説明

吹付けアスベストの無害化処理方法

【課題】 有害なアスベストの飛散を抑制する方法を提供することにある。
【解決手段】フッ化物及び鉱酸を含有してなる処理水溶液を吹付けアスベストに接触させる処理水溶液接触工程と、前記処理水溶液で接触処理された吹付けアスベストに浸透性固化材を浸透させる固化材浸透工程と、前記浸透性固化材が浸透した吹付けアスベストの表面を、セメント系水硬性材料、及びアクリル系ポリマーディスパージョンを含有してなるポリマーセメントモルタル0.5〜5.0kg/m2で覆うモルタル被覆工程とを実施することを特徴とする、吹付けアスベストの無害化処理方法による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吹付けアスベストの無害化処理方法に関し、例えば、具体的には、各種建築物における天井、梁、壁面等に吹付けられた、吹付けアスベストの無害化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
吹付けアスベストは、アスベストとセメント等の結合材と水を加えて混合し、吹付け機を用いた吹付け工法で吹付けたものである。斯かる吹付け工法によるアスベストの吹付けは、昭和30年代から50年代にかけて、学校、病院、工場、駐車場、一般のビルディング等の各種建築物における天井、梁、壁面等の吸音、断熱、結露防止、鉄骨の耐火被覆等の目的で実施されていた。
【0003】
しかるに、アスベスト粉塵を原因とする種々の健康障害の実態が次第に明らかとなり、昭和50年代以降では、特性化学物質障害予防規則の改訂により、吹付け工法によるアスベストの吹付けは原則として禁止されている。
【0004】
ところが、昭和50年代以前に吹付けられたアスベストについては、そのアスベストが吹付けられた建築物が現在でも存在しているため、斯かる建築物の老朽化等により吹付けアスベストの損傷や劣化が進行して飛散した粉塵が健康障害の原因となる危険性がある。
【0005】
このアスベスト粉塵の飛散防止方法として、吹付けアスベストを除去する方法(以下、「除去方法」ともいう。)や、吹付けアスベストをパネルで囲い込む方法(以下、「囲い込み方法」ともいう。)が挙げられる。
【0006】
ところが、除去方法は、建築物中のアスベストを除去する時にアスベストがこの建築物中に飛散してしまい、また、この飛散したアスベストを完全に回収することが困難なため、アスベストの除去後にもこの建物物が利用される場合には、この建物中に飛散するアスベストによって健康被害が生じうるという問題を有している。
また、囲い込み方法は、パネルとパネルとの隙間からアスベストが飛散するという問題を有している。さらに、この方法は、パネルの取付けが困難である場所にアスベストが吹付けられている場合には、この方法の実施ができないという問題も有している。
【0007】
上記観点から、作業性が容易で且つアスベストの飛散が少ない方法である、ポリマーセメントモルタル(以下、「吹付けアスベスト用カバリング材」ともいう。)で吹付けアスベストの表面を覆って、該ポリマーセメントモルタルが硬化してなる硬化体で吹付けアスベストを封じ込める方法(以下、「封じ込め方法」ともいう。)が提案されている。
特に、材料の軽量化や弾力性の観点から、水硬性材料、及び高弾性エマルジョン成分を含む吹付けアスベスト用カバリング材(特許文献1)を用いる、封じ込め方法が提案されている。
【0008】
【特許文献1】特開平2−030649号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の封じ込め方法は、ポリマーセメントモルタルの硬化体が、例えば該硬化体の自重等により該硬化体が覆われているアスベストの表面から脱落しやすく、この硬化体が脱落したアスベスト表面からアスベストが飛散するという問題を有している。
【0010】
本発明の課題は、有害なアスベストの飛散を抑制する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、フッ化物及び鉱酸を含有してなる処理水溶液を吹付けアスベストに接触させる処理水溶液接触工程と、前記処理水溶液で接触処理された吹付けアスベストに浸透性固化材を浸透させる固化材浸透工程と、前記浸透性固化材が浸透した吹付けアスベストの表面を、セメント系水硬性材料、及びアクリル系ポリマーディスパージョンを含有してなるポリマーセメントモルタル0.5〜5.0kg/m2で覆うモルタル被覆工程とを実施することを特徴とする、吹付けアスベストの無害化処理方法にある。
【0012】
また、本発明に係る吹付けアスベストの無害化処理方法は、好ましくは、前記フッ化物は、イオン源全てが解離した場合の処理水溶液中のフッ素濃度が0.1〜10質量%となるように含有される。
【0013】
さらに、本発明に係る吹付けアスベストの無害化処理方法は、好ましくは、前記フッ化物が、アルカリ金属のフッ化物塩、アルカリ土類金属のフッ化物塩、アンモニアのフッ化物塩、アルカリ金属のケイフッ化物塩、アルカリ土類金属のケイフッ化物塩、アンモニアのケイフッ化物塩、アルカリ金属のホウフッ化物塩、アルカリ土類金属のホウフッ化物塩、アンモニアのホウフッ化物塩、及びフッ化水素酸からなる群より選ばれた少なくとも1種のフッ化物からなる群より選ばれた少なくとも1種のフッ化物からなる。
【0014】
また、本発明に係る吹付けアスベストの無害化処理方法は、好ましくは、前記鉱酸が、リン酸である。
【0015】
さらに、本発明に係る吹付けアスベストの無害化処理方法は、好ましくは、前記浸透性固化材が、アルコキシシラン化合物と、アルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物との少なくとも一方を含有する。
【0016】
また、本発明に係る吹付けアスベストの無害化処理方法は、好ましくは、前記セメント系水硬性材料が、水酸化アルミニウムを含有してなる。
【0017】
さらに、本発明に係る吹付けアスベストの無害化処理方法は、好ましくは、前記アクリル系ポリマーディスパージョンのガラス転移温度が−50〜−20℃である。
【0018】
また、本発明に係る吹付けアスベストの無害化処理方法は、好ましくは、前記ポリマーセメントモルタルには、前記セメント系水硬性材料100質量部に対して、前記アクリル系ポリマーディスパージョンが固形分として1〜50質量部含有されてなる。
【0019】
尚、本発明において、ガラス転移温度とは、示差走査熱量測定器(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用いて、昇温速度20℃/分で測定し、JIS K 7121(1987)に従い求めた中間点ガラス転移温度(Tmg)である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、フッ化物及び鉱酸を含有してなる処理水溶液を吹付けアスベストに接触させることにより、アスベストとフッ化物とが反応して、アスベストの針状構造がそれ以外の物質に転化した状態となる。また、フッ化物によってアスベストのSiO2骨格を溶解することができ、アスベストが非アスベスト化するため、アスベストの飛散を抑制することができるという効果を奏しうる。
また、前記モルタル被覆工程を実施することにより、ポリマーセメントモルタルの硬化体で覆われているアスベスト表面からアスベストの飛散をより抑制することができる。
さらに、吹付けアスベストに覆うポリマーセメントモルタルの量が、吹付けアスベストの表面の単位面積あたりで、0.5kg/m2以上であることにより、吹付けアスベスト全体がポリマーセメントモルタルの硬化体に覆われやすくなるため、吹付けアスベストの飛散を抑制することができ、5.0kg/m2以下であることにより、ポリマーセメントモルタルの硬化体の厚みが厚くなりすぎないため、該硬化体自体の重さによる脱落がしにくくなるという効果を奏しうる。
また、前記モルタル被覆工程の前に前記固化材浸透工程を実施することにより、吹付けアスベストと、ポリマーセメントモルタルの硬化体とが接する部分に浸透性固化材が介在し、該浸透性固化材と該硬化体との接着性が良いことから、前記吹付けアスベストと該硬化体との接着性を向上させることができ、該硬化体が、該硬化体が覆われているアスベストの表面から脱落しにくくなる。また、浸透性固化材が吹付けアスベストの空隙、細孔等に浸透して硬化するので、吹付けアスベスト自体の強度をも高めることができ、ポリマーセメントモルタルの硬化体がより一層脱落しにくくなるという相乗効果を奏しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
【0022】
本発明における吹付けアスベストの無害化処理方法は、処理水溶液を吹付けアスベストに接触させる処理水溶液接触工程と、前記処理水溶液で接触処理された吹付けアスベストに浸透性固化材を浸透させる固化材浸透工程と、前記浸透性固化材が浸透した吹付けアスベストの表面を、ポリマーセメントモルタルで覆うモルタル被覆工程とを実施する方法である。
尚、ここでいう無害化処理とは、アスベストの針状構造を破壊して、アスベストを非アスベスト化して、アスベストが有する有害性を低減する処理のことを意味する。
【0023】
前記処理水溶液接触工程は、フッ化物及び鉱酸を含有してなる処理水溶液を吹付けアスベストに接触させる工程である。
【0024】
処理水溶液接触工程では、限定されるものではないが、例えば、吹付けアスベストに、前記処理水溶液を塗布する、又は吹付けることによって、吹付けアスベストに前記処理水溶液を接触させることができる。
【0025】
前記処理水溶液は、フッ化物及び鉱酸を含有してなる。
【0026】
前記鉱酸としては、任意の鉱酸を用いることができ、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種の鉱酸が例示される。
処理作業者の安全性の観点や、処理水溶液接触工程を実施する際に吹付けアスベストの周囲に金属がある場合に該金属の腐食を比較的抑制することができるという観点から、前記鉱酸としては、リン酸が好ましい。
【0027】
前記フッ化物としては、任意のフッ化物を用いることができるが、アルカリ金属のフッ化物塩、アルカリ土類金属のフッ化物塩、アンモニアのフッ化物塩、アルカリ金属のケイフッ化物塩、アルカリ土類金属のケイフッ化物塩、アンモニアのケイフッ化物塩、アルカリ金属のホウフッ化物塩、アルカリ土類金属のホウフッ化物塩、アンモニアのホウフッ化物塩、及びフッ化水素酸からなる群より選ばれた少なくとも1種のフッ化物を用いることが好ましい。
【0028】
斯かるフッ化物を処理水溶液中に含有させることにより、アスベストのSiO2骨格を破壊することができる。
【0029】
フッ化物塩、ケイフッ化物塩、若しくはホウフッ化物塩としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はアンモニアのフッ化物、二フッ化物、これらの混合物が挙げられる。
特に、フッ化物としては、フッ化アンモニウム、ケイフッ化アンモニウム、フッ化水素酸が好ましい。
【0030】
前記フッ化物は、イオン源全てが解離した場合の処理水溶液中のフッ素濃度が0.1〜10質量%となるように含有されることが好ましい。この範囲でフッ化物が含有されていることにより、より効率的にアスベストのSiO2骨格を溶解することができる。また、前記フッ化物は、イオン源全てが解離した場合の処理水溶液中のフッ素濃度が0.5〜2.0質量%となるように含有されることがより好ましい。
【0031】
吹付けアスベストとしては、例えば、学校、病院、工場、駐車場、一般のビルディング等の各種建築物における天井、梁、壁面等に吹付けられたアスベストが挙げられる。
【0032】
吹付けアスベストに接触させる前記処理水溶液の量としては、吹付けアスベストの表面の単位面積あたりで、0.5〜5.0kg/m2であることが好ましく、また、0.7〜2.0kg/m2であることがより好ましい。
吹付けアスベストに接触させる前記処理水溶液の量が、吹付けアスベストの表面の単位面積あたりで、0.5kg/m2以上であることにより、アスベストとフッ化物とが反応して、アスベストの針状構造がそれ以外の物質に転化した状態となる。また、フッ化物によってアスベストのSiO2骨格を溶解することができ、アスベストが非アスベスト化するため、アスベストの飛散をより一層抑制することができるという利点がある。
また、吹付けアスベストに接触させる前記処理水溶液の量が、吹付けアスベストの表面の単位面積あたりで、5.0kg/m2以下であることにより、吹付けアスベストの周囲に存在し得る金属の酸による腐食を抑制することができるという利点がある。
【0033】
前記処理水溶液を吹付けアスベストに接触させることにより、アスベストとフッ化物とが反応して、アスベストの針状構造がそれ以外の物質に転化した状態となり、また、フッ化物によってアスベストのSiO2骨格を溶解することができ、アスベストが非アスベスト化するため、アスベストの飛散を抑制することができる。
【0034】
前記固化材浸透工程は、前記処理水溶液に接触した吹付けアスベストに浸透性固化材を浸透させる工程である。
【0035】
前記固化材浸透工程では、限定されるものではないが、例えば、吹付けアスベストに浸透性固化材を塗布する、吹付ける、又は注入することによって、吹付けアスベストに浸透性固化材を浸透させることができる。
【0036】
吹付けアスベストに浸透させる浸透性固化材の量(有効成分)としては、吹付けアスベストの表面の単位面積あたりで、0.3〜5.0kg/m2であることが好ましく、また、0.5〜1.0kg/m2であることがより好ましい。
吹付けアスベストに浸透させる浸透性固化材の量(有効成分)が、吹付けアスベストの表面の単位面積あたりで、0.3kg/m2以上であることにより、ポリマーセメントモルタルの硬化体がより一層脱落しにくくなるという利点があり、5.0kg/m2以下であることにより、浸透性固化材の固化が短時間ですむため、作業性が良いという利点がある。
【0037】
前記浸透性固化材としては、限定されるものではないが、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂等を含有する有機系の浸透性固化材、アルコキシシラン化合物、アルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物、ケイ酸塩、コロイダルシリカ等を含有する無機系の浸透性固化材等が挙げられる。
【0038】
また、前記浸透性固化材は、アルコキシシラン化合物と、アルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物との少なくとも一方を含有することが好ましい。前記浸透性固化材が、アルコキシシラン化合物と、アルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物との少なくとも一方を含有することにより、粘度および表面張力が低いことにより吹付け材への浸透性に優れ、塗布後は空気中の水分と反応し無機系ポリマーを形成することにより硬化して吹付けアスベストを固化できるという利点がある。
【0039】
アルコキシシラン化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(βメトキキシエトキシ)シラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン等を挙げることができ、これらの混合物であってもよい。好ましくはテトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシランである。
【0040】
浸透性固化材は、適宜、溶媒に希釈又は分散した状態で使用される。
該溶媒としては特に限定されるものではないが、有機系の浸透性固化材の場合には、例えば、ヘキサン、ヘプタン等のアルカン;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族化合物;エタノール、メタノール、プロパノール等のアルコール等を用いることができ、有機系の浸透性固化材のうちエマルジョン系の場合には、水を用いることができる。また、無機系の浸透性固化材の場合には、特に限定されるものではないが、通常水またはアルコール等を用いることができる。特にアルコキシシランの場合には、アルコキシシランは水で加水分解されてしまうため、溶媒としてイソプロピルアルコール等のアルコールが好適に用いられる。
【0041】
前記固化材浸透工程を、後述する、ポリマーセメントモルタルで被覆するモルタル被覆工程の前に実施することにより、吹付けアスベストの表層部を含浸硬化させることができ、表層部が改質されるという作用が発揮される。したがって、吹付けアスベストと、ポリマーセメントモルタルの硬化体とが接する部分に浸透性固化材が介在し、該浸透性固化材と該硬化体との接着性が良いことから、前記吹付けアスベストと該硬化体との接着性を向上させることができ、該硬化体が、該硬化体が覆われているアスベストの表面から脱落しにくくなる。また、浸透性固化材が吹付けアスベストの空隙、細孔等に浸透して硬化するので、吹付けアスベスト自体の強度をも高めることができ、ポリマーセメントモルタルの硬化体がより一層脱落しにくくなるという相乗効果を奏し得る。
【0042】
前記モルタル被覆工程は、前記浸透性固化材が浸透した吹付けアスベストの表面にポリマーセメントモルタルを覆う工程である。
【0043】
前記モルタル被覆工程では、限定されるものではないが、例えば、前記浸透性固化材が浸透した吹付けアスベストの表面にポリマーセメントモルタルを塗布する、吹付ける、又は注入することによって、前記浸透性固化材が浸透した吹付けアスベストの表面にポリマーセメントモルタルを覆うことができる。
【0044】
吹付けアスベストを覆うポリマーセメントモルタルの量は、吹付けアスベストの表面の単位面積あたりで、0.5〜5.0kg/m2である。
吹付けアスベストに覆うポリマーセメントモルタルの量が、吹付けアスベストの表面の単位面積あたりで、0.5kg/m2以上であることにより、吹付けアスベスト全体がポリマーセメントモルタルの硬化体に覆われやすくなるため、吹付けアスベストの飛散を抑制することができ、5.0kg/m2以下であることにより、ポリマーセメントモルタルの硬化体の厚みが厚くなりすぎないため、該硬化体自体の重さによる脱落がしにくくなる。
また、吹付けアスベストを覆うポリマーセメントモルタルの量は、吹付けアスベストの表面の単位面積あたりで、好ましくは、1.0〜2.0kg/m2である。
吹付けアスベストに覆うポリマーセメントモルタルの量が、吹付けアスベストの表面の単位面積あたりで、1.0kg/m2以上であることにより、吹付けアスベスト全体がポリマーセメントモルタルの硬化体に覆われやすくなるため、吹付けアスベストの飛散をより一層抑制することができるという利点があり、2.0kg/m2以下であることにより、ポリマーセメントモルタルの硬化体の厚みが厚くなりすぎないため、該硬化体自体の重さによる脱落がより一層しにくくなるという利点がある。
【0045】
本発明において用いられるポリマーセメントモルタルは、セメント系水硬性材料、及びアクリル系ポリマーディスパージョンを含有し、必要に応じて、軽量骨材を含有してなる。
【0046】
また、本発明に係るポリマーセメントモルタルは、水を含有してなり、水/粉体質量比については、適宜設定することができ、特に限定されないが、作業性と強度の観点からは、水/粉体質量比が0.2〜0.4であることが好ましい。
【0047】
本発明において用いられるセメント系水硬性材料としては、水と混練されることにより硬化する公知の材料と同様のものを使用することができる。該セメント系水硬性材料としては、限定されるものではないが、例えば、ポルトランドセメント、アルミナセメント、超速硬セメント等を例示することができ、これらを単独で、若しくは混合して用いることができる。
【0048】
前記セメント系水硬性材料は、水酸化アルミニウムを含有してなることが好ましい。前記セメント系水硬性材料は、水酸化アルミニウムを含有してなることにより、セメント系水硬材料が熱を受けた場合、200〜300℃で水酸化アルミニウムが急激に脱水分解し、大きな吸熱反応を起こすという作用が発揮される。したがって、セメント系水硬材料に難燃性を付与できるという効果を奏する。
【0049】
ポルトランドセメントとしては、JISに規定された普通ポルトランドセメントを好適に使用できるが、本発明の効果を阻害しない範囲内で、他のポルトランドセメントを使用することができる。他のポルトランドセメントとしては、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメントなどの各種ポルトランドセメント等が挙げられる。
【0050】
前記セメント系水硬性材料は、その他の成分として、高炉スラグ、シリカフューム、フライアッシュ、珪石粉末、石灰石粉末、凝結促進剤、凝結遅延剤、及び増粘剤等を含み得るものである。
凝結促進剤としては、公知の凝結促進剤を特に制限されることなく使用することができ、例えば、アルカリ金属の炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、アルミン酸塩、水酸化物、ケイ酸塩、ギ酸塩、消石灰等が挙げられる。
凝結遅延剤としては、公知の凝結遅延剤を特に制限されることなく使用することができ、例えば、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸、これらのアルカリ金属塩等のオキシカルボン酸塩や、ショ糖、ブドウ糖、果糖等の糖類、トリポリリン酸塩等のリン酸塩類等が挙げられる。
増粘剤としては、公知の増粘剤を特に制限されることなく使用することができ、例えば、メチルセルロース等のセルロースエーテル系増粘剤、カードラン、ウェランガム等のバイオポリマー系増粘剤が挙げられる。
【0051】
本発明において用いられる軽量骨材としては、従来、コンクリートに使用されている公知の軽量骨材と同様のものを使用することができる。該軽量骨材としては、限定されるものではないが、例えば、水砕スラグ、シラス、黒曜石等を粒度調整し、必要に応じて発泡剤等を加えて加熱して発泡させた無機発泡体や、泡ガラス、廃棄泡ガラス等を粉砕して粒度調整したガラス粉末等を挙げることができる。また、これらの人工の軽量骨材のみならず、天然の軽量骨材を使用することもできる。
また、軽量骨材の粒充填密度は0.5kg/L以下であることが好ましい。
さらに、該軽量骨材の粒径については特に限定されず、粗骨材又は細骨材のどちらであってもよいが、平均粒径が0.3〜2mmであることが好ましい。
【0052】
前記軽量骨材の配合量は、前記セメント系水硬性材料100質量部に対して、10〜200質量部の範囲内が好ましい。前記セメント系水硬性材料100質量部に対して、前記軽量骨材が10質量部以上であることにより、形成される硬化体の軽量化がより向上する。また、前記セメント系水硬性材料100質量部に対して、前記軽量骨材が200質量部以下であることにより、ポリマーセメントモルタルで吹付けアスベストを覆う際の作業性が向上する。
【0053】
本発明において用いられるアクリル系ポリマーディスパージョンとしては、任意のアクリル系ポリマーディスパージョンが使用でき、限定されるものではないが例えば、アクリル樹脂、アクリル酸エステル共重合樹脂、メタクリル酸エステル共重合体樹脂、アクリル酸エステル・スチレン共重合体樹脂等の種々のディスパージョンが例示でき、また、これらを単独でまたは混合して用いることができる。さらに、該アクリル系ポリマーディスパージョンには、スチレン−アクリル系ポリマー水性ディスパージョンも含まれる。
【0054】
アクリル系ポリマーディスパージョンのガラス転移温度は、好ましくは−50〜−20℃であり、より好ましくは−45〜−25℃であり、特により好ましくは−40〜−30℃である。アクリル系ポリマーディスパージョンのガラス転移温度が−50℃以上であることにより、形成される硬化体の付着強度を高めることができる。また、アクリル系ポリマーディスパージョンのガラス転移温度が−20℃以下であることにより、低温環境下でも、形成される硬化体のひび割れによる強度低下を抑制することができる。
【0055】
前記アクリル系ポリマーディスパージョンの配合量は、前記セメント系水硬性材料100質量部に対して、固形分として1〜50質量部の範囲内が好ましい。前記セメント系水硬性材料100質量部に対して、前記アクリル系ポリマーディスパージョンが、固形分として1質量部以上であることにより、形成される硬化体の弾性がより向上する。また、前記セメント系水硬性材料100質量部に対して、前記アクリル系ポリマーディスパージョンが、固形分として50質量部以下であることにより、形成される硬化体の不燃性がより向上する。
【0056】
前記モルタル被覆工程を実施することにより、吹付けアスベストの表面がポリマーセメントモルタルに覆われるので、この吹付けアスベストが飛散することが抑制される。
【実施例】
【0057】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。使用した材料は下記表1に示す通りである。
(処理水溶液の作製)
35質量%リン酸(85質量%リン酸水溶液を希釈)水溶液98質量部、フッ化アンモニウム2質量部を混合して処理水溶液を作製した。
尚、処理水溶液において、イオン源全てが解離した場合の処理水溶液中のフッ素濃度は、1.0質量%である。
(ポリマーセメントモルタルの作製)
普通ポルトランドセメント32.5質量部、水酸化アルミニウム質量32.5質量部、クエン酸ナトリウム0.1質量部、ヒドロキシプロピルメチルセルロース0.03質量部を混合してセメント系水硬化性材料を作製した。そして、該セメント系水硬性材料100質量部、アクリル系ポリマーディスパージョンを固形分として25質量部を混合し、さらに、水/粉体質量比で0.30となるように、この混合物に水を混練し、ポリマーセメントモルタルを作製した。
尚、アクリル系ポリマーディスパージョンのガラス転移温度は、−40℃である。また、普通ポルトランドセメントの比表面積(ブレーン法)が3300cm2/gであり、水酸化アルミニウムの比表面積(ブレーン法)は6000cm2/gである。
【0058】
【表1】

【0059】
実施例1
仮想の吹付けアスベストとして、アスベストの代わりにロックウールを用いて試験体を作製した。試験体は、「性能評価におけるアスベスト封じ込め剤の試験、建材試験情報5’07、(財)建材試験センター、p.32−35」の方法に従って作製したものであり、詳しくは、該試験体は、ロックウール、セメント、及び水を35:15:50(質量比)で混合したものを、合板で作製した大きさ560×560mmの型枠に、厚さ40mmで吹付けたものである。
該試験体の1つの面(最も面積の広い面)に、該面の単位面積当たりで1.2kg/m2処理水溶液を塗布機にてフォーミングして塗布し、該試験体に処理水溶液を接触させた。
該処理水溶液が接触された試験体の面に、該面の単位面積当たりで0.5kg/m2浸透性固化材を、エアレス吹付け機を用いて吹付けて、該試験体に浸透性固化材を浸透させた。
該浸透性固化材が吹付けられた試験体の面に、該面の単位面積当たりで2.0kg/m2ポリマーセメントモルタルを、リシンガン(エアスプレー)を用いて吹付けて、該試験体をポリマーセメントモルタルで覆い、試験体上に、ポリマーセメントモルタルの材齢28日の硬化体を形成して、実施例1の試料を作製した。
【0060】
比較例1
浸透性固化材を浸透させなかったこと以外は、実施例1と同様にして比較例1の試料を作製した。
【0061】
比較例2
処理水溶液に接触させなかったこと以外は、実施例1と同様にして比較例2の試料を作製した。
【0062】
評価試験
各実施例、比較例の試料の評価試験については次のとおり実施した。
【0063】
付着強度試験
各実施例、比較例の試料それぞれについて、付着強度試験を実施した。詳しくは、各試料の硬化体がある面(比較例1については、最も面積の広い面)(以下、「試験面」という。)の中央部に4×4cmの鋼製アタッチメントを2液系エポキシ接着剤で接着させ、質量1kgの荷重をかけて24時間静置した。該アタッチメントの周辺に沿って深さ20cmの切り込みを入れた後、建研式引張試験機を用いて試験面に対して鉛直方向に荷重を加え、試料が切断される時の荷重を測定した。試験結果を下記表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
実施例1の試料の付着強度は、処理水溶液に接触された吹付けアスベストを、ポリマーセメントモルタルで覆ったが、浸透性固化材で浸透しなかった比較例1の試料に比して、高い値を示したことから、処理水溶液に接触された吹付けアスベストを、浸透性固化材を浸透させ、且つポリマーセメントモルタルで覆うことにより、ポリマーセメントモルタルの剥離を抑制することができるため、よりアスベストの飛散を抑制することができることが示された。
また、実施例1の試料の付着強度は、吹付けアスベストを、浸透性固化材で浸透し、且つポリマーセメントモルタルで覆ったが、処理水溶液に接触させなかった比較例2の試料の付着強度と同程度の値を示したことから、ポリマーセメントモルタルに処理水溶液を接触させてもポリマーセメントモルタルの剥離を抑制することができることが示された。また、ポリマーセメントモルタルに処理水溶液を接触させることにより、アスベストを無害化させることができるため、万一、ポリマーセメントモルタルが剥離してしまった場合でも、アスベストの飛散を抑制することができることができる。従って、吹付けアスベストを処理水溶液に接触させた後に、浸透性固化材を浸透させ、且つポリマーセメントモルタルで覆うことにより、アスベストの飛散をより抑制することができることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化物及び鉱酸を含有してなる処理水溶液を吹付けアスベストに接触させる処理水溶液接触工程と、前記処理水溶液で接触処理された吹付けアスベストに浸透性固化材を浸透させる固化材浸透工程と、前記浸透性固化材が浸透した吹付けアスベストの表面を、セメント系水硬性材料、及びアクリル系ポリマーディスパージョンを含有してなるポリマーセメントモルタル0.5〜5.0kg/m2で覆うモルタル被覆工程とを実施することを特徴とする、吹付けアスベストの無害化処理方法。
【請求項2】
前記フッ化物は、イオン源全てが解離した場合の処理水溶液中のフッ素濃度が0.1〜10質量%となるように含有されることを特徴とする請求項1記載の吹付けアスベストの無害化処理方法。
【請求項3】
前記フッ化物が、アルカリ金属のフッ化物塩、アルカリ土類金属のフッ化物塩、アンモニアのフッ化物塩、アルカリ金属のケイフッ化物塩、アルカリ土類金属のケイフッ化物塩、アンモニアのケイフッ化物塩、アルカリ金属のホウフッ化物塩、アルカリ土類金属のホウフッ化物塩、アンモニアのホウフッ化物塩、及びフッ化水素酸からなる群より選ばれた少なくとも1種のフッ化物からなることを特徴とする請求項1又は2記載の吹付けアスベストの無害化処理方法。
【請求項4】
前記鉱酸が、リン酸であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の吹付けアスベストの無害化処理方法。
【請求項5】
前記浸透性固化材が、アルコキシシラン化合物と、アルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物との少なくとも一方を含有することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の吹付けアスベストの無害化処理方法。
【請求項6】
前記セメント系水硬性材料が、水酸化アルミニウムを含有してなることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の吹付けアスベストの無害化処理方法。
【請求項7】
前記アクリル系ポリマーディスパージョンのガラス転移温度が−50〜−20℃であることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の吹付けアスベストの無害化処理方法。
【請求項8】
前記ポリマーセメントモルタルには、前記セメント系水硬性材料100質量部に対して、前記アクリル系ポリマーディスパージョンが固形分として1〜50質量部含有されてなることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の吹付けアスベストの無害化処理方法。

【公開番号】特開2010−76977(P2010−76977A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247677(P2008−247677)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】