説明

呈味改善剤

【課題】 果実風味の無果汁飲料や、果汁含量の低い果汁飲料に対し、高果汁飲料のような風味、コク、ボリューム感・濃厚感などの果汁感を付与し、呈味を改善する素材の提供。
【解決手段】 フェルロイルプトレシンからなることを特徴とする呈味改善剤であり、該フェルロイルプトレシンを含有することを特徴とする香味料組成物であり、詳しくは、フェルロイルプトレシンの含有量が102〜105ppmであることを特徴とする。これらの素材を飲食物に添加することにより爽やかな果汁感を付与することができ、その結果、より天然らしいコク、ボリューム感・濃厚感を有する飲食物を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は呈味改善剤、香味料組成物及びこれらを含有する飲食物並びに呈味改善方法に関する。
さらに詳しくは、フェルロイルプトレシンからなることを特徴とする呈味改善剤、フェルロイルプトレシンを含有することを特徴とする香料味組成物、該呈味改善剤又は香味料組成物を含有することを特徴とする飲食物、並びに有効量のフェルロイルプトレシンを添加することを特徴とする飲食物の呈味改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
味は甘味、酸味、苦味、塩味、旨味の基本五味からなり、飲食物の呈味は複雑な味の混合として総合的に認識される。飲食物の呈味を改良する場合、最も単純には、それぞれの味に寄与する味物質の使用量を増減させることで可能になる。しかし近年の健康志向の高まりから、糖類や塩類についてはその使用量を抑える傾向にある。
また、味物質の種類によってはその物質由来の不快味などが問題となる場合があり、使用できる味物質の種類や量が制限されることがあるため、飲食物に十分な味の強度を付与することが難しくなることがある。
【0003】
上記問題を解決する方法として、例えば紅茶葉抽出物を添加し高甘味度甘味量の後味を改善させる方法(特許文献1)、スピラントールとアリウム属植物抽出物を用いて塩味を増強させる方法(特許文献2)、茶の溶媒抽出物を用いて旨味を増強させる方法(特許文献3)などが提案されている。これらは特定の呈味を改善あるいは増強するという目的においては効果を発揮するが、飲食物に複雑な総合的呈味を付与するという点では必ずしも充分でなかった。
【0004】
柑橘類に含まれる呈味成分に着目した例では、例えばシトラスコールドプレスオイルの蒸留残渣を利用する方法(特許文献4)が提案されている。この他、柑橘類に含まれる呈味成分には、ナリンジンやリモニンがあり、いずれも柑橘類に特徴的な苦味の寄与成分として古くから知られている(例えば非特許文献1)。しかしながら、苦味は市場において好意的に受け入れられない場合もある。
【0005】
このほか、無果汁または低果汁飲料の風味改善という観点で、内分岐環状構造部分と外分岐構造部分とを有する、重合度が50以上であるグルカンを有効成分として含有することを特徴とする果汁含有飲食物の果汁感向上剤(特許文献5)、ビセニン−2を添加することにより果汁感を増強させる方法(特許文献6)などが提案されている。
しかしながら、消費者の嗜好は多岐に渡り、絶えず新しいものを求める傾向もあることから、既知の成分や技術だけでは表現できない効果を持つ素材を開発していくことは、より豊かな食生活を実現する上で解決すべき命題の一つであった。
【特許文献1】特開2007−14212号公報
【特許文献2】特開2006−296357号公報
【特許文献3】特開2005−137286号公報
【特許文献4】特開2003−299459号公報
【特許文献5】特開2003−289836号公報
【特許文献6】特開2006−238829号公報
【非特許文献1】CITRUS SCIENCE AND TECHNOLOGY(THE AVI PUBLISHING COMPANY)1977
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、飲食物に複雑な総合的呈味及び果汁感を付与できる呈味改善剤、香味料組成物、及びこれらを含有する飲食物並びに飲食物の呈味改善方法を提供することである
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく果実に含まれる成分を各種分画し検索した結果、意外にも果実に含まれるフェルロイルプトレシンを添加することにより、果汁感や呈味感が付与されることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明は、フェルロイルプトレシンからなることを特徴とする呈味改善剤であり、また、フェルロイルプトレシンを有効成分として含有することを特徴とする呈味改善剤組成物であり、また、フェルロイルプトレシンを含有することを特徴とする香味料組成物であり、詳しくは、フェルロイルプトレシンの含有量が102〜105ppmであることを特徴とする前記香味料組成物であり、また、フェルロイルプトレシンを10-1〜102ppm添加したことを特徴とする飲食物であり、また、前記香味料組成物を添加したことを特徴とする飲食物であり、また、また、果汁風味の無果汁飲料又は低果汁飲料に対してフェルロイルプトレシンを10-1〜102ppm添加することを特徴とする呈味改善方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の呈味改善剤は、果汁を含まないか、もしくは低濃度の果汁を含む果汁風味の飲食物を、高濃度の果汁を含む飲食物の呈味に近づけ、風味を増強することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を具体的に説明する。
〔1〕フェルロイルプトレシン
本発明の呈味改善剤に使用するフェルロイルプトレシン(feruloylputrescine)、すなわちN−(4-アミノブチル)-4-ヒドロキシ-3-メトキシシンナムアミド(N-(4-aminobutyl)-4-hydroxy-3-methoxycinnamamide)は、下記の化学式(1)で表される構造の化合物である。
CAS番号:501−13−3
組成式:C142023
分子量:264.32
【化1】

【0011】
フェルロイルプトレシンは、柑橘類のグレープフルーツやオレンジの果汁の他、ジャガイモ、イヌホオズキ、タバコ、トウモロコシ等に含まれていることが知られている。フェルロイルプトレシンは植物の細胞中においてイオン濃度の調節機構に関与すると言われている。この他、血圧降下作用や筋肉の収縮・弛緩作用などの生物活性について報告があるが、工業的用途は未知であった。
【0012】
〔2〕天然物由来のフェルロイルプトレシンの製造
本発明に用いる場合、十分に精製されたものであれば、いずれの起源のものであっても問題なく使用できる。また、フェルロイルプトレシンは必ずしも十分に精製したものでなくとも、その呈味改善効果を有するならば、粗精製物として用いることも経済的に有利な場合がある。フェルロイルプトレシンを粗精製物の形で使用する場合には、その原料は食経験のあるもの、つまり柑橘類、具体的にはオレンジやグレープフルーツの果汁や果皮から単離することが望ましい。精製や単離の方法に特に制約はなく目的に応じて種々の公知の方法が利用できる。
【0013】
(1)抽出
具体的にはまず、オレンジ又はグレープフルーツの果汁又は果皮を水又は水溶性溶媒により抽出して抽出液を得る。水溶性溶媒としてはメタノール、エタノール、2−プロパノール、アセトン等の溶媒が例示され、これらの1種または2種以上の混合物を用いることができ、必要に応じて水溶液の形で使用される。
【0014】
抽出に用いる溶媒は人体への安全性と取扱性の観点からエタノール、プロパノール、ブタノールのような炭素数2〜4の脂肪族アルコールが望ましく、中でもエタノールが最も望ましい。好ましくはエタノール40〜80%(V/V%、以下同じ)水溶液、より好ましくは50〜60%水溶液が用いられる。抽出に用いる溶媒の量は任意に選択できるが、一般には柑橘原料に対し質量で5〜30倍程度が用いられ、好ましくは10〜15倍量が用いられる。抽出の温度及び時間は任意に定めることができ、特に限定されるものではないが、室温付近にて数時間、好ましくは1〜3時間程度が適当である。
【0015】
得られた抽出液を陽イオン交換樹脂及び合成吸着樹脂で順次精製処理を行うことにより、不要な香味成分が除去されたフェルロイルプトレシンからなる呈味改善剤を得ることができる。
【0016】
(2)陽イオン交換樹脂によるフェルロイルプトレシン含有画分の分離
イオン交換樹脂(イオン交換体)は担体と呼ばれる支持体にイオン交換基を導入したものであるが、本発明で使用する陽イオン交換樹脂の種類は、イオン交換容量が80〜200gCa/−resin、架橋度は約8〜20%、粒径が0.60〜0.80mm、樹脂の構造としてはゲル型または多孔質型のものが使用でき、担体(スチレン系重合体、メタクリル酸系樹脂、シリカゲル、セルロース、デキストラン等)や交換基(スルホン基、カルボキシル基)によって特に限定されるものではないが、中でも強酸性陽イオン交換樹脂、例えば、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体等のスチレン系樹脂を担体とし、スルホン酸基を交換基とする「アンバーライト(登録商標)200CT」(ローム・アンド・ハース社製)や「ダイヤイオン(登録商標)SK1B」(三菱化学株式会社製)などが好適なものとして挙げられる。
【0017】
本発明における陽イオン交換樹脂の処理方法は通常行われている方法で行えば良く、例えば、カラムに充填された陽イオン交換樹脂に柑橘類抽出液を一定流量で接触させる方法や、抽出釜に仕込んだ抽出液に陽イオン交換樹脂を投入し、一定時間撹拌後に陽イオン交換樹脂を分離する方法などがあり、目的により適宜選択することができるが、通常カラムを用いたほうが効率的である。
【0018】
陽イオン交換樹脂上に交換されたフェルロイルプトレシンを含む塩基性物質は定法に従って樹脂から溶離させる。すなわち、任意の無機塩水溶液を陽イオン交換樹脂に接触させることでフェルロイルプトレシンを含む塩基性画分を溶離させることが出来る。無機塩の種類(具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウムなど)や濃度は目的に応じて選択すればよく、格別の制約はないが、0.5〜2.0mol/L程度の水酸化ナトリウム水溶液を用いると回収率が良い。
【0019】
(3)フェルロイルプトレシン含有溶出液の脱塩処理
イオン交換体による処理で得られるフェルロイルプトレシンを含む塩基性画分の溶出液は、前述の溶離の際に使用した無機塩水溶液に由来する多量の塩類を含むので、次いでこれを合成吸着樹脂による脱塩処理に供する。
本発明で使用される合成吸着樹脂としては、母体の構造や比表面積、平均細孔径などで特に限定されるものではないが、以下に例示されるようなものを用いることが出来る。
すなわちその母体がスチレン系、例えば「アンバーライト(登録商標)XAD-16」(オルガノ株式会社製)、スチレン−ジビニルベンゼン系、例えば「セパビーズ(登録商標)SP700」(三菱化学株式会社製)メタクリル系、例えば「ダイヤイオン(登録商標)HP2MG」(三菱化学株式会社製)などが使用できる。
【0020】
また、本発明における合成吸着樹脂の処理方法は通常行われている方法で行えば良く、例えば、カラムに充填された合成吸着樹脂にフェルロイルプトレシン含有溶出液を一定流量で接触させる方法や、釜に仕込んだフェルロイルプトレシン含有溶出液に合成吸着樹脂を投入し、一定時間撹拌後に合成吸着樹脂を分離する方法がある。その方法に格別の制約はなく、目的により選択することができる。合成吸着樹脂に吸着したフェルロイルプトレシンを含む塩基性物質は、種々の有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、2−プロパノール、アセトン等の有機溶媒、又は必要に応じてこれらの水溶液で溶出させることが出来る。溶出に用いる溶媒は人体への安全性と取扱性の観点からエタノール又はその水溶液が最も望ましい。
【0021】
本発明の呈味改善剤は、前段落の脱塩されたフェルロイルプトレシン含有溶出液をそのまま使用することもできるが、該る溶出液を減圧蒸留濃縮や膜濃縮などの手段により濃縮物として、又は凍結乾燥等により粉末化して使用することもできる。
【0022】
さらに、こうして得られたフェルロイルプトレシン精製物は、必要に応じてさらに濾過、濃縮、活性炭による脱臭、脱色処理、液−液分配、逆相クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、再結晶等の公知の技術により精製することができる。
【0023】
〔3〕化学合成によるフェルロイルプトレシンの製造
また、本発明のフェルロイルプトレシンは化学合成により得ることもできる。合成経路や使用する溶媒又は試薬に特に制約はなく、任意に選択できる。最も簡単には、フェルラ酸と1,4−ジアミノブタンの脱水縮合により得ることができるが、保護や脱保護の工程を経たり、目的に応じてこれとは異なる出発原料を用いたりすることも出来る。
【0024】
〔4〕呈味改善剤組成物及び呈味改善方法
本発明の呈味改善剤には更に食品添加物、例えば甘味料、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤、苦味料、酸味料、乳化剤、強化剤、製造用剤及び香料などを添加して各種製剤として用いることもでき、香味料組成物として用いることが特に好ましい。
【0025】
フェルロイルプトレシン又はその精製物、又はそれらの製剤を飲食物に添加する場合、その添加量はフェルロイルプトレシンとして10-1〜102ppmの濃度で添加されることが望ましく、特に効果的に用いるためには1〜50ppmの濃度で添加することが好適である。そのような濃度で添加する場合においては、フェルロイルプトレシンを香味料組成物の中に一定濃度含有させ、該香味料組成物を添加することが使用性に優れており、該香味料組成物が果実香味料組成物であるときに特に有効である。当該香味料組成物にフェルロイルプトレシンが含有される場合は、その濃度は102〜105ppmが適当であり、本発明の効果をより有効に発揮するためには103〜105ppmの濃度がより好ましい。
【0026】
本発明の呈味改善剤は飲食物一般に用いることができ、本発明でいう飲食物とは食品、飲料、香辛料、調味料、医薬品など飲食に供することのできるものをいう。本発明の効果は果汁感を付与するときに最も効果的であることから、本発明は果汁風味の飲食物、特に果汁風味でありながら無果汁若しくは低果汁の飲食物に有効であり、典型的には、果汁風味の無果汁若しくは低果汁の飲料、炭酸飲料、清涼飲料、機能性飲料、アルコール飲料が挙げられる。
【実施例】
【0027】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例の記載に限定されるものではない
【0028】
[実施例1]化学合成によるフェルロイルプトレシンの製造
500mL丸底フラスコにテトラヒドロフラン150mLを量りとり、フェルラ酸12.7g(65.4mmol)、N−(4−アミノブチル)カルバミン酸t−ブチル11.1g(59.0mmol)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール17.5g(129.5mmol)、トリエチルアミン6.6g(65.2mmol)を順次溶解させ、氷水で0℃に冷却した。1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル) カルボジイミド塩酸塩10.8g(56.3mmol)のジクロロメタン溶液100mLを加え、室温まで昇温させ終夜撹拌した。反応液を0℃に冷却した後、分液ろうとを用いて、5%クエン酸水溶液300mL、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で順次洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、有機溶媒を減圧留去し、化学式(2)で表されるアミド体25.5g(粗収率90%)を得た。
【化2】

【0029】
化学式(2)で表されるアミド体粗精製物25.5gをナス型フラスコに量り取り、3mol/Lの塩化水素水溶液200mL、エタノール50mLを加え、室温で終夜撹拌することで脱保護した。反応溶液を0℃に冷却し、水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和した後、エバポレーターを用いて反応液を濃縮した。
【0030】
得られた濃縮液を1mol/L塩化水素水溶液を用いてpH3程度に調製し、交換基がスルホン酸基(-SO3H)である強酸性陽イオン交換樹脂(前掲「200CT」)50mLを充填したカラムにSV(空間速度, space velocity)=2で通液した。続いて200mLのイオン交換水で樹脂充填部を洗浄した後、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液500mLをSV=3で通液し、フェルロイルプトレシンを溶出させた。
【0031】
得られたフェルロイルプトレシン溶出液を、合成吸着樹脂(前掲「SP700」)50mLを充填したカラムにSV=3で通液し、脱塩した。樹脂充填部を200mLのイオン交換水で洗浄した後、続いて95%エタノール500mLでフェルロイルプトレシンを含む塩基性画分を溶出させた。エタノールを減圧留去した後、得られた濃縮物を蒸留水に懸濁させ凍結乾燥に供し、黄色の粉末状結晶としてフェルロイルプトレシン11.8g(44.7mmol)を、N−(4−アミノブチル)カルバミン酸t−ブチルより76%の収率で得た。
【0032】
得られたフェルロイルプトレシンのプロトン及びカーボン13核磁気共鳴スペクトルを測定した。測定にはブルカーバイオスピン株式会社製「AVANCE400(商品名)」を用い、磁場強度は400MHz(カーボン13核磁気共鳴スペクトル測定時は100MHz)、溶媒は重メタノール、測定温度は27℃で測定した。スペクトルデータを、δ:ppm、シグナルの形は一重線をs、二重線をd、三重線をt、多重線をmで表した。カップリング定数J:Hz単位で表し、シグナルのプロトン数をXH(Xはプロトン数を表す)で記載した。
【0033】
プロトン核磁気共鳴スペクトルを以下に示す。δ7.76(d、J=16Hz、1H)、δ7.72(d、J=2Hz、1H)、δ7.04(dd、J=8.4Hz、2Hz、1H)、δ6.81(d、J=8.4Hz、1H)、δ6.43(d、J=16Hz、1H)、δ3.43(t、J=6.4Hz、2H)、δ2.97(t、7.2Hz、2H)、δ1.66(m、4H)
【0034】
カーボン13核磁気共鳴スペクトルを以下に示す。δ169.4、150.5、149.3、142.3、128.2、123.2、118.6、116.5、111.6、56.4、40.4、39.6、27.6、25.9
【0035】
[実施例2]天然物由来のフェルロイルプトレシンの製造
バレンシアオレンジの冷凍果皮を約300gを凍結乾燥に供し、乾燥果皮80gを得、次いでこれを粉末状に粉砕した。50%エタノール水溶液800gを加え、25℃にて1時間撹拌抽出した。不溶物を遠心分離(3000rpm、20分間、5℃)により分離し、抽出液567gを得た。
【0036】
得られた抽出液を、減圧下で200mL程度まで濃縮した後、交換基がスルホン酸基(-SO3H)である陽イオン交換樹脂(前掲「200CT」)50mLを充填したカラムにSV(空間速度)=2で通液した。続いて200mLのイオン交換水で樹脂充填部を洗浄した後、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液500mLをSV=3で通液し、フェルロイルプトレシン画分を溶出させた。
【0037】
得られたフェルロイルプトレシン抽出画分溶出液を、合成吸着樹脂(前掲「SP700」)50mLを充填したカラムにSV=3で通液し、脱塩した。樹脂充填部を200mLのイオン交換水で洗浄した後、続いて95%エタノール500mLでフェルロイルプトレシンを含む塩基性画分を溶出させた。エタノールを減圧留去した後、得られた濃縮物を蒸留水に懸濁させ凍結乾燥に供し、フェルロイルプトレシン精製物0.15gを、バレンシアオレンジ乾燥果皮より0.2%の収率で得た。
【0038】
[試験例1]グレープフルーツ風味飲料
イオン交換水100質量部にグラニュー糖6質量部、クエン酸0.1質量部を溶解させ、グレープフルーツフレーバー(小川香料社製)を5ppm、及び実施例1で得られたフェルロイルプトレシンを10ppm添加したものを評価試料とした。コントロールとしてフェルロイルプトレシン無添加のものを準備した。またポジティブコントロールとして従来技術であるビセニン−2を同量添加したものも同時に評価した。訓練されたパネル5名により、各指標に関して7段階の点数評価を行った。甘味、酸味、苦味、果汁感、呈味感の各項目に関して、コントロールを4点とする7段階評価を行った。点数が高いほど効果が高いことを示す。
ここで「果汁感」はジューシー、フルーティーといったシトラス果実のイメージを意味し、「呈味感」は味に残るボリューム感を意味する(後記の試験例2も同様である)。
結果を表1に、香味のコメントを表2に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
上記に示すとおり、本発明の呈味改善剤の添加によりグレープフルーツ飲料に甘味、酸味、苦味を含めた総合的な呈味感を与え、さらに果汁感を付与することが出来ることが示された。また従来技術のビセニン−2と比較すると、酸味を抑えて甘みを引き立て、バランスの良い呈味改善効果を有することが判かった。また、本発明の呈味改善剤の添加による異味や異臭は感じられなかった。
【0042】
[試験例2]低果汁オレンジ飲料
市販の低果汁オレンジ飲料(オレンジ果汁20%含有)に実施例1で得られたフェルロイルプトレシンを10ppm添加したものを調製し、評価試料とした。コントロールとして本発明の呈味改善剤が無添加のものを準備した。ポジティブコントロールとして従来技術であるビセニン−2を同量添加したものも同時に評価した。
訓練されたパネル5名により、各指標に関して7段階の点数評価を行った。甘味、酸味、苦味、果汁感、呈味感の各項目に関して、コントロールを4点とする7段階評価を行った。点数が高いほど効果が高いことを示す。
結果を表3に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
上記に示すとおり、本発明の呈味改善剤の添加により、低果汁飲料に対して呈味を付与し、果汁感を与えることが判かった。また、本発明の呈味改善剤の添加による異味や異臭は感じられず、自然でバランスのよい呈味改善効果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の呈味改善剤は飲食品に添加することにより、飲食物の呈味を強くするとともに、飲食物の呈味をより複雑な、好ましいものに変える効果があり、各種飲食物に幅広く利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェルロイルプトレシンからなることを特徴とする呈味改善剤。
【請求項2】
フェルロイルプトレシンを有効成分として含有することを特徴とする呈味改善剤組成物。
【請求項3】
請求項2記載の呈味改善剤組成物を含有することを特徴とする香味料組成物。
【請求項4】
フェルロイルプトレシンの含有量が102〜105ppmであることを特徴とする請求項3に記載の香味料組成物。
【請求項5】
フェルロイルプトレシンを10-1〜102ppm添加したことを特徴とする飲食物。
【請求項6】
請求項3又は4に記載の香味料組成物を添加したことを特徴とする飲食物。
【請求項7】
果汁風味の無果汁飲料又は低果汁飲料に対してフェルロイルプトレシンを10-1〜102ppm添加することを特徴とする呈味改善方法。

【公開番号】特開2010−41934(P2010−41934A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−206563(P2008−206563)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【出願人】(591011410)小川香料株式会社 (173)
【Fターム(参考)】