説明

周期分極反転用電極及び周期分極反転素子の製造方法

【課題】バルク型の周期分極反転素子において、周期分極反転領域の一層の大口径化を図る。
【解決手段】本発明の周期分極反転用電極1は、強誘電体単結晶基材の一主面上に間隔をおいて横並びに配列される複数の電極片101よりなる配列電極群10と、この配列電極群10を構成する各電極片101にそれぞれ接続されて各電極片101に給電する給電用電極11とを備えている。給電用電極11は、複数の電極片101の配列方向に対して傾斜して延びている。配列電極群10を構成する複数の電極片101の全部又は大部分において、電極片101の両端部101a、101aから中央部に向かって強誘電単結晶基材に分極反転領域を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周期分極反転用電極、及びにこの周期分極反転用電極を用いてZカット又はZオフカットの強誘電体単結晶基材内に周期分極反転構造を形成する周期分極反転素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周期分極反転素子は、非線形光学に基づく波長変換により、レーザー光のコヒーレンス特性を損なわずにレーザー光の発振波長を高効率に変換することができる。この周期分極反転素子においては、周期分極反転構造の領域をレーザー光が透過するときに、擬似位相整合(QPM:Quasi−Phase−Matching)により例えば第2高調波が発生する。第2高調波(SHG:Second Harmonic Generation)は、入射したレーザー光に対して、2倍の周波数、1/2の波長となっている。このため、半導体レーザー等からのレーザー光を周期分極反転素子に入射させれば、その入射レーザー光に対して1/2の波長を有する短波長のレーザー光を出射させることができる。
【0003】
かかる波長変換特性を有する周期分極反転素子の応用範囲は多岐にわたる。例えば、光情報処理や光応用計測制御の分野において、可視波長領域の光線を用いる光ディスクやレーザーディスプレイ用光源等に周期分極反転素子を応用したり、中赤外波長領域の光線を用いる分子分光や環境計測等に周期分極反転素子を応用したりすることができる。
【0004】
このような周期分極反転素子は、例えば周期分極反転用電極を用いた電圧印加法により、ニオブ酸リチウム(LN:LiNbO)やタンタル酸リチウム(LT:LiTaO)等の強誘電体単結晶基板内に周期分極反転構造を形成することにより製造される。すなわち、周期分極反転素子における周期分極反転構造は、強誘電性を有する非線形光学結晶の自発分極の方向を周期的に反転させることで形成される。
【0005】
この周期分極反転用電極を用いた電圧印加法では、強誘電体単結晶基板の一主面上に多数の電極片を所定の配列周期で横並びに配列させる。なお、後述するXカットタイプやYカットタイプの強誘電体単結晶基板に周期分極反転構造を形成する場合は、強誘電体単結晶基板の一主面上に所定の配列周期で横並びに配列された多数の電極片と対向するように、強誘電体単結晶基板の該一主面上及び裏面に一様な平板状の第2及び第3の電極を配設する。一方、後述するZカットタイプの強誘電体単結晶基板に周期分極反転構造を形成する場合は、強誘電体単結晶基板の一主面上に所定の配列周期で横並びに配列された多数の電極片と対向するように、強誘電体単結晶基板の裏面に一様な平板状の第2の電極を配設する。そして、これらの電極に電圧を印加して、強誘電体単結晶基板の自発分極と反対方向に電界をかける。これにより、強誘電体単結晶基板の自発分極方向と逆方向に分極した分極反転領域が、各電極片に対応する部位に形成される。その結果、分極方向が元の自発分極方向となっている分極非反転領域と、自発分極方向とは逆方向に分極した分極反転領域とが交互に配列してなる周期状分極反転構造が形成される。
【0006】
なお、周期分極反転素子を透過する光は、分極非反転領域及び分極反転領域の配列方向と平行又は略平行な方向に進行する。また、分極非反転領域及び分極反転領域の反転周期を選定することで、位相整合波長を選定して動作波長を自由に設定することができる。
【0007】
従来、電圧印加法に用いる周期分極反転用電極として、図6に示されるように、櫛型の周期分極反転用電極80が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0008】
この櫛型の周期分極反転用電極80においては、同一の形状及び大きさをもつ多数の電極片81が一定の配列周期Dで横並びに配列されており、これらの電極片81の基端部が帯状に延びる共通の給電用電極82により連結されている。
【0009】
ここに、強誘電体単結晶基板としては、基板の主面に対する結晶軸の方向により、Xカット、Yカット、Zカットと称されるタイプに大別される。なお、Xカットタイプの強誘電体単結晶基板は、結晶のX軸が基板の主面に対して直角となるようにカットされている。Yカットタイプの強誘電体単結晶基板は、結晶のY軸が基板の主面に対して直角となるようにカットされている。Zカットタイプの強誘電体単結晶基板は、結晶のZ軸が基板の主面に対して直角となるようにカットされている。また、強誘電体単結晶基板においては、結晶のZ軸方向に分極しており、結晶のZ軸方向と分極方向とが一致している。
【0010】
これらのうちXカットタイプやYカットタイプの強誘電体単結晶基板の場合は、電圧印加による分極反転部が単結晶基板の表層部に形成される。このため、XカットタイプやYカットタイプの強誘電体単結晶基板は導波路型の周期分極反転素子の製造に適する。特許文献1や特許文献2に開示されているのは、このタイプである。
【0011】
一方、Zカットタイプの強誘電体単結晶基板の場合は、単結晶基板の厚さ方向に分極しており、電圧印加による分極反転が単結晶基板の厚さ方向に沿って起こるため、光路が限定されないバルク型の周期分極反転素子の製造にも適する。このZカットタイプの強誘電体単結晶基板に周期分極反転構造を形成する場合においても、従来技術として櫛型の周期分極反転用電極等が用いられている点は同様である。
【特許文献1】特開2003−287779号公報
【特許文献2】特開2003−307757号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで近年、バルク型の周期分極反転素子(Zカットタイプの強誘電体単結晶基板を用いた周期分極反転素子)においては、大出力レーザーとの組合せや波長変換の効率向上等の関係で、周期分極反転領域の大口径化(即ち、レーザー入射方向に対して垂直な断面において周期分極反転領域の面積が大きいこと)が求められている。
【0013】
しかし、従来の櫛型の周期分極反転用電極等を用いる方法では、この要求に十分に応えることができないと言う問題があった。具体的には、従来の方法では、縦方向(基板厚さ方向)の厚さ及び横方向の幅が同じである周期分極反転領域を形成する場合、2mm角(縦方向の厚さ2mm×横方向の幅2mm)程度の口径の周期分極反転領域を有するバルク型周期分極反転素子の製造が実質的な限界であった。本願発明者の研究によれば、従来法におけるこのような問題の原因は次の点にある。
【0014】
図7(a)〜(c)は、従来の櫛型の周期分極反転用電極を用いた電圧印加法により周期分極反転構造を形成する様子を説明する断面図であり、図6におけるX1−X1線断面図に相当する。ただし、櫛型の周期分極反転用電極80はZカットタイプの強誘電体単結晶基板90の一主面90aに配設されており、強誘電体単結晶基板90の裏面90bには、周期分極反転用電極80に対向して、例えば平板状の一様な背面電極83が設置されている。
【0015】
図7(a)に示されるように、周期分極反転用電極80と背面電極83との間に必要な電圧を印加すると、電極のエッジ部に電荷が集中することで、電極片81の先端81aの部分から分極反転が始まり、その分極反転領域91が、まず基板90のZ軸方向(Zカットタイプの強誘電体単結晶基板90の厚さ方向で、図7(a)の矢印h1方向)へ伸長し、次いで図7(b)に示されるように、電極片81に沿って基板90の一主面90aの平面方向(矢印h2方向)へ伸長する。
【0016】
しかしながら、基板90の平面方向への分極反転領域91の拡張幅には一定の限界(限界幅WL)がある(図7(c)参照)。そのため、図7(a)〜(c)で示す場合における分極反転領域91の大口径化の限界は、図7(c)に示される分極反転領域91の最大拡張断面積における縦方向の厚さ(基板90の厚さ)と、分極反転領域91の最大拡張断面積における横方向の幅(WL)とによって規定される。分極反転領域91の断面積における縦方向の厚さは、一定の限界はあるものの、基板90の厚さの設定によって、ある程度調整できる。しかし、上述のとおり電極片81の先端81aの部分から始まる分極反転領域91の拡張幅には一定の限界幅WLがあるため、分極反転領域91の断面積における横方向の幅をWL以上に拡張することが困難である。
【0017】
なお、図7(a)に示されるように、基板90における給電用電極82の直下の部分でも、分極反転領域91aは形成される。しかし、給電用電極82は、電極片81の配列方向(図7(a)の紙面奥行き方向)に沿って帯状に延びており、周期配列構造とはなっていない。このため、給電用電極82の直下の部分では、分極非反転領域を残すことなく、電極片81の配列方向に連続して延びる分極反転領域91aが形成され、電極片81の配列方向において周期分極反転構造とはならない。したがって、給電用電極82の直下の部分に形成される分極反転領域91aは、レーザー光の波長を変換させるための領域として利用することができない。
【0018】
このようにバルク型の周期分極反転素子において、周期分極反転領域の実質的に有効な大口径化のためには、分極反転領域の縦方向(基板の厚さ方向)の厚さと同等に横方向の幅も大きくする必要があるところ、この大口径化は、実質的に分極反転領域91の限界幅WLに規定される。そして従来の技術では、実施条件によって幾分の差異はあるものの、例えば2mm角程度の口径の周期分極反転領域を有するバルク型周期分極反転素子を製造するのが精一杯であった。
【0019】
一方、図7に示す櫛型の周期分極反転用電極80の問題に対処するために、図8に示すような周期分極反転用電極84も想定できる。この周期分極反転用電極84においては、多数の電極片81が一定の配列周期Dで横並びに配列されるとともに、これらの電極片81の中央部が帯状に延びる共通の給電用電極82により連結されている。この場合、各電極片81の両先端81a、81a側から中央部へ向かってそれぞれ分極反転領域91が伸長するので、図7(c)で示す場合に準じて言うと、限界幅WLの2倍の幅の分極反転領域91を形成できるはずである。
【0020】
しかしこの場合には、各電極片81の中央部が給電用電極82で連結されている。そのため、分極反転領域91が限界幅WLの2倍に形成されたとしても、図8のX2−X2線断面図に相当する図9に示されるように、中央の分極反転領域91aは、各電極片81の配列方向(図9の紙面奥行き方向)へ向かい周期分極反転構造を持たない(レーザー光の波長を変換させるための領域として利用できない)部分となる。すなわち、周期分極反転構造自体が中央部に欠陥を持ってしまう。
【0021】
そこで本発明は、バルク型の周期分極反転素子において、周期分極反転領域の一層の大口径化を図ることを解決すべき技術課題とする。ここに「大口径化」とは、レーザー入射方向に対して垂直な方向の断面における周期分極反転領域の面積(口径)が大きいことを言う。
【課題を解決するための手段】
【0022】
(1)上記課題を解決する本発明の周期分極反転用電極は、強誘電体単結晶基材の一主面上に間隔をおいて横並びに配列される複数の電極片よりなる配列電極群と、該配列電極群を構成する各該電極片にそれぞれ接続されて各該電極片に給電する給電用電極とを備え、前記給電用電極は、複数の前記電極片の配列方向に対して傾斜して延びていることを特徴とする。
【0023】
本発明の周期分極反転用電極では、配列電極群を構成する各電極片にそれぞれ接続された給電用電極が電極片の配列方向に対して傾斜して延びている。このため、配列電極群を構成する複数の電極片の全部又は大部分において、電極片の端部よりも中央寄りの部位に給電用電極が接続されている。したがって、配列電極群を構成する複数の電極片の全部又は大部分において、電極片の両端部がそれぞれ電極端として機能する。よって、配列電極群を構成する複数の電極片の全部又は大部分において、電極片の両端部から中央部に向かって強誘電単結晶基材に分極反転領域を形成することができる。その結果、電極片の長さ方向、すなわち横方向(強誘電体単結晶基材の幅方向)において分極反転領域を従来の2倍程度に延ばすことができる。
【0024】
一方、強誘電単結晶基材における給電用電極の直下の部分では、隣接する電極片同士の間の部分(本来は分極非反転領域としたい部分)にも分極反転領域が形成される。このような余計な分極反転領域の部分だけをミクロに注目すれば、周期分極反転構造とはなっていない。しかしながら、本発明の周期分極反転用電極では、給電用電極が電極片の配列方向に対して斜め方向に、すなわちレーザー光の入射方向に対して斜め方向に配設されている。このため、余計な分極反転領域は、レーザー光の入射方向に対して順次オフセットされた位置に形成される。すなわち、余計な分極反転領域は、レーザー光の入射方向において、基材の幅方向に一定量又は略一定量ずつ順次ずれた位置に形成される。そのため、余計な分極反転領域は、周期分極反転素子の長さ方向(レーザー光の入射方向と平行)において均一又は略均一に分布するとともに、周期分極反転素子の幅方向においても均一又は略均一に分布する。その結果、周期分極反転素子としての使用時において、これらの余計な分極反転領域は、実質的に障害とならない。
【0025】
したがって、本発明の周期分極反転用電極を用いれば、実質的な欠陥部分の形成を伴うことなく、前記限界幅WLの2倍(2倍の値は単純計算によるもので、実際には限界幅w1の2倍以上となることもありうる)の幅の分極反転領域を形成することができ、周期分極反転領域の大口径化が可能となる。
【0026】
よって、本発明の周期分極反転用電極によれば、実施条件によって幾分の差異はあるが、周期分極反転領域が例えば5mm角程度に大口径化されたバルク型の周期分極反転素子を製造することが可能となる。
(2)前記(1)の構成において、前記給電用電極の配設形態が斜め一直線状であることが好ましい。ここに、「給電用電極の配設形態が斜め一直線状である」とは、斜め一直線状に延びる一直線上に給電用電極が配設されていることを意味する。
【0027】
この構成によると、強誘電単結晶基材における給電用電極の直下の部分に形成される前記余計な分極反転領域の部分は、電極片の配列方向、すなわちレーザー光の入射方向において基材の幅方向に一定量ずつ順次ずれた位置にある。そのため、余計な分極反転領域は、周期分極反転素子の長さ方向(レーザー光の入射方向と平行)において均一に分布するとともに周期分極反転素子の幅方向において均一に分布する。また、レーザー光の入射方向から見て、余計な分極反転領域が重なることがない。したがって、周期分極反転素子としての使用時において、余計な分極反転領域による障害を最小限に抑えることができる。
(3)前記(1)又は(2)の構成において、前記給電用電極は、前記配列電極群を構成する全ての前記電極片に対して、端部より中央寄りの部位で接続されていることが好ましい。
【0028】
この構成によると、配列電極群を構成する全ての電極片において、電極片の両端部が給電用電極に接続されていないので、電極片の各端部がそれぞれ電極端として機能する。このため、配列電極群を構成する全ての電極片において、電極片のそれぞれの端部から中央部に向かって強誘電単結晶基材に分極反転領域を形成することができる。したがって、配列電極群の配列方向の全範囲において、前記限界幅WLの2倍(2倍の値は単純計算によるもので、実際には限界幅WLの2倍以上となることもありうる)の幅の分極反転領域を形成することが可能となる。
(4)上記課題を解決する本発明の周期分極反転素子の製造方法は、Zカット又はZオフカットの強誘電体単結晶基材内に周期分極反転構造を形成して、周期分極反転領域を有するバルク型の周期分極反転素子を製造する方法であって、前記強誘電体単結晶基材の一主面上に、請求項1乃至3のいずれか一つに記載された周期分極反転用電極を設けるとともに、該強誘電体単結晶基材の該一主面と反対側の背面に該周期分極反転用電極と対向する背面電極を設け、該周期分極反転用電極と該背面電極との間に電圧を印加することにより、該強誘電体単結晶基材内に周期分極反転構造を形成することを特徴とする。
【0029】
すなわち、本発明の周期分極反転素子の製造方法では、前記構成(1)乃至(3)のいずれか一つを有する周期分極反転用電極を用いて、Zカット又はZオフカットの強誘電体単結晶基材内に周期分極反転構造を形成して、周期分極反転領域を有するバルク型の周期分極反転素子を製造する。
【0030】
したがって、本発明の周期分極反転素子の製造方法によれば、前述したように、実施条件によって幾分の差異はあるが、周期分極反転領域が例えば5mm角(縦5mm、横5mm)程度に大口径化されたバルク型の周期分極反転素子を製造することができる。このため、従来の周期分極反転素子と比較して、大出力レーザーとの組合せが容易となり、また波長変換の出力向上が可能となる。また、この素子を使用するに際しての位置合わせが容易になる。
(5)ここに、ニオブ酸リチウム(LN)又はタンタル酸リチウム(LT)よりなる強誘電体単結晶基材に対して電圧印加法により周期分極反転領域を形成する場合、かなり大きな印加電圧が必要とされる。このため、LN又はLTよりなる強誘電体単結晶基材に形成することのできる周期分極反転領域の厚さ(基材の厚さ方向、すなわち縦方向の厚さ又は高さ。以下、同様)は、従来、1mm程度が限界であった。これに対し、LN又はLTにマグネシウムを添加したMgLN又はMgLTよりなる強誘電体単結晶基材では、Mg添加により、分極反転に必要な印加電圧が小さくなる。このため、MgLN又はMgLTよりなる強誘電体単結晶基材に対しては、現在、厚さが5mm程度の周期分極反転領域を形成することが可能である
他方、周期分極反転素子で波長変換するレーザー光は、通常、真円の断面形状をもつビーム光である。このため、強誘電体単結晶基材に形成する周期分極反転領域は、通常、同程度の幅(横方向の幅)及び厚さを有するものである。
【0031】
以上より、周期分極反転領域の大口径化を図るためには、強誘電体単結晶基材としては、周期分極反転領域を基材の厚さ方向に延ばすのに有利なMgLN又はMgLTを採用し、かつ、その強誘電体単結晶基材に形成する周期分極反転領域の幅を如何に大きくするかが重要となる。ところが、従来の周期分極反転電極を用いた電圧印加法では、前述のとおり、周期分極反転領域の横方向の幅を拡張することには限界があるため、たとえMgLN又はMgLTよりなりかつ厚さが例えば5mmの強誘電体単結晶基材を採用したとして、レーザー光を波長変換するのに実質的に有効な範囲として形成することのできる周期分極反転領域の大きさは、せいぜい2mm角(厚さ2mm×幅2mm)程度であった。
【0032】
この点、本発明の周期分極反転用電極又は周期分極反転素子の製造方法によれば、前述のとおり、周期分極反転領域の幅を前記限界幅WLの2倍程度(場合によっては2倍以上)に延ばすことができる。
【0033】
したがって、本発明の周期分極反転用電極又は周期分極反転素子の製造方法によれば、以下に示すような、従来の技術によっては作り得なかった、新規な周期分極反転素子を製造することが可能となる。
【0034】
すなわち、本発明の周期分極反転素子は、Zカット又はZオフカットの強誘電体単結晶基材内に周期分極反転領域を有するバルク型の周期分極反転素子であって、前記強誘電体単結晶基材は、マグネシウムを含むニオブ酸リチウム又はマグネシウムを含むタンタル酸リチウムよりなり、かつ、3mm以上の厚さ(H)を有し、前記周期分極反転領域により波長変換されて出力される光の、前記強誘電体単結晶基材の幅方向における半値全幅が、2mmを超え、かつ、前記厚さ(H)の50〜90%であることを特徴とする。
【0035】
ここに、「半値全幅」とは、山形をなす分布をもつ曲線において、最大値の1/2に対応する分布の幅をいう。
【0036】
半値全幅が2mmを超え、かつ強誘電体単結晶基材の厚さ(H)の50〜90%である、本発明の周期分極反転素子において、例えば5mmの厚さ(H)を有する強誘電体単結晶基材を採用することにより、レーザー光を波長変換するのに実質的に有効な周期分極反転領域の範囲を最低でも4mm角程度とすることができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、バルク型の周期分極反転素子における周期分極反転構造を電圧印加法により形成する際に、その周期分極反転構造における周期分極反転領域を大口径化することが可能になる。このような大口径化バルク型素子は、光情報処理や光応用計測制御等の分野において、可視波長領域では光ディスク用光源やレーザーディスプレイ用光源等に、中赤外波長領域では分子分光や環境計測等に、それぞれ応用することができ、社会への新たな技術的貢献をもたらすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の周期分極反転用電極、周期分極反転素子の製造方法及び周期分極反転素子の実施形態について詳しく説明する。なお、説明する実施形態は一実施形態にすぎず、本発明の周期分極反転用電極、周期分極反転素子の製造方法及び周期分極反転素子は、下記実施形態に限定されるものではない。本発明の周期分極反転用電極、周期分極反転素子の製造方法及び周期分極反転素子は、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【0039】
(実施形態1)
図1〜図2に示される本実施形態では、周期分極反転用電極1及び背面電極2を用いた電圧印加法により、強誘電体単結晶基材3内に周期分極反転構造を形成して、周期分極反転領域を有するバルク型の周期分極反転素子を製造する。
【0040】
なお、図1は、本実施形態に係る周期分極反転用電極1の平面図である。また、図2(a)〜(c)は、本実施形態に係る周期分極反転用電極1を用いた電圧印加法により周期分極反転構造を形成する様子を説明する断面図であり、図2(a)及び(b)は図1におけるY1−Y1線断面図に相当し、図2(c)は図1におけるY2−Y2線断面図に相当する。
【0041】
強誘電体単結晶基材3としては、結晶のZ軸が基材3の主面3aに対して直角となるようにカットされたZカット強誘電体単結晶基材、又は結晶のZ軸が基材3の主面3aに対して所定角度(1〜45°)傾斜したZオフカット基材を用いることができる。
【0042】
強誘電体単結晶基材3の材質は特に限定されないが、例えば、ニオブ酸リチウム(LN)、タンタル酸リチウム(LT)、KTP(KTiOPO)やKN(KNbO)等を好適に用いることができる。この強誘電体単結晶基材3には、必要に応じて、マグネシウム(Mg)やZn等の適宜な金属元素、金属化合物や希土類元素等を添加することができる。特に、ニオブ酸リチウム(LN)やタンタル酸リチウム(LT)にマグネシウムを添加したMgLNやMgLTよりなる強誘電体単結晶基材3を好適に用いることができる。
【0043】
強誘電体単結晶基材3の大きさや形状は特に限定されないが、例えば、幅:W=1〜10mm程度、厚さ(高さ):H=1〜10mm程度、長さ:L=1〜50mm程度の直方体形状のものを好適に用いることができる。ただし、分極反転領域の大口径化や分極反転領域を形成可能な深度等を考慮して、幅:W=1〜5mm程度、厚さ(高さ):H=1〜5mm程度とすることがより好ましい。また、印加電圧を高くする実施条件等によっては、厚さ(高さ):Hを5mm程度以上とすることができる場合もある。
【0044】
周期分極反転用電極1は、図1に示されるように、配列電極群10と、給電用電極11とを備えている。なお、図1、図2においては、本発明の特徴を明確にすべく、周期分極反転用電極1等の大きさ及び形状等が実際のものと異なるように描かれている。
【0045】
配列電極群10は、強誘電体単結晶基材3の一主面(+Z面又は−Z面)3a上に間隔をおいて横並びに配列される複数の電極片101よりなる。この配列電極群10では、形成しようとする周期分極反転構造における分極反転領域及び分極非反転領域の幅や反転周期に合わせて、所定の幅W1を有する複数の電極片101が所定の配列周期Dで形成されている。
【0046】
本実施形態における各電極片101は、それぞれ大きさの細長い長方形状とされている。配列電極群10における、電極片101の幅W1と配列周期Dとの関係は適宜にかつ任意に設定することができる。例えば、配列周期Dは、D=数μm〜数十μm程度(一例として、30μm程度)とすることができ、電極片101の幅W1は、W1=D/4〜D/2程度の値とすることができる。また、電極片101の長さL1は、形成しようとする周期分極反転領域の幅に応じて適宜設定可能であり、例えばL1=1〜10mm程度とすることができる。
【0047】
ここに、各電極片101の長さL1としては、過不足のない長さとすることが好ましい。すなわち、電極片101の端部101aから電極片101の中央部に向かって形成される分極反転領域4の拡張可能な最大幅が前記臨界幅WLであると仮定したとき、電極片101が余りに短い(例えば、電極片101の長さが前記臨界幅WLである)場合は、本発明の構成を採用することの技術的意義が小さくなる。逆に、電極片101が余りに長い(例えば、電極片101の長さが前記前記臨界幅WLの数倍以上である)場合は、電極片101の両端部101a、101aからそれぞれ発生する分極反転領域4の中間に、大きな分極非反転領域が残り、バルク型周期分極反転素子としての使用時の障害になる可能性がある。また、前記臨界幅WL自体も、実施条件等によって変わりうる値である。そこで、電極片101の長さL1は、前記臨界幅WLの1.5倍〜3倍程度(より好ましくは2〜2.5倍程度)とすることが好ましく、この範囲内で試行錯誤によって最適値を設定することができる。
【0048】
なお、各電極片101の形状は特に限定されず、一定幅で一端から他端まで延びる細長い長方形状としてもよいし、一端から他端に向けて幅が連続的に増大する細長い(底辺に対して高さの高い)台形状としてもよいし、幅が部分的に増大又は減少した異形状としてもよい。また、配列周期Dの大きさも、電極片101の配列方向において一部が異なっていてもよい。
【0049】
また説明の便宜上、図1において、配列電極群10を構成する各電極片101のうち、図1の左端に位置する電極片101を101Aと示し、図1の右端に位置する電極片101を101Bと示し、残りの電極片101をそれぞれ101Cと示す。
【0050】
給電用電極11は、配列電極群10を構成する各電極片101に給電するためのもので、各電極片101にそれぞれ接続されている。本実施形態における給電用電極11は、配列電極群10における複数の電極片101の配列方向に対して傾斜して延びており、給電用電極11の配設形態が斜め一直線状とされている。
【0051】
具体的には、配列電極群10の電極片101の配列方向における一端(図1に示される配列電極群10の左端)の電極片101Aの一端(図1に示される電極片101Aの上端)と、配列電極群10の電極片101の配列方向における他端(図1に示される配列電極群10の右端)の電極片101Bの他端(図1に示される電極片101Bの下端)とを繋ぐように、配列電極群10の一つの対角線上に斜め一直線状に一定の幅で延びている。すなわち、本実施形態においては、途中に屈曲部又は湾曲部を有しない一つの直線部よりなる一対角線上に給電用電極11が配設されている。
【0052】
そして、配列電極群10を構成する各電極片101のうち、電極片101A及び電極片101B以外の各電極片101Cにおいては、電極片101の端部101aよりも中央寄りの部位で給電用電極11が接続されている。また、配列電極群10を構成する各電極片101のうち、配列方向の端部に位置する電極片101A及び電極片101Bにおいては、電極片101Aの上端及び電極片101Bの下端に給電用電極11が接続されている。
【0053】
ここに、給電用電極11の幅は、配列電極群10を構成する各電極片101に確実に給電することができれば特に限定されない。ただし、給電用電極11の直下の部分に形成される余分な分極反転領域を極力小さくする観点より、各電極片11に確実に給電できる範囲内で給電用電極11の幅を極力小さくする方が好ましい。また、この余分な分極反転領域を強誘電体単結晶基材2の長さ方向及び幅方向において均一に分布させる観点より、給電用電極11の幅は給電用電極11の長さ方向において一定であることが好ましい。給電用電極11の幅:W2は、W2=1〜100μm程度であることが好ましく、W2=10〜30μm程度であることがより好ましい。ただし、断線しない限りにおいて、給電用電極11の幅:W2を1μm未満とすることも勿論可能である。
【0054】
また、給電用電極11の配設形態としては、斜め一直線状に限られず、例えば、ある程度のカーブを描く円弧線状であったり、サインカーブ線状であったり、ジグザグの折れ線状であったりしてもよい。ただし、給電用電極11の配設形態が斜め一直線状でない場合は、周期分極反転素子としてレーザー光を入射した場合、入射の部位によって擬似位相整合の効果に強弱の差を生じる可能性がある。
【0055】
なお、1本の給電用電極11が断線した場合であっても、各電極片101への給電を可能とするために、複数本の給電用電極11を設けることもできる。例えば、配列電極群10の2つの対角線上にそれぞれ斜め一直線状に延びる給電用電極11を設けたり、あるいは配列電極群10の1つの対角線に沿って斜め一直線状に平行に延びる2本の給電用電極11を設けたりしてもよい。
【0056】
背面電極2は、平板状を呈しており、図2に示されるように、強誘電体単結晶基材3の一主面3aと反対側の背面3bの全体に周期分極反転用電極1と対向するように一様に設けられている。
【0057】
ここに、背面電極2としては、周期分極反転用電極1の配列電極群10を構成する電極片101と対向するように、強誘電体単結晶基材3の背面3bと面接触する一様な電極である限りにおいて構成が限定されない。例えば、背面電極2として、強誘電体単結晶基材3の背面3bの全体に接触する液状電極(電解質液)を採用してもよい。
【0058】
周期分極反転用電極1及び背面電極2の材質としては特に限定されないが、例えば、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、金(Au)やクロム(Cr)等の金属を好適に用いることができる。周期分極反転用電極1は真空蒸着やスパッタリング等による成膜後、フォトリソグラフィー技術により微細パターン加工することで形成することができ、背面電極2は真空蒸着やスパッタリング等により形成することができる。また、周期分極反転用電極1及び背面電極2の厚さも特に限定されず、例えば、10〜100nm程度とすることができる。
【0059】
この周期分極反転用電極1及び背面電極2を用いた電圧印加法により、強誘電体単結晶基材3内に周期分極反転構造を形成するには、周期分極反転用電極1と背面電極2との間に所定の電圧を印加する。この電圧印加法の実施条件は適宜に設定すればよく、特に限定されない。例えば、パルス電圧を印加するのが好ましく、その際の電圧の大きさや電圧印加のインターバル等は適宜に設定することができる。また、電圧印加は適宜な加熱条件下で行うこともできる。
【0060】
周期分極反転用電極1と背面電極2との間に必要な電圧が印加されると、電極のエッジ部に電荷が集中することで、各電極片101の端部101aの部分から分極反転が始まる。
【0061】
ここに、本実施形態における周期分極反転用電極1では、配列電極群10を構成する各電極片101のうち、電極片101A及び電極片101B以外の各電極片101Cにおいては、電極片101の端部101aよりも中央寄りの部位で給電用電極11が接続されているため、電極片101の両端部101a、101aがそれぞれ電極端として機能する。そのため、図2(a)に示されるように、各電極片101Cにおける両端部101a、101aから分極反転が始まる。その分極反転領域4は、強誘電体単結晶基材3のZ軸方向(Zカットタイプの強誘電体単結晶基材3の厚さ方向)へ伸長して強誘電体単結晶基材3の裏面3bまで達した後、電極片101に沿って強誘電体単結晶基材3の一主面3aの平面方向(図2(a)の矢印h2方向)へそれぞれ前記限界幅WL程度まで伸長し、トータルで前記限界幅WLの2倍程度の幅の分極反転領域4が形成される。
【0062】
なお、配列電極群10を構成する各電極片101のうち、電極片101A及び電極片101Bにおいては、電極片101Aの一端部(図1に示される電極片101Aの下端部)101a及び電極片101Bの一端部(図1に示される電極片101Bの上端部)101aからそれぞれ分極反転が始まり、前記限界幅WL程度の分極反転領域が形成される。
【0063】
一方、図1のY2−Y2線断面図に相当する断面図が図2(c)に示されるように、強誘電体単結晶基材3における給電用電極11の直下の部分では、隣接する電極片101同士の間隔の部分(本来は分極非反転領域としたい部分)でも、余計な分極反転領域4aが形成される。しかし、本実施形態に係る周期分極反転用電極1では、給電用電極11が電極片101の配列方向、すなわちレーザー光の入射方向(図1に示されるA矢印方向)に対して斜め一直線状に配設されている。このため、余計な分極反転領域4aは、レーザー光の入射方向Aにおいて、強誘電体単結晶基材3の幅W方向に一定量ずつ順次ずれた位置に形成される。そのため、余計な分極反転領域4は、強誘電体単結晶基材3の長さL方向(レーザー光の入射方向Aと平行)において均一に分布するとともに、強誘電体単結晶基材3の幅W方向においても均一に分布する。また、余計な分極反転領域4aは、レーザー光の入射方向Aから見て2回以上重なることがない。その結果、周期分極反転素子としての使用時において、これらの余計な分極反転領域4aは、実質的に障害とならない。
【0064】
したがって、本実施形態に係る周期分極反転用電極1を用いれば、実質的な欠陥部分の形成を伴うことなく、前記限界幅WLの2倍程度の幅の分極反転領域4を形成することができ、周期分極反転領域(すなわち、周期分極反転構造)の大口径化が可能となる。
【0065】
よって、本実施形態によれば、実施条件によって幾分の差異はあるが、周期分極反転領域が例えば4mm角程度以上(一例として5mm角)に大口径化されたバルク型の周期分極反転素子を製造することが可能となる。このため、従来の周期分極反転素子と比較して、大出力レーザーとの組合せが容易となり、また波長変換の出力向上が可能となる。また、この素子を使用するに際しての位置合わせが容易になる。
【0066】
(実施形態2)
図3に示される本実施形態では、前記実施形態1において、周期分極反転用電極1の構造を変更した。
【0067】
すなわち、この実施形態に係る周期分極反転用電極1では、給電用電極11が、配列電極群10を構成する全ての電極片101に対して、端部より中央寄りの部位で接続されている。
【0068】
したがって、本実施形態では、配列電極群10を構成する全ての電極片101において、電極片101の両端部101a、101aが給電用電極11に接続されていないので、電極片101の両端部101a、101aがそれぞれ電極端として機能する。このため、配列電極群10を構成する全ての電極片101において、電極片101のそれぞれの端部101a、101aから中央部に向かって強誘電単結晶基材3に分極反転領域を形成することができる。したがって、配列電極群10の配列方向の全範囲において、前記限界幅WLの2倍程度の幅の分極反転領域を形成することが可能となる。
【0069】
その他の構成及び作用効果は、前記実施形態1と同様である。
【0070】
(実施形態3)
図4に示される本実施形態では、前記実施形態1において、周期分極反転用電極1の構造を変更した。
【0071】
すなわち、この実施形態に係る周期分極反転用電極1では、給電用電極11が折り返し部11aを有し、給電用電極11の配設形態が中途で折り返された斜め折り返し直線状とされている。
【0072】
したがって、本実施形態では、強誘電体単結晶基材3における給電用電極11の直下の部分において、隣接する電極片101同士の間隔の部分(本来は分極非反転領域としたい部分)に形成される余計な分極反転領域4aが、レーザー光の入射方向Aから見て2回重なる。このため、周期分極反転素子としての使用時において、これらの余計な分極反転領域4aが実質的な障害となるおそれが、実施形態1のものよりも高くなる。
【0073】
その他の構成及び作用効果は、前記実施形態1と同様である。
【0074】
(実施形態4)
本実施形態では、Zカット又はZオフカットの強誘電体単結晶基材3として、マグネシウムを含むニオブ酸リチウム(MgLN)又はマグネシウムを含むタンタル酸リチウム(MgLT)よりなるものを採用する。また、このMgLN又はMgLTよりなる強誘電体単結晶基材3は、3〜5mmの厚さ(H)を有している。
【0075】
そして、この強誘電体単結晶基材3に対して、前記実施形態1乃至3で説明した製造方法に準じて周期分極反転領域を形成して周期分極反転素子を製造すれば、得られる周期分極反転素子は、周期分極反転領域により波長変換されて出力される光の、強誘電体単結晶基材3の幅方向における半値全幅が、2mmを超え、かつ、厚さ(H)の50〜90%のものとなる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明の一実施例及び比較例について説明する。
【0077】
(実施例)
本実施例では、強誘電体単結晶基材として、MgOドープしたLN単結晶(MgO添加濃度:5mol%)よりなるZカット板を用いた。このZカット板のサイズは、幅:W=5mm、高さ(厚さ):H=5mm、長さ:L=約36mmである。
【0078】
そして、Zカット板の主面(+Z面)に前記実施形態1で説明した周期分極反転用電極1を真空蒸着及びフォトリソグラフィー技術により形成するとともに、Zカット板の裏面(−Z面)に前記実施形態1で説明した背面電極2を真空蒸着により形成した。この周期分極反転用電極1において、配列電極群10における配列周期:Dは、D=32.3μmであり、電極片101の幅:W1は、W1=9.7μmであり、電極片101の長さ:L1は、L1=5mmであり、給電用電極11の幅:W2は、W2=50μmである。また、周期分極反転用電極1及び背面電極2は、いずれもアルミニウム製で、50nmの厚さを有する。
【0079】
そして、120°Cの加熱下に、周期分極反転用電極1及び背面電極2間に+Z面から−Z面へ16kVのパルス電圧を必要な時間だけ印加して、本実施例に係るバルク型の周期分極反転素子を作成した。
【0080】
電圧印加処理の終了後、得られた周期分極反転素子を切断し、その切断面を酸でエッチングしてから、周期分極反転領域を光学顕微鏡によって観察したところ、縦方向(Z方向)に約5mm、横方向にも約5mmの実質的に矩形状を呈する周期分極反転領域が形成されていることを確認した。
【0081】
また、得られた周期分極反転素子について、光パラメトリック発振実験を実施することにより、半値全幅を測定した。その結果、この周期分極反転素子における半値全幅は、約4mmであり、強誘電体単結晶基材の厚さ(高さ):H=5mmの約80%であった。
【0082】
(性能評価)
本実施例で得られた周期分極反転素子の、光パラメトリック発振実験における性能データを図5に示す。
【0083】
図5のグラフで、横軸は励起光の入力励起エネルギーを、縦軸は出力エネルギーをそれぞれ示す。励起用レーザーは、波長1.064μm、パルス幅10ナノ秒のランプ励起高出力パルスNd:YAGレーザーシステム(スペクトラフィジックス社、LAB170−30)を用いた。図5中において、「●」でプロットしたグラフは、光パラメトリック発振で波長変換された波長2.128μmのレーザー光出力エネルギーを表す。
【0084】
図5より、本実施例で得られた周期分極反転素子が、その大口径を生かした大出力用の波長変換素子として有効に機能していることがわかる。また、励起用レーザーをほぼ真円に近いビーム形状で周期分極反転素子に入力した場合、得られる出力光のビーム形状もほぼ真円となった。これにより、本実施例で得られた周期分極反転素子が、その口径5mm×5mmの全域にわたって均一な周期分極反転構造を実現できていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の実施形態1に係る周期分極反転用電極の全体構成を示す平面図である。
【図2】本発明の実施形態1に係る周期分極反転素子の製造方法を説明する断面図であり、(a)及び(b)は図1のY1−Y1線断面に相当する図、(c)は図1のY2−Y2線断面に相当する図である。
【図3】本発明の実施形態2に係る周期分極反転用電極の全体構成を示す平面図である。
【図4】本発明の実施形態3に係る周期分極反転用電極の全体構成を示す平面図である。
【図5】本発明の実施例で得られた周期分極反転素子の性能を評価した結果を示すグラフである。
【図6】従来の周期分極反転用電極の全体構成を示す平面図である。
【図7】従来の周期分極反転素子の製造方法を説明する断面図であり、(a)〜(c)は図7のX1−X1線断面に相当する図である。
【図8】他の従来の周期分極反転用電極の全体構成を示す平面図である。
【図9】他の従来の周期分極反転素子の製造方法を説明する断面図であり、図8のX2−X2線断面に相当する図である。
【符号の説明】
【0086】
1…周期分極反転用電極 2…背面電極
3…強誘電体単結晶基材 3a…主面
3b…裏面 4…分極反転領域
10…配列電極群 11…給電用電極
101…電極片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強誘電体単結晶基材の一主面上に間隔をおいて横並びに配列される複数の電極片よりなる配列電極群と、該配列電極群を構成する各該電極片にそれぞれ接続されて各該電極片に給電する給電用電極とを備え、
前記給電用電極は、複数の前記電極片の配列方向に対して傾斜して延びていることを特徴とする周期分極反転用電極。
【請求項2】
前記給電用電極の配設形態が斜め一直線状であることを特徴とする請求項1に記載の周期分極反転用電極。
【請求項3】
前記給電用電極は、前記配列電極群を構成する全ての前記電極片に対して、端部より中央寄りの部位で接続されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の周期分極反転用電極。
【請求項4】
Zカット又はZオフカットの強誘電体単結晶基材内に周期分極反転構造を形成して、周期分極反転領域を有するバルク型の周期分極反転素子を製造する方法であって、
前記強誘電体単結晶基材の一主面上に、請求項1乃至3のいずれか一つに記載された周期分極反転用電極を設けるとともに、該強誘電体単結晶基材の該一主面と反対側の背面に該周期分極反転用電極と対向する背面電極を設け、該周期分極反転用電極と該背面電極との間に電圧を印加することにより、該強誘電体単結晶基材内に周期分極反転構造を形成することを特徴とする周期分極反転素子の製造方法。
【請求項5】
Zカット又はZオフカットの強誘電体単結晶基材内に周期分極反転領域を有するバルク型の周期分極反転素子であって、
前記強誘電体単結晶基材は、マグネシウムを含むニオブ酸リチウム又はマグネシウムを含むタンタル酸リチウムよりなり、かつ、3mm以上の厚さ(H)を有し、
前記周期分極反転領域により波長変換されて出力される光の、前記強誘電体単結晶基材の幅方向における半値全幅が、2mmを超え、かつ、前記厚さ(H)の50〜90%であることを特徴とする周期分極反転素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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