説明

吸着ろ過膜モジュール

【課題】大型化および高集積化に伴う吸着能力の有効利用度の低下を効果的に抑制した中空糸膜モジュールを提供する。
【解決手段】多孔質膜の細孔表面に弱電解性イオン交換基を有するグラフト高分子鎖が形成されている吸着ろ過膜を具備し、当該吸着ろ過膜の有効膜長が10cm以上である吸着ろ過膜モジュール

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着ろ過膜モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液相に溶解している物質を分離する手段として、吸着法を適用した物質分離技術が、様々な分野において広く用いられている。
例えば、バイオテクノロジー、遺伝子工学、製薬工業、化学工業、飲料工業、食品工
業、環境保護、及び資源リサイクル等の様々な分野において、吸着式物質分離技術が用いられている。
なお、吸着法を適用した物質分離技術における被吸着物質は、利用分野によって異なり、例えば、生体特有の分子、タンパク質、酵素、ウイルス、イオン性物質、金属イオン、貴金属イオン、重金属イオン等、多岐に亘る。
【0003】
上記被吸着物質を工業的に効率よく分離するための吸着式物質分離装置として、一般的なものとして、カラムクロマトグラフィーが知られている。
カラムクロマトグラフィーは、選択的吸着性を有する多孔質樹脂をパッキングした構成を有している。
カラムクロマトグラフィーへの吸着は、液相に含有されている被吸着物質が、拡散により多孔質樹脂の細孔内に移動し、細孔表面に存在する官能基に接触し吸着するという拡散の原理に基づいている。
そのため、多孔質樹脂の比表面積が大きくなるとこれに対応して吸着量が顕著に増大するという利点があるが、吸着能力は拡散律速の影響を受けるため、処理速度を高めるほど吸着能力が低下するという欠点を有している。
【0004】
一方、処理速度を高めても吸着能力が低下しない吸着式物質分離装置として、吸着膜を用いたものが知られている。
吸着膜とは、選択的な吸着性能を有するろ過膜のことを言い、精製工程の現場では吸着膜を所定の外筒に収納した構造の吸着膜モジュールが用いられている。
この吸着膜モジュールを構成する吸着膜においては、多孔質となっているろ過膜に作用するろ過差圧を駆動力にする細孔内の強制流が発生し、物質の運搬と吸着とは、共に強制流の原理に基づいてなされる。
そのため、吸着膜の比表面積は上述したカラムクロマトグラフィーに比べて小さく吸着量も少ないという欠点があるが、この反面、処理速度を高めても吸着能力が低下しないという利点がある。
【0005】
上記吸着膜モジュールを構成する吸着膜の具体的な例として、タンパク質吸着膜が挙げられる。
これにおいては、タンパク質含有の水溶液を高流速で通液した場合においてもタンパク質の吸着がなされ、迅速な処理を行うためには有効であるが、タンパク質の吸着が膜表面でのみ行われるため、吸着量は比表面積に依存し、上記多孔質樹脂を用いたカラムクロマトグラフィーに比べて吸着量は著しく低くなる(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0006】
一方、多孔質膜へのタンパク質の吸着処理速度と吸着量との両立を図った技術の検討もなされており、官能基をグラフト鎖に固定し、このグラフト鎖を多孔質基材に固定した多孔質膜が開示されている(例えば、非特許文献1〜3参照。)。
このような多孔質膜においては、1本のグラフト鎖に多数の官能基が固定されているため、タンパク質が多孔質膜の表面だけでなく細孔内でも立体的に吸着し、上述したように表面のみにおいて吸着が行われる場合に比して吸着量は大きく増大する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2003−532746公報
【特許文献2】特表2002−537106公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Journal of Chromatography A, 689 (1995) 212-218
【非特許文献2】Biotechol. Prog. 1994, 10, 76-81
【非特許文献3】Biotechol. Prog. 1997, 13, 89-95
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、前述の様々な分野において、吸着式物質分離装置の処理能力に対する要求が高まっている。
特に、抗体医薬品の精製工程においては、大量処理および高速度処理との両立を図る技術への期待の高まりから、より能力の高い吸着ろ過膜モジュールが望まれている。以下に、大量処理ならびに高速度処理を達成するための手段を記す。
【0010】
先ず、大量処理を達成するための手段としては、吸着ろ過膜モジュール内の吸着膜の体積を増やす方法が考えられる。具体的には吸着ろ過膜モジュールの外筒径寸法や外筒長寸法を増大させる大型化の手段や、外筒内の吸着膜の充填率を上げる高集積化の手段が考えられる。しかしながら、外筒径寸法や外筒長寸法を増大させた場合には、吸着膜モジュール成形上の難易度が極端に上がったり、精製現場の室内容積に収まりにくくなったり、取扱作業が困難になるなど、寸法増大に対する上限が存在する。
一方、吸着膜の充填率を上げた場合や、外筒長寸法を増大させた場合には、吸着膜モジュール内の流体流路構造が細くかつ長くなるために、圧力損失が増大する。吸着ろ過膜モジュールの形状が平膜タイプであっても中空糸タイプであっても、圧力損失が増大すると、流体流路の長手方向において局所的に膜面差圧の高い箇所と低い箇所の分布が増大する。
【0011】
次に、高速度処理を達成させるための手段としては、吸着膜の膜厚を小さくし、膜面積当たりの透水速度を増加させる高集積化の方法が考えられる。しかしながら、透水速度の増加は、吸着膜モジュールの長手方向の圧力損失を増大させることになり、これは平膜モジュールであっても中空糸膜モジュールであっても共通で発生する。一方、中空糸膜モジュール特有の問題として、モジュール内の総膜体積を高く保ち、圧力負荷に耐えうる強度を維持させるためには、中空糸膜の内外径の比率一定のままで寸法を小さくすることが必要となる。この場合は、必然的に中空糸膜の内径寸法が小さくせざるを得ず、その結果極端に高い圧力損失が発生することになる。
【0012】
すなわち、大量処理または高速度処理を達成させるための前述の大型化あるいは高集積化の手段をとることは、吸着ろ過膜モジュール内部の圧力損失を増大させる方向に作用する。この圧力損失の増大により、吸着ろ過膜モジュールは液流の長手方向において、吸着の進行度に分布を生じさせる。その結果、極端な例では吸着が始まったばかりの局所と、吸着が進行し被吸着物質の漏洩が始まった局所が同時に存在する状態となり、その場合モジュール全体の吸着能力は期待するほどに高くならないことになる。
【0013】
ゆえに、吸着ろ過膜モジュールの大型化および高集積化の手段は、吸着ろ過膜が本来持つ吸着能力を十分に発揮できない、すなわち吸着能力の利用度が低下するという望ましくない結果に至る。そこで本発明においては、かかる状況に鑑み、大型化および高集積化に伴う吸着能力の有効利用度の低下を効果的に抑制した吸着ろ過膜モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、鋭意研究の結果、吸着の進行とともにFLUXが低下する機能を有する吸着ろ過膜を用いることにより、大型化および高集積化に伴う吸着能力の有効利用度の低下が効果的に抑制できることを見出し、この知見にもとづいて本発明を完成させるに至った。
すなわち本発明は、大型化および高集積化に伴う吸着能力の有効利用度の低下が少ない中空糸膜モジュールに関する。
[1] 多孔質膜の細孔表面に弱電解性イオン交換基を有するグラフト高分子鎖が形成されている吸着ろ過膜を具備し、当該吸着ろ過膜の有効膜長が10cm以上である吸着ろ過膜モジュール
[2] 前記弱電解性イオン交換基が、3級アミノ基、2級アミノ基、1級アミノ基、カルボン酸基、りん酸基からなる群から選ばれるいずれか一以上である[1]記載の吸着ろ過膜モジュール
[3] 前記弱電解性リガンドがジエチルアミノ基である請[1]又は[2]記載の吸着ろ過膜モジュール
[4] 前記グラフト高分子鎖が非架橋構造である[1]〜[3]のいずれか一項に記載の吸着ろ過膜モジュール
[5] 前記吸着ろ過膜の有効膜長が10cm以上20cm以内であり、中空糸内径が0.28mm以上である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の吸着ろ過膜モジュール
[6] 前記吸着ろ過膜の有効膜長が20cmを超え50cm以内の範囲であり、中空糸内径が0.43mm以上である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の吸着ろ過膜モジュール
[7] 前記吸着ろ過膜の有効膜長が50cmを超え100cm以内の範囲であり、中空糸内径が0.60mm以上である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の吸着ろ過膜モジュール
[8] 前記吸着ろ過膜の有効膜長が100cmを超え150cm以内の範囲であり、中空糸内径が0.76mm以上である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の吸着ろ過膜モジュール
[9] 前記吸着ろ過膜の有効膜長が150cmを超え200cm以内の範囲であり、中空糸内径が0.86mm以上である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の吸着ろ過膜モジュール
[10] 前記吸着ろ過膜が中空糸膜である、[1]〜[9]のいずれか一項に記載の吸着ろ過膜モジュール
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、大型化および高集積化に伴う吸着能力の低下が効果的に抑制された中空糸膜モジュールが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態における中空糸膜モジュールの一例の概略構成図を示す。
【図2】本実施形態における中空糸膜モジュールの第2の例の概略構成図を示す。
【図3】本実施形態における中空糸膜モジュールの第3の例の概略構成図を示す。
【図4】本実施形態における中空糸膜モジュールの第4の例の概略構成図を示す。
【図5】本実施形態における中空糸膜モジュールの第5の例の概略構成図を示す。
【図6】本実施形態における中空糸膜モジュールの第6の例の概略構成図を示す。
【図7】本実施形態における弱電解性イオン交換基を有するグラフト高分子鎖を細孔表面に持つ吸着ろ過膜の吸着と圧力変化の状況を示すグラフ。
【図8】本実施形態の弱電解性イオン交換基を有するグラフト高分子鎖を細孔表面に持つ吸着ろ過膜の吸着と圧力変化の状況を示すグラフ
【図9】比較例の強電解性アニオン交換基を有するグラフト高分子鎖を細孔表面に持つ吸着ろ過膜の吸着と圧力変化の状況を示すグラフ
【図10】比較例の強電解性カチオン交換基を有するグラフト高分子鎖を細孔表面に持つ吸着ろ過膜の吸着と圧力変化の状況を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について、図を参照して説明する。
本発明は、以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
なお、図面中、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとし、さらに図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。
【0018】
〔吸着ろ過膜モジュール〕
本実施形態の吸着ろ過膜モジュールの形態には特に限定はなく、中空糸膜からなるろ過膜モジュールであっても良く、平膜からなるプリーツ型ろ過モジュールであっても良く、平膜からなるスパイラル状のろ過膜モジュールであっても良い。
【0019】
本実施形態における吸着ろ過膜モジュールについて、中空糸膜タイプの吸着ろ過膜モジュールを例として、図1〜6を用いてその構造を説明する。また図の形状は代表例であり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0020】
本実施形態の吸着ろ過膜モジュールは、中空糸膜タイプの吸着ろ過膜モジュールの場合、中空糸膜の両端又は片端が、所定の封止樹脂により直接、あるいは所定の間接部材、固定治具を介して間接的に、外筒又は外部の配管接続材等に固定されていることが望ましい。
【0021】
(第1の構成例)
図1に示す構成の中空糸膜モジュール12は、中空糸膜2の両端が、所定の封止樹脂3により外筒1に直接固定されており、接着端面5において開口部が露出され、中空部が開放された状態となっている。
中空糸膜2の開口部は、固定治具10を介して配管接続部材9と連結しており、外部配管(図示せず)に連通するようになされている。
【0022】
(第2の構成例)
図2に示す構成の中空糸膜モジュール12は、中空糸膜2の一の片端が所定の封止樹脂3により外筒1に直接固定されており、接着端面5において開口部が露出され、中空部が開放された状態となっている。中空糸膜2の開口部は、固定治具10を介して配管接続部材9と連結しており、外部配管(図示せず)に連通するようになされている。
他の一の片端は、封止樹脂4により接着端面6が閉塞されており、外筒1とは固定されていない状態となっている。ここでこの接着端面6の中空糸束は封止樹脂4によって中空部が閉塞されている必要があるが、封止樹脂4によって束がまとまって固定された状態となっていてもよく、また中空糸一本一本がばらばらの状態であってもよい。
【0023】
(第3の構成例)
図3に示す構成の中空糸膜モジュール12は、中空糸膜2の一の片端が所定の封止樹脂3により外筒1に直接固定されており、接着端面5において開口部が露出され、中空部が開放された状態となっている。中空糸膜2の開口部は、固定治具10を介して配管接続部材9と連結しており、外部配管(図示せず)に連通するようになされている。
他の一の片端においては、封止樹脂3により接着端面6が閉塞されており、外筒1に固定されており、かつ中空部は閉塞した状態となっている。
【0024】
(第4の構成例)
図4に示す構成の中空糸膜モジュール12は、中空糸膜2の一の片端が所定の封止樹脂3により外筒1に直接固定されており、接着端面5において開口部が露出され、中空部が開放された状態となっている。中空糸膜2の開口部は、固定治具10を介して配管接続部材9と連結しており、外部配管(図示せず)に連通するようになされている。
中空糸膜2の他の片端は、所定の封止樹脂3により外筒1に直接固定されており、接着端面6が閉塞された状態になっている。
接着端面6においては、中空糸膜2の束を束ねている封止樹脂3を貫通するスリット7が設けられている。このスリット7を介して、中空糸膜モジュール12の下部の導入口からも液を供給できるようになされている。
【0025】
(第5の構成例)
図5に示す構成の中空糸膜モジュール12においては、中空糸膜2が封止樹脂4により束ねられており、接着端面5において開口部が露出され、中空部が開放された状態となっている。封止樹脂4と外筒1とは固定されておらず、中空糸膜2は封止樹脂4により間接部材11に固定されており、当該間接部材11は前記外筒1から着脱自在に設けられている。
中空糸膜2の開口部は、固定治具10を介して配管接続部材9と連結しており、外部配管(図示せず)に連通するようになされている。
他の一の片端においては、封止樹脂4により接着端面6が閉塞されている。なお外筒1とは固定されていない状態となっている。
【0026】
(第6の構成例)
図6に示す構成の中空糸膜モジュール12は、中空糸膜2が封止樹脂4により束ねられており、接着端面5において開口部が露出され、中空部が開放された状態で間接部材11に固定されておる。当該間接部材11は固定治具10を介して接着端面5において外部配管(図示せず)と連通するようになされている。
他の一の片端においては、封止樹脂4により接着端面6は閉塞されている。なお、外筒は存在せず、液タンク8に直接中空糸膜2が浸漬されている。
接着端面6側においては、封止樹脂4を貫通するスリット7が設けられている。
このスリット7を通じ、図6中、中空糸膜モジュール12の下部側からも液が供給されるようになされている。
【0027】
本実施形態の中空糸膜モジュールにおいては、内圧ろ過方式と外圧ろ過方式のいずれの方式も選択できる。
上記いずれに方式でも吸着能力には差が無いが、ろ過差圧による膜の変形が懸念される場合には内圧ろ過方式を選択することが好ましい。
【0028】
図1に示す構成の中空糸膜モジュールの利点は、内圧ろ過方式を選択した場合にはクロスフロー式の原液供給が可能であり、原液に膜面に堆積しやすい夾雑物や汚染物質が存在している場合には有利に機能する点である。
また、内圧ろ過方式時には両端供給を、外圧ろ過方式時には両端排出を行うことが可能であり、中空部を流れる液の管内圧損をより小さく保つ運転も可能であるという利点もある。
図5及び図6に示す構成の中空糸膜モジュールの利点は、外筒1又はタンク8と中空糸膜2との切り離しが可能である構造であることから、吸着ろ過膜の更新のためのコスト低減化を図ることができるという点である。
図4及び図6に示す構成の中空糸膜モジュールにおいては、封止樹脂3、4にスリット7が設けられており、外圧ろ過方式を用いる場合、スリット7を介して空気泡を下部から供給し、気泡の動きにより中空糸膜を振動させ、中空糸膜外表面に堆積する異物を、エアレーションにより掻き落とすのに便利である。このようなスリット構造は、図4及び図6に示す構造の中空糸膜モジュール以外にも採用可能である。
なお、図1〜図6に示す中空糸膜モジュールはそれぞれが具体的な構成例であり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
(外筒)
外筒1の材料としては、例えば、ポリスルホン、ポリカーボネート、塩化ビニル、ABS、テフロン(登録商標)やPVDFを始めとするフッ素系樹脂等の樹脂類、あるいはSUS等の金属類、ガラス類等が挙げられ、使用用途やコストに応じて選択できる。
特に、使用用途により温度的負荷、薬品的負荷、使用圧力や振動等の物理的負荷が発生する場合は、それぞれの用途に適した素材を選定する。
【0030】
(封止樹脂)
封止樹脂3、4としては、特に限定されるものではなく、従来から中空糸膜モジュールに用いられている封止樹脂として公知のものを使用できる。例えば、硬化性注入樹脂として、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコンゴムが挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えばポリプロピレン等のサーモプラストが挙げられる。
なお、使用用途により温度的負荷、薬品的負荷、使用圧力や振動等の物理的負荷が発生する場合は、それぞれの用途に適した素材を選定する必要がある。
【0031】
(吸着ろ過膜)
吸着ろ過膜は、多孔質膜の細孔表面に弱電解性イオン交換基を有するグラフト高分子鎖が形成されている。
ここで、弱電解性イオン交換基とは、弱電解性陽イオン交換基と弱電解性陰イオン交換基を含むものとし、具体的には1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、カルボン酸基、りん酸基などの他、イミジノ酢酸基などのキレート型官能基を用いることができる。2級アミノ基としては、例えばメチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、フェニルアミノ基、アリールアミノ基などが挙げられる。3級アミノ基としては、例えばジメチルアミノ基、次エチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、次フェニルアミノ基、ジアリールアミノ基、エチルメチルアミノ基、プロピルメチルアミノ基、イソプロピルメチルアミノ基、ブチルメチルアミノ基、フェニルメチルアミノ基、アリールメチルアミノ基、プロピルエチルアミノ基、イソプロピルエチルアミノ基、ブチルメチルエチル基、フェニルエチルアミノ基、アリールエチルアミノ基などが挙げられる。カルボン酸基としては、例えばカルボン酸基、安息香酸基が挙げられる。りん酸基としては、例えばりん酸基の他りん酸エステル基が挙げられる。これらの弱電解性イオン交換基の中でも、グラフト高分子鎖に導入が容易であるカルボン酸、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基が好ましい。カルボン酸基の場合は、ろ過膜にアクリル酸やメタクリル酸をモノマーとして用いてグラフト鎖を重合することで直接的に得ることが可能である点で好ましい。また、1級アミノ基、2級アミノ基および3級アミノ基の場合は、先ずろ過膜にエポキシ基を持つビニルモノマーを導入した後に、エポキシ基をアミノ基に転化することで容易に得ることが可能である。
【0032】
本実施態様の吸着ろ過膜は、イオン性化学種を吸着可能でありかつイオン性化学種の吸着とともにFLUXが低下する性質を有する。
【0033】
ここでイオン性化学種とは、水溶液中で解離して荷電状態にある化学種を指し、例えば陽イオン、陰イオンおよび陰イオンと陽イオンを同時に含む両性イオンのいずれかを指す。具体的には、金属イオンのような単原子イオンや、金属酸化物イオンのような複数の原子団からなる多原子イオン、金属錯体イオンのような錯イオン、酢酸やアンモニアやアミノ酸やイオン性界面活性剤のように溶液中で解離して荷電状態になる低分子量有機物、タンパク質やウイルスやDNAやイオン性高分子のように溶液中で解離して荷電状態になる高分子量有機物などが挙げられる。つまり水溶液中で溶解しかつ解離して帯電状態にあれば良く、ここではそのサイズは問わない。
【0034】
本実施態様の吸着ろ過膜は、圧力一定の操作条件下で次第に単位時間当たりのろ液量が低下する。また、ろ過速度一定の操作条件下で次第にろ過圧力が上昇する吸着膜も同じく該当する。ただし、ろ液量低下や圧力上昇はろ過膜の細孔径よりも小さいイオン性化学種の吸着によるものに限られ、例えば懸濁物や粘稠物が膜面を閉塞することに起因するろ液量低下や圧力上昇とは区別しなければならない。
【0035】
本実施形態の多孔質膜の細孔表面に弱電解性イオン交換基を有するグラフト高分子鎖が形成されている吸着ろ過膜を使用した場合の具体的なFLUX挙動について説明をする。
【0036】
多孔質膜の細孔表面に弱電解性イオン交換基を有するグラフト高分子鎖が形成されている吸着ろ過膜に対して、例えばpH8の緩衝液のなかで負に帯電しているタンパク質である牛血清アルブミン(BSA)や正に帯電しているタンパク質であるリゾチームなどを一定圧力の操作条件下で吸着ろ過させた場合、ろ過の進行により吸着量が増加すると同時にFLUXが次第に低下する。また、ろ過速度一定の操作条件下で吸着ろ過させた場合、ろ過の進行により吸着量が増加すると同時にろ過圧力が増加する。
【0037】
上記にように、弱電解性イオン交換基を有するグラフト高分子鎖が細孔表面に形成されている吸着ろ過膜において、イオン性化学種の吸着とともにFLUXが低下する理由は以下のように考えることができる。
【0038】
先ず、イオン交換基の種類とグラフト高分子鎖の形態の関係性について説明する。グラフト高分子鎖上のイオン交換基は、イオン交換基同士の反発によりグラフト高分子鎖の形状に影響を与える。この反発は、イオン交換基を取り巻く水和水群の立体反発に由来すると考えられる。
【0039】
吸着ろ過膜の吸着能力を高めようとするとイオン交換基密度を高くする必要があるが、ここで、イオン交換基として強電解性イオン交換基を使用した場合には、広いpH範囲でほぼ全てのイオン交換基が解離した状態にあるため、水和水を持つイオン交換基が高密度で存在する状態になる。その結果、細孔表面のグラフト高分子鎖内や隣接グラフト高分子鎖との間での立体反発が必然的に大きくなる結果、グラフト高分子鎖は伸張した状態となる。
【0040】
一方イオン交換基として弱電解性のイオン交換基を使用した場合には、吸着ろ過膜の吸着能力を高める目的でイオン交換基密度を高めた場合であっても、中性pH付近では解離状態にあるイオン交換基が少ないため、結果として立体反発は小さく、細孔表面のグラフト高分子は比較的収縮した状態となる。
【0041】
次に、弱電解性イオン交換基を有するグラフト高分子鎖が被吸着物質を吸着した時のグラフト高分子鎖の形態の変化について説明する。弱電解性イオン交換基を有するグラフト高分子鎖を細孔表面に持つろ過膜に対して、イオン性化学種を含む液を一定圧力でろ過した場合、ろ過処理の進行とともに弱電解性イオン交換基を有するグラフト高分子鎖にイオン性化学種が取り込まれていく。イオン性化学種は嵩高い水和水群を持っていたり、それ自体が嵩高い粒子状であるため、吸着以前には比較的収縮した状態であったグラフト高分子鎖は吸着とともに次第にグラフト鎖内や隣接グラフト鎖間での立体反発が大きくなり、やがてグラフト高分子鎖は伸張した状態となる。
【0042】
以上のように、弱電解性イオン交換基を有するグラフト高分子鎖が細孔表面に形成されている吸着ろ過膜では、イオン性化学種が吸着されるに従いグラフト高分子鎖が伸張する事で細孔が閉塞されるため、次第にFLUXが低下(またはろ過圧力が上昇)していくと考える事が可能である。
【0043】
従来は、このように次第にFLUXが低下する特長は、吸着ろ過膜の性能としては単に不利であると考えられた。
【0044】
本発明が解決しようとする課題は、吸着膜モジュールの「大型化」および「高集積化」による吸着能力の有効利用度が低下するという望ましくない結果を解決する事である。発明者等は、驚くべき事に前述のような吸着の進行とともにFLUXが低下する特徴を有する吸着ろ過膜を構成部材として用いることにより、この課題が改善されることを見出した。
【0045】
すなわち、従来の技術では、前述の通り吸着ろ過膜モジュールでの「大型化」および「高集積化」は、極端な例では吸着が始まったばかりの局所と吸着が進行し被吸着物質の漏洩が始まった局所が同時に存在する状態となり、その場合モジュール全体の能力は期待するほどに高くならないため、「大型化」および「高集積化」には限界があった。ところが「弱電解性イオン交換基を有するグラフト高分子鎖が細孔表面に形成されている吸着ろ過膜」を構成部材として用いることにより、一方では吸着が進行して被吸着物質の漏洩が始まった局所ではFLUXが低下するために被吸着物質の漏洩量を小さく抑える事が可能となり、他方ではその結果として吸着が始まったばかりの局所に対して被吸着物質が優先的に供給されることになるため、最終的にモジュール全体としては吸着ろ過膜の吸着能力の利用度を高く維持する事が可能となる。
【0046】
さらにここで「吸着能力」について説明する。
吸着能力を表す用語として、「静的吸着容量」(または「平衡吸着容量」)と「動的吸着容量」とがあり、当該業界では広く用いられている。本発明においては、特に記載がない限り、吸着能力とは動的吸着容量のことを指し、単位はmg/mlで表記する。
静的吸着容量とは、吸着体に対して被吸着物質が飽和状態まで吸着した場合の吸着容量を指す。
これに対して動的吸着容量とは、固定された吸着体に対して被吸着物質を含む流体を導入して排出させる際に、出口から被吸着物質が基準濃度で排出される時点までの吸着量を単位量当たりに換算した数値を指す。この基準濃度を破過点と呼び、一般的に破過点としては導入時の被吸着物質濃度に対する排出時の被吸着物質濃度が5%〜20%の範囲から選ぶが、本発明においては10%濃度を破過点と定義した。
【0047】
次に「吸着容量」についての説明を補足する。
吸着体が吸着する被吸着物質の量を「吸着量」と呼び、吸着量を吸着体の単位量当たりの値に換算した数値を「吸着容量」と呼ぶ。
吸着量は重量や体積やモル数などその特性を表すのに適した単位を用いる事ができるが、本発明では重量で規定する。また吸着体の単位量についても単位重量や単位体積や単位充填体積などその特性を表すのに適した単位を用いる事ができるが、本発明では単位膜体積で規定する。
単位膜体積は、平膜の形状の場合と中空糸の形状の場合で算出方法が異なる。本発明においては、平膜の場合の単位膜体積は単純に有効膜面積と膜厚みを掛け合わせた値を採用する。また本発明においては、中空糸膜の形状の場合の単位膜体積は円環断面体積を採用し、円環断面体積とは、中空糸膜の外径をDo、内径をDi、吸着ろ過に寄与する有効膜長をLで表したときに、L×{(Do/2)2−(Di/2)2}×πで定義できる値を指す。
よって、吸着容量は、吸着重量を単位膜体積で除した値で定義され、本発明においては単位はmg/mlで表記する。
【0048】
すなわち、前出の吸着膜モジュールの吸着能力の有効利用度とは、吸着ろ過膜が本来持つ吸着能力がモジュール形状にした時にどの程度発揮されているかを示す尺度であり、基準寸法の吸着ろ過膜で測定した時の吸着能力に対する、モジュール形状で測定した時の吸着ろ過膜の吸着能力の比率で定義する。本発明では、基準寸法とは、例えば中空糸膜の場合は膜長7cmを基準寸法とし、平膜の場合は直径2.5cmを基本寸法とした。
【0049】
このような吸着ろ過膜の組成や微細構造については制限が無く、イオン性化学種の吸着によりFLUXが低下するものであればよい。具体的に述べてきたように、このような吸着ろ過膜の一例としては、細孔表面に弱電解性イオン交換基を有するグラフト高分子鎖が形成されている吸着ろ過膜であれば好適に用いることができる。
【0050】
グラフト高分子鎖の構造は、前述のようにイオン性化学種の吸着とともにFLUXが低下するものであれば限定しないが、相互に架橋した構造の高分子鎖よりも非架橋構造の高分子鎖であるほうが容易に伸張できることから吸着に伴うFLUX低下が大きくなるためにより好ましい。
よって、グラフト高分子鎖を重合法で形成する場合には、架橋剤を用いない製法が好ましい。
【0051】
このような吸着ろ過膜の形態は、溶液の通液が可能な形態であれば特に限定されず、例えば平膜、不織布、中空糸膜、モノリス、キャピラリーなどが挙げられる。これらの形態の中でも、製造しやすさ、スケールアップ性、モジュール成型した際のパッキング性などの観点から、吸着ろ過膜は中空糸膜であることが好ましい。中空糸膜とは、中空部分を有する円筒状または繊維状の多孔質膜であり、中空糸の内層と外層が貫通孔である細孔によって連続しており、その細孔によって内層から外層あるいは外層から内層に、液体が透過する性質を有する多孔質体を意味する。中空糸膜素材としては、一般的に中空糸膜に使用する素材を使用することができる。ただし、中空糸膜に対する化学的処理または物理的処理により後加工により吸着機能を付与する場合には、その加工条件による変質や分解の発生しない素材を選定する必要があるし、また必然的に加工可能な素材が限定される場合もある。さらに、使用用途により温度的負荷、薬品的負荷、使用圧力や振動等の物理的負荷が発生する場合は、それぞれの用途に適した素材を選定する必要がある。ポリオレフィン系重合体を用いて中空糸多孔質膜を製造する方法は、当事者にとって公知であり、例えば、特開平3−42025号公報に開示される方法などが挙げられる。
【0052】
中空糸膜の有効膜長は、ラボレベルの使用に適しているため5cm以上10cm未満が好ましく、ラボレベルから小中大規模へのスケールアップにおける確認精度が高いため10cm以上20cm未満が好ましく、小〜中規模の精製現場の使用に適しているため20cm以上50cm未満が好ましく、大規模の精製現場の使用に適しておりかつ、ハンドリング性に優れるため50cm以上100cm以下が好ましく、大規模の精製現場の使用に適しておりかつ、大容量の処理ができるため100cmを超え250cm未満が好ましい。
ここで、中空糸膜の有効膜長とは、モジュール内に設置された中空糸膜1本当たりの平均長であり、かつろ過に寄与する部分の長さであり、モジュールの全長をさすものではない。
【0053】
中空糸膜の外径と内径との比率については、中空糸膜素材の強度面とろ過透水速度のバランスを適宜考慮することが好ましい。例えば、中空糸膜の外径/内径の比は1.3〜10.0の間で選択することが好ましい。
中空糸膜の外径/内径の比が小さい場合、ろ過圧力の負荷に耐え切れずに、破裂又は潰れを招くおそれがある。 逆に、中空糸膜の外径/内径の比が大きすぎる場合には、ろ過透水速度が低下するおそれがある。
上述したことから、中空糸膜の外径/内径の比は、1.3〜10.0が好ましく、1.3〜3.0がより好ましく、1.5〜2.0が更に好ましい。
【0054】
一方、中空糸膜の内径寸法は、中空部を流れる流体の管内圧力損失に大きく影響を及ぼす可能性がある。この管内圧力損失は、可能な限り低減化を図ることが必要である。圧力損失は、中空糸膜2の長手方向に局所的なろ過透水速度の分布を発生させる要因となり、その結果、中空糸膜2の長手方向に吸着破過のタイミングの差を誘起することになるからである。すなわち、一方では吸着が始まった直後の局部が存在するのに対し、他方では既に吸着が終了した局部が存在する状態が発生し、吸着ろ過膜の吸着能力の有効利用度が著しく低下する。しかしながら発明者等は鋭意検討を行った結果、吸着の進行とともにFLUXが低下する特徴を有する吸着ろ過膜を構成部材として用いることにより、吸着ろ過膜の吸着能力の有効利用度を高く維持する事が可能となる最適な中空糸膜の内径とモジュールの膜有効長の関係を見出した。
【0055】
実用的には、中空糸膜2をモジュール構造にしたときの吸着能力の有効利用度が、0.60以上の範囲になるように、中空糸膜を選定することが好ましい。より好ましくは、0.80以上の範囲であり、さらに好ましくは0.90以上の範囲である。特に好ましくは、0.95以上1.00以下の範囲である。
以下に、吸着ろ過膜の有効膜長と中空糸内径と吸着能力の有効利用度の関係を記す。
【0056】
吸着の進行とともにFLUXが低下する特徴を有する吸着ろ過膜を構成部材とする吸着ろ過膜の膜有効長が10cm20以上cm以内である場合、吸着ろ過膜の内径寸法は0.28mm以上であることが好ましく、0.43mm以上であればより好ましい。吸着ろ過膜の膜有効長が20cmで内径寸法が0.28mmの場合は吸着能力の有効利用度を0.63とすることができた。また吸着ろ過膜の膜有効長が20cmで内径寸法が0.43mmの場合は吸着能力の有効利用度を0.90とすることができた。さらに吸着ろ過膜の膜有効長が20cmで内径寸法が2.20mmの場合は吸着能力の有効利用度を1.00とすることができた。
【0057】
吸着の進行とともにFLUXが低下する特徴を有する吸着ろ過膜を構成部材とする吸着ろ過膜の有効膜長が20cmを超え50cm以内である場合、吸着ろ過膜の内径寸法は0.43mm以上であることが好ましく、0.60mm以上であればさらに好ましく。0.76mm以上であればより好ましい。吸着ろ過膜の膜有効長が50cmで内径寸法が0.43mmの場合は吸着能力の有効利用度を0.64とすることができた。また吸着ろ過膜の膜有効長が50cmで内径寸法が0.60mmの場合は吸着能力の有効利用度を0.83とすることができた。さらに吸着ろ過膜の膜有効長が50cmで内径寸法が0.76mmの場合は吸着能力の有効利用度を0.94とすることができた。さらには吸着ろ過膜の有効長が50cmで内径寸法が2.2mmの場合は吸着能力の有効利用度0.98を達成した。
【0058】
吸着の進行とともにFLUXが低下する特徴を有する吸着ろ過膜を構成部材とする吸着ろ過膜の有効膜長が50cmを超え100cm以内である場合、吸着ろ過膜の内径寸法は0.60mm以上であることが好ましく、0.76mm以上であればさらに好ましく。1.02mm以上であればより好ましい。吸着ろ過膜の膜有効長が100cmで内径寸法が0.60mmの場合は吸着能力の有効利用度を0.68とすることができた。また吸着ろ過膜の膜有効長が100cmで内径寸法が0.76mmの場合は吸着能力の利用度を0.80とすることができた。さらに吸着ろ過膜の膜有効長が100cmで内径寸法が1.02mmの場合は吸着能力の有効利用度を0.919とすることができた。さらには吸着ろ過膜の膜有効長が100cmで内径寸法が2.2mmの場合は吸着能力の有効利用度0.98を達成した。
【0059】
吸着の進行とともにFLUXが低下する特徴を有する吸着ろ過膜を構成部材とする吸着ろ過膜の有効膜長が100cmを超え150cm以内である場合、吸着ろ過膜の内径寸法は0.76mm以上であることが好ましく、1.02mm以上であればさらに好ましく。1.22mm以上であればより好ましい。吸着ろ過膜の膜有効長が150cmで内径寸法が0.76mmの場合は吸着能力の有効利用度を0.63とすることができた。また吸着ろ過膜の膜有効長が150cmで内径寸法が1.02mmの場合は吸着能力の有効利用度を0.85とすることができた。さらに吸着ろ過膜の膜有効長が150cmで内径寸法が1.22mmの場合は吸着能力の有効利用度を0.92とすることができた。さらには吸着ろ過膜の膜有効長が150cmで内径寸法が2.2mmの場合には吸着能力の有効利用度0.98を達成した。
【0060】
吸着の進行とともにFLUXが低下する特徴を有する吸着ろ過膜を構成部材とする吸着ろ過膜の有効膜長が150cmを超え200cm以内である場合、中空糸ろ過膜の内径寸法は0.86mm以上であることが好ましく、1.22mm以上であればさらに好ましい。吸着ろ過膜の膜有効長が200cmで内径寸法が0.86mmの場合は吸着能力の有効利用度を0.63とすることができた。また吸着ろ過膜の膜有効長が200cmで内径寸法が1.22mmの場合は吸着能力の有効利用度を0.86とすることができた。さらには吸着ろ過膜の有効長が200cmで内径寸法が2.2mmの場合には吸着能力の有効利用度0.98を達成した。
【実施例】
【0061】
以下、本発明の具体的な実施例及び比較例について説明する。
本発明は、下記の実施例等に限定されるものではない。
【0062】
[製造例1]基材となる中空糸多孔質膜の製造
微粉ケイ酸(アエロジルR972グレード)27.2質量部、ジブチルフタレート(DBP)54.3質量部、ポリエチレン樹脂粉末(旭化成サンファインSH−800グレード)18.5質量部を、予備混合し、その後、2軸押出し機内で中空糸状に押し出した。
次に、ジブチルフタレート(DBP)及び微粉ケイ酸を、それぞれ塩化メチレン及び引き続きNaOH水溶液中に浸漬して抽出した後、水洗、乾燥処理を施し、ポリエチレン製の中空糸多孔膜を得た。
【0063】
[製造例2]吸着機能を有する中空糸多孔膜の製造
上記[製造例1]により製造したポリエチレン製中空糸多孔膜を密閉容器に入れて、当該密閉容器内の空気を窒素で置換した。
その後、密閉容器の外側からドライアイスを用いて冷却しながら、γ線200kGyを照射し、ラジカルを発生させ、ラジカルを有するポリエチレン製中空糸多孔膜を得た。
上記のようにして得られたラジカルを有するポリエチレン製中空糸多孔膜を反応容器に入れて、200Pa以下に減圧することにより、反応容器内の酸素を除いた状態とした。
一方、40℃に調整したグリシジルメタクリレート(GMA)3体積部と、メタノール97体積部よりなる反応液を窒素でバブリングして、当該反応液内の酸素を取り除いた状態とした。
上記ポリエチレン製中空糸多孔膜を入れた酸素を除いた反応容器に、上記酸素を取り除いた反応液を注入した。その後、後述する実施例及び比較例において記載されている時間に従い、密閉静置状態を維持し、反応温度40℃でグラフト重合反応をポリエチレン製中空糸多孔膜に施した。
その後、メタノールで十分に洗浄し、乾燥することにより、GMAグラフト中空糸膜を得た。
その後、後述する実施例及び比較例において記載されている方法により、GMAグラフト中空糸膜のGMAグラフト鎖のエポキシ基に対して試薬を作用させることにより、吸着機能を有する官能基に転化した。これにより、官能基を有するGMAグラフト中空糸膜を得た。
【0064】
[製造例3]グラフト率の定義
上記[製造例2]で製造した官能基を有するGMAグラフト中空糸膜におけるグラフト率は、下記の式(1)で表される。
【0065】
【数1】

【0066】
W0:基材膜の重量 [g]
W1:グラフト重合後のGMAグラフト中空糸膜の重量 [g]
【0067】
[製造例4]官能基置換率の定義
上記〔製造例2〕で製造した官能基を有するGMAグラフト中空糸膜における官能基転化率は、下記式(2)により表される。
【0068】
【数2】

【0069】
W2:官能基を有するGMAグラフト中空糸膜の重量 [g]
M1: GMAの分子量(142.15)
M2: 吸着機能を有する官能基の分子量
【0070】
[評価方法例1]吸着機能を有する中空糸膜の測定装置
上記[製造例2]で製造した官能基を有するGMAグラフト中空糸膜が、有効膜長7cmとなるように、当該官能基を有するGMAグラフト中空糸膜の両端を、配管に接続し、その片端を、圧力計を介してチューブポンプに接続し、反対の片端にコックを接続し、中空糸膜の測定装置とした。
【0071】
[評価方法例2]吸着機能を有する中空糸ろ過膜の吸着能力の測定
上記[評価方法例1]の測定装置に取り付けた、有効膜長7cmの吸着ろ過膜に対して、被吸着物質として指標タンパク質を用いた吸着能力の測定を行った。
被吸着物質として精製されたタンパク質の市販品を用いることは、バイオテクノロジーの精製装置の性能表示を行う際に一般に用いられている。モデル物質としては、精製装置の性能を示すために最も適したタンパク質を用いることが好ましいが、一般に用いられるタンパク質としては、BSA(牛血清アルブミン)やリゾチームがある。これら指標タンパク質としてBSAはSIGMA社製A7906−100Gを、リゾチームはSIGMA社製L6876−10Gを用いて次の測定を行い、下記のように吸着能力を定義した。
上記[評価方法例1]の測定装置に取り付けた有効膜長7cmの吸着ろ過膜に対して、トリス塩酸緩衝液を中空糸膜の中空部に供給して中空部の残留空気を排除した後に供給側と反対側のコックを閉じた。引き続き所定の流速設定にてろ過圧力が安定化するまでトリス塩酸緩衝液を内圧式でろ過した。指標タンパク質をトリス塩酸緩衝液に溶解して1g/Lの濃度に調製をし、上記ろ過圧を安定化させた有効膜長7cmの吸着ろ過膜に対して20℃にて供給し、所定の一定流速にてろ過を続けた。ろ過液側へのタンパク質の漏洩動向を、波長280nmにおける吸光度で追跡し、指標タンパク水溶液の吸光度に対するろ過液の吸光度の比が10%になる時点のろ液量[ml]を確認した。このろ液量を1g/Lの関係からタンパク質の重量に換算することで、吸光度比が10%になる時点のタンパク質吸着量[mg]を導出した。
このタンパク質吸着量[mg]を、ろ過に用いた中空糸膜の円環膜体積[ml]で割ることによって、単位膜体積当たりのタンパク質吸着量[mg/ml]とした。
この吸光度比が10%になる時点での単位膜体積当たりのタンパク質吸着量を、「膜固有の動的吸着容量」と定義した。
なお、バイオテクノロジーの精製の分野等では、「動的吸着容量」は一般的に用いられる用語である。
【0072】
[評価方法例3]中空糸膜モジュールの吸着能力の測定装置
中空糸膜モジュールの吸着能力を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)システムを用いて測定した。
HPLCとしては、GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社のAKTAexplorer100、または株式会社ワイエムシィの中圧クロマト装置BP−5000S−Lを使用した。
【0073】
[評価方法例4]吸着機能を有する中空糸ろ過膜モジュールの吸着能力の測定
上記[評価方法例3]記載のHPLCと中空糸ろ過膜モジュールを、HPLCの供給配管をモジュールの中空糸膜内表面側に接続し、HPLCの排出配管をモジュールの中空糸膜外表面側に接続した。その後中空糸膜内表面側および外表面側に残留空気が無いようにトリス塩酸緩衝液を供給し内圧式のろ過操作を行いセットアップをした。
トリス塩酸緩衝液に1g/Lの濃度になるように調製した指標タンパク質水溶液(上記BSAまたはリゾチーム)を中空糸ろ過膜モジュールに対して20℃にて供給し、所定の一定流速にて内圧式のろ過を続けた。なお供給流速は、上記[評価方法例2]での測定と本測定との単位膜面積あたりのろ過透水量負荷を一致させるために、有効膜長比例の流速に設定した。
ろ過液側へのタンパク質の漏洩動向を、波長280nmにおける吸光度で追跡し、指標タンパク水溶液の吸光度に対するろ過液の吸光度の比が10%になる時点のろ液量[ml]を確認した。このろ液量[ml]を1g/Lの関係からタンパク質の重量[mg]に換算することで、吸光度比が10%になる時点のタンパク質吸着量[mg]を導出した。
このタンパク質吸着量[mg]を、測定した中空糸ろ過膜モジュールを構成する全中空糸膜の総円環膜体積[ml]で割ることによって、単位膜体積当たりのタンパク質吸着量[mg/ml]に換算した。
この吸光度比が10%時点での単位膜体積当たりのタンパク質吸着量を、「モジュール形態での動的吸着容量」と定義した。
【0074】
[実施例1]
弱電解性イオン交換基としてジエチルアミノ基をグラフト高分子鎖に有する中空糸タイプの吸着ろ過膜に関して説明する。弱電解性イオン交換基を有するろ過膜においては、吸着とともにろ過圧力が上昇する(FLUXが低下する)ことを示す例である。
【0075】
上記[製造例1]の方法に従い内径2.0mm、外径3.1mmのポリエチレン製中空糸多孔膜を得た。
グリシジルメタクリレート(GMA)3体積部とイソプロピルアルコール97体積部よりなる反応液を使用し、その他の条件は、上記[製造例2]と同様の方法により、酸素を取り除いたポリエチレン製中空糸多孔膜4質量部に対し酸素を取り除いた反応液を96質量部注入し15分間の反応時間を保持することで、GMAグラフト中空糸膜を、グラフト率53%で得た。
その後、ジエチルアミン50体積部と純水50体積部からなる反応液をGMAグラフト中空糸膜に30℃で23時間作用させた。これにより、ジエチルアミノ基(M2=73.14)を官能基転化率93%で有し、内径2.20mm、外径3.54mmであるジエチルアミノ基(弱電解性イオン交換基)を有するGMAグラフト中空糸膜を得た。
【0076】
上記[評価方法例2]の方法にて、前記ジエチルアミノ基(弱電解性イオン交換基)を有するGMAグラフト中空糸膜に2.0mL/minの送液速度にて内表面側へBSA溶液を送液し外表面側へろ過する操作を行い、供給するBSA水溶液の吸光度に対するろ過液の吸光度の比が10%になり、さらに90%を超えるまでろ過操作を続け、ろ液重量と吸光度とろ過圧力とを監視した。
吸光度比が10%に到達するまでに20.5mLを要した。これよりこの膜の動的吸着容量は、BSAの吸着量で48.5mg/mLと算出された。また、ろ過液の吸光度比が90%を超えるまでのろ液量と吸光度とろ過圧力の関係は図7に記すとおりであるが、本ジエチルアミノ基(弱電解性イオン交換基)を有するGMAグラフト中空糸膜は、吸着の進行とともにろ過圧力が上昇する、すなわちFLUXが低下する特徴を有する膜であることは明らかである。
【0077】
[実施例2]
実施例1と同じく、弱電解性イオン交換基としてジエチルアミノ基をグラフト高分子鎖に有する中空糸タイプの吸着ろ過膜に関して説明する。実施例1と同じく吸着とともにろ過圧力が上昇する(FLUXが低下する)ことを示す例である。
【0078】
上記[製造例1]の方法に従い内径2.0mm、外径3.1mmのポリエチレン製中空糸多孔膜を得た。
グリシジルメタクリレート(GMA)10体積部とメタノール90体積部なる反応液を使用し、その他の条件は、上記[製造例2]と同様の方法により、酸素を取り除いたポリエチレン製中空糸多孔膜4質量部に対し酸素を取り除いた反応液を96質量部注入し11分間の反応時間を保持することで、GMAグラフト中空糸膜を、グラフト率158%で得た。
その後、ジエチルアミン50体積部と純水50体積部からなる反応液をGMAグラフト中空糸膜に30℃で2.3時間作用させた。これにより、ジエチルアミノ基(M2=73.14)を官能基転化率82%で有し、内径2.37mm、外径3.96mmであるジエチルアミノ基(弱電解性イオン交換基)を有するGMAグラフト中空糸膜を得た。
【0079】
上記[評価方法例2]の方法にて、前記ジエチルアミノ基(弱電解性イオン交換基)を有するGMAグラフト中空糸膜に2.0mL/minの送液速度にて内表面側へBSA溶液を送液し外表面側へろ過する操作を行い、供給するBSA水溶液の吸光度に対するろ過液の吸光度の比が10%になり、さらに90%を超えるまでろ過操作を続け、ろ液重量と吸光度とろ過圧力とを監視した。
吸光度比が10%に到達するまでに55.3mLを要した。これよりこの膜の動的吸着容量は、BSAの吸着量で99.6mg/mLと算出された。また、吸光度比が90%を超えるまでのろ液量と吸光度とろ過圧力の関係は図8に記すとおりであるが、本ジエチルアミノ基(弱電解性イオン交換基)を有するGMAグラフト中空糸膜は、吸着の進行とともにろ過圧力が上昇する、すなわちFLUXが低下する特徴を有する膜であることは明らかである。
【0080】
[比較例1]
強電解性アニオン交換基としてトリメチルアンモニウム基をグラフト高分子鎖に有する中空糸タイプの吸着ろ過膜に関して説明する。強電解性アニオン交換基を有するろ過膜においては、吸着とともにろ過圧力し上昇がない(FLUXが低下しない)ことを示す例である。
【0081】
上記[製造例1]の方法に従い内径2.0mm、外径3.1mmのポリエチレン製中空糸多孔膜を得た。
グリシジルメタクリレート(GMA)1体積部とメタノール99体積部よりなる反応液を使用し、その他の条件は、上記[製造例2]と同様の方法により、酸素を取り除いたポリエチレン製中空糸多孔膜4重量部に対し酸素を取り除いた反応液を96重量部注入し12分間の反応時間を保持することで、GMAグラフト中空糸膜を、グラフト率12%で得た。
その後、NaOHを用いてpH12に調整した0.5Mのトリメチルアンモニウムクロリド水溶液を反応液として、GMAグラフト中空糸膜に60℃で30分間作用させることで、トリメチルアンモニウム・Cl基(M2=95.57)を官能基転化率99%で有し、内径2.00mm、外径3.18mmであるトリメチルアンモニウム基(強電解性イオン交換基)を有するGMAグラフト中空糸膜を得た。
【0082】
上記[評価方法例2]の方法にて、前記トリメチルアンモニウム基(強電解性イオン交換基)を有するGMAグラフト中空糸膜に2.0mL/minの送液速度にて内表面側へBSA溶液を送液し外表面側へろ過する操作を行い、供給するBSA水溶液の吸光度に対するろ過液の吸光度の比が10%になり、さらに90%を超えるまでろ過操作を続け、ろ液重量と吸光度とろ過圧力とを監視した。
吸光度比が10%に到達するまでに9.6mLを要した。これよりこの膜の動的吸着容量は、BSAの吸着量で29.0mg/mLと算出された。また、吸光度比が90%を超えるまでのろ液量と吸光度とろ過圧力の関係は図9に記すとおりであるが、本トリメチルアンモニウム基(強電解性イオン交換基)を有するGMAグラフト中空糸膜は、吸着の進行とともにろ過圧力の上昇が見られない、すなわちFLUXの低下が見られない膜であることは明らかである。
【0083】
[比較例2]
強電解性カチオン交換基としてスルホン酸基をグラフト高分子鎖に有する中空糸タイプの吸着ろ過膜に関して説明する。強電解性カチオン交換基を有するろ過膜においては、吸着とともにろ過圧力が上昇しない(FLUXが低下しない)ことを示す例である。
【0084】
上記[製造例1]の方法に従い内径2.0mm、外径3.1mmのポリエチレン製中空糸多孔膜を得た。
グリシジルメタクリレート(GMA)2体積部とメタノール98体積部よよりなる反応液を使用し、その他の条件は、上記[製造例2]と同様の方法により、酸素を取り除いたポリエチレン製中空糸多孔膜4重量部に対し酸素を取り除いた反応液を96重量部注入し12分間の反応時間を保持することで、GMAグラフト中空糸膜を、グラフト率23%で得た。
その後、亜硫酸ナトリウム10重量部とイソプロピルアルコール15重量部と純水75重量部の混合液を反応液として、GMAグラフト中空糸膜に80℃で10分間作用させることで、スルホン酸・Na基(M2=103.05)を官能基転化率3.9%の吸着膜を得た。この後、残りのGMAグラフト鎖中のエポキシ基をジオール化するために0.5M硫酸水溶液を反応液として80℃で3時間作用させ、最終的に内径2.18mm、外径3.54mmであるスルホン酸基(強電解性イオン交換基)を有するGMAグラフト中空糸膜を得た。
【0085】
上記[評価方法例2]の方法にて、前記スルホン酸基(強電解性イオン交換基)を有するGMAグラフト中空糸膜に2.0mL/minの送液速度にて内表面側へBSA溶液を送液し外表面側へろ過する操作を行い、供給するBSA水溶液の吸光度に対するろ過液の吸光度の比が10%になり、さらに90%を超えるまでろ過操作を続け、ろ液重量と吸光度とろ過圧力とを監視した。
吸光度比が10%に到達するまでに8.9mLを要した。これよりこの膜の動的吸着容量は、BSAの吸着量で25.2mg/mLと算出された。また、吸光度比が90%を超えるまでのろ液量と吸光度とろ過圧力の関係は図10に記すとおりであるが、本スルホン酸基(強電解性イオン交換基)を有するGMAグラフト中空糸膜は、吸着の進行とともにろ過圧力の上昇が見られない、すなわちFLUXの低下が見られない膜であることは明らかである。
【0086】
[実施例3]
上記[製造例1]の方法に従い内径1.1mm、外径1.7mmのポリエチレン製中空糸多孔膜を得た。グリシジルメタクリレート(GMA)3体積部とメタノール97体積部よりなる反応液を使用し、その他の条件は、上記[製造例2]と同様の方法により、酸素を取り除いたポリエチレン製中空糸多孔膜4重量部に対し酸素を取り除いた反応液を96重量部注入し15分間の反応時間を保持することで、GMAグラフト中空糸膜を、をグラフト率55%で得た。
その後、ジエチルアミン50体積部と純水50体積部からなる反応液をGMAグラフト中空糸膜に30℃で2.3時間作用させた。これにより、ジエチルアミノ基(M2=73.14)を官能基転化率92%で有し、内径1.22mm、外径1.95mmであるジエチルアミノ基(弱電解性イオン交換基)を有するGMAグラフト中空糸膜を得た。
【0087】
[実施例4]
上記[製造例1]の方法に従い内径0.8mm、外径1.3mmのポリエチレン製中空糸多孔膜を得た。グリシジルメタクリレート(GMA)10体積部とメタノール90体積部よりなる反応液を使用し、その他の条件は、上記[製造例2]と同様の方法により、酸素を取り除いたポリエチレン製中空糸多孔膜4重量部に対し酸素を取り除いた反応液を96重量部注入し11分間の反応時間を保持することで、GMAグラフト中空糸膜を、グラフト率160%で得た。その後、ジエチルアミン50体積部と純水50体積部からなる反応液をGMAグラフト中空糸膜に30℃で2.3時間作用させることで、ジエチルアミノ基(M2=73.14)を官能基転化率94%で有し、内径1.02mm、外径1.63mmであるジエチルアミノ基(弱電解性イオン交換基)を有するGMAグラフト中空糸膜を得た。
【0088】
[実施例5]
上記[製造例1]の方法に従い内径0.8mm、外径1.3mmのポリエチレン製中空糸多孔膜を得た。グリシジルメタクリレート(GMA)3体積部とメタノール97体積部よりなる反応液を使用し、その他の条件は、上記[製造例2]と同様の方法により、酸素を取り除いたポリエチレン製中空糸多孔膜4重量部に対し酸素を取り除いた反応液を96重量部注入し15分間の反応時間を保持することで、GMAグラフト中空糸膜を、グラフト率49%で得た。
その後、ジエチルアミン50体積部と純水50体積部からなる反応液をGMAグラフト中空糸膜に30℃で2.3時間作用させた。これにより、ジエチルアミノ基(M2=73.14)を官能基転化率95%で有し、内径0.86mm、外径1.38mmであるジエチルアミノ基(弱電解性イオン交換基)を有するGMAグラフト中空糸膜を得た。
【0089】
[実施例6]
上記[製造例1]の方法に従い内径0.7mm、外径1.1mmのポリエチレン製中空糸多孔膜を得た。グリシジルメタクリレート(GMA)3体積部とメタノール97体積部よりなる反応液を使用し、その他の条件は、上記[製造例2]と同様の方法により、酸素を取り除いたポリエチレン製中空糸多孔膜4重量部に対し酸素を取り除いた反応液を96重量部注入し15分間の反応時間を保持することで、GMAグラフト中空糸膜を、グラフト率55%で得た。
その後、ジエチルアミン50体積部と純水50体積部からなる反応液をGMAグラフト中空糸膜に30℃で2.3時間作用させた。これにより、ジエチルアミノ基(M2=73.14)を官能基転化率90%で有し、内径0.76mm、外径1.22mmであるジエチルアミノ基(弱電解性イオン交換基)を有するGMAグラフト中空糸膜を得た。
【0090】
[実施例7]
上記[製造例1]の方法に従い内径0.54mm、外径0.85mmのポリエチレン製中空糸多孔膜を得た。グリシジルメタクリレート(GMA)3体積部とメタノール97体積部よりなる反応液を使用し、その他の条件は、上記[製造例2]と同様の方法により、酸素を取り除いたポリエチレン製中空糸多孔膜4重量部に対し酸素を取り除いた反応液を96重量部注入し15分間の反応時間を保持することで、GMAグラフト中空糸膜を、グラフト率54%で得た。
その後、ジエチルアミン50体積部と純水50体積部からなる反応液をGMAグラフト中空糸膜に30℃で2.3時間作用させた。これにより、ジエチルアミノ基(M2=73.14)を官能基転化率92%で有し、内径0.60mm、外径0.96mmであるジエチルアミノ基(弱電解性イオン交換基)を有するGMAグラフト中空糸膜を得た。
【0091】
[実施例8]
上記〔製造例1]の方法から内径0.37mm、外径0.62mmのポリエチレン製中空糸多孔膜を得た。グリシジルメタクリレート(GMA)3体積部とメタノール97体積部よりなる反応液を使用した以外は上記〔製造例2]と同一の方法にて、酸素を取り除いたポリエチレン製中空糸多孔膜4重量部に対し酸素を取り除いた反応液を96重量部注入し15分間の反応時間を保持することで、GMA膜をグラフト率50%で得た。その後、ジエチルアミン50体積部と純水50体積部からなる反応液をGMAグラフト中空糸膜に30℃で2.3時間作用させることで、ジエチルアミノ基(M2=73.14)を官能基転化率94%で有し、内径0.43mm、外径0.69mmであるジエチルアミノ基(弱電解性イオン交換基)を有するGMAグラフト中空糸膜を得た。
【0092】
[実施例9]
上記[製造例1]の方法に従い内径0.25mm、外径0.40mmのポリエチレン製中空糸多孔膜を得た。グリシジルメタクリレート(GMA)3体積部とメタノール97体積部よりなる反応液を使用し、その他の条件は、上記[製造例2]と同様の方法により、酸素を取り除いたポリエチレン製中空糸多孔膜4重量部に対し酸素を取り除いた反応液を96重量部注入し15分間の反応時間を保持することで、GMAグラフト中空糸膜を、グラフト率49%で得た。
その後、ジエチルアミン50体積部と純水50体積部からなる反応液をGMAグラフト中空糸膜に30℃で2.3時間作用させた。これにより、ジエチルアミノ基(M2=73.14)を官能基転化率93%で有し、内径0.28mm、外径0.45mmであるジエチルアミノ基(弱電解性イオン交換基)を有するGMAグラフト中空糸膜を得た。
【0093】
[実施例10]
実施例1、3〜9の吸着ろ過膜を[評価方法例1]の装置に取り付け、それぞれの膜の動的吸着容量を測定した。この時、[評価方法例1]の装置に取り付けた中空糸の本数は、実施例1の膜では1本、実施例3の膜では3本、実施例4の膜では5本、実施例5の膜では7本、実施例6の膜では10本、実施例7の膜では15本、実施例8の膜では25本、実施例9の膜では60本とした。
これらの中空糸膜を[評価方法例2]の方法に従い、被吸着物質としては、指標タンパク質であるBSAの水溶液(1g/L)を使用し、供給流速を2.0ml/minに設定して、動的吸着容量を求めた。表1にはこれら吸着ろ過膜の構造と吸着能力評価の結果を記す。
【0094】
[実施例11]
実施例1、3〜9の吸着ろ過膜を用いて吸着ろ過膜モジュールを作成した。この時、実施例1の膜では1本を、実施例で3の膜は3本を、実施例4の膜は5本を、実施例5の膜は7本を、実施例6の膜では10本を、実施例7の膜では15本を、実施例8の膜では25本を、実施例9の膜では60本を、内径1cmの外筒に対して挿入して作成した。吸着膜モジュールの膜有効長については、実施例1の膜では、膜有効長を20cm、50cm、100cm、150cm、200cmになるように加工した。実施例3の膜では150cm、200cmになるように加工した。実施例4の膜では100cm、150cmになるように加工した。実施例5の膜では200mになるように加工した。実施例6の膜では50cm、100cm、150cmになるように加工した。実施例7の膜では50cm、100cmになるように加工した。実施例8の膜では20cm、50cmになるように加工した。実施例9の膜では20cmになるように加工した。
これらの吸着ろ過膜モジュールは、[評価方法例4]に従い吸着能力を評価した。被吸着物質は指標タンパク質であるBSAの水溶液(1g/L)を使用した。表2には吸着膜モジュールの吸着能力評価の結果を記す。いずれの吸着ろ過膜モジュールにおいても、実施例10の膜有効長7cmの場合と比較した動的吸着容量の保持率、すなわち吸着能力の有効利用率は0.6を上回る結果であった。
【0095】
[比較例3]
上記[製造例1]の方法に従い内径0.54mm、外径0.85mmのポリエチレン製中空糸多孔膜を得た。グリシジルメタクリレート(GMA)3体積部とメタノール97体積部よりなる反応液を使用し、その他の条件は、上記[製造例2]と同様の方法により、酸素を取り除いたポリエチレン製中空糸多孔膜4重量部に対し酸素を取り除いた反応液を96重量部注入し15分間の反応時間を保持することで、GMAグラフト中空糸膜を、グラフト率54%で得た。
その後、NaOHを用いてpH12に調整した0.5Mのトリメチルアンモニウムクロリド水溶液を反応液として、GMAグラフト中空糸膜に60℃で30分間作用させることで、トリメチルアンモニウム・Cl基(M2=95.57)を官能基転化率98%で有し、内径0.62mm、外径0.99mmであるトリメチルアンモニウム基(強電解性イオン交換基)を有するGMAグラフト中空糸膜を得た。
【0096】
[比較例4]
上記[製造例1]の方法に従い内径0.54mm、外径0.85mmのポリエチレン製中空糸多孔膜を得た。グリシジルメタクリレート(GMA)3体積部とメタノール97体積部よりなる反応液を使用し、その他の条件は、上記[製造例2]と同様の方法により、酸素を取り除いたポリエチレン製中空糸多孔膜4重量部に対し酸素を取り除いた反応液を96重量部注入し15分間の反応時間を保持することで、GMAグラフト中空糸膜を、グラフト率54%で得た。
その後、亜硫酸ナトリウム10重量部とイソプロピルアルコール15重量部と純水75重量部の混合液を反応液として、GMAグラフト中空糸膜に80℃で10分間作用させることで、スルホン酸・Na基(M2=103.05)を官能基転化率4.2%の吸着膜を得た。この後、残りのGMAグラフト鎖中のエポキシ基をジオール化するために0.5M硫酸水溶液を反応液として80℃で3時間作用させ、最終的に内径0.61mm、外径0.98mmであるスルホン酸基(強電解性イオン交換基)を有するGMAグラフト中空糸膜を得た。
【0097】
[比較例5]
比較例3,4の吸着ろ過膜を[評価方法例1]の装置に取り付け、それぞれの膜の動的吸着容量を測定した。この時、[評価方法例1]の装置に取り付けた中空糸の本数は共に15本とした。
これらの中空糸膜を[評価方法例2]の方法に従い、被吸着物質としては比較例3の膜に対してはBSAの水溶液(1g/L)を、比較例4の膜に対してはリゾチームの水溶液(1g/L)を使用し、供給流速を2.0ml/minに設定して、動的吸着容量を求めた。表2にはこれら吸着ろ過膜の構造と吸着能力評価の結果を記す。
【0098】
【表1】

【0099】
[比較例6]
比較例3,4の吸着ろ過膜を用いて吸着ろ過膜モジュールを作成した。この時、比較例3,4の膜は共に15本を、内径1cmで100cmの有効長を取れる外筒に対して挿入して作成した。
これらの吸着ろ過膜モジュールは、[評価方法例4]に従い吸着能力を評価した。被吸着物質は、実施例3からなる吸着ろ過膜モジュールの場合はBSAの水溶液(1g/L)を使用し、実施例4からなる吸着ろ過膜モジュールの場合はリゾチームの水溶液(1g/L)を使用した。表2には吸着ろ過膜モジュールの吸着能力評価の結果を記す。いずれの吸着ろ過膜モジュールにおいても、比較例5の膜有効長7cmの吸着膜モジュールと比較した動的吸着容量の保持率、すなわち吸着能力の有効利用率は0.6を下回る結果であった。
【0100】
【表2】

【0101】
[実施例12]
上記[製造例1]の方法に従い内径1.9mm、外径3.2mmのポリエチレン製中空糸多孔膜を得た。
上記[製造例2]と同様の方法により、酸素を取り除いた長さ1.3mで970本のポリエチレン製中空糸多孔膜8質量部に対し、酸素を取り除いた反応液を92質量部注入し、18時間の反応時間を保持することにより、GMAグラフト中空糸膜を、グラフト率56.0%で得た。
その後、ジエチルアミン50体積部と純水50体積部とからなる反応液を、GMAグラフト中空糸膜に30℃で20時間作用させ、ジエチルアミノ基(M2=73.14)を官能基転化率96%で有し、平均内径2.44mm、平均外径3.62mmであるジエチルアミノ基(弱電解性イオン交換基)を有するGMAグラフト中空糸膜を得た。
【0102】
上記[評価方法例2]の方法にて、前記ジエチルアミノ基(弱電解性イオン交換基)を有するGMAグラフト中空糸膜に2.0mL/minの送液速度にて内表面側へBSA溶液を送液し外表面側へろ過する操作を行い、供給するBSA水溶液の吸光度に対するろ過液の吸光度の比が10%を超えるまでろ過操作を続け、ろ液重量と吸光度とろ過圧力とを監視した。
吸光度比が10%に到達するまでに22.6mLを要した。これよりこの膜の動的吸着容量は、BSAの吸着量で57.5mg/mLと算出された。
【0103】
内径が13cmで、有効長が94cmの外筒を使用し、上記ジエチルアミノ基(弱電解性イオン交換基)を有するGMAグラフト中空糸膜920本の糸束からなる大型の弱電解性アニオン交換型の中空糸膜モジュールを作製した。
この例における、大型の弱電解性アニオン交換型の中空糸膜モジュールは、中空糸膜の束の両端を封止樹脂で固定し、両端において開口部を露出した形態とした。 外筒の素材には、ポリスルホンを使用した。封止樹脂にはエポキシ接着剤を使用した。
上記[評価方法例4]の方法に従い、HPLCシステムとしてBP−5000S−Lを使用して、吸着能力を評価した。ただし、供給流速を4.5L/minとした。なお、被吸着物質としては、指標タンパク質であるBSAの水溶液(1g/L)を使用した。中空糸膜モジュールのろ過液の吸光度が、BSA水溶液の吸光度の10%に到達するまでに270L要した。
これにより、実施例12におけるジエチルアミノ基(弱電解性イオン交換基)を有するGMAグラフト中空糸膜の動的吸着容量は、BSAの吸着量で55.6mg/mLと算出された。
【0104】
上記実施例12におけるジエチルアミノ基(弱電解性イオン交換基)を有するGMAグラフト中空糸膜を構成部材とする大型の弱電解性アニオン交換型の中空糸膜モジュールでは、吸着能力の有効利用度が0.99であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の中空糸膜モジュールは、バイオテクノロジー、遺伝子工学、製薬工業、化学工業、飲料工業、食品工業、環境保護及び資源リサイクルの分野において、液相から目的物質を吸着法により分離精製する装置として産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0106】
1 外筒
2 中空糸膜
3 外筒に固定された封止樹脂
4 外筒に固定されていない封止樹脂
5 中空部が開放した接着端面
6 中空部が閉塞した接着端面
7 封止樹脂に存在するスリット
8 液タンク
9 配管接続部材
10 固定治具
11 間接部材
12 中空糸膜モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質膜の細孔表面に弱電解性イオン交換基を有するグラフト高分子鎖が形成されている吸着ろ過膜を具備し、当該吸着ろ過膜の有効膜長が10cm以上である吸着ろ過膜モジュール
【請求項2】
前記弱電解性イオン交換基が、3級アミノ基、2級アミノ基、1級アミノ基、カルボン酸基、りん酸基からなる群から選ばれるいずれか一以上である請求項1記載の吸着ろ過膜モジュール
【請求項3】
前記弱電解性イオン交換基がジエチルアミノ基である請求項1又は2記載の吸着ろ過膜モジュール
【請求項4】
前記グラフト高分子鎖が非架橋構造である請求項1〜3のいずれか一項に記載の吸着ろ過膜モジュール
【請求項5】
前記吸着ろ過膜の有効膜長が10cm以上20cm以内であり、中空糸内径が0.28mm以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の吸着ろ過膜モジュール
【請求項6】
前記吸着ろ過膜の有効膜長が20cmを超え50cm以内の範囲であり、中空糸内径が0.43mm以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の吸着ろ過膜モジュール
【請求項7】
前記吸着ろ過膜の有効膜長が50cmを超え100cm以内の範囲であり、中空糸内径が0.60mm以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の吸着ろ過膜モジュール
【請求項8】
前記吸着ろ過膜の有効膜長が100cmを超え150cm以内の範囲であり、中空糸内径が0.76mm以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の吸着ろ過膜モジュール
【請求項9】
前記吸着ろ過膜の有効膜長が150cmを超え200cm以内の範囲であり、中空糸内径が0.86mm以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の吸着ろ過膜モジュール
【請求項10】
前記吸着ろ過膜が中空糸膜である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の吸着ろ過膜モジュール

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−16119(P2011−16119A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164272(P2009−164272)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】