説明

吸音体

【課題】低周波領域において良好な吸音効果が得られ、良好な吸音が生じる周波数の範囲も広く、材料の選択自由度も高い吸音体を提供する。
【解決手段】貫通孔2aが形成された枠体2と、貫通孔2aの両端の開口のうちの一方を覆う膜振動型吸音材3とを有する吸音体1であって、膜振動型吸音材3が、膜本体31と、膜本体31の重心部に設けられた重り部材32を有し、膜本体31の面積に対する、重り部材32の面積の割合が1.5%以上であることを特徴とする吸音体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸音体に関する。
【背景技術】
【0002】
騒音は振動とともに身近な問題であり、吸音体への要求は依然として高い。また用途や目的に応じて要求特性も多岐にわたり、最近では低周波領域での吸音性能が高い材料が望まれている。
従来の吸音材料として、例えば、グラスウール、ロックウールのように繊維を綿状またはボード状に成型した材料や、ポリウレタンフォームのように高分子材料を発泡させた材料などの多孔質材料が知られている。これらの多孔質材料に音波が入射すると、音波が材料内の隙間の空気を振動させるため、空気自身の粘性および周囲との摩擦によって、振動エネルギーの一部が熱エネルギーに変換、散逸されて吸音効果が得られる。
【0003】
特に、500Hz以下の低周波領域における良好な吸音効果が得られる吸音体として、本発明者等は先に、枠体に設けられた貫通孔を、特定の貯蔵弾性率を有する吸音材で覆った構成を有する吸音体を提案している(特許文献1)。
【特許文献1】特開2008−96826号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されている吸音体は、吸音材の材質が、特定の貯蔵弾性率のものに制限されるため、材料の選択自由度が低く、低コスト化が難しいという問題がある。
ここで、吸音特性は、例えば周波数を横軸、吸音率を縦軸とするグラフで表わされ、低周波領域において吸音効果を得るためには、吸音率がピークとなる周波数(ピーク周波数)が低く、吸音率のピーク値が高いことが好ましい。
また、吸音材の設置場所によっては、ピーク形状がブロードで良好な吸音が生じる周波数の範囲が広いことが要求される場合がある。その指標として、例えばピーク周波数±50Hzの吸音率の平均を表わす平均吸音率を用いることができる。吸音率のピーク値が同じである場合、該平均吸音率がより高い方が、ピーク形状がよりブロードであることを示す。
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、低周波領域において良好な吸音効果が得られ、良好な吸音が生じる周波数の範囲も広く、材料の選択自由度も高い吸音体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決すべく本発明者等が鋭意研究を重ねた結果、吸音効果が得られる周波数領域が所望の周波数領域よりも高周波数側にある膜振動型の吸音材(膜本体)に、重り部材を設けることによって、吸音効果が得られる周波数領域を低周波数側へシフトさせることができ、しかも該重り部材をある程度大きくして、かつ粘着剤層を介して膜本体に固定させると平均吸音率が上昇することを見出して本発明に至った。
すなわち本発明の吸音体は、貫通孔が形成された枠体と、該貫通孔の両端の開口のうちの一方を覆う膜振動型吸音材とを有する吸音体であって、前記膜振動型吸音材が、膜本体と、該膜本体の重心部に設けられた重り部材を有し、前記膜本体の面積に対する、前記重り部材の面積の割合が1.5%以上であることを特徴とする。
前記膜本体の面積に対する、前記重り部材の面積の割合が30%以下であることが好ましい。
前記枠体の貫通孔の一方の開口を前記膜本体のみで覆った場合の、吸音率のピーク周波数が700Hz以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、低周波領域において良好な吸音効果が得られ、良好な吸音が生じる周波数の範囲も広いうえ、材料の選択自由度が高く、低コスト化を実現しやすい吸音体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本明細書における吸音率は「垂直入射吸音率」の意味であり、JIS A 1405−2に準処する方法で、直径100mmのインピーダンス管内にサンプルをセットして測定される値である。サンプル直径は100mm弱とし、スペーサーを介して、インピーダンス管内に固定する。背後空気層厚(すなわち、枠体の厚さT)の変更は、サンプルの背後にある剛体(ピストン)の位置を調整することによって行うことができる。またサンプル径(すなわち、枠体の貫通孔の直径D)の変更は、スペーサーの内径を調整することによって行うことができる。
入射周波数を変化させながら吸音率を測定し、吸音率が最も高くなるときの周波数をピーク周波数という。
また、本発明の吸音体による吸音は膜振動型吸音であるため、共振する周波数での吸音となる。そこで、良好な吸音が生じる周波数の範囲の広さの指標となる値として、ピーク周波数±50Hzにおける吸音率の平均をとり、平均吸音率と定義する。
【0008】
図1は本発明の吸音体の一実施形態を示したもので、図1(a)は平面図、(b)は(a)中のB−B線に沿う断面図である。図中符号1は吸音体、2は枠体、3は膜振動型吸音材、4は吸音体が取り付けられている施工面を示している。吸音体1は、貫通孔2aを有する枠体2の表面2b上に、膜振動型吸音材3が積層され、固定されている。膜振動型吸音材3は、膜本体31に重り部材32が一体化されたものである。
本実施形態の吸音体1は枠体2の裏面2cが施工面4に接着固定されており、膜振動型吸音材3と施工面4との間に背後空気層5が形成された状態で使用される。すなわち枠体2の表面2bおよび裏面2cそれぞれにおける貫通孔2aの開口のうち、表面における開口が膜振動型吸音材3で覆われており、裏面における開口が施工面4によって閉じられている。
【0009】
<枠体>
本実施形態の枠体2は、外形形状が円形で、同心円状の貫通孔2aが設けられている。枠体2は貫通孔2aを有していればよく、外形形状は任意とすることができる。枠体2自身は、吸音性能を有していてもよく、有していなくてもよい。枠体2の材質は特に制限されないが、軽量化の点からは樹脂などの比重の低い材料が好ましい。
枠体2の厚さTによって膜振動型吸音材3の施工面4側に形成される背後空気層5の厚さが決まる。
枠体2の厚さTは、吸音性能の点からは3mm以上が好ましい。また全体のサイズを抑える点からは、50mm以下が好ましい。
【0010】
貫通孔2aの形状(枠体2の表面2bにおける開口の形状)は円形に限らず、多角形など任意の形状とすることができる。貫通孔2aの直径Dは吸音性能の点から20mm以上が好ましい。
枠体2の厚さTおよび貫通孔2aの直径Dは、これらによって得られる吸音体1の吸音特性(ピーク周波数および吸音率等)が変化するため、所望の周波数領域において高度な吸音効果が得られるように、これらの寸法を設定することが好ましい。
【0011】
<膜本体>
膜本体31は、自身が膜振動により吸音作用を生じうる膜振動型の吸音材からなる。具体的に、該膜本体31が膜振動により吸音作用を生じるためには、該膜本体31における流れ抵抗が1×10N・s/m以上であることが好ましい。本明細書における流れ抵抗の値は、膜本体31を構成する吸音材の表面に垂直方向に一定の空気流を通した時の、該吸音材の両面間の圧力差を空気流の速度を割った値である。音は流速が非常に小さい状態に相当するので、流速が0に近づいた場合の極限値として定義される。測定法は、ISO 9053のDC法に準拠する。
【0012】
膜本体31は、複数の膜振動型の吸音材を積層一体化した積層体であってもよい。積層体である場合、吸音材以外に、膜本体31の吸音特性に影響を及ぼさない他の層を有していてもよい。例えば接着層は、厚さが0.5mm以下であれば膜本体31の吸音特性に影響しない。
【0013】
得ようとする吸音体1において、枠体2の貫通孔2aの表面2bにおける開口を膜本体31のみで覆った状態で測定した、吸音率のピーク周波数(以下、元のピーク周波数ということもある)は、吸音効果を得ようとする目的の周波数帯域にもよるが、700Hz以下であることが好ましく、600Hz以下がより好ましい。下限値は特に制限されないが、300Hz以上が好ましい。
また該元のピーク周波数における吸音率(以下、元の吸音率ということもある。)は特に制限されないが、低すぎると良好な吸音特性が得られない場合があるため、0.3以上が好ましく、0.5以上がより好ましい。元の吸音率の上限は特に制限されず1でもよい。
元のピーク周波数および元の吸音率の値は、枠体2の厚さ(T)および枠体2の貫通孔の直径(D)が一定であれば、膜本体31の材質および厚さによって変わる。
【0014】
膜本体31を構成する材料としては、例えば、熱可塑性樹脂を用いることができる。具体的には、EEA(エチレンエチルアクリレート)、EVA(酢酸ビニル共重合体)、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)、HDPE(高密度ポリエチレン)、CPE(塩素化ポリエチレン)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PP(ポリプロピレン)、SEBS(スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体)、SIS(スチレンイソプレンスチレンブロック共重合体),SEPS(スチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PET−G(ポリエチレンテレフタレートグリコール)、アクリル樹脂、ポリメチルペンテン、ポリブテン、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、環状オレフィン、ポリ乳酸、EBM(エチレンブテン共重合体)、エチレン−αオレフィン共重合体、TPU(熱可塑性ポリウレタン)等から選ばれる1種または2種以上の混合樹脂、またはこれらの樹脂をベース樹脂とし、これに無機フィラー及び又は有機フィラーを適宜添加した混合物等が挙げられる。
上記に挙げた樹脂の中でも、価格が比較的安い点、および重量(比重)が比較的軽い点でPP、HDPE、LLDPEが好ましい。
【0015】
無機フィラーの例としては、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、等が挙げられる。
膜本体31中に無機フィラーを配合する場合、その配合量は特に限定されないが機械強度の点からは、膜本体31中において50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。
有機フィラーの例としては、3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール(例えば、製品名:アデカスタブ AO−330、ADEKA社製)、トリス(2,4ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイト(例えば、製品名:Irg168、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)が好ましい。
有機フィラーを配合する場合、その配合量は特に限定されないが、機械強度の点からは、膜本体31中において50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。
【0016】
膜本体31の厚さは、前記元のピーク周波数及び元の吸音率が好ましい値となるように、材料に応じて設定することが好ましい。例えば 0.1〜3.0mmの範囲が好ましく、0.2〜2.0mmがより好ましく、0.3〜1.6mmがさらに好ましい。
【0017】
<重り部材>
重り部材32は、膜本体31が膜振動により吸音作用を生じる状態を維持しつつ、膜本体31の重心部に一体的に固定されて、該重心部における質量を局部的に増大させることができるものであればよい。例えばシート状の重り部材32が好適に用いられる。
膜本体31に重り部材32を固定した後の吸音特性は、重り部材32の材質、形状、大きさ(面積)、質量、および膜本体31への固定手段によって変わる。
【0018】
重り部材32は粘着剤層を介して膜本体31に固定される。
ここで、接着剤は、自身が液体から固体へ相変化することによって接着力を発揮するものであるのに対して、粘着剤は、自身は固体の状態で粘着力を有しており、固体から相変化することなく面と面の粘着に用いられるものをいう。また粘着剤層は硬い平滑面から剥離可能であり、剥離後も粘着力を有している点でも、接着剤層とは異なる。
粘着剤は、市販の粘着剤を適宜用いることができる。予め不織布等の基体の両面に粘着剤層が設けられている両面粘着テープ等を用いてもよく、不織布等の基体を含まない粘着剤層のみを介して面と面とを貼り合わせるタイプの粘着剤でもよい。
【0019】
粘着剤の粘着特性は、下記の測定方法により得られる、被着体との180°引き剥がし粘着力により定義できる。引き剥がし粘着力が低いと膜本体31と重り部材32の振動に差が生じ、平均吸音率を十分に上げることができない。従って、用いる粘着剤の引き剥がし粘着力は、PP板を被着体とした値で、2N/20mm以上が好ましく、4N/20mm以上がより好ましい。上限値は、特に制約されないが、市販品の上限は、20N/20mm程度である。また、被着体により、プライマー処理等の表面処理を施すことにより、粘着力を上げることができる。
前記180°引き剥がし粘着力の測定は、JISZ0237に準拠し、幅20mmのサンプルにPETフィルムを裏打ちし、PP板を被着体として行う。測定条件は、圧着速度5mm/秒、圧着回数1往復にて被着体へサンプルを貼った後、引き剥がし速度300mm/minで測定する。
【0020】
膜本体31と重り部材32との間に介在する粘着剤層の厚さは、薄過ぎると粘着力が不充分となり、厚過ぎると膜本体31と重り部材32の振動に差が生じ、平均吸音率を十分に上げることができない。したがって、これらの不都合が生じないように、用いる粘着剤の粘着力に応じて粘着剤層の厚さを設定することが好ましい。例えば20μm以上が好ましく、40μm以上がより好ましい。上限は300μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましい。
【0021】
重り部材32の材質は特に限定されない。例えば、膜本体31を構成する材料として上記に挙げた熱可塑性樹脂を、重り部材32に用いてもよく、真鍮、銅、鋼板、亜鉛めっき鋼板、ステンレス鋼板等の金属材料を用いてもよい。膜本体31と重り部材32の材質は、互いに異なっていてもよく、同じでもよい。異種複数の材料を複合化した重り部材32を用いてもよい。平均吸音率およびピーク値をより高くしやすい点で、熱可塑性樹脂が好ましい。
重り部材32の形状は、特に制限されないが、円柱(円板を含む)に近い形状が好ましく、円柱が最も好ましい。
【0022】
本発明において、重り部材32と膜本体31とが接触する面の面積(重り部材32の面積)は、膜本体31の面積を基準(100%)とするときの割合(面積%)が1.5%以上であり、4.0%以上がより好ましい。
該割合(面積%)が1.5%以上であると、重り部材32を設けることによって、ピーク周波数の低周波数側へシフトするとともに、吸音率が元の吸音率よりも高くなる。
一方、重り部材32の面積が大きくなると、単位質量当たりのピーク周波数の低減量が小さくなる。したがってピーク周波数を効率良く低減できる点で、重り部材32の面積は、膜本体31の面積を基準(100%)とするとき30%以下が好ましく、20%以下がより好ましい。
重り部材32の質量が同じであれば、重り部材32の面積が小さいほどピーク周波数の低周波数側へのシフト量が大きくなる傾向がある。
本明細書において、基準(100%)となる膜本体31の面積は枠体2で囲まれた領域の面積をいう。また、重り部材32が2個以上設けられているとき、各重り部材32と膜本体31との接触面積の合計を重り部材32の面積とする。
【0023】
重り部材32の質量は、重り部材32の形状および大きさが同じであれば、重いほどピーク周波数の低周波数側へのシフト量が大きくなりやすい。一方、平均吸音率については、図3のグラフに示されるように、重り部材32の面積が本発明の範囲内である場合、質量増%が大きくなるにしたがって平均吸音率が増大し、その後質量増%がさらに大きくなると平均吸音率は漸次低下する傾向がある。すなわち、重り部材32の形状および面積が一定であれば、平均吸音率の増加量を最も大きくするための、質量増%の最適範囲が存在する。
【0024】
重り部材32を設けることによる効果を充分に得るためには、膜本体31の質量を基準(100%)とするとき、重り部材32の質量(質量増%)が2質量%以上が好ましく、4質量%以上がより好ましく、8質量%以上がさらに好ましい。
重り部材32の質量の上限は特に制限されず、得ようとする吸音特性に応じて、重り部材32の質量を設定することが好ましい。例えば、膜本体31の質量を基準(100質量%)とするとき50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。
本明細書において、基準(100質量%)となる膜本体31の質量は枠体2で囲まれた領域の質量をいう。
また重り部材32の質量は、該重り部材32を膜本体31に固定するための固定手段の質量も含めた質量であり、重り部材32を取り付ける前の膜本体31からの質量増加分に相当する。
重り部材32の質量は、重り部材32の材質および大きさ、ならびに固定部材の比重および厚さによって調整できる。また固定手段を介して複数個の重り部材32を重ね合わせてもよい。重り部材32どうしを一体化するための固定手段は粘着剤に限らない。例えば接着剤を用いてもよく、熱融着させてもよい。
【0025】
重り部材32は、膜本体31の重心部に設けられる。本明細書において、重心部とは、枠体2で囲まれた膜本体31の面方向の重心位置、および該重心位置からの距離が貫通孔直径Dの12%以内である位置を含む面方向の領域をいう。膜本体31の面に対して垂直方向(厚さ方向)の重心位置は考慮する必要がない。該重心部に重り部材32を設けるとは、膜本体31の面に対して垂直方向から平面視したときに、重り部材32の重心位置が、膜本体31の重心部内にあることをいう。
重り部材32は、膜本体31の異なる2箇所以上に設けてもよい。複数の重り部材32を設ける場合、該複数の重り部材32群の全体における重心位置が、膜本体31の重心部内に位置するように設ける。
【0026】
重り部材32を1個だけ設ける場合、該重り部材32の重心位置と、膜本体31の重心位置との距離が大きいと吸音率のピーク値が低下し、平均吸音率も低下しやすい。したがって、これらの重心位置の距離は貫通孔直径Dの12%以下が好ましく、ゼロが最も好ましい。
また複数の重り部材32を設ける場合、該複数の重り部材32群の全体における重心位置と、膜本体31の重心位置との距離も、同様の理由で貫通孔直径Dの12%以下が好ましく、ゼロが最も好ましい。
【0027】
重り部材32は、膜本体31の表側および裏側(枠体2側)のどちら側に設けてもよい。両方に設けてもよい。多孔質吸音体との併用の点からは裏側が好ましい。
【0028】
<吸音体>
吸音体1は、膜本体31に重り部材32を固定し、かつ枠体2に膜本体31を固定することにより得られる。
枠体2に膜本体31を固定する手段としては、接着手段または粘着手段を用いてもよく、圧着または溶融圧着により固定してもよい。枠体2と膜本体31との間に接着剤層または粘着剤層を設ける場合、該接着剤層または粘着剤層の厚さは0.08mm以下であればよく、この範囲内で充分な固定強度が得られる厚さに設定する。
【0029】
膜本体31の表面上(重り部材32を設けた側とは反対側)に、他の吸音層(図示せず)を積層してもよい。該他の吸音層は、膜振動以外の吸音作用により吸音効果を生じる層である。具体的に該他の吸音層は、流れ抵抗が1×10N・s/mより小さい層からなる。
かかる他の吸音層の材質は、従来の吸音材として公知の材料から、上記流れ抵抗の範囲を満たすものを適宜使用できる。具体例としては、発泡樹脂、フェルト、繊維材料、グラスウール、ロックウール、木粉セメント等が挙げられる。特に発泡樹脂、フェルト、繊維材料、グラスウールが好ましい。
かかる他の吸音層を積層することにより、吸音体1全体として、吸音効果が得られる周波数領域をより広くすることができる。例えば、膜振動型吸音材3により吸音効果が得られる周波数領域よりも、高周波数領域において吸音効果を奏する他の吸音層を膜本体31上に積層して設けると、両方の周波数領域において吸音効果が得られる。
【0030】
本発明によれば、後述の実施例に示されるように、元のピーク周波数が所望のピーク周波数よりも高周波数側にある膜本体31に、重り部材32を粘着剤層を介して固定することによって、ピーク周波数を低周波数側へシフトさせることができるとともに、吸音率も向上させることができる。
かかる作用効果が得られる理由は明確ではないが、前述のとおり、本発明の吸音体は音波と共振することにより、吸音を生じる。粘着剤層を介して一体化すると、膜本体と粘着剤層と重り部材の一体化物は、一種の制振鋼板的な働きをして、粘着剤層の粘性が膜本体と音波との共振を発生しにくくする。その結果、共振のQ値は減少し、吸音ピークが膜本体だけの場合よりもブロードになると推測される。
したがって本発明によれば、低周波領域において高い吸音率を有し、良好な吸音が生じる周波数の範囲も広い吸音体を得ることができる。しかも、膜本体31の材料選択性の自由度が高いため、比較的安価な材料からなる膜本体31を用いて、低周波領域における吸音効果が高い吸音体を低コストで提供することができる。
また重り部材32の材質、形状、大きさ(面積)、質量、ならびに粘着剤層の材質および厚さを変更することによって、膜本体31に重り部材32を固定した後の、ピーク周波数、ピーク値、平均吸音率等の吸音特性を調整することができるため、低周波領域において所望の吸音特性を備えた各種の吸音体を実現することができる。
【0031】
なお、図1の実施形態においては枠体2の厚さが均一であるが、これが均一でなくてもよい。すなわち図1の例では膜振動型吸音材3と施工面4は平行であるが、施工面4に対して膜振動型吸音材3が傾斜していてもよい。
また本発明の吸音体は、貫通孔を有する枠体と、該貫通孔の一方の開口を覆う膜振動型吸音材を備えた構成であればよく、図1に示す形態に限らず、各種の構成とすることができる。例えば図2に示すように、板状の枠体22に複数の貫通孔22aが設けられており、該枠体22の一面上に、該複数の貫通孔22aを一括的に覆うように膜振動型吸音材23が積層、固定された構成を有する吸音体21であってもよく、同様の効果が得られる。図2は吸音体21を枠体22側から見た斜視図である。図2において符号31は膜本体、32は重り部材を示す。
このように、枠体22に複数の貫通孔22aが設けられている場合、該複数の貫通孔22aの形状および大きさは均一でもよく、異なっていてもよい。
また該複数の貫通孔22aの配置は任意であるが、隣り合う貫通孔22aどうしの距離dが小さいほど吸音体21における吸音の効率が高くなる。
さらに、複数の場合、重り部材の大きさや重量を変化させることにより、広い周波数範囲を吸音させることができる。
【実施例】
【0032】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
以下の例において、膜本体31として下記HDPE1を用いた。
HDPE1:HDPE(日本ポリエチレン社製、製品名:HY540)の1層からなる吸音材。
表1に、膜本体31の厚み、比重、質量(直径90mmの円形部分の質量)を記載する。なお、膜本体31を構成するHDPE1の流れ抵抗は1×10N・s/m以上であることを確認した。
【0033】
(例1〜20、比較例2〜11)
膜本体31の一面上に重り部材32を固定してなる膜振動型吸音材3を、枠体2に固定して図1に示す構成の吸音体1を作製した。膜本体31は、重り部材32が固定された面が枠体2側となる向きで使用した。
枠体2の材質はアクリル樹脂であり、貫通孔2aは円形とした。枠体の厚さTは10mm、貫通孔2aの直径Dは90mmとした。
重り部材32としては、HDPE製シートまたは真鍮製シートを用いた。該シートは単層で、または2枚以上を積層一体化して重り部材32とした。重り部材32の形状は円形とし、直径および質量を表1に示す通りに変更した。
表1には、膜本体31の面積(直径90mmの円形)に対する重り部材32の面積の割合(表中、面積%と記載する。)、および膜本体31の質量に対する重り部材32の質量(固定部材の質量を含む)の割合(表中、質量増%と記載する。)も記載する。
【0034】
重り部材32を膜本体31に貼り付ける固定手段(貼付方法)としては、以下の接着剤または粘着剤を用いた。
・接着1:α−シアノアクリレート系接着剤(東亜合成社製、製品名:アロンアルファ、プラスチック用)。
・粘着1:両面粘着テープ(ホースケアプロダクツ社製、品番:NoH100、不織布の両面に粘着剤層を有するテープ、粘着力:15N/20mm)。
・粘着2:両面粘着テープ(ニチバン社製、製品名:ナイスタック プラスチック用強力タイプ NW−PK15、粘着力: 14N/20mm)。
・粘着3:両面粘着テープ(ニチバン社製、製品名:ナイスタック 強力タイプ NW−K15、粘着力:11N/20mm)。
・粘着4:両面粘着テープ(ニチバン社製、製品名:ナイスタック しっかり貼れてはがせるタイプ NW−H15、粘着力:7N/20mm)。
・粘着5:不織布を有さない、厚さ50μmの粘着剤層(日東電工社製、製品名:両面接着テープ No.591、粘着力:5N/20mm)。
・粘着6:不織布を有さない、厚さ100μmの粘着剤層(日東電工社製、製品名:両面接着テープ No.591を2枚重ね、粘着力:5N/20mm)。
・粘着7:不織布を有さない、厚さ150μmの粘着剤層(日東電工社製、製品名:両面接着テープ No.591を3枚重ね、粘着力:5N/20mm)。
【0035】
重り部材32の数は表1に示す通りとした。例1〜18および比較例2〜11では、貫通孔2aの中心と、重り部材32の中心(面方向における中心。以下同様。)とが重なるように1個の重り部材32を設けた。すなわち膜本体31の重心位置(面方向における重心位置。以下同様。)と重り部材32の重心位置との距離を0(ゼロ)とした。
例19では、直径10mmの重り部材32を2個、貫通孔2aの中心に対して対称となるように設けた。貫通孔2aの中心と重り部材32の重心位置(中心)との距離は20mmとした。2個の重り部材32,32の全体における重心位置は、貫通孔2aの中心と一致するため、膜本体31の重心位置と重り部材32群の重心位置との距離は0(ゼロ)である。
例20では、直径10mmの重り部材を3個、貫通孔2aの中心に対して対称となるように設けた。貫通孔2aの中心と重り部材32の重心位置(中心)との距離は20mmとした。3個の重り部材32,32,32の全体における重心位置は、貫通孔2aの中心と一致する。したがって、膜本体31の重心位置と重り部材32群の重心位置との距離は0(ゼロ)である。
【0036】
各例において作製した吸音体1について吸音率を測定し、ピーク周波数、該ピーク周波数における吸音率の値(表中、ピーク値と記載する。)、およびピーク周波数±50Hzの周波数領域における吸音率の平均値(表中、平均吸音率と記載する。)を求めた。その結果を表1に示す。図3は、例2〜4、下記比較例1および比較例2〜6における質量増%と平均吸音率の関係を示したグラフである。
【0037】
(比較例1)
例1と同じ枠体2に、上記HDPE1のみを固定した状態で吸音率を測定し、同様にしてピーク周波数、ピーク値、平均吸音率を求めた。その結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1の結果より、膜振動型吸音材3が膜本体31のみからなる比較例1に比べて、膜本体31に重り部材32を粘着剤層を介して貼付けた例1〜20は、ピーク周波数が低周波数側へシフトするとともに、平均吸音率が増大した。
特に重り部材32として、直径30mmのHDPEシートを粘着剤で貼付けた例6〜9、18〜23はいずれも、同じ直径30mmのHDPEシートを接着剤で貼付けた比較例6に比べて平均吸音率が高い。
一方、膜本体31の面積に対する重り部材32の面積の割合(面積%)が1.5%より小さい比較例2〜6、および重り部材32を接着剤で貼付けた比較例7〜11は、比較例1と比べて、ピーク周波数は低周波数側へシフトしたものの、平均吸音率の増大は認められなかった。
なお上記の各例および比較例において、膜本体31の、重り部材32が貼り付けられていない面を枠体2側としても、すなわち膜振動型吸音材3の表面側と枠体側とを入れ替えても、吸音率の測定結果は同じであった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の吸音体は、例えば、壁、床などの建材、自動車用の吸音材、電気製品の吸音材など、広い範囲に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の吸音体の一実施形態を示すもので(a)は平面図、(b)は(a)中のB−B線に沿う断面図である。
【図2】本発明の吸音体の他の実施形態を示す斜視図である。
【図3】実施例における質量増%と平均吸音率の関係を示したグラフである。
【符号の説明】
【0042】
1、21…吸音体、
2、22…枠体、
2a、22a…貫通孔、
3、23…膜振動型吸音材、
5…背後空気層、
31…膜本体、
32…重り部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔が形成された枠体と、該貫通孔の両端の開口のうちの一方を覆う膜振動型吸音材とを有する吸音体であって、
前記膜振動型吸音材が、膜本体と、該膜本体の重心部に粘着剤層を介して固定された重り部材を有し、
前記膜本体の面積に対する、前記重り部材の面積の割合が1.5%以上であることを特徴とする吸音体。
【請求項2】
前記膜本体の面積に対する、前記重り部材の面積の割合が30%以下である、請求項1に記載の吸音体。
【請求項3】
前記枠体の貫通孔の一方の開口を前記膜本体のみで覆った場合の、吸音率のピーク周波数が700Hz以下である、請求項1または2に記載の吸音体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−26258(P2010−26258A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−187764(P2008−187764)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(000250384)リケンテクノス株式会社 (236)
【Fターム(参考)】