説明

味覚・風味に優れた発酵アルコール飲料の製造方法

【課題】麦又は麦芽を使用しない「その他の醸造酒」、あるいは麦芽含量の少ない発泡酒のような発酵アルコール飲料の製造においても、酵母による発酵を促進し、味覚・風味に優れた発酵アルコール飲料を製造する方法を提供すること。
【解決手段】原料を混合して発酵前溶液を調製し、該発酵前溶液を加熱・煮沸し、酵素の失活と色度の調整を行った後、ビール酵母を用いて発酵する発酵アルコール飲料の製造方法において、発酵前溶液中のカリウムイオン及び/又はイノシトール総量を発酵管理指標として調整することにより、味覚・風味の増進した発酵アルコール飲料を製造する。該カリウムイオンの調整には、カリウム含量を高めた原料を使用すること、特に原料の大豆タンパクに中和剤として、水酸化カリウムを中和剤の一部或いは全部とするものを使用することにより、行なうことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、味覚・風味に優れた発酵アルコール飲料の製造方法、より詳しくは、原料を混合して発酵前溶液を調製し、該発酵前溶液を加熱・煮沸し、酵素の失活と色度の調整を行った後、ビール酵母を用いて発酵する発酵アルコール飲料の製造方法において、発酵前溶液中のカリウムイオン及び/又はイノシトール総量を発酵管理指標として調整することにより、発酵アルコール飲料の製造における発酵の促進と、発酵アルコール飲料の味覚・風味の調和を図り、味覚・風味の優れた発酵アルコール飲料を製造する方法に関する。更に、原料を混合して発酵前溶液を調製し、該発酵前溶液を加熱・煮沸し、酵素の失活と色度の調整を行った後、ビール酵母を用いて発酵する発酵アルコール飲料の製造方法において、原料の大豆タンパクに中和剤として、水酸化カリウムを中和剤の一部或いは全部とするものを使用することにより、発酵アルコール飲料の製造における発酵の促進と、発酵アルコール飲料の味覚・風味の調和を図り、味覚・風味の優れた発酵アルコール飲料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発酵アルコール飲料である、ビールや発泡酒は、主原料として麦芽を、副原料として米、麦、コーン、スターチ等の澱粉質原料、及びこれにホップ、水を原料として製造されるが、日本の酒税法においては、ビールは、水を除く麦芽使用量が50重量%以上66.7重量%未満及び、25重量%以上50重量%未満及び、25重量%未満の3種類が規定されている。
【0003】
発泡酒は、日本の酒税法上は、麦又は麦芽を原料の一部として用いた雑酒に属するものであるが、ビールも発泡酒も、いずれも麦芽の活性酵素や、カビ等由来の精製された酵素を用いて、麦芽や副原料である澱粉質を糖化させ、この糖化液を発酵させて、アルコールと炭酸ガスに分解して、アルコール飲料としているものである点で共通している。従って、ビールの作り方も、発泡酒の作り方も、その基本においては、大きく変わるものではない。
【0004】
一方、発泡性を有する「雑酒」は、日本の酒税法上、麦又は麦芽を原料の一部とした上記「発泡酒」と発泡酒以外の「その他の醸造酒」に分類される。ここで、「その他の醸造酒」は、麦又は麦芽を使用せず、マメ類、穀類などの植物タンパク質等を酵素で分解して必要とする窒素源を得、糖化液を加えて発酵させるものである。従って、「その他の醸造酒」の作り方についてもビール又は発泡酒の作り方と基本的に大きく変わるものではなく、ビール又は発泡酒の製造装置を使用してつくることが可能である。
【0005】
近年、ビールや発泡酒及びその他の醸造酒のような発酵アルコール飲料において、香味の多様化等の目的から、種々の原料、種々の添加物を用いて、多種の味覚及び風味を有する発酵アルコール飲料の製造方法が開示されている。麦芽以外の原料を用いるものとして、例えば、麦汁を、小麦、馬鈴薯、トウモロコシ、もろこし、大麦、米、又はタピオカから得たデンプンに基くグルコースシロップ及び可溶性タンパク質材料、水及びホップから調製し、これを発酵させてビールタイプ飲料を製造する方法(特開2001−37462号公報)、米、麦、ヒエ、アワなどの穀類を原料として、低アルコールの発酵飲料を製造する方法(特開2001−37463号公報)等が開示されている。
【0006】
更に、WO2004/000990A1には、大麦、小麦、麦芽を一切使用することなしに、トウモロコシ、馬鈴薯、えんどう豆、大豆、又は米から得られた炭素源含有シロップと、トウモロコシ、馬鈴薯、えんどう豆、大豆、又は米から得られた窒素源を用いて、発泡性のビール様アルコール飲料を製造する方法が開示されている。また、特許第3836117号公報には、糖とタンパク分解物とのメイラード反応物及びその調製物を用いて、発泡酒やその他の醸造酒のような発酵アルコール飲料の液色や風味を調整する発酵アルコール飲料の製造方法が開示されている。
【0007】
これらの発酵アルコール飲料の製造方法においては、いずれの場合も、原料を混合して発酵前溶液を調製し、該発酵前溶液を加熱・煮沸し、酵素の失活と色度の調整を行った後、ビール酵母を用いて発酵する方法が採られているが、該発酵アルコール飲料の製造方法において発酵に用いるビール酵母の栄養源としての炭素源や窒素源は、ビールや発泡酒においては麦芽や副原料から供給され、特に、麦芽の使用量を減じた発泡酒や、麦又は麦芽を使用しない「その他の醸造酒」では、不足する窒素源を補充するために各種の蛋白質含有材料の分解物のような可溶性蛋白質の補充が行われている。
【0008】
例えば、特開2004−173552号公報では、酒類の製造に用いられる副原料としてアミノ酸及びミネラルを含有し、臭気が低減又は除去された米糖化液の製造方法が開示されている。特開2006−42749号公報では、大麦、小麦及び麦芽を一切使用しないビール様発泡性アルコール飲料の製造法において、原材料として、黒砂糖を代表とする含蜜糖を使用することによって、香味や泡持ちが向上し、あるいは発酵性が改善されたビール様発泡アルコール飲料の製造方法を開示している。
【0009】
特開2006−158268号公報ではビールや雑酒のような発酵アルコール飲料の製造方法において、原料の一部に小麦グルテンや大豆タンパクのようなビール酵母高資化性アミノ酸高含有蛋白原料の分解物又はその調製物を用いることにより、ビール酵母による発酵を促進して、味覚・風味を増進させ、異臭や未熟臭のない、発酵アルコール飲料を製造する方法が開示されている。
【0010】
上記のように、これらの文献には、ビールや発泡酒、或いは、麦又は麦芽を使用しない、いわゆる「その他の醸造酒」等の製造において、種々の添加成分を添加することが記載されているが、酵母の発酵のために不足している物資としては、単に「アミノ酸」や「ミネラル」、「ビタミン」といった成分を添加することが開示されているにとどまるものである。
【0011】
一方で、発酵飲料や発酵食品を製造するに際して、微生物による発酵を促進するために、発酵促進剤として米糠の水溶性抽出物を添加することが開示されている(特開2005−333851号公報)。この発酵促進剤は、米糠から抽出した抽出物を用いて、窒素源、炭素原、リン、ビタミン、無機質として利用し微生物による発酵を促進するものである。
【0012】
【特許文献1】特開2001−37462号公報。
【特許文献2】特開2001−37463号公報。
【特許文献3】特開2004−173552号公報。
【特許文献4】特開2005−333851号公報。
【特許文献5】特開2006−42749号公報。
【特許文献6】特開2006−158268号公報。
【特許文献7】特許第3836117号公報。
【特許文献8】WO2004/000990A1。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、味覚・風味に優れた発酵アルコール飲料を製造する方法、特には、麦又は麦芽を使用しない「その他の醸造酒」のような発酵アルコール飲料の製造においても、酵母による発酵を促進し、味覚・風味に優れた発酵アルコール飲料を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討する中で、カリウム及び/又はイノシトールが、酵母の発酵促進に重要な成分であることを見い出し、発酵前溶液にカリウム及び/又はイノシトール含量を高めた原料を添加し、発酵を行うことにより、ビール酵母の増殖が相乗的に促進され、麦又は麦芽を使用しない「その他の醸造酒」のような発酵アルコール飲料の製造においても発酵が促進され、良好な発酵を行えるとともに、これにより酵母回収量も増加され、発酵不良から来る異臭や未熟臭を低減させ、味覚・風味に優れた発酵アルコール飲料を製造することができることを見い出して、本発明を完成するに至った。
【0015】
更に、本発明者は、原料である大豆タンパク製造時における中和工程で、従来用いられる水酸化ナトリウムの替わりに、原料の大豆タンパクに中和剤として、水酸化カリウムを中和剤の一部或いは全部とするものを使用することにより、大豆タンパク中のカリウムの含量を増加させ、このようにして製造した大豆タンパクを発酵アルコール飲料の製造に用いることにより、発酵前液のカリウム濃度を高め、前述した効果が得られることを見い出した。またカリウムイオンと相乗して酵母の増殖を促進する原料として、酵母エキス、或いは麦芽糖化液が有効であることを見い出した。
【0016】
すなわち、本発明は、原料を混合して発酵前溶液を調製し、該発酵前溶液を加熱・煮沸し、酵素の失活と色度の調整を行った後、ビール酵母を用いて発酵する発酵アルコール飲料の製造方法において、発酵前溶液中のカリウムイオン及び/又はイノシトール総量を発酵管理指標として調整することにより、発酵アルコール飲料の製造における発酵の促進と、発酵アルコール飲料の味覚・風味の調和を図ることを特徴とする、味覚・風味の優れた発酵アルコール飲料の製造方法からなる。本発明において、カリウム及び/又はイノシトール含量を高めた原料としては、カリウム化合物或いはイノシトール、又は、カリウム或いはイノシトール含量が高い原料を用いて、カリウム及び/又はイノシトール含量を高めた原料を用いることができる。該カリウム及び/又はイノシトール含量を高めた原料として、発酵前溶液調製用の醸造水、或いは、酵母エキスを用いることができる。
【0017】
また、本発明は、原料を混合して発酵前溶液を調製し、該発酵前溶液を加熱・煮沸し、酵素の失活と色度の調整を行った後、ビール酵母を用いて発酵する発酵アルコール飲料の製造方法において、原料である大豆タンパク製造時における中和工程で水酸化カリウムを中和剤の一部或いは全部とするものを使用することにより、カリウムの含量を増加させた大豆タンパクを使用し、或いは、かかるようにして発酵前溶液中のカリウムイオン濃度を上昇させたものに、該カリウムイオンとの相乗効果により酵母の増殖を促進する因子として、酵母エキス及び/又は麦芽糖化液を添加することで、発酵アルコール飲料の製造における発酵の促進と、発酵アルコール飲料の味覚・風味の調和を図ることを特徴とする、味覚・風味の優れた発酵アルコール飲料の製造方法からなる。
【0018】
本発明において、カリウム含量を高めた原料は、カリウム化合物含量を高めた大豆タンパクの形で、添加することができる。本発明において、該カリウム含量を高めた大豆タンパク原料として、大豆タンパクの精製度をおさえることでカリウム含量を高めた大豆タンパクを原料に用いることができる。また、かかる場合に、大豆タンパクの精製度をおさえることでカリウム含量を高め、発酵前溶液中のカリウムイオン濃度を上昇させ、該カリウムイオンとの相乗効果により酵母の増殖を促進する因子として、酵母エキス及び/又は麦芽糖化液を添加することができる。発酵アルコール飲料の製造における発酵の促進と、発酵アルコール飲料の味覚・風味の調和を実現する観点から、該大豆タンパクにより製造された発酵前溶液中のカリウムイオン総量は、80〜500mg/lに調整することが好ましい。本発明において、上記のような発酵前溶液に、酵母エキス、あるいは麦芽糖化液を同時に添加することにより、ビール酵母の増殖をさらに促進させることができ、相乗的な発酵促進作用を得ることができる。相乗的な発酵促進作用を得ることができる酵母エキスの発酵前溶液への添加量としては、500〜1000mg/lに調整することが好ましい。あるいは、発酵前溶液を作成する原料において麦芽が占める重量の割合は5〜10%に調整することが望ましい。
【0019】
本発明において、イノシトール含量を高めた原料は、イノシトール含量を高めた発酵前溶液調製用の醸造用水の形で、添加することができる。発酵アルコール飲料の製造における発酵の促進と、発酵アルコール飲料の味覚・風味の調和を実現する観点から、発酵前溶液中へのイノシトール総量は、30〜130mg/lに調整することが好ましい。本発明において、発酵前溶液に、上記のようなカリウム成分及びイノシトールを同時に添加することにより、ビール酵母の増殖を相乗的に促進させることができ、顕著な発酵促進作用を得ることができる。
【0020】
本発明により、麦又は麦芽を使用しない「その他の醸造酒」のような発酵アルコール飲料の製造においても発酵を促進することができ、発酵不良から来る異臭や未熟臭を低減させて、味覚・風味に優れた発酵アルコール飲料を製造することができる。その他醸造酒の発酵前溶液に麦芽糖化液を加えた場合、税法上は発泡酒の扱いとなるが、麦芽比率が少ない発泡酒において窒素分の補給のために大豆タンパクを用いるケースでは、本明細の知見により、発酵不良から来る異臭や未熟臭を低減させて、味覚・風味に優れた発酵アルコール飲料を製造することができる。
【0021】
すなわち具体的には本発明は、(1)原料を混合して発酵前溶液を調製し、該発酵前溶液を加熱・煮沸し、酵素の失活と色度の調整を行った後、ビール酵母を用いて発酵する発酵アルコール飲料の製造方法において、発酵前溶液中のカリウムイオン及び/又はイノシトール総量を発酵管理指標として調整することにより、発酵アルコール飲料の製造における発酵の促進と、発酵アルコール飲料の味覚・風味の調和を図ることを特徴とする、味覚・風味の優れた発酵アルコール飲料の製造方法や、(2)発酵前溶液中のカリウムイオン及び/又はイノシトール総量を、カリウム及び/又はイノシトール含量を高めた原料を用いて調整することを特徴とする上記(1)記載の味覚・風味の優れた発酵アルコール飲料の製造方法や、(3)カリウム及び/又はイノシトール含量を高めた原料に、発酵前溶液調製用の醸造用水を用いることを特徴とする上記(2)記載の味覚・風味の優れた発酵アルコール飲料の製造方法からなる。
【0022】
また本発明は、(4)カリウム及び/又はイノシトール含量を高めた原料に、酵母エキスを用いることを特徴とする上記(2)記載の味覚・風味の優れた発酵アルコール飲料の製造方法や、(5)原料を混合して発酵前溶液を調製し、該発酵前溶液を加熱・煮沸し、酵素の失活と色度の調整を行った後、ビール酵母を用いて発酵する発酵アルコール飲料の製造方法において、水酸化カリウムを中和剤の一部或いは全部として用いて製造された大豆タンパクを原料とすることを特徴とする上記(2)記載の味覚・風味の優れた発酵アルコール飲料の製造方法や、(6)原料を混合して発酵前溶液を調製し、該発酵前溶液を加熱・煮沸し、酵素の失活と色度の調整を行った後、ビール酵母を用いて発酵する発酵アルコール飲料の製造方法において、大豆タンパクの精製度をおさえることでカリウム含量を高めた大豆タンパクを原料に用いることを特徴とする上記(2)記載の味覚・風味の優れた発酵アルコール飲料の製造方法や、(7)原料の大豆タンパクに中和剤として、水酸化カリウムを中和剤の一部或いは全部とするものを使用することにより、発酵前溶液中のカリウムイオン濃度を上昇させ、該カリウムイオンとの相乗効果により酵母の増殖を促進する因子として、酵母エキス及び/又は麦芽糖化液を添加することを特徴とする上記(1)記載の味覚・風味の優れた発酵アルコール飲料の製造方法からなる。
【0023】
さらに本発明は、(8)大豆タンパクの精製度をおさえることでカリウム含量を高めた大豆タンパクを原料とすることにより、発酵前溶液中のカリウムイオン濃度を上昇させ、該カリウムイオンとの相乗効果により酵母の増殖を促進する因子として、酵母エキス及び/又は麦芽糖化液を添加することを特徴とする上記(1)記載の味覚・風味の優れた発酵アルコール飲料の製造方法や、(9)上記(1)〜(8)のいずれか記載の発酵アルコール飲料の製造方法において、発酵前溶液中のカリウムイオン総量を、80〜500mg/lに調整することを特徴とする、味覚・風味の優れた発酵アルコール飲料の製造方法や、(10)上記(1)〜(4)のいずれか記載の発酵アルコール飲料の製造方法において、発酵前溶液中のイノシトール総量を、30〜130mg/lに調整することを特徴とする、味覚・風味の優れた発酵アルコール飲料の製造方法や、(11)上記(1)〜(10)のいずれか記載の発酵アルコール飲料が、その他の醸造酒であることを特徴とする味覚・風味の優れた発酵アルコール飲料の製造方法からなる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の発酵アルコール飲料の製造方法により、発酵工程におけるビール酵母の増殖を顕著に促進させることができ、良好な発酵によって、発酵不良から来る異臭や未熟臭を低減させて、味覚・風味に優れた発酵アルコール飲料を製造することができる。本発明の製造方法は、特に、麦又は麦芽を使用しない「その他の醸造酒」のような発酵アルコール飲料の製造に適用して、味覚・風味に優れた発酵アルコール飲料を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明は、原料を混合して発酵前溶液を調製し、該発酵前溶液を加熱・煮沸し、酵素の失活と色度の調整を行った後、ビール酵母を用いて発酵する発酵アルコール飲料の製造方法において、発酵前溶液中のカリウムイオン及び/又はイノシトール総量を発酵管理指標として調整することにより、発酵アルコール飲料の製造における発酵の促進と、発酵アルコール飲料の味覚・風味の調和を図ることを特徴とする、味覚・風味の優れた発酵アルコール飲料の製造方法からなる。かかる発酵前溶液中のカリウムイオン総量の調整には、カリウム含量を高めた原料を用いて行なうことができる。
【0026】
(カリウム及び/又はイノシトール含量を高めた原料)
本発明において、カリウム及び/又はイノシトール含量を高めた原料は、カリウム化合物で強化した原料或いは、カリウム含量が高い材料及び/又はイノシトール又はイノシトール含量が高い材料で、カリウム及び/又はイノシトール含量を高めた原料或いは、材料に含まれるカリウム及び/又はイノシトールがなるべく多く残存するように製法を調整して製造された原料のような形で用いられる。カリウムを含む化合物としては、水酸化カリウム、塩化カリウム、リン酸二水素カリウム、硝酸カリウム、炭酸カリウムのように、水溶性で溶解したときにカリウムイオンを供給する中和剤、酸度調整剤、水質処理剤として用いることができる。またはカリウム、或いはイノシトールの含量の多さを指標として選択した、これらの物質の高含有天然物質、エキスを原料として用いることができる。また、米、麦、大豆、とうもろこし等の植物の種子(穀類)をエキス又は粉砕物に加工することによってイノシトール又はカリウム含量を更に高めた原料を用いても良い。
【0027】
発酵アルコール飲料の製造に際して、カリウム及び/又はイノシトール含量を高めた原料を、発酵原料の一部として添加する場合には、カリウム化合物及び/又はイノシトール含量を高めた発酵前溶液調製用の醸造用水の形で添加すること、或いは発酵前溶液調製工程中に用水処理剤として添加することが好ましい。酵母の増殖を促進するための発酵前溶液中のカリウムイオン総量は、80〜800mg/lに調整することが好ましく、発酵アルコール飲料の味覚・風味の調和を実現する観点から、80〜500mgに調整することがより好ましい。また、酵母の発酵を促進する観点から発酵前溶液中のイノシトール総量は、30〜130mg/lに調整することが好ましく、更に、発酵アルコール飲料の味覚・風味を調和させる観点から、80〜500mg/lに調整することがより好ましい。
【0028】
また、発酵アルコール飲料の製造のためのカリウム及び/又はイノシトール含量を高めた原料を製造する方法として、もともと材料に含まれるカリウム及び/又はイノシトールが多く残るように製法を調整して原料を製造する方法をとることが出来る。例えば、大豆はタンパク質の他、ビタミン、ミネラル等を豊富に含む食材であるが、大豆から大豆タンパクを製造するために精製する過程でタンパク質以外の栄養素が除去されてしまうことがありえる。そこでタンパク質としての精製度を低くして、それ以外の栄養素も多く残存するように大豆タンパクを製造することができる。例えば、市販されている精製度の低い大豆タンパクBにおいてタンパク質64%、炭水化物26%とあり、通常発酵アルコール飲料製造のために好ましいとされる精製度の大豆タンパクA(タンパク質80%以上、炭水化物3〜4%程度)よりは低い。それ故に大豆が本来含んでいるカリウム、イノシトール等の栄養素が原料により多く残存している。このように精製度合いを調整して製造した原料を一部あるいは全部用いることにより、望ましい発酵前溶液の調製ができる。通常大豆タンパク質と精製度の低い大豆タンパク質のタンパク質含量、炭水化物含量を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
(発酵アルコール飲料)
本発明の製造方法を適用する発酵アルコール飲料としては、ビール、発泡酒、その他の雑酒等、特に限定されないが、本発明の製造方法は、麦又は麦芽を使用しない「その他の醸造酒」のような発酵アルコール飲料の製造に適用して、特に顕著な効果を発揮することができ、味覚・風味に優れた発酵アルコール飲料を製造することができる。本発明の発酵アルコール飲料の製造方法は、カリウム及び/又はイノシトール含量を高めた原料を、発酵原料の一部として添加する場合には、発酵原料の一部として添加する他は、上記のようなビール、発泡酒、その他の醸造酒等の公知の製造方法と基本的に変わるところはない。
【0031】
本発明の製造方法を有利に適用できる発酵アルコール飲料として、大豆タンパクを原料として用いた「その他の醸造酒」を例示することができる。該発酵アルコール飲料において用いる大豆タンパクは、大豆或いは脱脂大豆から調製することができる。また、該大豆タンパクは、市販の大豆タンパクとして容易に入手し得るものである。大豆はタンパク質、脂質、炭水化物をそれぞれ35重量%、20重量%、25重量%程含み、ビタミン類、鉄分、カルシウムなどの無機質も多く、栄養価に優れている。
【0032】
大豆や大豆粉から大豆タンパクを製造するには、例えば、大豆を脱脂した脱脂大豆を水抽出し、抽出した脱脂豆乳を酸沈して大豆タンパクカードを調製し、これを中和後に殺菌・乾燥して製造することができる。本発明において用いる大豆タンパクとしては、例えば、水分:5〜6重量%、脂質:1重量%以下、炭水化物:3〜4重量%、灰分:4〜5重量%で、タンパク質は80重量%以上のものが望ましい成分組成の大豆タンパクの例として挙げることができる。市販の大豆タンパクの形状としては、粉状、粒状などがあるがいずれの形状でもかまわない。
【0033】
カリウム含量を高めた大豆タンパクを製造するには、例えば、前記の大豆タンパク製造法において、酸沈した大豆タンパクカードの中和に用いる水酸化ナトリウムについて、一部、あるいは全部を水酸化カリウムに置き換えて中和することにより、製造することができる。
【0034】
上記のとおり、大豆タンパクを原料として、麦又は麦芽を使用しないで発酵アルコール飲料を製造することができるが、該発酵アルコール飲料の製造において、本発明の製造方法を適用して、麦又は麦芽を使用しないことによる栄養素の不足分を強化して、味覚・風味に優れた発酵アルコール飲料を製造することができる。
【0035】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
[「その他の醸造酒」発酵前溶液作成における大豆タンパクの種類の影響(小規模培養試験)]
<(1)発酵アルコール飲料の発酵前溶液の作製>
本発明の製造方法を、麦及び麦芽を使用しないその他の醸造酒を製造する場合(特開2006−191910号公報)に適用して実施した試験例を示す。実施設備としては、2kLスケールの試験設備を使用した:大豆タンパク10kgを330リットルの湯中に投入し、市販のペプチダーゼによりタンパク分解を実施した。タンパク分解酵素は、プロテアーゼPアマノG(天野エンザイム社製)を用いた。得られたタンパク分解液に、市販のマルトース液糖(DE47、固形分75%)を200kg加えて密閉容器で加熱し、120℃になった時点から、60分保持してメイラード反応液を得た。次に、200kgのマルトース液糖を含む湯の中に前記メイラード反応物を加えて糖度を約13°Pに調整し、ホップを加えて1時間程度煮沸した後、硫酸マグネシウム720gを添加し、10℃程度に冷却した。実験室内で発酵前溶液を作成する場合は、前記の製造法を1.5Lのスケールに縮小して実施した。
【0037】
上記した大豆タンパクの製造方法で、中和に水酸化ナトリウムを使用したものを「通常大豆タンパク」、中和に水酸化カリウムを使用した物を「カリウム高含有大豆タンパク」と呼ぶことにした。通常大豆タンパクとカリウム高含有大豆タンパクにおけるカリウム含量とナトリウム含量、及びこれらを用いて作成した発酵前溶液のカリウム含量とナトリウム含量の例を示した。大豆タンパク中のNa含量、K含量を表2に、各大豆タンパクを使用した発酵前溶液の金属イオン濃度を、表3に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
【表3】

【0040】
<(2)供試菌株、前培養>
供試菌株として下面発酵酵母を用いた。前培養培地として、YNB液体培地(5g/lグルコース、5g/lマルトース、6.7g/lYeast Nitrogen Base w/o Amino Acids (Difco))を用いた。液体培地調製後、フィルター滅菌した。500ml三角フラスコにシリコ栓をつけてオートクレイブ滅菌した(121℃、15分)。この三角フラスコにYNB液体培地を約250ml分注したものを必要に応じて4〜6本作成した。そこへ供試菌株の菌体を1白金耳接種し、20℃で4日間静置培養した。
【0041】
<(3)小規模培養試験>
300ml三角フラスコにシリコ栓をつけてオートクレイブ滅菌した(121℃、15分)。作製した発酵前溶液を三角フラスコに200ml分注した。さらに各三角フラスコへ、次項で述べる栄養素をそれぞれ添加した。前培養液を500ml遠沈管に採り、3000rpm、10分、4℃で遠心分離した。上澄みを捨て、ペレットを滅菌水に懸濁し、50ml遠沈管に移し、再度遠心分離した。このペレットへ適当量の滅菌水を添加し(約5〜10mlになるように)、十分に懸濁させ、100倍希釈してシスメックスCDA−500にて菌数を測定した。その後、200mlに添加した場合に5×10cells/mlとなるような懸濁液の量を計算し、各三角フラスコへ添加した。この三角フラスコを17℃で静置培養し、適宜サンプリングして(サンプリング時には沈殿した酵母が均一に懸濁されるまで撹拌した)、シスメックスによる酵母数、糖度などを測定した。
【0042】
<(4)麦芽糖化液の作成方法>
麦芽糖化液の作成方法は、BCOJ ビール分析法(ビール酒造組合国際技術委員会分析委員会編)「4.3.1 コングレス麦汁の調整」を参考にした。粉砕した大麦麦芽を58g量り取り、約46℃の液温の300mlの蒸留水が入ったビーカーへ添加した。このビーカーを糖化槽にセットし、撹拌しながら、45℃で30分保持した。その後糖化槽温度を1分に1℃ずつ25分間上昇させた。温度が70℃に達したら、70℃で60分保持した。その後、その麦芽懸濁液を冷やしてろ紙でろ過し、麦芽糖化液として後の実験に使用した。
【0043】
<(5)発酵前溶液の金属イオンの分析>
発酵前溶液中の金属イオンについては、Ca、Mg、Na、KはICP発光分光分析装置で、Zn、Cu、Feは原子吸光光度計(フレームレス法)で分析した。
【0044】
<(6)培養試験>
通常大豆タンパクを使用し、(1)の方法で発酵前溶液を作成した。また同様な方法でカリウム高含有大豆タンパクを使用し、発酵前溶液を作成した。これらの発酵前溶液を各三角フラスコへ分注し、イノシトールや酵母エキスを添加して溶解させた系を作成した。また麦芽糖化液(以下、麦汁と呼ぶ)を、発酵前溶液の総使用原料量に対して麦芽使用重量比率が5%、あるいは10%となるように発酵前溶液へ混合した系を作成した。実験系を下に示した。
【0045】
通常大豆タンパク使用発酵前溶液(対照1)
通常大豆タンパク使用発酵前溶液+イノシトール 10mg/l
通常大豆タンパク使用発酵前溶液+酵母エキス 500mg/l
通常大豆タンパク使用発酵前溶液+酵母エキス 1g/l
通常大豆タンパク使用発酵前溶液 麦汁を5%混合
通常大豆タンパク使用発酵前溶液 麦汁を10%混合
カリウム高含有大豆タンパク発酵前溶液(対照2)
カリウム高含有大豆タンパク発酵前溶液+イノシトール 10mg/l
カリウム高含有大豆タンパク発酵前溶液+酵母エキス 500mg/l
カリウム高含有大豆タンパク発酵前溶液+酵母エキス 1g/l
カリウム高含有大豆タンパク発酵前溶液 麦汁を5%混合
カリウム高含有大豆タンパク発酵前溶液 麦汁を10%混合
【0046】
これらの三角フラスコへ上記した方法で酵母を接種し、6日間培養して増殖した酵母数を測定した所、対照1の発酵前溶液にイノシトール、酵母エキス、麦汁を添加した場合は酵母数が増えて酵母の増殖が促進されたことが分かった。さらに対照2は、対照1に比べてカリウムイオン濃度が高いことから酵母の増殖が促進されて酵母数が増えた。またイノシトール、酵母エキス、麦汁を対照2へ添加した場合も、これらの系に対応する対照1の系よりも酵母の増殖が促進されていた。各種発酵前溶液を使用した培養試験における酵母増殖量の結果を、図1に示す。
【実施例2】
【0047】
[通常大豆タンパクとカリウム高含有大豆タンパクを使用した「その他の醸造酒」発酵前溶液を使用したパイロットプラント発酵試験]
【0048】
<(1)発酵アルコール飲料の発酵前溶液の作製>
実施例1、(1)の方法を元に、200Lスケールの試験設備で発酵前溶液を作製した。酵母エキスを約500mg/lとなるように、大豆タンパクと同時に添加した。この作成方法で、通常大豆タンパク、あるいはカリウム高含有大豆タンパクを使用して発酵前溶液を作成した。
試験系
a.仕込No.1:通常大豆タンパク使用
b.仕込No.2:カリウム高含有大豆タンパク使用
【0049】
<(2)供試酵母>
供試酵母としてビール製造からの回収酵母を用いた。各タンクへ0.81%となるように添加した。
【0050】
<(3)200Lタンクにおける発酵条件>
発酵前溶液の発酵開始温度を12℃とし、酵母添加後、2時間タンク内通気を90分のインターバルをおいて2回実施した。主発酵中は12℃一定とした。主発酵終了後に約10℃で7日間、約0℃で14日間貯蔵した。
【0051】
<(4)各タンクからのサンプリング>
主発酵中に経時的にサンプリングコックから発酵液をサンプリングし、結果で述べた分析に供した。
【0052】
<(5)200Lタンクにおける主発酵経過>
仕込に通常大豆タンパク、或いは、カリウム高含有大豆タンパクを使用して発酵前溶液を作成し、発酵試験を行った。結果を図2、図3に示す(図2:200L規模の仕込・発酵試験結果:主発酵経過における外観エキスの推移;図3:200L規模の仕込・発酵試験結果:主発酵経過における酵母濃度の推移)。通常大豆タンパクを用いた仕込No.1は、カリウム含量が多い仕込No.2に比べて対照は主発酵での糖の切れが悪く、主発酵終了を1日延期した。発酵液中の浮遊酵母濃度でも、仕込No.1は余り酵母濃度が増えなかったが、仕込No.2では、酵母濃度が大幅に増加し、旺盛に発酵したことが分かった。
【0053】
各大豆タンパクを用いたときの発酵前溶液の金属イオンを分析したところ、カリウム高含有大豆タンパクを使用した仕込No.2では、仕込No.1と比べてナトリウムイオン含量が減り、カリウムイオン含量が増加した。主発酵終了時にカリウムイオン含量を分析すると発酵前溶液から比べると値が減少しており、酵母に取り込まれて利用されたと考えられる。発酵前溶液、主発酵終了時発酵液の金属イオン濃度について、表4に示す。
【0054】
【表4】

【0055】
<(6)発酵終了時の発酵液の分析結果>
貯蔵後に発酵液について有機酸の分析を行った。結果を、図4及び図5に示す(図4:200L規模の仕込・発酵試験結果 発酵液分析結果(有機酸含量);図5:200L規模の仕込・発酵試験結果 発酵液分析結果(低沸点揮発性成分含量))。仕込No.1よりも仕込No.2は、酢酸の含量が少なく、コハク酸が多い傾向が見られた。低沸点揮発性成分の分析では、仕込No.1よりも仕込No.2は、アセトアルデヒドが少なく、酢酸イソアミル、酢酸エチルが多い傾向が見られた。これにより、酵母増殖促進因子の添加により若干華やかなエステル香が付与され、アセトアルデヒドが減り、発酵不良感は解消されると期待された。
【0056】
<(7)発酵液の試飲結果>
貯蔵後の発酵液を試飲者9名で試飲した。発酵液の試飲結果を、表5(200L規模の仕込・発酵試験結果 発酵液分析結果)に示す。結果、仕込No.1には発酵不良感、アルデヒド臭などの異臭が感じられた。また酸味が強い、後味が悪いという指摘があった。製品の総合的な香味を5段階で評価してもらったところ(1:不良、2:やや不良、3:許容可能、4:やや良好、5:良好)、平均で2.6となり、仕込No.2の3.6を下回った。仕込No.2は、分析値通りにエステル感や、フローラル感が指摘され、発酵不良感は指摘されなかった。また強すぎる酸味や後味などのネガティブな指摘は受けず、全体的な評価が上がったと考えられた。これにより、カリウム高含有大豆タンパクを使用することにより、酵母の増殖を促進させ、発酵不良感のない、香味の良好な製品を製造できる可能性が示された。
【0057】
【表5】

【実施例3】
【0058】
[「その他の醸造酒」発酵前溶液に不足する栄養素の特定(小規模培養試験)]
<(1)発酵アルコール飲料の発酵前溶液の作製>
実施例1の「(1)発酵アルコール飲料の発酵前溶液の作製」で述べた方法により発酵アルコール飲料の発酵前溶液の作製を行なった。
【0059】
<(2)供試菌株、前培養>
実施例1の「(2)供試菌株、前培養」で述べた方法により、供試菌株を用いて、前培養を行なった。
【0060】
<(3)小規模培養試験>
実施例1の「(3)小規模培養試験」で述べた方法により、小規模培養試験を行なった。
【0061】
<(4)Yeast Nitrogen Baseの成分の添加方法>
Yeast Nitrogen Base(以下、YNBとする)の各成分を1種類ずつ添加して酵母の増殖促進効果を確かめるために、塩類、ビタミン類、微量金属類について最終的に以下の濃度になるように添加した。基本的に添加物・量はYNB、あるいはWickerhamの合成培地の組成(Eds C. P. Kurtzman and J. W. Fell (1998) The yeasts, a taxonomic study, 4th edition, Amsterdam, Elsevier Science B.V.; Uzuka et al. J. Ferment. Technol. (1985) vol.63, 107-114)に従っているが、一部は改変した。
【0062】
(塩類)
塩化カルシウムニ水和物 100mg/l
塩化ナトリウム 100mg/l
硫酸マグネシウム七水和物 500mg/l
リン酸ニ水素カリウム 1000mg/l
【0063】
(ビタミン5種)
ビオチン 20μg/l
Ca−パントテン酸 2000μg/l
ピリドキシンHCl 400μg/l
チアミンHCl 400μg/l
イノシトール 10mg/l
【0064】
(ビタミン4種)
ニコチン酸 400μg/l
葉酸 2μg/l
P−アミノ安息香酸 200μg/l
リボフラビン 200μg/l
【0065】
(微量金属類)
ホウ酸 500μg/l
硫酸銅五水和物 40μg/l
塩化第二鉄 200μg/l
ヨウ化カリウム 100μg/l
硫酸マンガン五水和物 578μg/l
モリブデン酸二ナトリウム二水和物 200μg/l
硫酸亜鉛七水和物 400μg/l
【0066】
<(5)発酵前溶液のビタミン、金属イオンの分析>
発酵前溶液中のビタミンについては、チアミンはHPLCで、ピリドキシン、パントテン酸、ビオチン、イノシトールはバイオアッセイで分析した。金属イオンについては、Ca、Mg、Na、KはICP発光分光分析装置で、Zn、Cu、Feは原子吸光光度計(フレームレス法)で分析した。
【0067】
<(6)培養試験1回目>
発酵前溶液へ酵母用の合成培地であるYNBの成分を全て添加すると、発酵前溶液そのもの(対照:発酵前溶液中のカリウムイオン総量30mg/l、イノシトール総量20mg/l)に比べて、培養7日後の酵母増殖量が増加した(図6:発酵前溶液にYNB培地成分を添加したときの培養試験結果)。YNB培地の組成の中に増殖を促進する因子が含まれていると考えられた。
【0068】
<(7)培養試験2回目>
発酵前溶液へYNBの成分を塩類、微量金属類、ビタミン5種類、ビタミン4種類にグループ分けし、それぞれを添加したところ、発酵前溶液そのもの(対照)に比べて、培養7日後の酵母増殖量は余り増加しなかった(図7:発酵前溶液にYNB培地成分を分けて添加したときの培養試験結果)。YNB培地の組成を全て添加し時ほどの増殖量にならなかったため、各成分を組み合わせることによって増殖が促進されるのではないかと考えられた。
【0069】
<(8)培養試験3回目>
発酵前溶液に添加する成分の組み合わせを各種検討した結果、発酵前溶液にリン酸二水素カリウムとイノシトールを同時に添加すると大きく増殖が促進される事を見出した(図8:発酵前溶液にカリウム及びイノシトールを添加したときの培養試験結果)。リン酸二水素カリウム(以下、リン酸カリウムと略す)、あるいはイノシトールを別々に添加したときには、若干増殖が促進されたが、両者を同時に添加したときには及ばなかった。リン酸カリウムの増殖促進効果について、リン酸が増殖をするのか、カリウムが増殖を促進するのか調べるために、モル数を合わせてリン酸二水素ナトリウム(1150mg/l)、塩化ナトリウム(430mg/l)、塩化カリウム(550mg/l)を添加したところ、塩化カリウムで増殖が促進され(図8−a)、リン酸二水素ナトリウム、塩化ナトリウムにはほとんど増殖促進効果は無かった。むしろ若干増殖量が少なくなったため(図8−b)、カリウムに増殖促進効果があることが分かった。また塩化カリウムの単独添加でリン酸カリウムよりも増殖促進効果が得られるが、塩化カリウムとイノシトールと組み合わせることでより大きな増殖促進効果が得られることが分かった。
【0070】
またカリウムを含む化合物としては、硝酸カリウムもイノシトールとの相乗的な増殖促進効果を示した(表6:発酵前溶液への硝酸カリウムの添加効果)。炭酸カリウム(510mg/l)は単独でもイノシトール添加と同程度の増殖量を示した(表7:発酵前溶液への炭酸カリウムの添加効果)。炭酸カリウム添加培養では後半に酵母が著しく凝集し、酵母濃度確認が困難であったため、培養4日間でのデータを示した。
【0071】
【表6】

【0072】
【表7】

【0073】
<(9)発酵前溶液のビタミン、金属イオンの分析>
発酵前溶液のビタミン含量を分析したところ、通常のビール仕様の麦汁のビタミン含量に比べて非常に低い値を示した(図9:発酵前溶液、及びビール麦汁中のビタミン、金属イオン分析結果)。発酵前溶液では、酵母の増殖に必要とされるビオチン、パントテン酸の含量も非常に低く、検出限界以下であったが、今回試験した添加量、あるいは培養条件ではこれらのビタミンの添加効果は若干は見られたものの、あまりはっきりとはしなかった(図9−a)。発酵前溶液の金属イオン含量を分析したところ、通常のビール仕様の麦汁に比べてカリウム含量がかなり低いことが分かった(図9−b)。銅や鉄の含量も若干低いが、YNB培地の微量金属類として添加したときには余り増殖への効果は無かった。従って「その他の醸造酒」発酵前溶液における酵母の増殖促進因子としては、カリウム、及びビタミン(特にイノシトール)が挙げられた。
【実施例4】
【0074】
[「その他の醸造酒」発酵前溶液へのカリウム、イノシトールの適正な添加量]
<(1)小規模培養試験法>
小規模発酵試験の方法については実施例3、(1)〜(4)の方法に従った。
【0075】
<(2)カリウムの添加量について>
「その他の醸造酒」の発酵前溶液へカリウム添加濃度の酵母増殖に及ぼす効果について試験した(図10:発酵前溶液へのカリウム添加濃度の酵母増殖に及ぼす効果)。発酵前溶液へ塩化カリウムを濃度を変化させて添加したところ、塩化カリウム添加量が100mg/lとした場合から増殖を促進する効果が見られ、200mg/lで増殖量が最大に増大し、1500mg/lの添加量まで阻害効果はほとんど示さず、これはカリウムイオンにして、約52mg/lから約787mg/lの添加濃度に相当する(図10−a)。また発酵前溶液にイノシトール(10mg/l)を添加した状態を基本として、リン酸カリウムを濃度を変化させて添加したところ、リン酸カリウム添加量が150mg/lで増殖促進効果が見られ、700mg/lで増殖量が最大となり、1500mg/lの添加濃度までほとんど阻害効果が見られなかった(図10−b)。これはカリウムイオンとして約43mg/lから約430mg/lの添加濃度に相当する。カリウムの添加効果としては、発酵前溶液中の終濃度(総量)として、80mg/l〜800mg/l、より好ましくは約80mg/l〜500mg/lあれば、酵母の増殖に対して効果があると考えられた。
【0076】
<(3)イノシトールの添加量について>
「その他の醸造酒」の発酵前溶液へ塩化カリウムを添加した状態を基本とし、イノシトール濃度を変化させて添加する実験を2回に分けて行った(図11:発酵前溶液へのイノシトール添加濃度の酵母増殖に及ぼす効果)。イノシトール添加量が3mg/lとした場合から増殖を促進する効果が見られ、10mg/lで増殖量が最大に増大し、100mg/lの添加量まで阻害効果はほとんど示さなかった(図11−a、11−b)。イノシトールの添加量としては、発酵前溶液に終濃度(総量)として30〜130mg/l、より好ましくは40〜80mg/lと考えられた。
【実施例5】
【0077】
[「その他の醸造酒」発酵前溶液へのカリウム、イノシトールを添加したパイロットプラント発酵試験]
<(1)発酵アルコール飲料の発酵前溶液の作製>
発酵アルコール飲料の発酵前溶液の作製は、実施例3、(1)の方法に従った。作製後、20L容の発酵タンクへ分注した。
【0078】
<(2)供試酵母>
供試酵母としてビール製造からの回収酵母を用いた。回収酵母を冷水で1度洗浄し、各タンクへ0.65%となるように添加した。
【0079】
<(3)栄養素の添加>
発酵前溶液を分注した各タンクへ、酵母添加前に以下のように酵母増殖促進因子を添加した。これらの試薬は各タンク別に1つの容器に量り取り、200mlの蒸留水に溶解させて、酵母添加前の通気中に各タンクへ添加した。
【0080】
a.無添加(対照)
b.リン酸二水素カリウム添加:700mg/l
c.塩化カリウム添加:400mg/l
d.リン酸二水素カリウム添加:700mg/l、イノシトール添加:10mg/l
e.塩化カリウム添加:400mg/l、イノシトール添加:10mg/l
【0081】
<(4)20L発酵パイロットファーメンターへの酵母添加、発酵条件>
添加温度を12℃とし、酵母添加1時間前から通気して空気飽和させた。遠心・計量後の酵母を仕込液の一部で懸濁し、各タンクへ添加した。添加後、通気を1時間止めて、その後4時間タンク内通気を実施した。主発酵中は12℃一定とした。
【0082】
<(5)各タンクからのサンプリング>
主発酵中に経時的にサンプリングコックから発酵液をサンプリングし、結果で述べた分析に供した。酒下し時の発酵液を1Lのボトルに採り、4℃の低温室で1週間置き、その後試飲した。
【0083】
<(6)20L発酵タンクにおける主発酵経過>
発酵前溶液に増殖促進効果があったカリウムやイノシトール等を添加して発酵試験を行った所、発酵前溶液にリン酸カリウムを添加した場合、若干酵母の増殖が促進され、対照よりも少しずつ浮遊酵母数が増加していた(図12:20L規模の発酵試験結果 発酵経過)。塩化カリウムを添加した場合には大きく酵母の増殖が促進され、浮遊酵母数は対照に比べて大幅に浮遊酵母数が増加していた。リン酸カリウムにイノシトールを添加すると、リン酸カリウムを添加しただけの系に比べると、浮遊酵母数が増加していた。塩化カリウムにイノシトールを添加すると、ピーク時に若干浮遊酵母数が多くなっていた(図12−a)。糖の消費速度は、各種増殖促進因子を添加した系が速くなり、特に塩化カリウム、あるいは塩化カリウムとイノシトールを添加した系で消費速度が速かった(図12−b)。
【0084】
<(7)発酵終了時の発酵液の分析結果>
発酵7日間で発酵試験を終了し、その時点での発酵液について有機酸の分析を行った(図13:20L規模の発酵試験結果 発酵終了時の発酵液分析値)対照の発酵前溶液そのもので発酵させた系よりも、各種増殖促進因子を添加した系の方がピルビン酸、酢酸の含量が少なく、乳酸が多い傾向が見られた(図13−a)。有機酸含量の合計では、各種増殖促進因子を添加した系は対照よりも10〜20%減少しており、酸味の抑制に効果があると考えられた。低沸点揮発性成分の分析では、対照の発酵前溶液そのもので発酵させた系よりも、各種増殖促進因子を添加した系の方がアセトアルデヒドが少なく、酢酸イソアミル、イソアミルアルコール、イソブタノールが多い傾向が見られた(図13−b)。これにより、酵母増殖促進因子の添加により若干華やかなエステル香が付与され、アセトアルデヒドが減り、発酵不良感は解消されると期待された。
【0085】
<(8)発酵液の試飲結果>
発酵試験の発酵液を4℃、1週間置き、その後試飲者4名で試飲した。発酵液の試飲結果を表8に示す。結果、対照には若干発酵不良感が感じられた。リン酸カリウムを添加した系では、リン酸の影響からボディー感の少なさが指摘された。これらの試験系で最も評価が高かったものは、塩化カリウムとイノシトールを添加した系で、エステルも良好で、コクがあると評価され、発酵不良感は指摘されなかった。このように、酵母増殖促進因子の添加により、「その他の醸造酒」の香味が改善されることが示唆された。但しリン酸カリウムの添加でも、今回は酵母の増殖量が最大になるように比較的多量に添加したため、添加量の調整により、香味的にあまり大きな影響を及ぼさずに酵母増殖促進効果を得ることが可能ではないかと考えられた。
【0086】
【表8】

【実施例6】
【0087】
[「その他の醸造酒」発酵前溶液仕込中にカリウム、イノシトールを添加したパイロットプラント発酵試験]
<(1)発酵アルコール飲料の発酵前溶液の作製>
実施例3、(1)の方法を元に、200Lスケールの試験設備で発酵前溶液を作製した。イノシトールを添加する際は、大豆タンパクと同時に添加した。リン酸二水素カリウム、或いは塩化カリウムはホップを加えた煮沸終了時に添加した。
【0088】
<(2)供試酵母>
供試酵母としてビール製造からの回収酵母を用いた。各タンクへ0.65%となるように添加した。
【0089】
<(3)栄養素の添加>
各仕込毎に、次のように酵母増殖促進因子を添加した。
【0090】
a.仕込No.1:無添加(対照)
b.仕込No.2:塩化カリウム添加:400mg/l
c.仕込No.3:塩化カリウム添加:400mg/l、イノシトール添加:10mg/l
d.仕込No.4:リン酸二水素カリウム添加:700mg/l、イノシトール添加:10mg/l
【0091】
<(4)200Lタンクにおける発酵条件>
発酵前溶液の発酵開始温度を12℃とし、酵母添加後、2時間タンク内通気を90分のインターバルをおいて2回実施した。主発酵中は12℃一定とした。主発酵終了後に約10℃で7日間、約0℃で14日間貯蔵した。
【0092】
<(5)各タンクからのサンプリング>
主発酵中に経時的にサンプリングコックから発酵液をサンプリングし、結果で述べた分析に供した。
【0093】
<(6)200Lタンクにおける主発酵経過>
仕込中にカリウムやイノシトール等を添加して発酵前溶液を作成し、発酵試験を行った(図14:200L規模の仕込・発酵試験結果 主発酵経過)。カリウムやイノシトールを添加した系に比べて対照は主発酵での糖の切れが悪く、主発酵終了を1日延期した(図14−a)。発酵液中の浮遊酵母濃度でも、対照は余り酵母濃度が増えなかったが、カリウムやイノシトールを添加した系では、酵母濃度が大幅に増加し、旺盛に発酵したことが分かった(図14−b)。
【0094】
<(7)発酵終了時の発酵液の分析結果>
貯蔵後に発酵液について有機酸の分析を行った(図15:200L規模の仕込・発酵試験結果 発酵液分析結果)。対照の発酵前溶液そのもので発酵させた系よりも、各種増殖促進因子を添加した系の方がピルビン酸、酢酸の含量が少なく、コハク酸、乳酸が多い傾向が見られた(図15−a)。低沸点揮発性成分の分析では、対照の発酵前溶液そのもので発酵させた系よりも、各種増殖促進因子を添加した系の方がアセトアルデヒドが少なく、酢酸イソアミル、イソアミルアルコール、イソブタノールが多い傾向が見られた(図15−b)。これにより、酵母増殖促進因子の添加により若干華やかなエステル香が付与され、アセトアルデヒドが減り、発酵不良感は解消されると期待された。
【0095】
<(8)発酵液の試飲結果>
貯蔵後の発酵液を試飲者4名で試飲した。発酵液の試飲結果を、表9に示す。結果、対照には若干異臭が感じられた。リン酸カリウムを添加した系では、酸味が強いと指摘された。塩化カリウムとイノシトールを添加した系は試験系の中では評価が高めであり、エステル感が指摘され、発酵不良感は指摘されなかった。このように、酵母増殖促進因子の添加により、「その他の醸造酒」の香味が改善される可能性が示唆された。今回の試験において塩化カリウムやリン酸カリウムは、酵母の増殖量が最大になるように添加しているため、添加量の調整により、香味的にあまり大きな影響を及ぼさずに酵母増殖促進効果を得ることが可能ではないかと考えられた。
【0096】
【表9】

【実施例7】
【0097】
[「その他醸造酒」の発酵前溶液の製造に、精製度の低い大豆タンパクを一部使用したパイロットプラント発酵試験]
【0098】
<(1)発酵アルコール飲料の発酵前溶液の作製>
実施例6の「(1)発酵アルコール飲料の発酵前溶液の作製」で述べた方法により、200Lスケールの試験設備で発酵前溶液を作製した。この作成方法において、通常大豆タンパクを100%使用して発酵前溶液を作製した場合と、通常大豆タンパクA60%と精製度の低い大豆タンパクB40%を混合して発酵前溶液を作製した場合で比較した。
試験系:
a.仕込No.1:通常大豆タンパクA 100%使用
b.仕込No.2:通常大豆タンパクA 60%+精製度の低い大豆タンパクB40%混合
【0099】
<(2)供試酵母>
供試酵母としてビール製造からの回収酵母を用いた。各タンクへ0.75%となるように添加した。
【0100】
<(3)200Lタンクにおける発酵条件>
実施例6の「(4)200Lタンクにおける発酵条件」で述べた方法により、200Lスケールの試験設備で発酵及び貯蔵を行った。
【0101】
<(4)各タンクからのサンプリング>
実施例6の「(5)各タンクからのサンプリング」で述べた方法により、発酵液をサンプリングし、結果で述べた分析に供した。
【0102】
<(5)200Lタンクにおける主発酵経過>
発酵前溶液の作製において、上で述べたように大豆タンパクの精製度を抑えた大豆タンパクを原料の一部に使用することにより、発酵前溶液中のカリウム含量が増加させられることが分かった。発酵前溶液、発酵終了時の発酵液の金属イオン濃度について、表10に示す。
【0103】
【表10】

【0104】
200Lタンクにおける主発酵経過の結果の発酵日数と酵母濃度の推移の関係を図16に示す。浮遊酵母濃度の経過では仕込No.2の酵母数がより仕込No.1よりも増加していた。また、主発酵終了時にタンク底に沈降した酵母を回収した所、回収量は仕込No.2が多く、酵母の増殖が促進されていたことが推察された。回収酵母量を、表11に示す。
【0105】
【表11】

【0106】
<(6)発酵液の試飲結果>
貯蔵後の発酵液の試飲者10名で試飲した。発酵液の試飲結果を、表12に示す。その結果、仕込No.1には穀物様や脂肪酸様等の異臭が指摘された。仕込No.2にはこれらの異臭の指摘は無かった。また、仕込No.1では過剰な酸味が指摘された。仕込No.2ではバランスの良さが指摘され、仕込No.1のような過剰な味の指摘は無かった。このように、精製度の低い大豆タンパクを一部使用することにより、良好な香味の「その他醸造酒」が製造できることが示された。さらに大豆タンパクの精製度や、精製度の低い大豆タンパクの混合割合を調整することにより、さらに好ましい香味の「その他醸造酒」が製造可能であると考えられる。
【0107】
【表12】

【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明の実施例の培養試験において、各種発酵前溶液を使用した培養試験における酵母増殖量の結果を示す図である。
【図2】本発明の実施例の培養試験において、カリウム高含有大豆タンパクを使用した発酵試験における200L規模の仕込・発酵試験結果:主発酵経過における外観エキスの推移について示す図である。
【図3】本発明の実施例の培養試験において、カリウム高含有大豆タンパクを使用した発酵試験における、200L規模の仕込・発酵試験結果:主発酵経過における酵母濃度の推移について示す図である。
【図4】本発明の実施例の培養試験において、カリウム高含有大豆タンパクを使用した発酵試験における、200L規模の仕込・発酵試験結果 発酵液分析結果(有機酸含量)について示す図である。
【図5】本発明の実施例の培養試験において、カリウム高含有大豆タンパクを使用した発酵試験における、200L規模の仕込・発酵試験結果 発酵液分析結果(低沸点揮発性成分含量)について示す図である。
【図6】本発明の実施例において、発酵前溶液にYNB培地成分を添加したときの培養試験結果を示す図である。
【図7】本発明の実施例において、発酵前溶液にYNB培地成分を分けて添加したときの培養試験結果を示す図である。
【図8】本発明の実施例において、発酵前溶液にカリウム及びイノシトールを添加したときの培養試験結果を示す図である。該培養試験において、図8−aには、塩化カリウムの増殖促進効果について、図8−bには、リン酸二水素ナトリウム、塩化ナトリウムの増殖促進効果について示す。
【図9】本発明の実施例における、発酵前溶液のビタミン、金属イオンの分析試験において、発酵前溶液、及びビール麦汁中のビタミン、金属イオン分析結果を示す図である。図9−aには、ビタミンの分析結果について、図9−bには、金属イオンの分析について示す。
【図10】本発明の実施例において、発酵前溶液へのカリウム添加濃度の酵母増殖に及ぼす効果を示す図である。図10−aは、発酵前溶液へ塩化カリウムを濃度を変化させて添加した結果について、図10−bは、リン酸カリウムを濃度を変化させて添加した結果について示す。
【図11】本発明の実施例において、発酵前溶液へのイノシトール添加濃度の酵母増殖に及ぼす効果について試験した結果(図11−a、11−b)を示す図である。
【図12】本発明の実施例において、20L規模の発酵試験における発酵経過を示す図である。図12−aは、塩化カリウム、イノシトールを添加した場合の酵母濃度について、図12−bは、塩化カリウム、イノシトールを添加した系での糖の濃度(消費速度)について示す。
【図13】本発明の実施例において、20L規模の発酵試験において、発酵終了時の発酵液の分析値を示す図である。図13−aは、発酵終了時の発酵液の有機酸含量について、図13−bは、低沸点揮発性成分の分析結果について示す。
【図14】本発明の実施例における、200L規模の仕込・発酵試験において、主発酵経過について示す図である。図14−aは、主発酵経過における糖度について、図14−bは、主発酵経過における酵母濃度について示す。
【図15】本発明の実施例において、200L規模の仕込・発酵試験における発酵液分析結果について示す図である。図15−aは、発酵液分析結果における、有機酸含量について、図15−bは、発酵液分析結果における低沸点揮発性成分の分析結果について示す。
【図16】本発明の実施例において、精製度の低い大豆タンパクを用いて行なった、200Lタンクにおける主発酵経過の結果(発酵日数と酵母濃度の推移の関係)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料を混合して発酵前溶液を調製し、該発酵前溶液を加熱・煮沸し、酵素の失活と色度の調整を行った後、ビール酵母を用いて発酵する発酵アルコール飲料の製造方法において、発酵前溶液中のカリウムイオン及び/又はイノシトール総量を発酵管理指標として調整することにより、発酵アルコール飲料の製造における発酵の促進と、発酵アルコール飲料の味覚・風味の調和を図ることを特徴とする、味覚・風味の優れた発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項2】
発酵前溶液中のカリウムイオン及び/又はイノシトール総量を、カリウム及び/又はイノシトール含量を高めた原料を用いて調整することを特徴とする請求項1記載の味覚・風味の優れた発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項3】
カリウム及び/又はイノシトール含量を高めた原料に、発酵前溶液調製用の醸造用水を用いることを特徴とする請求項2記載の味覚・風味の優れた発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項4】
カリウム及び/又はイノシトール含量を高めた原料に、酵母エキスを用いることを特徴とする請求項2記載の味覚・風味の優れた発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項5】
原料を混合して発酵前溶液を調製し、該発酵前溶液を加熱・煮沸し、酵素の失活と色度の調整を行った後、ビール酵母を用いて発酵する発酵アルコール飲料の製造方法において、水酸化カリウムを中和剤の一部或いは全部として用いて製造された大豆タンパクを原料とすることを特徴とする請求項2記載の味覚・風味の優れた発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項6】
原料を混合して発酵前溶液を調製し、該発酵前溶液を加熱・煮沸し、酵素の失活と色度の調整を行った後、ビール酵母を用いて発酵する発酵アルコール飲料の製造方法において、大豆タンパクの精製度をおさえることでカリウム含量を高めた大豆タンパクを原料に用いることを特徴とする請求項2記載の味覚・風味の優れた発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項7】
原料の大豆タンパクに中和剤として、水酸化カリウムを中和剤の一部或いは全部とするものを使用することにより、発酵前溶液中のカリウムイオン濃度を上昇させ、該カリウムイオンとの相乗効果により酵母の増殖を促進する因子として、酵母エキス及び/又は麦芽糖化液を添加することを特徴とする請求項1記載の味覚・風味の優れた発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項8】
大豆タンパクの精製度をおさえることでカリウム含量を高めた大豆タンパクを原料とすることにより、発酵前溶液中のカリウムイオン濃度を上昇させ、該カリウムイオンとの相乗効果により酵母の増殖を促進する因子として、酵母エキス及び/又は麦芽糖化液を添加することを特徴とする請求項1記載の味覚・風味の優れた発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか記載の発酵アルコール飲料の製造方法において、発酵前溶液中のカリウムイオン総量を、80〜500mg/lに調整することを特徴とする、味覚・風味の優れた発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか記載の発酵アルコール飲料の製造方法において、発酵前溶液中のイノシトール総量を、30〜130mg/lに調整することを特徴とする、味覚・風味の優れた発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか記載の発酵アルコール飲料が、その他の醸造酒であることを特徴とする味覚・風味の優れた発酵アルコール飲料の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2008−178405(P2008−178405A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−341428(P2007−341428)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(307027577)麒麟麦酒株式会社 (350)
【Fターム(参考)】