説明

吸水性ポリマー及びその製造方法

【課題】 尿等の体液吸収性に優れ、安全性が高く、かつ所望する形・用途に合わせて加工でき、医薬品等の添加剤等としても使用可能である、多機能性の吸水性ポリマー及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 カルボキシビニルポリマーを、35℃〜200℃、より好ましくは70℃〜170℃の範囲で、加熱温度及び加熱時間をコントロールすることにより、カルボキシル基の脱水縮合反応の進行度が5%〜95%、より好ましくは20%〜80%となるようにして、カルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシビニルポリマーを脱水・縮合して得られる吸水性ポリマー及びその製造方法に関するものである。さらに詳しくは、サニタリー用吸水材、農園芸用保水剤、土木建築用止水材、食品用鮮度保持剤及び医薬品・医薬部外品・医療機器・化粧品等の医療用添加剤として吸水性、加工性及び生体適合性に優れ、好適に使用し得る吸水性ポリマー及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高吸水性ポリマーとは、自重の数十倍から数百倍の水を吸収する親水性の高分子である。現在、高吸水性ポリマーは、使い捨て紙おむつや生理用ナプキン等のサニタリー分野を初め、農園芸用保水剤、土木建築用止水材、医療用吸水・保湿剤、食品の鮮度保持など吸水や保水を必要とする用途に世界中で幅広く使用されている。
【0003】
このような高吸水性ポリマーを化学構造から分類すると、部分中和型ポリアクリル酸塩架橋体、デンプン−アクリロニトリルグラフト重合体の加水分解物、デンプン−アクリル酸グラフト重合体の中和物、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体のケン化物、アクリロニトリル共重合体もしくはアクリルアミド共重合体の加水分解物、またはこれらの架橋体等に分けられる。
【0004】
これらの高吸水性ポリマーの中でも、架橋型ポリアクリル酸塩系に代表される電解質型の高吸水性ポリマーは、自重の数百倍の高い吸水能を有し、且つ安価であるため、現在、最も広く用いられている(特許文献1等)。この架橋型ポリアクリル酸塩は、水と接触するとカルボキシル基による負電荷を持つ高分子イオンと正の電荷を持つ低分子の対イオンに解離する。この対イオン濃度が周囲の液中の濃度より高い場合には、外部に対して浸透圧を持つことになり、対イオンは高分子イオンから離れて行き、高分子イオンは対イオンの影響を受けにくくなる。その結果、高分子イオン中の負イオン同士の電気的反発力により、高分子イオンの分子鎖は延伸され、高分子イオンと水との親和力により多量の水を吸い込むことができる。
【0005】
この吸水力は、P. J. Flory による高分子電解質のイオン網目理論によって次式で表すことができる。
(数1)
吸水力=(イオンの浸透圧+高分子電解質の水との親和力)/架橋密度
上式により、イオンの浸透圧が高いほど(すなわち、外部溶液の電解質のイオン濃度が低いほど)、また、高分子電解質と水との親和力が高いほど(すなわち、親水性基が多いほど)、吸水力が増加することが解る。
【0006】
上式からも明らかなように、高吸水性ポリマーの問題点は、外部溶液のイオン強度が高い場合、例えば、海水、尿や血液などの体液の場合には、吸水能力が純水に比較して大幅に低下することである。このことは、高吸水性ポリマーを使い捨て紙おむつや生理用ナプキン等のサニタリー分野で利用する時の深刻な問題である。
【0007】
また、現在汎用されている高吸水性ポリマーの多くは、粉末・固体状で流通されているため、加工基材に安定にかつ均一に固定化させる等、消費者のもとで用途に応じて加工処理できるものではなかった。さらに、汎用されている高吸水性ポリマーは、直接人体に投与・適用するために開発されたものではなく、人体に対する安全性の面から医薬品、医薬部外品、医療機器および化粧品の添加剤として適しているものではなかった。
【特許文献1】特開平11−240959号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、現在汎用されている高吸水性ポリマーは、使い捨て紙おむつや生理用ナプキン等のサニタリー分野で利用されているものの、尿や血液などの体液の吸水能力は、水の吸水能力に比べて1/10程度に低下するといった問題点があった。
【0009】
さらに、ほとんどの高吸水性ポリマーは、粉末・固体状で流通されていることから、消費者が所望する形・用途に加工し難く、また人体に対する安全性の面からも、医薬品、医薬部外品、医療機器および化粧品の添加剤等として適したポリマーではなかった。
【0010】
本発明は、上述したような従来技術の問題点を解決するために提案されたものであり、その目的は、尿等の体液吸収性に優れ、安全性が高く、かつ所望する形・用途に合わせて加工でき、医薬品、医薬部外品、医療機器及び化粧品の添加剤等としても使用可能である、多機能性の吸水性ポリマー及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明者等は鋭意研究を行った結果、カルボキシビニルポリマー(架橋型アクリル酸重合体)を加熱処理することにより得られる、カルボキシル基の一部が脱水縮合し酸無水物型となったもの(以下、「カルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物」という。)が、尿吸収性に優れ、所望の用途に合わせた加工処理が可能な新規な高吸水性ポリマーであること、並びに医薬品、医薬部外品、医療機器及び化粧品の添加剤として安全性が高く、従来の医療用添加剤にはない特異的な機能を有することを見出し、これに基づいて本発明を完成するに至ったものである。
以下、本発明について詳述する。
【0012】
(カルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物の製造方法)
本発明のカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物の製造方法は、以下の通りである。まず、アクリル酸モノマーに架橋剤を加えカルボキシビニルポリマーを合成する。得られた固体状の水溶性カルボキシビニルポリマーを水に溶解あるいはハイドロゲル状態とした後、これらを加熱処理し乾燥させてカルボキシル基の一部を脱水縮合させることにより、本発明のカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物を製造することができる。
【0013】
また、本発明のカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物は、固体状のカルボキシビニルポリマーをそのまま乾熱処理、好ましくはカルボキシビニルポリマー粉末を圧縮したものを乾熱処理することによっても製造することができる。
【0014】
上記カルボキシビニルポリマーの合成に用いられる架橋剤としては、特に限定されないが、例えば、ペンタエリスリトールテトラアリルエーテル、ジエチレングリコールジアリルエーテル、ヘキサアリルトリメチレントリスルホン、リン酸トリアリル、グリシジルメタクリレートまたはポリアリルサッカロース等を用いることができる。
【0015】
アクリル酸モノマーと架橋剤の重合法は、溶媒、重合開始剤及び添加剤等を含め特に限定されず、カルボキシビニルポリマーを製造する公知の重合法(特開2003−268009号公報、特開平6−107720号公報等)のいずれを用いてもよい。また、カルボキシビニルポリマーは、多数のメーカーから架橋剤・架橋度の異なる商品(ハイビスワコーシリーズ(和光純薬工業、登録商標)、ジュンロン(日本純薬)、AQUPEC(住友精化)、カーボポールシリーズ(BF Goodrich/CBC社、登録商標)など)が市販されているので、これらをカルボキシビニルポリマー脱水縮合物の製造原料として利用することができる。
【0016】
なお、上記各社メーカーから市販されているカルボキシビニルポリマーは、現在医薬品添加物および化粧品添加物として増粘剤、ゲル化剤として最も多く用いられている、生体に対して低毒性で、高い安全性が保証されている生体適合性ポリマーである。
【0017】
また、カルボキシビニルポリマーを加熱処理し、カルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物を合成する反応において、固体状のカルボキシビニルポリマーを一旦水に溶解させてから、或いはハイドロゲルにしてから加熱処理すると、均一な脱水縮合反応を起こさせること及び過剰な脱水反応を抑えることが容易となる。
【0018】
この場合の水溶液中の固形物濃度は、最終的には加熱によって水分を完全に蒸発させるため特に限定されるものではないが、試料全体にわたって均一なカルボキシル基の脱水縮合反応が進行するために、初期固形物濃度は、均一なゲル或いは水溶液が調製できる濃度とすることが好ましい。また、上記カルボキシビニルポリマー水溶液あるいはハイドロゲルを調製する時、アルカリで部分中和することも可能である。
【0019】
本発明のカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物を製造する時の加熱温度は、35℃〜200℃が好ましく、70℃〜170℃がより好ましい。また、加熱温度は、反応中一定に保つ必要はなく、例えばゲル中の水が蒸発するまでは気泡が生じないように低温で加熱し、その後高温で加熱処理する方法でも良い。
【0020】
また、加熱時間は、加熱温度と最初の反応溶液の濃度或いはゲルの濃度によって異なるので一概には決定することができないが、カルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物の製造温度範囲内で任意に加熱時間を変化させることにより、カルボキシル基の脱水縮合反応の進行度を制御することが可能となる。なお、脱水縮合反応の進行度は、脱水に基づくポリマーの重量減少、ポリマーの溶解度減少あるいは赤外吸収分光法等により確認することができる。
【0021】
(カルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物の水分吸収性と吸収メカニズム)
本発明のカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物の水分吸収量は、原料となるカルボキシビニルポリマーのカルボキシル基の脱水反応がどの程度進行し、酸無水物型に変化しているかで影響される。それゆえ、カルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物の製造温度範囲で任意に加熱時間を変化させることにより、カルボキシル基の脱水縮合反応の進行度を制御し、ポリマー自重の数十倍から数百倍までの所望する水分吸収力を有するカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物を製造することができる。
【0022】
加熱処理に伴うカルボキシビニルポリマー中のカルボキシル基の酸無水物型への変化量は、脱水に伴うポリマー重量の減少量から見積もることができる。カルボキシビニルポリマーは、分子中カルボキシル基を58重量%〜63重量%含んでいる。そのうち脱水縮合反応に関与できるカルボキシル基は限られていると推察され、脱水縮合反応が完全に進行した時の最終的なポリマー重量減少量は、カルボキシビニルポリマーの平均分子量、架橋度、架橋剤の種類等により異なる。
【0023】
例えば、市販のカーボポール941の脱水縮合・酸無水物形成に伴う全重量減少量は、75℃〜170℃の間で反応前の重量の約9%であるが、カーボポール934では約6%である。平均分子量等の異なるカルボキシビニルポリマーの脱水縮合・酸無水物形成による全重量減少量は、実験的に示差走査熱量分析(DSC分析)・熱重量測定(TG測定)同時分析により容易に確認することができる。
【0024】
このようにカルボキシビニルポリマーが吸水性ポリマーに変化するメカニズムは、脱水縮合によりカルボキシビニルポリマーに新たに架橋が形成され不溶性になることと、脱水縮合に関与しなかったカルボキシル基の親水性に基づくと推察される。したがって、脱水縮合・酸無水物形成反応が完全に進行しても水分吸収力は低下する。本発明のカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物は、反応に関与できるカルボキシル基の脱水縮合反応が5%〜95%進行したものが好ましく、20%〜80%進行したものがより好ましい。
【0025】
(作用・効果)
本発明のカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物の特徴は、以下の通りである。まず、カルボキシビニルポリマーの加熱温度・加熱時間をコントロールすることにより、所望する水分吸収力を有する高吸水性ポリマーを容易に製造できることである。また、本発明のカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物は、構造的にアクリル酸塩型でないため、尿等の吸収性に優れている点である。
【0026】
さらに、従来の高吸水性ポリマーは、架橋密度が高いため水に溶けず、粉末・固体状態で市販されているため加工しづらく、限られた用途にしか使用できなかった。これに対して、本発明のカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物は、カルボキシビニルポリマーを水に溶解し、必要に応じ種々の可塑剤(特に限定されるものではないが、例えばポリエチレングリコール、クエン酸トリエチルなど)を加え、基板等に塗工したり、また鋳型に流し込み、加熱処理するだけで高吸水性の膜や製品を容易に調製できる点である。
【0027】
さらに、本発明のカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物は、医薬品及び化粧品添加物として安全性が認められているカルボキシビニルポリマーを原料として、重合開始剤や架橋剤を一切加えることなく、加熱処理のみで製造することができるため、生体安全性が高く医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器の医療材料として利用できる。
【0028】
また、本発明のカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物を医療材料として応用した場合、従来にない種々の特徴的な機能を有する製剤(すなわち薬物送達システム)を開発することができる点である。例えば、気管支喘息薬であるテオフィリンなど、持続性を必要とする薬物の直接圧縮錠剤用の賦形剤として、本発明のカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物を使用した場合、一定速度(0次放出)の薬物放出速度を有する徐放性錠剤を調製することができる。
【0029】
また、鋳型に流し込んで調製した本発明のカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物錠剤は、自重の100倍以上の水を吸収し膨潤する。この性質を利用した胃内滞留性製剤は胃排出時間が長く、小腸への薬物の持続的供給システムとして有用である。また、皮膚外用薬を含有したカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物フィルムは、Wet Healingのための創傷ドレッシングとして皮膚の湿潤環境を維持すると共に持続的薬物放出を可能にする新規創傷治療システムである。
【0030】
上述したように、本発明のカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物は、尿吸収性に優れ、また生体適合性が高いカルボキシビニルポリマーを原料とし、架橋剤及び重合剤等を一切加えず、加熱のみで製造できるため、高い安全性を有している。また、本発明の製造方法では、原料となるカルボキシビニルポリマーを、加工しやすい溶液状態あるいはゲル状態として用いるため、種々の形態・用途の高吸水性ポリマーを簡便に調製することが可能である。
【0031】
従って、本発明のカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物は、従来の高吸水性ポリマーに比べ、性能、応用性及び安全性が高く、サニタリー用吸水材、農園芸用保水剤、土木建築用止水材、食品用鮮度保持剤及び医薬品・医薬部外品・医療機器・化粧品等の医療用添加剤として有効に利用することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、尿等の体液吸収性に優れ、安全性が高く、かつ所望する形・用途に合わせて加工でき、医薬品、医薬部外品、医療機器及び化粧品の添加剤等としても使用可能である、多機能性の吸水性ポリマー及びその製造方法を提供することができる。
【実施例】
【0033】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0034】
[カルボキシビニルポリマーを加熱処理した時の構造変化について]
カルボキシビニルポリマーを加熱処理した時の構造変化を示差走査熱量分析(DSC分析)・熱重量測定(TG測定)同時測定により調べた。試料として、市販のカルボキシビニルポリマー(カーボポール941)粉末150mgを使用し、5000kg/cm2の圧力で圧縮し、直径1cmのディスクに成形した。これをアルミパンに詰め、DSC・TG同時測定を行った。測定は、窒素雰囲気下、30℃〜250℃の温度領域を昇温スピード10℃/minで行った。
【0035】
図1は、カルボキシビニルポリマー(カーボポール941)のDSC、TG曲線を示したものである。図1のDSC曲線において、温度75℃〜170℃の間に吸熱ピークが観察された。また、図1のTG曲線において、上記の温度範囲で明らかな重量減少が認められ、170℃付近に変曲点が確認された。この結果は、カーボポール941がこの温度範囲で脱水縮合を起こし、本発明のカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物に変わっていることを意味している。また、カーボポール941の脱水縮合に伴う全重量減少は、加熱前のポリマー重量の8.8%であった。
【0036】
なお、本明細書における、脱水縮合反応が完全に進行したカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物とは、脱水に基づく重量減少が終了したものを指し、例えば、カーボポール941ではポリマー重量減少量が8.8%のものを指している。
【0037】
[吸水量(6時間値)と脱水縮合率の関係]
本発明のカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物の吸水量(乾燥ポリマー1g当たりの吸水量)と脱水縮合率(脱水縮合反応が完結した時の全重量減少量を100%として換算した値)の関係を調べたところ、図2に示すような結果が得られた。
【0038】
まず、市販のカルボキシビニルポリマー(ハイビスワコー105)粉末1.0gを撹拌下、蒸留水19.0gに加えゲルを調製した。これを直径5.0cmのアルミ製容器に入れ、ホットプレート上で加熱温度80℃から155℃の間で適宜選択し、また加熱時間も最短で3.5時間、最長で14.5時間加熱処理し、脱水縮合率が異なる(約27%、約45%、約68%、約80%)カルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物を調製した。得られた固体状のカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物をメノウ製乳鉢で粉砕し、篩過し60メッシュ通過80メッシュ残留物を吸水実験に供した。
【0039】
吸水実験は、上記のようにして得られた脱水縮合率の異なる各カルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物0.12gをナイロン製のティーバッグに入れ、20℃の蒸留水300mlに浸した。6時間後、ティーバッグを蒸留水から取り出し、10分間吊るして水切りした後、全重量と水を吸ったティーバッグのみの重量を計り、ポリマーの吸水量を算出した。
【0040】
図2は、カルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物の吸水量と脱水縮合率との関係を示したものである。図から明らかなように、カルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物の吸水量は、脱水縮合率により大きく変化した。すなわち、カルボキシビニルポリマーの加熱温度及び加熱時間を制御し、脱水縮合率を変化させることより、ポリマー自重の数十倍から数百倍までの所望する水分吸収量を有する本発明のカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物を製造することができることが示された。
【0041】
また、本発明のカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物の吸水力と脱水縮合率の関係には、正の相関関係が認められず、吸水力が最も高くなる脱水縮合率の至適値が存在すると推察される。従って、本発明のカルボキシビニルポリマー脱水縮合物は、脱水縮合反応が5%〜95%、好ましくは20%〜80%(脱水縮合率を意味する)進行したものが望ましいことが分かった。
【0042】
[カルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物粉末の調製]
市販のカルボキシビニルポリマー(ハイビスワコー105)1.0gを蒸留水29.0gに攪拌下加えゲルを調製した。このゲル10gを直径7cmのテフロンシャーレ(テフロン:登録商標)に均一に広げ70℃の乾燥機に入れ、24時間加熱処理し、本発明のカルボキシビニルポリマー脱水縮合物を得た(脱水縮合率:約50%)。この固体状カルボキシビニルポリマー脱水縮合物をメノウ製乳鉢で粉砕し、篩過し80メッシュ通過100メッシュ残留物を以下に示す実験に供した。
【0043】
(実験例1)
上記のようにして調製したカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物0.3gをナイロン製のティーバッグに入れ、20℃の蒸留水300mlに浸した。12時間後、ティーバッグを蒸留水から取り出し、10分間吊るして水切りした後、全重量と水を吸ったティーバッグのみの重量を量り、ポリマーの吸水量を算出した。比較例として、カルボキシビニルポリマー(ハイビスワコー105)粉末0.3gを使用し、同様の吸水実験を行い12時間後の吸水量を算出した。
【0044】
表1は、上記のようにして調製したカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物(脱水縮合率:約50%)とカルボキシビニルポリマー(ハイビスワコー105)の12時間吸水量を比較したものである。カルボキシビニルポリマーが12時間で完全に溶解したのに対し、本発明のカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物は、自重の274.9倍もの高吸水性を示した。
【表1】

【0045】
(実験例2)
上記のようにして調製したカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物粉末0.3gをナイロン製のティーバッグに入れ、25℃の健常人尿300mlに浸した。5時間後、ティーバッグを尿から取り出し、10分間吊るして尿を切った後、全重量と尿を吸ったティーバッグのみの重量を量り、ポリマーの尿吸収量を算出した。比較例として、市販の紙おむつ(花王「メリーズ(登録商標)」)に使用されているアクリル酸系高分子吸収体(ポリアクリル酸塩架橋体)粉末0.3gを使用し、同様の尿吸収性実験を行い、5時間後の尿吸収量を算出した。
【0046】
表2は、上記のようにして調製した本発明のカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物と比較例の5時間尿吸収量を示したものである。本発明のカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物は、現在紙おむつ用として汎用されている吸水性ポリマーより、尿吸収性において明らかに優れていることが分かった。
【表2】

【0047】
(実験例3)
上記のようにして調製したカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物粉末とテオフィリンを、5:1の重量比で乳鉢中で混合した。この混合粉末400mgを圧力1500kg/cm2で圧縮し、直径7mmの錠剤に成形した。比較例として、徐放性錠剤調製に汎用されているカーボポール、キサンタンガム、ローカストビーンガム及びツェインを選択し、上記カルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物錠剤と同様の条件で、テオフィリンを含有した直径7mmの錠剤を調製した。
【0048】
これらの錠剤につき、日局十四パドル法によりテオフィリン溶出試験を行った。溶出試験条件は、試験液に37℃の蒸留水900mlを使用し、パドルの回転数50rpmとし、予め決められた時間で試験液を5mlサンプリングし行った。溶出されたテオフィリン量は、吸収極大波長254nmを使用し吸光光度測定により決定した。
【0049】
図3は、上記のようにして調製した本発明のカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物錠剤からのテオフィリンの溶出率と時間の関係を示したものである。また、図4は、比較例であるカーボポール、キサンタンガム、ローカストビーンガム及びツェインからなる錠剤からのテオフィリンの溶出率と時間の関係を示したものである。
【0050】
図3に示したように、本発明のカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物錠剤からのテオフィリンの溶出は6時間以上にわたり持続し、かつ薬物溶出速度が一定である0次溶出パターンを示した。これに対して、比較例の錠剤からのテオフィリンの溶出は、薬物溶出速度が経時的に遅くなる一次溶出パターンを示した。錠剤からの薬物の0次溶出は、人体に薬物を一定速度で供給することができるため、血中薬物濃度を一定に保つのに効果的である。従って、本発明のカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物は、理想的な薬物溶出パターンを示す徐放性錠剤を開発するために有効な医薬品添加剤であるといえる。
【0051】
(実験例4)
市販のカルボキシビニルポリマー(ハイビスワコー105)1.0gを蒸留水29.0gに攪拌下加えゲルを調製した。このゲル1.3gを、サイズ3.5cm×3.5cmの止血用の綿製布に均一に塗布し、十分に綿にしみ込ませた。この綿をホットプレートで100℃、2.5時間加熱処理することにより、本発明のカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物を付着させた新規な創傷ドレッシングを調製した。また、比較例として、同サイズの止血用の綿を使用し、水分蒸発実験を行うことにより、本発明及び比較例の綿の保水性を評価した。
【0052】
また、試験方法は、本発明のカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物付着綿及び未処理綿を30分間精製水に浸して水を吸収させた後、20℃の高温室に置き、経時的に重量測定を行い、水分含有量を算出した。
【0053】
図5は、カルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物を付着させた綿からの水分蒸発挙動を示したものである。図から明らかなように、未処理綿からは水分が速やかに蒸発し、約4時間でほぼ乾燥した。これに対して、本発明のカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物を付着させた綿は、水分の蒸発速度が遅く、12時間以上にわたって湿った状態にあった。
【0054】
現在、褥瘡を始めとした創傷治療は、乾燥させて治すより、湿潤環境を維持した方が数段治りが早いことが立証されている。そのゆえ、Wet Healingのための創傷ドレッシングが盛んに開発されているが、従来のドレッシングは高価かつ使い勝手が悪いなどの問題点があった。しかしながら、本発明のカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物を利用すれば、保湿効果が高く安価なWet Healingのための創傷ドレッシングを容易に開発できると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】カルボキシビニルポリマー(カーボポール941)の示差走査熱量曲線(DSC曲線)及び熱重量曲線(TG曲線)を示す図。
【図2】本発明のカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物の脱水縮合率と吸水量との関係を示す図。
【図3】本発明のカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物錠剤からのテオフィリン溶出率と時間の関係を示す図。
【図4】カーボポール、キサンタンガム、ローカストビーンガム及びツェイン錠剤からのテオフィリン溶出率と時間の関係を示す図。
【図5】本発明のカルボキシビニルポリマー部分脱水縮合物を付着させた綿からの水分蒸発挙動を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシビニルポリマーを所定温度で加熱処理し、脱水縮合させることにより合成したことを特徴とする吸水性ポリマー。
【請求項2】
カルボキシビニルポリマーの脱水縮合反応が5%〜95%進行したものであることを特徴とする請求項1に記載の吸水性ポリマー。
【請求項3】
前記加熱温度が35℃〜200℃であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の吸水性ポリマー。
【請求項4】
カルボキシビニルポリマーを水に溶解した後、あるいはゲル化した後、所定温度で加熱処理することを特徴とする吸水性ポリマーの製造方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋型カルボキシビニルポリマーを所定温度で加熱処理し、カルボキシル基の一部を脱水縮合させて酸無水物型としたことを特徴とする吸水性ポリマー。
【請求項2】
前記架橋型カルボキシビニルポリマーの脱水縮合反応が5%〜95%進行したものであることを特徴とする請求項1に記載の吸水性ポリマー。
【請求項3】
前記加熱温度が35℃〜200℃であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の吸水性ポリマー。
【請求項4】
架橋型カルボキシビニルポリマーの水溶液あるいはハイドロゲルを、基板等に塗工または鋳型に流し込み、加熱処理し脱水縮合することにより、所望する形・用途に加工することを特徴とする吸水性ポリマーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−342216(P2006−342216A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−167285(P2005−167285)
【出願日】平成17年6月7日(2005.6.7)
【出願人】(597005462)
【Fターム(参考)】