説明

呈色測定装置および方法

【課題】 検体中の被検物質の定性的もしくは定量的な検査が可能になる時間が検体の個体差によりばらつきが生じても正確に検査時間の管理を行う。
【解決手段】 試験片10が呈色測定装置1の挿入口3に挿入されると、呈色測定装置1において試験片10が装着されたことを検出して測定が開始される。その後、テスト領域TLの濃淡変化率αが算出され、推定完了時間ETが濃淡値D2a、D2bおよび濃淡変化率αに基づいて算出されるとともに増感処理が必要か否かが判断される。増感処理が必要であると判断された場合、設定完了時間SPrefと増感処理時間APrefとを合算した判定可能時間が算出され、情報出力手段4に表示される。一方、増感処理が不要であると判断された場合、判定可能時間が推定完了時間ETであるとして情報出力手段4において表示されている時間が更新される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体溶液中の被験物質について定量的または定性的な測定を行う呈色測定装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、体外診断薬や毒物等の検査のために被験物質を含有する可能性のある検体溶液を試験片に送液し、イムノクロマトグラフ法を用いて被験物質について簡便かつ迅速に検査するデバイスが数多く開発されている。具体的には、特定の領域(テストライン)に被検物質(たとえば抗原)に特異的に結合する第1抗体が固定された多孔質体からなる展開層が用意される。そして、展開層上に被検物質と特異的に結合する標識化第2抗体に被検物質が存在する可能性のある検体を混合した検体溶液が展開される。すると、テストライン上において被検物質と第1抗体および第2抗体とによる抗原抗体反応が生じ、テストラインが着色もしくは発色し呈色状態になる。このテストラインの呈色状態を観察することにより、検体溶液に被検物質が存在するか否か定量的または定性的(陰性/陽性)な測定が行われる。
【0003】
さらに、テストラインの呈色状態を迅速かつ高感度に検出するために、増感剤を用いた増感処理(増幅処理)を行うことが提案されている(たとえば特許文献1、2参照)。特許文献1、2には、上述した検体溶液が展開層に展開した後に、銀イオン等の金属イオンを含む増感剤を展開層に展開させることにより、テストライン上の第1抗体−被検物質(抗原)−第2抗体の複合体に対し金属イオンが結合し、呈色状態を増感させることが開示されている。
【0004】
ところで、上述した試験片を簡易的に測定するPOCT(Point of Care Testing)診療向けの測定装置として、呈色測定装置(イムノクロマトリーダー)が使用されている(たとえば特許文献3、4参照)。特許文献3には、効率的に試験片の検査を行うために、試験片の確認用試薬固定部(コントロールライン)の呈色状態に基づいて反応が完了していることを判断し、予め設定された反応完了時間を待つことなく効率的に測定を行うことが開示されている。また、特許文献4には、呈色状態の変化率が所定の値を下回る反応の安定期になったことを検出し、判定が可能な状態になったことを検出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−139256号公報
【特許文献2】特開2007−64766号公報
【特許文献3】特開2009−133813号公報
【特許文献4】特開2007−40939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した測定方法により被検物質の定量的または定性的な測定が可能になるまでの時間は、検体溶液中の被検物質の量や検体溶液の粘度によって異なる。また、増感処理が不要な検体もあれば増感処理が必要な検体溶液も存在する。このように、試験片毎に測定に必要な時間が異なるためこれらすべての試験片について使用者が反応完了時間を把握するのは難しく、作業効率の低下を招くという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、検査の作業効率を向上させることができる呈色測定装置および方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による呈色測定装置は、検体溶液が展開される展開層と、展開層に形成された検体溶液中の被験物質に反応し呈色するテスト領域と、検体溶液が通過することにより呈色するコントロール領域とを有する試験片の呈色状態を測定する呈色測定装置であって、テスト領域およびコントロール領域の呈色状態を濃淡値として複数回読み取る読取手段と、読取手段により複数回読み取られたテスト領域の濃淡値から単位時間当たりの濃淡変化率を算出する変化率算出手段と、変化率算出手段により算出された濃淡変化率に基づいてテスト領域が所定の設定濃淡値になるまでの時間を推定完了時間として算出する完了時間推定手段と、テスト領域またはコントロール領域の濃淡値もしくは濃淡変化率に基づいて、テスト領域の呈色状態を増感させる増感溶液を展開層上に展開させる増感処理を行うか否かを判断する増感判断手段と、増感判断手段において増感処理が必要であると判断された場合、テスト領域の呈色状態を増感させる増感溶液を展開層上に展開させる増感処理手段と、増感判断手段において増感処理が必要であると判断された場合、測定項目に応じて予め設定された設定完了時間と増感処理に必要な増感処理時間とを加算して呈色状態に基づく被検物質の定量的または定性的な判断が可能な判定可能時間を算出し、増感処理の必要がないと判断された場合、推定完了時間を判定可能時間として算出する時間管理手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0009】
本発明の呈色測定方法は、検体溶液が展開される展開層と、展開層に形成された検体溶液中の被験物質に反応し呈色するテスト領域と、検体溶液が通過することにより呈色するコントロール領域とを有する試験片の呈色状態を測定する呈色測定方法であって、テスト領域およびコントロール領域の呈色状態を濃淡値として複数回読取り、複数回読み取ったテスト領域の濃淡値から単位時間当たりの濃淡変化率を算出し、算出した濃淡変化率に基づいてテスト領域が所定の設定濃淡値になるまでの時間を推定完了時間として算出し、テスト領域またはコントロール領域の濃淡値もしくは濃淡変化率に基づいて、テスト領域の呈色状態を増感させる増感溶液を展開層上に展開させる増感処理を行うか否かを判断し、増感処理が必要であると判断された場合、測定項目に応じて予め設定された設定完了時間と増感処理に必要な増感処理時間とを加算し、呈色状態による被検物質の定量的または定性的な判断が可能な判定可能時間を算出し、増感処理の必要がないと判断された場合、推定完了時間を判定可能時間として算出することを特徴とするものである。
【0010】
ここで、試験片は、テスト領域およびテスト領域が被検物質の存在により呈色状態になるものであればなんでもよく、たとえばクロマトグラフィ、特に抗原抗体反応を利用したイムノアッセイをクロマトグラフィに応用したイムノクロマトグラフィ法を用いたものであってもよい。さらに、テスト領域およびコントロール領域のパターン形状は問わず、たとえばライン状に形成されていてもよいし、所定のパターンを有するものであってもよい。
【0011】
また、呈色状態とは、被検物質によりテスト領域が発色もしくは変色する、もしくは検体溶液によりコントロール領域が発色もしくは変色するものであればよく、濃淡値は呈色状態の発色強度もしくは変色度合いを表すものであればよい。そして、読取手段は、呈色状態を濃淡値として読み取るものであればその構成を問わず、たとえば撮像素子を用いて試験片を画像として取得するものであってもよいし、試験片に光を照射しその反射光を受光する受光素子からなるものであってもよい。また、読取手段は、呈色状態の濃度変化を濃淡値として読み取るものであってもよいし、所定の波長の光(蛍光)の強度を濃淡値として読み取るものであってもよい。
【0012】
なお、呈色測定装置は、コントロール領域の濃淡値が規定時間以内に設定濃淡値以上になったか否かを検出するエラー検出手段をさらに備えたものであってもよい。エラー検出手段は、コントロール領域の濃淡値が設定濃淡値未満であると判定した場合に異常である旨を出力して呈色測定を中止するようにしてもよい。一方、コントロール領域の濃淡値が設定濃淡値以上である場合、変化率算出手段がテスト領域の濃淡変化率の計測を開始するものであってもよい。
【0013】
また、呈色読取装置は、呈色状態の判定が可能な判定可能時間を算出する時間管理手段を更に備えたものであってもよい。そして、時間管理手段は、増感判断手段において増感処理の必要がないと判断された場合、推定完了時間を判定可能時間とし、増感判断手段において増感処理が必要であると判断された場合、設定完了時間に増感処理に必要な増感処理時間を加算して判定可能時間を算出するものであってもよい。
【0014】
さらに、完了時間推定手段は、テスト領域およびコントロール領域以外のバックグランド領域の濃淡値に基づいて所定の設定濃淡値を修正する機能を有するものであってもよい。
【0015】
また、増感処理手段は、テスト領域の呈色状態を増感させるものであればその方法を問わず、たとえばテスト領域上の抗原−抗体の結合体に対し金属イオンを結合させる方法等公知の技術を用いることができる。
【0016】
さらに、増感判断手段は、増感処理の要否を判断するものであればその手法を問わず、たとえばテスト領域およびコントロール領域の所定時間経過後の濃淡値が一定の閾値を超えているか否かによって増感処理の要否を判断するものであってもよい。あるいは、増感判断手段は、完了時間推定手段により推定された推定完了時間が予め設定された設定完了時間よりも長い場合には増感処理を行うと判断し、推定完了時間が設定完了時間以下である場合には増感処理が不要であると判断するものであってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の呈色測定装置および方法によれば、検体溶液が展開される展開層と、展開層に形成された検体溶液中の被験物質に反応し呈色するテスト領域と、検体溶液が通過することにより呈色するコントロール領域とを有する試験片の呈色状態を測定するものであって、テスト領域およびコントロール領域の呈色状態を濃淡値として複数回読取り、複数回読み取ったテスト領域の濃淡値から単位時間当たりの濃淡変化率を算出し、算出した濃淡変化率に基づいてテスト領域が所定の設定濃淡値になるまでの時間を推定完了時間として算出し、読取手段により読み取られたテスト領域またはコントロール領域の濃淡値もしくは濃淡変化率に基づいて、テスト領域の呈色状態を増感させる増感溶液を展開層上に展開させる増感処理を行うか否かを判断し、増感処理が必要であると判断された場合、測定項目に応じて予め設定された設定完了時間と増感処理に必要な増感処理時間とを加算して呈色状態による被検物質の定量的または定性的な判断が可能な判定可能時間を算出し、増感処理の必要がないと判断された場合、推定完了時間を判定可能時間として算出することにより、検体溶液の粘性による反応速度の違い、検体溶液中の被検物質の量の違い、増感処理の要否等の様々な試験片の個体差に合わせて判定可能時間を精度良く管理することができるため、検査のための作業効率を向上させることができる。
【0018】
なお、コントロール領域の濃淡値が規定時間以内に設定濃淡値以上になったか否かを検出するエラー検出手段をさらに備え、エラー検出手段がコントロール領域の濃淡値が設定濃淡値未満であると判定したときに異常である旨を出力して呈色測定を中止するものであり、変化率算出手段が、コントロール領域の濃淡値が設定濃淡値以上である場合、テスト領域の濃淡変化率の計測を開始するものであるとき、検体溶液の粘度が高すぎる等により正常な測定が行うことができないことを事前に察知してエラー出力を行い、測定作業の効率化を図ることができる。
【0019】
また、完了時間推定手段が、テスト領域およびコントロール領域以外のバックグランド領域の濃淡値に基づいて所定の設定濃淡値を修正する機能を有するものであれば、いわゆるバックグランド補正により精度良く推定完了時間を推定することができる。
【0020】
さらに、時間管理手段により管理されている判定可能時間を出力する情報出力手段をさらに備えたものであるとき、検体溶液の固体差により検査に要する時間にばらつきが生じた場合であっても使用者が容易に判定可能時間を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の呈色測定装置の好ましい実施形態を示す模式図
【図2】本発明の呈色測定装置において用いられる試験片の一例を示す模式図
【図3】本発明の呈色測定装置において用いられる試験片の一例を示す模式図
【図4】本発明の呈色測定装置の好ましい実施形態を示すブロック図
【図5】コントロール領域の濃淡値の時間変化の一例を示すグラフ
【図6】テスト領域の濃淡値の時間変化の一例を示すグラフ
【図7】本発明の呈色測定方法の好ましい実施形態を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明の呈色測定装置1の概略構成図である。呈色測定装置1は、たとえばイムノクロマトグラフィ技術を利用して被検物質の検出を行う試験片10の読取りを行うものであって、筐体2、デバイス挿入口3、情報出力手段4等を備えている。そして、検体溶液が点着された試験片がデバイス挿入口3に挿入され、試験片10において生じる呈色反応を光学的に読み取り、読取結果が情報入出力手段4に出力される。情報入出力手段4はたとえば液晶タッチパネルからなるオペレーションパネルであって、使用者はオペレーションパネルを介して測定のための基本的な設定を入力することができる。
【0023】
図2および図3は呈色測定装置1により読み取られる試験片10の一例を示す模式図である。なお、試験片10として、たとえば特開2009−139256号公報、特開2007−64766号公報等公知の技術を用いることができる。試験片10は、イムノクロマトグラフィ法を用いて被検物質の定量的もしくは定性的(陰性/陽性)の検査を行うためのデバイスであって、被検物質(所定の抗原)を視認可能に標識化するものである。この試験片10には被検物質が存在する可能性のある検体と標識化物質(第2抗体)とを混合させた検体溶液が点着される。
【0024】
試験片10は、上ケース10A、下ケース10B、展開層12を有しており、上ケース10Aおよび下ケース10B内に展開層12が収容されている。上ケース10Aには外部から検体溶液を展開層12に点着するための貫通孔11と増感液を展開層12に点着するための貫通孔14とが形成されている。一方、下ケース10Bには展開層12が固定されており、被検物質の定量的または定性的な測定を観察するための観察窓10Zが形成されている。さらに、下ケース10Bの表面には検体を識別情報(氏名等)や反応に必要な時間情報等を記録した文字情報、バーコード、ICタグ等の情報記憶手段15が設けられている。
【0025】
展開層12はたとえばセルロース濾紙、硝子繊維、ポリウレタン等の吸収剤からなっており、点着された検体溶液は毛細管現象により一定の方向に流れる。展開層12にはテスト領域TLとコントロール領域CLとが形成されている。テスト領域TLは、被検物質(抗体)に対して特異性を有する第1抗体がライン状に固定されたものであって(テストライン)、被検物質の存在により第1抗体−被検物質−第2抗体の結合体が形成されライン状に呈色する。一方、コントロール領域CLは、標識化抗体に反応する参照用抗原(もしくは抗体)が固定されており、検体溶液中の標識化抗体と反応しライン状に呈色する。したがって、コントロール領域CLの呈色状態を確認することにより、検体溶液がテスト領域TLおよびコントロール領域CL上を通過したか否かを判断することができる。
【0026】
さらに、試験片10は、テスト領域TLおよびコントロール領域CLを上下方向(検体溶液の流路に略直交する方向)に挟むように、テスト領域TLおよびコントロール領域CLを洗浄するための洗浄液の流路を形成する洗浄層13a、13bを備えている。洗浄層13a、13bは、展開層12と同様の材料からなるものであって、洗浄層13a側には洗浄液が貯蔵されている(図示せず)。そして、テスト領域TLおよびコントロール領域CLにおける反応が完了した後に、洗浄層13aが呈色測定装置1から押圧される。すると、毛細管現象によって洗浄液が洗浄層13aから洗浄層13b側へ流れ、洗浄層13aと13bとの間に存在するテスト領域TLおよびコントロール領域CLに洗浄液が流れる。これにより、テスト領域TLおよびコントロール領域CL上の免疫複合体を形成しなかった標識化抗体が除去される。
【0027】
また、上ケース10Aには増感処理手段26から金属イオン(銀コロイド等)を含有する増感液を展開層12に展開させるための貫通孔14が形成されている。そして、洗浄液による洗浄後に増感液が展開層12上に展開することにより、金属イオンがテスト領域TLおよびコントロール領域CL上の免疫複合体に付着し、呈色状態が増感される。
【0028】
図4は本発明の呈色測定装置の好ましい実施形態を示すブロック図である。図3の呈色測定装置1は、読取手段21、エラー検出手段22、変化率算出手段23、完了時間推定手段24、増感判断手段25、増感処理手段26、時間管理手段27等を備えている。
【0029】
読取手段21は、観察窓10Zからテスト領域TLおよびコントロール領域CLの呈色状態を濃淡値として読み取るものであって、たとえばCCDやCMOS等の撮像素子からなっている。なお、読取手段21は、グレースケール値を濃淡値として読み取るものであってもよいし、RGBの各成分値を濃淡値として読み取るものであってもよいし、蛍光等の所定の色(波長成分)の強弱を濃淡値として読み取るものであってもよい。さらに、読取手段21は撮像素子からなる場合に限らず、観察窓から生じる反射光や蛍光を受光する受光素子からなるものであってもよい。
【0030】
エラー検出手段22は、読取手段21により読み取られるコントロール領域CLの濃淡値D1に基づいて測定が正常に行うことが可能な状態であるかを判定するものである。具体的には、図5に示すように、エラー検出手段22はコントロール領域CLの濃淡値D1が試験片10の装填時から規定時間Tref内に第1設定濃淡値D1ref以上になったか否かを判定する。そして、コントロール領域CLの濃淡値D1が第1設定濃淡値D1ref未満である場合、エラー検出手段22は異常である旨を情報出力手段4に出力する。つまり、コントロール領域CLの濃淡値D1が規定時間内に設定濃淡値D1refに達しなかった場合、検体溶液の粘性が高く想定する流速が得られない等の不具合が生じたことを意味する。この場合にはエラー検出手段22が異常である旨を出力することにより、使用者は検体溶液の希釈等を行い早期に再検査を開始することができる。
【0031】
図4の変化率算出手段23は、コントロール領域CLの濃淡値D1が第1設定濃淡値D1ref以上になった場合に、テスト領域TLの単位時間当たりの濃淡変化率αを計測するものである。図6はテスト領域TLの濃淡値変化の一例を示すグラフである。図6において、変化率算出手段23は、時刻Ta(=Tref)のテスト領域TLの濃淡値D2aと、時刻Taから所定の時間(たとえば120秒)だけ経過した時刻Tbの濃淡値D2bとを測定する。そして、変化率算出手段23は、濃淡値D2a、D2bおよび所定時間(Tb−Ta)から単位時間当たりの濃淡変化率α(=(D2b−D2a)/(Tb−Ta))を算出する。なお、濃淡変化率αの測定を開始する時刻Ta=Trefである場合について例示しているが、コントロール領域CLのコントロール領域CLの濃淡値D1が設定濃淡値D1ref以上になった時刻Ta=T1(図5参照)として濃淡変化率αの計測を開始するようにしてもよい。
【0032】
図4の完了時間推定手段24は、変化率算出手段23により算出された濃淡変化率αに基づいてテスト領域TLが第2設定濃淡値D2refになるまでの時間を推定完了時間ETとして算出するものである。特に、完了時間推定手段24は、コントロール領域およびテスト領域以外のバックグランド領域BR(図2参照)の流路濃淡値を取得し、流路濃淡値に基づいて第2設定濃淡値D2refを変化させる機能を有していてもよい(バックグランド補正)。なお、上述した第1設定濃淡値D1refと第2設定濃淡値D2refとは同一の値であってもよいし、異なる値であってもよい。
【0033】
なお、第1設定濃淡値D1ref、規定時間Tref、第2設定濃淡値D2ref、設定完了時間SPrefは、装置1内に予め設定されたものであってもよいし、情報入出力手段4から入力されたものであってもよい。さらには、バーコードリーダー、ICリーダ等の情報読取手段24aを用いて試験片10の情報記憶手段15から読み出されたものであってもよい。
【0034】
増感判断手段25は、読取手段21により読み取られたテスト領域TLまたはコントロール領域CLの濃淡値D1、D2もしくは濃淡変化率αに基づいて、増感処理を行うか否かを判断するものである。たとえば、増感判断手段25は、濃淡変化率αに基づいて算出された推定完了時間ETが測定項目に応じて予め設定された設定完了時間SPrefよりも長い場合(ET>SPref)には増感処理を行うと判断し、推定完了時間ETが設定完了時間SPref以下である場合(ET≦SPref)には増感処理が不要であると判断する。すなわち、検体溶液の一定の流速条件下において、テスト領域TL上の抗原抗体反応による結合体の量は時間に比例して変化するものであり、これに伴いテスト領域TL上の濃淡値D2も時間に比例して変化する。これを利用し、テスト領域TLの濃淡値D2が濃淡変化率αに基づいて第2設定濃淡値D2refに達する推定完了時間ETを求めると共に、増感処理の要否を判断する。
【0035】
そして、推定完了時間ETが設定完了時間SPrefよりも短い場合には、精度の高い測定に必要十分な呈色(濃淡値)が得られることを意味するため、増感処理を行わない。一方、推定完了時間ETが設定完了時間SPrefよりも長い場合には精度の高い測定に必要十分な呈色(濃淡値)が得られないことを意味するため増感処理を行う。そして、増感判断手段25において増感処理が必要であると判断された場合、洗浄層13a、13bを用いた洗浄が行われた後に、増感処理手段26が呈色状態を増感させる増感溶液を展開層12上に展開させる(図2参照)。
【0036】
時間管理手段27は、測定開始から呈色状態に基づき被検物質の定量的もしくは定性的な判定が可能になるまでの判定可能時間を管理するものである。ここで、時間管理手段27は、試験片10が呈色測定装置1に装填された後、設定完了時間SPref(たとえば10分)を図1に示すような情報出力手段4に判定可能時間として設定完了時間SPrefをカウントダウン形式で表示させる。また、増感判断手段25において増感処理の必要がないと判断された場合、推定完了時間ETを判定可能時間として情報出力手段4の表示を更新する。一方、増感判断手段において増感処理が必要であると判断されたとき、設定完了時間SPrefに増感処理に必要な増感処理時間(洗浄と増感剤の展開とに必要な時間)APrefを加算して判定可能時間を求め、情報出力手段4の表示を更新する。
【0037】
このように、増感処理の要否、検体の個体差(粘性)、検体内の被検物質の含有量等により試験片10毎に判定が可能になるまでに要する時間にばらつきが生じる場合であっても、各試験片10の判定に必要な時間を試験片毎に割り出し使用者に伝達することができるため、使用者の作業効率を向上させることができる。すなわち、被検物質が多い検体溶液については、増感処理時間APrefや設定完了時間SPrefの経過を待たずに、定量的または定性的な測定を行うことができ、その旨を使用者に伝達することができる。また、被検物質が少ない検体溶液については、増感処理を行うことにより精度良く定量的または定性的な測定を行うことができ、その旨を使用者に伝達することができる。このように、検体の固体差に合わせてそれぞれ必要な処理時間を事前に把握し、使用者に出力することができるため、使用者の作業効率の向上を図ることができる。
【0038】
図7は本発明の呈色測定方法の好ましい実施形態を示すフローチャートであり、図1から図7を参照して呈色読取方法について説明する。まず、図2および図3に示す試験片10の展開層12に対し検体が点着され(ステップST1)、この試験片が呈色測定装置1の挿入口3に挿入される(ステップST2)。すると、呈色測定装置1において試験片10が装着されたことを検出して測定が開始され、設定完了時間SPrefがカウントダウン形式で情報出力手段4に表示される(ステップST3)。
【0039】
試験片10が装着された後に読取手段21によるコントロール領域CLの濃淡値の読取りが開始される。その後、エラー検出手段22において試験片の装填から規定時間Trefまでにコントロール領域の濃淡値D1が第1設定濃淡値D1ref以上になったか否かが判定される(ステップST4)。規定時間Trefが経過後に濃淡値D1が設定濃淡値D1ref未満である場合、正常な検査が行うことができないとしてエラーを出力する。
【0040】
一方、コントロール領域CLの濃淡値D1が第1設定濃淡値D1ref以上である場合、変化率算出手段23においてテスト領域TLの濃淡変化率αが算出される(ステップST5)。その後、完了時間推定手段24により推定完了時間ETが濃淡値D2a、D2bおよび濃淡変化率αに基づいて算出される(ステップST6、図6参照)。
【0041】
さらに、増感判断手段25において推定完了時間ETが設定完了時間SPref以上であるか否かが判定される(ステップST7)。推定完了時間ETが設定完了時間SPrefより長い場合(ET>SPref)、増感処理が必要であると判断される。すると、時間管理手段27において設定完了時間SPrefと増感処理時間APrefとを合算した判定可能時間が算出され(ステップST8)、情報出力手段4に更新表示される(ステップST9)。その後、洗浄処理および増感処理手段26により増感処理が行われ(ステップST10)、増感処理後に被検物質の定量的または定性的な測定が行われる。
【0042】
一方、推定完了時間ETが設定完了時間SPref以下である場合(ET≦SPref)、増感処理を行わなくても判定が可能であると判断する。そして、判定可能時間が推定完了時間ETであるとして(ステップST11)、情報出力手段4において表示されている時間が更新される(ステップST12)。その後、推定完了時間ETの経過後に被検物質の定量的または定性的な測定が行われる。
【0043】
上記実施の形態によれば、検体溶液が展開される展開層12と、展開層12に形成された検体溶液中の被験物質に反応し呈色するテスト領域TLと、検体溶液が通過することにより呈色するコントロール領域CLとを有する試験片の呈色状態を測定するものであって、テスト領域TLおよびコントロール領域CLの呈色状態を濃淡値D1、D2として複数回読取り、複数回読み取ったテスト領域TLの濃淡値D2a、D2bから単位時間当たりの濃淡変化率αを算出し、算出した濃淡変化率αに基づいてテスト領域TLが所定の設定濃淡値D2refになるまでの時間を推定完了時間ETとして算出し、テスト領域TLまたはコントロール領域CLの濃淡値D1、D2もしくは濃淡変化率αに基づいて、テスト領域TLの呈色状態を増感させる増感溶液を展開層12上に展開させる増感処理を行うか否かを判断し、増感処理が必要であると判断された場合、設定完了時間SPrefに増感処理に必要な増感処理時間APrefを加算し、呈色状態による被検物質の定量的または定性的な判断が可能な判定可能時間を算出し、増感処理の必要がないと判断された場合、推定完了時間ETを判定可能時間として算出することにより、検体溶液の粘性による反応速度の違い、検体溶液中の被検物質の量の違い、増感処理の要否等の様々な試験片10の個体差に合わせて判定可能時間を精度良く管理することができるため、検査のための作業効率を向上させることができる。
【0044】
また、図4、図5に示すように、コントロール領域CLの濃淡値D1が規定時間Tref以内に設定濃淡値D1ref以上になったか否かを検出するエラー検出手段22をさらに備え、エラー検出手段22がコントロール領域CLの濃淡値D1が設定濃淡値D1ref未満であると判定したときに異常である旨を出力して呈色測定を中止するものであり、変化率算出手段23が、コントロール領域CLの濃淡値D1が設定濃淡値D1ref以上である場合、テスト領域TLの濃淡変化率αの計測を開始するものであるとき、検体溶液の粘度が高すぎる等により正常な測定が行うことができないことを事前に察知してエラー出力を行い、測定作業の効率化を図ることができる。
【0045】
また、完了時間推定手段24が、テスト領域TLおよびコントロール領域CL以外のバックグランド領域BRの濃淡値に基づいて所定の設定濃淡値D2refを修正する機能を有するものであれば、いわゆるバックグランド補正により精度良く推定完了時間を推定することができる。
【0046】
さらに、時間管理手段27により管理されている判定可能時間を出力する情報出力手段4をさらに備えたものであるとき、検体溶液の固体差による検査に要する時間にばらつきが生じた場合であっても使用者が容易に判定可能時間を把握することができる。
【0047】
本発明の実施形態は上記実施形態に限定されない。たとえば、上記実施の形態において、試験片は1本の判定ラインを有する場合について例示しているが、2本以上のテスト領域TLを有するものであってもよい。
【0048】
また、時間管理手段27は、時間をカウントダウン形式で表示する場合について例示しているが、時間を表示するだけでなく判定可能時間経過後にブザー等の音声を出力するようにしてもよい。さらに、時間管理手段27は、試験片10の装填後に設定完了時間SPrefを表示し、増感要否判断後に表示を更新する場合について例示しているが、増感要否判断までは時間を表示せず、増感要否判断終了後に判定可能時間を表示するようにしてもよい。このとき、増感処理が不要であると判断された場合には、推定完了時間ETから規定時間Tref(もしくはT1)が減算された時間がカウントダウン形式で表示され、増感処理が必要であると判断された場合には、設定完了時間SPrefから規定時間Tref(もしくはT1)を減算した時間と増感処理時間APrefとを加算した時間がカウントダウン形式で表示される。
【0049】
さらに、図4の増感判断手段25は、推定完了時間ETに基づいて増感処理の要否を判断している場合について例示しているが、たとえば特願2009−226010号に開示されているように、テスト領域およびコントロール領域の濃淡値が所定時間経過時に所定の閾値を超えていれば増感処理が不要であると判断し、いずれか1つの領域でも所定の閾値を超えていなければ増感処理が必要であると判断するようにしてもよい。あるいは、増感判断手段25は、濃淡変化率αが閾値を超えていれば増感処理が不要であると判断し、いずれか1つの領域でも所定の閾値を超えていなければ増感処理が必要であると判断するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 呈色測定装置
10 試験片
12 展開層
13 洗浄層
21 読取手段
22 エラー検出手段
23 変化率算出手段
24 完了時間推定手段
25 増感判断手段
26 増感処理手段
27 時間管理手段
ET 推定完了時間
APref 増感処理時間
SPref 設定完了時間
CL コントロール領域
TL テスト領域
α 濃淡変化率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体溶液が展開される展開層と、該展開層に形成された前記検体溶液中の被験物質に反応し呈色するテスト領域と、前記検体溶液が通過することにより呈色するコントロール領域とを有する試験片の呈色状態を測定する呈色測定装置であって、
前記テスト領域および前記コントロール領域の呈色状態を濃淡値として複数回読み取る読取手段と、
該読取手段により複数回読み取られた前記テスト領域の前記濃淡値から単位時間当たりの濃淡変化率を算出する変化率算出手段と、
該変化率算出手段により算出された前記濃淡変化率に基づいて前記テスト領域が所定の設定濃淡値になるまでの時間を推定完了時間として算出する完了時間推定手段と、
前記読取手段により読み取られた前記テスト領域または前記コントロール領域の前記濃淡値もしくは前記濃淡変化率に基づいて、前記テスト領域の呈色状態を増感させる増感溶液を前記展開層上に展開させる増感処理を行うか否かを判断する増感判断手段と、
該増感判断手段において前記増感処理が必要であると判断された場合、前記増感溶液を前記展開層上に展開させる増感処理手段と、
前記増感判断手段において増感処理が必要であると判断された場合、前記測定項目に応じて予め設定された設定完了時間と前記増感処理に必要な増感処理時間とを加算して前記呈色状態に基づく前記被検物質の定量的または定性的な判断が可能な判定可能時間を算出し、増感処理の必要がないと判断された場合、前記推定完了時間を前記判定可能時間として算出する時間管理手段と
を備えたことを特徴とする呈色測定装置。
【請求項2】
前記コントロール領域の濃淡値が規定時間以内に設定濃淡値以上になったか否かを検出するエラー検出手段をさらに備え、
該エラー検出手段が前記コントロール領域の前記濃淡値が前記設定濃淡値未満であると判定したときに異常である旨を出力して呈色測定を中止するものであり、
前記変化率算出手段が、前記コントロール領域の前記濃淡値が前記設定濃淡値以上である場合、前記テスト領域の前記濃淡変化率の計測を開始するものであることを特徴とする請求項1記載の呈色測定装置。
【請求項3】
前記完了時間推定手段が、前記テスト領域および前記コントロール領域以外のバックグランド領域の前記濃淡値に基づいて前記所定の設定濃淡値を修正する機能を有するものであることを特徴とする請求項1または2記載の呈色測定装置。
【請求項4】
前記増感判断手段が、前記濃淡変化率に基づいて算出された前記推定完了時間が前記設定完了時間よりも長い場合には増感処理を行うと判断し、前記推定完了時間が前記設定完了時間以下である場合には増感処理が不要であると判断するものであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の呈色測定装置。
【請求項5】
前記時間管理手段により管理されている前記判定可能時間を出力する情報出力手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の呈色測定装置。
【請求項6】
検体溶液が展開される展開層と、該展開層に形成された前記検体溶液中の被験物質に反応し呈色するテスト領域と、前記検体溶液が通過することにより呈色するコントロール領域とを有する試験片の呈色状態を測定する呈色測定方法であって、
前記テスト領域および前記コントロール領域の呈色状態を濃淡値として複数回読取り、
複数回読み取った前記テスト領域の前記濃淡値から単位時間当たりの濃淡変化率を算出し、
算出した前記濃淡変化率に基づいて前記テスト領域が所定の設定濃淡値になるまでの時間を推定完了時間として算出し、
前記テスト領域または前記コントロール領域の前記濃淡値もしくは前記濃淡変化率に基づいて、前記テスト領域の呈色状態を増感させる増感溶液を前記展開層上に展開させる増感処理を行うか否かを判断し、
増感処理が必要であると判断された場合、前記測定項目に応じて予め設定された設定完了時間と前記増感処理に必要な増感処理時間とを加算し、前記呈色状態による前記被検物質の定量的または定性的な判断が可能な判定可能時間を算出し、増感処理の必要がないと判断された場合、前記推定完了時間を前記判定可能時間として算出する
ことを特徴とする呈色測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−174865(P2011−174865A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40294(P2010−40294)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】