説明

吸水防止材

【課題】コンクリート等の土木・建築材料への浸透性に優れ、かつ溶剤型浸透性吸水防止材並みの良好な撥水性を発揮し、長期間にわたって汚れや黴の発生を抑制するエマルション型吸水防止材を提供する。
【解決手段】有機ケイ素化合物エマルションおよび水溶性撥水剤を含む吸水防止材であって、好ましくは、有機ケイ素化合物エマルションが、アルキルアルコキシシランおよびアルキルアルコキシシロキサンを含むエマルションで、水溶性撥水剤が、フルオロアルキル基含有オルガノポリシロキサンを含む組成物である吸水防止材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木・建築材料用の吸水防止材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アルキルアルコキシシランおよびその縮合物が、コンクリート等の土木・建築材料の浸透性吸水防止材として有用であることは、広く知られている。浸透性吸水防止材は、コンクリート等の内部に浸透して表層部に厚い撥水層を形成するため、吸水防止性能が長期にわたって持続し、塩分や水分の浸透による種々の劣化現象を抑制できる。一般に、浸透性吸水防止材として、これらアルキルアルコキシシランを種々の溶剤で希釈したものが用いられる。しかしながら、これら溶剤型の吸水防止材を土木・建築材料に塗布する場合、高い撥水性を示すが、溶剤の揮発性および引火性等により、その使用に制限がある。例えば、イソプロピルアルコールを溶剤に用いる場合、溶剤の蒸発が急速であり、吸水防止材が基材へ十分浸透しないため、塗布製品の耐久性が劣る等の問題がある。逆に揮発しにくい溶剤を用いる場合は、塗工面が湿潤状態になって乾燥し難く、重ね塗りができない等の問題がある。また、一般に溶剤型は、濡れたコンクリート表面には塗布できない等の問題がある。
【0003】
これらの問題を解決するために、近年、水系の吸水防止材が注目されている。水系の吸水防止材としては、アルキルアルコキシシランのエマルションが知られている(特許文献1参照)。しかしながら、このエマルションは、分子量500以下の小さい加水分解可能なシランで構成され、層分離し易いので、HLB値が4〜15の乳化剤を多量に使用する必要がある。乳化剤を多量に含むエマルションを、基材に塗布・乾燥した後の基材表面には、乳化剤が残存し、基材塗布面の撥水性が極端に悪くなるという問題がある。一方、撥水性を改良するために、アルキルアルコキシシランエマルション、および撥水剤としてジルコニウム系エマルションまたはパーフルオロアルキル基含有アクリル樹脂のフッ素系エマルションを混合した組成物も知られている(特許文献2参照)。しかしながら、ジルコニウム系エマルションやフッ素系エマルションは、含有する乳化剤の影響を受け、その撥水性は溶剤型吸水防止材ほど高くなく、塗布面に汚れの付着や黴が発生し易い等の問題がある。
【特許文献1】特開昭62−197369号公報
【特許文献2】特開平6−172677号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、コンクリート等の土木・建築材料への浸透性に優れ、かつ溶剤型浸透性吸水防止材並みの良好な撥水性を発揮し、長期間にわたって汚れや黴の発生を抑制するエマルション型吸水防止材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記に示すとおりの吸水防止材を提供するものである。
項1. 有機ケイ素化合物エマルションおよび水溶性撥水剤を含む吸水防止材。
項2. 有機ケイ素化合物エマルションが、(a)アルキルアルコキシシランおよび(b)アルキルアルコキシシロキサンを含むエマルションで、(a)と(b)の割合が、重量比で1:0.05〜0.4で、かつ(a)および(b)の合計量が、エマルション全量の1〜80重量%である項1に記載の吸水防止材。
項3. 水溶性撥水剤が、フルオロアルキル基含有オルガノポリシロキサンを含む組成物である項1または2に記載の吸水防止材。
項4. 水溶性撥水剤が、有機ケイ素化合物エマルション全量に対して0.01〜30重量%である項1〜3のいずれかに記載の吸水防止材。
【0006】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0007】
本発明の吸水防止材は、有機ケイ素化合物エマルションおよび水溶性撥水剤を含むエマルション型吸水防止材である。
【0008】
本発明において用いられる有機ケイ素化合物エマルションとしては、特に限定はされないが、アルキルアルコキシシランおよびアルキルアルコキシシロキサンを含むエマルションが好適に用いられる。
【0009】
アルキルアルコキシシランとしては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘプチルトリメトキシシラン、ヘプチルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ノニルトリメトキシシラン、ノニルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ウンデシルトリメトキシシラン、ウンデシルトリエトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、トリデシルトリメトキシシラン、トリデシルトリエトキシシラン、テトラデシルトリメトキシシラン、テトラデシルトリエトキシシラン、ペンタデシルトリメトキシシラン、ペンタデシルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、ヘプタデシルトリメトキシシラン、ヘプタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン等が挙げられる。中でも、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシランが好適に用いられる。
【0010】
アルキルアルコキシシロキサンは、通常、アルキルアルコキシシラン1種単独あるいは2種以上の混合物を、水中で加水分解、縮重合反応することにより得られ、種々のアルキルアルコキシシロキサンの混合物である。このようなアルキルアルコキシシロキサンとしては、GE東芝シリコーン株式会社の商品名「TSR165」、旭化成ワッカーシリコーン株式会社の商品名「SILRES MSE100」等として一般に市販されているものを使用することができる。
【0011】
有機ケイ素化合物エマルションにおけるアルキルアルコキシシランとアルキルアルコキシシロキサンの割合は、重量比で、1:0.05〜0.4であるのが好ましく、1:0.07〜0.3であるのがより好ましく、1:0.1〜0.25であるのが特に好ましい。アルキルアルコキシシロキサンの重量割合が0.05未満の場合、得られる水系エマルション型吸水防止材の相分離が起こり易くなるおそれがある。また、アルキルアルコキシシロキサンの重量割合が0.4を超える場合、得られる吸水防止材の基材への浸透性が悪くなるおそれがある。
【0012】
アルキルアルコキシシランおよびアルキルアルコキシシロキサンの合計量は、有機ケイ素化合物エマルション全量に対して、1〜80重量%であるのが好ましく、5〜70重量%であるのがより好ましい。アルキルアルコキシシランおよびアルキルアルコキシシロキサンの合計量が1重量%未満の場合、得られる吸水防止材を基材に塗布しても十分な浸透深さを得ることができず、長期間にわたって吸水防止性を維持することができなくなるおそれがある。また、アルキルアルコキシシランおよびアルキルアルコキシシロキサンの合計量が80重量%を超える場合、生成したエマルションが不安定になって相分離を起こすおそれがある。
【0013】
有機ケイ素化合物エマルションは、上記アルキルアルコキシシランおよびアルキルアルコキシシロキサンに、水および乳化剤を混合してホモミキサー等の撹拌装置を用いて高速で撹拌乳化することにより得られる。ここで使用する乳化剤としては、特に制限はなく、アニオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤、カチオン系乳化剤が使用できる。
【0014】
アニオン系乳化剤としては、例えば、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルまたはアルキルアリル硫酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステルなどが挙げられる。
【0015】
ノニオン系乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミンなどが挙げられる。
【0016】
カチオン系乳化剤としては、例えば、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩、アルキルベタイン、アミンオキサイド等が挙げられる。
【0017】
乳化剤は、必要に応じて任意に混合することができるが、塗工後の撥水性を低下させないためには、全乳化剤量がアルキルアルコキシシラン成分に対して0.01重量%〜10重量%であるのが好ましい。乳化剤量が少な過ぎると、エマルション化が困難になる場合がある。乳化剤量が多過ぎると、撥水性が発揮できない場合がある。
【0018】
本発明は、水溶性の撥水剤を用いる点に最大の特徴を有する。
【0019】
一般に撥水剤は、基材の内部構造に変化を与えることなく表面に疎水性皮膜を形成し、水の透過を防げる物質と定義され、水不溶性で、有機溶剤に溶解、あるいは乳化剤を利用して水に乳化・分散させた形態のものが多い。これらの撥水剤を有機ケイ素化合物エマルションに添加すると、有機溶剤溶解タイプの撥水剤はエマルションの安定性に影響を及ぼす。また、乳化・分散タイプの撥水剤としては、主にオレフィンもしくはアクリルとフッ素化合物との共重合物または混合物からなるフッ素系樹脂のエマルション、またはフルオロアルキル基を有する化合物のエマルションが使用され、有機ケイ素化合物エマルションの安定性に影響はない。しかしながら、フッ素系樹脂のエマルションでは、構造上厚い塗膜を形成し易く耐水性は良いが、例えばモルタル基材に塗布した場合、共重合または混合されているオレフィン、アクリルの影響により撥水性が低い(水接触角で90°程度)。一方、フルオロアルキル基を有する化合物のエマルションは、厚い塗膜は形成しないが、エマルション化に多量の乳化剤を要するため、含有する乳化剤の影響により、水接触角で125°程度の撥水性しか示さない。
【0020】
これに対して、本発明に用いる水溶性撥水剤は、水に完全に溶解し、基材に塗布、乾燥した後に薄い皮膜を形成するもので、オレフィンやアクリルを含まず、乳化剤を含有していないため、水接触角で130°以上の高い撥水性を示す。しかも、水溶性撥水剤は、有機ケイ素化合物エマルションに対してエマルションの安定性を損なうことはなく、有機ケイ素化合物エマルションにより形成される撥水層との相互作用により、さらに撥水性が向上する。
【0021】
このような水溶性撥水剤としては、水に溶解し、基材に塗布、乾燥した後に薄い皮膜を形成し、撥水作用を示すものであれば、特に限定されない。例えば、アルキルアルコキシシリコネート、フルオロアルキル基含有オルガノポリシロキサンを含む組成物等があるが、フルオロアルキル基含有オルガノポリシロキサンを含む組成物が好適に使用される。このようなフルオロアルキル基含有オルガノポリシロキサンを含む組成物は、例えば、アミノアルキルアルコキシシランとフルオロアルキルアルコキシシランの脱アルコール、脱水縮合物に酸を添加することにより得られる。より具体的な合成例としては、特開平10−158520号公報、特開2002−194336号公報に記載の方法等を用いることができる。なお、当該水溶性撥水剤を単独で基材に塗布すると、撥水性は発現するが、基材内部へ浸透せず、耐久性が劣ると共に濡れ色を呈する。
【0022】
水溶性撥水剤の配合割合は、有機ケイ素化合物エマルション全量に対して、0.01〜30重量%であるのが好ましく、0.02〜25重量%であるのがより好ましい。0.01重量%未満では、十分な撥水性が得られないおそれがある。30重量%を超えると、コンクリート等の表面外観が濡れ色を呈し、色合いが変わるおそれがある。
【0023】
水溶性撥水剤がフルオロアルキル基含有オルガノポリシロキサンを含む組成物である場合には、吸水防止材におけるアルキルアルコキシシランとフルオロアルキル基含有オルガノポリシロキサンの割合は、重量比で、1:0.0001〜0.5であるのが好ましく、1:0.001〜0.1であるのがより好ましい。
【0024】
本発明の吸水防止材は、有機ケイ素化合物エマルションに水溶性撥水剤を添加、混合することにより製造することができる。あるいは、有機ケイ素化合物エマルションの製造途中に、水溶性撥水剤を添加することによっても製造することができる。
【0025】
本発明の吸水防止材は、各有効成分を調整するために水で希釈したり、アルコール等の水可溶性溶剤、防腐剤、防黴剤およびpH調整剤等を添加して機能を付与することもできる。
【0026】
本発明の吸水防止材を土木・建築材料に塗布するには、ローラー、刷毛、スプレー等を用いる。また、乾燥方法としては、室温下に放置して乾燥させても良いし、天日乾燥、加熱乾燥によっても良い。
【0027】
土木・建築材料としては、例えば多孔性土木・建築材料があり、さらに詳しくは、打放しコンクリート、軽量コンクリート、プレキャストコンクリート、軽量発泡コンクリート(ALC)、モルタル、目地モルタル、石綿セメント板、パルプセメント板、木毛セメント板、セメント系押出成形板、ガラス繊維入りセメント板(GRC)、カーボン繊維入りセメント板、珪酸カルシウム板、石膏ボード、ハードボード、漆喰、石膏プラスター、ドロマイトプラスター、ブロック、レンガ、タイル、瓦、天然石、人工石、ガラスウール、ロックウール、セラミックファイバー等の無機質材料を主成分とする材料、および木材、合板、パーティクルボード等の有機質材料を主成分とする材料が挙げられる。
【0028】
本発明の吸水防止材は、水系でありながら溶剤型吸水防止材と同等の高い撥水性を示し、長期間にわたって、激しい風雨による雨水の漏水、酸性雨による材料の劣化、汚れのしみ込み、黴の発生を防ぐことができる。本発明の吸水防止材を基材に塗布した場合には、基材内部に形成される撥水層により、海水による塩害、寒冷地における凍害、基材材料中の塩の溶出による白華等の水に起因する種々の問題を解決することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の吸水防止材は、コンクリート等の土木・建築材料への浸透性に優れ、かつ溶剤型浸透性吸水防止材並みの良好な撥水性を発揮し、長期間にわたって塗布面への汚れや黴の発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、水溶性撥水剤の合成例、実施例および比較例により更に詳しく本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0031】
合成例1
撹拌装置をセットした250ml反応容器に、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(GE東芝シリコーン株式会社の商品名「TSL−8331」)44.2gおよびトリエトキシ−1,1,2,2−トリデカフルオロオクチルシラン93.4gを加え、続いて水14.4gを添加して約3時間撹拌した。撹拌終了後、ギ酸9.2gを添加して水溶性撥水剤を得た。この水溶性撥水剤は、いずれの比でも水と混和可能であった。
【0032】
実施例1
水69重量部およびポリオキシエチレンデシルエーテル(第一工業製薬株式会社の商品名「ノイゲンSD−400」)1重量部の混合液をホモミキサーで高速撹拌し、次いでヘキシルトリエトキシシラン27重量部およびアルキルアルコキシシロキサン(GE東芝シリコーン株式会社の商品名「TSR165」)3重量部を添加してホモミキサーで高速撹拌して得られたエマルションに、合成例1で得た水溶性撥水剤を2重量部添加して本発明の吸水防止材を得た。
【0033】
実施例2
実施例1で製造した吸水防止材を水で5倍に希釈することにより、本発明の吸水防止材を得た。
【0034】
実施例3
実施例1で製造した吸水防止材を水で20倍に希釈することにより、本発明の吸水防止材を得た。
【0035】
比較例1
水69重量部およびポリオキシエチレンデシルエーテル(第一工業製薬株式会社の商品名「ノイゲンSD−400」)1重量部の混合液をホモミキサーで高速撹拌し、次いでヘキシルトリエトキシシラン27重量部およびアルキルアルコキシシロキサン(GE東芝シリコーン株式会社の商品名「TSR165」)3重量部を添加してホモミキサーで高速撹拌し、吸水防止材を得た。
【0036】
比較例2
水48重量部およびポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル(第一工業製薬株式会社の商品名「ノイゲンEA−20」)2重量部の混合液をホモミキサーで高速撹拌し、次いでヘキシルトリエトキシシラン42重量部およびアルキルアルコキシシロキサン(旭化成ワッカーシリコーン株式会社の商品名「SILRES MSE100」)8重量部を添加してホモミキサーで高速撹拌して得られたエマルションに、フッ素系水性エマルション撥水剤(旭硝子株式会社の商品名「アサヒガードAG−740」)4重量部を添加して吸水防止材を得た。
【0037】
比較例3
合成例1で製造した水溶性撥水剤を水で6.5倍に希釈して、吸水防止材を得た。
【0038】
比較例4
合成例1で製造した水溶性撥水剤を水で500倍に希釈して、吸水防止材を得た。
【0039】
実施例1〜3および比較例1〜4で得られた吸水防止材を用いて、以下の方法により各種特性を評価した。
【0040】
[評価方法]
(1)保存安定性
実施例および比較例で得られた吸水防止材を、200ml容のガラス製容器に100ml入れ、40℃で静置し、6ヶ月後のエマルションの相分離の状態を目視により観察した。6ヶ月後の相分離の結果を表1に示す。
【0041】
(2)塗布外観、撥水性、浸透深さおよび吸水比
JIS R−5201に準じたモルタル(70mm×70mm×20mm)を供試体として使用し、これに実施例および比較例で得られた吸水防止材を200g/mの割合で全面塗布した。なお、何も塗布しないものを対照とした。得られた供試体を温度20℃、相対湿度65%RHの恒温恒湿器内で数日間養生した後、塗布外観、撥水性(接触角)、浸透深さ、吸水比を測定した。次に、サンシャインウェザーメーター(スガ試験機株式会社の商品名「デューサイクルサンシャインスーパーロングライフウェザーメーターWEL−SUN−DCH型」)を用いて、ブラックパネル温度63℃、湿度50%、降雨条件60分中12分降雨の試験条件で、促進耐候性試験を実施した。250時間経過後の供試体について、撥水性(接触角)を測定した。
【0042】
塗布外観:
吸水防止材を塗布した後、温度20℃、相対湿度65%RHの恒温恒湿器内で7日間養生した供試体の表面の濡れ色状態を、無塗布基材と比較した。結果を表1に示す。
【0043】
浸透深さ:
吸水防止材を塗布した後、温度20℃、相対湿度65%RHの恒温恒湿器内で7日間養生した供試体を2分割し、その分割面に水を噴霧し、水が浸透していない部分の厚さを測定した。結果を表1に示す。
【0044】
撥水性(接触角):
吸水防止材を塗布した後、温度20℃、相対湿度65%RHの恒温恒湿器内で1,3,7日間養生した供試体、および、恒温恒湿器内で7日間養生した後、促進耐候性試験を行った供試体に、直径2mmの水滴をのせ、接触角測定装置(協和界面科学株式会社の接触角計「S−150」)により接触角を測定した。評価基準は以下のようにした。結果を表1に示す。
◎:水滴の接触角が135゜以上
○:水滴の接触角が120〜135゜未満
△:水滴の接触角が80〜120゜未満
×:水滴を作らず直ちに吸水
なお、接触角が135°以上の場合、撥水性が非常に優れていると判断できる。
【0045】
吸水比:
吸水防止材を塗布した後、温度20℃、相対湿度65%RHの恒温恒湿器内で7日間養生した供試体および無塗布供試体を、塗布面を下にして水中に浸漬(浸漬深さ5mm)し、1日後および20日後に取り出し、余剰水を乾いた布で拭き取った後に重量(g)を測定し、下式により吸水比を算出した。結果を表1に示す。なお、吸水比が0.1以下の場合、吸水防止性に優れていると判断できる。
【0046】
【数1】

【0047】
【表1】

【0048】
表1より明らかなように、各実施例で得られた吸水防止材は、エマルションの相分離に対して安定で6ヶ月間相分離しない。また、各実施例で得られた吸水防止材を塗布した供試体は、撥水性が非常に良好で、かつ撥水性の発現速度が速く、その撥水性および吸水防止性も長期間にわたって維持できることがわかる。この機構の詳細は不明だが、水溶性撥水剤と有機ケイ素化合物エマルションにより形成される撥水層との相互作用によるものと考えられる。フッ素系水性エマルション撥水剤を用いた比較例2においては、撥水性の発現が十分ではない。これは、フッ素系水性エマルション撥水剤中の乳化剤が、有機ケイ素化合物エマルションにより形成される撥水層の撥水性を阻害するためと思われる。
【0049】
本発明の吸水防止材は、水性吸水防止材であるにも関わらず、セメント製品等の土木・建築基材表面に非常に優れた撥水性を付与し、汚れや黴の発生を抑制すると同時に、基材内部深くに浸透して疎水(撥水)層を形成することにより、基材に優れた吸水防止性を付与し、劣化現象を長期的にも抑制することができる。このように、本発明の吸水防止材は、土木・建築分野において極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ケイ素化合物エマルションおよび水溶性撥水剤を含む吸水防止材。
【請求項2】
有機ケイ素化合物エマルションが、(a)アルキルアルコキシシランおよび(b)アルキルアルコキシシロキサンを含むエマルションで、(a)と(b)の割合が、重量比で1:0.05〜0.4で、かつ(a)および(b)の合計量が、エマルション全量の1〜80重量%である請求項1に記載の吸水防止材。
【請求項3】
水溶性撥水剤が、フルオロアルキル基含有オルガノポリシロキサンを含む組成物である請求項1または2に記載の吸水防止材。
【請求項4】
水溶性撥水剤が、有機ケイ素化合物エマルション全量に対して0.01〜30重量%である請求項1〜3のいずれかに記載の吸水防止材。

【公開番号】特開2006−335969(P2006−335969A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−164792(P2005−164792)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】