4において、表面シート2を透過した尿等の体液を最初に受ける部位である、吸収体4の肌対向面4a(第1シート41の肌対向面)に、失禁パッド1の縦方向Xに延びる皴45が多数形成されていることにより、肌対向面4a上に達した体液が、皴45に沿って縦方向X、即ち吸収体4の長手方向に流れるようになるため、吸収体4全体に体液が行き渡りやすくなり、その結果、吸収体4の使用効率が高まり、吸収体4の液吸収性能を最大限に活用してより多くの体液を吸収体4に吸収させることが可能となる。しかも、ドライクレープの場合、液と接触したのりに皺が消失し、第1シート41と吸水性ポリマー43との接触面積が増えるので、より液の受け渡しが有効に行われやすくなる。
【0051】
第1シート41、第2シート42としては、それぞれ、紙又は親水性不織布が好ましく用いられる。紙としては、木材パルプ繊維を主体とする湿式抄紙法による紙が挙げられる。親水性不織布としては、エアスルー不織布、ポイントボンド不織布、スパンレース不織布、スパンボンド不織布、スパンボンド−メルトブローン−スパンボンド(SMS)不織布等が挙げられる。第1シート41と第2シート42とは、組成が同じであっても良く、異なっていても良い。第1シート41及び第2シート42の坪量は、それぞれ、好ましくは10〜100g/m2、更に好ましくは15〜60g/m2である。
【0052】
吸水性ポリマー43としては、この種の吸収性物品において通常用いられている各種のものを適宜用いることができる。例えば、ポリアクリル酸ソーダ、(アクリル酸−ビニルアルコール)共重合体、ポリアクリル酸ソーダ架橋体、(デンプン−アクリル酸)グラフト重合体、(イソブチレン−無水マレイン酸)共重合体及びそのケン化物、ポリアクリル酸カリウム、並びにポリアクリル酸セシウム等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。粒子状の吸水性ポリマー43の形状は特に制限されず、例えば不定形状、塊状、俵状、球状、あるいは球状等の粒子が凝集した形状等が挙げられる。吸収体4における吸水性ポリマー43の含有量は、吸収体4の全質量に対して、好ましくは10〜70質量%、更に好ましくは15〜60質量%である。
【0053】
失禁パッド1について更に説明すると、失禁パッド1の非肌当接面(裏面シート3の非肌当接面3b)は、着用時にショーツのクロッチ部等、衣類側に向けられる。非肌当接面3bには、失禁パッド1をショーツ等の下着のクロッチ部に固定するための粘着部(図示せず)が設けられている。この粘着部は、ホットメルト粘着剤を所定箇所に塗布することにより設けられており、失禁パッド1の使用前においてはフィルム、不織布、紙などからなる図示しない剥離シートによって被覆されている。
【0054】
裏面シート3としては、当該技術分野において従来用いられている各種のものを特に制限なく用いることができる。裏面シート3は、液不透過性でも液透過性でも良く、例えば透湿性を有しない樹脂フィルムや、微細孔を有し、透湿性を有する樹脂フィルム、撥水不織布等の不織布、これらと他のシートとのラミネート体等を用いることができる。
【0055】
本実施形態の失禁パッド1は、公知の失禁パッドと同様に下着等の着衣に装着して使用する。本実施形態の失禁パッド1は、前述した構成を具備していることにより、A)表面シート2上に体液が長時間滞留し難く、B)ヨレや皺が発生し難い。斯かる効果A)及びB)を奏する本実施形態の失禁パッド1は、吸収性能と共に快適性能を満たし、特に、軽度の尿失禁症の失禁パッド等に有効である。
【0056】
前記A)の効果に関し、失禁パッド1においては、主として表面シート2と吸収体4とで体液の拡散を制御することにより、前記A)の効果が奏される。即ち、前述したように、表面シート2の肌対向面2aに、凹部20が格子状に設けられることにより多数の区画領域22が形成されているため、肌対向面2a上に排泄された体液は、凹部20で包囲された個々の区画領域22内に閉じ込められ、これにより面方向における体液の拡散が抑制される。その結果、例えば、体液が肌対向面2a上を流れて失禁パッド1の端部に達して漏れ出すという不都合が効果的に防止される。
【0057】
また、本実施形態においては、前述したように、表面シート2の繊維配向が失禁パッド1の横方向Yと一致又は近似しているため、肌対向面2a上に排泄された体液は、前述した、隣接する繊維間に形成された先細りのストロー状の空間を介して、該繊維配向に沿って優先的に横方向Yに流れて近傍の凹部20に達しやすく、また、縦方向Xについても、同様のストロー状の空間を介して、体液が縦方向Xに流れて凹部20に達することができるようになっている。また、本実施形態における表面シート2は、前述したように、厚み方向に関しては肌対向面2a側の方が非肌対向面2b側よりも繊維間距離が長く、従って、表面シート2の厚み方向における繊維密度は、肌対向面2a側(頂部21aの近傍)が相対的に疎、非肌対向面2b側(凸部21の底部)が相対的に密になっており、更に、面方向に関しては、頂部21a側(区画領域22の中央部)の方が凹部20側(区画領域の22の縁部)よりも繊維間距離が長く、従って、表面シート2の面方向における繊維密度は、頂部21a側が相対的に疎、凹部20側が相対的に密となっているため、頂部21aの肌対向面2aやその近傍に位置する体液は、非肌対向面2b側や凹部20側の強い毛管力(表面張力)によって、ストロー状の空間を介して凹部20に移行しやすくなっている。更に、本実施形態における表面シート2は、前述したように単一の層から構成された単層構造であるため、肌対向面2a側から非肌対向面2b側に至るまでの繊維密度勾配が連続的であり、前述した体液の移行がスムーズになされやすい。このように、表面シート2の肌対向面2a上に排泄された体液は、区画領域22の存在等により表面シート2の面方向への拡散が抑制されつつ、非肌対向面2b側に向かって厚み方向及び面方向に速やかに移行し、凹部20に優先的に集められる。
【0058】
そして、凹部20に集められた体液は、直下の吸収体4に移行する。本実施形態においては、前述したように、吸収体4と対向する表面シート2の非肌対向面2bは、略平坦であるため、吸収体4の肌対向面4aと実質的に隙間を作ることなく密着しており、そのため、表面シート2から吸収体4への体液の移行が速やかになされる。吸収体4の肌対向面4aには、前述したように、失禁パッド1の縦方向X(吸収体4の長手方向)に延びる皴45が多数形成されているため、表面シート2を透過して吸収体4の肌対向面4aに達した体液は、肌対向面4a上において皴45に沿って優先的に吸収体4の長手方向に流れ、その結果、吸収体4全体に体液が行き渡るようになり、吸収体4の液吸収性能を最大限に活用してより多くの体液を吸収体4に吸収させることができる。以上のような表面シート2と吸収体4との連携した作用効果の発現により、前記A)の効果「表面シート2上に体液が長時間滞留し難い」が安定的に奏される。
【0059】
また、前記B)の効果に関し、失禁パッド1においては、前述したように、表面シート2の繊維配向が失禁パッド1の横方向Yと一致又は近似しているため、表面シート2、延いては失禁パッド1の横方向Yの剛性が高く、着用時において横方向Yに外力が加わっても失禁パッド1が変形し難く、ヨレや皴が発生し難い。特に、本実施形態においては、エンボス加工等によって形成され比較的高密度の凹部20による区画領域22が、失禁パッド1の横方向Yに長い形状をしていることによっても、失禁パッド1の横方向Yの剛性が高くなっており、前述した表面シート2の繊維配向に起因する剛性の向上効果と相俟って、失禁パッド1の横方向Yの剛性が十分に高められていて、ヨレや皴が発生し難い。
【0060】
ところで、前記実施形態における吸収体4は、2枚のシート41,42間に吸水性ポリマー43が介在配置されて構成されていたが、本発明における吸収体は、図8に示す如き吸収体8であっても良い。吸収体8は、吸収性コア81と、吸収性コア81を被覆する液透過性のコアラップシート82とを含んで構成されており、吸収体4と同様に、一方向に長い略矩形形状をしている。吸収体8の肌対向面8a(吸収性コア81の肌対向面81aを被覆する、コアラップシート82の肌対向面)には、図7に示す如きクレープ加工による皺(図示せず)が、失禁パッド1の縦方向X(吸収体8の長手方向)に延びて形成されている。吸収性コア81としては、木材パルプ、合繊繊維等の親水性繊維からなる繊維集合体、又は該繊維集合体に粒子状の吸水性ポリマーを保持させたもの(図8では後者を図示している)等を用いることができる。コアラップシート82としては、例えば、ティッシュペーパー等の紙や各種不織布、開孔フィルム等を用いることができる。吸収性コア81とコアラップシート82との間は、所定の部位においてホットメルト粘着剤等の接合手段により接合されていても良い。
【0061】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば、前記実施形態では、クレープ加工による皴は、吸収体の肌対向面のみに形成されていたが、該肌対向面に加えて吸収体の非肌対向面に形成されていても良い。また、本発明の吸収性物品の適用例の一つとして失禁パッドを挙げたが、本発明は、例えば生理用ナプキン、おりものシート、使い捨ておむつ等にも適用できる。
【符号の説明】
【0062】
1 失禁パッド(吸収性物品)
2 表面シート
2a 表面シートの肌対向面(吸収性物品の肌対向面)
21 凸部
20 凹部
22 区画領域
25 表面シートの構成繊維
3 裏面シート
4,8 吸収体
4a,8a 吸収体の肌対向面
41 第1シート
42 第2シート
43 吸水性ポリマー
45 クレープ加工による皴
81 吸収性コア
82 コアラップシート
X 縦方向(表面シート製造時のCD)
Y 横方向(表面シート製造時のMD)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維を含んで構成され且つ肌対向面を形成する表面シート、非肌対向面を形成する裏面シート、及び両シート間に介在配置された吸収体を具備し、着用時に着用者の腹側部から背側部に向かう方向に配される縦方向と該縦方向に直交する横方向とを有する吸収性物品であって、
前記表面シートの肌対向面に、前記縦方向及び前記横方向それぞれに交差する方向に延びる凹部が格子状に形成されており、該凹部によって該表面シートが多数の領域に区画化されて、多数の区画領域が形成されており、
前記吸収体の肌対向面に、クレープ加工による皺が前記縦方向に延びて形成されている吸収性物品。
【請求項2】
多数の前記区画領域は、それぞれ、平面視において前記縦方向よりも前記横方向に長い形状をしている請求項1記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記表面シートの繊維配向が前記横方向と一致又は近似している請求項1又は2記載の吸収性物品。
【請求項4】
各前記区画領域では、肌対向面側の方が非肌対向面側よりも繊維間距離が長い請求項1〜3の何れか一項に記載の吸収性物品。
【請求項5】
各前記区画領域は肌対向面側に頂部を備えた凸形状であり、該頂部及びその近傍における繊維間距離が100〜500μm、各該区画領域の非肌対向面側及びその近傍における繊維間距離が50〜400μmである請求項1〜4の何れか一項に記載の吸収性物品。
【請求項6】
前記凹部が前記表面シートのみに形成されている請求項1〜5の何れか一項に記載の吸収性物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−90661(P2012−90661A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238276(P2010−238276)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】