説明

吸着構造体,吸着モジュールおよびその製造方法

【課題】
水処理プラントにおいて,高度処理に用いられる逆浸透膜表面に水中溶解有機物が吸着して膜性能を劣化させ,逆浸透膜モジュールの交換頻度が高いことが課題である。
【解決手段】
被処理水中の有機物を吸着する吸着構造体において,外壁と,前記外壁の内側に設けられた複数の流路と,前記複数の流路のそれぞれを隔てる隔壁とを備え,前記隔壁は,前記流路の径よりも小さく,前記流路と他の流路とを連通させる連通孔と,前記有機物を吸着する吸着物質とを有することを特徴とする吸着構造体を提供することで,被処理水中の有機物を選択的に除去して,逆浸透膜の交換頻度を少なくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,排水再生処理や海水淡水化等の水処理工程において,高度処理に用いる水中溶解有機物および電解質を分離除去する逆浸透膜の前処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
水の浄化の高度処理において逆浸透膜が用いられている。逆浸透膜表面には半透膜が用いられるが,半透膜の材質は大きく分けて,酢酸セルロース系と芳香族ポリアミド系がある。このうち,芳香族ポリアミド系の逆浸透膜は水透過性や電解質除去性能が高いため,工業用に広く用いられている。その構造は,微孔多孔質支持体上に芳香族ポリアミド膜を形成した複合半透膜の構造が多く用いられ,芳香族ポリアミド部分の膜厚は1μm以下である。
【0003】
逆浸透膜は海水淡水化,半導体等の精密電子機器製造に用いる純水製造,上水の高度処理,下水・排水の最終処理などに水中溶解する有機物,電解質の除去に用いられる。
【0004】
これらの用途のうち,下水の最終処理に用いる場合は,一般的に以下のような処理プロセスを経て水が逆浸透膜に供給される。まず,下水に含まれる粗大な夾雑物,ごみ等はスクリーンと呼ばれるふるいを通して除かれる。次に,砂などの細かい懸濁物を必要に応じて凝集剤等を添加し沈殿池で沈下させ分離する。上澄みの水にはまだ浮遊物や溶解有機物等が含まれており,微生物を用いて分解する。微生物の代謝物が汚泥として発生し,汚泥と水は沈殿池での沈降または精密ろ過膜を通すことで分離される。このようにして処理された下水一次処理水には浮遊物はほとんど含まれず,この段階で消毒等を行って,河川に放流したり,緑化散布水などの用途によっては再利用したりできる水質まで浄化されている。日本国内では,この段階で河川に放流し自然浄化を活かして,水循環を行っている。しかしながら,中東,大陸内陸部,河川のない島等では自然浄化に必要十分な河川や湖沼がないために,下水一次処理水をさらに浄化して飲料水や工業用水として再利用する要望が高まっている。逆浸透膜はこの最終処理において下水一次処理水中の溶解有機物や電解質を除去するのに用いられる。
【0005】
下水一次処理水には,前段階までの処理などによって変化するが,電解質が1%以下,溶解有機物がTOC(全有機炭素量)に換算して3〜20mg/L含まれる。これらを逆浸透膜で分離すると電解質を1ppm以下,溶解有機物を1mg/L以下まで低下させることが可能である。
【0006】
下水最終処理に用いられる逆浸透膜は,モジュール内の膜表面積を増加させるため,スパイラルと呼ばれる形状に折りたたまれているものが多い。中央の芯の部分に袋状の逆浸透膜を固定し,傘のように巻き上げて円筒に納めた形をしている。モジュールは4インチ,8インチなどの直径で長さが1mの円筒形が主流である。
【0007】
逆浸透膜は,分離膜の一種であるが,分離膜を用いた水のろ過方式には2方式ある。一つは,全量ろ過方式で,これは供給した水の全量を膜に通過させる方式で,膜を通過できない成分は膜表面に堆積する。もう一つはクロスフローろ過方式であり,膜表面に平行に水が流れ,一部が膜を透過して透過水に,残りは溶解物濃度が高くなった状態で濃縮水としてモジュールから取り出される。逆浸透膜でのろ過には,後者のクロスフローろ過方式を用いている。この方式では,膜表面への溶解物の析出や濃度上昇による運転負荷上昇を低減する。しかし,クロスフローろ過方式でも溶解物が膜表面に吸着し,透過水量が経時的に劣化する問題がある。
【0008】
膜表面への吸着物には,電解質が膜表面付近で濃度が高くなって析出するスケール,水中の微生物が膜表面で増殖するバイオファウリングなどのほか,有機物が吸着する有機物ファウリングがある。定期的に膜表面に清浄水を流し,せん断力によって吸着物を除去しているが,有機物が吸着した場合,せん断力では完全に除去することができず,徐々に蓄積して水の透過量が低下する。一定した透過量を得るために動力(圧力)を増加させるが,ポンプの電力費増加につながる。また,洗浄液により逆浸透膜が徐々に劣化するため,イオンの阻止率が低下する。これらが進むと逆浸透膜モジュールを交換する必要が生じる。逆浸透膜モジュールの交換時は運転を長時間止める必要があり,また逆浸透膜モジュールは再生利用ができないため,新しい逆浸透膜モジュールに交換する必要があり,稼働率低下,逆浸透膜の消耗品代,廃棄物処理費など単位水量当たりのランニングコストをあげる原因となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3864817号公報
【特許文献2】特開2005−111407号公報
【特許文献3】特開2008−136919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このため,有機物を逆浸透膜前であらかじめ除去する前処理工程を追加して逆浸透膜の交換までの寿命を延ばす方法がある。前処理方法としては,有機物を分解する方法,有機物を吸着や凝集により,除去する方法などがあるが,後者の有機物を吸着する方法としては,特許文献1には,逆浸透膜と同じ材料からなる吸着材料を用いる方法が開示されている。
【0011】
有機物の吸着材料としては活性炭が汎用的に用いられる。しかしながら,活性炭を用いる方法では,下水一次処理水に含まれる有機物のほとんどを吸着するために,活性炭がすぐに吸着飽和に達してしまい,活性炭の交換頻度が高くなり,逆浸透膜の交換頻度を低減してもコストメリットが得られない。
【0012】
吸着材料の構造は,下水一次処理水を透過させたときに,十分な透過水量が得られることが求められる。一方で,水と接触する表面積を大きく取ることが吸着を効率よく行うために必要である。表面積を拡大する方法として,活性炭は粉状,破砕片,粒状のものなどがあるが,水中で用いる場合,水の流路が狭くなるため,十分な流速が得られにくい。活性炭以外の吸着材料も,粒状の場合はいずれも同様の問題が生じる。さらに,活性炭は表面積拡大のために細孔を持つが,細孔内で捕捉した物質は脱離が困難で,洗浄での吸着能回復が実用上不可能である。
【0013】
逆浸透膜を用いて水処理する場合に,水中に溶存した有機物を除去するために吸着材料を用いる方法が特許文献2に開示されている。吸着材料では表面積が不足するため大量の吸着材料が必要となる問題があった。
【0014】
逆浸透膜が汚染して目詰まりをおこした場合,一定の透過量を得るために圧力(動力)を増加させるため,ポンプの電力費増加につながる。また,汚染を除去するため逆浸透膜を洗浄するが,薬液により逆浸透膜が徐々に劣化し,イオンの阻止率が低下する。これらが進むと逆浸透膜交換が必要となる。逆浸透膜の交換時は運転を長時間止める必要があり,再生水の安定供給が困難となる。特に,下水再生処理では,逆浸透膜への供給水中に有機物を多く含むため,溶存有機物による目詰まりが大きな課題である。
【0015】
溶存有機物が原因の逆浸透膜の目詰まりのメカニズムは大きく2つのものがある。1つ目は,有機物が逆浸透膜表面に吸着し,膜の表面状態や分子レベルの孔を塞いで膜性能を劣化させる。2つ目は,逆浸透膜モジュールに大きく関係し,溶存していた有機物が膜表面や膜とスペーサの間で不溶化して堆積し,流路を閉塞させるために起きる。特に2つめのモジュール構造起因の場合は,モジュールの入口側で発生し,モジュールの奥では膜の劣化が起きていないにもかかわらず,透過水量が減少してしまう。従来の溶存有機物除去方法として,逆浸透膜と同じ材料からなる吸着材料を用いる方法が特許文献1に開示されている。また,処理水と逆浸透膜の接触面積を大きくするために,繊維状高分子とセラミック多孔体を用いる特許文献2が開示されている。
【0016】
下水の再生処理プロセスにおいて生物活性汚泥処理後に逆浸透膜を用いて処理する場合に,逆浸透膜表面に水中に溶解した難分解性有機物が吸着して通水率が経時劣化し,安定した透過水供給に問題が生じる。劣化した逆浸透膜の表面を清浄な水で洗浄して性能を回復するが,完全な機能回復は難しく,また,洗浄液により膜が劣化して透過水の水質が低下する。このため,ある程度劣化した場合は逆浸透膜を交換する必要がある。逆浸透膜の寿命が短いと水処理のランニングコストが高くなる。とくに,下水再生処理においては,逆浸透膜に供給される水に含まれる有機物量が多いため,大きい課題である。
【0017】
前処理工程で有機物を除去する方法があるが,低コストで効果を得ることが難しい。これは,吸着材料が大量に必要であることや吸着材料の再生利用が困難なことが原因である。
【0018】
本発明の目的は,上記課題を解決し,低コストの前処理工程を追加して逆浸透膜の寿命を延ばし,下排水の再生処理にかかるランニングコストを低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は,上記課題を解決するために,例えば,被処理水中の有機物を吸着する吸着構造体において,外壁と,前記外壁の内側に設けられた複数の流路と,前記複数の流路のそれぞれを隔てる隔壁とを備え,前記隔壁は,前記流路の径よりも小さく,前記流路と他の流路とを連通させる連通孔と,前記有機物を吸着する吸着物質とを有することを特徴とする吸着構造体を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば,低コストの前処理工程を追加して逆浸透膜の寿命を延ばすことにより,下水の再生処理にかかるランニングコストを低減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】吸着モジュールを用いた水処理フロー図である。
【図2】吸着モジュールを組み立てたときの構造の模式図である。
【図3】セラミックハニカム構造体を処理水供給方向からみた模式図である。
【図4】セラミックハニカム構造体を側面からみた模式図である。
【図5】セラミックハニカム構造体の断面図の一例である。
【図6】本発明の一実施例にかかる吸着材料の分子構造である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下,本願発明の実施例を,図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0023】
図1に本発明の一実施例にかかる水処理設備を示す。水処理設備は,吸着モジュール1と,貯水タンク5と,給水ポンプ6と,逆浸透膜モジュール4とを備えている。
【0024】
本発明にかかる実施例において,吸着モジュール1に供給される下水一時処理水とは,ごみ等をスクリーンにかけて取り除く処理,さらに砂などの細かい懸濁物を凝集剤添加して沈降除去する処理,微生物を用いて有機物を分解する処理の一連の処理が施された水である。下水一次処理水中には塩類や溶解有機物が含まれている。このように処理された下水一次処理水は,溶存有機物をTOC(全有機炭素量)に換算して248mg/L含んでいた。
【0025】
本発明では,この下水一次処理水を吸着モジュール1に通し,吸水ポンプ6で加圧しながら逆浸透膜3に通すことで,処理水中の有機物や塩類が除去され,水再生が完了する。下水一次処理水は,吸着モジュール1にて高分子材料が修飾されているセラミックハニカム構造体2を透過して処理され,貯水タンク5に貯水される。逆浸透膜3へは,貯水タンク5から給水ポンプ6により水を供給する。
【0026】
まず,下水再生処理において微生物処理を行った後に逆浸透膜モジュール4で処理する場合について,課題とその解決手段を述べるが,逆浸透膜のその他の用途,つまり海水淡水化,半導体等の精密電子機器製造に用いる純水製造,上水の高度処理,下水・排水の再生処理(微生物処理を併用しないものなどを含む)においても水中溶解有機物の除去に有効である。
【0027】
下水再生処理において,逆浸透膜に供給される下水一次処理水は微生物による有機物分解処理後の水であり,難分解性有機物がTOC(全有機炭素量)に換算して3〜20mg/L含まれる。難分解性有機物の種類は1つに特定できるものではない。クロスフローろ過方式においては,逆浸透膜で分離された成分は濃縮水とともに排出されるので,排出可能な有機物は逆浸透膜の劣化原因ではなく,積極的に除去する必要はない。本発明では,図1に示す水処理フローにより,逆浸透膜表面に吸着する有機物のみを選択的に効率よく吸着除去する前処理工程の吸着材料により,課題を解決する。このような吸着材料とすることで,吸着材料の量を減らすことができ,低コストの前処理が実現できる。
【0028】
まず,逆浸透膜の表面への吸着有機物を分析した。多成分が含まれるので,成分を特定できるものではないが,カルボニル基やカルボキシル基を含む有機物が吸着しやすいことが分かった。他に,アミノ基,Siを含むシロキサン類を含む成分なども吸着する成分に含まれる。
【0029】
また,逆浸透膜への難分解性有機物の吸着量を調べたところ,水中に溶解している難分解性有機物のうち,逆浸透膜に吸着するのはTOC換算して5%程度でそれ以外の有機物は水中に存在しても逆浸透膜に吸着せず,通水率劣化原因とはならないことを突き止めた。
【0030】
逆浸透膜が有機物を吸着するメカニズムには大きく2つがあると言われている。1つは分子間相互作用で,分子構造の似た材料どうしに親和力が働く。吸着物の分析から,カルボニル基,アミノ基等を含む材質が,逆浸透膜劣化原因物質との親和力が高くなると考えられるので,カルボニル基やアミノ基を繰り返し単位に含む高分子が良い。一例として,ポリアミド,ポリイミド,ポリエステル,ポリカーボネート,ポリウレタン,アクリル樹脂,尿素樹脂,ポリエチレンテレフタレート,などがある。接触角を40度以上にするためには,主鎖や側鎖に炭素数4以上の炭化水素や芳香環を含むものが良い。また,シロキサン類との親和力のため,主鎖または側鎖にシロキサン構造を含むものも良い。さらに,主鎖や側鎖に含まれる構造は1種類に限らず,複数の構造を含むことによって,吸着効率を向上することができる。
【0031】
逆浸透膜表面と同等の吸着能力がある吸着表面を持つ前処理工程の吸着材料があるとき,逆浸透膜に投入する前に逆浸透膜と同じ表面積以上の前処理工程の吸着材料に接触させると劣化原因となる有機物を除去して,逆浸透膜の寿命を2倍化することが可能である。吸着材料の表面積を大きくするため,吸着材料の形状としては,粒子,メッシュ,繊維,フィルタなどが考えられるが,限定されるものではない。
【0032】
特に,フィルタなどの多孔質体の場合に表面積が大きくなる。吸着材料の表面積が大きくなると,前処理工程に追加する設備の体積が抑えられたり,または既存設備のタンク内に吸着材料を設置したりが可能となる。
【0033】
下水再生処理や海水淡水化,半導体等の精密電子機器製造に用いる純水製造,上水の高度処理などのための,水中溶存有機物を吸着除去する工程に使用する。
【0034】
このような水処理工程において,水中に溶解した有機物を有する処理水を隔壁で仕切られた多数の流路を有するセラミックハニカム構造体に通して吸着処理することができる。
【0035】
本実施例の吸着モジュールについて図を用いて説明する。図2は,下水処理装置に用いる吸着モジュール1の一例の側面図である。吸着モジュール1は,セラミック製のハニカム構造を有するフィルタ(多孔質のセラミックハニカム構造体2)を有する構造物とした。ポリアミドなど吸着材料13が担持されたセラミックハニカム構造体2が把持部材を介してハウジング7(アクリル製収納容器)内のフィルタ支持体8により収納されている。支持体8は水が抵抗なく通過可能で,水を0.1MPaで透過させたときに,固定端の長軸方向の長さに対して,長軸の中央部での位置変化が5%以内となる強度を持つような素材,厚さ,保持方法で,水への溶出物がない材質であれば良く,例えば,樹脂系ではポリエチレン,ポリプロピレン,ポリエチレンテレフタレート,ポリスチレン等のメッシュスペーサ,金属系ではステンレス,チタンなどのメッシュ,パンチングメタル等を用いることが出来る。本実施例では,支持体8として厚さ1mmのパンチングメタルを使用した。
【0036】
本実施例のセラミックハニカム構造体2は,図3〜5に示すように,外周壁9と,外周壁9の内側に設けられた複数の流路12と,流路12の間を隔てる隔壁10と,隔壁10に設けられた高分子材料13とを有している。流路12は,その長手方向に交差する方向に並んで配置されており,流入側の面から流出側の面まで貫通している貫通孔を,目封止することにより形成されている。具体的には,被処理水の流入側の面が開口し,反対側の流出側が目封止部11によって目封止された第1の流路12aと,被処理水の流出側が開口し,反対側の流入側が目封止部11によって目封止された第2の流路12bとを有する。長手方向に交差する面において,第1の流路12aと第2の流路12bは,縦横ともに交互に配置されている。また,セラミックスハニカムにより形成された外周壁9と隔壁10には,流路の径よりも細い連通孔(図示せず)が無数に空いている。
【0037】
図5に示すように,吸着モジュール4内のセラミックス構造体2には,流入側に開口した第1の流路12aに被処理水が流入する。流入した被処理水は,隔壁10中の微細な連通孔を通じて,第2の流路12bに流れる。隔壁10の表面或いは隔壁10の内の微細な連通孔面の最上層には,有機物の吸着材料としての高分子材料13が設けられており,被処理水が隔壁を通過するときに,高分子材料13が被処理水中の有機物を吸着除去する。第2の流路12bに流れ込んだ被処理水は,流路12bが開口したセラミックス構造体2の流出側から流出する。
【0038】
図3〜5に示すように,隔壁10は0.1mm〜1mmの厚さからなる格子状の形状を有している。隔壁10の厚さが0.1mmより厚い場合には,隔壁10の強度を確保し形状を保持することが容易であった。また,隔壁10の厚さが1mmより薄い場合には,処理水を透過するのに必要な圧力が過剰にならず,実用的であった。また,隔壁10には平均径が0.005mm〜0.05mmの微細な連通孔を有しているのが特徴である。平均径が0.005mm以上の微細な連通孔では水の透過時の抵抗が大きくならず処理水量が得やすく,吸着成分以外の成分による目詰まり発生が起きにくかったりする。また,平均孔径0.050mm未満では,多孔質のセラミックハニカム構造体2にしたことによる表面積拡大の効果が大きく,前処理工程設備の体積抑制への寄与が大きい。
【0039】
さらに,流路12は一辺が0.5mm〜8mmの四角形の形状を有している。流路12は一辺が0.5mm以上の場合には,水中に溶解した有機物を有する処理水がセラミックハニカム構造体2の入り口付近で有機物を吸着し,入り口付近の流路12を塞いでしまうことが起こりにくく,セラミックハニカム構造体2奥側の端部まで有効に利用することが出来る。一方,流路12は一辺が8mmより小さい場合には,セラミックハニカム構造体2の隔壁10が厚くでき,機械的強度を十分に確保し,処理水に圧力を加えた際に破損する可能性を低くすることができるので好ましい。また,流路12の形状は,四角型に限られるものではない。
【0040】
セラミックハニカム構造体2の端部には所望の流路12端部が目封止されており,流路12には端部どちらかに目封止部11がある形状を有している。被処理水は流路12の内で流入側に目封止部11の無い第1の流路12aより挿入し隔壁10の微細な連通孔を通過することにより,隔壁10により処理水中に溶解した有機物を確実に吸着処理される。隔壁10を通過した被処理水は,流出側に目封止部11の無い第2の流路12bを通ってセラミックス構造体2の外側に流れ出る。多孔質のセラミックハニカム構造体2は,ハニカム状に生成した多孔質隔壁10で仕切られた多数の流路12の端面から離れた位置に目封止部11を形成する。セラミックハニカム構造体2内の目封止部11には,多孔質のセラミックハニカム構造体2と同一の材料や,有機材料,無機材料など処理水に溶解しない材料を使用できる。栓としての目封止部11を棒やシリンジで押し込み固定する。また,図3〜5に示すように,目封止部11を流路12の端面に交互に導入すれば,第1の流路12aと第2の流路12bとの両方に接し,その内側を被処理水が透過する隔壁10が多くなり,効率がよくなる。
【0041】
隔壁10に使用する材料の気孔率が45%〜70%が望ましい。隔壁10に使用する材料の気孔率が45%より大きい場合には,隔壁10に形成した微細な孔が塞がり連通孔にならないことが少なくなり,連通孔の量が十分確保できる。また,隔壁10に使用する材料の気孔率が70%未満では,隔壁10の機械的強度を確保し,処理水に圧力を加えた際,破損する可能性を低くすることができるため,好ましい。
【0042】
さらに,目封止部11に使用する材料の気孔率が隔壁10に使用している材料の気孔率より小さく,0%〜40%であり,なお且つ,隔壁10の厚さより目封止部11の厚さが厚いことが望ましい。目封止部11に使用する材料の気孔率が40%未満の場合には,隔壁10を透過させる処理水が目封止部11内を透過する可能性が低くなるため,好ましい。目封止部11に使用する材料の気孔率が隔壁10に使用している材料の気孔率より小さくすることにより,確実に処理水が隔壁10内を通過することが出来る。
【0043】
隔壁10を構成する材料が,アルミナ或いはアルミナを含む複合酸化物を含有することが望ましい。アルミナ基が表面に露出していることにより,処理水中の一部の溶存有機物を吸着し,また,高分子の難分解性の溶存有機物を分解して低分子化出来ることを,実験により確認した。特に,隔壁10を構成する材料に含有するアルミナ或いはアルミナを含む複合酸化物として,アルミノシリケート,シリマナイト,ムライト,スピネル,コージェライト,チタン酸アルミニウム,リチウムアルミニウムシリケートの内,少なくとも1種以上の材料であること好ましい。
【0044】
また,隔壁10の表面或いは隔壁10内の微細な連通孔面の少なくとも一部或いは全面にアルミナを含有する被膜を形成しても同様の効果が得られる。
【0045】
さらに,処理水に不溶のものであれば,隔壁10を構成する材料と目封止部11を構成する材料とが異なっても構わない。水処理に使用するため,耐熱性は要求されないため,目封止部11を構成する材料として,ガラス,ポリイミド,ポリアミド,ポリイミドアミド,ポリウレタン,アクリル,エポキシ,ポリプロピレン,テフロン(登録商標)の内少なくとも1種以上の材料を含有するもので良い。そのため,隔壁10を形成する温度より目封止部11を形成する温度が低くても構わない。
【0046】
また,目封止部11を構成する材料として,セラミックス粒子と有機高分子材料からなる複合材料であっても構わない。目封止部11を構成する材料に用いるセラミックス粒子として,アルミナ,シリカ,マグネシア,チタニア,ジルコニア,ジルコン,コージェライト,スピネル,チタン酸アルミニウム,リチウムアルミニウムシリケートの内少なくとも1種以上の材料が好ましい。
【0047】
目封止部11を形成する方法として,セラミックス構造体2の流路12に対応する位置に開口を有する印刷マスクを用い,目封止部11に用いるペーストをスクリーン印刷法により隔壁10により形成された流路12の所望の位置に目封止部11を形成することができる。
【0048】
また,目封止部11を形成する方法として,セラミックス構造体2の流路12に対応する位置に配設された複数のノズルを有するディスペンサを用い,目封止部11に用いるペーストをペースト吐出法により隔壁10により形成された流路12内の所定の位置に目封止部11を形成することができる。例えば,高分子塗布は,医療用等に用いられる針先がマイクロメートルオーダーの超微細ニードルを使用する。まず,封止部近くまで該ニードルを差し込み,スプレーしながらニードルを引き抜く方法をとることができる。
【0049】
吸着モジュール1の後工程に使用する逆浸透膜3への汚染を防止するため,吸着モジュール1に使用する多孔質のセラミックハニカム構造体2の隔壁10の表面或いは隔壁10の内の微細な連通孔面の最上層には,高分子材料13が修飾されている。高分子材料13を塗布する箇所は,多孔質のセラミックハニカム構造体2の隔壁10の全部或いは一部,前半部と後半部,前半部の隔壁10の内壁のみ,後半部の隔壁10の内壁のみ,何れかの組み合わせを取ることができる。高分子材料13として,アミノ基が繰り返し単位に対して2当量以上含まれる高分子を少なくとも1種以上含んだ材料を修飾していることが有効である。これらの高分子材料13は,吸着モジュール1の後工程に使用する逆浸透膜3を汚染する有機物を吸着する特徴を持つことが実験により確認されている。
【0050】
多孔質のセラミックハニカム構造体2への高分子材料13の塗布の方法は,目封止部11を形成する際に使用した一部の方法と同様で,所望位置に配設された複数のノズルを有するディスペンサを用い,吸着材料13に用いる高分子材料13を吐出法により隔壁10により形成された流路12内の所定の位置に吸着材料である高分子材料13を塗布して形成することができる。例えば,高分子塗布は,医療用等に用いられる針先がマイクロメートルオーダーの超微細ニードルを使用する。まず,目封止部11末端部近くまで該ニードルを差し込み,スプレーしながらニードルを引き抜く方法をとることができる。有機物を吸着除去する高分子材料13を隔壁10の表面および内部の0.005〜0.050mmの孔の表面の全面もしくは一部に,隔壁10内部の細孔を埋めない程度の厚さ,好ましくは100nm以下塗布する方法で,この場合は,隔壁10内部を水がほとんど抵抗なく透過し,塗布した高分子材料13が水中溶存有機物を吸着して除去する。
【0051】
高分子材料13が水中溶存有機物を吸着するメカニズムは,分子間相互作用が影響する。吸着した有機物分析から,カルボニル基,カルボキシル基,芳香環と親和性の高い−NH−結合を含むポリマーを吸着用高分子材料13とすることが良い。ポリマーの繰返し単位に−NH−結合を含む例として,ポリアミド,ポリイミド,ポリウレタン,尿素樹脂,ポリペプチド(タンパク質),ポリエチレンイミン,ポリベンゾイミダゾール,ポリベンゾオキサゾールなどがある。他の材料として,側鎖や主鎖に−NH−結合を含むものを用いることもできる。図6に高分子の化学構造を示す。例えば,ポリアリルアミン,ポリビニルアミンなどがある。また,−NH−結合やシロキサン類との親和力のため,主鎖または側鎖にカルボニル基,シロキサン構造を含むものも良い。さらに,主鎖や側鎖に含まれる構造は1種類に限らず,複数の構造を含むことによって,水中に含まれる混合物の広範囲の種類を吸着することができ,吸着効率を向上することができる。
【0052】
吸着用高分子材料13は一般的に用いられているポリアミド,酢酸セルロースが使用できるが,これらに限定するものではない。
【0053】
また,多孔質のセラミックハニカム構造体2または,高分子材料13に,有機物を分解するために光触媒が担持されていてもよい。光触媒としては,酸化チタン,チタン酸ストロンチウム,酸化亜鉛,酸化鉄,酸化タングステン等を使用できるが,これらに限定するものではない。
【0054】
このような吸着用高分子材料13を修飾した多孔質のセラミックハニカム構造体2を用いて被処理水の浄化処理を行うことで,大きな表面積で効率よく有機物を除去可能で,また,吸着モジュール1の流路12が広いために目詰まりを起こしにくくなり,吸着モジュール1や後工程の逆浸透膜3の洗浄頻度や交換頻度を下げ,ランニングコストを低減することができる。
【0055】
このような吸着材料13により,逆浸透膜3前処理工程を行うことで,あらかじめ逆浸透膜3の性能劣化原因の有機物のみを選択的に吸着して水中から除去することができ,また,吸着材料13への有機物蓄積量が少ないため,吸着材料13の交換頻度が低く,吸着機能を最表面だけに限定することで低コストの前処理方法が得られる。
【実施例2】
【0056】
以下,セラミックス構造体2の製造方法を説明する。
【0057】
吸着材料13が担持されたセラミックハニカム構造体2は,以下のようにして製造する。カオリン,タルク,シリカ,アルミナなどの粉末を調製して,質量比でSiO:48〜52%,Al:33〜37%,MgO:12〜15%となるようにコーディエライト化原料粉末を準備し,これにメチルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のバインダ,潤滑剤を添加し,乾式で充分混合した後,規定量の水を添加,充分な混錬を行って可塑化したセラミック杯土を作成する。次に,押し出し成形用金型を用いて杯土を押し出し成形し,切断して,乾燥して,ハニカム構造を有する乾燥体とする。次に,この乾燥体の外周部を加工により除去し,最外周に位置する流路12が外部との隔壁10を有しないことによって,外部に開口して軸方向に延びる凹溝を有するハニカム構造を有する乾燥体とした。さらに,代表例として1400℃で焼成したのち,外部に開口して延びる流路12にコーディエライト粒子とコロイダルシリカを含有するコーティング剤を塗布,焼成して,外周壁9の内側に隔壁10で仕切られた断面が四角形状の多数の流路12が形成されたコーディエライト質セラミックハニカム構造体2とする。
【0058】
セラミックハニカム構造体2としては,隔壁10の厚さを0.05mm〜2.0mmに変えて作製するため,押し出し成形用金型を各種準備し試作した。隔壁10の厚さが0.1mmより厚い場合には,隔壁10の強度が十分であり形状を保持することが容易であった。一方,隔壁10の厚さが1.0mmより薄い場合には,処理水を透過するのに過剰な圧力をかける必要が無く,実用的であった。そのため,隔壁10の厚さとしては,0.1mm〜1.0mmが良好であることが分かった。
【0059】
また,隔壁10には平均径が0.003mm〜0.1mmの微細な連通孔を有するセラミックハニカム構造体2を作製した。平均径が0.005mm以上の連通孔では水の透過時の抵抗が小さく十分な処理水量が得られた。また,吸着成分以外の成分による目詰まりが発生しない。一方,平均孔径0.050mm未満では,多孔質のセラミックハニカム構造体2にしたことによる表面積拡大の効果が大きく,前処理工程設備の体積抑制に寄与する。
【0060】
さらに,流路12は一辺が0.3mm〜10mmの4角形の形状のものを作成した。流路12は一辺が0.5mm以上の場合には,水中に溶解した有機物を有する処理水がセラミックハニカム構造体2の入り口付近で有機物を吸着し,入り口付近の流路12を塞いでしまうことが起きにくく,セラミックハニカム構造体2奥側の端部まで有効に利用することが出来る。一方,流路12は一辺が8mmより小さい場合には,セラミックハニカム構造体2の隔壁10が厚くでき,機械的強度が十分であり,処理水にポンプ6により圧力を加えた際,破損しにくい。
【0061】
セラミックハニカム構造体2の組成および焼成温度を変えて,隔壁10に使用する材料の気孔率を30%〜85%になるように作製した。隔壁10に使用する材料の気孔率が45%より大きい場合には,隔壁10に形成した微細な孔が連通孔になりやすく,孔を有効に利用できる。また,連通孔の量が十分確保でき,処理水を透過するのに過剰な圧力を必要としない。一方,隔壁10に使用する材料の気孔率が70%未満では,隔壁10の機械的強度を十分に確保でき,処理水にポンプ6により圧力を加えた際,破損しにくいと考えられる。
【0062】
また,目封止部11に使用する材料の気孔率についても,その組成および焼成温度を変えて作製した。目封止部11に使用する材料の気孔率が40%を超える場合には,隔壁10を透過させる処理水が目封止部11内を透過するものがあった。そのため,目封止部11に使用する材料の気孔率が隔壁10に使用している材料の気孔率より小さく,0%〜40%であることが好ましく,なお且つ,隔壁10の厚さより目封止部11の流路長手方向の厚さを厚くすることにより,確実に処理水が隔壁10の内を通過することが出来た。このように,目封止部11に使用する材料の気孔率が隔壁10に使用している材料の気孔率より小さくすることにより,確実に処理水が隔壁10の内を通過することが出来た。
【0063】
そこで, 本発明ではセラミックハニカム構造体2の構造の一例として,外径(直径)5.66インチ,全長は6インチで,隔壁10の厚さ0.32mm,隔壁10のピッチ1.57mm,初期圧力損失0.85mmAq(at 7.5Nm/min)のものを用いて,吸着モジュール1を作製した。
【0064】
このようなセラミックハニカム構造体2の製造方法の一例として,特許文献3がある。この特許文献は,ディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる粒子状物質を浄化するためのセラミックハニカム構造体2の製造方法に関するものである。
【実施例3】
【0065】
セラミックハニカム構造体2の製造方法について,他の一例を説明する。この実施例では,セラミックハニカムの製造方法は,実施例2と同様であるが,目封止部11の製造方法が異なる。
【0066】
目封止部11に使用する材料は,セラミックハニカム構造体2の組成物に溶剤を含有してスラリを作製し,所望位置に配設された複数のノズルを有するディスペンサを用い,セラミックハニカム構造体2の流路12の入口側と出口側の互い違いの所定の位置に目封止に有効な量を吐出した。その後,乾燥,焼成して目封止部11を作製した。
【0067】
また,目封止部11の形成には,ディスペンサ以外に,スクリーン印刷法を用いることが出来る。スクリーン印刷法を用いる場合には,所定の位置が開口した印刷マスクをセラミックハニカム構造体2の所定の位置に位置合わせし,高粘度のスラリを印刷マスクの開口部を介して吐出した。その後,乾燥,焼成して目封止部11を作製した。ディスペンサを用いた場合と同様に,良好な目封止部11を作成することができた。
【0068】
また,目封止部11に使用する材料の気孔率についても,その組成および焼成温度を変えて作製した。目封止部11に使用する材料の気孔率が40%を超える場合には,隔壁10を透過させる処理水が目封止部11内を透過するものがあった。そのため,目封止部11に使用する材料の気孔率が隔壁10に使用している材料の気孔率より小さく,0%〜40%である必要があり,なお且つ,隔壁10の厚さより目封止部11の厚さを厚くすることにより,確実に処理水が隔壁10の内を通過することが出来た。このように,目封止部11に使用する材料の気孔率が隔壁10に使用している材料の気孔率より小さくすることにより,確実に処理水が隔壁10の内を通過することが出来た。
【0069】
前記セラミックハニカム構造体2に,一部目封止部11には多孔質のセラミックハニカム構造体2と同一材料,有機材料,無機材料など処理水に溶解しない材料を使用でき,栓を棒やシリンジで押し込み固定した。また,図3〜5に示すように封止材を前記流路12の端面に交互に導入し,隔壁10の内を水が透過する構造とすることが出来た。
【0070】
このようにして, 本発明のセラミックハニカム構造体2の構造の一例として,外径(直径)5.66インチ,全長は6インチで,隔壁10の厚さ0.32mm,隔壁10のピッチ1.57mm,初期圧力損失0.85mmAq(at 7.5Nm/min)のものを作製することが出来た。
【実施例4】
【0071】
下記に示す内容を適用した以外は実施例2などと同様の方法でセラミックハニカ構造体2を作製した。
【0072】
隔壁10を構成する材料として,アルミナ或いはアルミナを含む複合酸化物を含有するものを用いた。アルミナ基が表面に露出していることにより,処理水中の一部の溶存有機物を吸着し,また,高分子の難分解性の溶存有機物を分解して低分子化出来ることを実験により確認した。特に,隔壁10を構成する材料に含有するアルミナ或いはアルミナを含む複合酸化物として,アルミノシリケート,シリマナイト,ムライト,スピネル,コージェライト,チタン酸アルミニウム,リチウムアルミニウムシリケートの内少なくとも1種以上の材料を用いた場合は良好な結果が得られた。
【0073】
また,隔壁10の表面或いは隔壁10内の微細な連通孔面の少なくとも一部或いは全面にアルミナを含有する被膜を形成しても同様の効果が得られた。
【0074】
さらに,隔壁10を構成する材料と目封止部11を構成する材料とが異なったものを適用した。但し,処理水に不溶のものである。水処理に使用するため,耐熱性は要求されないため,目封止部11を構成する材料として,ガラス,ポリイミド,ポリアミド,ポリイミドアミド,ポリウレタン,アクリル,エポキシ,ポリプロピレン,テフロンの内少なくとも1種以上の材料を含有するものを用いた。
【0075】
また,目封止部11を構成する材料として,セラミックス粒子と有機高分子材料からなる複合材料も使用した。目封止部11を構成する材料に用いるセラミックス粒子として,アルミナ,シリカ,マグネシア,チタニア,ジルコニア,ジルコン,コージェライト,スピネル,チタン酸アルミニウム,リチウムアルミニウムシリケートの内少なくとも1種以上の材料を用いた。
【0076】
目封止部11を構成する材料に用いる有機高分子材料して,ポリイミド,ポリアミド,ポリイミドアミド,ポリウレタン,アクリル,エポキシ,ポリプロピレン,テフロンの内少なくとも1種以上の材料を用いた。
【0077】
有機高分子材料を用いる場合には,隔壁10を形成する温度より目封止部11を形成する温度を低くした。
【0078】
目封止部11を形成する方法として,所望位置に開口を有する印刷マスクを用い,目封止部11に用いるペーストをスクリーン印刷法により隔壁10により形成された流路12の所望の位置に目封止部11を形成した。
【0079】
また,目封止部11を形成する方法として,所望位置に配設された複数のノズルを有するディスペンサを用い,目封止部11に用いるペーストをペースト吐出法により隔壁10により形成された流路12内の所定の位置に目封止部11を形成することができた。例えば,高分子塗布は,医療用等に用いられる針先がマイクロメートルオーダーの超微細ニードルを使用した。まず,封止部近くまで該ニードルを差し込み,スプレーしながらニードルを引き抜く方法とした。
【0080】
このようにして, 実施例1と同様に,外径(直径)5.66インチ,全長は6インチで,隔壁10の厚さ0.32mm,隔壁10のピッチ1.57mm,初期圧力損失0.85mmAq(at 7.5Nm/min)のセラミックハニカム構造体2の構造を作製することが出来た。
【実施例5】
【0081】
実施例2などで作製したセラミックハニカム構造体2に下記の方法で吸着剤を作製した。
【0082】
吸着材料に用いる高分子材料13として,アミノ基が繰り返し単位に対して2当量以上含まれる高分子を少なくとも1種以上含んだ材料を修飾した。これらの高分子材料13は,吸着モジュール1の後工程に使用する逆浸透膜3を汚染する有機物を吸着する特徴を持つことが実験により確認された。
【0083】
吸着材料13の一例として,ポリアミドをN−メチルピロリドン(NMP)に溶解して0.5%ポリアミドNMP溶液を調整した。ポリアミドは,モノマーとして,4,4’−オキシジアニリンとイソフタロイルジクロライドを重合したものを用いた。
【0084】
吸着モジュール1の後工程に使用する逆浸透膜3への汚染を防止するため,吸着モジュール1に使用する多孔質のセラミックハニカム構造体2の隔壁10の表面或いは隔壁10の内の微細な連通孔面の最上層には,高分子材料13を修飾した。高分子材料13を塗布する箇所は,多孔質のセラミックハニカム構造体2の隔壁10の全部或いは一部,前半部と後半部,前半部の隔壁10の内壁のみ,後半部の隔壁10の内壁のみ,何れかの組み合わせのものを作製した。
【0085】
多孔質のセラミックハニカム構造体2への高分子材料13の塗布の方法は,目封止部11を形成する際に使用した一部の方法と同様で,所望位置に配設された複数のノズルを有するディスペンサを用い,吸着材料に用いる高分子材料13を吐出法によりセラミックハニカム構造体2の隔壁10により形成された流路12内の所定の位置に高分子材料13を噴霧・塗布して形成した。
【0086】
例えば,高分子材料の塗布には,医療用等に用いられる針先がマイクロメートルオーダーの超微細ニードルを使用した。まず,目封止部11末端部近くまで該ニードルを差し込み,スプレーしながらニードルを引き抜く方法をとることができる。有機物を吸着除去する高分子材料13を隔壁10の表面および内部の0.005〜0.050mmの孔の表面の全面もしくは一部に,隔壁10内部の細孔を埋めない程度の厚さ,好ましくは100nm以下塗布した。吸着材料に用いる高分子材料13(ポリアミド)がセラミックハニカム構造体2の所望の流路12内に塗布した後,セラミックハニカム構造体2を130℃,24時間オーブンで乾燥した。
【0087】
この場合は,隔壁10内部を水がほとんど抵抗なく透過し,塗布した高分子材料13が水中溶存有機物を吸着して除去することが出来た。
【0088】
高分子材料13が水中溶存有機物を吸着するメカニズムは,分子間相互作用が影響する。吸着した有機物分析から,カルボニル基,カルボキシル基,芳香環と親和性の高い−NH−結合を含むポリマーを吸着用高分子材料13とすることが良い。ポリマーの繰返し単位に−NH−結合を含む例として,ポリアミド,ポリイミド,ポリウレタン,尿素樹脂,ポリペプチド(タンパク質),ポリエチレンイミン,ポリベンゾイミダゾール,ポリベンゾオキサゾールなどがある。他の材料として,側鎖や主鎖に−NH−結合を含むものを用いることもできる。図6に高分子の化学構造を示す。例えば,ポリアリルアミン,ポリビニルアミンなどがある。また,−NH−結合やシロキサン類との親和力のため,主鎖または側鎖にカルボニル基,シロキサン構造を含むものも良い。さらに,主鎖や側鎖に含まれる構造は1種類に限らず,複数の構造を含むことによって,水中に含まれる混合物の広範囲の種類を吸着することができ,吸着効率を向上することができた。
【0089】
吸着用高分子材料13は一般的に用いられているポリアミド,酢酸セルロースが使用できるが,これらに限定するものではない。
【0090】
また,多孔質のセラミックハニカム構造体2または,高分子材料13に,有機物を分解するために光触媒が担持されていてもよい。光触媒としては,酸化チタン,チタン酸ストロンチウム,酸化亜鉛,酸化鉄,酸化タングステン等を使用できるが,これらに限定するものではない。
【0091】
このような吸着用高分子材料13を修飾した多孔質のセラミックハニカム構造体2を用いて被処理水の浄化処理を行うことで,大きな表面積で効率よく有機物を除去可能で,また,吸着モジュール1の流路12が広いために目詰まりを起こしにくくなり,吸着モジュール1や後工程の逆浸透膜3の洗浄頻度や交換頻度を下げ,ランニングコストを低減することができる。
【0092】
このような吸着材料13により,逆浸透膜3前処理工程を行うことで,あらかじめ逆浸透膜3の性能劣化原因の有機物のみを選択的に吸着して水中から除去することができ,また,吸着材料13への有機物蓄積量が少ないため,吸着材料13の交換頻度が低く,吸着機能を最表面だけに限定することで低コストの前処理方法が得られた。
【実施例6】
【0093】
本実施例においては,吸着構造体の能力の実証実験を行った。吸着モジュール1に供給される下水一時処理水とは,ごみ等をスクリーンにかけて取り除く処理,さらに砂などの細かい懸濁物を凝集剤添加して沈降除去する処理,微生物を用いて有機物を分解する処理の一連の処理が施されている。下水一次処理水中には塩類や溶解有機物が含まれている。このように処理された下水一次処理水は,溶存有機物をTOC(全有機炭素量)に換算して248mg/L含んでいた。
【0094】
実証実験は,以下の通り行った,図1の水処理装置を模した実験装置にて,吸着モジュールとしてセラミックスハニカムの表面に高分子材料13としてポリアミドを塗布したものを用いて被処理水を処理し,それを逆浸透膜モジュールで処理し,逆浸透膜3への有機物吸着量を,サイズ排除クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した。また,比較として,吸着モジュール1として高分子材料13を塗布していないものを準備して同じ処理を行い,逆浸透膜3への有機物吸着量を,GPCを用いて比較検討した。GPC条件は,以下のとおりである。カラムは,日立化成工業(株)製,型番:GL−W550,カラム温度:41℃,サンプル容量20μL,溶離液:純水,流速:1.0mL/min,検出器(検出波長):UV(220nm)とした。その結果,吸着モジュール1による処理前より吸着モジュール1による処理後において溶存有機物はTOC(全有機炭素量)に換算して12mg/L少なくなった。
【0095】
また,ポリアミド未修飾と比較して,ポリアミド修飾は低分子領域の有機物を除去できることも確認した。すなわち,ポリアミド修飾とポリアミド未修飾では,異なる種類の溶存有機物を吸着しているものと考えられる。
【0096】
また,ポリアミド未修飾の吸着モジュール1(セラミックハニカム構造体2への吸着材料13を未修飾)では,溶存有機物はTOC(全有機炭素量)に換算して226mg/Lとなり,セラミックハニカム構造体2の隔壁10の表面に形成された構成材料中のアルミナ基により,下水一次処理水中の溶存有機物を吸着することが出来,吸着モジュールとして有効であることが確認できた。
【0097】
このことから,吸着モジュール1に使用するセラミックハニカム構造体2の隔壁10には,隔壁10の表面および内部の微細な貫通孔表面の全てに吸着材料13を修飾する必要がなく,一部未修飾の部分があることにより,広範囲の分子量を有する溶存有機物を吸着可能であることが分かった。
【符号の説明】
【0098】
1・・・吸着モジュール,2・・・セラミックハニカム構造体,3・・・逆浸透膜,4・・・モジュール,5・・・貯水タンク,6・・・ポンプ,7・・・ハウジング,8・・・支持体,9・・・外周壁,10・・・隔壁,11・・・目封止部,12・・・流路,13・・・高分子材料(吸着材料)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水中の有機物を吸着する吸着構造体において,
外壁と,
前記外壁の内側に設けられた複数の流路と,
前記複数の流路のそれぞれを隔てる隔壁とを備え,
前記隔壁は,前記流路の径よりも小さく,前記流路と他の流路とを連通させる連通孔を有して前記有機物を吸着することを特徴とする吸着構造体。
【請求項2】
請求項1において,
前記吸着構造体は,対向する第1の面と第2の面とを有し,
前記複数の流路は,その長手方向に交差する方向に並べて設けられており,前記第1の面に開口する第1の流路と,前記第2の面に開口する第2の流路とを有することを特徴とする吸着構造体。
【請求項3】
請求項2において,
前記第1の流路は前記第2の面に開口せず,前記第2の流路は前記第一の面に開口しないことを特徴とする吸着構造体。
【請求項4】
請求項2または請求項3において,
前記第1の流路と前記第2の流路とは,前記長手方向に交差する方向にて,交互に設けられていることを特徴とする吸着構造体。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて,
前記隔壁は,セラミックスにより形成されいることを特徴とする吸着構造体。
【請求項6】
請求項5において,
前記外壁及び前記隔壁は,セラミックスハニカムによって形成されていることを特徴とする吸着構造体。
【請求項7】
請求項5または請求項6において,
前記セラミックス上に,前記有機物を吸着する高分子材料が形成されていることを特徴とする吸着構造体。
【請求項8】
請求項2乃至7のいずれかにおいて,
前記第1の流路は,前記第1の面と前記第2の面とを連通する孔を前記第2の面側で目封止部により封止することにより形成され,
前記第2の流路は,前記第1の面と前記第2の面とを連通する孔を前記第1の面側で目封止部により封止することにより形成されたものであることを特徴とする吸着構造体。
【請求項9】
請求項8において,
前記隔壁の連通孔は,前記目封止部の孔よりも空孔率が大きいことを特徴とする吸着構造体。
【請求項10】
請求項5において,
前記隔壁を構成する材料が,アルミナ或いはアルミナを含む複合酸化物を含有することを特徴とする吸着構造体。
【請求項11】
請求項10において,
前記隔壁を構成する材料に含有するアルミナ或いはアルミナを含む複合酸化物として,アルミノシリケート,シリマナイト,ムライト,スピネル,コージェライト,チタン酸アルミニウム,リチウムアルミニウムシリケートの内少なくとも1種以上の材料であることを特徴とする吸着構造体。
【請求項12】
請求項10において,
前記隔壁の表面或いは隔壁内の前記連通孔面の少なくとも一部或いは全面にアルミナを含有する被膜を形成してなることを特徴とする吸着構造体。
【請求項13】
請求項7において,
前記隔壁の表面或いは隔壁内の上記連通孔面の最上層には,少なくとも一部或いは全面に前記高分子材料としてのアミノ基が繰り返し単位に対して2当量以上含まれる高分子を少なくとも1種以上含んだ材料を修飾していることを特徴とする吸着構造体。
【請求項14】
請求項8において,
前記隔壁を構成する材料と前記目封止部を構成する材料とが異なることを特徴とする吸着構造体。
【請求項15】
請求項14において,
前記目封止部を構成する材料として,ガラス,ポリイミド,ポリアミド,ポリイミドアミド,ポリウレタン,アクリル,エポキシ,ポリプロピレン,テフロンの内少なくとも1種以上の材料を含有することを特徴とする吸着構造体。
【請求項16】
請求項に14おいて,
前記目封止部を構成する材料として,セラミックス粒子と有機高分子材料からなる複合材料であることを特徴とする吸着構造体。
【請求項17】
請求項16において,
上記目封止部を構成する材料に用いる前記セラミックス粒子として,アルミナ,シリカ,マグネシア,チタニア,ジルコニア,ジルコン,コージェライト,スピネル,チタン酸アルミニウム,リチウムアルミニウムシリケートの内少なくとも1種以上の材料であることを特徴とする吸着構造体。
【請求項18】
請求項16において,
前記目封止部を構成する材料に用いる前記有機高分子材料して,ポリイミド,ポリアミド,ポリイミドアミド,ポリウレタン,アクリル,エポキシ,ポリプロピレン,テフロンの内少なくとも1種以上の材料であることを特徴とする吸着構造体。
【請求項19】
請求項7において,
上記隔壁に使用する材料の気孔率が45%〜70%であり,上記目封止に使用する材料の気孔率が上記隔壁に使用している材料の気孔率より小さく,0%〜40%であり,なお且つ,上記隔壁の厚さより上記目封止の厚さが厚いことを特徴とする吸着構造体。
【請求項20】
請求項1乃至19のいずれかに記載の吸着構造体と,
ハウジングと,
前記ハウジング内で前記吸着構造体を支持する支持部材と,
被処理水を取込む取込口と,
被処理水を排出する排出口とを有し,
前記取込口は,前記第1の流路に接続されており,
前記排出口は,前記第2の流路に接続されていることを特徴とする吸着モジュール。
【請求項21】
被処理水中の有機物を吸着する吸着構造体の製造方法において,
対向する第1の面から第2の面とを連通し,互いに隔壁によって隔てられる複数の貫通孔を有し,前記隔壁は,前記貫通孔同士を連通する連通孔と,有機物を吸着する吸着材料とを有する吸着構造体本体を形成する工程と,
前記貫通孔を,第1の面側で目封止部により目封止し,前記第2の面側に開口した第2の流路を形成する工程と,
前記第1の面側で目封止しない貫通孔を,第2の面側で目封止部により目封止し,第1の面側に開口した第1の流路を形成する工程と,
を含むことを特徴とする吸着構造体の製造方法
【請求項22】
請求項21において,
前記隔壁を形成する温度より前記目封止部を形成する温度が低いことを特徴とする吸着構造体の製造方法。
【請求項23】
請求項21において,
前記目封止部を形成する方法として,所望位置に開口を有する印刷マスクを用い,上記目封止に用いるペーストをスクリーン印刷法により上記隔壁により形成された上記流路の所望の位置に上記目封止を形成することを特徴とする吸着構造体の製造方法。
【請求項24】
請求項21において,
前記目封止部を形成する方法として,所望位置に配設された複数のノズルを有するディスペンサを用い,上記目封止に用いるペーストをペースト吐出法により上記隔壁により形成された上記流路内の所定の位置に上記目封止を形成することを特徴とする吸着構造体の製造方法。
【請求項25】
請求項21において,
前記隔壁上に,有機分子を吸着する高分子材料を形成する工程を含むことを特徴とする吸着構造体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−91151(P2012−91151A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242967(P2010−242967)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】