説明

呈味改善用原酒

【課題】本発明は、上記のような従来技術の問題点に鑑み、アルコール飲料の設計品質をほとんど変えることなく、かつ、アルコールの刺激感及び高甘味度甘味料の苦味やエグミなどの欠点が改善されたアルコール飲料を提供することを課題とする。
【解決手段】連続式蒸留酒類を楢炭で接触処理して得られる、アルコール飲料の呈味を改善するための、原酒による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、楢炭処理原酒によって呈味が改善されたアルコール飲料に関する。詳しくは、楢炭処理原酒を配合することによって、設計品質をほとんど変えることなく、かつ、アルコールの刺激感や高甘味度甘味料による好ましくない呈味が改善されたアルコール飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酒類に対する消費者の多様な嗜好に応じて、様々な新しいアルコール飲料製品が生み出されている。
【0003】
チューハイなどの低アルコール飲料においては、より飲み応えのある製品を求める消費者の声に応じ、アルコール度数8〜12v/v%という、相対的に度数の高い製品が製造・販売されるようになっている。また、健康指向の高まりから、アルコール飲料においても低カロリー・糖類ゼロを標榜した製品が販売され、好評を博している。このような製品には、甘味料の全部又は一部を、ショ糖の数十倍から数千倍の甘味を有しながらショ糖より熱量が少ないスクラロース、アスパルテーム、ステビア、アセスルファムカリウムなどのいわゆる高甘味度甘味料が用いられている。
【0004】
アルコール飲料におけるアルコールの刺激感を低減するための手段がいくつか知られている。例えば、物理的装置を用いる方法として、アルコール飲料を超音波処理する方法(特許文献1)、アルコール飲料をセラミックと接触させる方法(特許文献2)がある。また、風味改善剤を添加する方法として、脂肪族エステルからなるアルコール刺激臭マスキング剤(特許文献3)、スターアニスシードオイル、アニスオイル、フェンネルオイル、キャラウェー油、スペアミント油、ジル油、クロモジ油、ペニーロイヤル油、レモン油、ショウノウ油、橙皮油、フェンネル油からなるアルコール刺激臭マスキング剤(特許文献4)、シュクラロースを添加する方法(特許文献5)、パラディチョムパプリカ果実からなる呈味改善剤を使用する方法(特許文献6)、茶抽出物を添加した水を氷として使用する方法(特許文献7)、酵母抽出物を有効成分とするアルコール飲料の味質改善剤(特許文献8)、アミノ酸の一種であるベタインを、アルコール含有食品及びその原料に添加、混合し、含有せしめる方法(特許文献9)、等が知られている。
【0005】
また、高甘味度甘味料の使用に関しては、高甘味度甘味料に由来する好ましくない呈味の改善手段として、L−アスパラギン等のアミノ酸や、グルコン酸、クエン酸等の有機酸やその塩を使用する方法(特許文献10〜12)、高甘味度甘味料とヘスペリジン等の天然物を組み合わせる方法(特許文献13)等が知られている。
【0006】
一方、酒類を植物素材と接触処理させることによって、品質改善を試みることも行われている。例えば、ウイスキーを特定範囲の電気抵抗値となるよう製造された木炭で接触処理することにより、ウイスキーの香味を改質する方法(特許文献14)、Quercus属、Acer属、Ulmus属、Camellia属、Fraxinus属、Carpinus属の樹木から選択される少なくとも1種の樹木を特定温度範囲で炭化した木炭と、酒類とを接触させて酒類の香味を改良する方法(特許文献15)、特定温度範囲で炭化された木炭と焼酎とを接触させることにより、焼酎の香味を改良する方法(特許文献16)、イ草をブランチング処理し乾燥させて粉末にしたイ草粉末をアルコール飲料に添加するアルコール飲料の処理方法(特許文献17)、等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭54−119098号公報
【特許文献2】特開昭63−12273号公報
【特許文献3】特開平8−187277号公報
【特許文献4】特開平8−188791号公報
【特許文献5】特開平8−224075号公報
【特許文献6】特開1998−313849号公報
【特許文献7】特開平11−75786号公報
【特許文献8】特開2002−253199号公報
【特許文献9】特開2003−204779号公報
【特許文献10】特開2000−270804号公報
【特許文献11】特開2003−210147号公報
【特許文献12】特開昭60−188035号公報
【特許文献13】特開平8−256725号公報
【特許文献14】特開平5−308948号公報
【特許文献15】特開平9−206060号公報
【特許文献16】特開2001−103955号公報
【特許文献17】特開2003−9842号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らが新たな製品開発を行うにあたり、従来認識されなかった種々の課題が明らかとなってきた。まず、アルコール飲料中のアルコールに関しては、アルコールの軽やかな風味が好まれる一方で、アルコールの刺激感が欠点として指摘される場合がある。しかしながら、従来の物理的装置による方法は、アルコールの刺激感の改善が不十分であり、大がかりな装置を必要とする等の欠点があった。また、風味改善剤を添加する方法は、特定のアルコール飲料にしか使用できず、改善剤自体の味がアルコール飲料の風味を妨げやすいという欠点があった。
【0009】
そして、アルコール飲料における高甘味度甘味料の使用に関しては、甘味が長く持続するため後味の切れが悪く、苦味・エグミが感じられる場合があることが分かってきた。しかし、従来の添加剤による方法は、少ない添加量では好ましくない呈味を十分に低減できず、添加量を増やすと食品本来の味、香りなどを変化させてしまうという欠点があった。
【0010】
特に、最近好評を博している低カロリー又は糖類ゼロのアルコール飲料においては、製品の特性上、配合できる原材料量に大きな制約があるため、味わいが薄くなりがちであり、このような飲料に、何か剤を添加しようとすると、添加剤自体の味が相対的に目立つことになり、本来の製品が目標とする設計品質が、とりわけ大きく変化してしまうという問題がある。
【0011】
本発明は、上記のような従来技術の問題点に鑑み、アルコール飲料の設計品質をほとんど変えることなく、かつ、アルコールの刺激感及び高甘味度甘味料の苦味やエグミなどの欠点が改善されたアルコール飲料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、かかる課題について鋭意検討した結果、楢炭処理した原酒をアルコール飲料に配合することで、当該アルコール飲料の設計品質をほとんど変えることなく、かつ、アルコールの刺激感及び高甘味度甘味料の苦味やエグミなどの欠点を改善できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は以下の態様からなるものである。
[1]連続式蒸留酒類を楢炭で接触処理して得られる、アルコール飲料の呈味を改善するための、原酒。
[2]連続式蒸留酒類のアルコール度数が20〜95v/v%であり、楢炭を、酒類1000mLに対して3〜10g用いる、[1]に記載の原酒。
[3]アルコール度数が1〜40v/v%であり、
1000mL中、[1に記載の原酒を0.1〜300mL、及び高甘味度甘味料を総量で0.01〜1gを含む、アルコール飲料。
[4]高甘味度甘味料が、スクラロース、アセスルファムK、アスパルテーム及びネオテームからなる群から選ばれる1種又は2種以上の甘味料である、[3]に記載のアルコール飲料。
[5]糖アルコールでない、単糖類及び二糖類の総量が、飲料100gあたり0.5g未満である、[3]又は[4]に記載のアルコール飲料。
[6]アルコール度数が20〜95v/v%である連続式蒸留酒類を、酒類1000mLに対して3〜10g量の楢炭で接触処理する工程を含む、原酒の製造方法。
[7]接触処理が、バッチ処理である、[6]に記載の呈味改善用原酒の製造方法。
[8]接触処理が、カラム処理である、[6]に記載の原酒の製造方法。
[9]連続式蒸留酒類を楢炭で接触処理して得られる原酒を配合することによる、高甘味度甘味料含有アルコール飲料の呈味を改善する方法。
[10]連続式蒸留酒類のアルコール度数が20〜95v/v%である、[9]に記載の方法。
[11]連続式蒸留アルコール1000mLに対して3〜10gとなるようにして接触処理を行う、[9]又は[10]に記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、目標とする設計品質をほとんど変えることなく、かつ、アルコールの刺激感及び高甘味度甘味料の苦味やエグミなどの好ましくない呈味が改善されたアルコール飲料が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明においてアルコールとは、特に断りがない限り、エチルアルコール(エタノール)のことをいう。また、酒類とは、アルコールを含む飲料のことをいう。
(原酒)
本発明のアルコール飲料の呈味を改善するための原酒は、酒類と楢炭とを接触処理することにより得られる。
【0015】
本発明でいう原酒とは、飲料の原料として用いられるアルコールを含む液をいう。
【0016】
本発明の原酒は、アルコール飲料の呈味を改善することを目的に、アルコール飲料に配合するための剤として、用いることができる。
【0017】
本発明の原酒を、目的とするアルコール飲料に配合することによって、該アルコール飲料の目標とする設計品質をほとんど変えることなく、アルコールの刺激感並びに高甘味度甘味料に由来する苦味及びエグ味などの好ましくない呈味を改善することができる。目標とする設計品質をほとんど変えることがないため、本発明の原酒による呈味改善効果は、従来知られている「マスキング効果」とは異なる。本発明の作用機構の詳細は不明であるが、酒類と楢炭との接触処理により、酒類中の一部の好ましくない香味成分が除去され、かつ、楢炭による酒類中の成分の化学的・物理的変化が起こることによって、本発明の原酒及び原酒を適当量配合したアルコール飲料において本発明の効果が発揮されるものと思われる。
【0018】
本発明でアルコール飲料の呈味に関し、「改善(する)」というときは、アルコールの刺激感の低減及び高甘味度甘味料の使用に起因する好ましくない呈味の低減の、両方の効果が奏されていることをいう。「改善(する)」は、目標とする設計品質に影響を与えないようになされていることが好ましい。「目標とする設計品質に影響を与えない」との判断は、本発明の「(アルコール飲料の)呈味を改善するための原酒(呈味改善用原酒)」を配合したアルコール飲料を、それとは呈味改善用原酒を配合していない点でのみ異なるアルコール飲料を対照として、官能評価することによってなされる。(この場合、後者のアルコール飲料の香味品質が「目標とする設計品質」に相当する。)すなわち、香味の強弱・異味異臭の有無の観点から、呈味改善用原酒を配合したアルコール飲料と対照アルコール飲料との差異が感じられないか、又は感じられるが気にならない程度の場合、「目標とする設計品質に影響を与えない」と判断する。目標とする設計品質に影響を与えるか否かを判断する際の具体的な手順は、本願明細書の実施例を参照することができる。
【0019】
アルコールの刺激感が低減されているか否かの判断は、呈味改善用原酒を配合したアルコール飲料を、上記と同様に準備された対照アルコール飲料に対して、官能評価することによってなされる。すなわち、対照アルコール飲料のアルコールの刺激感を基準として、試料のアルコール飲料のアルコールの刺激感の低減の度合によって判断することができる。このための具体的な手順は、本願明細書の実施例を参照することができる。
【0020】
高甘味度甘味料の使用に起因する好ましくない呈味が低減されているか否かは、呈味改善用原酒を配合したアルコール飲料を、上記と同様に準備されたアルコール飲料を対照として、官能評価することによってなされる。すなわち、対照のアルコール飲料の高甘味度甘味料の使用に起因する好ましくない呈味を基準として、試料のアルコール飲料の高甘味度甘味料の使用に起因する好ましくない呈味の低減の度合によって判断することができる。このための具体的な手順は、本願明細書の実施例を参照することができる。
【0021】
本発明の原酒の製造において、酒類としては、通常の飲料の製造原料として許容されるアルコールを含む液を適宜使用することができるが、目標とする設計品質をほとんど変えないという本発明の目的から、アルコール含有物を連続式蒸留機で蒸留して得られる連続式蒸留酒類を使用することが好ましい。このような連続式蒸留酒類としては、例えば、原料用アルコール、連続式蒸留しょうちゅう(いわゆる甲類焼酎)などを挙げることができる。
【0022】
本発明でいう楢炭とは、楢の原木を炭窯内で高温にて炭化させたものをいい、市販の楢炭を適宜用いることができる。
【0023】
本発明でいう楢とは、ブナ科 コナラ属に属する植物のうち落葉性の広葉樹(例えば、ミズナラ、コナラ、カシワ、ナラガシワ、クヌギ)をいう。これらの原木を高温にて炭化させて、本発明に用いることができる。炭の製造方法(製炭法)は通常実施される方法で行うことができる。
【0024】
具体的には、炭化終期の釜内温度を約450℃〜約800℃として炭材の揮発分を除去し、窯内消火法により得られる、標準硬度が2〜7、精錬度が2〜9の黒炭を好ましく用いることができ、炭化終期の釜内温度を約700℃〜800℃として得られる標準硬度が3〜5、精錬度が2〜8.5の黒炭をより好ましく用いることができる。接触処理する楢炭としては、少なくとも前記の黒炭を含んでいればよい。白炭(炭化温度を800℃以上として炭化したもので精錬度が0〜4の木炭)などの異なる製造方法による木炭や、白樺炭など他の原木による木炭を、1種類又は2種類以上とともに接触処理することができる。
【0025】
楢炭の大きさは、アルコールと十分接触できる形状であれば特に限定されない。接触処理の効率と作業性の点で、適当な大きさに粉砕されたものを好ましく用いることができる。処理効率の点からは粒度が細かい方が好ましく、作業性の点では粉末状よりはある程度の大きさを持つ方が好ましい。具体的には、目開きが1〜5.66mmの試験用ふるい(R40/3シリーズ)でふるい分けたときのふるい下通過量が95%以上のとき好ましく、目開きが2.36〜4.75mmの試験用ふるい(R40/3シリーズ)でのふるい下通過量が95%以上のとき、より好ましい。
【0026】
本発明の原酒は、酒類を楢炭で一定時間接触処理することにより得られる。
【0027】
接触処理の具体的手段は周知の手段によって実施することができる。例えば、タンク等の容器に酒類及び楢炭を入れて一定時間攪拌した後、濾過等の分離手段を用いて楢炭を除去してもよいし、楢炭を充填したカラムに酒類を通液してもよい。
【0028】
接触させる酒類のアルコール度数は、アルコール度数が20〜95v/v%であることが好ましく、40〜95v/v%であることがより好ましく、40〜59v/v%であることがさらに好ましい。本発明の作用機構の詳細は不明であるが、楢炭表面と、酒類に含まれる水及びアルコール(エタノール)との接触面における相互作用の違いによって、特定範囲のアルコール度数の酒類との接触がより好ましくなると考えられる。
【0029】
なお本発明でアルコール度数というときは、対象となる酒類又は飲料などの単位容積当たりに含まれるアルコールの容積の割合(v/v%)をいう。アルコール度数は、国税庁所定分析法(平19国税庁訓令第6号、平成19年6月22日改訂)に記載の方法によって求めることができる。具体的には、対象の酒類から、必要に応じて濾過又は超音波処理によって炭酸ガスを抜いた試料を調製し、そして、その試料を直火蒸留し、得られた留液の15℃における密度を振動式密度計を用いて測定し、前期国税庁所定分析法の付表である「第2表 アルコール分と密度(15℃)及び比重(15/15℃)換算表」を用いて換算して求めることができる。
【0030】
酒類と楢炭とを接触させる条件としては、次の量比で実施することが好ましい;アルコール1000mLに対して楢炭を3〜100g接触させることが好ましく、6〜10g接触させることがより好ましい。
【0031】
接触時間は、1時間以上であれば十分本発明の効果を得ることができる。特に上限は設けなくてもよいが、1〜5時間が好ましい。
【0032】
タンク等の容器中で一定時間攪拌して接触処理を行う場合は、上記のアルコールと楢炭との量比になるように容器にアルコールと楢炭を入れ、機械攪拌やエア攪拌など周知の攪拌手段によって所定時間攪拌して接触処理を行う。
【0033】
楢炭を充填したカラムにアルコールを通液する場合は、カラムに充填した楢炭量から上記の好適なアルコールと楢炭との量比に基づいて、相当するアルコール量を計算し、該アルコールを所定時間でカラムを通過するよう流速を調節して通液する。通液方法は、従来行われている方法に基づいて実施すればよい。
【0034】
接触温度は特に限定されず、通常の常温下(例えば、液温として10〜40℃)で好適に実施することができる。
【0035】
接触処理した酒類は、楢炭の微細粒子がアルコール飲料中に移行することを防止するために通常の固液分離手段を用いて該微細粒子を除去して用いる。固液分離手段としては、遠心分離、膜濾過、珪藻土濾過、濾紙濾過など通常の分離手段を、単独又は複数の手段を組み合わせて実施することができる。楢炭の微細粒子を完全に除去するために、平均孔径1〜2μm以下の孔径を有する膜(メンブレンフィルターともいう)による濾過を必ず固液分離工程に含めることが好ましい。作業効率を向上させるための予備濾過として、その他の固液分離手段を合わせて実施してもよい。
(アルコール飲料)
本発明の呈味改善用原酒は、高甘味度甘味料を含むアルコール飲料に配合して該アルコール飲料の呈味を改善することができる。
【0036】
呈味改善用原酒の配合量としては、該アルコール飲料1000mLに対して、本発明の呈味改善用原酒を0.01〜300mL、好ましくは0.05〜150mL、より好ましくは0.1〜10mL配合することによって、本発明の効果を発揮することができる。0.01mLを下回るときは呈味改善効果が十分得られず、300mLを超えると該アルコール飲料の刺激感が低下しすぎて香味が平板に感じられるようになり好ましくない。
【0037】
本発明の呈味改善用原酒を配合するアルコール飲料としては、アルコール度数として1〜40v/v%のアルコールを含むとき好ましく、より好ましくは1〜25v/v%、更に好ましくは1〜12v/v%である。本発明の呈味改善用原酒は、このようなアルコール飲料のアルコールに起因する刺激感を低減することができる。
【0038】
また、本発明の呈味改善用原酒は、アルコールの刺激感のみならず、高甘味度甘味料に起因する好ましくない呈味をも改善することができる。高甘味度甘味料とは、「飲料用語事典」(株式会社ビバリッジジャパン社、平成11年6月25日発行)の「甘味度」の項に記載される手法で測定したとき、ショ糖の甘味度より甘いものをいう。
本発明でいう高甘味度甘味料とは、ショ糖の甘味度を1とした場合に、好ましくは30以上、より好ましくは150以上の甘味度を有する甘味料のことをいう。このような高甘味度甘味料の例としては、、ステビア、グリチルリチン、モネリン、タウマチン(ソーマチン)等の天然甘味料や、ネオテーム、アスパルテーム、サッカリン、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、グリチルリチン酸三ナトリウム、スクラロース、アセスルファムカリウム(「アセスルファムK」ともいう)、ネオヘスペリジンヒドロカルコン等の合成甘味料が挙げられる。
【0039】
特に本発明においては、好ましくはネオテーム、ステビア、アスパルテーム、スクラロース又はアセスルファムカリウム、より好ましくはスクラロース又はアセスルファムカリウム、からなる群から選ばれる、1種類又は2種類以上の甘味料に対して好適に使用することができる。
【0040】
本発明の飲料に含まれる高甘味度甘味料の種類と濃度は、飲料に求められる甘さの質や甘味度等により適宜決定すればよいが、通常、飲料1000mL中の総量として、0.01〜1 g、好ましくは0.05〜0.5 g、より好ましくは0.05〜0.4 gである。アスパルテームを用いる場合は、1000mL当たり0.005〜0.3gであることが好ましく、0.01〜0.2gであることがより好ましく、0.02〜0.15gであることが更により好ましい。アセスルファムカリウムを用いる場合は、1000mL当たり0.005〜0.34gであることが好ましく、0.05〜0.3gであることがより好ましく、0.1〜0.25gであることが更により好ましい。ステビアを用いる場合は、1000mL当たり0.005〜0.3gであることが好ましく、0.01〜0.2gであることがより好ましく、0.02〜0.15gであることが更により好ましい。スクラロースを用いる場合は、1000mL当たり0.001〜0.2gであることが好ましく、0.01〜0.15gであることがより好ましく、0.05〜0.1gであることが更により好ましい。これらの高甘味度甘味料の量は、HPLC法などの公知の方法により測定することができる。
【0041】
本発明では、本発明の効果を妨げない範囲で、通常のアルコール飲料で使用される原料を使用することができる。
【0042】
例えば、果汁類として、果実及び果汁、野菜片及び野菜汁又はハーブ及びハーブエキス果汁などを使用することができ、ピューレ、果肉、ストレート果汁、濃縮果汁、透明果汁、混濁果汁、いずれの態様でも用いることができる。これら果汁類は、目的に応じて1種又は2種以上を併用して使用することができる。
【0043】
また、糖類、香料、ビタミン、色素類、酸化防止剤、酸味料、乳化剤、保存料、調味料、エキス類、pH調整剤、品質安定剤等を配合することができる。炭酸ガスを添加して炭酸ガス飲料とすることもできる。
【0044】
更に、本発明のアルコール飲料は、容器詰めとすることができる。容器の形態は何ら制限されず、プラスチックを主成分とする成形容器、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと積層されたラミネート紙容器、ガラス瓶などの通常の形態で提供することができる。
【0045】
本発明を好ましく用いることができるアルコール飲料の具体的な例としては、いわゆる低カロリー飲料、糖類ゼロ飲料(日本の健康増進法に基づく栄養表示基準の規定によって、当該飲料に含まれる糖類(単糖類又は二糖類であって、糖アルコールでないもの)の量が、飲料100mlあたり0.5g未満のもの)を挙げることができる。この場合の「糖類(単糖類又は二糖類であって、糖アルコールでないもの)」の典型的な例は、ブドウ糖、果糖、砂糖(ショ糖、スクロース)、麦芽糖、乳糖である。
【0046】
このようなアルコール飲料は、アルコールと高甘味度甘味料を両方含み、かつ、アルコールの刺激感や高甘味度甘味料の好ましくない呈味をマスキングできるだけの糖類、酸味料及び果汁などの原材料の配合量が少ないため、相対的により強く呈味改善効果を感じることができる。
【0047】
これらの飲料1000mLに対して、本発明の呈味改善原酒を0.01〜300、好ましくは0.05〜150、より好ましくは0.1〜10mL配合することによって、本発明の効果を発揮することができる。
【0048】
以下の実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0049】
炭処理原酒の製造
アルコール度数59v/v%のニュートラルスピリッツに、市販の粒状の炭;楢炭、白樺炭、ヤシ炭、竹炭、石炭を、1w/v%となるよう添加し、1時間スターラーにて攪拌して接触処理を行った。その後、各炭処理原酒を、5μm濾紙(東洋濾紙株式会社製)、次いで1μmメンブレンフィルター(東洋濾紙株式会社製)を用いて濾過を行い、炭が完全に除去された炭処理原酒を調製した。なお、このとき使用した楢炭は、炭化終期の釜内温度を約700℃〜800℃として得られた、標準硬度が4、精錬度が8.5以下の黒炭であり、以下の実験で使用する楢炭も全て同様のものである。
【0050】
モデル液の製造
表1に示す配合表に従って、上記で製造した各種炭処理原酒を含み、高甘味度甘味料を含むアルコール度数は6v/v%のグレープフルーツ風味のモデル液(サンプル1〜5)を製造した。高甘味度甘味料として、スクラロース(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)及びアセスルファムカリウム(キリン協和フーズ株式会社製)を用いた。本モデル液は、日本の「健康増進法に基づく栄養表示基準の規定」でいうところの「糖類ゼロ」飲料に該当する。対照として、炭処理原酒の代わりにニュートラルスピリッツを配合したモデル液(サンプル6)も製造した。
【0051】
【表1】

【0052】
各種炭処理原酒の効果の確認
以下のような評価方法に従って、訓練された専門のパネル5名により官能評価試験を行った。
【0053】
(1)設計品質への影響
炭処理原酒を配合しないサンプル6を対照(目標とする設計品質)として、各炭処理原酒添加サンプル1〜5との品質差の程度について評価した。すなわち、サンプル6の果汁や香料に由来するグレープフルーツ風味を基準として、香味の強弱・異味異臭の有無などの差異がどの程度感じられるかを、香りと味の観点から下記の基準に従って評価した。
「感じない」=5点、「感じるが、気にならない程度」=4点、「感じる」=3点、「強く感じる」=2点、「非常に強く感じる」=1点
香りと味のそれぞれについて、パネルの評点の平均値を計算した。
この平均値が4点以上の場合、添加後のサンプルが目標とする設計品質から大きく変化していないとし、○とした。逆に、4点未満の場合は目的の設計品質からの変化が認められるとして×とした。
【0054】
(2)アルコールの刺激感の評価
炭処理原酒を配合しないサンプル6を対照として、アルコールの刺激感が低減しているか否かについて、下記の基準に従って評価した。
「非常に強く低減されている」=4点、「強く低減されている」=3点、「やや低減されている」=2点、「全く感じない」=1点。
【0055】
(3)高甘味度甘味料の好ましくない呈味の評価
炭処理原酒を配合しないサンプル6を対照として、高甘味度甘味料に由来する苦味・エグミなどの好ましくない呈味が低減しているか否かについて、下記の基準に従って評価した。
「非常に強く低減されている」=4点、「強く低減されている」=3点、「やや低減されている」=2点、「全く感じない」=1点
以上の結果を、(表2)に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
炭処理原酒を添加したとき、サンプル6の香味品質(目標とする設計品質)に対して大きく香味品質が変化していないと判断できたのは、サンプル1(楢炭)、サンプル2(白樺炭)のみであった。その中でも、サンプル1(楢炭)は、香味両面において目標とする設計品質との差異が最も小さかった。
【0058】
また、アルコールの刺激感の低減効果と高甘味度甘味料の好ましくない呈味の改善効果の両者において、3点「強く低減されている」以上の改善効果を有しているのはサンプル1(楢炭)のみであり、他の炭処理原酒に比べて非常に強い呈味改善効果を有していることが明らかとなった。
【実施例2】
【0059】
サンプル6に対する香味品質の差異が相対的に小さかった楢炭処理原酒及び白樺炭処理原酒について、呈味改善効果の強さの違いを詳しく調べるために、次の実験を行った。
表1に示す配合表において、炭処理原酒として実施例1の楢炭処理原酒及び白樺炭処理原酒の配合量を変えたグレープフルーツ風味モデル液を製造した。楢炭処理原酒をモデル液1000mL中に0.1、10mL配合したサンプルを、それぞれサンプル7、サンプル8とした。白樺炭処理原酒をモデル液1000mL中に0.1、10mL配合したサンプルを、それぞれサンプル9、サンプル10とした。
これらのサンプルに対して、実施例1と同様の方法で官能評価を実施して呈味改善効果を比較した。その結果を(表3)に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
楢炭処理原酒を0.1mL/L配合したサンプル7では、呈味改善効果がいずれも2点を超えて改善効果があることが示され、更にサンプル1(1mL/L配合)及びサンプル8(10mL/L配合)では3点を超えて非常に強い改善効果があることが明らかとなった。これに対して、白樺処理原酒を配合したサンプルは、サンプル9(0.1mL/L配合)の両方の呈味改善効果及びサンプル2(1mL/L配合)の高甘味度甘味料の好ましくない呈味の改善効果はいずれも1点台にとどまり、効果が弱いことが明らかとなった。また、サンプル10(10mL/L配合)では設計品質を変えてしまうことが明らかとなった。
以上の結果から、楢炭処理原酒が、モデル液の目標とする設計品質を、香り及び味の両面においてほとんど変えることなく、アルコールの刺激感及び高甘味度甘味料の好ましくない呈味を改善する効果が最も強いことが分かった。よって、アルコール飲料の香味を改善する炭処理原酒として、楢炭処理原酒を選択した。
【実施例3】
【0062】
楢炭処理原酒の製造条件について検討を加えた。
【0063】
アルコール度数
アルコール度数20、40、95v/v%の各ニュートラルスピリッツ100mLを、楢炭1gとともにビーカーに入れて1時間スターラーで攪拌した。攪拌後、孔径1μmのセルロースアセテートメンブレンフィルター(東洋濾紙社製)にて楢炭を除去し、アルコール度数の異なる楢炭処理原酒を製造した。これらの楢炭処理原酒1mLを実施例1のモデル液1000mLに配合して、それぞれサンプル11、サンプル12、サンプル13を調製した。
【0064】
サンプル1(アルコール度数59v/v%の楢炭処理原酒を配合)とサンプル11〜13について、実施例1と同様の方法で官能評価を実施して設計品質との差及び呈味改善効果を比較した。その結果を(表4)に示す。
【0065】
【表4】

【0066】
アルコール度数の違いによって、設計品質との差はほとんど差がなかった。また、いずれのサンプルの呈味改善効果も2点を超えており、基本的に効果が認められた。アルコールの刺激感の低減効果についてはサンプル12及びサンプル1が3点台、高甘味度甘味料の好ましくない呈味の改善効果についてはサンプル12、サンプル1及びサンプル13が3点台であり、相対的に効果が強かった。以上から、処理原酒のアルコール度数が20〜95v/v%のとき本発明の効果が認められ、アルコール度数40〜95v/v%のとき効果がより強く、アルコール度数40〜59v/v%のとき効果が更に強く認められることが明らかとなった。
【0067】
楢炭添加量
アルコール度数59v/v%のニュートラルスピリッツ100mLを、楢炭0.1、0.3、0.6gとともにビーカーに入れて1時間スターラーで攪拌した。攪拌後、孔径1μmのセルロースアセテートメンブレンフィルター(東洋濾紙社製)にて楢炭を除去し、接触する楢炭量の異なる楢炭処理原酒を製造した。これらの楢炭処理原酒1mLを実施例1のモデル液1000mLに配合して、それぞれサンプル14、サンプル15、サンプル16を調製した。
サンプル1(楢炭1gにて接触処理した楢炭処理原酒を配合)とサンプル14〜16について、実施例1と同様の方法で官能評価を実施して呈味改善効果を比較した。その結果を(表5)に示す。
【0068】
【表5】

【0069】
楢炭量の違いによって、設計品質との差はほとんど差がなかった。また、サンプル14のアルコール刺激感低減効果は2点を下回り、効果が弱いことが明らかとなったが、他のサンプルの呈味改善効果はいずれも2点を超えており、基本的な効果が認められた。2つの呈味改善効果については、サンプル16及びサンプル1がともに3点台であり、相対的に効果が強かった。以上から、原酒処理に用いる楢炭量がアルコール1000mLに対して0.3〜1gのとき本発明の効果が認められ、0.6〜1gのとき効果がより強く認められることが明らかとなった。
【0070】
処理時間
アルコール度数59v/v%のニュートラルスピリッツ100mLを、楢炭1gとともにビーカーに入れて3時間及び5時間スターラーで攪拌した。攪拌後、孔径1μmのセルロースアセテートメンブレンフィルター(東洋濾紙社製)にて楢炭を除去し、楢炭処理原酒を製造した。これらの楢炭処理原酒1mLを実施例1のモデル液1000mLに配合して、それぞれサンプル17、サンプル18を調製した。
サンプル1(楢炭1gを1時間接触処理した楢炭処理原酒を配合)とサンプル17・サンプル18について、実施例1と同様の方法で官能評価を実施して呈味改善効果を比較した。
その結果を(表6)に示す。
【0071】
【表6】

【0072】
アルコールと楢炭との接触時間は、1時間接触処理を行えば十分効果があることが認められた。5時間接触処理を行った原酒を配合してもモデル液との差異は認められず、本発明の効果を妨げる要因は認められなかった。
【実施例4】
【0073】
各種態様への効果
アルコール度数59v/v%のニュートラルスピリッツ100mLを、楢炭1gとともにビーカーに入れて1時間スターラーで攪拌した。攪拌後、孔径1μmのセルロースアセテートメンブレンフィルター(東洋濾紙社製)にて楢炭を除去し、楢炭処理原酒を製造した。
アセスルファムカリウムとスクラロースを飲料1000mL中にそれぞれ0.05g含むよう添加した、アルコール度数3v/v%のグレープフルーツ風味の低カロリーアルコール飲料(飲料100mLあたり22kcal);サンプル19と、アルコール度数8v/v%のグレープフルーツ風味の糖類ゼロアルコール飲料;サンプル20を製造した。これらのアルコール飲料1000mLに対して、1mLの前記楢炭処理原酒を配合し、官能評価を実施した。サンプル19及びサンプル20のいずれも、アルコールの刺激感が感じられず、高甘味度甘味料の好ましくない呈味がほとんど感じられない良好な品質であった。また、該アルコール飲料のグレープフルーツ風味が十分感じられ、設計品質がほとんど変わっていないことが認められた。
【0074】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続式蒸留酒類を楢炭で接触処理して得られる、アルコール飲料の呈味を改善するための、原酒。
【請求項2】
連続式蒸留酒類のアルコール度数が20〜95v/v%であり、楢炭を、酒類1000mLに対して3〜10g用いる、請求項1に記載の原酒。
【請求項3】
アルコール度数が1〜40v/v%であり、
1000mL中、請求項1に記載の原酒を0.1〜300mL、及び高甘味度甘味料を総量で0.01〜1gを含む、アルコール飲料。
【請求項4】
高甘味度甘味料が、スクラロース、アセスルファムK、アスパルテーム及びネオテームからなる群から選ばれる1種又は2種以上の甘味料である、請求項3に記載のアルコール飲料。
【請求項5】
糖アルコールでない、単糖類及び二糖類の総量が、飲料100gあたり0.5g未満である、請求項3又は4に記載のアルコール飲料。
【請求項6】
アルコール度数が20〜95v/v%である連続式蒸留酒類を、酒類1000mLに対して3〜10g量の楢炭で接触処理する工程を含む、原酒の製造方法。
【請求項7】
接触処理が、バッチ処理である、請求項6に記載の呈味改善用原酒の製造方法。
【請求項8】
接触処理が、カラム処理である、請求項6に記載の原酒の製造方法。
【請求項9】
連続式蒸留酒類を楢炭で接触処理して得られる原酒を配合することによる、高甘味度甘味料含有アルコール飲料の呈味を改善する方法。
【請求項10】
連続式蒸留酒類のアルコール度数が20〜95v/v%である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
連続式蒸留アルコール1000mLに対して3〜10gとなるようにして接触処理を行う、請求項9又は10に記載の方法。

【公開番号】特開2012−139171(P2012−139171A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−294248(P2010−294248)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)
【Fターム(参考)】