説明

周波数調整用導体及び加速電極装置

【課題】粒子加速器の小型化を可能とする周波数調整用導体及びこれを備える加速電極装置を提供する。
【解決手段】粒子加速器の加速電極22に連結され印加する高周波電圧の周波数を調整する周波数調整用導体40であって、電気導体をらせん状に巻回してなる。この周波数調整用導体40によれば、巻回量を調整してインダクタンス(L)成分により周波数の調整を行うことができ、占有スペースが小さくて済むことで粒子加速器の小型化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粒子加速器の加速電極に連結され印加する高周波電圧の周波数を調整する周波数調整用導体及びこれを備える加速電極装置に関する。
【背景技術】
【0002】
サイクロトロン等の粒子加速器に使用される高周波加速空洞(RFキャビティ)は、イオン源から導入されたイオンを加速するために、通常、対向した一対の加速電極(通称、「ディ」)を備えている。このディには、印加する高周波電圧の周波数に応じた長さの内導体(ステム)が連結され、この内導体の周囲に外導体が設けられる。このように、RFキャビティは、印加する高周波電圧の周波数に応じて内導体と外導体の長さを調整し、周波数の調整を行っていた(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−38628号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般に、高周波電圧の周波数が高い場合(100MHz以上)には、内導体の長さは短くてもよい。しかしながら、印加する高周波電圧の周波数を低くしなければならないときには、必然的に内導体の長さが長くなってしまい、粒子加速器の大型化を招いてしまうという問題があった。
【0004】
本発明は、上記した事情に鑑みて為されたものであり、粒子加速器の小型化を可能とする周波数調整用導体及びこれを備える加速電極装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る周波数調整用導体は、粒子加速器の加速電極に連結され印加する高周波電圧の周波数を調整する周波数調整用導体であって、電気導体をらせん状に巻回してなることを特徴とする。
【0006】
この周波数調整用導体は、電気導体をらせん状に巻回してなるため、従来のように内導体と外導体の長さを調整してキャパシタンス(C)成分により周波数の調整を行うのではなく、巻回量を調整してインダクタンス(L)成分により周波数の調整を行うことができ、占有スペースが小さくて済むことで粒子加速器の小型化を図ることができる。
【0007】
電気導体は板状をなすと好ましい。このようにすれば、周波数の調整が容易になると共に、冷媒を通す導管などの設置スペースを板面上に確保することができる。
【0008】
本発明に係る加速電極装置は、上記した周波数調整用導体と、周波数調整用導体が連結される加速電極と、を備えることを特徴とする。この加速電極装置では、上記した周波数調整用導体により印加する高周波電圧の周波数を調整することができるため、粒子加速器の小型化を図ることができる。
【0009】
加速電極装置は、加速電極に連結されこれを支持する電気絶縁性を有する支持体を備えると好ましい。このようにすれば、加速電極の支持が容易且つ確実になる。
【0010】
加速電極は、周波数調整用導体のみによって支持されると好ましい。このようにすれば、加速電極の荷重を周波数調整用導体が受けることで、加速電極を支持する支持体を別途設ける必要がなく、構成の簡略化を図ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、粒子加速器の小型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0013】
図1は、本実施形態に係る粒子加速器としてサイクロトロンの本体部10の構成を示す正面図である。図1に示すように、サイクロトロンの本体部10は、一対の磁極16と、図示しない一対のコイルと、真空箱20と、一対の加速電極装置30と、を備えている。
【0014】
一対の磁極16は、図1及び図2に示すように、それぞれ円板状の外形を有する。これら磁極16の対向する面には、それぞれ谷領域16aと山領域16bとが交互に連続して設けられている。より詳細には、これら磁極16の対向する面は、それぞれ4つの谷領域16aと4つの山領域16bとが交互に現れる8つの扇形のセクタに分割されている。このように構成することで、セクターフォーカシングを利用して加速粒子の高集束を図っている。
【0015】
真空箱20は、図1に示すように、箱本体21と図示しない箱蓋とを有している。箱本体21は正面視において円形状をなし、底壁部には磁極16の外形と略同径の開口部21aが設けられている。また、箱本体21の側壁部には真空排気用の排気口21bが設けられている。箱蓋は、箱本体21の上部開口を塞ぐ。箱蓋には、磁極16の外形と略同径の開口部が設けられている。
【0016】
図示しない一対のコイルは、一対の磁極16の側面の周りにそれぞれ設けられており、電磁石が構成されている。一対の加速電極装置30は、加速電極22と、周波数調整用導体40と、支持体50とを備えている。
【0017】
一対の加速電極22は、図1及び図3に示すように、それぞれ正面視において略三角形状をなす。各加速電極22は、例えば銅等の電気導体から構成されており、上下2枚の三角板を底辺で連結して構成されている。そして、加速電極22の板面には冷却用の冷媒を通すための管32を敷設するための複数の溝24が設けられている。
【0018】
これら一対の加速電極22は、一対の磁極16の谷領域16aに位置する。そして、加速電極22の先端部同士が、図1に示すように、蝶の羽のような外形を有する接続部材34により、機械的且つ電気的に接続されている。加速電極22の周囲には、図示しない外導体が設けられており、高周波加速空洞(RFキャビティ)が形成されている。
【0019】
周波数調整用導体40は、加速電極22に連結されて、印加する高周波電圧の周波数を調整する。この周波数調整用導体40は、図1及び図3に示すように、銅等の電気導体からなる板をらせん状に巻回してなる。図3の例では、1回半程度巻回している。周波数調整用導体40の巻回量は、印加する高周波電圧の周波数に応じて決定される。
【0020】
周波数調整用導体40の外面には、冷媒を循環させるための管32を敷設する溝42が設けられており、これが加速電極22側の溝24と連絡されている。これにより、加速電極24及び周波数調整用導体40を冷却できるようになっている。
【0021】
支持体50は、図1及び図3に示すように、電気絶縁性を有するセラミックなどの材料から形成されており、一端が加速電極22に連結され、他端が真空箱20の内壁に接続されて、加速電極22を支持している。周波数調整用導体40は、この支持体50の周りに巻回されている。なお、図1においては、周波数調整用導体40の一部を破断し、支持体50を示している。
【0022】
加速電極装置30の側方には、加速粒子を取り出すためのフォイルストリッパー46が設けられている。そして、放射性同位元素を生成するためのターゲット48が、フォイルストリッパー46により曲げられた加速粒子の軌道上に、真空箱20により支持された状態で設けられている。また、真空箱20には、先端が磁極16内に至る電流検出器49が設けられている。
【0023】
本実施形態に係るサイクロトロン10では、磁極16の中心部に設けられたビーム引出し部Oから引き出された陽子或いは重陽子といった加速粒子は、加速電極22により多重加速される。そして、加速に伴って軌道半径が大きくなり、最後にフォイルストリッパー46のフォイルにより軌道が曲げられて、ターゲット48内に進入する。
【0024】
次に、本実施形態に係る周波数調整用導体40及び加速電極装置40の作用及び効果について説明する。
【0025】
本実施形態の周波数調整用導体40は、電気導体をらせん状に巻回してなるため、従来のように内導体と外導体の長さを調整してキャパシタンス(C)成分により印加する高周波電圧の周波数の調整を行うのではなく、巻回量を調整してインダクタンス(L)成分により周波数の調整を行うことができる。従って、占有スペースが小さくて済むことで、サイクロトロン10の小型化を図ることができる。
【0026】
また、周波数調整用導体40を構成する電気導体は板状をなすため、周波数の調整が容易になると共に、冷媒を通す管32などの設置スペースを板面上に確保することができる。よって、この板面に溝42を設け、この溝42に加速電極22側の溝24を連絡し、これら溝42,24に冷媒を通す管32を敷設して冷媒を循環させることにより、周波数調整用導体40及び加速電極22の温度上昇を抑制し、粒子の安定的な加速を図ることができる。
【0027】
また、上記した周波数調整用導体40を備える加速電極装置30は、加速電極22に連結されこれを支持する電気絶縁性を有する支持体50を備えるため、加速電極22の支持が容易且つ確実になる。
【0028】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されることなく種々の変形が可能である。例えば、上記した実施形態では、主として支持体50により加速電極22を支持していたが、周波数調整用導体40の剛性を高め、これのみで加速電極22を支持するようにしてもよい。このようにすれば、加速電極22の荷重を周波数調整用導体40が受けることで、加速電極22を支持する支持体50を別途設ける必要がなく、構成の簡略化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本実施形態に係るサイクロトロンの本体部の構成を示す正面図である。
【図2】一対の磁極の構成を示す斜視図である。
【図3】加速電極装置の構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0030】
10…サイクロトロンの本体部、16…磁極、16a…谷領域、16b…山領域、20…真空箱、22…加速電極、30…加速電極装置、40…周波数調整用導体、50…支持体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子加速器の加速電極に連結され印加する高周波電圧の周波数を調整する周波数調整用導体であって、電気導体をらせん状に巻回してなることを特徴とする周波数調整用導体。
【請求項2】
前記電気導体は板状をなすことを特徴とする請求項1に記載の周波数調整用導体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の周波数調整用導体と、
前記周波数調整用導体が連結される加速電極と、
を備えることを特徴とする加速電極装置。
【請求項4】
前記加速電極に連結されこれを支持する電気絶縁性を有する支持体を備えることを特徴とする請求項3に記載の加速電極装置。
【請求項5】
前記加速電極は、前記周波数調整用導体のみによって支持されることを特徴とする請求項3に記載の加速電極装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−250336(P2007−250336A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−71519(P2006−71519)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】