説明

吹付け材料およびそれを用いた吹付け工法

【課題】 アルカリ量が少なく初期強度発現性が優れる吹付け材料、およびそれを用いた吹付け工法を提供する。
【解決手段】 液体急結剤とセメントコンクリートを含有する吹付け材料において、アルカリ金属を液体急結剤100部中、R2O換算で1〜10部含有する酸性の液体急結剤と粉末硫酸アルミニウムを併用することを特徴とする。また、吹付け工法において、この吹付け材料を用いて地山に吹付けることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、法面、又は、道路、鉄道、及び導水路等のトンネルにおいて、露出した地山面に吹き付ける吹付け材料、およびそれを用いた吹付け工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネルの掘削作業等において露出した地山の崩落を防止するために、粉体の急結剤をコンクリートに混合した急結性コンクリートを吹き付ける工法が用いられている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
これらの吹付け工法で使用する急結剤としては、急結性能が優れることからカルシウムアルミネートに、アルカリ金属アルミン酸塩又はアルカリ金属炭酸塩等を混合したものが使用されていた。
しかしながら、カルシウムアルミネートにアルカリ金属アルミン酸塩やアルカリ金属炭酸塩等を混合した急結剤よりも低pH値のもので、弱アルカリ性、好ましくは、中性又は弱酸性の急結剤が求められていた。
【0004】
この問題を解決するため液体急結剤として、塩基性アルミニウム塩や有機カルボン酸を主成分とするもの(特許文献3参照)、硫酸アルミニウムやアルカノールアミンを主成分(特許文献4参照)とするもの、並びに、アルミニウムの塩基性水溶液と、ケイ酸リチウム、及びアルミン酸リチウムを主成分(特許文献5)とするもの等が用いられている。
しかしながら、この液体急結剤は、初期強度発現が得にくく、従来の粉体系急結剤と比較して、トンネル坑内で厚吹きした場合には剥落する危険性があった。
近年では、人体への影響が従来の塩基性の急結剤と比較して少なく、初期強度発現性が優れる液体急結剤の開発が待たれていた。
【特許文献1】特公昭60−004149号公報
【特許文献2】特開平09−019910号公報
【特許文献3】特表2001−509124
【特許文献4】特開平10−087358号公報
【特許文献5】特開2001−130935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、以上の状況を鑑み、前記課題を解消すべく種々検討した結果、特定の吹付け材料を使用することで、アルカリ量が少なく、初期強度発現性が優れる吹付け材料が得られるとの知見を得て本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、液体急結剤とセメントコンクリートを含有する吹付け材料において、アルカリ金属を液体急結剤100部中、R2O換算で1〜10部含有する酸性の液体急結剤と粉末硫酸アルミニウムを併用することを特徴とする吹付け材料である。また、前記液体急結剤のpHが6以下であること、前記液体急結剤の主成分がAl23とSO3であること、Al23を前記液体急結剤100部中、7%以上含有することを特徴とする該吹付け材料であり、前記液体急結剤の使用量が、前記セメントコンクリート中のセメント100部に対して、5〜15部であることを特徴とする該吹付け材料である。前記粉末硫酸アルミニウムが、前記セメントコンクリート中のセメント100部に対して、1〜10部であること、前記粉末硫酸アルミニウムは、Al2(SO43・nH2Oのnが5〜20であることを特徴とする該吹付け材料である。さらに、該吹付け材料を用いて地山に吹付けることを特徴とする吹付け工法を構成とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の吹付け材料およびそれを用いた吹付け工法を採用することによって、液体急結剤を使用した場合でも急結性に優れ、吹付け後に剥落を生じない効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明でいうセメントコンクリートとは、セメントペースト、モルタル、及びコンクリートの総称である。
また、本発明における部や%は、特に規定しない限り質量基準である。
【0009】
本発明の液体急結剤は、酸性の液体急結剤であり、pHで6以下が好ましい。また、アルカリ金属の含有量は、液体急結剤100部中、R2O換算で1〜10部であり、好ましくは2〜5部である。アルカリ金属が、R2O換算で1部未満では、優れた急結性が発揮されず、10部を超えると、液体急結剤の貯蔵安定性が損なわれる場合があるので、上記のように含有量を限定した。
【0010】
液体急結剤の主成分は、Al23とSO3であり、液体急結剤100部中、Al23を7部以上含有することが好ましい。7部以上含有させることにより優れた急結性を発揮させることができる。このような主成分のものとして硫酸アルミニウムを使用することが好ましい。
【0011】
アルカリ金属の供給原料は特に限定されるものではないが、アルカリ金属元素、即ち、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、及びセシウムを含む水溶性の化合物であればよく、アルカリ金属元素の酸化物、過酸化物、塩化物、水酸化物、硝酸塩、亜硝酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、アルミン酸塩、硫酸塩、チオ硫酸塩、過硫酸塩、硫化塩、炭酸塩、重炭酸塩、シュウ酸塩、ホウ酸塩、フッ化塩、ケイ酸塩、ケイフッ化塩、明礬、及び金属アルコキシドなどが使用可能であり、これらのうちの一種又は二種以上が使用可能である。これらの中でも、硫酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩、フッ化塩、ケイフッ化塩、明礬等が好ましい。
【0012】
また、本発明の液体急結剤と併用して既知の水溶性の水和促進剤を使用することは可能である。
水和促進剤としては、例えば、ギ酸又はその塩、酢酸又はその塩、及び乳酸又はその塩等の有機系の水和促進剤や、水ガラス、硝酸塩、亜硝酸塩、チオ硫酸塩、及びチオシアン酸塩等の無機系の水和促進剤を使用することが可能である。
【0013】
液体急結剤中の固形分の濃度は、20〜60%であることが好ましく、25〜50%であることがより好ましい。20%未満では優れた急結性状が得られない場合があり、60%を超えるものでは、液の粘性が高く、ポンプでの圧送性が悪くなる場合がある。
【0014】
本発明の液体急結剤の形態は液状であり、懸濁液も含むものであり、懸濁液中の懸濁粒子のサイズは特に限定されるものではないが、懸濁粒子の分散性から、5μm以下であることが好ましい。
【0015】
本発明の液体急結剤の使用量は、セメント100部に対して、5〜15部が好ましく、7〜10部がより好ましい。液体急結剤の使用量が5部未満では、優れた急結性が発揮されない場合があり、15部を超えると長期強度発現性が悪くなる場合がある。
【0016】
本発明の吹付け材料は、上記のような液体急結剤と粉末硫酸アルミニウムを併用するものである。粉末硫酸アルミニウムは、予めベースとなる吹付け用コンクリートに含有させることも可能であるが、吹付け用コンクリートが地山に吹付けされる直前に水、もしくは本液体急結剤と混合してスラリー化したものを、コンクリートの吐出直前に混合させることも可能であり、粉塵低減の観点から後者の方法が好ましい。
【0017】
本発明で使用する粉末硫酸アルミニウムは、Al2(SO4)3・nH2Oの化学式を持ち、Al2(SO4)3・14〜18H2OやAl2(SO4)3・8H2O、無水硫酸アルミニウム等が使用可能であるが、初期の付着性が良好なことからnは5〜20であることが好ましい。
【0018】
本発明の粉末硫酸アルミニウムの使用量は、セメント100部に対して、1〜10部が好ましく、1.5〜5部がより好ましい。粉末硫酸アルミニウムの使用量が1部未満では、優れた急結性が発揮されない場合があり、10部を超えると長期強度発現性が悪くなる場合がある。
【0019】
本発明で使用するセメントは特に限定されるものではなく、普通、早強、超早強、中庸熱、及び低熱等の各種ポルトランドセメントや、これらポルトランドセメントに高炉スラグ、フライアッシュ、及び石灰石微粉末を混合した各種混合セメントなどのいずれも使用可能である。混合セメントにおける混合物とセメントの割合は特に限定されるものではなく、これら混和材をJISで規定する以上に混合したものも使用可能である。
【0020】
本発明では、前記各材料や、砂や砂利等の骨材の他に、減水剤、AE剤、増粘剤、及び繊維等の混和材又は混和剤を本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で併用することが可能である。
【0021】
減水剤は、例えばリグニンスルホン酸系、ナフタレンスルホン酸系、及びポリカルボン酸系等の公知の減水剤すべてのものが使用可能である。
【0022】
AE剤は、コンクリートの凍害を防止するものである。
【0023】
増粘剤は、骨材、セメントペースト、及びその他添加剤の材料分離抵抗性を向上させるものであり、例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、セルロースエーテルなどのセルロース系、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリブチレンオキサイドなどのポリマーや、アクリル酸、メタクリル酸、及びエステルのコポリマーが主成分であるアクリル系ポリマーなどが使用可能である。
【0024】
繊維は、セメントコンクリートの耐衝撃性や弾性の向上の面から使用するもので、無機質や有機質いずれも使用可能である。
無機質の繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、ロックウール、石綿、セラミック繊維、及び金属繊維等が挙げられる。
また、有機質の繊維としては、ビニロン繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアクリル繊維、セルロース繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリアミド繊維、パルプ、麻、木毛、及び木片等が挙げられ、これらのうち、経済性の面で、金属繊維やビニロン繊維が好ましい。
繊維の長さは圧送性や混合性等の点で、50mm以下が好ましく、5〜30mmがより好ましい。繊維のアスペクト比は特に限定されるものではない。
【0025】
本発明の法面やトンネルへの吹付け工法としては、一般的に行われている乾式、湿式のいずれの吹付け工法も可能である。そのうち、粉塵の発生量が少ない面で湿式吹付け工法が好ましい。
【0026】
本発明の液体急結剤は、20℃以上、90℃以下の範囲で加熱してセメントコンクリートに混和させることでより急結性を向上させることが可能である。
【0027】
本発明の吹付け用セメントコンクリートのスランプ値やフロー値は特に限定されず、公知の施工システムの組み合わせの範疇で問題なく施工可能ならばいずれの値のものでも使用可能である。
【実施例1】
【0028】
セメント/砂が1/3、W/Cが50%の配合を用い、減水剤を使用してスランプ(SL)を15cm程度に調整したモルタルを調製した。
調製したモルタル中のセメント100部に対して、粉末硫酸アルミニウム(ア)5部を配合し、さらにセメント100部に対して、表1に示す液体急結剤10部を混合して型枠内に詰め込み、試験環境温度20℃で、プロクター貫入抵抗値を測定した。結果を表1に併記する。
なお、比較のため、粉末硫酸アルミニウムを使用しない系でも同様に試験した。
【0029】
<使用材料>
粉末硫酸アルミニウム(ア):硫酸アルミニウム14〜18水塩、キシダ化学社製、試薬1級品
原料イ :硫酸アルミニウム14〜18水塩、キシダ化学社製、試薬1級品
原料ロ :アルカリ金属原料、無水硫酸ナトリウム、キシダ化学社製、試薬1級品
原料ハ :アルカリ金属原料、炭酸ナトリウム、キシダ化学社製、試薬1級品
液体急結剤:各原料を表1に示す組成になるよう計算して混合し、80℃で30分間溶解させたものを使用。
セメント :普通ポルトランドセメント、市販品、密度3.15g/cm3
砂 :新潟県姫川産川砂、密度2.62g/cm3
減水剤 :ポリカルボン酸系高性能減水剤、市販品
水 :水道水
【0030】
<測定方法>
プロクター貫入抵抗値:JSCE D-102-1999に準じて測定、材齢15分
【0031】
【表1】

【0032】
表1より、アルカリ金属を液体急結剤100部中、R2O換算で1〜10部含有する液体急結剤と粉末硫酸アルミニウムを併用した実験No.1-2、1-4、1-5、1-7、1-9、1-10、1-12、1-14、1-15、1-16の実施例の材料は、材齢15分のプロクター貫入抵抗値が大きく、急結性に優れていることが分かる。また、液体急結剤のAl23の含有量が多くなるにしたがって、急結性が向上するのが示されているから、Al23の含有量を液体急結剤100部中、7部以上とすることが好ましい。
これに対して、液体急結剤にアルカリ金属を含有しない実験No.1-1、1-6、1-11の比較例の材料、粉末硫酸アルミニウムを併用しない実験No.1-3、1-8、1-13の比較例の材料は、材齢15分のプロクター貫入抵抗値が小さく、優れた急結性が発揮されなかった。
【実施例2】
【0033】
表1の実験No.1-14の液体急結剤を、セメント100部に対して、表2に示す量使用し、粉末硫酸アルミニウム(ア)をセメント100部に対して5部使用したこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表2に併記する。
【0034】
【表2】

【0035】
表2より、液体急結剤の使用量が多くなるにしたがって、材齢15分のプロクター貫入抵抗値が大きくなり、急結性の向上するのが分かるから、液体急結剤の使用量は、セメント100部に対して、5部以上が好ましい。しかし、15部を超えて使用しても、実験No.2-4のように急結性状は飽和し、また、長期強度発現性が悪くなる場合があるから、5〜15部とすることが好ましい。
【実施例3】
【0036】
セメント100部に対して表3に示す種類と量の粉末硫酸アルミニウムを使用し、さらに表1の実験No.1-14の液体急結剤を、セメント100部に対して10部使用したこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表3に併記する。
<使用材料>
粉末硫酸アルミニウム(ア):硫酸アルミニウム14〜18水塩、キシダ化学社製、試薬1級品
粉末硫酸アルミニウム(イ):硫酸アルミニウム8水塩、キシダ化学社製、試薬1級品
粉末硫酸アルミニウム(ウ):無水硫酸アルミニウム、キシダ化学社製、試薬1級品
【0037】
【表3】

【0038】
表3より、粉末硫酸アルミニウムの使用量は、セメント100部に対して、1部以上で、材齢15分のプロクター貫入抵抗値が大きくなり、急結性の向上するのが分かる。しかし、10部を超えて使用しても、実験No.3-4のように急結性状は飽和し、また、長期強度発現性が悪くなる場合があるから、1〜10部とすることが好ましい。
また、実験No.1-14、No.3-2、No.3-5を比較すると、結晶水を持った粉末硫酸アルミニウム(ア)、(イ)を使用した方が、急結性状に優れるのが分かる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体急結剤とセメントコンクリートを含有する吹付け材料において、アルカリ金属を液体急結剤100部中、R2O換算で1〜10部含有する酸性の液体急結剤と粉末硫酸アルミニウムを併用することを特徴とする吹付け材料。
【請求項2】
前記液体急結剤のpHが6以下であることを特徴とする請求項1に記載の吹付け材料。
【請求項3】
前記液体急結剤の主成分がAl23とSO3であることを特徴とする請求項1又は2に記載の吹付け材料。
【請求項4】
Al23を前記液体急結剤100部中、7部以上含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の吹付け材料。
【請求項5】
前記液体急結剤の使用量が、前記セメントコンクリート中のセメント100部に対して、5〜15部であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の吹付け材料。
【請求項6】
前記粉末硫酸アルミニウムが、前記セメントコンクリート中のセメント100部に対して、1〜10部であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の吹付け材料。
【請求項7】
前記粉末硫酸アルミニウムは、Al2(SO4)3・nH2Oのnが5〜20であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の吹付け材料。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の吹付け材料を用いて地山に吹付けることを特徴とする吹付け工法。


【公開番号】特開2006−225171(P2006−225171A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−37238(P2005−37238)
【出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】